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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073903
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】ポリウレタン粘弾性体
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/79 20060101AFI20230519BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20230519BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C08G18/79 020
C08G18/44
C08G18/42 008
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186657
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】景岡 正和
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛史
(72)【発明者】
【氏名】橋口 拓也
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA07
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DC02
4J034DC43
4J034DC50
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF16
4J034DF17
4J034DF20
4J034DF22
4J034HA01
4J034HA07
4J034HB05
4J034HB06
4J034HB08
4J034HC03
4J034HC22
4J034HC34
4J034HC35
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034KA01
4J034KB02
4J034KB03
4J034KC17
4J034KD02
4J034KD12
4J034KE02
4J034QA03
4J034QB08
4J034QB13
4J034QB14
4J034QD03
4J034RA11
4J034RA15
(57)【要約】
【課題】引張特性に優れ、かつ、粘性の高いポリウレタン粘弾性体を提供すること。
【解決手段】ポリウレタン粘弾性体は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含むポリオール成分との反応生成物を含む。ポリオール成分の水酸基価が、120mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含むポリイソシアネート成分と、
ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含むポリオール成分との反応生成物を含み、
前記ポリオール成分の水酸基価が、120mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である、ポリウレタン粘弾性体。
【請求項2】
脂肪族ポリイソシアネートの誘導体の平均官能基数が、2超過4未満である、請求項1に記載のポリウレタン粘弾性体。
【請求項3】
前記脂肪族ポリイソシアネートの誘導体は、アロファネート-イソシアヌレート誘導体である、請求項1または2に記載のポリウレタン粘弾性体。
【請求項4】
植物度が、40%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリウレタン粘弾性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン粘弾性体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝撃吸収部材および緩衝部材などの分野では、ポリウレタンが用いられている。
【0003】
このようなポリウレタンとして、例えば、ゲル層と、ゲル層を被覆するコート層とを備えるポリウレタンゲルが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2017/010422号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1のポリウレタンゲルは、粘性が低い弾性体である。そのため、このようなポリウレタンゲルに、力を加え変形させた後、その力を取り除く場合には、その変形は直ぐに戻る。
【0006】
一方、目的および用途に応じて、粘性の高い弾性体が要求される。粘性の高い弾性体に、力を加え変形させた後、その力を取り除く場合には、その変形がゆっくり戻るため、耐衝撃性を向上できる。
【0007】
また、このような弾性体には、引張特性(引張強度、引張伸び)の向上が要求される。
【0008】
本発明は、引張特性に優れ、かつ、粘性の高いポリウレタン粘弾性体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含むポリオール成分との反応生成物を含み、前記ポリオール成分の水酸基価が、120mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である、ポリウレタン粘弾性体である。
【0010】
本発明[2]は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体の平均官能基数が、2超過4未満である、上記[1]に記載のポリウレタン粘弾性体を含んでいる。
【0011】
本発明[3]は、前記脂肪族ポリイソシアネートの誘導体は、アロファネート-イソシアヌレート誘導体である、上記[1]または[2]に記載のポリウレタン粘弾性体を含んでいる。
【0012】
本発明[4]は、植物度が、40%以上である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリウレタン粘弾性体を含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリウレタン粘弾性体は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含むポリオール成分との反応生成物を含む。また、ポリオール成分は、所定の水酸基価を有する。そのため、引張特性を向上させ、かつ、粘性を高くできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリウレタン粘弾性体は、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分との反応生成物を含む。
【0015】
<ポリイソシアネート成分>
ポリイソシアネート成分は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含む。
