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特開2023-73105極板の製造方法、極板の製造装置、および電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073105
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】極板の製造方法、極板の製造装置、および電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20230518BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230518BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20230518BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230518BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/1391
H01M4/66 A
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185940
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 英之
(72)【発明者】
【氏名】長島 順
(72)【発明者】
【氏名】大沢 英貴
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC01
5H017EE05
5H050AA19
5H050BA01
5H050BA08
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB11
5H050DA08
5H050GA03
5H050GA04
5H050GA09
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】湾曲および波打ちが小さい極板を製造する。
【解決手段】開示される製造方法は、活物質を含有する合剤層を含む帯状のシート100を形成する工程(i)と、シート100を、シート100に張力が加えられた状態で矯正ロール300上を通過させることで、シート100の湾曲を矯正した後、シート100を巻き取りロールに巻き取る工程(ii)とを含む。工程(i)において、シート100の幅方向の両端に合剤層が形成されていない非塗工領域100bが存在するようにシート100を形成する。矯正ロール300は、シートが通過するシート通過部310を含む。シート通過部310のロール径は、合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から非塗工領域100bに対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極板の製造方法であって、
帯状の金属箔を含む帯状の集電体上に、活物質を含むスラリーを前記集電体の長手方向に沿って帯状に塗工し、その後、圧延することによって、前記活物質を含有する合剤層を含む帯状のシートを形成する工程(i)と、
前記シートを、前記シートに張力が加えられた状態で矯正ロール上を通過させることで、前記シートの湾曲を矯正した後、前記シートを巻き取りロールに巻き取る工程(ii)とを含み、
前記工程(i)において、前記シートの幅方向の両端に前記合剤層が形成されていない非塗工領域が存在するように前記シートを形成し、
前記矯正ロールは、前記シートが通過するシート通過部を含み、
前記シート通過部のロール径は、前記合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から前記非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している、極板の製造方法。
【請求項2】
前記シート通過部の前記ロール径は、前記ロール中央部分から前記ロール外側部分に向かって、階段状および/または逆テーパー状に増加している、請求項1記載の極板の製造方法。
【請求項3】
前記シート通過部の前記ロール径は、前記ロール中央部分で最小となり、且つ、前記ロール外側部分で最大となり、
前記ロール中央部分から前記ロール外側部分に向かって、前記ロール径は、少なくとも2段以上の階段状に増加しているか、または、逆テーパー状に増加している、請求項1または2に記載の極板の製造方法。
【請求項4】
前記シート通過部のうち前記合剤層が通過する合剤層通過部の長さを2RLとしたときに、
前記ロール中央部分からの距離が0.5RLの位置にある前記ロール径が、前記ロール中央部分における前記ロール径よりも大きい、請求項1~3のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項5】
前記シート通過部における最大のロール径Dmaxと前記シート通過部における最小のロール径Dminとの差(Dmax-Dmin)が0.8~1.2mmの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項6】
前記シート通過部は、前記シート通過部の軸方向の中央を挟んで対称の形状を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項7】
前記工程(ii)において、前記矯正ロールを通過した前記シートを、前記合剤層の幅方向の中央部に沿ってスリットした後に、前記巻き取りロールで巻き取る、請求項1~6のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項8】
前記矯正ロールを通過する際に前記シートに加えられている前記張力は、前記シートの幅方向の単位長さ当たり、1.3~1.6N/mmの範囲にある、請求項1~7のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項9】
前記巻き取りロールによって前記シートを巻き取るときの巻き取り張力が、前記シートの幅方向の単位長さ当たり、0.3~0.7N/mmの範囲にある、請求項1~8のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項10】
前記工程(i)において、前記合剤層の幅方向の端部の平均厚さが前記合剤層の幅方向の中央部の平均厚さよりも小さくなるように、前記合剤層を形成する、請求項1~9のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項11】
前記金属箔は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔であり、
前記活物質は、リチウムを含有する複合酸化物であり、
前記極板が正極である、請求項1~10のいずれか1項に記載の極板の製造方法。
【請求項12】
極板の製造装置であって、
帯状の集電体と前記集電体上に形成された帯状の合剤層とを含む帯状のシートを搬送する搬送機構と、
矯正ロールとを含み、
前記搬送機構は、前記矯正ロールを通過した前記シートを巻き取るための巻き取りロールを含み、
前記シートの幅方向の両端のそれぞれは、前記合剤層が形成されていない非塗工領域であり、
前記搬送機構は、前記シートに張力が加えられた状態で前記シートが前記矯正ロール上を通過するように前記シートを搬送し、
前記矯正ロールは、前記シートが通過するシート通過部を含み、
前記シート通過部のロール径は、前記合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から前記非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している、極板の製造装置。
【請求項13】
前記シート通過部の前記ロール径は、前記ロール中央部分から前記ロール外側部分に向かって、階段状および/または逆テーパー状に増加している、請求項12記載の極板の製造装置。
【請求項14】
