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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000738
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】センサ及び生体物質検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20221222BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20221222BHJP
   G01N 27/414 20060101ALI20221222BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221222BHJP
   C12Q 1/6825 20180101ALI20221222BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20221222BHJP
   C12M 1/38 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
G01N27/00 J
G01N33/553
G01N27/414 301V
G01N27/414 301K
G01N27/414 301U
C12N15/09 200
C12Q1/6825 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12M1/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101728
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】土井 利浩
(72)【発明者】
【氏名】高村 禅
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大亮
【テーマコード(参考)】
2G060
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA15
2G060AD06
2G060AE20
2G060DA06
2G060DA09
2G060DA17
2G060FA05
2G060FA07
2G060HC10
2G060JA07
2G060KA09
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA12
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】検出目的物に対する選択性に優れ、かつ高感度で検出限界が低いセンサおよび生体物質検出方法を提供する。
【解決手段】センサは、第1電極、第2電極、第3電極、前記第1電極と前記第2電極とを接続する半導体膜、前記第1電極と前記第2電極と前記半導体膜とを被覆する固体電解質皮膜を有し、前記固体電解質皮膜は、外部に露出する露出面を有し、前記第3電極は、前記固体電解質皮膜の前記露出面が導電性液と接触しているときに、前記導電性液を介して、前記固体電解質皮膜の前記露出面に電界を印加可能な位置に配置されるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極、第3電極、前記第1電極と前記第2電極とを接続する半導体膜、前記第1電極と前記第2電極と前記半導体膜とを被覆する固体電解質皮膜を有し、
前記固体電解質皮膜は、外部に露出する露出面を有し、
前記第3電極は、前記固体電解質皮膜の前記露出面が導電性液と接触しているときに、前記導電性液を介して、前記固体電解質皮膜の前記露出面に電界を印加可能な位置に配置されるように構成されている、センサ。
【請求項2】
前記第1電極、前記第2電極および前記半導体膜が、一つの基板の上に配置されている、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記第1電極、前記第2電極および前記半導体膜と前記基板との間に、導電性材料膜と固体電解質膜とが積層されていて、前記第1電極、前記第2電極および前記半導体膜が、前記固体電解質膜の上に配置されている、請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記基板の上に、さらに前記第3電極が配置されている、請求項2または3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記固体電解質皮膜は、イオン伝導率が1×10-8S/cm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項6】
前記固体電解質皮膜は、希土類元素とジルコニウム(Zr)とを含む金属酸化物又は希土類元素とタンタル(Ta)とを含む金属酸化物であって、炭素(C)の含有率が、0.5atom%以上15atom%以下であり、且つ、水素(H)の含有率が2atom%以上20atom%以下である無機固体電解質皮膜であって、前記半導体膜は、少なくともインジウム(In)を含む金属酸化物である無機半導体膜である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項7】
前記固体電解質皮膜の前記露出面に、生体物質を捕捉するためのプローブ分子が固定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項8】
前記固体電解質皮膜の前記露出面の周囲に、前記導電性液を保持するための保持部を備える、請求項1~7のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のセンサを用いた生体物質検出方法であって、
前記固体電解質皮膜の前記露出面に生体物質を含む試験液を供給して、前記露出面に前記生体物質を捕捉させる工程と、
前記試験液を前記導電性液に置換する工程と、
前記第3電極と前記第1電極との間に電圧を印加すると共に、前記第1電極-前記第2電極間の電流を測定する工程と、
前記電圧と、前記電流とに基づいて前記試験液中の生体物質の量を取得する工程と、を含む、生体物質検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ及び生体物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
