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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074064
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】粉末状乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/10 20160101AFI20230522BHJP
【FI】
A23L29/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186809
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓志
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 正男
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG08
4B035LG12
4B035LG21
4B035LK13
4B035LP21
4B035LP24
(57)【要約】
【課題】本発明は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有しても、製造工程で得られる乳化液の乳化安定性が良好であり、粉末化後は、水分散性及び水に分散した際の乳化安定性に優れ、粉質が良好な粉末状乳化組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを30~60質量%、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを2~70質量%含有する粉末状乳化組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを30~60質量%、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを2~70質量%含有する粉末状乳化組成物。
【請求項2】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、水を含有する乳化液を得る工程と、乳化液を乾燥し粉末化する工程とを含む請求項1に記載の粉末状乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品用乳化剤の一種であるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、タンパク質への作用効果を利用して、様々な食品に応用されている。例えば、パン等のベーカリー製品では、小麦グルテンへの作用効果を利用して、生地の伸展性や機械耐性の向上、容積の増大、食感の向上等の品質向上を目的に使用されている。また、飲料製品では、乳成分を含有する飲料で発生するタンパク質の凝集や沈殿を抑制する目的で使用されている。
【0003】
このように、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、様々な食品に応用されているが、それ自体は水に分散、溶解し難く、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として含有する製剤の形態で食品に添加されることが多い。このような製剤としては、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを油脂に溶解させたもの、或いはさらに水溶性成分を配合し乳化した乳化油脂のような液状又はペースト状の製剤が存在するが、ハンドリング性や保存安定性が悪いといった課題を有している。また、粉末タイプの製剤としては、(イ)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル自体を噴霧冷却し、これを倍散剤と粉粉混合したタイプの製剤、(ロ)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、粉末化基材等を配合した乳化液を噴霧乾燥したタイプの製剤等が存在する。しかし、前記(イ)の粉末タイプの製剤は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルと倍散剤を粉粉混合することでグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量を単に調整したものであり、前記(ロ)の粉末タイプの製剤は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有させようとしても、乳化液の段階で分離が発生する、噴霧乾燥後の粉質が粗く水分散性が悪い、といった課題を有している。なお、前記(ロ)の粉末タイプの製剤として、さらに油脂を配合した粉末油脂が存在するが、これに配合されるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、油脂の乳化目的のために少量配合させるものであり、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有するものではない。
そのため、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有し、粉質が良好で、水分散性に優れた粉末状の乳化組成物が求められている。
【0004】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを含有する粉末状の組成物に関する技術としては、例えば、(A)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の常温でペースト状もしくは液状の乳化剤20~80重量%、ならびに(B)(a)澱粉もしくはその加水分解物と有機酸グリセリン脂肪酸エステル(重量比100:0.1~50)、及び/又は(b)乳化性澱粉誘導体もしくはその加水分解物からなる粉末化剤80~20重量%を含むことを特徴とする粉末乳化剤(特許文献1)、(A)ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸モノエステル、有機酸モノグリセリド及びレシチンからなる群より選ばれる1種以上の乳化剤、及び(B)糖類及び蛋白分解物からなる群より選ばれる1種以上の賦形剤が配合されてなる分散液を噴霧乾燥することにより得られたバッター改質剤(特許文献2)、(A)食用油脂及び/又は油溶性乳化剤、(B)親水性乳化剤、及び(C)糖類及び/又は澱粉分解物を含有する水中油型乳化液を噴霧乾燥して得られる小麦加工食品又は澱粉加工食品用改質剤であって、かつ水に乳化分散して得られる液の粒度分布のメディアン径が5~120μmであることを特徴とする小麦加工食品又は澱粉加工食品用改質剤(特許文献3)等を挙げることができる。
【0005】
