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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074002
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/46 20060101AFI20230519BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20230519BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20230519BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20230519BHJP
   C01B 21/02 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B01J23/46 301M
C01B3/04 B
B01J23/58 M
B01J23/63 M
C01B21/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182563
(22)【出願日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2021186241
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃代
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC06B
4G169BC09B
4G169BC43B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BD05A
4G169CB81
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EC02Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169ED10
(57)【要約】
【課題】 助触媒を担持せずとも低温で高いアンモニア分解活性を発揮するアンモニア分解触媒を提供する。
【解決手段】 TiOx(xは、0.9≦x<2の数を表す。)の組成式で表される亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体上にルテニウム及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とするアンモニア分解触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiOx(xは、0.9≦x<2の数を表す。)の組成式で表される亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体上にルテニウム及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記アンモニア分解触媒は、ポーリングの電気陰性度がチタンの1.54より低い金属元素の単体及び/又はその化合物が担持された構造を有することを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記アンモニア分解触媒は、ルテニウム及び/又はその酸化物の担持量が、前記アンモニア分解触媒全体100重量部に対して、ルテニウム金属元素換算で0.1~30重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
前記ポーリングの電気陰性度がチタンの1.54より低い金属元素の単体及び/又はその化合物の合計の担持量が、前記アンモニア分解触媒全体100重量部に対して、金属元素換算で0.1~50重量部であることを特徴とする請求項2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
前記亜酸化チタンの結晶構造がアナタース型であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒を用いてアンモニアを分解する工程を含む水素の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解触媒に関する。より詳しくは、水素の製造等に有用なアンモニアの分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、古くから化学肥料等の原料として生産されており、また体積あたりの水素密度が高い特徴から、近年は将来の水素社会実現へ向けた有望な水素キャリアとしても注目されている。アンモニアから水素を取り出す方法として電気分解、接触分解等がある。一般的なアンモニア分解法として用いられる熱触媒接触分解反応は吸熱反応であり、600℃以上の高温で進行することが知られている。
近年、燃料電池への適用を見据え、より低温で高活性を示す触媒開発が盛んに行われている。
【0003】
アンモニア分解触媒の活性金属として、ルテニウム、ニッケル、鉄等が知られている(例えば非特許文献1及び2参照)。中でも、ルテニウム触媒は低温で高活性を示すことが知られており、特許文献1には、アンモニアまたはアンモニア含有ガスを無機質担体にルテニウムを担持させてなる触媒と加熱下に接触させて、該アンモニアを窒素及び水素に分解することを特徴とするアンモニアの分解方法が開示されている。
【0004】
しかし、貴金属であるルテニウムはニッケルや鉄と比較してコストが高いため、ルテニウムの使用量を低減する技術も検討されており、例えば特許文献2には、平均粒径1nm~50nmの超微粒子粉末を所要形状に成形した担体に、ルテニウムおよび促進剤を担持してなることを特徴とするアンモニア分解触媒が開示されている。また、特許文献3には、ルテニウム及び希土類酸化物が、希土類酸化物以外の金属酸化物からなる担体に担持され、前記希土類酸化物の含有量が0.1~30.0質量%である、アンモニア分解触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-84910号公報
【特許文献2】特開2011-78888号公報
【特許文献3】国際公開第2019/188219号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H ムロヤマ(H Muroyama) 他3名、アプライド カタリシス エイ:ジェネラル(Applied Catalysis A:General),2012年,第433-444巻,p119-124
【非特許文献2】L ワン(L Wang) 他4名、ケミカル コミュニケーションズ(Chemical Communications),2013年,第49巻,p3787-3789
