(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073555
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】水素生成装置およびその運転方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20230519BHJP
【FI】
C01B3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186089
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】田口 清
(72)【発明者】
【氏名】太田 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基啓
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EB01
4G140EB42
(57)【要約】
【課題】本開示は、銅を含む吸着脱硫剤に吸着したテトラハイドロチオフェンの脱水素反応が抑制され、吸着脱硫剤で除去困難なチオフェンの生成が抑えられる水素生成装置を提供する。
【解決手段】本開示における水素生成装置は、原料が第一脱硫器と第二脱硫器をこの順に通過して改質器に供給される第一経路側で起動し、起動後に所定条件を満たすと、原料が第二脱硫器のみを通過してから改質器に供給される第二経路側に切り替わるように構成され、原料に含まれる硫黄化合物は、少なくともテトラハイドロチオフェンを含み、第一脱硫器には、銅イオンと有機配位子とをもつ金属有機構造体を含む吸着脱硫剤が充填され、第二脱硫器には、水添脱硫触媒が充填される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫するように構成された第一脱硫器と、
前記原料に含まれる前記硫黄化合物を水添脱硫するように構成された第二脱硫器と、
前記第一脱硫器または前記第二脱硫器を通過した前記原料を用いて水素含有ガスを生成するとともに前記第二脱硫器を加熱するように構成された改質器と、
前記原料が、少なくとも前記第一脱硫器を通過してから前記改質器に供給されるように構成された第一経路と、
前記原料が、前記第一脱硫器及び前記第二脱硫器のうち前記第二脱硫器のみを通過してから前記改質器に供給されるように構成された第二経路と、
前記第一経路と前記第二経路とを切り替えるように構成された切替器と、
制御器と、を備える、水素生成装置であって、
前記制御器は、前記切替器を前記第一経路側にして前記水素生成装置を起動し、起動後に前記水添脱硫触媒が水添脱硫に適した温度になっている所定条件を満たすと前記切替器を前記第一経路側から前記第二経路側に切り替えるように構成され、
前記硫黄化合物は、少なくともテトラハイドロチオフェンを含み、
前記第一脱硫器には、銅イオンと有機配位子とをもつ金属有機構造体を含む吸着脱硫剤が充填され、
前記第二脱硫器には、前記原料に含まれる前記硫黄化合物を水添脱硫する水添脱硫触媒が充填されることを特徴とする水素生成装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記第一脱硫器でチオフェンの生成が抑制されるように前記第一脱硫器の温度または前記原料の流量の少なくとも一方を所定値以下となるように前記第一経路に前記原料を流通させることを特徴とする請求項1記載の水素生成装置。
【請求項3】
前記第一経路は、前記原料が、前記第一脱硫器を通過した後に前記第二脱硫器を通過して前記改質器に供給されるように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の水素生成装置。
【請求項4】
原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫するように構成された第一脱硫器と、
前記原料に含まれる前記硫黄化合物を水添脱硫するように構成された第二脱硫器と、
前記第一脱硫器または前記第二脱硫器を通過した前記原料を用いて水素含有ガスを生成するとともに前記第二脱硫器を加熱するように構成された改質器と、
前記原料が、少なくとも前記第一脱硫器を通過してから前記改質器に供給されるように構成された第一経路と、
前記原料が、前記第一脱硫器及び前記第二脱硫器のうち前記第二脱硫器のみを通過してから前記改質器に供給されるように構成された第二経路と、
前記第一経路と前記第二経路とを切り替えるように構成された切替器と、
を備え、
