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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073480
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20230518BHJP
【FI】
B25B21/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059351
(22)【出願日】2023-03-31
(62)【分割の表示】P 2019083352の分割
【原出願日】2019-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花村 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】米田 文生
(57)【要約】
【課題】インパクト機構の打撃動作の有無を検知する新たな手段を備える電動工具を提供する。
【解決手段】電動工具1は、電動機(交流電動機15)と、インパクト機構と、打撃検知部49と、測定部60と、を備える。インパクト機構は、電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。測定部60は、電動機に供給されるd軸電流を測定する。打撃検知部49は、測定部60で測定されたd軸電流の測定値(電流測定値id1)に関する条件を含み電動機に供給されるq軸電流の測定値(電流測定値iq1)に関する条件を含まない検知条件に基づいて、打撃動作の有無を検知する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記打撃動作の有無を検知する打撃検知部と、
前記電動機に供給されるd軸電流を測定する測定部と、を備え、
前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値に関する条件を含み前記電動機に供給されるq軸電流の測定値に関する条件を含まない検知条件に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する、
電動工具。
【請求項2】
前記打撃検知部は、前記検知条件に基づいて、前記打撃動作の開始を検知する、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記電動機の動作をフィードバック制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記打撃検知部が前記打撃動作の開始を検知すると、前記フィードバック制御の制御ゲインを変化させる、
請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記打撃検知部は、前記検知条件と、前記測定部で測定された前記q軸電流の前記測定値との両方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記打撃動作の有無を検知する打撃検知部と、
前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流を測定する測定部と、を備え、
前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値の両方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知し、
前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値に関する第1判定結果と、前記q軸電流の前記測定値に関する第2判定結果とにそれぞれ異なる重み付けをし、重み付けした前記第1判定結果及び前記第2判定結果に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する、
電動工具。
【請求項6】
電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記打撃動作の有無を検知する打撃検知部と、
前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流を測定する測定部と、を備え、
前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値の両方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知し、
前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値に関する条件が満たされるタイミングと、前記q軸電流の前記測定値に関する条件が満たされるタイミングとの差が所定時間内の場合に、前記打撃動作が行われていることを検知する、
電動工具。
【請求項7】
電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記打撃動作の有無を検知する打撃検知部と、
前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流のうち少なくとも一方を測定する測定部と、を備え、
前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値のうち少なくとも一方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知し、
前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値と、前記q軸電流の前記測定値とのうち少なくとも一方の交流成分の大きさが、対応する閾値よりも大きい場合に、前記打撃動作が行われていることを検知する、
電動工具。
【請求項8】
電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記打撃動作の有無を検知する打撃検知部と、
前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流のうち少なくとも一方を測定する測定部と、を備え、
前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値のうち少なくとも一方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知し、
前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値と、前記q軸電流の前記測定値とのうち少なくとも一方の波形に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する、
電動工具。
【請求項9】
前記打撃検知部は、前記検知条件が2回以上の所定の回数満たされる場合に、前記打撃動作が行われていることを検知する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項10】
前記打撃検知部は、前記検知条件が規定時間以上満たされる場合に、前記打撃動作が行われていることを検知する、
請求項1~4、9のいずれか一項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、インパクト機構を備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動工具は、モータと、インパクト機構と、制御手段を有する。モータは、半導体スイッチング素子をPWM制御することにより駆動される。インパクト機構は、モータによって回転されるハンマによってアンビルを打撃又は回転させる。制御手段は、モータの回転を制御する。そして、インパクト機構による複数回の打撃が継続したらデューティ比を高い値から低い値に変更した状態でモータを駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/162862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、インパクト機構の打撃動作の有無を検知する新たな手段を備える電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る電動工具は、電動機と、インパクト機構と、打撃検知部と、測定部と、を備える。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記打撃検知部は、前記打撃動作の有無を検知する。前記測定部は、前記電動機に供給されるd軸電流を測定する。前記打撃検知部は、検知条件に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。前記検知条件は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値に関する条件を含み前記電動機に供給されるq軸電流の測定値に関する条件を含まない。
本開示の別の一態様に係る電動工具は、電動機と、インパクト機構と、打撃検知部と、測定部と、を備える。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記打撃検知部は、前記打撃動作の有無を検知する。前記測定部は、前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流を測定する。前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値の両方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値に関する第1判定結果と、前記q軸電流の前記測定値に関する第2判定結果とにそれぞれ異なる重み付けをし、重み付けした前記第1判定結果及び前記第2判定結果に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。
