(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073559
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】換気制御システム
(51)【国際特許分類】
F24F 7/007 20060101AFI20230519BHJP
F24F 11/61 20180101ALI20230519BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20230519BHJP
F24F 11/70 20180101ALI20230519BHJP
F24F 11/52 20180101ALI20230519BHJP
F24F 11/33 20180101ALI20230519BHJP
F24F 110/70 20180101ALN20230519BHJP
【FI】
F24F7/007 B
F24F11/61
F24F11/64
F24F11/70
F24F11/52
F24F11/33
F24F110:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186094
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】512133915
【氏名又は名称】グローバル電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和範
【テーマコード(参考)】
3L056
3L260
【Fターム(参考)】
3L056BD01
3L260AB15
3L260BA12
3L260CA03
3L260CA17
3L260CA28
3L260CB51
3L260CB70
3L260EA03
3L260EA07
3L260FC01
3L260GA17
3L260HA01
(57)【要約】
【課題】閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において換気が十分か否かを事前に判定できる換気制御システムを提供すること。
【解決手段】換気制御システムは、閉空間の二酸化炭素濃度を測定するCO
2センサー20と、CO
2センサー20により測定された二酸化炭素濃度を用いて判定値を算出し、判定値に基づいて閉空間の換気が十分か否かを判定する換気判定手段30とを備え、換気判定手段30は、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において二酸化炭素発生量と換気量の比による二酸化炭素飽和濃度Iを算出し、二酸化炭素飽和濃度Iを判定値として用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉空間の二酸化炭素濃度を測定するCO2センサーと、
前記CO2センサーにより測定された二酸化炭素濃度を用いて判定値を算出し、前記判定値に基づいて前記閉空間の換気が十分か否かを判定する換気判定手段とを備え、
前記換気判定手段は、前記閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において二酸化炭素発生量と前記換気量の比による二酸化炭素飽和濃度を算出し、前記二酸化炭素飽和濃度を前記判定値として用いることを特徴とする換気制御システム。
【請求項2】
前記換気判定手段は、前記二酸化炭素飽和濃度が第一閾値を超えた場合に前記換気が不十分と判定して事前換気警告を発令し、前記二酸化炭素飽和濃度が前記第一閾値を超えてから所定時間内に前記第一閾値以下となった場合は、前記事前換気警告を解除することを特徴とする請求項1に記載の換気制御システム。
【請求項3】
前記換気判定手段は、
前記CO2センサーが計測した前記二酸化炭素濃度の時系列データを各区画に複数の計測値が均等に含まれるように所定間隔で区分し、最新の前記計測値が存在する区画D+1と、前記区画D+1の一つ前の区画D0と、前記区画D0の一つ前の区画D-1のそれぞれにおいて前記計測値の平均を算出し、
前記区画D0にて前記二酸化炭素濃度の変化量を前記区画各々の計測値の平均を用いて算出し、前記二酸化炭素濃度の変化量を用いて前記閉空間の1時間当たりの換気回数を算出し、前記換気回数を用いて前記二酸化炭素飽和濃度を求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の換気制御システム。
【請求項4】