前記硫黄化合物は、少なくともテトラハイドロチオフェンを含み、
前記第一脱硫器には、銅イオンと有機配位子とをもつ金属有機構造体を含む吸着脱硫剤が充填され、
前記第二脱硫器には、前記原料に含まれる前記硫黄化合物を水添脱硫する水添脱硫触媒が充填される、水素生成装置の運転方法であって、
前記切替器を前記第一経路側にして前記水素生成装置を起動し、起動後に前記水添脱硫触媒が水添脱硫に適した温度になっている所定条件を満たすと前記切替器を前記第一経路側から前記第二経路に切り替えることを特徴とする水素生成装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素生成装置およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、原料に含まれる硫黄化合物を効率良く吸着除去し、かつ、原料にチオフェンを生成し得る硫黄化合物が含まれる場合には、チオフェンの生成が抑制される脱硫剤を開示する。この脱硫剤は、活性炭と、活性炭に添着された金属と、を含んでなり、金属が、銅と、ニッケル及びタングステンから選ばれる少なくとも1種と、の組みあわせを含む。
【0003】
特許文献2は、原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫する第一脱硫器と、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫する第二脱硫器と、原料を用いて水素含有ガスを生成する改質器と、原料が少なくとも第一脱硫器を通過してから改質器に供給される第一経路と、原料が第二脱硫器のみを通過してから改質器に供給される第二経路と、第一経路と第二経路とを切り替える切替器と、を備えた水素生成装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-051928号公報、
【特許文献2】国際公開第2012/164897号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、銅を含む吸着脱硫剤に吸着したテトラハイドロチオフェンの脱水素反応が抑制され、吸着脱硫剤で除去することが困難なチオフェンの生成が抑えられる水素生成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における水素生成装置は、原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫するように構成された第一脱硫器と、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫するように構成された第二脱硫器と、第一脱硫器または第二脱硫器を通過した原料を用いて水素含有ガスを生成するとともに第二脱硫器を加熱するように構成された改質器と、第一経路と第二経路とを切り替えるように構成された切替器と、制御器と、を備える。
【0007】
第一経路は、原料が、少なくとも第一脱硫器を通過してから改質器に供給されるように構成され、第二経路は、原料が、第一脱硫器及び第二脱硫器のうち第二脱硫器のみを通過してから改質器に供給されるように構成され、硫黄化合物は、少なくともテトラハイドロチオフェンを含む。
【0008】
制御器は、切替器を第一経路側にして水素生成装置を起動し、起動後に水添脱硫触媒が水添脱硫に適した温度になっている所定条件を満たすと切替器を第一経路側から第二経路側に切り替えるように構成される。
【0009】
第一脱硫器には、銅イオンと有機配位子とをもつ金属有機構造体を含む吸着脱硫剤が充填され、第二脱硫器には、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫する水添脱硫触媒が充填される。
【発明の効果】
【0010】
本開示における水素生成装置は、吸着脱硫剤において銅イオン近傍に有機配位子が存在することで、銅イオンの周りの酸化物イオンが少ないため、酸化反応であるテトラハイドロチオフェンの脱水素反応が抑制され、吸着脱硫剤で除去困難なチオフェンの生成が抑えられる。そのため、テトラハイドロチオフェンを含む原料の脱硫を行う場合の脱硫剤搭載量を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1における水素生成装置の構成を示すブロック図
【
図2】実施の形態1における水素生成装置の起動工程を示すフローチャート
【
図3】実施の形態2における水素生成装置の構成を示すブロック図
【