mRNA/DNAなどの生体物質を含む試験液から生体物質を検出する方法として、PCR法(polymerase chain reaction)や次世代シーケンシング(next generation sequencing)が知られている。PCR法は、DNA配列上の特定の領域(目的領域)を、耐熱性DNAポリメラーゼを用いて増幅させる方法であり、DNA1分子から検出可能であるため、DNAの特定配列を高感度で検出することが可能となっている。また、次世代シーケンシングは、DNAを断片化してライブラリーを調製し、ライブラリーのDNA断片を並列にシーケンスする方法であり、DNAの全ての配列を1分子から網羅的に解読することが可能となっている。これらの生体物質の検出方法は、検出時間が掛かる。
【0003】
DNAなどの生体物質を短時間で検出する方法として、薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)構造のセンサを用いることが検討されている。例えば、ホモオリゴマーDNA鎖を3-アミノプロピルエトシキシランを用いて固定し、一定のドレイン電流下におけるゲート電位の変位によって、上記オリゴマー鎖とのハイブリダイゼーションを直接的に検出する方法が報告されている(非特許文献1)。非特許文献1には、ソース電極とドレイン電極とチャネルとが誘電体で被覆されている薄膜トランジスタ構造のセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B,1997,101,2980-2985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体物質検出用のセンサにおいて、試料である試験液は検出目的の生体物質以外の生体物質が共存した混合物(液体)である。このため、生体物質検出用のセンサでは、検出目的の生体物質に対する選択性に優れ、かつ高感度で検出限界が低いことが望ましい。しかしながら、非特許文献1に記載の薄膜トランジスタ構造のセンサは、検出限界が1μg/mL程度であり、さらなる感度の向上が望まれる。薄膜トランジスタ構造のセンサの感度を向上させるために、誘電体を除去して、ソース電極とドレイン電極とチャネルを露出させることが考えられる。しかしながら、ソース電極やドレイン電極を露出させると、測定時に溶液からソース電極及びドレイン電極に直接電流が流れ(リーク電流)、それに伴う電気化学反応に由来するpH変化などにより、得られるデータが不安定化するおそれがある。また、チャネル部分のみを露出させようとするとソース電極及びドレイン電極とチャネルとの界面で試験液が侵入することにより新たな不安定要因となるおそれがある。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、検出目的物に対する選択性に優れ、かつ高感度で検出限界が低いセンサおよび生体物質検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、第1電極、第2電極、第3電極、第1電極と第2電極とを接続する半導体膜を有する薄膜トランジスタ構造のセンサにおいて、第1電極と第2電極と半導体膜を固体電解質皮膜で被覆し、その固体電解質皮膜の外部に露出する露出面が導電性液と接触しているときに、その導電性液を介して第3電極が固体電解質膜の露出面に電界を印加可能な位置に配置されるように構成することによって、リーク電流の発生が抑えられ、検出目的物を優れた選択性で、かつ高感度で低い検出限界で検出することが可能となるとを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
[1]第1電極、第2電極、第3電極、前記第1電極と前記第2電極とを接続する半導体膜、前記第1電極と前記第2電極と前記半導体膜とを被覆する固体電解質皮膜を有し、
前記固体電解質皮膜は、外部に露出する露出面を有し、
前記第3電極は、前記固体電解質皮膜の前記露出面が導電性液と接触しているときに、前記導電性液を介して、前記固体電解質皮膜の前記露出面に電界を印加可能な位置に配置されるように構成されている、センサ。
【0010】
[2]前記第1電極、前記第2電極および前記半導体膜が、一つの基板の上に配置されている、上記[1]に記載のセンサ。
【0011】
[3]前記第1電極、前記第2電極および前記半導体膜と前記基板との間に、導電性材料膜と固体電解質膜とが積層されていて、前記第1電極、前記第2電極および前記半導体膜が、前記固体電解質膜の上に配置されている、上記[2]に記載のセンサ。
【0012】
[4]前記基板の上に、さらに前記第3電極が配置されている、上記[2]または[3]に記載のセンサ。
【0013】
[5]前記固体電解質皮膜は、イオン伝導率が1×10-8S/cm以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のセンサ。
【0014】
[6]前記固体電解質皮膜は、希土類元素とジルコニウム(Zr)とを含む金属酸化物又は希土類元素とタンタル(Ta)とを含む金属酸化物であって、炭素(C)の含有率が、0.5atom%以上15atom%以下であり、且つ、水素(H)の含有率が2atom%以上20atom%以下である無機固体電解質皮膜であって、前記半導体膜は、少なくともインジウム(In)を含む金属酸化物である無機半導体膜である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のセンサ。
【0015】
[7]前記固体電解質皮膜の前記露出面に、生体物質を捕捉するためのプローブ分子が固定されている、上記[1]~[6]のいずれかに記載のセンサ。
【0016】
[8]前記固体電解質皮膜の前記露出面の周囲に、前記導電性液を保持するための保持部を備える、上記[1]~[7]のいずれかに記載のセンサ。
【0017】
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載のセンサを用いた生体物質検出方法であって、
前記固体電解質皮膜の前記露出面に生体物質を含む試験液を供給して、前記露出面に前記生体物質を捕捉させる工程と、
前記試験液を前記導電性液に置換する工程と、
前記第3電極と前記第1電極との間に電圧を印加すると共に、前記第1電極-前記第2電極間の電流を測定する工程と、
前記電圧と、前記電流とに基づいて前記試験液中の生体物質の量を取得する工程と、を含む、生体物質検出方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検出目的物に対する選択性に優れ、かつ高感度で検出限界が低いセンサおよび生体物質検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るセンサの一例を示す平面図である。
