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2023-72914ライトフィールド光学系およびライトフィールド画像処理システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072914
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】ライトフィールド光学系およびライトフィールド画像処理システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20230518BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20230518BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20230518BHJP
   H04N 23/55 20230101ALI20230518BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20230518BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B3/00 A
G03B15/00 B
H04N5/225 410
H04N5/232 290
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185638
(22)【出願日】2021-11-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和2年度AMED革新的先端研究開発支援事業・ソロタイプ「全ライフコースを対象とした個体の機能低下機構の解明」研究開発領域、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】執行 航希
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 深
【テーマコード(参考)】
2H052
5C122
【Fターム(参考)】
2H052AB01
2H052AB04
2H052AF14
2H052AF25
5C122EA29
5C122EA55
5C122FB02
5C122FB05
5C122FH18
5C122HA88
5C122HB05
5C122HB06
5C122HB10
(57)【要約】
【課題】複雑な復元処理を必要とすることなく、また、対物レンズの最大開口数を活かしながら、深い被写界深度で物体像を高分解能で得る。
【解決手段】物体側から像側に向かう方向を正として、結像レンズの像側焦点面からマイクロレンズの中心までの距離をaとし、マイクロレンズの中心からイメージセンサまでの距離をbとし、マイクロレンズの像側焦点距離をfMLAとしたとき、ライトフィールド光学系は、a=0の場合、b<fMLAを満足し、a<0の場合、(1/a+1/b)<1/fMLAを満足する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインレンズと、
複数のマイクロレンズを二次元的に配置したマイクロレンズアレイと、
前記メインレンズおよび前記マイクロレンズアレイを介して物体の像を取得するイメージセンサと、を備え、
前記メインレンズは、物体側から像側に向かって順に配置される対物レンズおよび結像レンズを含み、
前記物体側から前記像側に向かう方向を正として、
前記結像レンズの像側焦点面から前記マイクロレンズの中心までの距離をa(mm)とし、
前記マイクロレンズの中心から前記イメージセンサまでの距離をb(mm)とし、
前記マイクロレンズの像側焦点距離をfMLA(mm)としたとき、
a=0の場合、
b<fMLA
を満足し、
a<0の場合、
(1/a+1/b)<1/fMLA
を満足する、ライトフィールド光学系。
【請求項2】
a=0の場合、
0.533≦b/fMLA≦0.933
を満足する、請求項1に記載のライトフィールド光学系。
【請求項3】
a=0の場合、
0.6≦b/fMLA≦0.867
を満足する、請求項1または2に記載のライトフィールド光学系。
【請求項4】
a=0の場合、
0.667≦b/fMLA≦0.733
を満足する、請求項1から3のいずれかに記載のライトフィールド光学系。
【請求項5】
a<0の場合、
-3.33≦a/fMLA<0
を満足する、請求項1に記載のライトフィールド光学系。
【請求項6】
a<0の場合、
-2.67≦a/fMLA<0
を満足する、請求項1または5に記載のライトフィールド光学系。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のライトフィールド光学系と、
前記ライトフィールド光学系によって取得された物体の像から三次元像を再構成する画像処理部と、を備え、
前記マイクロレンズアレイの個々の前記マイクロレンズに対応して前記イメージセンサ上に形成される像をマイクロレンズ像としたとき、
前記画像処理部は、前記対物レンズの物体側焦点面からの、前記物体の観察中心のずれ量と、前記マイクロレンズアレイにおける前記マイクロレンズのピッチと、予め設定された前記対物レンズの倍率と、前記距離aと、前記距離bとに基づいて、前記物体の同一位置から射出されて前記メインレンズを介して前記イメージセンサに到達する複数の光線の、前記イメージセンサ上での間隔を求め、前記間隔に基づいて、隣り合う前記マイクロレンズ像に含まれる要素画像同士を重ね合わせる、ライトフィールド画像処理システム。
【請求項8】
前記マイクロレンズのピッチをMLP(mm)とし、
前記間隔をΔ(mm)とし、
前記対物レンズの物体側焦点面からの、前記物体の観察中心のずれ量をdOBJ(mm)とし、
前記対物レンズの倍率をMとしたとき、
前記画像処理部は、以下の式(A)に基づいて、前記間隔Δを求める、請求項7に記載のライトフィールド画像処理システム;
Δ=MLP*{1-(b/(dOBJ*M2-a)} ・・・(A)
である。
【請求項9】
前記マイクロレンズ像に含まれる前記要素画像の一辺の大きさをEILとしたとき、
前記画像処理部は、以下の式(B)に基づいて、距離ΔEIを求め、隣り合う一方の要素画像に対して他方の要素画像を前記距離ΔEIだけずらすことにより、前記要素画像同士を重ね合わせる、請求項8に記載のライトフィールド画像処理システム;
ΔEI=Δ-(MLP-EIL) ・・・(B)
である。
【請求項10】
前記画像処理部は、隣り合う前記要素画像同士の重ね合わせを、前記ずれ量の異なる値ごとに行う、請求項7から9のいずれかに記載のライトフィールド画像処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライトフィールド光学系と、そのライトフィールド光学系を備えたライトフィールド画像処理システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
ライトフィールド光学系を用いた物体の観察システムは、シングルショットで、すなわち1回の撮影で、物体の三次元像を取得することができる点で非常に有用である。上記ライトフィールド光学系は、例えば非特許文献1~4に代表されるように、従来種々提案されている。
【0003】
非特許文献1~3のライトフィールド光学系は、物体からの光を、メインレンズおよびマイクロレンズアレイを介してイメージセンサに導く点で共通している。ただし、メインレンズ、マイクロレンズアレイ、イメージセンサの配置位置に関する条件は互いに異なる。非特許文献4のライトフィールド光学系は、メインレンズとマイクロレンズアレイとの間にリレーレンズを配置し、マイクロレンズアレイの各マイクロレンズを、イメージセンサ上に物体の像を結像するための結像レンズとして用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Light Field Microscopy”, Marc Levoy et al., ACM Transactions on Graphics 25(3), Proc. SIGGRAPH 2006
【非特許文献2】“The Focused Plenoptic Camera”, Andrew Lumsdaine et al., 2009 IEEE International Conference on Computational Photography (ICCP)
【非特許文献3】“Reducing Plenoptic Camera Artifacts”, Haoyu Li et al., 2019 BIOMEDICAL OPTICS EXPRESS 29