前記シート通過部の前記ロール径は、前記ロール中央部分で最小となり、且つ、前記ロール外側部分で最大となり、
前記ロール中央部分から前記ロール外側部分に向かって、前記ロール径は、少なくとも2段以上の階段状に増加しているか、または、逆テーパー状に増加している、請求項12または13に記載の極板の製造装置。
【請求項15】
前記シート通過部のうち前記合剤層が通過する合剤層通過部の長さを2RLとしたときに、
前記ロール中央部分からの距離が0.5RLの位置にある前記ロール径が、前記ロール中央部分における前記ロール径よりも大きい、請求項12~14のいずれか1項に記載の極板の製造装置。
【請求項16】
前記シート通過部における最大のロール径Dmaxと前記シート通過部における最小のロール径Dminとの差(Dmax-Dmin)が0.8~1.2mmの範囲にある、請求項12~15のいずれか1項に記載の極板の製造装置。
【請求項17】
前記シート通過部は、前記シート通過部の軸方向の中央を挟んで対称の形状を有する、請求項12~16のいずれか1項に記載の極板の製造装置。
【請求項18】
前記矯正ロールと前記巻き取りロールとの間に、前記合剤層の幅方向の中央部に沿って前記シートをスリットするためのスリット機構をさらに含む、請求項12~17のいずれか1項に記載の極板の製造装置。
【請求項19】
前記矯正ロールを通過する際に前記シートに加えられている前記張力は、前記シートの幅方向の単位長さ当たり、1.3~1.6N/mmの範囲にある、請求項12~18のいずれか1項に記載の極板の製造装置。
【請求項20】
前記巻き取りロールによって前記シートを巻き取るときの巻き取り張力が、前記シートの幅方向の単位長さ当たり、0.3~0.7N/mmの範囲にある、請求項12~19のいずれか1項に記載の極板の製造装置。
【請求項21】
2つの極板を含む電池であって、
前記2つの極板のうちの少なくとも1つの極板は、金属箔を含む集電体と、前記集電体上に配置された、活物質を含む合剤層とを含み、
前記少なくとも1つの極板の幅方向の2つの端部のうちの一方の端部は、前記合剤層が形成されていない非塗工領域であり、
前記非塗工領域の前記集電体には、波状の凹凸が存在しないか、または、存在する場合には隣接する凸部間のピッチまたは隣接する凹部間のピッチが15mm以上であり、
前記非塗工領域側にある2つの角部を結ぶ直線の長さをL(mm)とし、前記直線の中央において前記直線に対する前記非塗工領域側の外縁の湾曲量をY(mm)としたときに、以下の式(1)
-8×10-6×L≦Y≦8×10-6×L (1)
が満たされる、電池。
【請求項22】
前記合剤層の幅方向の中央部における前記極板の平均厚さT1と、前記合剤層のうち前記非塗工領域側の端部における前記極板の平均厚さT2との差(T1-T2)が5μm以下である、請求項21に記載の電池。
【請求項23】
前記金属箔は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔であり、
前記活物質は、リチウムを含有する複合酸化物であり、
前記極板が正極である、請求項21または22に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極板の製造方法、極板の製造装置、および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池など、従来から様々な電池が用いられている。代表的な電池の極板の一例は、集電体と、集電体上に形成された合剤層とを含む。そのような極板は、集電体上にスラリーを塗布した後に圧延することによって形成することができる。そのような方法で形成された極板は、波打ったり湾曲したりする場合がある。そのため、従来から、湾曲等が生じた極板を矯正する方法が提案されてきた。
【0003】
特許文献1(特開2003-100286号公報)は、「長尺金属箔の巾方向の一部に活物質が長尺方向に連続的に塗工され、巾方向の残部に長尺方向に延びる未塗工部が残されている帯状素材から帯状電極を製造する方法であり、帯状素材の両面を一対の圧縮ロールで圧縮し、圧縮ロールで圧縮された帯状素材に張りを与えながら巻取りロールで巻取り、圧縮ロールと巻取りロールとの間で帯状素材に矯正ロールを圧接させて未塗工部に集中的に伸びを与えて帯状電極を製造する方法。」を開示している。
【0004】
特許文献2(特開2015-090805号公報)は、「電池用の電極製造装置であって、帯状の基材の表面に長手方向に沿って電極層が塗工された塗工領域と、前記電極層が塗工されていない非塗工領域と、を有する電極シートを、圧縮するプレス部と、前記電極シートの幅方向に沿って小径部および大きい大径部を有する湾曲矯正ローラーであって、前記小径部は前記電極シートの前記塗工領域に対向するとともに、前記大径部は前記電極シートの前記非塗工領域に対向して配置される湾曲矯正ローラーを有し、前記電極シートの前記非塗工領域を前記大径部に当接させて前記電極シートの前記非塗工領域に張力を加えることによって前記電極シートの前記非塗工領域の湾曲を矯正する湾曲矯正部と、を備え、前記電極シートの前記塗工領域と前記非塗工領域との境界が前記湾曲矯正ローラーの前記大径部と前記小径部との境界よりも前記大径部側に位置するように、前記電極シートの幅方向に沿った前記小径部の幅は、前記電極シートの幅方向に沿った前記塗工領域の幅よりも小さく設定されている、電池用の電極製造装置。」を開示している。
【0005】
特許文献3(特開2014-035876号公報)は、「帯状集電体と、前記帯状集電体の少なくとも一方の長辺に形成され、両面共に活物質含有層が存在しない集電体露出部と、前記帯状集電体の前記集電体露出部以外の少なくとも一部に形成された活物質含有層とを含む帯状極板の前記活物質含有層に、圧縮成形を施す工程と、円周面から突出した段部と、前記段部に隣接する凹部とを有するローラ上に、前記帯状極板を、前記集電体露出部が前記段部に位置し、かつ前記活物質含有層が前記凹部に位置するように配置し、前記帯状極板の長辺方向に張力を加える工程とを含み、前記段部の段差が下記式を満たすことを特徴とする電極の製造方法。
750<H
但し、Hは、前記電極の前記活物質含有層の帯状集電体片面当たりの厚さを100%とした際の前記段差の大きさ(%)である。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-100286号公報
【特許文献2】特開2015-090805号公報
【特許文献3】特開2014-035876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では極板の湾曲および波打ちを充分に低減することが難しかった。このような状況において、本開示は、湾曲および波打ちが小さい極板の製造方法および製造装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、極板の製造方法に関する。当該製造方法は、帯状の金属箔を含む帯状の集電体上に、活物質を含むスラリーを前記集電体の長手方向に沿って帯状に塗工し、その後、圧延することによって、前記活物質を含有する合剤層を含む帯状のシートを形成する工程(i)と、前記シートを、前記シートに張力が加えられた状態で矯正ロール上を通過させることで、前記シートの湾曲を矯正した後、前記シートを巻き取りロールに巻き取る工程(ii)とを含み、前記工程(i)において、前記シートの幅方向の両端に前記合剤層が形成されていない非塗工領域が存在するように前記シートを形成し、前記矯正ロールは、前記シートが通過するシート通過部を含み、前記シート通過部のロール径は、前記合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から前記非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している。
【0009】
