(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072842
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】水田給水装置
(51)【国際特許分類】
E02B 13/02 20060101AFI20230518BHJP
A01G 25/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
E02B13/02 F
E02B13/02 C
A01G25/00 501D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185527
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000186898
【氏名又は名称】昭和コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】小澤 與宏
(57)【要約】
【課題】シンプルかつ低コストの構造で、給水は手動・止水は自動という半自動を実現し、営農者の負担を軽減する。さらに、水路1の下流部のように水路水位が低い箇所であっても、水路の流量を増やすことなく、水田に十分な給水ができるようにする。
【解決手段】水路1のゲート口4を開閉する開閉板10が起立姿勢のままで昇降可能に設けられた水田給水装置において、手動で開閉板10とともに上昇させるハンドル11と、ハンドル11に設けられた被係合部13とこれに係合する係合部14と、水田水位Aが設定水位に達したことを検出する水田水位計26と、前記検出に基づいて通電されると係合部を動かして係合部と被係合部13との係合を外す電磁ソレノイド16と、ゲート口4における水路水位Bを嵩上げして確保する水路水位確保用ブロック30とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路の側壁の一部に水田を向くゲート口が設けられ、該ゲート口を開閉するための開閉板が起立姿勢のままで昇降可能に設けられ、開閉板を上昇させてゲート口を開くと給水され、開閉板を下降させてゲート口を閉じると止水される水田給水装置において、
開閉板(10)に取り付けられて上方へ延び、手動で開閉板(10)とともに上昇させるハンドル(11)と、
ハンドル(11)に設けられた被係合部(13)と、
ハンドル(11)が上昇するときは該上昇を許容し、該上昇が停止すると被係合部(13)に係合してハンドル(11)の下降を止める係合部(14)と、
水田水位(A)が設定水位に達したことを検出する水田水位計(26)と、
前記検出に基づいて通電されると係合部(14)を動かして係合部(14)と被係合部(13)との係合を外し、ハンドル(11)と開閉板(10)の自重による下降を可能にする電磁ソレノイド(16)とを含むことを特徴とする水田給水装置。
【請求項2】
水田給水装置が、電池(21)と、ハンドル(11)が下降したときにOFFする開閉確認スイッチ(24)とを含み、
水田水位計(26)が、水田水位(A)が設定水位に達したときにONするフロートスイッチ(28)を含み、
電池(21)、フロートスイッチ(28)、開閉確認スイッチ(24)及び電磁ソレノイド(16)が直列に接続されている請求項1記載の水田給水装置。
【請求項3】
ゲート口(4)の直ぐ下流側の水路の底に設置され、ゲート口(4)における水路水位(B)を嵩上げして確保する水路水位確保用ブロック(30)を含む請求項1又は2記載の水田給水装置。
【請求項4】
水路水位確保用ブロック(30)が、横倒しの断面半円形の柱体である請求項3記載の水田給水装置。
【請求項5】
水路水位確保用ブロック(30)の底面と幅方向の端面とのコーナーに、水路の内底部ハンチを逃がすとともに、ための面取り(31)が形成されている請求項3又は4記載の水田給水装置。
【請求項6】
水路水位確保用ブロック(30)に、持上用治具(33)を係合するための被係合所(32)が形成されている請求項3、4又は5記載の水田給水装置。
【請求項7】
水路水位確保用ブロック(30)の上部に、該水路水位確保用ブロック(30)の上方へ延びる嵩上用板(35)を嵌めるための溝(34)が形成されている請求項3、4、5又は6記載の水田給水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路から水田へ給水するための水田給水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水田給水装置の一種として、水路の側壁の一部に水田を向くゲート口が設けられ、該ゲート口を開閉するための開閉板が起立姿勢のままで昇降可能に設けられ、開閉板を上昇させてゲート口を開くと、水路を流れる水をゲート口から分岐して水田に取り入れること(以下単に「給水」という。)ができ、開閉板を下降させてゲート口を閉じると、前記給水を止めること(以下単に「止水」という。)ができるようにしたものがある(特許文献1~4)。