しかし、これらの特許文献には、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有する粉末状の組成物について、製造が可能か否か、粉質や水分散性が良好か否かといった具体的な記載がないため、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有しても、粉質が良好で、水分散性に優れた粉末状の組成物に関する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-245719号公報
【特許文献2】特開2002-65193号公報
【特許文献3】特開2000-316504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有しても、製造工程で得られる乳化液の乳化安定性が良好であり、粉末化後は、水分散性及び水へ分散した際の乳化安定性に優れ、粉質が良好な粉末状乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを所定量含有する粉末状乳化組成物によって、前記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを30~60質量%、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを2~70質量%含有する粉末状乳化組成物、
(2)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、水を含有する乳化液を得る工程と、乳化液を乾燥し粉末化する工程とを含む(1)に記載の粉末状乳化組成物の製造方法、
から成っている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉末状乳化組成物は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有しても、製造工程で得られる乳化液の乳化安定性が良好であり、粉末化後は、水分散性及び水へ分散した際の乳化安定性に優れ、粉質が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、グリセリンが有するヒドロキシ基のいずれかにコハク酸及び脂肪酸がそれぞれ少なくとも1つエステル結合した化合物であり、通常、グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸(又はコハク酸)との反応、グリセリンとコハク酸と脂肪酸との反応等、自体公知の方法により製造される。
【0012】
本発明で用いられるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法としては、例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた反応容器にグリセリンモノ脂肪酸エステル及び無水コハク酸を、グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸の質量比(グリセリンモノ脂肪酸エステル/無水コハク酸)にして、好ましくは90/10~70/30で仕込み、必要に応じてアルカリ触媒を添加し、好ましくは90~130℃の温度で、好ましくは10~180分間加熱してエステル化反応を行う。アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。さらに、反応中は反応生成物の着色及び臭気を防止するために、反応容器内を不活性ガスで置換してもよい。
【0013】
本発明で用いられるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸を挙げることができる。炭素数6~24の飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等を挙げることができる。炭素数6~24の不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等を挙げることができる。これらの中でも、炭素数16~18の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16~18の飽和脂肪酸がより好ましい。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、これら脂肪酸の1種類のみを構成脂肪酸とするものであっても、任意の2種類以上を構成脂肪酸とするものであってもよい。
【0014】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムB-10(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムB-30(商品名;理研ビタミン社製)等が商業的に製造、販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0015】
本発明で用いられるオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、澱粉を無水オクテニルコハク酸でエステル化して得られる加工澱粉である。オクテニルコハク酸デンプンナトリウムの原料となる澱粉は、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等を挙げることができる。
【0016】
本発明で用いられるオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、15質量%水溶液の30℃におけるB型粘度計で測定した粘度(以下、15質量%水溶液粘度という。)が、10~200mPa・sとなるオクテニルコハク酸デンプンナトリウムが好ましい。オクテニルコハク酸デンプンナトリウムの15質量%水溶液粘度は、B型粘度計(型式:TVB10;東機産業社製)を用いて、品温30℃、回転数60rpmの測定条件で測定することができる。使用するローターは試料の粘度が100mPa・s未満の場合はM1ローター(ローターNo.20)を、100mPa・s~500mPa・sの場合はM2ローター(ローターNo.21)を使用して測定することができる。
本発明では、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを1種のみ、又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
オクテニルコハク酸デンプンナトリウムとしては、例えば、N-クリーマー46(商品名;15質量%水溶液粘度130mPa・s;イングレディオン社製)、ピュリティガムBE(商品名;15質量%水溶液粘度25mPa・s;イングレディオン社製)、ピュリティガム2000(商品名;15質量%水溶液粘度17mPa・s;イングレディオン社製)、エマルスター500(商品名;15質量%水溶液粘度28mPa・s;松谷化学工業社製)等が商業的に製造、販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0018】
