(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007332
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】核酸増幅反応に供するためのウイルス試料処理用組成物
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20230111BHJP
C12N 7/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12N7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196515
(22)【出願日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2021108697
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390004097
【氏名又は名称】株式会社医学生物学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 伸
(72)【発明者】
【氏名】木溪 俊介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 久義
(72)【発明者】
【氏名】阿部 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】越坂 卓也
(72)【発明者】
【氏名】葛川 純也
(72)【発明者】
【氏名】谷中 昭子
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QQ52
4B063QR35
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4B063QS25
4B063QX01
4B065AA95X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】 試料中のエンベロープを有するウイルスを不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検出する方法、及び当該方法に用いられる試料処理用組成物を提供すること
【解決手段】 非イオン性界面活性剤及び還元剤を有効成分として含む、試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理するための組成物、及びそれを用いた、試料中の前記ウイルス遺伝子の検出方法
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性界面活性剤及び還元剤を有効成分として含む、試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理するための組成物。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤のHLB値が11.0~16.0である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ノニルフェノールエトキシレート、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、アルキルグルコシド及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1の非イオン性界面活性剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤の含有量が、0.05~15%(w/v)である、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
RNA安定化剤を更に含む、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記エンベロープを有するウイルスがコロナウイルスである、請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理する方法であって、
(1)前記試料を請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の組成物に混合し、当該試料中の前記ウイルスを不活化する工程
を含む方法。
【請求項8】
試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を検出する方法であって、
(1)前記試料を請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の組成物に混合し、当該試料中の前記ウイルスを不活化する工程、
(2)工程(1)にて得られた混合物を、核酸増幅反応に供する工程、及び
(3)工程(2)にて増幅された核酸断片を検出する工程
を含む方法。
【請求項9】
前記混合物における前記非イオン性界面活性剤の濃度を、工程(2)における核酸増幅反応に供する前に0.04~5%(w/v)となるよう調整する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記エンベロープを有するウイルスがコロナウイルスである、請求項7~9のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の組成物を含む、エンベロープを有するウイルス検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅反応に供するための、ウイルス試料処理用組成物に関し、より詳しくは、試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理するための組成物に関する。また、本発明は、当該組成物を用いた核酸増幅反応による、前記ウイルスの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年12月に発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は、その後わずか数ヶ月程度の間に世界中に伝播し、各国にて恐ろしい記録の更新が続いている。
【0003】
このような感染拡大を抑制するためには、感染の有無、感染源等を特定することが重要であり、世界規模で日々膨大な数のウイルス検査が実施されている。ウイルス検査には様々な方法があるが、検出感度の高さにおいて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の核酸増幅反応によるウイルス遺伝子の検出が有効であるとされている。
【0004】
核酸増幅反応を行うためには特別な装置を要する。そのため、その装置を有する検査センター等に、各所にて得られた試料(検体等)を送る必要がある。しかしながら、ウイルスを不活化できていない試料は、そこから感染を引き起こす可能性があるため、通常の郵送等にて送ることはできない。また、そのような試料が検査センター等に届いたとしても、当該試料からウイルス由来の核酸を単離する際に、感染のリスクが生じる。
【0005】
その一方で、ウイルスを不活化するためには、通常グアニジン等の変性剤が用いられるものの、かかる変性剤は核酸増幅反応を阻害してしまう。そのため、当該反応に供する前に、ウイルス由来核酸の単離処理等を要することとなり、迅速な検査の妨げとなる。
【0006】
そこで、SARS-CoV-2等のウイルスを不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検査する方法が求められているが、そのような検査方法はまだ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】経済産業省、ニュースリリース「新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第二弾)」、[online]、2020年5月29日、インターネット<https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200529005/20200529005.html>
