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特開2023-73681集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073681
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/32 20060101AFI20230519BHJP
   B23K 9/08 20060101ALI20230519BHJP
   B23K 9/025 20060101ALI20230519BHJP
   B23K 37/04 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B23K9/32 C
B23K9/08 D
B23K9/025 B
B23K37/04 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186288
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】久保 龍司
(72)【発明者】
【氏名】大坪 舜
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 順弘
(72)【発明者】
【氏名】石口 晋司
(72)【発明者】
【氏名】安部 卓巳
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
4E082
【Fターム(参考)】
4E001NB01
4E081AA02
4E081BA02
4E081BA22
4E081CA05
4E081CA08
4E081DA05
4E081EA06
4E081EA16
4E082AA01
4E082HA04
(57)【要約】
【課題】集電位置を変更することにより、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる、集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】集電装置5は、拘束装置3により円筒形状の厚鋼板Sを外周面側から拘束しつつ、厚鋼板Sの幅方向両端部同士を突き合せた状態で、厚鋼板を搬送しながら溶接トーチ4により連続的に仮付溶接する連続仮付溶接機1に用いられる。溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aであって、溶接トーチ4に隣接する位置に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材53を備えた出側集電装置5aを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拘束装置により円筒形状の厚鋼板を外周面側から拘束しつつ、前記厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合せた状態で、前記厚鋼板を搬送しながら溶接トーチにより連続的に仮付溶接する連続仮付溶接機に用いられる集電装置であって、
前記溶接トーチの出側に配置される出側集電装置であって、前記溶接トーチに隣接する位置に配置され、前記厚鋼板の前記溶接トーチの出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材を備えた出側集電装置を備えていることを特徴とする集電装置。
【請求項2】
前記集電部材は、前記厚鋼板の幅方向両端部同士の突き合せ部の両側の外周面に接触するように前記突き合せ部を挟んだ両側に一対設けられていることを特徴とする請求項1に記載の集電装置。
【請求項3】
拘束装置により円筒形状の厚鋼板を外周面側から拘束しつつ、前記厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合せた状態で、前記厚鋼板を搬送しながら溶接トーチにより連続的に仮付溶接する連続仮付溶接における集電方法であって、
前記溶接トーチの出側に配置される出側集電装置であって、前記溶接トーチに隣接する位置に配置され、前記厚鋼板の前記溶接トーチの出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材を備えた出側集電装置によって、溶接時の集電を行うことを特徴とする集電方法。
【請求項4】
前記集電部材は、前記厚鋼板の幅方向両端部同士の突き合せ部の両側に接触するように前記突き合せ部を挟んだ両側に一対設けられていることを特徴とする請求項3に記載の集電方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の集電装置を備えていることを特徴とする連続仮付溶接機。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の集電方法によって溶接時の集電を行う集電工程を含むことを特徴とする連続仮付溶接方法。
