(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072923
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】カートリッジフィルタの製造方法及びカートリッジフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20230518BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20230518BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20230518BHJP
D02G 1/20 20060101ALI20230518BHJP
D02G 1/04 20060101ALI20230518BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D01F8/06
D06C7/00 Z
D02G1/20
D02G1/04 Z
D04H3/16
B01D39/16 D
B01D39/16 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185652
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】橘 英輔
(72)【発明者】
【氏名】増田 智絵
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弥一
【テーマコード(参考)】
3B154
4D019
4L036
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
3B154AA09
3B154AB07
3B154AB22
3B154BB12
3B154BB15
3B154DA30
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA13
4D019BB01
4D019BB03
4D019BB10
4D019BD02
4D019CA03
4D019CB06
4D019DA03
4D019DA06
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA18
4L036PA26
4L036PA28
4L036PA41
4L036RA04
4L036UA06
4L041AA08
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA21
4L041BC04
4L041BD03
4L041DD05
4L041DD14
4L047AA14
4L047AA27
4L047AB03
4L047BA05
4L047BA08
4L047CC12
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】油剤除去工程を省略できるカートリッジフィルタの製造方法及びカートリッジフィルタを提供する。
【解決手段】溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維を、不織布に加工する前又は加工した後で、軟化開始温度以上かつ熱分解温度以下の温度条件で加熱し、繊維表面に付着している油剤を繊維内部に浸透させ、表面の油剤量を減少させた不織布シートからなる円筒状濾過層上に、表面に針布状部材が装着され油剤が実質的に付着していないドラム上に、ジェットノズルから、加熱圧縮流体と共に溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維からなるマルチフィラメントを連続的に吹き付けてマルチフィラメントに捲縮付与処理を施し、その直後とドラムから巻出す前に沸点が70~100℃の低温揮発性液体を付着させた捲縮付与マルチフィラメント糸を巻回してフィラメントワインド型濾過層を形成して、積層型カートリッジフィルタとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維を、不織布に加工する前又は加工した後で、前記ポリオレフィン系繊維の軟化開始温度以上かつ熱分解温度以下の温度条件で加熱し、繊維表面に付着している油剤を繊維内部に浸透させ、表面の油剤量を減少させた不織布シートを得る工程と、
