(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074061
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230522BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186806
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】595109708
【氏名又は名称】ナパック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 尚実
(72)【発明者】
【氏名】堂薗 健次
(72)【発明者】
【氏名】山根 美海
(72)【発明者】
【氏名】勝田 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 広明
(72)【発明者】
【氏名】井上 宣幸
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062CD05
5E062CE04
5E062CF02
5E062CF04
(57)【要約】
【課題】より磁粉の配向度を高くすることが可能なボンド磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】このボンド磁石10の製造方法は、磁粉スラリー20に対して磁粉11を配向するための静磁場B1およびパルス磁場B2の両方を印加する磁場印加工程(S32)を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉と溶媒とを混合して磁粉スラリーを形成するスラリー形成工程と、
前記スラリー形成工程の後、前記磁粉スラリーを圧縮成形して磁粉圧縮成形体を形成する湿式圧縮成形工程と、
前記スラリー形成工程の後、前記磁粉スラリーに対して前記磁粉を配向するための静磁場およびパルス磁場の両方を印加する磁場印加工程と、
前記湿式圧縮成形工程および前記磁場印加工程の後、前記磁粉圧縮成形体に対して前記磁粉同士を結合するための硬化樹脂を含侵する樹脂含浸工程と、を備える、ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記磁場印加工程は、前記磁粉スラリーに対して前記静磁場および前記静磁場よりも大きな前記パルス磁場を印加する工程である、請求項1に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記磁場印加工程は、前記湿式圧縮成形工程において前記磁粉スラリーを圧縮成形している間、前記磁粉スラリーに対して継続的に前記静磁場を印加する工程である、請求項1または2に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記湿式圧縮成形工程は、前記磁粉スラリーを段階的に圧縮成形して前記磁粉圧縮成形体を形成する工程であり、
前記磁場印加工程は、前記湿式圧縮成形工程における前記磁粉スラリーに対する圧縮成形の段階に応じて前記パルス磁場を印加する工程である、請求項1~3のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
前記湿式圧縮成形工程は、前記磁粉スラリーの下方からの吸引により、前記磁粉スラリーから前記溶媒を除去しながら、前記磁粉圧縮成形体を形成する工程である、請求項4に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
前記湿式圧縮成形工程は、前記磁粉スラリーの下方に配置されたフィルターによる濾過および前記フィルターの下方からの吸引により、前記磁粉スラリーから前記溶媒を除去しながら、前記磁粉圧縮成形体を形成する工程である、請求項5に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂含浸工程は、真空中において、前記磁粉圧縮成形体に対して前記硬化樹脂を含侵する工程である、請求項4~6のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂含浸工程は、真空にされた後に加圧された空気中において、前記磁粉圧縮成形体に対して前記硬化樹脂を含侵する工程である、請求項7に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂含浸工程は、前記磁粉圧縮成形体に対して前記硬化樹脂としての熱硬化性樹脂を含侵する工程であり、
前記樹脂含浸工程の後、前記磁粉圧縮成形体に対して含浸された前記熱硬化性樹脂を熱硬化させる工程をさらに備える、請求項7または8に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項10】
