(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073682
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】成形材料、成形品および成形材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20230519BHJP
C08L 31/08 20060101ALI20230519BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230519BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08L31/08
C08L101/00
C08K7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186290
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】井川 亮一
(72)【発明者】
【氏名】井口 英明
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB22
4F072AD03
4F072AE02
4F072AE06
4F072AE07
4F072AE09
4F072AF01
4F072AF06
4F072AG04
4F072AG05
4F072AH05
4F072AK15
4F072AL14
4J002AA002
4J002BB032
4J002BB122
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4J002BE022
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4J002GM00
4J002GN00
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4J002HA09
(57)【要約】
【課題】曲げ強度、曲げ弾性率を向上しつつ、良好な電気絶縁性が得られる成形材料を提供する。
【解決手段】本発明の成形材料10は、ジアリルフタレート樹脂Aと、一方向にそろえられた繊維束Bと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルフタレート樹脂と、一方向にそろえられた繊維束と、を含む、成形材料。
【請求項2】
請求項1に記載の成形材料であって、
前記繊維束の含有量が、当該成形材料全量に対して、30~80質量%である、成形材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形材料であって、
前記成形材料は、長さ3mm~40mm、幅2mm~10mm、厚み0.03mm~2.0mmの短冊状である、成形材料。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の成形材料であって、
前記繊維束が、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上を含む、成形材料。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の成形材料であって、
以下の手順aで測定される見かけ密度が0.3~0.8g/mlである、成形材料。
(手順a)吐出口の径が33mmの金属製漏斗内に前記成形材料を投入し、内径45mm、容量100mlのメスシリンダー内に自然落下させた後、前記成形材料の高さを測定する。得られた高さと、メスシリンダー内の成形材料の重量から、見かけ密度(g/ml)を算出する。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の成形材料であって、
以下の手順bで測定される120℃での曲げ強度が70~150MPaである、成形材料。
(手順b)前記成形材料を金型温度165℃、硬化時間60秒間の条件で射出成型し、ISO-3167準拠した試験片を作成する。当該試験片を用いてISO-178に準拠して曲げ強度を測定する。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の成形材料であって、
反応開始剤をさらに含む、成形材料。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の成形材料の硬化物を備える成形品。
【請求項9】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の成形材料を用いて、圧縮成形、トランスファー成形または射出成形により硬化し成形品を得る工程を含む、成形品の製造方法。
【請求項10】
一方向に引きそろえられた繊維束にジアリルフタレート樹脂を含浸させる工程と、
前記繊維束を切断して成形材料を得る工程と、
