IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

特開2023-72876筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法
<>
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図1
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図2
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図3
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図4
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図5
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図6
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図7
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図8
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図9A
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図9B
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図10A
  • 特開-筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法 図10B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072876
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】筆記具用外装部材及び筆記具用外装部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20230518BHJP
   B43K 3/00 20060101ALI20230518BHJP
   B43K 25/02 20060101ALI20230518BHJP
   B43K 23/12 20060101ALI20230518BHJP
   B24B 31/02 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C25D11/04 E
B43K3/00 N
B43K3/00 X
B43K25/02 200
B43K23/12 140
B24B31/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185574
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 義明
【テーマコード(参考)】
2C041
3C158
【Fターム(参考)】
2C041AC02
2C041CC01
3C158AA02
3C158AA09
3C158AA11
3C158AA18
3C158AB01
3C158AB04
3C158AB08
3C158CA01
3C158CA02
3C158CA04
3C158CB05
3C158CB10
3C158DA02
(57)【要約】
【課題】 高級感を有する筆記具用外装部材を低コストで提供する。
【解決手段】
アルミ合金から形成され、表面にアルミ合金よりも低強度の弾性部材との衝突で生じた欠落や塑性変形による疑似結晶模様を有する筆記具用外装部材2、または、アルミニウム合金からなる筆記具外装部材の母材を形成する母材形成工程と、研磨メディアとして樹脂製メディアを用いて母材にバレル研磨を行って、表面に疑似結晶模様を形成するバレル研磨工程と、を含む筆記具用外装部材2の製造方法を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ合金から形成され、表面に前記アルミ合金よりも低強度の弾性部材との衝突で生じた欠落や塑性変形による疑似結晶模様を有する筆記具用外装部材。
【請求項2】
前記疑似結晶模様を有する表面に着色を伴う酸化皮膜が形成された請求項1に記載の筆記具用外装部材。
【請求項3】
前記筆記具用外装部材が、筆記具の軸筒、キャップまたはクリップであることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用外装部材。
【請求項4】
アルミニウム合金からなる筆記具外装部材の母材を形成する母材形成工程と、
研磨メディアとして樹脂製メディアを用いて前記母材にバレル研磨を行って、表面に疑似結晶模様を形成するバレル研磨工程と、