本発明の粉末状乳化組成物は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル等を含む油相と、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム等を含む水相を乳化させて得られる乳化液を乾燥して粉末状にしたものである。なお、粉末状には、顆粒状が含まれる。本発明の粉末状乳化組成物の粒子の大きさは、粉質と水分散性等の点で、目開き701μm(24メッシュ)の篩を通過する割合が、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。本発明の粉末状乳化組成物に含まれる水分は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。なお、水分含有量は、例えば、常圧加熱乾燥法(105℃、3~5時間乾燥)により測定することができる。
【0019】
本発明の粉末状乳化組成物には主成分としてグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを高含有する。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを高含有するとは、本発明の粉末状乳化組成物にグリセリンコハク酸脂肪酸エステルが、30~60質量%含まれることをいい、好ましくは30~50質量%である。本発明の粉末状乳化組成物に含まれるオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、2~70質量%であり、5~50質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
【0020】
本発明の粉末状乳化組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の成分を含有させてもよい。このような成分としては、油脂、粉末化基材、クエン酸塩、リン酸塩、酸化防止剤、着色料、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル以外の乳化剤等を挙げることができる。
【0021】
油脂としては、植物油脂、動物油脂、加工油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができる。植物油脂としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、コメ油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等を挙げることができる。動物油脂としては、豚脂、牛脂、魚油、乳脂、バター等を挙げることができる。加工油脂としては、植物油脂、動物油脂に分別、水素添加、エステル交換等の処理をしたものをいい、例えば、パーム硬化油脂、ヤシ硬化油脂、大豆硬化油脂、菜種硬化油脂等の硬化油脂、パーム分別油脂、ヤシ分別油脂、大豆分別油脂、菜種分別油脂等の分別油脂等を挙げることができる。中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、カプロン酸トリグリセリド、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド等を挙げることができる。
【0022】
本発明の粉末状乳化組成物に油脂が含まれる場合、油脂は、5~25質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。本発明の粉末状乳化組成物に含まれる油脂は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル100質量部に対し、15~30質量部が好ましく、20~25質量部がより好ましい。
【0023】
粉末化基材としては、澱粉、デキストリン、糖類、糖アルコール、安定剤、タンパク質等を挙げることができる。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の他、これらの澱粉に酸処理、アルカリ処理、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、リン酸化処理、架橋処理、加熱処理、α化処理、粉砕処理、酵素処理等を施した加工澱粉(オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを除く)等を挙げることができる。
【0024】
デキストリンとしては、マルトデキストリン、粉飴、分岐デキストリン、環状デキストリン、難消化性デキストリン等を挙げることができる。
【0025】
糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、グラニュー糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、パラチノース、キシロース等を挙げることができる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール等を挙げることができる。安定剤としては、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、カードラン、マンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、多糖類、大豆多糖類、セルロース、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、トラガントガム、ジェランガム、アラビアガム等を挙げることができる。
【0026】
タンパク質としては、カゼインナトリウム等の乳タンパク質、大豆タンパク質、えんどうタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質等を挙げることができる。クエン酸塩としては、クエン酸三ナトリウム等を挙げることができる。リン酸塩としては、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等を挙げることができる。酸化防止剤としては、トコフェロール、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル、茶抽出物、ヤマモモ抽出物、ローズマリー抽出物等を挙げることができる。着色料としては、β-カロテン、クチナシ色素、ベニバナ色素等を挙げることができる。
【0027】
本発明の粉末状乳化組成物に粉末化基材が含まれる場合、粉末化基材は、5~65質量%が好ましく、7~60質量%がより好ましい。
【0028】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステル以外の乳化剤としては、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等のグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等を挙げることができる。
