(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074188
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】パネル式埋設型枠、コンクリート構造体およびその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20230522BHJP
E04G 11/06 20060101ALI20230522BHJP
E04B 2/86 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
E02D27/01 D
E04G11/06 A
E04B2/86 601C
E04B2/86 601R
E04B2/86 611D
E04B2/86 611L
E02D27/01 102
E04B2/86 611J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187006
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】507011611
【氏名又は名称】株式会社進富
(71)【出願人】
【識別番号】516152952
【氏名又は名称】構法開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129849
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】大西 克則
【テーマコード(参考)】
2D046
2E150
【Fターム(参考)】
2D046BA12
2D046BA13
2D046BA31
2E150HC00
(57)【要約】
【課題】構成部材が少なく、施工手間と施工費用を低減できるパネル式埋設型枠、コンクリート構造体およびその構築方法を提供する。
【解決手段】構造物の一部として残置される複数の型枠部材10と、型枠部材10から張り出す複数の張出材30と、隣り合う張出材30間に掛け渡される連結横材50とを備えており、連結横材50は、構築されるコンクリート構造体(橋脚)の構造横材(フープ筋)となり、隣り合う型枠部材10は、連結横材50を介して連結されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の一部として残置される複数の型枠部材と、前記型枠部材から張り出す複数の張出材と、隣り合う前記張出材間に掛け渡される連結横材とを備えており、
前記連結横材は、構築されるコンクリート構造体の構造横材となり、
隣り合う前記型枠部材は、前記連結横材を介して連結されている
ことを特徴とするパネル式埋設型枠。
【請求項2】
前記連結横材は、前記コンクリート構造体内に立設された構造部材を囲うフープ筋である
ことを特徴とする請求項1に記載のパネル式埋設型枠。
【請求項3】
前記張出材は、前記型枠部材に対向する型枠を支持するセパレータである
ことを特徴とする請求項1に記載のパネル式埋設型枠。
【請求項4】
隣り合う前記型枠部材の接合部分には、型枠部材同士の接合を補助するための補助プレートが敷設され、
前記張出材は、前記補助プレートに直交して設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のパネル式埋設型枠。
【請求項5】
前記型枠部材の上縁部に、上方に隣接する他のパネル式埋設型枠を係止する係止金具と、上方に隣接する前記パネル式埋設型枠を前記パネル式埋設型枠の真上に誘導するガイド片とが設けられており、
前記係止金具は、上方に隣接する他のパネル式埋設型枠の型枠部材との間に頭部が隙間をあけて固定されたボルトを係止する係止部を備え、
前記係止部は、前記型枠部材から離反し、前記ボルトの頭部を軸部側から押圧して係止する段板部を備えており、
前記ガイド片は、前記段板部の上端から外側に傾斜し、前記ボルトの頭部と前記型枠部材との隙間に入り込む傾斜誘導部を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のパネル式埋設型枠。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のパネル式埋設型枠と、前記連結横材が接続される構造縦材と、前記構造縦材の周囲に打設されたコンクリート部とを備えた
ことを特徴するコンクリート構造体。
【請求項7】
前記構造縦材の内側に配置され剪断補強を行う帯筋籠を、さらに備えた
ことを特徴する請求項6に記載のコンクリート構造体。
【請求項8】
構造物の一部として残置される複数の型枠部材に、前記型枠部材から張り出す複数の張出材を取り付け、隣り合う前記張出材間に連結横材を掛け渡し隣り合う前記型枠部材同士を接合してパネル式埋設型枠を形成するパネル式埋設型枠形成工程と、
コンクリート構造体に埋設される構造部材を設置する構造部材設置工程と、
前記パネル式埋設型枠を吊り下げて前記構造部材の側部に設置するパネル式埋設型枠設置工程と、
前記連結横材を構造横材として前記構造部材に固定するパネル式埋設型枠固定工程と、
前記型枠部材に沿ってコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、を備えた
ことを特徴とするコンクリート構造体の構築方法。
【請求項9】
前記構造部材設置工程では、構造縦材を設置するとともにその内側に帯筋籠を設置し、
前記帯筋籠の上に、仮設の作業足場を設置する足場設置工程をさらに備えた
ことを特徴とする請求項8に記載のコンクリート構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル式埋設型枠、コンクリート構造体およびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より構造物の一部として残置される埋設式の型枠が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の型枠は、鉄筋と一体化されたものであって、一方側の型枠材 と、型枠材に接続されるスチフナープレートと、スチフナープレートを貫通して配置される縦筋と、縦筋に結束される横筋とを備えている。型枠材と型枠材との接合箇所においては、鉄筋側からフラットバーが接合介助材として配置されているものの、各型枠材に接続されたスチフナープレート同士が繋がっていない。そこで、この接合箇所をさらに補強するために、型枠材の裏面側(鉄筋側とは反対側)から継手部補強材が配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の型枠では、型枠材同士の接合箇所において、接合のためのフラットバーや継手部補強材を取り付けているので、施工に手間と費用がかかる。
