(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073604
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20230519BHJP
F16D 41/20 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
F16D7/02 F
F16D41/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186154
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】598102546
【氏名又は名称】南真化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】板橋 昭男
(57)【要約】
【課題】耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることができる低コストの内輪部材を備えるトルクリミッタを提供する。
【解決手段】本発明のトルクリミッタ1は、外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材10と、内輪部材10を覆うように配設されるとともにコイルバネの端部が固定される外輪部材30とを備える。内輪部材10は、コイルバネが巻装されて摺接する周壁10aを有する。周壁10aは、樹脂により形成される第1の層10aaと、この第1の層10aa上に位置されて周壁10aの表面を形成するとともに、基材にフィラーを含有させて成る第2の層10abとを含み、第2の層10abは、前記コイルバネが巻装される部位に設けられることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設されるとともに前記コイルバネの端部が固定される外輪部材と、を備え、前記内輪部材と前記コイルバネとの摩擦力によって前記内輪部材と前記外輪部材との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限するトルクリミッタにおいて、
前記内輪部材は、前記コイルバネが巻装されて摺接する周壁を有し、
前記周壁は、樹脂により形成される第1の層と、この第1の層上に位置されて前記周壁の表面を形成するとともに、基材にフィラーを含有させて成る第2の層とを含み、
前記第2の層は、前記コイルバネが巻装される部位に設けられることを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記第2の層は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記第1の層と前記第2の層は一体成形されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記第1の層と前記第2の層とが別体を成すことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に伝達される回転、又は、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを所定値以下に制限するトルクリミッタに関し、特に、内輪部材に特徴を有するトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トルクリミッタは、回転伝達機構において、ある一定値を超える大きなトルクが作用したときに、そのトルクの伝達を遮断するものであり、例えば、プリンタや複写機等の電子情報機器の用紙搬送機構(給紙機構)のローラ部分に設置されている。このようなトルクリミッタは、機械的な摩擦によって回転トルクを得る接触式のものがあり、例えば、特許文献1に開示されているように、内輪部材(ボビンとも称される)と、この内輪部材の外周に締まり嵌めされるコイルバネと、コイルバネの一端部を固定し、前記内輪部材を覆う外輪部材(ケース部材又はハウジングとも称される)とを備えたものが知られている。
【0003】
また、トルクリミッタには、一方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限する以外にも、例えば、特許文献2に開示されているように、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-145380号
【特許文献2】特許第3315603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなトルクリミッタには、近年、小型・高トルク・高耐久性で、高品質の要求が高まっており、特に、内輪部材には、コイルバネが巻回されて大きな摩擦力(トルク)が作用することから、高品質化するに際して、コイルバネが巻回される内輪部材の構成材料が重要となる。
【0006】
そのため、焼結メタル、又は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、更には、ポリエキシメチレン樹脂(POM)のような樹脂によって成形することが一般的である内輪部材にあっては、このような樹脂等の基材にフィラーとしてカーボン繊維を含有させることによって、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることが考えられる。
【0007】
しかしながら、基材にフィラーを含有させて成る複合材料は、コストが高く、したがって、高トルクに対応するために内輪部材が大型化する昨今においては、材料コストが益々高くなってしまうことになる。また、歯車等の機能を一体化する場合(歯車と内輪部材を一体化する場合)では、内輪部材が大型化するとともに、相手の歯車部品を摩耗させてしまう可能性がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることができる低コストの内輪部材を備えるトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明は、外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設されるとともに前記コイルバネの端部が固定される外輪部材と、を備え、前記内輪部材と前記コイルバネとの摩擦力によって前記内輪部材と前記外輪部材との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限するトルクリミッタにおいて、前記内輪部材は、前記コイルバネが巻装されて摺接する周壁を有し、前記周壁は、樹脂により形成される第1の層と、この第1の層上に位置されて前記周壁の表面を形成するとともに、基材にフィラーを含有させて成る第2の層とを含み、前記第2の層は、前記コイルバネが巻装される部位に設けられることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、コイルバネが巻装されて摺接する内輪部材の周壁の表面が、基材にフィラーを含有させて成る第2の層によって形成されているため、基材及びフィラーを適宜選択することにより内輪部材の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることが可能となる。