【非特許文献2】Stephen R Welchら、J Clin Microbiol.、2020年10月21日、58(11):e01713-20
【非特許文献3】Edward I Pattersonら、J Infect Dis.、2020年10月1日、222(9):1462-1467
【非特許文献4】Thomas G W Grahamら、PLoS One、2021年2月3日、16(2):e0246647
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、試料中のエンベロープを有するウイルス(コロナウイルス等)を不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検出する方法、及び当該方法に用いられる試料処理用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、非イオン性界面活性剤及び還元剤を含む試料処理液を使用した場合に、コロナウイルスを不活化できることを明らかにした。特に、下記のようなHLB値が11.0~16.0である非イオン性界面活性剤を含む試料処理液を使用した場合には、コロナウイルスを99.9%以上不活化できることを見出した。
ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル(製品名:ファインサーフ290、HLB値:13.3)、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル(製品名:ファインサーフNDB-1000、HLB値:13.2)、
ノニルフェノールエトキシレート(製品名:NP-40代替品、IGEPAL CO-630、HLB値:13.0)、
ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル(製品名:TritonX-100、HLB値:13.4)、
アルキルグルコシド(ラウリルグルコシド等、製品名:マイドール12、HLB値:11.6)、及び
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(製品名:パーソフトNK-100、HLB値:14.0)。
【0011】
また、このような非イオン性界面活性剤及び還元剤を含む試料処理液と、コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含む試料とを混合し、そのまま逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行なった場合でも、当該ウイルスの遺伝子を検出できることを明らかにした。さらに、前記混合後、常温下少なくとも7日間放置しても、当該ウイルスの遺伝子を検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、核酸増幅反応に供するための、非イオン性界面活性剤を含む、ウイルス試料処理用組成物、及び、当該組成物を用いた核酸増幅反応による、前記ウイルスの検出方法に関し、より具体的には以下を提供する。
<1> 非イオン性界面活性剤及び還元剤を有効成分として含む、試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理するための組成物。
<2> 前記非イオン性界面活性剤のHLB値が11.0~16.0である、<1>に記載の組成物。
<3> 前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ノニルフェノールエトキシレート、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、アルキルグルコシド及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1の非イオン性界面活性剤である、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4> 前記非イオン性界面活性剤の含有量が、0.05~15%(w/v)である、<1>~<3>のうちのいずれか一項に記載の組成物。
<5> RNA安定化剤を更に含む、<1>~<4>のうちのいずれか一項に記載の組成物。
<6> 前記エンベロープを有するウイルスがコロナウイルスである、<1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の組成物。
<7> 試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理する方法であって、
(1)前記試料を<1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の組成物に混合し、当該試料中の前記ウイルスを不活化する工程
を含む方法。
<8> 試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を検出する方法であって、
(1)前記試料を<1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の組成物に混合し、当該試料中の前記ウイルスを不活化する工程、
(2)工程(1)にて得られた混合物を核酸増幅反応に供する工程、及び
(3)工程(2)にて増幅された核酸断片を検出する工程
を含む方法。
<9> 前記混合物における前記非イオン性界面活性剤の濃度を、工程(2)における核酸増幅反応に供する前に0.04~5%(w/v)となるよう調整する、<7>又は<8>に記載の方法。
<10> 前記エンベロープを有するウイルスがコロナウイルスである、<7>~<9>のうちのいずれか一項に記載の方法。
<11> <1>~<5>のうちのいずれか一項に記載の組成物を含む、エンベロープを有するウイルス検出用キット。
【0013】
なお、界面活性剤がSARS-CoV-2に対して有効であるとの報告はある(非特許文献1~3)。また、非イオン性界面活性剤を含む処理液を用いることによって、癌患者のリンパ節から、核酸成分を分離精製することなく、核酸を増幅できるとの報告もある(特許文献1)。さらに、ある種の界面活性剤が、SARS-CoV-2の遺伝子を検出するために行なわれるRT-PCRに影響しないとの報告もある(非特許文献4)。
【0014】
しかしながら、上述のように、非イオン性界面活性剤を用いることによって、特に、HLB値が11.0~16.0である非イオン性界面活性剤を用いることによって、コロナウイルス等のエンベロープを有するウイルスを不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検出できることについては、何ら報告されていない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、試料中のエンベロープを有するウイルスを不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検出することが可能となる。さらに、試料を常温下少なくとも7日間放置しても、前記ウイルスを検出することができる。ひいては、試料を安全性高く輸送することができ、更に当該試料からウイルスを安全にまた効率良く検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ウイルス試料処理用組成物>
後述の実施例にて示すとおり、本発明者らは、非イオン性界面活性剤及び還元剤を含む試料処理液を使用した場合に、コロナウイルス等のエンベロープを有するウイルスを不活化でき、さらに、試料処理液と前記ウイルスを含む試料とを混合し、ウイルス由来の核酸を単離せずにそのままRT-PCRを行なった場合でも、当該ウイルスの遺伝子を検出できることを明らかにした。