表面に針布状部材が装着され油剤が実質的に付着していないドラム上に、ジェットノズルから加熱圧縮流体と共に溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維からなるマルチフィラメントを連続的に吹き付けることにより、該マルチフィラメントに捲縮を付与した後、この捲縮が付与されたマルチフィラメントを沸点が70~100℃の低温揮発性液体と接触させ、更に、前記ドラムから巻き出す前にも前記マルチフィラメントを前記低温揮発性液体と接触させて、前記低温揮発性液体が付着した捲縮付与マルチフィラメント糸を得る工程と、
巻芯に前記不織布シートを複数層巻回して円筒状濾過層を形成する工程と、
前記円筒状濾過層上に、前記捲縮付与マルチフィラメント糸を巻回して、フィラメントワインド型濾過層を形成する工程と
を有するカートリッジフィルタの製造方法。
【請求項2】
前記不織布シートを得る工程において加熱する前の前記ポリオレフィン系繊維の油剤付着量が0.2~0.5質量%である請求項1に記載のカートリッジフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記油剤は140℃で加熱しても実質上揮発しないものであり、
前記油剤の付着量が0.2~0.5質量%のポリオレフィン系繊維を140℃で5秒間の加熱処理したとき当該油剤の付着量が0.01~0.2質量%に減少し、かつ、加熱前の油剤付着量(質量%)をA、加熱後の油剤付着量(質量%)をBとしたとき下記数式(I)で表される油剤付着量減少率が60%以上である請求項1又は2に記載のカートリッジフィルタの製造方法。
【請求項4】
前記不織布シートを構成するポリオレフィン系繊維の表面に付着している油剤の主成分は、分子量が400~800のポリエチレングリコールと炭素数が10~20の脂肪酸とのエステルである請求項1~3のいずれか1項に記載のカートリッジフィルタの製造方法。
【請求項5】
前記不織布シートを構成するポリオレフィン系繊維として、ポリエチレンを鞘成分とし、ポリプロピレンを芯成分とする鞘芯型複合繊維を用いる請求項1~4のいずれか1項に記載のカートリッジフィルタの製造方法。
【請求項6】
前記円筒状濾過層を形成する工程と、前記フィラメントワインド型濾過層を形成する工程との間に、前記円筒状濾過層を100~150℃の温度で1~10秒間加熱する加熱処理工程を行う請求項1~5のいずれか1項に記載のカートリッジフィルタの製造方法。
【請求項7】
ポリオレフィン系繊維を用いて形成された不織布シートからなる円筒状濾過層と、
前記円筒状濾過層上に、マルチフィラメント糸を巻回して形成されたフィラメントワインド型濾過層と
を有し、
前記フィラメントワインド型濾過層は、前記円筒状濾過層よりも繊維密度が粗であり、
前記円筒状濾過層を構成する不織布シートは、ポリオレフィン系繊維内部に油剤が浸透しており、繊維表面に残留している油剤の量が繊維全質量の0.01~0.2質量%であり、
前記フィラメントワインド型濾過層を構成するマルチフィラメント糸は、表面に付着している油剤の量が全質量の0.02質量%以下であるカートリッジフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カートリッジフィルタの製造方法及びこの方法で製造されたカートリッジフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
液体や気体の濾過に用いられるカートリッジフィルタには、筒状の有孔芯材に紡績糸やマルチフィラメントを巻きつけたもの、シート状又は糸状の不織布を筒状の有孔芯材に巻きつけたもの、芯材を用いずに不織布シート自体を筒状に加工したものなどがある。また、融点の異なる2成分からなる熱接着性複合繊維ウェブを円筒状に成形した筒状濾過材の外周に、スライバー又はマルチフィラメントを巻回して、筒状濾過材よりも繊維密度が粗な濾過層を形成したカートリッジフィルタも提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、これらのカートリッジフィルタで用いられるポリオレフィン系繊維などの合成繊維は、帯電しやすく、通常は、親水系界面活性剤や帯電防止剤などを含む「油剤」を繊維表面に付着させることにより、静電気の発生を抑制している。しかしながら、表面に油剤が付着した繊維を用いてカートリッジフィルタの濾過層を形成すると、濾過層に油剤が残留し、液体を濾過した際の濾液に油剤が溶け出す虞がある。