(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073306
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】メタル膜付き基板の分断方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230518BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20230518BHJP
B28D 7/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H01L21/78 V
H01L21/78 G
B28D5/00 A
B28D7/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041780
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2021149835の分割
【原出願日】2018-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2017207765
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
(57)【要約】
【課題】メタル膜付き基板を好適に分断できる方法を提供する。
【解決手段】メタル膜付き基板を分断する方法が、メタル膜付き基板の第1の主面側に、金属または合金を含み。第1の電極として使用されるメタル膜が形成されており、第2の主面側に、第2の電極を含むデバイスパターンが形成されており、第2の電極は第2の主面側の一部を覆うように形成され、第1の電極は第2の電極に対する裏面電極であり、メタル膜が設けられている第1の主面側を所定の分断予定位置においてスクライブすることによりスクライブラインを形成し、メタル膜を分断するとともに分断予定位置に沿って基板内部に対し垂直クラックを伸展させる工程と、第2の主面側の第2の電極が形成されていない所からメタル膜付き基板に対しブレークバーを当接させることによって垂直クラックをさらに伸展させることで、メタル膜付き基板を分断予定位置において分断する工程と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタル膜付き基板を分断する方法であって、
前記メタル膜付き基板の第1の主面側には、金属または合金を含み、第1の電極として使用されるメタル膜が形成されており、
前記メタル膜付き基板の第2の主面側には、第2の電極を含むデバイスパターンが形成されており、前記第2の電極は、前記第2の主面側の一部を覆うように形成され、
前記第1の電極は、前記第2の電極に対する裏面電極であり、
前記メタル膜付き基板のメタル膜が設けられている第1の主面側を所定の分断予定位置においてスクライビングホイールを前記メタル膜に圧接転動させることによってスクライブすることによりスクライブラインを形成し、前記メタル膜を分断するとともに前記スクライブラインから前記分断予定位置に沿って前記メタル膜付き基板の内部に対し垂直クラックを伸展させるスクライブ工程と、
前記メタル膜付き基板の前記第2の主面側の前記第2の電極が形成されていない所から前記メタル膜付き基板に対しブレークバーを当接させることによって前記垂直クラックをさらに伸展させることで、前記メタル膜付き基板を前記分断予定位置において分断するブレーク工程と、
を備えることを特徴とする、メタル膜付き基板の分断方法。
【請求項2】
請求項1に記載のメタル膜付き基板の分断方法であって、
前記スクライブ工程において、前記スクライビングホイールの刃先角が100°~130°であり、スクライブ荷重は1N~10Nであることを特徴とする、メタル膜付き基板の分断方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメタル膜付き基板の分断方法であって、
前記ブレーク工程において、前記ブレークバーが0.05mm~0.2mmの押し込み量にて押し込まれることを特徴とする、メタル膜付き基板の分断方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のメタル膜付き基板の分断方法であって、
前記メタル膜付き基板は、単結晶基板であることを特徴とする、メタル膜付き基板の分断方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のメタル膜付き基板の分断方法であって、
前記スクライブ工程を、
スクライブ対象物が載置されるステージと、
