(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073752
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】ハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法及びハーフプレキャストコンクリート部材の構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/38 20060101AFI20230519BHJP
E02B 3/06 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
E04B5/38 A
E02B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186408
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小山 直人
(72)【発明者】
【氏名】駄原 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕司
(72)【発明者】
【氏名】川上 晋作
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118BA03
2D118FA08
2D118FB21
2D118FB27
(57)【要約】
【課題】ハーフプレキャストコンクリート部材の製作に際し、ハーフプレキャスト工法を採用するメリットを最大化し、省力化、省人化や工期の短縮化といった生産性の向上を図る。
【解決手段】プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法であって、オフサイトにてループ状鉄筋を表面から突出させた状態でプレキャストコンクリート部材を製作する工程と、オフサイトにて鉄筋ユニットを製作する工程と、工事現場にプレキャストコンクリート部材を据え付ける工程と、鉄筋ユニットをプレキャストコンクリート部材に搭載する工程と、プレキャストコンクリート部材の表面において鉄筋ユニットを埋設するように現場打ちコンクリートを打設する工程と、を含み、鉄筋ユニットは、プレキャストコンクリート部材から突出したループ状鉄筋と連結するための連結手段を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法であって、
オフサイトにてループ状鉄筋を表面から突出させた状態で前記プレキャストコンクリート部材を製作する工程と、
オフサイトにて鉄筋ユニットを製作する工程と、
工事現場に前記プレキャストコンクリート部材を据え付ける工程と、
前記鉄筋ユニットを前記プレキャストコンクリート部材に搭載する工程と、
前記プレキャストコンクリート部材の表面において前記鉄筋ユニットを埋設するように現場打ちコンクリートを打設する工程と、を含み、
前記鉄筋ユニットは、前記プレキャストコンクリート部材から突出したループ状鉄筋と連結するための連結手段を備えることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法。
【請求項2】
前記連結手段は、フック状鉄筋であり、
前記鉄筋ユニットを前記プレキャストコンクリート部材に搭載する工程は、前記ループ状鉄筋に前記フック状鉄筋を係留させて前記プレキャストコンクリート部材と前記鉄筋ユニットとを連結する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法。
【請求項3】
前記連結手段は第1の波型鉄筋であり、
前記鉄筋ユニットを前記プレキャストコンクリート部材に搭載する工程においては、前記第1の波型鉄筋の谷側が前記ループ状鉄筋に近接するように前記鉄筋ユニットが前記プレキャストコンクリート部材に搭載されることを特徴とする、請求項1に記載のハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法。
【請求項4】
前記鉄筋ユニットは、上部主筋、前記上部主筋と交差する方向に延伸する上部配力筋、及び、前記上部主筋と前記上部配力筋の一方又は両方に係留される前記フック状鉄筋と、を含むことを特徴とする、請求項2に記載のハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法。
【請求項5】
前記ループ状鉄筋は、前記プレキャストコンクリート部材の表面から一部がループ状に突出する第2の波型鉄筋であり、当該第2の波型鉄筋の山頂側が前記プレキャストコンクリート部材の表面から突出していることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法。
【請求項6】