このため、従来、カートリッジフィルタを製造する際は、ウォータージェット法により高圧の水流で油剤を除去する、又は、使用前にカートリッジフィルタに水などを循環させるなどの方法によって、合成繊維表面の油剤を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来のカートリッジフィルタの製造方法、特に繊維表面に付着している油剤の除去方法は、専用の設備や工程が必要となるため、製造工程数や製造コストの増加を招くという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、油剤除去工程を省略できるカートリッジフィルタの製造方法及びカートリッジフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカートリッジフィルタの製造方法は、溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維を、不織布に加工する前又は加工した後で、前記ポリオレフィン系繊維の軟化開始温度以上かつ熱分解温度以下の温度条件で加熱し、繊維表面に付着している油剤を繊維内部に浸透させ、表面の油剤量を減少させた不織布シートを得る工程と、表面に針布状部材が装着され油剤が実質的に付着していないドラム上に、ジェットノズルから加熱圧縮流体と共に溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維からなるマルチフィラメントを連続的に吹き付けることにより、該マルチフィラメントに捲縮を付与した後、この捲縮が付与されたマルチフィラメントを沸点が70~100℃の低温揮発性液体と接触させ、更に、前記ドラムから巻き出す前にも前記マルチフィラメントを前記低温揮発性液体と接触させて、前記低温揮発性液体が付着した捲縮付与マルチフィラメント糸を得る工程と、巻芯に前記不織布シートを複数層巻回して円筒状濾過層を形成する工程と、前記円筒状濾過層上に、前記捲縮付与マルチフィラメント糸を巻回して、フィラメントワインド型濾過層を形成する工程とを有する。
前記不織布シートを得る工程において、加熱する前の前記ポリオレフィン系繊維の油剤付着量は、例えば0.2~0.5質量%である。
前記油剤は140℃で加熱しても実質上揮発しないものであり、前記油剤の付着量が0.2~0.5質量%のポリオレフィン系繊維を140℃で5秒間の加熱処理したとき当該油剤の付着量が0.01~0.2質量%に減少し、かつ、加熱前の油剤付着量(質量%)をA、加熱後の油剤付着量(質量%)をBとしたとき下記数式1で表される油剤付着量減少率が60%以上である。
【0008】
【0009】
前記不織布シートを構成するポリオレフィン系繊維の表面に付着している油剤の主成分は、例えば分子量が400~800のポリエチレングリコールと炭素数が10~20の脂肪酸とのエステルである。
本発明のカートリッジフィルタの製造方法では、前記不織布シートを構成するポリオレフィン系繊維として、例えばポリエチレンを鞘成分とし、ポリプロピレンを芯成分とする鞘芯型複合繊維を用いることができる。
また、前記円筒状濾過層を形成する工程と、前記フィラメントワインド型濾過層を形成する工程との間に、前記円筒状濾過層を100~150℃の温度で1~10秒間加熱する加熱処理工程を行うこともできる。
【0010】
本発明に係るカートリッジフィルタは、ポリオレフィン系繊維を用いて形成された不織布シートからなる円筒状濾過層と、前記円筒状濾過層上に、マルチフィラメント糸を巻回して形成されたフィラメントワインド型濾過層とを有し、前記フィラメントワインド型濾過層は、前記円筒状濾過層よりも繊維密度が粗であり、前記円筒状濾過層を構成する不織布シートは、ポリオレフィン系繊維内部に油剤が浸透しており、繊維表面に残留している油剤の量が繊維全質量の0.01~0.2質量%であり、前記フィラメントワインド型濾過層を構成するマルチフィラメント糸は、表面に付着している油剤の量が全質量の0.02質量%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維表面の油剤量を減少させた不織布シートと油剤が付着しないマルチフィラメントを使用しているため、油剤除去工程を行わなくても、濾液への油剤の混入がないカートリッジフィルタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態のカートリッジフィルタの製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】複合繊維の構造例を示す断面図であり、Aは鞘芯型、Bは偏心鞘芯型、Cは並列(サイドバイサイド)型である。
【