【0029】
本発明の粉末状乳化組成物の製造方法は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、水を含有する乳化液を得る工程と、乳化液を乾燥し粉末化する工程とを含む。
【0030】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、水を含有する乳化液を得る工程は、例えば、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを好ましくは70~85℃で融解し、油相とし、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムと水を混合し、好ましくは65~75℃にて溶解し、水相とする。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを融解する際は、油脂、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル以外の乳化剤等の油溶性成分と混合し、融解することが好ましい。オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを水に溶解する際は、澱粉、デキストリン、糖類、糖アルコール、安定剤、タンパク質等の水溶性成分と混合し、溶解させてもよい。次に、水相を攪拌しながら、油相を投入し、乳化機等を用いて乳化し、乳化液を得る。乳化機としては、TKホモミクサー(商品名;プライミクス社製)、クレアミックス(商品名;エム・テクニック社製)等の高速回転式分散・乳化機が用いられる。撹拌条件としては、回転数は3000~10000rpmが好ましく、6000~8000rpmがより好ましく、撹拌時間は5~20分間が好ましく、5~10分間がより好ましく、攪拌温度は65~75℃とするのが好ましい。また、攪拌により得られる乳化液を、高圧式均質化処理機を用いてさらに均質化することもできる。均質化の際の圧力は、15~25MPaが好ましい。乳化する際の油相と水相との質量比(油相/水相)は、1/8~1/2が好ましく、1/6~1/4がより好ましい。
【0031】
このようにして得られる乳化液に含まれるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、10~30質量%が好ましく、15~25質量%がより好ましい。乳化液に含まれるオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、0.5~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。乳化液に含まれる水は、55~80質量%が好ましく、60~70質量%がより好ましい。乳化液に含まれる油相の平均粒子径は、乳化液の乳化安定性、粉末化後の水分散性と水に分散した際の乳化安定性等の点で、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。平均粒子径は、湿式粒度分布計(レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 型式:LA-950;堀場製作所社製)を用いて、70℃の乳化液を常温のイオン交換水に分散させた状態で体積基準での粒度分布を測定し、その平均値として算出することができる。
【0032】
前記乳化液を乾燥し粉末化する工程は、自体公知の方法を採用することができるが、例えば、乳化液を噴霧乾燥して粉末化する方法、乳化液を熱風乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等の方法で乾燥させた後、圧縮破砕、剪断粗砕、衝撃破砕等を用いて物理的に粉末化する方法等を挙げることができ、これらの中でも、乳化液を噴霧乾燥して粉末化する方法が好ましい。乳化液を噴霧乾燥する装置に、特に制限はなく、噴射式噴霧乾燥装置、回転円盤式噴霧乾燥装置等を用いることができる。噴霧乾燥の条件としては、例えば、120~200℃の装置内に、乳化液を噴霧する。
【0033】
このようにして得られる本発明の粉末状乳化組成物は、水分散性及び水に分散した際の乳化安定性に優れ、粉質が良好である。本発明の粉末状乳化組成物を水に分散させた分散液に含まれる油相の平均粒子径は、25μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。平均粒子径は、前記乳化液に含まれる油相の平均粒子径と同様に算出することができる。
【0034】
本発明の粉末状乳化組成物は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを主成分として高含有し、水分散性及び水に分散した際の乳化安定性に優れ、粉質が良好であるため、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルをより効率的に食品成分へと作用させ、食品の品質向上を図ることができる。使用用途に特に制限はなく、例えば、パン、菓子、麺、米飯、飲料、プレミックス等に用いることができる。パンは、食パン、菓子パン、デニッシュ、ペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ、フランスパン等を挙げることができる。菓子は、キャンディ、グミ、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パンケーキ、カステラ、バームクーヘン、ドーナツ、スナック菓子、米菓、アイスクリーム等を挙げることができる。麺は、中華麺、うどん、そば、そうめん、パスタ、餃子の皮、春巻きの皮等を挙げることができ、生麺の他、茹で麺、蒸し麺、即席麺、冷蔵麺、冷凍麺等の調理済みの麺も含まれる。米飯は、炊き込みご飯、ピラフ、ドライカレー、リゾット、炒飯等を挙げることができる。飲料は、紅茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等を挙げることができる。プレミックスは、原料の一部があらかじめ混合された食品をいい、パン用プレミックス、ケーキ用プレミックス、パンケーキ用プレミックス、アイスクリーム用プレミックス、麺用プレミックス、バッター用プレミックス等を挙げることができる。
【0035】
本発明の粉末状乳化組成物の使用方法に特に制限はなく、食品の製造工程で直接添加する方法、他の粉末原料にあらかじめ添加する方法、水等に分散させたものを添加する方法等を挙げることができる。本発明の粉末状乳化組成物の使用量は、例えば、パン、ケーキ、麺等の小麦粉を原料とする食品の場合、小麦粉100質量部に対して、本発明の粉末状乳化組成物に含まれるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルが0.05~1.0質量部となるよう添加することが好ましい。また、紅茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料等の乳成分を原料とする飲料の場合は、飲料中に、本発明の粉末状乳化組成物に含まれるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルが0.005~0.3質量%となるよう添加することが好ましい。