前記ループ状鉄筋は複数設けられ、隣り合う前記ループ状鉄筋同士を繋ぐように連結部材が掛け渡され、前記フック状鉄筋は前記連結部材を介して前記ループ状鉄筋に係留されることを特徴とする、請求項2、4又は5のいずれか一項に記載のハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法。
【請求項7】
プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構造であって、
前記プレキャストコンクリート部材の表面からその一部がループ状に前記現場打ちコンクリート部材側に突出するように設けられるループ状鉄筋を含み、
前記現場打ちコンクリート部材には、上部主筋、前記上部主筋と交差する方向に延伸する上部配力筋、及び、前記上部主筋と前記上部配力筋の一方又は両方に係留されるフック状鉄筋を含む鉄筋ユニットが埋設され、
前記フック状鉄筋は前記ループ状鉄筋にも係留されていることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート部材の構造。
【請求項8】
プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構造であって、
前記プレキャストコンクリート部材の表面からその一部がループ状に前記現場打ちコンクリート部材側に突出するように設けられるループ状鉄筋を含み、
前記現場打ちコンクリート部材には、上部主筋、前記上部主筋と交差する方向に延伸する上部配力筋、及び、前記上部主筋と平行な方向にその軸が延伸する第1の波型鉄筋を含む鉄筋ユニットが埋設され、
前記第1の波型鉄筋の山頂部は前記上部配力筋に係留され、前記第1の波型鉄筋の谷側は前記ループ状鉄筋に近接していることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート部材の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法及びハーフプレキャストコンクリート部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造等の鉄筋を有するコンクリート複合構造物においては、現場での省力化・省人化を目的として、プレキャスト部材と現場打ちコンクリート部材とを組み合わせたハーフプレキャストコンクリート部材(ハーフプレキャストスラブ)が用いられる。例えば、2つのコンクリート部材(プレキャストコンクリート部材及び現場打ちコンクリート部材)を接合させてコンクリート複合構造物を構成する床部材や壁部材が製作される。その際、2つのコンクリート部材の打継面(境界部)においては、設計上、せん断破壊を防止するためにせん断補強筋等を配置することが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、上鉄筋部と下鉄筋部の上下2ブロックからなるハーフプレキャスト床版やその接合方法が開示されている。特許文献1に記載のハーフプレキャスト床版では、下鉄筋部の上面に突出させたスペーサ筋上に上鉄筋部を配筋してコンクリートを打設することで製作を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、例えば上記特許文献1に記載の上鉄筋やスペーサ筋といった、現場打ちコンクリート部材の内部に埋設される上段鉄筋は現場での施工により配筋されることが知られていた。しかしながら、現場での鉄筋の施工には熟練の職人を必要とする上、時間を要するため工期の長期化が懸念される。即ち、工期の短縮化等を目的としてプレキャストコンクリート部材を用いたハーフプレキャスト工法を採用しているにも関わらず、そのメリットが最大限享受されていないといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ハーフプレキャストコンクリート部材の製作に際し、ハーフプレキャスト工法を採用するメリットを最大化し、省力化、省人化や工期の短縮化といった生産性の向上を図ることが可能なハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法及びハーフプレキャストコンクリート部材の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法であって、オフサイトにてループ状鉄筋を表面から突出させた状態で前記プレキャストコンクリート部材を製作する工程と、オフサイトにて鉄筋ユニットを製作する工程と、工事現場に前記プレキャストコンクリート部材を据え付ける工程と、前記鉄筋ユニットを前記プレキャストコンクリート部材に搭載する工程と、前記プレキャストコンクリート部材の表面において前記鉄筋ユニットを埋設するように現場打ちコンクリートを打設する工程と、を含み、前記鉄筋ユニットは、前記プレキャストコンクリート部材から突出したループ状鉄筋と連結するための連結手段を備えることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法が提供される。
