(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073688
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】水処理方法およびシリカ系スケール抑制剤
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230519BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20230519BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20230519BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D61/02 500
B01D61/04
B01D65/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186300
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 樹生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA17
4D006GA32
4D006HA41
4D006KA01
4D006KA03
4D006KA52
4D006KA53
4D006KA54
4D006KA55
4D006KA56
4D006KA57
4D006KA72
4D006KB04
4D006KB11
4D006KD06
4D006KD21
4D006KD30
4D006MA03
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB03
4D006PB04
4D006PB05
4D006PB06
4D006PB08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被処理水のシリカの含有量が高濃度であっても、中性条件にて逆浸透膜におけるシリカ系スケールの発生を抑制することができる水処理方法、およびその水処理方法に用いるシリカ系スケール抑制剤を提供する。
【解決手段】シリカを含有する被処理水にスケール抑制剤を添加する添加工程と、スケール抑制剤が添加された被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理工程と、を含み、スケール抑制剤が、特定の構造を持つビスフェノールS単量体単位および特定の構造を持つフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有する、水処理方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含有する被処理水にスケール抑制剤を添加する添加工程と、
前記スケール抑制剤が添加された被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理工程と、
を含み、
前記スケール抑制剤が、下記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および下記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有することを特徴とする水処理方法。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記被処理水のpHが、6.5以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理方法であって、
前記濃縮水のシリカ濃度が、150mg/L以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
前記共重合体の分子量が、重量平均分子量として1000~100000の範囲であることを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
前記被処理水に対する前記スケール抑制剤の添加濃度が、固形分濃度として5mg/L以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項6】
下記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および下記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有することを特徴とするシリカ系スケール抑制剤。
【化3】
(1)
【化4】
(2)
【請求項7】
請求項6に記載のシリカ系スケール抑制剤であって、
前記共重合体の分子量が、重量平均分子量として1000~100000の範囲であることを特徴とするシリカ系スケール抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜処理を行う水処理方法、およびその水処理方法に用いることができるシリカ系スケール抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、純水製造や水回収等、逆浸透膜が用いられる機会が増加している。スケーリングは、逆浸透膜の運転管理項目の中でも最も重要なものの一つである。逆浸透膜の表面でスケールが発生すると、差圧上昇を引き起こし、設備の運転効率の悪化につながるため、これらのスケール発生を抑制することは、設備の安定運転上、非常に重要である。