を含む、成形材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料、成形品および成形材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、優れた電気的特性からエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂と並んで電気・電子部品に使用され、中でも寸法安定性、耐水性に優れることからコイルボビン、スイッチケース、端子板、コネクター、マグネットスイッチ等に使用されてきた。しかしながら、機械的強度において十分ではなかった。
【0003】
一方、機械的強度に優れた材料の一つとして、強化繊維を用いた、繊維強化プラスチック(FRP)成形体が知られる。繊維強化プラスチックは、強化繊維と、マトリックス樹脂とを含むものであり、マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂(例えば、特許文献1)および熱硬化性樹脂(例えば、特許文献2)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-209640号公報
【特許文献2】国際公開第2019/173016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような熱可塑性樹脂は機械的強度が十分ではなかった。また、特許文献2には熱硬化性樹脂が用いられることの開示はあるものの、熱硬化性樹脂の種類等に関する具体的な開示はなく、繊維強化プラスチック成形体の電気的絶縁性に着目するものでもなかった。
そのため、従来技術は、繊維強化プラスチック成形体の電気的絶縁性および機械的強度を両立する点において改善の余地があった。
【0006】
本発明者らは、機構部品用途の材料として使用するに十分な曲げ強度、曲げ弾性率を備えつつ、電気絶縁性が得られる成形材料を得ることを課題として鋭意検討を行い、ジアリルフタレート樹脂と特定の繊維束を組み合わせた新たな成形材料を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
ジアリルフタレート樹脂と、一方向にそろえられた繊維束と、を含む、成形材料が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
上記の成形材料の硬化物を備える成形品が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
上記の成形材料を用いて、圧縮成形、トランスファー成形または射出成形により硬化し成形品を得る工程を含む、成形品の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
一方向に引きそろえられた繊維束にジアリルフタレート樹脂を含浸させる工程と、
前記繊維束を切断して成形材料を得る工程と、
を含む、成形材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、曲げ強度、曲げ弾性率を向上しつつ、良好な電気絶縁性が得られる成形材料を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施例における見かけ密度の測定で用いた器具を示す模式図である。
【
図3】実施例における絶縁抵抗の測定で用いた試験片を示す模式図である。
【
図4】実施例における絶縁破壊強さの測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0015】
<成形材料>
図1に示すように、本実施形態の成形材料10は、ジアリルフタレート樹脂Aと、一方向にそろえられた繊維束Bと、を含む。一方向にそろえられた繊維束Bとは、本実施形態の成形材料の製造過程で繊維束が搬送される方向に配向された状態を意図するものである。また製造過程において一部不連続なもの、配向が不十分なものが不可避的に含まれてもよい。繊維束Bは、一定方向に配向された複数の繊維束が平面状に並んだ層が複数積層したものであってもよい。
【0016】
本実施形態の成形材料10において、繊維束Bとは、複数の繊維が配向してまとまっている状態を意図する。繊維束Bは、成形材料10の一方の端部から他方の端部まで連続していることが好ましいが、一部に不連続となるものが含まれていてもよい。
【0017】
本実施形態の成形材料10の形状は特に限定されないが、棒状・柱状、または扁平状であることが好ましく、ジアリルフタレート樹脂Aと繊維束Bとが均一に密着し機械的強度を高める点から、扁平状であることがより好ましい。また、本実施形態の成形材料10が扁平状である場合、その平面視は略四角形、すなわち短冊状であることが好ましい。これにより、繊維束Bを配向させやすくなり、機械的強度を向上しやすくなる。
なかでも、本実施形態の成形材料10は、長さ3mm~40mm、幅2mm~10mmの短冊状であることが好ましい。換言すると、繊維束Bの配向方向の長さが3mm~40mmであり、配向方向に直交する長さが2mm~10mmであることが好ましい。
また、本実施形態の成形材料10の厚みは、特に限定されないが、0.03mm~2.0mmが好ましく、0.1~1.5mmがより好ましい。本実施形態の成形材料10の厚みは、繊維束Bを構成する各繊維の径や束数によって調整される。
