(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073602
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20230519BHJP
F16D 41/20 20060101ALI20230519BHJP
B65H 3/52 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
F16D7/02 F
F16D41/20 A
B65H3/52 330H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186152
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】598102546
【氏名又は名称】南真化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】板橋 昭男
【テーマコード(参考)】
3F343
【Fターム(参考)】
3F343FA02
3F343FB01
3F343FC01
3F343GA01
3F343GB01
3F343GC01
3F343GD01
3F343JD04
3F343JD09
3F343JD32
3F343JD37
3F343KB05
3F343LD30
(57)【要約】
【課題】内輪部材の形成材料にかかわらず、また、部品点数の増大及びコスト増を招くことなく、外輪部材及び内輪部材の両者の摩耗を防止できるトルクリミッタを提供する。
【解決手段】本発明のトルクリミッタ1は、外周面にコイルバネ40が巻回保持される内輪部材10と、内輪部材10を覆うように配設されるとともにコイルバネ40の端部40aが固定される外輪部材30とを備える。外輪部材30は、マトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて成る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設されるとともに前記コイルバネの端部が固定される外輪部材と、を備え、前記内輪部材と前記コイルバネとの摩擦力によって前記内輪部材と前記外輪部材との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限するトルクリミッタにおいて、
前記外輪部材は、マトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて成ることを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記内輪部材は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレンを具備した充填材が添加されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記外輪部材のマトリックス樹脂は、特殊ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエキシメチレン、ポリアミド66、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
ラジアル荷重を受ける電子情報機器の給紙機構の分離ローラに組み込まれ、前記外輪部材の外周に前記分離ローラを形成するゴムローラが嵌着されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に伝達される回転、又は、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを所定値以下に制限するトルクリミッタに関し、特に、外輪部材(ケース部材)に特徴を有するトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トルクリミッタは、回転伝達機構において、ある一定値を超える大きなトルクが作用したときに、そのトルクの伝達を遮断するものであり、例えば、プリンタや複写機等の電子情報機器の用紙搬送機構(給紙機構)のローラ部分に設置されている。このようなトルクリミッタは、機械的な摩擦によって回転トルクを得る接触式のものがあり、例えば、特許文献1に開示されているように、内輪部材(ボビンとも称される)と、この内輪部材の外周に締まり嵌めされるコイルバネと、コイルバネの一端部を固定し、前記内輪部材を覆う外輪部材(ケース部材又はハウジングとも称される)とを備えたものが知られている。
【0003】
また、トルクリミッタには、一方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限する以外にも、例えば、特許文献2に開示されているように、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-145380号
【特許文献2】特許第3315603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなトルクリミッタには、近年、小型・高トルク・高耐久性で、高品質の要求が高まっており、特に、内輪部材には、コイルバネが巻回されて大きな摩擦力(トルク)が作用することから、高品質化するに際して、コイルバネが巻回される内輪部材の構成材料が重要となる。
【0006】
