(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074155
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】トリアルキルアルミニウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/06 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
C07F5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186956
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】宮内 紗久良
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 稔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松添 哲
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB84
4H048AC90
4H048AD11
4H048BA51
4H048BC10
4H048VA80
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】安全かつ効率的にトリアルキルアルミニウムを製造する方法の提供。
【解決手段】アルカリ土類金属の存在下、アルミニウムをハロゲン化アルキルと反応させ、トリアルキルアルミニウムを含む反応生成物を得る工程を含む、トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属の存在下、アルミニウムをハロゲン化アルキルと反応させ、トリアルキルアルミニウムを含む反応生成物を得る工程を含む、トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項2】
アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属及びアルミニウムのいずれか一方又は双方が粉末状、金属箔状又はペレット状である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリ土類金属がマグネシウムである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
アルミニウムに対するアルカリ土類金属のモル比が0.3~10である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
アルミニウムに対するアルカリ土類金属のモル比が1~5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応が、窒素含有有機化合物の存在下で行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記窒素含有有機化合物が、窒素原子を含む複素環式化合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記窒素原子を含む複素環式化合物が、不飽和複素環式化合物である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記不飽和複素環式化合物が、ピリジン誘導体及びまたはイミダゾール誘導体である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記不飽和複素環式化合物として、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、1-メチルイミダゾールから成る群から選ばれる少なくとも1種を用いる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応が、ヨウ素、臭素及びハロゲン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を共存させて行われる、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応が、20℃以上200℃以下の温度で行われる、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ハロゲン化アルキルとして、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチルから成る群から選ばれる少なくとも1種を使用し、トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ハロゲン化アルキルが塩化メチルである、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
得られた生成物を蒸留により精製することを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記蒸留が、反応液に含まれる固体を分離する粗蒸留と、溶液中からトリアルキルアルミニウムを回収する精密蒸留からなる、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全かつ効率的にトリアルキルアルミニウムを製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
トリアルキルアルミニウムは、重合助触媒や有機半導体材料の製造に用いられる重要な物質である。これまで、様々なトリアルキルアルミニウムの製造方法が開発されている。例えば、氷晶石法(特許文献1)、フェニルナトリウム法(非特許文献1)、グリニャール法(非特許文献2)などが知られる。なかでも一般的に利用されているのはアルカリ金属還元法である(非特許文献3)。
【0003】
また、アルカリ土類金属を用いたトリアルキルアルミニウムの合成法として、アルミニウム-マグネシウム合金とハロゲン化メチルを用いたトリアルキルアルミニウムの製造法(マグナリウム法)が複数報告されている(特許文献2;特許文献3など)。さらに、メチルグリニャール試薬とメチルアルミニウムセスキクロリドを原料としてトリメチルアルミニウムを製造する方法(メチルグリニャール法)が知られている(特許文献4)。
【0004】