【0017】
よって、本発明は、非イオン性界面活性剤を有効成分として含む、試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理するための組成物を提供する。なお、試料の「処理」とは、前記のとおり、当該試料と混合することにより、少なくともエンベロープを有するウイルスを不活化することを意味する。
【0018】
本発明の組成物において有効成分として含まれる「非イオン性界面活性剤」としては、水中でイオン解離しない親水基を有し、水に溶解してもイオン性を示さない、界面活性剤を意味する。本発明にかかる非イオン性界面活性剤として、そのHLB値が11.0~16.0であることが好ましく、11.0~14.0であることがより好ましい。HLB値が前記下限値未満である、疎水性が高い非イオン性界面活性剤を用いた場合には、均一に溶解された本発明の組成物を調製し難い傾向にあり、他方、HLB値が前記上限値を超える、親水性が高い非イオン性界面活性剤を用いた場合には、ウイルスを不活化し難い傾向にある。
【0019】
なお、本発明において、HLB値とは、Hydrophilic-Lipophilic Balance(親水親油バランス)値とも称され、界面活性剤中の親水基と疎水基の強さのバランスを示す値であり、小田、寺村らが定義する有機性値及び無機性値から求められる式(HLB値=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10)によって算出される値である。
【0020】
また、このようなHLB値を有する非イオン性界面活性剤の好適な例として、以下が挙げられる。
ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル(製品名:ファインサーフ290、HLB値:13.3)、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル(製品名:ファインサーフNDB-1000、HLB値:13.2)、
ノニルフェノールエトキシレート(例えば、製品名:NP-40代替品、IGEPAL CO-630、HLB値:13.0)、
ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル(例えば、製品名:TritonX-100、HLB値:13.4)、
アルキルグルコシド(ラウリルグルコシド等、例えば、製品名:マイドール12、HLB値:11.6)、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、製品名:パーソフトNK-100、HLB:14.0、製品名:ブラウノン CH-310L、HLB値:12.9)、
ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(例えば、製品名:ブラウノン L-400、HLB値:13.5)、
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、製品名:レオドール TW-L106、HLB値:13.3)、及び
ポリオキシエチレンアルキルアミン(例えば、製品名:ブラウノン L207、HLB値:12.1)。
【0021】
これらの中で、ウイルス不活化効果がより強いという観点から、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ノニルフェノールエトキシレート、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがさらに好ましく、同様のHLB値を示す他の界面活性剤と比較して、ウイルス不活化効果がさらに強いという観点から、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ノニルフェノールエトキシレートがより好ましい。
【0022】
本発明の組成物において含まれる非イオン性界面活性剤は1種であってもよく、複数種(例えば、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種)であってもよい。また、本発明の組成物における非イオン性界面活性剤の含有濃度(複数種の非イオン性界面活性剤を含有する場合には、総含有濃度)としては、ウイルスを不活化し得る一方で、核酸増幅反応を抑制し難いという観点から、好ましくは0.05~15%(w/v)である。
【0023】
より具体的に、本発明にかかる非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテルである場合には、より好ましくは0.1~1%(w/v)であり、さらに好ましくは0.3~0.5%(w/v)であり、特に好ましくは0.45%(w/v)である。
本発明にかかる非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテルである場合には、より好ましくは0.1~1%(w/v)であり、さらに好ましくは0.2~0.4%(w/v)であり、特に好ましくは0.36%(w/v)である。
本発明にかかる非イオン性界面活性剤がノニルフェノールエトキシレートである場合には、より好ましくは0.05~2%(w/v)であり、さらに好ましくは0.05~1%(w/v)であり、より好ましくは0.06~0.8%(w/v)であり、さらに好ましくは0.6~0.7%(w/v)であり、特に好ましくは0.625%(w/v)である。
本発明にかかる非イオン性界面活性剤がポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテルである場合には、より好ましくは0.1~2%(w/v)であり、さらに好ましくは0.5~0.8%(w/v)である。
本発明にかかる非イオン性界面活性剤がアルキルグルコシドである場合には、より好ましくは0.1~0.6%(w/v)であり、さらに好ましくは0.2~0.5%(w/v)である。
本発明にかかる非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルである場合には、より好ましくは1~15%(w/v)であり、さらに好ましくは2~9%(w/v)である。
【0024】
また、本発明の組成物において有効成分として含まれる「還元剤」としては、ペプチド間のジスルフィド結合を切断する活性を有する限り特に制限はなく、例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール(2-ME)、トリブチルホスフェート(TBP)、2-ヨードアセトアミド、グルタチオンが挙げられる。これらの中で、還元力がより強く、広範囲のpHにおいて利用することができ、さらに無臭であり、また毒劇物に該当しないという観点から、TCEPが好ましい。
【0025】
本発明の組成物において含まれる還元剤は1種であってもよく、複数種(例えば、2種、3種、4種、5種、6種)であってもよい。また、本発明の組成物における還元剤の含有濃度(複数種の還元剤を含有する場合には、総含有濃度)としては、核酸増幅反応又は逆転写反応を抑制し難いという観点から、好ましくは0.1~50mMであり、より好ましくは1~40mMであり、さらに好ましくは2~20mMであり、より好ましくは5~15mMである。
【0026】
本発明の組成物は、通常液体の形態をとり、その溶媒については特に制限はないが、例えば、純水(イオン交換水、精製水、蒸留水、RO水、滅菌処理水、超純水等)が挙げられる。
【0027】
