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特開2023-73074品質管理システム、品質管理方法、品質管理プログラム、及び、情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073074
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】品質管理システム、品質管理方法、品質管理プログラム、及び、情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20230518BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20230518BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185896
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】591285527
【氏名又は名称】大和鋼管工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎市郎
(72)【発明者】
【氏名】高梨 怜雄
(72)【発明者】
【氏名】中山 優美
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA21
3C100AA29
3C100AA56
3C100AA57
3C100AA70
3C100BB04
3C100BB05
3C100BB27
3C100BB34
3C100CC03
3C100DD05
3C100DD22
3C100EE10
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】製品の品質に係る判断精度の向上が容易な品質管理システムを提供する。
【解決手段】製造過程の鋼管の撮影画像に関する撮影画像データ、鋼管に付加された識別情報、及び、鋼管の撮影時刻情報を紐づけて保存するデータベースと、
撮影画像データを用いて鋼管の良否の判断を行う良否判断部40と、
良否判断部40により不良が発見されなかった鋼管について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された鋼管の識別情報を取得する取得部52と、
取得部52が取得した識別情報、及び、撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データをデータベースから特定する特定部54と、
特定部54が特定した撮影画像データを教師データとして、良否判断部40に良否の判断の学習を行わせる学習部56と、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存するデータベースと、
前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行う良否判断部と、
前記良否判断部により不良が発見されなかった前記製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された前記製品の前記識別情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、前記撮影画像データを前記データベースから特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記良否判断部に良否の判断の学習を行わせる学習部と、を備えた品質管理システム。
【請求項2】
前記特定部が、前記製品の搬送速度と、前記識別情報の付加に係る付加時刻情報と、前記製品の撮影が行われた位置から前記識別情報が付加された位置までの距離である撮影距離と、に基づき、前記撮影時刻情報が示す撮影時刻を算出して前記撮影画像データを探し出す請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項3】
製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけてデータベースに保存する第1工程と、
前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行う第2工程と、
前記第2工程で不良が発見されなかった製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された製品の前記識別情報を取得し、
取得された前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データを前記データベースから特定し、
特定された前記撮影画像データを教師データとして、良否の判断の学習を行わせる第3工程と、を備えた品質管理方法。
【請求項4】
前記製品の搬送速度と、前記識別情報の付加に係る付加時刻情報と、前記製品の撮影が行われた位置から前記識別情報が付加された位置までの距離である撮影距離と、に基づき、前記撮影時刻情報が示す撮影時刻を算出して前記撮影画像データを特定する請求項3に記載の品質管理方法。
【請求項5】
データベースに、製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存し、
良否判断部に、前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行わせ、
取得部に、前記良否判断部により不良が発見されなかった製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された製品の前記識別情報を取得させ、
特定部に、前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データを前記データベースから特定させ、
学習部に、前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記良否判断部に良否の判断の学習を行わせる品質管理プログラム。
【請求項6】
製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存されたデータベースと、
不良が発見された製品の前記識別情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データを前記データベースから特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記製品の良否の判断を行う学習モデルを生成する生成部とを備えた、情報処理装置。
【請求項7】
前記特定部が、前記製品の搬送速度と、前記識別情報の付加に係る付加時刻情報と、前記製品の撮影が行われた位置から前記識別情報が付加された位置までの距離である撮影距離と、に基づき、前記撮影時刻情報が示す撮影時刻を算出して前記撮影画像データを特定する請求項6に記載の情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鋼管等の製品に係る品質管理システム、品質管理方法、品質管理プログラム、及び、情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