【非特許文献4】“Resolution improvements in integral microscopy with Fourier plane recording”, A. Llavador et al., 2016 OPTICS EXPRESS 20792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ライトフィールド光学系を用いた観察システムでは、イメージセンサで取得される物体像、つまり、イメージセンサで取得される各マイクロレンズ像内に形成される物体像を用いることにより、物体の三次元再構成像(以下、「三次元像」とも記載)を取得することができる。このとき、メインレンズに含まれる対物レンズの光軸方向において、物体の観察中心の位置によっては、イメージセンサで取得される、各マイクロレンズによって形成される物体像がぼやける場合がある。物体の三次元像を高分解能で(高解像度で)取得するためには、上記物体像のぼやけを低減して、上記物体像を高分解能で取得することが必要である。そのためには、デコンボリューション(ぼやけを解消した物体像を復元する処理)が必要となる。
【0006】
この点、非特許文献1~3のライトフィールド光学系では、物体像を高分解能で取得できる物体の被写界深度が浅い(この点の詳細な理由については後述する)。このため、物体の観察中心が、対物レンズの物体側焦点面(NOP:Native Object Plane)からずれた位置にあるときに、基本的に上記のデコンボリューションが必要となる。しかし、通常、デコンボリューションの計算負荷は高く、三次元像の取得には時間を要するため、三次元像の即時性のあるリアルタイムな確認が困難である。したがって、簡易な(低負荷な)方法で、物体像を高分解能で取得できるようにすることが望ましい。
【0007】
また、非特許文献4のライトフィールド光学系では、対物レンズを部分的に通過する光のみが、リレーレンズを介してマイクロレンズアレイのいずれかのマイクロレンズに入射することなり、対物レンズのNA(開口数)を最大限に活かしきれていない(この点の詳細についても後述する)。このため、マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズの数をn個とすると、1つのマイクロレンズによる回折限界の分解能は、対物レンズのNAの1/nとなってしまう。
【0008】
ここで、画像信号を空間的にサンプリング(標本化)する際に、サンプリング周波数の1/2よりも高い周波数の信号をサンプリングすると、サンプリングした際に折り返し歪みが発生してしまい、再生時に元の信号が忠実に再現されない。このように折り返し歪みが発生する限界のことを、ここでは「ナイキストリミット」と呼ぶ。そして、分解能がナイキストリミットによって決まることを、「ナイキストリミット支配」と呼ぶ。これに対して、分解能が対物レンズのNAによって決まることを、「NA支配」と呼ぶ。非特許文献4のライトフィールド光学系では、1つのマイクロレンズによる回折限界の分解能が対物レンズのNAの1/nとなることから、結果的に、ナイキストリミット支配であった分解能がNA支配の分解能となり、分解能の低下を余儀なくされる。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、複雑な復元処理を必要とすることなく、また、対物レンズの最大開口数を活かしながら、深い被写界深度で物体像を高分解能で得ることができるライトフィールド光学系と、そのライトフィールド光学系を備えたライトフィールド画像処理システムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係るライトフィールド光学系は、メインレンズと、複数のマイクロレンズを二次元的に配置したマイクロレンズアレイと、前記メインレンズおよび前記マイクロレンズアレイを介して物体の像を取得するイメージセンサと、を備え、前記メインレンズは、物体側から像側に向かって順に配置される対物レンズおよび結像レンズを含み、前記物体側から前記像側に向かう方向を正として、前記結像レンズの像側焦点面から前記マイクロレンズの中心までの距離をa(mm)とし、前記マイクロレンズの中心から前記イメージセンサまでの距離をb(mm)とし、前記マイクロレンズの像側焦点距離をfMLA(mm)としたとき、
a=0の場合、
b<fMLA
を満足し、
a<0の場合、
(1/a+1/b)<1/fMLA
を満足する。
【0011】
本発明の他の側面に係るライトフィールド画像処理システムは、上記のライトフィールド光学系と、前記ライトフィールド光学系によって取得された物体の像から三次元像を再構成する画像処理部と、を備え、前記マイクロレンズアレイの個々の前記マイクロレンズを介して前記イメージセンサで取得される前記物体の像をマイクロレンズ像としたとき、前記画像処理部は、前記対物レンズの物体側焦点面からの、前記物体の観察中心のずれ量と、前記マイクロレンズアレイにおける前記マイクロレンズのピッチと、予め設定された前記対物レンズの倍率と、前記距離aと、前記距離bとに基づいて、前記物体の同一位置から射出されて前記メインレンズを介して前記イメージセンサに到達する複数の光線の、前記イメージセンサ上での間隔を求め、前記間隔に基づいて、隣り合う前記マイクロレンズ像に含まれる要素画像同士を重ね合わせる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な復元処理を必要とすることなく、また、対物レンズの最大開口数を活かしながら、深い被写界深度で物体像を高分解能で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の一形態に係るライトフィールド光学系の概略の構成を示す説明図である。
図2】非特許文献1に記載のライトフィールド光学系の概略の構成を示す説明図である。
図3】非特許文献2に記載のライトフィールド光学系の概略の構成を示す説明図である。
図4】非特許文献3に記載のライトフィールド光学系の概略の構成を示す説明図である。
図5】非特許文献4に記載のライトフィールド光学系の概略の構成を示す説明図である。
図6】三次元座標系において、各光学系が満足する条件を表す領域を模式的に示す説明図である。
図7】二次元座標系において、上記領域を模式的に示す説明図である。
図8】b=1.4mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図9】b=1.3mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図10】b=1.2mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図11】b=1.1mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図12】b=1.0mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図13】b=0.9mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図14】b=0.8mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図15】a=-5mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図16】a=-4mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図17】a=-2mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図18】a=-1mmのときに得られるカメラの撮影画像を示す説明図である。
図19】本発明の実施の一形態に係るライトフィールド光学系を備えたライトフィールド画像処理システムの構成を示すブロック図である。
図20】上記システムで用いられるレンダリング処理の流れを示すフローチャートである。
図21】イメージセンサで取得された画像を少なくとも示す説明図である。
図22】上記システムの光学系における各パラメータの幾何学的関係を模式的に示す説明図である。
図23】隣り合う3つのマイクロレンズ像と、各マイクロレンズ像に含まれる要素画像とを模式的に示す説明図である。
図24】PQアレイと呼ばれる行列の一例を示す説明図である。
図25図23の3つの要素画像を足し合わせた合成画像を示す説明図である。
図26】イメージセンサで取得される各マイクロレンズ像と、従来のレンダリング技術によって得られるリフォーカス像とを模式的に示す説明図である。