図4】実施の形態2における水素生成装置の起動工程を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎になった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、原料中に含まれる硫黄化合物を効率良く吸着除去し、かつ、原料中にチオフェンを生成し得る硫黄化合物が含まれる場合には、チオフェンの生成が抑制される脱硫剤があった。この脱硫剤は、活性炭と、活性炭に添着された金属と、を含んでなり、金属が、銅と、ニッケル及びタングステンから選ばれる少なくとも1種と、の組みあわせを含む。
【0013】
これにより、原料中に含まれる硫黄化合物を効率良く吸着除去し、かつ、原料中にチオフェンを生成し得る硫黄化合物が含まれる場合には、チオフェンの生成が抑制される。
【0014】
しかしながら、銅と他の金属の組み合わせのため、他の金属と複合化できなかった単独の銅が残存し、テトラハイドロチオフェンを付臭剤として添加している地域においてテトラハイドロチオフェン濃度が高い場合にはチオフェン生成が多い場合があるという課題があった。
【0015】
また、原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫する第一脱硫器と、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫する第二脱硫器と、原料を用いて水素含有ガスを生成する改質器と、原料が少なくとも第一脱硫器を通過してから改質器に供給される第一経路と、原料が第二脱硫器のみを通過してから改質器に供給される第二経路と、第一経路と第二経路とを切り替える切替器と、を備えた水素生成装置があった。
【0016】
これにより、水添脱硫触媒に硫化水素に変換されていない硫黄化合物が吸着することにより問題が生じる可能性が従来よりも低減される。
【0017】
しかしながら、第一脱硫器に銅を含む脱硫剤を搭載(充填)した場合には、チオフェンが生成するため、チオフェンを吸着するために第一脱硫器に多くの脱硫剤を搭載(充填)する必要があった。また、チオフェンを生成しない銀を含む脱硫剤を第一脱硫器に搭載(充填)した場合には、高価な銀を含むためコストが高くなっていた。
【0018】
そこで、本開示は、銅を含む吸着脱硫剤に吸着したテトラハイドロチオフェンの脱水素反応が抑制され、吸着脱硫剤で除去することが困難なチオフェンの生成が抑えられる水素生成装置を提供する。
【0019】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0020】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0021】
(実施の形態1)
以下、
図1を用いて、実施の形態1を説明する。
【0022】
[1-1.構成]
図1において、水素生成装置21は、第一脱硫器1と、第二脱硫器2と、原料供給器3と、切替器4と、改質器5と、温度検知器6と、閉止弁7と、水素含有ガス経路切替器8と、原料流路9と、分岐路10と、合流点11と、リサイクル流路12と、第一経路13と、第二経路14と、制御器41と、を備える。また、水素生成装置21に流入した原料から生成した水素含有ガスは、燃料電池31に供給されるように構成されている。
【0023】
第一脱硫器1は、硫黄化合物を含む原料が通流する流路の途中(第一経路13における分岐路10)に設けられる。
【0024】
本実施の形態における原料は、メタンを主成分とする都市ガスであり、硫黄化合物として、テトラハイドロチオフェン(以下、THTと記載)が10ppmの濃度で含まれている。
【0025】
第一脱硫器1には、吸着脱硫剤が充填(搭載)されている。
【0026】
本実施の形態における吸着脱硫剤は、銅イオンとベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸とからなる金属有機構造体であるHKUST-1(BASF社製)を用いた。
【0027】
第二脱硫器2には、水添脱硫触媒が充填(搭載)されている。また、第二脱硫器2は改質器5の熱を受け200℃から300℃に加熱されるように構成されている。
【0028】
本実施の形態では、水添脱硫触媒として、銅亜鉛触媒を用いた。
【0029】
原料供給器3は、分岐路10が原料流路9と合流する合流点11よりも下流側で第二脱硫器2よりも上流側の原料流路9の途中に設けられ、原料流路9を通流する第一脱硫器1で脱硫後の原料の流量を調節可能に構成されたポンプである。
【0030】