を含むことを特徴とする筆記具用外装部材の製造方法。
【請求項5】
疑似結晶模様が形成された表面に着色を伴うアルマイト処理を行うアルマイト処理工程を更に含むことを特徴とする請求項4に記載の筆記具用外装部材の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、Al-Mg系合金またはAL-Mg-Si系合金であることを特徴とする請求項4または5に記載の筆記具用外装部材の製造方法。
【請求項7】
最大寸法が10mm以上20mm以下の範囲内の同一形状の前記樹脂製メディアを用いて前記バレル研磨工程を行うことを特徴とする請求項4から6の何れか1項に記載の筆記具用外装部材の製造方法。
【請求項8】
遠心バレル研磨装置により前記バレル研磨が行われることを特徴とする請求項4から7の何れか1項に記載の筆記具用外装部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具の一部を構成する部材であって、外部に露出する面を有する筆記具用外装部材及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
万年筆、ボールペン、シャープペンシルをはじめとする筆記具において、高級感を有する製品に対する強い需要がある。このような需要に対応するため、例えば、筆記具の軸筒を真鍮、アルミニウムなどの金属で形成し、この表面に吹き付け塗装、鍍金等を施して加飾する筆記具の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-63283号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の筆記用具の製造方法では、金属製の軸筒により重量感を増すことはできるが、表面に吹き付け塗装や鍍金を施しただけでは、十分な高級感を醸し出すことは困難である。特に、金属の結晶模様のような高級感がある模様を表すことはできない。よって、加飾による製造コストの上昇に比べて、軸筒に十分な高級感を付与することは難しい。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、高級感を有する筆記具用外装部材を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様に係る筆記具用外装部材は、
アルミ合金から形成され、表面に前記アルミ合金よりも低強度の弾性部材との衝突で生じた欠落や塑性変形による疑似結晶模様を有する。
【0007】
本発明の1つの実施態様に係る筆記具用外装部材の製造方法は、
アルミニウム合金からなる筆記具外装部材の母材を形成する母材形成工程と、
研磨メディアとして樹脂製メディアを用いて前記母材にバレル研磨を行って、表面に疑似結晶模様を形成するバレル研磨工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明により、高級感を有する筆記具用外装部材を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材の母材の外形を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材を製造するために用いられる研磨メディアの一例を模式的に示す斜視図である。
図3】本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材を製造するために用いられる遠心バレル研磨機の一例を模式的に示す斜視図である。
図4】アルミニウム合金製の母材に、細仕上げ(平滑仕上げ)用の樹脂製メディアを用いたバレル研磨を行って製造された実施例の表面を示す顕微鏡写真である。
図5】アルミニウム合金製の母材に、細仕上げ(平滑仕上げ)用の樹脂製メディアを用いたバレル研磨を行って製造された実施例の表面を示す顕微鏡写真である。
図6】アルミニウム合金製の母材に、細仕上げ(平滑仕上げ)用のセラミックメディアを用いてバレル研磨を行った比較例の表面の顕微鏡写真である。
図7】アルミニウム合金製の母材に、光沢仕上げ用のセラミックメディアを用いてバレル研磨を行った比較例の表面の顕微鏡写真である。
図8図4に示す筆記具外装部材の表面にアルマイト処理を行った後の表面を示す顕微鏡写真である。
図9A】本発明に係る筆記具外装部材を万年筆に適用した場合の例を示す平面図である。
図9B図9Aに示す万年筆の側面図である。
図10A】本発明に係る筆記具外装部材をボールペンに適用した場合の例を示す平面視図である。
図10B図10Aに示すボールペンの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本明細書において、「前」とは、筆記具の先端部側を指し、「後」とは、その反対側を指す。各図において、同一の機能を有する対応する部材には、同じ参照番号を付している。
【0011】
