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  • 特開-セラミドリポソームの製造法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073066
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】セラミドリポソームの製造法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/164 20060101AFI20230518BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20230518BHJP
   B01F 23/41 20220101ALI20230518BHJP
   B01F 31/80 20220101ALI20230518BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K31/164
B01J3/00 A
B01F3/08 A
B01F11/02
A61K9/127
A61P11/02
A61P37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185887
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北浦 次郎
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 久未
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智暁
(72)【発明者】
【氏名】井出 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元信
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
4G035
4G036
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB25
4C076CC03
4C076CC10
4C076DD52
4C076FF16
4C076FF43
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA03
4C206GA25
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA44
4C206MA79
4C206NA14
4C206ZA34
4C206ZB13
4G035AB40
4G036AB25
(57)【要約】
【課題】有機溶媒を使用せず、安定で、アレルギー抑制剤として使用可能なセラミドリポソームの製造法を提供すること。
【解決手段】セラミドを、超臨界二酸化炭素を溶媒とする超音波乳化法により乳化することを特徴とするセラミドリポソームの製造法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミドを、超臨界二酸化炭素を溶媒とする超音波乳化法により乳化することを特徴とするセラミドリポソームの製造法。
【請求項2】
セラミドを超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界状態で超音波処理後、減圧する請求項1記載のセラミドリポソームの製造法。
【請求項3】
セラミドが、N-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシン、N-ステアロイル-D-エリスロ-スフィンゴシン及びN-リグノセロイル-D-エリスロ-スフィンゴシンから選ばれる1種又は2種以上のセラミドである請求項1又は2記載のセラミドリポソームの製造法。
【請求項4】
セラミドのみから構成される、粒子径100nm~300nmのセラミドリポソームを含有するアレルギー性鼻炎予防又は治療剤。
【請求項5】
経鼻投与用である請求項4記載のアレルギー性鼻炎予防又は治療剤。
【請求項6】
アレルギー性鼻炎予防又は治療用の、セラミドのみから構成される、粒子径100nm~300nmのセラミドリポソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミドリポソームの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD300fは細胞内領域に2つのITIMと1つのimmunoreceptor tyrosine-based switch motif(ITSM)をもち、主にマスト細胞を含むミエロイド系細胞に発現する。本発明者らは、結合アッセイとレポーターアッセイも用いたスクリーニング系を開発し、CD300fリガンドとして脂質セラミドを同定した。一方、マスト細胞には高親和性IgE受容体(FcεRI)が発現する。IgEと抗原によりFcεRIが架橋刺激されると、マスト細胞は活性化(脱顆粒)して即時型アレルギー反応を引き起こす。本発明者らは、CD300fとセラミドの結合がマスト細胞のFcεRIシグナルを抑制して即時型アレルギー反応を抑えることを明らかにした(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Izawa,Immunity.2012 Nov 16;37(5):827-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来製造されていたセラミドリポソームは、溶媒として用いた有機溶媒が残存する、リポソームの安定性が低いなどの問題があった。