【0018】
本実施形態の成形材料10は、以下の手順aで測定される見かけ密度が0.3~0.8g/mlであることが好ましく、0.4~0.6g/mlであることがより好ましい。
(手順a)
吐出口の径が33mmの金属製漏斗内に成形材料10を投入し、内径45mm、容量100mlのメスシリンダー内に自然落下させた後、成形材料10の高さを測定する。
得られた高さと、メスシリンダー内の成形材料10の重量から、見かけ密度(g/ml)を算出する。
【0019】
成形材料10の見かけ密度を上記下限値以上とすることにより、良好な曲げ強度を保持し、成形性を良好にできる。一方、成形材料10の見かけ密度を上記上限値以下とすることにより、良好な電気絶縁性を保持しつつ、成形性を良好にできる。
【0020】
またさらに、本実施形態の成形材料10は、手順bで測定される120℃での曲げ強度が70~150MPaであることが好ましく、80~145MPaであることがより好ましく、90~140MPaであることがさらに好ましい。
(手順b)
成形材料10を金型温度165℃、硬化時間60秒間の条件で射出成型し、ISO-3167準拠した試験片を作成する。当該試験片を用いてISO-178に準拠して曲げ強度を測定する。
【0021】
成形材料10の120℃での曲げ強度を上記下限値以上とすることにより、機械的強度を高め、成形材料10を用いた成型品の選択肢を広げることができる。一方、成形材料10の120℃での曲げ強度を上記上限値以下とすることにより、成形材料10を用いた成型品の良好な加工性を保持にできる。
【0022】
上記の見かけ密度および曲げ強度は、本実施形態の成形材料10の製造方法、材料の選択を公知の方法によって制御することによって実現することができる。具体的には、たとえば、後述の製造方法等を用いて繊維束Bを一方向にそろえたり、ジアリルフタレート樹脂Aと繊維束Bの含有量を制御すること等が挙げられる。
【0023】
以下、本実施形態の成形材料10を構成する材料について説明する。
【0024】
[繊維束]
繊維束Bは、本実施形態の成形材料10機械的強度を向上させるものであり、複数の長尺な繊維が束状に集合したものである。繊維束Bは、連続していることが好ましいが、一部に不連続のものが含まれていてもよい。
本実施形態において繊維束Bとしては、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、バサルト繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、およびバサルト繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0025】
また、繊維束Bの含有量は、成形材料10全量に対して、30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましく、45~60質量%であることがより好ましい。
繊維束Bの含有量を上記下限値以上とすることにより、成形材料10による曲げ強度、曲げ弾性率を向上できる。一方、繊維束Bの含有量を上記上限値以下とすることにより、成形材料10の加工性を保持し、良好な曲げ強度、曲げ弾性率が得られる。
【0026】
また、繊維束Bを構成する繊維径は、特に限定されないが、良好な機械的強度と加工性を得る観点から、1~20μmが好ましく、2~15μmであることがより好ましい。
【0027】
繊維束Bの数平均繊維径(直径)は、特に限定されないが、良好な機械的強度と加工性を得る観点から、好ましくは1~50μm、より好ましくは5~30μm、さらに好ましくは8~20μmである。
また、繊維束Bの数平均繊維長は、特に限定されないが、本実施形態の成形材料10の長手方向の長さを100とした場合、50~100%の長さであることが好ましく、80~100%であることがより好ましい。また、繊維束Bの数平均繊維長としては、例えば10~1000μmであってもよく、30~500μmであってもよい。
【0028】
繊維束Bの数平均繊維径および数平均繊維長は、例えば電子顕微鏡で、繊維束Bを構成する各繊維100本の径および長さを測定することで求めることができる。繊維束Bを構成する各繊維の形状・長さ等を適切に調整することで、成形の際の流動性、成形品の機械的強度などをより良化させることができる。
【0029】
[ジアリルフタレート樹脂]
ジアリルフタレート樹脂Aは、成形材料10に優れた電気的特性を付与させるものであり、繊維束Bに含浸されている。ジアリルフタレート樹脂Aは、オルソタイプ、イソタイプ、パラタイプいずれのものも使用できるが、成形品に高い耐熱性が要求される場合はイソタイプ、またはパラタイプのものを使用することが望ましい。
【0030】
ジアリルフタレート樹脂Aの種類は、特に限定されるものではないが、樹脂の粘度等を考慮すると、軟化点50~110℃のものが好ましい。
【0031】
ジアリルフタレート樹脂Aの含有量は、成形材料10全体に対して15~70質量%であることが好ましく、さらに好ましくは20~45質量%である。