前記換気判定手段は、算出した前記換気回数が所定の数値範囲内であるか否かを判定し、所定の数値範囲内と判定した前記換気回数について所定時間での平均値を算出し、前記換気回数の平均値である換気回数補正値を用いて前記二酸化炭素飽和濃度を算出することを特徴とする請求項3に記載の換気制御システム。
【請求項5】
前記換気判定手段は、前記換気回数を表すF/V値を下式(1)で算出し、前記F/V値に基づいて前記換気回数補正値を表す補正F/V値を算出し、前記閉空間の容積が未知の状況において前記補正F/V値を用いて前記二酸化炭素飽和濃度を下式(2)で算出することを特徴とする請求項4に記載の換気制御システム。
【数1】
【数2】
F:換気量、V:閉空間の容積、D:二酸化炭素濃度、t:時間[h]、I:二酸化炭素飽和濃度、D
0:計算時の二酸化炭素濃度
【請求項6】
前記換気判定手段は、前記換気回数を表すF/V値を下式(1)で算出し、前記F/V値に基づいて前記換気回数補正値を表す補正F/V値を算出し、前記閉空間の容積が既知の状況において前記補正F/V値を用いて前記二酸化炭素発生量を下式(3)で算出し、前記二酸化炭素飽和濃度を下式(4)で算出することを特徴とする請求項4に記載の換気制御システム。
【数1】
【数3】
【数4】
F:換気量、V:閉空間の容積、D:二酸化炭素濃度、t:時間[h]、T:時間[min]、M:二酸化炭素発生量、S:外気の二酸化炭素濃度、I:二酸化炭素飽和濃度、D
0:計算時の二酸化炭素濃度
【請求項7】
前記換気判定手段が前記閉空間の換気が不十分と判定した場合に換気を促す表示を行う表示手段、又は前記換気判定手段が前記閉空間の換気が不十分と判定した場合に換気機器による換気を開始若しくは強化する換気機器制御手段の少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の換気制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉空間における換気状況を把握して警告及び換気機器等の制御を行う換気制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、換気の悪い「密閉空間」、多数が集まる「密集場所」、及び間近で会話や発声をする「密接場面」という三つの条件(いわゆる「三密」)が揃うとクラスター(集団)発生のリスクが高いとして、これを回避すること、すなわち、密集や密接を避けると共に、適切かつ十分な換気を行うことが求められている(非特許文献1、2)。
ここで、特許文献1には、所定の閉空間内に設置され所定の汚染質の濃度を測定する汚染質濃度測定手段と、第一時刻の閉空間における汚染質の濃度を、当該閉空間における換気量を考慮した、第一時刻よりも前の第二時刻における汚染質の濃度からの影響と閉空間における汚染質の発生からの影響、に基づいて表す関係式に、所定の汚染質の発生量が既知の時間帯において汚染質濃度測定手段によって測定された異なる2時刻における所定の汚染質の濃度を、第一時刻と第二時刻の濃度として代入して、換気量を求める演算手段とを有し、所定の閉空間の換気量を推定する換気量推定装置が開示されている。
また、特許文献2には、推定の対象となる部屋における人の動作を検知する人感検知手段と、部屋内のCO2濃度を測定するCO2濃度測定手段と、人感検知手段の検知結果に基づいて、部屋の在室人数が0であると推定し、在室人数が0であると推定しない場合に、CO2濃度測定手段の測定結果に基づいて在室人数を推定する制御手段とを有する人数推定装置が開示されている。
また、非特許文献3には、CO2濃度センサと人感センサを併用した在室人数推定手法が開示されている。
また、非特許文献3-6には、ザイデルの式を利用して室内の汚染物質の濃度の時間変化を計算することが開示されている。
また、非特許文献7には、人の行動形態や体格などの違いによる二酸化炭素の呼出量の差が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-19484号公報
【特許文献2】特開2011-133164号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について”,厚生労働省,令和2年3月30日,インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000616069.pdf>
【非特許文献2】“「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法”,厚生労働省,令和2年4月3日,インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf>
