IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京瓦斯株式会社の特許一覧

特開2023-72818水電解セル用ガス拡散層、水電解セル及び水電解装置
<>
  • 特開-水電解セル用ガス拡散層、水電解セル及び水電解装置 図1
  • 特開-水電解セル用ガス拡散層、水電解セル及び水電解装置 図2
  • 特開-水電解セル用ガス拡散層、水電解セル及び水電解装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072818
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】水電解セル用ガス拡散層、水電解セル及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/032 20210101AFI20230518BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230518BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230518BHJP
【FI】
C25B11/032
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185490
(22)【出願日】2021-11-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫛 拓人
(72)【発明者】
【氏名】藤永 直矢
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA15
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】本開示は、製造原価の低減及び水電解性能の向上に寄与する水電解セル用ガス拡散層、上記ガス拡散層を含む水電解セル及び上記水電解セルを含む水電解装置を提供する。
【解決手段】80μm以下のろ過精度を有する網状体を含む、水電解セル用ガス拡散層、上記ガス拡散層を含む水電解セル及び上記水電解セルを含む水電解装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
80μm以下のろ過精度を有する網状体を含む、水電解セル用ガス拡散層。
【請求項2】
前記網状体の空隙率が、40%以上である、請求項1に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項3】
前記網状体が、金網である、請求項1又は請求項2に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項4】
前記網状体が、平織金網、綾織金網、平畳織金網又は綾畳織金網である、請求項1又は請求項2に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項5】
前記網状体が、綾畳織金網である、請求項1又は請求項2に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項6】
前記網状体における線径が、60μm~200μmである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項7】
前記網状体の厚さが、100μm~400μmである、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項8】
前記ガス拡散層が、アノードガス拡散層である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の水電解セル用ガス拡散層を含む、水電解セル。
【請求項10】
請求項9に記載の水電解セルを含む、水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電解セル用ガス拡散層、水電解セル及び水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解(以下、「水電解」という場合がある。)は、電気分解によって水から水素及び酸素を生成する方法である。例えば、エネルギー源として水素を利用する技術において、水電解は、持続可能な水素生成のための有望な技術である。
【0003】
水電解の代表例として、高分子電解質膜(PEM)を用いる水電解が知られている(例えば、下記特許文献1)。高分子電解質膜を用いる水電解は、以下の反応式によって水素及び酸素を生成できる。以下の反応式において、アノードで生じたHは、アノードとカソードとの間にある高分子電解質膜を通ってカソードに移動して、カソードでHに変換される。
(1)アノード:HO→1/2O+2H+2e
(2)カソード:2H+2e→H
【0004】
