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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074176
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】基板の製造方法及び塗工液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
H01L21/312 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186989
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】小松 裕之
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 優貴
【テーマコード(参考)】
5F058
【Fターム(参考)】
5F058AA10
5F058AB10
5F058AC10
5F058AD01
5F058AF04
5F058AG01
(57)【要約】
【課題】Si-NHで表される末端構造を含む領域を表層に有する基板上に塗布法により選択的に、ALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮する膜を形成できる基板の製造方法及び塗工液を提供することを課題とする。
【解決手段】Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工液を塗工する工程と、上記塗工工程により形成された塗工膜を加熱する工程とを備え、上記塗工液が、上記第1領域の末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基及び芳香環構造を有する化合物を含有する基板の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工液を塗工する工程と、
上記塗工工程により形成された塗工膜を加熱する工程と
を備え、
上記塗工液が、上記第1領域の末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基及び芳香環構造を有する化合物を含有する基板の製造方法。
【請求項2】
上記化合物の分子量が200以上である請求項1に記載の基板の製造方法。
【請求項3】
上記化合物が芳香環構造を含む構造単位を有する重合体である請求項1又は請求項2に記載の基板の製造方法。
【請求項4】
上記重合体が上記官能基を主鎖の末端又は側鎖の末端に有する請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
上記官能基がアルデヒド基又はケトン性カルボニル基である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
上記芳香環構造が芳香族炭化水素環構造である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
上記基材が酸化ケイ素を含む第2領域を表層にさらに有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項8】
上記塗工液が溶媒をさらに含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項9】
Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工されるように用いられる塗工液であって、
上記第1領域の末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基及び芳香環構造を有する化合物を含有する塗工液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の製造方法及び塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのさらなる微細化に伴い、30nm以下の微細パターンを形成する技術が要求されている。しかし、従来のリソグラフィーによる方法では、光学的要因等により技術的に困難になってきている。
【0003】
そこで、いわゆるボトムアップ技術を用いて微細パターンを形成することが検討されている。このボトムアップ技術としては、例えば微細な領域を表層に有する基材を選択的に化学修飾し、ALD(Atomic Layer Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により基材の化学修飾されていない領域に金属オキサイドを形成した後、上記化学修飾を除去することにより基板にパターンを形成する方法等が検討されている(国際公開第2019/023001号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/023001号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国際公開第2019/023001号では、水素終端を備えた第1の表面と、水酸化物終端を備えた第2の表面とを有する基板を窒化剤に曝露して、アミン終端された第1の表面を形成するステップと、前記アミン終端された第1の表面をブロッキング分子に曝露して、前記第1の表面にブロッキング層を形成するステップと、を含む方法が開示されている。
【0006】
上記方法では、基板をDMSO中のウンデカナール溶液に浸漬することでアミン終端された表面に選択的にブロッキング層を形成している。この際、基板表面のSi-NH基とウンデカナールのアルデヒド基とが反応(脱水縮合反応)して炭素-窒素二重結合を形成すると考えられる。しかし、この反応は平衡反応であり、溶液や空気中の水による加水分解の影響を非常に受けやすいため、塗布法により基板上にブロッキング層を安定に形成することが困難であると考えられる。
【0007】
