(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007416
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線防護服
(51)【国際特許分類】
G21F 1/10 20060101AFI20230111BHJP
G21F 1/08 20060101ALI20230111BHJP
G21F 3/02 20060101ALI20230111BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F1/08
G21F3/02 A
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085538
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021109066
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】阿邊 博司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏文
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BP011
4J002DA077
4J002DA116
4J002DA117
4J002DE096
4J002FD206
4J002FD207
4J002GR01
(57)【要約】
【課題】環境への負荷が小さく、リサイクルが容易であり、軽量かつ柔軟性に優れた、高い放射線遮蔽性能を有する放射線遮蔽樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】バインダー樹脂と、遮蔽材とを含有する放射線遮蔽樹脂組成物であって、前記バインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーであり、前記遮蔽材は、前記遮蔽材の全質量に対して50質量%以上を占める主遮蔽材として、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物を含み、前記主遮蔽材は、6.0以上、10.0未満の比重を有し、前記放射線遮蔽樹脂組成物は350%以上の切断時伸び、80°以下のJIS A硬度、および2.5以上、5.0以下の比重を有する放射線遮蔽樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、遮蔽材とを含有する放射線遮蔽樹脂組成物であって、
前記バインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーであり、
前記遮蔽材は、前記遮蔽材の全質量に対して50質量%以上を占める主遮蔽材として、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物を含み、
前記主遮蔽材は、6.0以上、10.0未満の比重を有し、
前記放射線遮蔽樹脂組成物は、350%以上の切断時伸び、80°以下のJIS A硬度、および2.5以上、5.0以下の比重を有する、放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、水添スチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項1に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン系ポリマーブロックの含有割合は、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの全質量に対して10質量%以上、20質量%以下である請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、60°未満のJIS A硬度を有する、請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項5】
前記放射線遮蔽樹脂組成物における前記遮蔽材の含有割合は、前記放射線遮蔽樹脂組成物の全体積に対して20体積%以上、45体積%未満である、請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項6】
前記放射線遮蔽樹脂組成物における前記遮蔽材の含有割合は、前記放射線遮蔽樹脂組成物の全体積に対して20体積%以上、40体積%未満である、請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項7】
前記遮蔽材は、0.5μm以上、10μm未満の平均粒子径を有する、請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項8】
前記主遮蔽材は、酸化セリウム、アンチモン、酸化ビスマス、および酸化スズから選ばれる少なくとも一つを含む請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項9】
前記遮蔽材は、10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項10】
前記遮蔽材は、タングステンおよびタングステン化合物の少なくとも一方を含む請求項1または2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項11】
