(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073648
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】無溶剤型接着剤を使用した多層フィルムおよびその製造方法並びに包装容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230519BHJP
C09J 175/06 20060101ALI20230519BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20230519BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B32B27/00 D
C09J175/06
B65D65/02 E
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186226
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 真由美
(72)【発明者】
【氏名】原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086AD03
3E086AD06
3E086AD08
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3E086BA15
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3E086CA01
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3E086DA08
4F100AB10
4F100AB10D
4F100AK01A
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4J040NA08
(57)【要約】
【課題】接着剤層において気泡が生じることを抑制することができ、ラミネート直後に巻き取るときに巻きずれの発生を抑制することができる多層フィルムおよびその製造方法、並びにこの多層フィルムを使用した包装容器を提供する。
【解決手段】本発明の多層フィルムは、複数の樹脂フィルムと、一つ以上の接着剤層とを有する多層フィルムであって、前記接着剤層の少なくとも一つは、無溶剤型接着剤により形成されており、前記無溶剤型接着剤は、ポリエステル系樹脂よりなる主剤と、脂肪族イソシアネートよりなる硬化剤とを含有してなり、当該無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において650~1600mPa・sであることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂フィルムと、一つ以上の接着剤層とを有する多層フィルムであって、
前記接着剤層の少なくとも一つは、無溶剤型接着剤により形成されており、
前記無溶剤型接着剤は、ポリエステル系樹脂よりなる主剤と、脂肪族イソシアネートよりなる硬化剤とを含有してなり、当該無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において600~1400mPa・sであることを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
前記主剤の粘度が、80℃において2000~4500mPa・sであることを特徴とする請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記硬化剤が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)よりなることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記無溶剤型接着剤は、前記主剤100質量部に対して前記硬化剤が50~200質量部の範囲で含有されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項5】
少なくとも一つの樹脂フィルムは、蒸着層を有し、
前記無溶剤型接着剤により形成された接着剤層は、前記蒸着層と隣接する樹脂フィルムとの間に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項6】
一方の樹脂フィルムと他方の樹脂フィルムとを、無溶剤型接着剤よりなる接着剤塗布層を介して重ね合わせながらラミネートする工程を有する多層フィルムの製造方法であって、
前記無溶剤型接着剤は、ポリエステル系樹脂よりなる主剤と、脂肪族イソシアネートよりなる硬化剤とを含有してなり、当該無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において600~1400mPa・sであることを特徴とする多層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記接着剤塗布層において、前記無溶剤型接着剤の塗布量が0.5~3.0g/m2であることを特徴とする請求項6に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記一方の樹脂フィルムは、前記接着剤塗布層に接する面に蒸着層を有することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の多層フィルムによって形成されていることを特徴とする包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶剤型接着剤を使用した多層フィルムおよびその製造方法並びにこの多層フィルムによって形成された包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装、医療品包装または化粧品包装などに用いられるパウチ包装容器や、カップ蓋に使用される軟包装用容器は、従来、樹脂フィルムや金属箔などがラミネートされた多層フィルムにより構成されている。例えば特許文献1乃至特許文献3には、多層フィルムによれ構成されたパウチ包装袋やラミネートチューブ等の包装容器が開示されている。