前記湿式圧縮成形工程および前記磁場印加工程の後、前記磁粉圧縮成形体に対して互いに逆方向のパルス状の磁場が交互にかつ徐々に減少する交番減衰磁界を印加して前記磁粉圧縮成形体の前記磁粉を脱磁する脱磁工程をさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湿式圧縮成形されるボンド磁石の製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、湿式圧縮成形されるボンド磁石の製造方法が開示されている。上記特許文献1に記載のボンド磁石の製造方法では、磁粉と樹脂バインダーとが混合されたスラリーが形成される。そして、スラリーが加圧されることによって、スラリーから余剰な液状成分が搾り出されながら、スラリーが圧縮成形される。すなわち、湿式圧縮成形が行われる。また、湿式圧縮成形の際には、スラリーに対して磁粉を配向するための磁場が印加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には記載されていないが、上記特許文献1に記載のようなボンド磁石の製造方法では、スラリーに対して磁粉を配向するために印加される磁場は、静磁場であると考えられる。静磁場は、一般的に、コイルの内側に鉄芯を配置した電磁石において、コイルに一定の直流電流を継続的に流すことによって印加される。しかしながら、コイルの内側に鉄芯を配置した電磁石により静磁場を印加する場合、鉄芯の磁気飽和に起因する印加可能な静磁場の最大値に制約がある。このため、スラリーに対して比較的大きな磁界を印加するのが難しい。すなわち、磁粉の配向度(配向度合い)を高くするのが比較的難しい。このため、より磁粉の配向度を高くすることが可能なボンド磁石の製造方法が望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、より磁粉の配向度を高くすることが可能なボンド磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるボンド磁石の製造方法は、磁粉と溶媒とを混合して磁粉スラリーを形成するスラリー形成工程と、スラリー形成工程の後、磁粉スラリーを圧縮成形して磁粉圧縮成形体を形成する湿式圧縮成形工程と、スラリー形成工程の後、磁粉スラリーに対して磁粉を配向するための静磁場およびパルス磁場の両方を印加する磁場印加工程と、湿式圧縮成形工程および磁場印加工程の後、磁粉圧縮成形体に対して磁粉同士を結合するための硬化樹脂を含侵する樹脂含浸工程と、を備える。
【0008】
この発明の一の局面におけるボンド磁石の製造方法では、上記のように、磁場印加工程において、磁粉スラリーに対して磁粉を配向するための静磁場およびパルス磁場の両方を印加する。これにより、磁粉スラリーに対して静磁場のみが印加される場合と比較して、静磁場に加えてパルス磁場も印加される分だけ、磁粉スラリーに対して磁粉を配向するために印加される磁場の総和を大きくすることができる。その結果、静磁場のみが印加される場合と比較して、より磁粉の配向度(配向度合い)を高くすることができる。なお、パルス磁場は瞬間的に印加される磁場であるので、静磁場を継続的に印加する場合と異なり、コイルの過度な加熱が生じにくい。また、パルス磁場の印加には一般的に鉄芯が用いられないので、鉄芯の磁気飽和に起因する印加可能な磁場の最大値の制約がない。したがって、静磁場と比較して大きなパルス磁場を瞬間的に印加することが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のように、より磁粉の配向度を高くすることが可能なボンド磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態によるボンド磁石の構成を説明するための図である。
【
図2】一実施形態によるボンド磁石の製造フローを示す図である。
【
図3】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおけるスラリー形成工程を説明するための図である。
【
図4】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおけるスラリー充填工程を説明するための図である。
【
図5】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける湿式圧縮工程を説明するための第1の図である。
【
図6】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける磁場印加工程を説明するための第2の図である。
【
図7】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける磁場印加工程を説明するための第3の図である。
【
図8】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける磁場印加工程のパルス磁場の印加タイミングを説明するための図である。
【
図9】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける樹脂含浸工程を説明するための第1の図である。
【
図10】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける樹脂含浸工程を説明するための第2の図である。
