(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000734
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】回転位置補正装置、モータ駆動システム、及び回転位置補正方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/68 20160101AFI20221222BHJP
H02K 11/21 20160101ALI20221222BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
H02P29/68
H02K11/21
G01D5/20 110Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101722
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳一
【テーマコード(参考)】
2F077
5H501
5H611
【Fターム(参考)】
2F077AA13
2F077FF34
2F077PP26
5H501CC01
5H501GG03
5H501HB07
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5H501LL01
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5H611AA01
5H611BB01
5H611BB04
5H611QQ03
5H611QQ04
(57)【要約】
【課題】レゾルバによる軸の角度の検出結果の温度依存性を低減できる回転位置補正装置、モータ駆動システム、及び回転位置補正方法を提供する。
【解決手段】回転位置補正装置は、検出値補正部を備える。モータは、レゾルバによって軸の角度が検出される。検出値補正部は、前記モータの出力により変化する前記レゾルバの温度の推定値又は検出値に基づいて、前記温度に対応する前記レゾルバの角度検出値を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルバによって軸の角度が検出されるモータの回転位置補正装置であって、
前記モータの出力により変化する前記レゾルバの温度の推定値又は検出値に基づいて、前記温度に対応する前記レゾルバの角度検出値を補正する検出値補正部
を備える回転位置補正装置。
【請求項2】
前記レゾルバの温度を推定して温度推定値を生成する温度推定部
を備え、
前記検出値補正部は、
前記温度推定値を用いて前記レゾルバの角度検出値を補正する
請求項1に記載の回転位置補正装置。
【請求項3】
前記温度推定部は、
前記レゾルバの温度の変化を一次遅れ系で近似して、前記温度推定値を生成する、
請求項2に記載の回転位置補正装置。
【請求項4】
前記温度推定部は、
前記モータに供給する電力の大きさに基づいて前記レゾルバの温度を推定する、
請求項2又は請求項3に記載の回転位置補正装置。
【請求項5】
レゾルバによって軸の角度が検出されるモータのモータ駆動システムであって、
前記モータの出力により変化する前記レゾルバの温度の推定値又は検出値に基づいて、前記温度に対応する前記レゾルバの角度検出値を補正する検出値補正部と、
前記補正された角度検出値を用いて前記モータを制御する制御部と
を備えるモータ駆動システム。
【請求項6】
前記レゾルバの温度を推定して温度推定値を生成する温度推定部
を備え、
前記検出値補正部は、
前記温度推定値と、前記モータに供給する電力とに基づいた角度補正情報とを用いて、前記レゾルバの角度検出値を補正する、
請求項5に記載のモータ駆動システム。
【請求項7】
前記レゾルバによって軸の角度が検出されるモータと、
前記レゾルバと
を備える請求項5又は請求項6に記載のモータ駆動システム。
【請求項8】
前記モータの制御状態を示す制御情報を随時記録して履歴情報を生成し、前記履歴情報を解析することで、前記レゾルバの検出特性が変化したことが検出された場合には、前記レゾルバの角度検出値に対する角度補正値を、現在の特性に適したものに変更する制御特性切替処理部