このような包装容器において、例えばナイロンフィルムとポリエチレンフィルムとの組み合わせのように、特性の異なる種類の樹脂フィルムがラミネートされる場合には、両者の密着性が乏しいため、一般に接着剤が使用される。
【0003】
かかる接着剤としては、地球環境負荷の低減化の観点から、無溶剤型接着剤を使用することが望まれている。従来、無溶剤型接着剤を使用した多層フィルムとしては、ポリエステルポリオールよりなる主剤と、脂肪族ジイソシアネート化合物および脂環族ジイソシアネートよりなる硬化剤とにより構成され、70℃における粘度が300~900mPa・sである無溶剤型接着剤よりなる接着剤層を有する多層フィルムが知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無溶剤型接着剤を使用した多層フィルムにおいては、接着剤層において大きな気泡が生じやすく、そのため、外観不良を引き起こすという問題がある。また、多層フィルムの製造工程において、ラミネート直後に多層フィルムを巻き取るときに、巻きずれが発生しやすい、という問題がある。これらの現象は、層数の多い多層フィルムや蒸着層を有する多層フィルムにおいて顕著である。
このような現象が生じる理由は、各樹脂フィルムが接着剤層を介してラミネートされてから、接着剤層を構成する無溶剤型接着剤の硬化が完了するまでの間において、各樹脂フィルム間にわずかな位置ずれが生じるためと推測される。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、接着剤層において気泡が生じることを抑制することができ、ラミネート直後に巻き取るときに巻きずれの発生を抑制することができる多層フィルムおよびその製造方法、並びにこの多層フィルムを使用した包装容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多層フィルムは、複数の樹脂フィルムと、一つ以上の接着剤層とを有する多層フィルムであって、
前記接着剤層の少なくとも一つは、無溶剤型接着剤により形成されており、
前記無溶剤型接着剤は、ポリエステル系樹脂よりなる主剤と、脂肪族イソシアネートよりなる硬化剤とを含有してなり、当該無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において600~1400mPa・sであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の多層フィルムにおいては、前記主剤の粘度が、80℃において2000~4500mPa・sであることが好ましい。
また、前記硬化剤が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)よりなることが好ましい。
また、前記無溶剤型接着剤は、前記主剤100質量部に対して前記硬化剤が50~200質量部の範囲で含有されてなることが好ましい。
【0009】
本発明の多層フィルムにおいては、少なくとも一つの樹脂フィルムは、蒸着層を有し、
前記無溶剤型接着剤により形成された接着剤層は、前記蒸着層と隣接する樹脂フィルムとの間に形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明の多層フィルムの製造方法は、一方の樹脂フィルムと他方の樹脂フィルムとを、無溶剤型接着剤よりなる接着剤塗布層を介して重ね合わせながらラミネートする工程を有する多層フィルムの製造方法であって、
前記無溶剤型接着剤は、ポリエステル系樹脂よりなる主剤と、脂肪族イソシアネートよりなる硬化剤とを含有してなり、当該無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において600~1400mPa・sであることを特徴とする。
【0011】
本発明の多層フィルムの製造方法においては、前記接着剤塗布層において、前記無溶剤型接着剤の塗布量が0.5~3.0g/m2であることが好ましい。
また、前記一方の樹脂フィルムは、前記接着剤塗布層に接する面に蒸着層を有することが好ましい。
【0012】
本発明の包装容器は、上記の多層フィルムによって形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤層を形成する無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において600~1400mPa・sであるため、接着剤層において気泡が生じることを抑制することができ、ラミネート直後に巻き取るときに巻きずれの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の多層フィルムの一例における構成を示す説明用断面図である。
【
図2】本発明の多層フィルムを製造するためのラミネータ一例における構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の多層フィルムの一例における構成を示す説明用断面図である。