(本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材の製造方法の説明)
始めに、図1から図3を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材の製造方法の説明を行う。ここで、筆記具外装部材とは、筆記具の一部を構成する部材であって、外部に露出する面を有する部材を意味する。後述するように、筆記具外装部材として、筆記具の軸筒、キャップ、クリップを例示することができる。
【0012】
図1は、本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材の母材の外形を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材を製造するために用いられる研磨メディアの一例を模式的に示す斜視図である。図3は、本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材を製造するために用いられる遠心バレル研磨機の一例を模式的に示す斜視図である。
【0013】
本実施形態では、筆記具外装部材2の製造の一例として、図1に示すようなボールペンの前側の軸筒を製造する場合を例に取って説明する。
<母材形成工程>
始めに、アルミ合金製の棒状部材から機械加工、鍛造等により、図1に示すような外形を有する筆記具外装部材2の母材2Aを形成する母材形成工程を行う。
【0014】
[アルミニウム材料について]
一般的に、アルミニウム、アルミニウム合金として、以下のものがある。
(1)純アルミニウム(1000系/JIS)
1000系アルミニウムは、純度99.00以上の純アルミニウムである。アルミニウムの純度が高いので、加工性や放熱性、導電性に優れているが、強度が低い。
【0015】
(2)Al-Cu系アルミニウム合金(2000系/JIS)
2000系アルミニウム合金は、主にCu(銅)が添加され、鋼材に匹敵する強度を持った合金であり、一部にジュラルミン、超ジュラルミンと称されるものもある。
(3)Al-Mn系アルミニウム合金(3000系/JIS)
3000系アルミニウム合金は、主にMn(マンガン)が添加され、純アルミニウムの強度を高めたアルミニウム合金である。
(4)Al-Si系アルミニウム合金(4000系/JIS)
4000系アルミニウム合金は、主にSi(シリコン)が添加され、耐熱性、耐摩耗性を増した合金である。
【0016】
(5)Al-Mg系アルミニウム合金(5000系/JIS)
5000系アルミニウム合金は、主にMg(マグネシウム)が添加され、高い強度を持ち、溶接性も良好であり、広く用いられている。
(6)Al-Mg-Si系合金(6000系/JIS)
6000系アルミニウム合金は、主にMg(マグネシウム)とSi(シリコン)が添加され、強度や耐食性に優れている。
(7)Al-Zn-Mg系合金(7000系/JIS)
7000系アルミニウム合金は、主にZn(亜鉛)とMg(マグネシウム)が添加され、高い強度を有する。更に、Cu(銅)を加えたAl-Zn-Mg-Cu系合金は、アルミニウム合金のなかで最も高い強度を持ち、超々ジュラルミンと称されるものがある。
【0017】
上記のような様々な種類のアルミニウム、アルミニウム合金で筆記具外装部材の母材を形成し、バレル研磨を行ったところ、5000系(JIS)のAl-Mg系合金または6000系(JIS)のAL-Mg-Si系合金により形成された母材2Aを用いる場合に、疑似結晶模様を形成することができることが判明した。特に、Al-Mg系合金またはAL-Mg-Si系合金により形成された母材2Aを、後述するように、樹脂製メディアを用いてバレル研磨する場合に、金属の結晶模様のような疑似結晶模様が生じることを知見した。
【0018】
母材の材料として純アルミニウムのような柔らかい材料を用いる場合には、表面が削れすぎる傾向や変形しすぎる傾向が生じて、疑似結晶模様は形成できなかった。一方、母材の材料として、より高強度の材料を用いる場合には、樹脂製メディアでは十分な研磨機能が生じず、やはり疑似結晶模様は形成できなかった。
【0019】
<バレル研磨工程>
次に、上記のような母材形成工程の後に実施するバレル研磨工程の説明を行う。バレル研磨工程では、筆記具外装部材2の母材2Aを形成した後、形成された母材2Aにバレル研磨を行う。本実施形態では、図3に模式的に示すような遠心バレル研磨装置10を用いてバレル研磨を行う。
【0020】
本実施形態で用いられる遠心バレル研磨装置10は、ターレット12上に4つのバレル槽14が取り付けられている。ターレット12は回転中心Gの回りを回転し、これによりバレル槽14内に流動層が形成され、母材2Aが加工される。図面では、各バレル槽14が1つの攪拌領域を有するように示されているが、本実施形態では、バレル槽14は、3つの独立した攪拌領域に分割されている。なお、各バレル槽14が、ターレット12の公転とともに逆方向に自転する、つまり遊星旋回する場合もあり得る。