を備える請求項5から請求項7の何れか1項に記載のモータ駆動システム。
【請求項9】
レゾルバによって軸の角度が検出されるモータの回転位置補正方法であって、
前記モータの出力により変化する前記レゾルバの温度の推定値又は検出値に基づいて、前記温度に対応する前記レゾルバの角度検出値を補正する過程
を含む回転位置補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転位置補正装置、モータ駆動システム、及び回転位置補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レゾルバは、その軸の角度(回転位置)を検出することで、軸に連結された回転体の角度を検出することに利用される。レゾルバの周囲温度に依存して、角度の検出結果の精度が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、レゾルバによる軸の角度の検出結果の温度依存性を低減できる回転位置補正装置、モータ駆動システム、及び回転位置補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転位置補正装置は、検出値補正部を備える。モータは、レゾルバによって軸の角度が検出される。検出値補正部は、前記モータの出力により変化する前記レゾルバの温度の推定値又は検出値に基づいて、前記温度に対応する前記レゾルバの角度検出値を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態のモータ駆動システムの概略構成図。
【
図2】実施形態のモータ駆動システムの出力の大きさと飽和温度の関係を示す図。
【
図3】実施形態のモータ駆動システムを運転した時間と温度の関係を示す図。
【
図4】実施形態のモータ駆動システムの運転状態の変更に伴った温度変化について説明するための図。
【
図5】実施形態の周囲温度に依存する誤差を含む角度検出値について説明するための図。
【
図6】実施形態の周囲温度と角度検出値の誤差との関係について説明するための図。
【
図7】第2の実施形態のモータ駆動システムの概略構成図。
【
図8】第3の実施形態のモータ駆動システムの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の回転位置補正装置、モータ駆動システム、及び回転位置補正方法を、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部の機能の配分などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。
【0008】
以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。
実施形態において「接続されている」とは、電気的に接続されていることを含む。「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含み得る。「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含み得る。「XX又はYY」とは、XXとYYのうち何れか一方の場合に限定されず、XXとYYの両方の場合も含み得る。これは選択的要素が3つ以上の場合も同様である。「XX」及び「YY」は、任意の要素(例えば任意の情報)である。「インバータ」は、交流を出力する電力変換器であって、例えば、DC/ACコンバータなどが含まれる。「モータ」は、交流電力によって駆動される誘導電動機などの回転電機のことである。「モータの回転速度」のことを単に「モータの速度」ということがある。
【0009】
以下の説明に示す「電流の測定値」とは、実際の電流の測定値、実際の電流の大きさを示す指標値、又は電流の大きさを示す推定値のことである。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る回転位置補正装置を含むモータ駆動システム1を例示するブロック図である。例えば、モータ駆動システム1は、モータ速度制御装置10を備える。モータ速度制御装置10は、回転位置補正装置の一例である。モータ駆動システム1は、さらに、モータ2(