本開示の一側面は、極板の製造装置に関する。当該製造装置は、帯状の集電体と前記集電体上に形成された帯状の合剤層とを含む帯状のシートを搬送する搬送機構と、矯正ロールとを含み、前記搬送機構は、前記矯正ロールを通過した前記シートを巻き取るための巻き取りロールを含み、前記シートの幅方向の両端のそれぞれは、前記合剤層が形成されていない非塗工領域であり、前記搬送機構は、前記シートに張力が加えられた状態で前記シートが前記矯正ロール上を通過するように前記シートを搬送し、前記矯正ロールは、前記シートが通過するシート通過部を含み、前記シート通過部のロール径は、前記合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から前記非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している。
【0010】
本開示の一側面は、電池に関する。当該電池は、2つの極板を含む電池であって、前記2つの極板のうちの少なくとも1つの極板は、金属箔を含む集電体と、前記集電体上に配置された、活物質を含む合剤層とを含み、前記少なくとも1つの極板の幅方向の2つの端部のうちの一方の端部は、前記合剤層が形成されていない非塗工領域であり、前記非塗工領域の前記集電体には、波状の凹凸が存在しないか、または、存在する場合には隣接する凸部間のピッチまたは隣接する凹部間のピッチが15mm以上であり、前記非塗工領域側にある2つの角部を結ぶ直線の長さをL(mm)とし、前記直線の中央において前記直線に対する前記非塗工領域側の外縁の湾曲量をY(mm)としたときに、以下の式(1)
-8×10-6×L≦Y≦8×10-6×L (1)
が満たされる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、湾曲および波打ちが小さい極板を製造できる。また、本開示によれば、特性が高い電池を歩留まり良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1の製造方法の一工程について説明する図である。
図2図1の線II-IIにおける断面図である。
図3】実施形態1の製造装置の構成を模式的に示す概略図である。
図4】一例の矯正ロールの形状を説明するための断面図である。
図5】他の一例の矯正ロールの形状を説明するための断面図である。
図6】実施形態2の電池の構成を模式的に示す断面図である。
図7A】湾曲量について説明するための模式図である。
図7B】湾曲量について説明するための他の模式図である。
図7C】湾曲量について説明するための他の模式図である。
図8】波打ちのピッチの決定方法について説明するための模式図である。
図9】極板の厚さの決定方法について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本開示に係る実施形態について例を挙げて説明するが、本開示に係る実施形態は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示に係る発明を実施できる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などの数値に関して下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかとを任意に組み合わせることができる。
【0014】
(極板の製造方法)
本開示の一実施形態に係る製造方法は、極板の製造方法である。この製造方法によれば、電池の極板を製造できる。この製造方法を、以下では「製造方法(M)」と称する場合がある。
【0015】
製造方法(M)は、工程(i)と工程(ii)とをこの順に含む。それぞれの工程について、以下に説明する。
【0016】
(工程(i))
工程(i)は、帯状の金属箔を含む帯状の集電体上に、活物質を含むスラリーを集電体の長手方向に沿って帯状に塗工し、その後、圧延することによって、活物質を含有する合剤層を含む帯状のシートを形成する工程である。集電体は、帯状の金属箔であってもよいし、帯状の金属箔の上に何らかの層(例えば導電層)が形成された集電体であってもよい。いずれの場合でも、帯状の集電体の平面形状と帯状の金属箔の平面形状とは同じである。
【0017】
工程(i)において、シートの幅方向の両端に、合剤層が形成されていない非塗工領域が存在するようにシートが形成される。具体的には、集電体にスラリーを塗工する際に、集電体の幅方向の両端にはスラリーを塗工しない。
【0018】
金属箔に特に限定はなく、極板の集電体として用いることが可能な金属箔であればよい。例えば、集電体として用いられている公知の金属箔を用いてもよい。金属箔の材質の例には、純アルミニウム、もしくは、アルミニウムが主成分で鉄、シリコン、マンガンなどの微量元素を含むアルミニウム(またはアルミニウム合金)が含まれる。金属箔の厚さは、5μm~50μmの範囲(例えば、10μm~20μmの範囲や、12μm~16μmの範囲)にあってもよい。シートの幅(金属箔の幅)に特に限定はなく、用いられる電池に応じて選択される。シートの幅(金属箔の幅)は、15mm~60mmの範囲(例えば、20~50mmの範囲や、25~45mmの範囲)にあってもよい。
【0019】
工程(i)に含まれる塗工方法および圧延方法に特に限定はなく、合剤層が形成できる方法であればよい。例えば、合剤層の形成に用いられている公知の塗工方法および公知の圧延方法を用いてもよい。形成される合剤層の厚さに限定はない。合剤層は、集電体の片面または両面に形成されるが、通常は両面に形成される。
【0020】
圧延は、合剤層の密度を上げるためなどの理由で行われる。圧延によって、シートには、波打ちや湾曲が生じる。ここで、波打ちとは、シートの主面に垂直な方向におけるシートの変位を意味する。湾曲とは、シートの外縁を構成する辺の、2つの角部を結ぶ直線からのずれを意味する。
【0021】
(工程(ii))
工程(ii)は、上記シートを、シートに張力が加えられた状態で矯正ロール上を通過させることで、シートの湾曲を矯正した後、シートを巻き取りロールに巻き取る工程である。工程(ii)を、以下では「矯正工程」と称する場合がある。矯正ロールは、上記シートが通過するシート通過部を含む。シート通過部のロール径は、合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している。
【0022】
なお、「シート通過部のロール径は、合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している」とは、シート通過部のロール径が、ロール中央部分からロール外側部分に向かって減少しないことを意味する。ロール径が徐々に増加する形態の例には、ロール中央部分からロール外側部分に向かってロール径が常に増加している形態が含まれる。また、ロール径が徐々に増加する形態の例には、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径が変化しない領域とロール径が増加している領域とでシート通過部が構成される形態が含まれる。
【0023】
工程(ii)によって、シートの湾曲および波打ちが少ない極板が得られる。従来の極板の矯正方法では、極板の非塗工領域を集中的に伸長させている。しかし、圧延工程によって得られるシートでは、塗工領域(合剤層が形成されている領域)の幅方向に、伸びの量の傾斜が生じている。従来の極板の矯正方法は、そのような伸びの傾斜を全く考慮していないため、極板の湾曲量を調整する際に、非塗工領域の波打ちが著しく悪化するという課題があった。製造方法(M)では、塗工部の幅方向における伸びの量の傾斜に対応する形状を有する矯正ロールを用いる。そのため、湾曲量および波打ちの両方が小さい極板を製造することができる。製造方法(M)によれば、後述する極板(P)を製造することが可能である。
【0024】
この明細書において、波打ちが小さいまたは波打ちが少ないとは、波打ちがないか、波打ちのピッチが大きいことを意味する。
【0025】
シート通過部のロール径は、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、階段状および/または逆テーパー状に増加していてもよい。例えば、シート通過部のロール径は、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、階段状に増加してもよいし、逆テーパー状に増加してもよいし、一部が階段状に増加し残りの部分が逆テーパー状に増加してもよい。なお、矯正ロールの中心軸に垂直な断面において、シート通過部の外縁は円である。