放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽部材であって、前記放射線遮蔽部位が請求項1または2に記載の放射線射遮蔽樹脂組成物を含む放射線遮蔽部材。
【請求項12】
放射線遮蔽部位を有する放射線防護服であって、前記放射線遮蔽部位が請求項1または2に記載の放射線射遮蔽樹脂組成物を含む放射線防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽樹脂組成物、該放射線遮蔽樹脂組成物を使用した放射線遮蔽部材、および該放射線遮蔽樹脂組成物を使用した放射線防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線をはじめとする放射線を遮蔽する材料(以下、遮蔽材ともいう)として、鉛、あるいは鉛を含む材料が広く利用されてきた。しかし、環境汚染防止の観点から鉛に代わる遮蔽材として、鉛以外の比重の高い金属やその化合物を用いることが提案されている。
【0003】
遮蔽材は、一般的にバインダー樹脂に配合され、放射線遮蔽部材として多様な用途に供される。遮蔽材を配合するためのバインダー樹脂の中でも、熱可塑性エラストマーは、加熱することで再成型することができるという特徴を有する。そのため、バインダー樹脂として熱可塑性エラストマーを用いた放射線遮蔽部材の加工時に発生した端材や、使用後の放射線遮蔽部材を容易にリサイクルすることができるという利点を有する。
【0004】
特に、熱可塑性エラストマーの中でも、可塑剤を添加したポリ塩化ビニルは優れた柔軟性を有し、可塑剤の添加量を調整することで伸びや硬度等の柔軟性を幅広くコントロールすることが可能である。そのため、放射線防護服や放射線遮蔽カーテン等の柔軟性を必要とする放射線遮蔽部材のバインダー樹脂として用いられてきた。
【0005】
しかしながら放射線防護服や放射線遮蔽カーテン等の柔軟性を必要とする放射線遮蔽部材に、可塑剤を含むポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いる場合、柔軟性を確保するために、熱可塑性樹脂は比較的多量の可塑剤を含む必要がある。その結果、時間の経過とともに放射線遮蔽部材から可塑剤が染み出してくる場合があった。放射線遮蔽部材から可塑剤が染み出すことは品質上好ましくないだけでなく、一部の可塑剤は、環境汚染を引き起こすことが懸念されている。そのため、柔軟性を有する放射線遮蔽部材に、可塑剤を必要としないバインダー樹脂を用いることが望まれる。
【0006】
特許文献1には、熱可塑性エラストマーと、遮蔽材として比重4以上の非鉛無機粉末とを含有した熱可塑性樹脂組成物からなる放射線シールド材が開示されており、熱可塑性エラストマーとしてスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、遮蔽材として硫酸バリウムと、熱可塑性樹脂および/または熱可塑性エラストマーとを含む放射線遮蔽用シートが開示されており、バインダーとしてスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2001/099119号
【特許文献2】特開2007-212304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、加工時に発生する端材や放射線遮蔽部材自体を加熱により容易にリサイクルすることができるという利点を有するだけでなく、可塑剤を用いることなく高い柔軟性を有するという特徴を有する。したがってスチレン系熱可塑性エラストマーをバインダー樹脂として用いることで、可塑剤が染み出すことの課題を生じない、リサイクルが容易かつ柔軟性に優れた放射線遮蔽部材を得ることができると考えられる。
【0010】
しかし特許文献1および2に記載の放射線遮蔽部材では、高い柔軟性を有してはいても、放射線遮蔽性能が十分でない、あるいは、放射線防護服や放射線遮蔽カーテン等の放射線遮蔽部材としては、重量が高くなり過ぎる場合があった。また、放射線遮蔽性能を高くするために遮蔽材の含有割合を高くした場合には、柔軟性が十分に高く得られない場合があった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明の目的は、環境への負荷が小さく、リサイクルが容易であり、軽量かつ柔軟性に優れた、高い放射線遮蔽性能を有する放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線防護服を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、バインダー樹脂と、遮蔽材とを含有する放射線遮蔽樹脂組成物であって、前記バインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーであり、前記遮蔽材は、前記遮蔽材の全質量に対して50質量%以上を占める主遮蔽材として原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物を含み、前記主遮蔽材は、6.0以上、10.0未満の比重を有し、前記放射線遮蔽樹脂組成物は、350%以上の切断時伸び、80°以下のJIS