【請求項7】
請求項5に記載の連続仮付溶接機を備えていることを特徴とする鋼管の製造設備。
【請求項8】
請求項6に記載の連続仮付溶接方法によって連続仮付溶接を行う連続仮付溶接工程を含むことを特徴とする鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のケージロールを用いて円筒形状の厚鋼板を外周面側から拘束し、前記厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合せて連続的に仮付溶接する溶接トーチを備えた連続仮付溶接機に用いられる集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大径溶接鋼管として代表的なUOE鋼管の製造工程は、素材となる厚鋼板の幅方向端部に開先加工を施す工程、及び開先加工を行った幅方向端部に所定曲率を付与するCプレス工程後、Uプレス及びOプレスによって厚鋼板の幅方向両端部同士が対向するように厚鋼板を円筒形状に成形する成形工程を備えている。また、UOE鋼管と同様に大径溶接鋼管として知られているプレスベンド鋼管の場合は、開先加工及びCプレスを施した厚鋼板に対して複数回の3点曲げプレスを実施することにより厚鋼板を円筒形状に成形する工程を備えている。UOE鋼管もプレスベンド鋼管も、円筒形状になってからの製造工程は、円筒形状に成形された厚鋼板を拘束し、対向する厚鋼板の両端部同士を突き合せて仮付溶接する仮付溶接工程と、サブマージアーク溶接法によって厚鋼板の突き合せ部の内外面にシーム溶接を施す本溶接工程とを備えている。更に、本溶接後の鋼管に対して、拡管機を用いて、突き合せ部がシーム溶接された円筒形状の厚鋼板(鋼管)の内側から拡管することによって鋼管を所定の真円度、真直度、及び外径寸法に成形する拡管工程が実施されることが多い。
【0003】
この大径溶接鋼管の製造工程のうち、仮付溶接工程は、例えば、特許文献1に示すように、溶接機の手前で円筒形状の厚鋼板を複数のケージロールにて外周面側から拘束しつつ、厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合わせた状態で、厚鋼板を搬送しながら連続的に仮付溶接を行う連続仮付溶接機を用いて行うのが一般的である。この連続仮付溶接機では、溶接機の溶接トーチから溶接線の近傍に向けて溶接ワイヤを送出し、溶接ワイヤと厚鋼板との間に電圧を印加することによってアークを形成しながら、厚鋼板を搬送させることにより、厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合わせた突き合せ部を溶接する。
【0004】
また、連続仮付溶接機では、溶接時に高温となった厚鋼板が酸素と反応して酸化するのを防止するために、不活性のガス、例えば炭酸ガスやアルゴンを噴出し、この不活性のガスで溶接面を空気から遮断(シールド)した状態で溶接を行う。
アークを形成するためには、溶接ワイヤから厚鋼板へ溶接電流を流して、厚鋼板からアース電流を集電する必要があり、連続仮付溶接機では、集電部材、例えばカーボンブラシ、を厚鋼板に接触させることで集電を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5569663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仮付溶接を含む溶接工程において、溶接アークの安定性を確保するうえで既知の問題となっているのが、一般的には「磁気吹き」と呼ばれる、アース電流の集電位置によって溶接アークが不安定になってしまう現象である。
磁気吹き現象は、溶接電流によって発生した磁界によって発生する。集電位置によって溶接ワイヤから集電部材へと流れる電流の経路が複数存在する場合に、各電流経路で発生した磁界がお互いに干渉し、溶接アークが偏向してしまう現象のことをいう。
【0007】
特許文献1に示すような従来の連続仮付溶接機では、集電装置が厚鋼板の搬送方向に沿ってケージロールの前後(入側及び出側)に配置され、かつ厚鋼板の下部に集電部材を接触させることで集電する方式であった。このような方式では、溶接開始時にはケージロール前に配置された集電装置のみ、溶接開始して厚鋼板の搬送が進むとケージロールの前後に配置された両方の集電装置、さらに厚鋼板の搬送が進むとケージロールの後に配置された集電装置のみと、使用する集電装置が溶接中に変化するため、1枚の厚鋼板を仮付溶接する間に、溶接ワイヤから集電装置(集電部材)へと流れる電流の経路が複数存在することにより磁気吹き現象が発生することで、溶接アークが不安定となる課題があった。