図2図2は、図1のII-II’線断面図である。
図3図3は、図1に示すセンサを用いた生体物質検出方法を説明する模式図であって、図3(a)は、センサを図1のII-II’線に沿って見た拡大断面図であり、図3(b)は、図3(a)の拡大図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るセンサの別の一例を示す平面図である。
図5図5は、図4に示すセンサを用いた生体物質検出方法を説明する模式図であって、図5(a)は、センサを図4のV-V’線に沿って見た断面図であり、図5(b)は、図5(a)の拡大図である。
図6図6(a)は、本発明例1および比較例1で測定したVTG-I曲線であり、図6(b)は、VTG-ISD曲線である。
図7】本発明例2において、プローブDNAを、センサの保持部に固定化した手順を示すフロー図である。
図8】本発明例2で測定したVTG-ISD曲線を示すグラフである。
図9】本発明例3で測定したVTG-ISD曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態であるセンサ及び生体物質検出方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサの一例を示す平面図であり、図2は、図1のII-II’線断面図である。
図1及び図2に示すように、センサ100は、基板11と、第1電極21と、第2電極22と、第3電極23と、半導体膜24、固体電解質皮膜25とを有する。半導体膜24は、第1電極21と第2電極22とを接続する位置に配置されている。第1電極21と第2電極22及び半導体膜24は、センサ片20を形成する。センサ片20(第1電極21と第2電極22と半導体膜24)及び第3電極23と、基板11との間に、導電性材料膜12と固体電解質膜13とが積層されていて、センサ片20及び第3電極23が固体電解質膜13の上に配置されている。固体電解質皮膜25は、センサ片20を被覆する。固体電解質皮膜25は、外部に露出した露出面25aを有する。第3電極23は、固体電解質皮膜25の露出面25aが導電性液Lqと接触しているときに、導電性液Lqを介して、固体電解質皮膜25の露出面25aに電界を印加可能な位置に配置されるように構成されている。導電性液Lqは、第3電極23から露出面25aに電界を印加可能なように導電性を有する液体である。導電性液Lqとしては、例えば、無機塩を含む水溶液を用いることができる。無機塩は、検出目的物と固体電解質皮膜25とに対して、使用時において実質的に不活性な物質であればよく、特に制限はない。
【0022】
固体電解質皮膜25の露出面25aは、半導体膜24に対向する位置にあることが好ましい。露出面25aは、検出目的物を捕捉するための捕捉物質が固定されていることが好ましい。例えば、検出目的物が生体物質である場合は、生体物質を捕捉するためのプローブ分子が固定されていてもよい。露出面25aと第3電極23は、導電性液Lqを保持するための保持部30で囲われている。
【0023】
第1電極21は第1リード線21aを介して第1端子21bに接続している。第2電極22は第2リード線22aを介して第2端子22bに接続している。第3電極23は第3リード線23aを介して第3端子23bに接続している。
【0024】
第1電極21、第2電極22及び第3電極23の材料としては、金属材料及び金属酸化物を用いることができる。金属材料の例としては、白金(Pt)などの高融点金属、及びその合金を挙げることができる。金属酸化物の例としては、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化ルテニウム(RuO)を挙げることができる。第1電極21、第2電極22及び第3電極23はそれぞれ、単層体であってもよいし、複数の電極材料層を積層させた複層体であってもよい。第1電極21、第2電極22及び第3電極23の厚みは、例えば、50nm以上200nm以下の範囲内にあってもよい。第1リード線21a及び第1端子21bは、第1電極21と同じ材料で、かつ同じ厚みであってもよい。第2リード線22a及び第2端子22bは、第2電極22と同じ材料で、かつ同じ厚みであってもよい。第3リード線23a及び第3端子23bは、第3電極23と同じ材料で、かつ同じ厚みであってもよい。
【0025】
半導体膜24は、無機半導体膜であってもよいし、有機半導体膜であってもよい。
無機半導体膜は、無機半導体を含む。無機半導体膜は、無機半導体のみから形成されていることが好ましい。無機半導体は、例えば、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、In-Ga-Zn酸化物(IGZO)、In-Sn-Zn酸化物(ITZO)、Zn-Sn酸化物(Zn-Sn-O)、アモルファスシリコン(α-Si)、低温ポリシリコン(LTPS)及びグラフィンからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機物を含むことが好ましい。これらの無機半導体は、一種を単独で用いてもよいし、二種を組み合わせて用いてもよい。また、無機半導体は、アモルファス相あるいはナノ結晶相であってもよい。
【0026】
有機半導体膜は、有機半導体を含む。有機半導体膜は、有機半導体のみから形成されていることが好ましい。有機半導体は、多環芳香族炭化水素もしくはチエノアセン系化合物であることが好ましい。
【0027】
多環芳香族炭化水素は、ベンゼン環を4つ以上含むことが好ましい。多環芳香族炭化水素は、アセンであることが好ましい。アセンは置換基(例えば、フェニル基)を有していてもよい。多環芳香族炭化水素の例としては、ペンタセン、ルブレンを挙げることができる。チエノアセン系化合物の例としては、BTBT、DNTT、C8-DNTT、C10-DNBOTを挙げることができる。これらの有機半導体は、一種を単独で用いてもよいし、二種を組み合わせて用いてもよい。また、有機半導体は、アモルファス相あるいはナノ結晶相であってもよい。
【0028】
半導体膜24は、単層体であってもよいし、複数の半導体層を積層させた複層体であってもよい。半導体膜24の厚みは、例えば、5nm以上80nm以下の範囲内であってもよい。半導体膜24の長さ(第1電極21と第2電極22の間の距離)は、例えば50μm以上200μm以下である。半導体膜24の幅(第1電極21及び第2電極22との接触する長さ)は、例えば、1μm以上10000μm以下の範囲内にあってもよい。
【0029】