【非特許文献3】立川智一,外1名,“環境センサを利用した在室人数推定手法”,日本建築学会環境系論文集,一般社団法人日本建築学会,2010年4月,第75巻,第650号,p.355-362
【非特許文献4】内海康雄,“換気-通風・気密性(1)換気の考え方”,空気調和・衛生工学,公益社団法人空気調和・衛生工学会,2005年2月,第79巻,第1号,p.69-75
【非特許文献5】内海康雄,“換気-通風・気密性(2)換気の基礎理論”,空気調和・衛生工学,公益社団法人空気調和・衛生工学会,2005年2月,第79巻,第2号,p.37-43
【非特許文献6】守谷元一,外6名,“知的環境構築のための測定システムを利用した二酸化炭素濃度予測モデルの評価”,情報処理学会論文誌,一般社団法人情報処理学会,2021年2月,Vol.62,No.2,P.727-736
【非特許文献7】田島昌樹,外2名,“換気測定のための在室者の二酸化炭素呼出量の推定”,日本建築学会環境系論文集,一般社団法人日本建築学会,2016年10月,第81巻,第728号,p.885-892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1-2、及び非特許文献3-7は、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において換気状況を把握して警告等を行うものではない。
そこで本発明は、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において換気が十分か否かを事前に判定できる換気制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の換気制御システムは、閉空間の二酸化炭素濃度を測定するCO
2センサー20と、CO
2センサー20により測定された二酸化炭素濃度を用いて判定値を算出し、判定値に基づいて閉空間の換気が十分か否かを判定する換気判定手段30とを備え、換気判定手段30は、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において二酸化炭素発生量と換気量の比による二酸化炭素飽和濃度を算出し、二酸化炭素飽和濃度を判定値として用いることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の換気制御システムにおいて、換気判定手段30は、二酸化炭素飽和濃度が第一閾値を超えた場合に換気が不十分と判定して事前換気警告を発令し、二酸化炭素飽和濃度が第一閾値を超えてから所定時間内に第一閾値以下となった場合は、事前換気警告を解除することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の換気制御システムにおいて、換気判定手段30は、CO
2センサー20が計測した二酸化炭素濃度の時系列データを各区画に複数の計測値が均等に含まれるように所定間隔で区分し、最新の計測値が存在する区画D+1と、区画D+1の一つ前の区画D0と、区画D0の一つ前の区画D-1のそれぞれにおいて計測値の平均を算出し、区画D0にて二酸化炭素濃度の変化量を区画各々の計測値の平均を用いて算出し、二酸化炭素濃度の変化量を用いて閉空間の1時間当たりの換気回数を算出し、換気回数を用いて二酸化炭素飽和濃度を求めることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の換気制御システムにおいて、換気判定手段30は、算出した換気回数が所定の数値範囲内であるか否かを判定し、所定の数値範囲内と判定した換気回数について所定時間での平均値を算出し、換気回数の平均値である換気回数補正値を用いて二酸化炭素飽和濃度を算出することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の換気制御システムにおいて、換気判定手段30は、換気回数を表すF/V値を下式(1)で算出し、F/V値に基づいて換気回数補正値を表す補正F/V値を算出し、閉空間の容積が未知の状況において補正F/V値を用いて二酸化炭素飽和濃度を下式(2)で算出することを特徴とする。
【数1】
【数2】
F:換気量、V:閉空間の容積、D:二酸化炭素濃度、t:時間[h]、I:二酸化炭素飽和濃度、D
0:計算時の二酸化炭素濃度
請求項6記載の本発明は、請求項4に記載の換気制御システムにおいて、換気判定手段30は、換気回数を表すF/V値を下式(1)で算出し、F/V値に基づいて換気回数補正値を表す補正F/V値を算出し、閉空間の容積が既知の状況において補正F/V値を用いて二酸化炭素発生量を下式(3)で算出し、二酸化炭素飽和濃度を下式(4)で算出することを特徴とする。