本開示の更に別の一態様に係る電動工具は、電動機と、インパクト機構と、打撃検知部と、測定部と、を備える。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記打撃検知部は、前記打撃動作の有無を検知する。前記測定部は、前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流を測定する。前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値の両方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値に関する条件が満たされるタイミングと、前記q軸電流の前記測定値に関する条件が満たされるタイミングとの差が所定時間内の場合に、前記打撃動作が行われていることを検知する。
本開示の更に別の一態様に係る電動工具は、電動機と、インパクト機構と、打撃検知部と、測定部と、を備える。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記打撃検知部は、前記打撃動作の有無を検知する。前記測定部は、前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流のうち少なくとも一方を測定する。前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値のうち少なくとも一方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値と、前記q軸電流の前記測定値とのうち少なくとも一方の交流成分の大きさが、対応する閾値よりも大きい場合に、前記打撃動作が行われていることを検知する。
本開示の更に別の一態様に係る電動工具は、電動機と、インパクト機構と、打撃検知部と、測定部と、を備える。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記打撃検知部は、前記打撃動作の有無を検知する。前記測定部は、前記電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流のうち少なくとも一方を測定する。前記打撃検知部は、前記測定部で測定された前記d軸電流の測定値及び前記q軸電流の測定値のうち少なくとも一方に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。前記打撃検知部は、前記d軸電流の前記測定値と、前記q軸電流の前記測定値とのうち少なくとも一方の波形に基づいて、前記打撃動作の有無を検知する。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、インパクト機構の打撃動作の有無を検知する新たな手段を提供できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る電動工具のブロック図である。
図2図2は、同上の電動工具の概略図である。
図3図3は、同上の電動工具の要部のブロック図である。
図4図4は、同上の電動工具の第1の動作例を示すグラフである。
図5図5は、同上の電動工具の第2の動作例を示すグラフである。
図6図6は、同上の電動工具の第3の動作例を示すグラフである。
図7図7は、同上の電動工具の第4の動作例を示すグラフである。
図8図8A、8Bは、同上の電動工具のインバータ回路部の出力電流の測定値を示すグラフである。
図9図9は、変形例1に係る電動工具の動作例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態に係る電動工具1について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する図2は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0009】
(1)概要
本実施形態の電動工具1は、例えば、インパクトドライバ又はインパクトレンチとして用いられる。電動工具1は、図1図2に示すように、交流電動機15(電動機)と、インパクト機構17と、制御部4と、を備えている。交流電動機15は、例えばブラシレスモータである。特に、本実施形態の交流電動機15は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。インパクト機構17は、交流電動機15から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。制御部4は、交流電動機15の動作をフィードバック制御する。制御部4は、打撃検知部49を有している。打撃検知部49は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。
【0010】
ここで、インパクト機構17が打撃動作を開始する前の期間を、先行期間と称す。インパクト機構17が打撃動作を開始したことを打撃検知部49が検知してからの期間を、後続期間と称す。後続期間に、制御部4は、変更対象パラメータを、先行期間における変更対象パラメータから変更する。変更対象パラメータは、制御部4によるフィードバック制御の制御ゲインを含む。すなわち、制御部4は、打撃検知部49が打撃動作の開始を検知すると、フィードバック制御の制御ゲインを変化させる。これにより、先行期間における制御ゲインと後続期間における制御ゲインとが等しい場合と比較して、交流電動機15のより細かな制御が可能となる。本実施形態では、一例として、制御部4はPI制御を行うので、制御ゲインは、比例ゲインと、積分ゲインと、を含む。本実施形態の制御部4は、後続期間における比例ゲインを先行期間における比例ゲインとは異ならせることと、後続期間における積分ゲインを先行期間における積分ゲインとは異ならせることとのうち少なくとも一方を行う。
【0011】
なお、先行期間から後続期間に移行した際に制御部4が変更する制御ゲインは、比例ゲイン及び積分ゲインに限定されない。制御部4がPD制御又はPID制御を行う場合は、制御ゲインには微分ゲインが含まれる。先行期間から後続期間に移行した際に、制御部4は、比例ゲインと、積分ゲインと、微分ゲインとのうち少なくとも1つを変更すればよい。
【0012】
また、交流電動機15は、永久磁石を有する回転子と、コイルを有する固定子と、を含んでいる。制御部4は、交流電動機15に供給される弱め磁束電流(d軸電流)とトルク電流(q軸電流)とを独立に制御するベクトル制御を行う。弱め磁束電流とは、永久磁石の磁束を弱める磁束(弱め磁束)をコイルに発生させる電流である。
【0013】
また、電動工具1は、交流電動機15(電動機)と、インパクト機構17と、打撃検知部49と、測定部60と、を備えている。測定部60は、交流電動機15に供給されるd軸電流及びq軸電流のうち少なくとも一方を測定する。本実施形態では、測定部60は、d軸電流とq軸電流との両方を測定する。打撃検知部49は、測定部60で測定されたd軸電流の測定値(電流測定値id1)及びq軸電流の測定値(電流測定値iq1)のうち少なくとも一方に基づいて、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。これにより、電動工具1の電源32の出力電流の測定値等を用いることなく打撃動作の有無を検知することができる。
【0014】
ここで、「測定部60で測定されたd軸電流の測定値(電流測定値id1)及びq軸電流の測定値(電流測定値iq1)のうち少なくとも一方に基づいて」とは、次の意味である。すなわち、測定部60が電流測定値id1、iq1のうち電流測定値id1のみを測定する場合には、「測定部60で測定された電流測定値id1に基づいて」という意味である。一方で、測定部60が電流測定値id1、iq1のうち電流測定値iq1のみを測定する場合には、「測定部60で測定された電流測定値iq1に基づいて」という意味である。また、測定部60が電流測定値id1、iq1の両方を測定する場合には、「測定部60で測定された電流測定値id1のみに基づいて、又は、電流測定値iq1のみに基づいて、あるいは、電流測定値id1、iq1の両方に基づいて」という意味である。
【0015】
(2)電動工具
図2に示すように、電動工具1は、交流電動機15と、電源32と、駆動伝達部18と、インパクト機構17と、ソケット23と、トリガボリューム29と、制御部4と、トルク測定部26と、ビット回転測定部25と、モータ回転測定部27と、を備えている。また、電動工具1は、先端工具を更に備えている。
【0016】
インパクト機構17は、出力軸21を有している。出力軸21は、交流電動機15から伝達された駆動力により回転する部分である。ソケット23は、出力軸21に固定されており、先端工具が着脱自在に取り付けられる部分である。電動工具1は、先端工具を交流電動機15の駆動力で駆動する工具である。先端工具(ビットとも言う)は、例えば、ドライバ又はドリル等である。各種の先端工具のうち用途に応じた先端工具が、ソケット23に取り付けられて用いられる。なお、出力軸21に直接に先端工具が装着されてもよい。
【0017】
交流電動機15は、先端工具を駆動する駆動源である。交流電動機15は、回転動力を出力する出力軸16を有している。電源32は、交流電動機15を駆動する電流を供給する交流電源である。電源32は、例えば、1又は複数の2次電池を含む。駆動伝達部18は、交流電動機15の回転動力を調整して所望のトルクを出力する。駆動伝達部18は、出力部である駆動軸22を備えている。
【0018】
