(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073579
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】生体吸収性粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 47/42 20170101AFI20230519BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230519BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
A61K47/42
A61K47/36
A61K9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186120
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小谷 知希
(72)【発明者】
【氏名】平岡 陽介
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076BB11
4C076EE36A
4C076EE42A
4C076FF70
(57)【要約】
【課題】注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができ、簡便且つ効率的に製造可能である、注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子であって、前記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、前記生体吸収性粒子のD95は、300μm以下であり、前記生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である、生体吸収性粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子であって、
前記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD95は、300μm以下であり、
前記生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である、生体吸収性粒子。
【請求項2】
前記注射針は、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかであり、
前記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上290μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD10は、55μm以下である、請求項1に記載の生体吸収性粒子。
【請求項3】
前記注射針は、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかであり、
前記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上60μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上120μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD10は、30μm以下である、請求項1に記載の生体吸収性粒子。
【請求項4】
前記注射針は、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかであり、
前記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上55μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上80μm以下であり、
前記生体吸収性粒子のD10は、20μm以下である、請求項1に記載の生体吸収性粒子。
【請求項5】
水に前記生体吸収性粒子を5w/v%の割合で含有した第1液体において、
前記第1液体を300rpm、1分間撹拌し、その後1分間静置させた場合の滞留率が、60%以上である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の生体吸収性粒子。
【請求項6】
前記生体吸収性粒子のかさ密度は、0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の生体吸収性粒子。
【請求項7】
前記生体吸収性粒子は、ゼラチン、アルギン酸、およびアルギン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種で構成される、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の生体吸収性粒子。
【請求項8】
前記ゼラチンは、ゼラチン加水分解物である、請求項7に記載の生体吸収性粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体吸収性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、生理食塩水などに医薬品を懸濁させた医薬品懸濁液や、生理食塩水などに移植用の細胞を懸濁させた細胞懸濁液を、局所部位に投与する方法が知られている(非特許文献1)。また、上記方法に用いられる補助剤として、ゼラチン粒子などの生体吸収性粒子が用いられることが知られている(特許文献1)。また、特許文献2は、中実球状で、且つ、円形度が0.8以上であるゼラチン粒子(生体吸収性粒子)を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-19719号公報
【特許文献2】特開2014-58466号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Laurila JP et al.,”Human embryonic stem cell-derived mesenchymal stromal cell transplantation in a rat hind limb injury model”,Cytotherapy,11,726-737,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、生理食塩水などに医薬品を懸濁させた医薬品懸濁液や、生理食塩水などに移植用の細胞を懸濁させた細胞懸濁液を、注射液として注射器を用いて局所部位に投与する際、該注射液の液戻りに起因して、該局所部位からの該注射液の液漏れが生じることがあった。特に、生理食塩水を含む懸濁液を、注射器を用いて局所部位に投与する場合、該液戻りが生じやすい傾向がある為、該局所部位からの該注射液の液漏れが生じやすい傾向があった。
【0006】