前記ステージに載置された前記スクライブ対象物を上方からスクライブする前記スクライビングホイールと、
を備えるスクライブ装置において、前記第1の主面側が前記スクライビングホイールと対向する姿勢にて前記メタル膜付き基板を前記ステージに固定した状態で行う、
ことを特徴とする、メタル膜付き基板の分断方法。
【請求項6】
請求項5に記載のメタル膜付き基板の分断方法であって、
前記スクライブ装置が、
前記ステージの下方に配置され、前記ステージに載置された前記スクライブ対象物を観察および撮像するためのカメラ、
をさらに備え、
前記ステージの少なくとも前記カメラによる撮像範囲が、透明な材料にて構成される、ことを特徴とする、メタル膜付き基板の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス用基板の分断に関し、特に、一方主面にデバイスパターンが形成され、他方主面にメタル膜が形成された基板の分断に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばSiC(炭化硅素)基板などの半導体デバイス用基板を分断する手法として、半導体デバイス用基板の一方主面にスクライブラインを形成し、該スクライブラインから垂直クラックを伸展させるスクライブ工程を行った後、外力の印加によって係るクラックを基板厚み方向にさらに伸展させることにより半導体デバイス用基板をブレークするブレーク工程を行う、という手法がすでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
スクライブラインの形成は、スクライビングホイール(カッターホイール)を分断予定位置に沿って圧接転動させることにより行われる。
【0004】
ブレークは、半導体デバイス用基板の他方主面側において、ブレーク刃(ブレークバー)の刃先を分断予定位置に沿って半導体デバイス用基板に当接させたうえで、該刃先をさらに押し込むことによって行われる。
【0005】
また、これらスクライブラインの形成およびブレークは、他方主面に粘着性を有するダイシングテープを貼り付けた状態で行われ、ブレーク後に係るダイシングテープを伸張させるエキスパンド工程によって対向する分断面が離隔させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体デバイス用基板の分断の一態様として、一方主面に半導体層や電極などを含む半導体デバイスの単位パターンが2次元的に繰り返されたデバイスパターンが形成され、他方主面にメタル膜が形成された母基板を、個々のデバイス単位に分断する(個片化する)というものがある。
【0008】
係る分断を、特許文献1に開示されているような従来の手法で行う場合、ブレーク工程後に、メタル膜が分断されるべき箇所において完全に分断されず連続したままとなっている、いわば薄皮残りともいえるような状態が発生することがある。
【0009】
なお、このような薄皮残りの部分が生じたとしても、その後のエキスパンド工程によって当該部分のメタル膜は分断(破断)され得るが、仮に分断がなされたとしても、係る分断箇所においてメタル膜の剥がれが発生しやすいという問題がある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、メタル膜付き基板を好適に分断できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の主たる態様に係る分断方法は、メタル膜付き基板を分断する方法であって、前記メタル膜付き基板の第1の主面側には、金属または合金を含み、第1の電極として使用されるメタル膜が形成されており、前記メタル膜付き基板の第2の主面側には、第2の電極を含むデバイスパターンが形成されており、前記第2の電極は、前記第2の主面側の一部を覆うように形成され、前記第1の電極は、前記第2の電極に対する裏面電極であり、前記メタル膜付き基板のメタル膜が設けられている第1の主面側を所定の分断予定位置においてスクライビングホイールを前記メタル膜に圧接転動させることによってスクライブすることによりスクライブラインを形成し、前記メタル膜を分断するとともに前記スクライブラインから前記分断予定位置に沿って前記メタル膜付き基板の内部に対し垂直クラックを伸展させるスクライブ工程と、前記メタル膜付き基板の前記第2の主面側の前記第2の電極が形成されていない所から前記メタル膜付き基板に対しブレークバーを当接させることによって前記垂直クラックをさらに伸展させることで、前記メタル膜付き基板を前記分断予定位置において分断するブレーク工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本態様に係るメタル膜付き基板の分断方法において、前記スクライブ工程において、前記スクライビングホイールの刃先角が100°~130°であり、スクライブ荷重は1N~10Nとすることができる。
