IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本オクラロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電界吸収型変調器 図1
  • 特開-電界吸収型変調器 図2
  • 特開-電界吸収型変調器 図3
  • 特開-電界吸収型変調器 図4
  • 特開-電界吸収型変調器 図5
  • 特開-電界吸収型変調器 図6A
  • 特開-電界吸収型変調器 図6B
  • 特開-電界吸収型変調器 図6C
  • 特開-電界吸収型変調器 図6D
  • 特開-電界吸収型変調器 図7
  • 特開-電界吸収型変調器 図8
  • 特開-電界吸収型変調器 図9
  • 特開-電界吸収型変調器 図10
  • 特開-電界吸収型変調器 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007294
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】電界吸収型変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/017 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
G02F1/017 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145938
(22)【出願日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021108430
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中村 厚
(72)【発明者】
【氏名】滝田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊也
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA20
2K102BA02
2K102BA11
2K102BB01
2K102BC04
2K102BC05
2K102BD01
2K102CA18
2K102DA05
2K102DA08
2K102DA11
2K102DD03
2K102EA02
2K102EA08
2K102EA16
2K102EB20
2K102EB29
(57)【要約】
【課題】高速応答性に優れた電界吸収型変調器を提供することにある。
【解決手段】電界吸収型変調器であって、基板と、基板の第1の面に設けられた、第1導電型クラッド層、多重量子井戸層、第2導電型クラッド層を含むメサ構造と、第1導電型クラッド層に電気的に接続される第1導電型電極と、基板の第2の面に設けられた第2導電型電極と、を備え、第1導電型電極は、メサ構造の延伸する方向に沿って配置されるメサ上電極と、外部からの電気信号が入力されるパッド電極と、メサ上電極とパッド電極との間を接続する引き出し線電極と、を有し、メサ構造は、外部より光が入力される光入力端と、該光入力端の逆側の光出力端と、を備え、引き出し線電極の短手方向の中心位置とメサ上電極との接続位置は、メサ上電極の長手方向において、光出力端側に近く、接続位置は、メサ上電極の長手方向の長さに対して、光出力端側から50%未満の位置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の第1の面に設けられた、第1導電型クラッド層、多重量子井戸層、第2導電型クラッド層を含むメサ構造と、
前記第1導電型クラッド層に電気的に接続される第1導電型電極と、
前記基板の第2の面に設けられた第2導電型電極と、を備え、
前記第1導電型電極は、前記メサ構造の延伸する方向に沿って配置されるメサ上電極と、外部からの電気信号が入力されるパッド電極と、前記メサ上電極と前記パッド電極との間を接続する引き出し線電極と、を有し、
前記メサ構造は、外部より光が入力される光入力端と、該光入力端の逆側の光出力端と、を備え、
前記引き出し線電極の短手方向の中心位置と前記メサ上電極との接続位置は、前記メサ上電極の長手方向において、前記光出力端側に近く、
前記接続位置は、前記メサ上電極の長手方向の長さに対して、前記光出力端側から50%未満の位置である、
電界吸収型変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の電界吸収型変調器であって、
前記接続位置は、前記メサ上電極の長手方向の長さに対して、前記光出力端側から33%以下の位置である、