【0003】
特許文献1に記載された水田給水装置では、開閉板に上下に延びる調整杆が取り付けられている。給水時には、手動で調整杆を引き上げることにより開閉板を上昇させる。調製杆には多数の孔が適当な間隔をおいて穿設され、止めピンをいずれかの孔に挿通して水路に係止させることにより、開閉板によるゲート口の開度を調製することができる。止水時には、止めピンを孔から抜いて開閉板を下降させる。
【0004】
特許文献2に記載された水田給水装置では、開閉板の上部に取手が設けられている。給水時には、手動で開閉板を上昇させる。ボルトの先端を開閉板に圧接することにより、開閉板によるゲート口の開度を調整することができる。止水時には、ボルトを弛めて開閉板を下降させる。
【0005】
特許文献3に記載された水田給水装置では、開閉板に上下に延びるシャフトが取り付けられ、シャフトを昇降させるモーターが設けられるとともに、水田内に水位検出器が設けられている。給水は、水位検出器が水田水位が下がったことを検知したときに、モーターが開閉板を上昇させて行われる。止水は、水位検出器が水田水位が上がったことを検知したときに、モーターが開閉板を下降させて行われる。
【0006】
特許文献4に記載された水田給水装置では、開閉板に上下に延びるシャフトが取り付けられ、シャフトを昇降させるモーターが設けられ、夜間の給水時間を設定するタイマーが設けられるとともに、水田水位を計る水田水位計が設けられている。給水は、タイマーに設定された給水時間の開始時になると、モーターが開閉板を上昇させて行われる。止水は、タイマーに設定された給水時間の終了時になると、あるいは給水時間内であっても水田水位計が水田水位が上がったことを検知すると、モーターが開閉板を下降させて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実願昭56-70190号(実開昭57-184137号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特開2003-55947号公報
【特許文献3】特開2005-143491号公報
【特許文献4】特開2018-134028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2の水田給水装置は、構造が簡単で低コストであるが、給水及び止水をいずれも営農者が同装置にまで近付いて手動で行う必要があるため、営農者の負担が大きかった。一方、特許文献3,4の水田給水装置は、給水及び止水を自動で行うことができるので、営農者の負担は無くせるが、構造が複雑で高コストであった。
【0009】
また、特許文献1~4の水田給水装置においては、水路水位が上流部と比べて下流部で低くなるため、下流部にある水田でゲート口から十分な給水ができないという問題があった。その対策としてこれまでは、水路水位が下流部でも十分な高さとなるように水路の流量を増やしていたが、そうすると水路の末端で大量の無効放流が発生するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の主たる目的は、シンプルかつ低コストの構造で、給水は手動・止水は自動という半自動を実現し、営農者の負担を軽減することにあり、さらなる目的は、水路の下流部のように水路水位が低い箇所であっても、水路の流量を増やすことなく、水田に十分な給水ができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]水路の側壁の一部に水田を向くゲート口が設けられ、該ゲート口を開閉するための開閉板が起立姿勢のままで昇降可能に設けられ、開閉板を上昇させてゲート口を開くと給水され、開閉板を下降させてゲート口を閉じると止水される水田給水装置において、
開閉板に取り付けられて上方へ延び、手動で開閉板とともに上昇させるハンドルと、
ハンドルに設けられた被係合部と、
ハンドルが上昇するときは該上昇を許容し、該上昇が停止すると被係合部に係合してハンドルの下降を止める係合部と、
水田水位が設定水位に達したことを検出する水田水位計と、
前記検出に基づいて通電されると係合部を動かして係合部と被係合部との係合を外し、ハンドルと開閉板の自重による下降を可能にする電磁ソレノイドとを含むことを特徴とする水田給水装置。
【0012】
[2]上記[1]の発明において、水田給水装置が、電池と、ハンドルが下降したときにOFFする開閉確認スイッチとを含み、
水田水位計が、水田水位が設定水位に達したときにONするフロートスイッチを含み、