アルカリ金属還元法の一般的な課題として、収率が低いこと、反応を完結させるために過剰量のナトリウムが必要なため、可燃性・爆発性の廃棄物が残留し、その処理が困難であることが挙げられる。加えて、マグナリウム法の課題として、原料となるアルミニウム-マグネシウム合金の製法が挙げられる。アルミニウム-マグネシウム合金はアルミニウム単体とマグネシウム単体を溶融したのちに粉砕して製造するため、製造コストが高い点や溶融時に高いエネルギーが必要である点などが課題となる。
また、メチルグリニャール法では、生成物へのエーテル系溶媒の混入を防ぐため、グリニャール試薬調製後に溶媒置換が必要となり、工業的な製造には向かないといった課題がある。
【0005】
以上の通り、従前のトリアルキルアルミニウムの製造方法は、安全面だけでなく、コストや工程数の面でも解決すべき課題を抱えていた。したがって、従前知られている方法に比べより安全かつ効率的にトリアルキルアルミニウムを製造する方法が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2839556号明細書
【特許文献2】米国特許第2744127号明細書
【特許文献3】特許第6762891号公報
【特許文献4】中国特許出願公開第112028920号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Adv. Inorg. Chem. Radiochem. 7, 269, (1967)
【非特許文献2】Organomet. Chem. (ACS Monograph) No.147, 197 (1960)
【非特許文献3】J. Org. Chem., Vol. 5, pp. 106-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、種々研究を行った結果、アルミニウム粉末に対してハロゲン化アルキルを作用させてトリアルキルアルミニウムを製造する方法において、還元剤としてアルカリ土類金属単体を用いることで容易かつ安全に、効率良くトリアルキルアルミニウムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。アルミニウム単体とアルカリ土類金属(マグネシウム)単体を原料としてトリアルキルアルミニウムを製造する方法はこれまで知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は以下の発明を包含する。
(1)アルカリ土類金属の存在下、アルミニウムをハロゲン化アルキルと反応させ、トリアルキルアルミニウムを含む反応生成物を得る工程を含む、トリアルキルアルミニウムの製造方法。
(2)アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を用いる、(1)に記載の製造方法。
(3)前記アルカリ土類金属及びアルミニウムのいずれか一方又は双方が粉末状、金属箔状又はペレット状である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)アルカリ土類金属がマグネシウムである、(1)~(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5)アルミニウムに対するアルカリ土類金属のモル比が0.3~10である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
(6)アルミニウムに対するアルカリ土類金属のモル比が1~5である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の製造方法。
(7)アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応が、窒素含有有機化合物の存在下で行われる、(1)~(6)のいずれか1項に記載の製造方法。
(8)前記窒素含有有機化合物が、窒素原子を含む複素環式化合物である、(1)~(7)のいずれか1項に記載の製造方法。
(9)前記窒素原子を含む複素環式化合物が、不飽和複素環式化合物である(8)に記載の製造方法。
(10)前記不飽和複素環式化合物が、ピリジン誘導体及びまたはイミダゾール誘導体である、(9)に記載の製造方法。
(11)前記ピリジン誘導体及びまたはイミダゾール誘導体として、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、1-メチルイミダゾールから成る群から選ばれる少なくとも1種を用いる、(10)に記載の製造方法。
(12)アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応が、ヨウ素、臭素及びハロゲン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を共存させて行われる、(1)~(11)のいずれか1項に記載の製造方法。
(13)アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応が、20℃以上200℃以下の温度で行われる、(1)~(12)のいずれか1項に記載の製造方法。
(14)前記ハロゲン化アルキルとして、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチルから成る群から選ばれる少なくとも1種を使用し、トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、(1)~(13)のいずれか1項に記載の製造方法。
(15)前記ハロゲン化アルキルが塩化メチルである、(14)に記載の製造方法。
(16)得られた生成物を蒸留により精製することを特徴とする、(1)~(15)のいずれか1項に記載の製造方法。
(17)前記蒸留が、反応液に含まれる固体を分離する粗蒸留と、溶液中からトリアルキルアルミニウムを回収する精密蒸留からなる、(16)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従前の方法に比べ、廃棄物の面での安全性確保、コストの削減、工程数の削減、省エネルギーの達成などといった具体的な効果を奏する、安全かつ効率的なトリアルキルアルミニウムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ヨウ素添加量とアルミニウム転化率、トリアルキルアルミニウム選択率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの製造方法を提供する。当該方法は、アルカリ土類金属の存在下、アルミニウムをハロゲン化アルキルと反応させ、トリアルキルアルミニウムを含む反応生成物を得る工程を含む。