【0003】
各種のスケールのうち、シリカ系のスケールは特に発生を抑制することが難しい。これは、シリカが他のイオン成分によってスケール化を促進されることと、シリカスケールが非電荷であること等が挙げられる。
【0004】
スケーリングの対策としては、被処理水等へのスケール分散剤の添加が主である。スケール分散剤はアクリル酸やマレイン酸、ホスホン酸等の構造を持ち、荷電的にカチオンを捕捉してスケールの析出を抑制する機能を有し、かつ立体障害により分散能を得ていた。ただし、上記の通り、シリカは非荷電物質であるため、有効なシリカ系スケール分散剤が少ない。定期的な膜のフラッシングを行う、ターシャルブチル基のような構造を持つ多分岐状ポリマーを用いる等、シリカスケールの成長を物理的、立体的に阻害する間接的なスケーリング対策にとどまっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そのため、シリカスケールの対策を行う場合は、被処理水を酸性にしてシリカの析出時間を制御することによってシリカスケーリングを抑制したり(例えば、特許文献2参照)、被処理水をアルカリ性にしてシリカの溶解度を上げることによってシリカの析出を抑制したりする等により、逆浸透膜の運転を行っていた。
【0006】
しかし、被処理水を酸性にする場合は、逆浸透膜の阻止率の低下が深刻であり、処理水質の悪化を招いていた。被処理水をアルカリ性にする場合は、硬度成分のスケールの析出リスクが非常に高くなるため、硬度成分向けの分散剤の添加や、軟化処理等の前処理設備の設置が必要となっていた。
【0007】
また、上記シリカ系スケール分散剤は、比較的低濃度でのシリカに対しては効果があるものの、高濃度条件(例えば、200mg/L以上等)では、十分な抑制効果を発揮できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6512322号公報
【特許文献2】特許第3187629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、被処理水のシリカの含有量が高濃度であっても、中性条件にて逆浸透膜におけるシリカ系スケールの発生を抑制することができる水処理方法、およびその水処理方法に用いることができるシリカ系スケール抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリカを含有する被処理水にスケール抑制剤を添加する添加工程と、前記スケール抑制剤が添加された被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理工程と、を含み、前記スケール抑制剤が、下記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および下記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有する、水処理方法である。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
【0011】
前記水処理方法において、前記被処理水のpHが、6.5以上であることが好ましい。
【0012】
前記水処理方法において、前記濃縮水のシリカ濃度が、150mg/L以上であることが好ましい。
【0013】
前記水処理方法において、前記共重合体の分子量が、重量平均分子量として1000~100000の範囲であることが好ましい。
【0014】
前記水処理方法において、前記被処理水に対する前記スケール抑制剤の添加濃度が、固形分濃度として5mg/L以上であることが好ましい。
【0015】
本発明は、下記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および下記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有する、シリカ系スケール抑制剤である。
【化3】
(1)
【化4】
(2)
【0016】
前記シリカ系スケール抑制剤において、前記共重合体の分子量が、重量平均分子量として1000~100000の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、被処理水のシリカの含有量が高濃度であっても、中性条件にて逆浸透膜におけるシリカ系スケールの発生を抑制することができる水処理方法、およびその水処理方法に用いることができるシリカ系スケール抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】実施例で用いた水処理装置を示す概略構成図である。
【
図3】実施例1および比較例1における、通水時間(hr)に対するFlux保持率(%)を示すグラフである。
【
図4】実施例1における、pHを変化させた際のFlux
t=t/Flux
t=0(-)の挙動を示すグラフである。
【
図5】実施例2における、通水40h後の各添加濃度におけるFlux保持率(%)を示すグラフである。
【
図6】実施例3における、硬度成分の分散性(Ca分散率(%))を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<水処理方法>