有機溶媒の残存はアレルギー反応の原因になり、またリポソームの不安定性はアレルギー抑制剤として使用するうえで障害となっていた。
従って、本発明の課題は、有機溶媒を使用せず、安定で、アレルギー抑制剤として使用可能なセラミドリポソームの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、セラミドの溶媒として有機溶媒を使用しないセラミドリポソームの製造法について検討した結果、超臨界二酸化炭素を溶媒とする超音波乳化法で乳化すれば、乳化終了後減圧すると二酸化炭素は蒸発するため溶媒が残存しないセラミドのみからなる、安定なセラミドリポソームが得られること、さらに、得られたセラミドリポソームは経鼻投与によりアレルギー性鼻炎の症状を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[6]を提供するものである。
[1]セラミドを、超臨界二酸化炭素を溶媒とする超音波乳化法により乳化することを特徴とするセラミドリポソームの製造法。
[2]セラミドを超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界状態で超音波処理後、減圧する[1]記載のセラミドリポソームの製造法。
[3]セラミドが、N-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシン、N-ステアロイル-D-エリスロ-スフィンゴシン及びN-リグノセロイル-D-エリスロ-スフィンゴシンから選ばれる1種又は2種以上のセラミドである[1]又は[2]記載のセラミドリポソームの製造法。
[4]セラミドのみから構成される、粒子径100nm~300nmのセラミドリポソームを含有するアレルギー性鼻炎予防又は治療剤。
[5]経鼻投与用である[4]記載のアレルギー性鼻炎予防又は治療剤。
[6]アレルギー性鼻炎予防又は治療用の、セラミドのみから構成される、粒子径100nm~300nmのセラミドリポソーム。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、溶媒が残存しないセラミドのみからなる、安定なセラミドリポソームが得られる。さらに、得られたセラミドリポソームは、100nm~300nmの微粒子状態で安定に保存可能であり、経鼻投与によりアレルギー性鼻炎の症状を抑制し、アレルギー性鼻炎治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ブタクサ花粉によるアレルギー性鼻炎のマウスモデルの試験プロトコールを示す。
図2】ブタクサ花粉によるアレルギー性鼻炎のマウスモデルの試験における点鼻後10分間のくしゃみの回数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリポソームセラミドの製造法は、超臨界二酸化炭素を溶媒とする超音波乳化法により乳化することを特徴とする。
具体的には、セラミドを超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界状態で超音波処理後、減圧することにより製造される。
【0010】
使用されるセラミドは、スフィンゴシン脂質、すなわちスフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物であればよく、スフィンゴシンの種類及び脂肪酸の種類により多くの化合物が含まれる。このうち、CD300fのリガンドとなり、アレルギーを抑制する観点からは、N-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシン、N-ステアロイル-D-エリスロ-スフィンゴシン及びN-リグノセロイル-D-エリスロ-スフィンゴシンから選ばれる1種又は2種以上のセラミドを用いるのが好ましい。
【0011】
セラミドを超臨界二酸化炭素に溶解あるいは分散する。二酸化炭素は、臨界圧力7.38MPa、臨界温度31.1℃であるから、これを超える状態にすればよい。従って、通常、圧力10MPa以上、温度50℃以上の環境でセラミドを二酸化炭素に溶解あるいは分散すればよい。
なお、この時、乳化させるために水も使用する。
水中のセラミド濃度は、0.01g/L以上であるのが好ましく、0.1g/L以上であるのがより好ましく、1g/L以上であるのがさらに好ましい。セラミド濃度の上限は、10g/L以下が好ましく、5g/L以下がさらに好ましい。