切替器4は、原料が第一脱硫器1を通過する第一経路13と、原料が第一脱硫器1を通過せずにバイパスして第二脱硫器2を通過する第二経路14と、を切り替える電磁弁である。
【0031】
改質器5は、改質触媒が充填された触媒層(図示せず)を備え、触媒層はバーナー(図示せず)により加熱されるように構成されている。また、触媒層には原料と反応させる水も供給されるように水経路と水供給器が接続されるように構成されている(図示せず)。
【0032】
本実施の形態では、改質触媒として、アルミナ担持ルテニウム触媒を用いた。
【0033】
温度検知器6は、改質器5の温度を検知する熱電対である。
【0034】
閉止弁7は改質器5の下流から分岐して合流点11よりも下流側で原料供給器3よりも上流側に接続(合流)するリサイクル流路(水添用水素経路)の途中に設けられた電磁弁
である。
【0035】
水素含有ガス経路切替器8は、改質器5で生成した水素含有ガスを燃料電池31に供給する経路と排気する経路とを切り替える電磁弁である。
【0036】
制御器41は、水素生成装置21の運転を制御する。制御器41は、信号入出力部(図示せず)と、演算処理部(図示せず)と、制御プログラムを記憶する記憶部(図示せず)とを備える。
【0037】
[1-2.動作]
以上のように構成された水素生成装置21について、その動作を以下説明する。
【0038】
以下の動作は、制御器41が水素生成装置21を制御することによって行われる。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態1における水素生成装置21の起動工程を示すフローチャートである。
【0040】
水素生成装置21の試験は、環境温度を制御できる試験室で、第一脱硫器1の温度が60℃となるようにしておこなった。
【0041】
水素生成装置21の起動前は、水素生成装置21は停止しており、切替器4は第一経路である第一脱硫器1側に向いており、閉止弁7は閉状態、水素含有ガス経路切替器8は排気側に向いている。
【0042】
水素生成装置21を起動するため、まず原料供給器3を動作させる(S101)。
【0043】
次に、改質器5の触媒層を加熱するバーナーに着火し、改質器5の加熱を開始する(S102)。
【0044】
次に、原料供給器3の目標流量を3NL/minとする(S103)。
【0045】
次に、改質器5に水を供給する。水の供給量は8.4cc/minとした。8.4cc/minの水の供給量は都市ガス3NL/minに対して、水蒸気と炭素の比率が3となる値である(S104)。
【0046】
次に、温度検知器6で検知した改質器5の改質温度Taが500℃以上であるか否かを判断する(S105)。S105において、改質温度Taが500℃に達するまでは、S105を繰り返し、改質器5の改質温度Taが500℃以上になれば、S106に移行する。
【0047】
ここで500℃とは、あらかじめ実験的に取得した改質器5で水素の生成が始まる温度である。
【0048】
S105において、改質器5の改質温度Taが500℃以上になれば、閉止弁7を開けて、改質器5で生成した水素含有ガスの一部をリサイクル流路12を経由して第二脱硫器2に供給する(S106)。このときリサイクル流路12を通流する水素含有ガスの流量は1NL/minとなるように、あらかじめ閉止弁7と途中経路(リサイクル流路12を含む)の圧損を調整してある。
【0049】
次に、温度検知器6で検知した改質器5の改質温度Taが600℃以上であるか否かを
判断する(S107)。S107において、改質温度Taが600℃に達するまでは、S107を繰り返し、改質器5の改質温度Taが600℃以上になれば、S108に移行する。
【0050】
ここで600℃とは、あらかじめ実験的に取得した温度であり、改質器5で都市ガスから水素含有ガスを所定の転化率で生成でき、燃料電池31に供給するのに適した水素量が得られる温度である。
【0051】
次に、燃料電池31に水素含有ガスを供給するため、水素含有ガス経路切替器8を排気側から燃料電池31側に切り替える(S108)。
【0052】
次に、切替器4を第一経路から第二経路に切り替える(S109)。
【0053】
次に、燃料電池31で発電を開始し(S110)、水素生成装置21の起動工程は終了する。
【0054】
この時の燃料電池31の発電出力は700Wである。ここで700Wとは、都市ガス3NL/minを本実施の形態の燃料電池31に供給した場合に生成する水素量から燃料電池31を発電させるのに適した出力である。
【0055】
第一脱硫器1を通過後の原料は硫黄化合物が2ppb以下の濃度となって第一脱硫器1から排出される。
【0056】