電界吸収型変調器。
【請求項3】
請求項1に記載の電界吸収型変調器であって、
前記接続位置は、前記メサ上電極の長手方向の長さに対して、前記光出力端側から20%以下の位置である、
電界吸収型変調器。
【請求項4】
請求項1に記載の電界吸収型変調器であって、
前記接続位置は、前記メサ上電極の長手方向の長さに対して、前記光出力端側から10%以下の位置である、
電界吸収型変調器。
【請求項5】
請求項1に記載の電界吸収型変調器であって、
前記接続位置は、前記メサ上電極の前記光出力端側の端部である、
電界吸収型変調器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の電界吸収型変調器であって、
前記多重量子井戸層の長手方向の長さは、100μm以上150μm以下である、
電界吸収型変調器。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の電界吸収型変調器であって、
前記引き出し線電極は、前記メサ上電極の長手方向に対して垂直に配置される、
電界吸収型変調器。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の電界吸収型変調器であって、前記引き出し線電極は、前記メサ上電極の長手方向に対して傾いて配置される、
電界吸収型変調器。
【請求項9】
請求項7または8に記載の電界吸収型変調器であって、前記引き出し線電極は、前記光入力端側に向かって湾曲する形状である、
電界吸収型変調器。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の電界吸収型変調器であって、
前記メサ構造を挟むように埋め込み層をさらに備える、
電界吸収型変調器。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の電界吸収型変調器であって、
前記メサ構造は、前記第1導電型クラッド層の上にコンタクト層をさらに備える、
電界吸収型変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界吸収型変調器、特に電極の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
光変調技術は、光ファイバ通信、自由空間光通信、光パルスを用いた情報処理など、多くの用途で利用されており、高速応答可能な小型光変調器が求められている。このような光変調器のひとつに、半導体の電界吸収効果を用いた電界吸収型変調器(EA(Electro-Absorption)変調器)がある。EA変調器は多重量子井戸層をi層としたp-i-n構造を有し、p-i-n構造に電圧を印加することで光強度変調を行うことが可能である。EA変調器は例えばInP基板をベースとして、多重量子井戸層をInGaAsP等で構成した構造が知られている。また、Siをベースとしてi層を例えばSiGeとした構造も知られている。また、EA変調器は半導体レーザと一体的に集積された半導体光素子として使用されることが多い。
【0003】
特許文献1に、EA変調器のp側電極が、メサに沿ったメサ上電極と、外部から接続されるワイヤがボンディングされるパッド電極と、パッド電極とメサ上電極との間を接続する引き出し線電極と、で構成された構造が開示されている。特許文献2に、EA変調器が光を吸収することで生じるキャリア(ホトカレント)は、EA変調器のメサに沿った方向に分布を持つことが開示されている。さらに、その際の放熱性を向上させるために引き出し線電極とメサ上電極の接続部を光の入力端側に設けている構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-145973号公報
【特許文献2】特開2009-222965号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Ido, S. Tanaka, M. Suzuki, M. Koizumi, H. Sano, H. Inoue, "Ultra-high-speed multiple-quantum-well electro-absorption optical modulators with integrated waveguides," Journal of Lightwave Technology, vol. 14, no. 9, pp. 2026-2034, Sept. 1996.
