(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074142
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】変圧器の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/26 20060101AFI20230522BHJP
H02H 3/34 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
H02J3/26
H02H3/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186929
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細川 雄治
(72)【発明者】
【氏名】川内 康平
【テーマコード(参考)】
5G058
5G066
【Fターム(参考)】
5G058BC07
5G058BC08
5G058CC09
5G066GC01
(57)【要約】
【課題】電源電圧の不平衡時にも運転継続が可能な変圧器の制御装置を提供する。
【解決手段】二次側がΔ結線とされる変圧器の制御装置であって、変圧器は、二次巻線と遮断器の直列回路により二次側の各相を形成し、制御装置は、二次側電圧の不平衡を検知して前記直列回路の遮断器を開放し、2巻線による運転を継続することを特徴とする変圧器の制御装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次側がΔ結線とされる変圧器の制御装置であって、
変圧器は、二次巻線と遮断器の直列回路により二次側の各相を形成し、
制御装置は、二次側電圧の不平衡を検知して前記直列回路の遮断器を開放し、2巻線による運転を継続することを特徴とする変圧器の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変圧器の制御装置であって、
制御装置は、不平衡を生じている相を判断して、当該相の遮断器を開放制御することを特徴とする変圧器の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の変圧器の制御装置であって、
制御装置は、不平衡を検知して第1相の遮断器を開放制御し、開放後の不平衡に応じてそのまま運転継続し、あるいは前記第1相の遮断器を再投入後に、第2相の遮断器を開放制御し、開放後の不平衡に応じてそのまま運転継続し、あるいは前記第2相の遮断器を再投入後に、第3相の遮断器を開放制御することを特徴とする変圧器の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の変圧器の制御装置であって、
制御装置は、変圧器二次側の設備容量と、2巻線で給電可能な電源容量との比較により、遮断器の開放を実施するか、否かを判断することを特徴とする変圧器の制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の変圧器の制御装置であって、
制御装置は、3相それぞれの相の開放を実施しても不平衡率が改善しない場合、多相故障と判定することを特徴とする変圧器の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の変圧器の制御装置であって、
制御装置は、二次側電圧の不平衡を検知したときに、2巻線による運転の継続、3巻線による運転の継続、あるいは3相の開放のいずれかを選択し制御する機能を有することを特徴とする変圧器の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷に電力供給する変圧器の制御装置に係り、特に電圧不平衡に対する変圧器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に所内配電系統は、上位電源から変圧器で受電し、そこから樹枝状に枝分かれした回路にて電動機などの各負荷に電気を供給する。係る所内配電系統において、所内の変圧器の故障や上位電源系の故障を起因とした電圧不平衡が発生した場合、このような電圧不平衡は、主に電動機に対して問題となり、数%の不平衡であっても電動機への熱的影響を生じさせ、焼損や寿命の低下を招く。
【0003】
したがって、現状の所内配電系統では、所内に電圧不平衡を検知するリレーを設置して対策する。しかし、リレーで対策する場合、一般的には各負荷に電圧不平衡を検知するリレーを設置し、電圧不平衡時には、負荷への給電遮断器が開放されることから、当該負荷の継続運転は困難となる。上位電源自体の不平衡の場合は、リレー動作時には変圧器の上位遮断器を開放し、電源を切り離すことで保護することから、変圧器の下流に接続されるすべての負荷は継続運転が困難となる。
【0004】
電動機は、一般的に三相平衡に電源が供給されることを前提として設計しており、外部要因により、三相電圧が不平衡となった場合、巻線に逆相電流等が流れることで、過熱損傷を生じる可能性がある。そのため、電動機の設計規格(アメリカ電機工業会規格NEMAなど)では、電動機の電源は、電圧不平衡率1%以下とすることが定められており、不平衡事象に対し脆弱であることから、適切な保護が必要となる。
【0005】
一方、近年では、米国で発生した架空送電線の一相断線故障による所内電源の不平衡に伴う、電動機の焼損等の影響が議論されており、これについては変圧器一次側に専用のリレーを設置することで国内外にて対応されている。しかしながら、本リレーで異常を検出しても、最終的には電源切り離しという対応になることから、負荷の継続運転は困難である。