【
図11】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける樹脂含浸工程を説明するための第3の図である。
【
図12】一実施形態によるボンド磁石の製造フローにおける熱硬化工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(ボンド磁石の構成)
図1を参照して、本発明の一実施形態によるボンド磁石10の構成について説明する。
【0013】
図1に示すように、ボンド磁石10は、磁粉11と、熱硬化性樹脂12と、を含む。磁粉11は、たとえば、Sm-Fe-N系の磁粉、Ne-Fe-B系の磁粉、等である。熱硬化性樹脂12は、磁粉11同士を結合するためのバインダーである。熱硬化性樹脂12は、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、等である。ボンド磁石10は、回転電機のロータの内部(磁石挿入孔)に挿入されて固定される永久磁石として用いられる。なお、熱硬化性樹脂12は、特許請求の範囲の「硬化樹脂」の一例である。
【0014】
(ボンド磁石の製造方法)
図2~
図12を参照して、本発明の一実施形態によるボンド磁石10の製造方法について説明する。
【0015】
<スラリー形成工程>
まず、
図2に示すように、ステップS10において、スラリー形成工程が行われる。
図3に示すように、スラリー形成工程(S10)は、磁粉11と溶媒21とを混合して磁粉スラリー20を形成する工程である。なお、磁粉スラリー20には、磁粉11と溶媒21以外の材料(たとえば、成形助剤)が含まれてもよい。
【0016】
<スラリー充填工程>
次に、
図2に示すように、ステップS20において、スラリー充填工程が行われる。
図4に示すように、スラリー充填工程(S20)は、磁粉スラリー20を圧縮成形用の金型60に充填する工程である。
【0017】
<湿式圧縮成形工程>
次に、
図2に示すように、ステップS31において、湿式圧縮成形工程が行われる。
図5~
図7に示すように、湿式圧縮成形工程(S31)は、磁粉スラリー20を圧縮成形して磁粉圧縮成形体30を形成する工程である。具体的には、
図5に示すように、圧縮成形用の金型60に充填された磁粉スラリー20の上方に圧縮成形用の金型60の上パンチ61が下降され、上パンチ61の先端(下端)が位置P1に位置する状態となる。そして、
図6に示すように、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって加圧されることにより、磁粉スラリー20が圧縮される。なお、磁粉スラリー20が圧縮されるのに伴って、磁粉スラリー20に対する上パンチ61の先端の位置は上方から下方に移動する。そして、
図7に示すように、磁粉スラリー20に対する上パンチ61による加圧が停止され、上パンチ61の先端が位置P1よりも下方の位置P2に位置する状態となる。これにより、磁粉スラリー20が圧縮成形された磁粉圧縮成形体30が形成される。なお、後述するように、磁粉スラリー20が圧縮される際に、磁粉スラリー20から溶媒21が滲み出る。
【0018】
なお、湿式圧縮成形を行うことよって、溶媒21の潤滑効果により、磁粉11同士の間に圧縮力が伝播し易くなる。したがって、乾式圧縮成形を行う場合と比較して、成形パンチ(上パンチ61)から離れた磁粉11まで圧縮力が伝播されるので、磁粉11の充填密度が高い磁粉圧縮成形体30を形成することができる。また、溶媒21の潤滑効果により、磁粉11同士の摩擦に起因する磁粉11の回転の阻害が生じにくい。したがって、乾式圧縮成形を行う場合と比較して、磁粉11を配向するための磁場が印加された際に磁粉11が配向され易くなるので、磁粉11の配向度(配向度合い)が高い磁粉圧縮成形体30を形成することができる。また、磁粉11が溶媒21に包まれることにより、乾式圧縮成形を行う場合と比較して、磁粉11の飛散や粉塵爆発等が生じるのを容易に回避することができる。
【0019】
また、湿式圧縮成形工程(S31)は、磁粉スラリー20を段階的に圧縮成形して磁粉圧縮成形体30を形成する工程である。具体的には、
図8に示すように、上パンチ61の先端(下端)が位置P1となるように上パンチ61が下方に下降した後、所定の時間、上パンチ61の先端が位置P1に留るように、上パンチ61の下降が停止される。そして、上パンチ61の先端が位置P1から位置P1と位置P2との間の位置P3まで下降される。そして、所定の時間、上パンチ61が位置P3に留るように、上パンチ61の下降が停止される。そして、上パンチ61の先端が位置P3から位置P3と位置P2との間の位置P4まで下降される。そして、所定の時間、上パンチ61の先端が位置P4に留るように、上パンチ61の下降が停止される。そして、上パンチ61の先端が位置P4から位置P2まで下降される。そして、所定の時間、上パンチ61の先端が位置P2に留るように、上パンチ61の下降が停止される。そして、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって加圧されなくなり、磁粉スラリー20の圧縮が終了する。なお、上パンチ61の先端が、位置P1から位置P3に下降する際、位置P3から位置P4に下降する際、および、位置P4から位置P2に下降する際には、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって比較的な大きな力で加圧される。