【0008】
一方、ケージロールの前(入側)に配置された集電装置(集電部材)でアース電流を集電する場合、鋼板の未溶接部を電流が通過してその部分が磁化し、磁気吹き現象の発生を回避できず、溶接アークが偏向してしまうおそれを拭い去れない。
従って、本発明はこの従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、集電位置を変更することにより、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる、集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る集電装置は、拘束装置により円筒形状の厚鋼板を外周面側から拘束しつつ、前記厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合せた状態で、前記厚鋼板を搬送しながら溶接トーチにより連続的に仮付溶接する連続仮付溶接機に用いられる集電装置であって、前記溶接トーチの出側に配置される出側集電装置であって、前記溶接トーチに隣接する位置に配置され、前記厚鋼板の前記溶接トーチの出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材を備えた出側集電装置を備えていることを要旨とする。
【0010】
また、本発明の別の態様に係る集電方法は、拘束装置により円筒形状の厚鋼板を外周面側から拘束しつつ、前記厚鋼板の幅方向両端部同士を突き合せた状態で、前記厚鋼板を搬送しながら溶接トーチにより連続的に仮付溶接する連続仮付溶接における集電方法であって、前記溶接トーチの出側に配置される出側集電装置であって、前記溶接トーチに隣接する位置に配置され、前記厚鋼板の前記溶接トーチの出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材を備えた出側集電装置によって、溶接時の集電を行うことを要旨とする。
【0011】
また、本発明の別の態様に係る連続仮付溶接機は、前述の集電装置を備えていることを要旨とする。
また、本発明の別の態様に係る連続仮付溶接方法は、前述の集電方法によって溶接時の集電を行う集電工程を含むことを要旨とする。
また、本発明の別の態様に係る鋼管の製造設備は、前述の連続仮付溶接機を備えていることを要旨とする。
また、本発明の別の態様に係る鋼管の製造方法は、前述の連続仮付溶接方法によって連続仮付溶接を行う連続仮付溶接工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法によれば、集電位置を変更することにより、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる、集電装置、集電方法、連続仮付溶接機、連続仮付溶接方法、鋼管の製造設備、及び鋼管の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る集電装置が適用される連続仮付溶接機の概略構成を示す模式図である。
図2図1に示す連続仮付溶接機における拘束装置の構成を示す模式図である。
図3図1に示す連続仮付溶接機における集電装置の出側集電装置の構成を示す模式図であって、溶接待機中の出側集電装置を示している。
図4図1に示す連続仮付溶接機における集電装置の出側集電装置の構成を示す模式図であって、溶接中の出側集電装置を示している。
図5】参考例に係る集電装置が適用される連続仮付溶接機の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0015】
図1には、本発明の一実施形態に係る集電装置が適用される連続仮付溶接機の概略構成が示されている。
図1に示す連続仮付溶接機1は、円筒形状の厚鋼板(円筒形状の厚鋼板は鋼管と呼ばれる)Sを外周面側から拘束しつつ、厚鋼板Sの幅方向両端部同士を突き合せた状態で、厚鋼板Sを搬送しながら連続的に仮付溶接するものである。連続仮付溶接機1は、搬送装置2と、拘束装置3と、溶接トーチ4と、集電装置5とを主な構成要素として備えている。
【0016】
搬送装置2は、円筒形状の厚鋼板Sの搬送方向に配列された複数のロール21に掛け渡された爪22を有するチェーン(ドッグチェーン)23によって構成されている。搬送装置2は、厚鋼板Sの後端部の下部を爪22に引っ掛けた状態でチェーン23を回転させることによって厚鋼板Sを搬送方向に搬送する。