【0006】
特許文献1は、変圧器の一次側に設置した検知装置にて、一相断線を検知し、警報を出力するものである。本検知装置にて故障を検知すると、電源系の切り離しを実施することになり、当該電源から受電している電源系統は全て停電することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
変圧器の内部故障や上位電源の故障で、変圧器の二次側に不平衡電圧が発生した場合、変圧器二次側に接続されるすべての電動機には不平衡電圧が印可され、逆相電流が流れることになる。
【0009】
これを防止する為、上位電源電圧の不平衡を監視し、異常時は電源を切り離すことが必要となる。しかし、電源を切り離すと、電源盤に接続される負荷は停電し、継続運転は困難となる。
【0010】
また、別の電源系に切り替えることも考えられるが、そもそも別系統の電源系が存在していることが必要であり、別の電源から受電するための遮断器や電路などの追加設備が必要となる。加えて、電源切替の運用についても検討が必要となる。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、電源電圧の不平衡時にも運転継続が可能な変圧器の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、「二次側がΔ結線とされる変圧器の制御装置であって、変圧器は、二次巻線と遮断器の直列回路により二次側の各相を形成し、制御装置は、二次側電圧の不平衡を検知して前記直列回路の遮断器を開放し、2巻線による運転を継続することを特徴とする変圧器の制御装置。」としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電源電圧の不平衡時にも運転継続が可能な変圧器の制御装置を提供することができる。
【0014】
本発明の実施例によれば、電源不平衡時において、当該要因となっている巻線を切り離すことで、電動機への不平衡による影響を軽減し、対称三相電源として電動機の運転を継続することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係る変圧器の制御装置の全体構成例を示す図。
【
図2】変圧器の制御装置の処理フロー例を示す図。。
【
図3】異常巻線切り離し前後の変圧器二次電圧を示す解析例を示す図。
【
図4】異常巻線切り離し前後の不平衡検知信号を示す解析例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。なお、各図中、同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例0017】
本発明に係る変圧器は、送配電電力系統に設置された変圧器に適用可能であるが、以下の実施例においては発電プラントや一般工場等の所内電源回路に適用した例を示している。なお、所内配電系統以外では、例えば変電所や柱上の変圧器であってもよいが、3相変圧器であり、かつ二次側(この場合の二次側は三次、四次側を含むものとする)がΔ結線であるものとする。
【0018】
以下に例示する配電系統では、上位電源から受電し、変圧器にて各負荷(電動機)で必要となる電圧に降圧して供給する。ここで発電プラントでは、一般的に非接地または高抵抗接地系となることから、変圧器の巻線は高調波の流入防止等の観点から一次、二次ともデルタ巻線の変圧器が適用される。
【0019】
本実施例による変圧器の制御装置の全体構成例を
図1に示す。上位電源の電圧を降圧するための三相変圧器Trは、電源側の一次巻線101と、負荷側の二次巻線102と、各相の二次巻線102に直列に接続された各相の遮断器105を含んで構成されており、少なくとも負荷側の二次巻線102は、二次巻線と遮断器の直列回路によるΔ結線とされている。この構成では、二次巻線102と遮断器105の直列回路により変圧器二次側の各相を形成している。
【0020】
また変圧器Trの保護制御のために、二次側電圧を計測する計測器103と、計測器103の信号から電圧不平衡か否かを判定する制御装置104を備えている。このうち計測器103は、変圧器二次側の各相の線間電圧を計測している。計測器103で検出した線間電圧は、制御装置104に送られ、
図2の処理フローに従い処理される。
【0021】
図2に示す制御装置104内の処理では、まず処理ステップS201において検出した線間電圧を取り込み、処理ステップS202において本線間電圧を基に不平衡率の計算回路にて各相の不平衡率を算出する。不平衡率の計算は、例えば、NEMA規格に基づき、(各線間電圧の最大値-平均値)の絶対値÷平均値で求めることができるが、電圧不平衡率の計算手法は、規格によって変わるので、適用規格に応じた計算手法を適用するのがよい。
【0022】
次に処理ステップS203では、求めた不平衡率があらかじめ電動機の耐量等で評価した閾値以上(例えば1%)であれば異常と判定する。なお、不平衡率の基準値超過状態が短期間発生し、直ぐに正常に復してしまうような事象を示すこともあるので、ここでの異常判定は設定された時間以上の長期にわたり連続的に発生するものを異常と判定するのがよく、この場合には変圧器巻線における短絡などの異常が疑われる。
【0023】
処理ステップS203の判断で異常がなければ、処理ステップS202に戻り再度不平衡率を計算するループを実行するが、仮に異常と判定された場合、処理ステップS204に移行して異常の原因となる巻線を切り離す。