【0013】
本態様に係るメタル膜付き基板の分断方法において、前記ブレーク工程において、前記ブレークバーが0.05mm~0.2mmの押し込み量にて押し込まれるものとすることができる。
【0014】
本態様に係るメタル膜付き基板の分断方法において、前記メタル膜付き基板は、単結晶基板とすることができる。
【0015】
本態様に係るメタル膜付き基板の分断方法において、前記スクライブ工程を、スクライブ対象物が載置されるステージと、前記ステージに載置された前記スクライブ対象物を上方からスクライブする前記スクライビングホイールと、を備えるスクライブ装置において、前記第1の主面側が前記スクライビングホイールと対向する姿勢にて前記メタル膜付き基板を前記ステージに固定した状態で行うことができる。
【0016】
本態様に係るメタル膜付き基板の分断方法において、前記スクライブ装置が、前記ステージの下方に配置され、前記ステージに載置された前記スクライブ対象物を観察および撮像するためのカメラ、をさらに備え、前記ステージの少なくとも前記カメラによる撮像範囲が、透明な材料にて構成されることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の態様によれば、メタル膜に剥がれを生じさせることなく、メタル膜付き基板を良好に分断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る方法における分断の対象である基板(母基板)10の構成を模式的に示す側面図である。
【
図2】スクライブ処理の実行前の様子を模式的に示す図である。
【
図3】スクライブ処理の実行中の様子を模式的に示す図である。
【
図4】スクライブ処理後の基板10のメタル膜3側からの撮像画像である。
【
図5】ブレーク処理の実行前の様子を模式的に示す図である。
【
図6】ブレーク処理の実行中の様子を模式的に示す図である。
【
図7】第2ブレーク処理を実行後の基板10を模式的に示す図である。
【
図8】従来の分断処理に供された基板10の様子を示す撮像画像である。
【
図9】従来の分断処理に供された基板10の様子を示す撮像画像である。
【
図10】基板10に対し実施の形態に係る手法にて複数箇所での分断を行った結果得られた複数の個片についての、メタル膜3の表面の撮像画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<半導体用デバイス基板>
図1は、本実施の形態に係る方法における分断の対象である基板(母基板)10の構成を模式的に示す側面図である。基板10は、その分断により得られる個片がそれぞれに半導体デバイスをなすことが予定されている半導体デバイス用基板である。本実施の形態においては、係る基板10が、基材1と、該基材1の一方主面側に形成されてなり、半導体層や電極などを含む半導体デバイスの単位パターンが2次元的に繰り返されたデバイスパターン2と、基材1の他方主面側に形成されてなるメタル膜3とを有するものとする。換言すれば、基板10は、メタル膜付き基板といえる。
【0020】
基材1は、SiCやSiなどの単結晶またはセラミックスなどの多結晶の基板である。その材質や、厚みおよび平面サイズなどは、作製しようとする半導体デバイスの種類、用途、機能等に応じて適宜に選択・設定される。係る基材1としては、例えば、厚みが100μm~600μm程度の、2~6インチ径のSiC基板などが例示される。
【0021】
デバイスパターン2は、作製対象たる半導体デバイスにおいてその機能や特性の発現に主に関わる、半導体層、絶縁層、電極などを含む部位である。その具体的構成は、半導体デバイスの種類によって様々であるが、本実施の形態においては、基材1の一方主面の全面に形成された薄膜層2aと、該薄膜層2aの上面に部分的に形成された電極2bとによってデバイスパターン2が構成されている場合を想定する。ここで、薄膜層2aは単層であっても多層であってもよく、電極2bについても単層電極であっても多層電極であってもよい。また、薄膜層2aが基材1の全面を覆う代わりに、基材1の一部が露出する態様であってもよい。あるいはまた、1つの単位パターンに電極2bが複数設けられていてもよい。
【0022】