本発明は、Si-NHで表される末端構造を含む領域を表層に有する基板上に塗布法により選択的に、ALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮する膜を形成できる基板の製造方法及び塗工液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工液を塗工する工程と、上記塗工工程により形成された塗工膜を加熱する工程とを備え、上記塗工液が、上記第1領域の末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基及び芳香環構造を有する化合物を含有する基板の製造方法である。
【0009】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工されるように用いられる塗工液であって、上記第1領域の末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基及び芳香環構造を有する化合物を含有する塗工液である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の基板の製造方法及び塗工液によれば、Si-NHで表される末端構造を含む領域を表層に有する基板上に塗布法により選択的に、ALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮する膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の基板の製造方法及び塗工液について詳説する。
【0012】
<基板の製造方法>
当該基板の製造方法は、Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工液を塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)と、上記塗工工程により形成された塗工膜を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)とを備える。
【0013】
当該基板の製造方法は、上記構成を備えることにより、Si-NHで表される末端構造を含む領域を表層に有する基板上に塗布法により選択的に、ALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮する膜を形成できる。当該基板の製造方法が上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察できる。
【0014】
上記塗工工程で用いる塗工液は、後述する[A]化合物を含有しており、[A]化合物が有する特定の官能基と、Si-NHで表される末端構造とが炭素-窒素二重結合を形成することで、Si-NHで表される末端構造を有する領域に選択的に膜を形成することができると考えられる。また、[A]化合物が芳香環構造を有することで、炭素-窒素二重結合の加水分解を抑制することができると考えられる。さらに、上記加熱工程により加水分解の原因となる水を除去できるため、炭素-窒素二重結合の加水分解をより抑制することができると考えられる。このような要素が相まって、当該基板の製造方法によれば、Si-NHで表される末端構造を含む領域を表層に有する基板上に塗布法により選択的に、ALD法又はCVD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を発揮する膜を形成できると考えられる。
【0015】
当該基板の製造方法は、上記加熱工程後に、上記加熱工程により形成された膜のうち上記第1領域以外の領域に存在する材料を洗浄液により洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)を備えていてもよい。
【0016】
当該基板の製造方法は、上記加熱工程後又は上記洗浄工程後に、基材の表面にCVD法又はALD法によりパターンを堆積させる工程(以下、「堆積工程」ともいう)を備えていてもよい。
【0017】
当該基板の製造方法は、上記加熱工程後に、上記加熱工程により形成された膜を剥離液により剥離する工程(以下、「剥離工程」ともいう)を備えていてもよい。当該基板の製造方法により形成される膜は、剥離液により容易に剥離することができる。
【0018】
以下、当該基板の製造方法が備える各工程について説明する。
【0019】
[塗工工程]
本工程では、Si-NHで表される末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工液を塗工する。本工程により、基材上に塗工膜が形成される。
【0020】
塗工液の塗工方法としては特に限定されず、例えばスピンコート法、ロールコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0021】
(基材)
基材は、Si-NHで表される末端構造(以下、「1級アミノ基末端構造」ともいう)を含む第1領域を表層に有する。基材の形状としては、特に限定されず、例えば板状(基板)、球状等、適宜所望の形状とすることができる。
【0022】
基材は、第1領域以外の領域(以下、「第2領域」ともいう)を表層に有していてもよい。基材が第2領域を表層に有する場合、第1領域上に選択的にブロッキング膜を形成することができる。
【0023】
基材が第2領域を表層に有する場合、第1領域及び第2領域の存在形状としては特に限定されず、例えば平面視で面状、点状、ストライプ状等が挙げられる。第1領域及び第2領域の大きさは特に限定されず、適宜所望の大きさの領域とすることができる。
【0024】
第2領域としては、例えば非金属原子を含む領域、金属原子を含む領域等が挙げられる。第2領域は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
非金属原子の含有形態としては、例えば非金属単体、非金属酸化物、非金属窒化物、非金属酸化物窒化物等が挙げられる。
【0026】
