(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073077
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/596 20060101AFI20230518BHJP
G01R 1/06 20060101ALI20230518BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20230518BHJP
G01R 1/073 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
C04B35/596
G01R1/06 D
C04B35/488
G01R1/073 E
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185900
(22)【出願日】2021-11-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】俣野 泰司
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
【テーマコード(参考)】
2G011
【Fターム(参考)】
2G011AB07
(57)【要約】
【課題】シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備する窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品を提供する。
【解決手段】Si3N4を35質量%以上70質量%以下、ZrO2を25質量%以上60質量%以下、MgO、SiO2、Al2O3及びY2O3から選択される1種以上を合計で0.5質量%以上5質量%未満含み、粉末X線回折によるαSi3N4の(210)面ピーク強度をIα、βSi3N4の(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)が0.05以上0.80以下である、窒化珪素複合材料、並びにこの窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、本体部に、プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備える、プローブ案内部品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si3N4を35質量%以上70質量%以下、
ZrO2を25質量%以上60質量%以下、
MgO、SiO2、Al2O3及びY2O3から選択される1種以上を合計で0.5質量%以上5質量%未満含み、
粉末X線回折によるαSi3N4の(210)面ピーク強度をIα、βSi3N4の(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)が0.05以上0.80以下である、窒化珪素複合材料。
【請求項2】
プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品であって、
請求項1に記載の窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、
前記本体部に、前記プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備える、プローブ案内部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップやLSIチップは1枚のシリコンウエハに多数のチップを作製し、これをチップ毎に切断して使用している。そして、個々のチップが不良品であるか否かのチェックはチップ毎に切断される前にプローブカードを用いて行っている。プローブカードの構造は例えば特許文献1に開示されているように、プローブの一端が取り付けられた基板と、プローブを摺動自在に案内するガイド板(プローブ案内部品)とを備えており、ガイド板のガイド孔にプローブを挿通することで、プローブの先端がシリコンウエハに形成されているICチップやLSIチップのパッド(電極)に正確に当接するようにしている。そして、この当接した状態で電気的信号を印加し、チップから出力される電気信号を解析し、チップの不良の有無を判定する。このチェックは、例えば室温又は高温環境下(例えば80~150℃)で行われることが多い。そのため、この種のプローブカード用ガイド板(プローブ案内部品)には、室温から200℃程度までの温度範囲においてシリコンウエハと似た熱膨張係数を有することが求められる。
【0003】
一方、プローブ案内部品には、プローブ荷重に耐えられる機械的強度(曲げ強度)を有することも求められ、近年、高強度化の要求が高まっている。このような状況下、特許文献2には、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を有し、かつ高強度のセラミックスを得るために、高強度セラミックスのSi3N4に、高膨張セラミックスのZrO2を複合することが有効であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-215163号公報
【特許文献2】国際公開第2019/093370号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、特許文献2の開示に従いSi3N4にZrO2を複合した窒化珪素複合材料を種々の条件で試作し、その熱膨張特性及び強度特性を評価したところ、試作条件等によっては所望の特性がまだ十分ではなかった。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備する窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らが試験及び研究を重ねた結果、Si3N4にZrO2を複合した窒化珪素複合材料においてシリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備させるには、Si3N4、ZrO2といった各成分の含有率だけでなく、窒化珪素複合材料の微細構造を制御することが重要であることを見出した。そして窒化珪素複合材料の微細構造の制御にあたっては、詳細は後述するが、粉末X線回折によるαSi3N4の(210)面ピーク強度をIα、βSi3N4の(210)面ピーク強度をIβとしたときのピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)を所定の範囲内とすることが重要であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の窒化珪素複合材料が提供される。