【非特許文献2】R. Sahara, K. Morito, K. Sato, Y. Kotaki, H. Soda, N. Okazaki, "Strongly improved frequency response at high-optical input powers from InGaAsP compensated strain MQW electroabsorption modulators," IEEE Photonics Technology Letters, vol. 7, no. 9, pp. 1004-1006, Sept. 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、EA変調器の応答速度の低下は、変調器の静電容量が主要因であると報告されている。さらに、非特許文献1には、変調器長を短くすることで応答速度が改善することが報告されている。一方、変調器長を短くすると光吸収の総量が低下し、消光比が小さくなり、光伝送においては通信誤り率増加の一因となりうる。このため、変調器長が短いEA変調器において高消光比を得るには、単位長さ当たりの光吸収量の増加が必要となる。しかし、光吸収量が増加することは、すなわちEA変調器で発生するキャリア(光励起キャリア)の増加につながる。発生した光励起キャリアが滞りなくEA変調器から引き出されれば問題はないが、十分に引き出されない場合がある。その場合、キャリアはEA変調器内、特に多重量子井戸層内に留まる。その結果、多重量子井戸層のキャリアパイルアップが生じる。キャリアパイルアップは、EA変調器の特性、例えば消光特性、応答速度の低下へとつながる。非特許文献2には、EA変調器への入力光強度や光吸収量によっては消光特性、応答速度が低下することが示されている。
【0007】
特許文献2に開示されているように、EA変調器の光入力側は光出力側と比較して、ホトカレントが大きい。EA変調器の光軸方向に対して略一定の電圧が印可されていると仮定すると、ホトカレントの分布は光励起キャリアの分布の傾向を示していると言える。つまり、光入力側は光出力側と比較して、多重量子井戸から引き出さなければならないキャリアが多いことを示している。EA変調器に印可される電圧が直流、もしくはkHz未満の低速であればキャリアは滞りなく引き出されたとしても、GHz以上の交流電圧が印可されている場合は、キャリアが引き出されない可能性がある。キャリアが高速に引き出されない場合、消光特性の低下、さらに周波数特性、例えば帯域が低下する。この影響は、単位長さ当たりの光吸収量が大きい場合、例えば短変調器や光吸収が増加する高温において顕著である。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、高速応答性に優れた電界吸収型変調器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示に係る電界吸収型変調器は、基板と、前記基板の第1の面に設けられた、第1導電型クラッド層、多重量子井戸層、第2導電型クラッド層を含むメサ構造と、前記第1導電型クラッド層に電気的に接続される第1導電型電極と、前記基板の第2の面に設けられた第2導電型電極と、を備え、前記第1導電型電極は、前記メサ構造の延伸する方向に沿って配置されるメサ上電極と、外部からの電気信号が入力されるパッド電極と、前記メサ上電極と前記パッド電極との間を接続する引き出し線電極と、を有し、前記メサ構造は、外部より光が入力される光入力端と、該光入力端の逆側の光出力端と、を備え、前記引き出し線電極の短手方向の中心位置と前記メサ上電極との接続位置は、前記メサ上電極の長手方向において、前記光出力端側に近く、前記接続位置は、前記メサ上電極の長手方向の長さに対して、前記光出力端側から50%未満の位置である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高速応答性に優れた電界吸収型変調器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電界吸収型変調器集積レーザの上面図である。
図2図1に示す電界吸収型変調器のA-A線断面図である。
図3図1に示す電界吸収型変調器のホトカレントの光軸方向の分布である。
図4図1に示す電界吸収型変調器の多重量子井戸層の電界強度のシミュレーション結果である。
図5図1に示す電界吸収型変調器の多重量子井戸層の電界強度のシミュレーション結果である。
図6A】光軸方向の10GHzの電界強度比とホトカレント分布である。
図6B】光軸方向の20GHzの電界強度比とホトカレント分布である。
図6C】光軸方向の40GHzの電界強度比とホトカレント分布である。
