(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074190
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】軸付き砥石および研磨工具
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20230522BHJP
B24D 3/28 20060101ALI20230522BHJP
B24D 5/02 20060101ALI20230522BHJP
B24D 5/06 20060101ALI20230522BHJP
B24B 23/02 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
B24D3/00 310Z
B24D3/28
B24D5/02 Z
B24D5/06
B24B23/02
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187008
(22)【出願日】2021-11-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】597022425
【氏名又は名称】株式会社ジーベックテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】391062595
【氏名又は名称】大明化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100196140
【弁理士】
【氏名又は名称】岩垂 裕司
(72)【発明者】
【氏名】新井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 槙一
【テーマコード(参考)】
3C063
3C158
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB02
3C063BA02
3C063BC03
3C063BG14
3C063BH07
3C063FF09
3C063FF23
3C158AA02
3C158CA02
3C158CB01
(57)【要約】
【課題】シャフトが撓む場合でも砥石の偏摩耗を抑制できる軸付き砥石を提供すること。
【解決手段】軸付き砥石1は、砥石2と、砥石2から延びるシャフト3を備える。砥石2は、複数本の無機長繊維21を束ねた複数の繊維束22を樹脂23で結合したものである。シャフト3は、剛性をSとした場合に条件式(A)を満たす。シャフト3の剛性は、シャフト3の後端から30mmの領域をシャンク部4として固定し、砥石2の外周端2aにおける後端を軸線Lと直交する方向からで押し込み、押し込み加重をF(N)、シャフト3の前端の変位量をδ(mm)とした場合に、以下の式(B)で求める。
0.4≦ S ≦100 ・・(A)
S=F/δ ・・(B)
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部にシャンク部を備えるシャフトと、前記シャフトの軸線回りで回転対称の形状を備え、前記シャフトの前端に固定されて外周端が前記シャフトよりも外周側に位置する砥石と、を有し、手持ち式の回転工具に前記シャンク部がチャックされて前記砥石の前記外周端でワークを研磨する軸付き砥石において、
前記砥石は、複数本の無機長繊維を束ねた砥材束を複数備えるとともに、前記複数の砥材束を結合する樹脂を備え、
前記シャフトは、その剛性をSとした場合に、以下の条件式を満たし、
0.4≦ S ≦100
前記シャフトの剛性は、前記シャフトの後端から30mmの領域を前記シャンク部として治具に固定して前記砥石の前記外周端における後端を前記軸線と直交する方向からで押し込み、押し込み加重をF(N)、前記シャフトの前端の変位量をδ(mm)とした場合に、以下の式で求められることを特徴とする軸付き砥石。
S=F/δ
【請求項2】
前記シャフトの後端から前記砥石までの長さ寸法は、50mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の軸付き砥石。
【請求項3】
前記シャフトの外径寸法は、6mm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の軸付き砥石。
【請求項4】
前記砥石は、0.8g以下であることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に載の軸付き砥石。
【請求項5】
前記砥石を、前記シャフトの前記前端に着脱可能に固定する固定機構を有することを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の軸付き砥石。