【0005】
本発明は、構成部材が少なく、施工手間と施工費用を低減できるパネル式埋設型枠、コンクリート構造体およびその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する第一の本発明は、構造物の一部として残置される複数の型枠部材と、前記型枠部材から張り出す複数の張出材と、隣り合う前記張出材間に掛け渡される連結横材とを備えたパネル式埋設型枠である。前記連結横材は、構築されるコンクリート構造体の構造横材となり、隣り合う前記型枠部材は、前記連結横材を介して連結されていることを特徴とする。
【0007】
本発明のパネル式埋設型枠によれば、コンクリート構造体の構造横材を連結横材としているので、横材を有効活用でき、構成部材を少なくすることができる。したがって、施工手間と施工費用を低減することができる。
【0008】
本発明のパネル式埋設型枠においては、前記連結横材は、前記コンクリート構造体内に立設された構造部材を囲うフープ筋であるものが好ましい。このような構成によれば、橋脚等の柱部材を構築することができる。
【0009】
本発明のパネル式埋設型枠においては、前記張出材は、前記型枠部材に対向する型枠を支持するセパレータであるものが好ましい。このような構成によれば、対向する型枠を所定位置で支持することができ、基礎の立上り部を構築することができる。
【0010】
本発明のパネル式埋設型枠においては、隣り合う前記型枠部材の接合部分には、型枠部材同士の接合を補助するための補助プレートが敷設され、前記張出材は、前記補助プレートに直交して設けられているものが好ましい。このような構成によれば、型枠部材同士を強固に接合することができる。
【0011】
本発明のパネル式埋設型枠においては、前記型枠部材の上縁部に、上方に隣接する他のパネル式埋設型枠を係止する係止金具と、上方に隣接する前記パネル式埋設型枠を前記パネル式埋設型枠の真上に誘導するガイド片とが設けられており、前記係止金具は、上方に隣接する他のパネル式埋設型枠の型枠部材との間に頭部が隙間をあけて固定されたボルトを係止する係止部を備え、前記係止部は、前記型枠部材から離反し、前記ボルトの頭部を軸部側から押圧して係止する段板部を備えており、前記ガイド片は、前記段板部の上端から外側に傾斜し、前記ボルトの頭部と前記型枠部材との隙間に入り込む傾斜誘導部を備えているものが好ましい。このような構成によれば、上方のパネル式埋設型枠を設置する際に位置決めを容易に行うことができる。
【0012】
前記課題を解決する第二の本発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のパネル式埋設型枠と、前記連結横材が接続される構造縦材と、前記構造縦材の周囲に打設されたコンクリート部とを備えたことを特徴とするコンクリート構造体である。
【0013】
本発明のコンクリート構造体によれば、パネル式埋設型枠の連結横材がコンクリート構造体の構造横材となるので、横材を有効活用でき、構成部材を少なくすることができる。したがって、コンクリート構造体の骨組みの施工手間と施工費用を低減することができる。
【0014】
本発明のコンクリート構造体においては、前記構造縦材の内側に配置され剪断補強を行う帯筋籠を、さらに備えたものが好ましい。このような構成によれば、コンクリート構造体の強度を大きくすることができる。
【0015】
前記課題を解決する第三の本発明は、構造物の一部として残置される複数の型枠部材に、前記型枠部材から張り出す複数の張出材を取り付け、隣り合う前記張出材間に連結横材を掛け渡し隣り合う前記型枠部材同士を接合してパネル式埋設型枠を形成するパネル式埋設型枠形成工程と、コンクリート構造体に埋設される構造部材を設置する構造部材設置工程と、前記パネル式埋設型枠を吊り下げて前記構造部材の側部に設置するパネル式埋設型枠設置工程と、前記連結横材を構造横材として前記構造部材に固定するパネル式埋設型枠固定工程と、前記型枠部材に沿ってコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、を備えたことを特徴とするコンクリート構造体の構築方法である。
【0016】
本発明のコンクリート構造体の構築方法によれば、パネル式埋設型枠の連結横材をコンクリート構造体の構造横材として利用するので、構造部材設置工程で横材を設置する作業を低減できる。横材が、型枠部材同士を接合する接合材の役目と、コンクリート構造体の構造横材の役目とを果たすので、横材を有効活用でき、構成部材を少なくすることができる。したがって、コンクリート構造体の構築の施工手間と施工費用を低減することができる。
【0017】
本発明のコンクリート構造体の構築方法においては、前記構造部材設置工程では、構造縦材を設置するとともにその内側に帯筋籠を設置し、前記帯筋籠の上に、仮設の作業足場を設置する足場設置工程をさらに備えたものが好ましい。このような構成によれば、作業足場の設置が容易になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のパネル式埋設型枠、コンクリート構造体およびその構築方法によれば、構成部材を少なくでき、施工手間と施工費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第一実施形態に係るコンクリート構造体のコンクリート内部の構造部材を示した平面図である。
【
図2】第一実施形態のパネル式埋設型枠を示す図であって、(a)はパネルの背面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【
図3】(a)~(c)は、第一実施形態の上下方向に隣り合う型枠部材同士を接合する状態を示した側面図、(d)は、重ね継手鉄筋を設置した状態を示した側面図である。
【
図4】(a)~(c)は、第一実施形態の上下方向に隣り合うパネル式埋設型枠同士を係止する状態を示した側面図である。
【
図6】第一実施形態に係るコンクリート構造体の角部におけるコーナー部材を示した図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【
図7】第一実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)は構造部材設置工程を示した側面図、(b)はパネル式埋設型枠設置工程を示した側面図、(c)はパネル式埋設型枠固定工程を示した側面図である。
【
図8】第一実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)は構造部材設置工程を示した側面図、(b)は足場設置工程を示した側面図である。