拘束装置3は、厚鋼板Sの突き合せ部W(図2参照)を仮付溶接する際に円筒形状の厚鋼板Sを外周面側から拘束する装置である。具体的には、図2に示すように、拘束装置3は、円筒形状の厚鋼板Sを外周面側から拘束するように円周状に配置された複数(本実施形態にあっては8個)のケージロール31a~31hと、厚鋼板Sの突き合せ部Wを真上から抑えるシーム押さえロール32とを備えている。ケージロール31a~31h及びシーム押さえロール32は、厚鋼板Sの長さ方向(搬送方向)に沿って一列に配列されている。
【0017】
また、ケージロール31a~31h及びシーム押さえロール32には、厚鋼板Sの径方向への圧下ストロークを個別に調整するための油圧シリンダ33が設けられている。油圧シリンダ33を利用してケージロール31a~31h及びシーム押さえロールの厚鋼板Sの径方向への圧下ストロークを調整することによって厚鋼板Sの拘束力を個別に自動制御することができる。
また、溶接トーチ4は、アーク溶接装置によって構成されている。溶接トーチ4は、厚鋼板Sの突き合せ部Wを仮付溶接する際に、突き合せ部Wの溶接線の近傍に向けて溶接ワイヤを送出し、溶接ワイヤと厚鋼板Sとの間に電圧を印加することによってアークを形成しながら厚鋼板Sの突き合せ部Wを仮付溶接する。
【0018】
集電装置5は、溶接時においてアークを形成するために、溶接トーチ4によって溶接ワイヤから厚鋼板Sの突き合せ部Wへ溶接電流を流した際に厚鋼板Sからアース電流を集電するものである。
この集電装置5は、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aを備えている。図3には溶接待機中の出側集電装置、図4には溶接中の出側集電装置が示されている。
出側集電装置5aは、集電装置本体51と、一対の集電部材53とを備えている。集電装置本体51は、連続仮付溶接機1の筐体54にエアシリンダ56及び圧縮ばね55によって固定されている。エアシリンダ56は、連続仮付溶接機1の筐体54に固定されたシリンダチューブ56aと、エアによりシリンダチューブ56aに対して進退するピストンロッド56bとを備え、集電装置本体51はピストンロッド56bの下端に固定されている。圧縮ばねは、筐体54と集電装置本体51との間に設けられている。
【0019】
一対の集電部材53は、溶接トーチ4に隣接する位置(例えば、溶接トーチ4から300mmだけ離れた位置)に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行うものである。一対の集電部材53は、厚鋼板Sの幅方向両端部同士の突き合せ部Wの両側の外周面に接触するように突き合せ部Wを挟んだ両側に設けられている。一対の集電部材53を配置する位置は、好ましくは、厚鋼板Sの搬送方向において溶接トーチ4から500mm以内であり、300mm以内であることがより好ましい。各集電部材53は、カーボンブラシによって構成され、集電装置本体51にリンク機構52によって接続点を基準に回転可能に支持され、エアシリンダ56のピストンロッド56bを稼働することによって集電装置本体51を上下方向に移動させることにより集電装置本体51とともに上下方向に移動する。
【0020】
集電装置5の出側集電装置5aは、厚鋼板Sの連続仮付溶接に際し、次の集電方法によって溶接時の集電を行う。
先ず、仮付溶接の開始に際し、厚鋼板Sの前端部が溶接トーチ4の下方にくるまで搬送されると、連続仮付溶接機1に設けられた図示しない位置検出センサが厚鋼板Sの前端部を検出する。このとき、図3に示すように、出側集電装置5aにおいて、一対の集電部材53は、厚鋼板Sの突き合せ部Wを挟む両側の外周面に対し上昇した待機位置に位置している。
【0021】
次いで、位置検出センサが厚鋼板Sの前端部を検出すると、図4に示すように、出側集電装置5aのエアシリンダ56が稼働し、集電装置本体51を下方向に移動させて、厚鋼板Sの突き合せ部Wを挟む両側の外周面に一対の集電部材53を押し付ける。この際に、リンク機構52によって各集電部材53が厚鋼板Sの外周面に倣って回転し、厚鋼板Sの外周面曲率に倣った状態で押し付けられる。これにより、各集電部材53が厚鋼板Sの外周面に良好な状態で接触する。
【0022】
また、位置検出センサが厚鋼板Sの前端部を検出したときには、溶接トーチ4が溶接ワイヤと厚鋼板Sとの間に電圧を印加し、厚鋼板Sの突き合せ部Wが仮付溶接される。この際に、一対の集電部材53が厚鋼板Sの突き合せ部Wを挟む両側の外周面に押し付けられているので、溶接ワイヤから厚鋼板Sの外周面を流れるアース電流は一対の集電部材53によって集電される。このとき、各集電部材53が厚鋼板Sの外周面曲率に倣った状態で厚鋼板Sの外周面に良好な状態で接触するので、良好なアース電流の集電を確保することができる。なお、大径溶接鋼管の素材である厚鋼板Sの長手方向(すなわち搬送方向)の両端部の突き合せ部に、タブ板と称されるダミーの鋼板(図示せず)を取り付けておいて、タブ板部において実際の溶接を開始してもよい。
【0023】