そのため、焼結メタル、又は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、更には、ポリエキシメチレン樹脂(POM)のような樹脂によって成形することが一般的である内輪部材にあっては、このような樹脂等の基材にフィラーとしてカーボン繊維を含有させることによって、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることが考えられる。
【0007】
しかしながら、内輪部材は、その機能上、外輪部材に対する摺動が避けられず、使用する回転数の高速化、ラジアル荷重等も加わり、内輪部材及び外輪部材のそれらの摺動部での摩耗が依然として問題となる。
【0008】
具体的には、例えば、
図5に示されるように、FAXやプリンタなどの用紙搬送機構の分離ローラに組み込んで使用される公知のトルクリミッタ100は、内輪部材102と、この内輪部材102の外周に締まり嵌め状態で巻装されるコイルバネ104と、コイルバネ104の一端部104aを固定して内輪部材102を覆う外輪部材106とを備え、外輪部材106の外周に分離ローラとしてのゴムローラ110が嵌着される構造となっている。このようなトルクリミッタ100では、内輪部材102と外輪部材106とが互いに接触して摺動する第1の摺動部Aと、内輪部材102の延在部であるシャフト部102Aと外輪部材106とが互いに接触して摺動する第2の摺動部Bとにおいて、これらの部材102(102A),106に摩耗が生じる。
【0009】
特に、前述したように耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上のために、内輪部材102にカーボン繊維を含有させると、これに対して摺動する外輪部材106がPOM等の樹脂により形成されれば、第1の摺動部Aで外輪部材106の摩耗が激しくなる。また、これを防ぐために外輪部材106を耐摩耗強化材(ガラス入り等)により形成すると、今度は、これに対して摺動する内輪部材102、特に一般にPOM材等により形成されるシャフト部102Aの摩耗が第2の摺動部Bで大きくなる。更には、外輪部材106をガラス入りの耐摩耗強化材で形成すると、カーボン繊維を含有した内輪部材102に対しても影響を及ぼす。
【0010】
また、
図5の構造では、ゴムローラ110がその対向する別のゴムローラ(図示せず)から所定の押圧力を受けるため、トルクリミッタ100にラジアル荷重Fが作用し、このラジアル荷重Fが所定の大きさ(例えば約100gf・cm以上)を超えると、トルクリミッタ100が十分な性能を発揮できないばかりか、摺動部A,Bでの摩耗も激しくなる。
【0011】
このような摺動部A,Bでの摩耗を防止するため、
図6の(a)に示されるように、シャフト部102Aを金属製(例えばSUS)にしたり、或いは、
図6の(b)に示されるように、摺動部A,Bに摺動板としてのカラー120を介在させたりすることも考えられるが、部品点数が増え、コストが増大する。
【0012】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、内輪部材の形成材料にかかわらず、また、部品点数の増大及びコスト増を招くことなく、外輪部材及び内輪部材の両者の摩耗を防止できるトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明は、外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設されるとともに前記コイルバネの端部が固定される外輪部材と、を備え、前記内輪部材と前記コイルバネとの摩擦力によって前記内輪部材と前記外輪部材との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限するトルクリミッタにおいて、前記外輪部材は、マトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて成ることを特徴とする。
【0014】
本発明者は、鋭意工夫を重ね、内輪部材が耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させるための特殊な材料及び一般的な樹脂材料のいずれから成る場合であっても内輪部材を摩耗させないとともに、それ自体も摩耗しない条件を満たす外輪部材の形成材料が何であるかを様々な実験を通して探求し、マトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させた外輪部材であればそのような条件を満たすことを見出した。
【0015】
このように、本発明の上記構成によれば、外輪部材がマトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて成るため、摩擦係数及び比摩耗量が低くなり、内輪部材が、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させるための特殊な材料(例えば、樹脂等の基材にフィラーとしてカーボン繊維を含有させた材料)であっても摩耗が小さく、一方でチタン酸カリウム繊維はカーボン繊維より柔らかいため、内輪部材を摩耗させることもない。さらに、
図5のような内輪部材に延長部材を設けた構成では、通常は一般的な樹脂を使用するが、これらとの摺動部でも摩耗を防止できる。
【0016】