【0020】
また、
図6に示すように、湿式圧縮成形工程(S31)は、磁粉スラリー20の下方からの吸引により、磁粉スラリー20から溶媒21を除去しながら、磁粉圧縮成形体30を形成する工程である。これにより、吸引が行われることによって、磁粉スラリー20が圧縮される際に、磁粉スラリー20から溶媒21が吸引方向に滲み出やすくなるとともに、磁粉スラリー20から滲み出た溶媒21が吸引方向に誘導されるので、磁粉スラリー20からの溶媒21の除去を促進させることができる。
【0021】
具体的には、圧縮成形用の金型60の下パンチ62には、溶媒除去用の複数の孔62aが形成されている。複数の孔62aの各々は、下パンチ62の内部に上下方向に延びるように形成されている。複数の孔62aの各々は、下パンチ62の下部において、吸引ポンプ63に接続されている。磁粉スラリー20が圧縮されている間、吸引ポンプ63による吸引が行われる。磁粉スラリー20が圧縮されている間、磁粉スラリー20の下方には、磁粉スラリー20から溶媒21が滲み出る。滲み出た溶媒21は、下パンチ62に形成された複数の孔62aを介して、吸引ポンプ63によって吸引される。
【0022】
また、湿式圧縮成形工程(S31)は、磁粉スラリー20の下方に配置されたフィルター64による濾過およびフィルター64の下方からの吸引により、磁粉スラリー20から溶媒21を除去しながら、磁粉圧縮成形体30を形成する工程である。これにより、フィルター64による濾過および吸引の両方が行われることによって、磁粉スラリー20が圧縮される際に、磁粉スラリー20から溶媒21が、フィルター64が配置されている吸引方向に滲み出やすくなるとともに、磁粉スラリー20からフィルター64に滲み出た溶媒21が吸引方向に誘導されるので、磁粉スラリー20からの溶媒21の除去をより促進させることができる。
【0023】
具体的には、磁粉スラリー20と圧縮成形用の金型60の下パンチ62との間には、フィルター64が配置されている。フィルター64は、たとえば、織布、不織布、金属メッシュ、多孔質材である。磁粉スラリー20が圧縮されている間、磁粉スラリー20の下方に滲み出た溶媒21が、磁粉スラリー20の下方に配置されたフィルター64に吸収される。フィルター64に吸収された溶媒21は、下パンチ62に形成された複数の孔62aを介して、吸引ポンプ63によって吸引される。
【0024】
<磁場印加工程>
図2に示すように、ステップS32において、湿式圧縮成形工程(S31)と同様に、スラリー充填工程(S20)の後、磁場印加工程が行われる。
図6に示すように、磁場印加工程(S32)は、磁粉スラリー20に対して磁粉11を配向するための静磁場B1およびパルス磁場B2の両方を印加する工程である。これにより、磁粉スラリー20に対して静磁場B1のみが印加される場合と比較して、静磁場B1に加えてパルス磁場B2も印加される分だけ、磁粉スラリー20に対して磁粉11を配向するために印加される磁場の総和を大きくすることができる。その結果、静磁場B1のみが印加される場合と比較して、より磁粉11の配向度(配向度合い)を高くすることができる。なお、パルス磁場B2は瞬間的に印加される磁場であるので、静磁場B1を継続的に印加する場合と異なり、コイルの過度な加熱が生じにくい。また、パルス磁場B2は一般的に鉄芯が用いられないので、鉄芯の磁気飽和に起因する印加可能な磁場の最大値の制約がない。したがって、静磁場B1と比較して大きなパルス磁場B2を瞬間的に印加することが可能である。
【0025】
具体的には、磁粉スラリー20が圧縮される際に、磁粉スラリー20に対して磁粉11を配向するための静磁場B1およびパルス磁場B2が印加される。静磁場B1は、たとえば、コイルに対して一定の電流を流すことによって印加される。パルス磁場B2は、たとえば、コンデンサに貯めた電荷を瞬時に放出してコイルに対して電流を流すことによって印加させる。すなわち、
図8に示すように、静磁場B1は、継続的に印加される。また、パルス磁場B2は、瞬間的にかつ複数回に渡って印加される。
【0026】
また、磁場印加工程(S32)は、磁粉スラリー20に対して静磁場B1および静磁場B1よりも大きなパルス磁場B2を印加する工程である。たとえば、パルス磁場B2の大きさは、静磁場B1の大きさの数倍である。これにより、磁粉スラリー20に対して比較的大きなパルス磁場B2を印加することによって、磁粉11の配向度(配向度合い)を大きく向上させることができる。また、パルス磁場B2を比較的大きくする分だけ、静磁場B1を過度に大きくする必要がないので、コイルの過度な加熱や鉄芯の磁気飽和が生じないように、静磁場B1を継続的に印加することができる。
【0027】