ガスクロマトグラフィーによって定期的に第一脱硫器1を通過直後の原料の成分を測定したところ、試験開始から第一脱硫器1に原料が供給される積算時間が250hになるまでは、テトラハイドロチオフェンもチオフェンも2ppb以下であったが、積算時間が250hになったときにチオフェンの濃度上昇が検出された。さらに、積算時間が500hになったときにTHTの濃度上昇が検出された。
【0057】
比較として、第一脱硫剤に、ゼオライトに銅イオンを交換したものを用いて、同じ試験を行った。
【0058】
ガスクロマトグラフィーによって定期的に第一脱硫器1よりも下流側の原料ガスを測定したところ、試験開始から第一脱硫器1に原料が供給される積算時間が50hになるまでは、THTもチオフェンも2ppb以下であったが、積算時間が50hになったときにチオフェンの濃度上昇が検出された。さらに積算時間が250hになったときにTHTの濃度上昇が検出された。
【0059】
また、第一脱硫器1と第二脱硫器2を流通する経路である第一経路13に原料を供給しているときに第二脱硫器2の前後の原料中の硫黄化合物の濃度を高精度のガスクロマトグラフィーで測定したところ、第二脱硫器2の前後で、原料中のチオフェン濃度はそれぞれ1ppbと0.1ppbであった。なお、原料中のテトラハイドロチオフェン濃度は第二脱硫器2の前後とも1ppb以下であった。
【0060】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、水素生成装置21は、原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫するように構成された第一脱硫器1と、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫するように構成された第二脱硫器2と、第一脱硫器1または第二脱硫器2を通過した原料を用いて水素含有ガスを生成するとともに第二脱硫器2を加熱するように構成された改質器5と、第一経路13と第二経路14とを切り替えるように構成された切替器4と、制
御器41と、を備える。
【0061】
第一経路13は、原料が、少なくとも第一脱硫器1を通過してから改質器5に供給されるように構成され、第二経路14は、原料が、第一脱硫器1及び第二脱硫器2のうち第二脱硫器2のみを通過してから改質器5に供給されるように構成され、硫黄化合物は、少なくともテトラハイドロチオフェンを含む。
【0062】
制御器41は、切替器4を第一経路13側にして水素生成装置21を起動し、起動後に水添脱硫触媒が水添脱硫に適した温度になっている所定条件を満たすと切替器4を第一経路13側から第二経路14側に切り替えるように構成される。
【0063】
第一脱硫器1には、銅イオンと有機配位子とをもつ金属有機構造体を含む吸着脱硫剤が充填され、第二脱硫器2には、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫する水添脱硫触媒が充填される。
【0064】
これにより、吸着脱硫剤において銅イオン近傍に有機配位子が存在することで、銅イオンの周りの酸化物イオンが少ないため、酸化反応であるテトラハイドロチオフェンの脱水素反応が抑制され、吸着脱硫剤で除去困難なチオフェンの生成が抑えられる。
【0065】
そのため、テトラハイドロチオフェンを含む原料の脱硫を行う場合の脱硫剤搭載量を少なくできる。
【0066】
また、本実施の形態のように、水素生成装置21の第一経路13は、原料が、第一脱硫器1を通過した後に第二脱硫器2を通過して改質器5に供給されるように構成されてもよい。
【0067】
これにより、第一脱硫器1の吸着脱硫剤で除去困難なチオフェンの生成が抑えられるとともに、改質器5に供給される原料中のチオフェンの濃度を第二脱硫器2でさらに低減できる。
【0068】
そのため、テトラハイドロチオフェンを含む原料の脱硫を行う場合の脱硫剤搭載量を少なくできるとともに、改質器5の劣化による性能低下を抑制できる。
【0069】
(実施の形態2)
以下、
図3を用いて、実施の形態2を説明する。
【0070】
[2-1.構成]
実施の形態2に係る水素生成装置22は、実施の形態1の制御器41を、制御器42に置き換えた点で、実施の形態1に係る水素生成装置21とは異なる。
【0071】
言い換えると、実施の形態2に係る水素生成装置22は、実施の形態1に係る水素生成装置21の構成に、実施の形態1の制御器41を、制御器42に置き換えたものに相当する。そのため、
図2に示す実施の形態2に係る水素生成装置22において、
図1に示す実施の形態1に係る水素生成装置21と同一構成については、同一符号を付している。