このような作用効果は、トルクリミッタがFAXやプリンタなどの電子情報機器の給紙機構の分離ローラに組み込んで使用される場合に特に有益である。すなわち、そのような分離ローラは絶えず大きなラジアル荷重を受けるため、前述した内輪部材(シャフト部)と外輪部材との摺動部(A,B)において、特に耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上のために内輪部材にカーボン繊維が含有されている場合や内輪部材のシャフト部がPOM等により形成されている場合に摩耗が激しくなるが、マトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて成る外輪部材であれば、このような摩耗を十分に防止できる。また、前述したようにシャフト部を金属製(例えばSUS)にしたり、或いは、摺動部(A,B)に摺動板としてのカラーを介在させたりする必要もないため、部品点数及びコストの増大も回避できる。また、潤滑剤により摩耗を防止する方法も考えられるが、プリンタ等では搬送される用紙に付着する可能性があるため、使用は避けたい。
【0017】
なお、上記構成において、チタン酸カリウム繊維の含有率が20%を下回ると、外輪部材が強度を十分に発揮できず、摩耗が発現し始め、一方、チタン酸カリウム繊維の含有率が35%を上回ると、外輪部材の成形性が悪くなる。また、チタン酸カリウム繊維は、機械的特性及び成形性を考慮して、直径が0.3~0.6μm、長さが10~20μmの範囲内の短繊維であることが好ましい。
【0018】
また、上記の構成において、内輪部材は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成されていることが好ましい。これによれば、コイルバネが巻回される内輪部材の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上が図れるようになる。
【0019】
ここで、添加される材料のうち、カーボン繊維は、主に、強度、耐摩耗性の向上(耐久性の向上)に寄与するとともに、摺動特性の向上にも寄与し得る。また、添加される材料のうち、ポリテトラフルオロエチレン及びグラファイトは、摺動性の向上に寄与するが、前者は、特に低摩擦性において良好な特性を備え、後者は、高トルクによる摩擦熱、コイルバネの圧力増加に対し、耐熱性、耐荷重性、耐摩耗性において良好な特性を備えており、これらが機能補完して性能の安定化が図れるようになる。なお、基材としては、他の材料、例えばポリイミド等を用いることも可能であるが、基材としては、ポリエーテルエーテルケトンが最も優れた特性を発揮し得る。このため、そのような基材に上記の充填材を備えた複合材で内輪部材を形成すると、トルクリミッタを小型化し、高トルク型に構築しても、耐久性及び摺動特性に優れたトルクリミッタを構成することが可能である。
【0020】
このような耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させるための特殊な材料から内輪部材が形成される場合であっても、前述したように、外輪部材が特定材料から形成されているため、内輪部材(その延在部であるシャフト部)及び外輪部材のそれらの摺動部での摩耗を防止できる。
【0021】
また、上記の構成において、外輪部材のマトリックス樹脂は、特殊ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエキシメチレン、ポリアミド66、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。これによれば、20~35重量%で含有されるチタン酸カリウム繊維との複合作用により、内輪部材(その延在部であるシャフト部)及び外輪部材のそれらの摺動部での摩耗を効果的に防止できる。なお、外輪部材のマトリックス樹脂としては他の材料も可能であり、求められる回転速度や、受けるラジアル荷重などの条件に合わせて、耐熱性、動摩擦係数、比摩耗量、硬度などの特性から材料(マトリックス樹脂)を適宜選択することが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のトルクリミッタによれば、外輪部材がマトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて成るため、内輪部材の形成材料にかかわらず、また、部品点数の増大及びコスト増を招くことなく、外輪部材及び内輪部材の両者の摩耗を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示す断面図である。
【
図2】本発明に係るトルクリミッタの他の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図2の構成のトルクリミッタがラジアル荷重を受ける電子情報機器の給紙機構の分離ローラに組み込まれた使用例を示す概略側面図である。
【
図4】
図2の構成の従来のトルクリミッタ及び本発明のトルクリミッタの摩耗試験結果を比較して示す外輪部材(ハウジング)及び内輪部材(ボビン)の拡大写真である。
【
図5】従来のトルクリミッタの一構成例を示す断面図である。
【
図6】内輪部材及び外輪部材の摺動部での摩耗を防止する手法の一例であり、(a)は内輪部材のシャフト部を金属製にした構成、(b)は摺動部に摺動板としてのカラーを介在させた構成をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタについて説明する。
図1は、本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示している。図示のように、このトルクリミッタ1は、円筒状に形成された内輪部材(ボビンとも称される)10と、内輪部材10を覆うようにして装着されるキャップ状に形成された外輪部材(ケース部材又はハウジングとも称される)30と、内輪部材10の外周面に装着されるコイルバネ40と、を備えている。