【数1】
【数3】
【数4】
F:換気量、V:閉空間の容積、D:二酸化炭素濃度、t:時間[h]、T:時間[min]、M:二酸化炭素発生量、S:外気の二酸化炭素濃度、I:二酸化炭素飽和濃度、D
0:計算時の二酸化炭素濃度
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の換気制御システムにおいて、換気判定手段30が閉空間の換気が不十分と判定した場合に換気を促す表示を行う表示手段40、又は換気判定手段30が閉空間の換気が不十分と判定した場合に換気機器10による換気を開始若しくは強化する換気機器制御手段50の少なくとも一方を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において換気が十分か否かを事前に判定できる換気制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による換気制御システムの概念図
【
図5】同二酸化炭素濃度の変化量算出に係る二酸化炭素濃度の平均値の算出方法を示す図
【
図7】同人が入退室した際の理論的変動環境における二酸化炭素飽和濃度計算値と二酸化炭素濃度計測値の変動イメージ図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による換気制御システムは、閉空間の二酸化炭素濃度を測定するCO2センサーと、CO2センサーにより測定された二酸化炭素濃度を用いて判定値を算出し、判定値に基づいて閉空間の換気が十分か否かを判定する換気判定手段とを備え、換気判定手段は、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において二酸化炭素発生量と換気量の比による二酸化炭素飽和濃度を算出し、二酸化炭素飽和濃度を判定値として用いるものである。
本実施の形態によれば、在室人数と換気量の双方が未知の状況で、室内の二酸化炭素濃度が所定基準に達するよりも早い段階で、事前の適切な換気制御等を行うことができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による換気制御システムにおいて、換気判定手段は、二酸化炭素飽和濃度が第一閾値を超えた場合に換気が不十分と判定して事前換気警告を発令し、二酸化炭素飽和濃度が第一閾値を超えてから所定時間内に第一閾値以下となった場合は、事前換気警告を解除するものである。
本実施の形態によれば、不必要な事前換気警告が継続しないようにすることができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による換気制御システムにおいて、換気判定手段は、CO2センサーが計測した二酸化炭素濃度の時系列データを各区画に複数の計測値が均等に含まれるように所定間隔で区分し、最新の計測値が存在する区画D+1と、区画D+1の一つ前の区画D0と、区画D0の一つ前の区画D-1のそれぞれにおいて計測値の平均を算出し、区画D0にて二酸化炭素濃度の変化量を区画各々の計測値の平均を用いて算出し、二酸化炭素濃度の変化量を用いて閉空間の1時間当たりの換気回数を算出し、換気回数を用いて二酸化炭素飽和濃度を求めるものである。
本実施の形態によれば、二酸化炭素飽和濃度を精度よく算出することができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による換気制御システムにおいて、換気判定手段は、算出した換気回数が所定の数値範囲内であるか否かを判定し、所定の数値範囲内と判定した換気回数について所定時間での平均値を算出し、換気回数の平均値である換気回数補正値を用いて二酸化炭素飽和濃度を算出するものである。
本実施の形態によれば、在室人数と換気量の双方が未知の状況の為、算出した換気回数を平均して補正することで、二酸化炭素飽和濃度を精度よく算出することができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による換気制御システムにおいて、換気判定手段は、換気回数を表すF/V値を式(1)で算出し、F/V値に基づいて換気回数補正値を表す補正F/V値を算出し、閉空間の容積が未知の状況において補正F/V値を用いて二酸化炭素飽和濃度を式(2)で算出するものである。
本実施の形態によれば、閉空間の容積が未知の場合でも二酸化炭素飽和濃度を算出する事ができる。また、t時間後のCO2濃度も算出できる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第4の実施の形態による換気制御システムにおいて、換気判定手段は、換気回数を表すF/V値を式(1)で算出し、F/V値に基づいて換気回数補正値を表す補正F/V値を算出し、閉空間の容積が既知の状況において補正F/V値を用いて二酸化炭素発生量を式(3)で算出し、二酸化炭素飽和濃度を式(4)で算出するものである。
