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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073992
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】バラストタンクの排水構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 11/04 20060101AFI20230519BHJP
   B63B 11/02 20060101ALI20230519BHJP
   B63B 3/58 20060101ALI20230519BHJP
   B63B 3/20 20060101ALI20230519BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20230519BHJP
   B63B 3/34 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B63B11/04
B63B11/02
B63B11/04 Z
B63B3/58
B63B3/20
B63B13/00 Z
B63B3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179810
(22)【出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021186411
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(74)【代理人】
【識別番号】100091649
【弁理士】
【氏名又は名称】初瀬 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】篠田 岳思
(72)【発明者】
【氏名】中森 隆一
(72)【発明者】
【氏名】小畑 英郎
(72)【発明者】
【氏名】黒木 賢二
(57)【要約】      (修正有)
【課題】通水孔の数及び開口面積を減らしても、残留バラスト水の排水時間が著しく長くならないバラストタンクの排水構造を提供する。
【解決手段】3列または4列の船幅方向小区画室列20Wa~20Wd中に含まれる複数の小区画室19にそれぞれ面する複数の縦フレーム材17及び複数のガーダ材11並びに複数のフロア材13の各部分に設けられる複数の通水孔25の合計開口面積は、吸込口21が設けられた小区画室を中心にして所定の領域内の複数の小区画室においては、吸込口が設けられた小区画室を中心にしてこの小区画室から離れるに従って小さくなり、船幅方向小区画室列20Wa~20Wd以外の船幅方向小区画室列20Wf~20Whの一部または全部の船幅方向小区画室列の複数の小区画室の一部または全部の小区画室に面するガーダ材及び縦フレーム材の各部分には、通水孔25Lが設けられていない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船底外板と内底板との間に形成されるバラストタンク内に、前記船底外板上に船体の船長方向に延び且つ前記船長方向と直交する船幅方向に間隔をあけて設けられた複数のガーダ材と、前記船底外板上に前記複数のガーダ材と交差し且つ前記バラストタンク内を前記船幅方向に延び且つ前記船長方向に間隔をあけて設けられた複数のフロア材とが、前記船底外板と前記内底板との間に格子状の複数の大区画室を形成するように配置され、前記複数の大区画室内の前記船底外板上には前記船長方向に延び且つ前記船幅方向に間隔をあけてなる複数の縦フレーム材が配置され、前記複数の大区画室内のそれぞれの船底側領域に、前記複数の縦フレーム材によって前記船幅方向Wに仕切られた複数の小区画室が形成されてなる板骨構造と、
1つの前記大区画室内の少なくとも1つの前記小区画室に対して設けられた少なくとも1つの吸込口と、
前記複数のガーダ材及び前記複数のフロア材に設けられて、前記複数の大区画室間でバラスト水を流通させる複数の流水孔と、
前記複数のガーダ材、前記複数のフロア材または前記複数の縦フレーム材に設けられて、前記複数の大区画室内の前記複数の小区画室内に残る残留バラスト水を、前記少なくとも1つの吸込口が設けられる前記少なくとも1つの小区画室に導く複数の通水孔とを備えて、前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラストタンクの排水構造であって、
前記板骨構造は、前記複数の小区画室が前記船幅方向に直列に並んで構成される複数の船幅方向小区画室列が、前記船長方向に複数並んで構成されており、
前記複数の船幅方向小区画室列のうち、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列を含んで前記船長方向の船尾側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる前記複数の通水孔は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室に前記残留バラスト水が流通するように設けられており、
複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる前記複数の通水孔は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室に対して設けられる前記複数の通水孔の合計開口面積が最大合計開口面積となり、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室から離れるに従って合計開口面積が小さくなるように設けられており、
前記複数の船幅方向小区画室列のうち、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列よりも前記船長方向の船首側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる1以上の前記通水孔は、該複数の小区画室に面する前記ガーダ材及び前記縦フレーム材の各部分には設けられていないことを特徴とするバラストタンクの排水構造。
【請求項2】
船舶の船底外板と内底板との間に形成されるバラストタンク内に、前記船底外板上に船体の船長方向に延び且つ前記船長方向と直交する船幅方向に間隔をあけて設けられた複数のガーダ材と、前記船底外板上に前記複数のガーダ材と交差し且つ前記バラストタンク内を前記船幅方向に延び且つ前記船長方向に間隔をあけて設けられた複数のフロア材とが、前記船底外板と前記内底板との間に格子状の複数の大区画室を形成するように配置され、前記複数の大区画室内の前記船底外板上には前記船長方向に延び且つ前記船幅方向に間隔をあけてなる複数の縦フレーム材が配置され、前記複数の大区画室内のそれぞれの船底側領域に、前記複数の縦フレーム材によって前記船幅方向Wに仕切られた複数の小区画室が形成されてなる板骨構造と、
1つの前記大区画室内の少なくとも1つの前記小区画室に対して設けられた少なくとも1つの吸込口と、
前記複数のガーダ材及び前記複数のフロア材に設けられて、前記複数の大区画室間でバラスト水を流通させる複数の流水孔と、
前記複数のガーダ材、前記複数のフロア材または前記複数の縦フレーム材に設けられて、前記複数の大区画室内の前記複数の小区画室内に残る残留バラスト水を、前記少なくとも1つの吸込口が設けられる前記少なくとも1つの小区画室に導く複数の通水孔とを備えて、前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラストタンクの排水構造であって、
前記板骨構造は、前記複数の小区画室が前記船幅方向に直列に並んで構成される複数の船幅方向小区画室列が、前記船長方向に複数並んで構成されており、
前記複数の船幅方向小区画室列のうち、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列を含んで前記船長方向の船尾側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列と該複数の船幅方向小区画室列に対して船首側に並ぶ1つの前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる前記複数の通水孔は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室に前記残留バラスト水が流通するように設けられており、
複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる前記複数の通水孔は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室に対して設けられる前記複数の通水孔の合計開口面積が最大合計開口面積となり、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室から離れるに従って合計開口面積が小さくなるように設けられており、