Si3N4を35質量%以上70質量%以下、
ZrO2を25質量%以上60質量%以下、
MgO、SiO2、Al2O3及びY2O3から選択される1種以上を合計で0.5質量%以上5質量%未満含み、
粉末X線回折によるαSi3N4の(210)面ピーク強度をIα、βSi3N4の(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)が0.05以上0.80以下である、窒化珪素複合材料。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品であって、前記本発明の窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、前記本体部に、前記プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備える、プローブ案内部品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備する窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例(表1中実施例4)に係る窒化珪素複合材料の粉末X線回折強度データ。
【
図2】本発明の一実施例(表1中実施例8)に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真。
【
図3】本発明の比較例(表1中比較例9)に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の窒化珪素複合材料は、高強度のSi3N4に高膨張のZrO2を複合したもので、主成分として、Si3N4を35質量%以上70質量%以下、ZrO2を25質量%以上60質量%以下含む。
Si3N4の含有率が35質量%未満であると高強度を得ることが困難となる。一方、Si3N4の含有率が70質量%超であると、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。Si3N4の含有率は50質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
また、ZrO2が25質量%未満であると、高い熱膨張係数を得ることができず、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。ZrO2の含有率が60質量%超であると、熱膨張係数が高くなりすぎてシリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。ZrO2の含有率は35質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
そして、Si3N4とZrO2との合計の含有率は90質量%以上99.5質量%以下であることが好ましく、90質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明の窒化珪素複合材料は、粉末X線回折によるαSi3N4の(210)面ピーク強度をIα、βSi3N4の(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)(以下、単に「ピーク強度比」という。)が0.05以上0.80以下であることを特徴の一つとする。ピーク強度比が0.8超の場合、ZrO2の含有率が上記規定の範囲であっても、熱膨張係数は所定の値まで高くならない。また、ピーク強度比が0.05未満であると、αSi3N4より高強度のβSi3N4が少なくなるため、機械的強度が低下してしまう。その理由を以下に説明する。
【0014】
窒化珪素複合材料において熱膨張特性の制御は、Si3N4、ZrO2といった各成分の含有率だけでなく、微細構造を制御することで可能となる。また、窒化珪素に具備されている元来の高強度も同様に微細構造に依存する。本発明者らは、それを正確に制御するためには、窒化珪素の粉末X線回折によるピーク強度比が重要であることを見出した。
【0015】
窒化珪素複合材料の出発原料として、基本的に窒化珪素はαSi3N4原料、ジルコニアはY2O3等で安定化されたZrO2原料を用い、通常のセラミックス製造と同様に混合した成形体を焼結する。その焼結過程でセラミックスの粒子は粒成長していく。窒化珪素もジルコニアもその点では同様である。またその際、窒化珪素は結晶構造がαSi3N4からβSi3N4へ転移していく。そのβSi3N4は、アスペクト比の高い針状の結晶となる。
【0016】
熱膨張係数の高いジルコニアと熱膨張係数の低い窒化珪素が焼結過程で複合組織となった場合、次の冷却過程においては、その結晶粒のサイズによって異なった挙動をする。双方の材料の結晶粒が、焼結過程で粒成長した場合、窒化珪素はβSi3N4へ転移する量が多く、αSi3N4やジルコニアも結晶粒のサイズが大きくなる。しかしα型からβ型に転移した分、αSi3N4は減少している。すなわち、βSi3N4にαSi3N4が取り込まれる。この場合、ジルコニア粒子間に存在するαSi3N4は減少し、相対的にジルコニアの粒は隣り合うジルコニアの粒子と連結する量が多くなる。その状態で焼結が完了し、冷却過程おいて、各粒子は収縮していく。窒化珪素よりもジルコニアはその材料特性により、収縮量が大きい。しかも連結したジルコニアには、その収縮に伴い引張応力が働きジルコニア-窒化珪素間、あるいはジルコニア-ジルコニア間にクラックが入りクリアランスが発生した状態になる。