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、従来種々のアンモニア分解触媒が開発されており、ルテニウムの使用量を低減するために助触媒として希土類元素を用いる技術等が検討されている。しかし、希土類元素は高価であって、鉱石の産出国に偏りがあり、コストや安定的な供給の点で問題があった。そのため、助触媒を担持せずとも低温で高いアンモニア分解活性を発揮する触媒が求められていた。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、助触媒を担持せずとも低温で高いアンモニア分解活性を発揮するアンモニア分解触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アンモニア分解触媒について種々検討したところ、TiOx(xは、0.9≦x<2の数を表す。)の組成式で表される亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体にルテニウム及び/又はその酸化物を担持させることにより、助触媒を担持せずとも低温で高いアンモニア分解活性を発揮する触媒となることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、TiOx(xは、0.9≦x<2の数を表す。)の組成式で表される亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体上にルテニウム及び/又はその酸化物が担持された構造を有するアンモニア分解触媒である。
【0011】
上記アンモニア分解触媒は、ポーリングの電気陰性度がチタンの1.54より低い金属元素の単体及び/又はその化合物が担持された構造を有することが好ましい。
【0012】
上記アンモニア分解触媒は、ルテニウム及び/又はその酸化物の担持量が、上記アンモニア分解触媒全体100重量部に対して、ルテニウム金属元素換算で0.1~30重量部であることが好ましい。
【0013】
上記ポーリングの電気陰性度がチタンの1.54より低い金属元素の単体及び/又はその化合物の合計の担持量が、上記アンモニア分解触媒全体100重量部に対して、金属元素換算で0.1~50重量部であることが好ましい。
【0014】
上記亜酸化チタンの結晶構造がアナタース型であるこが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上記アンモニア分解触媒を用いてアンモニアを分解する工程を含む水素の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアンモニア分解触媒は、上述の構成よりなり、助触媒を担持せずとも低温で高いアンモニア分解活性を発揮するため、水素の製造等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0018】
1.アンモニア分解触媒
本発明のアンモニア分解触媒は、TiOx(xは、0.9≦x<2の数を表す。)の組成式で表される亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体上にルテニウム及び/又はその酸化物が担持された構造を有する。
本明細書中、「担持」とは、担持される化合物が担体の表面に支持されていることをいう。担体の表面に担持される化合物が部分的に付着している場合もあるが、層が形成される場合もある。
上記アンモニア分解触媒における担体が上記亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含むことにより、担体の塩基性が強まり、担体からルテニウム及び/又はその酸化物への電子供与能が高まり、そして、ルテニウム及び/又はその酸化物からアンモニアへの電子供与が促進されるため、アンモニアの分解反応において、低温でも高い触媒活性を発揮する。
上記亜酸化チタンは、TiOx(xは、0.9≦x<2の数を表す。)の組成式で表されるものであればよいが、1≦x≦1.98のものが好ましく、より好ましくはxが1.7以上であり、更に好ましくはxが1.9以上である。
【0019】
上記亜酸化チタンは、比表面積が10m/g以上であるものが好ましい。このような比表面積のものを用いると、ルテニウム及び/又はその酸化物をより多く担持することができ、より触媒活性の高い触媒とすることができる。亜酸化チタンの比表面積は、より好ましくは20m/g以上であり、更に好ましくは30m/g以上である。また、亜酸化チタンの比表面積は、300m/g以下であることが好ましい。より好ましくは100m/g以下であり、更に好ましくは50m/g以下である。
上記亜酸化チタンの比表面積は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
上記亜酸化チタンとしては、L*a*b*表色系における明度L*値が20以上であるものが好ましい。本発明者らは、一定の酸素欠陥を有する亜酸化チタンは、特定の色調を有し、L*a*b*表色系における明度L*が20以上であれば、亜酸化チタンにおける酸素欠陥がより充分であり、触媒活性がより向上することを見出した。L*値としてより好ましくは30以上であり、更に好ましくは40以上である。
また、L*a*b*表色系における色度a*値は0.5以下であることが好ましい。より好ましくは0.3以下であり、更に好ましくは、0.2以下であり、特に好ましくは、0以下である。
また、L*a*b*表色系における色度b*値は0以下であることが好ましい。より好ましくは-2以下であり、更に好ましくは、-3以下であり、特に好ましくは、-4以下である。
このような明度L*値及び色度a*値、b*値のものを用いると、担持されたルテニウム及び/又はその酸化物が効率よくアンモニアと反応することができ、より触媒活性の高い触媒とすることができる。
明度L*値、色度a*値、b*値は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
酸化チタンの結晶構造としては、例えば、アナタース型、ルチル型、ブルカイト型、マグネリ型、コランダム型、NaCl型等が挙げられ、上記亜酸化チタンの結晶構造は特に制限されないが、アナタース型、NaCl型であることが好ましい。より好ましくはアナタース型である。これにより上記アンモニア分解触媒の触媒活性がより向上する。
【0022】
本発明のアンモニア分解触媒は、担体としてケイ素及び/又はその酸化物を含むものである。これにより、本発明のアンモニア分解触媒におけるルテニウム及び/又はその酸化物が高分散に担持されることとなり、触媒活性が高まる。
ケイ素及び/又はその酸化物としては、ケイ素の単体、二酸化ケイ素、ケイ酸等が挙げられる。中でも好ましくはケイ素の酸化物であり、より好ましくは二酸化ケイ素である。
【0023】
本発明のアンモニア分解触媒におけるケイ素及び/又はその酸化物の含有量は特に制限されないが、亜酸化チタンとケイ素及び/又はその酸化物の合計100重量部に対して、二酸化ケイ素換算で1~50重量部であることが好ましい。より好ましくは5~30重量部であり、更に好ましくは10~20重量部である。