後掲の特許文献1には、カメラ等の撮像装置により取得した撮像画像に基づいて、対象物の検査を行う技術が開示されている。特許文献1に開示された撮像処理装置においては、人工知能が用いられている。特許文献1に開示された撮像処理装置は、実際の検査処理を行う前に、予め対象物の良品と不良品とを用いて人工知能の学習(AI学習)を行う(段落0027など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-164272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたようにAI学習を行う検査装置や検査システムにおいては、一般に、多くの種類の教師データをAI学習に使用できれば、判断の精度(AIの判断精度や、AIを用いた検査装置や検査システムの判断精度)を高めることができる。しかし、検査装置や検査システムの稼働開始前に収集できる教師データには限度があり、検査装置や検査システムの稼働当初から高い判断精度を得ることは難しい。
【0005】
また、検査装置や検査システムの稼働開始後にも、検査装置や検査システムによって検出されなかった不良品が、例えば品質管理担当者等の目視により事後的に発見されることなどがある。このような場合は、教師データを追加してAI学習を行わせることにより、判断精度を向上させることが可能である。しかし、AI学習を効率よく容易に行わせるためには、教師データに係る質の確保が必要である。そして、質の高い教師データを得るためには、例えば、ノイズとなるような情報が含まれることは望ましくない。
【0006】
本発明は、上述のような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、製品の品質に係る判断精度の向上が容易な品質管理システム、品質管理方法、品質管理プログラム、及び、情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による品質管理システムの特徴は、製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存するデータベースと、
前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行う良否判断部と、
前記良否判断部により不良が発見されなかった前記製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された前記製品の前記識別情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、前記撮影画像データを前記データベースから特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記良否判断部に良否の判断の学習を行わせる学習部と、を備えたことである。
【発明の効果】
【0008】
製品の品質に係る判断精度の向上が容易な品質管理システム、品質管理方法、品質管理プログラム、及び、情報処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る品質管理システムの概要を説明するための図である。
図2】製品製造システムの概要を説明するための図である。
図3】鋼管の製造プロセスを説明するための図である。
図4】管理データベースにおける管理レコード構成の一例を説明するための図である。
図5】(a)は良品の撮影画像を例示するための図、(b)は不良品の撮影画像を例示するための図、(c)は不良品と判断されない程度の影画像が映っている撮影画像を例示するための図である。
図6】品質管理システムの機能の概要を説明するための図である。
図7】品質管理システムにおける処理手順の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<品質管理システム1の概要>
以下に、本発明の実施形態について、図面に基づき説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る品質管理システム1の構成を簡略化して示す。この品質管理システム1は、製品の製造を行う製品製造システム(以下では「製造システム」と称する)10、人工知能(AI)を利用して製品の良否判断(製品が良品であるか不良品であるかの判断)を行う良否判断部40、及び、良否判断部40の判断精度を高める最適化部50などを備えている。
【0011】
製造システム10、良否判断部40、及び、最適化部50は、図1に示すような通信網CNを介して通信することが可能である。通信網CNとしては、例えば、インターネット、LAN、WAN、公衆電話回線、基地局、移動体通信網、及び、ゲートウェイなどを介して相互に接続されたもの(所謂クラウドを含む)を例示できる。また、製造システム10、良否判断部40、及び、最適化部50は、図示は省略するが、通信I/F部を有している。製造システム10、良否判断部40、及び、最適化部50は、通信I/F部を介し、所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行する。以下に、製造システム10、良否判断部40、及び、最適化部50の構成について説明する。
【0012】
<製造システム10>
先ず、本実施形態では、製品の一例として、鋼管について説明する。図2は、製造システム10における一部の構成を概略的に示す。製造システム10は、鋼帯材12から鋼管14を製造するものとなっている。
【0013】
製造システム10においては、ロール状(コイル状)に巻かれた帯状の鋼帯材12が搬送路13に引き出される。引き出された鋼帯材12は、所定の前処理(連続工程)を経て、所定の長さに切断され、円筒状に成型されて、鋼管14となる。ここで、連続工程において鋼管14となる素材は、鋼帯材12の他、鉄又は非鉄系の単体もしくは複合体であってもよい。また、ここで用いられる素材は、有機物または無機物によりコーティングされていてもよい。
【0014】
搬送路13には、連続工程で用いられる装置類として、成形機16、溶接機17、撮影装置18、マーキング装置19、読み取り装置20、及び、切断機21等が配置されている。これらのうち、成形機16は、図2図3に示すように、搬送路13上を移動する帯状の鋼帯材12を丸め、管状に成形する。図3においては、鋼帯材12の長手方向に沿った縁部(側縁部)を突き合わせるようにして、鋼帯材12が丸められている。
【0015】
なお、図示は省略するが、成形機16は、例えば、鋼帯材12を螺旋状に丸めて管状に成形された鋼管(スパイラル鋼管)を形成するものであってもよい。また、搬送路13としては、例えば、全長が100~120m程度のものを例示できる。搬送路13の長さは、これに限定されるものではなく、種々に変更が可能である。
【0016】
溶接機17は、管状に成形された鋼帯材12の縁部を溶接する。なお、図2では省略されているが、前処理用の装置として、鋼帯材12を加熱する加熱装置や、溶接により生じたビートを切削するビート切削機などを追加してもよい。
【0017】
撮影装置18は、搬送路13を流れる鋼管14を上方から撮影する。撮影装置18は、図示は省略するが、カメラや照明機器等を備えており、これらのカメラや照明機器は、搬送路13の上方における一定の位置に設置されている。撮影装置18は、カメラにより一定の、位置、距離、角度、倍率、及び、範囲(視野)で、搬送路13の鋼管14を撮影できる。