この多層フィルム10は、外層樹脂フィルム11、内層樹脂フィルム12、および内層樹脂フィルム12と外層樹脂フィルム11との間に設けられた中間層樹脂フィルム13を有する。外層樹脂フィルム11における内面(中間層樹脂フィルム13側の表面)には、インキ層14が形成されている。中間層樹脂フィルム13における外層樹脂フィルム11側の表面には、蒸着層15が形成されている。インキ層14と蒸着層15との間には、無溶剤型接着剤により形成された接着剤層16が形成され、内層樹脂フィルム12と中間層樹脂フィルム13との間には、無溶剤型接着剤により形成された接着剤層17が形成されている。
【0016】
外層樹脂フィルム11は、熱的な寸法安定性に優れたフィルムであることが好ましい。このような外層樹脂フィルム11を用いることにより、外層樹脂フィルム11に例えばグラビア印刷を施した後に、80℃程度の温度で焼付処理を行うことができるため、インキ層の形成が容易である。また、外層樹脂フィルム11としては、高い引張強度が得られる点で、二軸延伸フィルムを用いることが好ましい。
【0017】
外層樹脂フィルム11を構成する材料としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
ポリアミド系樹脂としては、例えばナイロン6、ナイロン8、ナイロン6,6、ナイロン6/6,6共重合体、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド(MXD6)、ナイロン11、ナイロン12などを用いることができる。
ポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いることができる。また、これらの樹脂の性質を損なわない範囲で、他のポリエステル単位を含むコポリエステルを用いることもできる。このようなコポリエステルを形成するための共重合成分のうち、ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p-β-オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン2,6-ジカルボン酸、ジフエノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸またはこれらのアルキルエステル誘導体などを用いることができる。また、グリコール成分としては、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフエノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどを用いることができる。これらの化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて共重合成分として用いることができる。
【0018】
外層樹脂フィルム11の厚みは、当該外層樹脂フィルム11を構成する樹脂の種類や多層フィルムの用途等により適宜選択されるものであるが、例えばナイロンによって外層樹脂フィルム11を構成する場合には、10~30μmであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)によって外層樹脂フィルム11を構成する場合には、6~28μmであることが好ましい。
【0019】
また、外層樹脂フィルム11における隣接する層と接する面には、当該隣接する層との密着性を向上するため、コロナ処理などの表面改質処理が施されていることが好ましい。
【0020】
内層樹脂フィルム12を構成する材料としては、パウチ包装袋やヒートシール蓋を形成するために、ヒートシール性に優れた樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0021】
内層樹脂フィルム12の厚みは、特に制限はないが、例えばポリエチレンによって内層樹脂フィルム12を構成する場合には、50~200μmであることが好ましく、ポリプロピレンによって内層樹脂フィルム12を構成する場合には、30~150μmであることが好ましい。
また、内層樹脂フィルム12としては、無延伸フィルムを用いることが好ましい。
【0022】
中間層樹脂フィルム13を構成する材料としては、ガスバリアー性を有する樹脂を用いることができ、その具体例としては、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン10,6、ナイロン6/6,6共重合体等の脂肪族ナイロン、ポリメタキシリレンアジパミド等の部分芳香族ナイロンなどのナイロン樹脂、ポリグリコール酸樹脂などが挙げられる。
また、中間層樹脂フィルム13を構成する材料としては、オレフィン系樹脂、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)或いはこれらの混合物等を使用することもできる。
中間層樹脂フィルム13の厚みは、特に制限はないが、5~100μmであることが好ましい。
【0023】
インキ層14は、外層樹脂フィルム11の内面に例えばグラビア印刷が施されることによって形成されている。
このようなインキ層14の厚みは、1~8μmであることが好ましい。
【0024】
蒸着層15を構成する材料としては、アルミニウム等の金属材料、シリカ等の非金属無機材料などを用いることができる。
【0025】
接着剤層16,17は、無溶剤型接着剤により形成されている。この無溶剤型接着剤は、主剤および硬化剤からなる二液型の反応硬化型接着剤である。
接着剤層16,17の厚みは、0.5~3μmであることが好ましい。
【0026】