図1中の記載はM。)、及びレゾルバ2A(
図1中の記載はSS。)を備えていてもよい。
【0011】
モータ速度制御装置10は、モータ2、及びレゾルバ2Aに接続されている。モータ速度制御装置10は、レゾルバ2Aによって検出されたモータ2の実際の速度が、所望の速度指令値ω*に一致するように、モータ2の速度を制御する。
【0012】
モータ2は、複数の巻線を備え、各巻線が、後述するインバータ30の出力に接続されている。インバータ30は、電力変換器の一例である。例えばインバータ30は、直流電源20(図中にDCと記載。)から供給される直流電力を変換して、モータ2を駆動させる。例えば、インバータ30からの交流が各巻線に流れると、電磁的な作用によりモータ2が回転する。例えば、モータ2の軸には、レゾルバ2Aの軸がフランジ結合などの方法で機械的に連結されていて、モータ2の軸の回転に応じてレゾルバ2Aの軸が連動して回転する。
【0013】
レゾルバ2Aは、自らの軸の位置に応じた交流信号を生成する。例えば、レゾルバ2Aは、1次側巻線の電流によって励磁された磁束を2次側巻線によって検出する。2次側巻線に励起される電圧又は電流は、励磁された磁束の方向と2次側巻線の方向の角度差に応じた位相情報を含む交流信号になる。レゾルバ2Aは、その交流信号を自らの軸の位置の検出信号として生成する。例えば、レゾルバ2Aの1次側巻線は、その筐体に固定されている。レゾルバ2Aの筐体は、例えばモータ2と共通の基台又はモータ2の筐体に固定されている。そのため、レゾルバ2Aの温度の違いによって、各部の位置関係が許容される範囲内で変化することがある。
【0014】
なお、実施形態のレゾルバ2Aは、その内部に信号変換器を含む。信号変換器は、自らの軸の位置に応じた交流信号に基づいて、レゾルバ2Aの軸の角度を示す指標値、つまりモータ2の軸の角度を示す指標値(角度検出値θe2という。)を生成する。換言すれば、このレゾルバ2Aは、モータ2の軸の角度の検出結果に対応する角度検出値θe2を生成して出力する。信号変換器は信号処理のための電子回路を含む。そのため、出力する信号に周囲温度に依存するオフセットが含まれることがある。以下の説明では、周囲温度に依存する機械的な検出誤差と電気的な検出誤差とを纏めて、レゾルバ2Aの温度の変化による誤差として説明する。なお、この信号変換器は、レゾルバ2Aの外部に別体で構成されていてもよく、後述するモータ速度制御装置10の一部として含まれていてもよい。以下の説明では、レゾルバ2Aに内蔵される場合について説明する。
【0015】
例えば、モータ速度制御装置10は、モータ2を駆動するインバータ30の制御装置である。モータ速度制御装置10は、回転位置補正装置の一例である。
【0016】
モータ速度制御装置10は、回転位置補正部3と、速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7(図中の記載はPWM。)と、電流値変換部8と、温度推定部9とを含む。なお、速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、制御部の一例である。この制御には一般的な手法を適用してよい。
【0017】
速度制御部5は、速度指令値ω*とモータ2の速度推定値ωFBKとの速度偏差に所定の速度応答ゲインを乗じて駆動トルクの指令値を生成する。速度指令値ω*は、例えばプログラマブルコントローラ(PLC)等の上位制御装置から供給される。速度指令値ω*は、所望の値が設定され、設定後から次の値が設定されるまでその値に維持される。モータ2の速度推定値ωFBKについて後述する。
【0018】
電流制御部6は、速度制御部5の出力に接続されている。電流制御部6は、速度制御部5から供給される駆動トルクの指令値と、モータ2に供給されるトルク電流成分の推定値(電流iFBKという。)との差に応じて生成される電圧指令値V*を出力する。
【0019】
PWM制御部7は、PWM制御(Pulse Width Modulation制御)によってインバータ30を制御することにより、モータ2を駆動させる。例えば、PWM制御部7の入力は、電流制御部6の出力に接続され、その出力がインバータ30に接続されている。PWM制御部7は、電流制御部6によって生成された電圧指令値V*に応じてモータ2を駆動するようにインバータ30のゲート制御信号を出力する。