前記複数の船幅方向小区画室列のうち、複数の船幅方向小区画室列に対して船首側に並ぶ1つの前記船幅方向小区画室列よりも前記船長方向の船首側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる1以上の前記通水孔は、該複数の小区画室に面する前記ガーダ材及び前記縦フレーム材の各部分には設けられていないことを特徴とするバラストタンクの排水構造。
【請求項3】
前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列を含んで前記船長方向の船尾側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列が、2列以上ある請求項1または2に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項4】
前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列に含まれる前記複数の小区画室に対してそれぞれ設けられる前記複数の通水孔のそれぞれの合計開口面積は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室から離れるに従って段階的に小さくなる請求項1または2に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項5】
前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列と前記船長方向の船尾側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる複数の前記通水孔のそれぞれの合計開口面積は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列中の前記複数の小区画室に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる複数の前記通水孔のそれぞれの合計開口面積よりも段階的に小さくなる請求項3に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項6】
前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列と前記船長方向の船尾側に並ぶ複数の前記船幅方向小区画室列に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる複数の前記通水孔のそれぞれの合計開口面積は、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船幅方向小区画室列中の前記複数の小区画室に含まれる複数の前記小区画室に対して設けられる複数の前記通水孔のそれぞれの合計開口面積よりも段階的に小さくなる請求項4に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項7】
前記船幅方向小区画室列に含まれる前記複数の小区画室に面するフロア材に設けられる前記通水孔の合計開口面積は、前記複数の小区画室が前記船長方向に直列に並んで構成される複数の船長方向小区画室列のうち、前記少なくとも1つの吸込口が設けられた前記小区画室を含む前記船長方向小区画室列にある基準となる小区画室に面する前記フロア材に設けられる前記通水孔の合計開口面積を最大合計開口面積として前記基準となる小区画室から離れると前記最大合計開口面積よりも小さくなる請求項1に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項8】
前記1つの船幅方向小区画室列に含まれる前記複数の小区画室のうちの隣接する2つ以上の小区画室にそれぞれ前記吸込口が設けられている請求項1または2に記載のバラストタンクの排水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船底外板と内底板との間に形成されるバラストタンクの底部領域から残留バラスト水を排水するバラストタンクの排水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の荷役時における、バラストタンクの底部領域から残留バラスト水の排水に要する時間は、荷主や海上輸送を担う海運会社の収益に関わる重要課題である。
【0003】
仮に、排水時間が一定時間を越えると、荷役時間が増大、つまり港湾占拠時間が増大し港湾から改善を要求され、海運会社にとって非常に重大な問題となるリスクがある。また、バラストタンク内の残水量が多い場合には、所定の貨物量を積載できなくなる場合もあり、荷主にとっても利益を逸失する要因にもなる。
【0004】
しかし、短時間に排水を終え、また、バラストタンク内の最終残水量を最小にするほど、上記のようなリスクは最小化され、船舶の価値の向上にも繋がる。このような問題を解消するために、残留バラスト水を排出する構造上の工夫の一例として、実開昭54-66390号公報(特許文献1)には、バラストタンク内の船底外板に設けたフロアプレートの下辺部の中央に、船底外板に達する切り欠き部を設けて、この切り欠き部から残留バラスト水を排水する発明が開示されている。また特開2010-120469号公報(特許文献2)には、船底外板に設けた複数のロンジの下部に数個の通水孔を形成し、この通水孔からバラスト水を船側から船体中心線方向に流す構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭54-66390号公報
【特許文献2】特開2010-120469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来は、残留バラスト水を排水するための時間を短縮化するために、残留バラスト水を通す通水孔の形状や数を単純に検討しているだけで、加工作業にかかる手間と時間を削減するために通水孔の数を減らしても、残留バラスト水を排水するための時間が実質的に長くなることがないようにすることについては十分な検討がなされていなかった。
【0007】
本発明の目的は、通水孔の数を減らしても、バラストタンクから残留バラスト水を排水する時間を大幅に長くすることがないバラストタンクの排水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の説明では、理解を容易にするために、図面に記載の符号を付して説明する。なお図面の符号の付記は、本発明を実施の形態に限定するものではない。
【0009】
(第1及び第2の発明の構成)
本出願の第1及び第2の発明が対象とするバラストタンク内のバラスト水を排水するバラストタンクの排水構造では、船舶の船底外板3と内底板5との間に形成されるバラストタンク1内に板骨構造を備えている。板骨構造は、船底外板3上に船体の船長方向Lに延び且つ船長方向と直交する船幅方向Wに間隔をあけて設けられた複数のガーダ材11と、船底外板3上に複数のガーダ材11と交差し且つバラストタンク1内を船幅方向Wに延び且つ船長方向Lに間隔をあけて設けられた複数のフロア材13とが、船底外板3と内底板5との間に格子状の複数の大区画室15A~15Pを形成するように配置されている。そして複数の大区画室内の船底外板上には船長方向に延び且つ船幅方向に間隔をあけてなる複数の縦フレーム材17が配置され、複数の大区画室15A~15P内のそれぞれの船底側領域に、複数の縦フレーム材17によって船幅方向Wに仕切られた複数の小区画室19が形成されている。そして排水構造は、1つの大区画室15A~15P内の少なくとも1つの小区画室19に対して設けられた少なくとも1つの吸込口21と、複数のガーダ材11及び複数のフロア材13に設けられて、複数の大区画室間でバラスト水を流通させる複数の流水孔23と、複数のガーダ材11、複数のフロア材13または複数の縦フレーム材17に設けられて、複数の大区画室15A~15P内の複数の小区画室19内に残る残留バラスト水を、少なくとも1つの吸込口21が設けられる少なくとも1つの小区画室に導く複数の通水孔25W,25Lとを備えている。板骨構造は、複数の小区画室19が船幅方向に直列に並んで構成される複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whが、船長方向Lに複数並んで構成されている。
【0010】
