(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073936
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】サルコペニアの改善用の経口組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20230519BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230519BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
A61K35/744
A61P21/00
C12N1/20 E ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202526
(22)【出願日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】110142646
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】519298765
【氏名又は名称】葡萄王生技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 勁初
(72)【発明者】
【氏名】陳 炎▲錬▼
(72)【発明者】
【氏名】林 詩偉
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲彦▼博
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲啓▼憲
(72)【発明者】
【氏名】侯 毓欣
(72)【発明者】
【氏名】石 仰慈
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲静▼▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 雅君
(72)【発明者】
【氏名】江 佳琳
(72)【発明者】
【氏名】蔡 侑珊
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 姿和
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA39X
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC90
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA94
(57)【要約】
【課題】サルコペニアを改善するように、サルコペニアの改善用の経口組成物が切望されている。
【解決手段】本発明は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)GKP4を有効成分として含むサルコペニアの改善用の経口組成物に関する。経口組成物が投与された被験者は、経口組成物が投与されていない被験者と比較して、筋肉量、筋力及び筋肉持久性が増加する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)GKP4を有効成分として含み、被験者に対して一定期間連続投与することで、前記被験者の筋肉減少量を緩和するサルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4が2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機関(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託され、受託番号がNITE BP-03317であるサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項2】
前記期間が少なくとも14日間である請求項1に記載のサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項3】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含むサルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号がNITE BP-03317であり、且つ、前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の成人に対する前記有効投与量が、240mg/60kg体重/日~4800mg/60kg体重/日であるサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項4】
前記サルコペニアが急性サルコペニアである請求項3に記載のサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項5】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含むサルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号がNITE BP-03317であり、且つ、前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4のマウスに対する前記有効投与量が、50mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日であるサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項6】
前記サルコペニアが急性サルコペニアである請求項5に記載のサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項7】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の凍乾末を有効成分として含むサルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号がNITE BP-03317であり、サルコペニア被験者に対して少なくとも14日間連続投与することで、前記サルコペニア被験者の筋肉減少量を緩和するサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項8】