ガス拡散層は、水電解セルの重要な構成要素の1つである。ガス拡散層は、水、酸素及び水素といった物質の通り道を画定するとともに電気伝導性を確保する。ガス拡散層の基本的な特性としては、例えば、拡散性及び電気伝導性が挙げられる。例えば、下記非特許文献1は、チタンメッシュ及び焼結チタンプレートといった様々なガス拡散層の特性を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-046585号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】P. Lettenmeier, S. Kolb, N. Sata, A. Fallisch, L. Zielke, S. Thiele, A. S. Gago and K. A. Friedrich, “Comprehensive investigation of novel pore-graded gas diffusion layers for high-performance and cost effective proton exchange membrane electrolyzers”, Energy Environ. Sci., 2017, 10, 2521-2533.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、ガス拡散層として使用される焼結体は、粒子又は繊維を焼結することによって製造される。しかしながら、粒子及び繊維といった材料を焼結することによって製造された焼結体の使用は、真空焼結工程に起因する製造原価の増加を招く可能性がある。さらに、焼結体の大きさが焼結炉の性能及び大きさの制約を受けるといった課題もある。
【0008】
粒子及び繊維といった材料を焼結することによって製造された焼結体と比較して、チタンメッシュといった網状体の製造方法は、必ずしも焼結工程を必要としない。例えば、チタンメッシュは、チタン線を織ることによって製造可能である。このため、網状体の使用は、製造原価を減少させることが期待される。しかしながら、上記非特許文献1は、水電解セルの電気化学的評価(例えば、電流密度-電圧特性)においてチタンメッシュが焼結チタンプレートより劣ることを示している。
【0009】
本開示の一実施形態の目的は、製造原価の低減及び水電解性能の向上に寄与する水電解セル用ガス拡散層を提供することである。本開示の他の一実施形態の目的は、上記ガス拡散層を含む水電解セルを提供することである。本開示の他の一実施形態の目的は、上記水電解セルを含む水電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 80μm以下のろ過精度を有する網状体を含む、水電解セル用ガス拡散層。
<2> 上記網状体の空隙率が、40%以上である、<1>に記載の水電解セル用ガス拡散層。
<3> 上記網状体が、金網である、<1>又は<2>に記載の水電解セル用ガス拡散層。
<4> 上記網状体が、平織金網、綾織金網、平畳織金網又は綾畳織金網である、<1>又は<2>に記載の水電解セル用ガス拡散層。
<5> 上記網状体が、綾畳織金網である、<1>又は<2>に記載の水電解セル用ガス拡散層。
<6> 上記網状体における線径が、60μm~200μmである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の水電解セル用ガス拡散層。
<7> 上記網状体の厚さが、100μm~400μmである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の水電解セル用ガス拡散層。
<8> 上記ガス拡散層が、アノードガス拡散層である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の水電解セル用ガス拡散層。
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載の水電解セル用ガス拡散層を含む、水電解セル。
<10> <9>に記載の水電解セルを含む、水電解装置。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、製造原価の低減及び水電解性能の向上に寄与する水電解セル用ガス拡散層が提供される。本開示の他の一実施形態によれば、上記ガス拡散層を含む水電解セルが提供される。本開示の他の一実施形態によれば、上記水電解セルを含む水電解装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、金網(A)の平面図である。
図2図2は、評価用セルの概略断面図である。
図3図3は、電流密度-電圧特性の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0014】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0016】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0017】
<ガス拡散層>
以下、本開示に係る水電解セル用ガス拡散層(以下、単に「ガス拡散層」という場合がある。)について説明する。
【0018】
本開示の一実施形態において、水電解セル用ガス拡散層は、80μm以下のろ過精度を有する網状体を含む。上記のような実施形態によれば、製造原価の低減及び水電解性能の向上に寄与する水電解セル用ガス拡散層が提供される。製造原価の低減及び水電解性能の向上の要因は、次のように推定される。例えば、網状体は、金属線といった線状材料を編む又は織ることによって製造可能であり、網状体の製造方法は、焼結工程を必要としない。このため、粒子及び繊維といった材料を焼結することによって製造された焼結体と比較して、網状体の使用は製造原価を低減できる。さらに、80μm以下のろ過精度を有する網状体は、水電解セルにおいて他の構成要素(例えば、触媒層及びセパレータ)に対するガス拡散層の接触面積を増大できるだけでなく、水電解によって発生した気体(気泡を含む。)が電極表面に留まることを防止できる。この結果、水電解性能が向上する。
【0019】