図6D】光軸方向の60GHzの電界強度比とホトカレント分布である。
図7】電界吸収型変調器の長さごとの平均電界強度比を示すシミュレーション結果である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る電界吸収型変調器集積レーザの上面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る電界吸収型変調器集積レーザの上面図である。
図10図9に示す電界吸収型変調器のC-C線断面図である。
図11】本発明の第4の実施形態に係る電界吸収型変調器集積レーザの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる電界吸収型変調器集積レーザ1の上面図である。電界吸収型変調器集積レーザ1は、EA変調器2(電界吸収型変調器)、導波路接続部3、半導体レーザ4が共通の基板に集積された半導体集積素子である。電界吸収型変調器集積レーザ1は、半導体レーザ4と、導波路接続部3と、EA変調器2とがこの順で互いに光学的に接続された集積素子である。半導体レーザ4は、連続光を出射し、導波路接続部3は、半導体レーザ4の出射光をEA変調器2に伝達する。EA変調器2は、半導体レーザ4の発振波長に対応した光を吸収する多重量子井戸層10を備えている。導波路接続部3を通過してEA変調器2に入光した連続光は、EA変調器2にて強度変調され、2値や4値等の変調光信号に変換される。EA変調器2から出射された変調光信号は、前方端面101から出射される。前方端面101には、図示しない誘電体無反射膜が形成されている。また、半導体レーザ4の逆側の端面である後方端面102には、図示しない誘電体高反射膜が形成されている。なお、本実施形態では集積型の例を示すが、本発明がEA変調器単体であっても発明の効果は得られる。
【0014】
半導体レーザ4は、例えば、1.3μm帯で発振するDFB(Distributed Feedback)レーザである。なお、発振する波長帯は、1.55μm帯や他の波長帯であっても構わない。さらには半導体レーザ4は、DFBレーザに限らず、FP(Fabry-Perot)レーザ、DBR(Distributed Bragg Reflector)レーザ、DR(Distributed Reflector)レーザであっても構わない。半導体レーザ4は、通電用の半導体レーザ用p側電極5(第1導電型電極)を備えている。半導体レーザ4は、後述するn側電極14(第2導電型電極)と半導体レーザ用p側電極5との間に電流を注入することで連続光を発振する。
【0015】
EA変調器2は、EA変調器用p側電極105を備えている。図2は、EA変調器2の光軸に垂直なA-A断面の模式図である。n型のn-InP基板9上にメサ構造が設けられ、メサ構造の両側には半絶縁性のInP埋め込み層12が配置されている。メサ構造は、下側からn-InP基板9の一部、i型の多重量子井戸層10、p型InPクラッド層11の順で積層された構造を備えている。これらの層でp-i-n構造が構成される。なお、図示はしないが多重量子井戸層10とn-InP基板9との間にn型光閉じ込め層を配置しても良い。同様に、多重量子井戸層10の上側とp型InPクラッド層11との間にp型光閉じ込め層を配置してもよい。また、図示はしないがp型InPクラッド層11の上にはp型コンタクト層が配置されている。埋め込み層12の上面にはパッシベーション膜13が配置されている。またEA変調器用p側電極105が図示しないp型コンタクト層と接しており、p-i-n構造に対して通電することが可能である。n-InP基板9のメサ構造が形成されている面の逆面にはn側電極14が配置されている。なお、n側電極14はGND電位に接続される。図1に示すように、EA変調器用p側電極105は、メサ構造に沿って設けられたメサ上電極6と、外部からの通電手段(例えばワイヤ)が接続されるパッド電極8と、メサ上電極6とパッド電極8との間を接続する引き出し線電極7と、で構成される。外部からの電気信号はパッド電極8に入力され、電気信号は引き出し線電極7を介しメサ上電極6に入力される。なお、EA変調器用p側電極105を構成する各電極は、一体的に設けられたものであり、すべて同じ構成を有している。EA変調器用p側電極105は、p型コンタクト層側からTi/Pt/Auの3層で構成されている。ここで引き出し線電極7は、メサ上電極6の光出力端側の先端に接続されている。
【0016】
多重量子井戸層10は、メサ上電極6の光出力端側の端部までの領域に設けられ、当該端部から前方端面101までの間には図示しないメサ構造を有する導波路が設けられる。なお、メサ構造を有する導波路ではなく、メサ構造を有しない窓構造が設けられても構わない。