また、本発明の組成物のpH(常温(25℃)のpH)は、ウイルスのエンベロープのタンパク質構造が変化し、不活化し易いという観点から、好ましくはpH6.0以下であり、より好ましくはpH2.0~5.0であり。さらに好ましくはpH2.0~3.4である。なお、当業者であれば、pHは、pH調整剤及び緩衝成分を用いて適宜調整し得る。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、塩酸等が挙げられる。また、緩衝成分としては、Tris、HEPES、MES、MOPS、クエン酸、ホウ酸、ビシン(Bicine)、炭酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の組成物は、後述のウイルス由来RNAを安定化するという観点から、「RNA安定化剤」を含んでいてもよい。本発明にかかるRNA安定化剤は、RNAの安定に直接関与する物のみならず、間接的に寄与する物(例えば、RNase活性に対する抑制活性を有する物質(RNase阻害剤、塩析剤等)であってもよく、例えば、RVC、アウリントリカルボン酸、ポリ(ビニルスルホン酸)、硫酸アンモニウム、RNasin(登録商標) Plus Ribonuclease Inhibitor(プロメガ株式会社製)、スペルミジン等のポリアミンが挙げられる。これらの中で、コストを抑え易いという観点から、RVCが好ましい。なお、RVCは、リボヌクレオシド-バナジル複合体とも称され、オキソバナジウム(IV)と4種類のリボヌクレオシドを錯体化した等モル混合液のことである(Berger,S.L. and Birkenmeier,C.S.(1979)Biochemistry 18,5143-5149 参照)。また、塩析作用によりRNaseからRNAを保護するという観点から、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0029】
本発明の組成物において含まれるRNA安定化剤は1種であってもよく、複数種(例えば、2種、3種、4種)であってもよい。本発明の組成物におけるRNase阻害剤の含有濃度(複数種のRNase阻害剤を含有する場合には、総含有濃度)としては、当該阻害剤による、後述の逆転写反応等の核酸増幅反応への影響をより抑えるという観点から、好ましくは1~10mMであり、より好ましくは1~6mMであり、さらに好ましくは1~3mMであり、より好ましくは1~2mMであり、特に好ましくは1.5mMである。
【0030】
また、本発明の組成物において、RNA安定化剤として硫酸アンモニウムを含む場合、その含有濃度は、上記塩析作用によるRNA保護という観点から、好ましくは1~100mMであり、より好ましくは10~50mMであり、特に好ましくは25mMである。
【0031】
また、本発明の組成物は、上記物質以外に、更に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、電解質、粘度調整剤、体積排除剤、糖類、タンパク質、核酸が挙げられる。一方、本発明の組成物は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=硫酸水素塩、塩化リチウム、エチレンジアミン四酢酸及びアルコール類のうちの少なくとも1種の物質を含まないことが好ましく、少なくとも2種の物質を含まないことがより好ましく、少なくとも3種の物質を含まないことがさらに好ましく、これら全種を含まないことが特に好ましい。
【0032】
本発明にかかる「粘度調整剤」としては、当該調整に資する限り、特に制限はないが、例えば、塩化コリン、アルギニン塩酸塩、チオシアン酸ナトリウムが挙げられる。
【0033】
本発明の組成物は、保存性を向上させるという観点から、糖類を含んでいてもよい。かかる「糖類」としては、例えば、スクロース、マルトース、トレハロースが挙げられる。
【0034】
本発明にかかる「体積排除剤」としては、排除体積効果を奏し得る限り、特に制限はないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、デキストラン硫酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸Cナトリウムが挙げられる。
【0035】
本発明の組成物が含み得る「核酸」としては、特に制限はないが、吸着防止等の観点から、例えば、酵母由来RNA、サケ精液由来DNAが挙げられる。
【0036】
なお、本発明の組成物における他の成分の含有濃度は、当業者であれば、当該組成物における各成分による効果等に応じ、適宜調整し得る。
【0037】
以上、本発明の組成物における各成分について説明したが、本発明の組成物は、少なくともポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル及びTCEPを含むものが好ましく、少なくとも0.1~1%(w/v) ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル及び0.1~50mM TCEPを含むものがより好ましい。さらに、少なくとも0.3~0.5%(w/v) ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル及び3~20mM TCEPを含むものが好ましく、特に、少なくとも0.45%(w/v) ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル及び11mM TCEPを含むものが好ましい。
【0038】
さらに、かかるポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテルを含む本発明の組成物においては、硫酸アンモニウムを含むことが好ましく、その場合、少なくとも0.1~1%(w/v) ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、0.1~50mM TCEP及び1~100mM 硫酸アンモニウムを含むものがより好ましい。さらに、少なくとも0.3~0.5%(w/v) ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、3~20mM TCEP及び10~50mM 硫酸アンモニウムを含むものが好ましく、特に、少なくとも0.45%(w/v) ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、11mM TCEP及び25mM 硫酸アンモニウムを含むものが好ましい。
【0039】
本発明の組成物はまた、少なくともポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル及びTCEPを含むものが好ましく、少なくとも0.1~1%(w/v) ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル及び0.1~50mM TCEPを含むものがより好ましい。さらに、少なくとも0.2~0.4%(w/v) ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル及び3~20mM TCEPを含むものが好ましく、特に、少なくとも0.36%(w/v) ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル及び7.2mM TCEPを含むものが好ましい。
【0040】
本発明の組成物はまた、少なくともノニルフェノールエトキシレート及びTCEPを含むものが好ましく、少なくともノニルフェノールエトキシレート、RVC及びTCEPを含むものがより好ましい。さらに、少なくとも0.3~0.7%(w/v) ノニルフェノールエトキシレート、1~3mM RVC及び5~20mM TCEPを含むものが好ましく、少なくとも0.6~0.7%(w/v) ノニルフェノールエトキシレート、1~2mM RVC及び5~10mM TCEPを含むものがより好ましい。特に、少なくとも0.625%(w/v) ノニルフェノールエトキシレート、1.5mM RVC及び5mM TCEPを含むものが好ましい。
【0041】