固体電解質皮膜25は、プロトン導電性であってもよい。固体電解質皮膜25は、イオン伝導率が1×10-8S/cm以上であってもよい。固体電解質皮膜25のイオン伝導率は1×10-2S/cm以下であってもよい。
固体電解質皮膜25は、無機固体電解質皮膜であってもよいし、有機固体電解質皮膜であってもよい。
【0030】
無機固体電解質皮膜は、無機固体電解質を含む。無機固体電解質皮膜は、無機固体電解質のみから形成されていることが好ましい。無機固体電解質皮膜は、例えば、希土類元素とジルコニウム(Zr)とを含む金属酸化物、及び希土類元素とタンタル(Ta)とを含む金属酸化物のうちのいずれかで形成されることができる。無機固体電解質皮膜の炭素(C)の含有率は0.5atom%以上15atom%以下の範囲内にあってもよい。さらに、無機固体電解質皮膜の水素(H)の含有率は2atom%以上20atom%以下の範囲内にあってもよい。無機固体電解質皮膜が上記の金属酸化物で構成され、且つ炭素(C)及び水素(H)の含有率が共に上記の範囲内であると、センサ100が高感度となって検出限界が大幅に低くなり、また、水分等の存在下での検出の安定性が高くなる。これらの特性をより向上させる観点から、炭素(C)の含有率を1atom%以上10atom%以下の範囲内とし、且つ、水素(H)の含有率を5atom%以上18atom%以下の範囲内としてもよい。
【0031】
無機固体電解質皮膜は、例えば、以下の(A1)~(A5)のうちのいずれかで形成されることができる。
(A1)ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とを含む金属酸化物
(A2)ランタン(La)とタンタル(Ta)とを含む金属酸化物
(A3)セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)及びイットリウム(Y)からなる群から選択されるいずれかの金属元素と、ジルコニウム(Zr)またはタンタル(Ta)とを含む金属酸化物
(A4)ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む金属酸化物
(A5)ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)を含有する金属酸化物
【0032】
例えば、無機固体電解質皮膜が、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とを含む金属酸化物で形成される場合(A1)、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比は、例えば、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が、0.43以上2.33以下の範囲内にあってもよく、1.00以上2.33以下の範囲内にあってもよい。また、無機固体電解質皮膜が、ランタン(La)とタンタル(Ta)とを含む金属酸化物で形成される場合(A2)、ランタン(La)とタンタル(Ta)との原子数比についても、特に限定されるものではない。さらに、無機固体電解質皮膜が上記(A3)~(A5)のいずれかの金属酸化物で形成される場合も、各金属元素の原子数比は、特に限定されるものではない。無機固体電解質は、アモルファス相であってもよい。
【0033】
上記金属酸化物の原子組成比は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS法)等を用いて、元素分析を行うことにより求めることができる。また、炭素(C)と水素(H)の含有率は、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS分析法)、水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS分析法)、及び核反応解析法(Nuclear Reaction Analysis:NRA分析法)を用いて元素分析を行うことにより求めることができる。
【0034】
有機固体電解質皮膜は、有機固体電解質を含む。有機固体電解質皮膜は、有機固体電解質のみから形成されていることが好ましい。有機固体電解質は、例えば、プロトン導電性であることが好ましい。有機固体電解質としては、例えば、側鎖にプロトン伝導性基を有するポリマーもしくは有機金属錯体を用いてもよい。
【0035】
側鎖にプロトン伝導性基を有するポリマーの主鎖は、例えば、炭化水素構造またはパーフルオロカーボン構造であってもよい。プロトン伝導性基は、例えば、スルホン酸基であってもよい。側鎖にプロトン伝導性基を有するポリマーとしては、パーフルオロカーボンスルホン酸であるナフィオン(登録商標)を用いることができる。
【0036】
有機金属錯体は、例えば、配位高分子であってもよい。配位高分子は、下記の式(1)で表されるオキサラト架橋配位高分子であってもよい。
(ox)・・・・(1)
上記の(1)において、Mは、2価又は3価の金属イオンを表す。Mが3価の金属イオンである場合、オキサラト架橋配位高分子は中性である。Mが2価の金属イオンを含む場合は、オキサラト架橋配位高分子はアニオン性となり、オキサラト架橋配位高分子にカウンターイオンが取り込まれていてもよい。
上記の(1)において、oxは、シュウ酸イオン(C 2-)を表す。
【0037】
有機固体電解質は、一種を単独で用いてもよいし、二種を組み合わせて用いてもよい。また、有機固体電解質は、アモルファス相あるいはナノ結晶相であってもよい。
【0038】
固体電解質皮膜25は、単層体であってもよいし、複数の固体電解質層を積層させた複層体であってもよい。固体電解質皮膜25の厚みは、例えば、1nm以上100nm以下の範囲内であってもよい。
【0039】
基板11は、例えば、絶縁性基板及び半導体基板を用いることができる。絶縁性基板の例としては、高耐熱ガラス、アルミナ(Al)基板、STO(SrTiO)基板、SiO/Si基板(Si基板上にSiO膜を形成したもの)、Si基板の表面にSiO層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した多層基板を挙げることができる。半導体基板の例としては、Si基板、SiC基板、Ge基板を挙げることができる。基板11の厚みは、例えば、10μm以上1mm以下である。
【0040】
導電性材料膜12は、導電性材料を含む導電性材料膜である。導電性材料膜12は、導電性材料のみから形成されていてもよい。導電性材料としては、例えば、金属材料及び金属酸化物を用いることができる。金属材料の例としては、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、チタン(Ti)、及びこれらの金属の合金を挙げることができる。金属酸化物の例としては、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化ルテニウム(RuO)を挙げることができる。