前記経口組成物を連続投与して前記サルコペニア被験者の筋力を増加する、請求項7に記載のサルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項9】
前記経口組成物を投与してサルコペニア被験者の筋肉持久性を増加する請求項7に記載のサルコペニアの改善用の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルコペニアの改善用の経口組成物に関し、特に、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む、サルコペニアの改善用の経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サルコペニア(sarcopenia)は持続的で全身性の骨格筋の筋肉量及び筋肉機能の減りのことであり、患者の活動力及び生活の質の低下が伴い、失能や転倒のリスクも増加する。その次、筋肉がヒトタンパク質貯蔵及び/又は血糖代謝に関わるため、サルコペニアは、他の慢性疾患(例えば、糖尿病)を増加させることがある。
【0003】
サルコペニアは、急性サルコペニア及び慢性サルコペニアに細分することもでき、急性サルコペニアは、急性疾患、急性損傷及び/又は高齢の入院患者によく見られ、これらの患者は、筋肉廃用(disuse)に起因して筋肉の恒常性の不均衡を引き起こし、その結果、筋肉合成量は減少するが、筋肉分解量は増加するようになる。急性サルコペニアは、患者の術後炎症のリスクを増加させ、回復期及び/又は入院期を延長させるだけでなく、急性臓器機能の喪失、呼吸不全及び/又は死亡を招く可能性がある。次に、急性サルコペニアは慢性サルコペニアに発展し、個体の回復後の生活の質に影響する可能性もある。
【0004】
サルコペニアの原因は、原発性原因と継発性原因とに分けられ、このうち原発性原因には老化による筋肉の減少が含まれる。継発性原因には、疾患(例えば、臓器不全、悪性腫瘍、骨関節炎)、活動の減少(例えば、座りっぱなしで動かなく、疾患による活動障害又は障害)、及び栄養失調(例えば、栄養摂取不足、栄養吸収不良、食欲不振、栄養過剰、及び/又は肥満)が含まれる。現在、サルコペニアは薬物でコントロールできず、運動、慢性疾患のコントロール、炎症症状の改善及び/又は特定の栄養補給により、サルコペニアを緩和又は改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、サルコペニアを改善するように、サルコペニアの改善用の経口組成物が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明の一態様は、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)GKP4を含むことで、被験者の筋肉減少量を緩和するサルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。
【0007】
本発明の別の態様は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の成人に対する有効投与量が、例えば、240mg/60kg体重/日~4800mg/60kg体重/日であってもよいサルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。
【0008】
本発明の別の態様は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4のマウスに対する有効投与量が、例えば、50mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日であってもよいサルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。
【0009】
本発明の更に1つの態様は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の凍乾末を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、サルコペニア被験者に対して少なくとも14日間連続投与することで、サルコペニア被験者の筋肉減少量を緩和する、サルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。
【0010】
本発明の上記の態様によれば、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、サルコペニア被験者に対して一定時間連続投与することで、サルコペニア被験者の筋肉減少量を緩和する、サルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。このペディオコッカス・ペントサセウスGKP4は、例えば、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機関(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託されてもよく、受託番号がNITE BP-03317である。本発明の一実施例によれば、上記の期間は、例えば、少なくとも14日間であってもよい。
【0011】
本発明の別の態様によれば、経口組成物は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号が、例えば、NITE BP-03317であってもよく、且つ、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の成人に対する有効投与量が、例えば、240mg/60kg体重/日~4800mg/60kg体重/日であってもよい。本発明の一実施例によれば、サルコペニアは、例えば、急性サルコペニアであってもよい。本発明の別の態様によれば、経口組成物は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号が、例えば、NITE BP-03317であってもよく、且つ、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4のマウスに対する有効投与量が、例えば、50mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日であってもよい。本発明の一実施例によれば、サルコペニアは、例えば、急性サルコペニアであってもよい。
【0012】