駆動伝達部18の駆動軸22は、インパクト機構17に接続されている。インパクト機構17は、駆動伝達部18を介して受け取った交流電動機15の回転動力をパルス状のトルクに変換してインパクト力を発生する。インパクト機構17は、ハンマ19と、アンビル20と、出力軸21と、ばね24と、を備えている。ハンマ19は、駆動伝達部18の駆動軸22にカム機構を介して取り付けられている。アンビル20はハンマ19に結合されており、ハンマ19と一体に回転する。ばね24は、ハンマ19をアンビル20側に押している。アンビル20は、出力軸21と一体に形成されている。なお、アンビル20は、出力軸21とは別体に形成されて出力軸21に固定されていてもよい。
【0019】
出力軸21に所定の大きさ以上の負荷(トルク)がかかっていないときには、カム機構により連結された駆動軸22とハンマ19とが一体に回転し、さらにハンマ19とアンビル20とが一体に回転するので、アンビル20と一体に形成された出力軸21が回転する。一方で、出力軸21に所定の大きさ以上の負荷がかかった時には、ハンマ19がカム機構による規制を受けながらばね24に抗して後退し(つまり、アンビル20から離れ)、ハンマ19とアンビル20との結合が外れた時点で、ハンマ19は回転しながら前進してアンビル20に回転方向の打撃衝撃を与え、出力軸21を回転させる。このように、インパクト機構17は、ハンマ19とアンビル20との衝突を繰り返す打撃動作を行うことで、ハンマ19からアンビル20を介して出力軸21に打撃衝撃を加えることを繰り返す。
【0020】
トリガボリューム29は、交流電動機15の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガボリューム29を引く操作により、交流電動機15のオンオフを切替可能である。また、トリガボリューム29を引く操作の引込み量で、出力軸21の回転速度、つまり交流電動機15の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、交流電動機15の回転速度が速くなる。制御部4は、トリガボリューム29を引く操作の引込み量に応じて、交流電動機15を回転又は停止させ、また、交流電動機15の回転速度を制御する。この電動工具1では、先端工具がソケット23に取り付けられる。そして、トリガボリューム29への操作によって交流電動機15の回転速度が制御されることで、先端工具の回転速度が制御される。
【0021】
なお、実施形態の電動工具1はソケット23を備えることで、先端工具を用途に応じて交換可能であるが、先端工具が交換可能であることは必須ではない。例えば、電動工具1は、特定の先端工具のみ用いることができる電動工具であってもよい。
【0022】
トルク測定部26は、交流電動機15の動作トルクを測定する。トルク測定部26は、例えば、ねじり歪みの検出が可能な磁歪式歪センサである。磁歪式歪センサは、交流電動機15の出力軸16にトルクが加わることにより発生する歪みに応じた透磁率の変化を、交流電動機15の非回転部分に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を出力する。
【0023】
ビット回転測定部25は、出力軸21の回転角を測定する。ここでは、出力軸21の回転角は、先端工具(ビット)の回転角に等しい。ビット回転測定部25としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0024】
モータ回転測定部27は、交流電動機15の回転角を測定する。モータ回転測定部27としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0025】
(3)制御部
制御部4は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部4の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0026】
図1に示すように、制御部4は、パラメータ指定部41と、速度制御部42と、電流制御部43と、第1の座標変換器44と、第2の座標変換器45と、磁束制御部46と、推定部47と、脱調検出部48と、打撃検知部49と、を有している。また、電動工具1は、インバータ回路部51と、第1設定部52と、第2設定部53と、複数(図1では2つ)の電流センサ61、62と、を備えている。制御部4は、インバータ回路部51と共に用いられ、フィードバック制御により交流電動機15の動作を制御する。
【0027】
複数の電流センサ61、62はそれぞれ、例えば、ホール素子電流センサ又はシャント抵抗素子を含んでいる。複数の電流センサ61、62は、電源32からインバータ回路部51を介して交流電動機15に供給される電流を測定する。ここで、交流電動機15には、3相電流(U相電流、V相電流及びW相電流)が供給されており、複数の電流センサ61、62は、少なくとも2相の電流を測定する。図1では、電流センサ61がU相電流を測定して電流測定値i1を出力し、電流センサ62がV相電流を測定して電流測定値i1を出力する。
【0028】
推定部47は、モータ回転測定部27で測定された交流電動機15の回転角θ1を時間微分して、交流電動機15の角速度ω1(出力軸16の角速度)を算出する。
【0029】
第2の座標変換器45は、複数の電流センサ61、62で測定された電流測定値i1、i1を、モータ回転測定部27で測定された交流電動機15の回転角θ1に基づいて座標変換し、電流測定値id1、iq1を算出する。すなわち、第2の座標変換器45は、3相電流に対応する電流測定値i1、i1を、磁界成分(d軸電流)に対応する電流測定値id1と、トルク成分(q軸電流)に対応する電流測定値iq1とに変換する。
【0030】
測定部60は、2つの電流センサ61、62と、第2の座標変換器45と、を有している。測定部60は、交流電動機15に供給されるd軸電流及びq軸電流を測定する。すなわち、2つの電流センサ61、62で測定された2相の電流が第2の座標変換器45で変換されることで、d軸電流及びq軸電流の測定値が得られる。
【0031】
打撃検知部49は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。打撃検知部49による打撃動作の有無の検知方法について、詳細は後述する。
【0032】
パラメータ指定部41は、交流電動機15の制御に関わるパラメータを指定する。指定されるパラメータのうち少なくとも一部の変更対象パラメータは、インパクト機構17の打撃動作の開始を検知した打撃検知部49からパラメータ指定部41に打撃検知信号b1が入力されると、パラメータ指定部41により変更される。変更対象パラメータは、フィードバック制御の制御ゲインを少なくとも含む。また、変更対象パラメータは、交流電動機15の速度(角速度)の指令値(目標値)の上限値と下限値とを含む。さらに、変更対象パラメータは、交流電動機15の角速度の指令値cω1を含む。
【0033】
パラメータ指定部41は、交流電動機15の角速度の指令値cω1を決定する。パラメータ指定部41は指令値cω1を、例えば、トリガボリューム29(図2参照)を引く操作の引込み量に応じた大きさにする。すなわち、パラメータ指定部41は、上記引込み量が大きいほど、角速度の指令値cω1を大きくする。パラメータ指定部41が制御ゲイン及び交流電動機15の速度の指令値の上限値と下限値とを指定する処理については、後述する。
【0034】
インパクト機構17が打撃動作を開始したことを打撃検知部49が検知し、打撃検知部49からパラメータ指定部41に打撃検知信号b1が入力されるタイミングを、打撃開始タイミングと称す。打撃開始タイミングは、交流電動機15が回転を始めた後に打撃検知部49が打撃動作を最初に検知するタイミングである、先行期間は、打撃開始タイミングの直前の期間を含む。後続期間は、打撃開始タイミングの直後の期間を含む。
【0035】
速度制御部42は、パラメータ指定部41で生成された指令値cω1と推定部47で算出された角速度ω1との差分に基づいて、指令値ciq1を生成する。指令値ciq1は、交流電動機15のトルク電流(q軸電流)の大きさを指定する指令値である。速度制御部42は、指令値cω1と角速度ω1との差分(偏差)を小さくするように指令値ciq1を決定する。
【0036】
磁束制御部46は、推定部47で算出された角速度ω1と、電流測定値iq1(q軸電流)と、に基づいて、指令値cid1を生成する。指令値cid1は、交流電動機15の弱め磁束電流(d軸電流)の大きさを指定する指令値である。
【0037】
磁束制御部46で生成される指令値cid1は、例えば、弱め磁束の大きさを0にするための指令値である。磁束制御部46は、常時弱め磁束の大きさを0にするための指令値cid1を生成してもよいし、必要に応じて、弱め磁束の大きさを0よりも大きくするための指令値cid1を生成してもよい。弱め磁束の指令値cid1が0より大きくなると、交流電動機15にマイナスの弱め磁束電流が流れ、弱め磁束が発生する。
【0038】
電流制御部43は、磁束制御部46で生成された指令値cid1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値id1との差分に基づいて、指令値cvd1を生成する。指令値cvd1は、交流電動機15のd軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値cid1と電流測定値id1との差分(偏差)を小さくするように指令値cvd1を決定する。
【0039】
また、電流制御部43は、速度制御部42で生成された指令値ciq1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値iq1との差分に基づいて、指令値cvq1を生成する。指令値cvq1は、交流電動機15のq軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値ciq1と電流測定値iq1との差分(偏差)を小さくするように指令値cvq1を生成する。
【0040】