【
図9】第一実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)はコンクリート打設工程を示した側面図、(b)はパネル式埋設型枠設置工程を示した側面図、(c)はパネル式埋設型枠設置工程を示した側面図である。
【
図10】第一実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)は構造部材設置工程を示した側面図、(b)はコンクリート打設工程を示した側面図である。
【
図11】第二実施形態のパネル式埋設型枠を示す図であって、(a)はパネルの背面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【
図12】第二実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)は構造部材設置工程を示した側面図、(b)はパネル式埋設型枠設置工程を示した側面図である。
【
図13】第二実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)はパネル式埋設型枠固定工程を示した側面図、(b)は型枠設置工程を示した側面図である。
【
図14】第二実施形態のコンクリート構造体の構築方法を説明するための図であって、(a)はコンクリート打設工程を示した側面図、(b)はコンクリート構造体の完成状態を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第一実施形態>
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第一実施形態では、コンクリート構造体として、H型鋼を主筋とする橋脚を構築する場合を説明する。まず、第一実施形態に係るパネル式埋設型枠の構成を説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態のパネル式埋設型枠1は、コンクリート構造体内に立設された構造部材を構成する主筋(構造縦材)2を囲うように配置されている。主筋2は、圧縮座屈し難いH型鋼が用いられ、全軸力強度で基礎に露出柱脚接合されている。主筋2は、橋脚の外周縁部に沿って所定間隔をあけて複数本立設されている。
図2にも示すように、パネル式埋設型枠1は、複数の型枠部材10と、張出材30と、連結横材50とを備えている。
【0022】
型枠部材10は、構造物(橋脚)の一部として残置される非構造部材型埋設型枠としてプレハブ化されたものであり、橋脚の表面材となる。型枠部材10は、矩形のプレキャストコンクリート板にて構成されている。型枠部材10の内部には、補強鉄筋(図示せず)が埋設されている。型枠部材10は、上下左右に複数枚連設され、接合金具にて接合されている。複数の型枠部材10にて構成されるパネル体の大きさは、輸送可能な大きさ(幅:2.5m、高さ:3.8mから荷台高さを減じた寸法)以下に設定されている。パネル体の高さは、型枠部材10のコンクリート打設可能深さ以下に設定されている。
【0023】
接合金具は、型枠部材10の接合部分に設けられ、連結横材50にて接合される型枠部材10同士の接合を補助するための鋼製の補助プレートである。接合金具は、型枠部材10の接合部分に敷設されている。接合金具は、型枠部材10を相互に固定可能な強度で、且つコンクリート打設時にかかるコンクリートの圧力に耐え得る強度を備えている。鋼製プレートは、連結横材50のかぶり寸法を確保できる厚さとなっている。接合金具は、鋼製プレートの形状に応じて、上下左右に隣接する4枚の型枠部材10を接合する第一接合金具11と、左右方向に隣接する2枚の型枠部材10を接合する第二接合金具12と、上下方向に隣接する2枚の型枠部材10を接合する第三接合金具13とに区別されている。
【0024】
図2および
図3に示すように、第一接合金具11は、矩形形状の鋼製プレートにて構成されており、上下左右に隣接する4枚の型枠部材10の出隅部にそれぞれ当接するように配置されている。第一接合金具11の四隅部には、鋼製プレートを型枠部材10に固定するボルトBが挿通するボルト挿通孔14(
図3参照)がそれぞれ形成されている。ボルト挿通孔14が対向する位置の型枠部材10には、ナット15(
図3参照)が埋設されている。ボルト挿通孔14を挿通したボルトの軸部がナット15に螺合することで、鋼製プレートが型枠部材10に固定され、上下左右に隣り合う型枠部材10同士が接合される。
【0025】
なお、隣り合う型枠部材10間には、目地材29が介設されている。目地材29は、幅20mm、厚さ2mmのシート状の発泡材からなり、発泡材の片面には粘着剤が塗布されている。目地材29は、粘着剤によって型枠部材10の突合せ部に接着されている。目地材29は、型枠部材10が接合された状態において、型枠部材10に挟まれて圧縮されている。
【0026】
第二接合金具12は、横長の矩形形状の鋼製プレートにて構成されており、左右に隣接する2枚の型枠部材10の互いに突き合わされる側縁部にそれぞれ当接するように配置されている。第二接合金具12は、パネル式埋設型枠1の下端部に配置されている。第二接合金具12の両端部には、ボルトBが挿通するボルト挿通孔14(
図3参照)がそれぞれ形成されている。パネル式埋設型枠1の下端部に設けられるボルトBbの軸部の基端部には、先端側のネジ部よりも大径部20が形成されており、ボルトBbの頭部が第二接合金具12に対して所定間隔(大径部20の軸方向長さ)離間して固定されるようになっている(
図4参照)。ボルト挿通孔14を挿通したボルトBbの軸部の先端部(ネジ部)が型枠部材10のナット15に螺合することで、鋼製プレートが型枠部材10に固定され、左右に隣接する型枠部材10同士が接合される。
【0027】
第三接合金具13は、縦長の矩形形状の鋼製プレートにて構成されており、上下に隣接する2枚の型枠部材10の互いに突き合わされる上下縁部にそれぞれ当接するように配置されている。第三接合金具13の側面図は、
図3に示した第一接合金具11の側面図と同等である。第三接合金具13の上下両端部には、ボルトBが挿通するボルト挿通孔14がそれぞれ形成されている。ボルト挿通孔14を挿通したボルトの軸部が型枠部材10のナット15に螺合することで、鋼製プレートが型枠部材10に固定され、上下に隣接する型枠部材10同士が接合される。
【0028】
図2に示すように、パネル式埋設型枠1の上縁部には、上方に隣接するパネル式埋設型枠1を係止する係止金具が設けられている。係止金具は、パネル式埋設型枠1の左右両端部に位置する第一係止金具16と、左右方向中間部で型枠部材10,10との接合部分に位置する第二係止金具17とを備えている。