非金属単体としては、例えばケイ素、炭素等の単体が挙げられる。非金属酸化物としては、例えば酸化ケイ素等が挙げられる。非金属酸化物窒化物としては、例えばSiON等が挙げられる。これらの中で、非金属酸化物が好ましく、酸化ケイ素がより好ましい。
【0027】
金属原子としては、金属元素の原子であれば特に限定されない。なお、ケイ素は、非金属原子であり、金属原子に該当しない。金属原子としては、例えば銅、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、スズ、タングステン、ジルコニウム、チタン、タンタル、ゲルマニウム、モリブデン、ルテニウム、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル等が挙げられる。これらの中で、銅、コバルト又はタングステンが好ましい。
【0028】
金属原子の含有形態としては、例えば金属単体、合金、導電性窒化物、金属酸化物、シリサイド等が挙げられる。
【0029】
金属単体としては、例えば銅、鉄、コバルト、タングステン、タンタル等の金属の単体等が挙げられる。合金としては、例えばニッケル-銅合金、コバルト-ニッケル合金、金-銀合金等が挙げられる。導電性窒化物としては、例えば窒化タンタル、窒化チタン、窒化鉄、窒化アルミニウム等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化銅等が挙げられる。シリサイドとしては、例えば鉄シリサイド、モリブデンシリサイド等が挙げられる。これらの中で、金属単体が好ましく、銅単体、コバルト単体又はタングステン単体がより好ましい。
【0030】
本工程では、基材表層の第1領域における1級アミノ基末端構造と後述する[A]化合物が有する官能基とが反応して炭素-窒素二重結合を形成する。
【0031】
基材としては、例えば窒化ケイ素を含む基材に対して、表層のSi-Hで表される末端構造(以下、「水素末端構造」ともいう)を1級アミノ基末端構造に変換する前処理を行った基材等が挙げられる。前処理の種別としては特に限定されず、ウェット処理、ドライ処理などが挙げられる。ウェット処理としては、例えば濃酢酸、希フッ化水素酸等を用いる処理が挙げられる。ドライ処理としては、プラズマ処理等が挙げられる。
【0032】
また、当該基板の製造方法は、上記塗工工程の前に、窒化ケイ素を含む基材の表層における水素末端構造を1級アミノ基末端構造に変換する前処理を行う工程(以下、「前処理工程」ともいう)を備えていてもよい。
【0033】
(塗工液)
本工程で用いる塗工液については下記<塗工液>の項において説明する。
【0034】
[加熱工程]
本工程では、上記塗工工程により形成された塗工膜を加熱する。本工程により、1級アミノ基末端構造と[A]化合物が有する官能基との反応が促進される。また、本工程により、系内の水を除去することができるため、上記反応により形成された炭素-窒素二重結合の加水分解を抑制することができる。
【0035】
加熱手段としては特に限定されず公知の加熱手段を採用でき、例えばオーブン、ホットプレート等が挙げられる。加熱温度及び加熱時間としては、塗工液における溶媒の有無、[A]化合物の構造、[A]化合物の有する官能基の種類等、種々の要素を勘案して適宜決定できる。加熱温度の下限としては、80℃が好ましく、100℃がより好ましく、130℃がさらに好ましい。加熱温度の上限としては、400℃が好ましく、300℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。加熱時間の下限としては、10秒が好ましく、1分がより好ましく、2分がさらに好ましい。加熱時間の上限としては、60分が好ましく、10分がより好ましく、5分がさらに好ましい。
【0036】
形成される膜の平均厚みは、塗工液における[A]化合物の種類及び濃度、並びに加熱工程における加熱温度、加熱時間等の条件を適宜選択することで所望の値にすることができる。膜の平均厚みの下限としては、0.1nmが好ましく、1nmがより好ましく、3nmがさらに好ましい。上記平均厚みの上限としては、例えば20nmである。膜の平均厚みは、分光エリプソメータ(J.A.WOOLLAM社の「M2000D」)を用いて測定した値である。
【0037】
[洗浄工程]
本工程では、上記加熱工程により形成された膜のうち上記第1領域以外の領域に存在する材料を洗浄液により洗浄する。本工程は、上記加熱工程の後に行われる。本工程により、基板上に存在する第1領域における末端構造と炭素-窒素二重結合を形成していない材料が除去される。本工程は、基材が第2領域を有する場合に特に有利であり、第2領域上に存在する材料を除去し、第1領域上に選択的にブロッキング膜を形成することができる。
【0038】
洗浄液としては、有機溶媒が用いられる。例えば下記<塗工液>の項において説明する[B]溶媒として例示する溶媒等が挙げられる。また、塗工液が[B]溶媒を含有する場合、洗浄液として塗工液が含有する[B]溶媒と同種の溶媒を用いることができる。
【0039】
[堆積工程]
本工程では、基材の表面にCVD法又はALD法によりパターンを堆積させる。本工程は、上記加熱工程又は上記洗浄工程の後に行われる。本工程は、基材が第2領域を有する場合に特に有利であり、第1領域上に形成された膜はCVD法又はALD法による金属オキサイド形成に対し高いブロッキング性能を有するため、第2領域上に選択的に金属オキサイドパターンを形成することができる。
【0040】
[剥離工程]
本工程では、上記加熱工程により形成された膜を剥離液により剥離する。本工程は、上記加熱工程又は上記堆積工程の後に行われる。本工程は、基材が第2領域を有し、かつ上記堆積工程の後に行われる場合に特に有利であり、加熱工程により形成された膜を剥離することにより、基材の第2領域上に選択的に金属オキサイドパターンを形成することができる。
【0041】