A硬度、および2.5以上、5.0以下の比重を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の態様に係る放射線遮蔽部材は、放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽部材であって、前記放射線遮蔽部位が上記放射線射遮蔽樹脂組成物を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のさらに別の態様に係る放射線防護服は、放射線遮蔽部位を有する放射線防護服であって、前記放射線遮蔽部位が上記放射線射遮蔽樹脂組成物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、リサイクルが容易であり、軽量かつ柔軟性に優れた、高い放射線遮蔽性能を有する放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線防護服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の断面を模式的に示す図である。
【
図2】従来技術に係る放射線遮蔽樹脂組成物の断面を模式的に示す図であり、(a)は静置状態における断面を示す図であり、(b)は引き延ばしたときの状態における断面を示す図である。
【
図3】従来技術に係る放射線遮蔽樹脂組成物の断面を模式的に示す図である。
【
図4】本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
図1に、本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物を示す。本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物1は、バインダー樹脂2と、遮蔽材3とを含有する。バインダー樹脂2はスチレン系熱可塑性エラストマーであり、遮蔽材3は、遮蔽材3の全質量に対して50質量%以上を占める主遮蔽材として、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物を含む。ここで、主遮蔽材は、6.0以上、10.0未満の比重を有する。さらに、本実施形態に係る放射線遮蔽樹脂組成物1は、350%以上の切断時伸び、80°以下のJIS A硬度、および2.5以上、5.0以下の比重を有する。
【0019】
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物1が、従来技術における上記課題を解決できる理由としては、次のように考えられる。
【0020】
特許文献1の実施例には、遮蔽材としての比重4以上の非鉛無機粉末の具体的な例としてタングステン、硫酸バリウム、鉄、ステンレス鋼等が記載されている。これらのうち、例えばタングステンは19.3という高い比重を有し、高い放射線遮蔽効果を有する。一方でタングステンはその高い比重のために、バインダー樹脂に対して配合する割合が高くなるにしたがって、得られる放射線遮蔽樹脂組成物は重量が大きくなり、放射線防護服や放射線遮蔽カーテン等の放射線遮蔽部材としては適さないものとなる。
【0021】
放射線遮蔽部材を軽量なものとするために、バインダー樹脂に配合するタングステンの量を少なくした場合は、バインダー樹脂中におけるタングステンの分布の疎密による影響が大きくなる。すなわち、
図2(a)に示すように、放射線遮蔽樹脂組成物1において、バインダー樹脂2中のタングステン5が比較的密に存在する部分では、放射線4の透過がタングステン5によって確実に遮られ、十分な放射線遮蔽性能が得られる。一方で、バインダー樹脂2中のタングステン5の存在が疎となる部分では、放射線4が一部透過し、放射線遮蔽性能が十分に得られない。そのため、バインダー樹脂2に配合するタングステン5の量が少ないと、放射線遮蔽部材の品質を十分に保つことができない。タングステン5の配合量が少ない場合のバインダー樹脂2中のタングステン5の分布の疎密の影響は、
図2(b)に示すように、放射線遮蔽樹脂組成物1の引き延ばし等による変形によってさらに大きなものとなる。このことは、高い柔軟性を有し、伸びや曲げによる変形が生じやすい放射線遮蔽部材として使用する際、大きな課題となる。
【0022】
また、特許文献2でも用いられている硫酸バリウムは、比重が4.49とタングステンに比べて低く、軽量な放射線遮蔽部材の材料としては好ましいといえる。しかしその反面、放射線遮蔽効果は低く、十分な放射線遮蔽性能を得るためには、
図3に示すようにバインダー樹脂2に対して硫酸バリウム6を大量に配合する必要がある。この場合、バインダー樹脂2における硫酸バリウム6の充填率が高くなりすぎるために、放射線遮蔽樹脂組成物1の柔軟性が損なわれるという課題が生じる。
【0023】
さらに、鉄およびステンレス鋼等の金属からなる粒子は、当該粒子が含有する金属原子の原子番号が相対的に小さいため、放射線を十分に吸収や遮蔽することができず、所望の放射線遮蔽性能が得られない場合がある。
【0024】