本実施の形態によれば、二酸化炭素濃度の変化量に対するレスポンスを早くして、二酸化炭素飽和濃度を迅速に精度よく算出することができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第6のいずれか一つの実施の形態による換気制御システムにおいて、換気判定手段が閉空間の換気が不十分と判定した場合に換気を促す表示を行う表示手段、又は換気判定手段が閉空間の換気が不十分と判定した場合に換気機器による換気を開始若しくは強化する換気機器制御手段の少なくとも一方を備えるものである。
本実施の形態によれば、早い段階で室内が換気されるため、二酸化炭素濃度が所定基準に達するのを防止することができる。
【実施例0016】
以下、本発明の一実施例による換気制御システムについて説明する。
図1は本実施例による換気制御システムの概念図、
図2は表示手段の表示例を示す図である。なお、
図1において、実線矢印は有線通信を示し、点線矢印は無線通信を表している。
換気制御システムは、閉空間を換気する換気扇又は全熱交換器等の換気機器10と、閉空間の二酸化炭素濃度を測定するCO
2センサー20と、閉空間の換気が十分か否かを判定する換気判定手段30と、換気に関する表示を行うLCDディスプレイ等の表示手段40と、換気機器10を制御する換気機器制御手段50を備える。本実施例においては、換気判定手段30としてパソコンを用い、換気機器制御手段50はCO
2センサー20と一体に設けている。また、閉空間とは、例えば窓付きの部屋等である。
換気機器10と換気機器制御手段50は有線接続されており、換気機器10のオン/オフ動作及び風量調節は、換気機器制御手段50から送信された制御信号に基づいて制御される。
また、換気判定手段30から無線通信にて換気機器10のオン/オフ動作制御を行う事もできる。
CO
2センサー20と換気判定手段30とは無線での双方向通信が可能となっており、CO
2センサー20から換気判定手段30へは二酸化炭素濃度の計測値が送信され、換気判定手段30からCO
2センサー20へは換気が十分か否かに関する判定結果が送信される。
換気判定手段30と表示手段40は有線接続されており、表示手段40は、換気判定手段30から送信された二酸化炭素濃度の測定値、所定時間後の二酸化炭素濃度の予測値、及び換気状態の表示内容に関するデータに基づく表示を行う。例えば、
図2(a)に示すように、受信した二酸化炭素濃度の測定値に基づいて二酸化炭素濃度[ppm]等を表示すると共に、換気状態として「良好」を表示する。
【0017】
図3は換気判定手段30による判定方法のフロー図である。
換気判定手段30は、閉空間の在室人数及び換気量が未知の状況において、CO
2センサー20により測定された二酸化炭素濃度を用いて、二酸化炭素発生量と換気量の比による二酸化炭素飽和濃度を算出する。また、換気判定手段30は、この二酸化炭素飽和濃度を、事前換気警告等を行うか否かの判定値として用いる。
換気判定手段30は、ザイデルの濃度計算式を変形して二酸化炭素飽和濃度の算出に用いる。下式(5)はザイデルの濃度計算式である。
【数5】
C
t:t時間後の二酸化炭素濃度[ppm]
C
S:予測時の二酸化炭素濃度[ppm]
C
O:外気の二酸化炭素濃度[ppm]
Q:換気量[m
3/h]
V:閉空間の容積[m
3]
M:二酸化炭素発生量[cc/h又はml/h(m
3/h*10
-6)]
t:時間[h]
本発明では、t時間後の二酸化炭素濃度をD
t[ppm]、予測時の二酸化炭素濃度をD
0[ppm]、外気の二酸化炭素濃度をS[ppm]、換気量をF[m
3/h]と置き換え、下式(6)とする。
【数6】
【0018】
換気判定手段30は、例えば深夜など閉空間に人が不在となる時間帯にCO
2センサー20によって取得された二酸化炭素濃度の1時間毎の平均を算出して、算出値を外気のCO
2濃度値(最小濃度値)Sとする(ステップS1)。
ここで、
図4は二酸化炭素飽和濃度推定の概念図である。
密閉容積Vの閉空間においては、在室人数N等に基づく二酸化炭素発生量Mによって二酸化炭素濃度が変化する。