【0041】
導電性材料膜12は、単層体であってもよいし、複数の導電性材料膜を積層させた複層体であってもよい。導電性材料膜12の厚みは、例えば、50nm以上200nm以下である。
【0042】
固体電解質膜13は、プロトン導電性であってもよい。固体電解質膜13は、イオン伝導率が1×10-8S/cm以上であってもよい。固体電解質膜13のイオン伝導率は1×10-2S/cm以下であってもよい。固体電解質膜13は、無機固体電解質膜であってもよいし、有機固体電解質膜であってもよい。無機固体電解質膜及び有機固体電解質膜の材料の例は、固体電解質皮膜25の場合と同じである。
【0043】
固体電解質膜13は、単層体であってもよいし、複数の固体電解質層を積層させた複層体であってもよい。固体電解質膜13の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下の範囲内であってもよい。
【0044】
保持部30の材料は、有機物であってもよいし、無機物であってもよい。有機物の例としては、ポリイミド、エポキシ樹脂などを挙げることができる。無機物の例としては、アルミナ、シリカなどを挙げることができる。保持部30の高さは、例えば、0.10mm以上5mm以下の範囲内にあってもよい。
【0045】
次に、センサ100を用いた生体物質検出方法について説明する。
図3は、図1に示す生体物質検出センサを用いた生体物質検出方法を説明する模式図であって、(a)は、生体物質検出センサを図1のII-II’線に沿って見た拡大断面図であり、(b)は、(a)の拡大図である。図3において、センサ100の保持部30の内側にある露出面25aには、生体物質を捕捉するためのプローブ分子1が固定されている。
【0046】
センサ100を用いた生体物質の検出は次のようにして行われる。
先ず、センサ100の露出面25aに固定されているプローブ分子1に、検出目的の生体物質2を捕捉させる。具体的には、センサ100の保持部30に、生体物質2を含む試験液を注液して、固体電解質皮膜25の露出面25aに試験液を供給する。これにより、検出目的の生体物質2がプローブ分子1を介して露出面25aに捕捉される。生体物質2は、例えば、DNAやmRNAなどの核酸である。プローブ分子1は、それら生体物質2の一部と相補的になるDNAやmRNAである。
【0047】
生体物質2を露出面25aに捕捉させた後、試験液を導電性液Lqに置換する。具体的には、先ず、露出面25aを洗浄液で洗浄して、例えば、プローブ分子1に捕捉されなかった生体物質(検出目的でない生体物質)、あるいは非特異的に捕捉されている生体物質等を除去する。次いで、センサ100の保持部30に導電性液Lqを注液して、第3電極23と露出面25aとを導電性液Lqに接触させる。導電性液Lqとしては、例えば、リン酸バッファ(PBS)を用いることができる。これにより、第3電極23は、導電性液体を介して露出面25aに電界を印加可能となる。
【0048】
次いで、第1電極21と第2電極22との間に電圧VSDを印加すると共に、第1電極21と第3電極23との間に電圧VTGを印加する。本実施形態のセンサ100では、プローブ分子1を介して露出面25aに捕捉された生体物質2の電荷が作る電界が半導体膜24に伝わることによって、半導体膜24の電気特性が変化する。このため、第3電極23から露出面25aに電圧VSDの電界を印加すると、第1電極21と第2電極22との間を流れる電流ISDが変化する。この電圧VSDと電流ISDと関係から、プローブ分子1に捕捉された生体物質2を定量することができ、これより試験液中の生体物質の量を取得することができる。
【0049】
センサ100は、例えば、次のようにして製造することができる。
(1)導電性材料膜12の成膜
先ず基板11(例えば、SiO/Si基板)上に、導電性材料膜12を成膜する。導電性材料膜12の成膜方法としては、スパッタリング法を用いることができる。
【0050】
(2)固体電解質膜13の成膜
次に、導電性材料膜12の上に固体電解質膜13を成膜する。固体電解質膜13は、例えば、導電性材料膜12の上に固体電解質膜用前駆体溶液を塗布し、得られた塗布膜を加熱することによって形成することができる。固体電解質膜用前駆体溶液としては、固体電解質膜13を構成する固体電解質の材料が溶解もしくは分散されている液体を用いることができる。固体電解質膜用前駆体溶液の塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法、インクジェット印刷法、ナノインプリント法などを用いることができる。塗布膜の加熱温度は、固体電解質膜用前駆体溶液の溶媒が揮発して、固体電解質膜13が生成する温度であれば特に制限はない。
【0051】
(3)半導体膜24の成膜
次に、固体電解質膜13の上に、半導体膜24を成膜する。半導体膜24は、例えば、次のようにして成膜することができる。先ず、固体電解質膜13の上に、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜を形成する。次いで、レジスト膜が形成された固体電解質膜13の上に半導体膜用前駆体溶液を塗布し、得られた塗布膜を加熱することによって半導体膜を形成する。その後、レジスト膜を除去する。半導体膜用前駆体溶液としては、半導体膜24を構成する半導体の材料が溶解もしくは分散されている液体を用いることができる。半導体膜用前駆体溶液の塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法、インクジェット印刷法、ナノインプリント法などを用いることができる。塗布膜の加熱温度は、半導体膜用前駆体溶液の溶媒が揮発して、半導体膜24が生成する温度であれば特に制限はない。
【0052】
(4)電極パターンの形成
次に、固体電解質膜13及び半導体膜24の上に、電極パターン(第1電極21、第1リード線21a、第1端子21b、第2電極22、第2リード線22a、第2端子22b、第3電極23、第3リード線23a、第3端子23b)を形成する。電極パターンは、例えば、次のようにして形成することができる。先ず、固体電解質膜13及び半導体膜24の上に、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜を形成する。次いで、レジスト膜が形成された固体電解質膜13及び半導体膜24の上に電極膜を形成する。その後、レジスト膜を除去する。電極膜の形成方法としては、例えば、スパッタリング法を用いることができる。