この条件で得られた窒化珪素複合材料を加熱した場合、窒化珪素、ジルコニアはともに膨張していくが、ジルコニアの膨張は上述のクラックに吸収されて、全体での熱膨張の増加に寄与しない。よって理論上の熱膨張係数以下の値に留まることになる。
【0017】
逆に双方の材料の結晶粒が、焼結過程で粒成長しない場合、窒化珪素はβSi3N4に転移する量が少なく、ジルコニアと同程度の結晶粒サイズのαSi3N4であり、その双方が交互に絡み合ったマトリックスにある程度のβSi3N4が存在している状態となる。その状態で焼結が完了し、冷却過程ではジルコニアの粒が小さいために熱応力の発生は小さく上述したクラックは発生しない。
この条件で得られた窒化珪素複合材料を加熱した場合、窒化珪素、ジルコニアはともに膨張していき、窒化珪素単体の材料よりも熱膨張係数は高くなる。
【0018】
本発明者らは、このような窒化珪素複合材料の微細構造の制御パラメーターとして、ピーク強度比が0.05以上0.80以下となるようにすることが好適であることを見出した。
ピーク強度比が0.80超の場合、βSi3N4が多くαSi3N4が少ない、すなわち、αSi3N4の多くがβ化して、αSi3N4も存在するがその量は少ないため、ジルコニアが粒成長して連結した組織となり、熱膨張係数の増加は小さい。このため、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。
【0019】
更に、窒化珪素セラミックスが具備している高強度を維持する条件としても、ピーク強度比が影響する。具体的にはαSi3N4がβ化した針状結晶であるβSi3N4の量が多いほど高強度となる。したがってピーク強度比が0.05未満の場合、αSi3N4がβ化した針状結晶であるβSi3N4の量が少ないということであるから、窒化珪素セラミックスが具備している高強度を維持することが困難となる。
なお、ピーク強度比は0.25以上0.65以下であることが好ましい。
【0020】
ここで、窒化珪素は共有結合性の強い材料であるため、単体での焼結は不可能である。そのため、焼結時に液相を生成しやすい焼結助剤として働く酸化物を添加して、液相を介して焼結を行うことが一般的である。このような酸化物として本発明では比較的少量の添加で済むMgO、SiO2、Al2O3及びY2O3から選択される1種以上を用いる。なお、窒化珪素粒子表面の酸化膜であるSiO2もSiO2源となるが、別途SiO2源となる酸化珪素を添加してもよい。
焼結後、液相は基本的に非晶質相となるが、一部結晶化する場合もある。またジルコニアが一部その液相に溶け込んでいる可能性もある。焼結後、これらの相は窒化珪素粒子の周囲の粒界又はその近傍に存在する。上述の酸化物成分の含有率は合計で0.5質量%以上5質量%未満とする。その含有率が0.5質量%未満では、窒化珪素を焼結して窒化珪素の結晶相をコントロールするだけの液相が得られない。一方、その含有率が5質量%以上では、ジルコニアの粒子同士が焼結しやすくなり、上述の理由でジルコニア-窒化珪素間、あるいはジルコニア-ジルコニア間にクラックが入りクリアランスが発生した状態になってしまい、ジルコニアの膨張はクラックに吸収されて、全体での熱膨張の増加に寄与しない。また別の酸化物を生成し、窒化珪素が具備する元来の高強度を維持できなくなる可能性もある。
なお、上述の酸化物成分の含有率は合計で1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の窒化珪素複合材料は上述の通り、出発原料として基本的に窒化珪素はαSi3N4原料、ジルコニアはY2O3等で安定化されたZrO2原料を用い、通常のセラミックス製造と同様に混合した成形体を焼結することで得られるが、少量であればβSi3N4原料を用いてもよい。また、Y2O3等で安定化されたZrO2原料としては、立方晶である安定化ZrO2を用いることが好ましいが、正方晶である部分安定化ZrO2原料を用いることもできる。なお、Y2O3等で安定化されたZrO2原料には、Y2O3等の安定化成分が含まれるが、本発明の窒化珪素複合材料においてZrO2の含有率にはY2O3等の安定化成分の含有率も含まれるものとする。言い換えれば、ZrO2原料に含まれるY2O3等の安定化成分の含有率は、上述の焼結助剤として働く酸化物成分の含有率には含まれないものとする。
【0022】
本発明の窒化珪素複合材料において上述した各成分の含有率は、基本的にICP発光分光分析法により特定することができる。なお、ICP発光分光分析法では、ZrO2原料に含まれるY2O3等の安定化成分と上述の焼結助剤として働く酸化物成分とを区別することはできないが、ZrO2原料に含まれるY2O3等の安定化成分の含有率は予め特定できるので、ICP発光分光分析法により特定された値からZrO2原料に含まれるY2O3等の安定化成分の含有率を引くことで焼結助剤として働く酸化物成分の含有率を特定することができる。
【0023】
本発明の窒化珪素複合材料は、上述した各成分以外のその他成分として、Si2N2O:酸窒化珪素、Y3Al5O12:YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、R2SiO4(RはMg,Fe,Mn,Ca等):フォルステライト等を含み得るが、その含有率は合計で9質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
本発明の窒化珪素複合材料は上述の通り、ピーク強度比が0.05以上0.80以下であることを特徴の一つとするが、このピーク強度比は焼結温度によって制御することができる。具体的には後述する実施例に示しているように焼結温度を1500℃以上1670℃以下とすることで、ピーク強度比を0.05以上0.80以下とすることができる。
【0025】
以上のように各成分の含有率及びピーク強度比が所定の範囲内となるようにすることで、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備する窒化珪素複合材料を得ることができる。具体的には後述する実施例に示しているように、室温から200℃における熱膨張係数が3×10-6/℃以上6×10-6/℃以下であるという熱膨張特性、及び曲げ強度が400MPa以上という強度特性を安定して得ることができる。