図3は、速度制御部42及び電流制御部43のそれぞれの構成を伝達関数で表したブロック図である。図3中の「K」は比例ゲイン、「K」は積分ゲインである。図3中の「e」は、入力される偏差である。速度制御部42では、偏差は、指令値cω1と角速度ω1との差分である。電流制御部43では、偏差は、指令値cvd1を生成する場合には指令値cid1と電流測定値id1との差分であり、指令値cvq1を生成する場合には指令値ciq1と電流測定値iq1との差分である。図3中の「u」は、操作量である。速度制御部42では、「u」は、指令値ciq1に対応する操作量である。電流制御部43では、「u」は、指令値cvd1又は指令値cvq1に対応する操作量である。s領域における操作量は、式u=(K+K/s)eにより表される。
【0041】
パラメータ指定部41は、速度制御部42の比例ゲイン及び積分ゲインを指定する。パラメータ指定部41は、インパクト機構17が打撃動作を開始したことを打撃検知部49が検知する前の先行期間と、インパクト機構17が打撃動作を開始したことを打撃検知部49が検知してからの後続期間とで、速度制御部42の比例ゲイン及び積分ゲインのうち少なくとも一方を異ならせる。例えば、パラメータ指定部41は、先行期間における速度制御部42の比例ゲインを第1の比例ゲインにし、後続期間における速度制御部42の比例ゲインを第2の比例ゲインにする。第2の比例ゲインは、第1の比例ゲインよりも小さい。すなわち、パラメータ指定部41は、後続期間における比例ゲインを、先行期間における比例ゲインよりも小さくする。また、例えば、パラメータ指定部41は、先行期間における速度制御部42の積分ゲインを第1の積分ゲインにし、後続期間における速度制御部42の積分ゲインを第2の積分ゲインにする。第2の積分ゲインは、第1の積分ゲインよりも小さい。すなわち、パラメータ指定部41は、後続期間における積分ゲインを、先行期間における積分ゲインよりも小さくする。例えば、第2の積分ゲインは、第1の積分ゲインの1/10倍の大きさである。
【0042】
パラメータ指定部41は、後続期間の開始時点から、交流電動機15が停止するまでの間を通して、速度制御部42の比例ゲイン及び積分ゲインが、先行期間における速度制御部42の比例ゲイン及び積分ゲインから変更された状態を維持する。すなわち、速度制御部42の比例ゲインが第2の比例ゲインになると、ユーザがトリガボリューム29の引込み量を0にして交流電動機15が停止するまで、速度制御部42の比例ゲインが第2の比例ゲインに維持される。また、速度制御部42の積分ゲインが第2の積分ゲインになると、ユーザがトリガボリューム29の引込み量を0にして交流電動機15が停止するまで、速度制御部42の積分ゲインが第2の積分ゲインに維持される。
【0043】
また、パラメータ指定部41は、交流電動機15の速度の指令値の上限値と下限値とを指定する。速度の指令値は、上限値と下限値との間の値に制限される。本実施形態では、交流電動機15の角速度の指令値cω1が制御されることで、結果的に交流電動機15の速度の指令値が制御される。すなわち、パラメータ指定部41は、交流電動機15の角速度の指令値cω1の上限値と下限値とを指定する。
【0044】
パラメータ指定部41は、先行期間における角速度の指令値cω1の上限値を、後続期間における角速度の指令値cω1の上限値よりも小さくする。例えば、パラメータ指定部41は、先行期間における角速度の指令値cω1の上限値を、NA1×2π/60[rad/s](NA1は例えば10000~20000程度の値)にする。パラメータ指定部41は、後続期間における角速度の指令値cω1の上限値を、NA2×2π/60[rad/s](NA2<NA1、NA2は例えば10000~20000程度の値)にする。言い換えると、パラメータ指定部41は、先行期間における交流電動機15の回転数(出力軸16の回転数)の指令値の上限値を、NA1[rpm]にし、後続期間における回転数の指令値の上限値を、NA2[rpm]にする。本実施形態では、角速度の指令値cω1の下限値は常に0[rad/s]に固定されている。すなわち、パラメータ指定部41は、先行期間に、角速度の指令値cω1を、第1の上限値(NA1×2π/60[rad/s])と第1の下限値(0[rad/s])との間の第1の制限範囲に制限する。パラメータ指定部41は、後続期間に、角速度の指令値cω1を、第2の上限値(NA2×2π/60[rad/s])と第2の下限値(0[rad/s])との間の第2の制限範囲に制限する。第2の制限範囲は、第1の制限範囲とは異なる範囲である。
【0045】
パラメータ指定部41は、後続期間の開始時点から、交流電動機15が停止するまでの間を通して、角速度の指令値cω1の上限値が、先行期間における角速度の指令値cω1の上限値から変更された状態を維持する。すなわち、角速度の指令値cω1の上限値が第2の上限値になると、ユーザがトリガボリューム29の引込み量を0にして交流電動機15が停止するまで、角速度の指令値cω1の上限値が第2の上限値に維持される。
【0046】
第1設定部52及び第2設定部53は、後続期間における変更対象パラメータ(ここでは、速度制御部42の比例ゲイン、積分ゲイン(第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン)及び、角速度の指令値cω1の上限値(第2の上限値))を決定するための入力を受け付ける。
【0047】
第1設定部52は、例えば、第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を記憶するメモリである。より詳細には、第1設定部52は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)又はEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等である。電動工具1の設計段階又は製造工程等において、第1設定部52に第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値がそれぞれ記憶されることで、第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値が決定される。すなわち、第1設定部52は、少なくとも電動工具1の設計段階又は製造時において、後続期間における変更対象パラメータを決定するための入力を受け付ける。電動工具1の動作時に、パラメータ指定部41は、第1設定部52から第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を読み出す。
【0048】
第2設定部53は、後続期間における変更対象パラメータ(ここでは、速度制御部42の比例ゲイン、積分ゲイン(第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン)及び、角速度の指令値cω1の上限値(第2の上限値))を決定するための、ユーザによる入力を受け付ける。すなわち、第2設定部53は、少なくとも電動工具1の製造後において、後続期間における変更対象パラメータを決定するための入力を受け付ける。第2設定部53は、例えば、釦、レバー、又はタッチパネルディスプレイ等の入力インターフェースである。ユーザは、第2設定部53を操作することで、第2の比例ゲインを少なくとも2つの値の中から切り替えることができる。また、ユーザは、第2設定部53を操作することで、第2の積分ゲインを少なくとも2つの値の中から切り替えることができる。また、ユーザは、第2設定部53を操作することで、第2の上限値を少なくとも2つの値の中から切り替えることができる。ここで、「ユーザによる入力を受け付ける」とは、第2設定部53に少なくともユーザによる入力を受け付ける機能があればよく、実際に入力を実行する主体は、ユーザ以外(例えば電動工具1のメーカの従業員)であってもよい。
【0049】
第1の座標変換器44は、指令値cvd1、cvq1を、モータ回転測定部27で測定された交流電動機15の回転角θ1に基づいて座標変換し、指令値cv1、cv1、cv1を算出する。すなわち、第1の座標変換器44は、磁界成分(d軸電圧)に対応する指令値cvd1と、トルク成分(q軸電圧)に対応する指令値cvq1とを、3相電圧に対応する指令値cv1、cv1、cv1に変換する。指令値cv1はU相電圧に、指令値cv1はV相電圧に、指令値cv1はW相電圧に対応する。
【0050】
インバータ回路部51は、指令値cv1、cv1、cv1に応じた3相電圧を交流電動機15に供給する。制御部4は、インバータ回路部51をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、交流電動機15に供給される電力を制御する。
【0051】
交流電動機15は、インバータ回路部51から供給された電力(3相電圧)により駆動され、回転動力を発生させる。
【0052】
この結果、制御部4は、交流電動機15の角速度が、パラメータ指定部41で生成された指令値cω1に対応した角速度となるように交流電動機15の角速度を制御する。
【0053】
脱調検出部48は、第2の座標変換器45から取得した電流測定値id1、iq1と、電流制御部43から取得した指令値cvd1、cvq1と、に基づいて、交流電動機15の脱調を検出する。脱調が検出された場合は、脱調検出部48は、インバータ回路部51に停止信号cs1を送信して、インバータ回路部51から交流電動機15への電力供給を停止させる。
【0054】
(4)打撃検知
図4図7はそれぞれ、電動工具1を動作させる場合の各パラメータの時間的な推移の一例である。制御部4による交流電動機15の制御内容は、図4図7において互いに異なる。図5図7において、「電池電流」は、電動工具1の電源32の出力電流を指し、「電池電圧」は、電源32の出力電圧を指す。図4図7において、「iq1」は、電流測定値iq1を指し、「id1」は、電流測定値id1を指す。また、図4図7において、「r1」は、交流電動機15の回転数である。図4図6図7には、交流電動機15の回転数の指令値cN1を図示した。指令値cN1は、交流電動機15の角速度の指令値cω1を回転数に換算した値である。図5では、回転数の指令値cN1が回転数r1に略重なるので、回転数の指令値cN1の図示を省略した。図示は省略するが、図4図7では、d軸電流の指令値cid1(図1参照)は常に0である。なお、図4は、電動工具1を用いて木ねじを部材に打ち込む場合の動作例を示している。また、図5図7は、電動工具1を用いて対象(木ねじに限らない)を部材に打ち込む場合の動作例を示している。