本発明の更に1つの態様によれば、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の凍乾末を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号が、例えば、NITE BP-03317であってもよく、サルコペニア被験者に対して少なくとも14日間連続投与することで、サルコペニア被験者の筋肉減少量を緩和するサルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。
【0013】
本発明の一実施例によれば、経口組成物を連続投与してサルコペニア被験者の筋力を増加する。本発明の一実施例によれば、経口組成物を投与してサルコペニア被験者の筋肉持久性を増加する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のサルコペニアの改善用の経口組成物を適用し、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物が被験者に投与された後、被験者の筋肉量、筋力及び/又は筋肉持久性を増加することができるので、サルコペニアを改善することができる。
本発明の上記及び他の目的、特徴、メリットと実施例をより分かりやすくするために、添付図面の詳細な説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例による異なる群のマウスの後肢のヒラメ筋の相対重量を示す棒グラフである。
【
図2】本発明の一実施例による異なる群のマウスの後肢の腓腹筋の相対重量を示す棒グラフである。
【
図3】本発明の一実施例による異なる群のマウスの握力を示す棒グラフである。
【
図4】本発明の一実施例による異なる群のマウスの電撃回数を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で言及される単数形の「一」、「一つ」、及び「前記」は、上下文で特に明確に指定されない限り、複数引用を含む。数値範囲(例えば10%~11%のA)は、特定の説明がない限り、上下限値(すなわち10%≦A≦11%)を含み、数値範囲は下限値(例えば、0.2%より低いB、又は0.2%以下のB)が定義されていない場合、その下限値が0(すなわち、0%≦B≦0.2%)である可能性があることを意味する。上記用語は、本発明を説明及び理解するために使用され、本発明を限定するために使用されない。
【0017】
前に述べたように、本発明は、有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)GKP4を有効成分として含んでよいが、これに限定されず、これで被験者の筋肉減少量を緩和するサルコペニアの改善用の経口組成物を提供する。
【0018】
一実施例において、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4(菌株GKP4ともいう)が2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機関(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary,住所:日本千葉県木更津市上かずさ鎌足2-5-8 122号室,郵便番号:292-0818)に寄託され、受託番号がNITE BP-03317である。ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4はまた、2019年3月6日に台湾食品工業発展研究所生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center,BCRC,住所:台湾新竹市東区食品路331号,郵便番号:30062)に寄託され、受託番号がBCRC 910879である。
【0019】
一実施例において、経口組成物は、例えば、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の凍乾末を含んでよい。一実施例において、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の凍乾末は、例えば、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4に対して発酵培養工程、固液分離工程、乾燥工程及び研磨工程を行うことで得られたものであってもよい。上記の発酵培養工程は、例えば、35℃~45℃でペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を培養液に15時間~24時間にも培養するものであってもよく、培養液が市販のMRS培養液であり、そのpH値が例えば6.5±0.2であってもよい。上記の固液分離工程は、従来の方法、例えば、遠心処理及び/又は濾過工程で行ってよい。上記の乾燥工程は、従来の除水処理方法、例えば、冷凍乾燥法、真空乾燥法又は噴霧乾燥法で行ってよい。上記の研磨工程は、従来の研磨方法、例えば、機械力研磨法、ドラム式研磨法及び流動ガス研磨法で行ってよい。
【0020】
上記経口組成物の剤形は、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含んでいれば特に限定されない。一実施例において、経口組成物の剤形は、例えば、水溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン(単一相又は多相分散系、単層又は多重層リポソーム)、ヒドロゲル、ゲル、固体脂質ナノ粒子、トローチ剤、顆粒剤、粉末剤、及び/又はカプセル剤などであってもよい。一実施例において、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物は、食品又は薬学的に許容可能な担体、賦形剤、希釈剤、補助剤及び/又は添加剤を選択的に含んでもよく、例えば、溶媒、乳化剤、懸濁化剤、崩壊剤、結合剤、安定化剤、キレート剤、希釈剤、ゲル化剤、防腐剤、潤滑剤及び/又は吸収遅延剤などであってもよい。
【0021】