【0029】
第一係止金具16は、一枚の型枠部材10に一個のボルトBを介して固定されている。
図4および
図5にも示すように、第一係止金具16は、下側の型枠部材10に固定される固定板部18と、固定板部18の上方に形成された係止部19とを備えている。固定板部18は、第三接合金具13と同等の左右幅寸法を有する縦長の矩形形状の鋼製プレートからなり、型枠部材10の表面に当接している。固定板部18の下部には、ボルトBが挿通するボルト挿通孔14が形成されている。ボルト挿通孔14を挿通したボルトの軸部が型枠部材10のナット15に螺合することで、固定板部18が型枠部材10に固定される。
【0030】
係止部19は、上側の型枠部材10の下端部に設けられたボルトBbを係止する部位である。ボルトBbの頭部は、第二接合金具12と所定間隔(筒状部材20の軸方向長さ)をあけて固定されている(
図4参照)。係止部19は、固定板部18の上端に連続し、上方に延在して形成されている。係止部19は、固定板部18と同一面となる基板部21と、型枠部材10から離反する側にオフセットした段板部22とを備えている。段板部22は、基板部21に連続する傾斜部と、傾斜部の先端に連続する平行部とを備えている。平行部は、ボルトBbの頭部を軸部側から押圧して係止する部分であり、基板部21に対して、筒状部材20の軸方向長さ分オフセットしている。平行部の上端部には、下方に窪む凹部23が形成されており、平行部の上端部は、上方に向かって二股状に分かれている。凹部23は、正面視で左右方向中間部に形成されている。凹部23には、上側の型枠部材10に設けられたボルトBbの軸部の基端部と筒状部材20とが上方から差し込まれる。係止部19の上端部(先端部)には、ガイド片24が取り付けられている。ガイド片24は、上側のパネル式埋設型枠1を吊り下げて設置する際に、ボルトBbを所定位置に誘導するものである。ガイド片24は、凹部23を挟むように一対設けられている。ガイド片24は、係止部19の上端から外側(型枠部材10側)に傾斜している。上側のパネル式埋設型枠1を吊り下げると、ガイド片24の上端部の傾斜誘導部が、ボルトBbの頭部と第二接合金具12との隙間(ボルト頭部と型枠部材10との隙間)に入り込む。さらに上側のパネル式埋設型枠1を吊り下げると、ボルトBbの頭部が傾斜誘導部に沿って斜めに移動し、上側のパネル式埋設型枠1が下側のパネル式埋設型枠1の真上(設置位置)に誘導される。
【0031】
第二係止金具17は、二枚の型枠部材10に掛け渡して設けられており、各型枠部材10にボルトBを介してそれぞれ固定されている。第二係止金具17は、二枚の型枠部材10に固定される固定板部25と、固定板部25の上方に形成された係止部26とを備えている。固定板部25は、第一接合金具11と同等の左右幅寸法を有する矩形形状の鋼製プレートからなり、二枚の型枠部材10の表面に跨って当接している。固定板部25の下端部には、ボルトBが挿通するボルト挿通孔14が二か所に形成されている。ボルト挿通孔14を挿通したボルトの軸部が型枠部材10のナット15に螺合することで、固定板部18が型枠部材10に固定される。固定板部25は、隣り合う型枠部材10を接合する役目も果たす。
【0032】
係止部26は、上側の型枠部材10の下端部に設けられたボルトBbを係止する部位であって、固定板部25の上部で二か所に設けられている。係止部26は、固定板部25の左右両端部の上端にそれぞれ連続し、上方に延在して形成されている。係止部26は、係止部19と同等の形状を呈している。係止部26は、係止部19と同形状の基板部21と段板部22とを備えている。係止部26の上端部にもガイド片24が設けられている。基板部21、段板部22およびガイド片24の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0033】
張出材30は、型枠部材10から張り出す部位であって、パネル式埋設型枠1を設置した状態で、型枠部材10を支持している。張出材30は、丸棒などの鋼材で構成され、接合金具または係止金具に全周溶接されている。張出材30は、複数設けられており、パネル式埋設型枠1の下端部に位置する接合金具を除く接合金具、または係止金具にそれぞれ固定されている。張出材30は、取り付けられる主筋2側に向かって、型枠部材10に直交する方向に沿って張り出している。張出材30は、連結横材50を固定するために設けられており、先端部に連結横材50が取り付けられている。張出材30は、接合金具または係止金具に対して、連結横材50のかぶり寸法を確保できる長さとなっている。張出材30は、型枠部材10を型枠として利用可能に支持する強度を有する。一部の張出材30(左右対称位置の一対の張出材30)には、パネル式埋設型枠1を吊り下げる際に、ワイヤWが係止されるため、パネル式埋設型枠1全体を支持可能な強度を有する。
【0034】
連結横材50は、隣り合う型枠部材10同士を連結する横材であって、隣り合う張出材30間に水平に掛け渡されている。連結横材50は、鉄筋にて構成され、張出材30の先端部に溶接されている。連結横材50は、型枠部材10同士を連結する役目の他に、構築されるコンクリート構造体の構造横材となり、コンクリート構造体の構造鉄筋の一部を構成する役目も果たす。具体的には、連結横材50は、主筋2を囲うように配置され、主筋2のはらみ出しを防止するとともに、コンクリート構造体の剪断補強を行うフープ筋(帯筋)となる。連結横材50は、型枠部材10を相互に固定する強度、および型枠部材10を型枠として支持可能な強度で、且つ帯筋として必要な強度を有する。
【0035】
図1および
図7の(c)に示すように、連結横材50は、主筋2の側面に取り付けられた帯筋固定金具51により、主筋2に固定されている。帯筋固定金具51は、先端部に折返し部52が形成された丸棒鋼材からなる。帯筋固定金具51の基端部には、オネジ部が形成されている。帯筋固定金具51の基端部は、主筋2に設けられたブラケット53の挿通孔に挿通され、ナット54を螺合することでブラケット53に固定されている。折返し部52には、連結横材50が係止され、連結横材50が固定されている。
高橋脚のように橋脚の表面の幅寸法が長く、同じ平面内で横方向に複数のパネル式埋設型枠1を設置する場合には、
図3の(d)に示すように、隣り合うパネル式埋設型枠1の端部において、隣り合う張出材30の上に重ね継手鉄筋55が掛け渡されている。重ね継手鉄筋55は、番線で張出材30および連結横材50に固定されている。
【0036】
前記構成のパネル式埋設型枠1を用いて構築されるコンクリート構造体(橋脚)は、
図1に示すように、パネル式埋設型枠1と、連結横材50が接続される構造縦材(主筋2)と、コンクリート部4(