【0026】
シート通過部のロール径は、ロール中央部分で最小となり、且つ、ロール外側部分で最大となることが好ましい。さらに、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径は、少なくとも2段以上(例えば3段以上)の階段状に増加しているか、または、逆テーパー状に増加していることが好ましい。なお、ロール中央部分からロール外側部分に向かってロール径が2段の階段状に増加している場合、シート通過部のうち合剤層に対向している部分において、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径が2段の階段状に増加することを意味する。以下では、シート通過部のうち合剤層に対向している部分を「合剤層通過部」と称する場合がある。
【0027】
ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径が逆テーパー状に増加している形態は、合剤層通過部の全体においてロール径が逆テーパー状に増加している形態、および、合剤層通過部の一部においてロール径が逆テーパー状に増加している形態の両方を含む。
【0028】
ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径は、2段、3段、4段、5段、または6段の階段状に増加してもよいし、それ以上の段数の階段状に増加してもよい。段数の上限に特に限定はなく、10段以上であってもよい。合剤層通過部のロール径が階段状に変化する場合、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径は、3段以上の階段状に増加していることが特に好ましい。この構成によれば、湾曲および波打ちが特に小さい極板が得られる。
【0029】
ロール中央部分からロール外側部分に向かって、ロール径は、略均等に増加することが好ましい。例えば、ロール径が逆テーパー状に増加する場合には、ロール径が増加する勾配は、変化してもよいが、一定または略一定であることが好ましい。また、ロール径が階段状に増加する場合には、シート通過部の中央から最初の段差(階段)までの距離、および、隣接する2つの段差の間の距離が、一定または略一定であり、それぞれの段差の高さが一定または略一定であることが好ましい。ここで、略一定とは、平均値からのずれが±50%以内(例えば±30%以内や±10%以内)であることが好ましい。
【0030】
シート通過部のうち合剤層が通過する合剤層通過部の長さを2RL(mm)とする。上記ロール中央部分からの距離が距離Q(例えば0.5RL)の位置におけるロール径は、ロール中央部分におけるロール径よりも大きいことが好ましい。距離Qの位置におけるロール径がロール中央部分のロール径よりも大きいとは、例えば、ロール中央部分から距離Qの位置までの範囲に、ロール径が増加する段差が存在するか、またはロール径が逆テーパー状に大きくなる部分が存在することを意味する。換言すれば、ロール中央部分からの距離が距離Qの範囲において、ロール外側部分に向かってロール径の増大が開始する。当該距離Qは、0.5RL以下(例えば0.4RLや0.3RL)であってもよい。この構成によれば、合剤層における極板の伸びの量の幅方向の傾斜に、特に好ましく対応できる。
【0031】
シート通過部における最大のロール径Dmaxとシート通過部における最小のロール径Dminとの差(Dmax-Dmin)は、0.8~1.2mmの範囲にあってもよい。この範囲とすることによって、極板の湾曲および波打ちを特に抑制できる。
【0032】
シート通過部は、シート通過部の軸方向の中央を挟んで対称の形状を有することが好ましい。通常、塗工部の幅方向における伸びの量の傾斜は、塗工部の幅方向の中央部を挟んで概ね対象になる。そのため、シート通過部を対称の形状とすることによって、塗工領域の幅方向における極板の伸びの量の傾斜に特に適切に対応できる。
【0033】
工程(ii)において、矯正ロールを通過したシートを、合剤層の幅方向の中央部に沿ってスリットした後に、巻き取りロールで巻き取ってもよい。あるいは、工程(ii)を経たシートを、合剤層の幅方向の中央部に沿ってスリットしてもよい。スリットされた帯状のシートを所定の長さに切断して得られたものを、極板として用いることができる。
【0034】
矯正ロールを通過する際に上記シートに加えられている張力は、シートの幅方向の単位長さ当たり、1.3~1.6N/mmの範囲にあってもよい。
【0035】
巻き取りロールによってシートを巻き取るときの巻き取り張力は、シートの幅方向の単位長さ当たり、0.3~0.7N/mmの範囲にあってもよい。この範囲とすることによって、巻き取り後に極板の湾曲量が増加することを抑制できる。
【0036】
後述する製造装置(D)に関して説明するように、工程(ii)では、ニップロールなどを用いることによって、巻き出し張力と巻き取り張力とを異なる値とすることができる。
【0037】
工程(i)において、合剤層の幅方向の端部の平均厚さが合剤層の幅方向の中央部の平均厚さよりも小さくなるように、合剤層を形成してもよい。このように形成されたシートは、合剤層の幅方向における伸び量の傾斜が大きいため、従来の矯正ロールで適切に矯正することは特に困難であった。製造方法(M)では、上述した矯正ロールを用いているため、上記のように形成されたシートであっても、適切に矯正することができる。もちろん、工程(i)において、合剤層の形状が上記以外の形状になるようにシートを形成してもよい。合剤層の幅方向の端部の平均厚さと合剤層の幅方向の中央部の平均厚さとの大小関係の決定方法については、後述する。
【0038】
集電体を構成する金属箔は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔であってもよく、さらに、活物質は、リチウムを含有する複合酸化物であってもよい。このような極板は、電池の正極(例えば非水電解質二次電池の正極)として用いることができる。もちろん、製造方法(M)で製造される極板は、非水電解質二次電池の正極以外の極板であってもよい。
【0039】
(極板の製造装置)
本開示の一実施形態に係る製造装置は、極板の製造装置である。この製造装置によれば、電池の極板を製造できる。この製造装置を、以下では「製造装置(D)」と称する場合がある。製造装置(D)によれば、製造方法(M)を容易に実施できる。なお、製造方法(M)で説明した事項については製造装置(D)に適用できるため、重複する説明を省略する。また、製造装置(D)について説明した事項を、製造方法(M)に適用してもよい。
【0040】
製造装置(D)は、帯状の集電体と集電体上に形成された帯状の合剤層とを含む帯状のシートを搬送する搬送機構と、矯正ロールとを含む。搬送機構は、矯正ロールを通過したシートを巻き取るための巻き取りロールを含む。シートの幅方向の両端のそれぞれは、合剤層が形成されていない非塗工領域である。搬送機構は、シートに張力が加えられた状態でシートが矯正ロール上を通過するようにシートを搬送する。矯正ロールは、シートが通過するシート通過部を含む。シート通過部のロール径は、合剤層の幅方向の中央に対向するロール中央部分から非塗工領域に対向するロール外側部分に向かって、徐々に増加している。
【0041】
シートには、例えば、製造方法(M)の工程(i)で製造されたシートを用いることが可能である。金属箔および合剤層については上述したため、重複する説明を省略する。同様に、矯正ロールについては、製造方法(M)で説明した矯正ロールを用いることができるため、重複する説明を省略する。
【0042】
製造方法(M)について説明したように、製造装置(D)は以下の条件(1)~(7)のうちの少なくとも1つを満たしてもよい。なお、以下の条件を満たすことによって得られる効果等については、製造方法(M)に関して説明した通りである。
(1)シート通過部のロール径は、ロール中央部分からロール外側部分に向かって、階段状および/または逆テーパー状に増加している。