図3】巻芯に不織布シートを巻回する方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は本実施形態のカートリッジフィルタの製造工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態のカートリッジフィルタは、不織布シート製造工程(ステップS1)と、マルチフィラメント糸製造工程(ステップS2)と、円筒状濾過層形成工程(ステップS3)と、フィラメントワインド型濾過層形成工程(ステップS4)とを行う。
【0015】
[ステップS1:不織布シート製造工程]
不織布シート製造工程では、溶融紡糸されたポリオレフィン系繊維を、不織布に加工する前又は加工した後で、ポリオレフィン系繊維の軟化開始温度以上かつ熱分解温度以下の温度条件で加熱し、繊維表面に付着している油剤を繊維内部に浸透させ、表面の油剤量を減少させた不織布シートを得る。
【0016】
<ポリオレフィン系繊維>
本工程で使用するポリオレフィン系繊維は、不織布に加工する際の作業性などの観点から、熱接着性を有するものが好ましく、単一樹脂からなる単一繊維及び融点が異なる2種類以上の樹脂で構成される複合繊維のいずれでもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。
図2は複合繊維の構造例を示す断面図であり、Aは鞘芯型、Bは偏心鞘芯型、Cは並列(サイドバイサイド)型である。不織布シートを構成する繊維は、熱接着性を有するポリオレフィン系繊維の中でも、特に
図2A,Bに示す鞘芯型複合繊維及び
図2Cに示す並列(サイドバイサイド)型複合繊維が好ましい。
【0017】
図2A~Cに示す複合繊維は、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン、ポリオキシメチレンなどの低融点成分2と、ポリプロピレン、ポリエステル(PET,PBT,PPT)、ポリアミド(ナイロン6,ナイロン66)などの高融点成分1により構成することができる。これらの複合繊維の中でも、ポリエチレン、好ましくは高密度ポリエチレンを鞘成分(低融点成分2)とし、ポリプロピレンを芯成分(高融点成分1)とした鞘芯型複合繊維が特に好適である。このような鞘芯型複合繊維を用いることで、耐薬品性に優れた円筒状濾過層を得ることができる。
【0018】
ポリオレフィン系繊維の繊度は、特に限定されるものではないが、カートリッジフィルタの用途を考慮すると、1.0~20.0dTex程度であることが好ましい。
【0019】
<油剤>
本工程で用いるポリオレフィン系繊維の表面には油剤が付着している。ポリオレフィン系繊維に付着させる油剤は、静電気発生防止効果があり、加熱処理によって繊維内部に浸透する性質のものであればよいが、140℃で加熱しても実質上揮発しないもので、かつ、油剤付着量を0.2~0.5質量%としたポリオレフィン系繊維を140℃で5秒間の加熱したとき、油剤付着量が0.01~0.2質量%に減少し、かつ、加熱前の油剤付着量(質量%)をA、加熱後の油剤付着量(質量%)をBとしたとき下記数式2で表される油剤付着量減少率が60%以上となるものが好ましく、より好ましくは80%以上となるものである。
【0020】
【0021】
このような要件を満たす油剤としては、例えば、分子量が400~800のポリエチレングリコールと炭素数が10~20の脂肪酸とのエステルを主成分とするものが挙げられる。ここで、エステルを構成する脂肪酸は、全炭素数が10~20のものが好ましく、その構造は飽和及び不飽和のいずれでもよく、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよい。このような脂肪酸の例としては、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸及びオレイン酸などが挙げられる。また、エステルの形態は、ジエステル及びモノエステルのいずれでもよいが、モノエステルの方が好ましい。
【0022】
これらの油剤は、水溶性でありかつ電気抵抗が大きくなりすぎないため、繊維への油剤付着が容易となり、不織布に加工する際のカード機によるウェブ成形において静電気の発生を抑制することができる。なお、油剤に含まれるポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、1種に限定されず、2種以上のポリエチレングリコール脂肪酸エステルを含んでいてもよい。更に、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルと共に、本発明の効果が損なわれない範囲で、他の公知の油剤を含んでいてもよい。