図27】上記各マイクロレンズ像と、上記システムでのレンダリング技術によって得られるリフォーカス像とを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔1.ライトフィールド光学系の構成および光学配置について〕
図1は、本発明の実施形態に係るライトフィールド光学系10(以下、単に「光学系10」とも称する)の概略の構成を示す説明図である。光学系10は、メインレンズ1と、マイクロレンズアレイ2と、イメージセンサ3と、を備える。
【0015】
メインレンズ1は、対物レンズ11および結像レンズ12を含む。対物レンズ11および結像レンズ12は、物体側から像側に向かってこの順で配置される。マイクロレンズアレイ2は、複数のマイクロレンズ2aを二次元的に配置して構成される。イメージセンサ3は、メインレンズ1およびマイクロレンズアレイ2を介して物体の像(物体像)を取得するセンサである。
【0016】
ここで、物体側から像側に向かう方向を正としたとき、各パラメータを以下のように定義する。
a:結像レンズ12の像側焦点面からマイクロレンズ2aの中心までの距離(mm)
b:マイクロレンズ2aの中心からイメージセンサ3までの距離(mm)
MLA:マイクロレンズ2aの像側焦点距離であって、マイクロレンズ2aの中心からマイクロレンズアレイ2の像側焦点面までの距離(mm)
OBJ:対物レンズ11の物体側焦点面からの、物体(試料)の観察中心Oのずれ量(mm)
M:対物レンズ11の倍率
OL:対物レンズ11の物体側焦点距離(mm)
TL:結像レンズ12の像側焦点距離(mm)
なお、結像レンズ12の像側焦点面のことを、T-NIP(Native Image Plane)とも称する。マイクロレンズアレイ2の像側焦点面のことを、M-NIPとも称する。対物レンズ11の物体側焦点面のことを、NOP(Native Object Plane)とも称する。
【0017】
本実施形態の光学系10は、以下の条件を満足する。すなわち、
a=0の場合、
b<fMLA
を満足し、
a<0の場合、
(1/a+1/b)<1/fMLA
を満足する。以下では、上記の条件をまとめて、条件(1)とも呼ぶ。
【0018】
条件(1)を満足することにより、デコンボリューションなどの複雑な復元処理を必要とすることなく、また、対物レンズ11の最大開口数を活かしながら、深い被写界深度で物体像を高分解能で得ることができる。なお、その効果が得られる理由の詳細については後述する。
【0019】
以下、本実施形態の光学系10の光学配置による効果について説明する前に、ライトフィールド光学系を考える上で重要となる要素について説明し、さらに、本実施形態の光学系10との比較のために、非特許文献1~4のライトフィールド光学系の詳細について説明する。
【0020】
〔2.ライトフィールド光学系を考える上で重要となる要素〕
ライトフィールド光学系を考える上で重要となる要素は、2つ存在する。1つ目の要素は、物体の観察中心Oがどのような位置にあるときに、観察中心Oからの光がマイクロレンズアレイ2を介してイメージセンサ3に到達して、イメージセンサ3で結像するのかという点である。2つ目の要素は、マイクロレンズ内像の倍率は、物体の観察中心Oの位置に対してどのように変化するのかという点である。
【0021】
なお、「マイクロレンズ内像」とは、イメージセンサ3で取得される一つ一つのマイクロレンズ像の中に形成される物体の像を指す。また、「マイクロレンズ像」とは、1つのマイクロレンズ2aに対応してイメージセンサ3上に形成される像を指す。すなわち、「マイクロレンズ像」とは、物体から射出された光が1つのマイクロレンズ2aに対して様々な角度で入射してそこを通過し、イメージセンサ3に到達することにより、イメージセンサ3上に形成される像を指す。以下では、「マイクロレンズ内像」のことを、「マイクロレンズ像」と区別する意味で、「ML内像」とも記載する。上記した2つの要素は両方とも、ライトフィールド光学系の分解能に大きな影響を及ぼす。
【0022】
1つ目の要素についてさらに説明すると、通常の顕微鏡でも言えるように、基本的にイメージセンサ上に結像していない像はぼやけているため、それによって分解能は低下してしまう。このため、ライトフィールド光学系を用いた顕微鏡においても、マイクロレンズアレイを通過した光によってイメージセンサ上に形成される像を用いて、物体の三次元像の再構成を行う原理上、マイクロレンズ像(またはML内像)が強い非結像状態であれば、再構成された像も非結像状態となってしまい、分解能が低下する。したがって、どのような結像状態を利用しているかを理解することは、分解能がなぜ低下するのかを理解するためにも重要である。
【0023】
2つ目の要素についてさらに説明すると、ML内像の最終倍率も、物体の三次元像の分解能に直接影響を与える。以下の数1式で示すように、ML内像の最終倍率Mfinalは、対物レンズ11の倍率Mと、ML内像の倍率MMLAとの積で表される。対物レンズ11の倍率Mは一定であるが、ML内像の倍率MMLAは、物体の観察中心Oの位置に応じて変化する。つまり、物体の観察中心Oの位置がNOPからずれることにより、結果的に、T-NIPの位置がdOBJ*M2だけずれるため、ML内像の倍率MMLAが変化する。なお、「*」の記号は積を表す。
【0024】
【数1】
【0025】
メインレンズ1の物界中でのイメージセンサ3の大きさが回折限界を超える場合、ML内像の画素サイズの標本化定理により分解能が支配(規定)される。ML内像の最終倍率Mfinalが小さくなると、イメージセンサ3の物界中でのセンサーサイズの粗大化に起因して、高周波情報が取り扱えなくなってしまい、標本化定理によって規定される分解能が低下する。このため、ML内像の最終倍率Mfinalの低下を極力抑えた光学系を実現することが望ましく、そのためには、ML内像の倍率MMLAの低下を極力抑えた光学系を実現することが望ましい。
【0026】
〔3.非特許文献のライトフィールド光学系の詳細〕
次に、非特許文献1~4のライトフィールド光学系の詳細について説明する。併せて、各ライトフィールド光学系において、上記した重要な2つの要素(結像状態、ML内像の倍率変化)についても言及する。なお、説明の便宜上、本実施形態のライトフィールド光学系10と同一の機能を有する部材には、同一の部材番号を付記する。
【0027】
(3-1.非特許文献1のライトフィールド光学系)
図2は、非特許文献1のライトフィールド光学系10a(以下、単に「光学系10a」とも称する)の概略の構成を示す説明図である。光学系10aは、メインレンズ1と、マイクロレンズアレイ2と、イメージセンサ3と、を備え、メインレンズ1が物体側から像側に向かって配置される対物レンズ11および結像レンズ12を含む点で、本実施形態の光学系10と共通する。ただし、光学系10aは、以下の条件(1a)を満足する点で、上記した条件(1)を満足する本実施形態の光学系10とは異なる。すなわち、
a=0、b=fMLA、 ・・・(1a)
である。
【0028】
《結像状態について》
条件(1a)を満足する光学配置では、物体の観察中心Oとみなせる点光源が対物レンズ11に無限に近づくときに(点光源と対物レンズ瞳との距離がゼロであるときに)、イメージセンサ3に結像する状態となる。言い換えれば、点光源からの光が、対物レンズ11を含むメインレンズ1と、マイクロレンズアレイ2とを通過してイメージセンサ3に到達するとき、上記光が対物レンズ11のどの位置を通過しても、イメージセンサ3で結像しない。その結果、イメージセンサ3で取得される一つ一つのマイクロレンズ像の中に、ぼやけた物体像(ML内像)が形成される。このため、物体の三次元像を高分解能で取得するためには、デコンボリューション(ぼやけを解消した物体像を復元する処理)が必須となる。しかし、この方法では計算負荷が高いため、三次元像の取得までに数分以上要し、撮影から三次元像の確認までの即時性が損なわれる。ひいては、例えば生物試料観察では、得られた三次元像をもとに即座に細胞機能の操作や新たな観察を実施する前に細胞が移動してしまうなどの問題に繋がり、スループットの高い即時的な実験が難しいという課題がある。
【0029】
《ML内像の倍率変化について》
光学系10aでは、a=0であるため、後述する非特許文献2および3のライトフィールド光学系(a<0)と比べると、ML内像の最終倍率Mfinalの低下を抑えることができるような、NOPからの観察中心Oのずれの許容範囲が、対物レンズ11の光軸方向(以下、便宜的に「Z方向」とも呼ぶ)において比較的長距離に渡って確保される。これは、数1式より、a=0の場合、ML内像の倍率MMLAを規定するb/(dOBJ*M2-a)の分母の値が、a<0の場合よりも小さくなり、ML内像の倍率MMLAの低下が抑えられるためである。