剥離液としては、酸を含有する液又は塩基を含有する液が好ましい。酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、イソ酪酸、2-エチルヘキサン酸等のカルボン酸等が挙げられる。これらの中で、カルボン酸が好ましく、クエン酸がより好ましい。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、n-プロピルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等が挙げられる。これらの中で、TMAHが好ましい。
【0042】
また、剥離液としては、水酸化アンモニウム-過酸化水素水溶液(SC-1洗浄液)、塩酸-過酸化水素水溶液(SC-2洗浄液)等も挙げられる。
【0043】
剥離液の溶媒は、水を主成分とすることが好ましい。溶媒中の水の含有割合の下限としては、50質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。上記含有割合は、100質量%であってもよい。
【0044】
<塗工液>
当該塗工液は、基材の第1領域におけるSi-NHで表される末端構造(1級アミノ基末端構造)と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基及び芳香環構造を有する化合物(以下、「[A]化合物」ともいう)を含有する。当該塗工液は常温常圧で液状であり、必要に応じて、溶媒(以下、「[B]溶媒」ともいう)を含有することができる。当該塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲において、[A]化合物及び[B]溶媒以外のその他の成分(以下、「他の成分」ともいう)を含有することができる。
【0045】
当該塗工液は、1級アミノ基末端構造を含む第1領域を表層に有する基材に塗工されるように用いられる。具体的には、当該塗工液は、上述の当該基板の製造方法における塗工工程において用いられる。
【0046】
以下、当該塗工液が含有する各成分について説明する。
【0047】
[[A]化合物]
[A]化合物は、基材の第1領域における1級アミノ基末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基(以下、「官能基(X)」ともいう)及び芳香環構造を有する。
【0048】
[A]化合物は、重合体(以下、「[A1]重合体」ともいう)であってもよいし、低分子化合物(以下、「[A2]化合物」ともいう)であってもよい。本明細書において、「重合体」とは繰り返し単位を有する化合物を意味し、「低分子化合物」とは重合体でない化合物であって、分子量分布を有さず、分子量が1,000以下の化合物を意味する。
【0049】
官能基(X)は、1級アミノ基末端構造と反応して炭素-窒素二重結合を形成する官能基である。官能基(X)としては、アルデヒド基又はケトン性カルボニル基が好ましい。[A]化合物は、1又は複数の官能基(X)を有することができる。
【0050】
芳香環構造としては、例えば環員数6~20の芳香族炭化水素環構造、環員数5~20の芳香族複素環構造等が挙げられる。「環員数」とは、環構造を構成する原子数を意味し、多環の場合は多環を構成する総原子数を意味する。
【0051】
環員数6~20の芳香族炭化水素環構造としては、例えばベンゼン構造、ナフタレン構造、ビフェニル構造、アントラセン構造、フェナントレン構造、フルオレン構造、テトラセン構造、ピレン構造等が挙げられる。
【0052】
環員数5~20の芳香族複素環構造としては、フラン構造、ベンゾフラン構造、ピロール構造、インドール構造、チオフェン構造、ベンゾチオフェン構造、ジベンゾチオフェン構造、イミダゾール構造、ピラゾール構造、オキサゾール構造等が挙げられる。
【0053】
芳香環構造としては、環員数6~20の芳香族炭化水素環構造が好ましい。
【0054】
[A]化合物は、分子量が200以上であることが好ましい。なお、「分子量」は、[A1]重合体である場合には後述する重量平均分子量Mwを意味し、[A2]化合物である場合には低分子化合物を構成する各原子の原子量の総和を意味する。
【0055】
([A1]化合物)
[A]化合物が[A1]重合体である場合、[A1]重合体は、芳香環構造を含む構造単位(以下、「構造単位(I)」ともいう)及び官能基(X)を有する。[A1]重合体は、構造単位(I)以外の他の構造単位を有していてもよい。
【0056】
官能基(X)がアルデヒド基である場合、[A1]重合体は、官能基(X)を主鎖の末端又は側鎖の末端に有することが好ましく、官能基(X)を主鎖の末端に有することがより好ましい。「主鎖」とは[A1]重合体を構成する原子鎖のうち最も長い原子鎖を意味し、「側鎖」とは[A1]重合体を構成する原子鎖のうち主鎖以外の原子鎖を意味する。
【0057】
主鎖の末端の官能基(X)は、例えばポリスチレンなどのリビングアニオン重合体の重合末端を官能基(X)を与える末端処理剤で処理することにより導入することができる。官能基(X)を与える末端処理剤としては、例えばN,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0058】
側鎖の末端に官能基(X)を有する[A1]重合体は、例えば4-ビニルベンズアルデヒド等の末端に官能基(X)を有し、かつエチレン性炭素-炭素二重結合を有する単量体を用いることなどにより形成することができる。
【0059】
官能基(X)がケトン性カルボニル基である場合、[A1]重合体は、官能基(X)を主鎖中に有することが好ましい。また、ケトン性カルボニル基の両端が上記芳香環構造と結合していることが好ましい。主鎖中のケトン性カルボニル基は、例えば2,2’-ジメトキシビフェニル等の芳香環構造を有する化合物と4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等の芳香族ジカルボン酸とをトロフルオロメタンスルホン酸の存在下で反応させることでフリーデル・クラフツ反応により形成することができる。
【0060】
[A]化合物が[A1]重合体である場合、[A1]重合体の重量平均分子量Mwの下限としては、200が好ましく、1,000がより好ましく、2,000がさらに好ましく、3,000がさらに好ましく、4,000が特に好ましい。上記Mwの上限としては、80,000が好ましく、60,000がより好ましく、20,000が好ましい場合もあり、10,000が好ましい場合もある。