薄膜層2aと電極2bの材質やサイズは、作製しようとする半導体デバイスの種類、用途、機能等に応じて適宜に選択・設定される。例えば、薄膜層2aの材質としては、窒化物(例えばGaN、AlN)、酸化物(例えばAl2O3、SiO2)、例えば、金属間化合物(例えばGaAs)、有機化合物(例えばポリイミド)などが例示される。電極2bの材質は、一般的な電極材料から適宜に選択されてよい。例えば、Ti、Ni、Al、Cu、Ag、Pd、Au、Ptなどの金属や、それらの合金などが例示される。また、薄膜層2aおよび電極2bの厚みは通常、基材1の厚みに比して小さい。
【0023】
メタル膜3は、主として裏面電極としての使用が想定されるものである。ただし、本実施の形態に係る方法は、係るメタル膜3が、基材1の他方主面の全面に(より詳細には、少なくとも分断予定位置を跨がって)形成されてなるものとする。メタル膜3も、電極2bと同様、単層でも多層であってもよく、その材質も電極2bと同様、Ti、Ni、Al、Cu、Ag、Pd、Au、Ptなどの金属や、それらの合金など、一般的な電極材料から適宜に選択されてよい。また、メタル膜3の厚みも通常、基材1の厚みに比して小さい。
【0024】
本実施の形態においては、以上のような構成の基板10が、少なくとも面内の所定の方向において所定の間隔にて定められた分断予定位置Pにおいて厚み方向に分断されるものとする。分断予定位置Pは、基板10の厚み方向に沿った仮想面として観念される。これに加えて、平面視矩形状の半導体デバイスを得るべく、当該方向に直交する方向においても適宜の間隔にて分断予定位置が定められてよい。
【0025】
なお、
図1には、図面視左右方向において間隔(ピッチ)d1で互いに離隔する3つの分断予定位置Pを、基板10を超えて延在する一点鎖線として示しているが、実際には、一方向についてさらに多くの分断予定位置Pが規定されてよい。d1は例えば1.5mm~5mm程度であり、少なくとも0.5mm以上である。
【0026】
<スクライブ処理>
以降、本実施の形態に係る分断方法において基板10に対して実施する分断処理の具体的内容につき、順次に説明する。まずは、基板10に対しスクライブ処理を行う。
【0027】
図2は、スクライブ処理の実行前の様子を模式的に示す図である。
図3は、スクライブ処理の実行中の様子を模式的に示す図である。
【0028】
本実施の形態において、スクライブ処理は、スクライブ装置100を用いて行う。スクライブ装置100は、スクライブ対象物が載置されるステージ101と、スクライブ対象物を上方からスクライブするスクライビングホイール102と、ステージ101に載置されたスクライブ対象物を観察・撮像するためのカメラ103とを備える。
【0029】
ステージ101は、水平な上面を被載置面として有し、係る被載置面に載置されたスクライブ対象物を図示しない吸引手段によって吸引固定できるように構成されている。ステージ101は、その下方に配置されたカメラ103によって被載置面に載置されているスクライブ対象物の観察・撮像が行えるよう、少なくともカメラ103の撮像範囲については、ガラスなどの透明な材料にて構成される。これは、基板10の位置決めを、デバイスパターン2の形状を利用して行う必要があるからである。また、ステージ101は、図示しない駆動機構によって水平面内における二軸移動動作や回転動作が可能とされている。
【0030】
一方、スクライビングホイール102は、外周面に断面視二等辺三角形状の刃先102eを有する、直径が2mm~3mmの円板状の部材(スクライビングツール)である。少なくとも刃先102eはダイヤモンドにて形成されてなる。また、刃先102eの角度(刃先角)δは100°~150°であり、100°~130°(例えば110°)であるのが好適である。係るスクライビングホイール102は、ステージ101の上方に、鉛直方向に昇降可能に設けられた図示しない保持手段により、ステージ101の一方の水平移動方向と平行な鉛直面内において回転自在に保持されてなる。
【0031】
カメラ103は、ステージ101の下方に、鉛直上方を観察・撮像可能に設けられてなる。カメラ103は例えばCCDカメラである。
【0032】
以上のような機能を有するのであれば、スクライブ装置100としては、公知のものを適用可能である。
【0033】
スクライブ処理は、
図2に示すように、基板10のデバイスパターン2側に、基板10の平面サイズよりも大きな平面サイズを有する粘着性のダイシングテープ(エキスパンドテープ)4を貼付したうえで行う。なお、以降の説明においては、係るダイシングテープ4を貼付した状態のものについても、単に基板10と称することがある。ダイシングテープ4には、厚みが80μm~150μm程度(例えば100μm)の公知のものを適用可能である。
【0034】
具体的には、まず、