【0020】
例えば、インバータ30の出力に接続される配線には、各相の相電流を夫々検出する変流器CTが設けられていてもよい。変流器CTは、3相交流の各相の配線のうち少なくとも2相の配線に設けられていてもよい。
【0021】
電流値変換部8は、変流器CTによって検出された相電流の瞬時値と、モータ2の回転に対応する基準位相θ0とに基づいて、相電流の大きさの指標値である電流検出値iFBKを生成する。電流制御部6は、電流検出値iFBKを用いて電流制御を実施してもよい。
【0022】
温度推定部9は、モータ駆動システム1のモータ2とレゾルバ2Aの温度Tを推定する。例えば、温度推定部9は、相電流の大きさ(電流検出値iFBK)と、電圧指令値V*とに基づいて、上記の温度Tを推定する。これの詳細について後述する。
【0023】
回転位置補正部3の第1入力は、レゾルバ2Aの出力に接続されている。例えば、回転位置補正部3は、レゾルバ2Aから出力される角度検出値θe2を受けて、モータ2の速度制御のために利用する。回転位置補正部3の第2入力は、温度推定部9の出力に接続されている。例えば、回転位置補正部3は、温度推定部9が出力する温度推定値を、回転位置補正に利用する。
【0024】
例えば、回転位置補正部3は、検出値補正部31と、速度変換部32とを備える。
検出値補正部31は、補正値生成部31aと、減算器31bとを備える。補正値生成部31aは、温度推定部9が出力する温度推定値に基づいて、角度補正値Δθtを生成する。減算器31bは、角度検出値θe2から角度補正値Δθtを減算して、角度推定値θe1を生成する。角度補正値Δθtは、角度補正情報の一例である。
【0025】
速度変換部32は、検出値補正部31によって生成された角度推定値θe1を取得して、角度推定値θe1に基づいて、前述の速度推定値ωFBKなどを生成する。
【0026】
なお、モータ速度制御装置10は、例えば、CPUなどのプロセッサを含み、プロセッサが所定のプログラムを実行することによって、回転位置補正部3、速度制御部5、電流制御部6、PWM制御部7、電流値変換部8、温度推定部9などの機能部の一部又は全部を実現してもよく、電気回路の組み合わせ(circuitry)によって上記を実現してもよい。モータ速度制御装置10は、内部に備える記憶部の記憶領域を利用して各データの転送処理、及び解析のための演算処理を、プロセッサによる所定のプログラムの実行によって実行してもよい。
【0027】
次に、
図2から
図6を参照して、角度検出値の補正について説明する。
図2は、実施形態のモータ駆動システム1の出力の大きさと飽和温度の関係を説明するための図である。
図3は、実施形態のモータ駆動システム1を運転した時間と温度との関係を説明するための図である。
図4は、実施形態のモータ駆動システム1の運転状態の変更に伴った温度変化について説明するための図である。なお、モータ駆動システム1の出力とは、例えば、モータ2に供給する電力(出力電力)のことである。モータ駆動システム1の出力の大きさとは、モータ2に供給する電力量に相当する指標を適用できる。
【0028】
以下、レゾルバ2Aの温度に基づいて、レゾルバ2Aの検出結果に生じた角度情報のズレを補正する事例について説明する。以下に例示する事例は、温度センサが設置されていない場合、あるいは温度を直接測れない環境の場合などに適用可能である。この場合には、温度を予測して、上記の角度情報のズレを補正するとよい。
【0029】
運転中のモータ2は、その損失により発熱する。モータ2の運転状況(モータ駆動システム1の出力の大きさ)が変化すると、これに伴ってモータ2の温度が変化する。モータ2の発熱量は、モータ駆動システム1の出力の大きさに依存する。モータ駆動システム1の出力の大きさが大きいほど発熱量が多くなる。モータ駆動システム1の出力の大きさの変化に伴って、モータ2などの発熱によってその周辺の温度が変化する。
例えば、モータ駆動システム1の出力を所定の大きさに維持していると、その出力の大きさにより定まる温度に飽和する。