【0016】
[脂肪族ポリイソシアネートの誘導体]
脂肪族ポリイソシアネートの誘導体において、脂肪族ポリイソシアネート(脂肪族ポリイソシアネートの単量体)としては、例えば、脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0017】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(1,6-HDI)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(1,5-PDI)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,2-、2,3-または1,3-ブチレンジイソシアネート、および、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0018】
また、脂肪族ポリイソシアネートとして、脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
【0019】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、4,4′-、2,4′-または2,2′-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)もしくはその混合物(H12MDI)、1,3-または1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンもしくはその混合物(HXDI)、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、および、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネートが挙げられる。
【0020】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、好ましくは、脂肪族ジイソシアネート、より好ましくは、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、および、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、さらに好ましくは、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0021】
また、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートは、好ましくは、植物由来の1,5-ペンタメチレンジイソシアネートである。植物由来の1,5-ペンタメチレンジイソシアネートは、酵素によるリジンの脱炭酸反応により得ることができる。このような植物由来の1,5-ペンタメチレンジイソシアネートの製造方法は、国際公開パンフレットWO2012/121291号の明細書に記載されている。
【0022】
脂肪族ジイソシアネートが、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートであれば、ポリウレタン粘弾性体の植物度を向上できる。
【0023】
また、植物由来の1,5-ペンタメチレンジイソシアネートの植物度は、例えば、10%以上、また、例えば、80%以下である。
【0024】
なお、植物度は、ASTMD6866試験法により測定できる。
【0025】
そして、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体において、誘導体としては、例えば、上記した脂肪族ポリイソシアネートの多量体(例えば、2量体、3量体(例えば、イソシアヌレート誘導体、イミノオキサジアジンジオン誘導体)、5量体、7量体など)、アロファネート誘導体(例えば、上記した脂肪族ポリイソシアネートと、1価アルコールまたは2価アルコールとの反応より生成するアロファネート誘導体)、ポリオール誘導体(例えば、上記した脂肪族ポリイソシアネートと3価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン)との反応より生成するポリオール誘導体(アルコール付加体)など)、ビウレット誘導体(例えば、上記した脂肪族ポリイソシアネートと、水またはアミン類との反応により生成するビウレット誘導体など)、ウレア誘導体(例えば、上記した脂肪族ポリイソシアネートとジアミンとの反応により生成するウレア誘導体など)、オキサジアジントリオン誘導体(例えば、上記した脂肪族ポリイソシアネートと炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオンなど)、カルボジイミド誘導体(上記した脂肪族ポリイソシアネートの脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド誘導体など)、ウレトジオン誘導体、および、ウレトンイミン誘導体が挙げられる。
【0026】
誘導体として、好ましくは、耐熱性および粘度の観点から、イソシアヌレート誘導体が挙げられる。
【0027】
脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、公知の方法により得ることができる。具体的には、まず、脂肪族ポリイソシアネートに、微量のモノオール(例えば、イソブタノール、1,3-ブタンジオール)を添加し、加熱する。次いで、その混合液に、公知のイソシアヌレート化触媒を添加して、イソシアヌレート化反応させる。なお、微量のモノオールは、イソシアヌレート化反応を促進するために添加され、アロファネート基として残存しない。
【0028】
また、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、イソシアヌレート基とともに、アロファネート基を有することもできる。以下の説明では、イソシアヌレート基とともに、アロファネート基を有するイソシアヌレート誘導体を、アロファネート-イソシアヌレート誘導体と称する場合がある。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体は、公知の方法により得ることができる。具体的には、上記した脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート誘導体の製造方法において、アロファネート基を生成するための有効量のモノオールの量を添加し、アロファネート-イソシアヌレート誘導体を製造する。
【0030】
脂肪族ポリイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体における、イソシアヌレート基に対する、アロフアネート基のモル比率(アロフアネート基/イソシアヌレート基)は、例えば、0.05以上、また、例えば、1以下である。
【0031】
なお、上記のモル比率は、後述する実施例で詳述するが、脂肪族ポリイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体の、1H-NMR法により測定されたNMRチャートから得られるアロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比率から算出することができる。