【0055】
打撃検知部49は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。具体的には、打撃検知部49は、次の第1条件及び第2条件のうち一方が満たされてから、他方が満たされるまでに要した時間が所定の時間以内の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果(打撃検知信号b1)を出力する。また、打撃検知部49は、それ以外の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしていないという検知結果を出力する。第1条件は、第2の座標変換器45で算出された電流測定値id1の絶対値が所定のd軸閾値Idt1(図4参照。以下、単に閾値Idt1と称す)よりも大きいことである。第2条件は、第2の座標変換器45で算出された電流測定値iq1の絶対値が所定のq軸閾値Iqt1(図4参照。以下、単に閾値Iqt1と称す)よりも大きいことである。言い換えると、打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1に関する第1条件が満たされるタイミングと、q軸電流の電流測定値iq1に関する第2条件が満たされるタイミングとの差が所定時間内の場合に、打撃動作が行われていることを検知する。つまり、このとき打撃検知部49は、インパクト機構17が打撃動作を行っているという判定結果を導出する。閾値Idt1及び閾値Iqt1は、例えば、制御部4を構成するマイクロコントローラのメモリに予め記録されている。
【0056】
インパクト機構17が打撃動作を開始すると、打撃動作を開始する前よりもd軸電流及びq軸電流の脈動成分並びにこれらに対応する電流測定値id1、iq1の脈動成分が増加する。脈動成分が増加することにより、電流測定値id1の絶対値は閾値Idt1よりも大きくなることがあり、また、電流測定値iq1の絶対値は閾値Iqt1よりも大きくなることがある。そのため、電流測定値id1、iq1と閾値Idt1、Iqt1との比較を行うことで、打撃動作の有無を検知することができる。
【0057】
所定の時間は、例えば、100ms、50ms又は10ms程度である。電流測定値id1、iq1はそれぞれ、所定のサンプリング周期ごとに出力される。打撃検知部49は、例えば、電流測定値id1、iq1が出力された回数をカウントすることで、所定の時間が経過したか否かを判定する。一例として、所定の時間は、電流測定値id1又はiq1のサンプリング周期に一致していてもよい。電流測定値id1、iq1の各々のサンプリングのタイミングが同期している場合に、打撃検知部49は、電流測定値id1、iq1のあるサンプリングのタイミングで第1条件と第2条件とが共に満たされた際に、打撃動作が行われていることを検知してもよい。
【0058】
このように、打撃検知部49は、少なくともd軸電流の電流測定値id1に基づいて、打撃動作の有無を検知する。また、本実施形態の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1と、q軸電流の電流測定値iq1との両方に基づいて、打撃動作の有無を検知する。更に詳細には、打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1の絶対値と、q軸電流の電流測定値iq1の絶対値とのうち少なくとも一方(ここでは、両方)が、対応する閾値よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知する。電流測定値id1の絶対値に対応する閾値は、閾値Idt1であり、電流測定値iq1の絶対値に対応する閾値は、閾値Iqt1である。
【0059】
打撃動作が行われていないことを打撃検知部49が検知している状態から、打撃動作が行われていることを打撃検知部49が検知している状態となることは、打撃動作の開始を検知することに相当する。つまり、打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1及びq軸電流の電流測定値iq1のうち少なくとも一方に基づいて、打撃動作の開始を検知する。
【0060】
打撃検知部49は、交流電動機15の始動時(回転開始時)から所定のマスク期間Tm1(図4参照)が経過した後に、インパクト機構17の打撃動作の有無の検知を開始する。これにより、交流電動機15の始動時にq軸電流の電流測定値iq1が一時的に増加する場合であっても、打撃動作による電流測定値iq1の増加を始動時の電流測定値iq1の増加と区別して検知できる。
【0061】
図4図7ではそれぞれ、時点T1においてユーザが電動工具1のトリガボリューム29を引く操作をすることで、交流電動機15が回転を開始する。その後、トリガボリューム29に対する引込み量に応じて、回転数r1は徐々に増加する。ここでは、トリガボリューム29に対する引込み量は最大である。そのため、回転数r1は、調整可能な範囲内で上限まで増加する。時点T2付近において、インパクト機構17が打撃動作を開始し、これを打撃検知部49が検知する。すなわち、時点T2付近において、電流測定値id1の絶対値が閾値Idt1を超え、略同時に、電流測定値iq1の絶対値が閾値Iqt1を超える。
【0062】
打撃検知部49が打撃動作の開始を検知すると、パラメータ指定部41は、速度制御部42の比例ゲインの大きさを第1の比例ゲインから第2の比例ゲインに変更することで、比例ゲインを小さくする。また、この場合にパラメータ指定部41は、速度制御部42の積分ゲインの大きさを第1の積分ゲインから第2の積分ゲインに変更することで、積分ゲインを小さくする。さらに、この場合にパラメータ指定部41は、交流電動機15の速度の指令値の上限値を第1の上限値から第2の上限値に変更することで、上限値を小さくする。すなわち、図5図7に示すように、制御部4は、時点T2以降に、交流電動機15の回転数r1を低下させる。なお、図4では、パラメータ指定部41は、打撃検知部49が打撃動作を検知した後、所定の待機時間が経過してから、比例ゲイン、積分ゲイン及び交流電動機15の速度の指令値の上限値を変更する。図4は、待機時間が経過する前の電動工具1の各パラメータを示している。したがって、図4に示す各時間帯においては、制御部4は未だ交流電動機15の回転数を低下させる制御を行っていない。
【0063】
(5)回転開始から停止までの動作例
図5図7において、第1の比例ゲインの大きさは共通であり、0より大きい。図5では、第2の比例ゲインの大きさは第1の比例ゲインの大きさと等しい。図6図7では、第2の比例ゲインの大きさは、第1の比例ゲインの1/10倍である。
【0064】
図5図7において、先行期間における速度制御部42の積分ゲイン(第1の積分ゲイン)の大きさをKcとする。また、図5図7では、先行期間における交流電動機15の角速度の指令値の上限値(第1の上限値)がNA1×2π/60[rad/s]である。すなわち、図5図7において、第1の積分ゲインの大きさは共通であり、第1の上限値も共通である。
【0065】
図5では、後続期間における速度制御部42の積分ゲイン(第2の積分ゲイン)の大きさはKcである。すなわち、第2の積分ゲインは第1の積分ゲインと等しい。図5に示す回転数r1は、後続期間における交流電動機15の角速度の指令値cω1の上限値(第2の上限値)がNA2×2π/60[rad/s]である場合の交流電動機15の回転数である。図5に示す回転数r2は、第1の上限値と第2の上限値とが等しい場合、すなわち、第2の上限値がNA1×2π/60[rad/s]である場合の交流電動機15の回転数の参考値である。
【0066】
図6図7では、第1の積分ゲインの大きさがKcであるのに対して、第2の積分ゲインの大きさはKc/10である。図6に示す回転数r1は、第2の上限値がNA2×2π/60[rad/s]である場合の交流電動機15の回転数である。図7に示す回転数r1は、第2の上限値がNA3×2π/60[rad/s](NA2<NA3<NA1が成り立つ)である場合の交流電動機15の回転数である。
【0067】
図5図7ではそれぞれ、時点T1においてユーザが電動工具1のトリガボリューム29を引く操作をすることで、交流電動機15が回転を開始する。その後、トリガボリューム29に対する引込み量に応じて、回転数r1は徐々に増加する。ここでは、トリガボリューム29に対する引込み量は最大である。そのため、回転数r1は、調整可能な範囲内で上限まで増加する。時点T2付近において、インパクト機構17が打撃動作を開始し、これを打撃検知部49が検知する。そのため、時点T2以降では、角速度の指令値cω1は第2の上限値となる。すなわち、時点T2以降、図5では回転数の指令値cN1がNA2[rpm]となり、図6では指令値cN1がNA2[rpm]となり、図7では指令値cN1がNA3[rpm]となる。時点T3において、ユーザがトリガボリューム29の引込み量を0にすることで、交流電動機15が停止する。
【0068】