【0025】
図示のコイルバネ40は、一方向コイルバネ(例えば、左巻き)を示しており、一端40aが外輪部材30に固定される。このため、外輪部材30から一方向に所定の回転トルクが発生した場合、両者を滑らせる(内輪部材10と外輪部材30との間で動力伝達をOFFにする)機能を果たす。具体的には、
図1において、外輪部材30が矢印D1方向に回転した場合、一方向コイルバネ40は締め付けられるため、内輪部材10との間で動力伝達はON状態となるが、外輪部材30が矢印D2方向に回転した場合、一方向コイルバネ40は径方向に膨らむ状態(緩む状態)となり、その回転力がある程度大きくなる(所定のトルクを超える)と、内輪部材10の外周面10aとそこに装着されている一方向コイルバネ40の内面との間でスリップが生じて動力伝達はOFF状態となる。すなわち、このようなトルクリミッタ1は、一方向の回転は常に動力伝達状態となり、逆方向の回転については、所定のトルクが作用した場合、内輪部10材と外輪部材30との間で滑りが生じ、動力伝達はOFF状態となる。
【0026】
なお、動力伝達をOFFにするトルクについては、一方向コイルバネ40の緊締力によって調整可能である。また、内輪部材10に対しては、同様な構成の右巻きの一方向コイルバネを巻回することが可能であり、この場合、前述した作用とは逆の作用が得られる。更に、内輪部材10に対しては、双方向コイルバネを巻回することが可能であり、この場合、両方向の回転に対してそれぞれ所定のトルクが作用したときに滑りが生じ、動力伝達はOFF状態となる。すなわち、いずれの回転方向の負荷トルクに対しても、それぞれトルク制限値以下のときはトルクを伝達し(ON状態)、トルク制限値を超えた負荷トルクが加わるとトルクの伝達を阻止する(OFF状態)。
【0027】
内輪部材10は、中空で略円筒形状に形成されており、その内部通路10Aに軸(図示せず)が挿通される。軸には、軸方向と直交する方向に係止ピン(図示せず)が設けられており、内輪部材10の一端側には、係止ピンと係合する切欠凹部11が径方向に形成されている。これにより、軸と内輪部材10は回転固定される。
【0028】
内輪部材10は、円周壁10aを備えており、その表面(外周面)に、一方向コイルバネ40或いは両方向コイルバネが巻回保持される。内輪部材10の他端側には、円周壁10aよりも小径の円周壁10bが形成されており、この部分が外輪部材30の天板壁30aに形成された円形開口31に嵌め込まれて、外輪部材30の天板壁30a側が位置決めされる。
【0029】
また、円周壁10aには、周方向に沿って所定間隔をおいて径方向に突出する複数の基部を介してフランジ12が一体形成されており、円周壁10aの表面に巻回保持されたコイルバネ40の移動を規制している。そして、外輪部材30を装着した際、外輪部材30の円形開口30Aの内周面の2箇所(180°間隔で2箇所)に形成された一対の突起30cとフランジ12が係合して、外輪部材30から内輪部材10が抜けることを防止する。なお、形成される突起の数は限定されることはなく、例えば、120°間隔で3個所形成されていても良い。
【0030】
また、このような構成の内輪部材10は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成されている。これにより、内輪部材10の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上が図れるようになる。
【0031】
ここで、添加される材料のうち、カーボン繊維は、主に、強度、耐摩耗性の向上(耐久性の向上)に寄与するとともに、摺動特性の向上にも寄与し得る。また、添加される材料のうち、ポリテトラフルオロエチレン及びグラファイトは、摺動性の向上に寄与するが、前者は、特に低摩擦性において良好な特性を備え、後者は、高トルクによる摩擦熱、コイルバネの圧力増加に対し、耐熱性、耐荷重性、耐摩耗性において良好な特性を備えており、これらが機能補完して性能の安定化が図れるようになる。なお、基材としては、他の材料、例えばポリイミド等を用いることも可能であるが、基材としては、ポリエーテルエーテルケトンが最も優れた特性を発揮し得る。このため、そのような基材に上記の充填材を備えた複合材で内輪部材10を形成すると、トルクリミッタを小型化し、高トルク型に構築しても、耐久性及び摺動特性に優れたトルクリミッタを構成することが可能である。
【0032】
外輪部材30は、前述したように、キャップ状に形成されており、天板壁30aと、内輪部材10の円周壁10aを覆う円周壁30bとを備える。天板壁30aには、その中央領域に内輪部材10の円周壁10bが嵌入される円形開口31が形成されている。また、円形開口31側に位置される円周壁30bの端部の内周面には、前述したように、内輪部材10のフランジ12の係止段部12aと係合して外輪部材30からの内輪部材10の抜けを防止する一対の突起30cが設けられる。
【0033】
以上のような構成のトルクリミッタ1では、内輪部材10のフランジ12の外周面と外輪部材30の円形開口31側に位置される円周壁30bの端部の内周面とが互いに接触して摺動する第1の摺動部Aを形成するとともに、内輪部材10の小径の円周壁10bの外周面と外輪部材30の天板壁30aの内周面とが互いに接触して摺動する第2の摺動部Bを形成する。
【0034】
また、
図2には、本発明に係るトルクリミッタの他の構成例が示されている。この構成は、トルクリミッタが例えばラジアル荷重Fを受ける電子情報機器の給紙機構の分離ローラに組み込まれて使用される場合に採用される。このため、このトルクリミッタ1Aは、基本的な構成が