【0053】
(5)固体電解質皮膜25の成膜
次に、センサ片20(第1電極21と第2電極22と半導体膜24)の上に固体電解質皮膜25を成膜する。固体電解質皮膜25は、例えば、次のようにして成膜することができる。先ず、第1端子21bと第2端子22bと第3電極23の上にレジスト膜を形成する。次いで、固体電解質皮膜用前駆体溶液を塗布し、得られた塗布膜を加熱することによって固体電解質皮膜を形成する。その後、レジスト膜を除去する。固体電解質皮膜用前駆体溶液としては、固体電解質皮膜25を構成する固体電解質の材料が溶解もしくは分散されている液体を用いることができる。固体電解質皮膜用前駆体溶液の塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法、インクジェット印刷法、ナノインプリント法などを用いることができる。塗布膜の加熱温度は、固体電解質皮膜用前駆体溶液の溶媒が揮発して、固体電解質皮膜25が生成する温度であれば特に制限はない。
【0054】
上記のセンサ100においては、第3電極23は基板11の固体電解質膜13の上に形成されているが、第3電極23の位置はこれに限定されるものではない。第3電極23は、固体電解質皮膜25の露出面25aが導電性液Lqと接触しているときに、導電性液Lqを介して、固体電解質皮膜25の露出面25aに電界を印加可能な位置に配置されるように構成されていれば、固体電解質膜13の上以外の位置に配置されていてもよい。
【0055】
図4は、発明の一実施形態に係るセンサの別の一例を示す平面図であり、図5は、図4に示すセンサを用いた生体物質検出方法を説明する模式図であって、図5(a)は、センサを図4のV-V’線に沿って見た断面図であり、図5(b)は、図5(a)の拡大図である。
【0056】
図4及び図5に示すセンサ101は、基板11と、第1電極21と、第2電極22と、第3電極23と、半導体膜24、固体電解質皮膜25とを有する。センサ片20(第1電極21と第2電極22と半導体膜24)と、基板11との間に、導電性材料膜12と固体電解質膜13とが積層されていて、センサ片20及び第3電極23が固体電解質膜13の上に配置されている。センサ101は、第3電極23が基板11から分離していて、第3電極23の一部が保持部30に保持された導電性液Lqに浸漬されるように構成されている。これ以外の構成は、上述のセンサ100と同じ構成とされている。このため、図4及び図5に示すセンサ101と上述のセンサ100とにおいて同一又は同様の部分には同一の符号を使用し、その説明を省略する。
【0057】
センサ101を用いた生体物質の検出は、次のようにして行うことができる。
先ず、上述のセンサ100の場合と同様に、固体電解質皮膜25の露出面25aに、生体物質2を含む試験液を供給して、プローブ分子1を介して露出面25aに生体物質2を捕捉させる。次いで、試験液を導電性液Lqに置換する。
【0058】
センサ101の保持部30に注液された導電性液Lqに、第3電極23の一部を浸漬させる。これにより、第3電極23は、導電性液体を介して露出面25aに電界を印加可能となる。
第1電極21と第2電極22とは第1電圧供給部31に接続され、第1電極21と第3電極23とは第2電圧供給部32に接続される。プローブ分子1に捕捉された生体物質2の定量は、図1図3に示すセンサ100の場合と同様に実施することができる。すなわち、第1電圧供給部31を用いて、第1電極21と第2電極22との間に電圧VSDを印加すると共に、第2電圧供給部32を用いて、第1電極21と第3電極23との間に電圧VTGを印加する。これにより、第1電極21と第2電極22との間を流れる電流ISDが変化する。そして、この電圧VSDと電流ISDと関係から、プローブ分子1に捕捉された生体物質2を定量することができ、これより試験液中の生体物質の量を取得することができる。
【0059】
以上のような構成とされた本実施形態のセンサ100、101によれば、第1電極21と第2電極22との間に電圧VSDを印加すると共に、第1電極21と第3電極23との間に電圧VTGを印加すると、溶液及び固体電解質を通して半導体膜24に電界が印加され、第1電極21と第2電極22との間を流れる電流ISDが流れる。半導体膜24に付与される電界の強さは露出面25aに捕捉された生体物質2の量によって変化するため、本実施形態のセンサ100、101によれば、電圧VSDと電流ISDと関係から、露出面25aに捕捉された生体物質2を選択的に、かつ高感度で定量することができる。さらに、本実施形態のセンサ100、101は、第1電極21、第2電極22及び半導体膜24が固体電解質皮膜25で被覆されているので、第3電極23から試験液Lqを介して固体電解質皮膜25の露出面25aに電界を印加したときに、リーク電流の発生が抑えられる。このリーク電流の発生の抑制によって、リーク電流に起因する前述の不安定化を抑えることができ、またより高感度で低い検出限界で検出することが可能となる。
【0060】
本実施形態のセンサ100、101において、固体電解質皮膜25が固体電解質であることにより絶縁体や誘電体で構成するよりもより多く電荷を半導体膜に誘起することができ、電流ISDが大きく、相互コンダクタンス(gm)も大きくなる。その結果、感度が高くなり検出限界が低くなる。さらに、固体電解質皮膜25を通して半導体膜24の直上だけでなく、より広い範囲から生体物質2の電荷が作る電界を半導体膜24に集めることができるので、検出目的物をより高感度で検出することが可能となり、検出限界がより低くなる。特に、固体電解質皮膜25のイオン伝導率が1×10-8S/cm以上である場合は、これらの効果はより顕著に観察される。
【0061】
本実施形態のセンサ100、101において、固体電解質皮膜25が、希土類元素とジルコニウム(Zr)とを含む金属酸化物又は希土類元素とタンタル(Ta)とを含む金属酸化物であって、炭素(C)の含有率が、0.5atom%以上15atom%以下であり、且つ、水素(H)の含有率が2atom%以上20atom%以下である無機固体電解質皮膜である場合は、露出面25aに捕捉された生体物質2の電荷が作る電界が半導体膜24に伝わりやすくなる。また、半導体膜24が、少なくともインジウム(In)を含む金属酸化物である無機半導体膜である場合は、電界が伝わることによる電気特性の変化量が大きくなる。このため、検出目的物をさらに高感度で検出でき、検出限界がさらに低くなる。
【0062】
本実施形態のセンサ100、101において、固体電解質皮膜25の露出面25aに生体物質2を捕捉するためのプローブ分子1が固定されている場合は、検出目的物に対する選択性がより向上する。