ここで、「オフサイト」とは、据え付け場所とは異なる場所であることを示し、据え付け場所そのものを除外する概念である。即ち、「オフサイトにて製作する」との記載は、例えば、工場や据え付け場所の近傍で製作する場合を含んでいる。
【0008】
前記連結手段は、フック状鉄筋であり、前記鉄筋ユニットを前記プレキャストコンクリート部材に搭載する工程は、前記ループ状鉄筋に前記フック状鉄筋を係留させて前記プレキャストコンクリート部材と前記鉄筋ユニットとを連結する工程を含んでも良い。
【0009】
前記連結手段は第1の波型鉄筋であり、前記鉄筋ユニットを前記プレキャストコンクリート部材に搭載する工程においては、前記第1の波型鉄筋の谷側が前記ループ状鉄筋に近接するように前記鉄筋ユニットが前記プレキャストコンクリート部材に搭載されても良い。
【0010】
前記鉄筋ユニットは、上部主筋、前記上部主筋と交差する方向に延伸する上部配力筋、及び、前記上部主筋と前記上部配力筋の一方又は両方に係留される前記フック状鉄筋と、を含んでも良い。
【0011】
前記ループ状鉄筋は、前記プレキャストコンクリート部材の表面から一部がループ状に突出する第2の波型鉄筋であり、当該第2の波型鉄筋の山頂側が前記プレキャストコンクリート部材の表面から突出しても良い。
【0012】
前記ループ状鉄筋は複数設けられ、隣り合う前記ループ状鉄筋同士を繋ぐように連結部材が掛け渡され、前記フック状鉄筋は前記連結部材を介して前記ループ状鉄筋に係留されても良い。
【0013】
また、別の観点からの本発明によれば、プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構造であって、前記プレキャストコンクリート部材の表面からその一部がループ状に前記現場打ちコンクリート部材側に突出するように設けられるループ状鉄筋を含み、前記現場打ちコンクリート部材には、上部主筋、前記上部主筋と交差する方向に延伸する上部配力筋、及び、前記上部主筋と前記上部配力筋の一方又は両方に係留されるフック状鉄筋を含む鉄筋ユニットが埋設され、前記フック状鉄筋は前記ループ状鉄筋にも係留されていることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート部材の構造が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、プレキャストコンクリート部材と現場打ちコンクリート部材からなるハーフプレキャストコンクリート部材の構造であって、前記プレキャストコンクリート部材の表面からその一部がループ状に前記現場打ちコンクリート部材側に突出するように設けられるループ状鉄筋を含み、前記現場打ちコンクリート部材には、上部主筋、前記上部主筋と交差する方向に延伸する上部配力筋、及び、前記上部主筋と平行な方向にその軸が延伸する第1の波型鉄筋を含む鉄筋ユニットが埋設され、前記第1の波型鉄筋の山頂部は前記上部配力筋に係留され、前記第1の波型鉄筋の谷側は前記ループ状鉄筋に近接していることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート部材の構造が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハーフプレキャストコンクリート部材の製作に際し、ハーフプレキャスト工法を採用するメリットを最大化し、省力化、省人化や工期の短縮化といった生産性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材の概略説明図である。
【
図2】プレキャストコンクリート部材の概略俯瞰図である。
【
図4】ループ状鉄筋及びフック状鉄筋の概略説明図である。
【
図5】ハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法についての概略説明図である。
【
図6】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材の概略説明図である。
【
図7】本発明の第2変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材の概略説明図である。
【
図8】本発明の第3変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材の概略説明図である。
【
図9】第3変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法についての概略説明図である。
【
図10】第3変形例における波型鉄筋同士の近接条件に係る概略説明図である。
【