また、磁場印加工程(S32)は、湿式圧縮成形工程(S31)において磁粉スラリー20を圧縮成形している間、磁粉スラリー20に対して継続的に静磁場B1を印加する工程である。具体的には、磁粉スラリー20に対する静磁場B1は、湿式圧縮成形工程(S31)において、上パンチ61の先端(下端)が位置P1に位置するように上パンチ61が下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P2に位置するように上パンチ61が下降する直前まで、継続的に印加される。これにより、湿式圧縮成形工程(S31)において磁粉スラリー20が圧縮されている間の殆ど全ての期間において、磁粉スラリー20に対して磁場が印加された状態となるので、湿式圧縮成形工程(S31)において磁粉スラリー20が圧縮されることにより、既に配向された磁粉11の向きが乱れてしまうのを防止することができる。
【0028】
また、磁場印加工程(S32)は、湿式圧縮成形工程(S31)における磁粉スラリー20に対する圧縮成形の段階に応じてパルス磁場B2を印加する工程である。これにより、パルス磁場B2を、湿式圧縮成形工程(S31)における磁粉スラリー20に対する圧縮成形の段階に応じて、磁粉11の配向を効率的に行うことが可能なタイミング(たとえば、磁粉スラリー20が比較的大きな力で加圧されていないタイミング)で印加することができる。なお、磁粉11を配向するための磁場の印加は、磁粉11の回転を阻害しないように、磁粉スラリー20が比較的大きな力で加圧されていない状態で行うのが好ましい。
【0029】
具体的には、パルス磁場B2は、上パンチ61の先端(下端)が位置P1に下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P1から位置P3に下降する直前までの間に印加される。また、上パンチ61の先端が位置P3に下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P3から位置P4に下降する直前までの間に印加される。すなわち、パルス磁場B2は、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって比較的な大きな力で加圧されていない状態、または、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって加圧されていない状態で、印加される。
【0030】
<脱磁工程>
次に、
図2に示すように、ステップS40において、脱磁工程が行われる。
図8に示すように、脱磁工程(S40)は、磁粉圧縮成形体30に対して互いに逆方向のパルス状の磁場が交互にかつ徐々に減少する交番減衰磁界B3を印加して磁粉圧縮成形体30の磁粉11を脱磁する工程である。具体的には、磁場印加工程(S32)においてパルス磁場B2を印加するための装置により、交番減衰磁界B3が印加される。交番減衰磁界B3は、磁場印加工程(S32)において印加されたパルス磁場B2とは逆方向、かつ、磁場印加工程(S32)において印加されたパルス磁場B2よりも小さいパルス状の磁場から、互いに逆方向のパルス状の磁場が交互にかつ徐々に減少するように印加される。
【0031】
これにより、磁場印加工程(S32)における磁粉スラリー20に対する静磁場B1およびパルス磁場B2の印加によって磁粉圧縮成形体30の磁粉11が磁化されてしまった場合でも、磁粉圧縮成形体30の磁粉11に対する脱磁により、磁粉圧縮成形体30の磁粉11の磁気を取り除くことができる。なお、磁粉圧縮成形体30の磁粉11が磁化されたままだと、磁粉11同士の磁気反発で磁粉圧縮成形体30が崩壊してしまう場合がある。また、磁粉圧縮成形体30の磁粉11が磁化されたままだと、磁粉圧縮成形体30が磁石として機能としてしまうので、後の工程において、磁粉圧縮成形体30のハンドリングが困難になる。たとえば、後述する熱硬化工程(S60)において、磁粉圧縮成形体30同士が磁気吸引によって衝突するおそれがあったり、回転電機のロータの内部(磁石挿入孔)に挿入される際に挿入しにくくなる。また、交番減衰磁界B3は、パルス状の磁場であるので、脱磁専用の装置を設けることなく、磁場印加工程(S32)においてパルス磁場B2を印加するための装置により印加することができる。
【0032】
<樹脂含浸工程>
次に、
図2に示すように、ステップS50において、樹脂含浸工程が行われる。
図9~
図11に示すように、樹脂含浸工程(S50)は、磁粉圧縮成形体30に対して磁粉11同士を結合するための熱硬化性樹脂12を含侵する工程である。具体的には、
図10に示すように、磁粉圧縮成形体30が熱硬化性樹脂12に浸漬されることによって、熱硬化性樹脂12が磁粉圧縮成形体30の磁粉11同士の隙間に含浸される。
【0033】
また、樹脂含浸工程(S50)は、真空中において、磁粉圧縮成形体30に対して熱硬化性樹脂12を含侵する工程である。これにより、磁粉圧縮成形体30における磁粉11の粒子同士の隙間に存在する空気が除去され、磁粉11の粒子同士の隙間に熱硬化性樹脂12が含侵し易くなった状態で、磁粉圧縮成形体30に対して熱硬化性樹脂12を効果的に含浸させることができる。
【0034】
具体的には、