【0024】
異常の原因となる巻線の判定方法は、例えばU,V,Wの3相について、(U-V相の最大値(Vu-Vv)-三相線間電圧の平均値)÷三相線間電圧の平均値、(V-W相の最大値(Vv-Vw)-三相線間電圧の平均値)÷三相線間電圧の平均値、(W-U相の最大値(Vw-Vu)-三相線間電圧の平均値)÷三相線間電圧の平均値を計算して判断する。
【0025】
そのうえで仮に、Vu-Vv=Vv-Vw=1.0p.u.、Vw-Vu=0.9p.u.とすると、三相線間電圧の平均値は、0.97p.u.となり、(U-V相の最大値(Vu-Vv)-三相線間電圧の平均値)の絶対値÷三相線間電圧の平均値=0.03、(V-W相の最大値(Vv-Vw)-三相線間電圧の平均値)の絶対値÷三相線間電圧の平均値=0.03、(W-U相の最大値(Vw-Vu)-三相線間電圧の平均値)の絶対値÷三相線間電圧の平均値=0.07となる。この結果、閾値を0.01(1%)とすると電圧不平衡と判断され、かつ最も不平衡率の大きなW-U相を異常相と判定する。
【0026】
処理ステップS204において異常の原因となる巻線を切り離した後は、処理ステップS205に移行して変圧器Trの残り2相でV結線として運転継続することで、対称三相電源として運転を継続する。その結果、上記計算式で算出される不平衡率も0%となる。
【0027】
他方、処理ステップS205における判断結果が、異常巻線を切り離した後も異常が継続するという場合は、多相故障の可能性があることから、処理ステップS206において電源自体を切り離す(二次側の全ての遮断器105を開放)。
【0028】
なお、処理ステップS204において異常の原因となる巻線を切り離した後、あるいは処理ステップS206において電源自体を切り離した後は、異常の原因となる巻線を交換し、或は修復する。そのうえで、切り離した巻線の遮断器105を投入することで、3相Δ結線の形式に復旧して、以後は正常な3相運転に戻ることができる。
【0029】
図3は、変圧器の制御装置による、異常巻線切り離し前後の電圧波形の解析例を示す。異常巻線切り離し前は、1相のみ電圧が低下し、電圧不平衡を発生させていたが、異常を引き起こす巻線を遮断器105にて切り離すことで、残り2相の巻線で対称3相電圧を作り出していることがわかる。
【0030】
図4は、
図3の解析時における制御装置104の出力である不平衡信号を示し、事前設定した閾値以上の不平衡率であれば“1”を、閾値未満の不平衡率であれば“0”を出力する。異常巻線切り離し前は、閾値以上の不平衡率を示す“1”が出力されているが、異常巻線切り離し後は、閾値未満の不平衡率を示す“0”が出力されており、電源の不平衡率が改善されていることが分かる。
【0031】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。電圧不平衡が影響する負荷は電動機が主体であることから、本発明では電動機に着眼したが、電動機に限らず、電圧不平衡が影響する負荷全般に対して有効なものである。
【0032】
また、異常相切り離し後は残り2巻線での給電となることから、給電可能な電源容量は小さくなる。したがって、異常相切り離し後に各巻線で必要となる容量が、設備容量を超えていれば、変圧器損傷防止のため、異常相の切り離しを実施しない制御モードを追加することも可能である。
【0033】
この場合には、制御装置は負荷側の設備容量と、2巻線で給電可能な電源容量との比較により、異常相の切り離しを実施しない制御とするか、否かを判断することになる。ここで異常相の切り離しを実施しない制御とは、電圧不平衡状態をそのままに、3相運転を継続することを言う。
【0034】
なお、電圧不平衡による負荷保護の観点からいえばV字結線による電力供給とするのが望ましく、設備容量超過による変圧器損傷防止の観点からいえば3相運転継続とするのがよいという関係にあることから、電圧不平衡や設備容量超過の程度に応じて、より許容可能な側の一方の対応策とすることもでき、あるいはそのいずれもが厳しい状況下であれば、両者を満足させるために、運転停止(3相開放)とすることが望ましい。
【0035】
上記の例では、異常相自体も制御ロジックで判別することを想定しているが、より単純化する場合、3相不平衡率の計算のみ実施し、遮断器の開放を順次1相ずつ実施し、不平衡率を改善することも可能である。
【0036】
この場合には、3相不平衡率の計算により不平衡を検知した時、最初に任意相(例えばU相)の遮断器を開放し、この結果不平衡率が改善されていれば異常巻線がU相であったと判断できることからそのままV字結線による運転継続する。
【0037】
不平衡率が改善されなければ異常巻線がU相ではなかったと判断できることから、U相の遮断器を再投入したのちに、次に他の任意相(例えばV相)の遮断器を開放し、この結果不平衡率が改善されていれば異常巻線がV相であったと判断できることからそのままV字結線による運転継続する。
【0038】
これでも不平衡率が改善されていなければ、異常巻線はU相、V相ではなかったと判断できることから、V相の遮断器を再投入したのちに最後のW相の遮断器を開放し、そのままV字結線による運転継続する。なお、3相それぞれの相の開放を実施しても不平衡率が改善しない場合、制御装置は多相故障と判定する。
【0039】
ここまでの段階により、不平衡率は改善されるはずであるが、ここまでしてもダメな場合には、処理ステップS206による電源自体を切り離す(二次側の全ての遮断器105を開放)処理が実行されることになる。