また、水は、超臨界二酸化炭素流体に対して、質量比で1倍から10倍程度が好ましい。
【0012】
次に、超臨界状態で、水とセラミドの超臨界流体溶液との混合液を、超音波処理する。超音波処理は、周波数28Hz~100Hz、出力300W~600Wの条件で行うのが好ましい。また、超音波処理は、1回でもよいが、安定したセラミドリポソームを得るためには2回以上行うのが好ましく、2~3回行うのが好ましい。また超音波処理時間は、1回当たり10~60分が好ましい。
なお、この超臨界状態での溶解及び超音波処理は、耐圧容器中で行われる。
【0013】
次に、減圧すれば、二酸化炭素が蒸発するので、得られるセラミドリポソームには、有機溶媒が残存しないので、セラミドのみから構成されるリポソームとなる。
【0014】
本発明方法により得られるセラミドリポソームは、粒子径が100nm~300nmの範囲であり、この粒子径は4℃で3か月間保存しても維持されていた。ここで、リポソームの粒子径は、動的光散乱法、具体的にはマルバーン社のゼータサイザーナノZS90により測定した。
【0015】
本発明により得られたセラミドリポソームを、イソフルラン麻酔下のマウスにp20ピペットマンを用いて経鼻投与したところ、鼻粘膜におけるマスト細胞のCD300fに作用して脱顆粒を抑制し、アレルギー性鼻炎の症状を抑制することを確認した。
従って、本発明方法により得られた、セラミドリポソームはアレルギー性鼻炎の予防治療剤、特に経鼻投与用アレルギー性鼻炎予防治療剤として有用である。
【0016】
経鼻投与製剤としては、本発明のセラミドリポソームをそのまま乳化物の状態で鼻腔内に噴霧できる形態が好ましい。
【実施例0017】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0018】
実施例1
CO2用の高圧ポンプ(PU-2086、ジャスコ、日本)、超音波装置(超音波マルチクリーナーW-118、本多電子、日本)、底部に超音波装置を備えたサーモスタット付きウォーターバス、チラー(TBG020AA、アドバンテック、日本)、耐圧鋼製反応容器(SUS-316;内径20.0mm;外径25.0mm;長さ250mm、GL Sciences、日本)、及び背圧調整器(BPR; AKICO、日本)を用いた。耐圧容器とBPRの間に圧力計(GLT-21-25MPa、三木下精機製造株式会社、日本)を接続して圧力を測定した。
蒸留水とセラミドを入れた耐圧容器を1/16インチのチューブでシステムに接続し、耐圧容器からバイブレーターまでの距離が13cmの73℃に制御されたウォーターバスに水平に配置した。二酸化炭素は、サイフォンタイプのシリンダーから、内容物を液相に維持するためにチラーチューブを通してポンプで送った。次に、内容物を水浴中で超臨界状態に加熱してから、耐圧容器に導入した。圧力は20MPaのBPRによって制御した。耐圧容器内の温度と圧力が目的の状態に達したら、45kHz、600Wで超音波処理を開始した。60分の処理後、耐圧容器を15分間垂直に向け、BPRを調整して上部から減圧した。調製したリポソームは、容器を開けて回収し、冷蔵庫に保管した。セラミドまたはPSを0.01g/Lの濃度でリポソームの材料として使用した。
【0019】
得られてリポソームの粒子径を、マルバーン社のゼータサイザーナノZS90で測定した。
その結果、リポソームの粒子径は100nm~300nmの範囲であった。
また、4℃で3か月保管した後測定したリポソームの粒子径も同様であった。
【0020】
実施例2
野生型Balb/cマウスにブタクサ花粉を2週間間隔で2回投与(ブタクサ花粉で免疫)して、その2週間後にブタクサ花粉を4日連続で点鼻(チャレンジ)してくしゃみの回数を計測した。このアレルギー性鼻炎モデルでセラミドリポソームの効果を検証した。プロトコールを図1に示す。
【0021】
<免疫>
Day0:(免疫1回目)1匹あたりブタクサ花粉100μgとアラムアジュバント100μLを前日夜から常温で一晩攪拌した。その50μLをマウスの左右の足底に皮下注射した。
Day14:(免疫2回目)1匹あたりブタクサ花粉100μgとPBS200μLを常温で約1時間攪拌した。その200μLをマウス腹腔に注射した。
【0022】
<チャレンジ>
Day28・29・30・31(4日連続):1匹あたりブタクサ花粉1mgとPBS20μLを常温で約1時間攪拌した。その20μLをイソフルラン麻酔下のマウスにp20ピペットマンを用いて点鼻した。麻酔が覚めた直後から、10分間のくしゃみの回数を計測した。
【0023】
<治療>
Day27・28・29・30・31(5日連続):マウスをコントロール群とセラミドリポソーム投与群の2群に分けた。ブタクサ花粉をチャレンジする前日より5日連続で(ブタクサ花粉の点鼻があるときは、花粉の点鼻の3~5時間前に)コントロールとなる蒸留水またはセラミドリポソーム(0.01g/L)の20μLをイソフルラン麻酔下のマウスにp20ピペットマンを用いて点鼻した。
その結果、図2に示すように、セラミドリポソーム投与群ではコントロール群と比較してくしゃみの回数が有意に減少することを確認した。
図1
図2