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  • 特開-クラッド材のエッチング方法 図1
  • 特開-クラッド材のエッチング方法 図2
  • 特開-クラッド材のエッチング方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072879
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】クラッド材のエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/44 20060101AFI20230518BHJP
   C23F 1/18 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C23F1/44
C23F1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185578
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】閑田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】有原 浩之
【テーマコード(参考)】
4K057
【Fターム(参考)】
4K057WA02
4K057WB02
4K057WB04
4K057WB15
4K057WC08
4K057WE08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】クラッド材を簡便にエッチング可能なエッチング方法を提供する。
【解決手段】銅の金属層2及びステンレスの金属層3から成るクラッド材1の両面にレジスト層4を形成する工程と、レジスト層4をマスクとして、第1のエッチング液を用いて銅の金属層2及びステンレスの金属層3をそれぞれエッチングする1次エッチング工程と、レジスト層4をマスクとして、第1のエッチング液より低濃度の第2のエッチング液を用いて銅の金属層2を選択的にエッチングする2次エッチング工程と、を含むクラッド材のエッチング方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属層を積層して成るクラッド材のエッチング方法であって、
前記クラッド材にレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層をマスクとして、所定濃度の塩化第二鉄液である第1のエッチング液を用いて前記複数の金属層をそれぞれエッチングする1次エッチング工程と、
前記レジスト層をマスクとして、前記第1のエッチング液より低濃度の塩化第二鉄液である第2のエッチング液を用いて前記複数の金属層のうちエッチングファクターの高い金属層を選択的にエッチングする2次エッチング工程と、
を含むことを特徴とするクラッド材のエッチング方法。
【請求項2】
前記クラッド材は、銅の金属層とステンレスの金属層とを接合したものであることを特徴とする請求項1記載のクラッド材のエッチング方法。
【請求項3】
前記1次エッチング工程では、前記ステンレスの金属層上に前記銅の金属層が残存した状態でエッチングを終え、
前記2次エッチング工程では、前記残存した銅の金属層をエッチングして前記ステンレスの金属層を露出させることを特徴とする請求項2記載のクラッド材のエッチング方法。
【請求項4】
前記レジスト層にマスクを形成する回数は、前記第1のエッチング液を用いて前記クラッド材をエッチングする回数及び第2のエッチング液を用いて前記クラッド材をエッチングする回数の和よりも少ないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のクラッド材のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる金属層を積層して成るクラッド材のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単一材料では得られない複合特性を有する複合金属材料として、異なる金属層を接合して成るクラッド材が知られている。
【0003】
このようなクラッド材をエッチングする方法として、一方の金属層の表面にエッチング液をスプレーして他方の金属層が露出するまでエッチングした後に、緩和したエッチング条件に設定したエッチング液により他方の金属層をエッチングするものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-23059号公報
【特許文献2】特開2007-27618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような異なる2つのエッチング条件で実施するエッチング方法は、エッチングの対象となる金属層毎にエッチング条件を細かく設定する必要があり、加工や管理が煩雑になりがちであるという問題があった。
【0006】