【請求項6】
前記砥石は、前記軸線と直交する方向から見た場合に、正方形または円形であることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の軸付き砥石。
【請求項7】
前記砥石の外径寸法は、3mm以上であり、
前記シャンク部の外径寸法および前記砥石の前記軸線方向の厚みは、前記砥石の外径寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の軸付き砥石。
【請求項8】
前記砥石は、前記軸線と直交する方向から見た場合に、外周側に向かって先細りとなる形状を備えることを特徴とする請求項7に記載の軸付き砥石。
【請求項9】
前記砥石は、前記軸線と直交する方向から見た場合に、長方形であることを特徴とする請求項7に記載の軸付き砥石。
【請求項10】
前記シャフトの後端から前記砥石までの長さ寸法は、150mmを超えることを特徴とする請求項1から9のうちのいずれか一項に記載の軸付き砥石。
【請求項11】
請求項1から10のうちのいずれか一項に記載の軸付き砥石と、
前記軸付き砥石の前記シャンク部をチャックした回転工具と、を有する研磨工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち式の回転工具にチャックされて使用される軸付き砥石、および、手持ち式の回転工具に軸付き砥石がチャックされた研磨工具に関する。
【背景技術】
【0002】
回転エアードリルなどの手持ち式の回転工具にチャックされて使用される軸付き砥石は、特許文献1に記載されている。同文献の軸付き砥石は、砥石と、砥石に連結されたシャフトと、を有する。砥石は、シャフトの軸線に対して回転対称の形状を備える。砥石は、無機長繊維強化樹脂体であり、複数本の無機長繊維を束ねた複数の砥材束と、複数の砥材束を結合する樹脂と、を備える。シャフトは、砥石に連結された支持部材と、支持部材に連結された丸棒状のシャンクと、を備える。シャンクは、回転工具にチャックされる部分である。シャフトは、支持部材が軸線方向と直交する方向に弾性変形可能である。軸付き砥石は、研磨加工に際して、砥石の外周面をワークの研磨対象部位に接触させる。
【0003】
同文献の軸付き砥石は、シャフトが撓むので、砥石をワークに弾性をもって押し当てることができる。従って、回転工具を手で把持して研磨加工を行うときに、砥石をワークに接触させる際の位置精度が低くてよい。また、シャフトが撓むので、砥石に過大な力が加わったときに、このような力はシャフトの弾性変形によって吸収される。従って、砥石がワークを削り過ぎることがない。さらに、砥石をワークに弾性をもって押し当てることができるので、ワークの表面で砥石が跳ねることがない。これにより、砥材をワークの表面に均一に接触させることができるので、バリ取りや研磨を良好に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、シャフトが撓む軸付き砥石では、研磨加工中に砥石が偏摩耗することがある。砥石に偏摩耗が発生すると、砥石のワークへの接触が不均一となるので、バリ取りや研磨を良好に行うことができなくなることがある。また、砥石に偏摩耗が発生すると、研磨加工中に砥石の形状が元の回転対称の形状に戻ることはなく、砥石の変形が進む。これにより、研磨加工中に砥石がワークの表面で跳ねるなどの現象が発生する。砥石が跳ねると、砥石のワークへの接触が不均一となるので、バリ取りや研磨を良好に行うことができなくなる。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、シャフトが撓む場合でも、研磨加工中の砥石の偏摩耗を抑制できる軸付き砥石を提供することにある。また、かかる軸付き砥石を備えた研磨工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、砥石の偏摩耗が、研磨加工中の軸付き砥石の共振により発生する振動に起因するとの知見を得た。より具体的には、共振により砥石が振動すると、砥石がワークの表面に衝突することを繰り返すので、衝突時の衝撃によって砥石の一部分が脱落して偏摩耗となる、との知見を得た。本発明は、発明者らのかかる知見に基づくものである。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、後端部にシャンク部を備えるシャフトと、前記シャフトの軸線回りで回転対称の形状を備え、前記シャフトの前端に固定されて外周端が前記シャフトよりも外周側に位置する砥石と、を有し、手持ち式の回転工具に前記シャンク部がチャックされて前記砥石の前記外周端でワークを研磨する軸付き砥石において、前記砥石は、複数本の無機長繊維を束ねた砥材束を複数備えるとともに、前記複数の砥材束を結合する樹脂を備え、前記シャフトは、その剛性をSとした場合に、以下の条件式を満たし、