図4には、ザイデルの濃度計算式での二酸化炭素濃度の変化を実線で示している。ザイデルの濃度計算式を用いることでt時間後の二酸化炭素濃度を推定できるが、従来は、換気量Fと在室人数Nの少なくとも一方を既知として推定している。一方、本発明においては、換気量F及び在室人数Nが未知の状態で二酸化炭素発生量Mと換気量Fの比による二酸化炭素飽和濃度(残留量)Iを求め、二酸化炭素飽和濃度Iに基づいて換気が十分か否を判断する。このため、在室人数Nと換気量Fの双方が未知の状況で、室内の二酸化炭素濃度が例えば1000ppmなどの所定基準に達する前に、事前警告を発令したり適切な換気制御を行ったりすることができる。
二酸化炭素飽和濃度Iは、閉空間の容積Vにて、予測時の二酸化炭素濃度D
0における二酸化炭素発生量Mと換気量Fを基にした想定飽和濃度値であり、すなわち、この状況が継続すると二酸化炭素濃度が二酸化炭素飽和濃度Iに達することを示している。二酸化炭素飽和濃度Iは、
図4に示す関係によりI=S+M/Fと表される。
これよりt時間後の二酸化炭素濃度D
tを下式(7)と表すことができる。
【数7】
図4に示すように二酸化炭素濃度D
0は各種予測時点での濃度値であり、その近傍における太線は予測時の二酸化炭素濃度D
0での二酸化炭素濃度の変化量として上昇度を示す傾き(微分特性)を示している。式(7)を時間tで微分すると下式(8)となる。
【数8】
t=0時は、下式(9)となる。
【数9】
【0019】
図3に戻り、CO
2センサー20の計測値には測定誤差があり、また閉空間内の空気循環は一様でないため、T分間内のn個の計測値を平均化して区間D+1、D0、D-1における二酸化炭素濃度を算出し、二酸化炭素濃度の変化量算出に用いる(ステップS2)。これにより、二酸化炭素飽和濃度Iを精度よく算出することができる。
区画D+1は最新の計測値を含む区画であり、区画D0は区画D+1の一つ前の区画、区画D-1は区画D0の一つ前の区画である。
図5は二酸化炭素濃度の変化量算出に係る二酸化炭素濃度の平均値の算出方法を示す図であり、
図5(a)は第一の算出法、
図5(b)は第二の算出法である。
第一の算出法は縦列n点平均法であり、
図5(a)には3点平均とした場合の例を示している。CO
2センサー20は、例えば1分間隔で二酸化炭素濃度を計測する。
換気判定手段30は、CO
2センサー20が計測した二酸化炭素濃度の時系列データを、各区画に均等に複数(本実施例では3点)の計測値が含まれるように所定間隔で区分し、区間D+1、D0、D-1のそれぞれにおける平均二酸化炭素濃度を算出する。
また、換気判定手段30は、区間D+1に存在する最新の二酸化炭素濃度計測値と区間D-1の中での最後の二酸化炭素濃度計測値との時間差(例ではΔ6分)の中間点を、二酸化炭素飽和濃度Iの予測値算出点とし、二酸化炭素濃度の変化量ΔD/Δtを下式(10)を用いて算出する。なお、ΔTの単位は分(min)である。
【数10】
【0020】
第二の算出法は重なり合うn点平均法であり、
図5(b)には5点平均とした場合の例を示している。CO
2センサー20は、例えば1分間隔で二酸化炭素濃度を計測する。
換気判定手段30は、CO
2センサー20が計測した二酸化炭素濃度の時系列データを、各区画に複数(本実施例では5点)の計測値が含まれ、かつ各区間で計測値が複数(本実施例では3点)重複するように所定間隔で区分し、各区間での平均二酸化炭素濃度を算出する。
また、換気判定手段30は、区間D+1に存在する最新の二酸化炭素濃度計測値と区間D-1の中での最後の二酸化炭素濃度計測値との時間差(例ではΔ4分)の中間点を、二酸化炭素飽和濃度Iの予測値算出点とし、二酸化炭素濃度の変化量ΔD/Δtを式(10)を用いて算出する。
第二の算出法は、第一の算出法に比べて、区間D+1、D0、D-1の間隔Δtを小さくしてより計算反応速度を上げることができる。
このように、換気判定手段30は、CO
2センサー20が計測した二酸化炭素濃度の時系列データを各区画に複数の計測値が均等に含まれるように所定間隔で区分し、最新の計測値が存在する区画D+1と、区画D+1の一つ前の区画D0と、区画D0の一つ前の区画D-1のそれぞれにおいて計測値の平均を算出し、区画D0にて二酸化炭素濃度の変化量を区画各々の計測値の平均を用いて算出する。
【0021】
図3に戻り、ステップS2の後、閉空間(室内)の1時間当たりの換気回数を表すF/V値を算出する(ステップS3)。F/V値の算出は以下のように行う。
式(7)を2階微分すると下式(11)となる。
【数11】
t=0時は、下式(12)、(13)となる。
【数12】
【数13】
式(12)/式(9)として下式(1)よりF/V値を求める。
【数1】
【0022】
ステップS3の後、在室人数と換気量の双方が未知の状況の為、補正F/V値として、所定時間におけるF/V値の平均値を算出する(ステップS4)。