図11】第3変形例における波型鉄筋同士の近接条件に係る概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、本明細書の実施の形態においては、説明のために鉄筋構造や配筋構成について、一部図示を省略する場合や、あるいは、部材内部の鉄筋等を図示する場合がある。
【0018】
(本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材の構成)
図1は本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1の概略説明図であり、その概略側面断面図である。
図1に示すように、ハーフプレキャストコンクリート部材1は、2つのコンクリート部材が接合されて構成され、下部構造としてのプレキャストコンクリート部材10と、上部構造としての現場打ちコンクリート部材20とを含む。ここで、プレキャストコンクリート部材10は、工場などで予め製作された部材である。また、現場打ちコンクリート部材20は現場でのコンクリート打設によって製作される部材である。
【0019】
プレキャストコンクリート部材10の内部には、所定の方向(例えば部材長手方向)に沿って延伸する複数の下部主筋12と、下部主筋12に交差する方向(例えば直交する方向)に延伸する複数の下部配力筋14が設けられる。複数の下部主筋12同士は互いに平行となるように延伸している。同様に複数の下部配力筋14同士も互いに平行となるように延伸している。
【0020】
また、
図2はプレキャストコンクリート部材10の概略俯瞰図である。
図1、
図2に示すように、プレキャストコンクリート部材10には、その表面から一部がループ状に突出するループ状鉄筋16が設けられる。ループ状鉄筋16は、例えば波型鉄筋であり、その谷側が上記下部主筋12と下部配力筋14の一方もしくは両方に係留され、その山頂側がプレキャストコンクリート部材10の表面から突出するように構成されても良い。
【0021】
現場打ちコンクリート部材20の内部には、所定の方向(例えば部材長手方向)に沿って延伸する複数の上部主筋22と、上部主筋22に交差する方向(例えば直交する方向)に延伸する複数の上部配力筋24が設けられる。また、図示のように、上部主筋22と上部配力筋24の一方もしくは両方に係留され、いわゆるフック形状を有するフック状鉄筋26が設けられる。
【0022】
図1に示すように、プレキャストコンクリート部材10の表面から突出した状態のループ状鉄筋16に、フック状鉄筋26が係留され、その状態で現場打ちコンクリートが打設されて現場打ちコンクリート部材20が構成されている。本実施の形態に係る構成では、隣り合うループ状鉄筋16同士を繋ぐように掛け渡された連結部材30が設けられ、この連結部材30を介してフック状鉄筋26がループ状鉄筋16に係留される。なお、フック状鉄筋26はループ状鉄筋16に直接係留されても良い。即ち、フック状鉄筋26は、後述する鉄筋ユニット40とループ状鉄筋16とを連結させる際の連結手段として機能する。
【0023】
また、
図3は鉄筋ユニット40の概略俯瞰図である。
図3に示すように、上部主筋22、上部配力筋24、及びフック状鉄筋26は予め一体化され、鉄筋ユニット40を構成する。これら上部主筋22、上部配力筋24、及びフック状鉄筋26を一体化させる手段は任意であり、例えば溶接、結束といった手段により一体化させても良い。この鉄筋ユニット40は予め工場で製作しても良く、あるいは現場で製作しても良い。現場打ちコンクリート部材20は、一体化された鉄筋ユニット40が内部に埋設されるように現場打ちコンクリートを打設することで製作される。
【0024】
(ループ状鉄筋及びフック状鉄筋の構成)
図1、
図2を参照して上述したように、本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1において、プレキャストコンクリート部材10には、その表面から一部がループ状に突出するループ状鉄筋16が設けられる。プレキャストコンクリート部材10の運搬時の作業性や、部材を積み重ねる際の効率化等の観点から、ループ状鉄筋16のプレキャストコンクリート部材10表面からの露出高さには上限値を設けることが望ましい。一方で、このループ状鉄筋16は、フック状鉄筋26と組み合わせることでせん断補強筋を構成し、ハーフプレキャストコンクリート部材1において2つの部材の境界でのせん断破壊を防止するために機能することが求められる。そこで、本発明者らは、ループ状鉄筋16が波型鉄筋である場合の、ループ状鉄筋16やフック状鉄筋26の具体的構成について鋭意検討を行った。
【0025】
図4は、ループ状鉄筋16及びフック状鉄筋26の概略説明図であり、ループ状鉄筋16とフック状鉄筋26が連結された状態の概略拡大図である。