【0024】
本発明のアンモニア分解触媒における担体は、体積抵抗率が1.0×10-3Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。
上記体積抵抗率としてより好ましくは1.0×10-2Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下である。更に好ましくは1.0×10Ω・cm超1.0×10Ω・cm以下である。
上記担体の体積抵抗率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
本発明のアンモニア分解触媒は、上記担体にルテニウムの単体が担持されたものであってもよく、ルテニウムの酸化物が担持されたものであってもよい。
アンモニア分解触媒におけるルテニウム及び/又はその酸化物の担持量は、アンモニア分解触媒全体100重量部に対して、ルテニウム金属元素換算で0.1~30重量部であることが好ましい。このような担持量であると、より触媒活性の高い触媒とすることができる。ルテニウム及び/又はその酸化物の担持量は、より好ましくは、0.5~20重量部であり、更に好ましくは、1~10重量部である。
【0026】
本発明のアンモニア分解触媒は、ルテニウム及び/又はその酸化物に加えて、更にポーリングの電気陰性度がチタンの1.54より低い金属元素の単体及び/又はその化合物が1種以上担持された構造を有するものであることが好ましい。担持される金属元素の電気陰性度がチタンの電気陰性度より低いと、担持金属元素から担体やルテニウム及び/又はその酸化物に効率的に電子を供与することができる。電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその酸化物は助触媒として作用する成分であり、これらが更に担持されることで本発明の触媒がアンモニア分解反応に対する触媒活性により優れたものとなる。
なお、ポーリングの電気陰性度は「改訂4版 化学便覧 基礎編II」 P631 著 鈴木信夫に記載の値を用いた。
本明細書において述べる「電気陰性度」は全てポーリングの電気陰性度を意味する。
【0027】
上記電気陰性度がチタンより低い金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのいずれかの周期表第1族の金属元素;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのいずれかの周期表第2族の金属元素;スカンジウム、イットリウムのいずれかの周期表第3族の金属元素;ジルコニア、ハフニウムのいずれかの周期表第4族の金属元素;タンタルの周期表第5族の金属元素;ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムのいずれかのランタノイド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、周期表第1族の金属元素、周期表第2族の金属元素、ランタン、セリウムが好ましく、より好ましくは周期表第1族の金属元素、周期表第2族の金属元素であり、更に好ましくは、カルシウムやセシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウム、セリウム、であり、特に好ましくはカルシウム、セシウム、セリウムである。
【0028】
上記電気陰性度がチタンより低い金属元素の化合物としては特に制限されず、酸化物、水酸化物、窒化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、塩酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
本発明のアンモニア分解触媒に担持する電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物としては、金属単体、酸化物、水酸化物、窒化物、硝酸塩、炭酸塩の1種又は2種以上が好ましい。
【0029】
上記電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物の合計の担持量は、アンモニア分解触媒全体100重量部に対して、金属元素換算で0.1~50重量部であることが好ましい。このような担持量であると、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその酸化物を担持することの効果がより十分に発揮され、よりアンモニア分解反応に対する触媒活性の高い触媒とすることができる。電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物の合計の担持量は、より好ましくは金属元素換算で0.2~40重量部であり、更に好ましくは金属元素換算で0.5~30重量部であり、一層好ましくは金属元素換算で1~25重量部であり、特に好ましくは金属元素換算で1~20重量部である。
【0030】
本発明における亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体、及び/又はその担体上にルテニウム及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とするアンモニア分解触媒は、CO-TPDにおけるCO脱離温度は465℃以上であることが好ましい。より好ましくは470℃以上である。更に好ましくは475℃以上である。CO脱離温度の上限としては通常700℃以下である。
【0031】
2.アンモニア分解触媒の製造方法
本発明のアンモニア分解触媒は、亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体上にルテニウム及び/又はその酸化物が担持された構造を有することを特徴とする。
【0032】
上記ルテニウム及び/又はその酸化物の担持方法は、特に限定されることはなく、含浸法、液相還元法、物理混合などを用いることができるが、その中でも、含浸法が好ましい。一例として、含浸法でルテニウム及び/又はその酸化物の担持された担体を得る方法を以下に述べる。
本発明のアンモニア分解触媒は、上記担体とルテニウムの単体及び/又はその化合物(以下、ルテニウム種とも記載する)とを混合してルテニウム種混合物を得る工程と、混合工程で得られたルテニウム種混合物を焼成する工程とを含む製造方法で製造することができる。
また、本発明のアンモニア分解触媒として、ルテニウム及び/又はその酸化物に加えて、更に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物が担持された構造を有するものを製造する場合には、上記工程に加えて、更に上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持するための工程を行うことで製造することができる。上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持する方法は、特に限定されることはなく、含浸法、液相還元法、物理混合などを用いることができるが、その中でも、含浸法が好ましい。一例として、含浸法で上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持する方法を以下に述べる。