【0023】
ポリオレフィン系繊維に油剤を付着させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば油剤を含む液をポリオレフィン系繊維に接触させる方法があり、一般には油剤を含む表面処理液を、ポリオレフィン系繊維に塗布する方法が用いられる。繊維に表面処理液を塗布する方法としては、例えば表面処理剤液中にポリオレフィン系繊維を浸漬するディップコート法(浸漬法)、ポリオレフィン系繊維に表面処理剤液をスプレーするスプレーコート法、刷毛塗りやロールコータを用いてポリオレフィン系繊維に表面処理剤液を塗布する方法及びパットドライ法などが挙げられるが、作業性の観点からディップコート法が好ましい。ポリオレフィン系繊維への油剤の付着は、紡糸時及び延伸時のいずれの段階で行ってもよい。
【0024】
ここで、加熱前のポリオレフィン系繊維における油剤付着量は0.2~0.5質量%であることが好ましい。加熱前の油剤付着量が0.2質量%未満の場合、不織布に加工する際のカード機によるウェブ成形において静電気発生してトラブルが生じることがあり、また、加熱前の油剤付着量が0.5質量%を超えると、ポリオレフィン系繊維を所定条件で加熱しても油剤付着量が十分に減少しないことがある。これに対して、加熱前のポリオレフィン系繊維の油剤付着量が0.2~0.5質量%の範囲の場合は、静電気の発生を抑制できると共に、加熱処理によって油剤を繊維内部に浸透させて、繊維表面の油剤付着量を低減することができる。静電気抑制及び加熱後の油剤付着量低減の観点から、加熱前のポリオレフィン系繊維における油剤付着量は0.25~0.35質量%であることが好ましい。
【0025】
<加熱処理>
本工程では、不織布を構成するポリオレフィン系繊維を、不織布に加工する前又は加工した後で、軟化開始温度以上かつ熱分解温度以下の温度条件で加熱する。これにより、表面に付着した油剤が繊維内部に浸透し、ポリオレフィン系繊維の油剤付着量が実質的に減少する。その際、ポリオレフィン系繊維の加熱条件は、繊維を構成するポリオレフィン系樹脂の種類、繊維の太さ、繊維の構造及び油剤の種類などに応じて適宜選択することができるが、油剤付着量の低減と工数削減との両立の観点から、100~150℃の温度条件下で、1~10秒間加熱することが好ましい。
【0026】
ポリオレフィン系繊維の加熱方法は、特に限定されるものではないが、例えば、カード機を通過させた後でポリオレフィン系繊維に油剤を付着させ、その後に熱風融着や熱ローラ融着(エンボスローラー融着を含む)などの方法でポリオレフィン系繊維を加熱融着する際に、併せて油剤を繊維内部に浸透させることが好ましい。この方法は、熱融着と同時に繊維表面の油剤付着量を減少させることができるため好適である。なお、ニードルパンチなどの非加熱方式で不織布を形成する場合は、不織布形成後に(不織布に加工した後で)、不織布を、用いているポリオレフィン系繊維の軟化開始温度以上かつ熱分解温度以下の温度条件で加熱することにより、加熱融着と同様に繊維表面の油剤付着量を減少させることができる。
【0027】
前述した条件で加熱した後のポリオレフィン系繊維は、油剤付着量が0.01~0.2質量%であることが好ましい。油剤付着量がこの範囲であれば、油剤が繊維内に浸透するのに必要な熱エネルギーが少なくてすむ。また、熱エネルギーのバランスの観点から、加熱後のポリオレフィン系繊維における油剤付着量は、0.02~0.1質量%であることが好ましい。
【0028】
ここで、加熱前及び加熱後におけるポリオレフィン系繊維の油剤付着量は、以下に示す方法で行うことができる。先ず、東海計器社製 迅速残脂抽出装置 R-II型を用い、試料(ポリオレフィン系繊維)2gに対して、エチルアルコールとメチルアルコールを、質量比で、エチルアルコール:メチルアルコール=2:1の割合で混合した溶液10mLで、繊維に付着している油剤を抽出する。抽出は、室温下で、抽出時間を約15分間として、2回行う。そして、抽出油剤量を測定し、下記数式3から油剤付着量を求める。
【0029】
【0030】
ここで、油剤付着量の減少率を算出する数式2の「加熱前の油剤付着量A(質量%)」及び「加熱後の油剤付着量B(質量%)」には、前述した方法で抽出し、算出した値を用いることができる。
【0031】
[ステップS2:マルチフィラメント糸製造工程]
マルチフィラメント糸製造工程では、油剤が実質上付着しておらず、かつ、流体による捲縮が付与されたマルチフィラメントを得る。