また、基材にフィラーを含有させて成るこのような複合材料の第2の層は一般に高価であるが、上記構成では、この第2の層をコイルバネが巻回保持される内輪部材の周壁の表面のみに限定し、その下層である第1の層を樹脂により形成するようにしているため、第1の層の形成材料を安価な樹脂とすることにより、内輪部材全体のコストを抑えることが可能となる。
【0011】
すなわち、本発明に係る上記構成のトルクリミッタの内輪部材は、その耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させる高価な複合材料をコイルバネが巻回保持される周壁の表層のみに限定し、それ以外の材料を安価な樹脂材料によって形成できるように、2つの別個の層によって周壁を構成しているため、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上と低コストとを同時に実現できる。この場合、第2の層の厚さは、第1の層のそれよりも薄く形成することが好ましく、0.4~1.0mmの範囲であれば良い。
【0012】
なお、第1の層を形成する樹脂材料としては、例えば、POM,PA(ナイロン)等の樹脂材料を挙げることができる。また、第2の層は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されたものを用いることができる。これによれば、内輪部材の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上が図れるようになるとともに、内輪部材と摺接する外輪部材の摩耗を抑えることもできる。
【0013】
ここで、添加される材料のうち、カーボン繊維は、主に、強度、耐摩耗性の向上(耐久性の向上)に寄与するとともに、摺動特性の向上にも寄与し得る。また、添加される材料のうち、ポリテトラフルオロエチレン及びグラファイトは、摺動性の向上に寄与するが、前者は、特に低摩擦性において良好な特性を備え、後者は、高トルクによる摩擦熱、コイルバネの圧力増加に対し、耐熱性、耐荷重性、耐摩耗性において良好な特性を備えており、これらが機能補完して性能の安定化が図れるようになる。なお、基材としては、他の材料、例えばポリイミド等を用いることも可能であるが、基材としては、ポリエーテルエーテルケトンが最も優れた特性を発揮し得る。このため、そのような基材に上記の充填材を備えた複合材で内輪部材を形成すると、トルクリミッタを小型化し、高トルク型に構築しても、耐久性及び摺動特性に優れたトルクリミッタを構成することが可能である。
【0014】
また、上記構成では、第1の層と第2の層とが一体に成形されてもよい。そのような一体成形は、例えば2色成形技術によって実現することが可能である。また、上記構成では、第1の層と第2の層とが別体を成してもよい。その場合、例えば、第2の層を薄いスリーブ状に形成しておき、第1の層を内輪部材の他の部位と一体形成し、前記スリーブを内輪部材(内輪部材と一体を成す第1の層)に対して回転不能に(例えば係脱自在に)係止するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトルクリミッタによれば、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることができる低コストの内輪部材を備えるトルクリミッタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示す断面図である。
【
図2】
図1のトルクリミッタのコイルバネを除去した構成を示しており、内輪部材の周壁の構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタについて説明する。
図1は、本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示している。図示のように、このトルクリミッタ1は、円筒状に形成された内輪部材(ボビンとも称される)10と、内輪部材10を覆うようにして装着されるキャップ状に形成された外輪部材(ケース部材又はハウジングとも称される)30と、内輪部材10の外周面に装着されるコイルバネ40と、を備えている。
【0018】
図示のコイルバネ40は、一方向コイルバネ(例えば、左巻き)を示しており、一端40aが外輪部材30に固定される。このため、外輪部材30から一方向に所定の回転トルクが発生した場合、両者を滑らせる(内輪部材10と外輪部材30との間で動力伝達をOFFにする)機能を果たす。具体的には、
図1において、外輪部材30が矢印D1方向に回転した場合、一方向コイルバネ40は締め付けられるため、内輪部材10との間で動力伝達はON状態となるが、外輪部材30が矢印D2方向に回転した場合、一方向コイルバネ40は径方向に膨らむ状態(緩む状態)となり、その回転力がある程度大きくなる(所定のトルクを超える)と、内輪部材10の外周面である円周壁10aとそこに装着されている一方向コイルバネ40の内面との間でスリップが生じて動力伝達はOFF状態となる。すなわち、このようなトルクリミッタ1は、一方向の回転は常に動力伝達状態となり、逆方向の回転については、所定のトルクが作用した場合、内輪部10材と外輪部材30との間で滑りが生じ、動力伝達はOFF状態となる。
【0019】
なお、動力伝達をOFFにするトルクについては、一方向コイルバネ40の緊締力によって調整可能である。また、内輪部材10に対しては、同様な構成の右巻きの一方向コイルバネを巻回することが可能であり、この場合、前述した作用とは逆の作用が得られる。更に、内輪部材10に対しては、双方向コイルバネを巻回することが可能であり、この場合、両方向の回転に対してそれぞれ所定のトルクが作用したときに滑りが生じ、動力伝達はOFF状態となる。すなわち、いずれの回転方向の負荷トルクに対しても、それぞれトルク制限値以下のときはトルクを伝達し(ON状態)、トルク制限値を超えた負荷トルクが加わるとトルクの伝達を阻止する(OFF状態)。