そこで、本開示は、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができ、簡便且つ効率的に製造可能である、注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る生体吸収性粒子は、
注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子であって、
該生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、
該生体吸収性粒子のD95は、300μm以下であり、
該生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができ、簡便且つ効率的に製造可能である、注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る生体吸収性粒子は、
注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子であって、
該生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、
該生体吸収性粒子のD95は、300μm以下であり、
該生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である。
【0010】
本開示の生体吸収性粒子は、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、該生体吸収性粒子を含む注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができ、簡便且つ効率的に製造可能である。
【0011】
[2]上記注射針は、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかであり、
上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、
上記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上290μm以下であり、
上記生体吸収性粒子のD10は、55μm以下であることが好ましい。このような生体吸収性粒子を注射液に用いることによって、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される該注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0012】
[3]上記注射針は、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかであり、
上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上60μm以下であり、
上記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上120μm以下であり、
上記生体吸収性粒子のD10は、30μm以下であることが好ましい。このような生体吸収性粒子を注射液に用いることによって、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される該注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0013】
[4]上記注射針は、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかであり、
上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上55μm以下であり、
上記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上80μm以下であり、
上記生体吸収性粒子のD10は、20μm以下であることが好ましい。このような生体吸収性粒子を注射液に用いることによって、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される該注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0014】
[5]水に上記生体吸収性粒子を5w/v%の割合で含有した第1液体において、
該第1液体を300rpm、1分間撹拌し、その後1分間静置させた場合の滞留率が、60%以上であることが好ましい。このような生体吸収性粒子を注射液に用いることによって、注射針とシリンジとを備える注射器に充填される該注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0015】
[6]上記生体吸収性粒子のかさ密度は、0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であることが好ましい。これによって、生体吸収性粒子は凝集しにくく、且つ、一定時間以上注射液中に滞留した状態を維持できるため、安定した液漏れ抑制効果を得ることができる。
【0016】
[7]上記生体吸収性粒子は、ゼラチン、アルギン酸、およびアルギン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。これによって、液漏れを抑制し、且つ、毒性をほとんど示すことなく生体に吸収されるため、より安全に液漏れ抑制効果を得ることができる。
【0017】
[8]上記ゼラチンは、ゼラチン加水分解物であることが好ましい。これによって、より安全に液漏れ抑制効果を得ることができる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
[実施形態1:生体吸収性粒子]
本実施形態に係る生体吸収性粒子は、
注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子であって、
該生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、
該生体吸収性粒子のD95は、300μm以下であり、
該生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である。
【0020】
本開示の生体吸収性粒子は、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することが可能であり、簡便且つ効率的に製造可能である。その理由は、以下の通りと推察される。
【0021】
(a)上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD95は、300μm以下である。これによって、注射針の太さと生体吸収性粒子の粒度分布との関係で、生体吸収性粒子は注射針を閉塞しにくい。また、注射後に注射針を抜いた際、注射液中に分散した粒子が速やかに穿刺部に移動するため、注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができる。