0.4≦ S ≦100
前記シャフトの剛性は、前記シャフトの後端から30mmの領域を前記シャンク部として治具に固定して前記砥石の前記外周端における後端を前記軸線と直交する方向からで押し込み、押し込み加重をF(N)、前記シャフトの前端の変位量をδ(mm)とした場合に、以下の式で求められることを特徴とする。
S=F/δ
【0009】
本発明の軸付き砥石では、シャフトの剛性を、条件式で定めた所定の範囲内の値とする。これにより、軸付き砥石の固有振動数が、研磨加工中に共振が発生しない値となる。従って、軸付き砥石の共振による砥石の振動に起因して、砥石が偏摩耗することを抑制できる。また、シャフトの剛性を、条件式で定めた所定の範囲内の値とすることにより、研磨加工時に、砥石がワークの表面で跳ねることを防止或いは抑制できる。これにより砥石のワークへの接触が均一となるので、バリ取りや研磨を良好に行うことができなくなることを防止或いは抑制できる。
【0010】
すなわち、シャフトの剛性の値が条件式の下限値を下回る場合には、シャフトの剛性が低くなり、軸付き砥石の固有振動数が低下する。これにより、研磨加工中に共振が発生しやすくなるので、共振により発生する振動により、砥石に偏摩耗が発生しやすくなる。一方、シャフトの剛性の値が条件式の上限値を上回る場合には、シャフトの剛性が高くなり過ぎる。すなわち、シャフトの剛性が高ければ、軸付き砥石の固有振動数が高くなるので、研磨加工中に軸付き砥石に共振が発生することを防止できる。しかし、シャフトの剛性が高くなり過ぎると、研磨加工時にワークの側から軸付き砥石に伝わる振動をシャフトが十分に吸収することができず、研磨加工中に砥石がワークの表面で跳ねやすくなる。従って、シャフトの剛性の値を条件式の上限値以下として、研磨加工中の砥石の跳ねを抑制する。これにより、研磨対象部位のバリ取りや研磨を良好に行うことが容易となる。
【0011】
また、砥石は、複数本の無機長繊維からなる砥材束を複数備えるとともに、これら複数の砥材束を結合する樹脂を備える。このような無機長繊維強化樹脂体からなる砥石は、砥粒を樹脂で結合した砥石と比較して、衝撃を受けたときに砥石の一部が崩落しにくい。すなわち、砥粒を樹脂で固めた砥石では、衝撃を受けたときに、砥粒毎に崩落するので偏摩耗が発生しやすいが、複数の砥材束を樹脂で固めた砥石では、このような砥粒毎の崩落が発生しない。従って、砥石の偏摩耗を抑制しやすい。
【0012】
ここで、シャフトが撓む軸付き砥石を手持ち式の回転工具に装着して研磨加工を行うと、バリ取りの除去時などに発生する振動が、シャフトに吸収されてしまい、回転工具を把持する作業者まで届かないことがある。このような場合には、作業者は、研磨加工が良好に行われているか否かの感触を得ることができなくなる。従って、ワークに設けられた深い穴の内壁面の研磨加工など、目視が難しい研磨対象部位の加工にシャフトが撓む軸付き砥石を用いた場合には、作業者が研磨加工を効率的に行うことができず、その作業性が低下するという問題があった。かかる問題に対して、本発明者らの検証によれば、シャフトの剛性の値が条件式を満たす場合には、シャフトの剛性が低くなり過ぎることがなく、バリ取りの除去時などに発生する振動が、シャフトおよび回転工具を介して、作業者に届く。従って、作業者は、目視が難しい研磨対象部位の加工を行っている場合でも、感触によ
って求めている研磨加工が行われているか否かを判断できる。よって、研磨加工の作業性が低下することを抑制できる。
【0013】
また、従来から、ワークに設けられた穴の内壁面の研磨加工する際には、砥石を穴の奥の研磨対象箇所に到達させるために、シャフトをより長くしたいという要求があった。しかし、一般的に、弾性を備えるシャフトを長くすると、それに伴って、シャフトの剛性が低下する。従って、シャフトを長くすると、研磨加工時に共振が発生して、砥石が偏摩耗しやすくなるという問題が発生していた。また、シャフトを長くすると、作業者は、求めている研磨加工が行われているか否かを感触によって判断できなくなる場合があった。よって、研磨加工の作業性の低下を抑制しながら、シャフトを長くすることは容易ではなかった。これに対して、本発明によれば、シャフトの剛性の値が条件式を満たす場合には、シャフトの長さにかかわらず、砥石の偏摩耗を抑制でき、作業者は求めている研磨加工が行われているか否かを感触によって判断できる。従って、本発明によれば、研磨加工の作業性が低下することを抑制しながら、シャフトを長くすることができる。
【0014】
ここで、従来、シャフトが撓む軸付き砥石であって市場に流通している軸付き砥石は、シャフトの後端から砥石までの長さ寸法が50mmよりも短いものが一般的であった。これに対して、本発明では、前記シャフトの後端から前記砥石までの長さ寸法は、50mm以上とすることができる。