【0032】
誘導体として、より好ましくは、より一層、粘度を低減する観点から、アロファネート-イソシアヌレート誘導体が挙げられる。
【0033】
そして、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体としては、好ましくは、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体、より好ましくは、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体、さらに好ましくは、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体が挙げられる。
【0034】
脂肪族ポリイソシアネートの誘導体の平均官能基数は、例えば、耐熱性の観点から、2超過、好ましくは、2.5以上、また、例えば、引張強度の観点から、4未満、好ましくは、3.5以下である。
【0035】
平均官能基数の算出方法は、後述する実施例で詳述する。
【0036】
脂肪族ポリイソシアネートの誘導体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0037】
また、ポリイソシアネート成分は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体とともに、脂肪族ポリイソシアネート(脂肪族ポリイソシアネートの単量体)を含むこともできる。
【0038】
[他のポリイソシアネートおよび/またはその誘導体]
ポリイソシアネート成分は、さらに、他のポリイソシアネートおよび/またはその誘導体を含むこともできる。
【0039】
他のポリイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、および、芳香脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0040】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4′-、2,4′-または2,2′-ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物(MDI)、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物(TDI)、o-トリジンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、m-またはp-フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4′-ジフェニルジイソシアネート、および、4,4′-ジフェニルエーテルジイソシアネートが挙げられる。
【0041】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート(1,2-、1,3-または1,4-キシリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(XDI)、1,3-または1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物(TMXDI)、および、ω,ω′-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼンが挙げられる。
【0042】
他のポリイソシアネートにおける誘導体としては、上記した脂肪族ポリイソシアネートの誘導体で挙げた誘導体が挙げられる。
【0043】
他のポリイソシアネートおよびその誘導体の配合割合は、ポリイソシアネート成分100質量部に対して、例えば、5質量部以下、好ましくは、1質量部以下、また、例えば、0.1質量部以上である。
【0044】
他のポリイソシアネートおよびその誘導体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0045】
ポリイソシアネート成分は、好ましくは、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含み、脂肪族ポリイソシアネートの単量体と、他のポリイソシアネートおよび/またはその誘導体とを含まない。つまり、ポリイソシアネート成分は、好ましくは、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体からなる。
【0046】
ポリイソシアネート成分の平均官能基数は、例えば、耐熱性の観点から、2超過、好ましくは、2.5以上、また、例えば、引張強度の観点から、4未満、好ましくは、3.5以下である。
【0047】
<ポリオール成分>
ポリオール成分は、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含む。また、ポリカーボネートポリオールおよび芳香環含有ポリエステルポリオールは、マクロポリオールである。マクロポリオールは、数平均分子量300以上、好ましくは、400以上、より好ましくは、500以上、また、2000以下、好ましくは、1500以下、より好ましくは、1000以下の高分子量ポリオールである。
【0048】
[ポリカーボネートポリオール]
ポリカーボネートポリオールは、2価アルコールと炭酸エステルとを反応させることにより得られる。
【0049】
2価アルコールとしては、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および、イソソルビドが挙げられ、好ましくは、イソソルビドが挙げられる。
【0050】
炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、および、炭酸メチルエチルが挙げられる。
【0051】
ポリカーボネートポリオールとしては、好ましくは、イソソルビドと炭酸エステルとを反応させることにより得られるポリカーボネートポリオール(イソソルビド含有ポリカーボネートポリオール)が挙げられる。
【0052】
イソソルビド含有ポリカーボネートポリオールは、イソソルビド(植物由来原料)から誘導された植物由来ポリカーボネートポリオールである。
【0053】
イソソルビド含有ポリカーボネートポリオールの植物度は、例えば、10%以上、好ましくは、20%以上、より好ましくは、30%以上、また、例えば、80%以下である。
【0054】
なお、植物度は、ASTMD6866試験法により測定できる。
【0055】
ポリカーボネートポリオールが、イソソルビド含有ポリカーボネートポリオールであれば、ポリウレタン粘弾性体の植物度を向上させることができるとともに、ポリウレタン粘弾性体の濁りを抑制させ、また、ポリウレタン粘弾性体の引張強度を向上させることができる。
【0056】
このようなポリカーボネートポリオールは、好ましくは、23℃で液状である。
【0057】