【0030】
(3-2.非特許文献2のライトフィールド光学系)
図3は、非特許文献2のライトフィールド光学系10b(以下、単に「光学系10b」とも称する)の概略の構成を示す説明図である。光学系10bは、メインレンズ1と、マイクロレンズアレイ2と、イメージセンサ3と、を備え、メインレンズ1が物体側から像側に向かって配置される対物レンズ11および結像レンズ12を含む点で、本実施形態の光学系10と共通する。ただし、光学系10bは、以下の条件(1b)を満足する点で、上記した条件(1)を満足する本実施形態の光学系10とは異なる。すなわち、
a≠0(a<0)、かつ、1/a+1/b=1/fMLA ・・・(1b)
である。なお、基本的にa<0であるため、1/a+1/b=1/fMLA(レンズの公式)を満足するためには、b<fMLAであることが必要となる。
【0031】
光学系10bでは、物体の観察中心OがNOPに存在し、そこから光が射出された際に、事前にレンズの公式が成り立つ距離aだけ、マイクロレンズアレイ2をT-NIPの位置から物体側に遠ざけるように配置している。そして、レンズの公式(1/a+1/b=1/fMLA)から決定される距離bだけ、マイクロレンズ2aの中心から像側に離れた位置に、イメージセンサ3を配置している。
【0032】
《結像状態について》
光学系10bのような光学配置では、図3のように、物体の観察中心OがNOPに位置する場合に、イメージセンサ3上で最も高コントラスな像が得られることとなる。しかし、物体の観察中心Oが対物レンズ11に近づくような場合、イメージセンサ3よりも後ろに、つまり、イメージセンサ3に対して対物レンズ11とは反対側に、結像面が生成されてしまう。この場合、イメージセンサ3よりも前に、つまり、イメージセンサ3に対して対物レンズ11側で結像する場合よりも、結像された像のSN比(signal-to-noise ratio)が著しく劣化することがわかっている。このため、光学系10bでは、物体の観察中心OがNOPに位置する場合において最も高分解能な物体像が得られ、かつ、デコンボリューションを行う必要がないというメリットがあるものの、観察可能な被写界深度が著しく浅いというデメリットが存在する。そのため、例えば生物試料の観察へのアプリケーションにおいては、二次元スライス像に類似した観察結果しか得られないという課題がある。
【0033】
《ML内像の倍率変化について》
光学系10bでは、事前に距離aだけ、マイクロレンズアレイ2をT-NIPから結像レンズ12に近づけており、aの値が負の方向に大きくなる。このため、数1式において、ML内像の倍率MMLAを規定するb/(dOBJ*M2-a)の分母の値が大きくなり、これによってML内像の最終倍率Mfinalが低下してしまう。したがって、光学系10aと比べて、初期段階から(観察中心OがNOPに位置するときから)、ML内像の最終倍率Mfinalが低い。そして、NOPから物体の観察中心OがdOBJだけずれると、b/(dOBJ*M2-a)の分母の値がさらに大きくなるため、ML内像の最終倍率Mfinalがさらに低下する。このため、光学系10bでは、物体の観察中心Oが特定の範囲に位置するときは、物体像が高分解能で得られるが、高分解能で観察可能な被写界深度が浅く、三次元観察能が低い。
【0034】
(3-3.非特許文献3のライトフィールド光学系)
図4は、非特許文献3のライトフィールド光学系10c(以下、単に「光学系10c」とも称する)の概略の構成を示す説明図である。光学系10cは、メインレンズ1と、マイクロレンズアレイ2と、イメージセンサ3と、を備え、メインレンズ1が物体側から像側に向かって配置される対物レンズ11および結像レンズ12を含む点で、本実施形態の光学系10と共通する。ただし、光学系10cは、以下の条件(1c)を満足する点で、上記した条件(1)を満足する本実施形態の光学系10とは異なる。すなわち、
a≠0、かつ、1/a+1/b>1/fMLA ・・・(1c)
である。
【0035】
《結像状態について》
光学系10cでは、1/a+1/b>1/fMLAを満足するように、aの値に合わせてbの値を変化させる。光学系10cでは、高分解能可能な被写界深度は、光学系10bに比べると高いものの、光学系10aに比べると低いことがわかっている。さらに、物体の観察中心OがNOPに位置する場合でも、イメージセンサ3上では像が結像することはない。また、物体の観察中心Oが対物レンズ11に近づくにつれて、光学系10bほどではないが分解能の低下も生じる。このため、基本的にデコンボリューションを行わなければ、分解能向上の効果を期待することはできない。
【0036】
《ML内像の倍率変化について》
光学系10cでは、光学系10bと同様に、aの値がゼロで無いため(aの値が負であるため)、初期段階から(観察中心OがNOPに位置するときから)、ML内像の最終倍率Mfinalが低い。そして、NOPから物体の観察中心OがdOBJだけずれると、光学系10bと同様に、ML内像の最終倍率Mfinalがさらに低下する。このため、光学系10cでは、NOPに対する物体の観察中心Oの位置ずれによる分解能の低下が、光学系10aよりも大きい。
【0037】
(3-4.非特許文献4のライトフィールド光学系)
図5は、非特許文献4のライトフィールド光学系10d(以下、単に「光学系10d」とも称する)の概略の構成を示す説明図である。光学系10dは、メインレンズ1と、マイクロレンズアレイ2と、イメージセンサ3と、を備え、メインレンズ1が物体側から像側に向かって配置される対物レンズ11および結像レンズ12を含む点で、本実施形態の光学系10と共通する。ただし、光学系10dは、リレーレンズ4をさらに備える点で、本実施形態の光学系10とは異なる。リレーレンズ4は、メインレンズ1とマイクロレンズアレイ2との間に配置される。このようなリレーレンズ4の配置により、マイクロレンズアレイ2の各マイクロレンズ2aに、イメージセンサ3上に物体の像を結像するための結像レンズとしての機能を持たせている。なお、図5において、fRLは、リレーレンズ4の物体側焦点距離(mm)を指す。
【0038】
《結像状態について》
光学系10dでは、上記のように各マイクロレンズ2aを結像レンズと用いているため、イメージセンサ3上では、非常にクリアな物体像を取得することができる。しかし、このようなマイクロレンズアレイ2の使い方では、対物レンズ11の開口数を最大で活かせていない。その理由は、図5において、マイクロレンズアレイ2からの光線を逆追跡してできる領域R0を見ると、容易に理解することができる。すなわち、ある点光源(観察中心O)から出た光は、マイクロレンズアレイ2の各マイクロレンズ2aの大きさの制限を受けて、対物レンズ11に部分的に入射する。このため、対物レンズ11の部分開口に相当する光量がマイクロレンズアレイ2の1つのマイクロレンズ2aに入射する。
【0039】
このため、図5のように、例えば5つのマイクロレンズ2aによって対物レンズ11からの光をイメージセンサ3に導き、イメージセンサ3上で結像させる場合、1つのマイクロレンズ2aの回折限界(分解能)は、対物レンズ11のNAの1/5になってしまう。その結果、ナイキストリミット支配だった分解能が、対物レンズ11のNA支配となってしまい、結果的に分解能の低下が生じる。
【0040】
《ML内像の倍率変化について》
光学系10dでは、他の光学系10a~10cに比べて、10~100倍以上大きなサイズのレンズを有するレンズアレイを、上記のマイクロレンズアレイ2として用いる。その理由は、小さなレンズを結像レンズ代わりに使用すると、ML内像の倍率が小さすぎて、物体を観察することができないためである。このため、光学系10dでは、イメージセンサ全体を7分割するような大きなレンズを有するレンズアレイを配置する。
【0041】
この場合、レンズアレイの大きさは、イメージセンサ3の一辺の長さを3分割させた大きさに相当する。例えば一辺の長さが30mmであるイメージセンサ3を利用する場合、レンズアレイの直径は10mmとなる。したがって、レンズアレイの焦点距離は、レンズアレイの口径に合わせて、他の光学系10a~10cよりも10倍以上大きな焦点距離となる。このため、物体の観察中心Oの位置がZ方向に100μm~200μm程度変わったとしても、ML内像の最終倍率Mfinalの変化はほとんどなく、基本的にナイキストリミット支配となることが無いというメリットが存在する。
【0042】
〔4.本実施形態のライトフィールド光学系の光学配置による効果〕