電動工具1の設計段階では、打撃動作が開始されてからの回転数r1及びq軸電流がいずれも安定するように、第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値が決定される。図5図7は、電動工具1の設計段階における試行結果の一例である。例えば、図5では、回転数r1の脈動が比較的小さく回転数r1が安定傾向であるが、q軸電流の電流測定値iq1の脈動が比較的大きく電流測定値iq1が不安定な傾向である。図6では、回転数r1の脈動が比較的大きく回転数r1が不安定な傾向であるが、電流測定値iq1の脈動が比較的小さく電流測定値iq1が安定傾向である。図7では、回転数r1及び電流測定値iq1のいずれの脈動も比較的小さく、回転数r1及び電流測定値iq1が安定傾向である。そのため、電動工具1の設計段階において、上記の試行結果に基づいて、例えば、図7の場合と同様に、第2の比例ゲインの大きさは第1の比例ゲインの1/10倍に決定され、第2の積分ゲインの大きさはKc/10に決定され、第2の上限値がNA3×2π/60[rad/s]に決定される。
【0069】
以上説明した本実施形態の電動工具1では、制御部4は、後続期間における制御ゲインを、先行期間における制御ゲインから変更する。より詳細には、制御部4は、先行期間から後続期間にかけて、制御ゲインとしての比例ゲインと積分ゲインとのうち少なくとも一方を変更する。そのため、先行期間における制御ゲインと後続期間における制御ゲインとが等しい場合と比較して、交流電動機15のより細かな制御ができる。また、制御部4は、後続期間における角速度の指令値cω1(速度指令値)の上限値(第2の上限値)を、先行期間における角速度の指令値cω1の上限値(第1の上限値)から変更するので、交流電動機15の更に細かな制御ができる。例えば、電動工具1の設計段階において、インパクト機構17の仕様に応じて第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を決定することで、打撃動作が開始されてからの交流電動機15の回転数及びq軸電流の安定化を図ることができる。これにより、打撃力の大きさの安定化を図ることができる。そして、打撃力の大きさの安定化により、インパクト機構17にかかる負担を低減させることができる。典型的には、第1の比例ゲインと比較して第2の比例ゲインを小さくすること、第1の積分ゲインと比較して第2の積分ゲインを小さくすること、及び、第1の上限値と比較して第2の上限値を小さくすることが、交流電動機15の回転数及びq軸電流の安定化につながる。また、典型的には、制御ゲインのうち比例ゲインを変更することが、積分ゲインを変更することと比較して、打撃力の大きさを安定化させる効果が大きい。
【0070】
また、後続期間における制御ゲインを先行期間における制御ゲインよりも小さくすることで、制御部4の回路部品の電流容量を比較的小さくすることができる。
【0071】
また、後続期間における制御ゲイン及び交流電動機15の速度の指令値の上限値を低下させることで、インパクト機構17に過大な力が加わる可能性を低減できる。
【0072】
また、例えば、先端工具の種類、重量及び寸法、並びに、作業対象である負荷の種類等に応じて第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を決定することで、打撃動作が開始されてからの交流電動機15の回転数及びq軸電流の安定化を図ることができる。負荷の種類としては、例えば、木ねじ及びボルトが挙げられる。ユーザは、第2設定部53を操作することで、先端工具の種類、重量及び寸法、並びに、負荷の種類等に応じて第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を切り替えることもできる。
【0073】
また、本実施形態の打撃検知部49は、電流測定値id1、iq1のうち少なくとも一方に基づいて、打撃動作の有無を検知する。そのため、電動工具1は、打撃動作の有無を検知するために、電源32の出力電流(電池電流)等を測定しなくてもよい。特に、本実施形態の電動工具1では、d軸電流及びq軸電流の電流測定値id1、iq1に基づいて交流電動機15の回転数及び交流電動機15に供給される電流を制御するベクトル制御を採用している。ベクトル制御では、電源32の出力電流を測定しなくても交流電動機15の制御が可能である。したがって、本実施形態の電動工具1は、電源32の出力電流を測定するための回路を備えていなくても、交流電動機15の制御と打撃動作の有無の検知とが可能であるという利点がある。これにより、電動工具1に備えられる回路の面積及び寸法の低減、並びに、回路に要するコストの低減を図ることができる。ただし、電動工具1は、電源32の出力電流を測定する回路を備えていてもよい。また、打撃検知部49は、電源32の出力電流に更に基づいて、打撃動作の有無を検知してもよい。
【0074】
また、打撃検知部49が電流測定値id1、iq1のうち少なくとも一方に基づいて打撃動作の有無を検知することで、インバータ回路部51の出力電流(U相電流、V相電流又はW相電流)に基づいて打撃動作の有無を検知する場合よりも検知精度が高まることがある。図8A図8Bに、インバータ回路部51の出力電流の測定値の一例を示す。ここで、インバータ回路部51の出力電流の測定値が所定の閾値Th1よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることが打撃検知部49により検知されるという場合を仮定する。
【0075】
図8Aでは、実際には時点T10においてインパクト機構17が打撃動作を開始し、これにより測定値に脈動成分が重畳される。しかしながら、時点T10は波形のピーク点付近ではないため、測定値に脈動成分が重畳されてもなお測定値は閾値Th1以下であり、打撃動作が行われていることが検知されない。時点T11では、波形のピーク点付近において測定値に脈動成分が重畳されるので、測定値は閾値Th1よりも大きくなり、打撃動作が行われていることが検知される。すなわち、打撃動作の開始時点である時点T10から遅れた時点T11に、打撃動作が行われていることが検知される。
【0076】
図8Bでは、実際には時点T13においてインパクト機構17が打撃動作を開始し、これにより測定値に脈動成分が重畳される。しかしながら、インバータ回路部51の出力電流の波形の乱れにより、時点T13よりも前の時点T12において測定値は閾値Th1よりも大きくなり、打撃動作が行われていることが検知される。一方で、時点T13は波形のピーク点付近ではないため、測定値に脈動成分が重畳されてもなお測定値は閾値Th1以下であり、打撃動作が行われていることが検知されない。
【0077】
つまり、インバータ回路部51の出力電流に基づいて打撃動作の有無を検知する場合は、脈動成分が波形のピーク点付近に重畳されない際には、打撃動作の有無を誤検知する可能性がある。これに対して、本実施形態のように電流測定値id1、iq1のうち少なくとも一方に基づいて打撃動作の有無を検知することで、打撃動作の有無を正確に検知できる可能性を高められることがある。すなわち、インバータ回路部51の出力電流の脈動成分の検知精度よりも、d軸電流及びq軸電流の脈動成分の検知精度の方が高くなることがあるので、本実施形態の電動工具1では、打撃動作の有無の検知精度を向上させられることがある。
【0078】
(実施形態の変形例1)
次に、実施形態の変形例1について、図4図9を参照して説明する。なお、図9は、電動工具1を用いてボルトを部材に打ち込む場合の動作例を示している。
【0079】
本変形例1の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1と、q軸電流の電流測定値iq1とのうち少なくとも一方(ここでは、両方)の交流成分の大きさが、対応する閾値よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知する。ここでは、打撃検知部49は、交流成分の大きさを、交流成分の実効値により評価する。電流測定値id1、iq1の交流成分は、電動工具1の出力軸21の回転数以上の周波数を有する。実施形態と同様に、打撃検知部49は、交流電動機15の始動時からマスク期間Tm1が経過した後に、インパクト機構17の打撃動作の有無の検知を開始する。
【0080】
図4図9に、電流測定値id1の交流成分の実効値Ed1、及び、電流測定値iq1の交流成分の実効値Eq1を図示する。インパクト機構17が打撃動作を開始すると、打撃動作を開始する前よりも交流成分の実効値Ed1、Eq1が増加することがある。そのため、実効値Ed1と実効値Ed1に対応する閾値との比較、及び、実効値Eq1と実効値Eq1に対応する閾値との比較を行うことで、打撃動作の有無を検知することができる。
【0081】
打撃検知部49は、具体的には、次の演算を行うことで、実効値Ed1、Eq1を求める。
【0082】
【数1】
「RMS」は、直流成分及び交流成分を含み得る電流測定値id1、iq1のそれぞれの所定の期間内における実効値である。「AVG」は、電流測定値id1、iq1のそれぞれの上記所定の期間内における平均値である。
【0083】
すなわち、d軸電流の電流測定値id1の実効値の2乗からd軸電流の電流測定値id1の平均値の2乗を引いてから、平方根を取ることで、電流測定値id1の交流成分の実効値Ed1が求められる。また、q軸電流の電流測定値iq1の実効値の2乗からq軸電流の電流測定値iq1の平均値の2乗を引いてから、平方根を取ることで、電流測定値iq1の交流成分の実効値Eq1が求められる。
【0084】
打撃検知部49は、このようにして求められた実効値Ed1、Eq1を用いて、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。すなわち、打撃検知部49は、次の2つの条件のうち一方が満たされてから、他方が満たされるまでに要した時間が所定の時間以内の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力する。2つの条件のうち一方は、実効値Ed1が第1の閾値よりも大きいことである。2つの条件のうち他方は、実効値Eq1が第2の閾値よりも大きいことである。図4図9では、例えば、時点T2付近において、インパクト機構17が打撃動作を開始し、これを打撃検知部49が検知する。
【0085】
なお、制御部4にハイパスフィルタを含むフィルタ回路を設けて、電流測定値id1、iq1をフィルタ回路に通すことより、交流成分の実効値Ed1、Eq1を取得してもよい。