【0063】
本実施形態の生体物質検出方法は、上述のセンサ100、101を用いるので、検出目的物を優れた選択性で、かつ高感度で低い検出限界で検出することが可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、本実施形態では、検出目的物として生体物質を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。本実施形態のセンサ100、101は、固体電解質皮膜25の露出面25aに捕捉されることによって、半導体膜24に電界を伝えるものであれば検出することが可能である。検出目的物としては、例えば、電荷を有するイオン性物質、露出面25aに捕捉されることによって電荷を生成する物質を用いることができる。検出目的物は、有機物であってもよいし、無機物であってもよい。
【0065】
また、本実施形態では、露出面25aに捕捉される検出目的物の選択性を向上させる構成として、固体電解質皮膜25の露出面25aにプローブ分子1を固定する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、露出面25aを選択性透過膜で被覆して、選択性透過膜を透過した物質のみを露出面25aに捕捉させる構成としてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、センサ片20(第1電極21と第2電極22と半導体膜24)と基板11との間に、導電性材料膜12と固体電解質膜13とがこの順で積層された場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、基板11の上に直接センサ片20を配置してもよい。また、センサ片20と基板11との間に、固体電解質膜13のみを配置してもよい。
【実施例0067】
[本発明例1]
(導電性材料膜の成膜)
シリコン基板上に、厚さ500nmの酸化シリコン(SiO)膜を形成したSiO/Si基板を用意した。このSiO/Si基板の酸化シリコン膜上に、厚さ10nmTi層と、厚さ200nmのPt層とを、この順でスパッタリング法により成膜してPt/Tiの2層構造の導電性材料膜を成膜した。
【0068】
(固体電解質膜の成膜)
次に、得られた導電性材料膜のPt層の上に、ゾルゲル法により固体電解質膜を形成した。先ず、固体電解質膜用前駆体溶液としてLa0.3Zr0.7O溶液をスピンコーティング法により塗布して、固体電解質膜用前駆体層を形成した。次いで、その固体電解質膜用前駆体層を酸素含有雰囲気で、250℃で予備焼成した後、400℃で本焼成して、厚さ250nmのLa0.3Zr0.7Oからなる固体電解質膜を形成した。得られた固体電解質膜の炭素(C)と水素(H)の含有率を、ラザフォード後方散乱分光法、水素前方散乱分析法及び核反応解析法によりそれぞれ測定した。その結果、炭素(C)の含水率は、2.0atom%、水素(H)の含有率は10.1atom%であった。また、固体電解質膜のイオン伝導率を、交流インピーダンス測定装置(バイオロジック社製、SP-300)を用いて測定した。その結果、イオン伝導率は6.0×10-7S/cmであった。
【0069】
なお、La0.3Zr0.7O溶液は、次のようにして調製した。
酢酸ランタン1.5水和物とジルコニウムブトキシドとを3:7(モル比)の割合で混合し、得られた混合物をLa0.3Zr0.7O濃度に換算して0.2mol/kgとなるようにプロピオン酸に溶解させた。得られた混合溶液を110℃のオイルバスで30分間還流を行った後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、0.2mol/kgのLa0.3Zr0.7O溶液を得た。
【0070】
(半導体膜の成膜)
次に、固体電解質膜の上に、半導体膜用前駆体溶液としてIn溶液をスピンコーティング法により塗布して、半導体膜用前駆体層を形成した。次いで、その半導体膜用前駆体層を250℃で本焼成して、Inからなる無機半導体膜を成膜した後、ドライエッチングによりInをチャネル形状に加工した。半導体膜のサイズは、幅300μm×長さ50μm×厚さ20nmとした。
なお、In溶液は、次のようにして調製した。硝酸インジウム3水和物を、In濃度に換算して0.2mol/kgとなるように2-メトキシエタノールに溶解させた。得られた溶液を110℃のオイルバスで30分間還流を行った後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、濃度が0.2mol/kgのIn溶液を得た。
【0071】
(第1電極および第2電極の形成)
固体電解質膜と半導体膜の上に、フォトリソグラフィー法によって、ソース電極とドレイン電極の形状にパターニングされたレジスト膜を形成した。次いで、そのレジスト膜を形成した固体電解質膜と半導体膜の上に、厚さ50nmのITO層と、厚さ500nmのAu層とを、この順にスパッタリング法により成膜した後、レジスト膜を除去した。Au/ITOの2層構造の第1電極、第1リード線、第1端子と第2電極、第2リード線、第2端子とを形成した。第1電極と第2電極のサイズは、それぞれ幅320μm×長さ200μmとし、第1電極と第2電極の間隔は50μmとした。
【0072】
(固体電解質皮膜の成膜)
第1端子と第2端子との上にレジスト膜を形成した後、固体電解質皮膜用前駆体溶液としてLa0.3Zr0.7O溶液をスピンコーティング法により塗布して、固体電解質皮膜用前駆体層を形成した。次いで、その固体電解質皮膜用前駆体層を酸素含有雰囲気で、250℃で予備焼成した後、400℃で本焼成して、厚さ20nmのLa0.3Zr0.7Oからなる固体電解質皮膜を成膜し後、レジスト膜を除去した。得られた固体電解質皮膜の炭素(C)と水素(H)の含有率を、ラザフォード後方散乱分光法、水素前方散乱分析法及び核反応解析法によりそれぞれ測定したところ、炭素(C)の含水率は、2.0atom%、水素(H)の含有率は10.1atom%であった。
こうして、積層板の固体電解質膜の上に、第1電極、第2電極および半導体膜、並びにそれらを被覆する固体電解質皮膜が成膜されたセンサ(図4に示すセンサ)を作製した。
【0073】
[比較例1]
固体電解質皮膜を成膜しなかったこと以外は、本発明例1と同様にしてセンサを作製した。
【0074】
[比較例2]
固体電解質皮膜の代わりに、フォトレジスト(TSMR、東京応化工業株式会社製)を用いて、レジスト皮膜を成膜したこと以外は、本発明例1と同様にしてセンサを作製した。
【0075】
[評価]