これらの課題に対し、本発明においては、遮蔽材3は、遮蔽材3の全質量に対して50質量%以上を占める特定の主遮蔽材を含む。すなわち、上記主遮蔽材は、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物であり、かつ6.0以上、10.0未満の比重を有する。主遮蔽材が、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物であることで、放射線に対する放射線遮蔽樹脂組成物1の遮蔽性能を十分に高く得ることができる。また、主遮蔽材の比重が6.0以上であることで、放射線遮蔽樹脂組成物1の柔軟性を損なうことなく、高い放射線遮蔽性能を有する放射線遮蔽樹脂組成物1を得ることができる。また、主遮蔽材の比重が10.0未満であることで、遮蔽材分布の疎密による課題を生じない程度に十分な量でバインダー樹脂2に配合した場合にも、軽量な放射線遮蔽部材とすることができる。これらのことから、バインダー樹脂2中に上記主遮蔽材を含む遮蔽材3を均一に分散させることで放射線防護服等に使用する上で十分な遮蔽性能、柔軟性、および軽量性のバランスが良好な物性の放射線遮蔽樹脂組成物1を得ることができる。
【0025】
すなわち、本発明においては、バインダー樹脂として高い柔軟性を有するスチレン系熱可塑性エラストマーを用い、また、遮蔽材として上記で述べた特定の主遮蔽材を含むものを用いる。さらに、放射線遮蔽樹脂組成物が350%以上の切断時伸び、80°以下のJIS A硬度、および2.5以上、5.0以下の比重を有するように構成することで、本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、従来技術における課題を解決できると考えられる。
【0026】
以下、各構成要素についてさらに詳細に説明する。
<バインダー樹脂>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、バインダー樹脂としてスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する。
放射線遮蔽樹脂組成物が含有するバインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーのみであることが最も好ましいが、一部他のバインダー樹脂を含んでいてもよい。この場合、放射線遮蔽樹脂組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合は、放射線遮蔽樹脂組成物中のバインダー樹脂の全体積に対して90体積%以上であることが好ましい。これにより、放射線遮蔽樹脂組成物において、スチレン系熱可塑性エラストマーが有する柔軟性を高く得ることができる。また、他のバインダー樹脂は、リサイクル性の観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。放射線遮蔽樹脂組成物が含有しても良い他のバインダー樹脂としては、例えば、ポリエチレン系熱可塑性エラストマーやポリプロピレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0027】
先にも述べた通り、スチレン系熱可塑性エラストマーは、加工時に発生する端材や放射線遮蔽部材自体を加熱により容易にリサイクルすることができるだけでなく、可塑剤等を用いることなく高い柔軟性を有する。スチレン系熱可塑性エラストマーは、両末端にスチレン系ブロックからなるハードセグメントと、中間部にソフトセグメントとを有する構造により弾性が優れ、これにより高い柔軟性を有すると考えられる。
【0028】
本発明において用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、以下のようなものが挙げられる。スチレンとブタジエンのブロック共重合体および該ブロック共重合体におけるブタジエンブロックを水素添加処理(以下、水添ともいう)したブロック共重合体、ならびに、スチレンとイソプレンのブロック共重合体および該ブロック共重合体におけるイソプレンブロックを水添したブロック共重合体等。
【0029】
柔軟性を向上させる観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーは、水添スチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。すなわち、スチレン系熱可塑性エラストマーは、中間部のソフトセグメントが水添されたポリマーブロックを有することが好ましい。水添されたポリマーブロックは、ブタジエンおよびイソプレン等を重合させた後に水添する、あるいは、エチレン、ブチレン、およびプロピレン等の2重結合を1つ有する炭化水素を重合させることにより形成することができる。例えば、ブタジエンやイソプレンを重合させたのちに水添した構造は結晶性を持たないため、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性をより向上させることができる。
【0030】
スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン系ポリマーブロックの含有割合は、スチレン系熱可塑性エラストマーの全質量に対して10質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。スチレン系ポリマーブロックの含有割合が10質量%以上であれば、ハードセグメント同士による疑似架橋部を十分に形成することが可能であり、放射線遮蔽樹脂組成物の強度を高くすることができる。また、スチレン系ポリマーブロックの含有割合が20質量%以下であれば、疑似架橋による放射線遮蔽樹脂組成物の過度な硬化を抑制し、十分な柔軟性を得ることが可能である。