【0032】
<マルチフィラメントの紡糸>
具体的には、先ず、マルチフィラメントを溶融紡糸し、風冷法などにより冷却した後、必要に応じてマルチフィラメントに低温揮発性液体を付着させる。本工程で溶融紡糸されるマルチフィラメントの単糸の繊度は、例えば2.0~50.0dTexであり、好ましくは10.0~12.5dTexである。また、フィラメント数は、例えば15~500本であり、好ましくは60~120本である。
【0033】
一方、マルチフィラメントの材質は、ポリオレフィンであれば特に限定されるものではなく、例えばエチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1などのα-オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体、又は、これらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体などを用いることができる。これらの中でも、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体などのポリエチレン類、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体やランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ジエン化合物共重合体などのポリプロピレン類、ポリブテン-1、ポリ4-メチルペンテン-1などが好ましい。
【0034】
特に、耐化学薬品性、機械特性及び紡糸性などの観点から、ポリプロピレン類が好ましく、結晶性ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ここで、結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン-プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、そのプロピレンブロック共重合体における各ホモ部又は共重合部がブテン-1などのα-オレフィンを共重合したものからなる結晶性のプロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0035】
マルチフィラメントに付着させる低温揮発性液体は、沸点が70~100℃の範囲にある液体であり、例えば水、アルコール、ケトン及びこれらの混合物などが挙げられるが、特に水が好適である。水は、通常の水道水、工業用水、イオン交換水及び純水などを用いることができる。また、マルチフィラメントの集束性及び走行性の向上の観点から、低温揮発性液体の付着率は、マルチフィラメントの全質量の10質量%以上であることが好ましい。
【0036】
<加熱延伸>
次に、低温揮発性液体が付与されたマルチフィラメントを、例えば低温揮発性液体の蒸発点以上の温度に加熱されたフィードローラー又はドローローラーなどを用いて、加熱延伸処理する。その際、延伸処理温度は、マルチフィラメントを構成する樹脂の種類に応じて適宜選択することができるが、例えばマルチフィラメントがポリプロピレンで形成されている場合は、100~130℃の範囲で行うことができる。また、集束性及び後述する捲縮付与性の向上の観点から、マルチフィラメント延伸倍率は、1.5~2.5倍であることが好ましい。
【0037】
<捲縮付与処理>
次に、表面に針布状部材が装着され油剤が実質的に付着していないドラム上に、ジェットノズルから、加熱圧縮流体と共に延伸処理したマルチフィラメントを連続的に吹き付け、マルチフィラメントに捲縮付与処理を施す。その際、加熱圧縮流体としては、例えば、温度が180~210℃、好ましくは185~195℃の範囲にあり、かつ、圧力が19.6~39.2N/cm2、好ましくは24.5~34.3N/cm2の範囲にある空気を用いることができる。
【0038】
<低温揮発性液体の再付着>
前述した捲縮付与処理により、マルチフィラメントに付着していた低温揮発性液体の一部が蒸発し、集束性が低下する。そこで、本実施形態のカートリッジフィルタの製造方法では、捲縮付与処理のすぐ後とマルチフィラメントを巻き出す前の2回に亘って、針布ドラムの適当な位置で、捲縮が付与されたマルチフィラメントに沸点が70~100℃の低温揮発性液体を接触させて、その表面に低温揮発性液体を付着させる。
【0039】