上記経口組成物の投与量及び投与回数は限定されないが、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効投与量にすればよい。一実施例において、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4のマウスに対する有効投与量は、例えば、50mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日であってもよい。一具体例において、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4のマウスに対する有効投与量は、500mg/kg体重/日である。一実施例において、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の成人に対する有効投与量は、例えば、240mg/60kg体重/日~4800mg/60kg体重/日であってもよい。有効投与量が上記範囲内にあると、経口組成物によるサルコペニアの改善効能は優れている。有効投与量が上記範囲より大きいと、製造コストが上昇した場合、サルコペニアの改善効能は顕著に向上していない。
【0022】
マウス及び成人に対する有効投与量の換算については、2005年にアメリカ食品医薬品局が公表した実験初期の推定方法(Estimating the maximum safe starting dose in initial clinical trials for therapeutics in adult healthy volunteers)を参照されたい。それは、ヒトの毎日の体重当たりの推奨摂取量(kg体重/日)の12.3倍をマウスの1倍投与量として換算する。一実施例において、経口組成物は、例えば、少なくとも14日間、例えば14日間~30日間に被験者に対して連続投与された後、サルコペニアを改善することができる。一実施例において、経口組成物の毎日の投与回数は限定されず、例えば1日1回であってもよい。
【0023】
前述した「サルコペニア」は、2018年のヨーロッパサルコペニアワーキング群2(European Working Group on Sarcopenia in Older People 2,EWGSOP2)による定義を参酌することができ、サルコペニアの判断指標は、被験者の筋力(例えば握力)、筋肉量(例えば、四肢骨格筋の質)及び体力表現(例えば400m歩行実験)を含む。被験者の筋肉量及び体力表現は標準に適合するが筋力は標準を下回る時、被験者は「可能なサルコペニア(probable sarcopenia)」にかかっていると判断される。被験者の体力表現は標準に適合するが筋力及び筋肉量は標準を下回る時、被験者は「サルコペニア(sarcopenia)」にかかっていると判断される。被験者の筋力、筋肉量及び体力表現は標準を下回る時、被験者は「重症サルコペニア(severe sarcopenia)」にかかっていると判断される。その次、EWGSOP2の定義によると、6ヶ月以内に被験者の筋力及び/又は筋肉量が大幅に低下した場合には、被験者は急性サルコペニアにかかると判断され、逆に慢性サルコペニアにかかると判断される。
【0024】
動物実験により、マウスの後肢を石膏で1週間固定処理した後、マウスの後肢のヒラメ筋及び腓腹筋の筋肉量及びマウスの前肢の握力が著しく低下したことが実証され、マウスに固定誘導(immobilization-induced)された急性筋萎縮が実証され、急性サルコペニアの動物モデルとすることができる。次に、トレッドミル実験において、石膏で固定処理されたマウスが受ける電撃回数が上昇し、石膏固定処理がマウスの筋肉持久性をさらに低下させ、マウスの体力表現を低下させることが実証され、重症サルコペニアの動物モデルとすることができる。
【0025】
上記した「サルコペニアを改善する」とは、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物が投与された被験者は、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物が投与されていない被験者と比較して、被験者の筋肉減少量を緩和することができることをいう。言い換えれば、実験者の筋肉量、筋力及び筋肉持久性は増加する。動物実験により、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物が投与された石膏で固定処理されたマウスは、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物が投与されていない石膏で固定処理されたマウスと比較して、後肢のヒラメ筋が20%~25%増加し、腓腹筋が5%~10%増加し、前肢の握力が15%~20%増加し、且つ、トレッドミル実験において、マウスの受けた電撃回数が80%~85%減少しており、ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を含む経口組成物は、サルコペニアを改善する効能を有することが実証された。
【0026】
以下、いくつかの実施例を用いて本発明の応用を説明するが、これらは本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更や修正を加えることができる。
実施例1 菌株の供給源及び調製
【0027】
本発明で使用する菌株GKP4は、台湾花蓮で市販されている自然発酵させた酸唐辛子漬物から分離されたものである。その分離方法として、上記の酸唐辛子漬物を希釈及び均質化して均質液を得た。次に、均質液をMan Rogosa and Sharp(MRS)培養液に接種し、37℃で16時間培養し、弱酸(pH6.5±0.2)環境に好んで生育する菌種(乳酸菌を含む)を選別し、乳酸菌培養液を得た。その後、乳酸菌培養液を希釈して5種類の固形培地[MRS培地寒天、ビフィズス菌培地(bifidobacterium iodoacetate medium-25,BIM-25)寒天、馬鈴薯デンプン及び酵母エキスを含む寒天、ブロモクレゾールグリーンMRS培地寒天及びブロモクレゾールパープルMRS培地寒天を含む]のぞれぞれに塗布し、37℃で40時間培養したところ、複数の分離したコロニーが得られ、そのうちの1つは菌株GKP4であった。
【0028】
菌株GKP4のDNAを精製し、遺伝子シークエンシングを行って、配列番号(SEQ ID NO):1で示されるように、菌株GKP4の16s rRNA遺伝子の核酸断片配列を得た。配列アラインメント後、菌株GKP4がペディオコッカス・ペントサセウスであると同定した。DNAの精製、遺伝子シークエンシング及び配列アラインメントは、従来の方法を用いて行われ、後続の菌株GKP4によるサルコペニアの改善効能の評価に影響を与えないので、ここで別に説明しない。
【0029】