【0061】
[A1]重合体のGPCによるポリスチレン換算数平均分子量Mnに対するMwの比(Mw/Mn、分散度)の上限としては、5が好ましく、2.5がより好ましく、1.5が好ましい場合もあり、1.3が好ましい場合もある。上記比の下限としては、通常1であり、1.02が好ましい。
【0062】
[Mw及びMnの測定方法]
本明細書における重合体のMw及びMnは、東ソー(株)のGPCカラム(「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本及び「G4000HXL」1本)を使用し、以下の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した値である。
溶離液 :テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬(株))
流量 :1.0mL/分
試料濃度 :1.0質量%
試料注入量:100μL
カラム温度:40℃
検出器 :示差屈折計
標準物質 :単分散ポリスチレン
【0063】
([A2]化合物)
[A]化合物が[A2]化合物である場合、[A2]化合物は、芳香環構造及び官能基(X)を有する。[A2]化合物は、官能基(X)が芳香環構造に結合していることが好ましい。この場合、塗布法により基板上にブロッキング膜をより安定に形成することができる。
【0064】
[A2]化合物としては、例えばp-オクチルオキシベンズアルデヒド、3,5-ビス(ドデシルオキシ)ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0065】
[A]化合物が[A2]化合物である場合、[A2]化合物の分子量の下限としては、200が好ましく、300がより好ましい。[A2]化合物の分子量が上記下限以上である場合、塗工液の塗工性をより向上させることができる。上記分子量の上限としては、1,000であり、700が好ましく、600がより好ましい。
【0066】
[[B]溶媒]
[B]溶媒としては、[A]化合物及び他の成分を溶解又は分散可能な溶媒であれば特に限定されず、例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。当該塗工液は、[B]溶媒を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0067】
アルコール系溶媒としては、例えば
4-メチル-2-ペンタノール、n-ヘキサノール等の炭素数1~18の脂肪族モノアルコール系溶媒;
シクロヘキサノール等の炭素数3~18の脂環式モノアルコール系溶媒;
1,2-プロピレングリコール等の炭素数2~18の多価アルコール系溶媒;
プロピレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数3~19の多価アルコール部分エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0068】
エーテル系溶媒としては、例えば
ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル等のジアルキルエーテル系溶媒;
テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル系溶媒;
ジフェニルエーテル、アニソール(メチルフェニルエーテル)等の芳香環含有エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0069】
ケトン系溶媒としては、例えば
アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2-ヘプタノン(メチル-n-ペンチルケトン)、エチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジ-iso-ブチルケトン、トリメチルノナノン等の鎖状ケトン系溶媒;
シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルシクロヘキサノン等の環状ケトン系溶媒;
2,4-ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0070】
アミド系溶媒としては、例えば
N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドン等の環状アミド系溶媒;
N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド等の鎖状アミド系溶媒などが挙げられる。
【0071】
エステル系溶媒としては、例えば
酢酸n-ブチル、乳酸エチル等のモノカルボン酸エステル系溶媒;
プロピレングリコールアセテート等の多価アルコールカルボキシレート系溶媒;
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒;
γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;
シュウ酸ジエチル等の多価カルボン酸ジエステル系溶媒;
ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒などが挙げられる。
【0072】
炭化水素系溶媒としては、例えば
n-ペンタン、n-ヘキサン等の炭素数5~12の脂肪族炭化水素系溶媒;
トルエン、キシレン等の炭素数6~16の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0073】
これらの中で、エステル系溶媒が好ましく、多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒、ラクトン系溶媒又はこれらの組み合わせがより好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン又はこれらの組み合わせがさらに好ましい。