【0086】
以上説明したように、本変形例1の打撃検知部49は、実効値Ed1、Eq1の大きさを監視することで、打撃動作の有無を検知する。そのため、本変形例1によれば、電流測定値id1、iq1の絶対値が打撃開始時に増加しない場合、又は、増加量が比較的小さい場合であっても、打撃動作の有無の検知が可能となる。
【0087】
なお、本変形例1において、打撃検知部49は、交流成分の大きさを、交流成分の振幅により評価してもよい。つまり、打撃検知部49は、実効値Ed1、Eq1に代えて、電流測定値id1の交流成分の振幅と電流測定値iq1の交流成分の振幅とのうち少なくとも一方を、対応する閾値と比較してもよい。より詳細には、打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1の交流成分の振幅とq軸電流の電流測定値iq1の交流成分の振幅とのうち少なくとも一方が、対応する閾値よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知してもよい。
【0088】
(実施形態の変形例2)
次に、実施形態の変形例2について説明する。
【0089】
本変形例2の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1に関する第1判定結果と、q軸電流の電流測定値iq1に関する第2判定結果とにそれぞれ異なる重み付けをし、重み付けした第1判定結果及び第2判定結果に基づいて、打撃動作の有無を検知する。ただし、実施形態と同様に、打撃検知部49は、交流電動機15の始動時からマスク期間Tm1が経過した後に、インパクト機構17の打撃動作の有無の検知を開始する。
【0090】
第1判定結果は、例えば、電流測定値id1と閾値Idt1との比較結果である。第2判定結果は、例えば、電流測定値iq1と閾値Iqt1との比較結果である。打撃検知部49は、例えば、第1判定結果の重み付けを第2判定結果の重み付けよりも大きくする。
【0091】
具体例として、打撃検知部49は、電流測定値id1の絶対値が閾値Idt1よりも大きい場合は、電流測定値iq1の大きさに関係なく、打撃動作が行われていることを検知する。つまり、打撃検知部49では、電流測定値id1の絶対値が閾値Idt1よりも大きいという判定結果は、電流測定値iq1に関する判定結果よりも高い重要度で処理される。電流測定値id1の絶対値が閾値Idt1よりも大きいという判定結果が導出された場合は、電流測定値iq1の大きさに関係なく、打撃動作の有無の検知結果が確定する。
【0092】
また、打撃検知部49は、電流測定値id1の絶対値が閾値Idt1以下の場合は、電流測定値id1の絶対値が所定の閾値よりも大きく、かつ、電流測定値iq1の絶対値が閾値Iqt1よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知する。上記所定の閾値は、閾値Idt1よりも小さい。
【0093】
なお、打撃検知部49は、第2判定結果の重み付けを第1判定結果の重み付けよりも大きくしてもよい。第1判定結果の重み付けと第2判定結果の重み付けとの大きさ比は、例えば、電動工具1の設計段階において決定される。打撃動作の前と後とを比較した場合にd軸電流の大きさの変化が大きいほど、第1判定結果の重み付けを大きくしてもよい。同様に、打撃動作の前と後とを比較した場合にq軸電流の大きさの変化が大きいほど、第2判定結果の重み付けを大きくしてもよい。また、電流測定値id1の平均値の変動が小さいほど、第1判定結果の重み付けを大きくしてもよい。同様に、電流測定値iq1の平均値の変動が小さいほど、第2判定結果の重み付けを大きくしてもよい。
【0094】
(実施形態の変形例3)
次に、実施形態の変形例3について説明する。
【0095】
本変形例3の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1と、q軸電流の電流測定値iq1とのうち少なくとも一方の波形に基づいて、打撃動作の有無を検知する。より詳細には、打撃検知部49は、電流測定値id1をd軸電流のモデル波形と比較し、電流測定値iq1をq軸電流のモデル波形と比較する。打撃検知部49は、電流測定値id1とモデル波形とのマッチング率、及び、電流測定値iq1とモデル波形とのマッチング率のうち少なくとも一方が、所定値以上の場合に、打撃動作が行われていることを検知する。
【0096】
d軸電流のモデル波形及びq軸電流のモデル波形は、例えば、打撃動作の直前及び直後のうち少なくとも一方を含む期間の波形のパターンである。すなわち、打撃検知部49は、打撃動作の直前及び直後のうち少なくとも一方における電流測定値id1、iq1の波形の特徴量を、モデル波形との比較により検知することで、打撃動作の有無を検知する。d軸電流のモデル波形及びq軸電流のモデル波形は、例えば、制御部4を構成するマイクロコントローラのメモリに予め記録されている。
【0097】
なお、打撃検知部49は、交流電動機15に掛かるトルクの大きさ及び交流電動機15の回転数等のパラメータに応じて異なるモデル波形を用いて、打撃動作の有無を検知してもよい。
【0098】
(実施形態の変形例4)
次に、実施形態の変形例4について説明する。
【0099】
本変形例4の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1と、q軸電流の電流測定値iq1とのうち少なくとも一方に関する条件が所定の回数以上満たされる場合に、打撃動作が行われていることを検知する。すなわち、電流測定値id1、iq1はそれぞれ、所定のサンプリング周期ごとに出力されるので、電流測定値id1、iq1が出力される毎に、打撃検知部49は、電流測定値id1及び/又はiq1が上記条件を満たすか否かを判定する。上記条件を満たした回数のカウントが所定回数以上になると、打撃検知部49は、打撃動作が行われていることを検知する。なお、交流電動機15が停止すると、カウントがリセットされる(0に戻る)。
【0100】
上記条件は、例えば、実施形態で挙げた第1条件と第2条件とを満たすことである。第1条件は、電流測定値id1の絶対値が閾値Idt1よりも大きいことである。第2条件は、電流測定値iq1の絶対値が閾値Iqt1よりも大きいことである。
【0101】
ただし、実施形態と同様に、打撃検知部49は、交流電動機15の始動時からマスク期間Tm1が経過した後に、インパクト機構17の打撃動作の有無の検知を開始する。
【0102】
なお、打撃検知部49は、所定時間内に上記条件が所定の回数以上満たされる場合に、打撃動作が行われていることを検知してもよい。例えば、打撃検知部49は、ある時間が経過するごとに、上記条件を満たした回数のカウントをリセットしてもよい。
【0103】
(実施形態の変形例5)
次に、実施形態の変形例5について説明する。
【0104】
本変形例5の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1と、q軸電流の電流測定値iq1とのうち少なくとも一方に関する条件が規定時間以上満たされる場合に、打撃動作が行われていることを検知する。上記条件は、例えば、実施形態で挙げた第1条件と第2条件とを満たすことである。
【0105】
ただし、実施形態と同様に、打撃検知部49は、交流電動機15の始動時からマスク期間Tm1が経過した後に、インパクト機構17の打撃動作の有無の検知を開始する。
【0106】
打撃検知部49は、例えば、上記条件が規定時間の間継続して満たされる場合に打撃動作が行われていることを検知する。「継続して」とは、例えば、ある時点で上記条件を満たしてから、次に上記条件を満たすまでに要した時間の長さが所定の閾値以下であることである。つまり、「継続して」とは、上記条件を常に満たし続けることのみを許容するのではなく、一時的に上記条件を満たさなくなる場合を許容する。
【0107】
あるいは、打撃検知部49は、上記条件が間欠的に満たされて、上記条件が満たされた時間の長さの合計が規定時間に達した場合に、打撃動作が行われていることを検知してもよい。
【0108】
(実施形態のその他の変形例)
以下、実施形態の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。また、以下の変形例は、上述の変形例1~5のうち少なくとも1つと適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0109】
パラメータ指定部41は、先行期間から後続期間になった際に、角速度の指令値cω1の上限値又は下限値を変更することで間接的に指令値cω1を変更する構成に限定されず、指令値cω1を直接変更してもよい。
【0110】
パラメータ指定部41は、先行期間から後続期間になった際に、速度制御部42の制御ゲインを変更することに限定されず、電流制御部43の制御ゲインを変更してもよい。また、パラメータ指定部41は、先行期間から後続期間になった際に、速度制御部42の制御ゲインと電流制御部43の制御ゲインとの両方を変更してもよい。パラメータ指定部41は、例えば、後続期間における電流制御部43の制御ゲインを、先行期間における電流制御部43の制御ゲインよりも小さくしてもよい。
【0111】
制御部4は、インパクト機構17が打撃動作を開始したことを打撃検知部49が検知した際に、所定の時間が経過してから、変更対象パラメータ(制御ゲイン及び角速度の指令値cω1の上限値)を変更してもよい。
【0112】
制御部4は、後続期間において打撃検知部49がインパクト機構17の打撃動作の終了を検知した際に、変更対象パラメータ(制御ゲイン及び角速度の指令値cω1の上限値)を先行期間における値に戻してもよい。あるいは、この際に、制御部4は、変更対象パラメータを先行期間における値とも後続期間における値とも異なる値にしてもよい。
【0113】
