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特開2023-73261配合点眼液、製造方法、及び患者において生じる角結膜障害作用を低減する方法
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  • 特開-配合点眼液、製造方法、及び患者において生じる角結膜障害作用を低減する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073261
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】配合点眼液、製造方法、及び患者において生じる角結膜障害作用を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4704 20060101AFI20230518BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K31/4704
A61K31/5575
A61P27/06
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031273
(22)【出願日】2023-03-01
(62)【分割の表示】P 2022160448の分割
【原出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 穣
(72)【発明者】
【氏名】伏間 智史
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086DA02
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA58
4C086NA06
4C086ZA33
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】点眼時の角結膜上皮障害の進行を抑制し、緑内障治療に長く使用できる新たな点眼液を提供する。
【解決手段】タフルプロストと、カルテオロールと、を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タフルプロストと、カルテオロールと、を含有する配合点眼液。
【請求項2】
前記タフルプロストの含有量が0.01mg/mL以上0.1mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1に記載の配合点眼液。
【請求項3】
前記カルテオロールの含有量が5mg/mL以上200mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の配合点眼液。
【請求項4】
緑内障の治療に用いることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の配合点眼液。
【請求項5】
前記緑内障の治療に、3年以上に渡って使用可能であることを特徴とする、請求項4に記載の配合点眼液。
【請求項6】
前記配合点眼液は、前記カルテオロールを含有しない点眼液と比較して、患者における角結膜障害作用が低減されていることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか一項に記載の配合点眼液。
【請求項7】
前記配合点眼液は、前記タフルプロストを含有しない点眼液と比較して、患者における角結膜障害作用が低減されていることを特徴とする、請求項1乃至6の何れか一項に記載の配合点眼液。
【請求項8】
タフルプロスト点眼液の製造方法であって、
前記タフルプロスト点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減する工程を含み、
前記角結膜障害作用を低減する工程は、前記点眼液にカルテオロールを添加することを含む、製造方法。
【請求項9】
タフルプロスト点眼液が有する角結膜障害作用を低減する方法であって、
前記点眼液にカルテオロールを添加する工程を含む、方法。
【請求項10】
カルテオロール点眼液の製造方法であって、
前記カルテオロール点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減する工程を含み、
前記角結膜障害作用を低減する工程は、前記点眼液にタフルプロストを添加することを含む、製造方法。
【請求項11】
カルテオロール点眼液が有する角結膜障害作用を低減する方法であって、
前記点眼液にタフルプロストを添加する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合点眼液、製造方法、及び患者において生じる角結膜障害作用を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障治療のため、点眼剤が用いられる場合がある。緑内障治療に用いられる点眼剤の有効成分としては、例えばタフルプロストが挙げられる。特許文献1は、タフルプロストに加えて部分フッ素アルカンを含む医薬組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2021-522219号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】宮崎正人ほか,“抗緑内障点眼薬の角膜上皮バリアー機能への影響に関する検討”,日本眼科紀要,1998年10月28日,p811-816