【0021】
各々の攪拌領域に1つの母材2Aが挿入され、更に、水、樹脂製の研磨メディア4及びコンパウンドが挿入される。コンパウンドは、母材の表面や研磨メディア4を洗浄して、研磨効果を高める機能を有する。コンパウンドとして、粉体コンパウンドや液体コンパウンドを用いることができる。母材2A、水、研磨メディア4及びコンパウンドが入った攪拌領域を有するバレル槽14が遊星旋回することにより、各攪拌領域内の母材2A、研磨メディア4及びコンパウンドを含む液体が攪拌され、その間に母材2Aが主に研磨メディア4で研磨される。このとき、Al-Mg系合金またはAL-Mg-Si系合金により形成された母材2Aを、樹脂製メディアを用いて(詳細は後述する)バレル研磨することにより、疑似結晶模様を有する筆記具外装部材2を形成することができる。
【0022】
本実施形態で用いる遠心バレル研磨装置10の仕様として、ターレット12の回転数として200rpmが例示でき、研磨時間として20分を例示できる。
【0023】
以上のように、アルミニウム合金からなる筆記具外装部材2の母材2Aを形成する母材形成工程の後、研磨メディアとして樹脂製メディアを用いて母材2Aにバレル研磨を行うバレル研磨工程を実施することにより、表面に疑似結晶模様を有する筆記具外装部材2を形成することができる。
なお、研磨装置として遠心バレル研磨装置10を用いるのは一例であって、渦流バレル装置、振動バレル装置、単純な回転バレル装置をはじめとするその他の任意のバレル装置を用いることもできると考えられる。
【0024】
[研磨メディア]
研磨メディアとして、一般的に、鋼製メディア、セラミック製メディア及び樹脂製メディアが知られている。鋼製メディアは、クロム鋼球やステンレス球からなるメディアで、砥粒や気孔は含まない。鋼製メディアを用いて母材をバレル研磨した場合、光沢仕上げとなり、更に、表面を叩く作用があるので、光沢仕上げとともに表面を硬化させることになる。
【0025】
一方、セラミック製メディアは、例えば、結合剤であるアルミナ微粉が研磨材として機能する高温焼結された研磨石である。加工目的によって、細仕上げ用メディア、光沢仕上げ用メディアがあり、サイズや形状も様々なものがある。セラミック製メディアを用いて母材2Aをバレル研磨した場合、算術平均高さSaが0.5μm~0.02μm程度の表面粗さとなる。
【0026】
樹脂製メディアは、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を結合剤とした研磨石である。加工目的によって、中仕上げ用メディア、細仕上げ用メディアがある。樹脂材料からなるので弾性を有する。樹脂製メディアを用いて母材2Aをバレル研磨した場合、算術平均高さSaが1μm~0.0095μmといったような幅広い表面粗さを得ることができる。
【0027】
セラミック製メディア及び樹脂製メディアについて、加工目的の異なる様々なメディアを用いて母材2Aのバレル研磨を繰り返した結果、セラミック製メディアを用いてバレル研磨を行った場合には疑似結晶模様が生じず、樹脂製メディアを用いてバレル研磨を行った場合に疑似結晶模様が生じることを知見した。
特に、図2に示すような円錐形の樹脂製メディア4において、細仕上げ(平滑仕上げ)用メディアを用いる場合に疑似結晶模様が得られることが判明した。細仕上げ(平滑仕上げ)用メディアを更に詳細に述べれば、円錐形の樹脂製メディア4の底面の直径D及び高さHが、10mm以上20mm以下の範囲内にある場合に、疑似結晶模様が得られることが判明した。
【0028】
<実施例、比較例>
図4及び図5は、アルミニウム合金製の母材に、細仕上げ(平滑仕上げ)用の樹脂製メディアを用いたバレル研磨を行って製造された実施例の表面を示す顕微鏡写真である。一方、図6は、アルミニウム合金製の母材に、細仕上げ(平滑仕上げ)用のセラミックメディアを用いてバレル研磨を行った比較例の表面の顕微鏡写真である。図7は、アルミニウム合金製の母材に、光沢仕上げ用のセラミックメディアを用いてバレル研磨を行った比較例の表面の顕微鏡写真である。何れも、6000系(JIS)のAl-Mg-Si系アルミニウム合金製の母材にバレル研磨を行った場合を示す。
【0029】
図4に示す実施例では、底面の直径D及び高さHが10mmの樹脂製メディア4を用いたバレル研磨で形成された疑似結晶模様を示す。形成された平面の算術平均高さSaは、0.063μmであった。図5は、底面の直径D及び高さHが15mmの樹脂製メディア4を用いたバレル研磨で形成された疑似結晶模様を示す。形成された平面の算術平均高さは、0.089μmであった。何れの場合も、鱗のような模様が現れ、あたかも高級金属の結晶のような模様が形成された。
【0030】