また、本発明の組成物は、当業者であれば、用いる各成分の性質等に応じて適宜調製し得るが、通常、上述の成分を溶媒に適宜添加し、混合することによって調製され得る。また、その添加する順について、特に制限はないが、溶媒に、界面活性剤、還元剤、RNA安定化剤の順に添加することが望ましい。
【0042】
<ウイルス遺伝子の検出方法>
本発明は、上述のウイルス試料処理用組成物を用いた、ウイルス遺伝子の検出方法も提供する。具体的には、試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を検出する方法であって、
(1)試料を、本発明のウイルス試料処理用組成物に混合し、当該試料中の前記ウイルスを不活化する工程、
(2)工程(1)にて得られた混合物を核酸増幅反応に供し、
(3)工程(2)にて増幅された核酸断片を検出する工程
を含む方法を、提供する。
【0043】
本発明の方法において検出される「エンベロープを有するウイルス」としては、脂質二重層からなる膜であるエンベロープを有するウイルスを意味し、RNAウイルスであってもよく、DNAウイルスであってもよい。
【0044】
エンベロープを有する「RNAウイルス」としては、例えば、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻しんウイルス、風しんウイルスが挙げられる。また、より具体的に、コロナウイルスとしては、SARS関連コロナウイルス(SARS-CoV-2、SARS-CoV)等のベータコロナウイルス属に属するウイルス、ネココロナウイルス等のアルファコロナウイルス属に属するウイルス、ガンマコロナウイルス属に属するウイルス、デルタコロナウイルス属に属するウイルス等が挙げられる。インフルエンザウイルスとしては、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス等が挙げられる。
【0045】
エンベロープを有する「DNAウイルス」としては、例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘-帯状疱疹ウイルスが挙げられる。
【0046】
本発明において、「試料」は、前記エンベロープを有するウイルスを含むもののみならず、含み得るものであってもよく、当該ウイルスの種類によって適宜選択されるが、生物試料(検体等)、環境試料等が挙げられる。「生物試料」としては、より具体的に、唾液、下気道由来試料(喀痰、気管吸引液等)、咽頭ぬぐい液、鼻咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、鼻汁、眼結膜ぬぐい液、糞便、全血、血清、血漿、髄液、尿、汗、精液が挙げられる。「環境試料」としては、より具体的に、設備又は物品等から拭き取った物、食品、大気、土壌、塵埃、水が挙げられる。また、これら試料は、上述のウイルス試料処理用組成物に直接混合(懸濁等)してもよいが、夾雑物の反応への影響を低減し、より安定した検出結果を得る等の観点から、水、生理食塩水又は緩衝液に混合した試料であってもよい。ここでの緩衝液としては、例えば、ハンクス緩衝液、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、HEPES緩衝液、トリシン緩衝液が挙げられる。
【0047】
本発明の工程(1)において、試料とウイルス試料処理用組成物との混合比(体積比)としては、試料の種類等に応じて適宜調整され得るが、好ましくは1:0.5~1:10、より好ましくは1:1~1:5であり、特に好ましくは1:2である。
【0048】
より具体的に、当該混合後の非イオン性界面活性剤の濃度は好ましくは、0.04~5%(w/v)であり、更に具体的には、後述の各表に示すように、前記混合後のポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテルの濃度はより好ましくは0.1~0,3%(w/v)であり、前記混合後のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテルの濃度はより好ましくは0.1~0.2%(w/v)であり、前記混合後のノニルフェノールエトキシレートの濃度はより好ましくは0.04~0.5%(w/v)であり、前記混合後のポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテルの濃度はより好ましくは0.2~4%(w/v)であり、前記混合後のアルキルグルコシドの濃度はより好ましくは0.1~0.3%(w/v)であり、前記混合後のポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度はより好ましくは1~5%(w/v)である。
【0049】
また、試料とウイルス試料処理用組成物との混合後の還元剤(TCEP等)の濃度は、好ましくは0.2~20mMである。当該混合後のRNA安定化剤の濃度は、当該安定化剤がRVC等のRNase阻害剤である場合、好ましくは0.1~3mMであり、前記安定化剤が硫酸アンモニウムである場合、好ましくは4~40mMである。
【0050】
なお、本発明の方法においては、工程(2)に供する前に、本発明にかかる混合物における非イオン性界面活性剤、還元剤等の濃度を、上記好適な濃度になるよう適宜調整してもよい。
【0051】
本発明の工程(1)においては、試料を、本発明のウイルス試料処理用組成物に混合することにより、当該試料中の前記ウイルスは不活化される。本発明において「不活化」とは、前記ウイルスの感染性を実質的に失わせることをいう。当業者であれば、後述の実施例に示すとおり、例えば、TCID50法にて評価することができ、より具体的には、TCID50法によって得られるウイルス感染価が0.1%以下であれば、前記ウイルスは不活化されたと評価することができる。
【0052】
本発明の方法において、工程(2)に供する前に、工程(1)において得られた混合物から、不溶物等を除去し、後述の核酸増幅反応をより効率よく行うという観点から、遠心処理に供してもよい。さらにまた、前記混合物に含まれるタンパク質等による、後述の核酸増幅反応に対する阻害効果を抑制するという観点から、熱変性処理に供してもよい。熱変性処理における温度及び時間としては、タンパク質等が変性するに十分な条件であれば特に制限はないが、処理温度としては、通常60℃以上、好ましくは70℃以上であり、処理時間としては、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上30分以内である。
【0053】
本発明の工程(2)において、前述の混合物が供される「核酸増幅反応」としては、ウイルス由来の核酸を鋳型としてその断片を増幅し得る方法であれば特に制限はなく、DNA鎖を鋳型としてその一部を増幅する、DNA増幅反応であってもよく、RNA鎖を鋳型としてその一部を増幅する、RNA増幅反応であってもよい。
【0054】
DNA増幅反応としては、より具体的に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、ループ介在等温増幅(LAMP)法、等温キメラプライマー核酸増幅(ICAN)法、鎖置換型増幅(SDA)法等が挙げられる。RNA増幅反応としては、転写介在増幅(TMA)法、核酸配列に基づく増幅(NASBA)法等が挙げられる。
【0055】
また、本発明の検出対象となるウイルスがRNAウイルスの場合には、DNA増幅反応に供するために、逆転写反応を併せて行なってもよい。さらに、逆転写反応とDNA増幅反応とは逐次的に工程を分けて行なってもよく、また1工程にて行なってもよい。以下、このような1工程の逆転写反応及びDNA増幅反応(PCR)を例に、工程(2)及び(3)について、具体的に説明していくが、本発明の方法はこれに限定されるものではない。
【0056】
工程(2)においては先ず、工程(1)にて得られた混合物と、1工程の逆転写反応及びPCR(RT-PCR)用の反応液と混合する。この際の混合比(体積比、混合物:反応液)としては、これらの反応が進行する限り特に制限はないが、好ましくは1:1~1:6、好ましくは1:1~1:4である。