【非特許文献2】長井紀章ほか,“不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のin vitro角膜細胞傷害性評価”,薬学雑誌,2011年3月28日,p985-991
【非特許文献3】井上順ほか,”プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響”,あたらしい眼科vol28 No.6,2011年6月30日,p134-138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、緑内障治療の際に用いられる点眼剤は、副作用として角結膜上皮障害を惹起し、ドライアイ症状を進行させることが知られている。長期治療を必要とする緑内障の特性を考慮すると、点眼剤としては、眼圧下降効果のみならず角結膜上皮への影響も考慮した薬剤を選択することが望ましい。
【0006】
本発明は、点眼時の角結膜上皮障害の進行を抑制し、緑内障治療に長く使用できる新たな点眼液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するために、例えば、一実施形態に係る配合点眼液は以下の構成を備える。すなわち、タフルプロストと、カルテオロールとを含有する。
【発明の効果】
【0008】
点眼時の角結膜上皮障害の進行を抑制し、緑内障治療に長く使用できる新たな点眼液を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】各検体による角膜障害作用の低減効果の走査型電子顕微鏡での評価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態に係る併用剤は、タフルプロストとカルテオロールとを含有する。また、本実施形態に係る併用剤は、配合点眼液として用いられる。タフルプロストとカルテオロールとを含有する配合点眼液は、緑内障治療に用いることができる。
【0012】
タフルプロスト(16-フェノキシ-15-デオキシ-15,15-ジフルオロ-17,18,19,20-テトラノルプロスタグランジンF2α)は、プロスタグランジンF2α誘導体であり、緑内障治療のために点眼剤として用いられる。
【0013】
カルテオロールは、β遮断薬として使用される化合物であり、緑内障の治療に用いられる。本実施形態に係る配合点眼液はカルテオロールの薬学的に許容される塩を含有し、特にカルテオロール塩酸塩(化学名は(5-[(2RS)-3-(1,1-ジメチルエチル)アミノ-2-ヒドロキシプロピルオキシ]-3,4-ジヒドロキノリン-2(1H))-オン・1塩酸塩)を含有する。本実施形態に係るβ遮断薬とは、交感神経のアドレナリン受容体のうち、β-アドレナリン受容体、β1、β2及びβ3の各受容体のいずれかを遮断する薬剤であってもよい。
【0014】
点眼液中のタフルプロスト及びカルテオロールの含有量は、点眼液の用途及び患者に応じて適宜選択することができる。例えば点眼液中のタフルプロストの含有量は、0.005mg/mL以上であってもよく、0.01mg/mL以上であってもよく、0.015mg/mL以上であってもよい。また点眼液中のタフルプロストの含有量は、0.1mg/mL以下であってもよく、0.05mg/mL以下であってもよく、0.002mg/mL以下であってもよい。また例えば、点眼液中のカルテオロールの含有量は、5mg/mL以上であってもよく、10mg/mL以上であってもよく、20mg/mL以上であってもよい。また点眼液中のカルテオロールの含有量は、200mg/mL以下であってもよく、100mg/mL以下であってもよく、50mg/mL以下であってもよい。
【0015】
本実施形態に係る配合点眼液は、一般的に用いられる方法により調製が可能である。すなわち、本実施形態に係る配合点眼液は、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、防腐剤、可溶化剤、又は増粘剤などの一般的に用いられる公知の成分を必要に応じて含有していてもよい。
【0016】
等張化剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、シュクロース、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、又は塩化マグネシウム等が用いられてもよい。等張化剤としては、グリセリン又はプロピレングリコールが用いられることが特に好ましい。
【0017】
緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム・二水和物、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、若しくはリン酸水素二カリウム等のリン酸塩、ホウ酸及びホウ酸ナトリウム、若しくはホウ酸カリウム等のホウ酸塩、クエン酸及びクエン酸ナトリウム、若しくはクエン酸二ナトリウム等のクエン酸塩、酢酸及び酢酸ナトリウム、若しくは酢酸カリウム等の酢酸塩、炭酸ナトリウム、若しくは炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩等、又はエデト酸ナトリウムの水和物が用いられてもよい。緩衝材としては、好ましくはリン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、又はエデト酸ナトリウムが用いられる。