図4に示すように、ループ状鉄筋16のプレキャストコンクリート部材10表面からの露出高さは、波型形状の山頂位置P1が図示の高さ範囲T1内に入るような位置にすることが好ましい。この高さ範囲T1は、プレキャストコンクリート部材10と現場打ちコンクリート部材20との境界位置T2からせん断補強筋としてのフック状鉄筋26の径の2倍以上高い位置である位置T3と、上部主筋22の高さ位置T4から当該上部主筋22の径以上低い位置である位置T5によって規定される。即ち、波型形状の山頂位置P1が、図中の位置T3より高く且つ位置T5より低い位置となるようにループ状鉄筋16の露出高さを設計することが好ましい。
【0026】
波型形状であるループ状鉄筋16の山頂位置P1を、上記位置T3より低い位置とした場合、ループ状鉄筋16とフック状鉄筋26を連結させる際の作業性の悪化が懸念される。一方、ループ状鉄筋16の山頂位置P1を、上記位置T5より高い位置とした場合、現場打ちコンクリート部材20を構成する際の現場打ちコンクリートの充填不良を生じさせる恐れがある。
【0027】
また、ループ状鉄筋16が波型形状である場合に、その波型形状を構成し斜めに伸びる鉄筋の傾斜角度αは45°~90°であることが好ましい。一般的に、鉄筋コンクリート構造では、軸方向に対して0°~45°の範囲においてせん断ひび割れが発生する可能性が高いことが知られており、当該範囲に対し効果的なせん断補強筋とするため、上記傾斜角度αは45°~90°とされる。
【0028】
また、
図4のように、フック状鉄筋26は一方の端部(上端)が半円状のフック形状、且つ、他方の端部(下端)が所定の角度βでもって折り曲げたフック形状を有していても良い。この角度βは、鉄筋ユニット40をプレキャストコンクリート部材10の表面から露出したループ状鉄筋16に連結させる際の作業性に基づき決定され、具体的には例えば135°である。なお、フック状鉄筋26の形状はこれに限定されるものではなく、例えば、一方の端部がL字型のフック形状を有し、他方の端部が半円状のフック形状を有するような形状であっても良い。
【0029】
(ハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法)
次に、上記説明した本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1の構築方法について説明する。
図5はハーフプレキャストコンクリート部材1の構築方法についての概略説明図である。
【0030】
先ず、
図5(a)に示すように、上述した所定の露出高さだけ表面からループ状鉄筋16が露出した状態で予め製作されたプレキャストコンクリート部材10が用意される。プレキャストコンクリート部材10は据え付け場所とは異なる場所(いわゆるオフサイト)にて製作される。そして、プレキャストコンクリート部材10が工事現場等の所定の場所に据え付けられる。
【0031】
次いで、
図5(b)に示すように、予め製作され、一体化した鉄筋ユニット40がプレキャストコンクリート部材10の上方から降ろされ、プレキャストコンクリート部材10に搭載される。鉄筋ユニット40も据え付け場所とは異なる場所(いわゆるオフサイト)にて製作される。そして、ループ状鉄筋16にフック状鉄筋26が係留されるように、鉄筋ユニット40とプレキャストコンクリート部材10とが連結される(図中の矢印参照)。この時、ループ状鉄筋16に対するフック状鉄筋26の係留は、連結部材30を介しても良い。
【0032】
そして、
図5(c)に示すように、鉄筋ユニット40とプレキャストコンクリート部材10とが連結された状態で現場打ちコンクリートが打設される。即ち、ループ状鉄筋16においてプレキャストコンクリート部材10の表面から露出した部分と、鉄筋ユニット40と、を埋設するように現場打ちコンクリートが打設され、現場打ちコンクリート部材20が構成される。このようにして、プレキャストコンクリート部材10を下部構造とし、現場打ちコンクリート部材20を上部構造として一体化された本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1が構築される。
【0033】
(作用効果)
本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1及びその構築方法によれば、プレキャストコンクリート部材10と現場打ちコンクリート部材20とを接合させる際に、上部主筋22、上部配力筋24、及びフック状鉄筋26を予め一体化させ鉄筋ユニット40としている。そして、鉄筋ユニット40のフック状鉄筋26とループ状鉄筋16を連結させた状態で現場打ちコンクリートを打設することで2つの部材の接合を行っている。これにより、現場での作業の削減が図られ、ハーフプレキャスト工法を採用するメリットを最大化し、省力化、省人化や工期の短縮化といった生産性の向上を図ることができる。
【0034】