その際、捲縮付与処理直後(第1回目)の付着処理での低温揮発性液体の付着率は、マルチフィラメント全質量の1.5質量%以上であることが好ましい。これにより、捲縮付与処理後のマルチフィラメントを急冷して捲縮を固定させる効果が得られる。また、巻き出す前(第2回目)の付着処理での低温揮発性液体の付着率は、マルチフィラメント全質量の3.0質量%以上であることが好ましい。これにより、針布ドラムからマルチフィラメントを巻き出す際に静電気の発生を抑制して、集束性を向上させることができる。
【0040】
針布ドラム上でマルチフィラメントに低温揮発性液体を付着させる方法は、特に限定されるものではないが、低温揮発性液体と空気とを混合噴射し、ミスト状物として付着させる非接触方式が好ましい。この方法は、ミスト状物を付着させる際に適度の噴射圧がかかるため、針布へのフィラメント群の食い込みが良くなり、マルチフィラメントにより強い捲縮を付与できると共に、加熱及び軟化した捲縮付与マルチフィラメントを、迅速に軟化点以下に冷却することができる。なお、針布ドラム上のマルチフィラメントは、冷却空気などを吹き付けて冷却してもよい。
【0041】
<乾燥>
その後、巻取機に巻取られたマルチフィラメントを乾燥させて、表面に付着している低温揮発性液体を揮発させる。これにより、油剤が実質上付着していない捲縮付与マルチフィラメントが得られる。ここで、「繊維に油剤が実質上付着していない」とは、油剤の付着率が、マルチフィラメントの全質量に対して、0.02質量%以下、好ましくは0.01質量%以下であることをいう。
【0042】
[ステップS3:円筒状濾過層形成工程]
円筒状濾過層形成工程では、巻芯にステップS1で形成した不織布シートを複数層巻回して円筒状濾過層を形成する。
図3は巻芯に不織布シートを巻回する方法を模式的に示す図である。円筒状濾過層を形成する際は、例えば
図3に示すガイドローラ12と、1対の駆動ローラ13a,13bと、加圧機構14を備える装置を用いて、加圧しながら巻芯11に不織布シート10を巻回する。この円筒状濾過層は、この後に形成されるフィラメントワインド型濾過層よりも繊維が密であることが好ましく、具体的には繊維密度が0.3~0.5g/cm
3であることが好ましい。
【0043】
[ステップS4:フィラメントワインド型濾過層形成工程]
フィラメントワインド型濾過層形成工程では、ステップS3で形成した円筒状濾過層上に、ステップS2で形成した捲縮付与マルチフィラメント糸を巻回して、フィラメントワインド型濾過層を形成する。このフィラメントワインド型濾過層は、円筒状濾過層よりも繊維が粗であることが好ましく、具体的には繊維密度が0.2~0.3g/cm3であることが好ましい。
【0044】
前述したステップS1~S4により、ポリオレフィン系繊維を用いて形成された不織布シートからなる円筒状濾過層と、この円筒状濾過層上に、マルチフィラメント糸を巻回して形成されたフィラメントワインド型濾過層とを有し、フィラメントワインド型濾過層は円筒状濾過層よりも繊維密度が粗であり、円筒状濾過層を構成する不織布シートは、ポリオレフィン系繊維内部に油剤が浸透しており、繊維表面に残留している油剤の量が繊維全質量の0.01~0.2質量%であり、フィラメントワインド型濾過層を構成するマルチフィラメント糸は、表面に付着している油剤の量が全質量の0.02質量%以下であるカートリッジフィルタが得られる。
【0045】
以上詳述したように、本実施形態のカートリッジフィルタの製造方法では、油剤を繊維内部に浸透させた不織布シートを用いて形成された円筒状濾過層上に、油剤が実質的に付着していない捲縮付与マルチフィラメント糸を巻回しているため、油剤が実質的に付着していない積層型カートリッジフィルタを製造することができる。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例により、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法及び条件で、積層型カートリッジフィルタを作製した。
【0047】
(1)円筒状濾過層の形成
先ず、高密度ポリエチレンを鞘成分とし、ポリプロピレンを芯成分とする鞘芯型複合繊維を常法により溶融紡糸した後、延伸処理した。次に、スタッフィングボックスにより捲縮数6個/cmの捲縮を付与し、更に分子量600のポリエチレングリコールとオレイン酸とのモノエステルからなる油剤を、付着量が0.35質量%になるように繊維に付着させ、加熱乾燥処理をした。
【0048】