図9に示すように、磁粉圧縮成形体30がチャンバ70内に配置される。このとき、磁粉圧縮成形体30における磁粉11の粒子同士の隙間には空気が存在する。そして、チャンバ70内が真空状態となるように、ポンプ71によりチャンバ70内の空気がチャンバ70外に除去される。これにより、磁粉圧縮成形体30における磁粉11の粒子同士の隙間は真空状態となる。そして、
図10に示すように、真空状態となったチャンバ70内において、磁粉圧縮成形体30が熱硬化性樹脂12に浸漬される。すなわち、真空状態となった磁粉圧縮成形体30における磁粉11の粒子同士の隙間に、熱硬化性樹脂12が含侵する。
【0035】
また、樹脂含浸工程(S50)は、真空にされた後に加圧された空気中において、磁粉圧縮成形体30に対して熱硬化性樹脂12を含侵する工程である。これにより、磁粉圧縮成形体30における磁粉11の粒子同士の隙間に存在する空気が除去され、磁粉11の粒子同士の隙間に熱硬化性樹脂12が含侵し易くなった状態で、さらに、磁粉圧縮成形体30が浸漬された熱硬化性樹脂12が加圧されることによって、磁粉圧縮成形体30に対して熱硬化性樹脂12をより効果的に含浸させることができる。
【0036】
具体的には、
図11に示すように、真空状態となったチャンバ70内において、磁粉圧縮成形体30が熱硬化性樹脂12に浸漬された後、チャンバ70内の気圧が上昇するように、ポンプ71によりチャンバ70内に空気が導入される。このとき、熱硬化性樹脂12がチャンバ70の空気に加圧される。これにより、真空状態となった磁粉圧縮成形体30における磁粉11の粒子同士の隙間に、チャンバ70の空気に加圧された熱硬化性樹脂12が含侵する。
【0037】
<熱硬化工程>
次に、
図2に示すように、ステップS60において、熱硬化工程が行われる。
図12に示すように、熱硬化工程(S60)は、磁粉圧縮成形体30に対して含浸された熱硬化性樹脂12を熱硬化させる工程である。これにより、熱硬化性樹脂12が磁粉圧縮成形体30に対して含侵された状態で熱硬化されることより、熱硬化性樹脂12を確実に磁粉圧縮成形体30の内部で固定することができる。
【0038】
具体的には、熱硬化性樹脂12が含侵された磁粉圧縮成形体30が、加熱炉80内に配置される。そして、加熱炉80内において、熱硬化性樹脂12が熱硬化する温度まで上昇するように、熱硬化性樹脂12が加熱される。これにより、熱硬化性樹脂12が磁粉圧縮成形体30に対して含侵された状態で熱硬化される。なお、熱硬化性樹脂12が熱硬化する温度は、一般的に150℃~200℃程度であるので、熱硬化性樹脂12を加熱する際に、熱硬化性樹脂12とともに磁粉圧縮成形体30に含まれる磁粉11が熱劣化しない。
【0039】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0040】
たとえば、上記実施形態では、脱磁工程(S40)を備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、脱磁工程を備えないように構成してもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、樹脂含浸工程(S50)が、真空にされた後に加圧された空気中において、磁粉圧縮成形体30に対して熱硬化性樹脂12を含侵する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、樹脂含浸工程が、真空にされた後に加圧されずに、真空中において、磁粉圧縮成形体に対して熱硬化性樹脂を含侵する工程として構成してもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、特許請求の範囲の「硬化樹脂」が、熱硬化性樹脂12である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、特許請求の範囲の「硬化樹脂」を、熱硬化性樹脂以外の硬化樹脂(たとえば、常温2液硬化樹脂)として構成してもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、湿式圧縮成形工程(S31)が、磁粉スラリー20の下方に配置されたフィルター64による濾過およびフィルター64の下方からの吸引により、磁粉スラリー20から溶媒21を除去しながら、磁粉圧縮成形体30を形成する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、湿式圧縮成形工程を、磁粉スラリーの上方または側方に配置されたフィルターによる濾過およびフィルターの上方または側方からの吸引により、磁粉スラリーから溶媒を除去しながら、磁粉圧縮成形体を形成する工程として構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、湿式圧縮成形工程(S31)が、磁粉スラリー20の下方からの吸引により、磁粉スラリー20から溶媒21を除去しながら、磁粉圧縮成形体30を形成する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、湿式圧縮成形工程が