ジアリルフタレート樹脂Aの含有量を、かかる数値範囲にすることにより、成形材料10に優れた電気的特性を付与することができる。ジアリルフタレート樹脂Aの含有量を上記下限値以上とすることにより成形材料10への加工性良好にできる。一方、ジアリルフタレート樹脂Aの含有量を上記上限値以下とすることにより、機械的特性を保持できる。
【0032】
本実施形態の成形材料10は、必要に応じて、反応開始剤、難燃剤、及び無機充填剤の他、離型剤、顔料、密着向上剤、カップリング剤等の公知の添加剤を含むことができる。本実施形態の成形材料10は、これら他の成分を含む場合、1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
これら各種成分は、上記のジアリルフタレート樹脂Aとともに混合し、ジアリルフタレート樹脂組成物とすることができる。本実施形態の成形材料10は、ジアリルフタレート樹脂組成物と、繊維束とを用いて、後述する説明する製造方法によって得ることができる。
【0033】
[反応開始剤]
本実施形態の成形材料10は、ジアリルフタレート樹脂Aの反応開始剤を用いることができる。
反応開始剤としては特に限定されないが、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの過酸化物を用いることができる。
【0034】
[難燃剤]
本実施形態の成形材料10は、難燃剤を用いることができる。難燃剤としては、塩素系難燃剤、無機系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、などが挙げられる。
難燃剤の含有量は、成形材料10の用途に応じて適宜設定できるが、成形材料10全体に対して0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましい。
【0035】
さらに、本実施形態の成形材料10は、難燃助剤として、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸、ホウ酸亜鉛等を用いることができる。難燃効果や環境への影響を考慮すれば、水酸化アルミニウム、ホウ酸、ホウ酸亜鉛が好ましい。
【0036】
[無機充填剤]
本実施形態の成形材料10は、無機充填材を用いることができる。無機充填材により、成形材料10に機械的特性、寸法安定性などを付与することができる。
無機充填材としては、特に限定されないが、ガラス繊維、クレー、炭酸カルシウム、タルク、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の中から適宜単独または組み合わせて用いることができる。
なかでも、成形材料10に要求される性能(機械的特性、電気的特性、難燃性、寸法安定性、耐水性等)を考慮すると、ガラス繊維、クレーを使用することがより好ましい。なお、水酸化アルミニウムなど一部の無機充填材は難燃助剤としての効果も有する。
【0037】
上記無機充填材の含有量は、成形材料10全体に対して75~20重量%であることが好ましく、さらに好ましくは70~45重量%である。無機充填材の含有量を前記下限値以上とすることで良好な機械的特性、耐熱性を保持でき、また前記上限値以下とすることで成形材料10の加工性を良好にできる。
【0038】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂組成物は、通常の方法により製造することができる。すなわち、上記の繊維束Bおよび全原料を、ロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独、または、ロールと他の混合装置との組み合わせにより溶融混練し得られた混練物を粉砕することによりジアリルフタレート樹脂組成物を得る。また、溶融混練に際し、繊維フィラーを除く原料を場合によっては複数回に分けて投入し、混合してもよい。または、溶融混錬せずにジアリルフタレート樹脂組成物をそのまま粉砕したものを使用してもよい。
こうすることで、粉体状のジアリルフタレート樹脂組成物を得る。粉体状のジアリルフタレート樹脂組成物の平均粒径は、例えば、10~100μmとすることができる。
なお、ジアリルフタレート樹脂組成物の原料に顔料が含まれる場合、顔料は、粉砕して得られたジアリルフタレート樹脂組成物に後から添加し、その後、ヘンシェルミキサー等の混合設備で均一にブレンドして付着させてもよい。顔料を後から添加することで溶融混練時に混合設備が汚染されるのを抑制し、安定的に所望の組成物を得ることができる。
【0039】
<成形材料10の製造方法>
本実施形態の成形材料10の製造方法の一例について説明する。本実施形態の成形材料10の製造方法は、以下の工程を含む。
工程1:一方向に引きそろえられた繊維束Bにジアリルフタレート樹脂Aを含浸させる工程
工程2:繊維束Bを切断して成形材料10を得る工程
以下各工程について説明する。
【0040】
[工程1]
まず、粉体状のジアリルフタレート樹脂Aを含むジアリルフタレート樹脂組成物を上述した公知の方法で用いて準備する。
一方で、繊維束Bを長さ方向に引きそろえるように公知の方法で搬送する。繊維束Bは予めロール状に巻き取られていてもよい。繊維束Bは、連続した繊維が束ねられた長尺な繊維群であり、のちに切断されることによって成形材料10の一部を構成する。