ペディオコッカス・ペントサセウス菌株GKP4は、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機関(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託され、受託番号がNITE BP-03317である。ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4はまた、2019年3月6日に台湾食品工業発展研究所生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center,BCRC)に寄託され、受託番号がBCRC 910879である。
【0030】
菌株GKP4をMRS培養液に接種し、37℃で発酵工程を16時間行って発酵物を得た。次に、上記の発酵物を10000rpmの速度で遠心分離を行って、菌泥を得た。次に、菌泥と脱脂粉乳20重量比(wt%)を混合し、凍結乾燥を行いGKP4の凍乾粉を得た。冷凍乾燥は、従来の方法を用いて行われ、その後の評価に影響を与えず、ここで別に説明しない。
実施例2 筋萎縮動物モデルの構築
【0031】
4週間齢、体重24g~26gのC57BL/6マウス(以下、単にマウスと呼ぶ)を使用して、筋萎縮動物モデルを構築した。本実験は、動物倫理委員会3R(代替、削減、改善(Replacement,Reduction,Re-finement))の原則に従う。マウスは動物室で飼育され、動物室の温度が22℃±2℃に制御され、湿度が55%~65%に制御され、毎日の7時~19時が光照射期間であり、19時~翌日7時が暗闇期間であるように制御された。
【0032】
まず、マウスを動物室の環境、握力計(製品名:Grip Strength Meter;GSM;カタログ番号:Cat.No.47200;製造者:Ugo Basile,ジェモーニオ,イタリア)及びトレッドミル(製品名:小動物トレッドミル;カタログ番号:Cat.No.47300;製造者:Ugo Basile)に適応させるために、マウスを動物室に1週間飼育した。次に、マウスを、実験群、対照群及びブランク群の3群にランダムに分け、各群が5匹ずつのマウスとした。
【0033】
筋萎縮を誘導するために、実験群及び対照群のマウスに対して石膏固定処理を7日間行った。次に、石膏を取り外し、実験群及び対照群のマウスを7日間自由に活動可能にした。ブランク群のマウスは、14日間自由に活動可能にした。石膏固定処理及び自由活動の期間中(合計14日間)に、実験群のマウスに、GKP4凍乾粉を含む水溶液であるGKP4経口組成物を毎日投与した。なお、実験群のマウスに500mg/kg体重/日のGKP凍乾粉を経管投与するように、GKP4経口組成物の濃度は適宜調整されるが、GKP4経口組成物の体積上限が10mL/kg体重/日であるように制御された。
【0034】
次に、握力計及びトレッドミルを用いて握力テスト及びトレッドミル実験を行って、マウスの筋力及び筋肉持久性を評価した。次に、マウスを犠牲にして、マウスの体重、及びマウスの後肢のヒラメ筋及び腓腹筋の重量を測定することにより、マウスの筋肉量を評価した。
実施例3 GKP4経口組成物によるマウスの筋肉量への影響の評価
【0035】
マウスの後肢のヒラメ筋の重量のマウスの体重に対する比を計算して、ヒラメ筋の相対重量を得た。
図1は、本発明の一実施例による異なる群のマウスの後肢のヒラメ筋の相対重量を示す棒グラフであり、横軸は異なる群であり、縦軸はヒラメ筋の相対重量(単位:mg/g体重)である。
図1に示すように、対照群のマウスはブランク群のマウスに比べて後肢のヒラメ筋の相対重量が低く、石膏固定処理は、固定誘導された筋萎縮を模倣できることが実証された。しかし、実験群のマウスの後肢のヒラメ筋の相対重量が対照群に比べて0.06mg(23%増加に相当)高くなり、石膏固定処理されたマウスの筋肉量は、GKP4経口組成物が連続投与されてから増加できることが実証された。
【0036】
次に、マウスの後肢の腓腹筋の重量のマウスの体重に対する比を算出して、腓腹筋の相対重量を得た。
図2は本発明の一実施例による異なる群のマウスの後肢の腓腹筋の相対重量を示す棒グラフであり、横軸は異なる群であり、縦軸は腓腹筋の相対重量(単位:mg/g体重)であり、記号「*」は、チューデントのt検定がされた後、対照群と比較して統計的に顕著な差(p<0.05)があることを示す。
図2に示すように、対照群のマウスはブランク群のマウスに比べて後肢の腓腹筋の相対重量が低く、石膏固定処理は、固定誘導された筋萎縮を模擬できることが実証された。しかし、実験群のマウスの後肢の腓腹筋の相対重量は、対照群のマウスより顕著に高くなり(0.35mg増加、7%増加に相当)、石膏固定処理されたマウスの筋肉量は、GKP4経口組成物が連続投与されてから増加できることが実証された。
実施例4 GKP4経口組成物によるマウスの筋力への影響の評価
【0037】
マウスの前肢の握力を測定するために、上記の握力計を用いて握力テストを行った。操作方法は、マウスの前肢にプルリングを把持させ、マウスの尻尾末端を手で把持した後、マウスが前肢をほぐすまで水平方向に後方に引っ張る。握力を3回連続測定し、最大値を取って統計を行った。
【0038】
図3は本発明の一実施例による異なる群のマウスの握力を示す棒グラフであり、横軸は異なる群であり、縦軸は握力(単位:グラムフォース、gram-force,gf)であり、記号「*」は、チューデントのt検定がされた後、統計的に顕著な差(p<0.05)があることを示す。
図3に示すように、対照群のマウスはブランク群のマウスに比べて握力が低下し、石膏固定処理は、固定誘導された筋萎縮を模擬できることが実証された。しかし、実験群のマウスの握力は、対照群のマウスより顕著に高くなり(16.8gf増加、17%増加に相当)、石膏固定処理されたマウスの筋力は、GKP4経口組成物が連続投与されてから増加できることが実証された。
実施例5 GKP4経口組成物によるマウスの筋肉持久性への影響の評価
【0039】
トレッドミル実験を用いてマウスの筋肉持久性を測定した。操作方法は、マウスをトレッドミルに置き、このトレッドミルのコンベアベルトが上向きに傾斜しており、且つコンベアベルトが18m/分~20m/分の速度で下向きに搬送される。次に、トレッドミルの底部に電撃感知装置が取り付けられ、マウスが電撃感知装置に触れると、電撃感知装置はマウスに電撃を与える。一般に、マウスは、電撃を回避するために上へ這い上がるが、マウスの筋肉持久性が不十分である場合、コンベアベルトの速度を克服できずトレッドミルの底部まで搬送され、電撃を受ける。
【0040】
図4は本発明の一実施例による異なる群のマウスの電撃回数を示す棒グラフであり、横軸は異なる群であり、縦軸は電撃回数であり、記号「*」は、チューデントのt検定がされた後、対照群と比較して統計的に顕著な差(p<0.05)があることを示す。