【0057】
RT-PCR用の反応液は、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、逆転写反応プライマー、PCRプライマー、基質(デオキシヌクレオシド三リン酸の混合物:dATP、dGTP、dCTP及びdTTP)及び緩衝液を、その反応前に混合して調製することにより、逆転写反応及びPCRを同一容器内で行うことが可能となる。
【0058】
かかる「逆転写酵素」としては、逆転写反応を触媒する限り特に制限されないが、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等のRNAウイルス由来のRNA依存性DNAポリメラーゼ、及びこれらの変異体が挙げられる。また、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼを使用することもできる。かかるDNAポリメラーゼとしては、下記Taq、Tthが挙げられる。
【0059】
「DNAポリメラーゼ」としては、例えば、耐熱性DNAポリメラーゼが挙げられ、より具体的に、Taq、Tth、KOD、Pfu、及びこれらの変異体が挙げられる。また、DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼは、例えば抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼ又は酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼであり、PCRにおいて、最初の変性ステップ(90℃以上)を経た後にDNAポリメラーゼが活性化される酵素である。
【0060】
「逆転写反応プライマー」としては、例えば、標的RNAの配列に特異的なプライマー、オリゴ(dT)プライマー、ランダムプライマーが挙げられる。「PCRプライマー」としては、逆転写反応により生成したcDNAの配列に特異的なプライマーセット(フォワードプライマー及びリバースプライマー)であり、標的RNAの配列に特異的な前記逆転写反応プライマーと同一であってもよく。また、RT-PCR用反応液には、増幅するDNA領域、すなわち標的配列の数に応じて2種類以上のPCRプライマーを添加してもよい。なお、このようなプライマーの配列は、当業者であれば、検出するウイルス遺伝子の配列に基づき、プライマー設計用ツール(例えば、Primer3)を用いることにより設計することができる。また、設計した配列に基づきDNA自動合成機を用いて、これらのプライマーを化学的に合成することもできる。
【0061】
ここでの「緩衝液」としては、例えば、Trisバッファー、リン酸バッファー、HEPESバッファーが挙げられる。また、上記反応に必要な他の成分(例えば、マンガンイオン、コバルトイオン、マグネシウムイオン等の2価イオン)を含んでいてもよい。
【0062】
また、RT-PCRにおける逆転写反応の反応温度条件、及びPCR条件(温度、時間、及びサイクル数)の設定は、当業者であれば、対象とするウイルス及び試料の種類等に応じ、適宜調整することができる。
【0063】
工程(3)における、工程(2)にて増幅された核酸断片の検出は、公知の手法を適宜用いることによって、当業者であれば行なうことができる、公知の手法としては、蛍光検出方法、電気泳動法(例えば、アガロースゲル又はアクリルアミドゲルに増幅産物を展開する電気泳動法)、核酸クロマト法、クエンチャー媒介蛍光検出法、サザンブロッティング、ノーザンブロッティングが挙げられる。
【0064】
なお、上述のRT-PCR等のPCRにおいては、その産物をリアルタイムで検出(所謂、リアルタイムPCR)するために、蛍光検出方法が用いられる。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法、蛍光標識プローブを用いる方法がある。
【0065】
「インターカレーター性蛍光色素」としては、通常、SYBR(登録商標)GreenIが使用されるが、これに限定されるわけではない。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。
【0066】
「蛍光標識プローブ」としては、例えば、TaqManプローブ、MolecularBeacon、サイクリングプローブが挙げられる。TaqManプローブは、5’末端が蛍光色素で、また3’末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。TaqManプローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応にて、DNAポリメラーゼの有するエキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。前記蛍光色素としては、例えば、FAM、ROX、Cy5が挙げられる。前記クエンチャーとしては、例えば、TAMRA(登録商標)、Non Fluorescent Quencher(NFQ)が挙げられる。
【0067】
そして、このように、工程(3)において、増幅された核酸断片を検出することが出来た場合には、試料中に対象とするウイルスが存在していた(陽性である)と判定される。一方、検出することが出来なかった場合には、陰性であると判定される。
【0068】
以上、本発明のウイルス遺伝子の検出方法の好適な態様について説明したが、本発明は以下の方法の態様もとり得る。
試料中のエンベロープを有するウイルスの遺伝子を核酸増幅反応にて検出するに際し、当該試料を処理する方法であって、
(1)前記試料を本発明のウイルス試料処理用組成物に混合し、当該試料中の前記ウイルスを不活化する工程
を含む方法。
【0069】
また、本発明においては、後述の実施例において示すとおり、本発明のウイルス試料処理用組成物を用いることにより、試料中のエンベロープを有するウイルスを不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検出することが可能となる。
【0070】
なお、本発明において「核酸単離」とは、上述の工程(1)にて得られた混合物からの、前記ウイルス由来の核酸の分離、精製及び/又は濃縮を意味する。また、「核酸単離を要しない」とは、例えば、前記混合物を核酸単離処理に供さないことであり、より具体的には、前記混合物を、アルコール沈殿(エタノール沈殿、イソプロパノール沈殿等)、ポリエチレングリコール沈殿、フェノール処理(フェノール・クロロホルム処理等)、ゲル濾過、シリカ又はセルロースによる吸着(スピンカラム法、磁性ビーズ法等)に供さないことが挙げられる。
【0071】
<キット>
本発明においては、上述のウイルス試料処理用組成物及び試料回収用容器を含む、ウイルス不活化用キットも提供される。
【0072】
「試料回収用容器」としては、上述のウイルス試料処理用組成物及び採取した試料を入れ、安定的に保存、輸送等できるものであればよく、通常、合成樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン等)製のチューブが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0073】
また、本発明のウイルス不活化用キットは、試料採取具を更に含むものであってもよい。「試料採取具」としては、採取する試料の種類に応じ特に制限されるものではないが、例えば、スワブ(綿棒)、吸引具、スポンジ、布が挙げられる。
【0074】
そして、例えば、採取した試料、又は試料が付着等している試料採取具を、試料回収用容器中のウイルス試料処理用組成物に浸漬等することにより、ウイルスを不活化することができ、安全な保存、輸送等が可能となる。したがって、本発明のウイルス不活化用キットは、ウイルス保存用キット、ウイルス輸送用キットとしても好適に用いることができる。
【0075】