【0017】
図3にEA変調器2が光吸収をした際に発生するホトカレントの光軸方向の分布を示す。ホトカレントとは半導体レーザ4の出力光がEA変調器2に伝達されている状態で、EA変調器2に逆バイアスを印可した際に流れる電流を示している。ホトカレントの大きさは、EA変調器2における光吸収量に概ね比例する。つまり、図3の左側が半導体レーザ4側で、右側は前方端面101側を示す。ホトカレントは、位置B、すなわち半導体レーザ4側で大きい。これは、光の入力端側で光励起キャリアが多く発生していることを間接的に示している。ホトカレントは、光入力端から光出力端に向かって減少している。つまりEA変調器2において、ホトカレント分布は光軸方向で一定ではない。ホトカレントは、入力光の強度だけでなく、EA変調器2に印可される電圧の大きさにも比例する。EA変調器2に印可する電圧が大きいほど、ホトカレントは増加する。EA変調器2に印加された電圧は、外部からの通電手段を介してパッド電極8に印可される。パッド電極8に印可された電圧は、引き出し線電極7を介してメサ上電極6に伝わる。そして、当該電圧は、メサ上電極6からp型コンタクト層、p型InPクラッド層11へと伝わり多重量子井戸層10に印可される。
【0018】
電圧印可時におけるメサ構造の光軸に沿った方向の電界強度は、印加される電圧がDC電圧である場合は一定である。しかし、高速の交流信号が印加される場合は、メサ構造の光軸に沿った方向の電界強度が一定とならないことを我々は見出した。図4は、電磁界解析で得られた本構造のB-B’断面における多重量子井戸層10の電界強度分布のシミュレーションの結果を示す図である。シミュレーションの条件として、メサ上電極6の長さを150μmとし、引き出し線電極7の光軸に沿った方向の幅(狭いほうの幅)を10μmとした。この時、引き出し線電極7の中心の位置は、メサ上電極6全体からみると長さ方向において光出力端側(B’側)から3%の位置にあることになる。比較例として、引き出し線電極7の中心位置がメサ上電極6の中心位置と一致している構造についてもシミュレーションを行った。中心位置が一致している構造の場合、引き出し線電極7の中心位置は、メサ上電極6全体から見ると、長手方向の光出力端側(B’側)から50%の位置にある。以下、引き出し線電極7の接続位置を、光出力端側から引き出し線電極7の中心までの位置までの割合を用いて、3%の位置や50%の位置等と表記する。図4は、パッド電極8に40GHzの高周波電気信号を印可した場合のシミュレーション結果である。ここでメサ上電極6の長さと多重量子井戸層10の長さは同一としている。実線が本実施形態(3%の位置)の電界強度分布であり、点線が比較例(50%の位置)の電界強度分布である。図4に示すように、比較例の場合はおおむねどの位置でも電界強度は一定であるのに対して、本実施形態におけるEA変調器2の電界強度は位置により値が異なることがわかる。具体的には、光入力端側(B側)では比較例の電界強度より大きく、光出力端側(B’側)では比較例の電界強度より小さくなっている。電界強度に発生する分布は、引き出し線電極7とメサ上電極6との接続位置が、光出力端側(B’側)であることに起因している。パッド電極8に印可された高周波電気信号は、引き出し線電極7を伝わりメサ上電極6へと伝達される。メサ上電極6に印可された電気信号は、メサ上電極6に伝達されるとともに、p型コンタクト層を介して多重量子井戸層10に伝達される。この時、メサ上電極6と引き出し線電極7との接点から見て、メサ上電極6は電気的にはオープンスタブとして動作していると考えられる。その結果、メサ上電極6上で電界強度に分布が生じると推測される。この時、ホトカレント(つまり光励起キャリア)が大きい光入力端側に強い電界を掛けることが可能となっている。また電界強度は光入力端側から光出力端側に向かって徐々に減少している。しかし、光励起キャリアの量(ホトカレントの量)も同様に減少している。引き出すべきキャリアが少ないために、電界強度が小さくなったとしても十分にキャリアを引き出すことが可能であり、キャリアパイルアップは起こりづらい。結果として、EA変調器2全体でキャリアパイルアップを抑制することが可能となる。光励起キャリアは印可される電圧が大きいほど、多重量子井戸層10から引き出すことが可能となり、本実施形態に係るEA変調器2はキャリアの引き出し性に優れた構造となっている。キャリアの引き出し性に優れているため、キャリアパイルアップを抑制し、消光特性および高周波特性に優れたEA変調器2を提供することができる。