【0018】
ここで、撮影装置18は、動画撮影するものであっても、所定のタイミングで静止画撮影するものであってもよい。また、撮影装置による撮影位置は、搬送路13(或いは鋼管14)の真上(搬送路13の幅方向における中央部の真上)であっても、斜め上方であってもよい。ここでいう「斜め上方」は、カメラの光学的な軸(視点軸)が、搬送路13の真上の位置から、搬送路13における上流側(或いは下流側)であって、且つ、斜め下を向いた位置を意味する。
【0019】
撮影装置18の撮影範囲は、1本となる分の鋼管14の全体が1枚の画像に収まるよう調整されていてもよく、又は、1本となる分の鋼管14の全体を複数枚の画像に分けて撮影するよう調整されていてもよい。
【0020】
なお、撮影装置18の配置は、溶接機17の後段に限らず、撮影装置18を他の位置に設けることも可能である。例えば、撮影装置18を、マーキング装置19に組み込み、マーキング時の鋼管14を撮影することも可能である。また、撮影装置18を、後述する切断機21に組み込み、切断時の鋼管14を撮影することも可能である。
【0021】
撮影装置18により撮影された画像(撮影画像)は、後述するように、良否判断部40(図1)によるAI判断の判断対象データや、良否判断部40の事後的な最適化のための教師データ(「学習データ」などと称することも可能である)として用いられる。このため、AI判断の判断精度を高めるためには、撮影画像は、許容される範囲内で可能な限り高精細な画像であることが望ましい。
【0022】
また、鋼管14が撮影される際には、撮影が行われた時刻の情報(撮影時刻の情報である撮影時刻情報)が、撮影画像のデータ(撮影画像データ)と紐づけて記憶(保存)される。この撮影時刻情報の用途等については後述する。
【0023】
続いて、マーキング装置19は、撮影装置18を通過した鋼管14に対して、識別情報を逐次マーキングする。鋼帯材12に対してマーキングにより付加される識別情報は、互いに内容が異なる固有の情報である。識別情報は、1本の鋼管14毎に、異なる内容を示す。
【0024】
識別情報としては、識別性や固有性を有していれば、通し番号などを含めて、種々のものを採用できる。本実施形態では、識別情報は、少なくともロット番号の情報(ロット番号情報)を含むものとする。ここでいうロット番号は、鋼管14の1本毎を識別できる情報となっている。鋼管14に識別情報がマーキングされる際には、タイムスタンプの時刻情報(付加時刻情報)が、識別情報と紐づけて記憶(保存)される。この付加時刻情報の用途等については後述する。
【0025】
識別情報を鋼管14に付加するマーキング装置19としては、例えば、レーザマーカーや、多数のドットを打刻する打刻機などを採用できる。また、マーキング装置19としては、例えば、インクによる印刷や、ラベルの貼り付けなどを行うものも採用が可能である。ただし、レーザマーカーや打刻機を用いてマーキングを行うことにより、インクによる印刷や、ラベルの貼り付けなどを行った場合に比べて、識別情報の耐久性や耐候性などが高まる。
【0026】
また、識別情報の表示態様は、記号や数字などをそのまま表示したものであってもよく、或いは、二次元バーコード、QRコード(登録商標)、ドットパターンなどのように図案化されたものであってもよい。
【0027】
ここで、マーキング装置19は、マーキングのためのヘッド部(図示略)を、搬送路13と平行に配置された軸上で往復させることができる。マーキング装置19は、ヘッド部(図示略)を、搬送路13上を移動する鋼帯材12との相対速度が0になるように移動させながら、鋼帯材12の所定の位置に非接触でマーキング処理を施す。
【0028】
ここでいう「鋼帯材12の所定の位置」は、例えば、鋼管14の軸方向の一端部(搬送方向下流側の一端部など)の一つの角を基準位置(原点)とし、当該原点から一定距離の位置などと定めることが可能である。識別情報がマーキングにより付加される領域の大きさは、例えば数センチ角程度とすることが可能である。
【0029】
なお、例えば、搬送路13上における鋼帯材12の移動速度に対して、マーキング装置19のマーキング速度等のマーキング能力が追い付かないような場合には、複数のマーキング装置19を配置してもよい。これにより、鋼帯材12の移動が高速であっても、それに追従できるマーキング能力を確保できる。
【0030】
鋼管14にマーキングされた識別情報は、マーキング装置19の後段に配置された読み取り装置20により読み取られる。読み取り装置20は、識別情報の読み取りが可能なセンサ(図示略)を備えており、鋼管14に付加された識別情報を非接触で読み取る。鋼管14は、外周面に対するメッキ等の表面処理が行われていてもよく、又は、表面処理が行われていなくてもよい。読み取り装置20としては、例えば、カメラやバーコードリーダ等を採用できる。
【0031】
読み取り装置20によって読み取られた識別情報は、製造管理装置23に送信され、製造管理データベース(以下。「データベース」と称する)24に登録される。製造管理装置23は、成形機16、溶接機17、撮影装置18、マーキング装置19、読み取り装置20、及び、切断機21等といった、連続工程に係る各種の装置類を統合的に制御する。データベース24には、識別情報以外にも種々の製造管理情報が登録され、これらの製造管理情報は、鋼管14の製造や出荷等に係る種々の目的で用いられる。データベース24に登録される情報については後述する。
【0032】
切断機21は、所定の加工が行われた鋼帯材12を所定の長さに切断する。これにより、連続した鋼帯材12から鋼管14が1本毎に作製される。切断機21は、入力された指示に従って、複数種類の長さの鋼管14を作製できる。例えば、切断機21は、最短の鋼管14の長さをl(アルファベット小文字のエル)とした場合に、lの整数倍(l、2l、3l、4l、5lなど)の長さで鋼管14を切断できる。また、鋼管14の長さは、基準となる長さlの整数倍に限られるものではない。
【0033】
図4は、データベース24における管理レコードの構成を例示している。データベース24は、多数の管理レコードによって構成されている。データベース24においては、1つの識別情報に対応して1つの管理レコードが設けられている。そして、1つの管理レコードは、「撮影画像ファイル名」、「撮影時刻情報」、「識別情報」、「タイムスタンプ」、「製品情報」、「品質情報」、及び、「出荷情報」などのフィールドで構成されている。
【0034】
各種のフィールドのうち、「撮影画像ファイル名」のフィールドには、撮影装置18で撮影された画像のファイル名(撮影画像ファイル名)が記入される。撮影画像ファイル名は、静止画のファイル名である。撮影装置18が動画を撮影するものである場合は、動画から、例えば一定の時間間隔の静止画に係る撮影画像データが切り出され、各撮影画像データに、連続性のある撮影画像ファイル名が付される。
【0035】
また、撮影装置18が静止画を撮影するものである場合は、撮影により得られた各静止画像に、連続性のある撮影画像ファイル名が付される。撮影装置18が動画を撮影するものである場合も、静止画を撮影するものである場合も、撮影装置18で撮影された画像は、良否判断部40によるAI判断や、最適化部50による良否判断部40の事後的な最適化に用いられる。良否判断部40によるAI判断や、良否判断部40の最適化については後述する。