【0022】
(b)上記(a)の通り、上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD95は、300μm以下である。上記(a)の通り、上記D50および上記D95を有する生体吸収性粒子を用いる場合、生体吸収性粒子は注射針を閉塞しにくく、注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができる。しかしながら、生体吸収性粒子の製造において、従来から、生理食塩水などの含浸液の吸収に起因する膨潤に対して高い保形性を備える目的で、真球に近い高い円形度を備えさせる場合があった。そのため、そのような生体吸収性粒子を得るためには、W/O分散法をはじめとする造粒法を用いた煩雑な工程が必要であった。
【0023】
しかし、本実施形態の生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である。このような生体吸収性粒子の製造には、上記のような造粒法を要しないため、このような生体吸収性粒子は簡便、且つ、効率的に製造可能である。
【0024】
なお、注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制する為には、生体吸収性粒子の「粒度分布」を所望の範囲内とすることが重要であって、生体吸収性粒子の「平均円形度」が0.5以上0.8未満であっても、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制する効果を損なうものではない。その理由は、液漏れ抑制効果には粒度分布が重要であり、平均円形度0.5以上0.8未満である粒子の形状は、粒度分布測定の正確性を大きく阻害しない為と推察される。
【0025】
すなわち、本開示の生体吸収性粒子は、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができ、簡便且つ効率的に製造することができる。
【0026】
≪注射器≫
本実施形態に係る注射器(以下、単に「注射器」という場合がある。)は、注射針とシリンジとを備える。また、本開示の注射器は、更に注射針とシリンジとを接続するカテーテルなどを含んでも良い。
【0027】
<注射針>
本実施形態の注射針は、この種の注射針として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、上記注射針は、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、26G注射針、27G注射針、28G注射針、29G注射針、30G注射針、31G注射針、および32G注射針からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
【0028】
21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、および26G注射針は、懸濁細胞の移植や細胞治療薬の局所投与、ウイルス製剤の局所投与等に用いられることが好ましい。また、27G注射針、28G注射針、および29G注射針は、抗体医薬の局所投与等に用いられることが好ましい。また、30G注射針、31G注射針、および32G注射針は、硝子体内注射などの眼科領域における治療等に用いられることが好ましい。但し、これらの説明は、各注射針の使用用途を制限するものではない。
【0029】
上記21G注射針の外径は、0.81mm(公差:±0.02mm)である。また、上記21G注射針の内径は、0.51mm(公差:±0.03mm)である。
【0030】
上記22G注射針の外径は、0.72mm(公差:±0.02mm)である。また、上記22G注射針の内径は、0.41mm(公差:±0.03mm)である。
【0031】
上記23G注射針の外径は、0.64mm(公差:±0.02mm)である。また、上記23G注射針の内径は、0.35mm(公差:±0.03mm)である。
【0032】
上記24G注射針の外径は、0.56mm(公差:±0.02mm)である。また、上記24G注射針の内径は、0.30mm(公差:±0.03mm)である。
【0033】
上記25G注射針の外径は、0.51mm(公差:±0.02mm)である。また、上記25G注射針の内径は、0.25mm(公差:±0.03mm)である。
【0034】
上記26G注射針の外径は、0.46mm(公差:±0.02mm)である。また、上記26G注射針の内径は、0.26mm(公差:±0.03mm)である。
【0035】
上記27G注射針の外径は、0.41mm(公差:±0.02mm)である。また、上記27G注射針の内径は、0.22mm(公差:±0.03mm)である。
【0036】
上記28G注射針の外径は、0.36mm(公差:±0.02mm)である。また、上記28G注射針の内径は、0.17mm(公差:±0.03mm)である。
【0037】
上記29G注射針の外径は、0.33mm(公差:±0.02mm)である。また、上記29G注射針の内径は、0.15mm(公差:±0.03mm)である。
【0038】
上記30G注射針の外径は、0.31mm(公差:±0.02mm)である。また、上記30G注射針の内径は、0.12mm(公差:±0.03mm)である。
【0039】
上記31G注射針の外径は、0.27mm(公差:±0.02mm)である。また、上記31G注射針の内径は、0.10mm(公差:±0.03mm)である。
【0040】
上記32G注射針の外径は、0.23mm(公差:±0.02mm)である。また、上記32G注射針の内径は、0.08mm(公差:±0.03mm)である。
【0041】
<シリンジ>
本実施形態のシリンジとしては、この種のシリンジとして従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。上記シリンジは、例えば、バレル、ルアーロック、フィンガーグリップ、プランジャーロッド、ピストン、チップキャップなどを含んでも良い。
【0042】
≪生体吸収性粒子≫
本願明細書において、「生体吸収性粒子」とは、生体内に投与された後、毒性を示すことなく一定期間で分解され、吸収される粒子を意味する。
【0043】
上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、該生体吸収性粒子のD95は、300μm以下である。これによって、注射針の太さと生体吸収性粒子の粒度分布との関係で、生体吸収性粒子は注射針を閉塞しにくい。また、注射後に注射針を抜いた際、注射液中に分散した粒子が速やかに穿刺部に移動するため、注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができる。
【0044】