本開示において「網状体」とは、網のように構成又は配列された線を含む物を意味する。線(以下、「線状材料」という場合がある。)は、網状体において網形状の骨格を構成する。線状材料の数は、1本又は2本以上であってもよい。線状材料の数は、2本以上であることが好ましい。線状材料としては、例えば、金属線が挙げられる。金属線としては、例えば、チタン線及びチタン合金線が挙げられる。例えば、金属線といった線状材料を網状に編む又は織ることによって製造された物は、用語「網状体」に包含される。
【0020】
網状体は、織物組織を有することが好ましい。織物組織としては、例えば、平織、綾織、平畳織及び綾畳織が挙げられる。平織、綾織、平畳織及び綾畳織の各々は、織物組織又は織り方の1種として知られている。例えば、平織は、縦線及び横線を1本ずつ交互に交差させて織る方法である。例えば、綾織は、縦線及び横線を数本おきに交差させて織る方法である。例えば、平畳織は、畳表のように線を織る方法である。例えば、綾畳織は、平畳織に綾織を適用した方法である。織物組織は、縦線と横線との関係を逆にして形成された組織を有していてもよい。例えば、綾畳織は、横線を密接させて並べた綾畳織又は縦線を密接させて並べた綾畳織であってもよい。例えば、横線を密接させて並べた綾畳織を狭義の綾畳織と仮定した場合、縦線を密接させて並べた綾畳織は「逆綾畳織」と称される。
【0021】
網状体としては、例えば、金網が挙げられる。金網としては、例えば、織金網が挙げられる。織金網としては、例えば、平織金網、綾織金網、平畳織金網及び綾畳織金網が挙げられる。水電解性能の観点から、網状体は、金網であることが好ましく、織金網であることがより好ましい。さらに、網状体は、平織金網、綾織金網、平畳織金網又は綾畳織金網であることが好ましく、綾織金網、平畳織金網又は綾畳織金網であることがより好ましく、平畳織金網又は綾畳織金網であることが更に好ましく、綾畳織金網であることが特に好ましい。金網の単位面積における線(すなわち、線状材料)の数は、「平織金網<綾織金網<平畳織金網<綾畳織金網」の順に多くなる傾向にある。金網の単位面積における線の数が多くなるほど、金網の表面の平坦性が向上する。金網の表面の平坦性の向上は、水電解セルにおいて他の構成要素(例えば、触媒層及びセパレータ)に対するガス拡散層の接触面積を増大できる。例えば、水電解セルにおける構成要素間の接触面積の増大は、構成要素間の電気接続性の向上に寄与できる。
【0022】
網状体の成分は、公知のガス拡散層の成分から選択されてもよい。水電解性能の観点から、網状体は、金属を含むことが好ましい。金属としては、例えば、チタン及びチタン合金が挙げられる。網状体(好ましくは金網)は、チタン又はチタン合金を含むことが好ましい。
【0023】
網状体のろ過精度は、80μm以下である。構成要素間の電気接続性の観点から、網状体のろ過精度は、75μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、65μm以下であることが更に好ましい。さらに、網状体のろ過精度は、60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。液体及び気体の透過性の観点から、網状体のろ過精度は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましい。さらに、網状体のろ過精度は、40μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、60μm以上であることが更に好ましい。本開示において「ろ過精度」とは、基準値より大きい粒子径を有する粒子の95%以上をろ過によって除去する性質を意味する。例えば、「80μmのろ過精度」は、80μmより大きい粒子径を有する粒子の95%以上をろ過によって除去する性質を表す。網状体のろ過精度は、体積基準に基づく粒度分布を用いて測定される。すなわち、網状体のろ過精度は、ろ過前の試料の粒度分布とろ過後の試料の粒度分布との比較によって測定される。粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される。網状体のろ過精度は、例えば、線状材料の配置、線状材料の直径及び製網後の後処理によって調節される。
【0024】
液体及び気体の透過性の観点から、網状体の空隙率は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましい。構成要素間の電気接続性及び耐久性の観点から、網状体の空隙率は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。網状体の空隙率は、下記式(1)によって算出される。ただし、平畳織及び綾畳織といった複雑な織物組織を有する網状体の空隙率は、下記式(2)によって算出される。網状体の空隙率は、例えば、線状材料の配置、線状材料の直径及び製網後の後処理によって調節される。
式(1):空隙率(%)={(目開き)/([目開き]+[線径])}×100
式(2):空隙率(%)={([網状体の見かけ体積]-[アルキメデスの原理を利用して測定された網状体の体積])/(網状体の見かけ体積)}×100
【0025】
本開示において「目開き」とは、線状材料によって囲まれた隙間の大きさを意味する。線状材料によって囲まれた隙間の大きさは、平面視において線状材料と線状材料との間隔を測定することによって求められる。目開きは、10個の隙間の大きさを算術平均することによって算出される。
【0026】