また、本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1では、その内部において、ループ状鉄筋16とフック状鉄筋26の2つを組み合わせ、せん断補強筋を構成している。これにより2つのコンクリート部材の境界面におけるせん断耐力を担保しつつ、プレキャストコンクリート部材10の表面から突出する鉄筋突出長さを短く抑えることができる。プレキャストコンクリート部材10からの鉄筋突出長さを短く抑えることで、ハーフプレキャストコンクリート部材1の構築時の作業性が向上する。加えて、プレキャストコンクリート部材10のストック時や運搬時に、複数の部材を容易に積み重ねることができるためコスト削減が図られる。
【0035】
また、本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート部材1では、プレキャストコンクリート部材10と、現場打ちコンクリート部材20とを併用したいわゆるハーフプレキャスト工法を採用している。そのため、例えば特許文献1に記載されているような、全てを現場作業によって構築する従来技術に比べ、材料費の低減や工期の短縮が図られ、更には、施工時の作業効率や部材の運搬性を向上させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。以下では、本発明に係る変形例について図面等を参照して説明する。なお、以下の変形例に係る説明において、本実施の形態と同じ機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付して図示し、説明は省略する場合がある。
【0037】
(本発明の第1変形例)
上記実施の形態においては、プレキャストコンクリート部材10の表面から突出した状態のループ状鉄筋16に、フック状鉄筋26が係留される際に、連結部材30を介して係留される場合について図示したが、本発明はこれに限定されない。
図6は本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1aの概略説明図である。
【0038】
本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1aでは、鉄筋ユニット40とプレキャストコンクリート部材10との連結において、ループ状鉄筋16にフック状鉄筋26を直接係留させている。これにより、上記実施の形態で説明した作用効果に加え、連結部材30が不要となることで部材数の削減が図られる。そして、更なる作業性の向上やコスト削減が図られる。
【0039】
(本発明の第2変形例)
上記実施の形態においては、プレキャストコンクリート部材10の表面から突出した状態のループ状鉄筋16に、フック状鉄筋26が係留される際に、連結部材30を介して係留され、ループ状鉄筋16とフック状鉄筋26が平面視で重なるような位置関係でもって係留される場合について図示したが、本発明はこれに限定されない。
図7は本発明の第2変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1bの概略説明図である。
【0040】
本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1bでは、鉄筋ユニット40とプレキャストコンクリート部材10との連結において、ループ状鉄筋16にフック状鉄筋26を直接係留させ、それらループ状鉄筋16とフック状鉄筋26が平面視で重ならないように斜めに係留されている。これにより、上記実施の形態や第1変形例で説明した作用効果に加え、構造物の設計等に応じてせん断補強筋の構成を柔軟に変更し、鉄筋同士の効果的な係留を実現させることができる。
【0041】
(本発明の第3変形例)
上記実施の形態において、鉄筋ユニット40とループ状鉄筋16とを連結させる際の連結手段としてフック状鉄筋26を用いた場合を図示して説明したが、本発明はこれに限定されない。
図8は本発明の第3変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1cの概略説明図であり、その概略側面断面図である。また、
図9は本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1cの構築方法についての概略説明図である。
【0042】
本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1cでは、鉄筋ユニット40に、ループ状鉄筋16との連結手段として第1の波型鉄筋50が備えられる。第1の波型鉄筋50は、上部主筋22と平行な方向にその軸が延伸し、その山頂側が上部配力筋24に係留される。ここで、ループ状鉄筋16が波型形状を有する場合、当該ループ状鉄筋16は、上記第1の波型鉄筋50とは異なる第2の波型鉄筋として構成される。
図8に示すように、第1の波型鉄筋50は、鉄筋ユニット40に含まれ、例えば、その山頂側が上部配力筋24に係留された状態で鉄筋ユニット40として一体化される。
【0043】
また、ハーフプレキャストコンクリート部材1cの構築方法は以下の通りである。先ず、