ここで、上記生体吸収性粒子のD50は、該生体吸収性粒子について、レーザ回析/散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックT3200II、マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて積算分布を測定し(測定時間10秒)、累積50%径の値を読み取ることにより求められる。
【0045】
また、ここで、D95は、該生体吸収性粒子について、レーザ回析/散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックT3200II、マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて積算分布を測定し(測定時間10秒)、累積95%径を読み取ることにより求められる。
【0046】
上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上140μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上290μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD10は、55μm以下であることが好ましい。これによって、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、26G注射針の内径を有する注射針が該生体吸収性粒子によって閉塞されることなく、注射後に注射針を抜いた際、注射液中に分散した粒子が速やかに穿刺部に移動し易くなるため、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0047】
ここで、上記生体吸収性粒子のD10は、該生体吸収性粒子について、レーザ回析/散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックT3200II、マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて積算分布を測定し(測定時間10秒)、累積10%径の値を読み取ることにより求められる。
【0048】
また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50の下限は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50の上限は、130μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50は、20μm以上130μm以下であることが好ましく、25μm以上120μm以下であることがより好ましい。
【0049】
また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95の下限は、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95の上限は、280μm以下であることが好ましく、270μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95は、30μm以上280μm以下であることが好ましく、40μm以上270μm以下であることがより好ましい。
【0050】
また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10の下限は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10の上限は、50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、21G注射針、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針、または26G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上45μm以下であることがより好ましい。
【0051】
上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上60μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上120μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD10は、30μm以下であることが好ましい。これによって、27G注射針、28G注射針、29G注射針の内径を有する注射針が該生体吸収性粒子によって閉塞されることなく、注射後に注射針を抜いた際、注射液中に分散した粒子が速やかに穿刺部に移動し易くなる為、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0052】
また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50の下限は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50の上限は、50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50は、20μm以上50μm以下であることが好ましく、25μm以上45μm以下であることがより好ましい。
【0053】
また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95の下限は、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95の上限は、110μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95は、30μm以上110μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0054】
また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10の下限は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10の上限は、28μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、27G注射針、28G注射針、または29G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10は、5μm以上28μm以下であることが好ましく、10μm以上26μm以下であることがより好ましい。
【0055】
上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記生体吸収性粒子のD50は、10μm以上55μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD95は、20μm以上80μm以下であり、上記生体吸収性粒子のD10は、20μm以下であることが好ましい。これによって、30G注射針、31G注射針、32G注射針の内径を有する注射針が該生体吸収性粒子によって閉塞されることなく、注射後に注射針を抜いた際、注射液中に分散した粒子が速やかに穿刺部に移動し易くなる為、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液を局所部位に投与する際、該局所部位からの該注射液の液漏れを更に抑制することができる。