電池、フロートスイッチ、開閉確認スイッチ及び電磁ソレノイドが直列に接続されている態様を、好ましい態様として例示できる。
【0013】
(作用)
(ア)給水の開始は、営農者が例えば水田の日常見回りの際、水田水位が低いことを視認したときに、ハンドルを手動で引き上げるだけで行うことができ、その引き上げ操作は数秒ででき、ほとんど手間を要しないため、営農者の負担は軽い。
(イ)止水の開始は、上記のとおり水田水位が下がったときに、水田水位計、電磁ソレノイド等により自動的に行うことができるので、営農者の負担を削減できる。
(ウ)水田給水装置は、被係合部及び係合部と水田水位計と電磁ソレノイドを基本としてスイッチ類を加えたシンプル構造のため、低コストで導入可能であり、故障等に対しても簡単なパーツ交換による対応が可能である。
【0014】
[3]上記[1]又は[2]の発明において、ゲート口の直ぐ下流側の水路の底に設置され、ゲート口における水路水位を嵩上げして確保する水路水位確保用ブロックを含むことが好ましい。
【0015】
(作用)
(エ)水路水位が上流部と比べて低くなる下流部にある水田でも、水路水位確保用ブロックがゲート口における水路水位を嵩上げして確保するので、ゲート口から十分な給水ができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水田給水装置によれば、シンプルかつ低コストの構造で、給水は手動・止水は自動という半自動を実現し、営農者の負担を効率的に軽減することができる。さらに、水路水位確保用ブロックを含むことにより、水路の下流部のように水路水位が低い箇所であっても、水路の流量を増やすことなく、水田に十分な給水ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は実施例1の水田給水装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は同装置の主要部を示し、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)はIIc-IIc断面図である。
【
図3】
図3は同装置(ケースの正面扉は省く)の初期状態の正面図である。
【
図4】
図4は同装置により給水を手動で開始するときの正面図である。
【
図5】
図5は同装置により給水しているときの正面図である。
【
図6】
図6は同装置により止水を自動的に開始するときの正面図である。
【
図7】
図7は同装置により止水しているときの正面図である。
【
図9】
図9は同水田給水装置の水路水位確保用ブロックを示し、(a)は底面側から見た斜視図、(b)は側面図である。
【
図10】
図10は同水路水位確保用ブロックを設置した水路を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
【
図11】
図11は同水路水位確保用ブロックの変更例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ハンドル
ハンドルの形状としては、特に限定されないが、軽量にできる点で棒状が好ましい。ハンドルの断面形状としては、特に限定されないが、コ字状、L字状、偏平状、四角形、円形等を例示できる。
【0019】
2.被係合部及び係合部
被係合部としては、特に限定されないが、ハンドルに横向きに貫通した穴や、横向きに凹んだ凹所等を例示できる。
係合部としては、特に限定されないが、被係合部に対して寄りかかるように傾動可能に設けられた爪付きアーム等を例示できる。
【0020】
3.水路水位確保用ブロック
水路水位確保用ブロックの形状としては、特に限定されないが、横倒しの柱体(断面は半円形、台形、三角形等)、直方体等を例示できる。横倒しの断面半円形の柱体は、水流の抵抗が小さく、上面形状が丸いため、浮遊ゴミが掛からない点で好ましい。
【0021】
水路水位確保用ブロックの寸法は、特に限定されないが、次の2条件を満たすものが好ましい。以下において、水路の長さ方向と平行な方向を単に「流れ方向」といい、水路の幅方向と平行な方向を単に「幅方向」という。
(1)ブロック底面の流れ方向長さ(
図9のL)は、ブロック高さ(
図9のH)の2倍以上とする。
(2)ブロック高さ(H)は、水路の内法深さ(
図10のD)の0.3~0.7倍とする。
【0022】
水路水位確保用ブロックの底面と幅方向の各端面とのコーナーに、水路底面の泥を下流に吐くための面取りが形成されていることが好ましい。泥は水路底面の中央のみならず側壁付近にも溜まるため、その位置に面取りを設けることで、水路との隙間から泥を滞留させることなく下流へ流すことができる。この面取りには、水路の内底部ハンチを逃がす機能もある。
【0023】