【0033】
上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持するための工程は、上記担体と電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物(以下、低電気陰性度金属種とも記載する)とを混合して低電気陰性度金属種混合物を得る工程と、混合工程で得られた低電気陰性度金属種混合物を焼成する工程である。
【0034】
上記担体にルテニウム及び/又はその酸化物を担持するための工程と、上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持するための工程とはいずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。
上記担体にルテニウム及び/又はその酸化物を担持するための工程を先に行う場合、上記低電気陰性度金属種混合物を得る工程は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物とを混合する工程になる。
また、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその酸化物を担持するための工程を先に行う場合、上記ルテニウム種混合物を得る工程は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体とルテニウムの単体及び/又はその化合物とを混合する工程になる。
以下に、上記担体にルテニウム及び/又はその酸化物を担持するための工程、及び、上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持するための工程のそれぞれについて説明し、その後に亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体を得る方法について説明する。
【0035】
(1)担体にルテニウム及び/又はその酸化物を担持するための工程
上記担体にルテニウム及び/又はその酸化物を担持するための工程に用いるルテニウム化合物としては、ルテニウム元素を含むいずれの化合物であってもよく、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム、ルテニウムアセチルアセトナート、ルテニウムシアン酸カリウム、ルテニウム酸ナトリウム、ルテニウム酸カリウム、ドデカカルボニル三ルテニウム、硝酸ニトロシルルテニウム、トリス(ジピバロイルメタナト)ルテニウム、塩化ヘキサアンミンルテニウム、ヒドロキソニトロシルテトラアンミンルテニウム硝酸塩等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウムが好ましい。
【0036】
上記担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体とルテニウム種とを混合する工程は、乾式混合でも湿式混合でもよい。ルテニウム及び/又はその酸化物をより十分に担体に担持させることができるため、湿式混合で行うことがより好ましい。
湿式混合に用いる溶媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル化合物等を使用することができ、水が好ましい。
【0037】
上記担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体とルテニウム種の混合を溶媒を用いて行う場合、ルテニウム種を溶媒に溶解させ、ルテニウム種の溶液とした後に担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体と混合することが好ましい。このようにすることで、ルテニウム種をより細かく担体表面に存在せしめることができ、ルテニウム種の有効表面積を大きくすることができる。
【0038】
上記ルテニウム種の溶液を担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体と混合する場合、ルテニウム種の溶液に担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体を添加した後、攪拌してもよく、そのまま静置してもよい。
【0039】
上記担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体とルテニウム種を混合する工程におけるルテニウム種の使用量は、アンモニア分解触媒全体の重量100重量部に対して、ルテニウム及び/又はその酸化物の担持量がルテニウム金属元素換算で0.1~30重量部となる量であることが好ましい。このような割合で用いると、ルテニウム種をより細かく担体表面に存在せしめることができ、ルテニウム種の有効表面積を大きくすることができる。より好ましくは、ルテニウム及び/又はその酸化物の担持量が0.5~20重量部となる量であり、更に好ましくは、ルテニウム及び/又はその酸化物の担持量が1~10重量部となる量である。
【0040】
上記担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体とルテニウム種を混合する工程において、溶媒を使用する場合、焼成工程の前に溶媒を除去することが好ましい。これにより焼成工程を効率的に行うことができる。
溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、混合物を加熱する方法が好ましい。加熱温度は、60~150℃が好ましく、より好ましくは80~120℃である。
また加熱時間は5~30時間であることが好ましい。より好ましくは、10~20時間である。
【0041】
上記担体、又は、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持した担体とルテニウム種との混合物を焼成する工程において、焼成する温度は、100~1000℃であることが好ましい。より好ましくは、200~700℃である。更に好ましくは、200~500℃である。
また焼成する時間は、10~300分であることが好ましい。より好ましくは、30~120分である
【0042】
上記焼成は、還元雰囲気、不活性雰囲気、又は真空雰囲気下で行うことが好ましい。還元雰囲気としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス中に水素等の還元性ガスを0を超え100vol%以下含む雰囲気を用いることができる。
【0043】
(2)担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持するための工程