【0056】
また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50の下限は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50の上限は、50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D50は、20μm以上50μm以下であることが好ましく、25μm以上45μm以下であることがより好ましい。
【0057】
また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95の下限は、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95の上限は、70μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D95は、30μm以上70μm以下であることが好ましく、40μm以上60μm以下であることがより好ましい。
【0058】
また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10の下限は、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10の上限は、18μm以下であることが好ましく、16μm以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子が、30G注射針、31G注射針、または32G注射針のいずれかとシリンジとを備える注射器に充填される注射液用の生体吸収性粒子である場合は、上記D10は、5μm以上18μm以下であることが好ましく、8μm以上16μm以下であることがより好ましい。
【0059】
<平均円形度>
上記生体吸収性粒子の平均円形度は、0.5以上0.8未満である。ここで「円形度」とは、2次元に投影した粒子面積(S)と粒子周囲長(L)とにより、4πS/L2の式によって得られる。これによって、このような生体吸収性粒子の製造において、W/O分散法をはじめとする造粒法を用いた煩雑な工程を必要としないため、このような生体吸収性粒子は簡便、且つ、効率的に製造可能である。また、上記生体吸収性粒子の平均円形度の下限は、0.55以上であることが好ましく、0.59以上であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子の平均円形度の上限は、0.78以下であることが好ましく、0.75以下であることがより好ましい。また、上記生体吸収性粒子の平均円形度は、0.55以上0.78以下であることが好ましく、0.59以上0.75以下であることがより好ましい。
【0060】
上記平均円形度は、以下の方法により求められる。先ず、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製)を用いて任意の生体吸収性粒子を投影することにより、投影画像を得る。次いで、該投影画像について、画像解析ソフト「Image J」を用いて粒子面積(S)および周囲長(L)を得る。次いで、4πS/L2の式により任意の生体吸収性粒子の円形度を得る。任意の5個の生体吸収性粒子の円形度の平均を算出することにより、上記平均円形度を求めることができる。
【0061】
<滞留率>
水に生体吸収性粒子を5w/v%の割合で含有した第1液体において、該第1液体を300rpm、1分間撹拌し、その後1分間静置させた場合の滞留率が、60%以上であることが好ましい。ここで、滞留率とは、撹拌直後に液中に滞留している粒子濃度を100%とした場合に、撹拌直後一定時間静置させた時点において液中に滞留している粒子濃度を意味する。これによって、生体吸収性粒子は注射液とともにシリンジから該局所部位へ送達され、注射後に粒子が速やかに穿刺部に移動する為、注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液を局所部位に投与する際、該注射液の該局所部位からの漏出を更に防ぐことができる。また、上記滞留率の下限は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、上記滞留率の上限は、可能な限り100%に近いことが好ましい。また、製造上の観点から、上記滞留率の上限は、99%以下、98%以下、97%以下とすることができる。また、後述する「吸光度1」および後述する「吸光度2」の測定の誤差の観点から、上記滞留率が稀に100%を上回る場合があるため、上記滞留率の上限は101%以下とすることができる。
【0062】
上記滞留率は、以下の方法により求められる。先ず、生体吸収性粒子を5w/v%の割合で含有した第1液体を作製する。次いで、第1液体を300rpm、1分間撹拌した直後、該第1液体3.0mLをプラスチックセルに投入し、投入直後の第1液体の吸光度(波長:600nm)を測定することにより、「吸光度1」を得る。次いで、該第1液体を該プラスチックセル中で上記測定直後から1分間静置する。上記静置直後に、該第1液体の吸光度(波長:600nm)を測定することにより、「吸光度2」を得る。次いで、計算式「(水に生体吸収性粒子を5w/v%の割合で含有した第1液体において、該第1液体を300rpm、1分間撹拌し、その後1分間静置させた場合の滞留率)=100×(吸光度2)/(吸光度1)」に代入することにより、上記滞留率を求めることができる。
【0063】
<かさ密度>
上記生体吸収性粒子のかさ密度は、0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であることが好ましい。これによって、該生体吸収性粒子どうしの凝集が起きにくく、且つ、撹拌直後からの滞留率の経時的な低下を抑制することができる。また、上記かさ密度の下限は、0.4g/cm3以上であることが好ましく、0.45g/cm3以上であることがより好ましい。また、上記かさ密度の上限は、0.68g/cm3以下であることが好ましく、0.65g/cm3以下であることがより好ましい。また、上記かさ密度は、0.4g/cm3以上0.68g/cm3以下であることが好ましく、0.45g/cm3以上0.65g/cm3以下であることがより好ましい。
【0064】
上記かさ密度は、100mLメスシリンダーに粒子を入れて重量を測定し、重量(g)を体積(cm3)で除することにより求められる。
【0065】