【0036】
ここで、撮影画像ファイル名に、前述した撮影時刻情報を含むようにしてもよい。さらに、撮影時刻情報には、年、月、日、時、分、及び、秒までが含まれるようにすることが可能である。図4では、「撮影時刻情報」として、「210326150006」や「210326150004」などの数値が登録されている。これらの数値は、対応する「撮影画像ファイル名」の撮影画像データが、西暦2021年03月26日15時00分06秒や、西暦2021年03月26日15時00分04秒の時刻に撮影されたものであることを示している。
【0037】
なお、本実施形態では、2秒以上の間隔で、撮影装置18による撮影が行われる。このため、「撮影時刻情報」に、年、月、日、時、分、及び、秒までが含まれるようにすることで、重複せずに、異なる撮影時刻情報を付与できる。しかし、これに限定されず、例えば、撮影時刻情報に、秒に係る小数点以下の値の情報までが含まれていてもよい。このようにすることで、1秒未満の短い時間間隔で撮影画像データが取得されても、重複せずに、異なる撮影時刻情報を付与できる。
【0038】
続いて、「識別情報」のフィールドには、前述した識別情報が記入される。前述したように、1つの(1種類の)「識別情報」は、1本毎の鋼管14に対応する。また、「タイムスタンプ」のフィールドには、前述したように、識別情報のマーキングが行われた時刻の情報(付加時刻情報)が記入される。このタイムスタンプにより示される付加時刻情報には、年、月、日、時、分、及び、秒までが含まれている。
【0039】
図4では、「タイムスタンプ」により示される付加時刻情報として、「210326150016」や「210326150014」など数値が登録されている。これらの数値は、対応する「撮影画像ファイル名」の撮影画像データが、西暦2021年03月26日15時00分14秒や、西暦2021年03月26日15時00分16秒の時刻にマーキングされた鋼管14のものであることを示している。
【0040】
なお、本実施形態では、「タイムスタンプ」により示される付加時刻情報に、年、月、日、時、分、及び、秒までが含まれるようにすることで、重複せずに、異なる付加時刻情報を付与できるようにしている。しかし、これに限定されず、例えば、時刻情報に、秒に係る小数点以下の値の情報までが含まれていてもよい。このようにすることで、1秒未満の短い時間間隔でマーキングが行われても、重複せずに、異なる付加時刻情報を付与できる。
【0041】
続いて、「製品情報」のフィールドには、製造の各工程に関する工程情報、または、製造工程を経て製品化された鋼管14の詳細を示す製品情報(製造の指示番号など)などの情報が記入される。また、「品質情報」のフィールドには、鋼管14の品質情報(製品の材料や製品グループ識別番号の情報など)が記入される。さらに、「出荷情報」のフィールドには、鋼管14を出荷する際の出荷情報(製品グループ識別番号および製品束の識別番号の情報など)が記入される。
【0042】
<良否判断部40>
次に、前述した良否判断部40について説明する。良否判断部40は、製造システム10で製造された鋼管14に対して人工知能(AI)を利用した良否判断を行い、鋼管14を検査する機能を有している。良否判断部40としては、図示は省略するが、制御部、記憶部、及び、通信I/F(通信インタフェース)部などを備えた一般的なコンピュータ機器を利用できる。
【0043】
良否判断部40は、1台のコンピュータ機器、或いは、機能を分散した複数台のコンピュータ機器により構成されていてもよい。さらに、良否判断部40で実行される各種の処理は、一又は複数のプロセッサによって分散して実行されてもよい。また、良否判断部40は、AIによる判断処理のためのハードウエアであるAI処理ユニット(AI解析エンジン)を備えたものであってもよい。
【0044】
良否判断部40においては、AI学習が行われている。良否判断部40は、AI学習により得られた判断基準に基づき、鋼管14に対する良否判断を行って、不具合のない鋼管14と、不具合のある鋼管14を区別する。AI学習には、鋼管14の撮影画像が教師データとして用いられている。
【0045】
図5(a)、(b)は、鋼管14に係る撮影画像の一例を模式的に示している。図5(a)は良品の撮影画像を例示しており、図5(b)は不良品の撮影画像を例示している。図5(b)に示す不良品の鋼管14においては、黒塗りして示すようにピンホールが発生しており、ピンホール画像46が撮影画像に表れている。これに対し、図5(a)に示す良品の鋼管14においては、ピンホール画像46は表れていない。
【0046】
良否判断部40のAI学習においては、ピンホール画像46が表れている撮影画像データが不良品の教師データとされ、ピンホール画像46が表れていない撮影画像データが良品の教師データとされている。良否判断部40を用いた良否判断システムが稼働開始した後には、画像解析の結果、ピンホール画像46が映った画像が不良品の撮影画像と判断される。
【0047】
ここで、良品の教師データは用いず、不良品の教師データのみを用いてAI学習を行ってもよい。また、AI学習の方法としては、良品と不良品の識別を可能とするものであれば、種々のものを採用できる。AI学習の方法として、例えば、統計的な機械学習(マシンラーニング)の他、深層学習(ディープラーニング)を採用できる。本実施形態では、教師データを用いた教師あり学習が行われる。
【0048】
AI学習においては、教師データが結果や正解として与えられ、回帰モデルや分類モデルが構築される。代表的な教師あり学習の分析手法としては、回帰分析や決定木などが挙げられる。回帰分析では、被説明変数と説明変数の関係を定量的に分析し、分析結果に基づく予測が行われる。決定木では、分類のための基準(境界線)を学習し、未知の状況でデータが分類される。
【0049】
前述のディープラーニング(深層学習)では、ニューラルネットワークを基本とする。ニューラルネットワークにおける3層(入力層、中間層、出力層)のうち、重み付けと変換を行う中間層を1層としてもよい。また、中間層を2層以上として、より深層化してもよい。ニューラルネットワークやディープラーニングにより、画像認識などが効率よく行えるようになる。
【0050】
<最適化部50>
次に、前述した最適化部50について説明する。最適化部50は、良否判断部40にAI学習を行わせ、良否判断部40に判断能力を与える機能を有している。最適化部50としては、図示は省略するが、制御部、記憶部、及び、通信I/F(通信インタフェース)部などを備えた一般的なコンピュータ機器を利用できる。
【0051】
最適化部50は、1台のコンピュータ機器、或いは、機能を分散した複数台のコンピュータ機器により構成されていてもよい。さらに、最適化部50で実行される各種の処理は、一又は複数のプロセッサによって分散して実行されてもよい。
【0052】
最適化部50は、良否判断部40に、製造システム10の稼働前におけるAI学習を行わせる。また、最適化部50は、製造システム10の稼働後に、事後的にAI学習を行わせて、良否判断部40のAI機能を更新(アップデート)させる機能を有している。
【0053】