図10の(b)参照)とを備えている。
【0037】
パネル式埋設型枠1は、断面矩形の橋脚の四面にそれぞれ設けられている。橋脚の四隅の角部では、複数の型枠部材10からなるパネル体の端部同士が間隔をあけて配置されている。角部の隙間には、コーナー部材60によって塞がれている。
【0038】
図6に示すように、コーナー部材60は、型枠角部材61と固定金具62と連結部材63とを備えている。型枠角部材61は、コンクリート構造体の外周面に露出する部材であって、プレキャストコンクリートにて形成されている。型枠角部材61は、型枠部材10の外表面と面一の外表面を備えている。型枠角部材61の幅方向両端部は、互いに直交方向に形成され、端面に目地材29が貼り付けられている。型枠角部材61の角部となる中間部は面取りされて、傾斜している。型枠角部材61の内面部には、ナット64が埋設されている。ナット64は、パネル式埋設型枠1の張出材30と近い高さに設けられている。
【0039】
固定金具62は、連結部材63をパネル式埋設型枠1に固定するための部材であって、角部に繋がるパネル式埋設型枠1の張出材30に固定されている。固定金具62は、例えば鋼製の板材にて構成されており、張出材30および連結横材50の高さ位置に配置されている。固定金具62には、横方向両端部に連結横材50が通過する凹部62a(
図6の(b)参照)がそれぞれ形成されており、隣り合う連結横材50間に掛け渡されている。隣り合う張出材30の先端部は、固定金具62の外側表面に当接した状態(
図6の(a)参照)で溶接されている。固定金具62は、張出材30の延在方向および連結横材50の延在方向に対してそれぞれ傾斜しており、型枠角部材61の傾斜面に平行に配置されている。固定金具62の幅方向中間部には、アングル材の立上り部にボルト挿通孔が形成されている。
【0040】
連結部材63は、型枠角部材61を固定金具62に連結するための部材であって、ボルトにて構成されている。連結部材63を固定金具62側から型枠角部材61に向かってボルト挿通孔に挿通し、ボルトの軸部の先端部に形成されたオネジ部を型枠角部材61のナット64に螺合させることで、型枠角部材61が固定金具62に連結される。これによって、コーナー部材60が、パネル式埋設型枠1に固定される。
隣り合う張出材30の先端部の上には、重ね継手鉄筋65が設置されている。重ね継手鉄筋65は、90度に湾曲した円弧形状を呈しており、固定金具62の上に配置されている。重ね継手鉄筋65は、張出材30の先端部および連結横材50の端部に番線で固定されている。重ね継手鉄筋65の端部は、連結横材50の上方で連結横材50に沿って延在している。
【0041】
一方、本実施形態では、
図1に示すように、橋脚の外周縁部に配列された主筋2の内側の空間に、帯筋籠3が設けられている。配筋する鉄筋をあらかじめ籠状に組み立てたものであり、主筋、帯筋、補強リング、スペーサー等で構成されている。帯筋籠3は、構築されるコンクリート構造体の構造鉄筋の一部として設けられている。つまり、主筋2と帯筋籠3と連結横材50とで、コンクリート構造体の構造鉄筋が主に構成されている。帯筋籠3は、コンクリート構造体の剪断補強を行う。
【0042】
コンクリート部4は、主筋2を含む構造鉄筋の周囲にコンクリートが打設され形成されている(
図10参照)。コンクリートは型枠部材10で囲まれた内側の空間に打設され、コンクリート部4は、型枠部材10に囲まれた状態で形成されている。
【0043】
次に、コンクリート構造体の構築方法を
図7から
図10を参照しつつ説明する。本実施形態のコンクリート構造体の構築方法は、パネル式埋設型枠形成工程と基礎形成工程と構造部材設置工程とパネル式埋設型枠設置工程と足場設置工程とパネル式埋設型枠固定工程とコンクリート打設工程とを備えている。
【0044】
パネル式埋設型枠形成工程は、パネル式埋設型枠1を工場等で予め形成する工程である。パネル式埋設型枠形成工程では、型枠部材10に張出材30を取り付け、隣り合う張出材30間に連結横材50を掛け渡し隣り合う型枠部材10同士を接合する。具体的には、予め張出材30が取り付けられた接合金具および係止金具を用いて複数の型枠部材10を接合し、パネル体を形成する。その後、張出材30の先端部に連結横材50を固定して、隣り合う型枠部材10同士を、連結横材50を介して接合する。一体的に製造されたパネル式埋設型枠1を、工場から施工現場へと搬送する。
【0045】
基礎形成工程は、橋脚の基礎80を形成する工程である。基礎形成工程では、
図7の(a)に示すように、橋脚の外周縁部の主筋2の設置位置の基礎80には、定着アンカーボルト81を設け、パネル式埋設型枠1の設置位置には、係止部82を設ける。係止部82は、主筋2の設置後に取り付ける。係止部82は、第一係止金具16の上部の係止部19と同形状を呈しており、基板部と段板部とを備えている。係止部82は、基礎80から立ち上がっている。係止部82の上端部(先端部)には、ガイド片24と同形状のガイド片83が取り付けられている。
【0046】
構造部材設置工程は、コンクリート構造体に埋設される構造部材を設置する工程である。構造部材設置工程では、まず、
図7の(a)に示すように、主筋2の施工を行う。主筋2は、基礎80の定着アンカーボルト81にダブルナット84にて固定する。主筋2の立設後、主筋2の下端部または打継ぎ部から2mの高さに頭繋ぎ治具85を取り付けて、主筋2の通りと間隔を矯正する。なお、構造部材の一部である帯筋籠3は、後に設置する。
【0047】
パネル式埋設型枠設置工程は、パネル式埋設型枠1を構造部材(主筋2)の側部に設置する工程である。パネル式埋設型枠設置工程では、まず、設置位置の基礎80表面にモルタルを敷設して下端レベルを調整し、墨出しして、係止部82を打込アンカーで基礎80に固定する。その後、シールテープを貼り付けて、
図7の(b)に示すように、下から二段目の一対の張出材30に玉掛けしてワイヤWを介してクレーンで吊り下げて設置位置近傍に移動させる。内側近傍から作業者が、パネル式埋設型枠1を設置位置の上方に誘導して、ガイド片83の上端部を、パネル式埋設型枠1の下端部のボルトBbの頭部と第二接合金具12との間(左右両端のボルトBbの場合は、ボルトBbの頭部と型枠部材10の表面との間)に入り込ませる。その後、ボルトBbの頭部がガイド片83の傾斜部に沿って移動することで、上側のパネル式埋設型枠1が基礎80上の設置位置に自動的に誘導される。そして、型枠部材10が基礎80に敷設されたシールテープ上に載置され、シールテープが圧縮される(
図7の(c)参照)。
【0048】
パネル式埋設型枠固定工程は、連結横材50を構造横材(フープ筋)として、コンクリート構造体(橋脚)の構造部材(主筋2)に固定する工程である。パネル式埋設型枠固定工程では、