ポリカーボネートポリオールは、市販品を用いることもできる。具体的には、ETERNACOLL UP-50(液状ポリカーボネートジオール、宇部興産株式会社製)、ベネビオールHS0840H(イソソルビド含有ポリカーボネートジオール、三菱ケミカル社製)、および、クラレポリオールC-590(ポリカーボネートジオール、クラレ社製)が挙げられる。
【0058】
ポリカーボネートポリオールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0059】
[芳香環含有ポリエステルポリオール]
芳香環含有ポリエステルポリオールは、芳香環を有する。詳しくは、芳香環含有ポリエステルポリオールは、芳香環含有多価アルコール(後述)および/または芳香環含有多塩基酸(後述)に由来する芳香環を有する。
【0060】
芳香環含有ポリエステルポリオールは、例えば、多価アルコールと多塩基酸とを、公知の条件下、反応させて得られる。つまり、芳香環含有ポリエステルポリオールは、縮合重合により得られる縮合重合体であり、環状重合体(ポリカプロラクトン)とは区別される。
【0061】
多価アルコールとしては、例えば、芳香環含有多価アルコール、および、芳香環不含多価アルコールが挙げられる。
【0062】
芳香環含有多価アルコールとしては、例えば、芳香環含有ジオールが挙げられる。芳香環含有ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS、および、ビスフェノールFが挙げられる。
【0063】
芳香環不含多価アルコールとしては、例えば、2価アルコール、および、3価アルコールが挙げられる。
【0064】
2価アルコールとしては、例えば、炭素数(C)2~20アルカンジオール、脂環含有ジオール、C4~10のエーテルジオール、および、ヘテロ環含有ジオールが挙げられる。炭素数(C)2~20アルカンジオールとしては、例えば、1,2-エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,2-トリメチルペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、および、2,6-ジメチル-1-オクテン-3,8-ジオールが挙げられる。脂環含有ジオールとしては、例えば、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、および、水素化ビスフェノールAが挙げられる。C4~10のエーテルジオールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、および、ジプロピレングリコールが挙げられる。ヘテロ環含有ジオールとしては、例えば、イソソルビド(1,4:3,6-ジアンヒドログルシトール)が挙げられる。3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、および、トリイソプロパノールアミンが挙げられる。
【0065】
多価アルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0066】
多塩基酸としては、例えば、芳香環含有多塩基酸、および、芳香環不含多塩基酸が挙げられる。
【0067】
芳香環含有多塩基酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸(オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)、トルエンジカルボン酸、および、ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0068】
芳香環不含多塩基酸としては、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸(C11~13)、不飽和脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、その他のカルボン酸、および、それらカルボン酸から誘導される酸無水物が挙げられる。飽和脂肪族ジカルボン酸(C11~13)としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタール酸、アジピン酸、1,1-ジメチル-1,3-ジカルボキシプロパン、3-メチル-3-エチルグルタール酸、アゼライン酸、および、セバシン酸が挙げられる。不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、および、イタコン酸が挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸が挙げられる。その他のカルボン酸としては、例えば、ダイマー酸、水添ダイマー酸、および、ヘット酸が挙げられる。酸無水物としては、例えば、無水シュウ酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水2-アルキル(C12~C18)コハク酸、無水テトラヒドロフタル酸、および、無水トリメリット酸が挙げられる。
【0069】
多塩基酸は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0070】
そして、上記したように、芳香環含有ポリエステルポリオールは、多価アルコールと多塩基酸とを反応させることにより得られる。このような反応において、多価アルコールおよび多塩基酸のうち、少なくとも一方が、芳香環を有するように選択される。
【0071】
具体的には、多価アルコールが、芳香環含有多価アルコールであれば、多塩基酸は、芳香環含有多塩基酸および/または芳香環不含多塩基酸を含む。また、多価アルコールが、芳香環不含多価アルコールであれば、多塩基酸は、少なくとも、芳香環含有多塩基酸を含む。一方、多塩基酸が、芳香環含有多塩基酸であれば、多価アルコールは、芳香環含有多価アルコールおよび/または芳香環不含多価アルコールを含む。また、多塩基酸が、芳香環不含多塩基酸であれば、多価アルコールは、少なくとも、芳香環含有多価アルコールを含む。
【0072】
芳香環含有ポリエステルポリオールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0073】
上記したように、ポリオール成分は、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含む。
【0074】
ポリオール成分が、ポリカーボネートポリオールおよび芳香環含有ポリエステルポリオールを含む場合には、ポリカーボネートポリオールの配合割合は、ポリカーボネートポリオールおよび芳香環含有ポリエステルポリオールの総量100質量部に対して、例えば、40質量部以上、また、例えば、60質量部以下である。また、芳香環含有ポリエステルポリオールの配合割合は、ポリカーボネートポリオールおよび芳香環含有ポリエステルポリオールの総量100質量部に対して、例えば、40質量部以上、また、例えば、60質量部以下である。
【0075】
[その他のポリオール]
ポリオール成分は、その他のポリオールを含むこともできる。
【0076】