後続期間における変更対象パラメータを決定するための入力を受け付ける機能は、第1設定部52と第2設定部53とに分散されていなくてもよく、いずれか1つの構成に集約されていてもよい。
【0114】
電動工具1は、電源32として複数種類の電池の中から任意の1種類の電池を使用可能であってもよい。この場合に、ユーザは、第2設定部53を操作することで、電池の種類に応じて第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を切り替えることができる。すなわち、電池の仕様等に応じて第2の比例ゲイン、第2の積分ゲイン及び第2の上限値を切り替えることで、それぞれの電池を使用する際に打撃動作の安定化を図ることができる。
【0115】
インパクト機構17の打撃動作の有無の検知に用いられる閾値(閾値Idt1、Iqt1等)は、交流電動機15が回転を開始してからの経過時間、電流測定値id1及び電流測定値iq1のうち少なくとも1つに応じて変化してもよい。例えば、上記閾値は、電流測定値id1の平均値又は電流測定値iq1の平均値に応じて変化してもよい。
【0116】
あるいは、上記閾値は、電流測定値id1と指令値cid1との差分又は電流測定値iq1と指令値ciq1との差分の大きさに応じて変化してもよい。例えば、閾値Idt1は、指令値cid1にある値を加えた値であってもよい。また、例えば、閾値Iqt1は、指令値ciq1にある値を加えた値であってもよい。
【0117】
打撃検知部49は、電流測定値id1、iq1のうち一方のみに基づいて打撃動作の有無を検知してもよい。電流測定値id1のみに基づく場合は、電流測定値id1の平均値が安定的な場合、及び、打撃動作の開始の前後で電流測定値id1の変化が大きい場合に、打撃動作の有無の検知が容易となる。電流測定値iq1のみに基づく場合は、電流測定値iq1の平均値が安定的な場合、及び、打撃動作の開始の前後で電流測定値iq1の変化が大きい場合に、打撃動作の有無の検知が容易となる。また、実施形態のように電流測定値id1、iq1の両方に基づいて打撃動作の有無が検知される場合は、例えば、打撃動作が行われていないときに打撃動作が行われていると誤検知される可能性を低減できることがある。
【0118】
実施形態の打撃検知部49は、d軸電流の電流測定値id1に関する第1条件が満たされるタイミングと、q軸電流の電流測定値iq1に関する第2条件が満たされるタイミングとの差が所定時間内の場合に、打撃動作が行われていることを検知する。これに対して、打撃検知部49は、この2つのタイミングの差に関係なく、第1条件と第2条件とが満たされた場合に、打撃動作が行われていることを検知してもよい。これにより、打撃動作が行われているにも関わらず打撃動作が行われていないという検知結果を打撃検知部49が出力し続ける可能性を低減できる。
【0119】
打撃検知部49は、実施形態及び各変形例に示した打撃動作の有無の検知手段のうち2つ以上を組み合わせて打撃動作の有無を検知してもよい。
【0120】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0121】
第1の態様に係る電動工具1は、電動機(交流電動機15)と、インパクト機構17と、打撃検知部49と、測定部60と、を備える。インパクト機構17は、電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。打撃検知部49は、打撃動作の有無を検知する。測定部60は、電動機に供給されるd軸電流及びq軸電流のうち少なくとも一方を測定する。打撃検知部49は、測定部60で測定されたd軸電流の測定値(電流測定値id1)及びq軸電流の測定値(電流測定値iq1)のうち少なくとも一方に基づいて、打撃動作の有無を検知する。
【0122】
上記の構成によれば、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する新たな手段を提供できる。
【0123】
また、第2の態様に係る電動工具1では、第1の態様において、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)及びq軸電流の測定値(電流測定値iq1)のうち少なくとも一方に基づいて、打撃動作の開始を検知する。
【0124】
上記の構成によれば、電動工具1では、電動機(交流電動機15)に対して、打撃動作の開始に応じた制御を行うことができる。
【0125】
また、第3の態様に係る電動工具1では、第2の態様において、制御部4を備える。制御部4は、打撃検知部49を有する。制御部4は、電動機(交流電動機15)の動作をフィードバック制御する。制御部4は、打撃検知部49が打撃動作の開始を検知すると、フィードバック制御の制御ゲインを変化させる。
【0126】
上記の構成によれば、打撃動作の開始時に制御ゲインが変化しない場合と比較して、電動機(交流電動機15)のより細かな制御ができる。
【0127】
また、第4の態様に係る電動工具1では、第1~3の態様のいずれか1つにおいて、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)に基づいて、打撃動作の有無を検知する。
【0128】
上記の構成によれば、打撃動作の開始の前後でd軸電流の電流測定値id1の変化が大きい場合に、打撃動作の有無の検知が容易となる。
【0129】
また、第5の態様に係る電動工具1では、第4の態様において、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)との両方に基づいて、打撃動作の有無を検知する。
【0130】
上記の構成によれば、例えば、打撃動作が行われていないときに打撃動作が行われていると誤検知される可能性の低減を図ることができる。
【0131】
また、第6の態様に係る電動工具1では、第5の態様において、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)に関する第1判定結果と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)に関する第2判定結果とにそれぞれ異なる重み付けをし、重み付けした第1判定結果及び第2判定結果に基づいて、打撃動作の有無を検知する。
【0132】
上記の構成によれば、打撃動作の有無の検知精度の向上を図ることができる。
【0133】
また、第7の態様に係る電動工具1では、第5の態様において、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)に関する条件が満たされるタイミングと、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)に関する条件が満たされるタイミングとの差が所定時間内の場合に、打撃動作が行われていることを検知する。
【0134】
上記の構成によれば、打撃動作の有無の検知精度の向上を図ることができる。
【0135】
また、第8の態様に係る電動工具1は、第1~7の態様のいずれか1つにおいて、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)の絶対値と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)の絶対値とのうち少なくとも一方が、対応する閾値(閾値Idt1、Iqt1)よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知する。
【0136】
上記の構成によれば、簡素な処理により打撃動作の有無を検知できる。
【0137】
また、第9の態様に係る電動工具1は、第1~7の態様のいずれか1つにおいて、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)とのうち少なくとも一方の交流成分の大きさが、対応する閾値よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知する。
【0138】
上記の構成によれば、電流測定値id1、iq1の絶対値が打撃開始時に増加しない場合、又は、増加量が比較的小さい場合であっても、打撃動作の有無の検知が可能となる。
【0139】
また、第10の態様に係る電動工具1では、第1~7の態様のいずれか1つにおいて、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)とのうち少なくとも一方の波形に基づいて、打撃動作の有無を検知する。
【0140】
上記の構成によれば、打撃動作の有無の検知精度の向上を図ることができる。
【0141】
また、第11の態様に係る電動工具1では、第1~10の態様のいずれか1つにおいて、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)とのうち少なくとも一方に関する条件が2回以上の所定の回数満たされる場合に、打撃動作が行われていることを検知する。
【0142】
上記の構成によれば、打撃動作の有無の検知精度の向上を図ることができる。
【0143】
また、第12の態様に係る電動工具1では、第1~11の態様のいずれか1つにおいて、打撃検知部49は、d軸電流の測定値(電流測定値id1)と、q軸電流の測定値(電流測定値iq1)とのうち少なくとも一方に関する条件が規定時間以上満たされる場合に、打撃動作が行われていることを検知する。
【0144】
上記の構成によれば、打撃動作の有無の検知精度の向上を図ることができる。
【0145】
第1の態様以外の構成については、電動工具1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0146】
1 電動工具
4 制御部
15 交流電動機(電動機)
17 インパクト機構
49 打撃検知部
60 測定部
id1 電流測定値(測定値)
iq1 電流測定値(測定値)
Idt1 閾値
Iqt1 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9