【0031】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、60°未満のJIS A硬度を有することが好ましい。これにより、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性をより向上させることが可能である。
【0032】
<遮蔽材>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物が含有する遮蔽材は、上記遮蔽材の全質量に対して50質量%以上を占める主遮蔽材として原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物を含む。また、上記主遮蔽材は、6.0以上、10.0未満の比重を有する。
【0033】
本発明において主遮蔽材が10.0未満の比重を有することは、放射線遮蔽樹脂組成物を軽量なものとすることができることの他に、次のような利点も有する。すなわち、スチレン系熱可塑性エラストマーに遮蔽材を分散させた放射線遮蔽樹脂組成物を成型する方法として、押し出し機のシリンダー内で溶融した樹脂をスクリューで押し出しながらTダイでシート状に成型する方法が挙げられる。上記方法にてシート状に成型した場合、10.0以上の比重を有する遮蔽材の量が多い場合には、樹脂と接するTダイの表面が遮蔽材によって著しく摩耗して生産性が低下する場合ある。本発明においては、主遮蔽材が10.0未満の比重を有し、これにより、押し出し機を用いた放射線遮蔽樹脂組成物の成型における上記の生産性の低下を抑制することができる。
本発明において放射線(特にX線)を十分に遮蔽するためには、主遮蔽材の比重が6.0以上と大きいことに加え、さらに主遮蔽材が、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物であることが重要である。原子番号が50以上の金属原子は大きなK吸収端をもつため、放射線に対して高い遮蔽効果を有する。したがって主遮蔽材は原子番号が50以上、すなわちK吸収端の大きさとして、29keV以上を有する金属および/またはそのような金属の酸化物である必要があり、かつ大きな比重を持つ必要がある。
【0034】
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物における遮蔽材の含有割合は、放射線遮蔽樹脂組成物の全体積に対して20体積%以上、45体積%未満であることが好ましい。遮蔽材の含有割合が20体積%以上であれば、高い遮蔽性能を有する放射線遮蔽樹脂組成物を得ることができる。また、放射線遮蔽樹脂組成物が伸長した場合においても、放射線遮蔽樹脂組成物中の遮蔽材が疎になる部分の発生を抑制することができる。遮蔽材の含有割合が45体積%未満であれば、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性を高くすることができる。また、遮蔽材を混合したスチレン系熱可塑性エラストマーを溶融した際に、粘度が高くなることを抑制でき、流動性を高く保つことで良好な成型性を得ることができる。さらに放射線遮蔽樹脂組成物中の遮蔽材の含有割合が40体積%未満であれば、放射線遮蔽樹脂組成物の重量が、より軽量となるため放射線遮蔽防護服等で使用する上で、より好ましい。
【0035】
同種で、それぞれ異なる平均粒子径の遮蔽材を含有する2つの放射線遮蔽樹脂組成物を比べた時、遮蔽材の含有割合が同じである場合、大きい平均粒子径を有する遮蔽材を含有する放射線遮蔽樹脂組成物の方が伸びや硬度といった柔軟性に係る特性が高くなる。これは、遮蔽材の平均粒子径が大きいほど、遮蔽材粒子間の距離が大きくなり、樹脂の特性が発現しやすくなるためと考えられる。一方で遮蔽材の粒子径が大きくなり過ぎると、遮蔽材粒子間の距離が大きくなることで放射線遮蔽樹脂組成物の放射線遮蔽性能にばらつきが生じる。
遮蔽材は、0.5μm以上、10μm未満の平均粒子径を有することが好ましい。平均粒子径が0.5μm以上であれば、スチレン系熱可塑性エラストマーに配合した際に遮蔽材が凝集することを抑制でき、成型した放射線遮蔽樹脂組成物の表面に凹凸が生じることを抑制することができる。また、平均粒子径が10μm未満であれば、スチレン系熱可塑性エラストマーを溶融した際に粘度が高くなり過ぎず、成型する際に流動性を高く保つことができ、放射線遮蔽樹脂組成物を所望の形状に成型することが容易となる。
【0036】
遮蔽材の平均粒子径は、例えば、次のようにして測定することができる。
遮蔽材10mgをメチルエチルケトン(MEK)10mLに超音波分散機で1分間分散させたのち、マイクロトラック(マイクロトラック・ベル社製)を用いて平均粒子径を測定する。測定値のD50(累積パーセント径)を、遮蔽材の平均粒子径とする。
【0037】
本発明において主遮蔽材として用いられる原子番号50以上の金属および原子番号50以上の金属の酸化物としては、アンチモン、セリウム、ランタン、ビスマス、イッテルビウム、スズ、およびそれらの酸化物、ならびに酸化タングステン等が挙げられる。その中でも、金属としてはアンチモンを含むことが好ましく、金属酸化物としては、酸化セリウム、酸化スズ、および酸化ビスマスから選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0038】