図7の(c)に示すように、帯筋固定金具51の先端部の折返し部52で、パネル式埋設型枠1の連結横材50を係止し、帯筋固定金具51の基端部を主筋2に設けられたブラケット53の挿通孔に挿通して、ナット54を螺合させる。これによって、連結横材50は、主筋2側に引き寄せられ、主筋2に密着した状態で主筋2に固定される。なお、ナット54の螺合は、作業者が内側から行う。連結横材50は、複数配列された主筋2の外周部を囲うように固定され、フープ筋となる。
【0049】
パネル式埋設型枠1の固定が完了すると、玉掛けを外してクレーンを解放する。なお、高橋脚のように橋脚の表面の幅寸法が長く横方向に複数のパネル式埋設型枠1を設置する場合には、型枠部材10の側面にシールテープを敷設して、隣接して同様に設置・固定する。そして、隣り合うパネル式埋設型枠1の隣り合う張出材30の上に重ね継手鉄筋を掛け渡して、番線で重ね継手鉄筋を連結横材50に固定する。
【0050】
橋脚の角部では、コーナー部材60を内側から固定する(
図1参照)。具体的には、固定金具62を連結横材50の先端部に掛け渡し、固定金具62に連結部材63を挿通する。そして、ボルトの軸部の先端部のオネジ部を型枠角部材61のナット64に螺合させることで、型枠角部材61を引き寄せて固定する。これによって、コーナー部材60が、パネル式埋設型枠1に固定される。直交方向に隣り合う張出材30の先端部の間には、円弧状の重ね継手鉄筋65(
図6参照)を掛け渡して番線で固定する。なお、
図6の(a)では、下方の部材が見易いように、重ね継手鉄筋65を仮想線で図示している。
【0051】
その後、
図8の(a)に示すように、構造部材設置工程として、主筋2の内側に帯筋籠3を設置する。帯筋籠3は、玉掛けしてクレーンで情報から吊り下げて設置する。帯筋籠3は、作業者が誘導して主筋2から50mm程度離れた位置に設置する。これによって、作業者が誘導する帯筋籠3が主筋2に衝突し難くなる。最も下段となる帯筋籠3は、基礎80上の受台に据え付ける。帯筋籠3の固定が完了すると、玉掛けを外してクレーンを解放する。
【0052】
帯筋籠3の設置後、
図8の(b)に示すように、帯筋籠3の上に仮設の作業足場5を設置する(足場設置工程)。作業足場5は、メッシュ状の金網足場が採用され、帯筋籠3の上端部の肋筋上に掛け渡されている。作業足場5の高さが地上から2m以上の場合は、作業足場5に沿わせて転落防止手摺り(図示せず)を主筋2に設置する。このように作業足場5を帯筋籠3の上に設置するので、作業足場3の設置を容易に行うことができる。
【0053】
コンクリート打設工程は、型枠部材10に沿ってコンクリートを打設する工程である。コンクリート打設工程では、
図9の(a)に示すように、ポンプ車またはバケットを用いて、作業足場5が埋もれない高さまで打設する。そして、打設したコンクリートをバイブレーターで適宜敷固めた後、養生する。これにより、主筋2,構造横材(連結横材50)や帯筋籠3がコンクリートに埋設されて、コンクリート構造体となる。
【0054】
その後、コンクリートの養生後に、主筋2に取り付けてある頭繋ぎ治具85を取り外して、作業足場5から2m上方に付け替える。そして、
図9の(b)および(c)に示すように、二段目のパネル式埋設型枠1の設置(パネル式埋設型枠設置工程)および固定(パネル式埋設型枠固定工程)を行う。二段目のパネル式埋設型枠設置工程では、パネル式埋設型枠1に玉掛けしてクレーンで吊り下げて所定位置(下段のパネル式埋設型枠1の上方)に設置位置に降下させ、作業者が帯筋籠3に設置された作業足場5に乗ってパネル式埋設型枠1を誘導する。作業者が、上段のパネル式埋設型枠1を設置位置に降下させると、下段のパネル式埋設型枠1のガイド片24の上端部が、上段のパネル式埋設型枠1の下端部のボルトBbの頭部と第二接合金具12との間(左右両端のボルトBbの場合は、ボルトBbの頭部と型枠部材10の表面との間)に入り込む。さらに、ボルトBbの頭部がガイド片24の傾斜部に沿って移動することで、上段のパネル式埋設型枠1が下段のパネル式埋設型枠1の真上に誘導されて載置される(
図9の(c)参照)。
【0055】
二段目のパネル式埋設型枠固定工程は、一段目のパネル式埋設型枠固定工程と同様の工程であるので説明を省略する。橋脚の角部では、二段目のコーナー部材60を内側から固定する。パネル式埋設型枠1を全て設置した後に、転落防止手摺りを取り外す。
【0056】
その後、
図10の(a)および(b)に示すように、構造部材設置工程として、主筋2の内側に二段目の帯筋籠3を設置する。まず、一段目の帯筋籠3上の作業足場5を取り外す。二段目の帯筋籠3の設置工程では、一段目の帯筋籠3の上端部の肋筋に、二段目の帯筋籠3の下端部に突起したフック(2本の棒鋼を二股に溶接したもの)を嵌める。帯筋籠3の設置後、帯筋籠3の上に作業足場(図示せず)を設置し、その上方で、落防止手摺り(図示せず)を主筋2に設置する。
【0057】
次に、二段目のコンクリート打設工程を行う。コンクリート打設工程は、一段目のコンクリート打設工程と同様の工程である。橋脚の高さに応じて、前記した各工程を繰り返し行うことで、コンクリート構造体が構築される。
【0058】
本実施形態に係るパネル式埋設型枠1、コンクリート構造体およびコンクリート構造体の構築方法によれば、パネル式埋設型枠1の隣り合う型枠部材10は、コンクリート構造体の構造横材を介して連結されている。つまり、パネル式埋設型枠1の連結横材50をコンクリート構造体の構造横材と兼用しているので、横材を有効活用でき、構成部材を少なくすることができる。したがって、施工手間と施工費用を低減することができる。さらに、パネル式埋設型枠1を設置すれば、構造横材として連結横材50が所定の位置に配置されるので、構造横材を別途設置する手間が省略される。
【0059】
連結横材50は、主筋2を囲うフープ筋であるので、主筋2のはらみ出しを抑制できるとともに、剪断補強が為されたコンクリート構造体の構造部材を形成することができる。
【0060】
さらに、パネル式埋設型枠1の型枠部材10の接合部分には、型枠部材10同士の接合を補助するための補助プレートとして、第一乃至第三接合部材11~13または第二係止金具17が敷設されているので、型枠部材10同士を強固に接合することができる。
【0061】
<第二実施形態>
次に、本発明を実施するための第二の実施形態を、
図11乃至
図14を参照しながら詳細に説明する。なお、第二実施形態では、コンクリート構造体として、住宅等における布基礎102に立設される立上り部103を構築する場合を説明する。まず、第二実施形態に係るパネル式埋設型枠の構成を説明する。
【0062】