事後的なAI学習に関し、最適化部50は、製造システム10の稼働後に発見された不良品に係る教師データを利用し、良否判断部40に、不良品の発見のための情報を更新させる。このように良否判断部40に事後的なAI学習を行わせるための処理は、外部から入力される情報(後述する不良品分類やロット番号情報)に基づき、最適化部50が有するAI機能を用いて行われる。最適化部50は、品質管理システム1の事後的な最適化を自動的に行う。
【0054】
最適化部50は、図1に示すように、取得部52、特定部54、及び、学習部56を有するものとすることが可能である。詳細は後述するが、取得部52は、良否判断部40により不良が発見されなかった鋼管14について事後的に不良が発見された場合に、事後的に不良が発見された鋼管14の識別情報を取得する。
【0055】
特定部54は、取得部52が取得した識別情報、及び、鋼管14が撮影された時刻に関する撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データをデータベース24から特定する。学習部56は、特定部54が特定した撮影画像データを教師データとして、良否判断部40に良否の判断の学習を行わせる。
【0056】
取得部52、特定部54、及び、学習部56は、最適化部50に備えられた制御部、記憶部、及び、通信I/F等を用いて構成される。取得部52、特定部54、及び、学習部56は、最適化部50の制御部が、記憶部に記憶された制御プログラムに従い、記憶部の所定の記憶領域や、通信I/F等を利用して実行する機能を、概念上の機能部として分類したものである。
【0057】
<品質管理システム1の自動最適化機能>
図6は、品質管理システム1における自動最適化機能を模式的に示している。図中の左側には、製造システム10のブロックが示され、図中の中央には、品質管理システム1に採用されているシステムソフトウエアのブロック(品質管理プログラム、符号60を付す)が示されている。さらに、図中の右側には、最適化部50を有する最適化システムのブロック(符号70を付す)が示されている。
【0058】
ここで、「システムソフトウエア」の用語は、良否判断部40によるAI判断や、良否判断部40の機能の更新(アップデート)を統合的に管理するためのソフトウエアの意味で用いられている。このシステムソフトウエアは、例えば、製造システム10、良否判断部40、及び、最適化部50を統合的に制御できるソフトウエアとすることが可能である。
【0059】
システムソフトウエアを稼働させることで、各種の端末にダッシュボード表示(操作パネルの表示)を行ったり、製造システム10から必要な情報を取り込んだり、良否判断部40にAI学習を行わせたりすることが可能となっている。システムソフトウエアには、情報の取り込みや、AI利用のための操作入力を可能とする機能が設けられている。
【0060】
システムソフトウエアを介した制御の下、製造システム10、良否判断部40、及び、最適化部50の協働により、良否判断部40の判断精度の向上を図ることができる。さらに、システムソフトウエアには、特定の目的のため、必要に応じてアプリケーションソフトウエア(アプリケーションブログラム)の追加が可能である。
【0061】
ここで、図6では、製造システム10と、システムソフトウエアのブロック60と、最適化システムのブロック70とが分けて記載されている。しかし、機能上は、製造システム10の少なくとも一部や、最適化システムのブロック70の少なくとも一部を、システムソフトウエアのブロック60の中に含まれるように表すことも可能である。
【0062】
品質管理システム1の機能は、大きくは、良否判断部40により実行される良否判断機能と、最適化部50により実行される最適化機能とに分けることができる。図6においては、良否判断機能に係る情報の流れが実線で表されており、最適化機能に係る情報の流れが一点鎖線で表されている。
【0063】
実線で表された良否判断機能に関しては、図6における左側の上段に示すように、製造システム10から、撮影画像のデータ(撮影画像データ)や、ロット番号情報が、タイムスタンプによる付加時刻情報とともにデータベース24に保存される。これらの処理は、図7におけるステップS10~ステップS30に対応している。
【0064】
ここでいう撮影画像データは、前述したように、製造システム10において撮影装置18により撮影され、取得された画像データである。また、ロット番号情報も、前述したように、製造システム10において読み取り装置20により読み取られた識別情報に含まれている情報である。さらに、付加時刻情報も、前述したように、鋼管14に識別情報のマーキングが行われた時刻の情報である。
【0065】
なお、図6では、データベース24が、製造システム10のブロックではなく、システムソフトウエアのブロック60の中に記載されている。データベース24は、1つのハードウエアとしての記憶装置、或いは、複数台の記憶装置により構成されていてもよい。また、図示は省略するが、データベース24とは別に、撮影画像用のデータベース(画像データベース)を設けてもよい。この画像データベースに、撮影画像データ、ロット番号情報、タイムスタンプ(付加時刻情報)を、互いに紐付けられた情報として蓄積してもよい。
【0066】
良否判断機能においては、良否判断部40により、撮影画像に対する画像解析が行われる(図7におけるステップS40)。図5(a)~(c)は、撮影画像の一例を模式的に示している。前述したように、図5(a)は、不良箇所が見られない良品の鋼管14に係る撮影画像である。図5(b)は、黒塗りして示すような不良箇所(例えばピンホール画像46が表れている箇所)が映っている不良品の鋼管14に係る撮影画像である。
【0067】
また、図5(c)には、図5(b)に示された不良箇所(ピンホール画像46が表れている箇所)ほど明確な画像ではないが、斜線を付して示すような影画像(例えばメッキ不良が発生している箇所)の影画像48が映っている。メッキ不良は、例えば、亜鉛の膜が均一な厚さに形成されていない場合の不良である。メッキ不良は、所謂どぶ付けによる亜鉛メッキが行われた場合などには、例えば、縞模様となって表れる。なお、良否判断部40が解析する画像は、所定の処理(例えば、二値化処理、階調処理など)が行われたものであってもよい。
【0068】
良否判断部40は、撮影画像に、図5(b)に示すような不良箇所(ここではピンホール画像46)が映っている場合には、不良品が発生した旨の判断を行う。良否判断機能においては、良否判断部40より、不良品が発生した旨の判断がされると、製造システム10に対してアラートが発せられる。なお、良否判断部40に、画像解析によるAI判断に特化された機能(特定機能)を有する画像解析エンジンを備えることにより、AI判断を高速化できる。
【0069】
ここで、或る段階における良否判断部40のAI学習の程度は、図5(b)に示すような不良箇所(ここではピンホール画像46)が検出されれば不良発生の判断を行うが、図5(c)に示すような影画像48が検出されても不良発生の判断を行わない程度であるものとする。良否判断部40の判断能力がこのようなものである状況で、鋼管14にメッキ不良が発生した場合には、不良品が発生した旨の判断が行われず、メッキ不良のある鋼管14に対してアラートは行われない。
【0070】