上述した光学系10a~10dを踏まえて、図1で示した本実施形態の光学系10の効果について説明する。本実施形態の光学系10は、上述した条件(1)を満足する。まず、条件(1)において、a=0の場合について考察する。
【0043】
(a=0の場合)
《結像状態について》
a=0の場合、b<fMLAを満足する。なお、fMLAは、用いるマイクロレンズアレイ2によって決まる値であるが、bは、物体の観察中心O、すなわち、物体において最も高分解能で観察したいZ方向の位置(dOBJ)に合わせて、b<fMLAを満足する値に設定されればよい。
【0044】
物体の観察中心OがNOPに位置する場合の分解能は、a=0であるため、光学系10aと同様に、マイクロレンズアレイ2によって規定される値となる。物体の観察中心OがNOPからZ方向にずれて位置する場合の分解能は、光学系10aとは異なり、dOBJが正の方向に大きくなるにつれて向上していく。これは、光学系10aとは異なり、光学系10では、b<fMLAとしたことにより、つまり、イメージセンサ3をM-NIPの位置からT-NIPに近づけたことにより、有限のdOBJでイメージセンサ3に結像する状態を作製したことによる。このときの結像状態は、bが大きくなるにつれてコントラストが向上することになるので、光学系10bおよび10cのような、dOBJの増大に伴うコントラストの低下が抑えられる。また、光学系10dのように、リレーレンズ4(図5参照)を配置せず、これによって対物レンズ11の実効開口数の低下が生じないため、対物レンズ11の高いNAを維持することができる。
【0045】
《ML内像の倍率変化について》
a=0の場合、数1式で示したML内像の倍率MMLAを示す式の分母のaの値が0となるため、a≠0である光学系10bおよび10cに比べて、dOBJの変化に対する倍率MMLAの変化が比較的小さくなる。これにより、dOBJの変化に対するML内像の最終倍率Mfinalの変化が比較的小さくなる。このため、光学系10では、光学系10bおよび10cよりも深い被写界深度を、対物レンズ11の実効開口数を活かした形で得ることができる。なお、光学系10aでは、dOBJの変化に対して最終倍率Mfinalの低下が小さいものの、その低下がゼロではないため、光学系10dに比べて、高分解能で観察可能な被写界深度は低下するが、光学系10dのような対物レンズ11の開口制限を受けることはない。
【0046】
(a<0の場合)
a<0の場合でも、aおよびdOBJに合わせて、(1/a+1/b)<1/fMLAを満足するbの値を適切に設定することにより、a=0、b<fMLAのときと同様の結像状態およびML内像の倍率変化を実現することができる。その結果、a=0、b<fMLAのときと同様の効果を得ることができる。このことは、後述の考察によって裏付けられる。
【0047】
以上についてまとめると、以下の通りである。本実施形態の光学系10の光学配置では、a=0であっても、a<0であっても、物体の観察中心Oが、NOPから有限の値(dOBJ)をとる位置にあるときに、物体像(ML内像)をイメージセンサ3に結像させる状態を作ることができる。また、イメージセンサ3で取得される物体像の最終倍率Mfinal、より詳しくは、イメージセンサ3で取得される一つ一つのマイクロレンズ像の中に形成される物体像(ML内像)の最終倍率は、前述の数1式のように、対物レンズ11の倍率Mと、マイクロレンズ2aによって規定される像倍率(倍率MMLA)との積で決まる。a=0であっても、a<0であっても、a、b、fMLAが上記の関係にある場合、物体の観察中心OがNOPからずれたときでも、ML内像の倍率MMLAの低下を抑えることができ、これによって、最終倍率Mfinalの低下を抑えることができる。その結果、標本化定理で規定される分解能低下を抑制することができ、NOPからdOBJだけずれた位置を基準として深い被写界深度を得ることができる。
【0048】
つまり、光学系10を構成する各部材の配置の工夫のみにより、光学系10a~10cを用いる場合には必要な、計算負荷の高いデコンボリューションを行う必要がないため、撮影からの即時的な三次元像の再構成が可能である。また、光学系10dとは異なり、対物レンズ11の最大開口数を活かしながら、高分解可能な物体像を深い被写界深度で得ることができる。
【0049】
〔5.aおよびbに関する望ましい条件について〕
次に、深い被写界深度を実現する上で望ましいaおよびbに関する条件について、従来の光学系と比較しながら以下に説明する。
【0050】
aおよびbに関する条件の異なる光学系10、10a~10cを比較するにあたっては、異なるfMLAをこれらの光学系で統一して考えることが必要である。そこで、本実施形態の光学系10の上述した条件(1)、および従来の光学系10a~10cの上述した条件(1a)~(1c)をfMLAで規格化して考える。条件(1)、(1a)~(1c)をfMLAで規格化すると、以下の通りとなる。なお、条件(1)をfMLAで規格化した後の条件を、条件(1’)とする。また、条件(1a)~(1c)をfMLAで規格化した後の条件をそれぞれ、条件(1a’)~(1c’)とする。
【0051】
条件(1’)
a=0の場合、
(b/fMLA)<1、
a<0の場合、
MLA*(1/a+1/b)<1
【0052】
a=0、b/fMLA=1 ・・・(1a’)
a≠0(a<0)、fMLA*(1/a+1/b)=1 ・・・(1b’)
a≠0、fMLA*(1/a+1/b)>1 ・・・(1c’)
【0053】
各条件(1’)、(1a’)~(1c’)において、a、b、fMLAによって規定される左辺の値が、右辺の1を境界にどのように変化するかを三次元の座標軸上で表現することにより、条件(1)、(1a)~(1c)の違いを理解することが容易となる。
【0054】
図6は、三次元座標系において、各光学系が満足する条件を表す領域を模式的に示す説明図である。図6では、a/fMLA、b/fMLA、fMLA*(1/a+1/b)を各座標軸として上記領域を示す。図6において、fMLA*(1/a+1/b)=1に相当する平面をPとすると、平面P内で、a/fMLAおよびb/fMLAの値に応じて変化する曲線が、光学系10bが満足する条件(1b’)を表す領域となる。また、平面PよりもfMLA*(1/a+1/b)の値が大きい領域が、光学系10cが満足する条件(1c’)を表す領域となる。これに対して、平面PよりもfMLA*(1/a+1/b)の値が小さい領域が、本実施形態の光学系10が満足する条件(1’)を表す領域となる。
【0055】
図7は、図6で示した各領域を二次元座標系で示した説明図である。同図からも、条件(1’)、(1b’)および(1c’)を表す領域を明確に把握することができる。なお、a=0(すなわちa/fMLA、=0)で、b=fMLAとなる点が、条件(1a’)を表すことになる。
【0056】
(5-1.b/fMLAの望ましい範囲について)
次に、本実施形態の光学系10が満足する条件(1’)において、b/fMLAの値と、ML内像を所定の分解能で得ることができる被写界深度(すなわちdOBJの範囲)との関係について考察した。その結果を以下に示す。なお、ここでは、b/fMLAの変化(つまり、bの変化)に対する高分解可能な被写界深度の変化を調べるため、aの値を一定値(a=0)に固定して考察を行った。
【0057】
まず、使用した光学部品および観察方法は、以下の通りである。
・カメラ(イメージセンサ):浜松ホトニクス社製 オルカライトニング(pixel size=5.5μm)
・対物レンズ:ミツトヨ社製 HRx10(WD:15mm、NA:0.42)
・マイクロレンズアレイ:RPC Photonics社製 マイクロレンズアレイ(fMLA=1.5mm、D(レンズ直径)=100μm)
・観察方法および照明系:透過観察、クリティカル照明
【0058】
確認方法としては、まず、a=0である光学系10aを構築し、その後、bの値を1.5mmから0.8mmまで0.1mmずつ小さくした。このとき、試料からカメラに向かう方向を、正方向に大きくなる方向とする。そして、NOPの位置をdOBJ=0μmとしたとき、各bの値において、試料の位置(観察中心Oに対応)を、dOBJ=150μmの位置から10μmずつNOP側に変化させてカメラで試料を撮影し、試料を識別できるZ方向の位置(dOBJ)がどのように変化するかを調べた。なお、試料を識別できるかどうかは、簡易的に目視によって判断した。そして、試料を識別できるZ方向の深さ(Z方向の幅)を、高分解可能な被写界深度とした。
【0059】