そして、仮付溶接中は、厚鋼板Sが搬送されつつ一対の集電部材53が厚鋼板Sの突き合せ部Wを挟む両側の外周面に押し付けられている図4の状態を維持する。この際に、厚鋼板Sを搬送する際の振動は圧縮ばね55によって吸収され、溶接中も一対の集電部材53による厚鋼板Sの外周面への良好な接触状態が維持されるとともに、良好なアース電流の集電が維持される。
そして、位置検出センサが厚鋼板Sの尾端部を検出すると、溶接トーチ4による仮付溶接は終了する。このとき、図3に示すように、出側集電装置5aのエアシリンダ56が稼働し、集電装置本体51を上方向に移動させて一対の集電部材53を元の待機位置に上昇させる。これにより、出側集電装置5aによる集電は終了する。なお、厚鋼板Sの搬送方向の上流側の端部の突き合せ部に、タブ板と称されるダミーの鋼板(図示せず)を取り付けてある場合には、タブ板部において実際の溶接を終了してもよい。
【0024】
以上のように、本実施形態に係る集電装置5によれば、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aであって、溶接トーチ4に隣接する位置に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材53を備えた出側集電装置5aを備えている。
また、本実施形態に係る集電方法によれば、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aであって、溶接トーチ4に隣接する位置に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材53を備えた出側集電装置5aによって、溶接時の集電を行う。
【0025】
これにより、1枚の厚鋼板Sを連続して仮付溶接を行う間、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aの1箇所で集電するので、溶接ワイヤから集電装置5へと流れる電流の経路を限定でき、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる。
そして、溶接トーチ4の出側に配置された出側集電装置5aでアース電流を集電するので、厚鋼板Sの既溶接部を電流が流れることになり、その部分が磁化することなく、磁気吹き現象の発生を回避できず溶接アークが偏向してしまうおそれを回避することができる。
【0026】
また、集電装置5の出側集電装置5aは、溶接トーチ4に隣接する位置に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材53を備えているので、溶接ワイヤから集電部材53に流れる電流の経路自体を従来(厚鋼板Sの下部に集電部材を接触させることで集電する方式)に比べて短縮することができるため、溶接電流によって磁界が発生しその影響で磁化する厚鋼板の範囲縮小が可能となり、更なる磁気吹き現象を抑制することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る集電装置5の出側集電装置5aにおいて、集電部材53は、厚鋼板Sの幅方向両端部同士の突き合せ部Wの両側の外周面に接触するように突き合せ部Wを挟んだ両側に一対設けられている。このため、厚鋼板Sの突き合せ部Wの仮付溶接時に、一対の集電部材53が、厚鋼板Sの幅方向両端部同士の突き合せ部Wの両側の外周面に接触し、単独の集電部材が接触するよりも安定して厚鋼板Sに接触し集電を行うことが可能となる。
【0028】
また、本実施形態に係る連続仮付溶接機1によれば、前述の集電装置5を備えている。これにより、1枚の厚鋼板Sを連続して仮付溶接を行う間、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aの1箇所で集電するので、溶接ワイヤから集電装置5へと流れる電流の経路を限定でき、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる。
また、本実施形態に係る連続仮付溶接方法によれば、前述の集電方法によって溶接時の集電を行う集電工程を含んでいる。これにより、1枚の厚鋼板Sを連続して仮付溶接を行う間、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aの1箇所で集電するので、溶接ワイヤから集電装置5へと流れる電流の経路を限定でき、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる。
【0029】
これに対して、参考例に係る集電装置が適用される連続仮付溶接機について、図5を参照して関単に説明する。図5は、参考例に係る集電装置が適用される連続仮付溶接機の概略構成を示す模式図である。図5において、図1に示す部材と同一の部材については同一の符号を付し、その説明は省略することがある。