上述のようなメッキ不良のある鋼管14は、例えば、製造システム10において、品質管理担当者の検査等により事後的に発見される(図7におけるステップS70)。品質管理システム1では、事後的な不良品の発見者(不良発見者、図示略)が、図6の左下に一点鎖線で情報の流れを示すように、発見した不良の種類(不良品分類)や、該当する鋼管14のロット番号を、手元の端末装置等を介して、システムソフトウエアへ登録する。
【0071】
端末装置としては、製造システム10に接続されたコンピュータ機器、携帯端末(スマートフォンやタブレット端末などを含む)、或いは、制御操作パネルなどを例示できる。さらに、端末装置としては、例えば、読み取り装置20のように識別情報(ロット番号を含む)を読み取るカメラやバーコードリーダ等を備えた機器や、不良発見者等が音声により不良発見の旨を入力することを可能とする音声入力装置(マイク等)も例示できる。また、システムソフトウエアは、サーバ装置(図示略)から、端末装置に必要な機能が提供されるものとすることができる。サーバ装置は、1台のコンピュータ機器、或いは、機能を分散した複数台のコンピュータ機器により構成されていてもよい。さらに、良否判断部40を構成するコンピュータ機器に、サーバ機器の機能を持たせてもよい。
【0072】
不良発見者により入力された不良品分類の情報は、システムソフトウエアを介して、最適化部50へ送られ、後述するように、良否判断部40における判断精度向上のためのAI学習に用いられる。ロット番号情報は、データベース24に蓄積された多数の撮影画像データから、不良品の撮影画像データを検索するために用いられる。最適化部50へ送られた不良品分類の情報や、ロット番号情報は、取得部52により取得される。
【0073】
撮影画像データの検索は、ロット番号に対応したタイムスタンプ、搬送路13の搬送速度(ラインスピード)、及び、カメラ距離の情報を利用し、撮影時刻を算出(逆算)することによって行われる。より具体的には、搬送速度をV[m/分]、撮影距離としてのカメラ距離をL[m]、タイムスタンプの値(識別情報の付加時刻を表す)をT1、撮影時刻をT2とすると、撮影時刻T2は以下の式によって計算できる。

T2=T1-L/V
【0074】
ここで、搬送速度V[m/分]は、タイムスタンプの値(識別情報の付加時刻)T1に対応した時刻における、搬送路13の搬送速度である。例えば、製造システム10に対して設定された搬送速度の情報が、データベース24に保存される。撮影画像データの検索が行われる際には、識別情報の付加時刻T1を含む期間に設定されていた搬送速度の情報が、データベース24から読み出され、撮影時刻T2の算出に利用される。
【0075】
カメラ距離L[m]は、撮影装置18における撮影位置(搬送路13上の撮影位置)と、マーキング装置19において識別情報が鋼管14にマーキングされる位置(マーキング位置)との間の距離である。このカメラ距離L[m]は、搬送路13の搬送経路に沿った鋼管14の移動距離でもある。また、撮影装置18とマーキング装置19を一体化して1つの装置として場合には、カメラ距離L[m]は、当該装置内における撮影位置とマーキング位置との間の距離となる。
【0076】
カメラ距離L[m]についても、データベース24に保存しておくことが可能である。カメラ距離L[m]が変更されることがある場合には、識別情報の付加時刻T1を含む期間に設定されていたカメラ距離L[m]の情報が、データベース24から読み出され、撮影時刻T2の算出に利用される。
【0077】
前述の式で示すように、タイムスタンプの値である付加時刻T1から、搬送速度Vでカメラ距離Lを走破した(移動した)時間を差し引くことで、撮影時刻T2が得られる。例えば、搬送速度V=60[m/分]、カメラ距離L=10[m]で、タイムスタンプの付加時刻が15時24分30秒である、鋼管14の撮影は、15時24分20秒に行われたものと判断できる。
【0078】
このように求められた撮影時刻に基づき、特定部54が、タイムスタンプの値(識別情報の付加時刻)T1に基づき、撮影時刻T2を算出し、データベース24の撮影画像データから、不良品の撮影画像データを探索する。特定部54は、該当する撮影時刻情報に紐づけられた1つの撮影画像データを特定し、抽出する(図7におけるステップS60)。抽出された撮影画像データは、最適化部50へ送信される。最適化部50の学習部56は、受信した撮影画像データを教師データとして用い、前述した不良品分類と紐付けて、良否判断部40にAI学習を行わせる(図7におけるステップS70)。
【0079】
この結果、良否判断部40では、それまで不良品と判断していなかった分類の不良(ここでは影画像48が表れる不良)についても、画像解析により不良と判断されることとなる。或いは、良否判断部40において、影画像48が表れる鋼管14が不良品と判断される割合が高まることとなる。
【0080】
こうした事後的なAI学習を、製造システム10で不良品が発見される都度行うことにより、良否判断部40のAI機能が更新される。良否判断部40の判断精度が継続的に向上し、製造システム10に係る品質管理能力が徐々に高まることとなる。
【0081】
ここで、本実施形態では、説明が煩雑にならないよう、不良品分類として2種類の分類(ピンホールとメッキ不良)のみを例示したが、実際には、数十種類(30~50種類程度)の不良品分類が定められている。また、搬送速度Vは60[m/分]に限らず、種々に変更可能である。例えば、搬送速度Vを、40~120[m/分]のうちのいずれかの値(100[m/分]や120[m/分]など)としてもよい。また、図6において実線のブロックで囲って示す「良否判断」、「アラート」、「製造現場にフィードバック」、及び、「AI最適化」は、それぞれの処理を示している。
【0082】
<品質管理システム1に係る発明が奏する効果>
以上説明した本実施形態の品質管理システム1によれば、良否判断部40において、ある時点では不良品と判断できない種類の不良が存在しても、判断の漏れが発見されれば、新たな教師データが探索される。そして、探索された教師データを用いて、最適化部50により良否判断部40の機能が、最新の状態に更新される。漏れた不良品が発見された際には、人手により不良分類やロット番号の登録が行われるが、その後は、自動的に、不良品に対応した撮影画像データが探索される。
【0083】
したがって、良否判断部40の最適化を、可能な限り人の判断を排し、無人化して順次行うことが可能となる。そして、良否判断部40の判断精度を、自動的に向上させることが容易である。さらに、良否判断部40における人工知能の学習を、省力化して、効率よく行わせることが可能となる。
【0084】
従来は、これまでに説明したような方法による撮影画像データの探索が行われていなかった。このため、従来は、検査に漏れた不良品が発見されると、不良品の教師データを新たに作成する必要があった。そして、品質管理担当者等が、不良品の不良箇所を撮影し、撮影画像データを教師データとして、良否判断部40にAI学習させる必要があった。
【0085】
また、AI学習にあたっては、製造システム10の搬送路13上で撮影装置18が撮影した画像と同じ照明の具合や、同じ撮影アングル等を再現し、同じ撮影条件で撮影を行うことで、教師データの品質を共通化し、揃えることができる。そして、教師データの品質を揃えることにより、良否判断部40による高精度な判断結果を得やすくなる。しかし、事後的に発見された不良品に対し、撮影装置18の撮影条件を再現して撮影を行うことは、多くの手間や時間を要するため容易ではない。