図6は補正F/V値の算出方法のフロー図である。
まず、閉空間に設置されている換気機器10などの換気設備状況に応じて、予めF/V値の算出有効範囲を設定する(ステップS4-1)。F/V値の算出有効範囲は、例えば、閉空間が自然換気の場合は低めに設定し、機械換気の場合は自然換気の場合よりも高く設定する。
ステップS4-1の後、二酸化炭素濃度計測値を基に、式(1)を用いてF/V値を求める(ステップS4-2)。
ステップS4-2の後、算出したF/V値が算出有効範囲内か否かを判定する(ステップS4-3)。
ステップS4-3において算出有効範囲内である(Yes)と判定された場合は、算出したF/V値を有効数値に分類する(S4-4)。有効数値は、所定時間分(例えば24時間分)のF/V値の平均を算出する際のデータに加えられる。
一方、ステップS4-3において算出有効範囲内ではない(No)と判定された場合は、算出したF/V値を無効数値に分類する(S4-5)。無効数値は、所定時間分のF/V値の平均を算出する際のデータに加えられない。
そして、有効数値に分類されたF/V値について所定時間での平均を算出して補正F/V値とする。
このように、所定の数値範囲内であるとして有効数値に分類されたF/V値のみで補正F/V値(所定時間分のF/V平均)を求めることで、在室人数と換気量の双方が未知の状況下において、二酸化炭素飽和濃度Iを更に精度よく算出することができる。
【0023】
図3に戻り、ステップS4の後、閉空間の容積Vが既知か否かを判定する(ステップS5)。
ステップS5において閉空間の容積Vが既知でない(No)、すなわち未知と判定した場合は、式(1)を式(9)に代入して下式(2)より二酸化炭素飽和濃度Iを求める(ステップS6)。これにより閉空間の容積Vが未知の場合でも、二酸化炭素飽和濃度Iを算出することができる。
【数2】
【0024】
また、ステップS6の後、式(7)を利用した下式(14)よりT分後の二酸化炭素濃度の予測値を算出する(ステップS7)。予測したT分後の二酸化炭素濃度値は、
図2(d)に示すように、表示手段40に表示することができる。なお、
図2(d)では5分後の二酸化炭素濃度予測値が表示されている。
【数14】
【0025】
一方、ステップS5において閉空間の容積Vが既知である(Yes)と判定した場合は、I=S+M/Fを変形した下式(15)、又は式(2)と式(10)を代入して下式(16)により、二酸化炭素発生量Mを求めることができる(ステップS8)。
【数15】
【数16】
式(16)を式(15)に代入して下式(17)により二酸化炭素飽和濃度Iが求められる(ステップS9)。これにより、二酸化炭素飽和濃度Iを精度よく算出することができる。
【数17】
【0026】
また、1人当たりの二酸化炭素発生量kが一定であれば、下式(18)により閉空間における在室人数Nが求められる。なお、1人当たりの呼気に含まれる二酸化炭素発生量kは、年齢等に応じた体格や行動形態、性別などによって異なるが、下表1に平均値を示す。なお、「安静時」とはじっとしている時や睡眠時であり、「極軽作業」とは一般的なデスクワークや授業であり、「軽作業」とは書類など軽いものを運ぶ作業である。
【数18】
k:1人当たりの二酸化炭素発生量[m
3/(h*人)]
N:在室人数
【表1】
【0027】
また、ステップS8における二酸化炭素発生量Mの算出と、ステップS9における二酸化炭素飽和濃度Iの算出は、他の計算法で行うこともできる。
この場合、ステップS8においては、式変形前の式(6)と式(1)より下式(3)を用いて二酸化炭素発生量Mを求める。
【数3】
また、式(3)を式(18)に代入して在室人数Nが求められる。
また、ステップS9においては、式(3)を式(15)に代入して下式(4)により二酸化炭素飽和濃度Iが求められる。
【数4】
【0028】
また、二酸化炭素発生量M=0の時は、式(6)より下式(19)にてF/V値を求めることができる。
【数19】
【0029】
ステップS6又はステップS9の後、二酸化炭素飽和濃度Iに関する第一閾値を設定する(ステップS10)。第一閾値は、二酸化炭素濃度が高まる前に換気警告の発令や換気機器10の強化等を行うか否かの判定に用いる閾値であり、換気機器制御システムが設置されている閉空間の用途等に基づいて、例えば1000ppmなどとする。
次に、算出した二酸化炭素飽和濃度Iが第一閾値を超えるか否かを判定する(ステップS11)。
ステップS11において二酸化炭素飽和濃度Iが第一閾値以下(No)と判定された場合は、事前換気警告を発令しない(ステップS12)。表示手段40には、