水路水位確保用ブロックに、持上用治具を係合するための被係合所が形成されていることが好ましい。持上用治具により水路水位確保用ブロックを持ち上げやすくなり、ブロック周辺に溜まった泥を流したり、ブロック位置を変えたりする作業が楽にできるようになる。
持上用治具としては、特に限定されないが、アーム状のもの、ロープやチェーンを用いたもの等を例示できる。
被係合所としては、特に限定されないが、穴、ループ、フック等を例示できる。
【0024】
水路水位確保用ブロックの上部に、該水路水位確保用ブロックの上方へ延びる嵩上用板を嵌めるための溝が形成されていることも好ましい。ゲート口における水路水位をさらに嵩上げすることができるからである。
【実施例0025】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の構造、材料、形状及び寸法は例示であり、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0026】
図1~
図10に示す実施例の水田給水装置は、コンクリート製で断面U字状の水路1(開水路)の側壁の一部に設けられている。
側壁の一部には、水路1の流れ方向に離間した一対のゲート枠2と、両ゲート枠2の間に配されて両ゲート枠2に水密に固定されたゲート板3とが設けられ、ゲート板3には水田を向くゲート口4が形成されている。また、ゲート口4を開閉するための開閉板10が起立姿勢のままで昇降可能に設けられ、開閉板10を上昇させてゲート口4を開くと給水され、開閉板10を下降させてゲート口4を閉じると止水されるようになっている。
【0027】
実施例1の水田給水装置は、
開閉板10に取り付けられて上方へ延び、手動で上昇させるハンドル11と、
ハンドル11に設けられた被係合部13と、
ハンドル11が上昇するときは該上昇を許容し、該上昇が停止すると被係合部13に係合してハンドル11の下降を止める係合部14と、
水田水位Aが設定水位に達したことを検出する水田水位計26と、
前記検出に基づいて通電されると係合部14を動かして係合部14と被係合部13との係合を外す電磁ソレノイド16と、
ゲート口4の直ぐ下流側の水路1の底に置かれ、ゲート口4における水路水位Bを嵩上げして確保する水路水位確保用ブロック30と
を含むことを特徴とする。
【0028】
開閉板10は、ゲート板3の内面に摺動可能に接するように配設されている。ゲート板3には、ゲート板3の両側縁部を昇降可能にガイドするガイド部材5と、開閉板10の下降限を規制する下規制部材6と、開閉板10の上昇限を規制する上規制部材7とが設けられている(
図1では図示略)。
【0029】
ゲート板3の側壁高さよりも上には、起立した支持板8がゲート板3と一体に且つ連続して設けられている。但し、支持板8はゲート板3と別体でもよい。支持板8の上部内側には箱状のケース9が取り付けられている。ケース9の正面には、正面扉が蝶番により開閉可能に設けられている。
【0030】
ハンドル11は、断面コ字状のステンレス鋼材であり、コ字の中間板には上下方向に所定の間隔をおいて横向きに貫通した複数の穴が形成されている。ハンドル11は、ケース9の上壁と下壁に形成された支持切欠15に遊挿されることにより昇降可能に支持されている。
【0031】
被係合部13は、ハンドル11に形成された前記の穴であり、詳しくは前記複数の穴のうちケース9内に位置する一部の穴が被係合部13として機能する。
係合部14は、ケース9の内奥の縦壁に、下端部において回動可能に軸着され、もってハンドル11に対して寄りかかるように傾動可能に設けられた爪付きアームであり、爪付きアームの上端には被係合部13(穴)に入り込んで係合する爪が形成されている。
【0032】
ハンドル11が最大限に上昇して開閉板10が上規制部材7に当たるとき(ゲート口4を最大に開くとき)に、係合部14の爪に対応する位置にあるハンドル11の穴が主たる被係合部13である。また、該被係合部13の下にある幾つかの穴も、ハンドル11が最大限の手前まで上昇して止められたとき(ゲート口4を部分的に開くように調整するとき)に、係合部14の爪が係合する調整用の被係合部13として機能する。
本実施例の被係合部13及び係合部14は、一種のラチェット機構12とみることができる。
【0033】
水田水位計26は、水田に突き刺して起立させる起立棒27と、起立棒27に取付高さを調節可能に取り付けられたフロートスイッチ28と、これらを保護するためにこれらに被せた保護筒29とからなる。
【0034】
電磁ソレノイド16は、ケース9の縦壁に取り付けられており、そのプランジャ17と係合部14とは、プランジャ17のストローク長方向に所定長の遊びを作るフレキシブルな動力伝達装置18を介して結合されている。動力伝達装置18としては、特に限定されないが、ピンと長孔の組み合わせ、チェーン、ワイヤー等を例示できる。電磁ソレノイド16は、通電時に電磁力でプランジャ17が退入し、非通電時にプランジャ17を繰出すためのパネは備えないタイプであるが、プランジャ17が斜め下向きとなるように取り付けられているため、非通電時にプランジャ17は自重で繰り出すようになっている。なお、電磁ソレノイドは当該バネを備えるタイプでもよい。