アンチモン、酸化スズ、酸化セリウム、および酸化ビスマスは、いずれも比重が高く、さらに他の遮蔽材と比較して安価でありコスト面に優れる。その中でも酸化セリウムは比重が7.22g/cm3と比較的高く、放射線遮蔽性能に優れる。さらに、人体への安全性が高く、産出量も豊富なため比較的安価に入手することができ、経済性にも優れる。また、他の金属酸化物にはない酸化セリウムの特徴として、金属セリウムよりも酸化セリウムの方が比重が高いことがある。このことにより、放射線遮蔽樹脂組成物に未酸化物があったとしても、経時過程での酸化によって比重が軽くなるということがなく、安定して遮蔽率を保持できる利点がある。また、酸化ビスマスは比重が8.9g/cm3と酸化セリウムよりもさらに比重が高く遮蔽効率も良い。
【0039】
遮蔽材は主遮蔽材の他に、放射線を遮蔽するために通常用いられる、金属あるいは金属化合物等のその他の材料を含んでいても良い。主遮蔽材の他に本発明に係る遮蔽材が含んでいても良い金属および金属化合物としては、例えば、白金、金、銀、銅、インジウム、タングステン、およびモリブテン等の金属、ならびにそれらの化合物等が挙げられる。
遮蔽材は、10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物をさらに含むことが好ましい。上記主遮蔽材と、10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物とを併用することで、所望の遮蔽性能を保ちながら、より柔軟性の高い放射線遮蔽樹脂組成物を得ることができる。
【0040】
遮蔽材の全質量に対する10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物の含有割合は、50質量%以下である。
【0041】
図4に、主遮蔽材と、10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物とをそれぞれ遮蔽材の全質量に対して50質量%の割合で含有する放射線遮蔽樹脂組成物の例を示す。10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物7は、放射線遮蔽樹脂組成物1中の体積基準での含有量が相対的に小さくなる。そのため、10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物7のみの放射線遮蔽効果についてみると、分布の疎密による影響が大きいと考えられる。しかし本発明においては、主遮蔽材8の体積基準での含有量が相対的に大きくなり、全体的にある程度主遮蔽材8の存在量が確保されるため、安定した放射線遮蔽性能を得ることができる。
【0042】
さらに、10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物7の含有割合は、50質量%以下であるため、遮蔽材と混合したスチレン系熱可塑性エラストマーを溶融した際、高い比重を有する遮蔽材が沈降することの影響が小さい。そのため、成型後の放射線遮蔽樹脂組成物は比較的均一な放射線遮蔽性能を有する。
【0043】
本発明において用いることができる10.0以上の比重を有する金属および/または金属化合物としては、タングステン、白金、金、銀、およびモリブテン等の金属、ならびにそれらの化合物等が挙げられる。その中でも、遮蔽材は、タングステンおよびタングステン化合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。タングステンは、金属の中では比較的比重が高く、少量で高い放射線遮蔽性能を発揮することができる。
【0044】
遮蔽材はさらに、放射線遮蔽のために用いられる公知の他の金属あるいは金属化合物等を含んでもよい。
<添加剤>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、バインダー樹脂および遮蔽材の他に、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、滑材、着色剤、レベリング剤、消泡剤、老化防止剤、反応触媒等が挙げられる。
放射線遮蔽樹脂組成物における添加剤の含有割合は、放射線遮蔽樹脂組成物の全体積に対して5体積%以下であることが好ましい。これにより、放射線遮蔽樹脂組成物における遮蔽材の放射線遮蔽効果と、バインダー樹脂による柔軟性とを高く得た上で、添加剤の機能を付与することができる。
【0045】
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、可塑剤を含まないことが好ましい。可塑剤は時間の経過とともに放射線遮蔽樹脂組成物から染み出してくる場合があり、品質上好ましくない。さらに一部の可塑剤は、環境上好ましくないものもある。
【0046】
<放射線遮蔽樹脂組成物の物性>
〔切断時伸び〕
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、350%以上の切断時伸びを有する。本発明において切断時伸びは、JIS K 6251:2017に基づいて測定された値である。放射線遮蔽樹脂組成物が350%以上の切断時伸びを有することで、放射線防護服や放射線遮蔽カーテンのような柔軟性が求められる用途においても、十分な変形と、変形に対する耐久性を得ることができる。放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びは、バインダー樹脂の種類および遮蔽材の体積基準の含有割合によって制御することが可能である。