その後、繊維をカットして、繊度7.8dTex、長さ51mmのPE/PP系熱接着短繊維を作製した。その際、繊維への油剤の付着は、油剤に繊維を浸漬するディッピング方法で行った。得られた短繊維をカード機により開繊してウェブにした後、140℃の熱風融着機を5秒間通過させて、エアスルー不織布シートを得た。得られた不織布シートの油剤付着量は、0.03質量%であった。
【0049】
次に、
図3に示す装置を用いて、円筒状濾過層を形成した。具体的には、巻芯11と、第1の駆動ローラ13a及び第2の駆動ローラ13bとの間に、不織布シート10を連続的に通過させ、不織布シート10を加熱すると共に、加圧機構14で巻芯11を加圧しながら、巻芯11に不織布シート10に巻き付け、不織布積層体からなる円筒状濾過層を得た。その際、巻芯11は、巻きつけ開始前に160℃で予備加熱した。また、第1の駆動ローラ13aは温度123℃、周速度2.0m/分に設定し、第2の駆動ローラは温度150℃、周速度3.0m/分に設定した。また、加圧機構14により巻芯11に40g/cmの線圧を印加した。
【0050】
(2)フィラメントワインド型濾過層の形成
先ず、Y断面を有するポリプロピレン製マルチフィラメント(紡出糸単糸の繊度22dTex、フィラメント数120本、トータル繊度2640dTex)を紡糸ノズルから紡出し、風冷却した後、タッチローラにてイオン交換水を付着させた。その直後のプリテンションローラーでの水分付着率は13.1質量%であった。
【0051】
次いで、イオン交換水が付着したマルチフィラメントを、105℃に加熱されたフィードローラーにより速度が550m/分で予熱した後、120℃に加熱されたドローローラーにて速度1100m/分で2倍延伸処理した。
【0052】
次に、延伸処理されたマルチフィラメントを、エアー温度190℃、エアー圧力29.4N/cm2のジェットノズルにて、速度87m/分、針密度150本/cm2の針布ドラム上に噴射し、マルチフィラメントに流体捲縮を付与した。そして、針布ドラム上において、噴射位置から20cm進行した位置で、2流体微噴射ノズル(スプレーインクシステムジャパン社製 AIR ATOM 1/4)を用いて、圧縮エアー圧7.8N/cm2、供給量30mL/分でイオン交換水をマルチフィラメントに付着させた。その後、冷却エアーで針布ドラムごと冷却した。冷却直後のマルチフィラメントにおける水分付着率は3.0質量%であった。
【0053】
引き続き、マルチフィラメントを針布ドラムから引き剥がし、巻取りボビンに巻取りを行うが、その際、針布ドラム上の引き剥がし位置の手前20cmの位置で、前述した2流体微噴霧ノズルを用い、同様の条件でマルチフィラメントにイオン交換水を付着させた後、速度800m/分で巻取った。巻取った状態における流体捲縮付与ポリプロピレン製マルチフィラメントの水分付着率は4.9質量%であった。これにより、トータル繊度1320dTex(フィラメント数120本)の流体捲縮付与ポリプロピレン製マルチフィラメントを得た。
【0054】
更に、流体捲縮付与マルチフィラメントを、常温下で、48時間乾燥処理して、フィラメントワインド型濾過層の原糸とした。このマルチフィラメントの油剤付着率は0.0質量%であった。
【0055】
ここで、水分付着率の測定は、紡糸-冷却後のタッチローラによるイオン交換水付着直後の位置、針布ドラム上の2流体微噴霧ノズルでのイオン交換水付与後の冷却エアーでの冷却直後の位置、及び巻取り機に巻き取ったボビンの3箇所で測定した。測定は、各箇所で約50gのサンプルを採り、乾燥前の質量α、ファインオーブン中110℃で16時間乾燥を行った後の質量βを計測し、下記数式4により算出した。
【0056】
【0057】
また、繊維油剤付着率の測定は、迅速残脂抽出装置(東海計器社製R-II型)により、フィラメント質量約2gに対し、油剤洗浄溶剤としてエタノール/メタノール混合溶剤(混合質量比2/1)を20mL用いて行った。
【0058】
(3)積層型カートリッジフィルタの作製
幅250mmにカットした円筒状濾過層を巻き取り軸に取り付け、回転させながら、その外周に流体捲縮付与マルチフィラメントを、円筒の軸方向に往復(トラバース)させながら巻き付けて、ワインド数6.4160、フィラメント長290mのフィラメントワインド型濾過層を積層し、油剤が実質上付着していない積層型カートリッジフィルタを得た。
【0059】
前述した方法で製造された積層型カートリッジフィルタは、小さい異物を効率的に取り除きながらも、大きな異物による目詰まりが起こりにくく、長寿命であった。以上の結果から、本発明によれば、油剤除去工程を行わなくても、濾過層への油剤の付着がなく、濾過性能にも優れたカートリッジフィルタを製造できることが確認された。