本発明においては、上述のウイルス試料処理用組成物又は前述のウイルス不活化用キットに加え、上述の核酸増幅反応を行なうための試薬を更に含むことにより、ウイルス検出用キットの態様もとり得る。
【0076】
「核酸増幅反応用の試薬」としては、用いる核酸増幅反応の種類に応じ、特に制限されるものではないが、例えば、ポリメラーゼ(DNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ、 FastStartTM Taq、Tth DNAポリメラーゼ等の上記耐熱性DNAポリメラーゼ)、逆転写酵素、RNAポリメラーゼ等)、基質(dNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)等)、プライマー、反応に必要な他の成分(2価イオン等、より具体的には、ポリメラーゼの種類に応じて、Mg(マグネシウム)塩、Tth DNA polymeraseの場合はMn(マンガン)塩)を含む緩衝液が挙げられる。
【0077】
特に、検出対象がRNAウイルスである場合、上述の逆転写酵素(例えば、M-MLV由来、あるいは、AMV由来の逆転写酵素(製品例:ReverTra Ace(TOYOBO)、SuperScript(Thermo))が含まれ得る。
【0078】
また、ウイルス検出用キットは、核酸増幅反応用容器、増幅された核酸断片を検出するための物質(例えば、上述の蛍光色素(インターカレーター性蛍光色素、蛍光色素及びクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチド(プローブ)等)、増幅産物を展開するための担体(電気泳動方法におけるゲル、核酸クロマト法におけるクロマト用試験紙等)及び溶媒)、陽性対照(不活化されたウイルス又はその一部、ウイルス由来の核酸等)、陰性対照、分子量マーカー等を、適宜更に含むものであってもよい。
【0079】
特に、プローブによる検出を行う場合はオリゴヌクレオチドからなるプローブが含まれ得、インターカレーター法によりリアルタイムPCRを行う場合は、インターカレーター(TB Green)が含まれ得、リアルタイムPCRをプローブ法(5’-ヌクレアーゼ法)により行う場合は、3’末端をクエンチャー物質(TAMRA等)で修飾したオリゴヌクレオチド(プローブ)が含まれ得る。
【0080】
また、ウイルス検出用キットは、上述の試料回収用容器、試料採取具を更に含むものであってもよい。
【0081】
さらに、本発明のキットにおいては、その使用説明書が含まれる。
【実施例0082】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<試料処理液の調製>
下記表1~4に示す組成になるよう、イオン交換水に、界面活性剤、還元剤、RNA安定化剤の順に各々添加し、調製した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
なお、用いた界面活性剤、還元剤及びRNA安定化剤の詳細は以下のとおりである。
N(ノニデット(登録商標))P-40代替品(一般化学名:ノニルフェノールエトキシレート、ナカライテスク株式会社製、製品番号:18558-25)、
TritonX-100(一般化学名:ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、ナカライテスク株式会社製、製品番号:35501-15)、
マイドール12(一般化学名:アルキルグルコシド(ラウリルグルコシド等)、花王株式会社製)、
パーソフト(登録商標)NK-100(一般化学名:ポリオキシエチレンアルキルエーテル、日油株式会社製)、
ファインサーフ290(一般化学名:ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、青木油脂工業株式会社製)、
ファインサーフNDB-1000(一般化学名:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、青木油脂工業株式会社製)、
IGEPAL(登録商標) CO-630(一般化学名:ノニルフェノールエトキシレート、Sigma社製)、
Brij35(一般化学名:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ナカライテスク株式会社製、製品番号:05317-04)、
Tween20(一般化学名:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ナカライテスク株式会社製、製品番号:28353-14)、
ナロアクティーID-40(一般化学名:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、三洋化成工業株式会社製)、
エマルミン50(一般化学名:ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびポリオキシエチレンセチルエーテル、三洋化成工業株式会社製)、
塩化ベンザルコニウム(日本製薬株式会社製、製品番号:123150255)、
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(ナカライテスク社製、製品番号:31607-94)、
RVC(リボヌクレオシド-バナジル複合体、New England Biolabs社製、製品番号:S1402)、
硫酸アンモニウム(HAMPTON RESEARCH社製、製品番号: HR2-541)、
TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン、ナカライテスク株式会社製、製品番号:07277)。
RVCについては、その添付のプロトコールに準拠し、前記調製前に、65℃での加熱及び融解処理に供して使用した。また、これら試料処理液のpHを測定したところ、pH2.0~3.4であった。
【0089】
<ウイルス不活化試験>
1.ウイルス懸濁液の調製
宿主細胞(ネコ腎由来株化細胞(CRFK細胞))に、猫伝染性腹膜炎ウイルスDF2(Feline infectious peritonitis virus、ATCC VR-2004)を感染させ、10%ウシ胎児血清(FBS)及び非必須アミノ酸(NEAA)含有イーグル最小必須培地(EMEM)を加え、37℃で所定時間培養した。そして、4℃、1500×gで5分間遠心分離した上清を、限外ろ過カラムで濃縮し、試験ウイルス懸濁液とした。
【0090】
2.ネココロナウイルスの不活化試験
上記にて調製した各試料処理液に、試験ウイルス懸濁液を、表1~4に示す各混合比になるよう加え、十分に攪拌し、室温で5分間静置した。その後、10% FBS及びNEAA含有EMEMで10倍希釈系列を作製し、ウイルス感染価をTCID50法にて測定し、試験液1ml当たりのウイルス感染価を算出した。試験ウェルは6重、試験反復数は3連で行った。試験した希釈系列において、各試料処理液がCRFK細胞に対して細胞毒性を示さないことは事前に確認してある。得られた結果は、表1~4に示す。なお、これらの表において、不活化試験の「結果」における「○(マル)」は、ウイルス感染価が0.1%以下であることを示し、「×(バツ)」は、ウイルス感染価が0.1%より大きいこと、あるいはウイルス感染価が0.1%以下であっても不活化が不完全でウイルスによる細胞変性作用が残存していることを表す。
【0091】
<核酸検出試験 1>
表1及び2に示す実施例1~18及び比較例1~5については、以下に示す方法にてSARS-CoV-2由来の核酸を検出できるかどうか評価した。
【0092】
ヒトの唾液17μLに対し、不活化済みSARS-CoV-2(Zeptometrix社製、濃度:1210copy/μL)を8.26μL混合し、後述の核酸検出試験時のウイルス量が500コピーになるよう、試料を調製した。そして、表1及び2に示す各混合比にて、上記にて調製した各試料処理用液と、前記試料とを混合した後、常温下、表1に示す日数保管した。