本実施形態に係る水処理方法は、シリカを含有する被処理水にスケール抑制剤を添加する添加工程と、スケール抑制剤が添加された被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理工程と、を含み、スケール抑制剤が、下記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および下記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有する、水処理方法である。
【0021】
【0022】
本実施形態に係る水処理方法を行うための水処理装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。
【0023】
図1に示す水処理装置1は、スケール抑制剤が添加された被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理手段として、逆浸透膜処理装置10を備える。水処理装置1は、シリカを含有する被処理水にスケール抑制剤を添加する添加手段として、スケール抑制剤添加配管18を備えてもよい。
【0024】
水処理装置1において、逆浸透膜処理装置10の入口には、被処理水配管12が接続されている。逆浸透膜処理装置10の透過水出口には、透過水配管14が接続され、濃縮水出口には、濃縮水配管16が接続されている。被処理水配管12には、スケール抑制剤添加配管18が接続されている。
【0025】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
【0026】
シリカを含有する被処理水(シリカ含有水)は、被処理水配管12を通して、逆浸透膜処理装置10へ送液される。ここで、被処理水配管12においてシリカを含有する被処理水にスケール抑制剤がスケール抑制剤添加配管18を通して添加される(添加工程)。被処理水を貯留する被処理水槽を逆浸透膜処理装置10の前段に設置して、被処理水槽においてスケール抑制剤が添加されてもよい。
【0027】
逆浸透膜処理装置10において、スケール抑制剤が添加された被処理水が逆浸透膜に通水されて透過水と濃縮水とに分離される(逆浸透膜処理工程)。透過水は、透過水配管14を通して排出され、濃縮水は、濃縮水配管16を通して排出される。
【0028】
この水処理方法において用いられるスケール抑制剤は、上記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および上記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有するスケール抑制剤である。
【0029】
本発明者らは、被処理水のシリカの含有量が高濃度であっても、中性条件にて逆浸透膜におけるシリカ系スケールの発生を抑制する手段として、スルホン酸系ポリマーを、シリカを含有する被処理水に添加することによって、逆浸透膜におけるシリカスケーリングを低減できることを発見した。ビスフェノールS単量体単位およびフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有するスケール抑制剤を用いることによって、シリカスケーリングに対し、中性条件下およびシリカの含有量が高濃度(例えば、シリカ含有量が200mg/L以上)でもシリカスケールを抑制し、安定的な運転を実現することができる。
【0030】
シリカは非荷電物質であるが表面は僅かにアニオンに荷電しているため、スルホン酸系ポリマーのスルホン酸基の強力なアニオン荷電がシリカを分散させることができると考えられる。ここで、このスルホン酸系ポリマーがさらにビスフェノールS構造を持つ場合、ビスフェノールS構造と逆浸透膜の表面が水素結合の作用で引き合うことによって、スルホン酸系ポリマーが膜近傍に滞留するようになり、より効果的に膜面でのシリカスケール析出を抑制することができると考えられる。
【0031】
スケール抑制剤に含有される共重合体は、上記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および上記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体である。スケール抑制剤に含有される共重合体は、下記化学式(3)で表される、上記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および上記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位からなる共重合体であってもよい。上記化学式(1)で表される単量体単位および上記化学式(2)で表される単量体単位を含む共重合体、または上記化学式(1)で表される単量体単位および上記化学式(2)で表される単量体単位からなる共重合体における上記化学式(1)で表される単量体単位(m)と、上記化学式(2)で表される単量体単位(n)のモル比としては、特に制限はないが、例えば、m:n=1:99~99:1の範囲であり、1:9~9:1の範囲であってもよく、m>nであることが好ましく、m>>nであることがより好ましい。
【0032】
【0033】
上記化学式(1)で表される単量体単位および上記化学式(2)で表される単量体単位を含む共重合体は、上記化学式(1)で表される単量体単位および上記化学式(2)で表される単量体単位以外の単量体単位を含んでもよい。上記化学式(1)で表される単量体単位および上記化学式(2)で表される単量体単位以外の単量体単位を構成するモノマーとしては、特に制限はないが、例えば、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等が挙げられる。