図1のトルクリミッタ1と同様であるが、外輪部材30の円周壁30bが、その外周に前記分離ローラを形成するゴムローラ60を嵌着できるような長さで延在するとともに、この長さに対応させて内輪部材10も長く延在するシャフト部10Aを一体に有している(
図1の構成の内輪部材10に延在部としてシャフト部10Aが一体形成されている)。
【0035】
したがって、このような構成のトルクリミッタ1Aでは、内輪部材10のフランジ12の外周面と外輪部材30の一端部の内周面とが互いに接触して摺動する第1の摺動部Aを形成するとともに、内輪部材10のシャフト部10Aの径方向突出部10Aaの外周面と外輪部材30の他端部の内周面とが互いに接触して摺動する第2の摺動部Bを形成する。
【0036】
図3には、
図2の構成のトルクリミッタ1Aを給紙機構80の分離ローラを形成するゴムローラ60に組み込んだ状態が示されている。図示のように、給紙機構80は、用紙Pの積層体のうちの最も上側に位置される用紙Pと接触してこれを送出するピックアップローラ64と、分離ローラであるゴムローラ60(以下、分離ローラ60という)と対を成して用紙Pを所定の圧力で挟持して(トルクリミッタ1Aにラジアル荷重Fが作用して)1枚ずつ搬送方向下流側へ給紙するフィードローラ(ゴムローラ)62とを有している。図中、矢印はローラの回転方向を示している。
【0037】
このような給紙機構80では、ピックアップローラ64によって2枚の用紙Pが一緒に送出されると、トルクリミッタ1Aの回転負荷により用紙P間でスリップが生じて分離ローラ60の連れ回りが止まり、重送を防止する。
【0038】
以上説明した
図1及び
図2のいずれの構成のトルクリミッタ1,1Aにおいても、外輪部材30は、マトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させることによって形成されている。この場合、マトリックス樹脂としては、特殊ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエキシメチレン、ポリアミド66、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどを挙げることができる。
【0039】
このように、本実施形態では、外輪部材30がマトリックス樹脂にチタン酸カリウム繊維を20~35重量%含有させて構成されるため、外輪部材30の摩擦係数及び比摩耗量が小さくなる。したがって、内輪部材10が前述したように耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させるための特殊な材料(ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成された複合材料)及び一般的な樹脂材料のいずれから成る場合であっても、内輪部材10(その延在部であるシャフト部10A)及び外輪部材30のそれらの摺動部A,Bでの摩耗を防止できる。
【0040】
このことは、発明者が行なった摩耗試験の結果から既に実証されている。この摩耗試験は、
図2のトルクリミッタ構成において、ポリエーテルエーテルケトンを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成される複合材料によって内輪部材10を形成し、外輪部材30を材料X(ポリエキシメチレン樹脂にガラスビーズを25重量%含有させて成る材料)及び材料Y(マトリックス樹脂としての特殊ポリアミドにチタン酸カリウム繊維を30重量%含有させて成る材料)の2種類で形成して行なった。また、摩耗試験は、
図3に示されるように分離ローラ60がフィードローラ62と圧接されるような状態で分離ローラ60に組み込まれたのと同じ条件でトルクリミッタ1Aに500gfのラジアル荷重Fを作用させ、回転速度1000rpmで稼働率85%のオン・オフを繰り返し、トータル1000万回転まで行なった。
【0041】
図4の(a)は、外輪部材30を材料Xにより形成したトルクリミッタ(従来のトルクリミッタ)における摩耗試験結果を示す外輪部材(ハウジング)30及び内輪部材(ボビン)10の拡大写真であり、
図4の(b)は、外輪部材30を材料Yにより形成したトルクリミッタ(本発明に係るトルクリミッタ1A)における摩耗試験結果を示す外輪部材(ハウジング)30及び内輪部材(ボビン)10の拡大写真である。
【0042】
これらの写真から分かるように、外輪部材30を材料Xにより形成した従来型のトルクリミッタでは、ガラスビーズを含んでいることから、内輪部材10を、ポリエーテルエーテルケトンを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成される複合材料によって形成しても、内輪部材10には摩耗痕が生じてしまった(
図4の(a)の下側の写真参照)。これに対し、外輪部材30を材料Yにより形成した本発明に係るトルクリミッタでは、内輪部材10、外輪部材30に関して摩耗が一切見られなかった。
【0043】
このような材料で形成した外輪部材10を有するトルクリミッタでは、内輪部材(ボビン)10を、比較的高強度の材料で形成しても、摺動部で摩耗しない効果が発揮されて耐久性が向上することが可能となる。また、このような材料で形成した外輪部材10は、内輪部材(ボビン)がPOMであっても、摩耗を生じさせない結果が得られた。
【符号の説明】
【0044】
1,1A トルクリミッタ
10 内輪部材
30 外輪部材
40 コイルバネ
60 ゴムローラ(分離ローラ)
80 給紙機構