第1の発明においては、複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whのうち、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcを含んで船長方向の船尾側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25W,25Lが、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19に残留バラスト水が流通するように設けられている。また複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25W,25Lは、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25の合計開口面積が最大合計開口面積となり、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19から離れるに従って合計開口面積が小さくなるように設けられている。そして複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whのうち、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcよりも船長方向の船首側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wd~20Whに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる1以上の通水孔25Wは、該複数の小区画室19に面するガーダ材11及び縦フレーム材17の各部分には設けられていない。
【0011】
なお本願明細書において「合計開口面積」とは、1つの小区画室に対して設けられた複数の通水孔25W,25Lのそれぞれの開口面積を合計したものである。また「最大合計開口面積」とは、複数の小区画室19の複数の合計開口面積の中で最大となるものである。さらに本願明細書において、「少なくとも1つの吸込口が設けられた小区画室から離れるに従って合計開口面積が小さくなる」とは、連続的に小さくなる場合及び段階的に小さくなる場合の両方を含むものである。「段階的に小さくなる場合」とは、1つの小区画室毎に合計開口面積が小さくなる場合の他に、連続する2つ又は3つの小区画室毎に合計開口面積が小さくなる場合を含むことを意味する。また「合計開口面積が小さくなる」程度は、「少なくとも1つの吸込口が設けられた小区画室」と対象となる小区画室との間の距離に比例する必要はなく、実験で定めればよい。
【0012】
また本願明細書において、『複数の船幅方向小区画室列に含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25Wが、該複数の小区画室19に面するガーダ材11及び縦フレーム材17の各部分には設けられていない。』とは、『実質的にも設けられていない』の意味で解釈されるべきものである。従って形式的に特許権の文言侵害を迂回する目的のためだけに、本発明と実質的に同様の効果が得られるにもかかわらず、通水孔が設けられないとされるガーダ材11及び縦フレーム材17の一部に通水孔に相当すると主張しようとする孔を設けたものは、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0013】
また第2の発明では、複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whのうち、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcを含んで船長方向の船尾側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcと該複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcに対して船首側に並ぶ1つの船幅方向小区画室列20Wdに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25W,25Lは、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19に残留バラスト水が流通するように設けられている。また複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wdに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25W,25Lは、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25W,25Lの合計開口面積が最大合計開口面積となり、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19に対して設けられた通水孔25W,25Lから離れるに従って合計開口面積が小さくなるように設けられる。そして複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whのうち、複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcに対して船首側に並ぶ1つの前記船幅方向小区画室列20Wdよりも船長方向の船首側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20We~20Whに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25Wは、該複数の小区画室19に面するガーダ材11及び縦フレーム材17の各部分には設けられていない。
【0014】
第1及び第2の発明によれば、通水孔25W,25Lの数を減らしても、バラストタンクから残留バラスト水を所望の時間内で排水できるという効果を得ることができる。通水孔25の数を減らすことができれば、通水孔25W,25Lを形成するための作業が減るだけでなく、通水孔25W,25Lの内面の塗装作業も減らすことができる。また通水孔25W,25Lの存在が溶接作業の障害になる割合を減らすことができる利点が得られる。
【0015】
(実験からの知見)
第1及び第2の発明は、実験結果に基づくものであり、実験結果からは、概ね次のことが判った。
【0016】
a)吸込口21に近い領域では、船幅方向に位置する複数の小区画室19に対して設けられる通水孔25W,25Lを通して残留バラスト水を吸込口21に導入するほうが、排水効果が高い。
【0017】
b)吸込口21から遠く離れた領域にある各小区画室19に対して設ける通水孔25W,25Lの合計開口面積を単純に大きくしても、排水効果に大きな影響がない。
【0018】
c)吸込口21から遠く離れた領域にある各小区画室19からは船長方向小区画室列20La~20Lhに並ぶ通水孔25Lを通して吸水口21がある領域に導くことが、排水に効果的である。
【0019】
これらの知見から、発明者は、第1の発明及び第2の発明を見いだした。上記第1の発明は、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcを含んで船長方向の船尾側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wc中の複数の小区画室19を最大合計開口面積に対して合計開口面積を変化させる対象とした。これに対して第2の発明ではさらに船尾側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcに加えて船首側に並ぶ1つの船幅方向小区画室列20Wdに含まれる複数の小区画室19も最大合計開口面積に対して合計開口面積を変化させる対象としている。第1の発明と比べて第2の発明のほうが、通水孔25W,25Lの数は増えるが、排水時間は短くなる。
【0020】
第1及び第2の発明において、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcを含んで船長方向の船尾側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wcは、2列以上であるのが好ましい。これは残留バラスト水を排水する場合の船舶の姿勢が、船首側よりも船尾側が下がった状態になること、また吸込口の数をできるだけ減らすことができることに起因している。
【0021】
少なくとも1つの吸込口が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcに含まれる複数の小区画室に対してそれぞれ設けられる複数の通水孔25W,25Lのそれぞれの合計開口面積は、所定の領域において、少なくとも1つの吸込口が設けられた小区画室19から離れるに従って段階的に小さくするのが好ましい。このようにすれば流水に対する抵抗が低い、吸込口が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcを最大限活用することができる。
【0022】