【0018】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、乳酸、クエン酸、リン酸、酢酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩基が用いられてもよい。この配合点眼剤の溶媒は特に限定されないが、一般的には水が用いられる。なお、本実施形態に係る配合点眼液のpHは、3以上としてもよく、4以上としてもよく、6以上とするのが好ましい。また、この配合点眼液のpHは、9以下としてもよく、8以下としてもよく、7.5以下としてもよい。
【0019】
防腐剤としては、例えば、塩酸ポリヘキサニド、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンゾドデシニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、又はパラオキシ安息香酸ブチル等が用いられてもよい。防腐剤としては、塩酸ポリヘキサニド、又は塩化ベンザルコニウムが用いられることが特に好ましい。
【0020】
可溶化剤としては、例えば界面活性剤が用いられ、特に非イオン性界面活性剤が使用される。可溶化剤としては、例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(10、20、40、60、80、又は100)、マクロゴール4000、ポリビニルアルコール、チロキサポール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、又はダイズ油等の植物油脂等が用いられてもよい。可溶化剤としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(10、20、40、60、80、又は100)が用いられることが特に好ましい。可溶化剤の濃度は特に制限されず、点眼液中のタフルプロストの濃度及びカルテオロールの濃度、又は所望の点眼液の安定性などの条件に応じて適宜選択が可能である。例えば可溶化剤として、点眼液中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40の濃度を、0.1mg/mL以上としてもよく、0.5mg/mL以下としてもよい。また、点眼液中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40の濃度を、10mg/mL以下としてもよく、5mg/mL以下としてもよく、3mg/mL以下としてもよく、1mg/mL以下としてもよい。
【0021】
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸、又はアルギン酸ナトリウム等が用いられてもよい。増粘剤としては、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はアルギン酸が用いられる。
【0022】
配合点眼液は、これらの成分を複数含有していてもよく、また、1種類の成分を2以上(例えば、2種類以上の防腐剤を)含有していてもよい。また、本実施形態に係る配合点眼液は容器に収容することができる。この容器の種類は特に限定されないが、ガラス容器又は樹脂製容器であってもよい。樹脂製容器の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、又は環状ポリオレフィンであってもよい。
【0023】
一般的に用いられる緑内障治療の配合点眼剤は、眼圧下降効果を有するが、副作用として角結膜上皮障害を惹起することがある。本実施形態に係る配合点眼液を緑内障治療に用いることにより、この角結膜障害作用を低減することが可能である。点眼液による角結膜障害作用を低減することにより、長期に渡って緑内障治療に用いることが可能な点眼液を提供することが可能となる。本発明における配合点眼液は、緑内障の治療にあたり、6か月以上に渡って使用されてもよく、1年以上に渡って使用されてもよく、2年以上に渡って使用されてもよく、3年以上に渡って使用されてもよく、5年以上に渡って使用されてもよい。
【0024】
本実施形態に係る配合点眼液の製造方法は特に限定されない。例えば、タフルプロストと、カルテオロールと、必要に応じてその他の添加剤とを精製水に溶解することにより、本実施形態に係る配合点眼液を製造することができる。本実施形態に係る配合点眼液は、カルテオロールを添加したタフルプロスト点眼液であってもよく、タフルプロストを添加したカルテオロール点眼液であってもよい。
【0025】
一実施形態に係るタフルプロスト点眼液の製造方法は、タフルプロスト点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減する工程を含む。タフルプロスト点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減する工程は、タフルプロスト点眼液にカルテオロールを添加する工程を含んでいる。このタフルプロスト点眼液の製造方法は、タフルプロストとカルテオロールとを含有する点眼液として製造されるのであれば特に限定はされない。例えばタフルプロスト点眼液が、タフルプロストを含有する点眼液にカルテオロールを混合させることによって製造されてもよく、タフルプロスト点眼液の製造工程においてタフルプロストに加えてカルテオロールを添加することによって製造されてもよい。このように、点眼液にカルテオロールを添加する工程を含む方法により、タフルプロスト点眼液が有する角結膜障害作用を低減することができ、また、タフルプロスト点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減することができる。