そこで、クラッド材を簡便にエッチング可能なエッチング方法を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るクラッド材のエッチング方法は、複数の金属層を積層して成るクラッド材のエッチング方法であって、前記クラッド材にレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層をマスクとして、所定濃度の塩化第二鉄液である第1のエッチング液を用いて前記複数の金属層をそれぞれエッチングする1次エッチング工程と、前記レジスト層をマスクとして、前記第1のエッチング液より低濃度の塩化第二鉄液である第2のエッチング液を用いて前記複数の金属層のうちエッチングファクターの高い金属層を選択的にエッチングする2次エッチング工程と、を含む。
【0008】
この構成によれば、第1のエッチング液で複数の金属層をそれぞれエッチングした後に、第2のエッチング液でエッチングファクターの高い金属層のみを選択的にエッチングすることにより、複合金属材料のクラッド材を単一金属と同様に加工や管理することができる。
【0009】
また、本発明に係るクラッド材のエッチング方法は、前記クラッド材が、銅の金属層とステンレスの金属層とを接合して構成されたものであることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、第1のエッチング液で銅の金属層及びステンレスの金属層をエッチングした後に、第2のエッチング液でエッチングファクターの高い銅の金属層のみを選択的にエッチングすることができる。
【0011】
また、本発明に係るクラッド材のエッチング方法は、前記1次エッチング工程では、前記ステンレスの金属層上に前記銅の金属層が残存した状態でエッチングを終え、前記2次エッチング工程では、前記残存した銅の金属層をエッチングして前記ステンレスの金属層を露出させることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、2次エッチング工程において、残存した銅の金属層を除去してステンレスの金属層を露出させることにより、銅の金属層が除去されるとともに露出したステンレスの金属層が腐食してダメージを負うことを抑制できる。
【0013】
また、本発明に係るクラッド材のエッチング方法は、前記レジスト層にマスクを形成する回数が、前記第1のエッチング液を用いて前記クラッド材をエッチングする回数及び第2のエッチング液を用いて前記クラッド材をエッチングする回数の和よりも少ないことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、異なる濃度の第1のエッチング液又は第2のエッチング液を使用する度にパターンマスクを形成する必要がなく、工程数を削減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、第1のエッチング液で複数の金属層をエッチングした後に、第2のエッチング液でエッチングファクターの高い金属層のみを選択的にエッチングすることにより、複合金属材料のクラッド材を単一金属と同様に加工や管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るエッチング方法の手順を示す模式図。
図2】塩化第二鉄液のET濃度と銅及びステンレスのエッチング深さとの関係を示すグラフ。
図3】塩化第二鉄液のET濃度と比重又はORPとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0018】
また、本実施形態を構成する各ステップは、特に明示した場合及び原理的に明らかな場合を除き、先後順序は以下の順序に限定されるものではなく、また、複数のステップが並列に実行されても構わない。
【0019】
本発明に係るエッチング方法のエッチング対象となるクラッド材は、基板材の片面又は両面にろう材を被覆して圧延接合させた複合材料である。クラッド材の主な用途は、ヒータ、応力差を利用したばね、反射型エンコーダー等である。
【0020】
基板材には、例えば、銅、42アロイ又は真鍮等を採用することが考えられる。ろう材には、例えば、ステンレス等を採用することが考えられる。基板材及びろう材の組み合わせは、基板材がろう材よりもエッチングファクターが高ければ良い。銅及びステンレスを複合化したクラッド材では、銅がステンレスより高いエッチングファクターを示す。
【0021】
図1は、クラッド材1をエッチングする手順を示す模式図である。以下では、銅及びステンレスを複合化したクラッド材1を例に説明するが、クラッド材1の構成はこれに限定されるものではない。
【0022】
[クラッド材の用意]
まず、クラッド材1を用意する。クラッド材1は、銅の金属層2の片面にステンレスの金属層3を積層して接合されたものである。各金属層の層厚は、適宜調整可能である。
【0023】
[レジスト層の形成]
次に、図1(a)に示すように、クラッド材1の両面に所定パターンのレジスト層4を形成する。レジスト層4は、公知の方法により形成され、例えば、クラッド材1の両面にネガ型又はポジ型のフォトレジストを塗布し、パターンマスクを介してフォトレジストのパターン部を露光し、パターン部以外のフォトレジストを現像液にて除去し、ベーキングしてフォトレジストをクラッド材1に密着させることにより、所定のパターン部5が形成されたレジスト層4が形成される。