その他のポリオールとしては、例えば、その他のマクロポリオール、および、低分子量ポリオールが挙げられる。
【0077】
その他のマクロポリオールは、上記ポリカーボネートポリオールおよび上記芳香環含有ポリエステルポリオール以外のマクロポリオールである。具体的には、その他のマクロポリオールとして、例えば、芳香環不含ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、植物油ポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、および、ビニルモノマー変性ポリオールが挙げられる。
【0078】
低分子量ポリオールは、数平均分子量300未満、好ましくは、200未満の化合物である。
【0079】
低分子量ポリオールとしては、例えば、上記した芳香環不含多価アルコールが挙げられる。
【0080】
その他のポリオールの配合割合は、ポリオール成分100質量部に対して、例えば、5質量部以下、好ましくは、1質量部以下、また、例えば、0.1質量部以上である。
【0081】
その他のポリオールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0082】
そして、ポリオール成分は、好ましくは、ポリウレタン粘弾性体の引張強度を向上させる観点から、その他のポリオールを含まず、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含み、より好ましくは、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールからなる。
【0083】
とりわけ、ポリオール成分は、好ましくは、低分子量ポリオールを含まず、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含む。つまり、ポリオール成分は、好ましくは、低分子量ポリオールを含まず、マクロポリオールのみを含む。このような場合には、ポリオール成分は、鎖伸長剤としての低分子量ポリオールを含まないため、低分子量ポリオールに由来するハードセグメントを有しない。そのため、ポリウレタン粘弾性体の弾性を低くできる。また、ポリオール成分は、マクロポリオールのみを含むため、ポリウレタン粘弾性体の粘性を高くできる。
【0084】
また、ポリオール成分は、より好ましくは、少なくとも、ポリカーボネートポリオールを含み、さらに好ましくは、芳香環含有ポリエステルポリオールを含まず、ポリカーボネートポリオールを含み、とりわけ好ましくは、ポリカーボネートポリオールからなる。
【0085】
ポリオール成分の水酸基価は、120mgKOH/g以上、好ましくは、130mgKOH/g以上、また、300mgKOH/g以下、好ましくは、250mgKOH/g以下、より好ましくは、200mgKOH/g以下、さらに好ましくは、150mgKOH/g以下である。
【0086】
ポリオール成分の水酸基価が、上記下限以上であれば、ポリウレタン粘弾性体の粘性を高くできる。
【0087】
一方、ポリオール成分の水酸基価が、上記下限未満であれば、ポリウレタン粘弾性体の粘性を高くできない。
【0088】
また、ポリオール成分の水酸基価が、上記上限以下であれば、ポリウレタン粘弾性体の引張特性(引張強度、引張伸び)を向上できる。
【0089】
一方、ポリオール成分の水酸基価が、上記上限を超過すると、ポリウレタン粘弾性体の引張特性(引張強度、引張伸び)が低下する。
【0090】
なお、水酸基価は、JISK1557-1のA法またはB法に準拠するアセチル化法またはフタル化法などから求めることができる。
【0091】
また、ポリオール成分の平均官能基数は、例えば、2以上、また、例えば、3以下である。ポリオールの官能基数は、好ましくは、2である。
【0092】
<ポリウレタン粘弾性体の製造方法>
ポリウレタン粘弾性体は、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分との反応生成物を含む。換言すれば、ポリウレタン粘弾性体は、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分とを反応させることにより得られる。また、上記反応生成物は、ポリウレタン粘弾性体において、主成分である。具体的には、上記反応生成物の含有割合は、ポリウレタン粘弾性体に対して、例えば、80質量%以上、好ましくは、90質量%以上、より好ましくは、95質量%以上、さらに好ましくは、99質量%以上、また、例えば、99.9質量%以下である。
【0093】
具体的には、ポリウレタン粘弾性体は、ワンショット法、例えば、公知の注型成形により得られる。つまり、ポリウレタン粘弾性体は、注型ポリウレタンである。
【0094】
より具体的には、ポリウレタン粘弾性体の製造方法は、ポリオール成分からプレミックス(レジンプレミックス)を調製する第1工程と、プレミックス(レジンプレミックス)に、ポリイソシアネート成分を配合することにより、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分を含む混合物を調製する第2工程と、混合物を成形して、ポリウレタン粘弾性体を得る第3工程とを備える。
【0095】
[第1工程]
第1工程では、ポリオール成分からプレミックス(レジンプレミックス)を調製する。具体的には、ポリオール成分に、必要により、添加剤および触媒を配合し、必要により、攪拌して、プレミックス(レジンプレミックス)を調製する。つまり、ポリウレタン粘弾性体は、必要により、添加剤および触媒を含む。
【0096】
添加剤としては、例えば、消泡剤、安定剤、架橋剤、連通化剤、顔料(着色顔料)、染料、硬化促進剤、つや消し剤、密着性付与剤、内部離型剤、および、シランカップリング剤が挙げられる。
【0097】
消泡剤としては、特に制限されず、公知の消泡剤が用いられる。消泡剤として、例えば、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0098】
安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、および、光安定剤が挙げられ、好ましくは、酸化防止剤、紫外線吸収剤、および、光安定剤が挙げられる。
【0099】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、および、チオフェン系酸化防止剤が挙げられ、好ましくは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0100】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、および、シアノアクリレート系紫外線吸収剤が挙げられ、好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0101】
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系耐光安定剤、ブレンド系耐光安定剤が挙げられる。
【0102】