【0074】
[他の成分]
他の成分としては、例えば酸発生剤、界面活性剤等が挙げられる。当該塗工液における他の成分の含有割合としては、用いる他の成分の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0075】
当該塗工液の固形分濃度の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、0.7質量%がさらに好ましい。上記固形分濃度の上限としては、30質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。「固形分濃度」とは、当該塗工液における[B]溶媒以外の全成分の濃度(質量%)をいう。
【0076】
[塗工液の調製方法]
当該塗工液は、例えば[A]化合物、[B]溶媒及び必要に応じて他の成分を所定の割合で混合し、好ましくは0.45μm以下の細孔を有する高密度ポリエチレンフィルター等で濾過することにより調製することができる。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各物性値の測定方法を以下に示す。
【0078】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分散度(Mw/Mn)]
重合体のMw及びMnは、上記[Mw及びMnの測定方法]の項に記載の条件に従って測定した。重合体の分散度(Mw/Mn)は、Mw及びMnの測定結果より算出した。
【0079】
13C-NMR分析]
13C-NMR分析は、核磁気共鳴装置(日本電子(株)の「JNM-EX400」)を使用し、測定溶媒としてCDClを用いて行った。重合体における各構造単位の含有割合は、13C-NMRで得られたスペクトルにおける各構造単位に対応するピークの面積比から算出した。
【0080】
<[A]化合物の合成>
[A]化合物のうち、[A1]重合体として重合体(A1-1)~(A1-3)を、[A2]化合物として以下の化合物(A2-1)をそれぞれ合成した。また、[A1]重合体の対照として重合体(a1-1)~(a1-3)を合成した。
【0081】
[合成例1]重合体(A1-1)(BZP-co-BP(OMe)2)の合成
温度計とスターラーバーを備えた三口フラスコに、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル7.8g、2,2’-ジメトキシビフェニル7.7g及びトリフルオロメタンスルホン酸45mLを加え、窒素雰囲気下、40℃で24時間加熱攪拌した。反応終了後、水を45mLゆっくり滴下し、重合体を析出させ、ブフナー漏斗にて回収し、減圧乾燥させた。この重合体を少量のN,N-ジメチルアセトアミドへ溶解させ2-プロパノールへ沈殿精製させ、ブフナー漏斗にて回収し、減圧乾燥させることで下記式(A1-1)で表される重合体(以下、「重合体(A1-1)」又は「BZP-co-BP(OMe)2」ともいう)を12.8g得た。重合体(A1-1)は、Mwが50,000、Mnが24,800、Mw/Mnが2.02であった。
【0082】
【化1】
【0083】
[合成例2]重合体(A1-2)(PS-r-PStCHO)の合成
温度計、ジムロート冷却器及びスターラーバーを備えた三口フラスコにメチルエチルケトン10gを入れ80℃で保持し、スチレン7.28g、4-ビニルベンズアルデヒド3.96g、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロプオネート)0.69g及びメチルエチルケトン20gの混合液をフィーダーより3時間滴下した。滴下終了後、3時間、80℃にて熟成させた。得られた重合液を5倍量のメタノールで沈殿精製することで白色固体の下記式(A1-2)で表される重合体(以下、「重合体(A1-2)」又は「PS-r-PStCHO」ともいう)7.31gを得た。重合体(A-2)のMwが5,780、Mnが3,140、Mw/Mnが1.84だった。13C-NMR分析により、重合体(A1-2)におけるスチレンに由来する構造単位と4-ビニルベンズアルデヒドに由来する構造単位とのモル比は、58:42であった。
【0084】
【化2】
【0085】
[合成例3]重合体(A1-3)(PS-w-CHO)の合成
500mLのフラスコ反応容器を減圧乾燥した後、窒素雰囲気下、蒸留脱水処理を行ったテトラヒドロフラン(THF)120gを注入し、-78℃まで冷却した。次に、このTHFにsec-ブチルリチウム(sec-BuLi)の1Nシクロヘキサン溶液2.38mLを注入し、次いで、重合禁止剤除去のためシリカゲルによる吸着濾別と蒸留脱水処理とを行ったスチレン13.3mLを30分かけて滴下注入し、重合系が橙色であることを確認した。この滴下注入のとき、反応溶液の内温が-60℃以上にならないように注意した。滴下終了後に30分間熟成した。その後、N,N-ジメチルホルムアミドを0.18ml注入し重合末端の停止反応を行った。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してメチルイソブチルケトン(MIBK)で置換した。得られた溶液に、シュウ酸2%水溶液1,000gを注入し攪拌して、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、金属塩を除去した。その後、超純水1,000gを注入し攪拌して、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、シュウ酸を除去した後、溶液を濃縮してメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナー漏斗にて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の下記式(A-3)で表される重合体(以下、「重合体(A1-3)」又は「PS-w-CHO」ともいう)11.9gを得た。重合体(A1-3)は、Mwが5,000、Mnが4,800、Mw/Mnが1.04であった。