【0047】
〔JIS A硬度〕
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、80°以下のJIS A硬度を有する。本発明におけるJIS A硬度は、K 6253-3:2012のタイプAに基づいて測定された値である。放射線遮蔽樹脂組成物が80°以下のJIS A硬度を有することで、切断時伸びと同様に放射線防護服や放射線遮蔽カーテンのような柔軟性が求められる用途においても、十分な変形と、変形に対する耐久性を得ることができる。放射線遮蔽樹脂組成物のJIS A硬度も切断時伸びと同様に、バインダー樹脂の種類と遮蔽材の体積分率によって制御することが可能である。
【0048】
〔比重〕
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、2.5以上、5.0以下の比重を有する。比重が2.5以上であれば、十分な放射線遮蔽性能を得ることができる。また比重が5.0以下であれば、放射線遮蔽樹脂組成物を軽量なものとすることができ、放射線防護服等で使用した場合でも、使用者の動きの妨げとなることを抑制できる。
【0049】
<放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0050】
まず、バインダー樹脂と遮蔽材およびその他添加剤を加圧ニーダーや二軸混練押し出し機にて溶融混合したのち、ペレット形状に加工する。その後、Tダイ押し出し機または熱プレスにてシート成型を行う方法があげられる。製造方法は上記製法に限られるものではなく、射出成型等、その他の公知の方法にて製造することができる。
【0051】
上記の通り製造された放射線遮蔽樹脂組成物は、平面だけでなく曲面等多様な形状部分を有する放射線遮蔽部材や、放射線防護服、放射線遮蔽カーテン等に使用することが可能である。
【0052】
<放射線遮蔽部材、放射線防護服>
本発明に係る放射線遮蔽部材は、放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽部材であって、前記放射線遮蔽部位が、これまで述べた放射線射遮蔽樹脂組成物を含むことを特徴とする。
【0053】
また、本発明に係る放射線防護服は、放射線遮蔽部位を有する放射線防護服であって、前記放射線遮蔽部位が、これまで述べた放射線射遮蔽樹脂組成物を含むことを特徴とする。
【実施例0054】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることは無い。
【0055】
表1に各実施例および比較例で用いた材料を示す。
【表1】
【0056】
表1中、スチレン比は、スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン系ポリマーブロックの質量基準での含有割合を示す。
また、実施例で用いたスチレン系熱可塑性エラストマー1~8は、いずれも水添スチレン系熱可塑性エラストマーである。
【0057】
また、表1中の酸化セリウム3および酸化セリウム4は、それぞれ市販の酸化セリウムを分級して得たものである。具体的には、酸化セリウム(商品名:CeO2 99.95%yellow TREIBACHER INDUSTRIE AG社製)を、ファカルティF(ホソカワミクロン社製)を用いて分級を行った。得られた酸化セリウム3および酸化セリウム4について、先に述べた方法で平均粒子径を測定したところ、酸化セリウム3の平均粒子径は9.5μm、酸化セリウム4の平均粒子径は20.0μmであった。
同様に表1中のアンチモン1は、市販のアンチモンを酸化セリウムの場合と同様に分級して得たものであり、平均粒子径を測定したところ、平均粒子径は9.5μmであった。
【0058】
(実施例1)
バインダー樹脂として、スチレン系熱可塑性エラストマー1を1.43kg、遮蔽材として酸化セリウム1を8.37kg、滑材としてステアリン酸カルシウムを0.1kg、着色剤としてカーボンブラックを0.1kg用意し、これらを予め混合した。その後、二軸混練押し出し機を用いて、シリンダー温度210℃にて溶融混合させ、ダイスからストランドを押出し、冷却層にて水冷したのち、ペレタイザーにてカットしてペレットを得た。得られたペレットをTダイ押し出し機を用いて、Tダイ温度210℃にてシート成型した。シートサイズは幅100mm、厚さ1.0mmとして成型し、遮蔽シート状の放射線遮蔽樹脂組成物を得た。放射線遮蔽樹脂組成物の製造に用いた各材料とそれらの配合量を表2に示す。
【0059】
(実施例2~24、比較例1~10)
実施例1において、使用した材料および配合量を表2に示すように変更した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2~24、比較例1~10に係る放射線遮蔽樹脂組成物を得た。
【0060】
【0061】
【0062】
〔測定および評価〕
上記の各実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物について、以下の測定および評価を行った。得られた結果をまとめて表3に示す。
【0063】
<切断時伸び>
シート状の放射線遮蔽樹脂組成物をダンベル状3号形に打ち抜き、引張破断伸びの測定に供した。引張破断伸びの測定はJIS K 6251:2017に規定された方法に準拠して行った。