【0019】
図5は、パッド電極8に10GHzから60GHzまでの各高周波電気信号を印可した場合における、EA変調器2の電界強度のシミュレーション結果である。なお、電界強度の絶対値は周波数により変わるため、それぞれB’の位置を基準に規格化している。10GHzにおいては、光入力端側Bと光出力端側B’の位置で電界強度はそれほど変わらない。しかし、周波数が大きくなるにつれて光出力端側B’に対して、光入力端側Bの電界強度が大きくなっている。つまり、ホトカレントが大きい光入力端側Bにより強い電界を印可することで得られる効果は、周波数が高くなるほど大きいことが分かる。駆動周波数が高いほうがパイルアップしやすい傾向にあり、本発明は特に駆動周波数が高い場合にパイルアップの抑制効果を得ることが可能で、56Gbpsに対応したEA変調器などに有効である。
【0020】
引き出し線電極7の接続位置の違いによる電界強度分布について検証した。本実施形態の接続位置を3%(最先端)、10%、20%及び33%(第4の実施形態及び図11参照)の位置とし、比較例を50%の位置(中央)として、上記と同様のシミュレーションを行った。その他の条件は、上記と同一である。図6Aに10GHz、図6Bに20GHz、図6Cに40GHz、そして図6Dに60GHzの結果を示す。各図の横軸は光軸方向の位置を示す。Iphとしてプロットされている線はDC電圧を印可した際のホトカレントを示し、右側の軸に対応する。他のプロットは、接続位置が50%の位置である場合における電界強度を基準として、上述した接続位置ごとの規格化した電界強度比であり、左側の軸に対応する。
【0021】
図6Aに示す10GHzの電気信号の場合、電界強度は接続位置に関わらず概ね同等の傾向にあり、光軸方向のどの位置でも50%の位置の場合と比べて概ね同等である。また、接続位置による電界強度の差はほとんどみられない。図6Bに示す20GHzの電気信号の場合、光入力端側B側の方が電界強度比は大きくなり、光出力端側B’では電界強度比が小さくなる傾向が見られる。この傾向は、40GHzの図6Cや60GHzの図6Dより明らかなように、周波数が高いほど顕著にみられる。また接続位置による違いとして、接続位置が光出力端側B’に近い3%、10%、20%の位置の電界強度比は概ね同等であるが、33%の位置の電界強度比は、周波数による増加率が小さくなっている。この結果より、引き出し線電極7とメサ上電極6との接続位置を、メサ上電極6の中央部より光出力端側B’に近くすることで、光入力端側Bの電界強度比を大きくすることが可能となることが分かる。特に、33%以下の位置に寄せることで、効果は顕著である。また、製造ばらつきを考慮して安定した効果を得るためには、電界強度比が概ね同等となる20%以下とすることがより好ましい。
【0022】
接続位置に関わらず、光軸方向の中心位置より若干光出力端側B’側の位置で、電界強度比は1より小さくなっている。電界強度比が1より小さくなっている領域は、従来の50%と比較して電界強度が小さくなっており、光励起キャリアの引き出し性が低下していることを示している。例えば図6Dに示すように、電界強度比はある位置を境に1より小さくなっている。電界強度比が1より小さいということは、従来の接続位置が50%の構造と比較して、電界強度が小さくなっていることを示している。電界強度が小さいことは、光励起キャリアの引き出し性が低下することを示す。従って、電界強度比が1より小さい領域においては、従来構造と比較して高周波特性が低下する可能性があると言える。しかし、図6Dで示すようにホトカレント量は光入力端側Bから光出力端側B’との間で一定ではなく、光出力端側B’に向かって減少する分布を持つ。電界強度比が1以上の領域のホトカレントの総量は、全ホトカレント量の95%を占めている。逆に言えば、電界強度比が1より小さい領域のホトカレントの総量は、全ホトカレント量の5%に過ぎない。この全ホトカレント量の5%が分布する領域の電界強度が従来構造と比較して小さくなったとしても、ホトカレントの吐き出し性に対する影響は小さい。むしろ、全ホトカレント量の95%が分布する領域の電界強度を大きくすることによるホトカレント(光励起キャリアに比例)の引き出し性の向上効果が大きく、トータルとして消光特性の向上、高周波特性の向上が得られる。つまり、本発明の特徴は引き出し線電極7の接続位置をメサ上電極6の中心部(50%)から光出力端側B’にずらすことで、メサ構造の光軸に沿った方向の電界強度の分布を変えたことにある。従来構造においては、メサ構造の光軸に沿った方向の電界強度は略一定であったところを、本発明では、ホトカレントが少ない光出力端側B’の電界強度を減少させる代わりに、ホトカレントが多い光入力端側Bの電界強度を増加させた。その結果、高速応答性に優れたEA変調器を提供できる。