(2)シート通過部のうち合剤層が通過する合剤層通過部の長さを2RLとしたときに、ロール中央部分からの距離が0.5RLの位置にあるロール径が、ロール中央部分のロール径よりも大きい。
(3)シート通過部における最大のロール径Dmaxとシート通過部における最小のロール径Dminとの差(Dmax-Dmin)が0.8~1.2mmの範囲にある。
(4)シート通過部は、シート通過部の軸方向の中央を挟んで対称の形状を有する。
(5)矯正ロールと巻き取りロールとの間に、合剤層の幅方向の中央部に沿ってシートをスリットするためのスリット機構をさらに含む。
(6)矯正ロールを通過する際にシートに加えられている張力は、シートの幅方向の単位長さ当たり、1.3~1.6N/mmの範囲にある。
(7)巻き取りロールによってシートを巻き取るときの巻き取り張力が、シートの幅方向の単位長さ当たり、0.3~0.7N/mmの範囲にある。
【0043】
製造装置(D)は、巻き出しロールからシートを巻き出すときの巻き出し張力と、巻き取りロールによってシートを巻き取るときの巻き取り張力とが異なる値となるようにするための機構を含んでもよい。そのような機構の例には、ニップロールが含まれる。ニップロールは、例えば、矯正ロールと巻き取りロールとの間に配置され、その間を流れるシートを所定の範囲の力で押さえる。これによって、巻き出し張力と巻き取り張力とを異なる値とすることができる。
【0044】
スリット機構に特に限定はなく、公知のスリット機構を用いることができる。合剤層の幅方向の中央部に沿ってシートをスリットすることによって、2つのシートが得られる。2つのシートはそれぞれ、所定の長さに切断して極板とすることができる。
【0045】
(電池)
本開示の一実施形態に係る電池は、2つの極板を含む。2つの極板のうちの少なくとも1つの極板は、金属箔を含む集電体と、集電体上に配置された、活物質を含む合剤層とを含む。当該少なくとも1つの極板を、以下では、「極板(P)」と称する場合がある。極板(P)の幅方向の2つの端部のうちの一方の端部は、合剤層が形成されていない非塗工領域である。非塗工領域の集電体には、波状の凹凸が存在しないか、または、存在する場合には隣接する凸部間のピッチまたは隣接する凹部間のピッチが15mm以上である。非塗工領域側にある2つの角部を結ぶ直線の長さをL(mm)とし、当該直線の中央において当該直線に対する非塗工領域側の外縁(集電体の外縁)の湾曲量をY(mm)としたときに、以下の式(1)が満たされる。
-8×10-6×L≦Y≦8×10-6×L (1)
【0046】
ピッチ(ピッチ長)の測定方法については後述する。極板(P)は、上述した製造方法(M)で製造することが可能であり、上述した製造装置(D)を用いて製造してもよい。そのため、製造方法(M)および製造装置(D)で説明した事項については極板(P)に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、極板(P)について説明した事項を、製造方法(M)および製造方法(D)に適用してもよい。
【0047】
合剤層の幅方向の中央部における極板の平均厚さT1と、合剤層のうち非塗工領域側の端部における極板の平均厚さT2との差(T1-T2)が5μm以下であってもよい。差(T1-T2)の測定方法については後述する。
【0048】
上述したように、極板(P)の一例では、金属箔は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔であり、活物質は、リチウムを含有する複合酸化物であり、極板(P)は正極(正極板)として用いられ、例えば非水電解質二次電池の正極として用いられてもよい。上述したように、極板(P)は、非水電解質二次電池の正極以外の極板であってもよく、負極(負極板)として用いられてもよい。その場合には、用いられる極板の種類に応じて、集電体および活物質等が選択される。
【0049】
極板(P)を含むことを除いて電池の構成に特に限定はない。電池は、通常、正極、負極、セパレータ、電解液、およびそれらを収容する外装体を含む。これらの構成要素は、電池の種類に応じて選択できる。正極と負極とセパレータとは、極板群を構成する。極板群において、セパレータは、正極と負極との間に配置される。
【0050】
極板(P)を用いることができる電池である限り、電池の種類に特に限定はなく、二次電池(非水電解質二次電池やニッケル水素二次電池)であってもよい。極板群は、正極と負極とセパレータとを巻回することによって得られる巻回式の極板群であってもよいし、正極と負極とセパレータとを積層することによって得られる積層型の極板群であってもよい。電池の形状は、円筒形であってもよいし、角筒形であってもよいし、その他の形状であってもよい。円筒形の電池の例には、ピン形と呼ばれる電池が含まれる。電池に含まれる極板について湾曲量および波打ちのピッチを測定する場合、まず、電池を分解して極板を取り出す。次に、極板を平らにのばして、湾曲量の測定時には、基準線および目盛りが付与されている金属板とガラス板との間に極板を挟み込み固定する。波打ちのピッチの測定時には、2枚のガラス板で極板を挟み込み固定する。その後、実施例で説明する方法で湾曲量および波打ちのピッチを測定すればよい。
【0051】
電池が非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)である場合の一例の構成を以下に説明する。
【0052】
(正極)
正極合剤層は、例えば以下の方法で形成してもよい。まず、正極活物質と他の任意成分(結着剤、増粘剤、導電材など)とを含む材料を分散媒に分散させた正極スラリーを調製する。次に、正極スラリーを正極集電体の表面に塗布した後に乾燥させることによって塗膜を形成する。その後、集電体と塗膜とをまとめて圧延することによって、正極合剤層を含む正極シートを形成できる。
【0053】
(負極)
負極は、負極活物質を含む。負極は、通常、負極集電体と、負極集電体上に配置された層状の負極合剤層とを含む。負極合剤層は、負極合剤層の構成成分を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。乾燥後の塗膜を、必要に応じて圧延してもよい。
【0054】
負極合剤層は、負極活物質と他の任意成分(結着剤、増粘剤、導電材など)を含む。負極合剤層には、非水電解質二次電池の負極に用いられている公知の負極合剤層を用いることができる。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料を用いることができる。そのような材料の例には、炭素質材料、Si含有材料などが含まれる。
【0055】
(非水電解質)
非水電解質(非水電解液)は、溶媒と、溶媒に溶解した溶質とを含む。溶質の例には、リチウム塩が含まれる。溶媒の例には、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)などが含まれる。
【0056】
(セパレータ)
セパレータとしては、微多孔膜、織布、および不織布などを用いることができる。セパレータの材質の例には、ポリオレフィンその他の樹脂が含まれる。
【0057】
以下では、製造方法(M)、製造装置(D)、および極板(P)の例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する製造方法、製造装置、および極板には、上述した説明を適用でき、上述した説明に基づいて変更してもよい。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する例において、本開示に係る製造方法、製造方法、および極板に必須ではない構成要素は省略してもよい。
【0058】
(実施形態1)
実施形態1では、製造方法(M)および製造方法(D)の一例について、説明する。実施形態1の製造方法では、まず、図1に示すように、集電体101と集電体101上に形成された合剤層102とを含むシート100を形成する。具体的には、帯状の金属箔を含む帯状の集電体101上に、活物質を含むスラリーを集電体101の長手方向に沿って帯状に塗工し、その後、圧延する。これによって、活物質を含有する合剤層102を含む帯状のシート100を得る。得られたシート100は、ロールに巻き取ってもよいし、ロールに巻き取る前に矯正工程を行ってもよい。図1の線II-IIにおけるシート100の断面図を図2に示す。