本発明例1で作製したセンサは、半導体膜を被覆している固体電解質皮膜の周囲に、保持部(5mm×10mm)を形成した。比較例1で作製したセンサは、半導体膜の周囲の第1電極および第2電極に保持部(5mm×10mm)を形成した。比較例2で作製したセンサは、半導体膜の周囲のフォトレジスト皮膜極に保持部(5mm×10mm)を形成した。
センサの保持部に、導電性液として0.01xのリン酸バッファ(PBS)を注液した。次いで、センサの保持部のPBSに第3電極を浸漬し、第1電極と第3電極との間に電圧VTGを印加しながら、第3電極を流れた電流値Iと第1電極と第2電極との間を流れたISDを測定した。電圧VTGを0.2Vから0.8Vまで変化させ、VTG-I曲線とVTG-ISD曲線とを得た。VTG-I曲線を図6(a)に、VTG-ISD曲線を図6(b)に示す。
【0076】
図6(a)のグラフから、第1電極、第2電極および半導体膜が固体電解質皮膜で被覆されている本発明例1のセンサ及び第1電極、第2電極および半導体膜がレジスト皮膜で被覆されている比較例2のセンサは、電圧VTGの増加による電流値Iの変化量がほとんど見られないことがわかる。これに対して、第1電極、第2電極および半導体膜が固体電解質皮膜で被覆されていない比較例1のセンサは、電圧VTGの増加によっても電流値Iが上昇することがわかる。電流値Iは、第1電極から第2電極に流れる電流が、第3電極にリークしたリーク電流値である。したがって、図6(a)のグラフから、本発明例1のセンサは、比較例1のセンサと比較して、顕著にリーク電流の発生が抑制されていることがわかる。
【0077】
また、図6(b)のグラフから、本発明例1のセンサは、比較例1のセンサと比較して、各電圧VTGでの電流値ISDが大きく、また電圧VTGの増加による電流値ISDの変化量が大きいことがわかる。例えば、電圧VTGを0.8Vとしたきの電流値ISDは、比較例1のセンサが310μAであるのに対して、本発明例1のセンサは480μAと約1.5倍も高い。よって、本発明例1のセンサは、比較例1のセンサと比較して、gmが高く、高感度な測定が可能となる。一方、比較例2のセンサは、比較例1のセンサと比較して、各電圧VTGでの電流値ISDが低いことから、比較例1のセンサと比較して、gmが低く、感度も低いことがわかる。
【0078】
[本発明例2]
本発明例1で作製したセンサを用いて、大腸菌を次のようにして検出した。
【0079】
(プローブDNAの固定)
センサの半導体膜を被覆している固体電解質皮膜の周囲に壁部を設けて保持部(5mm×10mm)を形成した。次いで、センサの保持部内の露出面に、プローブDNAとして大腸菌の16s-rRNAの一部と相補性を持つDNAを固定化した。プローブDNAの配列を、下記の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
プローブDNAは、図7に示す手順に従って、センサの保持部に固定化した。
先ず、保持部(固体電解質皮膜25)に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を結合させた。次いで、APTESのアミノ基とグルタルアルデヒドの一方のアルデヒド基とを反応させて、APTESとグルタルアルデヒドを結合した。そして最後に、グルタルアルデヒドの他方のアルデヒド基とプローブDNAとを反応させて、プローブDNA100nmol/Lを固定した。
【0082】
(試験液の調製)
大腸菌と濃度1質量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液とを混合して、試験液を調製した。試験液中の大腸菌は、細胞壁ならびに核酸分解酵素が破壊されて、DNAとmRNAが遊離している。試験液としては、大腸菌濃度が10、1×10cell/μLのものを調製した。
【0083】
(大腸菌の検出)
センサの保持部に、試験液2μLを滴下し、室温で5分間、インキューベートした。次いで、センサの保持部から試験液を除去し、その保持部に純水を注液して、固体電解質皮膜の露出面を洗浄した。その後、その保持部に導電性液として0.01×リン酸バッファ(PBS)を注液して、試験液を0.01×PBSに置換した。
次いで、センサの保持部のPBSに第3電極を浸漬し、第1電極と第3電極との間に電圧VTGを印加しながら、第1電極と第2電極との間を流れたISDを測定した。電圧VTGを0.2Vから0.8Vまで変化させ、VTG-ISD曲線を得た。その結果を、図8に示す。また、センサの保持部に、試験液を滴下せずに、0.01×PBSを注液して同様にVTG-ISD曲線を得た。その結果を、図8に示す。
【0084】
図8のグラフから、電圧VTGの増加による電流値ISDの変化量は、試験液の大腸菌数によって変動することがわかる。大腸菌を含まない0.01×PBSを用いた場合と比較して、大腸菌数を含む試験液を用いた場合は電圧VTGの増加による電流値ISDの変化量が顕著に低減することがわかる。
【0085】
[本発明例3]
本発明例1で作製したセンサを用いて、DNAの測定感度を次のようにして評価した。
本発明例2と同様にして、センサの保持部内の露出面に、プローブDNAとして大腸菌の16s-rRNAの一部と相補性を持つDNAを固定化した。次いで、センサの保持部に、大腸菌DNAの濃度が0.047μg/mLの試験液2μLを滴下し、室温で10分間、インキューベートした。次いで、センサの保持部から試験液を除去し、その保持部に純水を注液して、固体電解質皮膜の露出面を洗浄した。その後、その保持部に導電性液として0.01×PBSを注液して、試験液を0.01×PBSに置換した。
次いで、本発明例2と同様に、センサの保持部のPBSに第3電極を浸漬し、第1電極と第3電極との間に電圧VTGを印加しながら、第1電極と第2電極との間を流れたISDを測定した。同様に大腸菌DNAの濃度が0μg/mLの試験液(ブランク)を用いて行った。その結果を、図9に示す。
【0086】
図9のグラフから、大腸菌DNAの濃度が0μg/mLの試験液(ブランク)を用いた場合と、大腸菌DNAの濃度が0.047μg/mLの試験液を用いた場合とで、各VTGのISDの値が異なっていることから、本発明例1で作製したセンサは、大腸菌DNAの検出限界が0.047μg/mLよりも低いことがわかる。
【符号の説明】
【0087】
1 プローブ分子
2 生体物質
11 基板
12 導電性材料膜
13 固体電解質膜
21 第1電極
22 第2電極
23 第3電極
24 半導体膜
25 固体電解質皮膜
25a 露出面
30 保持部
31 第1電圧供給部
32 第2電圧供給部
100、101 センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9