少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcと船長方向の船尾側に並ぶ複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Wbに含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の前記通水孔25W,25Lのそれぞれの合計開口面積は、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wc中の複数の小区画室19に含まれる複数の小区画室19に対して設けられる複数の通水孔25W,25Lのそれぞれの合計開口面積よりも段階的に小さくするのが好ましい。このようにすると吸込口が設けられた小区画室19を含む船幅方向小区画室列20Wcを最大限活用することができる。
【0023】
船幅方向小区画室列に含まれる複数の小区画室19にそれぞれ面するフロア材13に設けられる通水孔25Lの合計開口面積は、複数の小区画室19が船長方向に直列に並んで構成される複数の船長方向小区画室列20La~20Lhのうち、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船長方向小区画室列20Lcにある基準となる小区画室19に面するフロア材13に設けられる通水孔25Lの合計開口面積を最大合計開口面積として、基準となる小区画室19から離れると最大合計開口面積よりも小さくするのが好ましい。このようにするとフロア材13に設けられる通水孔25Lの開口面積を通水に必要な範囲まで減少させることが可能になる。
【0024】
1つの船幅方向小区画室列に含まれる複数の小区画室のうちの隣接する2つ以上の小区画室にそれぞれ吸込口が設けられていてもよい。この場合には、吸込口が設けられた隣接する2つ以上の小区画室を1つの小区画室としてみて、他の小区画室に設ける通水孔の開口面積を定めればよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(A)乃至(E)は、船舶のバラストタンクの従来の構造を説明するために用いる斜視図である。
図2】本発明の基本思想を確認するために用意した本実施の形態の排水構造の実験用模型の構成を示す図である。
図3】(A)及び(B)は、それぞれ図2に示す実験模型の排水構造を用いて、本発明の実施の形態の効果を確認するために用いる各通水孔の総開口面積と各通水孔の有無を模式的に示す模式図である。
図4(A)】図3(A)の模式図において、船幅方向小区画室列20Wd~20Whをいずれも閉鎖しない状態における船幅方向小区画室列20Wc中の小区画室(3-1)乃至(3-8)の水位の変化を示す図である。
図4(B)】図3(A)の模式図において、船幅方向小区画室列20Wd~20Whをいずれも閉鎖しない状態における船長方向小区画室列20Lc中の小区画室(1-3)乃至(8-3)の水位の変化を示す図である。
図4(C)】図3(A)の模式図に示したパターンa~パターンeで船幅方向小区画室列20Wd~20Whの船幅方向通水孔25Wを閉鎖したときと、図3(A)において船幅方向通水孔25Wを閉鎖しないときの積算排水量を示す図である。
図5】(A)は図3の模式図の構成を用いた実施の形態と比較例の小区画室8-3の残水水位と排水量の経時変化を示しており、(B)は図3(B)の模式図の構成を用いた実施の形態と比較例の小区画室8-3の残水水位の経時変化を示すグラフである。
図6】(A)は図3(A)の模式図の構成を用いた実施の形態と比較例の小区画室8-8の残水水位と排水量の経時変化を示しており、(B)は図3(B)の模式図の構成を用いた実施の形態と比較例の小区画室8-8の残水水位の経時変化を示すグラフである。
図7】(A)及び(B)は、それぞれ図3(A)の模式図の構成と図3(B)の模式図の構成を用いた場合の全体の累積排水量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
[バラストタンクの一般的な構造]
図1(A)乃至(E)は、船舶のバラストタンクの従来の構造を説明するために用いる斜視図である。図1(A)は、バラストタンクを備える船舶の中間ブロックの斜視図を示している。図1(B)は図1(A)に破線で示した領域を切り出し断面としいて切り出した拡大斜視図であり、図1(C)は図1(B)から内底板5及びビルジホッパ斜板6を除いた状態を示す斜視図である。バラストタンク1の一部は、船殻の船底外板3と内底板5との間に形成される。また船側外板4とビルジホッパ斜板6との間にもバラストタンク1の一部を構成するビルジホッパタンク7が形成されている。船底外板3と内底板5との間に形成されるバラストタンク1内には、板骨構造9が形成されている。なお図1に示した方向マークLは、船舶の長手方向すなわち船長方向を示しており、Wは船舶の幅方向すなわち船幅方向を示している。
【0028】
図1(D)は図1(C)の部分拡大斜視図であり、図1(E)は図1(D)の部分拡大斜視図である。これら図1(D)及び(E)に示すように、板骨構造9は、船底外板3上に船体の船長方向Lに延び且つ船長方向とL直交する船幅方向Wに間隔をあけて設けられた複数のガーダ材11と、船底外板3上に複数のガーダ材11と交差し且つバラストタンク1内を幅方向Wに延び且つ船長方向Lに間隔をあけて設けられた複数のフロア材13とが、船底外板3と内底板5との間に格子状の複数の大区画室15を形成するように配置され、複数の大区画室15内の船底外板3上には船長方向Lに延び且つ船幅方向Wに間隔をあけて設けられた複数の縦フレーム材17が配置されている。さらに板骨構造9は、複数の大区画室15内のそれぞれの船底側領域が、複数の縦フレーム材17によって船幅方向Wに仕切られた複数の小区画室19を備えている。後述するように1つの大区画室内15の1つの小区画室19に対して排水ポンプから延びる排水パイプの先端に設けられた吸込ベルマウスを備えた吸込口21(図1(E)には破線で示してある)が設けられる。そして複数のガーダ材11及び複数のフロア材13には、複数の大区画室15間でバラスト水を流通させる複数の流水孔23が設けられている。また複数のガーダ材11及び複数のフロア材13並びに複数の縦フレーム材17には、複数の大区画室15内の複数の小区画室19内に残る残留バラスト水を、吸込口21が設けられる1つの小区画室19に導く複数の通水孔25がそれぞれ設けられている。
【0029】
なおビルジホッパタンク7内のバラスト水は、最終的に板骨構造9内の大区画室15内に残留バラスト水として移行することになるので、特に考慮する必要はない。
【0030】
[実験用模型の基本構成]
図2は、本発明の効果を確認するために用意した排水構造の実験用模型の基本構成を示す図である。図1と同様に、図2に示した方向マークLは船舶の長手方向すなわち船長方向を示し、方向マークWは船舶の幅方向すなわち船幅方向を示す。図2の模型においては、複数の小区画室19が船舶の船幅方向Wに直列に並んで構成される複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whが、船舶の船長方向Lに8列並んでいる。各船幅方向小区画室列20Wは2列の大区画室15からなるので、図2の模型には計16の大区画室15A乃至15Pが並んでいる。格子状に並んだ各小区画室19には、16の大区画室15A乃至15Pに属していることを示す(1-1)、(1-2)…(1-4)、…(2-1)、…(8-4)、(9-1)、…(16-4)までの番号を付してある。なお図2においては、船舶の船長方向Lに並ぶ小区画室によって、船長方向小区画室列21La~21Lhが8列構成されている。
【0031】
小区画室(3-3)の「B」の記号は吸込ベルマウスBを示している。吸込ベルマウスBの吸込口21は、船底外板3との間に所定の間隙をあけて船底外板3と対向している。吸込口21を設置する位置は、例えば(4-4)や(13-1)のようなほぼ中心よりも、船幅方向W及び船長方向Lに1区画ずらした小区画室(3-3)を選択する方が排水効率がよいことが判っている。
【0032】
またガーダ材11及び複数の縦フレーム材17には、併せて120個の通水孔25が設けられている。参考にした実船設計では通水孔が長楕円形であるが,開口幅が高さより排水効率への影響が大きいため、実験では通水孔25の形状を幅と面積が相当する長方形としている。バラストポンプとして実験で使用したポンプは3つのダイヤフラムポンプを連動させて脈動を抑え,リニアに吸引できるプロセスポンプ(TACMINA社製,FXD-FXW-8)である。吸引量はインバータによる周波数設定で調整できるようにした。本実験では,実船相当1000[ton/h.]である16.7[L/min.]に設定した。タンク水位の計測にはデジタル超音波センサ(キーエンス社製,FW-02)を用いた。
【0033】
[水理実験の手順]
以下に実験手順を示す。
【0034】
(i) 水位50[mm]まで給水後、水面の停止を確認し、ロガーの起動(t=t0)
(ii) ポンプの起動、排水開始(t=t1;t1≧t0+5sec.)