【0026】
一実施形態に係るカルテオロール点眼液の製造方法は、カルテオロール点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減する工程を含む。カルテオロール点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減する工程は、カルテオロール点眼液にタフルプロストを添加する工程を含んでいる。このカルテオロール点眼液の製造方法は、カルテオロールとタフルプロストとを含有する点眼液として製造されるのであれば特に限定はされない。例えばカルテオロール点眼液が、カルテオロールを含有する点眼液にタフルプロストを混合させることによって製造されてもよく、カルテオロール点眼液の製造工程においてカルテオロールに加えてタフルプロストを添加することによって製造されてもよい。このように、点眼液にタフルプロストを添加する工程を含む方法により、カルテオロール点眼液が有する角結膜障害作用を低減することができ、また、カルテオロール点眼液を使用した患者において生じる角結膜障害作用を低減することができる。
【0027】
以下、本実施形態に係る配合点眼液を用いた緑内障における副作用の抑制効果評価の一例について説明を行う。下記試験では、配合点眼液を含む点眼検体群でそれぞれ処理をした角膜上皮細胞に対して乾燥高浸透圧処理によりドライアイ様の細胞障害を誘発させ、その結果得られる角膜障害スコアに基づいて副作用の程度を評価した。
【0028】
[実施例]
添加剤を含む点眼用ベース溶液にタフルプロスト及びカルテオロール塩酸塩を溶解させ、pH調整剤によりpHを6.7~7.2(ここでは7.0)に、浸透圧を290±2mOsm/Lに調整することにより、本実施形態に係る配合点眼液を調製した。またこの配合点眼液(T&C)に加えて、タフルプロスト及びカルテオロールの代わりに、タフルプロスト(TAF)、ビマトプロスト(BIM)、カルテオロール(CAR)、チモロールマレイン酸塩(TIM)、ビマトプロスト及びチモロールマレイン酸塩(B&T)、並びにプラセボをそれぞれ用いて、以下の表1に示す組成の点眼検体を調製した。表1における各組成物の値の単位は、調製後の点眼検体中の濃度(mg/mL)で記載した。なお、これらの点眼検体については加速安定性試験を行い、以下の試験は、安定性が担保された期間内に行った。
【表1】
【0029】
得られた各点眼検体を用いて、点眼液としての副作用の抑制効果の評価試験を行った。具体的には、角膜上皮細胞(HCE)を点眼検体で処理をしながらの培養を7日間行い、その後そのまま固定したものと、乾燥高浸透圧環境での培養を一日行いドライアイ様の細胞障害を誘発させた後に固定したものと、を用意した。次いで、各固定済みのHCE表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で解析し、細胞の表面構造及び損傷に応じてクラス分けを行った。各試験の構成については表2に示す。表2に示すように、全点眼検体群(プラセボ、添加無しを含む)について乾燥高浸透圧培養を行ったものを、プラセボ及び添加無しの群については乾燥高浸透圧培養を行わずに固定したものをそれぞれ3検体ずつ用意した。以下、各処理について詳細な説明を行う。
【表2】
【0030】
[馴化培養]
培地(EPISKIN Laboratories製)に、HCE(EPISKIN Laboratotries製,株式会社ニコダームリサーチ販売,三次元ヒト角膜上皮細胞モデルSkinEthic HCE)を設置し、インキュベータ(SANYO製)で一晩培養した(37℃、5%CO、飽和湿度)。
【0031】
[点眼検体処理、培地交換]
以下に説明する点眼検体処理を、1日目から7日目まで夕方に1日1回、計7回繰り返した。まずインキュベータから培養が終了した培養プレートを取り出し、HCEに点眼検体計約150μLを点眼ボトルにより穏やかに添加し、HCE全体に広げた。点眼検体の添加後5分後に、点眼検体を除去し、点眼検体処理後のHCEを得た。最後に、培地を新しく用意し、培地に処理後のHCEを設置してインキュベータで24時間培養した(37℃、5%CO、飽和湿度)。
【0032】
[乾燥高浸透圧環境での培養]
7日目の培養が終了した後、乾燥高浸透圧環境での培養を行わない2群6検体(G,及びI群)は後述する固定処理に供した。その他の群は、上述の処理と同様に点眼検体で処理した後に点眼検体の除去を行い、0.6Mソルビトール含有培地上にHCEを設置し、ガス透過性プレートシールを貼付してからインキュベータ庫内に移動させ、16時間培養を行った(40℃、5%CO、<40%RH)。その後、培養の終了したHCEを次の固定処理に供した。
【0033】
[固定処理]
培養の終了したHCEを、2.5%グルタールアルデヒド(和光純薬製)/0.1Mリン酸緩衝液mLに浸漬させ、4℃で固定を行った。固定したHCEを1%四酸化オスミウム(和光純薬製)/0.1Mリン酸緩衝液に浸漬して、氷上にて1時間後固定を行った。後固定の後、蒸留水によるHCEの洗浄(5分間×3回)を実施した。次いでHCEをエタノール希釈系列(35%、50%、70%、80%、90%、95%、99.5%)に各10分間ずつ浸漬させ、脱水処理を行い、30分間室温にて乾燥させた。乾燥させたHCEをメスでインサート底面より切り出してSEM評価用のサンプルとした。