【0086】
【化3】
【0087】
[合成例4]化合物(A2-1)(3,5-ビス(ドデシルオキシ)ベンズアルデヒド)の合成
1Lナス型フラスコに3,5-ジヒドロキシベンズアルデヒド8.37g、1-ブロモドデカン44.5g、N,N-ジメチルホルムアミド300g及び炭酸カリウム20.7gを加え、窒素雰囲気下、80℃で16時間加熱攪拌した。冷却後、桐山ロート(登録商標)にて炭酸カリウムおよび塩を除去した後、トルエン/超純水にて水洗を4回行った。有機層を回収し、無水硫酸ナトリウムにて水を除去したのち、ひだ折ろ紙にてろ液を回収し、減圧濃縮した。次に、ヘキサン/塩化メチレン=10/1にてカラムクロマトグラフィーより精製を行い、白色固体の3,5-ビス(ドデシルオキシ)ベンズアルデヒド(以下、「化合物(A2-1)」ともいう)32gを得た。化合物(A2-1)の分子量は、474であった。
【0088】
[合成例5]重合体(a1-1)(PS-w-(CN)2)の合成
合成例3で得られた重合体(A1-3)10.0gをトルエン40gへ溶解させ、マロノニトリル0.21g、酢酸アンモニウム0.25g及び酢酸0.038gを加え、窒素雰囲気下、115℃で4時間、加熱乾留した。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してMIBKで置換した。得られた溶液に、炭酸水素ナトリウム2%水溶液500gを注入し攪拌して、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返した。その後、超純水1,000gを注入し攪拌して下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返した後、溶液を濃縮してメタノール500g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナー漏斗にて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の下記式(a1-1)で表される重合体(以下、「重合体(a1-1)」又は「PS-w-(CN)2」ともいう)9.8gを得た。重合体(a1-1)は、Mwが5,300、Mnが5,100、Mw/Mnが1.04であった。
【0089】
【化4】
【0090】
[合成例6]重合体(a1-2)(PS-w-PO3Et2)の合成
500mLのフラスコ反応容器を減圧乾燥した後、窒素雰囲気下、蒸留脱水処理を行ったTHF120gを注入し、-78℃まで冷却した。その後、このTHFにsec-BuLiの1Nシクロヘキサン溶液を2.30mL注入し、その後、重合禁止剤除去のためシリカゲルによる吸着濾別と蒸留脱水処理とを行ったスチレン13.3mLを、反応溶液の内温が-60℃以上にならないように注意しながら30分かけて滴下注入し、その後30分間攪拌した。この後、クロロリン酸ジエチルを0.33ml注入し重合末端の停止反応を行った。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してMIBKで置換した。その後、シュウ酸2質量%水溶液200gを注入し攪拌して、静置後、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、リチウム塩を除去した。その後、超純水200gを注入し攪拌して、下層の水層を取り除いた。この操作を4回繰り返し、シュウ酸を除去した後、溶液を濃縮してメタノール400g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナー漏斗にて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の下記式(a1-2)で表される重合体(以下、「重合体(a1-2)」又は「PS-w-PO3Et2」ともいう)11.5gを得た。重合体(a1-2)は、Mwが5,100、Mnが4,900、Mw/Mnが1.04であった。
【0091】
【化5】
【0092】
[合成例7]重合体(a1-3)(PS-w-PO3H2)の合成
合成例6で得られた重合体(a1-2)10.0gにトリエチルアミン0.81g、プロピレングリコールモノメチルエーテル4g及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート40gを加えて、窒素雰囲気下、80℃で6時間、加熱攪拌した。この反応溶液を室温まで昇温し、得られた反応溶液を濃縮してMIBKで置換した。その後、超純水200gを注入し攪拌して、下層の水層を取り除いた。この操作を3回繰り返し、トリエチルアミンを除去した後、溶液を濃縮してメタノール400g中に滴下することで重合体を析出させ、ブフナー漏斗にて固体を回収した。この固体を60℃で減圧乾燥させることで白色の下記式(a1-3)で表される重合体(以下、「重合体(a1-3)」又は「PS-w-PO3H2」ともいう)9.2gを得た。重合体(a1-3)は、Mwが5,100、Mnが4,800、Mw/Mnが1.06であった。
【0093】
【化6】
【0094】
<塗工液の調製>
塗工液の調製に用いた[B]溶媒を以下に示す。
溶媒(B-1):プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
溶媒(B-2):γ-ブチロラクトン
【0095】
[実施例1-1]塗工液(S-1)の調製
[A]化合物としての重合体(A-1)1.30gに、[B]溶媒としての溶媒(B-1)79g及び溶媒(B-2)19.8gを加え、攪拌したのち、0.45μmの細孔を有する高密度ポリエチレンフィルターにて濾過することにより、塗工液(S-1)を調製した。塗工液(S-1)の固形分濃度は1.2%であった。
【0096】
[実施例1-2~1-4及び比較例1-1~1-3]塗工液(S-2)~(S-4)及び(CS-1)~(CS-3)の調製