【0036】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例0037】
[乳化液の作製]
(1)原料
1)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB-30;理研ビタミン社製)
2)オクテニルコハク酸デンプンナトリウムA(商品名:N-クリーマー46;15質量%水溶液粘度130mPa・s;イングレディオン社製)
3)オクテニルコハク酸デンプンナトリウムB(商品名:ピュリティガムBE;15質量%水溶液粘度25mPa・s;イングレディオン社製)
4)アラビアガム(商品名:クレオガム♯4810;Willy Benecke GmbH社製)
5)カゼインナトリウム(商品名:Emulac NA;Meggle社製)
6)パーム硬化油脂(商品名:パーム極度硬化油;横関油脂工業社製)
7)デキストリン(商品名:パインデックス♯2;松谷化学工業社製)
8)水
【0038】
(2)乳化液の作製方法
表1の水相に記載の各原料[質量部(g)]を1Lステンレスビーカーに投入し、これらを70℃、10分間攪拌、溶解し、水相を得た。次に表1の油相に記載の各原料[質量部(g)]を100mLビーカーに投入し、これらを85℃、10分間攪拌、融解し、油相を得た。得られた水相をTKホモミクサー(商品名;プライミクス社製)を用いて回転数6000rpmで攪拌しながら、水相に油相を全て投入した後、70℃に保ちながら回転数8000rpmで10分間乳化し、乳化液1~6を得た。乳化液7~9は、ゲル化し、分離が発生したため、乳化することができなかった。
【0039】
(3)乳化液に含まれる油相の平均粒子径の測定
乳化液がゲル化し、分離が発生した乳化液7~9を除き、乳化液1~6それぞれについて、湿式粒度分布計(型式:LA-950;堀場製作所社製)を用いて、乳化直後の70℃の乳化液を常温のイオン交換水に分散させた状態で油相の平均粒子径(μm)を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1のとおり、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの配合量が30質量部の乳化液1~3、5を比較すると、水相にオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを配合した乳化液1~3は、水相にアラビアガムを配合した乳化液5よりも油相の平均粒子径が小さく、乳化液の乳化安定性が良好であった。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの配合量が50質量部の乳化液4、6を比較すると、水相にオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを配合した乳化液4は、水相にアラビアガムを配合した乳化液6よりも油相の平均粒子径が小さく、乳化液の乳化安定性が良好であった。また、水相にカゼインナトリウムを配合した乳化液7、8、及び水相にデキストリンのみを配合した乳化液9は乳化液がゲル化し、分離が発生したため、乳化液を作製することができなかった。
【0042】
[粉末状乳化組成物の作製]
(1)粉末状乳化組成物の作製方法(実施例1~4、比較例1、2)
噴霧乾燥器(型式:L-8i;大川原化工機社製)を用いて、装置内入口温度を180℃となるよう設定の上、二流体ノズルにより乳化液1~6をそれぞれ噴霧乾燥し、乳化液の作製時に配合した水を蒸発させ、粉末状乳化組成物A~Fを得た。また、粉末状乳化組成物A~Fの水分含有量(質量%)を測定した。粉末状乳化組成物A~Fに配合される各原料の質量%、水分含有量(質量%)を表2に示す。
【0043】
なお、粉末状乳化組成物A~Fの粒子の大きさを確認するために、それぞれ目開き701μm(24メッシュ)の篩に通過させ、通過した粒子の割合を算出したところ、粉末状乳化組成物A~Fについて、前記割合がそれぞれ82質量%、88質量%、89質量%、86質量%、80質量%、59質量%であった。
【0044】
(2)粉末状乳化組成物の水分散性評価
粉末状乳化組成物A~Fそれぞれについて、常温の水200gに、粉末状乳化組成物A~Fいずれか0.5gを添加し、1分間攪拌した分散液について、水分散性を次の評価基準に基づいて目視にて評価し、記号化した。「◎」及び「○」を本発明の効果を満足するものとした。結果を表3に示す。
<評価基準>
◎:溶け残りが見られず、水なじみがかなり良好
○:溶け残りがほとんど見られず、水なじみが良好
△:溶け残りが見られ、水なじみが悪い
×:溶け残りが多く見られ、水なじみがかなり悪い
【0045】
(3)粉末状乳化組成物を水に分散させた際の乳化安定性評価
前記粉末状乳化組成物の水分散性評価で得られた粉末状乳化組成物A~Fの分散液それぞれについて、湿式粒度分布計(型式:LA-950;堀場製作所社製)を用いて、常温の分散液を常温のイオン交換水に分散させた状態で油相の平均粒子径(μm)を測定した。結果を表3に示す。
【0046】
(4)粉末状乳化組成物の粉質評価
粉末状乳化組成物A~Fそれぞれについて、粉質を次の評価基準に基づいて目視にて評価し、記号化した。「◎」及び「○」を本発明の効果を満足するものとした。結果を表3に示す。
<評価基準>
◎:流動性が高く、サラサラとしたかなり滑らかな粉質
○:流動性があり、サラサラとした滑らかな粉質
△:流動性がやや低く、ザラザラとした粉質
×:流動性が低く、かなりザラザラとした粉質
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表3のとおり、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを配合した粉末状乳化組成物A~Dは、水分散性及び粉質が良好であった。一方、アラビアガムを配合した粉末状乳化組成物E、Fは、水分散性及び粉質が不良であった。また、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの配合量が30質量%の粉末状乳化組成物A~C、Eを比較すると、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを配合した粉末状乳化組成物A~Cは、アラビアガムを配合した粉末状乳化組成物Eよりも水に分散した際の平均粒子径が小さく、水に分散した際の乳化安定性が良好であった。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの配合量が50質量%の粉末状乳化組成物D、Fを比較すると、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを配合した粉末状乳化組成物Dは、アラビアガムを配合した粉末状乳化組成物Fよりも水に分散した際の平均粒子径が小さく、水に分散した際の乳化安定性が良好であった。