【0041】
つづけて、流動床技術を使用して、繊維束Bに粉体を付着させる方法を用いることができる。具体的には、上記で得られたジアリルフタレート樹脂Aを含む粉体を、流動床から、直接、繊維束Bに被着させてもよく、または、ロール状に巻き取られた長尺な繊維束Bを、ロールから巻き出して走行させながらジアリルフタレート樹脂Aを含む粉体を繊維束Bの表面全体に吹き付けて付着させてもよい。
例えば、公知の流動床装置を用いた場合、粉体流動条件を調整することにより、繊維束Bに付着させるジアリルフタレート樹脂Aを含む粉体の付着量を調整することができる。その結果、後に得られる短冊状の成形材料10における繊維束Bの割合も制御することができる。
【0042】
続けて、粉体が付着された繊維束Bを短時間で加熱することによって、粉体に含まれるジアリルフタレート樹脂A等の材料を繊維束Bに含浸・固着させる。加熱方法としては特に限定されないが、例えば、遠赤外線ヒータ、高温オーブン、誘導加熱による非接触の予熱方法、または加熱したロールまたはベルトに接触させることにより予熱すること方法が挙げられる。
【0043】
[工程2]
その後、ジアリルフタレート樹脂Aが含浸した繊維束Bを短手方向に切断し、短冊状とすることによって、本実施形態の成形材料10が得られる。これにより、短冊の長手方向に略平行に繊維束Bが配向した成形材料10が得られる。
切断方法は特に限定されず公知の方法を用いることができる。
【0044】
<成形品、成形品の製造方法>
上述の成形材料10を硬化させることで、成形品を製造することができる。例えば、上述の成形材料10および適当な金型を用い、トランスファー成形、コンプレッション成形、射出成形等の方法により、成形品(上述の成形材料10の硬化物を備える成形品)を製造することができる。なかでも、繊維束Bによる機械的強度を効果的に発揮させる点から、射出成型であることが好ましい。
【0045】
成形品の用途は特に限定されない。用途としては、例えば、自動車、航空機、鉄道車両、船舶、事務機器、汎用機械、家庭用電化製品、電機機器、各種筺体、構造・機構部品などを挙げることができる。もちろん、これら以外の用途も排除されない。
【0046】
また、本実施形態の成形品の製造方法は、予め、上述の成形材料10に対して70~150℃、1~10分の条件で熱処理を施したのちに、成形加工する工程を含んでもよい。
こうすることにより、成形材料10の繊維束Bが広がり、成形品中に繊維束Bが均一に分散しやすくなり、成形品の品質を向上できるようになる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0048】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0049】
(1)成形材料の作製
成形材料の原料として、以下のものを用意した。
[繊維]
・繊維束:ガラス繊維(ロービング状、連続繊維状)、製品名「RS 120PA」日東紡績株式会社製(繊維平均径15μm)
・短繊維:ガラス繊維(3mmチョップ状)、製品名「ECS03 B-180H」日本電気硝子株式会社製(繊維平均径11μm)
【0050】
[ジアリルフタレート樹脂組成物]
・ジアリルフタレート樹脂1:「ダイソーDAP.K」ダイソー株式会社製、融点65-100℃
・ジアリルフタレート樹脂2:「ダイソーイソダップ」ダイソー株式会社製、融点50-80℃
・反応開始剤:ジクミルパーオキサイド
・難燃助剤:三酸化アンチモン「PATOX-C」日本精鉱株式会社製
・難燃剤:塩素系難燃剤 デクロランプラス
・無機充填剤:クレー「SP33」BASF South East Asia Pte Ltd.社製
・離型剤1:「ダイワックス M-5」大日化学工業株式会社製
・顔料1:「カーボンブラック#45」三菱ケミカル社製
【0051】
[フェノール樹脂組成物]
・フェノール樹脂1:フェノキシ変性フェノール樹脂(フェノキシ樹脂変性率10%)「Durez33789」住友ベークライト社製
・フェノール樹脂2:レゾール型フェノール樹脂「PR-51723」住友ベークライト社製
・フェノール樹脂3:レゾール型フェノール樹脂「R-25」住友ベークライト社製
・ポリビニルブチラール樹脂(PVB):「エスレックBX-5」積水化学工業社製
・離型剤2:脂肪酸マグネシウム、カルバナワックス「ダイワックス」大日化学社製
・水酸化カルシウム(消石灰):河合石灰工業社製
・顔料1:「カーボンブラック#45」三菱ケミカル社製
【0052】
<実施例1>
まず、粉体状のジアリルフタレート樹脂組成物を作製した。具体的には、表1に示される割合で材料混合物を回転速度の異なる加熱ロールを用いて80℃で混練し、シート状に冷却したものを粉砕することにより、ジアリルフタレート樹脂を含む顆粒状の混錬物を得た。その後、ACM粉砕機(衝撃型分級機内蔵微粉砕機)を用いて分級回転3000rpm、粉砕回転8500rpmの条件で粉砕し、粉体状のジアリルフタレート樹脂組成物(以下、「粉体A」とする)を得た。粉体Aの平均粒径は15μmであった。