また、試料としては、第1パターンから第4パターンまでを横に並べたテストパターンを用いた。各パターンは、幅2μmのバーを2μm間隔で平行に並べたパターンである。ここで、第1パターンは、縦バーを横方向に並べたものである。第2パターンは、第1パターンを90°回転させたパターンである。第3パターンは、第1パターンを任意の方向に(例えば時計回りに)45°回転させたパターンである。第4パターンは、第1パターンを同一方向に(例えば時計回りに)135°回転させたパターンである。
【0060】
図8図14は、各bの値で得られるカメラの撮影画像を示す。なお、各図において、bの値と、試料を識別できるdOBJの値とを同時に示す。実験の結果は、以下の通りである。
【0061】
b=1.5mmのとき、すなわち、b=fMLAのとき、試料を識別できる領域(dOBJのZ方向の範囲)を確認することはできなかった。
【0062】
b=1.4mmのとき、図8に示すように、dOBJ=50μmのときに、試料の識別が可能であった。なお、図示はしないが、dOBJ=40μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、b=1.4mmのとき、すなわち、b/fMLA=1.4/1.5=0.933のとき、高分解可能な被写界深度として、10μm(=50μm-40μm)を確保することができる。
【0063】
b=1.3mmのとき、図9に示すように、dOBJ=50μmおよび30μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=40μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、b=1.3mmのとき、すなわち、b/fMLA=1.3/1.5=0.867のとき、高分解可能な被写界深度として、20μm(=50μm-30μm)を確保することができる。
【0064】
b=1.2mmのとき、図10に示すように、dOBJ=50μmおよび30μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=40μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、b=1.2mmのとき、すなわち、b/fMLA=1.2/1.5=0.8のとき、高分解可能な被写界深度として、20μm(=50μm-30μm)を確保することができる。
【0065】
b=1.1mmのとき、図11に示すように、dOBJ=50μmおよび20μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=40μm、およびdOBJ=30μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、b=1.1mmのとき、すなわち、b/fMLA=1.1/1.5=0.733のとき、高分解可能な被写界深度として、30μm(=50μm-20μm)を確保することができる。
【0066】
b=1.0mmのとき、図12に示すように、dOBJ=50μmおよび20μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=40μm、およびdOBJ=30μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、b=1.0mmのとき、すなわち、b/fMLA=1.0/1.5=0.667のとき、高分解可能な被写界深度として、30μm(=50μm-20μm)を確保することができる。
【0067】
b=0.9mmのとき、図13に示すように、dOBJ=30μmおよび10μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=20μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、b=0.9mmのとき、すなわち、b/fMLA=0.9/1.5=0.6のとき、高分解可能な被写界深度として、20μm(=30μm-10μm)を確保することができる。
【0068】
b=0.8mmのとき、図14に示すように、dOBJ=20μmおよび10μmにおいて、試料の識別が可能であった。したがって、b=0.8mmのとき、すなわち、b/fMLA=0.8/1.5=0.533のとき、高分解可能な被写界深度として、10μm(=20μm-10μm)を確保することができる。
【0069】
以上のことから、本実施形態の光学系10は、a=0の場合、以下の条件を満足することが望ましいと言える。すなわち、
0.533≦b/fMLA≦0.933
である。
【0070】
この場合、高分解可能な物体像(ML内像)を取得することができる被写界深度として、少なくとも10μmを確保することができる(図8図14参照)。
【0071】
また、本実施形態の光学系10は、a=0の場合、以下の条件を満足することがより望ましいと言える。すなわち、
0.6≦b/fMLA≦0.867
である。
【0072】
この場合、高分解可能な物体像を取得することができる被写界深度として、少なくとも20μmを確保することができる(図9図13参照)。
【0073】
また、本実施形態の光学系10は、a=0の場合、以下の条件を満足することがさらに望ましいと言える。すなわち、
0.667≦b/fMLA≦0.733
である。
【0074】
この場合、高分解可能な物体像を取得することができる被写界深度として、少なくとも30μmを確保することができる(図11図12参照)。
【0075】
以上で示した、望ましいb/fMLAの範囲は、図7で示した二次元の座標軸において、破線R1で示す領域に対応する。
【0076】
(5-2.a/fMLAの望ましい範囲について)
次に、本実施形態の光学系10が満足する条件(1’)において、a/fMLAの値と、ML内像を所定の分解能で得ることができる被写界深度(すなわちdOBJの範囲)との関係について考察した。その結果を以下に示す。
【0077】
なお、ここでは、a/fMLAの変化(つまり、aの変化)に対する高分解可能な被写界深度の変化を調べるため、bの値を一定値(b=fMLA=1.5)に固定し、a<0の範囲で考察を行った。なお、a<0で、かつ、b=fMLAの条件では、(1/a+1/b)<1/fMLAを満足することは明らかである。
【0078】
まず、使用した光学部品および観察方法は、以下の通りである。
・カメラ(イメージセンサ):Basler社製 acA4024-29um
・対物レンズ:ミツトヨ社製 HRx10(WD:15mm、NA:0.42)
・マイクロレンズアレイ:松浪硝子社製 マイクロレンズアレイ(fMLA=1.5mm、D(レンズ直径)=100μm)
・観察方法および照明系:透過観察、クリティカル照明
【0079】
確認方法としては、まず、a=0である光学系10aを構築し、その後、a=-10mmとなる位置にマイクロレンズアレイを配置した。そして、b=1.5mmと等価となるようにカメラを配置し、b=1.5mmを維持しつつ、aの値を、a=-5mm、a=-4mm、a=-2mm、a=-1mm、の順に変化させた。そして、各aの値において、試料の位置(観察中心Oに対応)を、NOPからdOBJ=100μmの位置まで10μmずつ変化させてカメラで試料を撮影し、試料を識別できるZ方向の位置(dOBJ)がどのように変化するかを調べた。なお、試料を識別できるかどうかは、簡易的に目視によって判断した。そして、試料を識別できるZ方向の深さ(Z方向の幅)を、高分解可能な被写界深度とした。また、試料としては、前述のテストパターンを用いた。
【0080】
図15図18は、各aの値で得られるカメラの撮影画像を示す。なお、各図において、aの値と、試料を識別できるdOBJの値とを同時に示す。実験の結果は、以下の通りである。
【0081】
a=-10mmのとき、試料を識別できる領域(dOBJのZ方向の範囲)を確認することはできなかった。
【0082】
a=-5mmのとき、図15に示すように、dOBJ=10μmのときに、試料の識別が可能であった。なお、図示はしないが、dOBJ=0μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、a=-5mmのとき、すなわち、a/fMLA=-5/1.5=-3.33のとき、高分解可能な被写界深度として、10μm(=10μm-0μm)を確保することができる。
【0083】
a=-4mmのとき、図16に示すように、dOBJ=0μm、およびdOBJ=30μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=10μm、およびdOBJ=20μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、a=-4mmのとき、すなわち、a/fMLA=-4/1.5=-2.67のとき、高分解可能な被写界深度として、30μm(=30μm-0μm)を確保することができる。