図14に示すように、本実施形態のパネル式埋設型枠101は、立上り部103に沿って、配置されている。立上り部103は、ベース部104上に立設されている。立上り部103とベース部104の内部には、ベース筋105と端筋106と肋筋107と下側鉄筋108と上側鉄筋109とが埋設されている。これらの鉄筋104~109は、予め溶接にて一体化され、プレハブ鉄筋となっている。ベース筋105は、ベース部104の幅方向に延在しており、ベース部104の長手方向に所定間隔をあけて複数配置されている。端筋106は、ベース部104の長手方向に沿って延在し、ベース筋105の両端部にそれぞれ接合されている。肋筋107は、ベース筋105の中間部に接合され、上方に向かって立ち上がっている。下側鉄筋108は、ベース部104の長手方向に沿って延在し、肋筋107の下端部に接合されている。下側鉄筋108は、一本の鉄筋で下側主筋として必要な強度を備えている。上側鉄筋109は、ベース部104の長手方向に沿って延在し、肋筋107の上端部に接合されている。上側鉄筋109は、後記する連結横材150と合わさって上側主筋として必要な強度を備えている。
【0063】
図11に示すように、パネル式埋設型枠101は、複数の型枠部材110と、張出材130と、連結横材150とを備えている。
型枠部材110は、構造物(橋脚)の一部として残置される非構造部材型埋設型枠としてプレハブ化されたものであり、立上り部103の外側の表面材となる。型枠部材110は、矩形のプレキャストコンクリート板にて構成されている。型枠部材110の内部には、補強鉄筋(図示せず)が埋設されている。型枠部材110は、左右に複数枚連設され、接合金具にて接合されている。複数の型枠部材110にて構成されるパネル体は、横長形状となっている。パネル体の大きさは、立上り部103の立上り寸法と同等の高さ寸法と、輸送可能な重さおよび長さとして6m程度以下の長さ寸法とを備えるものが好ましい。このような大きさであれば、パネル体を、狭い敷地で手搬送することができる。
【0064】
接合金具は、連結横材150にて接合される型枠部材110同士の接合を補助するための鋼製の補助プレートである。接合金具は、型枠部材110の接合部分に敷設されている。接合金具は、型枠部材110を相互に固定可能な強度で、且つコンクリート打設時にかかるコンクリートの圧力に耐え得る強度を備えている。鋼製プレートは、連結横材150のかぶり寸法を確保できる厚さとなっている。接合金具は、型枠部材110の上端部を接合する上部接合金具111と、型枠部材110の下端部を接合する下部接合金具112とに区別されている。
【0065】
上部接合金具111は、横長の矩形形状の鋼製プレートにて構成されており、左右に隣接する2枚の型枠部材110の互いに突き合わされる側縁部にそれぞれ当接するように配置されている。上部接合金具111は、パネル式埋設型枠101の上端部に配置されている。上部接合金具111の両端部には、ボルトBが挿通するボルト挿通孔(図示せず)がそれぞれ形成されている。ボルト挿通孔を挿通したボルトBの軸部が型枠部材110に埋設されたナット115に螺合することで、鋼製プレートが各型枠部材110に固定され、左右に隣接する型枠部材110同士が接合される。隣り合うボルト挿通孔の中間部の上方には、上側鉄筋109との取り合い位置に張出材130が固定されている。なお、パネル式埋設型枠101の左右両端部に位置する上部接合金具111aは、ボルト挿通孔は一つだけであり、幅が小さく形成されている。
【0066】
下部接合金具112は、矩形形状の鋼製プレートにて構成されており、左右に隣接する2枚の型枠部材110の互いに突き合わされる側縁部にそれぞれ当接するように配置されている。下部接合金具112は、パネル式埋設型枠101の下端部に配置されている。下部接合金具112の下側の両端部には、ボルトBが挿通するボルト挿通孔(図示せず)がそれぞれ形成されている。ボルト挿通孔を挿通したボルトBの軸部が型枠部材110に埋設されたナット115に螺合することで、鋼製プレートが各型枠部材110に固定され、左右に隣接する型枠部材110同士が接合される。下部接合金具112は、ボルト挿通孔の位置から上方に所定長さ延在しており、延在した上端の中間部は、張出材130が固定される位置となっている。つまり、下部接合金具112は、型枠部材10の下端部を接合し、張出材30を下端部から所定長さ高い位置で支持している。なお、パネル式埋設型枠101の左右両端部に位置する上部接合金具112aは、ボルト挿通孔は一つだけであり、幅が小さく縦長に形成されている。
【0067】
張出材130は、型枠部材110から張り出す部位であって、パネル式埋設型枠101を設置した状態で型枠部材110を支持している。張出材130は、丸棒などの鋼材にて構成され、複数設けられている。張出材130は、上部接合金具111,111aと下部接合金具112,112aのそれぞれの表面に全周溶接されている。張出材130は、取り付けられる肋筋107側に向かって、型枠部材110に直交する方向に沿って張り出している。張出材130は、連結横材150を取り付けるために設けられており、中間部に連結横材150が取り付けられている。また、張出材130は、型枠部材110に対向する型枠117を支持するセパレータの役目も果たすものであって、先端部に型枠部材110に対向する型枠117が取り付けられる。型枠117は、通常の型枠であって、コンクリート打設後に取り外される。張出材130は、型枠部材110および型枠117を型枠として利用可能に支持する強度を有する。一部の張出材130(上側の張出材130のうち、左右対称位置の一対の張出材130)には、パネル式埋設型枠101を吊り下げる際に、ワイヤW(
図12参照)が係止されるため、パネル式埋設型枠101全体を支持可能な強度を有する。
【0068】
連結横材150は、隣り合う型枠部材110同士を連結する横材であって、隣り合う張出材130間に水平に掛け渡されている。連結横材150は、鉄筋にて構成され、張出材130の略中間部に溶接されている。具体的には、連結横材150は、接合金具および型枠117に対して、連結横材150のかぶり寸法を確保できる位置で張出材130に溶接されている。連結横材150は、型枠部材10同士を連結する役目の他に、構築されるコンクリート構造体(立上り部103)の構造横材となり、コンクリート構造体の構造鉄筋の一部を構成する役目も果たす。具体的には、上側の張出材130に固定された連結横材150は、構造縦材である肋筋107の上端部に固定されるものであって、上側鉄筋109と合わさって上側主筋として必要な強度を備えている。つまり、上側の連結横材150は、コンクリート構造体の構造鉄筋である上側主筋(構造横材)の一部を構成している。下側の張出材130に固定された連結横材150は、立上り部103の高さ寸法が大きい場合に、隣り合う型枠部材110同士を連結する役目の他に、肋筋107の高さ方向中間部に固定され、腹筋の役目を果たす。