添加剤の配合割合は、ポリウレタン粘弾性体に対して、例えば、0.099質量%以上、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、8質量%以下、より好ましくは、4質量%以下、さらに好ましくは、0.9質量%以下である。
【0103】
添加剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0104】
また、詳しくは後述するが、ポリウレタン粘弾性体は、好ましくは、可塑剤を含まない。ポリウレタン粘弾性体は、可塑剤を含まなくても、高い粘性を有するため、耐衝撃性に優れる。
【0105】
触媒としては、例えば、公知のウレタン化触媒が挙げられ、例えば、アミン類、および、有機金属化合物(例えば、ジラウリン酸ジブチル錫(IV))が挙げられ、好ましくは、有機金属化合物が挙げられる。
【0106】
触媒の配合割合は、ポリウレタン粘弾性体に対して、例えば、0.001質量%以上、また、例えば、5質量%以下、好ましくは、2質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.1質量%以下である。
【0107】
触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0108】
これにより、プレミックス(レジンプレミックス)を調製する。プレミックス(レジンプレミックス)において、ポリオール成分の含有割合は、例えば、80質量%以上、好ましくは、90質量%以上、より好ましくは、95質量%以上である。
【0109】
[第2工程]
第2工程では、プレミックス(レジンプレミックス)に、ポリイソシアネート成分を配合し、必要により、攪拌して、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分を含む混合物を調製する。
【0110】
具体的には、ポリオール成分中の水酸基に対する、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)が、例えば、0.5以上、好ましくは、0.8以上、また、例えば、1.5以下、好ましくは、1.2以下、より好ましくは、1未満、さらに好ましくは、0.95以下となるように、プレミックス(レジンプレミックス)に、ポリイソシアネート成分を配合する。
【0111】
上記当量比が、1未満であれば、ポリオール成分に対して、ポリイソシアネート成分が過剰に配合されない。その結果、過剰なポリイソシアネート成分による熱架橋が抑制されるため、ポリウレタン粘弾性体の粘性を高くできる。
【0112】
これにより、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分を含む混合物を調製する。
【0113】
[第3工程]
第3工程では、混合物を成形して、ポリウレタン粘弾性体を得る。
【0114】
成形は、公知の加熱成形が選択される。
【0115】
加熱成形の条件は、目的および用途に応じて、適宜設定される。加熱成形において、成形温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上、また、例えば、120℃以下、好ましくは、100℃以下である。また、成形時間は、例えば、10分以上、好ましくは、30分以上、また、例えば、240分以下、好ましくは、120分以下である。
【0116】
これにより、混合物が賦形および硬化する(ポリイソシアネート成分とポリオール成分とが反応し、反応生成物(硬化物)を得る)ことにより、ポリウレタン粘弾性体が得られる。
【0117】
ポリウレタン粘弾性体の植物度は、例えば、20%以上、好ましくは、40%以上、また、例えば、80%以下である。植物度が、上記下限以上であれば、環境負荷を低減できる。
【0118】
なお、植物度の算出方法については、後述する実施例で詳述する。
【0119】
また、ポリウレタン粘弾性体は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、ポリウレタン粘弾性体の全光線透過率(JIS K 7136-1)は、例えば、80%以上、好ましくは、90%以上、また、例えば、99%以下である。
【0120】
また、詳しくは後述するが、ポリウレタン粘弾性体の粘性の指標であるD硬度減少率は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.15以上、また、例えば、0.7以下である。
【0121】
なお、D硬度減少率の測定方法については、後述する実施例で詳述する。
【0122】
また、ポリウレタン粘弾性体の引張強度(JIS K 7312)は、例えば、3.7Mpa以上、好ましくは、4Mpa以上、より好ましくは、8MPa以上、さらに好ましくは、12MPa以上、とりわけ好ましくは、20MPa以上、また、例えば、40MPa以下である。
【0123】
また、ポリウレタン粘弾性体の引張伸び(JIS K 7312)は、例えば、180%以上、好ましくは、200%以上、また、例えば、300%以下である。
【0124】
<作用効果>
ポリウレタン粘弾性体は、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含むポリオール成分との反応生成物を含む。また、ポリオール成分は、所定の水酸基価を有する。そのため、引張特性を向上させ、かつ、粘性を高くできる。
【0125】
とりわけ、ポリオール成分が、ポリカーボネートポリオールおよび/または芳香環含有ポリエステルポリオールを含むため、分子鎖間の相互作用の観点から、引張特性を向上させ、かつ、粘性を高くできる。
【0126】
そして、このようなポリウレタン粘弾性体は、ポリウレタンゲルと比べて、粘性が高い。
【0127】
詳しくは、ポリウレタンゲルは、粘性が低い弾性体であるため、このようなポリウレタンゲルに、力を加え変形させた後、その力を取り除く場合には、その変形は直ぐに戻る。
【0128】
一方、上記のポリウレタン粘弾性体は、粘性の高い弾性体であるため、このようなポリウレタン粘弾性体に、力を加え変形させた後、その力を取り除く場合には、その変形がゆっくり戻る。その結果、耐衝撃性を向上できる。
【0129】
また、ポリウレタン粘弾性体の粘性は、D硬度などの硬度の経時における減少率(D硬度減少率)で見積もることができる。D硬度減少率が上記した範囲であれば、ポリウレタン粘弾性体の粘性が高いとわかる。
【0130】
また、上記したように、ポリウレタン粘弾性体は、粘性の高い弾性体(粘弾性体)である。上記したように、ポリウレタン粘弾性体の粘性は、D硬度減少率で見積もることができる。また、ポリウレタン粘弾性体の弾性は、引張強度および引張伸びで見積もることができる。つまり、ポリウレタン粘弾性体とは、D硬度減少率が上記した範囲を満足し、かつ、引張強度および引張伸びが、上記した範囲を満足するものである。
【0131】
また、このようなポリウレタン粘弾性体は、力を加え変形させた後、その力を取り除く場合には、その変形がゆっくり戻り、やがては完全に元に戻る。
【0132】