図2のグラフに、モータ駆動システム1の出力の大きさ(横軸)と飽和時の温度TP(縦軸)の関係を示す。このグラフに示す出力Pと温度TPの関係を、例えば、次の式(1)に示すように1次式で近似してモデル化するとよい。
【0030】
TP=k・P+Ta ・・・(1)
【0031】
上記の式(1)において、kが温度係数、Taが周囲温度である。この関係を参照用のテーブルとして予め定義しておいてもよい。上記の式(1)から温度が飽和した時点の温度を着てできるが、変化が緩慢な場合には、過渡状態を規定しきれない。そこで、下記の方法で過渡状態の温度を規定する。
【0032】
図3に、モータ駆動システム1を運転した時間t(横軸)と周囲の温度(縦軸)の関係を示す。
図3に示す横軸の原点のタイミングに、モータ駆動システム1の出力の大きさがステップ状に変化した場合の温度の変化を示している。
上記のように、モータ駆動システム1の出力の大きさが変化すると、これに伴って、モータ2とその周辺の温度が変化する。ただし、この場合、各部にその熱抵抗と熱容量とがあり、温度Tの変化が出力の変化よりも遅れる傾向がある。例えば、この場合の温度Tの変化の傾向を、
図3と次の式(2)に示すような一次遅れ系で近似してモデル化するとよい。
【0033】
T=(TP-T0)・(1-exp(-t/τ))+T0 ・・・(2)
【0034】
上記の式(2)において、τが時定数、T0が、温度Tが変化する直前の温度を示す。この関係を参照用のテーブルとして予め定義しておいてもよい。
【0035】
図4に示す事例では、この図に示される期間の中で、モータ駆動システム1の運転状態を3回切り替えている。
この図に示す期間の初期状態では、モータ駆動システム1はモータ2に対する電力の供給を停止させているため、モータ2からの発熱がない。初期の温度Tは、周囲温度Taに等しい。
【0036】
時刻t1に、第1回目の運転状態の切り替えが行われる。モータ駆動システム1は、モータ2に対して電力量P1の供給を開始して、これを維持する。電力量P1を継続的にモータ2に供給する場合、周辺温度が温度T1になるまで徐々に上昇することが見込まれる。電力量P1と温度T1の関係は、前述した
図2に示した対応関係から導出するとよい。なお、周辺温度が温度T1に到達する前に次の運転状態の切り替えが行われることがある。このような場合には、温度Tの変化の傾向が、その時点(例えば時刻t2)から変化する。
【0037】
時刻t2に、第2回目の運転状態の切り替えが行われる。モータ駆動システム1は、モータ2に対して電力量P2の供給を開始して、供給する電力量を切り替えた後、これを維持する。電力量P2を継続的にモータ2に供給する場合、周辺温度が温度T2になるまで徐々に上昇することが見込まれる。電力量P2と温度T2の関係は、同様に前述した
図2に示した対応関係から導出するとよい。なお、周辺温度が温度T2に到達する前に次の運転状態の切り替えが行われることがある。このような場合には、温度Tの変化の傾向が、その時点(例えば時刻t3)から変化する。
【0038】
時刻t3に、第3回目の運転状態の切り替えが行われる。モータ駆動システム1は、モータ2に対して電力量P3の供給を開始して、供給する電力量を切り替えた後、これを維持する。電力量P3を継続的にモータ2に供給する場合、周辺温度が温度T3になるまで徐々に降下することが見込まれる。電力量P3と温度T3の関係は、同様に前述した
図2に示した対応関係から導出するとよい。
【0039】
このように、電力量と温度の関係をモデル化することで、時間遅れを伴って変化する温度Tに依存する誤差を含む角度検出値を補正することができる。より具体的な事例について、
図5と
図6とを参照して説明する。
【0040】
図5は、実施形態の温度Tに依存する誤差を含む角度検出値について説明するための図である。
図5に、物理的角度θrm(横軸)と検出値θe(縦軸)との関係を示す。例えば、検出値θeに誤差が含まれていない利用的な状況であれば、検出値θeは、物理的角度θrmに一致する。このような状態の検出値θeを実線で示す。これに対して、検出値θeに温度Tに依存する誤差が含まれている状況であると、検出値θeに含まれる誤差ΔθTが物理的角度θrmに対するオフセット成分として顕在化する。このような状態の検出値θeを破線で示す。この誤差ΔθTは、測定ごとの値がランダムに変化する成分とは明らかに異なる傾向を示す。