【0086】
さらに、事後的な不良発見がされるタイミングは、例えば、製品完成後、出荷準備中、出荷前、客先への納品後等のように様々であり、一律ではない。このため、事後的な不良品の発生を予め想定して撮影装置18を配置することは困難である。また、不良品は、撮影前に廃棄されてしまうこともあり、事後的な不良品の撮影が常に可能であるとは限らない。
【0087】
一方、事後的に不良品が発見された場合に、新たに撮影を行うのではなく、既に存在する撮影画像データを、データベース24から探し出し、教師データとすることも、考えることは可能である。しかし、この場合は、前述した品質情報や出荷情報を基にして、作業者が画面を見ながら、対応する不良品の撮影画像データを、データベースから探し出さなければならない。
【0088】
さらに、1つの鋼管14に対応する撮影画像データが複数存在するような場合には、必ずしも全ての撮影画像データに不良箇所が映っているとは限らない。このため、作業者が画面に目視し、1つの鋼管14に対応する複数の撮影画像データから、不良箇所が映っている撮影画像データを探し出す必要があった。
【0089】
しかし、本実施形態の品質管理システム1によれば、前述したように、製造システム10において、製造中の鋼管14の撮影が継続的に行われている。さらに、取得された撮影画像データが、データベース24に、撮影時刻情報や、ロット番号、タイムスタンプ(付加時刻情報)と紐付けされて蓄積されている。そして、事後的に不良品が発見された場合には、ロット番号の入力等は必要であるものの、その後は撮影済の画像が自動で探し出され、探し出された撮影画像データが、教師データとして利用される。
【0090】
したがって、事後的なAI学習を行うに際して、人手により撮影画像データを探し出す必要がなく、撮影画像データの探索が容易である。また、新たに撮影を行って撮影画像データを作成する必要がなく、撮影条件を再現して撮影を行うなどといった手間のかかる作業が不要である。そして、良否判断部40の更新を、可能な限り自動化でき、判断精度の向上が容易となる。
【0091】
また、鋼管14に表示される識別情報に、1つの撮影画像データを特定するような情報を含めなくても、識別情報から1つの画像データを特定できる。したがって、識別情報の情報量を増やすことなく1つの画像データを特定できる。その理由は、以下の通りである。
【0092】
識別情報は、限られた大きさの領域に、限られた情報量で、製品製造や製品販売に必要な情報を表す。識別情報がマーキングにより付加される領域の大きさは、前述したように、例えば数センチ角程度とすることが可能である。そして、識別情報に撮影時刻情報を直接含めた場合には、識別情報により表される情報量が増える。
【0093】
このため、識別情報により示すことのできる情報量が、撮影時刻の情報による制約を受けてしまい、撮影時刻の情報の分だけ減ってしまう。或いは、識別情報により表される情報量が増えることにより、識別情報の表示領域の範囲を拡大しなければならなくなる。しかし、本実施形態では、識別情報に基づき撮影時刻が特定されるので、識別情報の情報量を増やすことなく1つの画像データを特定できる。
【0094】
なお、本実施形態の品質管理システム1において、良否判断部40のAIは、「ローカル側のAI」や「現場側のAI」などと称することが可能である。また、最適化部50のAIは、「学習側のAI」などと称することが可能である。さらに、最適化部50のみをクラウド接続した場合には、最適化部50のAIは、「クラウド側のAI」などと称することが可能である。
【0095】
図6において、実線で示す情報の流れは、「通常時の情報の流れ」などと称することが可能である。また、一点鎖線で示す情報の流れは、「実線の情報の流れによって不良品の判断ができなかった場合(事後的に不良品が発見された場合)の情報の流れ」などと称することが可能である。そして、本実施形態の品質管理システム1によれば、実線の場合と一点鎖線の場合とで、同じ環境で撮影された撮影画像データを利用して、不良品の発見と、良否判断部40の判断力の更新とを行うことが可能である。
【0096】
上述のように良否判断部40の判断精度を高めることは、製造の歩留まりを向上するためにも重要である。例えば、良品を誤って不良品と判断すると、本来は出荷できるにも関わらず出荷できない製品が発生することになる。歩留まりは、例えば、(製品重量)÷(投入重量)などのように算出できる。このため、本来は出荷できるにも関わらず出荷されない製品が発生すると、「製品重量」が不必要に低減し、歩留まりの値がその分小となる。したがって、良否判断部40の判断精度を高めることは、生産性の向上にあたり重要である。
【0097】
また、本実施形態の品質管理システム1によれば、1つの撮像画像データに係るデータ量と、データベース24の容量との関係によって、データベース24に蓄積できる撮像画像データの数(枚数)が決定される。ただ、データベース24は、必要に応じてデータ容量を増やすことが可能である。データベース24のデータ容量を増やすことにより、永続的に撮像画像データの蓄積を継続することが可能である。
【0098】
データベース24は、複数の記憶装置(遠隔地に分散化されたものも含む)により構成できる。品質管理システム1は、品質管理のための情報処理装置として把握するとことも可能である。
【0099】
<品質管理システムの変形例>
上述した例では、搬送速度V[m/分]、撮影距離としてのカメラ距離L[m]、及び、タイムスタンプの値(識別情報の付加時刻を表す)T1が決まれば、1つの撮影画像データが特定される。しかし、各種のパラメータV、L、T1が決まっても、1つの撮影画像データが特定されず、複数の画像データが特定される状況も考え得る。
【0100】
例えば、撮影時刻情報を示す値の最小単位未満の時間間隔で、撮影装置18による撮影が行われる場合は、複数の撮影画像データに同じ値の撮影時刻情報が付与されることとなる。具体的には、例えば、搬送速度Vが1[m/秒]であり、撮影装置18による撮影の間隔(撮影画像データの取得時間間隔)が0.5秒であり、撮影時刻情報の値の最小単位が秒であるとする。この場合、撮影画像データの取得時間間隔が、撮影時刻情報を示す値の最小単位である1秒に満たない。このため、2つの異なる撮影画像データに同じ値の撮影時刻情報が付与されることとなる。
【0101】
また、撮影装置18による撮影画像データの取得時間間隔が1秒以上であっても、撮影装置18が複数設置された場合や、1つの撮影装置18が複数のカメラを備えている場合などにも、複数の撮影画像データに同じ値の撮影時刻情報が付与されることとなる。撮影装置18を複数設置する場合、設置箇所としては、マーキング装置19の前後などを例示できる。
【0102】
これらのように複数の撮影画像データに同じ撮影時刻情報が付与される場合には、最適化部50が、対象となる複数の撮影画像データを、ディスプレイ装置に表示し、教師データとすべき撮影画像データを、作業者が目視により選択し、選択結果を、端末装置を介してシステムソフトウエアへ登録する、といったことが可能である。選択結果の登録は、前述した不良発見者による不良品分類やロット番号の登録と同様に行うことが可能である。
【0103】
<品質管理システム1に含まれる発明>
これまでに説明した品質管理システム1には、例えば、以下のような発明が含まれている。