【0072】
また、水素生成装置22に流入した原料から生成した水素含有ガスは、水素タンク32に供給されるように構成されている。
【0073】
[2-2.動作]
以上のように構成された水素生成装置22について、その動作を以下説明する。
【0074】
以下の動作は、制御器42が水素生成装置22を制御することによって行われる。
【0075】
図4は、本発明の実施の形態2における水素生成装置22の起動工程を示すフローチャートである。
【0076】
水素生成装置22の試験は、環境温度を制御できる試験室で、第一脱硫器1の温度が60℃となるようにしておこなった。
【0077】
水素生成装置22の起動前は、水素生成装置22は停止しており、切替器4は第一経路である第一脱硫器1側に向いており、閉止弁7は閉状態、水素含有ガス経路切替器8は排気側に向いている。
【0078】
水素生成装置22を起動するため、まず原料供給器3を動作させる(S201)。
【0079】
次に、改質器5の触媒層を加熱するバーナーに着火し、改質器5の加熱を開始する(S202)。
【0080】
次に、原料供給器3の目標流量を1NL/minとする(S203)。
【0081】
次に、改質器5に水を供給する。水の供給量は2.8cc/minとした。2.8cc/minの水の供給量は都市ガス1NL/minに対して、水蒸気と炭素の比率が3となる値である(S204)。
【0082】
次に、温度検知器6で検知した改質器5の改質温度Taが500℃以上であるか否かを判断する(S205)。S205において、改質温度Taが500℃に達するまでは、S205を繰り返し、改質器5の改質温度Taが500℃以上になれば、S206に移行する。
【0083】
ここで500℃とは、あらかじめ実験的に取得した改質器5で水素の生成が始まる温度である。
【0084】
S105において、改質器5の改質温度Taが500℃以上になれば、閉止弁7を開けて、改質器5で生成した水素含有ガスの一部をリサイクル流路12を経由して第二脱硫器2に供給する(S206)。
【0085】
このときリサイクル流路12を通流する水素含有ガスの流量は原料流量に対して所定の比率になるように、あらかじめ閉止弁7と途中経路(リサイクル流路12を含む)の圧損を調整してある。すなわち原料流量が1NL/minの場合には、リサイクル流路12を通流する水素含有ガスの流量は0.33NL/min、原料流量が3NL/minの場合には、リサイクル流路12を通流する水素含有ガスの流量は1NL/minとなる。
【0086】
次に、温度検知器6で検知した改質器5の改質温度Taが600℃以上であるか否かを判断する(S207)。S207において、改質温度Taが600℃に達するまでは、S207を繰り返し、改質器5の改質温度Taが600℃以上になれば、S208に移行する。
【0087】
ここで600℃とは、あらかじめ実験的に取得した温度であり、改質器5で都市ガスから水素含有ガスを所定の転化率で生成でき、水素タンク32に供給するのに適した水素量が得られる温度である。
【0088】
次に、水素タンク32に水素含有ガスを供給するため、水素含有ガス経路切替器8を排気側から水素タンク32側に切り替える(S208)。
【0089】
次に、切替器4を第一経路から第二経路に切り替える(S209)。
【0090】
次に、原料供給器3の目標流量を3NL/minとし(S210)、水素生成装置22の起動工程は終了する。
【0091】
なお、S210において、原料流量が3NL/minになると、改質器5に供給する水の量は、原料流量と水の比率が維持されるように8.4cc/minに増加するようにしてある。また、原料流量が3NL/minになると、リサイクル流路12を通流する水素含有ガスの流量は1NL/minとなる。
【0092】
第一脱硫器1を通過後の原料は硫黄化合物が2ppb以下の濃度となって第一脱硫器1から排出される。
【0093】
ガスクロマトグラフィーによって定期的に第一脱硫器1を通過直後の原料の成分を測定したところ、試験開始から第一脱硫器1に原料が供給される積算時間が750hになるまでは、テトラハイドロチオフェンもチオフェンも2ppb以下であったが、積算時間が750hになったときにチオフェンの濃度上昇が検出された。さらに、積算時間が1500hになったときにTHTの濃度上昇が検出された。
【0094】
さらに、水素生成装置22の試験を、環境温度を制御できる試験室の温度を調整し、第一脱硫器1の温度が30℃となるようにして同様に実施した。
【0095】