無溶剤型接着剤を構成する主剤としては、内層樹脂フィルム12、中間層フィルム13、インキ層14および蒸着層15との密着性が良好で、且つラミネート強度および耐衝撃性に優れたポリエステル系樹脂を用いることが好ましく、特にポリエステルポリオール樹脂が好ましい。
【0027】
ポリエステルポリオール樹脂は、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の多塩基酸と、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3-ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのエステル化反応によって製造されるものであればよい。
【0028】
ポリエステルポリオール樹脂の具体例としては、(1)ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)等のアジペート系ポリエステルグリコール、(2)ポリ‐ε‐カプロラクトン等のポリカプロラクトン系ポリエステルグリコール、(3)ポリ(ヘキサメチレンセバケート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)等のその他のポリエステルポリオール樹脂などが挙げられる。
【0029】
また、主剤としては、ポリエステル系樹脂の他に例えばポリウレタン系化合物が含有されていてもよい。このような主剤を用いることにより、外層樹脂フィルム11の内面に設けられるインキ層14には、通常ウレタン成分が含まれているため、インキ層14に対する密着性を確保することができる。
【0030】
主剤を構成する樹脂の数平均分子量は、700~1700であることが好ましく、より好ましくは800~1600である。主剤を構成する樹脂の数平均分子量が700未満である場合には、無溶剤型接着剤の粘度が低下するため、多層フィルムを製造する際に連続ラミネート適性が悪くなることがある。また、末端反応基数が増加するため、硬化剤の量を多くすることが必要であり、その結果、得られる接着剤層16,17においては、架橋量が多くて硬度が上昇し、接着剤層16,17の耐衝撃性が低下することがある、という問題がある。一方、主剤を構成する樹脂の数平均分子量が1700を超える場合には、得られる接着剤層16,17の耐衝撃性は向上するが、無溶剤型接着剤の粘度が上昇するため、無溶剤型接着剤の塗工時に濡れ不良が生じ、得られる多層フィルム10の外観不良やラミネート強度の低下が起こることがある。
【0031】
主剤の粘度は、80℃において2000~4500mPa・sであることが好ましく、より好ましくは2500~4000mPa・sである。この粘度が2000mPa・s未満である場合には、ロールの転移ムラが発生し接着剤層16,17の膜形成が不安定となり、得られる多層フィルム10の外観不良やラミネート強度の極度な低下が起こることがある。一方、この粘度が4000mPa・sを超える場合には、無溶剤型接着剤の塗工時に濡れ不良が発生しやすく、得られる多層フィルム10の外観不良やラミネート強度の低下が起こることがある。
【0032】
無溶剤型接着剤を構成する硬化剤としては、イソシアネート化合物、特に、脂肪族イソシアネートのみを用いることが好ましい。
硬化剤を構成する脂肪族イソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好ましい。
【0033】
無溶剤型接着剤を構成する硬化剤の粘度は、80℃において50~250mPa・sであることが好ましく、より好ましくは50~150mPa・sである。この粘度が50mPa・s未満である場合には、硬化剤の粘度が小さいため、得られる接着剤層16,17が軟質となる結果、ラミネート強度が低くなることがある。一方、この粘度が250mPa・sを超える場合には、硬化剤の粘度が大きいため、得られる接着剤層16,17が硬質となる結果、耐衝撃性が悪くなることがある。
【0034】
無溶剤型接着剤においては、主剤100質量部に対して、硬化剤が50~200質量部、特に50~100質量部の範囲で含有されていることが好ましい。硬化剤の割合が過小である場合には、得られる接着剤層16,17は架橋不足となるため、得られる多層フィルム10のラミネート強度が低下するおそれがある。一方、硬化剤の割合が過大である場合には、主剤と硬化剤とが十分に混合されず、得られる接着剤層16,17には架橋不足部分や架橋過多部分が混在するため、得られる多層フィルム10のラミネート強度や耐衝撃性が低下するおそれがある。
【0035】
本発明において、無溶剤型接着剤の粘度は、80℃において600~1400mPa・sであり、より好ましくは800~1200mPa・sである。無溶剤型接着剤の粘度が600mPa・s未満である場合には、無溶剤型接着剤の塗工時にロール間の転移が不良となり「転移ムラ」が発生することがある。また、無溶剤型接着剤が均一に塗工されず部分的に少なくなることから、ラミネート強度や耐衝撃性の低下が起こることがある。一方、無溶剤型接着剤の粘度が1400mPa・sを超える場合には、無溶剤型接着剤の塗工時に「濡れ不良」が発生し、得られる接着剤層16,17が部分的に薄くなることがある。接着剤層16,17に薄い部分が存在すると、ラミネート強度および耐衝撃性の低下が起こることがある。
【0036】
無溶剤型接着剤には、上記の主剤および硬化剤以外にも、ポリウレタン系化合物が含有されていてもよい。ポリウレタン系化合物が含有されることにより、外層樹脂フィルム11の内面に設けられるインキ層14には、通常ウレタン成分が含まれているため、インキ層14に対する密着性を確保することができる。