図5に示す連続仮付溶接機100は、基本構成は図1に示す本実施形態に係る連続仮付溶接機1と同様であるが、集電装置5の構成及び配置が相違している。
【0030】
即ち、図5に示す連続仮付溶接機100における集電装置5は、ケージロール31a~31h(ケージロール31hのみ図示)の出側に配置されるケージロール後集電装置6aと、ケージロール31a~31h(ケージロール31hのみ図示)の入側に配置されるケージロール前集電装置6bとを備えて構成されている。そして、ケージロール後集電装置6a及びケージロール前集電装置6bのそれぞれは、溶接トーチ4から離れた厚鋼板Sの下部に接触して溶接時の集電を行う集電部材(図示せず)を備えている。
【0031】
この参考例に係る集電装置5は、1枚の厚鋼板Sを連続して仮付溶接を行う間、溶接開始時にはケージロール前集電装置6bのみ、溶接開始して厚鋼板Sの搬送が進むとケージロール前集電装置6b及びケージロール後集電装置6aの両方、さらに厚鋼板Sの搬送が進むとケージロール後集電装置6aのみと、使用する集電装置が溶接中に変化するため、1枚の厚鋼板Sを仮付溶接する間に、溶接ワイヤから集電装置(集電部材)へと流れる電流の経路が複数存在することにより磁気吹き現象が発生することで、溶接アークが不安定となる。
【0032】
これに対して、本実施形態に係る集電装置5の場合、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aであって、溶接トーチ4に隣接する位置に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行う集電部材53を備えた出側集電装置5aを備えている。これにより、1枚の厚鋼板Sを連続して仮付溶接を行う間、溶接トーチ4の出側に配置される出側集電装置5aの1箇所で集電するので、溶接ワイヤから集電装置5へと流れる電流の経路を限定でき、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができる。
【0033】
また、参考例に係る集電装置5において、ケージロール後集電装置6a及びケージロール前集電装置6bのそれぞれの集電部材は、溶接トーチ4から離れた厚鋼板Sの下部に接触して溶接時の集電を行う。このため、溶接ワイヤからそれぞれの集電部材に流れる電流の経路自体が長く、溶接電流によって磁界が発生しその影響で磁化する厚鋼板の範囲が大きい。
これに対して、本実施形態に係る集電装置5の出側集電装置5aにおいて、集電部材53は、前述したように、溶接トーチ4に隣接する位置に配置され、厚鋼板Sの溶接トーチ4の出側の部分に接触して溶接時の集電を行う。これにより、ので、溶接ワイヤから集電部材53に流れる電流の経路自体を参考例に係る集電装置5と比較して短縮することができるため、溶接電流によって磁界が発生しその影響で磁化する厚鋼板の範囲縮小が可能となり、更なる磁気吹き現象を抑制することができる。
【0034】
また、図1に示す連続仮付溶接機1は、鋼管の製造設備に備えられている。そして、この鋼管の製造設備による鋼管の製造方法では、前述の連続仮付溶接方法によって連続仮付溶接を行う連続仮付溶接工程を含んでいる。
これにより、連続仮付溶接工程において、磁気吹き現象を抑制することで溶接アークの安定性を確保した状態で、連続して仮付溶接を行うことができるので、高品質の鋼管を製造することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、図1に示す本実施形態に係る連続仮付溶接機1において、集電装置5は、出側集電装置5aのみならず、図5に示すようなケージロール後集電装置6a及びケージロール前集電装置6bを備えていても良い。但し、この場合、溶接時の集電を行う際に、ケージロール前集電装置6bの稼働をせずに、出側集電装置5a及びケージロール後集電装置6aを稼働させるようにすればよい。
また、集電部材53は、厚鋼板Sの幅方向両端部同士の突き合せ部Wの両側の外周面に接触するように突き合せ部Wを挟んだ両側に一対設けられている必要は必ずしもない。
【符号の説明】
【0036】
1、100 連続仮付溶接機
2 搬送装置
3 拘束装置
4 溶接トーチ
5 集電装置
5a 出側集電装置
6a ケージロール後集電装置
6b ケージロール前集電装置
21 ロール
22 爪
23 チェーン
31a~31h ケージロール
32 シーム押さえロール
33 油圧シリンダ
51 集電装置本体
52 リンク機構
53 集電部材(カーボンブラシ)
54 筐体
55 圧縮ばね
56 エアシリンダ
56a シリンダ
56b ピストンロッド
S 厚鋼板
W 突き合せ部
図1
図2
図3
図4
図5