【0013】
アルカリ土類金属の存在下でのアルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応は、例えば以下の式で示すことができる:
【化1】
ここで、
Alはアルミニウム
AEMはアルカリ土類金属
RXはハロゲン化アルキル
Al(R)
3はトリアルキルアルミニウム
Xはハロゲン
を表す。
【0014】
上記反応式から明らかなとおり、本発明の方法ではナトリウム由来の可燃性・爆発性の廃棄物が副生しない。冒頭でも述べた通り、アルミニウム単体とアルカリ土類金属単体を原料としてトリアルキルアルミニウムを製造する方法はこれまで全く知られていない。さらに、基本的にワンステップの反応であるため、マグナリウム法やメチルグリニャール法に比べ工程数も少なくて済み、設備面の簡略化やエネルギー消費の削減といった観点でも優れている。
【0015】
トリアルキルアルミニウムには、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が含まれ、工業的に特に有用なのはトリメチルアルミニウムである。
【0016】
本発明においてアルミニウムと反応させるのに有用なアルカリ土類金属の例として、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウムなどが挙げられる。特に好ましいのはマグネシウムである。
【0017】
アルミニウム及びアルカリ土類金属の形状は特に限定されるものではないが、粉末状、金属箔状又はペレット状であってよく、特に粉末状であることが好ましい。アルミニウム単体が粉末状の場合、粒径は例えばメジアン径で1μm~150μm程度であることが好ましく、10~100μmがさらに好ましく、金属箔状やペレット状の場合、その最大の厚みが1μm~150μm程度であることが好ましく、10~100μmがさらに好ましい。アルカリ土類金属が粉末状の場合、粒径は例えばメジアン径で1μm~500μm程度であることが好ましく、10~200μmがさらに好ましく、金属箔状やペレット状の場合、その最大の厚みが1μm~500μm程度であることが好ましく、10~200μmがさらに好ましい。
【0018】
アルミニウムに反応させるアルカリ土類金属の量は、アルミニウムに対し過剰量に存在していても、あるいはアルミニウムがアルカリ土類金属に対し過剰量に存在していてもよい。好ましくは、アルミニウムに対するアルカリ土類金属のモル比は0.3~10であり、モル比が1~5であることがより好ましい。
【0019】
ハロゲン化アルキルは、一般的に入手可能なものが使用できる。ハロゲン化アルキルは、一般式RXで示され、Rは1~20の鎖状または環状のアルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基などが例示できる。Xは塩素、臭素、又はヨウ素である。
【0020】
ハロゲン化アルキルは、例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化n-プロピル、臭化n-プロピル、ヨウ化n-プロピル、塩化イソプロピル、臭化イソプロピル、ヨウ化イソプロピル、塩化n-ブチル、臭化n-ブチル、ヨウ化n-ブチル、塩化イソブチル、臭化イソブチル、ヨウ化イソブチル等が挙げられる。上記の中でも塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチルが好ましく、トリアルキルアルミニウムとしてトリメチルアルミニウムを製造する場合、塩化メチルがより好ましい。
【0021】
ハロゲン化アルキルの使用量は、必要なトリアルキルアルミニウムの量に応じて定めればよい。好ましくはアルミニウム1molに対して2mol~10mol、より好ましくは3mol~6molである。ハロゲン化アルキルの使用量が少なすぎるとトリアルキルアルミニウムの収率が低下し、ハロゲン化アルキルの使用量が多すぎると余剰のハロゲン化アルキルが多くなり経済性が悪化する。
【0022】
アルミニウムとハロゲン化アルキルとの反応は、好ましくは窒素含有有機化合物の存在下で行われる。窒素含有有機化合物とは、窒素原子を一つ以上含有している化合物である。具体的には、窒素含有有機化合物はアミン化合物、窒素原子を含む複素環化合物及び、アミド化合物を挙げることができる。これらの窒素含有有機化合物は2つ以上のものを併用しても良い。
【0023】
アミン化合物としては、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、窒素原子を含む複素環式化合物、アミド化合物等を挙げることができる。
【0024】
脂肪族アミン化合物は、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジンのような第1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジアミルアミン、ジシクロヘキシルアミンのような第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエタノールアミン、トリシクロヘキシルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンのような第3級アミンを挙げることができる。本発明においてはとくに、第3級アミンを用いることが好ましい。
【0025】
芳香族アミン化合物は、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン等が挙げられる。
【0026】
窒素原子を含む複素環式化合物は、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン、ピロールのような飽和複素環式化合物、及びピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾールのような不飽和複素環式化合物が挙げられる。本発明においては、不飽和複素環式化合物を用いることが好ましい。さらに好ましいのは、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、1-メチルイミダゾールである。
本発明で最も好ましい不飽和複素環式化合物は2,6-ルチジンである。窒素含有有機化合物は中間体となるアルキルアルミニウムセスキクロリドのアルミニウム中心に配位することでトリアルキルアルミニウムの生成を促進していると推察される。トリアルキルアルミニウムの生成促進にはアルミニウムと窒素原子の結合距離が重要であり、2,6-ルチジンを用いた場合にはアルミニウムに対する配位が可逆となるためトリアルキルアルミニウムの生成速度が向上する。但し、この推察に拘束されるものではない。