本開示において「線径」とは、線(すなわち、線状材料)の直径(すなわち、太さ)を意味する。具体的に、線径は、網状体における線状材料の最大直径及び線状材料の最小直径を算術平均することによって算出される。なお、対象の線状材料の断面形状が円でない場合(例えば、断面形状が楕円である場合)、断面形状の長軸の長さが直径として採用される。例えば、金属線で形成された網状体において、金属線は線状材料に相当する。
【0027】
本開示において「網状体の見かけ体積」とは、網状体における空隙を網状体の一部とみなすことによって求められる網状体の体積を意味する。網状体における空隙は、線状材料によって囲まれた隙間を含む。例えば、網状体の見かけ体積は、網状体の寸法に基づいて算出される。
【0028】
水電解性能及び透過性(具体的には液体及び気体の透過性)の観点から、網状体における線径は、60μm~200μmであることが好ましく、80μm~170μmであることがより好ましく、100μm~150μmであることが更に好ましい。
【0029】
水電解性能の観点から、網状体の厚さは、100μm~400μmであることが好ましく、100μm~300μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることが更に好ましい。網状体の厚さは、9か所の厚さを算術平均することによって算出される。
【0030】
目的の網状体が得られる限り、網状体の製造方法は制限されない。網状体は、線状材料を編む又は織ることによって製造されてもよい。線状材料としては、例えば、金属線が挙げられる。金属線としては、例えば、チタン線及びチタン合金線が挙げられる。例えば、網状体の一種である織金網は、金属線を織ることによって製造される。金属線又は金網は、酸液で洗浄されてもよい。例えば、酸液を用いる洗浄は、酸化被膜を除去できる。酸液としては、例えば、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、硝酸及び過酸化水素が挙げられる。金属線又は金網は、めっきされてもよい。金属線又は金網は、めっき以外の表面処理を経て製造されてもよい。網状体は、少なくとも2つの金網を互いに重ね合わせることによって製造されてもよい。
【0031】
ガス拡散層は、アノードガス拡散層又はカソードガス拡散層であってもよい。アノードガス拡散層は、水電解セルにおいてアノードに配置されるガス拡散層である。カソードガス拡散層は、水電解セルにおいてカソードに配置されるガス拡散層である。ガス拡散層は、アノードガス拡散層であることが好ましい。
【0032】
ガス拡散層は、水電解セルに適用可能である。水電解セルは、水の電気分解によって水素及び酸素を生成する機能を有する最小単位である。ガス拡散層は、水電解装置に適用されてもよい。水電解装置は、水の電気分解によって水素及び酸素を生成する装置である。
【0033】
<水電解セル>
以下、本開示に係る水電解セルについて説明する。
【0034】
本開示の一実施形態において、水電解セルは、本開示に係るガス拡散層を含む。本開示に係るガス拡散層の態様は、上記「ガス拡散層」の項で説明されている。水電解セルは、複数のガス拡散層を含んでいてもよい。水電解セルにおいて、本開示に係るガス拡散層は、アノードガス拡散層であることが好ましい。水電解セルは、本開示に係るガス拡散層以外のガス拡散層を更に含んでいてもよい。
【0035】
水電解セルは、他の構成要素を更に含んでいてもよい。他の構成要素は、公知の水電解セルの構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、電解質膜、触媒層、ガスケット、シール材及びセパレータが挙げられる。
【0036】
電解質膜は、水電解に使用される公知の電解質膜(イオン交換膜を含む。)から選択されてもよい。電解質膜は、プロトン(H)を選択的に透過する性質を有することが好ましい。電解質膜としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。高分子電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜が挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜としては、例えば、ナフィオン膜が挙げられる。
【0037】
触媒層における触媒は、水電解に使用される公知の触媒から選択されてもよい。触媒の成分としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム及びこれらの合金が挙げられる。触媒の形態は、粒子であってもよい。触媒層は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。担体としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。
【0038】
セパレータは、水電解に使用される公知のセパレータから選択されてもよい。セパレータの成分としては、例えば、金属が挙げられる。
【0039】
水電解セルにおける各構成要素の配置は、公知の水電解セルを参考に決定されてもよい。水電解セルにおいて、電解質膜は、アノード触媒層とカソード触媒層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜及び触媒層は、アノードガス拡散層とカソードガス拡散層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜、触媒層及びガス拡散層は、2つのセパレータの間に位置することが好ましい。
【0040】