一方、セラミック製メディアを用いたバレル研磨では、様々なサイズ、形状のメディアを用いて研磨を繰り返したが、樹脂製メディアを用いた場合のような疑似結晶模様を形成することはできなかった。図6は、細仕上げ(平滑仕上げ)用のセラミック製メディアを用いてバレル研磨を行った場合を示し、形成された平面の算術平均高さは0.218μmであった。図7は、光沢仕上げ用のセラミック製メディアを用いてバレル研磨を行った場合を示し、形成された平面の算術平均高さは0.041μmであった。
【0031】
図6のような細仕上げ(平滑仕上げ)用のセラミック製メディアを用いてバレル研磨を行った場合、図4、5に示す樹脂製メディア4を用いた場合よりも深い凹凸を有する梨地状の面となった。一方、図8図7のような光沢仕上げ用のセラミック製メディアを用いてバレル研磨を行った場合、算術平均高さが、図4、5に示す樹脂製メディア4を用いた場合と近似した0.041μmとなったが、明らかな鏡面となった。
【0032】
(疑似結晶模様形成の過程)
疑似結晶模様形成の過程を考えると、以下のことが考えられる。
研磨メディアが樹脂製メディアの場合、鋼製メディアやセラミック製メディアのような強度を有さず、メディア自身が変形し易い。このため、バレル研磨中に樹脂製メディア4が母材2Aに衝突したとき、鋼製メディアやセラミック製メディアに比べて、母材2Aが削られて欠損する量が少ない。母材2Aの表面は、樹脂製メディア4の衝突により凹んで、中央が凹み周囲が高さを維持した鱗のような形状が生じる、更に、衝突後の樹脂製メディア4の移動により、母材2Aの表面が横方向に引き延ばされる現象も生じる。樹脂製メディア4が衝突して移動するとき、樹脂製メディア4自体も変形しながら移動する。多数の樹脂製メディア4が様々な方向から、不規則に母材2Aの表面に衝突して、変形しながら移動するので、不規則な鱗模様を有する疑似結晶模様が生じると考えられる。
【0033】
樹脂製メディアの強度を、硬度及び/または結合力で表すことができる。ここで、結合力とは、削れ難さ、または靱性(脆さの反対)を意味する。
[硬度]
ビッカース硬度計等を用いた計測で、少なくとも、セラミック製メディア、アルミ合金及び樹脂メディアの硬度の比較が可能である。硬度については、セラミック製メディアの硬度が、アルミ合金の硬度よりも高い傾向を示した。一方、樹脂メディアの硬度は、明らかにアルミ合金の硬度よりも低い値を示した。
【0034】
[結合力]
試験部材をやすりで擦る試験で、結合力の大きさの比較ができる。例えば、試験部材を100gの押圧力で400番の紙やすりに押し付けながら一定速度で移動させ、擦った際の削れ量で結合力を判定することができる。この結果、セラミック製メディア、アルミ合金、樹脂製メディアの結合力は以下のようになった。
アルミ合金の結合力 > セラミック製メディアの結合力 > 樹脂製メディアの結合力
【0035】
以上のように、樹脂製メディアは、硬度及び結合力の両方の点でアルミ合金より低い値を示す。つまり、樹脂製メディアは、アルミ合金よりも低強度の弾性部材ということができる。
【0036】
特に、本実施形態で用いたような円錐形の樹脂製メディア4の場合、円錐形の先端部から母材2Aの表面に衝突した場合、円錐形の底面部から母材2Aの表面に衝突した場合、または円錐形の側面部から母材2Aの表面に衝突した場合で、母材2Aにおける欠損部分の形状、変形部分の形状も異なり、母材2Aが引き延ばされる状況も異なる。これにより、より複雑な変形形状が形成され、結果として、高級感があり美観に優れた疑似結晶模様を得ることができる。
【0037】
なお、樹脂製メディア4の形状は円錐形に限られるものではなく、円錐台、角錐、角錐台といった形状もあり得る。つまり、球、楕円体、正多角体のような点対称な形状ではないが、ある程度の規則性を有する形状の樹脂製メディア4を用いることが好ましい。例えば、面対称な形状を有する樹脂製メディア4を用いることが好ましい。
少なくとも同一形状の樹脂製メディア4を用いて母材2Aをバレル研磨することにより、不規則に変化しながらも、ある程度の規則性を感じさせるような高級金属の結晶のような模様を形成することができる。
【0038】
このような樹脂製メディア4において、使用者がイメージする結晶模様、鱗形状の大きさを考慮すると、樹脂製メディア4の最大寸法が、10mm以上20mm以下の範囲内にあるのが好ましい。樹脂製メディア4の最大寸法が10mm未満となると、視認が容易な大きさの鱗模様が生じにくくなる虞がある、一方、樹脂製メディア4の最大寸法が20mmより大きくなると、形成される模様が筆記具用外装部材2の大きさに比べて大きくなるすぎで、使用者が模様を認識しにくくなる虞がある。
【0039】
よって、細仕上げ(平滑仕上げ)用のメディアであって、最大寸法が10mm以上20mm以下の範囲内の同一形状の樹脂製メディア4を用いてバレル研磨することにより、筆記具用外装部材2の大きさに適した適度な大きさの鱗形状を有する、あたかも金属の結晶模様のような疑似結晶模様を母材2Aの表面に形成することができる。
【0040】
以上のように、上記の実施形態に係る筆記具用外装部材2の製造方法は、