【0027】
アミド化合物は、ホルムアミド、アセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,1'-アゾビス(N,N-ジメチルホルムアミド)のような鎖状アミド化合物、及びN-メチルピロリドン、ベンズアミド、アセトアニリドのような環状アミド化合物が挙げられる。
【0028】
上記反応における窒素含有有機化合物の存在量は、アルミニウム1molに対して、1mol以下であれば良いが、0.001mol以上、0.2mol以下の範囲が好ましく、0.001mol以上、0.1mol以下の範囲がより好ましく、0.01mol以上、0.08mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0029】
本発明の反応においては、窒素含有有機化合物に加えて、ヨウ素、臭素及びハロゲン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を触媒として共存させることができる。
【0030】
添加剤としてのハロゲン化合物としては、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、臭化メチル、1,2-ジブロモエタン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、アルキルアルミニウムセスキクロライド、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、ジアルキルアルミニウムヨージド等が挙げられる。ヨウ素、臭素及び/又はハロゲン化合物を添加することで、トリアルキルアルミニウム選択率及びアルミニウム転化率が向上する。理由としては、ヨウ素、臭素、またはハロゲン化合物が、アルカリ土類金属の表面において副生するハロゲン化アルカリ土類金属、例えば塩化マグネシウム等の被膜を除去することにより、アルカリ土類金属の活性表面を露出させ、効率的に反応が進行するためと推察される。但し、この推察に拘束されるものではない。
【0031】
ヨウ素、臭素、またはハロゲン化合物の添加量は、アルミニウム1molに対して、0.01mol以上、0.3mol以下の範囲が好ましく、0.05mol以上、0.15mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0032】
これら添加剤は組み合わせて用いてもよく、ジアルキルアルミニウムハロゲン化物とヨウ素との組み合わせが好ましい。特に、原料であるハロゲン化アルキルが塩化メチルであり、生成物であるトリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである場合、添加剤はジメチルアルミニウムクロライドとヨウ素との組み合わせであることが好ましい。
【0033】
反応の温度は、反応が進行する温度であれば何度でも構わない。20℃~200℃が好ましく、50℃~170℃がさらに好ましい。反応の時間は、特に制限はないが、1~12時間が好ましく、3~8時間がさらに好ましい。
【0034】
反応は溶媒を用いずに実施することもできるが、溶媒を用いて反応を行うことが好ましい。溶媒の種類に関して特に制限はないが、例えば、炭化水素溶媒を用いることができる。炭化水素溶媒は、疎水性かつ反応性の乏しい炭化水素溶媒であることが好ましく、そのような有機溶媒としては、例えば、飽和炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0035】
炭化水素溶媒の沸点は、反応温度で液体であれば何度でも構わない。ただし、反応によって得られたトリアルキルアルミニウムを蒸留によって回収する場合は、沸点が高いほど分離がしやすいため好ましい。上記飽和炭化水素溶媒としては、炭素数が3以上20以下の置換もしくは非置換の直鎖飽和炭化水素であっても、置換もしくは非置換の環状飽和炭化水素であっても良い。また、パラフィン油あるいはそれらの混合物が含まれていても良い。
【0036】
上記飽和炭化水素溶媒の具体例としては、n-プロパン、n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカンn-デトラデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、シクロデカン、o-メンタン、m-メンタン、p-メンタン、デカヒドロナフタレン、パラフィン類CnH2n+2、イソパラフィン類CnH2n+2などが例示出来る。特にn-ドデカンが好ましい。
【0037】
溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、炭素数1から8のアルキル基、炭素数3から8のシクロアルキル基および炭素数2から8のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基を有する芳香族炭化水素または無置換の芳香族炭化水素が好ましい。
【0038】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数1から8のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、tert-ヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、tert-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、ネオオクチル、tert‐オクチル基が挙げられる。
【0039】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数3から8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基が挙げられる。
【0040】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数2から8のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン基が挙げられる。
【0041】