また、ポリウレタン粘弾性体は、好ましくは、可塑剤を含まない。ポリウレタン粘弾性体が、可塑剤を含むと、可塑剤がブリードして、ポリウレタン粘弾性体の表面が汚染される場合がある。一方、ポリウレタン粘弾性体は、可塑剤を含まなくても、高い粘性を有するため、耐衝撃性に優れる。そして、可塑剤を含まないため、上記汚染を抑制できる。
【0133】
そして、ポリウレタン粘弾性体は、引張特性に優れ、かつ、高い粘性を有するため、工業的に広範に使用可能であり、とりわけ、耐衝撃性が要求される部材の材料に好適に用いられる。
【0134】
<変形例>
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態および変形例を適宜組み合わせることができる。
【0135】
上記した説明では、第1工程において、ポリオール成分に、添加剤および触媒を配合し、プレミックス(レジンプレミックス)を調製した後、第2工程において、プレミックス(レジンプレミックス)に、ポリイソシアネート成分を配合し、混合物を調製するが、ポリオール成分およびポリイソシアネート成分の配合と同時またはその後に、添加剤および触媒を配合することもできる。
【実施例0136】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0137】
1.成分の詳細
各製造例、各実施例、および、各比較例で用いた成分の、商品名および略語について、詳述する。
HS0840H:イソソルビド含有ポリカーボネートジオール、平均水酸基価140mgKOH/g、平均官能基数2、ASTMD6866試験法による植物度37%、商品名「ベネビオールHS0840H」、三菱ケミカル社製
UP-50:液状ポリカーボネートジオール、平均水酸基価222mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「ETERNACOL UP-50」、宇部興産社製
T5651:液状ポリカーボネートジオール、平均水酸基価110mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「デュラノールT5651」、旭化成社製
C-590:液状ポリカーボネートジオール、平均水酸基価224mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「クラレポリオールC-590」、クラレ社製
ポリオールA:芳香環含有ポリエステルポリオール、平均水酸基価222mgKOH/g、平均官能基数2
DPG:ジプロピレングリコール、平均水酸基価836mgKOH/g、平均官能基数2、ADEKA製
PTG650:ポリテトラメチレンエーテルポリオール、平均水酸基価172mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「PTG-650」、保土谷化学社製
D-400:プロピレンオキサイド重合体、水酸基価:280mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「アクトコールD-400」、三井化学SKC社製
U-550:ポリエステルポリオール(芳香環を含まないポリエステルポリオール)、水酸基価202mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「タケラックU-550」、三井化学SKC製
プラクセル205U:ポリカプロラクトンジオール(芳香環を含まないポリエステルポリオール、環状重合体)、水酸基価212mgKOH/g、平均官能基数2、商品名「プラクセル205U」、ダイセル社製
消泡剤:シリコーン系界面活性剤、商品名「BYK-088」、ビックケミージャパン社製
触媒:ジラウリン酸ジブチル錫(IV)、東京化成工業社製
酸化防止剤:ヒンダードフェノール化合物、商品名「イルガノックス245」、BASFジャパン社製
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール化合物、商品名「チヌビン234」、BASFジャパン社製
光安定剤:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルー4-ピペリジル)セバケート、商品名「アデカスタブLA-72」、ADEKA製、
【0138】
2.脂肪族ポリイソシアネートの誘導体の合成
合成例1(1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(1,5-PDI)のアロファネート-イソシアヌレート誘導体)
温度計、攪拌装置、窒素導入管および冷却管が装着された反応器において、窒素雰囲気下、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI、三井化学社製、商品名:スタビオPDI)500質量部、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(別名:ジブチルヒドロキシトルエン、BHT、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.25質量部、テトラフェニル・ジプロピレングリコール・ジホスファイト(有機亜リン酸エステル、助触媒)0.25質量を混合した後、この混合液にイソブタノール6.5質量部(アロファネート基を生成するための有効量)を加え、窒素を、その液相に1時間導入した。その後、混合液を80℃に昇温し3時間反応(部分的に反応)後、60℃に降温した。その後、イソシアヌレート化触媒として、トリメチル-N-2-ヒドロキシプロピルアンモニウム・2-エチルヘキサノエート0.2質量部加え、1.5時間反応させた。その後、PDI 100質量部に対して、o-トルエンスルホンアミド0.01質量部を添加した。その後、この反応混合液を、薄膜蒸留装置(温度150℃、真空度93.3Pa)に通液して、残存PDIモノマー量が1.0%以下になるまで蒸留し、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体(1,5-ペンタメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体)を得た。得られた脂肪族ポリイソシアネート誘導体の、イソシアネート基含有率は24.0%、平均イソシアネート官能基数は2.8であった。
【0139】
合成例2(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(1,6-HDI)のアロファネート-イソシアヌレート誘導体)