【0035】
さらに、ケース9内には、次のものが設けられている。
・縦壁に取り付けられた、係合部14の可動範囲を規制する規制ピン19
・縦壁に取り付けられた、手動でON・OFFする主電源スイッチ22
・縦壁に取り付けられた電池ボックス20及びそれに装着された電池21
・ハンドル11の中間部に取り付けられ、ハンドル11と共に昇降するスイッチ押し具23
・縦壁に取り付けられた、常にはONしており、下降したスイッチ押し具23により押されてOFFする開閉確認スイッチ24
・ターミナル25(端子台)
【0036】
そして、電池21、主電源スイッチ22、フロートスイッチ28、開閉確認スイッチ24及び電磁ソレノイド16は、ターミナル25での結線により、
図8の回路図のとおり直列に接続されている。主電源スイッチ22は、通常ONであり、メンテナンス時や長期間不使用時にOFFする。
【0037】
水路水位確保用ブロック30は、
図1、
図9及び
図10に示すように、コンクリートで形成された横倒しの断面半円形の柱体である。水路水位確保用ブロック30の寸法は、前述の2条件を満たすものである。水路水位確保用ブロック30の底面と幅方向の各端面とのコーナーには、水路底面の泥を下流に吐くための面取り31が形成されている。
図10に示すように、泥Mは水路底面の中央のみならず側壁付近にも溜まるため、その位置に面取りを設けることで、水路1との隙間から泥Mを滞留させることなく下流へ流すことができる。この面取りには、水路1の内底部ハンチ40を逃がす機能もある。
【0038】
それでも泥Mが溜まったときには、水路水位確保用ブロック30を持ち上げて、泥M下流へ流す。その際に、水路水位確保用ブロック30には被係合所32としての穴が形成されているため、この被係合所32に係合した持上用治具33によって、楽に水路水位確保用ブロック30を持ち上げることができる。
【0039】
図3と
図8(a)に初期状態の水田給水装置と回路図を示す。なお、
図3~
図7においては、被係合部13と係合部14との係合状態を見やすくするため、ハンドル11はその断面を示す。このとき、ハンドル11とともに開閉板10が下降してゲート口4を閉じている。開閉確認スイッチ24は、ハンドル11とともに下降しているスイッチ押し具23により押されてOFFしている。水田水位計26のフロートスイッチ28は、事前に設定した水田水位Aの設定水位に位置調節されている。但し、このとき水田水位Aは低く、該フロートスイッチ28に達していないため、フロートスイッチ28はOFFしているものとする。電磁ソレノイド16に通電されないため、プランジャ17は自重で繰り出しており、前記遊びを越えた動力伝達装置18を介して、係合部14(爪付きアーム)が自重でハンドル11に対し寄りかかるように傾動するのを許している。
【0040】
図4と
図8(b)に給水を開始するときの水田給水装置と回路図を示す。営農者が手動でハンドル11を引き上げることにより、ハンドル11とともに開閉板10を上昇させ、ゲート口4を開け始める。ハンドル11とともにスイッチ押し具23が上昇することで開閉確認スイッチ24を押さなくなり、開閉確認スイッチ24がONする。しかし、フロートスイッチ28はOFFしているため、電磁ソレノイド16の上記状態は変わらない。ハンドル11の上昇中は、係合部14が跳ね上がるようにハンドル11の穴と穴の間を乗り越えて該上昇を許容する。その際、係合部14は上記状態の電磁ソレノイド16に接近するが、その接近は動力伝達装置18が作る前記遊びが吸収する。
【0041】
図5に給水しているときの水田給水装置を示す。回路図は
図8(b)のままである。前記手動によるハンドル11の上昇は完了し停止しているため、係合部14は自重で被係合部13に入り込んで係合し、ハンドル11の下降を止めてロックしている。開閉板10はゲート口4を開いているため、水路から水田に給水される。なお、上述したように、ハンドル11を最大限上昇させるかその手前まで上昇させるかを適宜選択することにより、係合部14が係合する被係合部13を変えて、ゲート口4が開く程度を調整することもできる。この調整が不要な場合は、被係合部13は上述した主たる被係合部13(穴)のみで足りる。
【0042】
図6と
図8(c)に止水を開始するときの水田給水装置と回路図を示す。上記給水により水田水位Aが上がり、水田水位計26のフロートスイッチ28に達すると、フロートスイッチ28はONする。このとき初めて電磁ソレノイド16に通電され、プランジャ17が退入し、動力伝達装置18を介して、係合部14をハンドル11から離れるように傾動させ、被係合部13との係合を外す。このとき、規制ピン19が係合部14の可動範囲を適正に規制して、係合部14の暴れを防ぐ。こうして係合が外れたことで、ハンドル11と開閉板10が自重により下降しはじめる。