【0034】
共重合体の分子量は、特に制限はないが、重量平均分子量として1000~100000の範囲であることが好ましく、1000~25000の範囲であることがより好ましく、4000~25000の範囲であることがさらに好ましい。共重合体の重量平均分子量は、例えば一般的な測定方法であるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定することができる。共重合体の分子量が重量平均分子量として1000未満であると、スケールの抑制効果が不十分となる場合があり、100000を超えると、逆浸透膜が閉塞する可能性が高くなることや、共重合体の粘性が高く取り扱いづらい場合がある。
【0035】
被処理水のpHは、特に制限はないが、6.5以上であることが好ましく、6.6以上であることがより好ましい。pHの上限としては、膜劣化の面からpH11以下が好ましく、pH9以上ではシリカ溶解度が上がる場合があるため、pH9未満であることがより好ましい。被処理水のpHが6.5未満であると、逆浸透膜の透過流束(フラックス(Flux))が低下する場合がある。なお、被処理水のpHとは、スケール抑制剤が添加された後の被処理水のpHである。
【0036】
濃縮水のシリカ濃度は、特に制限はないが、150mg/L以上であることが好ましく、200mg/L以上であることがより好ましい。濃縮水のシリカ濃度の上限としては、例えば、400mg/Lであり、300mg/Lであることが好ましい。すなわち、濃縮水のシリカ濃度は、200~300mg/Lの範囲で特に有効である。なお、ここでのシリカ濃度は、イオン状のシリカの濃度を指す。濃縮水のシリカ濃度が150mg/L未満であると、本スケール抑制剤の優位性はあるものの、既存薬品でもスケール抑制できる範囲であり、400mg/Lを超えると、本スケール抑制剤の優位性は見られるものの、長期的な効果が見られない場合がある。
【0037】
被処理水に対するスケール抑制剤の添加濃度は、特に制限はないが、固形分濃度として1~1000mg/Lの範囲が好ましく、1~100mg/Lの範囲がより好ましく、5~25mg/Lの範囲がさらに好ましい。被処理水に対するスケール抑制剤の添加濃度が固形分濃度として1mg/L未満の場合、十分なスケール抑制効果が得られない場合があり、1000mg/Lを超えると、薬剤の添加量が膨大になり、経済的な問題が大きく、現実的でない。
【0038】
上記重合体は、その他の「スケール抑制剤」や「殺菌剤」、「防食剤」等と併用してもよい。
【0039】
その他のスケール抑制剤としては、高分子電解質やホスホン酸化合物等が挙げられる。
【0040】
高分子電解質としては、例えばアニオン性高分子、両性高分子、カチオン性高分子等が挙げられる。
【0041】
アニオン性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ホスフィン酸重合物、アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとの共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸との共重合物、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と置換アクリルアミドとの共重合物、マレイン酸とペンテンとの共重合物、これらアニオン性高分子のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらのアニオン性高分子およびその塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
両性高分子としては、例えば、ジアリルアミン塩酸塩とマレイン酸の共重合物、ジアリルアミンアミド硫酸塩とマレイン酸の共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとマレイン酸の共重合物等が挙げられる。これらの両性高分子およびその塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
カチオン性高分子としては、ポリジアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらのカチオン性高分子およびその塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
ホスホン酸化合物としては、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、または前記ホスホン酸の塩等が挙げられる。ホスホン酸化合物は遊離の酸として用いてもよいし、塩として用いてもよい。ホスホン酸の塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。ホスホン酸の塩は正塩、酸性塩どちらであってもよい。これらのホスホン酸およびその塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