(iii) ポンプの停止、排水終了(t=t2;t2≧t1+600sec.)
本実験では初期水位は50[mm]に設定した。また実験ではストリッピングポンプの切り替えは考慮せず排水の最終段階では空気を巻き込みながら吸引していることから4[mm]程度の残水があり、これを最終水位としている。センサが取得する値は電圧で与えられるため、電圧を水位に変換する演算式(1)によって水位を計算した。積算流量はタンク水位の変化より求めた。なお、積算流量はポンプ吸引量と比較して整合を得た。
【0035】
【数1】
上記式において、Wiは初期数位、Wfは最終水位、Viは平均電圧(t0~1)、Vfは平均電圧(t2~t3)である。
【0036】
図2の実験用模型における設定では、1つの大区画室15C内にあって吸い込みベルマウスBの吸込口21が設けられた1つの小区画室(3-3)を画定するフロア材13及び縦フレーム材17の全てに船幅方向通水孔25Wと船長方向通水孔25Lが設けられている。よって残留バラスト水は、小区画室(3-3)に隣接する4つの小区画室(2-3)、(3-2)、(3-4)、(4-3)から小区画室(3-3)に流入することができる。
【0037】
図2における他の小区画室19には、隣接する小区画室との間のフロア材13に、船長方向Lに連通する船長方向通水孔25Lが設けられており、残留バラスト水はいずれの小区画室19からも、船長方向Lに移動することができる。
【0038】
一方、ガーダ材11又は縦フレーム材17に設けられて、船幅方向Wに連通する通水孔25は、吸い込み口21が設けられた小区画室(3-3)と同じ船幅方向小区画室列20Wcに属する小区画室(3-1)~(3-4)と(11-1)~(11-4)にのみ備えられているように設定されている。
【0039】
従って船幅方向小区画室列20Wcに含まれる以外の小区画室19内に溜まった残留バラスト水は、まず船長方向Lにのみ移動し、小区画室(3-3)と同じ船幅方向小区画室列20Wcに含まれる小区画室(3-1)、(3-2)、(3-4)、(11-1)~(11-4)のいずれかに達して初めて船幅方向Wに移動して、小区画室(3-3)に到達する。例えば、小区画室(16-4)に溜まっていた残留バラスト水は、小区画室(15-4)(14-4)(13-4)(12-4)を通過して(11-4)に達し、それから小区画室(11-3)(11-2)(11-1)(3-4)を通過して、小区画室(3-3)に到達する。
【0040】
図2に示す実験用模型の通水孔25W,25Lの数は、後に説明する本発明の実施における通水孔25の数とは異なっている。図2は通水孔25W,25Lの数を実用可能な最小限の1つで表現しているが、理論的には、各通水孔25を遮蔽板により部分的に塞ぐことにより、通水孔25W,25Lの数と総開口面積を変更したことと同じ状態を実現することができる。したがって図3(A)及び図3(B)に示す模式図に基づいて構成する本発明の実施の形態の効果を確認するための模型も、図2の実験用模型を用いて実現することができる。
【0041】
図3(A)及び図3(B)は、図2に示す実験模型の排水構造を用いて、本発明の実施の形態の効果を確認するために用いる各通水孔25W,25Lの総開口面積と各通水孔の有無を模式的に示す模式図である。なお図3(A)及び図3(B)の模式図においては、図2と同様に、横列8×縦列8の計64の小区画室が設けられているが、図3(A)及び図3(B)においては、理解を容易にするために、格子状に並んだ各小区画室を船幅方向小区画室列20Wa~20Whと船長方向小区画室列20La~20Lhに属するものであることを明らかにするように、各小区画室に(1-1)乃至(8-8)までの番号を付してある。(1-1)は1列目の船幅方向小区画室列20Waと1列目の船長方向小区画室列21Laの交点にある小区画室であることを意味し、(8-8)は8列目の船幅方向小区画室列20Whと8列目の船長方向小区画室列21Lhの交点にある小区画室であることを意味する。
【0042】
図2に示した船幅方向通水孔25Wの形成位置は、図3及び図4の模式図においては○(丸の図形)で示してあり、○(丸の図形)は各小区画室を画定する船長方向Lに延びる実線(縦フレーム材17又はガーダ材11を表す)の上に配置してある。船幅方向通水孔25Wの開口面積は○(丸の図形)の数で表され、最も大きい「5つの○」から最も小さい「1つの○」まで段階的に調整可能である。
【0043】
また図3(A)及び図3(B)の模式図において、図2に示した船長方向通水孔25Lの形成位置と開口面積は、○(丸の図形)と○の中の数字により示してある。船長方向通水孔25Lは、各小区画室を画定する船幅方向Wに延びる破線(フロア材13を表す)の上に配置してある。船長方向通水孔25Lの開口面積は○の中の数値の大きさで表されている。数値1は開口面積が1番大きいことを示し。数値5は開口面積が最も小さいことを意味する。本実施の形態では5段階で開口面積を調整することができる。
【0044】
ちなみに横方向通水孔25Wの開口面積は81mm2であり、縦方向通水孔25Lの数値1番の開口面積は492.3mm2であり、縦方向通水孔25Lの数値1番の開口面積は492.3mm2であり、縦方向通水孔25Lの数値2番の開口面積は312.3mm2であり、縦方向通水孔25Lの数値3番の開口面積は176.6mm2であり、縦方向通水孔25Lの数値4番の開口面積は121.6mm2であり、縦方向通水孔25Lの数値5番の開口面積は76.6mm2である。
【0045】
図3(A)及び図3(B)の模式図では、図2と同様に、横列8×縦列8の計64の小区画室が設けられているが、前述のように、図2と異なって、格子状に並んだ各小区画室19を横列と縦列で区別するように、n番目の横列とm番目の縦列mの交点(m-n)にある複数の小区画室に(1-1)乃至(8-8)までの番号を付してある。そして各小区画室を囲む縦フレーム材17及びガーダ材11並びにフロア材13に設けられている通水孔25は、フロア材13を貫通して水を船長方向Lに連通する船長方向通水孔25Lと、縦フレーム17材又はガーダ材11を貫通して水を船幅方向Wに連通する船幅方向通水孔25Wとに分類してある。