上記担体に電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物を担持するための工程に用いる電気陰性度がチタンより低い金属元素の化合物としては、特に限定されないが、酸化物、水酸化物、窒化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、塩酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
電気陰性度がチタンより低い金属元素は上述したとおりである。
【0044】
上記担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と低電気陰性度金属種とを混合する工程は、乾式混合でも湿式混合でもよい。電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物をより十分に担体に担持させることができるため、湿式混合で行うことがより好ましい。
湿式混合に用いる溶媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル化合物等を使用することができ、水が好ましい。
【0045】
上記担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と低電気陰性度金属種の混合を溶媒を用いて行う場合、低電気陰性度金属種を溶媒に溶解させ、低電気陰性度金属種の溶液とした後に担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と混合することが好ましい。このようにすることで、低電気陰性度金属種をより細かく担体表面に存在せしめることができ、低電気陰性度金属種の有効表面積を大きくすることができる。
【0046】
上記低電気陰性度金属種の溶液を上記担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と混合する場合、低電気陰性度金属種の溶液に担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体を添加した後、攪拌してもよく、そのまま静置してもよい。
【0047】
上記担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と低電気陰性度金属種とを混合する工程における低電気陰性度金属種の使用量は、アンモニア分解触媒全体の重量100重量部に対して、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物の合計の担持量が金属元素換算で0.1~50重量部となる量であることが好ましい。このような割合で用いると、低電気陰性度金属種をより細かく担体表面に存在せしめることができ、低電気陰性度金属種の有効表面積を大きくすることができる。より好ましくは、電気陰性度がチタンより低い金属元素の単体及び/又はその化合物の担持量の合計が金属元素換算で0.2~40重量部となる量であり、更に好ましくは0.5~30重量部となる量であり、特に好ましくは1~20重量部となる量である。
【0048】
上記担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と低電気陰性度金属種を混合する工程において、溶媒を使用する場合、焼成工程の前に溶媒を除去することが好ましい。これにより焼成工程を効率的に行うことができる。
溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、低電気陰性度金属種混合物を加熱する方法が好ましい。加熱温度は60~150℃が好ましく、より好ましくは80~120℃である。
また加熱時間は1~30時間であることが好ましい。より好ましくは、1~10時間である。
【0049】
上記担体、又は、ルテニウム及び/又はその酸化物を担持した担体と低電気陰性度金属種との混合物を焼成する工程において、焼成する温度は、100~1000℃であることが好ましい。より好ましくは、200~700℃である。更に好ましくは、200~500℃である。
また焼成する時間は、10~300分であることが好ましい。より好ましくは、30~120分である。
【0050】
上記焼成は、還元雰囲気、不活性雰囲気、又は真空雰囲気下で行うことが好ましい。還元雰囲気としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス中に水素等の還元性ガスを0を超え、100vol%以下含む雰囲気を用いることができる。
【0051】
(3)亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体を得る方法
本発明のアンモニア分解触媒に用いる亜酸化チタンは、酸化チタンを還元することで得ることができる。
酸化チタンを還元する方法は特に制限されないが、酸化チタンを還元雰囲気、不活性雰囲気、又は真空雰囲気下で焼成する方法や、水素化チタンと共に焼成する方法のいずれか又は両方を用いることができる。
【0052】
本発明のアンモニア分解触媒における担体は、亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含むものであればよく、製造方法は特に制限されないが、酸化チタンとケイ素及び/又はその酸化物を還元することで得ることが好ましい。
【0053】
酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物におけるケイ素及び/又はその酸化物の割合は、酸化チタンとケイ素及び/又はその酸化物の合計100重量部に対して、二酸化ケイ素換算で1~50重量部であることが好ましい。より好ましくは5~30重量部であり、更に好ましくは、10~20重量部である。
【0054】
上記酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を還元して担体を得る際に、担体の比表面積を大きくする作用のある成分を添加してもよい。
担体の比表面積を大きくする作用のある成分としては、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム、ランタン等の元素の単体及び/又は酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの成分は、亜酸化チタンとともにルテニウムを担持させる担体として作用する。
【0055】
上記担体の比表面積を大きくする作用のある成分の添加量は、亜酸化チタンの原料として使用する酸化チタンに含まれるチタン元素100重量部に対して、該成分に含まれるアルミニウム、亜鉛、ジルコニウム、ランタン等の元素が0.1~50重量部となる量であることが好ましい。より好ましくは、1~20重量部となる量である。
【0056】