【0024】
[エッチング液の用意]
塩化第二鉄液を希釈して、2種類の異なる濃度の塩化第二鉄液(エッチング液)を用意する。
【0025】
具体的には、まず、後述する1次エッチング及び2次エッチングでそれぞれ用いるエッチング液の比重及びORP(酸化還元電位)を予め測定する。
【0026】
比重及びORPの測定は、公知の測定器を用いて行う。比重計としては、例えば、京都電子工業株式会社製のD-130Lを用いる。ORP計としては、例えば、株式会社堀場製作所製のD-54を用いる。
【0027】
図2は、横軸にET濃度、縦軸に銅又はステンレスのエッチング深さを設定したグラフである。なお、「ET濃度」とは、希釈エッチング液に占める塩化第二鉄液の体積割合を意味する。
【0028】
図2によれば、ステンレスは、ET濃度が60%以上であればエッチング可能であるのに対して、銅は、ET濃度に応じてエッチング深さが増減するものの広範囲のET濃度でエッチング可能である。したがって、ET濃度が60%より大きく設定されたエッチング液は、銅及びステンレスの両方をエッチング可能であるのに対して、ET濃度60%以下のエッチング液は、銅のみを選択的にエッチング可能であることが分かる。なお、図2で例示した銅のET濃度の境界値(60%)は、エッチング条件(エッチング液の液温、スプレー圧等)等に応じて変動し得る。
【0029】
以下、1次エッチングで用いるエッチング液(以下、「第1のエッチング液」という)のET濃度を80%に設定し、2次エッチングで用いるエッチング液(以下、「第2のエッチング液」という)のET濃度を20%に設定した場合を例に説明するが、各種エッチング液の濃度は、これに限定されるものではない。
【0030】
第1のエッチング液は、比重が1.4、ORPが714mv、ボーメ度が約41度である。第2のエッチング液は、比重が1.1、ORPが712mv、ボーメ度が約13度である。
【0031】
次に、塩化第二鉄液を純水で希釈しながら、塩化第二鉄液の比重及びORPを測定する。
【0032】
図3は、横軸にET濃度、左縦軸に比重、右縦軸にORPを設定したグラフである。図3に示すように、塩化第二鉄液の比重は、希釈されるにしたがって減少する傾向にあり、塩化第二鉄液のORPは、ET濃度がほぼ40%に達するまでは希釈されるにしたがって減少し、ET濃度がほぼ40%を下回ると希釈されるにしたがって増大する傾向にある。
【0033】
そして、塩化第二鉄液の比重及びORPが予め記憶した第1のエッチング液及び第2のエッチング液の比重及びORPに達すると、塩化第二鉄液が所定濃度まで希釈されたとみなして希釈を終了する。これにより、第1のエッチング液及び第2のエッチング液を得ることができる。このように、異なる濃度のエッチング液を、比重及びORPを測定しながら塩化第二鉄液を希釈するだけで簡便に得られる。
【0034】
[1次エッチング]
次に、クラッド材1に1次エッチングを施す。具体的には、図1(b)に示すように、第1のエッチング液(ボーメ度:約41度)を用いて、クラッド材1の両面からレジスト層4で保護されていない部分(パターン部5)を腐食させて溶解除去する。
【0035】
1次エッチングでは、クラッド材1の厚み方向に貫通しない部分は、銅の金属層2を僅かに残す程度で終了させるのが好ましい。これにより、ステンレスの金属層3が過度に腐食することを抑制できる。
【0036】
[2次エッチング]
次に、1次エッチングより緩和されたエッチング条件によってクラッド材1に2次エッチングを施す。第1のエッチング液より低濃度の第2のエッチング液(ボーメ度:約13度)を用いることにより、クラッド材1のうちエッチングファクターが高い銅の金属層2が相対的に大きくエッチングされ、ステンレスの金属層3には、パターン寸法や厚みに有意な変化は生じない。
【0037】
特に、図1(c)に示すように、1次エッチングにおいて銅の金属層2が僅かに残った部分を2次エッチングで溶解除去することにより、銅の金属層2が除去されるとともに露出したステンレスの金属層3が腐食してダメージを負うことを抑制できる。
【0038】
[レジスト層の除去]
その後、公知の方法によってレジスト層4を除去した上で、クラッド材1を洗浄、乾燥することによってクラッド材1の加工が終了する。
【0039】
このようにして、本実施形態に係るクラッド材1のエッチング方法は、エッチング液として2種類の異なる濃度の塩化第二鉄液を用いることにより、複合金属材料のクラッド材1を単一金属と同様に加工や管理することができる。また、2種類の異なる濃度の塩化第二鉄液は、比重やORPを測定しながら塩化第二鉄液を純水で希釈するだけで簡便に得ることができる。また、異なる濃度のエッチング液を使用する度にパターンマスクを形成する必要がなく、工程数を削減することができる。
【0040】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0041】
1 ・・・ クラッド材
2 ・・・ 銅の金属層
3 ・・・ ステンレスの金属層
4 ・・・ レジスト層
図1
図2
図3