【0026】
本発明の窒化珪素複合材料は、プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品の本体部として好適に用いられる。すなわち、本発明のプローブ案内部品は、本発明の窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、この本体部に、プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備えるものである。
【0027】
また、本発明の窒化珪素複合材料は、プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品と同様の性能が求められる用途として、パッケージ検査用ソケットなどの検査用ソケットに用いることもできる。
【実施例0028】
本発明の効果を確認するべく、配合比を変化させたα-Si3N4粉末と、安定化ZrO2粉末と、MgO、Y2O3、Al2O3及びSiO2から選択される1種類以上の酸化物粉末とを、水、分散剤、成形助剤及びセラミックス製のボールとともにボールミル中で混合し、得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して顆粒状にした。顆粒は□40×t30mmの成形体に140MPaの圧力でプレス成形後、成形助剤等を脱脂処理した。その後、同脱脂体を黒鉛製のダイス(型)にセットし、窒素雰囲気中30MPaの圧力を加えながら1450℃~1700℃で2時間ホットプレス焼結を行って、縦40×横40×厚さ15mmの試験材を得た。そして、得られた試験材から試験片を採取し、ピーク強度比、熱膨張係数及び曲げ強度の評価を行い、これらの評価結果より総合評価を行った。
表1に、本発明の実施例及び比較例に係る窒化珪素複合材料の組成と評価結果を示している。なお、表1中、「その他成分」とは上述の通り、Si2N2O:酸窒化珪素、Y3Al5O12:YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、R2SiO4(RはMg,Fe,Mn,Ca等):フォルステライト等である。
【0029】
【0030】
ピーク強度比、熱膨張係数及び曲げ強度の評価、並びに総合評価は以下の要領で行った。
<ピーク強度比>
図1に、粉末X線回折の一例として、表1中実施例4の粉末X線回折強度データを示している。このような粉末X線回折強度データに基づき、αSi
3N
4の(210)面ピーク強度:Iα、及びβSi
3N
4の(210)面ピーク強度:Iβを得、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)を求めた。
【0031】
<熱膨張係数>
各例の試験片について、室温から200℃における熱膨張係数をJIS R1618に従って求めた。熱膨張係数(単位:10-6/℃)の評価は、3.5以上5以下である場合を◎(優良)、3以上3.5未満又は5超6未満である場合を〇(良好)、3未満の場合を×(低)(不良)、6超の場合を×(高)(不良)とした。
【0032】
<曲げ強度>
各例の試験片について、四点曲げ強度をJIS R1601に従って求めた。曲げ強度(単位:MPa)の評価は、600以上の場合を◎(優良)、400以上600未満の場合を〇(良)、400未満の場合を×(不良)とした。
【0033】
<総合評価>
熱膨張係数及び曲げ強度の評価が両方とも◎(優良)の場合を◎(優良)、少なくとも一方の評価が〇(良好)でかつ×(不良)の評価がない場合を〇(良)、少なくとも一方の評価が×(不良)の場合を×(不良)とした。
【0034】
表1中、実施例1から実施例12は、組成(各成分の含有率)及びピーク強度比がいずれも本発明の範囲内にあり、総合評価は◎(優良)又は〇(良好)となり、良好な結果が得られた。なかでも組成及びピーク強度比がいずれも好ましい範囲内にある実施例7から実施例12は総合評価が◎(優良)となり、特に良好な結果が得られた。
なお、
図2には実施例8に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真を示している。ZrO
2と同程度の結晶粒サイズのαSi
3N
4との双方が交互に絡み合ったマトリックスに、針状結晶であるβSi
3N
4が異方的に存在していることがわかる。
【0035】
表2中、比較例1はSi3N4の含有率及びピーク強度比が低すぎる例である。曲げ強度の評価が×(不良)となった。また、比較例1ではZrO2の含有率が相対的に高いこともあり、熱膨張係数の評価が「×(高)」となった。
一方、比較例2はSi3N4の含有率及びピーク強度比が高すぎる例である。熱膨張係数の評価が「×(低)」となった。
【0036】
比較例3はZrO2の含有率が低すぎる例である。熱膨張係数の評価が「×(低)」となった。比較例4はZrO2の含有率が高すぎる例である。熱膨張係数の評価が「×(高)」となった。
【0037】
比較例5は、酸化物成分(MgO成分)を含まず、かつピーク強度比が低すぎる例である。曲げ強度の評価が×(不良)となった。
比較例6は、酸化物成分(MgO成分)の含有率が高すぎる例である。これも曲げ強度の評価が×(不良)となった。
比較例7は、酸化物成分(MgO成分)の含有率及びピーク強度比が高すぎる例である。曲げ強度の評価が×(不良)となり、また熱膨張係数の評価は「×(低)」となった。
比較例8及び比較例9は、ピーク強度比が高すぎる例である。いずれも熱膨張係数の評価が「×(低)」となった。比較例10はピーク強度比が低すぎる例である。曲げ強度の評価が×(不良)となった。
なお、
図3には比較例9に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真を示している。αSi
3N
4はほぼ全てβSi
3N
4に転移し、かつZrO
2とともに粒成長していることがわかる。