【0046】
船長方向通水孔25Lの形成位置は○の中に1~5のいずれかの数字を入れた記号の位置で示してある。これらの記号は、オンライン出願では使用できないため、これらの記号を○の中の数字を利用して[1]~[5]と表記する。各小区画室を画定する船幅方向Wに延びる破線(フロア材13を表す)の上に配置される。船長方向通水孔25Lの合計開口面積は丸数字の大きさで表され、最も大きい[1]から最も小さい[5]まで、段階的に広さを設定してある。船幅方向通水孔25Wの形成位置は○(丸の図形)で示してあり、各小区画室を画定する船長方向Lに延びる実線(縦フレーム材17又はガーダ材11を表す)の上に配置される。船幅方向通水孔25Wの合計開口面積は○の数で表され、最も合計開口面積が大きい場合(最大合計開口面積)には、5つの○が表示され、最も合計開口面積が小さい場合には、1つの○が表示される。図2の模型を用いる場合には、仕切壁部に設けたスロットに孔の寸法の異なる遮蔽板を嵌入しあるいは何も入れないことにより、通水孔25の有無の選択と開口面積の選択をすることができる。
【0047】
図3(A)の模式図においては、全ての通水孔25W,25Lが、開口面積の差こそあれ、全て開かれている状態で示されている。全ての通水孔25W,25Lが開かれている状態は、図2に示した構成のように、通水孔25W,25Lの数を最小限にした例とは対称をなすものであり、最大限まで通水孔25W,25Lの数を増やした例である。図3(A)の模式図においては、小区画室(3-3)に吸込ベルマウスの吸込口が設けられており、小区画室(3-3)を囲む4つの辺に示された船幅方向通水孔25Wを示す○の数は、いずれも5個、船長方向通水孔25Lはいずれも[1]である。小区画室(3-3)の四辺に形成される通水孔25W,25Lの合計開口面積は、他の小区画室に対する通水孔25W,25Lの合計開口面積と比べて最大である。小区画室(3-3)に隣接する他の各小区画室の通水孔25W,25Lの合計開口面積は、小区画室(3-3)に対する通水孔25W,25Lの合計開口面積よりも小さくなるように設定されている。例えば小区画室(3-4)では小区画室(3-5)との間の船幅方向通水孔25Wが○4個になっており、小区画室(3-2)では小区画室(3-1)との間の船幅方向通水孔25Wが○4個で小区画室(2-2)との間の船長方向通水孔25Lが[2]になっている。これは図3に示した小区画室全体に適用されており、小区画室(3-3)以外の小区画室の複数の通水孔25W,25Lのそれぞれの合計開口面積は、吸込口21が設けられた小区画室(3-3)を中心にして、小区画室(3-3)から離れるに従って、所定の領域においては、段階的に小さくなる。ここで「段階的に小さくなる」とは、1つの小区画室毎に合計開口面積が小さくなる場合の他に、連続する2つ又は3つの小区画室毎に合計開口面積が小さくなる場合を含むことを意味する。例えば、図3(A)において、小区画室(1-8)は小区画室(1-6)よりも小区画室(3-3)から離れているが、小区画室(1-7)~(1-8)の通水孔25W,25Lの合計開口面積は同一である。しかしながら、このような場合も「段階的に小さくなる」という表現は含むことを意味する。
【0048】
図3(A)の模式図の構成を利用して確認した本発明の実施の形態では、複数の船幅方向小区画室列20Wa~20Whのうち、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19(3-3)を含む船幅方向小区画室列20Wcを中心として船長方向に並ぶ5列の船幅方向小区画室列20Wa~20We中の複数の小区画室19に面する複数の縦フレーム材17及び複数のガーダ材11並びに前記複数のフロア材13の部分には隣接する2つの小区画室(19,19)間を連通する1以上の通水孔25W及び25Lがそれぞれ設けられている。そして各実施の形態では、5列の船幅方向小区画室列20Wa~20We中に含まれる複数の小区画室19にそれぞれ面する複数の縦フレーム材17及び複数のガーダ材11並びに複数のフロア材13の各部分に設けられる複数の通水孔25の合計開口面積は、次のようになっている。即ち少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19(3-3)の合計開口面積を中心にして所定の領域内の複数の小区画室19におけるそれぞれの合計開口面積は、所定の領域において、1つの吸込口21が設けられた小区画室19(3-3)を中心にしてこの小区画室19から離れるに従って、段階的に小さくなっている。
【0049】
具体的には、本発明の実施の形態では、所定の領域の各小区画室の複数の通水孔25W,25Lの合計開口面積が、吸込口21が設けられた小区画室(3-3)を中心にして、小区画室(3-3)から離れるに従って、少なくとも段階的に小さくなる。ここで「所定の領域」の定め方は任意である。例えば、図3(A)の例では、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19(3-3)を中心してその周囲に位置する8個の小区画室を含む領域と定めることができる。この場合、図3(A)においては、(2-2)~(2-4)、(3-2)、(3-4)及び(4-2)~(4-4)の8個が、この所定の領域に含まれている。また「所定の領域」は、吸込口21が設けられた小区画室(3-3)を含む1つの船幅方向小区画室列20Wcとこの少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19(3-3)を含み且つ船長方向に並ぶ複数の小区画室を含む領域とすることもできる。この場合の所定の領域は、図3(A)においては、小区画室(3-1)、(3-2)、(3-4)~(3-8)と、小区画室(1-3)、(2-3)及び(4-3)~(8-3)を含む領域である。