【0059】
実施形態1では、集電体101の両面に合剤層102を形成する一例について説明する。図1および図2に示すように、工程(i)では、シート100の幅方向WD(シート100の長手方向LDに直交する方向)の両端のそれぞれに合剤層102が形成されていない非塗工領域100bが存在するように、シート100を形成する。シート100は、合剤層102が形成されている塗工領域100aと、非塗工領域100bとに分けることができる。通常、2つの非塗工領域100bは、幅が実質的に等しくなるように形成される。2つの非塗工領域100bの幅が等しい場合、シート通過部310(後述)の幅方向の中央の位置と、合剤層通過部310x(後述)の幅方向の中央の位置とが等しくなる。
【0060】
検討の結果、本願発明者らは、シート100の幅方向WDにおける位置によって、図1に示すように、圧延工程におけるシート100の伸び量が違うことを新たに見出した。さらに、従来の矯正ロールでは、上記シート100の伸び量の違いに対応できないため、矯正が不充分となることを見出した。本実施形態では、上記シート100の伸び量の違いに対応する矯正ロールを用いる。そのため、矯正後のシート100の湾曲および波打ちを従来よりも格段に小さくできる。
【0061】
図2に示す一例の合剤層102は、合剤層102の幅方向WDの端部の平均厚さTdが合剤層102の幅方向WDの中央102cの平均厚さTcよりも小さくなるように形成されている。図2に示す合剤層102の厚さは、幅方向WDの中央近傍ではほぼ一定であり、端部に近くなるほど薄くなる。このような形状は、スラリーを塗工する際の条件を制御することによって実現できる。例えば、ダイ塗工において、インナーディッケル(塗工シム)の開口部から集電体表面に向かってスラリーを吐出する際の開口幅Wsと、吐出されたスラリーを塗工領域まで塗り広げたときの塗工領域の幅Wpとの比を制御することによって、図2に示す形状を実現できる。塗り広げる比率が高いほど、すなわち、Ws/Wp比率の値が小さいほど、図2に示す形状となりやすくなる。図2に示す形状の合剤層102を形成する場合、Ws/Wp比率の値を、0.94以下とすることが好ましく、例えば、0.86~0.92の範囲(特に、0.88~0.90の範囲)とすることが好ましい。
【0062】
平均厚さTcと平均厚さTdとの大小関係は、以下の手順で求められる。まず、任意の20箇所の中央102cを選択してその位置におけるシート100の厚さを測定する。次に、測定された20箇所の厚さを算術平均し、得られた平均値を平均厚さTcとする。次に、端部の所定の位置102dを任意に20箇所選択してその位置102dにおけるシート100の厚さを測定する。位置102dは、合剤層102の非塗工領域100b側の端から中央102c側に1mm移動した位置である。次に、測定された20箇所の厚さを算術平均し、得られた平均値を平均厚さTdとする。(Tc-Td)の値がプラスの場合、端部の平均厚さTdが中央部の平均厚さTcよりも小さい。
【0063】
次に、図3に示すように、製造装置200を用いて工程(ii)を実施する。具体的には、巻き出しロール211に巻かれているシート100を矯正ロール300側に送り出し、シート100に張力が加えられた状態で、矯正ロール300上を通過させることで、シート100の湾曲を矯正した後、矯正後のシートを巻き取りロール212に巻き取る(矯正工程)。
【0064】
製造装置200は、搬送機構210、ニップロール230、スリッター240、および矯正ロール300を含む。搬送機構210は、巻き出しロール211と巻き取りロール212とを含む。搬送機構210は、さらに、ロール213、ロール214、エッジ検出センサ215、巻き出しロール211による巻き出しを行うための駆動機構(例えばモータ)、巻き取りロール212による巻き取りを行うための駆動機構(例えばモータ)、および、巻き出し張力および巻き取り張力をモニタするための計測機器とを含む。ロール213、ロール214、およびエッジ検出センサ215は、蛇行制御機構(EPC)として機能する。矯正ロール300を除く構成要素に特に限定はなく、公知の構成要素を用いてもよい。また、製造装置200は、矯正ロール300の上流側に配置された蛇行制御機構をさらに含んでもよい。
【0065】
シート100は、シート100をその長手方向に引っ張る張力が加えられた状態で、矯正ロール300と接触しながら矯正ロール300上を通過する。これによって、シート100が矯正ロール300に押し当てられ、矯正ロール300の形状に応じてシート100が伸長され、矯正後のシート100xが得られる。具体的には、ロール径が大きい場所ほど、シート100の伸長が大きくなる。後述するように、矯正ロール300のうち合剤層が通過する部分は、中央部分から外側部分に向かってロール径が徐々に大きくなっている。そのため、非塗工領域100bに近いほどシートの伸長を大きくすることが可能である。
【0066】
矯正ロール300のうちシート100と接触している部分の中心角αに特に限定はないが、中心角αが小さすぎると矯正効果が得られにくくなる。中心角αは、90°~180°の範囲(例えば150°~170°の範囲)にあってもよい。
【0067】
矯正されたシート100xは、スリッター240によって合剤層102の幅方向WDの中央部に沿ってスリットされ、2つに分割される。スリットされたシート100yは、巻き取りロール212によって巻き取られる。このようにして得られたシート100yを所定の長さに切断することによって極板が得られる。実施形態1の製造方法および製造装置では、矯正ロール300を用いている。そのため、上述したように、湾曲および波打ちが小さい極板が得られる。
【0068】
なお、実施形態1では、製造装置200がスリッター240を含み、矯正されたシート100がスリットされる一例を示しているが、製造装置200は、スリッター240を含まなくてもよい。シート100がスリットされる場合、巻き取りロール212は、スリット後の2つのシートを巻き取るための2つの巻き取りロールを含んでもよい。
【0069】
また、製造装置200は、2つ以上(例えば2つ)の矯正ロールを含んでもよく、2つ以上(例えば2つ)の矯正ロールを用いて、2回以上矯正工程を行ってもよい。そうすることによって、矯正ロール通過時に、シートに加えられている張力を低減することができるため、非塗工領域の波打ちの抑制と極板の湾曲矯正とを高いレベルで両立させることが可能となる。
【0070】
また、製造装置200は、集電体にスラリーを塗布し乾燥する塗布装置と、塗布装置で形成された塗膜を圧延する圧延装置とを含んでもよい。これらの装置によって、シート100を形成し、ロールに巻き取ることなくそのまま矯正工程を行うことができる。この場合、巻き出しロールからは集電体が巻き出される。塗布装置および圧延装置に特に限定はなく、公知の装置を用いてもよい。
【0071】
矯正ロール300は、シート100が通過するシート通過部310を含む。シート通過部310のロール径は、合剤層102の幅方向WDの中央102cに対向している中央部分から非塗工領域100bに対向している外側部分に向かって、階段状および/または逆テーパー状に増加している。
【0072】
矯正ロール300の一例の断面図を図4に示す。図4の断面図は、矯正ロール300の中心軸300caに沿った断面図である。なお、図4には、矯正ロール300上を通過するシート100の通過位置も示す。なお、矯正ロールの断面図において、図面を見やすくするためにハッチングを省略する。
【0073】
図4に示す一例の矯正ロール300は、シート100が通過する部分であるシート通過部310を含む。シート通過部310は、中心軸300caにおけるシート通過部310のロール中央部分300ccを挟んで対称の形状を有する。シート通過部310は、塗工領域100a(合剤層102)に対向する合剤層通過部310xと、2つの非塗工領域100bに対向する2つのロール外側部分310yとを含む。
【0074】
シート通過部310のロール径は、合剤層102の中央102cに対向しているロール中央部分300ccから2つの外側部分310yに向かって3段の階段状に増加している。