<水電解装置>
以下、本開示に係る水電解装置について説明する。
【0041】
本開示の一実施形態において、水電解装置は、本開示に係る水電解セルを含む。本開示に係る水電解セルの態様は、上記「水電解セル」の項で説明されている。水電解装置は、複数の水電解セルを含んでいてもよい。2つ以上の水電解セルは、重ね合わせによって「スタック」又は「セルスタック」と称される構造体を形成していてもよい。
【0042】
水電解装置は、他の構成要素を更に含んでいてもよい。他の構成要素は、公知の水電解装置の構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、パワーコンディショナー、水ポンプ、イオン交換樹脂、熱交換器及び除湿器などの補機類が挙げられる。
【実施例0043】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0044】
<実施例1>
チタン線を織ることによって作製された綾畳織金網を酸液(具体的には硝酸)で洗い、アノードガス拡散層として使用される金網(A)を準備した。金網(A)の特徴を以下に示す。金網(A)の外観を図1に示す。図1は、金網(A)の平面図である。
(1)ろ過精度:69μm
(2)空隙率:48%
(3)織り方:綾畳織
(4)縦線の直径:150μm
(5)横線の直径:105μm
(6)線状材料の最大直径及び線状材料の最小直径の算術平均:127.5μm
(7)厚さ:290μm
【0045】
JARI標準セル(エフシー開発株式会社)を用いて、図2に示される構造を有する評価用セルを作製した。図2を参照して、評価用セルの構造を説明する。図2は、評価用セルの概略断面図である。図2に示されるセル100は、触媒層付き電解質膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)10と、アノードガス拡散層20と、カソードガス拡散層30と、ガスケット40と、ガスケット50と、セパレータ60と、セパレータ70と、を含む。触媒層付き電解質膜10は、電解質膜11と、アノード触媒層12と、カソード触媒層13と、を含む。評価用セルの作製では、以下の(1)~(3)に示される触媒層付き電解質膜及びガス拡散層を除いて、JARI標準セルの構成要素を評価用セルの構成要素に適用した。
(1)触媒層付き電解質膜:アノード触媒層(Ir触媒)/電解質膜(ナフィオン膜)/カソード触媒層(Pt/C触媒)(エフシー開発株式会社)
(2)アノードガス拡散層:金網(A)
(3)カソードガス拡散層:カーボン材(SGLカーボンジャパン株式会社)
【0046】
<実施例2>
実施例1で使用された金網(A)を下記の特徴を有する綾畳織金網に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法によって評価用セルを作製した。
(1)ろ過精度:36μm
(2)空隙率:44%
(3)織り方:綾畳織
(4)縦線の直径:100μm
(5)横線の直径:65μm
(6)線状材料の最大直径及び線状材料の最小直径の算術平均:82.5μm
(7)厚さ:200μm
【0047】
<比較例1>
実施例1で使用された金網(A)を綾織金網(株式会社八尾金網製作所)に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法によって評価用セルを作製した。比較例1で使用された綾織金網のろ過精度は、154μmである。
【0048】
<参考例1>
実施例1で使用された金網(A)をチタン繊維の焼結体(ベカルトジャパン株式会社)に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法によって評価用セルを作製した。
【0049】
<評価>
以下の条件で評価用セルに電流を与えて電圧を測定した。測定結果を図3に示す。図3は、電流密度-電圧特性の図である。2A/cmで1.85V以下という評価基準及び図3によれば、実施例1~2及び参考例1が上記評価基準を満たし、比較例1が上記評価基準を満たさなかった。
(1)温度:60℃
(2)水の流量:100cc/min.
【符号の説明】
【0050】
10:触媒層付き電解質膜
11:電解質膜
12:アノード触媒層
13:カソード触媒層
20:アノードガス拡散層
30:カソードガス拡散層
40:ガスケット
50:ガスケット
60:セパレータ
70:セパレータ
100:セル
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
80μm以下のろ過精度を有する網状体を含み、
前記網状体が綾畳織金網であり、
前記網状体の空隙率が40%以上である
水電解セル用ガス拡散層。
【請求項2】
前記網状体における線径が、60μm~200μmである、請求項1に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項3】
前記網状体の厚さが、100μm~400μmである、請求項1又は請求項2に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項4】
前記ガス拡散層が、アノードガス拡散層である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の水電解セル用ガス拡散層。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の水電解セル用ガス拡散層を含む、水電解セル。
【請求項6】
請求項に記載の水電解セルを含む、水電解装置。