【0023】
次に、多重量子井戸層10の長さ、つまり変調器長Lmodと本発明の効果の関係について検討した。25Gbaud以上の高速駆動に対応するためには、変調器長を短くし寄生容量を低減することが有効である。ここでは56Gbaud以上の駆動に対応することも考慮して、変調器長が上記の150μmである場合に加えて、100μm及び125μmである場合について、シミュレーションを行った。また、図6Aから図6Dと同様に、引き出し線電極7とメサ上電極6の接続位置ごとにシミュレーションを行った。なお、引き出し線電極7の幅は変更していない。
【0024】
図7にシミュレーション結果を示す。ここでは60GHzの電気信号印可時の結果を示している。横軸は引き出し線電極7の接続位置を示している。縦軸は、図6Aから図6Dと同様に、接続位置が50%の位置である場合における電界強度を基準として、規格化した電界強度比である。さらに、図6A乃至図6Dから明らかなように電界強度比は光軸方向の位置において分布を持っている。そのため、図7では、メサ上電極6の光入力端側B側の領域であって、全ホトカレント量の95%が分布する領域の電界強度比の平均を縦軸としている。図7に示すように、どの変調器長であっても、電界強度の向上効果が得られることがわかる。またその効果は、変調器長が長いほうが大きい。さらに、変調器長と平均電界強度比の向上効果は概ね比例していることが読み取れ、少なくとも変調器長が100μm以上150μm以下の範囲においては、引き出し線電極7の接続位置を光出力端側B’側に寄せることで上記効果が得られることが分かる。ただし、引き出し線電極7の接続位置が33%で、変調器長が100μmの場合は平均電界強度比の向上効果は小さい。変調器長に依らず平均電界強度比の向上効果を得るためには、引き出し線電極7の接続位置が20%以下であることが好ましい。さらに10%以下になると、より平均電界強度比の向上効果はピークとなるため、この位置に接続することも好ましい。
【0025】
なお、本実施形態においては多重量子井戸層10とメサ上電極6の長さを同じとして計算したが、実際は製造ばらつきを考慮して多重量子井戸層10の方が若干長い場合がある。その場合であっても、本発明の効果が十分に得られる。
【0026】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態にかかる電界吸収型変調器集積レーザ201の上面図である。第1の実施形態に示した電界吸収型変調器集積レーザ1との違いは、EA変調器202の構造のみである。光軸方向において、パッド電極8の中心位置は、メサ上電極6の中心位置と一致している。引き出し線電極7は、光軸に対して45度傾いている。メサ上電極6は長方形であり、メサ上電極6の右上(前方端面101側かつメサ上電極6のパッド電極8側)の頂点と、引き出し線電極7の上側の頂点が一致した位置で、メサ上電極6と引き出し線電極7は接続する。メサ上電極6の長さは150μmであり、引き出し線電極7の狭いほうの幅は10μmである。そのため、引き出し線電極7の中心位置は、メサ上電極6の光出力端側から見て約5%の位置に接続されている。メサ上電極6と前方端面101の間は窓構造となっている。本構造においても第1の実施形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。さらに、第1の実施形態で示した電界吸収型変調器集積レーザ1と比較して、パッド電極8をより素子の内側(図8の下側)に配置することができるために、電界吸収型変調器集積レーザ全体の長さを短くすることができる。なお、ここでは引き出し線電極7は光軸に対して45度傾けたが、これに限定されず傾ける角度は任意である。また引き出し線電極7は、直線に限定されず曲線であっても構わない(第4の実施形態参照)。ただし、引き出し線電極7は寄生容量を発生させる要因となるため、出来るだけ面積は小さいほうが好ましい。
【0027】
[第3の実施形態]
図9は、本発明の第3の実施形態にかかる電界吸収型変調器集積レーザ301の上面図である。図10は、EA変調器302の光軸に垂直なC-C断面の模式図である。第1の実施形態に示した電界吸収型変調器集積レーザ1との違いは、EA変調器302の構造のみで半導体レーザ4は同一構造である。EA変調器302の表面側の電極であるEA変調器用n型電極305のうち、メサ上電極6はメサ構造の上部に配置されている。またパッド電極8は、形状が長方形となっている。引き出し線電極7は、メサ上電極6とパッド電極8との間を接続しており、略L字形状となっている。また図10に示すように、引き出し線電極7はメサ構造の側面を伝わってメサ上電極6に接続されている。この時、メサ構造の側部と引き出し線電極7との間には図示しない絶縁膜が配置されている。