上記酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を還元する際の還元雰囲気での焼成は、500~1300℃で行うことが好ましい。より好ましくは、600~1000℃である。
昇温速度としては特に制限されないが、100~500℃/hrであることが好ましい。より好ましくは200~400℃/hrである。
また還元雰囲気での焼成時間は1~100時間であることが好ましい。より好ましくは、2~50時間である。
還元雰囲気としては、上述したルテニウム種混合物や低電気陰性度金属種混合物を還元雰囲気下で焼成する場合と同様の雰囲気で行うことができる。
【0057】
3.水素の製造方法
本発明のアンモニア分解触媒は、アンモニアを分解して水素を製造する反応に好適に用いることができる。このような本発明のアンモニア分解触媒を用いてアンモニアを分解する工程を含む水素の製造方法もまた、本発明の1つである。
上記水素を製造する方法は、アンモニアガスをアンモニア分解触媒に供給して行う方法が好ましい。
【0058】
アンモニアの分解反応における反応の温度は、300~700℃であることが好ましい。より好ましくは、400~600℃である。
また反応の圧力は、0.1~0.6MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.1~0.3MPaである。
【実施例0059】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」とは「重量%」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0060】
<実施例1>
(1)二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1の作製
アナタース型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「SSP-M」、比表面積270m/g)15.8g、二酸化ケイ素(シグマアルドリッチ社製、商品名「シリカ」)2.8gを乾式混合した後、アルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて5vol%水素/95vol%窒素混合ガスを流通しながら、900℃まで300℃/hrで昇温し、900℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却して二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を得た。
(2)実施例1粉末の作製
硝酸ルテニウム溶液(ルテニウムとして50.47mg/ml、田中貴金属工業社製)4.274gとイオン交換水8mlを秤量して蒸発皿に入れ、攪拌した後、二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を3.00g秤量して前記蒸発皿に入れ、30分間攪拌した。120℃設定のホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例1粉末を得た。
【0061】
<実施例2>
実施例1で得られた二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を3.00g、硝酸カルシウム・四水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)1.77gをイオン交換水9mL中に入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末1を得た。得られた乾燥粉末1をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して乾燥粉末2を得た。硝酸ルテニウム溶液(ルテニウムとして50.47mg/ml、田中貴金属工業社製)4.274gとイオン交換水8mlを秤量して蒸発皿に入れ、攪拌した後、乾燥粉末2を3.00g秤量して前記蒸発皿に入れ、30分間攪拌した。120℃設定のホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末3を得た。得られた乾燥粉末3をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例2粉末を得た。
【0062】
<実施例3>
実施例1で得られた二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を3.00g、硝酸カルシウム・四水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)1.77g、及び炭酸セシウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.37gをイオン交換水9mL中に入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末4を得た。得られた乾燥粉末4をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して乾燥粉末5を得た。硝酸ルテニウム溶液(ルテニウムとして50.47mg/ml、田中貴金属工業社製)4.274gとイオン交換水8mlを秤量して蒸発皿に入れ、攪拌した後、乾燥粉末5を3.00g秤量して前記蒸発皿に入れ、30分間攪拌した。120℃設定のホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末6を得た。得られた乾燥粉末6をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例3粉末を得た。
【0063】
<実施例4>
(1)二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体2の作製
アナタース型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「SSP-M」、比表面積270m/g)15.8g、二酸化ケイ素(シグマアルドリッチ社製、商品名「シリカ」)4.0gを乾式混合した後、アルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて5vol%水素/95vol%窒素混合ガスを流通しながら、900℃まで300℃/hrで昇温し、900℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却して二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体2を得た。
(2)実施例4粉末の作製
更に、実施例1(2)実施例1粉末の作製における二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体2に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4粉末を得た。