図9(a)に示すように、所定の露出高さだけ表面からループ状鉄筋16が露出した状態で予め製作されたプレキャストコンクリート部材10が用意される。プレキャストコンクリート部材10は据え付け場所とは異なる場所(いわゆるオフサイト)にて製作される。そして、プレキャストコンクリート部材10が工事現場等の所定の場所に据え付けられる。
【0044】
次いで、
図9(b)に示すように、予め製作され、一体化した鉄筋ユニット40がプレキャストコンクリート部材10の上方から降ろされ、プレキャストコンクリート部材10に搭載される(図中矢印参照)。鉄筋ユニット40も据え付け場所とは異なる場所(いわゆるオフサイト)にて製作される。鉄筋ユニット40の搭載時には、第1の波型鉄筋50の谷側と、ループ状鉄筋(第2の波型鉄筋)16の山頂部とが近接するような位置関係とされる。そして、この状態で現場打ちコンクリートを打設することで現場打ちコンクリート部材20が構成され、ハーフプレキャストコンクリート部材1cが構築される。
【0045】
上記のように、本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1cにおいて、第1の波型鉄筋50の谷側とループ状鉄筋(第2の波型鉄筋)16の山頂部が近接していることが求められる。本発明者らは、第1の波型鉄筋50とループ状鉄筋16との好適な位置関係(近接条件)について検討を行った。
図10及び
図11は、波型鉄筋同士の近接条件に係る概略説明図であり、
図10は近接部分の概略拡大図、
図11は近接部分を鉄筋長手方向から見た概略拡大図である。
【0046】
図10に示すように、本変形例に係る構成においては、第1の波型鉄筋50の谷側を含む少なくとも1部分と、ループ状鉄筋16の山頂部を含む少なくとも1部分と、が側面視で重なるような位置関係であることが望ましい。また、
図10及び
図11に示すように、第1の波型鉄筋50とループ状鉄筋16とが側面視で重なる場合の重複高さlと、鉄筋長手方向から見た場合の2つの鉄筋の離間距離aとは以下の式(1)の関係を満たすことが望ましい。
a≦l ・・・(1)
【0047】
コンクリート上においては、力の伝達が45度以内に限られる場合がある。上記式(1)を満たすことで、第1の波型鉄筋50とループ状鉄筋16の先端から水平方向に対し45度の範囲内に互いの鉄筋が存在することになる(
図11参照)。換言すると、上記式(1)の条件を外れると、第1の波型鉄筋50とループ状鉄筋(第2の波型鉄筋)16との間の力学的作用が相手に及ばなくなるため、ハーフプレキャストコンクリート部材1cにおいて2つのコンクリート部材の境界面におけるせん断耐力が担保されない恐れがある。そのため、上記式(1)の関係が設定される。
【0048】
本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート部材1cによれば、上記実施の形態と同様に、現場での作業の削減が図られ、ハーフプレキャスト工法を採用するメリットを最大化し、省力化、省人化や工期の短縮化といった生産性の向上を図ることができる。特に、第1の波型鉄筋50とループ状鉄筋16の係留を行う必要がないことから、更なる作業の省力化、省人化、工期の短縮化、低コスト化などが図られる。
【0049】
なお、本明細書において、上記実施の形態や各変形例について、図示、説明した部材の鉄筋構造は一例であり、各種鉄筋(下部主筋、下部配力筋、上部主筋、上部配力筋)の具体的な本数や配置構成等は任意に設計可能である。また、ハーフプレキャストコンクリート部材を構成する部材が2つである場合を図示して説明したが、本発明技術の適用範囲はこれに限られるものではなく、例えば、3以上の複数の部材を接合させて構成されるハーフプレキャストコンクリート部材に対しても適用可能である。
【0050】
また、上記実施の形態では、下部構造としてのプレキャストコンクリート部材10の表面から突出する鉄筋をループ状鉄筋16とし、その上方から係留させる鉄筋ユニット40に含まれる鉄筋をフック状鉄筋26としているが、このような構成に限定されない。例えば、下部構造としてのプレキャストコンクリート部材10の表面から突出する鉄筋をいわゆるフック形状を有する鉄筋とし、その上方から係留させる鉄筋ユニット40に含まれる鉄筋をループ状の鉄筋としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ハーフプレキャストコンクリート部材の構築方法及びハーフプレキャストコンクリート部材の構造に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1、1a、1b、1c…ハーフプレキャストコンクリート部材
10…プレキャストコンクリート部材
12…下部主筋
14…下部配力筋
16…ループ状鉄筋
20…現場打ちコンクリート部材
22…上部主筋
24…上部配力筋
26…フック状鉄筋
30…連結部材
40…鉄筋ユニット
50…第1の波型鉄筋