【0084】
a=-2mmのとき、図17に示すように、dOBJ=20μm、およびdOBJ=50μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=30μm、およびdOBJ=40μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、a=-2mmのとき、すなわち、a/fMLA=-2/1.5=-1.33のとき、高分解可能な被写界深度として、30μm(=50μm-20μm)を確保することができる。
【0085】
a=-1mmのとき、図18に示すように、dOBJ=20μm、およびdOBJ=50μmにおいて、試料の識別が可能であった。また、図示はしないが、dOBJ=30μm、およびdOBJ=40μmにおいても、同様の画像が取得され、試料の識別が可能であった。したがって、a=-1mmのとき、すなわち、a/fMLA=-1/1.5=-0.667のとき、高分解可能な被写界深度として、30μm(=50μm-20μm)を確保することができる。
【0086】
以上のことから、本実施形態の光学系10は、a<0の場合、以下の条件を満足することが望ましいと言える。すなわち、
-3.33≦a/fMLA<0
である。
【0087】
この場合、高分解可能な物体像(ML内像)を取得することができる被写界深度として、少なくとも10μmを確保することができる(図15図18参照)。
【0088】
また、本実施形態の光学系10は、a<0の場合、以下の条件を満足することがより望ましいと言える。すなわち、
-2.67≦a/fMLA<0
である。
【0089】
この場合、高分解可能な物体像を取得することができる被写界深度として、少なくとも30μmを確保することができる(図16図18参照)。
【0090】
以上で示した、望ましいa/fMLAの範囲は、図7で示した2次元の座標軸において、破線R2で示す領域に対応する。
【0091】
なお、a=-10mmのとき、つまり、a/fMLA=-6.67のとき、試料を識別することができていないが、上記の実験例より、aの値が-10mmから正方向に大きくなるにつれて、高分解可能な被写界深度を確保することができている。このことから、高分解可能な被写界深度を確保するためには、本実施形態の光学系10は、少なくとも以下の条件を満足してもよいと言える。すなわち、
-6.67<a/fMLA<0
である。
【0092】
〔6.レンダリングについて〕
次に、本実施形態の光学系10のイメージセンサ3によって取得された個々のマイクロレンズ像から再構成画像を生成するレンダリング技術について説明する。
【0093】
図19は、本実施形態のライトフィールド画像処理システム(以下、「LFシステム」とも称する)100の構成を示すブロック図である。LFシステム100は、上述した本実施形態の光学系10と、情報処理装置50と、を備える。情報処理装置50は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。光学系10と情報処理装置50とは、通信回線(有線または無線)を介して通信可能に接続されている。したがって、情報処理装置50は、インターネットなどの通信回線を介して接続されるサーバ(クラウドサーバを含む)であってもよい。
【0094】
情報処理装置50は、制御部51と、画像処理部52と、入力部53と、表示部54と、記憶部55と、通信部56と、を備える。制御部51は、記憶部55に記憶された動作プログラムに従って動作し、情報処理装置50の各部の動作を制御する。このような制御部51は、CPU(Central Processing Unit)と呼ばれる中央演算処理装置によって構成される。
【0095】
画像処理部52は、光学系10(特にイメージセンサ3)によって取得された物体の像から三次元像を再構成して取得する。画像処理部52は、例えば制御部51とは別個のまたは同一のCPUで構成される。なお、画像処理部52は、GPU(Graphics Processing Unit)で構成されてもよい。GPUは、リアルタイムな画像処理に特化した演算処理装置である。
【0096】
入力部53は、例えばキーボード、マウス、タッチパッド、タッチパネルなどで構成され、ユーザによる各種の情報の入力を受け付ける。表示部54は、例えば液晶表示装置で構成され、各種の情報を表示する。記憶部55は、各種の情報および制御部51の動作プログラムを記憶するメモリであり、例えばハードディスク、SSD(Solid State Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、の少なくともいずれかを含んで構成される。通信部56は、外部との間で情報を送受信するための通信インターフェースであり、入出力ポート、送信回路、受信回路、アンテナ、変調回路、復調回路などを含んで構成される。
【0097】
図20は、本実施形態のレンダリング処理の流れを示すフローチャートである。まず、光学系10のイメージセンサ3において、各マイクロレンズ像を取得する(S1)。図21は、イメージセンサ3で取得された画像MGを少なくとも示している。画像MGは、個々のマイクロレンズ像MIを含む。マイクロレンズ像MIは、各マイクロレンズ2aに対応してイメージセンサ3上に形成される像を指し、図21では、破線の円形で示す領域で示す。なお、ここでは、例として、試料として、数字の「5」を記載したシートを任意のdOBJの位置に配置したときに取得された画像MGおよびマイクロレンズ像MIを示す。
【0098】
画像MGのデータがイメージセンサ3から情報処理装置50に出力されると、表示部54に画像MGが表示される。画像処理部52は、入力部53によるユーザの手動入力に基づき(または自動で)、画像MGに含まれるマイクロレンズ像MIの傾き(回転)を補正する(S2)。
【0099】
次に、画像処理部52は、画像MGに含まれるマイクロレンズ像MIから要素画像EI(Elemental Image)を抽出する(S3)。この要素画像EIは、マイクロレンズ像MIの中で、物体(試料)の像を形成し得る要素となる画像である。要素画像EIの大きさは、マイクロレンズ像MIよりも小さい大きさに予め設定可能である。なお、上述した「ML内像」は、図21において、マイクロレンズ像MIの中の特定部分(例えば数字の「5」を構成する部分)を指す点で、マイクロレンズ像MIの中の一定の範囲を構成する要素画像EIとは区別される。
【0100】
次に、ユーザが入力部53を操作して、物体の観察中心Oの位置(NOPからのずれ量dOBJ)を入力すると(S4)、画像処理部52は、物体の同一位置から射出されてメインレンズ1を介してイメージセンサ3に到達する複数の光線の、イメージセンサ3上での間隔Δ(mm)を求める(S5)。このときの間隔Δは、マイクロレンズ2aの配列ピッチをMLP(mm)とし、予め設定された対物レンズ11の倍率をMとして、上記のdOBJと、MLPと、倍率Mと、距離aと、距離bとに基づいて求められる。
【0101】
図22は、本実施形態の光学系10における各パラメータの幾何学的関係を模式的に示す説明図である。図中の三角形ABCと三角形AB’C’とに着目したとき、三角形の相似関係より、
辺BC:辺B’C’=辺CA:辺C’A’
である。これをパラメータで示すと、
MLP:Δ=(a+dOBJ*M2):(a+dOBJ*M2-b)
となる。これをΔについて解くと、以下の数2式が得られる。なお、図22では、幾何学的関係を示すために、aを正の値で考えているが、物体側から像側に向かう方向を正とする場合は、aを負の値で考える必要がある。このため、数2式では、最終的に、aを-aで置き換えている。
【0102】
【数2】
【0103】
なお、Z方向に垂直な面内で互いに垂直な2方向(X方向、Y方向)に対して異方性は
存在しないため、X方向およびY方向にそれぞれ同一のΔを適用することが可能となる。
【0104】
また、S5では、画像処理部52は、求めた上記のΔを、各要素画像EIの重ね合わせに必要な距離であるΔEIに変換する。ここで、正方形状の各要素画像EIの1辺の大きさ(長さ)をEIL(mm)としたとき、ΔEI(mm)は、上記のΔと、MLPと、EILとを用いて、以下のように表される。
【0105】
【数3】
【0106】
画像処理部52は、S3で抽出した隣り合う要素画像EI(図21の下段中央の実線の枠で囲まれた各要素画像EI)を、ΔEIだけずらして重ねる処理(輝度値は同一位置の画素の値を合算する)を、隣り合う要素画像EIの全てに対して繰り返し行う。これにより、図21の下段右に示すようなリフォーカス像RFを取得することができる。このように、ΔEIを用いたEI空間における同一間光線距離(Δ)をもとに、1枚のリフォーカス像RFを生成することにより、NOPからdobjだけ離れた位置の物体の像を生成することが可能になる。