殺菌剤としては、例えば、次亜塩素酸塩、クロラミン、クロロスルファミン酸、次亜臭素酸、安定化次亜臭素酸組成物等のハロゲン系化合物、イソチアゾロン系化合物、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、2,2-ジブロモ-2-ニトリエタノール(DBNE)等の有機窒素系化合物、4級アンモニウム化合物等が挙げられる。安定化次亜臭素酸組成物としては、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物や、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物等が挙げられる。
【0046】
防食剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール化合物、リン酸塩、モリブデン酸塩、亜鉛塩、亜硝酸塩等が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係る水処理方法における逆浸透膜処理の用途としては、例えば、純水製造、海水淡水化、排水回収等が挙げられる。
【0048】
被処理水としては、工業用水、井水、表流水、水道水や、例えば、除害系より排出される除害系排水、酸アルカリの中和排水といった、半導体製造工程より排出される水、冷却塔ブロー水等が挙げられる。被処理水は、海水、汽水であってもよい。
【0049】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置において、逆浸透膜処理装置10の前段に、被処理水について処理を行う、pH調整、生物処理、凝集処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過処理、膜分離処理、活性炭処理、オゾン処理、紫外線照射処理、脱炭酸処理等の生物学的、物理的または化学的な前処理のうちの少なくとも1つの処理を行う装置を備え、逆浸透膜処理装置10(逆浸透膜処理工程)の被処理水について、pH調整、生物処理、凝集処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過処理、膜分離処理、活性炭処理、オゾン処理、紫外線照射処理、脱炭酸処理等の生物学的、物理的または化学的な前処理のうちの少なくとも1つの処理を行ってもよい。
【0050】
また、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置において、逆浸透膜処理装置10の後段に、逆浸透膜処理装置10の透過水について処理を行う、再生型イオン交換処理装置、電気式脱塩処理装置(EDI)、非再生型イオン交換樹脂装置、脱気膜処理装置、UV殺菌処理装置、UV酸化処理装置、微粒子除去処理装置、第2の逆浸透膜処理装置のうちの少なくとも1つの装置を備え、逆浸透膜処理装置10(逆浸透膜処理工程)の透過水について処理を行う、再生型イオン交換処理、電気式脱塩処理、非再生型イオン交換樹脂処理、脱気膜処理、UV殺菌処理、UV酸化処理、微粒子除去処理、第2の逆浸透膜処理のうちの少なくとも1つの処理を行ってもよい。
【0051】
<シリカ系スケール抑制剤>
本実施形態に係るシリカ系スケール抑制剤は、上記化学式(1)で表されるビスフェノールS単量体単位および上記化学式(2)で表されるフェノールスルホン酸単量体単位を含む共重合体を含有する、水系におけるシリカ系のスケールの生成を抑制するためのシリカ系スケール抑制剤である。
【0052】
共重合体については、上記<水処理方法>において説明した通りである。
【0053】
本実施形態に係るシリカ系スケール抑制剤は、上記重合体の他に、その他の上記「スケール抑制剤」や上記「殺菌剤」、上記「防食剤」等をさらに含んでもよい。
【0054】
本実施形態に係るシリカ系スケール抑制剤は、例えば、逆浸透膜処理工程(逆浸透膜処理装置)を含む水処理のような水系に存在させることによって、水系のシリカ系のスケールの生成を抑制することができる。特に、水系のシリカの含有量が高濃度であっても、中性条件にて水系におけるシリカ系スケールの発生を抑制することができる。
【0055】
処理対象となる水系は、特に制限はないが、例えば、冷却水系や、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)等の分離膜を用いる膜分離装置等の水系であり、熱交換器の伝熱面や膜分離装置の分離膜表面等におけるスケール発生を抑制することができる。
【0056】
処理の際の水系のpHは、特に制限はないが、pH6.5以上であることが好ましく、pH6.6以上であることがより好ましい。pHの上限としては、膜劣化の面からpH11以下が好ましく、pH9以上ではシリカ溶解度が上がる場合があるため、pH9未満であることがより好ましい。処理の際の水系のpHが6.5未満であると、逆浸透膜の透過流束(フラックス(Flux))が低下する場合がある。なお、処理の際の水系のpHとは、スケール抑制剤が添加された後のpHである。
【0057】
水系のシリカ濃度は、特に制限はないが、150mg/L以上であることが好ましく、200mg/L以上であることがより好ましい。水系のシリカ濃度の上限としては、例えば、400mg/Lであり、300mg/Lであることが好ましい。すなわち、水系のシリカ濃度は、200~300mg/Lの範囲で特に有効である。なお、ここでのシリカ濃度は、イオン状のシリカの濃度を指す。水系のシリカ濃度が150mg/L未満であると、本スケール抑制剤の優位性はあるものの、既存薬品でもスケール抑制できる範囲であり、400mg/Lを超えると、本スケール抑制剤の優位性は見られるものの、長期的な効果が見られない場合がある。