【0069】
前記構成のパネル式埋設型枠101を用いて構築されるコンクリート構造体(布基礎の立上り部103)は、
図14の(b)に示すように、パネル式埋設型枠1と、連結横材150が接続される構造縦材(肋筋107)と、コンクリート部120(
図10の(b)参照)とを備えている。
【0070】
パネル式埋設型枠101は、立上り部103の片面(外側面)に設けられており、型枠部材10が外側に露出されている。コンクリート部120は、肋筋107や連結横材150を含む構造鉄筋の周囲にコンクリートが打設され形成されている。立上り部103の内側面は、通常の型枠117にて区画されるため、型枠117を取り外したのちに、コンクリート部120が露出する。
【0071】
次に、コンクリート構造体の構築方法を
図12から
図14を参照しつつ説明する。本実施形態のコンクリート構造体の構築方法は、パネル式埋設型枠形成工程と基礎形成工程と構造部材設置工程とパネル式埋設型枠設置工程とパネル式埋設型枠固定工程とコンクリート打設工程とを備えている。
【0072】
パネル式埋設型枠形成工程は、パネル式埋設型枠101を工場等で予め形成する工程である。パネル式埋設型枠形成工程では、型枠部材110に張出材130を取り付け、隣り合う張出材130間に連結横材150を掛け渡し隣り合う型枠部材110同士を接合する。具体的には、予め張出材130が取り付けられた接合金具(上部接合金具111および下部接合金具112)を用いて複数の型枠部材110を接合し、パネル体を形成する。複数の型枠部材110の間には、コンクリートの漏れと型枠部材110の欠けを防止するためのシールテープが挟まれている。その後、張出材130の中間部に連結横材150を溶接固定して、隣り合う型枠部材110同士を、連結横材150を介して接合する。そして、一体的に製造されたパネル式埋設型枠101を、工場から施工現場へと搬送する。
【0073】
基礎形成工程は、布基礎のベース部104を形成する工程である。基礎形成工程では、
図12の(a)に示すように、基礎地盤170に根切りを行い、基礎幅より大きい溝171を形成し、溝171の底部に地業172を形成する。その後、地業172上に、ベース筋105と端筋106と肋筋107と下側鉄筋108と上側鉄筋109とが一体化されたプレハブ鉄筋を、所定高さに設置する。本実施形態では、これが構造部材設置工程となる。そして、ベース側面型枠173を両側に設置し、ベースコンクリートを打設して養生する。養生が完了するとベース側面型枠173を取り除く(
図12の(b)参照)。これによって、ベース部104が形成される。
【0074】
パネル式埋設型枠設置工程は、パネル式埋設型枠101を構造部材(肋筋107)の側部に設置する工程である。パネル式埋設型枠設置工程では、
図12の(b)に示すように、まず、ベース部104の表面にモルタル174を敷設して下端レベルを調整する。そして、ベース部104上に墨出しして、設置位置を表示する。その後、パネル式埋設型枠101の上側の張出材130に玉掛けしてワイヤWを介してクレーンなどで吊り下げて設置位置(
図13の(a)参照)に移動させる。
【0075】
パネル式埋設型枠固定工程は、連結横材150を構造横材として、コンクリート構造体(立上り部103)の構造部材(肋筋107)に固定する工程である。パネル式埋設型枠固定工程では、まず、
図13の(a)に示すように、サポート治具175を基礎地盤170とパネル式埋設型枠101の上端部との間に掛け渡して、パネル式埋設型枠1を垂直に支持する。その後、玉掛けを外してクレーンを解放する。そして、上側の連結横材150の側部で、肋筋107の上端に継ぎ筋177をセットし、番線で固定する。下側の連結横材150は、肋筋107の側面に当接して番線で緊結する(重ね継手は不要である)。
【0076】
その後、
図13の(b)に示すように、パネル式埋設型枠101の外側部分178を埋め戻し、型枠部材110の下端部の内側に、配管用のボイド179を設置する。そして、張出材30の先端部に、コンパネまたはメタルフォーム等の型枠117を設置し、ナット118を張出材30の先端部のオネジ部に螺合させて、型枠117を固定する。ここで、張出材30は、型枠部材110に対向する型枠117を支持するセパレータとなる。
【0077】
コンクリート打設工程は、型枠部材110と型枠117に沿ってコンクリートを打設する工程である。本実施形態では、
図14の(a)に示すように、パネル式埋設型枠101の上端部に、アンカーボルト180を、専用治具を用いてセットする。コンクリート打設工程では、ポンプ車を用いて型枠部材110の上端高さまで打設する(
図4の(b)参照)。そして、打設したコンクリートをバイブレーターで適宜敷固めた後、アンカーボルト180の位置を検査、調整して養生する。養生が完了すると、
図14の(b)に示すように、型枠117を取り外して、立上り部103が完成する。
【0078】
本実施形態に係るパネル式埋設型枠101、コンクリート構造体およびコンクリート構造体の構築方法によれば、第一実施形態と同様に、パネル式埋設型枠101の連結横材50をコンクリート構造体の構造横材と兼用しているので、横材を有効活用でき、構成部材を少なくすることができる。したがって、施工手間と施工費用を低減することができる。
【0079】
連結横材150は、セパレータの役目も果たすので、対向する型枠117を所定位置で支持することができ、基礎の立上り部102を精度よく構築することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。例えば、前記実施形態では、コンクリート構造体として、橋脚や布基礎の立上り部を構築しているが、これに限定されるものではない。本発明のパネル式埋設型枠を用いて、例えば、鉄筋コンクリート構造の壁(耐力壁、非耐力壁の両方を含む)や地下室の鉄筋コンクリート構造の壁等を構築することができる。壁を構築する際には、橋脚と同様にパネル式埋設型枠を積み重ねていく。地下室の壁を構築する際には、防水加工を施したパネル式埋設型枠を用いる。
【符号の説明】
【0081】
1 パネル式埋設型枠
2 主筋(構造部材)
3 帯筋籠
4 コンクリート部
5 作業足場
10 型枠部材
16 第一係止金具(係止金具)
17 第二係止金具(係止金具)
19 係止部
22 段板部
24 ガイド片
26 段板部
30 張出材
50 連結横材
101 パネル式埋設型枠
102 布基礎
103 立上り部
107 肋筋(構造部材)
110 型枠部材
120 コンクリート部
130 張出材
150 連結横材