下記表1に示す種類及び配合量の各成分を用いた以外は上記実施例1-1と同様にして、塗工液(S-2)~(S-4)及び(CS-1)~(CS-3)を調製した。塗工液(S-2)~(S-4)及び(CS-1)~(CS-3)の固形分濃度を下記表1に合わせて示す。
【0097】
【表1】
【0098】
<膜の形成>
[基板]
基板として、以下に示す基板を用いた。
th-SiO:8インチ熱酸化膜付き二酸化ケイ素基板
SiN :8インチ窒化ケイ素基板
Cu :8インチ銅基板
Co :8インチコバルト基板
W :8インチタングステン基板
なお、上記基板については、プラズマ処理装置(アルバック(株)の「Luminous NA-1300」)を用い、N/(3%)H混合ガスによるプラズマ処理([条件]25℃、チャンバー圧:30Pa、処理時間:5分、流量:300sccm、Microwave:300mW)を行ったものを使用した。このプラズマ処理により、SiN基板の表層に存在するSi-H末端構造がSi-NH末端構造に変換される。
【0099】
[実施例2-1]
下記表2に示す各種基板を3cm×3cmに裁断し、スピンコーター(ミカサ(株)の「MS-B300」)を用いて、上記調製した組成物(S-1)を1,500rpm、20秒間の条件にてスピンコートし、塗工膜を形成した(塗工工程)。次いで、この塗工膜が形成された基板を150℃で180秒間焼成し、膜を形成した(加熱工程)。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて基板を洗浄した(洗浄工程)。洗浄工程では、基板表面に膜が吸着していない場合には未吸着の膜が除去される。
【0100】
以上の塗工工程、加熱工程及び洗浄工程の一連の処理を経た基板について、表面の静的接触角を接触角計(協和界面科学(株)の「Drop master DM-501」)を用いて測定したところ、th-SiO基板が38°、SiN基板が85°、Cu基板が36°、Co基板が40°及びW基板が42°であった。上記処理前の各種基板の静的接触角の値は、th-SiO基板が36°、SiN基板が25°、Cu基板が36°、Co基板が42°及びW基板が45°であったため、上記処理前の静的接触角に比べて大きく増加しているSiN基板上に選択的に膜が形成されていることがわかる。
【0101】
[実施例2-2~2-4及び比較例2-1~2-3]
下記表2に示す塗工液を用いたこと以外は実施例2-1と同様の処理を行い、静的接触角を測定した。結果を下記表2に示す。
【0102】
下記表2中、各種基板名にかっこ書きで記載している数値は、処理前の各種基板の静的接触角(Blank SCA)を示す。
【0103】
【表2】
【0104】
<膜のwet剥離性評価>
[実施例3-1]
実施例2-1で一連の処理を行った各種基板を、2質量%クエン酸水溶液を注いだシャーレに3分間浸漬し、さらに2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を注いだシャーレに3分間浸漬した。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて洗浄した後、上記接触角計を用いて基板表面の静的接触角を測定したところ、th-SiO基板が38°、SiN基板が24°、Cu基板が32°、Co基板が38°及びW基板が42°であった。上記wet剥離処理前の各種基板の静的接触角の値(実施例2-1)は、th-SiO基板が38°、SiN基板が85°、Cu基板が34°、Co基板が40°及びW基板が42°であったため、SiN基板上に形成されていた膜をwet剥離できていることがわかる。
【0105】
[実施例3-2~3-4及び比較例3-1~3-3]
実施例2-2~2-4及び比較例2-1~2-3で一連の処理を行った各種基板をそれぞれ用いたこと以外は実施例3-1と同様の処理を行い、静的接触角を測定した。結果を下記表3に示す。
【0106】
下記表3中、各種基板名にかっこ書きで記載している数値は、上記<膜の形成>の項における処理前の各種基板の静的接触角(Blank SCA)を示す。下記表3中、「剥離前」の値はいずれも上記表2における値である。
【0107】
【表3】
【0108】
<金属オキサイドブロッキング評価>
[実施例4-1]
実施例2-1で一連の処理を行ったSiN基板の表面について、膜の形成の状態を評価するため、ALDによるオキサイド層形成の抑制度を測定する金属オキサイドブロッキング評価を行った。対照として、実施例2-1で一連の処理を行う前のSiN基板を用いた。
【0109】
[ALDによるオキサイド層形成]
ALDは、スタンフォード大学内のCambridge Nanotech FIJIを用い、下記表4に示す条件で行った。プレカーサーは、トリメチルアルミニウムを用い、助触媒に水を用いた。ALDサイクルは、47サイクルに固定した。
【0110】
【表4】
【0111】
[ESCA分析]
上記ALD後のSiN基板表面のAl成分について、ESCA分析より定量した。ESCA分析は、(株)アルバックの「Quantum2000」にて、100μmφの条件から膜成分及び基板成分を除いたAl成分をAl2p(72-78eV)にて定量した。その後、実施例2-1における一連の処理を行う前のSiN基板について測定したAl成分の定量値を基準とし、基準となる定量値からどの程度定量値が減少したかをブロッキング率(%)として算出した。その結果、塗工液S-1を用いた場合のSiN基板のブロッキング率は98.6%であった。ブロッキング率の値が大きいほど金属オキサイドブロッキング性能が高い膜であることを意味するため、SiN基板上に形成された膜はALD法による金属オキサイド形成に対する高いブロッキング性能を有することがわかる。
【0112】
[実施例4-2~4-4及び比較例4-1~4-3]
実施例2-2~2-4及び比較例2-1~2-3で一連の処理を行ったSiN基板をそれぞれ用いたこと以外は実施例4-1と同様の処理を行い、ブロッキング率を算出した。結果を下記表5に示す。実施例がいずれも優れたブロッキング性能を有しているのに対し、比較例においてはブロッキング性能をほぼ有していない結果となった。
【0113】
【表5】