図2に示すように、係るダイシングテープ4をステージ101の被載置面と接触させる態様にて基板10をステージ101上に載置し、吸引固定する。すなわち、基板10は、メタル膜3の側が上方を向く姿勢にて、ステージ101に載置固定される。このとき、スクライビングホイール102は、基板10とは接触しない高さに配置されている。
【0035】
係る基板10の姿勢は、従来一般的に行われてきた、メタル膜付き基板を分断するためのスクライブ処理における基板の姿勢とは、上下反転したものとなっている。すなわち、本実施の形態においては、後述するようにメタル膜3の側から基板10のスクライブを行うが、これは、従来一般的に行われてきたメタル膜付き基板を分断するためのスクライブ処理の場合とは、スクライブ対象面が表裏反対である。
【0036】
基板10の固定がなされると、続いて、ステージ101を適宜に動作させることにより、分断予定位置Pとスクライビングホイール102の回転面とが同一の鉛直面内に位置するように、位置決めがなされる。係る位置決めを行うことにより、
図2に示すように、スクライビングホイール102の刃先102eが、分断予定位置Pのメタル膜側端部Paの上方に位置することになる。より詳細には、分断予定位置Pのメタル膜側端部Paは直線状となっており、位置決めは、その一方端部側の上方にスクライビングホイール102が位置するように行われる。
【0037】
係る位置決めがなされると、スクライビングホイール102は、図示しない保持手段によって、
図2において矢印AR1にて示すように、刃先102eが分断予定位置Pのメタル膜側端部Paに圧接されるまで鉛直下方に下降させられる。
【0038】
圧接の際に刃先102eが基板10に対して印加する荷重(スクライブ荷重)や、ステージ101の移動速度(スクライブ速度)は、基板10の構成材料の、なかでも特に基材1の、材質や厚みなどによって適宜に定められてよい。例えば、基材1がSiCからなる場合であれば、スクライブ荷重は1N~10N程度(例えば3.5N)であればよく、スクライブ速度は100mm/s~300mm/s(例えば100mm/s)であればよい。
【0039】
係る圧接がなされると、この圧接状態を維持したまま、スクライビングホイール102が分断予定位置Pのメタル膜側端部Paの延在方向(
図2においては図面に垂直な方向)に移動される。これにより、スクライビングホイール102は相対的に、当該方向に(メタル膜側端部Paの他方端部に向けて)転動させられる。
【0040】
そして、係る態様にてメタル膜側端部Paに沿ったスクライビングホイール102の圧接転動が進行すると、
図3に示すように、基板10のメタル膜3が分断されつつスクライブラインSLが形成されていくとともに、係るスクライブラインSLから分断予定位置Pに沿って鉛直下方に、デバイスパターン2から基材1に至って垂直クラックVCが伸展する。最終的に分断が良好になされるという点からは、垂直クラックVCは少なくとも基材1の中ほどにまで伸展するのが好ましい。
【0041】
係るスクライブ処理によるメタル膜3の分断と垂直クラックVCの形成は、全ての分断予定位置Pにおいて行われる。
【0042】
図4は、係るスクライブ処理後の基板10のメタル膜3側からの撮像画像である。
図4からは、スクライブラインSLの形成によってメタル膜3が好適に分断されていること、および、メタル膜3の剥がれも生じてはいないことが確認される。
【0043】
<ブレーク処理>
上述のように垂直クラックVCが形成された基板10は、続いて、ブレーク処理に供される。
図5は、ブレーク処理の実行前の様子を模式的に示す図である。
図6は、ブレーク処理の実行中の様子を模式的に示す図である。
図7は、ブレーク処理実行後の基板10を模式的に示す図である。
【0044】
本実施の形態において、ブレーク処理は、ブレーク装置200を用いて行う。ブレーク装置200は、ブレーク対象物が載置される保持部201と、ブレーク処理を担うブレークバー202とを備える。
【0045】
保持部201は、一対の単位保持部201aと201bとからなる。単位保持部201aと201bは、水平方向において所定の距離(離隔距離)d2にて互いに離隔させて設けられてなり、同じ高さ位置とされた両者の水平な上面が全体として一のブレーク対象物の被載置面として用いられる。換言すれば、ブレーク対象物は、一部を下方に露出させた状態で、保持部201上に載置される。保持部201は例えば金属にて構成される。
【0046】
また、保持部201は、水平面内のあらかじめ定められた一の方向(保持部進退方向)における一対の単位保持部201aと201bの近接および離隔動作が可能とされてなる。すなわち、ブレーク装置200においては、離隔距離d2は可変とされてなる。
図5においては、図面視左右方向が保持部進退方向となる。