【0028】
図10に示すように、多層構造は、p-InP基板109(p型基板)、多重量子井戸層10、n-InPクラッド層110(n型クラッド層)で構成されている。メサ構造が形成されていない裏面側にはp側電極314が形成されている。ここでp-InP基板109は、p型のクラッド層としても機能する。またn-InPクラッド層110は、コンタクト層としても機能する。メサ構造は、p-InP基板109の一部と、多重量子井戸層10と、n-InPクラッド層110とで構成されている。第1の実施形態に示したEA変調器2と異なり、メサ構造の側部には埋め込み層12は配置されていない。ここでは最小構成を示しているが、必要に応じて適宜光閉じ込め層や抵抗を下げるためにメサ構造の最上層にコンタクト層、そして半導体層を保護するためのパッシベーション膜が配置されても良い。
【0029】
本実施形態においても、引き出し線電極7は、メサ上電極6に対して中心よりも光出力端側B’側に接続されている。本構成であっても第1の実施形態で示した光入力端側Bの電界強度を大きくするという効果を得ることができる。つまり、p-i-n構造を備えたEA変調器において、p側、n側のいずれかの半導体に接続されるEA変調器用電極が次の構成を備えていれば発明の効果を得ることができる。すなわち、EA変調器用電極はメサ構造の上に配置されるメサ上電極と引き出し線電極を備え、引き出し線電極はメサ上電極の光出力端側に接続されている。また、引き出し線電極7が略L字形状であるため、フォトリソグラフィによる製造が容易である。
【0030】
[第4の実施形態]
図11は、本発明の第4の実施形態にかかる電界吸収型変調器集積レーザ401の上面図である。第1の実施形態に示した電界吸収型変調器集積レーザ1との違いは、EA変調器402の構造のみである。EA変調器用p側電極405の引き出し線電極7は、光入力端側に向かって湾曲する形状である。引き出し線電極7の接続位置は、光出力端側から33%の位置である。EA変調器用p側電極405のメサ上電極6の長さは150μmであり、引き出し線電極7の狭いほうの幅は10μmである。メサ上電極6と前方端面101の間は窓構造となっている。図6C及び図6Dに示すように、接続位置が33%である本構造においても第1の実施形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。さらに、第1の実施形態で示した電界吸収型変調器集積レーザ1と比較して、パッド電極8をより素子の内側(図11の下側)に配置することができるために、電界吸収型変調器集積レーザ全体の長さを短くすることができる。ただし、引き出し線電極7は寄生容量を発生させる要因となるため、出来るだけ面積は小さいほうが好ましい。
【0031】
本発明は上記実施例に限定されるものではなくEA変調器全般に適用可能であり、引き出し線電極がメサ上電極の中心ではなく光出力端側にずれて接続されていれば、電界強度分布が変化し帯域改善効果が得られるものである。すなわち、パッド電極の形状、引き出し線電極の形状には寄らず、メサ上電極への接続位置によって特性を改善する発明である。またp型、n型は逆であっても構わない。さらに、上記では、接続位置が光出力端側から3%の位置となるときに、接続位置がメサ上電極の光出力端側の端部となる場合について説明した。しかしながら、当該割合は引き出し線電極7の幅とメサ上電極6の長さに応じて決定されるため、引き出し線電極7の端部とメサ上電極6の光出力端側の端部とが一致していれば、当該割合は3%に限らない。
【符号の説明】
【0032】
1,201,301,401 電界吸収型変調器集積レーザ、2,202,302,402 EA変調器、3 導波路接続部、4 半導体レーザ、5 半導体レーザ用p側電極、6 メサ上電極、7 引き出し線電極、8 パッド電極、9 n-InP基板、10 多重量子井戸層、11 p型InPクラッド層、12 埋め込み層、13 パッシベーション膜、14 n側電極、101 前方端面、102 後方端面、105,205,405 EA変調器用p側電極、109 p-InP基板、110 n-InPクラッド層、305 EA変調器用n側電極、314 p側電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11