【0064】
<実施例5>
(1)二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体3の作製
アナタース型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「SSP-M」、比表面積270m/g)15.8g、二酸化ケイ素(シグマアルドリッチ社製、商品名「シリカ」)0.8gを乾式混合した後、アルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて5vol%水素/95vol%窒素混合ガスを流通しながら、900℃まで300℃/hrで昇温し、900℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却して二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体3を得た。
(2)実施例5粉末の作製
更に、実施例1(2)実施例1粉末の作製における二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体3に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5粉末を得た。
【0065】
<実施例6>
(1)二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体4の作製
ルチル型酸化チタン(堺化学工業株式会社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m/g)2.0g、二酸化ケイ素(シグマアルドリッチ社製、商品名「シリカ」)0.35gをアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて100%アンモニアを400ml/分で流通しながら800℃まで300℃/hrで昇温し、800℃で6時間保持した後、室温まで自然冷却し、二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体4を得た。
(2)実施例6粉末の作製
更に、実施例1(2)実施例1粉末の作製における二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体4に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6粉末を得た。
【0066】
<実施例7>
実施例1で得られた二酸化ケイ素含有亜酸化チタン担体1を5.00g及び塩化セリウム・七水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)7.60g、イオン交換水100gをビーカーに計量して攪拌混合し、亜酸化チタンスラリー1を得た。亜酸化チタンスラリー1を攪拌しながら、1.0Nの水酸化ナトリウム水溶液67gを添加し攪拌混合した。その後、液温80℃になるまで加熱し温度保持しながら3時間攪拌を行った。得られた反応物を濾過、水洗、乾燥して水分を全て蒸発させて、乾燥粉末7を得た。得られた乾燥粉末7をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して乾燥粉末8を得た。硝酸ルテニウム溶液(ルテニウムとして50.47mg/ml、田中貴金属工業社製)4.274gとイオン交換水8mlを秤量して蒸発皿に入れ、攪拌した後、乾燥粉末8を3.00g秤量して前記蒸発皿に入れ、30分間攪拌した。120℃設定のホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末9を得た。得られた乾燥粉末9をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例7粉末を得た。
【0067】
<比較例1>
硝酸ルテニウム溶液(ルテニウムとして50.47mg/ml、田中貴金属工業社製)4.274gとイオン交換水8mlを秤量して蒸発皿に入れ、攪拌した後、酸化チタン担体1(堺化学工業社製、商品名「CSP-M」比表面積159m/g)を3.00g秤量して前記蒸発皿に入れ、30分間攪拌した。120℃設定のホットスターラー上で加熱し、乾燥粉末10を得た。得られた乾燥粉末10をアルミナボートに入れ、雰囲気焼成炉にて窒素中に10vol%の水素を含む混合ガスを200ml/分で流通しながら、300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例1粉末を得た。
【0068】
実施例1~7、比較例1で得られた触媒について、下記の方法により、酸化チタンの組成式TiOxのx値、担体の比表面積、L*a*b*表色系における明度L*値、色度a*値、b*値、担体の体積抵抗値、担体における二酸化ケイ素の割合、担持金属元素の担持量、担体の塩基性度、アンモニア分解活性の評価を行った。結果を表1~4に示す。
【0069】
<酸化チタンの組成式TiOxのx値の算出>
酸化チタンの組成式TiOxにおけるx値は、以下に示す手順で熱処理前後の重量変化を測定することにより算出した。
所定量の測定対象の酸化チタン粉末を予め、乾燥機(ヤマト科学株社製、送風定温恒温器、DKM600)にて100℃で1時間乾燥して吸着水分を除去した後、電子天秤(島津製作所製、分析天秤、ATX224)を用いて約1gを磁性るつぼに秤量し、更に電気炉(日陶科学社製、卓上型電気炉、NHK-120H-II)を用いて大気雰囲気下、900℃で1時間、熱処理を行うことにより、完全なTiO(x=2.00)の状態に変化させた。熱処理後のるつぼをガラス製のデシケーター内に移して室温まで放冷したのち、再び秤量した。熱処理前後の重量増分がTiOからの酸素欠陥量に相当するものとして、熱処理前の酸化チタンの組成式をTiOx、重量をW(g)、熱処理後の重量をW(g)、Tiの原子量をM、Oの原子量をMとしたとき、
熱処理前のTiOxのモル数=W/(M+x1M
熱処理後のTiOのモル数=W/(M+2M
であり、熱処理前後でTiOxとTiOのモル数は変化しないことから、
/(M+x1M)=W/(M+2M
である。従って、xについて解くと、
=(W(M+2M)-W)/W
となる。上記式より、x1を算出した。
更に、熱処理前の測定対象の酸化チタンに付着した水分の熱処理による重量変化の影響を除外するため、酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m/g)を予め上記熱処理した粉末を標準粉末として調製し、更に標準粉末を再度上記熱処理し、熱処理前後の重量増分から算出した酸化チタンの組成式TiOxにおけるx1の値をxSTDとし、実施例、比較例粉末に対して上記方法で算出したx値に対して、2/xSTDを乗算し、酸化チタンの組成式TiOxにおけるx値とした。また、上記2/xSTDを乗算した後の値が2を超える場合は、過剰に付着した水分の影響とみなし、x=2とした。
【0070】