【0034】
[SEMによる形態学的評価]
SEM評価用のサンプルを導電テープに貼付し、蒸着装置E-1010にて60秒間金蒸着を行った。導電テープに貼付したHCEをMiniscope TM4000plus用の試料台に貼付し、観察条件(観察モード:10kV|Mode3真空モード:高真空、検出器:二次電子)にて30倍で検体ごとの代表的な視野を確認後、500倍で撮像を行った。
【0035】
乾燥高浸透圧環境で培養した群のうち、プラセボ点眼検体処理群(H群)と点眼検体非処理群(J群)とでは、細胞間結合が軽度の障害を受け剥離の徴候がある箇所が観察された。一方で、乾燥高浸透圧環境で培養した群のうち緑内障有効成分を含有する点眼検体を処理した群(A~F群)では、H群及びJ群で見られたようにHCE表層の剥離が観察されたが、その程度は群間で異なっていた。
【0036】
各群の検体の角膜障害スコアを図1に示す。以下、本試験における角膜障害スコアの算出手順について説明する。本試験においては、500倍にて取得したSEMの画像について、細胞の表面構造や細胞間結合に損傷は少ないが剥離の可能性のある状態をクラス1、一部の細胞間結合に障害が生じ部分的に剥離している状態をクラス2、細胞間結合が崩壊して剥離している状態をクラス3として撮像視野あたりの各クラスの細胞数をカウントした。次いで、クラス1を1点、クラス2を5点、クラス3を10点として、画像内でカウントしたクラスごとの各細胞数に点数をかけた値の合計値をその画像のスコアとし、画像5枚のスコアの平均値をその検体の角膜障害スコアとした。すなわち、1点×(クラス1細胞数)+5点×(クラス2細胞数)+10点×(クラス3細胞数)の画像ごとの平均値を角膜障害スコアとした。なお、評価者は複数名用意し、複数名の算出値を平均したものを角膜障害スコアとして評価に用いた。
【0037】
[結論]
本試験ではTAF、CAR、BIM、及びTIMの単剤処理群の角膜障害スコアには大きな差は見られなかったが、TAF・CAR配合群はこれらの群よりも顕著に低いスコアを示した。またTAF・CAR配合群は、乾燥高浸透圧処理を行った評価系の中では唯一非乾燥高浸透圧処理群よりもスコアが低く、特別大きな角膜障害スコアの低減作用が認められた。
【0038】
非特許文献1~3には、プロスタグランジン(PG)関連薬及びβ遮断薬を含む点眼薬は角膜上皮障害を増悪させることが記載されている。実際に、BIM・TIM配合群ではHCE表層の剥離が最も強く見られ、角膜障害スコアは高値を示した。光学顕微鏡を用いた観察でBIM・TIM配合群では異常なターンオーバーによると考えられる表層の剥離、表層の有核細胞の集積、及び中間層の空胞変性が認められたことから、これらの有効成分の組み合わせによる角膜上皮細胞に対する悪影響が考えられた。
【0039】
上述した通り単剤処理群の角膜障害スコアには大きな差は見られなかった一方で、TAF・CAR配合群は角膜障害スコアの改善を示し、BIM・TIM配合群ではスコアが悪化したことから、本発明に係る配合点眼液の効果は、点眼検体を無作為に配合するのではなく、TAFとCARとを選択的に配合したことにより得られたことが確認された。なお、本試験における点眼検体処理は5分間の処理を1日1回、7日間と短期間の評価系で行ったが、緑内障に対しては長期間の治療が必要となる。したがって、実際の緑内障の治療においては、TAF・CAR配合群とその他の群の角膜障害に対する影響はより大きくなるものと考えられる。
【0040】
点眼時の点眼液は結膜嚢に貯留し、角膜を含む眼の各組織に作用する。したがって、本件発明の効果は、角膜上皮と連続する結膜の上皮細胞においても同様に作用する。点眼液による角膜障害作用を抑制することにより、結膜への障害作用も抑制されることとなる。
【0041】
このことから、タフルプロストとカルテオロール塩酸塩とを選択的に配合した点眼検体を使用することにより、ドライアイを想定したモデルである乾燥高浸透圧培養による角膜上皮障害に対する格別に強い抑制効果が得られたといえる。したがって、両成分を配合することにより、タフルプロスト及びカルテオロールの何れか一方のみを含有する点眼液と比較して、患者における角結膜障害作用をより低減した配合点眼液を得ることが可能となる。これにより、緑内障治療における角結膜上皮障害の予防及び/治療のために、長期間にわたって使用する際に有用な配合点眼液を得ることができる。また、緑内障患者にとって副作用の懸念が小さくなる結果、点眼コンプライアンスの向上も期待される。結果、緑内障の進行を抑え、失明などの症状まで至る事例を減少させることができる。
【0042】
また、このようにタフルプロストとカルテオロールとの2つの有効成分を配合した点眼液を使用することにより、それぞれの単剤を複数本用いて点眼する場合と比較して煩雑さを解消することができる。結果として、点眼コンプライアンスを守りやすくなり、眼圧コントロールの向上が期待される、また、単剤を複数本用いる場合よりも防腐剤などの添加剤の曝露量が減少し、角結膜への負担を低減することができる。
【0043】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
図1