ガスクロマトグラフィーによって定期的に第一脱硫器1を通過直後の原料の成分を測定したところ、試験開始から第一脱硫器1に原料が供給される積算時間が1500hになるまでは、テトラハイドロチオフェンもチオフェンも2ppb以下であり、積算時間が1500hになったときにテトラハイドロチオフェンの濃度上昇が検出されたが、チオフェンは検出されなかった。
【0096】
[2-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、水素生成装置22は、原料に含まれる硫黄化合物を吸着脱硫するように構成された第一脱硫器1と、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫するように構成された第二脱硫器2と、第一脱硫器1または第二脱硫器2を通過した原料を用いて水素含有ガスを生成するとともに第二脱硫器2を加熱するように構成された改質器5と、第一経路13と第二経路14とを切り替えるように構成された切替器4と、制御器42と、を備える。
【0097】
第一経路13は、原料が、少なくとも第一脱硫器1を通過してから改質器5に供給されるように構成され、第二経路14は、原料が、第一脱硫器1及び第二脱硫器2のうち第二脱硫器2のみを通過してから改質器5に供給されるように構成され、硫黄化合物は、少なくともテトラハイドロチオフェンを含む。
【0098】
制御器42は、切替器4を第一経路13側にして水素生成装置21を起動し、第一脱硫器1でチオフェンの生成が抑制されるように第一脱硫器1の温度または原料の流量の少なくとも一方を所定値以下となるように第一経路13に原料を流通させ、起動後に水添脱硫触媒が水添脱硫に適した温度になっている所定条件を満たすと切替器4を第一経路13側から第二経路14側に切り替えるように構成される。
【0099】
第一脱硫器1には、銅イオンと有機配位子とをもつ金属有機構造体を含む吸着脱硫剤が充填され、第二脱硫器2には、原料に含まれる硫黄化合物を水添脱硫する水添脱硫触媒が充填される。
【0100】
これにより、実施の形態1の水素生成装置21よりも第一脱硫器1でのテトラハイドロチオフェンの脱水素反応の速度が抑制され、吸着脱硫剤で除去困難なチオフェンの生成がさらに抑えられる。
【0101】
そのため、実施の形態1の水素生成装置21よりもテトラハイドロチオフェンを含む原料の脱硫を行う場合の脱硫剤搭載量をさらに少なくできる。
【0102】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1~2を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1~2で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0103】
本実施の形態1~2では、原料としてメタンを主成分とする都市ガスを例示したが、LPGや天然ガスでもよい。
【0104】
本実施の形態1~2では、第一脱硫器1に充填する吸着脱硫剤として、銅イオンとベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸とからなる金属有機構造体を例示したが、銅イオンと金属有機構造体を形成するものであれば、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸を有機配位子、例えばイソフタル酸やテレフタル酸などに置き換えたものでもよい。
【0105】
本実施の形態1~2では、切替器4は、一つの電磁弁で流路を切り替える構成を例示したが、開閉弁を組み合わせる構成としてもよい。
【0106】
本実施の形態1~2では、第二脱硫器2の水添脱硫触媒に水素を供給するのに改質器5から排出された水素含有ガスを用いる構成を例示したが、別途水素タンク等から水素を供給する構成としてもよい。
【0107】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示は、原料中の硫黄化合物を除去する脱硫器を備えた水素生成装置に適用可能である。具体的には、都市ガスやLPGから水素を生成する水素生成装置を搭載した燃料電池システムや水素製造装置などに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 第一脱硫器
2 第二脱硫器
3 原料供給器
4 切替器
5 改質器
6 温度検知器
7 閉止弁
8 水素含有ガス経路切替器
9 原料流路
10 分岐路
11 合流点
12 リサイクル流路
13 第一経路
14 第二経路
21,22 水素生成装置
31 燃料電池
32 水素タンク
41,42 制御器