<担持金属元素の担持量>
走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII(リガク社製)を用いて、試料中の担持金属元素の含有量を測定し、担持量を算出した。
【0071】
<担体の比表面積>
JIS Z8830(2013年)の規定に準じ、試料を窒素雰囲気中、200℃で60分間熱処理した後、比表面積測定装置(マウンテック社製、商品名「Macsorb HM-1220」)を用いて、比表面積(BET-SSA)を測定した。
【0072】
<担体の塩基性度>
CO-TPD(二酸化炭素昇温脱離法)は、固体触媒に二酸化炭素を吸着させた後、一定の昇温速度に制御して連続的に昇温させて脱離するCO量及びCOの脱離温度を測定する方法である。固体触媒の塩基点のうち、弱い塩基点に吸着している二酸化炭素は低温で脱離し、強い塩基点に吸着している二酸化炭素は高温で脱離することから、触媒の塩基量や塩基強度を測定することができる。触媒分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BEL-CAT」)を用いて、二酸化炭素昇温脱離法によるCO-TPD測定を行い、担体の塩基性を評価した。ピークの検出は、熱伝導度型検出器を用いて行った。以下のような条件で、前処理、CO吸着処理を順に行った後、TPD測定を行い、50~600℃におけるCO脱離温度を測定した。なお、CO脱離温度は担体の塩基性度を示しており、CO脱離温度が高いほど塩基性度が高いことを示す。
・前処理:Heガス中600℃まで20分で昇温し、30分間保持する。Heガス中50℃まで任意の時間で降温し、10分間保持する。
・CO吸着処理:50℃、5%CO/He混合ガス50ml/minで30分間COを吸着する。
・TPD測定:Heガスを30mL/minで流通し、昇温速度10℃/minで600℃まで昇温する。
【0073】
<L*a*b*表色系における明度L*値、色度a*値、b*値>
測色計(日本電色工業社製、商品名「SE2000」)を用いて、L*a*b*表色系における明度L*値、色度a*値、b*値を測定した。
【0074】
<担体の体積抵抗率(体積抵抗値、体積固有抵抗とも称す)>
以下の手順に従い、体積抵抗率(Ω・cm)の値を求めた。
1)四探針プローブを底面に備えたプレス治具(直径20mm)にサンプル粉末を投入し、粉体抵抗測定システムの加圧部にセットした。
2)粉体プレス部を20kNまで加圧した後、粉体厚みをデジタルノギスで測定、抵抗値を高抵抗測定装置で測定した。
3)粉体の厚み、抵抗値から、下記数式に基づき体積抵抗率(Ω・cm)の値を求めた。(体積抵抗率)=(抵抗値)×(抵抗率補正係数)×(厚み)
【0075】
<X線回折パターン(XRD測定)>
下記条件の下、X線回折装置(リガク社製、商品名「RINT-TTR3」)を用いて、粉末X線回折パターンを測定した。
X線源:Cu-Kα線
測定範囲:2θ=10~70°
スキャンスピード:5°/min
電圧:50kV
電流:300mA
【0076】
<アンモニア分解活性評価1>
実施例1から3及び比較例1の粉末1.0gをφ20mmの金型に入れ、加圧プレス機を用いて圧力30MPaでプレスし、ペレットを得た。得られたペレットを目開き1.4mmの篩を通過するように粉砕し、通過した成形粉末を更に目開き600μmの篩にかけた。目開き600μm篩の上の成形粉末を回収し、アンモニア分解活性評価用サンプルを得た。得られたアンモニア分解活性評価用サンプルをφ1cm、長さ38cmの石英管の中央に固定し、石英管を赤外炉にセットした。当該石英管に常圧で窒素200ml/分流通し、5分間保持した。次に、水素180ml/分流通しながら350℃まで35分間かけて昇温し、3時間保持し、500℃まで15分間かけて昇温した。その後、アンモニア23ml/分、水素30ml/分の混合ガスを流通しながら、500℃で30分間保持した。400℃まで30分間かけて降温し、30分間保持した。更に、300℃まで30分間かけて降温し、30分間保持した。各温度での30分間保持中の平均回収ガス量をマスフローコントローラーにより確認した。また、石英管から流出したガスは希硫酸中に通し、回収ガス中に存在するアンモニアガスを中和しているため、回収ガス中にはアンモニアガスが分解して生成した窒素ガスと水素ガスのみであるとみなした。アンモニア分解率は以下の式から算出した。
アンモニア分解率=(平均回収ガス量-流した水素ガス量)/(流通したアンモニアガス全量が分解すると仮定した際の生成ガス量)
【0077】
<アンモニア分解活性評価2>
アンモニア分解活性評価1で最も高活性であった実施例3及び実施例3のCa及びCsをCeに置き換えた実施例7を使用し、アンモニアガスの流量増加に対するアンモニア分解率への影響を評価した。
実施例3及び7の粉末1.0gをφ20mmの金型に入れ、加圧プレス機を用いて圧力30MPaでプレスし、ペレットを得た。得られたペレットを目開き1.4mmの篩を通過するように粉砕し、通過した成形粉末を更に目開き600μmの篩にかけた。目開き600μm篩の上の成形粉末を回収し、アンモニア分解活性評価用サンプルを得た。得られたアンモニア分解活性評価用サンプルをφ1cm、長さ38cmの石英管の中央に固定し、石英管を赤外炉にセットした。当該石英管に常圧で窒素200ml/分流通し、5分間保持した。次に、水素180ml/分流通しながら350℃まで105分間かけて昇温し、2時間保持し、450℃まで30分間かけて昇温した。その後、アンモニア150ml/分、窒素60ml/分の混合ガスを流通しながら、450℃で15分間保持した。400℃まで15分間かけて降温し、15分間保持した。各温度保持中の生成ガスを攪拌状態にある0.3Mの硫酸水溶液中に吹込み、当該硫酸水溶液の300秒当たりの電気伝導率の変化を電気伝導率(装置名ポータブル電気伝導率計CM-31P、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて測定し、15分の平均変化量を求め、予め測定した検量線からアンモニア分解率を算出した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
上記結果より、実施例1~7は所定の組成式で表される亜酸化チタン並びにケイ素及び/又はその酸化物を含む担体を用いることにより、酸化チタン担体を用いた比較例1よりも塩基性度が高いことが明らかとなった。また、表3に示すように、実施例1~3については300~500℃において、アンモニア分解反応における触媒活性に優れることが明らかとなった。また、助触媒としてアルカリ金属、アルカリ土類金属元素を担持した実施例2,3については実施例1に比べアンモニア分解活性がより向上していることが理解できる。
さらに、表4に示すように、助触媒として希土類元素を担持した実施例7については、400~450℃において、実施例3に比べアンモニア分解活性がより向上していることが理解できる。
このように本発明のアンモニア分解触媒は、低温で高いアンモニア分解活性を発揮することが明らかとなった。