【0093】
次いで、前記混合液を70℃で5分間の前処理に供した後、CFX96 touchリアルタイムPCR解析システム(Bio-Rad社製)とAmpdirect 2019-nCoV検出キット(島津製作所社製)とを用い、核酸検出試験を行った。核酸検出試験は下記の条件で行った。
【0094】
PCR反応プレートに、前記キット付属の処理液(2019-nCoV Sample Treatment Reagent)5μLと、前記処理済み試料5μLとをよく混合した後、スピンダウンを行った。次いで、90℃5分間の加熱処理を行い、スピンダウンした後、氷冷した。そして、反応液A(2019-nCoV Reagent A)6.5μL、反応液B(2019-nCoV Reagent B:プライマー・プローブ)6.5μL及び反応液C(2019-nCoV Reagent C:逆転写酵素・DNAポリメラーゼ)2μLからなるRT-PCR反応液15μLと混合し、以下の温度サイクルでRT-PCR反応を行った。
42℃で10分、95℃で1分、次いで、95℃で5秒及び60℃で30秒を45サイクル。
【0095】
そして、SARS-Cov-2に特異的なN1領域をROX、N2領域をFAMの蛍光により検出し、内部コントロールDNA(IC)をCy5の蛍光により検出し、前記キットの添付文書の測定結果の判定法に基づいて陽性・陰性を判定した。
【0096】
すなわち、N1、N2:反応時間内に増幅曲線の立ち上がりが見られた場合は(+)と判断し、反応時間内に増幅曲線の立ち上がりが見られない場合は(-)と判断し、IC:40サイクル以内に増幅曲線の立ち上がりが見られた場合は(+)と判断し、40サイクル以内に増幅曲線の立ち上がりが見られない場合は(-)と判断した。そして、以上の結果に基づき、以下の表5にした基準に沿って、最終的に陽性・陰性を判定した。
【0097】
【0098】
また、増幅曲線の指数関数的増幅域でThreshold Line(閾値)設定を行い、Threshold Lineと増幅曲線との交点をCq値として算出した。Cq値は閾値に達するのに必要なPCRサイクル数を示す値である。Cq値が小さいほど増幅曲線の立ち上がりが早く、ウイルスRNAが安定に保存されていることを示す。
【0099】
<核酸検出試験 2>
表3及び4に示す実施例19~38及び比較例6~9については、以下に示す方法にてSARS-CoV-2由来の核酸を検出できるかにつき評価した。
【0100】
各試料処理液はヒトの唾液と、各表に示す混合比にて、合計72uL
になるよう混合した。試料処理液と唾液の混合液に対し、不活化済みSARS-CoV-2(Zeptometrix社製、濃度:1030copy/μL)を1.44uL添加・混合し、試料混合液を調製した。試料混合液のウィルス量は、後述の核酸検出試験に用いた場合、試験あたり162コピーになる。試料混合液は常温下で、各表に示す日数保管した。
【0101】
以上の手順で作成した試料混合液を、QuantStudio5 リアルタイムPCR解析システム(Thermo Fisher Scientific社製)とSARS-Cov-2 Detection Kit -Multi-(東洋紡社製)を用いて、核酸検出試験を行った。核酸検出試験は当該キットの取扱説明書に従い、下記の手順で行った。
【0102】
試薬調製用に用意したPCRプレートに、前記キット構成品の前処理液6μLと、試料混合液16μLとを添加、よく混合した後、スピンダウンを行った。次いで、PCRプレートに95℃5分間の加熱処理を行い、スピンダウンした後、氷冷した。キット構成品の反応液30μL、酵素液5μL及びプライマー・プローブ液5μLをよく混合し、RT-PCR反応液を調製した。測定用に用意したリアルタイムPCRプレートに対し、RT-PCR反応液40μLと、加熱処理後の溶液11μLを添加・混合した。
【0103】
上記の手順で用意したリアルタイムPCRプレートに対し、リアルタイムPCR機器を用いて、以下の温度サイクルでRT-PCRを行った。
42℃で5分、95℃で10秒、次いで、95℃で5秒及び60℃で30秒を45サイクル。
【0104】
そして、SARS-CoV-2に特異的なN1領域をCy5、N2領域をROXの蛍光により検出し、内部コントロールDNA(IC)をFAMの蛍光により検出し、上記<核酸検出試験 1>同様に、前記表5にした基準に沿って、最終的にSARS-CoV-2の陽性・陰性を判定し、またCq値を算出した。
【0105】
<結果>
上記ウイルス不活化試験において、非イオン性界面活性剤として、マイドール12、NP-40代替品、TritonX-100、パーソフトNK-100、ファインサーフ290、ファインサーフNDB-1000、IGEPAL CO-630を各々使用した場合、ネココロナウイルス(FCoV)を99.9%以上の効果で十分に不活化できることが明らかになった。なお、FCoV及びSARS-CoV-2は共に、エンベロープを有し、エンドサイトーシスでエントリーするウイルスである(Javier A.Jaimesaら、Virology.2018 Apr;517:108-121.、Nikhil Kirtipalら、Infect Genet Evol.2020 Nov;85:104502.参照)。すなわち、SARS-CoV-2は、FCoVと同様の構造/感染サイクルを有するため、前記結果から、前記非イオン性界面活性剤は、少なくともSARS-CoV-2も不活化できると理解し得る。実際、図表には示していないが、マイドール12、NP-40代替品については、SARS-CoV-2を不活化できることも確認している。
【0106】
一方、非イオン性界面活性剤として、Brij35、Tween20を各々使用した場合、十分な不活化効果を得ることが出来なかった。
【0107】
また、上記核酸検出試験において、非イオン性界面活性剤として、マイドール12、NP-40代替品、TritonX-100、パーソフトNK-100、ファインサーフ290、ファインサーフNDB-1000、IGEPAL CO-630を各々使用した場合、前処理試薬から核酸を単離を要せずとも、PCR反応によりコロナウイルス(SARS-CoV-2)由来のDNAを増幅することが出来、結果として当該ウイルスの検出が可能であることも明らかになった。さらに、常温下少なくとも7日間経過したものであっても、当該非イオン性界面活性剤を含む試料処理液であれば、当該ウイルスの検出が可能であることも確認された。
【0108】
また、図表には示していないが、上記Ampdirect 2019-nCoV検出キット(島津製作所社製)及びSARS-Cov-2 Detection Kit -Multi-(東洋紡社製)の代わりに、MEBRIGHT SARS-CoV-2 キット(株式会社医学生物学研究所製、製品番号:GS-R0201)を用いても、マイドール12、NP-40代替品、TritonX-100又はパーソフトNK-100によって、試料中のSARS-CoV-2を、RNA単離処理に供することなく、検出することもできた。
【0109】
一方、非イオン性界面活性剤として、ファインサーフ290又はファインサーフNDB-1000を使用した場合であっても、還元剤(TCEP)を含まない試料処理液を用いた場合には、上記PCR反応にてコロナウイルスを検出することができなかった。
【0110】
また、非イオン性界面活性剤として、ナロアクティーID-40、エマルミン50を使用した場合、均一に溶解した試料処理液として調製することが出来ずPCR反応に供することが出来なかった。さらにまた、イオン性界面活性剤(塩化ベンザルコニウム、SDS)を使用した場合、上記PCR反応にてコロナウイルスを検出することができなかった。
以上説明したように、本発明によれば、試料中のエンベロープを有するウイルスを不活化しつつ、核酸単離を要せず、核酸増幅反応にて前記ウイルスを検出することが可能となる。したがって、本発明は、検体等の試料を安全性高く輸送することができ、更に当該試料からウイルスを安全にまた効率良く検出できるため、ウイルスの検査等において有用である。