【0020】
内輪部材10は、中空で略円筒形状に形成されており、その内部通路10Aに軸(図示せず)が挿通される。軸には、軸方向と直交する方向に係止ピン(図示せず)が設けられており、内輪部材10の一端側には、係止ピンと係合する切欠凹部11が径方向に形成されている。これにより、軸と内輪部材10は回転固定される。
【0021】
内輪部材10は、前述した円周壁(周壁)10aを備えており、その表面(外周面)に、一方向コイルバネ40或いは両方向コイルバネが巻回保持される。内輪部材10の他端側には、円周壁10aよりも小径の円周壁10bが形成されており、この部分が外輪部材30の天板壁30aに形成された円形開口31に嵌め込まれて、外輪部材30の天板壁30a側が位置決めされる。また、円周壁10aには、周方向に沿って所定間隔をおいて径方向に突出する複数の基部を介してフランジ12が一体形成されており、円周壁10aの表面に巻回保持されたコイルバネ40の移動を規制している。また、このフランジ12の外周端には、外輪部材30を装着した際、外輪部材30の円形開口30Aの内周面の2箇所(180°間隔で2箇所)に形成された一対の突起30cが係合し、それにより、外輪部材30からの内輪部材10の抜けが防止される。なお、形成される突起の数は限定されることはなく、例えば、120°間隔で3個所形成されていても良い。
【0022】
外輪部材30は、前述したように、キャップ状に形成されており、天板壁30aと、内輪部材10の円周壁10aを覆う円周壁30bとを備える。天板壁30aには、その中央領域に内輪部材10の円周壁10bが嵌入される円形開口31が形成されている。また、円形開口31側に位置される円周壁30bの端部の内周面には、前述したように、内輪部材10のフランジ12と係合して外輪部材30からの内輪部材10の抜けを防止する複数の突起30cが設けられる。
【0023】
図2は、コイルバネ40を除去した構成を示しており、前記内輪部材を模式的に示す図である。
コイルバネ40が巻装されて摺接する内輪部材10の円周壁10aは、樹脂により形成される第1の層10aaと、この第1の層10aa上に位置されて円周壁10aの表面を形成するとともに、基材にフィラーを含有させて成る第2の層10abとによって構成される。なお、本実施形態では、円周壁10aが2つの層10aa,10abのみから成るが、それ以外の他の層を含んでいてもよい。
【0024】
この場合、全体として軽量化を図り、コストの低減が図れるように、第2の層10abの厚さは、第1の層10aaのそれよりも薄く形成することが好ましい。例えば、第2の層10abの厚さは、0.4~1.0mmであることが好ましい。また、第1の層10aaを形成する樹脂としては、POM,PA(ナイロン)等の樹脂材料を挙げることができる。また、コイルバネと接触する第2の層10abは、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成されている。これにより、内輪部材10の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上が図れるようになる。
【0025】
ここで、第2の層10abにおいて添加される材料のうち、カーボン繊維は、主に、強度、耐摩耗性の向上(耐久性の向上)に寄与するとともに、摺動特性の向上にも寄与し得る。また、添加される材料のうち、ポリテトラフルオロエチレン及びグラファイトは、摺動性の向上に寄与するが、前者は、特に低摩擦性において良好な特性を備え、後者は、高トルクによる摩擦熱、コイルバネの圧力増加に対し、耐熱性、耐荷重性、耐摩耗性において良好な特性を備えており、これらが機能補完して性能の安定化が図れるようになる。なお、基材としては、他の材料、例えばポリイミド等を用いることも可能であるが、基材としては、ポリエーテルエーテルケトンが最も優れた特性を発揮し得る。このため、そのような基材に上記の充填材を備えた複合材で内輪部材10を形成すると、トルクリミッタを小型化し、高トルク型に構築しても、耐久性及び摺動特性に優れたトルクリミッタを構成することが可能である。
【0026】
また、第2の層10abは、内輪部材10の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることができる他の複合材料、例えば、POM、PAによって構成されてもよい。
【0027】
上記したような2層構造は、例えば2色成形技術を使用して第1の層10aaと第2の層10abとを一体成形することが可能であるが、第1の層10aaと第2の層10abとが別体として構成されていてもよい。その場合、例えば、第2の層10abを薄いスリーブ状に形成し、第1の層10aaを内輪部材10の他の部位と一体形成し、スリーブ状の第2の層10abを内輪部材10(内輪部材10と一体を成す第1の層10aa)に対して回転不能に(例えば係脱自在に)係止するようにしてもよい。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、コイルバネ40が巻装されて摺接する内輪部材10の円周壁10aの表面が、基材にフィラーを含有させて成る第2の層10abによって形成されているため、基材及びフィラーを適宜選択することにより内輪部材10の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させることが可能となる。また、基材にフィラーを含有させて成るこのような複合材料の第2の層10abは一般に高価であるが、本実施形態では、この第2の層10abをコイルバネ40が巻回保持される内輪部材10の円周壁10aの表面のみに限定し、その下層である第1の層10aaを樹脂により形成するようにしているため、第1の層10aaの形成材料を安価な樹脂とすることにより、内輪部材10全体のコストを抑えることが可能となる。
【0029】
すなわち、本実施形態のトルクリミッタ1の内輪部材10は、その耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性を向上させる高価な複合材料をコイルバネ40が巻回保持される円周壁10aの表層のみに限定し、それ以外の材料を安価な樹脂材料によって形成できるように、2つの別個の層10aa,10abによって円周壁10aを構成しているため、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上と低コストとを同時に実現できる。
【符号の説明】
【0030】
1 トルクリミッタ
10 内輪部材
10a 周壁
10aa 第1の層
10ab 第2の層
30 外輪部材
40 コイルバネ