【0050】
また図3(A)の例では、船幅方向小区画室列に含まれる複数の小区画室19に面するフロア材13に設けられる通水孔25Lの合計開口面積は、複数の小区画室19が船長方向に直列に並んで構成される複数の船長方向小区画室列20La~20Lhのうち、少なくとも1つの吸込口21が設けられた小区画室19を含む船長方向小区画室列20Lcにある基準となる小区画室19に面するフロア材13に設けられる通水孔25Lの合計開口面積を最大合計開口面積として、基準となる小区画室19から離れるとこの最大合計開口面積よりも小さくなっている。
【0051】
また図3(B)に示す模式図の構成では、図3(A)に示す模式図の構成と比べて、全ての船長方向通水孔25Lの開口面積が、[4]に統一されている点で、図3(A)の模式図と相違する。船幅方向通水孔25Wの開口面積は、図3(A)の模式図と同一である。
【0052】
[水理実験結果]
本実験では、図2に示す実験用模型の一部の船幅方向通水孔25Wを閉鎖することで通水孔の開口数を減らしつつ、排水効率を上げることを目的とした流水路の検討を行った。事前の検討より、船長方向の流れのほうが船幅方向の流れに比べて流水量が大きいことがわかっており、船幅方向通水孔25Wを閉鎖する場合に、船長方向通水孔25Lを閉鎖し船長方向の連続した流水路(ドレンコース船幅方向通水孔25Wを吸込口21から一番離れた船幅方向小区画室列20Whから順番に船幅方向小)を設定する方が排水効率は優位に働くし、また構造強度の面でも縦フレーム材17の強度を向上できることはより有利である。このため実験で閉鎖する通水孔は縦フレーム材17及びガーダ材11に設けられた幅方向通水孔25Wを対象とした。
【0053】
水理実験では、図3(A)に示すように区画室列20Weまで閉鎖した。ここでは船幅方向小区画室列20Wdまでを閉鎖した以下の5つのパターンa~eの実験を行った。
【0054】
初期状態1(Init.) …船幅方向通水孔25Wの遮蔽無し
比較例(パターンa)…8列目の小区画室の船幅方向通水孔25Wを遮蔽
比較例(パターンb)…7、8列目の小区画室の船幅方向通水孔25Wを遮蔽
比較例(パターンc)…6、7、8列目の小区画室の船幅方向通水孔25Wを遮蔽
実施例(パターンd)…5~8列目の小区画室の船幅方向通水孔25Wを遮蔽
実施例(パターンe)…4~8列目の小区画室の船幅方向通水孔25Wを遮蔽
例えば船幅方向小区画室列20Wf~20Whの船幅方向通水孔25Wを閉鎖したものは「パターンc」と表記する。
【0055】
図4(A)は、図3(A)において、船幅方向小区画室列20Wd~20Whをいずれも閉鎖しない状態における船幅方向小区画室列20Wc中の小区画室(3-1)乃至(3-8)の水位の変化を示している。図4(A)からはI(3-1)~(3-4)とII(3-5)~(3-6)、III(3-7)~(3-8)の大きく3つに分かれて水位差が見られる。これは船幅方向小区画室列20Wc中の船幅向通水孔25Wの開口数(○の数)で、それぞれ5個、4個、3個と減少している部分で差が開いていることが分かる。このことからは吸込口21に対して船幅方向の流れが十分でないことは明らかである。言い換えれば、この流量が十分に確保できれば、全体の排水効率の向上が期待される。しかし船幅向通水孔25Wの開口数(○の数)を増やすことは、開口作業の負担増と機械的強度の低下を考えると得策ではないことが判る。図4(B)は、図3(A)において、船幅方向小区画室列20Wd~20Whをいずれも閉鎖しない状態における船長方向小区画室列20Lc中の小区画室(1-3)乃至(8-3)の水位の変化を示している。図4(B)より吸込口21に対して船長方向にある船長方向小区画室列20Lc中の小区画室(1-3)~(8-3)では、段階的な水位差はみられるものの、大きな差はない。これより船長方向通水孔25Lの開口面積の改善の期待は小さいことが判る。
【0056】
図4(C)は、前述のパターンa~パターンeで船幅方向小区画室列20Wd~20Whの船幅方向通水孔25Wを閉鎖したとき(パターンa~e)と、図3(A)において船幅方向通水孔25Wを閉鎖しないとき(曲線X)の積算排水量を示している。図4(C)からは、船幅方向小区画室列20We~20Whの船幅方向通水孔25Wを閉鎖したパターンdまでは、ほとんど排水量に影響がなく、船幅方向小区画室列20Wdの船幅方向通水孔25Wを閉鎖したパターンeにおいて少しの落ち込みが見られた。船幅方向通水孔25Wを全く閉鎖しないとき(曲線X)の通水孔の数が120個であり、パターンeのときの通水孔の数が58個であり、通水孔の数が半分以下に削減できているにも関わらず積算排水量に大きな差は見られない。これは吸込口21周辺での船幅方向の流量がある程度で確保できているためであると考えられる。つまりこの実験からは、吸込口21から離れた場所の船幅方向通水孔25Wの閉鎖は排水量にほとんど影響がなく、吸込口21付近に通水孔の開口を集中させることで十分な効率改善が見られることが判った。
【0057】
[シミュレーション]
発明者は、実施の形態と比較例の構成の効果を確認するために、実験ではなく、図3(A)の模式図及び図3(B)に基づいてシミュレーションを行った。
【0058】
最初に図3(A)に示す通水孔25の状態、すなわち全ての小区画室19について隣接する小区画室19との間に通水孔25が設けられた初期状態1(Init.)から、図3(A)に○で示した船幅方向通水孔25Wの一部を横列ごとに遮蔽する設定を施したものを、それぞれ実施例(パターンd及びe)及び比較例(パターンa乃至c)としてシミュレーションを行った。
【0059】
[シミュレーションの概要]
シミュレーションのための実験では、図2に示す構造で1/10スケール、すなわち小区画室19のサイズは船幅方向Wの幅が77mm、船長方向Lの長さが260mm、縦フレーム材17の高さが30mmの模型を、観察が容易なようにアクリル材を用いて製作した。