、磁粉スラリーの上方または側方からの吸引により、磁粉スラリーから溶媒を除去しながら、磁粉圧縮成形体を形成する工程として構成してもよいし、磁粉スラリーからの吸引を行わずに、磁粉スラリーから溶媒を除去しながら、磁粉圧縮成形体を形成する工程として構成してもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、パルス磁場B2が、上パンチ61の先端(下端)が位置P1に下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P1から位置P3に下降する直前までの間、および、上パンチ61の先端が位置P3に下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P3から位置P4に下降する直前までの間に印加される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上パンチ61の先端が位置P4に下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P4から位置P2に下降する直前までの間にさらに印加されてもよいし、上パンチ61の先端が位置P2に下降した直後にさらに印加されてもよい。また、上パンチ61の先端(下端)が位置P1に下降した直後から、上パンチ61の先端が位置P1から位置P3に下降する直前までの間のみに印加されてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、パルス磁場B2が、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって比較的な大きな力で加圧されていない状態、または、磁粉スラリー20が上パンチ61により下方に向かって加圧されていない状態で、印加される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、パルス磁場が、磁粉スラリーが上パンチにより下方に向かって比較的な大きな力で加圧されている状態、または、磁粉スラリーが上パンチにより下方に向かって加圧されている状態で、印加されてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、磁場印加工程(S32)が、湿式圧縮成形工程(S31)における磁粉スラリー20に対する圧縮成形の段階に応じてパルス磁場B2を印加する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁場印加工程を、湿式圧縮成形工程における磁粉スラリーに対する圧縮成形の段階に関係なくパルス磁場を印加する工程として構成してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、磁場印加工程(S32)が、湿式圧縮成形工程(S31)において磁粉スラリー20を圧縮成形している間、磁粉スラリー20に対して継続的に静磁場B1を印加する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁場印加工程を、湿式圧縮成形工程において磁粉スラリーを圧縮成形している間の一部において、磁粉スラリーに対して継続的に静磁場を印加する工程として構成してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、湿式圧縮成形工程(S31)が、磁粉スラリー20を段階的に圧縮成形して磁粉圧縮成形体30を形成する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、湿式圧縮成形工程を、磁粉スラリーを一度に圧縮成形して磁粉圧縮成形体を形成する工程として構成してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、磁場印加工程(S32)が、磁粉スラリー20に対して静磁場B1および静磁場B1よりも大きなパルス磁場B2を印加する工程である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁場印加工程を、磁粉スラリーに対して静磁場および静磁場と等しい大きさのパルス磁場を印加する工程として構成してもよい、磁粉スラリーに対して静磁場および静磁場よりも小さなパルス磁場を印加する工程として構成してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、ボンド磁石10が、回転電機のロータの内部に固定される永久磁石として用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ボンド磁石が、回転電機のロータの内部に固定される永久磁石以外の用途に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0052】
ボンド磁石…10、磁粉…11、熱硬化性樹脂(硬化樹脂)…12、磁粉スラリー…20、溶媒…21、磁粉圧縮成形体…30、フィルター…64、静磁場…B1、パルス磁場…B2、交番減衰磁界…B3