また、無溶剤型接着剤には、種々の添加剤、例えば充填剤、軟化剤、酸化防止剤、安定剤、接着促進剤、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、無機フィラー、粘着付与性樹脂、繊維類、顔料等の着色剤、可使時間延長剤等が含有されていてもよい。
【0037】
更に、無溶剤型接着剤には、接着促進剤が含有されていてもよい。接着促進剤としてはシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系等のカップリング剤、エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0038】
シランカップリング剤の具体例としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン;ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン;ヘキサメチルジシラザン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
チタネート系カップリング剤の具体例としては、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンラクテート、テトラオクチレングリコールチタネート、チタンラクテート、テトラステアロキシチタン等が挙げられる。
【0040】
アルミニウム系カップリング剤の具体例としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂の具体例としては、一般的に市販されているエピービス型、ノボラック型、βーメチルエピクロ型、環状オキシラン型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、ポリグリコールエーテル型、グリコールエーテル型、エポキシ化脂肪酸エステル型、多価カルボン酸エステル型、アミノグリシジル型、レゾルシン型等の各種エポキシ樹脂が挙げられる。
【0042】
上記の多層フィルム10は、例えば以下のようにして製造される。
先ず、外層樹脂フィルム11の一面に例えばグラビア印刷処理を施すことにより、インキ層14を形成する。また、中間層樹脂フィルム13の一面に蒸着処理を施すことにより、蒸着層15を形成する。
そして、
図2に示すようなラミネータによって、インキ層14が形成された外層樹脂フィルム11と、蒸着層15が形成された中間層樹脂フィルム13とがラミネートされる。
【0043】
具体的に説明すると、
図2において、30はラミネータ、31は主剤が収容された主剤タンク、32は硬化剤が収容された硬化剤タンク、33は、主剤および硬化剤を供給する接着剤供給部、34は、外層樹脂フィルム11を供給する巻き出しロールである。35は、主剤および硬化剤を混合して無溶剤型接着剤を調製すると共に、調製した無溶剤型接着剤を塗布する接着剤塗布部である。この接着剤塗布部35には、複数(図示の例では5つ)のロール35a,35b,35c,35d,35eが設けられている。36は、外層樹脂フィルム11と中間層樹脂フィルム13とをラミネートするラミネート部であって、一対の加圧ロール36a,36bを有する。37は、中間層樹脂フィルム13を供給する巻き出しロール、38は、後述する中間積層フィルムを巻き取る巻き取りロールである。
【0044】
このラミネータ30においては、インキ層14が形成された外層樹脂フィルム11が、巻き出しロール34から所定の速度で接着剤塗布部35に供給される。一方、主剤タンク31および硬化剤タンク32において、主剤および硬化剤が所定の温度に加熱されて溶融される。加熱溶融された主剤および硬化剤は、接着剤供給部33から接着剤塗布部35にそれぞれ所定の量で供給され、接着剤塗布部35において主剤および硬化剤が混合されることにより、無溶剤型接着剤が調製される。そして、接着剤塗布部35においては、外層樹脂フィルム11に形成されたインキ層14の表面に、無溶剤型接着剤が塗布されることにより接着剤塗布層が形成される。
【0045】
次いで、外層樹脂フィルム11はラミネート部36に送られる。一方、巻き出しロール37から、蒸着層15が形成された中間層樹脂フィルム13がラミネート部36に供給される。このラミネート部36において、外層樹脂フィルム11と中間層樹脂フィルム13とが、インキ層14に形成された接着剤塗布層に蒸着層15が接するように重ね合わせられながら加圧されてラミネートされ、これにより、外層樹脂フィルム11、インキ層14,接着剤層16、蒸着層15および中間層樹脂フィルム13が積層されてなる中間積層フィルムが得られる。この中間積層フィルムは、巻き取りロール38に巻き取られる。
【0046】
そして、上記の工程において、インキ層14が形成された外層樹脂フィルム11を中間積層フィルムに代え、蒸着層15が形成された中間層樹脂フィルム13を内層樹脂フィルム12に代えて同様の操作を行うことにより、中間層樹脂フィルム13の他面に接着剤層17を介して内層樹脂フィルム12がラミネートされ、以って、多層フィルム10が得られる。得られた多層フィルム10は、接着剤層16,17の効果を促進するため、エージング処理が行われる。
【0047】
以上において、主剤および硬化剤の加熱温度は、例えば40~80℃である。
各樹脂フィルムの供給速度、すなわち無溶剤型接着剤の塗布速度は、100~200m/minであることが好ましい。
塗布する際の無溶剤型接着剤の温度は、40~80℃であることが好ましい。
無溶剤型接着剤の塗布量は、0.5~3.0g/m2であることが好ましく、より好ましくは1.2~2.1g/m2である。
ラミネート部36における加圧ロール36a,36bの温度は、例えば30~80℃である。