アルミニウム合金からなる筆記具外装部材2の母材2Aを形成する母材形成工程と、
研磨メディアとして樹脂製メディア4を用いて母材2Aにバレル研磨を行って、表面に疑似結晶模様を形成するバレル研磨工程と、
を含む。
【0041】
これにより、高級感があり美観に優れた疑似結晶模様を有する筆記具外装部材2を形成することができる。よって、高級感を有する筆記具用外装部材2を低コストで製造することができる。
【0042】
特に、母材2Aを形成するアルミニウム合金が、Al-Mg系合金またはAL-Mg-Si系合金である場合には、確実にバレル研磨で疑似結晶模様を形成することができる。
【0043】
最大寸法が10mm以上20mm以下の範囲内の同一形状の樹脂製メディア4を用いてバレル研磨工程を行うことが好ましい。同一形状の樹脂製メディア4を用いることにより、不規則に変化しながらも、ある程度の規則性を感じさせるような模様を形成することができ、これにより、筆記具用外装部材2の大きさに適した疑似結晶模様を有する筆記具外装部材2を形成することができる。
【0044】
また、上記のように、遠心バレル研磨装置10によりバレル研磨が行われる場合には、確実に、疑似結晶模様を有する筆記具用外装部材2を形成することができる。
【0045】
<アルマイト処理工程>
上記のように、バレル研磨工程により、疑似結晶模様を有する筆記具用外装部材2を形成した後、疑似結晶模様が形成された表面にアルマイト処理を行うアルマイト処理工程を更に行うこともできる。アルマイト処理は、筆記具用外装部材2を硫酸やシュウ酸等の電解液に浸した状態で通電することにより、筆記具用外装部材2の表面に酸化皮膜を形成する処理である。このようにして形成された酸化皮膜の微細孔に染料を吸着させることにより、様々な色に着色を施すこともできる。
【0046】
図8は、図4に示す筆記具外装部材の表面にアルマイト処理を行った後の表面を示す顕微鏡写真である。図8では、アルマイト処理により青色に着色された場合を示す。ただし、染料の色により、疑似結晶模様を有する表面をその他の任意の色で着色することができる。このように、疑似結晶模様が形成された表面に着色を伴うアルマイト処理を行うアルマイト処理工程により、バレル研磨で形成された疑似結晶模様を、更に明確に際立たせることができる。
【0047】
(本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材)
以上のようにして製造された本発明の1つの実施形態に係る筆記具外装部材は、アルミ合金から形成され、表面にアルミ合金よりも低強度の弾性部材との衝突で生じた欠落や塑性変形による疑似結晶模様を有する。これにより、高級感を有する筆記具用外装部材2を低コストで提供することができる。
【0048】
特に、上記のアルマイト処理工程により、疑似結晶模様を有する表面に着色を伴う酸化皮膜を形成された筆記具用外装部材2が得られる。これにより、疑似結晶模様が更に際立った美観に優れた筆記具用外装部材2を提供することができる。
【0049】
このように形成された筆記具用外装部材2を、筆記具の軸筒、キャップまたはクリップとして用いることができる。図9Aは、本発明に係る筆記具外装部材を万年筆に適用した場合の例を示す平面図である。図9Bは、図9Aに示す万年筆の側面図である。図10Bは、本発明に係る筆記具外装部材をボールペンに適用した場合の例を示す平面図である。図10Bは、図10Aに示すボールペンの側面図である。
【0050】
図9A、9Bに示すように、筆記具用外装部材2を、万年筆の軸筒Aとして用いることもできるし、キャップBとして用いることもできるし、クリップCとして用いることもできる。同様に、図10A、10Bに示すように、筆記具用外装部材2を、ボールペンの軸筒Aとして用いることもできるし、クリップCとして用いることもできる。また、ボールペンがキャップを有する場合には、筆記具用外装部材2をキャップとして用いることができる。クリップCが、ペン芯を軸筒から出没させる操作を行うための部材として機能する場合にも、そのクリップCとして、本実施形態に係る筆記具用外装部材2を用いることができる。更に、筆記具用外装部材2を、シャープペンシルの軸筒、キャップまたはクリップとして用いることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る筆記具用外装部材2が、筆記具の軸筒A、キャップBまたはクリップCである場合には、筆記具に効果的に高級感を付与することができる。
【0052】
本発明の実施の形態を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0053】
2 筆記具用外装部材
2A 母材
4 樹脂製メディア
10 遠心バレル研磨機
12 ターレット
14 バレル槽
A 軸筒
B キャップ
C クリップ
G、g 回転中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B