【0041】
例えば、0°から360°の角度範囲を検出可能な構成で、レゾルバ2Aが検出すべきモータ2の軸の物理的角度θrmがθmであるときに、誤差ΔθTが含まれていなければ、その時の検出値θeが物理的角度θrmのθmに等しい検出値θe1になる。これに対して、誤差ΔθTが含まれていると、その時の検出値θeが物理的角度θrmのθmとは異なる検出値θe2になる。次の式(3)に示すように、検出値θe1と検出値θe2との差が誤差ΔθTである。このような傾向は軸の角度によらずに生じることから、何れの角度においても概ね等量の誤差ΔθTが含まれることになる。
【0042】
ΔθT=θe2-θe1 ・・・(3)
【0043】
上記の
図5に示した状況の検出値θe2には、温度Tに依存するオフセット成分の誤差ΔθTが含まれることになる。
図6を参照して、温度Tと、これに依存するオフセット成分の誤差ΔθTの関係について説明する。
図6は、実施形態の温度と角度検出値の誤差との関係について説明するための図である。
図6に、温度T(横軸)と角度検出値の誤差θT(縦軸)との関係を示す。
【0044】
温度Tと角度検出値の誤差θTとの間には、このグラフに示すような傾向があることから、上記の温度Tと角度検出値の誤差ΔθTの関係を、例えば、次の式(4)に示すように1次式で近似してモデル化するとよい。
【0045】
ΔθT=a・(T_est-T_ref)+b ・・・(4)
【0046】
上記の式(4)において、T_estが予測温度、T_refが基準温度(例えば、25℃)、aとbが所定の定数である。なお、aは
図6のグラフの傾きに対応する。bは
図6のグラフの切片に対応する。上記の手順によって、角度検出値の誤差ΔθTの推定値を解析的に導出できることが明らかになった。
【0047】
そこで、次の式(5)に示すように、角度検出値の誤差ΔθTの推定値を、角度検出値θe2の補償量θcとして用いることにより、角度検出値θe2を補正した角度検出値θe1を得ることができる。
【0048】
θe1=θe2-θc=θe2-ΔθT ・・・(5)
【0049】
上記の原理を用いて、例えば、下記する手順に従って補正処理を実現してもよい。
温度推定部9は、相電流の大きさ(電流検出値iFBK)と、電圧指令値V*とに基づいて、上記の式(1)、式(2)などを用いて温度Tを導出する。
回転位置補正部3の検出値補正部31は、式(4)を用いて角度検出値の誤差ΔθTの推定値を導出する。検出値補正部31は、これを角度検出値θe2の補償量θcとして用いて、角度検出値θe2を補正した角度検出値θe1を導出する。
速度変換部32は、検出値補正部31によって生成された角度推定値θe1に基づいて、速度推定値ωFBKを生成する。
速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、速度推定値ωFBKが速度指令値ω*になるように、モータ2を制御する。速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、モータ2を制御する制御部の一例である。
上記の手順によって、レゾルバ2Aの検出結果の補正が可能になる。
【0050】
上記の実施形態によれば、モータ速度制御装置10(回転位置補正装置)は、検出値補正部31を備える。検出値補正部31は、モータ2の出力により変化するレゾルバ2Aの温度の推定値又は検出値に基づいて、その温度に対応するレゾルバ2Aの角度検出値を補正する。これにより、モータ速度制御装置10は、レゾルバ2Aによる軸の角度の検出結果の温度依存性を低減できる。
【0051】
(第1の実施形態の第1変形例)
上記の実施形態では、レゾルバ2Aの温度Tを推定する一手法を例示したが、この手法に制限されない。本変形例では、温度Tを規定する位置を特定の位置に定めた事例について説明する。例えば、特定の位置を、レゾルバ2Aの軸のフランジ部分に定める。
この場合、検出値補正部31は、レゾルバ2A側のフランジ部分の温度Tfと角度検出値の誤差ΔθTの関係のデータを予め保持するとよい。これにより、モータ2の軸受からその軸と、フランジ部分とを介した熱伝導により生じる位相誤差(誤差ΔθT)も同様の方法で対応可能となる。