【0075】
シート通過部310は、最小のロール径Dminを有する第1の部分(ロール中央部分311)、ロール径D2を有する2つの第2の部分312、ロール径D3を有する2つの第3の部分313、および最大のロール径Dmaxを有する2つの第4の部分(ロール外側部分314)を含む。ロール径は、Dmin<D2<D3<Dmaxの関係を満たす。2つのロール外側部分314は、シート通過部310の両端に位置する。2つの第3の部分313は2つの第4の部分の間に配置されている。2つの第2の部分312は、2つの第3の部分313の間に配置されている。中央部分311は、2つの第2の部分312の間に配置されている。第3の部分313とロール外側部分314との境界は、塗工領域100a(合剤層102)に対向していることが好ましい。なお、矯正ロール300は、シート100の幅よりも広くなるように、ロール外側部分314を外側に延ばした部分を含む。
【0076】
ロール中央部分300cc(合剤層通過部310xの中央)は、最小のロール径Dminを有する。ここで、ロール中央部分300ccからロール外側部分314までの長さを長さRL(mm)とする。すなわち、中心軸300caに沿った合剤層通過部310xの長さを2RL(mm)とする。シート通過部310のロール径は、ロール中央部分300ccからの距離が所定の範囲にある位置においてDminよりも大きくなっていることが好ましい。当該所定の範囲は、上述した範囲にあってもよい。
【0077】
合剤層通過部310xの一部においてロール径が逆テーパー状に増加している場合、ロール径が逆テーパー状に増加している部分の、中心軸300caに沿った長さは、合剤層通過部310xにおいて0.4RL~2RLの範囲にあってもよい。
【0078】
矯正ロール300の他の一例の断面図を図5に示す。図5の断面図は、矯正ロール300の中心軸300caに沿った断面図である。なお、図5には、矯正ロール300上を通過するシート100の通過位置も示す。
【0079】
シート通過部310のロール径は、合剤層102の中央に対向しているロール中央部分300ccから2つのロール外側部分310yに向かって逆テーパー状に増加している。外側部分310yは、ロール径が一定である。
【0080】
図4および図5に示すように、矯正ロール300は、ロール中央部分300ccからロール外側部分314に向かってロール径が減少する部分を含まない。図5に示す逆テーパー状の形状と比較して、図4に示す階段状の形状は、低い張力でも高い矯正効果が得られやすく、波打ちを抑制できるという利点を有する。特に、合剤層102の部分の伸び量の傾斜に対応しやすい点で、合剤層通過部310xは、階段状の形状を含むことが好ましい。
【0081】
(実施形態2)
実施形態2では、本実施形態に係る電池の一例について説明する。実施形態2では、電池が非水電解質二次電池である一例について説明する。
【0082】
実施形態2の電池の断面図を図6に示す。図6は、実施形態2に係るピン形の円筒形の二次電池1の概略縦断面図である。二次電池1は、開口を有する有底円筒形の電池ケース20と、電池ケース20内に収容された巻回式の極板群10および非水電解質(図示せず)と、電池ケース20の開口を封口する封口部材40とを含む。極板群10は、正極11と負極12との間にセパレータ13が配置されるように、正極11、負極12、およびセパレータ13を巻回することによって形成されている。
【0083】
封口部材40は、ハット状であり、リング状の鍔(ブリム40a)と、円柱状の端子部40bおよび40cと、を含む。封口部材40の周縁部には、ブリム40aを覆うようにリング状で絶縁性のガスケット30が配置されている。そして、封口部材40の周縁部は、ガスケット30をはさんで、電池ケース20の開口端部でかしめられている。
【0084】
極板群10の上端面(頂面)と封口部材40の底面との間には、第1絶縁リング50Aが配置されている。電池ケース20の屈曲した開口端部の外表面およびその周辺のガスケット30の表面を覆うように、電気絶縁性材料で形成されたドーナツ状の第2絶縁リング50Bが配置されている。
【0085】
電池ケース20および封口部材40の極性は任意に決定できる。つまり、電池ケース20は、正極端子および負極端子のいずれであってもよい。図5に示す一例では、電池ケース20を負極12と接続して外部負極端子として使用し、封口部材40を正極11と接続して外部正極端子として使用する。
【0086】
正極11と封口部材40とは、正極集電リード60を介して電気的に接続されている。封口部材40は、正極端子として機能する。負極集電リード70の一端部は、溶接点70aにおいて電池ケース20の内側壁と接続されている。負極12と電池ケース20とは、負極集電リード70を介して電気的に接続されている。電池ケース20は、外部負極端子として機能する。
【0087】
正極11は、上述した極板(P)である。正極11を平らに展開したときの上面図を図7A図7Cに示す。なお、これらの図では、理解を容易にするため、湾曲を強調して示す。図7Aに示すように、正極11は、集電体101と合剤層102とを含む。合剤層102は、集電体101の両面に形成されている。正極11の幅方向WDの2つの端部のうちの一方の端部は、合剤層102が形成されていない非塗工領域100bである。正極11は、合剤層102が形成されている塗工領域100aと、非塗工領域100bとに分けることができる。
【0088】
図7Aを参照して、湾曲量Yの測定方法の一例について説明する。以下で説明する方法は、湾曲量Yを簡便に測定する方法の一例である。まず、正極11を金属板とガラス板とで挟み込み固定する。金属板には仮想の基準線BLが引かれており、基準線上には、目盛りが付与されている。図7Aに示すように、正極11の集電体101の外縁101pを、基準線BLの近傍の下方に配置する。外縁101pは、集電体101の非塗工領域100b側の2つの角部101aおよび101bの間の外縁である。このとき、外縁101pができるだけ基準線BLと平行になるように配置する。具体的には、極板が傾斜しないように、角部101aおよび101bと基準線BLとの間隔差が0.5mm以下となるように配置する。
【0089】
次に、基準線BLから垂線を引いたときに集電体101の左上の角部を通る垂線を引ける位置Aを特定する。同様に、基準線BLから垂線を引いたときに集電体101の左上の角部を通る垂線を引ける位置Cを特定する。そして、位置Aと位置Cとの間の中央の位置Bを特定する。ここで、位置A、位置B、および位置Cから外縁101pに到達するまで垂線を延ばしたときの当該垂線の長さXa(mm)、Xb(mm)、およびXc(mm)をガラス板上から工場顕微鏡で測定する。このとき、上述した湾曲量Y(mm)を、Y=Xb-(Xa+Xc)/2の式で求めることができる。
【0090】
図7Aに示すように、外縁101pが内側に凹の形状を有する場合、湾曲量Yはプラスの値となる。なお、図7Aには、正極11(極板(P))における幅方向WDを示す。極板(P)における幅方向WDとは、非塗工領域100b側の一辺(外縁101p)と、当該一辺に対向する一辺とを結ぶ方向である。
【0091】
外縁101pが湾曲していない場合の一例を図7Bに示す。この場合、湾曲量Y=Xb-(Xa+Xc)/2=0となる。
【0092】
外縁101pが内側に向かって凸の形状を有する場合の一例を図7Cに示す。この場合、湾曲量Y=Xb-(Xa+Xc)/2の値はマイナスの値となる。
【0093】
正極11を製造方法(M)で製造することによって、集電体101の湾曲量Yを低減することができ、上記の式(1)を満たすことが可能となる。
【0094】
正極11(極板(P))の波打ちのピッチ(ピッチ長)の測定方法について説明する。正極11の波打ちのピッチを測定する場合、まず、正極11を、2枚の平らなガラス板で挟み込み固定する。そのときの状況を、図8に示す。図8は、非塗工領域100b側から、2枚のガラス板に挟まれた集電体101の外縁101pを見たときの図である。
【0095】