温度計、攪拌装置、窒素導入管および冷却管が装着された反応器において、窒素雰囲気下、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI、三井化学社製、商品名:タケネート700)500質量部、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(別名:ジブチルヒドロキシトルエン、BHT、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.25質量部、テトラフェニル・ジプロピレングリコール・ジホスファイト(有機亜リン酸エステル、助触媒)0.25質量を混合した後、この混合液に1,3-ブタンジオール10.7質量部(アロファネート基を生成するための有効量)を加え、窒素を、その液相に1時間導入した。その後、混合液を80℃に昇温し3時間反応後、60℃に降温した。その後、イソシアヌレート化触媒として、トリメチル-N-2-ヒドロキシプロピルアンモニウム・2-エチルヘキサノエート0.2質量部加え、1.5時間反応させた。その後、HDI 100質量部に対して、o-トルエンスルホンアミド0.01質量部を添加した。その後、この反応混合液を、薄膜蒸留装置(温度150℃、真空度93.3Pa)に通液して、残存HDIモノマー量が1.0%以下になるまで蒸留し、脂肪族ポリイソシアネートの誘導体(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート-イソシアヌレート誘導体)を得た。得られた脂肪族ポリイソシアネート誘導体の、イソシアネート基含有率は20.7%、平均イソシアネート官能基数は3.4であった。
【0140】
3.ポリウレタン粘弾性体の製造
実施例1
[第1工程]
80℃に加温したポリオールポリオール成分100質量部に、下記配合処方で、各成分(消泡剤0.2質量部、触媒0.01質量部、酸化防止剤0.1質量部、紫外線吸収剤0.1質量部および光安定剤:0.1質量部)を配合し、スリーワンモーターで撹拌し、レジンプレミックスを調製した。
【0141】
[第2工程]
レジンプレミックス100質量部に、ポリオール成分中の水酸基に対する、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)が、0.9となるように、ポリイソシアネート成分を配合し、次いで、真空自転公転撹拌機で約5分間攪拌し、混合物を調製した。
【0142】
[第3工程]
混合物を、金型に、泡が入らないように注意しながら流し込み、80℃のオーブンで1時間硬化させた。その後、成形物を脱型することにより、ポリウレタン粘弾性体を得た。なお、金型は、内寸300mm×100mm×2mmであるSUS製の金型(第1金型)、および、直径275mm×125mmであるSUS製の金型(第2金型)の2つを用いて、2つのポリウレタン粘弾性体を得た。
【0143】
実施例2~実施例5、および、比較例1~比較例6
実施例1と同様の手順に基づき、2つのポリウレタン粘弾性体を得た。但し、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分の配合処方を、表1に従い変更した。なお、表1におけるポリイソシアネート成分およびポリオール成分の配合処方は、質量部である。
【0144】
4.評価
<平均イソシアネート官能基数>
各合成例の脂肪族ポリイソシアネートの誘導体の平均イソシアネート官能基数は、脂肪族ポリイソシアネート誘導体のイソシアネート基濃度A、固形分濃度B、および、以下の装置および条件にて測定されるゲルパーミエーションクロマトグラフィーの数平均分子量Cから、下記式(1)により算出した。
平均イソシアネート官能基数=A/B×C/42.02 (1)
(式中、Aは、脂肪族ポリイソシアネート誘導体のイソシアネート基濃度を示し、Bは、固形分濃度を示し、Cは、数平均分子量を示す。)
【0145】
[装置および条件]
装置:HLC-8220GPC(東ソー製)
カラム:TSKgelG1000HXL、TSKgelG2000HXL、およびTSKgelG3000HXL(東ソー製)を直列に連結した
検出器:示差屈折率計
注入量:100μL
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:0.8mL/min
温度:40℃
検量線:106~22450の範囲の標準ポリエチレンオキシド(東ソー製、商品名:TSK標準ポリエチレンオキシド)
【0146】
<イソシアヌレート基に対する、アロフアネート基のモル比率(アロフアネート基/イソシアヌレート基)の測定>
各合成例の脂肪族ポリイソシアネートの誘導体について、1H-NMR測定(400MHz、溶剤:D6-DMSO(溶質:5質量%)、基準物質:テトラメチルシラン)を実施した。
【0147】
そして、8.3~8.7ppmのピークを、アロファネート基(アロファネート基中のNH基)のプロトンの帰属ピークとし、また、3.8ppmのピークを、イソシアヌレート基(イソシアヌレート基に直接結合するメチレン基(CH基))のプロトンの帰属ピークと帰属した。次いで、それらのピーク面積比(積分比)から、下記式(2)により、イソシアヌレート基に対する、アロファネート基のモル比率(アロファネート基/イソシアヌレート基)を算出した。
【0148】
モル比率=アロファネート基のプロトンの帰属ピークの積分値/(イソシアヌレート基のプロトンの帰属ピークの積分値/6) (2)
【0149】
合成例1の脂肪族ポリイソシアネートの誘導体について、モル比率は、0.5であった。また、合成例2の脂肪族ポリイソシアネートの誘導体について、モル比率は、0.4であった
【0150】
<植物度>
バイオマス度について、下記式(3)基づき、算出した。
各バイオマス原料の(バイオマス度×炭素の含有率×使用量)の総和/全原料の(炭素含有率×使用量)の総和 (3)
【0151】
上記式(3)において、各原料のバイオマス度は、米国試験材料規格(ASTM D6866)に基づき求めた。
【0152】
炭素の含有率については、構造が明確になっているモノマー・オリゴマーに関してはその分子式の計算値から炭素の含有率を算出し、構造が不明確なものに関しては元素分析により、炭素の含有率を算出した。
【0153】
また、全原料に有機溶媒は含まないものとした。その結果を表1に示す。
【0154】
<D硬度>
各実施例および各比較例のポリウレタン粘弾性体(第2金型を用いて得られるポリウレタン粘弾性体)について、JIS K6253-3に準拠して、D硬度を測定した。
【0155】
具体的には、硬度計を、ポリウレタン粘弾性体に押し当てた瞬間のD硬度(D硬度(瞬間))と、硬度計を、ポリウレタン粘弾性体に押し当ててから10秒後のD硬度(D硬度(10秒後))とを測定した。その結果を表1に示す。
【0156】
また、下記式(4)に基づいて、D硬度減少率を算出した。その結果を表1に示す。D硬度減少率が大きいほど、粘性が高く、力を加え変形させた後、その力を取り除くと、変形がゆっくり戻ることがわかる。
{D硬度(瞬間)-D硬度(10秒後)}/D硬度(瞬間)=D硬度減少率 (4)
【0157】
<引張特性>
各実施例および各比較例のポリウレタン粘弾性体(第1金型を用いて得られるポリウレタン粘弾性体)について、JIS K 7312に従い、引張強度および引張伸びを測定した。具体的には、2mm厚みの3号ダンベル片について、引張速度500mm/分にて測定した。その結果を表1に示す。
【0158】
<ヘイズおよび全光線透過率>
各実施例および各比較例のポリウレタン粘弾性体(第1金型を用いて得られるポリウレタン粘弾性体)について、JIS K 7136-1に従い、ヘイズおよび全光線透過率を測定した。具体的には、日本電色工業株式会社製 HAZE MeterNDH2000を用い、光源はD65/Aで測定した。その結果を表1に示す。
【0159】
【表1】