(1)製造過程の製品(鋼管14など)の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報(ロット番号情報を含むものなど)、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存するデータベース(製造管理データベース24など)と、
前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行う良否判断部(良否判断部40など)と、
前記良否判断部により不良が発見されなかった前記製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された前記製品の前記識別情報を取得する取得部(最適化部50の取得部52など)と、
前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、前記撮影画像データを前記データベースから特定する特定部(最適化部50の特定部54など)と、
前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記良否判断部に良否の判断の学習を行わせる学習部(最適化部50の学習部56など)と、を備えた品質管理システム。
(2)前記特定部が、前記製品の搬送速度(V[m/分])と、前記識別情報の付加に係る付加時刻情報(T1)と、前記製品の撮影が行われた位置から前記識別情報が付加された位置までの距離である撮影距離(L[m])と、に基づき、前記撮影時刻情報が示す撮影時刻(T2)を算出して前記撮影画像データを探し出す上記(1)に記載の品質管理システム。
(3)製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ(図7のステップS10)、前記製品に付加された識別情報(ステップS20)、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけてデータベースに保存する第1工程(ステップS10~ステップS30)と、
前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行う第2工程(ステップS40)と、
前記第2工程で不良が発見されなかった製品について事後に不良が発見された場合(ステップS50)に、事後に不良が発見された製品の前記識別情報を取得し、
取得された前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データを前記データベースから特定し(ステップS60)、
特定された前記撮影画像データを教師データとして、良否の判断の学習(ステップS70)を行わせる第3工程(ステップS50~ステップS70)と、を備えた品質管理方法。
(4)前記製品の搬送速度と、前記識別情報の付加に係る付加時刻情報と、前記製品の撮影が行われた位置から前記識別情報が付加された位置までの距離である撮影距離と、に基づき、前記撮影時刻情報が示す撮影時刻を算出して前記撮影画像データを特定(ステップS60)する上記(3)に記載の品質管理方法。
(5)データベースに、製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存し、
良否判断部に、前記撮影画像データを用いて前記製品の良否の判断を行わせ、
取得部に、前記良否判断部により不良が発見されなかった製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された製品の前記識別情報を取得させ、
特定部に、前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データを前記データベースから特定させ、
学習部に、前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記良否判断部に良否の判断の学習を行わせる品質管理プログラム。
(6)製造過程の製品の撮影画像に関する撮影画像データ、前記製品に付加された識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけて保存されたデータベースと、
不良が発見された製品の前記識別情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて、撮影画像データを前記データベースから特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記撮影画像データを教師データとして、前記製品の良否の判断を行う学習モデルを生成する生成部とを備えた、情報処理装置。
(7)前記特定部が、前記製品の搬送速度と、前記識別情報の付加に係る付加時刻情報と、前記製品の撮影が行われた位置から前記識別情報が付加された位置までの距離である撮影距離と、に基づき、前記撮影時刻情報が示す撮影時刻を算出して前記撮影画像データを特定する上記(6)に記載の情報処理装置。
(8)上記(1)は、以下のようにも説明することができる。
製品(鋼管14など)を搬送しながら撮影する撮影画像データの取得や、前記製品への識別情報(ロット番号情報を含むものなど)の付加を行い、少なくとも、前記撮影画像データ、前記識別情報、及び、前記製品の撮影時刻情報を紐づけてデータベース(製造管理データベースなど)に保存する製品製造システム(製品製造システム10など)と、
前記撮影画像データを用いた画像解析を行って前記製品の検査を行う良否判断部(良否判断部40など)と、
前記良否判断部により不良が発見されなかった製品について事後に不良が発見された場合に、事後に不良が発見された製品の撮影画像データを、前記識別情報、及び、前記撮影時刻情報に基づいて前記データベースから探し出し、探し出された前記撮影画像データを教師データとして、前記良否判断部に画像解析のための学習を行わせる最適化部(最適化部50など)と、を備えた品質管理システム。
また、上記(3)、(5)、(6)も、当該(8)の記載に合わせて表現を変更することができる。
(9)上記(2)の「前記特定部が、」は「前記最適化部が、」と置き換えることもできる。
【0104】
なお、前述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0105】
例えば、前述した実施形態では、製品として、鋼帯材12を切断して形成される鋼管14を一例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。製品としては、例えば、鋼管14のほかに、溝形鋼、等辺山形鋼、U型鋼矢板、直線形鋼矢板、丸棒、平鋼、角鋼、スリットコイルなども例示できる。さらに、本発明は、これらの製品に限らず、素材から一次加工された製品に対して二次加工を行って得られる種々の製品に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 品質管理システム
10 製品製造システム
13 搬送路
14 鋼管
18 撮影装置
19 マーキング装置
20 読み取り装置
21 切断機
23 製造管理装置
24 製造管理データベース
40 良否判断部
50 最適化部
52 取得部
54 特定部
56 学習部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7