【0043】
図7と
図8(d)に止水しているときの水田給水装置と回路図を示す。上記ハンドル11の下降は完了しているため、開閉確認スイッチ24は、ハンドル11とともに下降しているスイッチ押し具23により押されてOFFしている。電磁ソレノイド16に通電されないため、プランジャ17は自重で繰り出している。この状態から水田水位Aが下がると、
図3の状態に戻る。
【0044】
以上のように構成された水田給水装置によれば、次の作用効果が得られる。
(ア)給水の開始は、営農者が例えば水田の日常見回りの際に、ハンドル11を手動で引き上げるだけで行うことができ、その引き上げ操作は数秒ででき、ほとんど手間を要しないため、営農者の負担は軽い。
(イ)止水の開始は、上記のとおり水田水位Aが下がったときに、水田水位計26、電磁ソレノイド16等により自動的に行うことができるので、営農者の負担を削減できる。
(ウ)水田給水装置は、被係合部13及び係合部14と水田水位計26と電磁ソレノイド16を基本としてスイッチ類を加えたシンプル構造のため、低コストで導入可能であり、故障等に対しても簡単なパーツ交換による対応が可能である。
【0045】
(エ)水路水位Bが上流部と比べて低くなる下流部にある水田でも、水路水位確保用ブロック30がゲート口4における水路水位Bを嵩上げして確保するので、ゲート口4から十分な給水ができる。
(オ)水路水位確保用ブロック30に、持上用治具33を係合するための被係合所32が形成されているため、持上用治具33により水路水位確保用ブロック30を持ち上げやすくなり、ブロック周辺に溜まった泥を流したり、ブロック位置を変えたりする作業が楽にできるようになる。
【0046】
上記のように給水は手動・止水は自動という半自動にした詳しい理由は、以下の通りである。
(1)水管理に労力を要する時期は、給水開始は機械に任せられない。
開水路では(パイプラインと異なって)、一定量の水を常時流しておいて、上流の水田へ分水した水量が差し引かれて下流へ流れる。上流農家の給水は下流農家の給水に影響を及ぼす。特に、水路へ流せる水量が少ない時、つまり節水しなければならない時は、下流農家に与える影響が大きいため、上流農家は水路の流量を見て下流に配慮して給水しなければならない。水も水路も上下流農家の共有の財産であり、上流で機械が勝手に給水することは、下流農家の理解が得られない。よって、節水しなければならない時、つまり丁寧な水管理のために多大な労力を要する時期には、自動給水開始装置は作動させることができない。
【0047】
(2)給水開始操作を手動としても農作業時間は大きく増えない。
水管理を自動化しても、農家は毎日もしくは隔日に、稲の状態を見るために圃場へ行く。そのついでに、手動で給水開始操作をすれば、僅かな時間でできる。この水田給水装置の場合は、ハンドルを引き上げるだけの数秒の操作である。(電子回路と駆動モーターを備えた自動給水開始機能を備えた装置の場合は、手動操作すると5~10分程度の時間が必要となる。)
【0048】
(3)給水開始を自動化するためには、モーター、ギア、バッテリー、太陽光パネル、制御回路を要する複雑な機械となる。このため、高価となり、また、故障リスクも増える。
【0049】
(4)多額の経費をかけてまで、大事な時には使えない、使っても大した労働時間節減にならない、故障リスクもある、自動給水開始機能を備えた装置を導入する農家は少ないと考えられる。
【0050】
(5)開水路では、上流の給水は下流の給水に影響を及ぼすため、上流農家は水路流量や下流の営農状況を勘案して給水するが、機械ではこれは不可能である。特に丁寧な水管理が必要な時は、水路流量が少ない時であり下流への影響が大きいため、周辺状況に配慮しない自動給水開始は地域社会で受け入れられない。農家が稲の生育状況確認等の圃場巡回の時に開閉板のハンドルを引き上げれば、給水開始のための掛り増し労働時間は少ない。このように、機械による給水開始は社会的に問題を生起される可能性があり、また農家が現地で給水開始作業をしても大きな掛り増し手間を要しないため、この水田給水装置は節水と労力節減に直結する給水停止のみを自動で行う半自動給水機とする。
【0051】
次に、
図11に示す水路水位確保用ブロック30の変更例は、水路水位確保用ブロック30の上部に、該水路水位確保用ブロック30の上方へ延びる嵩上用板35を嵌めるための溝34が形成されているものである。この変形例によれば、ゲート口4における水路水位Bをさらに嵩上げすることができる。
【0052】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。