つぎに、コーター装置を用い、表1の繊維束に粉体Aを付着させる。具体的には、コーター装置のコーター槽で粉体攪拌し静電気を発生させるとともにコーター槽内に繊維束を通過させることで、静電気を利用して粉体Aを繊維束に付着させた後、高温オーブンを用い200℃、20秒で加熱し、表1に示される割合となるように、粉体Aを繊維束に含浸させた。
その後、繊維束を短手方向に切断し、短冊状の成形材料(8mm×3mm)を得た。
【0053】
<比較例1>
短繊維を含む粉体状のジアリルフタレート樹脂組成物を作製し、これを成形材料とした。
具体的には、表1に示される割合で材料混合物を回転速度の異なる加熱ロールを用いて80℃で混練し、シート状に冷却したものを粉砕することにより、ジアリルフタレート樹脂を含む顆粒状の混錬物を得た。
その後、ACM粉砕機(衝撃型分級機内蔵微粉砕機)を用いて分級回転3000rpm、粉砕回転8500rpmの条件で粉砕し、粉体状の混錬物を得た。得られた粉体を構成する微粒子の平均粒径は15μmであった。粉体状混錬物に顔料を添加した上で、ヘンシェルミキサーで5分間混合することで短繊維を含む粉体状のジアリルフタレート樹脂組成物を得、これを成形材料とした。
【0054】
<比較例2>
ジアリルフタレート樹脂組成物をフェノール樹脂組成物に変えた以外は、実施例1と同様にして、短冊状の成形材料(8mm×3mm)を得た。
【0055】
(2)成形材料の物性の測定
得られた各成形材料をもちいて、以下の測定を行った。
【0056】
[見かけ密度(g/ml)]
まず、
図2に示す大きさ(mm)の金属性漏斗および金属性メスシリンダーを用意した。金属性漏斗は内側が滑らかであり、投入された成形材料が重力方向にスムーズに下降できるものとした。
次に、メスシリンダーの質量を測定した後、金属製漏斗の下端を平らな金属板でふさぎ、よく混合した成形材料を、吐出口の径が33mmの金属製漏斗内に投入した。続けて、漏斗下端の金属板を取り去り、成形材料を内径45mm、容量100mlのメスシリンダー内に自然落下させた。メスシリンダーの縁より盛り上がった成形材料は直定規を用いて取り去った。メスシリンダー内に積み重なった成形材料の最上面の高さおよび重量を測定し、見かけ密度(g/ml)を算出した。
【0057】
[曲げ強度]
各成形材料を金型温度165℃、硬化時間60秒間の条件で射出成型し、ISO-3167準拠した試験片を作成した。当該試験片を用いてISO-178に準拠して曲げ強度を測定した。
【0058】
(3)評価
各成形材料を金型温度165℃、硬化時間60秒間の条件で射出成型することにより各試験片を作成し、以下の機械特性および電気特性の評価を行った。
【0059】
[機械特性]
・シャルピー衝撃強さ(ノッチあり)]
ISO-3167に準拠するMPTS試験片(アニール処理無し)を作成し刃物を用いてノッチ加工を施した。ISO 179-1準拠してシャルピー衝撃強さ(kJ/m2)を測定した。
【0060】
・曲げ強度(MPa)、曲げ弾性率(GPa)
成形材料を金型温度165℃、硬化時間60秒間の条件で射出成型し、ISO-3167準拠した試験片を作成した(アニール処理無し)。当該試験片を用いてISO-178に準拠して、25℃、80℃、120℃、160℃、200℃における各曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0061】
[電気特性]
・絶縁抵抗(常態)及び(煮沸)
図3に示すようにして、作成した試験片(縦20mm、横40mm、厚み10mm)に、2つの貫通孔(φ5mm)を設けた。
つぎに、20℃、65%RHで90時間前処理をした後、試験片の2個の穴に電極を挿入し、温度20℃湿度65%RHで試験片を1分間充電した後、絶縁抵抗測定器を使い直流電圧500Vで絶縁抵抗を測定した(常態)。
また、上記の前処理後の試験片をさらに2時間煮沸し、冷却後、上記同様に電極を用いて絶縁抵抗の測定を行った(煮沸)。
【0062】
・絶縁破壊強さ(S/S)
試験片(φ100mm、厚み2mmの円板)を作成し、20℃、65%RH、90時間の処理を施した。その後、当該試験片を
図4のように設置した。
(短時間法)10~20秒で絶縁破壊が起こるように電圧を0kVから一定の速度で上昇させ、試験片が破壊した時の破壊電圧を測定した。
(段階法)短時間法で求めた破壊電圧の40%となる電圧を選び、かかる電圧を20秒間印加した。試験片が破壊しなければ、規定の段階電圧に従い、次に高い電圧を20秒間印加した。絶縁破壊を起こさなかった場合は、順次電圧を高くし、これを繰り返した。絶縁破壊を起こさなかった最も高い電圧を絶縁破壊電圧とした。
【0063】
・耐トラッキング性
IEC 60112規格に準拠して耐トラッキング性試験を行った。具体的には、まず、試験片表面に電極を接触させた。つづけて、電極間に印加する電圧を適度な値に設定し、回路抵抗器によって短絡時の電流が1±0.1Aになるように調節した。電極間に滴下する電解質の溶液(0.1%の塩化アンモニウム)は30秒に1滴の割合で滴下した。この操作を電極間の絶縁材料が破壊するまで繰り返した。50滴に耐える最大電圧の数値を指数として表した(CTI)。
【0064】