【0058】
水系に対するシリカ系スケール抑制剤の添加濃度は、特に制限はないが、固形分濃度として1~1000mg/Lの範囲が好ましく、1~100mg/Lの範囲がより好ましく、5~25mg/Lの範囲がさらに好ましい。水系に対するシリカ系スケール抑制剤の添加濃度が固形分濃度として1mg/L未満の場合、十分なスケール抑制効果が得られない場合があり、1000mg/Lを超えると、薬剤の添加量が膨大になり、経済的な問題が大きく、現実的でない。
【実施例0059】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
図2に示すフローにおいて、逆浸透膜処理の被処理水に対して、シリカ系スケール抑制剤として、上記化学式(3)のポリマーで重量平均分子量が15200のもの(m:n=1:9~9:1)を使用して、下記試験条件で逆浸透膜処理を行い、Flux保持率を測定した。Flux保持率とは、初期のFlux(透過流量m
3/d/(膜面積m
2×膜間差圧MPa)×温度補正)を100%としたときの割合を示した値である。試験系の安定のため、通水開始から1h後を通水時間0hとした。通水時間(hr)に対するFlux保持率(%)を
図3に示す。
【0061】
<比較例1>
シリカ系スケール抑制剤として、上記化学式(3)のポリマーの代わりに、従来品であるアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と置換アクリルアミドとの三元共重合体(重量平均分子量:5000)を用いた以外は実施例1と同様にして逆浸透膜処理を行い、Flux保持率を測定した。通水時間(hr)に対するFlux保持率(%)を
図3に示す。
【0062】
(試験条件)
・試験水(被処理水):純水
SiO2:400mg/L
Ca、Mg:300mgCaCO3/L
Al:0.25mg/L
HCO3
-:150mgCaCO3/L
・水温:25℃
・pH:7.5
・逆浸透膜:日東電工製、ES20平膜
・シリカ系スケール抑制剤濃度:25mg/L as solid
【0063】
図3より、実施例1の上記化学式(3)のポリマーの方が、Flux保持率が高く、高いシリカスケール分散性を有していることがわかる。
【0064】
[pH条件の検討]
図2に示すフローにおいて、pHによる挙動の変化を評価するため、被処理水のpHをpH7から徐々に低下させて下記試験条件で逆浸透膜処理を行い、Flux保持率を確認した。pHを変化させた際のFlux
t=t/Flux
t=0(-)の挙動を
図4に示す。
【0065】
(試験条件)
・試験水:相模原井水を次亜塩素酸により殺菌および砂ろ過、活性炭処理した水
HCO3
-:8mgCaCO3/L
硝酸イオン:10mg/L
硫酸イオン:6mg/L
塩化物イオン:33mg/L
Na:4mg/L
Ca:13mg/L
Mg:6mg/L
SiO2:22mg/L
・水温:25℃
・pH:7.0始まりで、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5まで変化
・シリカ系スケール抑制剤濃度:30mg/L as product
・逆浸透膜:日東電工製、ES20エレメント
・pH調整剤:塩酸
【0066】
図4から、pH6.6まではFlux保持率の低下はほとんどみられないものの、pH6.5ではやや低下が確認された。よって、pHの好ましい範囲はpH6.6以上であることがわかる。
【0067】
<実施例2>
[適正濃度の確認]
逆浸透膜用に使用する際の、シリカ系スケール抑制剤の適切な添加濃度を評価した。通水40h後の各添加濃度におけるFlux保持率(%)を
図5に示す。試験条件は実施例1と同じである。
【0068】
図5から、ブランクと比較していずれも高いFlux保持率を有していることがわかる。5.25~15mg/L添加においては、ほぼ同等な性能であることから、5mg/L添加でも十分な性能が発揮できるといえる。また、20mg/L以上の添加でスケール分散性が高くなっていることから、比較的イオン負荷が高い被処理水に適用する際は、20mg/L以上の添加が望ましいといえる。
【0069】
<実施例3>
[2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸との製剤]
実施例1で用いた上記化学式(3)のポリマーに、硬度スケール分散剤として2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)を配合した際の、硬度成分の分散性(Ca分散率(%))を下記試験条件でビーカー試験によって評価した。結果を
図6に示す。
【0070】
(試験条件)
・試験水:純水
・Ca:400mgCaCO3/L
・M-Alk:400mgCaCO3/L
・pH:8
・浸漬時間:18h
・水温:70℃
【0071】
図6より、PBTCなしでは硬度分散性は低いことがわかった。シリカ系スケール抑制剤には、通常、硬度分散用のポリマーを配合する。ここで、PBTCを配合して同様に試験を実施したところ、高い硬度分散性が得られた。よって、逆浸透膜向けの薬品として使用する際は、PBTC等の硬度スケール分散剤を配合することによって、よりスケーリングが抑制されるといえる。
【0072】
以上の通り、実施例のシリカ系スケール抑制剤を用いることによって、被処理水のシリカの含有量が高濃度であっても、中性条件にて逆浸透膜におけるシリカ系スケールの発生を抑制することができた。