上記生体吸収性粒子は、ゼラチン、アルギン酸、およびアルギン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。これによって、該生体吸収性粒子は、特に安全性が高いため、毒性を示すことなく生体内で分解され、安全に吸収され易くなる。
【0066】
<ゼラチン>
本願明細書において、「ゼラチン」とは、コラーゲンの三重らせん構造が熱変性、酸変性等によってほどけたポリペプチド、その化学修飾体およびその薬学上許容される塩を意味する。具体的には、以下の第1群~第6群からなる群より選ばれる少なくとも1種を由来とするコラーゲンを、脱脂処理、脱灰処理、酸またはアルカリ処理、熱水抽出処理等の従来公知の処理を施すことにより得ることができる。ゼラチンは、微生物を用いた発酵法により得たポリペプチド、化学合成または遺伝子組換え操作により得たリコンビナントポリペプチドまたは合成されたポリペプチドであってもよい。また「コラーゲン」とは、以下の第1群~第6群に分類される脊椎動物の皮膚などにおける細胞外基質を由来とするタンパク質をいう。コラーゲンは、3本のペプチド鎖からなる右巻きのらせん構造を有し、そのペプチド鎖を構成するアミノ酸残基は、グリシン残基が3残基ごとに繰り返される一次構造(所謂コラーゲン様配列)を有している。
第1群:牛の皮、皮膚、骨、軟骨および腱からなる群
第2群:豚の皮、皮膚、骨、軟骨および腱からなる群
第3群:羊の皮、皮膚、骨、軟骨および腱からなる群
第4群:鶏の皮、皮膚、骨、軟骨および腱からなる群
第5群:ダチョウの皮、皮膚、骨、軟骨および腱からなる群
第6群:魚の骨、皮および鱗からなる群。
【0067】
ここで上記ポリペプチド(ゼラチン)の「化学修飾体」とは、ゼラチンを構成するアミノ酸残基におけるアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基またはチオール基等が化学修飾されたポリペプチドを意味する。化学修飾を受けたゼラチンは、水に対する溶解性、等電点などを変化させることができる。具体的には、ゼラチンにおけるヒドロキシプロリン
残基のヒドロキシ基に対しては、O-アセチル化などの化学修飾を実行することができる。ゼラチンにおけるグリシン残基のα-カルボキシル基に対しては、エステル化、アミド化などの化学修飾を実行することができる。ゼラチンにおけるプロリン残基のα-アミノ基に対しては、ポリペプチジル化、スクシニル化、マレイル化、アセチル化、脱アミノ化、ベンゾイル化、アルキルスルホニル化、アリルスルホニル化、ジニトロフェニル化、トリニトロフェニル化、カルバミル化、フェニルカルバミル化、チオール化などの化学修飾を実行することができる。
【0068】
ゼラチンの化学修飾の具体的手段および処理条件は、従来公知の化学修飾方法を適用することができる。ヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基の化学修飾については、水溶媒中または非水溶媒中で無水酢酸を作用させることなどにより、たとえばO-アセチル化を実行することができる。グリシン残基のα-カルボキシル基の化学修飾については、メタノールへの懸濁後に乾燥塩化水素ガスを通気することなどにより、たとえばエステル化を実行することができる。グリシン残基のα-カルボキシル基の化学修飾については、カルボジイミドなどを作用させることによりアミド化を実行することができる。
【0069】
さらに上記ポリペプチド(ゼラチン)の「誘導体」には、ゼラチンに官能基を導入したゼラチン誘導体、およびゼラチンと乳酸、グリコール酸などとの共重合体、ゼラチンとポリエチレングリコール、プロピレングリコールとの共重合体などが含まれる場合がある。ゼラチン誘導体としては、ゼラチンに対してグアニジル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基、アルキル基、アシル基、フェニル基、ベンジル基などの官能基を導入した誘導体を例示することができる。
【0070】
上記ポリペプチド(ゼラチン)の「薬学上許容される塩」とは、薬学上許容され、かつ元となるポリペプチド(ゼラチン)の所望の活性(たとえば、ゲル化能)を有する塩を意味する。薬学上許容される塩としては、たとえば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩および臭化水素酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩およびマレイン酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機塩基塩などを例示することができる。常法に従ってゼラチン中の特定のペプチドを薬学上許容される塩にすることができる。
【0071】
上記ゼラチンは、ゼラチン加水分解物であることが好ましい。ここで、「ゼラチン加水分解物」とは、ゼラチンおよびコラーゲンの両方またはいずれか一方を加水分解することにより得られるペプチドの集合体(加水分解物)をいう。すなわち「ゼラチン加水分解物」は、一般にコラーゲンペプチドまたはコラーゲン加水分解物と称されるペプチドの集合体と等価なものを意味する。その中で、本実施形態に係る生体吸収性粒子を構成する「ゼラチン加水分解物」は、上記のとおりのD50、D95、および平均円形度を有する。さらにゼラチン加水分解物は、上述のとおりのペプチドの集合体を意味するため、ペプチド鎖を構成するアミノ酸配列において、グリシンが3残基ごとに繰り返される一次構造を有する等のコラーゲンおよびゼラチンと同じ特徴を有している。ゼラチンは、多くの生物が保有するコラーゲンに由来するポリペプチドであるため、生体適合性に優れている。このため上記コラーゲンおよびゼラチンを加水分解することにより得られるゼラチン加水分解物も、生体適合性に優れており、注射針とシリンジとを備える注射器に充填される注射液に含まれる一成分として好適である。
【0072】
ここで、ゼラチンがゼラチン加水分解物であることは、ゼラチンを50℃以上の水に2w/v%以上の濃度で溶解することによりゼラチン溶解液を得た後、該ゼラチン溶解液の温度を25℃以下に下げた場合において、該ゼラチン溶解液がゲル化しないことを確認することにより特定される。
【0073】
[実施形態2:生体吸収性粒子の製造方法]
実施形態1の生体吸収性粒子の製造方法について以下に説明する。なお、以下の製造方法は一例であり、実施形態1の生体吸収性粒子は、他の方法で作製されたものでもよい。
【0074】
本実施形態に係る生体吸収性粒子は、従来公知の製造方法により得ることができる。従来公知の製造方法とは、例えば、生体吸収性粒子がゼラチンである場合、ゼラチンを種々の粉砕機によって細かく粉砕する方法や、ゼラチンを溶媒に溶解することによりゼラチン溶液を得た後、噴霧乾燥機などを用いて該ゼラチン溶液から微細なゼラチン乾燥物を得る方法などが挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
≪生体吸収性粒子の作製≫
[試料1~11、101~103]
下記の製造方法を用いて、試料1~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子を作製した。