【0107】
上記した各要素画像EIの重ね合わせは、基本的に、ΔEIを利用して繰り返し計算により行われる必要があるが、それを効率的に行うために、画像処理部52は、PQアレイという、重ね合わせピクセル番号を示した行列を作製する(S6)。以下、より詳しく説明する。
【0108】
図23は、隣り合う3つのマイクロレンズ像MI-1、MI-2、MI-3と、各マイクロレンズ像MI-1、MI-2、MI-3に含まれる要素画像EI-1、EI-2、EI-3とを模式的に示している。なお、図23の例では、試料として、数字の「4」を記載したシートを任意のdOBJの位置に配置したときに取得されたマイクロレンズ像MI-1~MI-3および要素画像EI-1~EI-3を示す。また、便宜上、各要素画像EI-1~EI-3において、1行目の画素に列番号を付記する。また、ここでは、各要素画像EIの1辺の長さEILを6(1画素の1辺の長さ×6)とし、ΔEIを5(1画素の1辺の長さ×5)とする。
【0109】
図23で示した例において、列番号1~18の各列をどのように重ね合わせるかを示すためには、図24に示すような行列(PQアレイ)を作製すればよい。例えば、上記行列では、列番号3、8、13の各画素には、物体(「4」という数字)の同一位置から射出された光線が入射しているため、列番号3、8、13の各画素を足し合わせる(重ね合わせる)ことを示している。上記行列を用いて各画素を足し合わせる処理は、図25で示すような像の取得(重ね合わせ)と同じである。
【0110】
このように、画像処理部52は、重ね合わせに必要な列番号情報を格納した行列(PQアレイ)を作製し、その行列をもとに、各列を所定の量(ΔEI)だけ足し合わせ、最初に列だけが足し合わされた像を作製する。その後、画像処理部52は、上記と同様の手法で、行方向にも各画素の足し合わせ処理を行う(S7)。これにより、特定焦点面のリフォーカス像RFを作製することができる。作製したリフォーカス像RFのデータは、記憶部55(図19参照)に記憶される(S8)。
【0111】
図26は、物体の観察中心Oが任意のdOBJの位置にあるときに、イメージセンサ3で取得される各マイクロレンズ像MIと、従来のレンダリング技術によって得られるリフォーカス像RF’とを模式的に示す。従来のレンダリング技術では、物体の同一位置から射出された光線の輝度の総和を一つの画素(輝度値)とする。これに対して、図27は、図26と同じ各マイクロレンズ像MIと、本実施形態のレンダリング技術によって得られるリフォーカス像RFとを模式的に示す。これらの図より、本実施形態の手法で得られるリフォーカス像RFの分解能(解像度)は、従来の手法で得られるリフォーカス像RF’に比べて、明らかに高いと言える。
【0112】
次に、制御部51(図19参照)は、物体の三次元像を作製するにあたって、異なるdOBJの値の入力が必要かどうかを判断する(S9)。S9にて、制御部51は、上記入力が必要であると判断した場合には、表示部54(図19参照)にその旨を表示させて、ユーザに別のdOBJの値の入力を促す。これを受けて、ユーザが入力部53を操作して別のdOBJの値を入力すると(S4)、画像処理部52は、上述したS5~S8の処理を繰り返して、入力したdOBJにおける物体のリフォーカス像RFを生成し、そのデータを記憶部55に記憶させる。
【0113】
一方、S9にて、制御部51は、別のdOBJの値の入力が不要であると判断した場合に、画像処理部52に物体の三次元像の生成を実行させる(S10)。すなわち、S10では、画像処理部52おいて、記憶部55に記憶された各リフォーカス像RFをZ方向に並べて物体の三次元像(スタック三次元配列)を作製したり、異なる色ごとの三次元像(カラースタック)を作製する。物体の三次元像のデータは、例えば記憶部55に記憶されるが、通信回線を介して外部のサーバ等に転送されてもよい。
【0114】
以上のように、画像処理部52は、NOPからの物体の観察中心Oのずれ量であるdOBJと、マイクロレンズ2aのピッチMLPと、予め設定された対物レンズ11の倍率Mと、距離aと、距離bとに基づいて、物体の同一位置から射出されてメインレンズ1を介してイメージセンサ3に到達する複数の光線の、イメージセンサ3上での間隔Δを求め、間隔Δに基づいて、隣り合うマイクロレンズ像MIに含まれる要素画像EI同士を重ね合わせる(S4~S8)。
【0115】
物体の同一位置から射出されてイメージセンサ3に到達する複数の光線(以下、「同一光線」とも称する)のイメージセンサ3上での間隔Δは、図22で示したように、光学系10における幾何学的な関係から容易に求めることができる。したがって、求めた間隔Δに基づいて、隣り合う要素画像EI同士を重ね合わせることにより、従来の複雑な復元処理よりも高速にリフォーカス像RFを得ることができる。しかも、イメージセンサ3に同一光線が到達する画素が重ね合わされるため、リフォーカス像RFを高分解能で得ることができる。
【0116】
また、画像処理部52は、具体的に、以下の式(A)に基づいて、間隔Δを求める(S5)。すなわち、
Δ=MLP*{1-(b/(dOBJ*M2-a)} ・・・(A)
である。なお、式(A)は、上述した数2式と同じである。
【0117】
式(A)は、図22で示した光学系10における幾何学的な関係に基づいて得られる。したがって、画像処理部52は、式(A)に基づいて、間隔Δを簡単かつ高速に求めることができる。
【0118】
また、画像処理部52は、マイクロレンズ像MIに含まれる要素画像EIの一辺の大きさをEILとして、以下の式(B)に基づいて、距離ΔEIを求める。すなわち、
ΔEI=Δ-(MLP-EIL) ・・・(B)
である。そして、画像処理部52は、隣り合う一方の要素画像EIに対して他方の要素画像EIを距離ΔEIだけずらすことにより、要素画像EI同士を重ね合わせる(S5~S7)。なお、式(B)は、上述した数3式と同じである。
【0119】
隣り合う要素画像EIを距離ΔEIだけずらして重ね合わせることにより、マイクロレンズ像MIの必要な部分(要素画像EI)のみを用いて、リフォーカス像RFを高分解能で得ることができる。
【0120】
また、画像処理部52は、隣り合う要素画像EI同士の重ね合わせを、ずれ量dOBJの異なる値ごとに行う(S4~S9)。この場合、ずれ量dOBJの異なる位置ごとに、リフォーカス像RFが高分解能で得られる。これにより、物体の三次元情報を高分解能で得ることができる。
【0121】
〔7.補足〕
上述した本実施形態のレンダリング技術は、本実施形態の光学系10以外のみならず、上述した光学系10a~10dに適用することも可能である。つまり、本実施形態のレンダリング技術を用いることにより、光学系10a~10dで得られるマイクロレンズ像MIから、ずれ量dOBJの異なる位置ごとに、リフォーカス像RFを高分解能で得ることが可能である。
【0122】
シングルショットで物体の三次元像を取得できるライトフィールド光学系である本実施形態の光学系10は、ライトフィールド顕微鏡に適用可能である。したがって、光学系10は、例えば生命科学分野への応用が期待される。例えば、本実施形態の光学系10によれば、計測中に三次元細胞位置のリアルタイムな確認、つまり即時的な確認が可能である。このため、光学系10は、細胞機能を操作するための光遺伝学的手法との組み合わせなどがアプリケーションとして期待される。さらに、光学系10では、深度の深い像を取得可能であるため、現在、二次元観察にほぼ制限されている超解像技術を三次元観察に拡張することも期待される。また、光学系10は、ライトフィールドカメラに適用することも可能であり、この場合、例えば自動車産業への応用も期待される。さらに、光学系10は、ライトフィールドアイに適用することも可能であり、この場合、例えばロボット産業への応用も期待される。他にも、光学系10は、ライトフィールド内視鏡として医療現場への応用も見込むことが可能である。
【0123】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の光学系は、例えば、ライトフィールド顕微鏡に利用可能である。
【符号の説明】
【0125】
1 メインレンズ
2 マイクロレンズアレイ
2a マイクロレンズ
3 イメージセンサ
10 光学系(ライトフィールド光学系)
11 対物レンズ
12 結像レンズ
52 画像処理部
100 LFシステム(ライトフィールド画像処理システム)
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