集電体101の外縁101pに、波状の凹凸が存在する場合について考える。図8に示すように、外縁101pに2つの凸部CP(または2つの凹部)が存在する場合には、その2つの凸部CP(または2つの凹部)の間の距離PL(mm)が、ピッチとなる。外縁101pに波状の凹部または凸部が存在しないか、1つだけ存在する場合、ピッチはL(mm)以上である。例えば、長さLが30mmの場合に、外縁101pに波状の凹部または凸部が1つだけ存在する場合、ピッチは30mm以上である。
【0096】
正極11(極板(P))の合剤層102の幅方向WDの中央部における極板の平均厚さT1、および、合剤層のうち非塗工領域100b側の端部における極板の平均厚さT2の測定方法について図9を参照して説明する。平均厚さT1は、以下の手順で決定する。まず、合剤層102の幅方向WDの中央部102eについて任意に20箇所を選択し、その20箇所における正極11(極板(P))の厚さを測定する。そして、測定された20箇所の厚さの算術平均を、平均厚さT1とする。平均厚さT2は、以下の手順で求められる。まず、位置102fを任意に20箇所選択し、その20箇所における正極11(極板(P))の厚さを測定する。位置102fは、合剤層102の非塗工領域100b側の端から中央部102e側に1mm移動した位置である。そして、そして、測定された20箇所の厚さの算術平均を、平均厚さT2とする。
【実施例0097】
以下、本実施形態について、実施例および比較例に基づいて具体的に説明する。本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0098】
この実施例では、複数の条件で極板の矯正を行い、矯正された極板を評価した。極板には、二次電池用の正極を用いた。集電体には、幅が30.6mmで厚さが13μmのアルミ箔を用いた。この集電体の両面にスラリーを塗工乾燥して塗膜を形成した。次に、塗膜を圧延することによって、集電体と合剤層とを含む帯状の正極シートを形成し、ロール(矯正工程における巻き出しロール)に巻き取った。このとき、集電体の幅方向の両端が、合剤層が形成されていない非塗工領域となるように、合剤層を形成した。それぞれの非塗工領域の幅は2.4mmとした。合剤層の幅は、25.8mmとした。
【0099】
この実施例では、スラリーを塗工する条件を変えて複数の正極シート(シート100)を作製した。矯正工程を行う前の正極シートについて、合剤層の幅方向の中央部における極板の平均厚さTcと、合剤層の幅方向の端部における平均厚さTdとを上述した方法で測定した。そして、その差(Tc-Td)を求めた。
【0100】
図3の装置と同様の装置を用いて、上記正極シートの湾曲の矯正を行った。矯正ロールとしては、ロール径が階段状に増加する矯正ロールA1~A5、ロール径が逆テーパー状に増加する矯正ロールB1~B2、および図4に示す矯正ロールを一番外側の段差部分のみを有するように変更した矯正ロールC1~C3を用いた。
【0101】
矯正ロールA3は、図4に示す形状を有する。図4を参照して、矯正ロールA3の最小径Dminは、99.2mmとした。ロール中央部分300ccから第2の部分312(1段目の階段)までの距離SL1を4.1mmとした。第2の部分312とロール中央部分311との段差SH1を0.13mmとした。第2の部分312の幅方向における長さSL2を3.9mmとした。第2の部分312と第3の部分313との段差SH2を0.13mmとした。同様に、第3の部分313の幅方向における長さSL3を3.9mmとした。第3の部分313とロール外側部分314との段差SH3を0.14mmとした。最大のロール径Dmaxとロール径Dminとの差(Dmax-Dmin)は、0.80mmとした。
【0102】
なお、矯正ロール300のロール径の変化は、シート100の幅に比べて非常に小さい。そのため、合剤層102の幅は、矯正ロール300上でも実質的に変わらないとみなすことができる。すなわち、合剤層通過部310xの長さは、合剤層102の幅と実質的に同じであるとみなすことができる。換言すれば、合剤層通過部310xの長さ2RLは、合剤層102の幅と同じであるとみなすことが可能である。
【0103】
上述したように、合剤層の幅は、25.8mmである。そのため、矯正ロールA1~A5において、上述した長さ2RL(図4参照)を25.8mmとみなすことが可能である(RL=12.9mm)。また、SL1は4.1mmである。矯正ロールA3において、図4のロール中央部分300ccから第2の部分312までの距離は、0.32RL(RL×4.1/12.9)である。なお、矯正ロールB1およびB2の場合、ロール中央部分300ccから径が大きくなる部分までの距離は、ゼロに近い値とみなすことができる。すなわち、矯正ロールA1~A5および矯正ロールB1およびB2は、いずれも、ロール中央部分300ccからの距離が0.5RLの範囲(より詳細には0.4RLの範囲)において、ロール径がロール外側部分に向かって徐々に増加している。
【0104】
矯正ロールA2、A4、およびA5は、ロール径の差(Dmax-Dmin)が表1の値となるロールである。なお、矯正ロールA2、A4、およびA5のSL1、SL2、およびSL3は、矯正ロールA3と同様とし、矯正ロールA2、A4、およびA5のSH1、SH2、およびSH3は、それらがほぼ均等になるようにした。矯正ロールA1は、非対称の形状とした。
【0105】
矯正ロールB2は、図5に示す形状を有する。最小のロール径Dminは、99.2mmとし、最大のロール径Dmaxは、Dmin+0.80mmとした。矯正ロールB1は、一方の外側部分のロール径をDmin+0.60mmとし、他方の外側部分のロール径をDmin+0.80mmとした。すなわち、矯正ロールB1は非対称の形状とした。
【0106】
矯正ロールの種類、上述した巻き出し張力、上述した巻き取り張力、および合剤層の形状(上述した(Tc-Td)の値)を変化させて、正極シートの矯正およびスリットを行い、2つの正極シートを得た。得られた正極シートを所定の長さに切断し、複数の正極(長さ500mm、幅15.3mm)を得た。なお、得られた正極シートをより短く切断し、より小型の二次電池(例えばピン形の二次電池)の正極として用いることが可能である。得られた正極について、上述した方法で、湾曲量Yと波打ち形状のピッチとを評価した。なお、湾曲量Yについては、正極を作製した直後の湾曲量Y0と、巻き取りロールに巻き取った状態で60日間保管した後の湾曲量Y1とを測定した。そして、湾曲量変化量=Y1-Y0(Y1とY0との差)を求めた。実験条件の一部と評価結果とを表1に示す。
【0107】
この実施例における湾曲量Yは式(1)の長さLを500mmとした時の値であり、その場合、式(1)の右辺は、8×10-6×500=2.0となる。そのため、この実施例において式(1)は、以下の式で表現される。
-2.0≦Y≦2.0
【0108】
【表1】
【0109】
(Tc-Td)の値がプラスである極板は、図2に示す形状と同様の形状を有する。一方、(Tc-Td)の値がマイナスである極板は、合剤層の幅方向の端部における極板の平均厚さTdが、合剤層の幅方向の中央部における極板の平均厚さTcよりも大きい。
【0110】
実験例1~14は、製造方法(M)および製造装置(D)による実施例である。表1に示すように、実験例1~14によれば、湾曲量が小さく且つ波打ちのピッチが長い極板が得られた。また、実験例7と実験例9~11との比較から分かるように、巻き取り張力を0.3~0.7N/mmの範囲とすることによって、湾曲量の変化量を低減できた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示は、極板の製造方法、極板の製造装置、および電池に利用できる。
【符号の説明】
【0112】
1 :二次電池
11 :正極
100 :シート
100a :塗工領域
100b :非塗工領域
101 :集電体
102 :合剤層
200 :製造装置
210 :搬送機構
211 :巻き出しロール
212 :巻き取りロール
230 :ニップロール
240 :スリッター
300 :矯正ロール
300ca :中心軸
300cc、311 :ロール中央部分
310 :シート通過部
310x :合剤層通過部
310y、314 :ロール外側部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9