図4に示すように、対照群のマウスは、ブランク群のマウスに比べて、電撃を受ける電撃回数の上昇が高く、石膏固定処理により筋肉持久性の低下を招くことが実証された。しかし、実験群のマウスが受けた電撃回数は、対照群のマウスより顕著に少なくなり(453回数減少、82.5%低下に相当)、石膏固定処理されたマウスの筋肉持久性は、GKP4経口組成物が連続投与されてから増加できることが実証された。
【0041】
上記に示すように、石膏固定処理されたマウスは、ヒラメ筋及び/又は腓腹筋の相対重量が低下し(
図1及び
図2)、握力が低下し(
図3)、トレッドミル試験において、このマウスの受けた電撃回数が上昇した(
図4)。しかし、GKP4経口組成物が投与された石膏固定処理されたマウスは、GKP4経口組成物が投与されていない石膏固定処理されたマウスに比べて、ヒラメ筋及び/又は腓腹筋の相対重量が高く(
図1及び
図2)、握力が高く(
図3)、トレッドミル試験においてマウスの受けた電撃回数が低下した(
図4)。以上の結果から実証されるように、GKP4経口組成物は、固定誘導された筋萎縮の筋肉減少量を改善でき、サルコペニアを改善する効能を有することが確認され、このサルコペニアは急性サルコペニアである可能性がある。
【0042】
総括すると、上記特定の剤形、特定の製造プロセス、特定の用量、特定の投与方式、特定の動物モデル及び特定の評価方法は、本発明のサルコペニアの改善用の経口組成物を例示的に説明するためのものに過ぎない。しかし、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、他の剤形、他の製造プロセス、他の投与量、他の投与方式、他の動物モデル及び他の評価方法も本発明のサルコペニアの改善用の経口組成物を説明するために使用してよもく、上記に限定されないことを理解すべきである。例えば、サルコペニアの改善用の経口組成物の効能に影響を与えない限り、他の剤形、他の製造プロセス、他の用量、他の投与方式、他の動物モデル及び他の評価方法を用いてもよい。
【0043】
本発明は、複数の特定の実施例で上述したように開示されているが、上述した開示内容に様々な修正、変更、及び置換を加えることができ、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、本発明の実施例の特定の特徴を採用するが、他の特徴を対応的に採用しない場合があることを理解すべきである。したがって、本発明の精神と特許請求の範囲は、上記の例示的な実施例の記載に限定されるべきではない。
【0044】
[生物材料の寄託]
ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)GKP4は、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機関(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary、住所:日本千葉県木更津市上かずさ鎌足2-5-8 122号室,郵便番号:292-0818)に寄託され、受託番号がNITE BP-03317である。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)GKP4を有効成分として含み、急性サルコペニアを有する被験者に対して一定期間連続投与することで、前記急性サルコペニアを有する被験者の筋肉減少量を緩和する急性サルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4が2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機関(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託され、受託番号がNITE BP-03317である急性サルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項2】
前記期間が少なくとも14日間である請求項1に記載の急性サルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項3】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含む急性サルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号がNITE BP-03317であり、且つ、前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の急性サルコペニアを有する成人に対する前記有効投与量が、240mg/60kg体重/日~4800mg/60kg体重/日である急性サルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項4】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4を有効成分として含む急性サルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号がNITE BP-03317であり、且つ、前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の急性サルコペニアを有するマウスに対する前記有効投与量が、50mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日である急性サルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項5】
有効投与量のペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の凍乾末を有効成分として含む急性サルコペニアの改善用の経口組成物であって、
前記ペディオコッカス・ペントサセウスGKP4の受託番号がNITE BP-03317であり、急性サルコペニアを有する被験者に対して少なくとも14日間連続投与することで、前記急性サルコペニアを有する被験者の筋肉減少量を緩和する急性サルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項6】
前記経口組成物を連続投与して前記急性サルコペニアを有する被験者の筋力を増加する、請求項5に記載の急性サルコペニアの改善用の経口組成物。
【請求項7】
前記経口組成物を投与して急性サルコペニアを有する被験者の筋肉持久性を増加する請求項5に記載の急性サルコペニアの改善用の経口組成物。