【0060】
通水孔25の形成位置及び総開口面積を容易に反復して調整できるように、ガーダ材11、縦フレーム材17及びフロア材13に該当する小区画室19に面する縦横の壁部にはスロットを作り、スロットに5種類の異なる形状の閉塞板を嵌め込むことにより、通水孔25の総開口面積を0から5まで段階的に増減できるようにした。実験では、各スロットを嵌め込み、あるいは取り外して、各通水孔25の開閉を選択し、開いた通水孔25の総開口面積を段階的に増減する調整を施して、さまざまな各通水孔25の状態における残留バラスト水の排水時間を観測した。
【0061】
実験では残留バラスト水として海水ではなく精水(水道水)を用いた。実験において精水を排水するポンプには、3つのダイヤフラムポンプを連動させて脈動を抑え、リニアに吸引できるプロセスポンプ(TACMINA社製,FXD-FXW-8)を用いた。残水水位の計測にはデジタル超音波センサ(キーエンス社製,FW-02)を用いた。積算流量は計測した残水水位に基づいた精水の体積変化から求めた。実験では積算流量とポンプ吸引量との比較を行って整合性を得るようにした。なおストリッピングポンプの切替は考慮せず、ポンプ流量を一定にして残留水の最終段階では空気を巻き込みながら吸引していることから水位5mm程度の残水が生じた。
【0062】
なおポンプ容量は1,000 ton/h. 相当(1/10スケールの実験では27.8L/sec.)、前述のように縦フレーム材17の高さは300mm(実験では30mm)、初期水位を500mm相当(実験では50mm)として、通水孔25を形成するスリットの開口寸法は横幅B. 240 mm ×高さH. 90mm(実験ではB. 24 mm ×H. 9mm)とし、後述のように孔の寸法の異なる遮蔽板や孔の無い遮蔽板を選択して嵌め込むことにより、通水孔25の開口面積を調整し、あるいは通水孔25を遮蔽することができるようにした。
【0063】
[実験シミュレーションによる計算結果]
発明者は、上記実験をシミュレーションで実施した。図5(A)及び(B)並びに図6(A)及び(B)は、図3(A)の模式図の構成と図3(B)の模式図の構成を用いた場合の特定の小区画室の残水水位のシミュレーション計算結果を示している。図5(A)及び(B)は、遠く離れた小区画室(8-3)の残水水位と時間との関係を示している。これらの図を見ると、パターンeの水位の低下が最も遅く、次にパターンdが遅く、各初期状態1、2(Init.)及びその他のパターンにはそれほど差が認められなかった。図6(A)及び(B)も遠く離れた小区画室(8-8)の残水水位と時間との関係を示している。これらの図からも、遠く離れた小区画室(8-3)の残水水位と時間との関係を示している。これらの図を見ると、パターンeの水位の低下が最も遅く、次にパターンdが遅く、各初期状態1、2(Init.)及びその他のパターンにはそれほど差が認められなかった。しかしながらこれらのパターンを見ても、吸込口21から遠く離れた位置にある小区画室(8-3)や(8-8)の残水水位は、総開口面積を小さくしても、排水時間が大幅に長くなることがないことが裏付けられる。
【0064】
図7(A)及び(B)は、図3(A)の模式図の構成と図3(B)の模式図の構成を用いた場合のシミュレーション計算結果の累積排水量を示している。このシミュレーション計算結果は、図4(C)の実際の実験結果とほぼ同様の傾向を示している。実験計算結果からも、パターンeのように小区画室(3-3)を中心にした船幅方向小区画室列20Wの1~3列目までの領域内で、小区画室(3-3)から離れるに従って、小区画室の通水孔25の総開口面積を段階的に小さくし、また4列目以降の船幅方向小区画室列20Wの一部または全部の船幅方向通水孔25Wを遮蔽しても、残留バラスト水の排水効率を著しく損なうことなく、通水孔の数及び面積を減らすことができることが確認できた(第1の発明の実施例)。
【0065】
また図7(A)及び(B)のシミュレーション計算結果からは、小区画室(3-3)を中心にした船幅方向小区画室列20Wの1~4列目までの領域内で、小区画室(3-3)から離れるに従って、小区画室の通水孔25の総開口面積を段階的に小さくし5列目以降の船幅方向小区画室列20Wの一部または全部の船幅方向通水孔25Wを遮蔽しても、残留バラスト水の排水効率を著しく損なうことなく、通水孔の数及び面積を減らすことができることが確認できた(第2の発明の実施例)。
【0066】
1つの船幅方向小区画室列に含まれる複数の小区画室のうちの隣接する2つ以上の小区画室[例えば図2の(3-3)及び(4-3)]にそれぞれ吸込口が設けられていてもよい。この場合について、上記と同様にシミュレーション計算を行ったところ、各実施の形態及び各比較例の間に大きな格差が無いことが判った。この場合には、吸込口が設けられた隣接する2つ以上の小区画室を1つの小区画室としてみて、他の小区画室に設ける通水孔の開口面積を定めればよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、吸込口から離れた小区画室の通水孔の数を減らしても、バラストタンクから残留バラスト水を排水する時間を大幅に長くすることがないバラストタンクの排水構造を提供できる。通水孔の数を減らすことができれば、通水孔を形成するための工作作業が減る上、通水孔の内面の塗装作業も減らすことができる。また通水孔の存在が溶接作業の障害になる割合を減らすことができる利点がある。
【符号の説明】
【0068】
1 バラストタンク
3 船底外板
5 内底板
7 ビルジホッパタンク
9 板骨構造
11 ガーダ材
13 フロア材
15,15A~15P 大区画室
17 縦フレーム材
19 小区画室
20W 船幅方向小区画室列
20L 船長方向小区画室列
21 吸込口
23 流水孔
25 通水孔
25W 船幅方向通水孔
25L 船長方向通水孔
図1
図2
図3
図4(A)】
図4(B)】
図4(C)】
図5
図6
図7