【0077】
<試料1>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、32μmのふるいで分級し、このふるいを通過した粒子を回収することにより、試料1の生体吸収性粒子を得た。なお、表1の「加水分解の有無」欄における「無」の記載は、試料1の生体吸収性粒子の作製において用いられた「ゼラチン粉末」が、ゼラチン加水分解物以外のゼラチンであることを意味する。試料2~8、101~103においても同様である。
【0078】
<試料2>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、32μmのふるいおよび90μmのふるいで分級し、90μmのふるいを通過し、32μmのふるいは通過しなかった粒子を回収することにより、試料2の生体吸収性粒子を得た。
【0079】
<試料3>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、20μmのふるいで分級し、このふるいを通過した粒子を回収することにより、試料3の生体吸収性粒子を得た。
【0080】
<試料4>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、106μmのふるいおよび180μmのふるいで分級し、180μmのふるいを通過し、106μmのふるいは通過しなかった粒子を回収した。この粒子3.5gを、試料1の生体吸収性粒子6.5gに混合することにより、試料4の生体吸収性粒子を得た。
【0081】
<試料5>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、180μmのふるいおよび300μmのふるいで分級し、300μmのふるいを通過し、180μmのふるいを通過しなかった粒子を回収した。この粒子0.5gを、試料1の生体吸収性粒子9.5gに混合することにより、試料5の生体吸収性粒子を得た。
【0082】
<試料6>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:ビーマトリックスゼラチンLS-250)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、125μmのふるいおよび32μmのふるいで分級し、125μmのふるいを通過し、32μmのふるいは通過しなかった粒子を回収することにより、試料6の生体吸収性粒子を得た。
【0083】
<試料7>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、75μmのふるいで分級し、このふるいを通過した粒子を回収することにより、試料7の生体吸収性粒子を得た。
【0084】
<試料8>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、38μmのふるいで分級し、このふるいを通過した粒子を回収することにより、試料8の生体吸収性粒子を得た。
【0085】
<試料9>
先ず、アルギン酸粉末(キミカ社製、品名:キミカアシッド)を準備した。次いで、上記アルギン酸粉末を、90μmのふるいで分級し、ふるいを通過した粒子を回収することにより、試料9の生体吸収性粒子を得た。
【0086】
<試料10>
先ず、アルギン酸カルシウム粉末(キミカ社製、品名:キミカアルギン)を準備した。次いで、上記アルギン酸カルシウム粉末を、90μmのふるいで分級し、ふるいを通過した粒子を回収することにより、試料10の生体吸収性粒子を得た。
【0087】
<試料11>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:ビーマトリックスゼラチンHG)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、32μmのふるいおよび90μmのふるいで分級し、90μmのふるいを通過し、32μmのふるいは通過しなかった粒子を回収した。この粒子を真空下150℃で48時間加熱することにより、試料11の生体吸収性粒子を得た。表1の「加水分解の有無」欄における「有」の記載は、試料11の生体吸収性粒子の作製において用いられた「ゼラチン粉末」が、「ゼラチン加水分解物」であることを意味する。
【0088】
<試料101>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を蒸留水に溶解することにより5w/v%水溶液を得た。次いで、スプレードライヤー(大川原製作所社製)を用いて噴霧乾燥することにより乾燥粉末を得た。次いで、得られた粉末を20μmのふるいで分級し、このふるいを通過した粒子を回収することにより、試料101の生体吸収性粒子を得た。
【0089】
<試料102>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、106μmのふるいおよび212μmのふるいで分級し、212μmのふるいを通過し、106μmのふるいは通過しなかった粒子を回収することで、試料102の生体吸収性粒子を得た。
【0090】
<試料103>
先ず、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製、品名:MRK2)を準備した。次いで、上記ゼラチン粉末を、180μmのふるいで分級し、このふるいを通過しなかった粒子を回収した。次いで、この粒子2.0gを、試料1の生体吸収性粒子8.0gに混合することで、試料103の生体吸収性粒子を得た。
【0091】
≪生体吸収性粒子の特性評価≫
上述のようにして作製した試料1~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子を用いて、以下のように、生体吸収性粒子の各特性を評価した。なお、試料1~試料11の生体吸収性粒子は実施例に対応し、試料101~試料103の生体吸収性粒子は比較例に対応する。
【0092】
<生体吸収性粒子のD10、D50、およびD95の測定>
試料1~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子について、生体吸収性粒子のD10、D50、およびD95を、実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、それぞれ表1の「D10[μm]」の項、「D50[μm]」の項、および「D95[μm]」の項に記す。
【0093】
【0094】
<生体吸収性粒子の平均円形度の測定>
試料1~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子について、生体吸収性粒子の平均円形度を、実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、それぞれ表1の「平均円形度」の項に記す。
【0095】
<生体吸収性粒子の滞留率の測定>