【0052】
(第1の実施形態の第2変形例)
また、本変形例では、レゾルバ2Aの温度Tの推定に代えて、モータ2本体、レゾルバ2A本体、モータ2の軸とレゾルバ2Aの軸を連結するフランジなどの温度を運転中に検出して、その結果をレゾルバ2Aの温度Tとして用いてもよい。
【0053】
(第2の実施形態)
図7を参照して、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態の構成は、1つのレゾルバ2Aを用いるものであった。本実施形態ではこれに代えて、複数のレゾルバ2Aを用いて、回転検出部分を冗長構成にする事例について説明する。レゾルバ2Aの個数は、以下の例に制限されず任意に定めてよい。
【0054】
図7は、第2の実施形態のモータ駆動システムの概略構成図である。
モータ駆動システム1Aは、例えば、モータ駆動システム1のレゾルバ2Aに加えてレゾルバ2Bを備える。レゾルバ2Bは、レゾルバ2Aの構成と同じ構成を備える。説明の関係で符号を代えている。モータ駆動システム1Aは、モータ速度制御装置10に代えてモータ速度制御装置10Aを備える。
【0055】
モータ速度制御装置10Aは、レゾルバ2Aとレゾルバ2Bの検出結果に対して、共通する補正量を用いてレゾルバ2Aとレゾルバ2Bのの角度検出値をそれぞれ補正してもよい。これに代えて、モータ速度制御装置10Aは、レゾルバ2Aとレゾルバ2Bの検出結果に対して、互いに異なる補正量を用いてレゾルバ2Aとレゾルバ2Bのの角度検出値をそれぞれ補正してもよい。
【0056】
以下、後者についてより具体的に説明する。
モータ速度制御装置10Aは、モータ2、及びレゾルバ2Aとレゾルバ2Bに接続されている。モータ速度制御装置10Aは、レゾルバ2Aとレゾルバ2Bの何れか一方によって検出されたモータ2の実際の速度が、所望の速度指令値ω*に一致するように、モータ2の速度を制御する。その際に、モータ速度制御装置10Aは、レゾルバ2Aとレゾルバ2Bの検出結果を切り替える。
【0057】
モータ速度制御装置10Aは、モータ速度制御装置10の回転位置補正部3と、速度制御部5と、温度推定部9とに代えて、回転位置補正部3Aと3Bと、速度制御部5Aと、温度推定部9Aと9Bとを備える。
【0058】
回転位置補正部3Aと3Bは、例えば、回転位置補正部3と同様に夫々構成される。
回転位置補正部3Aの検出値補正部31Aは、レゾルバ2Aの出力に接続され、温度推定部9Aによって推定された温度TAに基づいた角度補正値Δθtを生成して、これを用いて補正した角度推定値θe1Aを生成する。回転位置補正部3Aの速度変換部32Aは、角度推定値θe1Aに基づいて、速度推定値ωFBKAを生成する。
【0059】
同様に、回転位置補正部3Bの検出値補正部31B(不図示)は、レゾルバ2Bの出力に接続され、温度推定部9Bによって推定された温度TBに基づいた角度補正値Δθtを生成して、これを用いて補正した角度推定値θe1Bを生成する。回転位置補正部3Bの速度変換部32B(不図示)は、角度推定値θe1Bに基づいて、速度推定値ωFBKBを生成する。なお検出値補正部31Aと31Aは、前述の検出値補正部31に相当する。速度変換部32Aと32Bは、前述の速度変換部32に相当する。
【0060】
速度制御部5Aは、速度指令値ω*とモータ2の速度推定値ωFBKAとの速度偏差ΔωAに、又は、速度指令値ω*とモータ2の速度推定値ωFBKBとの速度偏差ΔωBに、所定の速度応答ゲインを夫々乗じて駆動トルクの指令値を生成する。例えば、速度制御部5Aは、冗長構成の系切り替えのために、速度偏差ΔωAと速度偏差ΔωBの何れか一方を選択して利用するように形成されている。
【0061】
本実施形態によれば、上記のようにレゾルバ2Aとレゾルバ2Bと、回転位置補正部3Aと3Bとを冗長構成にすることにより、モータ駆動システム1Aを冗長構成にすることができる。
【0062】
(第2の実施形態の変形例)
第2の実施形態に冗長構成の事例について説明した。本変形例では、レゾルバ2Aとレゾルバ2Bの特性の個体差が存在する場合の事例について説明する。