【0047】
さらに保持部201においては、図示しない駆動機構により、被載置面に載置されたブレーク対象物の水平面内におけるアライメント動作が可能とされている。
【0048】
ブレークバー202は、断面視二等辺三角形状の刃先202eが刃渡り方向に延在するように設けられてなる板状の金属製(例えば超硬合金製)部材である。
図5においては、刃渡り方向が図面に垂直な方向となるように、ブレークバー202を示している。刃先202eの角度(刃先角)θは5°~90°(例えば60°)であるのが好適である。
【0049】
なお、より詳細には、刃先202eの最先端部分は曲率半径が5μmから100μm程度(例えば100μm)の微小な曲面となっている。
【0050】
係るブレークバー202は、保持部進退方向における一対の単位保持部201aと201bの中間位置(それぞれから等価な位置)の上方において、図示しない保持手段により、保持部進退方向に垂直な鉛直面内において鉛直方向に昇降可能に設けられてなる。
【0051】
以上のような構成を有するブレーク装置200を用いたブレーク処理は、
図5に示すように、ダイシングテープ4が貼付された状態のスクライブ処理後の基板10の、メタル膜3側の面および側部を覆う態様にて、保護フィルム5を貼付したうえで行う。以降の説明においては、係る保護フィルム5を貼付した状態のものについても、単に基板10と称することがある。保護フィルム5には、厚みが10μm~75μm程度(例えば25μm)の公知のものを適用可能である。
【0052】
具体的には、まず、
図5に示すように、保護フィルム5を保持部201の被載置面と接触させる態様にて基板10を保持部201上に載置する。すなわち、基板10は、メタル膜3側が下方となりデバイスパターン2側が上方となる姿勢で、つまりはスクライブ処理のときとは上下反転した姿勢で、保持部201上に載置される。このとき、ブレークバー202は、基板10とは接触しない高さに配置されている。
【0053】
係る基板10の姿勢は、スクライブ処理の場合と同様、従来一般的に行われてきた、メタル膜付き基板を分断するためのブレーク処理における基板の姿勢とは、上下反転したものとなっている。すなわち、本実施の形態においては、後述するようにデバイスパターン2の側から基板10のブレーク処理を行うが、これは、従来一般的に行われてきたメタル膜付き基板を分断するためのブレーク処理の場合とは、ブレーク対象面が表裏反対である。
【0054】
なお、本実施の形態のように、所定の間隔(ピッチ)d1で複数の分断予定位置Pが定められているときは、離隔距離d2が基板10の分断予定位置Pの間隔(ピッチ)d1のとの間において、d2=1.5d1(d2はd1の(3/2)倍)となるように一対の単位保持部201aと201bを配置した状態で、基板10を保持部201上に載置する。これは一般的なブレーク処理の際に採用される条件と同様である。なお、実際の処理においては、d2=1.0d1~1.75d1となる範囲であればよい。
【0055】
基板10の載置がなされると、続いて、駆動機構を適宜に動作させることにより、基板10の位置決めがなされる。具体的には、スクライブ処理においてスクライブラインSLさらには垂直クラックVCを設けた基板10の分断予定位置Pの延在方向が、ブレークバー202の刃渡り方向に一致させられる。係る位置決めを行うことにより、
図6に示すように、ブレークバー202の刃先202eが、分断予定位置Pのデバイスパターン側端部Pbの上方に位置することになる。
【0056】
係る位置決めがなされると、
図5において矢印AR2にて示すように、ブレークバー202は、刃先202eが分断予定位置Pのデバイスパターン側端部Pbに向けて鉛直下方に下降させられる。
【0057】
このとき、ブレークバー202の刃先202eは、分断予定位置Pのデバイスパターン側端部Pbに直接に当接するのではなく、
図6に示すように、ダイシングテープ4の上面の、デバイスパターン側端部Pbの上方位置Pcに当接するが、ブレークバー202は、係る位置Pcにてダイシングテープ4に当接した後も所定距離だけ下降させられる。すなわち、基板10に対して所定の押し込み量にて押し込まれる。係る押し込み量は0.05mm~0.2mm(例えば0.1mm)であるのが好適である。
【0058】
すると、基板10に対してブレークバー202の刃先202eを作用点とし、一対の単位保持部201a、201bのそれぞれの被載置面の内側端部f(fa、fb)を支点とする三点曲げの状況が生じる。これにより、
図6において矢印AR3にて示すように、基板10には、相反する2つの向きに引張応力が作用し、その結果、垂直クラックVCはさらに伸展させられるとともに、基板10は左右2つの部分にいったん離隔し、両部分の間には間隙Gが形成される。