試料1~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子について、「水に該生体吸収性粒子を5w/v%の割合で含有した第1液体において、該第1液体を300rpm、1分間撹拌し、その後1分間静置させた場合の滞留率」を、実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、それぞれ表1の「滞留率[%]」の項に記す。
【0096】
<生体吸収性粒子のかさ密度の測定>
試料1~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子について、「かさ密度」を、実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、それぞれ表1の「かさ密度[g/cm3]」の項に記す。
【0097】
≪液漏率測定試験≫
上述の様にして作製した試料1の生体吸収性粒子が、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に対して1%(w/v)となるように、該生体吸収性粒子の懸濁液を作製した。次いで、該懸濁液を300rpm、1分間撹拌した直後、21G注射針を装着した1mLシリンジに分取した。次いで、該懸濁液を該1mLシリンジ中で上記分取直後から10秒間静置した。上記静置直後、該懸濁液0.2gを、該21G注射針を介して、37℃でインキュベートされた鶏股肉の任意の穿刺部(局所部位)に注射した。次いで、該23G注射針を該鶏股肉から抜き摂った直後に、該穿刺部(局所部位)を1cm角の濾紙(約0.03g)で覆うことにより、該穿刺部(局所部位)から漏出する漏出液を該濾紙に吸収させた。該漏出液を吸収した濾紙の重量[g]を測定することにより、該漏出液の重量を測定した。次いで、計算式「液漏率[%]=100×(漏出液の重量[g]/0.2[g])」に該漏出液の重量を代入することにより、試料1の生体吸収性粒子の液漏率を算出した。26G注射針、27G注射針、29G注射針、30G注射針、および32G注射針のそれぞれにおいても、同様にして、試料1の生体吸収性粒子の液漏率を求めた。
【0098】
また、上述の様にして作製した試料2~試料11、および試料101~試料103の生体吸収性粒子についても、同様にして液漏率測定試験を実施した。また、陰性対照として用意した試料1001(PBS)についても、同様にして液漏率測定試験を実施した。ここで、該液漏率の値が小さいほど、生体吸収性粒子は、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて注射液を局所部位に投与する際、該注射液の該局所部位からの優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。「21G注射針」を用いた場合における液漏率を、表1の「21G」の項に記す。また、「26G注射針」を用いた場合における液漏率を、表1の「26G」の項に記す。また、「27G注射針」を用いた場合における液漏率を、表1の「27G」の項に記す。また、「29G注射針」を用いた場合における液漏率を、表1の「29G」の項に記す。また、「30G注射針」を用いた場合における液漏率を、表1の「30G」の項に記す。また、「32G注射針」を用いた場合における液漏率を、表1の「32G」の項に記す。また、ここで、生体吸収性粒子が注射針を閉塞することにより、上記懸濁液0.2gの全てを穿刺部(局所部位)に注射することができなかった場合には、「注射不能」とした。また、表1の「液漏率[%]」の項に記載された「-」は、該当するデータがないことを意味する。
【0099】
なお、太い注射針は、細い注射針に比して、注射針によって生じる穿刺部(局所部位)の穴が大きくなるため、注射針を穿刺部(局所部位)から引き抜いた時の液漏れを抑制しにくい傾向がある。そのため、太い注射針で優れた液漏れ抑制効果を示す生体吸収性粒子は、細い注射針でも同様に優れた液漏れ抑制効果を示すと考えられる。
【0100】
また、細い注射針は、太い注射針に比して、注射針の内径が小さい為、生体吸収性粒子を通過させにくい傾向がある。そのため、細い注射針を通過する生体吸収性粒子は、太い注射針においても同様に通過することができる。
【0101】
よって、例えば、21G注射針で優れた液漏れ抑制効果を示し、且つ、26G注射針を通過する(すなわち、26G注射針で注射可能である)生体吸収性粒子は、22G注射針、23G注射針、24G注射針、25G注射針においても、優れた液漏れ抑制効果を示し、且つ、注射可能であると考えられる。
【0102】
なお、ここで、21G注射針を用いた液漏率測定試験において、液漏率が10%以下であることは、生体吸収性粒子が優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。また、ここで、26G注射針を用いた液漏率測定試験において、液漏率が5%以下であることは、生体吸収性粒子が優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。また、ここで、27G注射針を用いた液漏率測定試験において、液漏率が5%以下であることは、生体吸収性粒子が優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。また、ここで、29G注射針を用いた液漏率測定試験において、液漏率が5%以下であることは、生体吸収性粒子が優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。また、ここで、30G注射針を用いた液漏率測定試験において、液漏率が5%以下であることは、生体吸収性粒子が優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。また、ここで、32G注射針を用いた液漏率測定試験において、液漏率が1.5%以下であることは、生体吸収性粒子が優れた液漏れ抑制効果を有することを意味する。
【0103】
<結果>
試料1~試料11は、実施例に該当する。試料101~試料103は、比較例に該当する。表1の結果から、実施例に該当する試料1~試料11の生体吸収性粒子は、比較例に該当する試料101~試料103の生体吸収性粒子よりも、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該注射液の該局所部位からの優れた液漏れ抑制効果を有することが分かった。
【0104】
以上により、実施例に係る試料1~試料11の生体吸収性粒子は、注射針とシリンジとを備える注射器を用いて、注射液を局所部位に投与する際、該注射液を注射可能な注射器を用いる場合において、該局所部位からの該注射液の液漏れを抑制することができることが分かった。また、実施例に係る試料1~試料11の生体吸収性粒子は、その製造において、W/O分散法をはじめとする造粒法を用いた煩雑な工程を要しない為、簡便、且つ、効率的に製造することができた。
【0105】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。