上記芳香族炭化水素の具体例としては、クメン、o-クメン、m-クメン、p-クメン、プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、1-フェニルペンタン、1-フェニルヘプタン、1-フェニルオクタン、1,2-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン、メシチレン、1,3-ジ-tert-ブチルベンゼン、1,4-ジ-tert-ブチルベンゼン、ジ-n-ペンチルベンゼン、トリ-tert-ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、テトラリンがある。
【0042】
溶媒の使用量は特に限定されないが、1molのアルミニウムに対して、例えば、0.1mol以上、100mol以下の範囲とすることができ、0.5mol以上、10mol以下の範囲であることが好ましい。
【0043】
反応は、特に限定するわけではないが、反応装置に、例えば粉末状、金属箔状又はペレット状のアルミニウム単体及びアルカリ土類金属単体、さらには任意的に窒素含有有機化合物、上記添加剤及び溶媒を仕込み、加熱し、所定温度に達したらハロゲン化アルキルを供給し、反応開始させる。
【0044】
反応は、回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限なく実施することができる。反応装置としては、縦型または横型の耐圧反応容器を用いることができる。例えば、耐圧性の撹拌器付オートクレーブを用いることができる。用いる撹拌翼としては、一般に知られているどのようなものでも良いが、例えばプロペラ、タービン、ファウドラー、マックスブレンド型、フルゾーン型等が挙げられる。さらに、ホモジナイザーなども使用できる。
【0045】
ハロゲン化アルキルの反応器への投入については、連続的に投入しても、断続的に投入しても良い。いずれの場合も、反応が発熱反応であることから、過度の温度の上昇を防止するために投入量及び加熱温度を制御する必要がある。断続的に投入する場合は、ハロゲン化アルキルを投入した後に加熱し、発熱反応が終了するまで反応を行うことが好ましい。断続的に投入する場合は、上記の反応を繰り返しても良い。本発明においては、アルミニウム単体およびアルカリ土類金属単体を溶媒に懸濁させスラリー状にしてハロゲン化アルキルを投入するのが好ましい。反応は好ましくは温度管理をしておき、発熱がなくなった時点で反応が完了したと判断してよい。
【0046】
上記反応生成物は、通常の精製方法、例えば蒸留、晶析などの方法を用いることにより単離することができる。
【0047】
例えば、反応生成物を蒸留により単離する場合、得られるトリアルキルアルミニウムの純度が要件を満たすものであればその方法は限定しない。好ましいのはまず粗蒸留によりトリアルキルアルミニウムを含む溶液と副生する固体を分離したのち、さらに精密蒸留を行うことで高純度のトリアルキルアルミニウムを得る方法である。副生した固体は濾過等によって除去することができ、固体を除去した後の溶媒は反応に戻して繰り返し用いることが可能である。
【0048】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0049】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0050】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0051】
<実施例1>
窒素置換を行った1リットルのオートクレーブに、メジアン径14μmのアルミニウム粉末38.9g(1.45 mol)、メジアン径131μmのマグネシウム粉末52.8g(2.21 mol)、ヨウ素20.3 g(アルミニウム 1 molに対して0.03 mol)、2,6-ルチジン5.8 g(アルミニウム 1 molに対して0.04 mol)、ノルマルドデカン285 g (1.67 mol)を投入した。その後、150℃まで昇温し、塩化メチルを投入して反応を行った。発熱がなくなった点を反応終点とし、塩化メチルの投入を終了した。塩化メチルを投入する時間は5時間、投入量は158.6(アルミニウム1molに対して2.18 mol)であった。反応終了後、減圧蒸留によりトリメチルアルミニウム(TMAL)を取得し、アルミニウムの含有量を定量分析した。溶液中のTMAL量は37.4g(0.52 mol)であり、投入したアルミニウムの36%がTMALに転化した。このように、アルミニウム粉末とマグネシウム粉末とを別に投入した場合でも、例えば、従前からよく利用されるアルミニウム-マグネシウム合金とハロゲン化メチルを用いるマグナリウム法と同様、TMAL生成反応が進行することが確認された。
反応式は以下の通りである。
【化2】
【0052】
<実施例2>
窒素置換を行った1リットルのオートクレーブに、メジアン径30~40μmのアルミニウム粉末39g(1.45 mol)、メジアン径131μmのマグネシウム粉末54g(2.21 mol)、ヨウ素9.8g(アルミニウム 1 molに対して0.03 mol)、2,6-ルチジン5.8g(アルミニウム 1molに対して0.04 mol)、ノルマルドデカン285g (1.67 mol)を投入した。その後、150℃まで昇温し、塩化メチルを投入して反応を行った。発熱がなくなった点を反応終点とし、塩化メチルの投入を終了した。塩化メチルを投入する時間は5時間、投入量は266 g (アルミニウム1 molに対して3.64 mol)であった。反応終了後、減圧蒸留によりトリメチルアルミニウム(TMAL)とジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)の混合物を取得し、アルミニウム及び塩素の含有量を定量分析した。取得した溶液中のTMAL及びDMACの量は、それぞれ、TMALが30.0 g(0.42 mol)、DMACが50.8g(0.55 mol)であり、投入したアルミニウムの67%がTMALまたはDMACに転化した。
【0053】
<実施例3>
実施例1と同一の反応条件で、但し添加するヨウ素の量を5,10、20gに変え、トリメチルアルミニウムを合成した。ヨウ素添加量とアルミニウム転化率、TMAL選択率との関係を
図1に示す。ヨウ素の添加量が多いほどTMAL選択率が高く、アルミニウム転化率は低い傾向にあることがわかる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明してきた。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではなく、使用する材料や各種条件等は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。