【0059】
その後、ブレークバー202が上昇させられて基板10の押し込みが解除されると、最終的には、
図7に示すように、間隙Gは閉じて左右2つの部分の端部が当接した分断面Dとなる。
【0060】
係るブレーク処理の終了後、
図7に矢印AR4にて示すように、ダイシングテープ4に対し面内方向に引張応力を作用させることで、ダイシングテープ4は伸張し、基板10は分断面Dのところで2つの部分10A、10Bに離隔させられる。これにより、基板10が2つに分断されたことになる。
【0061】
<従来手法との対比>
図8および
図9は、従来の分断処理に供された基板10の様子を示す撮像画像である。より詳細には、
図8(a)は、ダイシングテープによる伸張前の基板10の断面の撮像画像であり、
図8(b)は、その部分Rの拡大像である。
図9は係る伸張がなされた後の、メタル膜3の表面の撮像画像である。また、
図10は、基板10に対し本実施の形態に係る手法にて複数箇所での分断を行った結果得られた複数の個片についての、メタル膜3の表面の撮像画像である。
【0062】
ここで、従来の分断処理とは、上述した本実施の形態にかかる方法とは基板10の姿勢を上下反転させた状態でスクライブ処理とブレーク処理とを行うというものである。すなわち、スクライブ装置100におけるスクライブ処理においてはデバイスパターン2にスクライブラインを形成し、ブレーク処理においてはメタル膜3側にブレークバー202を当接させるというものである。
【0063】
係る場合、
図8(b)において矢印AR5にて示すように、ブレーク処理後のメタル膜3が分断されていない箇所が生じる。このような箇所が存在する状況であっても、ダイシングテープ4を伸張させればメタル膜は分断される。しかしながら、分断によって得られた個片の端部において、
図9において矢印AR6にて示すような、メタル膜3の剥がれが生じてしまう。
【0064】
これに対して、本実施の形態に係る手法を適用した場合には、
図10(a)およびその部分拡大像である
図10(b)に示すように、複数個所において分断を行っているにも関わらず、上述したスクライブ処理の終了後のときと同様、分断後においても、
図9に示したようなメタル膜3の剥がれは確認されなかった。
【0065】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、基材の一方主面にデバイスパターンを有し、他方主面にメタル膜を有する半導体デバイス用基板の分断を、スクライブ処理とブレーク処理との組み合わせによって行う場合において、あらかじめスクライブ処理によってメタル膜を分断したうえで、ブレーク処理を行うようにすることで、メタル膜に剥がれを生じさせることなく、良好な分断することができる。
【0066】
<変形例>
上述の実施の形態においては、スクライビングホイールによりスクライブ処理を行っているが、スクライブラインの形成およびクラックの伸展が好適に実現されるのであれば、ダイヤモンドポイント等、スクライビングホイール以外のツールによってスクライブラインを形成する態様であってもよい。
【0067】
上述の実施の形態においては、スクライブ装置100においてデバイスパターンを利用した位置決めを行う必要性から、ステージ101のうち少なくともカメラ103の撮像範囲については透明な材料で構成される必要があったが、メタル膜3に所定のアライメントマークが形成されており、上方からの観察によって係るアライメントマークを利用した基板10の位置決めが可能である場合には、ステージ101は透明な材料で構成される必要はない。
【0068】
また、ブレーク処理において用いられたブレーク装置は、水平方向において所定の距離離隔された一対の単位保持部201aと201bとからなる保持部201を備えているが、これに代えて、基板の全面に接触して保持する弾性体からなる保持部を備えるブレーク装置を用いてもよい。ブレーク処理における押し込み量は、0.05mm~0.2mm(例えば0.1mm)であるのが好適である。
【符号の説明】
【0069】
1 基材
2 デバイスパターン
3 メタル膜
4 ダイシングテープ
5 保護フィルム
10 基板
100 スクライブ装置
101 ステージ
102 スクライビングホイール
102e (スクライビングホイールの)刃先
200 ブレーク装置
201 保持部
201a、201b 単位保持部
202 ブレークバー
202e (ブレークバーの)刃先
D 分断面
G 間隙
P 分断予定位置
Pa (分断予定位置の)メタル膜側端部
Pb (分断予定位置の)デバイスパターン側端部
SL スクライブライン
VC 垂直クラック