レゾルバ2Aとレゾルバ2Bのそれぞれの検出結果に特性の個体差による誤差が含まれる場合がある。検出値補正部31Aと検出値補正部31Bは、レゾルバの特性の個体差を吸収するように補正することで、レゾルバ2Aとレゾルバ2Bの特性の個体差を吸収することができる。
【0063】
なお、モータ2の熱の影響を受ける程度がレゾルバ2Aとレゾルバ2Bのそれぞれで異なる場合に、これを吸収することができる。例えば、モータ2の軸上に、モータ2から遠ざかる方向に互いに異なる位置にレゾルバ2Aとレゾルバ2Bが配置されている場合には、モータ2が発してレゾルバ2Aに対して伝わる熱は、レゾルバ2Bに対して伝わる熱よりも多い。このような場合に、レゾルバ2Aの温度とレゾルバ2Bの温度との間に温度差が生じる。検出値補正部31Aと検出値補正部31Bは、この温度差を条件に含めた角度補正値Δθtを夫々算出するとよい。
【0064】
(第3の実施形態)
図8を参照して、第3の実施形態について説明する。第1の実施形態のモータ駆動システム1は、補正量の算定基準を不変とする基本的な事例について説明した。本実施形態では、補正量の算定基準を、運転状況によって切り替え可能なモータ駆動システム1Bについて説明する。
【0065】
図8は、第3の実施形態のモータ駆動システムの概略構成図である。
モータ駆動システム1Bは、モータ駆動システム1のモータ速度制御装置10に代わるモータ速度制御装置10Bを備える。
【0066】
モータ速度制御装置10Bは、モータ速度制御装置10に対して、履歴情報処理部4をさらに備え、回転位置補正部3に代わる回転位置補正部3Cを備える。
【0067】
履歴情報処理部4は、例えば、履歴情報記録処理部41と、履歴情報解析処理部42と、制御特性切替処理部43と、記憶部44とを備える。
【0068】
履歴情報記録処理部41は、制御状態を示す制御情報を、記憶部44に随時記録して履歴情報を生成する。
【0069】
履歴情報解析処理部42は、記憶部44に記録された履歴情報を解析して、例えば経時的な変化、突発的な変化を検出する。これらの変化の手法は、異常検出に適用可能な統計的な解析手法を適用してよい。例えば、レゾルバ2Aの検出特性が過去のものから変化したことが検出された場合には、制御特性切替処理部43は、レゾルバ2Aの検出結果に対する角度補正値Δθtを、現在の特性に適したものに変更するように回転位置補正部3Cを制御する。
【0070】
回転位置補正部3Cは、検出値補正部31に代わる検出値補正部31Cを備える。検出値補正部31Cは、検出値補正部31に相当する。検出値補正部31Cは、さらに、履歴情報解析処理部42からの制御によって、角度補正値Δθtを切り替える。この切り替えによって、角度補正値Δθtが現在の特性に適したものになる。
【0071】
上記の現在の特性に適したものへの変更方法は、予め定められている候補の中から選択する方法であってもよく、現時点の検出結果に基づいて角度補正値Δθtを生成して、新たに生成した角度補正値Δθtに切り替える方法であってもよい。
【0072】
本実施形態によれば、運転状態と実際に補正した角度の補正量のデータを用いて、履歴情報のうち過去のデータと比較することにより、レゾルバ2Aの検出特性の変化を発見することができる。レゾルバ2Aの検出特性の変化に応じたカーブのデータを更新し、経年変化に対応できる。
【0073】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、回転位置補正装置は、検出値補正部を備える。モータは、レゾルバによって軸の角度が検出される。検出値補正部は、前記モータの出力により変化する前記レゾルバの温度の推定値又は検出値に基づいて、前記温度に対応する前記レゾルバの角度検出値を補正する。これにより、回転位置補正装置は、レゾルバによる軸の角度の検出結果の温度依存性を低減できる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
1、1A、1B モータ駆動システム、2 モータ、3、3A、3B、3C 回転位置補正部、4 履歴情報処理部、5、5A 速度制御部、6 電流制御部、7 PWM制御部、8 電流値変換部、9、9A 温度推定部、10 モータ速度制御装置(回転位置補正装置)、20 直流電源、30 インバータ、31、31A、31B,31C 検出値補正部、32、32A、32B 速度変換部