多層フィルム10のエージング処理の温度は、例えば30~70℃であり、処理時間は、例えば48~96時間である。
【0048】
このような多層フィルム10によれば、接着剤層16,17を形成する無溶剤型接着剤の粘度が、80℃において650~1600mPa・sであるため、接着剤層16,17において気泡が生じることを抑制することができ、ラミネート直後に巻き取るときに巻きずれの発生を抑制することができる。
【0049】
本発明の包装容器は、上記の多層フィルムによって構成されており、洗剤、柔軟剤、漂白剤、シャンプー、コンディショナー、あるいは飲料などの液体を内容物とした詰め替えパウチ、レトルトパウチ等の包装容器として好適である。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば多層フィルムの層構成は、
図1に示す構成に限定されず、外層樹脂フィルムおよび内層樹脂フィルムの2つの樹脂フィルムよりなるものであっても、複数の中間層樹脂フィルムを有するものであってもよい。
また、インキ層および蒸着層は、必要に応じて設けられるものであって、本発明において必須のものではない。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
〈実施例1および比較例1〉
[無溶剤型接着剤]
表1に実施例1および比較例1で使用した無溶剤型接着剤の組成を示す。表1において、主剤、硬化剤および無溶剤型接着剤の粘度は、TOKIMEC社製B8L型粘度計を使用し、JIS K7117-2に準拠した方法によって測定した。
【0053】
[樹脂フィルム]
外層樹脂フィルムとして、厚みが15μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いた。
中間層樹脂フィルムとして、一面にアルミニウム蒸着層が形成された、厚みが12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
内層フィルムとして、厚みが130μmの無延伸の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルムを用いた。
【0054】
[多層フィルムの製造]
図2に示す構成のラミネータを用い、以下のようにして多層フィルムを製造した。
下記表1に示す主剤および硬化剤を、それぞれ主剤タンクおよび硬化剤タンクに入れて80℃に加熱し、接着剤供給部により、主剤および硬化剤を、下記表1に示す質量配合比となるように接着剤塗布部に供給して混合することにより、無溶剤型接着剤を調製した。そして、接着剤塗布部において、巻き出しロールから供給された外層樹脂フィルムの一面に、無溶剤型接着剤を70℃で塗布することにより、接着剤塗布層を形成した。無溶剤型接着剤の塗布量は2.5g/m
2で、塗布速度は150m/minであった。その後、接着剤塗布層が形成された外層樹脂フィルムをラミネート部に搬送し、このラミネート部において、外層樹脂フィルムと、巻き出しロールから供給された、蒸着層が形成された中間層樹脂フィルムとを、60℃で加圧してラミネートすることにより、中間積層フィルムを作製した。ラミネート速度は150m/minであった。
得られた中間積層フィルムをロールに巻き取り、上記と同様の条件により、中間積層フィルムにおける中間層樹脂フィルムの他面に接着剤塗布層を形成し、この中間層樹脂フィルムと内層樹脂フィルムとをラミネートすることにより、多層フィルムを製造した。得られた多層フィルムを40℃で4日間保持することにより、エージング処理を行った。
【0055】
[包装容器(パウチ)の作製]
得られた多層フィルムから、幅130mm、折込幅36mmになるように底部材を切り出し、内面層を合わせた2枚の多層フィルムに、底部材の内面層を合わせた状態で挟み込み、200℃でヒートシールして底部をシールした後、2枚の多層フィルムの内層側を合わせて200℃でヒートシールしてサイド部2辺をシールして、幅130mm、高さ260mm、容量540mlの詰め替え用のパウチを作製した。
【0056】
[評価]
外観不良:
ラミネート直後の多層フィルムを、幅1mおよび長さ1mの範囲について目視で観察し、はじきの有無を調べ、はじきが認められない場合を〇、はじきが認められた場合を×として評価した。
ラミネート適性:
ラミネート直後の多層フィルムを、幅1mおよび長さ1mの範囲について目視で観察し、トンネリング(貼り合わせ部の浮き)の有無を調べ、トンネリングが認められない場合を〇、トンネリングが認められた場合を×として評価した。
巻きズレ量:
ラミネート直後に巻き取ったフィルム(原反)が巻き取り軸にセットした紙管端部に対してどれだけズレて巻き取られたか、スケールにより測定した。
耐衝撃性:
作製したパウチ内に5℃に冷却した水道水400gを充填した後、ヒートシールして密封してサンプルパウチ20袋を作製した。サンプルパウチを1.2mの高さから底部が下向きの姿勢で10回落下させた後、水平の姿勢で10回落下させた。この落下試験を20袋のパウチに行い、20袋中の破袋したパウチの数を調べた。
以上、結果を下記表1に示す。
【0057】
【0058】
表1の結果から明らかなように、実施例1によれば、無溶剤型接着剤の粘度が80℃において特定の範囲にあるため、接着剤層に気泡が生じることがなくて良好な外観を有し、また、ラミネート適性が良好で、ラミネート直後に巻き取るときに巻きずれの発生を抑制することができる多層フィルムが得られることが確認された。
これに対して、比較例1においては、無溶剤型接着剤の粘度が80℃において過小であるため、得られる多層フィルムは、外観が不良で、ラミネート適性が不十分なものであり、また、ラミネート直後に巻き取るときに大きな巻きずれが発生した。