図2(a)に示すように、換気状態が良好である旨が表示される。また、換気機器10の制御と連動させている場合は、換気判定手段30から送信された判定結果を受信した換気機器制御手段50は、換気機器10がそれまでオフの状態であった場合はその状態を維持し、換気機器10がそれまでオンの状態であった場合は換気機器10をオフにするか又は換気モードをより弱いモードに切り替える。
一方、ステップS11において二酸化炭素飽和濃度Iが第一閾値を超える(Yes)と判定された場合は、事前換気警告を発令する(ステップS13)。換気機器10の制御と連動させていない場合に事前換気警告が発令されると、表示手段40には、
図2(b)に示すように、換気を促す旨が表示される。なお、音又は警告灯の明滅等による警告を発令することもできる。また、換気機器10の制御と連動させている場合に事前換気警告が発令されると、換気判定手段30から送信された判定結果を受信した換気機器制御手段50は、換気機器10がそれまでオフであった場合は換気機器10をオンにし、換気機器10がそれまでオンであった場合は換気モードをより強いモードに切り替える。また、表示手段40には、
図2(c)に示すように、換気機器10が自動運転中である旨が表示される。
尚、換気機器制御手段50を介さず、換気判定手段30からダイレクトに無線通信にて換気機器10のオン/オフ動作制御を行う事もできる。
これにより、早い段階で室内が換気されるため、二酸化炭素濃度が所定基準に達するのを防止することができ、室内空気質(IAQ)の快適な環境を提供することができる。
【0030】
図7は人が入退室した際の理論的変動環境における二酸化炭素飽和濃度(計算値)と二酸化炭素濃度(計測値)の変動イメージ図であり、
図7(a)は二酸化炭素発生源となる人の変動の例を示し、
図7(b)は二酸化炭素飽和濃度と第一閾値に基づく警告の発令と解除の例を示している。
図7(a)において縦軸は人数で横軸は時間であり、
図7(b)において縦軸は濃度で横軸は時間である。
図7(a)は、人が入室してから約60分後に退出した様子を示している。人は呼吸するため二酸化炭素の発生源となる。
図7(b)には二つの第一閾値を点線で示しており、高い方の第一閾値(第一閾値「高」)は例えば1200ppm、低い方の第一閾値(第一閾値「低」)は例えば1000ppmである。なお、基本的に第一閾値は複数設定するのではなく、第一閾値「高」の方、又は第一閾値「低」の方など、一つだけ設定する。また、理論的変動環境において実線は算出した二酸化炭素飽和濃度I[ppm]を示し、一点鎖線は計測した二酸化炭素濃度 [ppm]を示している。
図3に示すように、ステップS13の後、二酸化炭素飽和濃度Iが最初に第一閾値を超えたときから所定時間継続して第一閾値を超えたか否かを判定する(ステップS14)。所定時間は例えば5分間に設定する。
ステップS14において所定時間継続して第一閾値を超えなかった(No)、すなわち二酸化炭素飽和濃度Iが所定時間内に第一閾値以下となったと判定した場合は、警告を解除する(ステップS15)。一方、ステップS14において所定時間継続して第一閾値を超えた(Yes)と判定した場合は、警告を維持する(ステップS16)。
図7の例では、第一閾値を「高」に設定している場合は、二酸化炭素飽和濃度Iは最初に第一閾値を超えた時点から5分以内に第一閾値以下となっているため、警告が解除される。これに対し、第一閾値を「低」に設定している場合は、二酸化炭素飽和濃度Iは最初に第一閾値を超えた時点から5分を超えても第一閾値を上回っているため、警告が解除されない。
このように、二酸化炭素飽和濃度Iを基に、事前換気警告や換気機器10の制御を行うことで、二酸化炭素濃度が第一閾値を超える前(
図7では30分前程度)に換気を促したり換気機器10の運転を強化したりすることなどができる。
また、微分特性上、算出した二酸化炭素飽和濃度Iにはオーバーシュートが生じるため、ステップS14を設けて警告を維持するか否かを決定することで、不必要な警告が継続しないようにすることができる。
【0031】
ステップS16の後、二酸化炭素飽和濃度Iが第二閾値未満か否かを判定する(ステップS17)。第二閾値は第一閾値よりも低く、例えば600ppmに設定する。
ステップS17において二酸化炭素飽和濃度Iが第二閾値以上である(No)と判定した場合は、警告を維持する(ステップS18)。
一方、ステップS17において二酸化炭素飽和濃度Iが第二閾値未満である(Yes)と判定した場合は、警告を解除する(ステップS19)。
このように、二酸化炭素飽和濃度Iが所定時間内に第一閾値以下とならなかった場合においては、適切な換気が行われること等によって二酸化炭素飽和濃度Iが第二閾値未満となれば事前換気警告が解除される。