【0064】
<JIS A硬度>
JIS A硬度の測定はJIS K6253-3:2012のタイプAに基づいて行った。なお厚みを6mm以上とするために、シート状の放射線遮蔽樹脂組成物を7枚重ねて測定を行った。
【0065】
<柔軟性>
切断時伸びおよびJIS A硬度の測定結果を基に、以下の基準により放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性を評価した。
A:切断時伸びが800以上かつJIS A硬度が75°以下である。
B:切断時伸びが350以上800未満かつJIS A硬度が80°以下、または、JIS A硬度が75°超過80°以下かつ切断時伸びが350以上である。
C:切断時伸びが350未満またはJIS A硬度が80°を超える。
なお、放射線遮蔽樹脂組成物を180°折り曲げた時、上記柔軟性評価がAであれば、折り目、割れ、および、ひびが発生しなく、柔軟性評価がBのときは、折り目が発生する一方、割れ、および、ひびは発生しない。また、柔軟性評価がCのときは、割れ、および、ひびが発生する。
【0066】
<比重>
シート状の放射線遮蔽樹脂組成物を長さ100mmに切断し、100mm×100mm×1mmの大きさを有する放射線遮蔽樹脂組成物の重量を測定して比重を算出した。得られた比重の値について、以下の基準により評価した。
A:比重が2.5以上、5.0以下である。
C:比重が2.5未満である、または5.0を超える。
【0067】
<放射線遮蔽性能(鉛当量)>
シート状の放射線遮蔽樹脂組成物を長さ400mmに切断して、放射線遮蔽性能測定用の評価サンプルを得た。評価サンプルの長さ方向を4等分した4つのエリアについて放射線遮蔽性能(鉛当量/1mm)の測定を行った。放射線遮蔽性能(鉛当量/1mm)の測定は、JIS Z 4501に則り、管電圧100kVにて測定した。各4つのエリアで得られた測定値の平均値を放射線遮蔽樹脂組成物の放射線遮蔽性能(鉛当量/1mm)とした。得られた放射線遮蔽性能(鉛当量/1mm)の値について、以下の基準により評価した。
A:放射線遮蔽性能(鉛当量/1mm)が0.25mm/Pb以上である。
C:放射線遮蔽性能(鉛当量/1mm)が0.25mm/Pb未満である。
なお、例えば、放射線遮蔽樹脂組成物を放射線防護服に使用する場合は、鉛当量で0.25~0.5mmPbの遮蔽能力が必要とされる。
【0068】
また、各4つのエリアで得られた測定値の最大値、最小値、および平均値から下記式(1)に従って百分率を求め、得られた百分率の値について以下の基準により遮蔽性能の安定性を評価した。
(最大値-最小値)/平均値×100 (%) 式(1)
A:百分率の値が5%以下である。
B:百分率の値が5%を超え、20%以下である。
C:百分率の値が20%を超える。
【0069】
<総合評価>
上記における、比重、放射線遮蔽性能、放射線遮蔽性能の安定性、および曲げに対する耐性についての評価結果をもとに、以下の基準により総合評価をおこなった。
A:すべてがAである。
B:1つ以上Bがあり、Cがない。
C:1つ以上Cがある。
【0070】
【0071】
実施例に係る放射線遮蔽樹脂組成物はいずれも、曲げに対する耐性の評価において割れやひびが発生することはなかった。また、実施例に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、バインダー樹脂にスチレン系熱可塑性エラストマーを用いており、加熱することでバインダー樹脂と遮蔽材を分離することが可能であり、さらに可塑剤を使用することなく柔軟性を有するため、環境への負荷が小さい。
【0072】
さらに、実施例に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、主遮蔽材として、原子番号が50以上の金属および/または原子番号が50以上の金属の酸化物であり、かつ比重が6.0以上、10以下であるものを使用している。そのため、十分な放射線遮蔽性能を有しつつ、放射線遮蔽性能の安定性も確保されていた。また、放射線遮蔽樹脂組成物の比重もすべて5.0以下であるために過度に重くなることがなく、また、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性も保たれていた。
【0073】
比較例2~7に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性が不十分であり、割れあるいはひびが発生した。また、比較例1に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、遮蔽材の体積基準での含有量が低く、放射線遮蔽性能について十分な安定性が得られなかった。比較例8に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、比重が10を超える遮蔽材の体積基準での含有量が高いために放射線遮蔽樹脂組成物の比重も高くなり、放射線遮蔽樹脂組成物の重量が高いものとなった。比較例9に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、比重の低い遮蔽材を使用したため、放射線遮蔽性能について十分な安定性が得られなかった。比較例10に係る放射線遮蔽樹脂組成物では、比重は高いが原子番号が50以下の金属を遮蔽材として使用したため、放射線遮蔽性能について十分な効果が得られなかった。