【0015】
本発明において、前記シャフトの外径寸法は、6mm未満であるものとすることができる。このようにすれば、シャフトが太くなり過ぎて、シャフトの剛性が条件式の上限値を超える値となることを防止或いは抑制できる。また、シャフトの外径寸法が6mm未満であれば、回転工具を把持する作業者が研磨対象部位を観察しようとするときに、研磨対象部位がシャフトの陰となって目視できなくなることを回避しやすい。
【0016】
本発明において、前記砥石は、0.8g以下とすることができる。このようにすれば、研磨加工中にワークの側から軸付き砥石に力が加わった場合などに、砥石がワークの表面で跳ねることを抑制しやすい。
【0017】
本発明において、前記砥石を、前記シャフトの前記前端に着脱可能に固定する固定機構を有するものとすることができる。このような固定機構を備えれば、砥石が摩耗したときに、新たな砥石と交換できる。
【0018】
本発明において、前記砥石は、前記軸線と直交する方向から見た場合に、正方形または円形であるものとすることができる。
【0019】
本発明において、前記砥石の外径寸法は、3mm以上であり、前記シャンク部の外径寸法および前記砥石の前記軸線方向の厚みは、前記砥石の外径寸法よりも小さいものとすることができる。このようにすれば、砥石は、軸線方向よりも径方向が長い形状となり、砥石の外周端は、シャフトよりも外周側に位置する。これにより、砥石の外周端を、ワークにおけるバリの発生部位に接触させることが容易となる。
【0020】
本発明において、前記砥石は、前記軸線と直交する方向から見た場合に、外周側に向かって先細りとなる形状を備えるものとすることができる。この場合、砥石を軸線と直交する方向から見た形状は、二等辺三角形、菱形、楕円形などである。
【0021】
本発明において、前記砥石は、前記軸線と直交する方向から見た場合に、長方形であるものとすることができる。砥石を軸線と直交する方向から見た場合の形状が長方形であれば、砥石の研磨面である径方向の外周端は、軸線方向で一定の幅を備えるものとなる。
【0022】
本発明において、前記シャフトの後端から前記砥石までの長さ寸法は、150mmを超えるものとすることができる。このようにすれば、砥石を、ワークに設けられた穴の奥側の研磨対象箇所に到達させることが容易となる。
【0023】
次に、本発明の研磨工具は、上記の軸付き砥石と、前記軸付き砥石の前記シャンク部をチャックした回転工具と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の軸付き砥石によれば、シャフトが弾性を備える場合でも、研磨加工中に、砥石が偏摩耗することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】軸付き砥石と回転工具とからなる研磨工具の説明図である。
【
図5】軸付き砥石のシャフトの剛性を測定する測定方法の説明図である。
【
図6】実施例および比較例の軸付き砥石のシャンクの剛性、全長、および研磨加工時の回転数をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態である軸付き砥石、および研磨工具を説明する。
【0027】
図1は、軸付き砥石の側面図である。
図2は、軸付き砥石の分解斜視図である。
図3は、軸付き砥石と回転工具とからなる研磨工具の説明図である。
図3では、作業者が研磨工具を把持している状態を示す。
図4は、砥石の説明図である。
図5は、軸付き砥石のシャフトの剛性を測定する測定方法の説明図である。以下の説明では、軸付き砥石1のシャフト3の軸線Lに沿った方向を軸線方向Xとする。また、軸線方向Xにおいて、砥石2が位置する側を軸付き砥石1の前方X1、その反対側を軸付き砥石1の後方X2とする。
【0028】
軸付き砥石1は、砥石2と、砥石2から後方X2に延びるシャフト3と、を有する。シャフト3は、後端部にシャンク部4を備える。
図3に示すように、シャンク部4は、シャフト3において、回転工具10にチャックされる部分である。砥石2は、シャフト3の軸線L回りで回転対称の形状を備える。本例では、砥石2は、円盤形状である。砥石2がシャフト3の先端に固定された状態で、砥石2の外周端2aは、シャフト3よりも外周側に位置する。
【0029】
砥石2は、固定機構6を介して、シャフト3に固定されている。固定機構6は、シャフト3に対して砥石2を着脱可能に固定する。
図2に示すように、固定機構6は、頭部7aと頭部7aから突出するねじ部7bとを備える有頭ねじ7を備える。また、固定機構6は、砥石2の中心を軸線方向Xに貫通する固定孔8と、シャフト3の前端面に設けられたねじ穴9と、を備える。有頭ねじ7は、ねじ部7bが固定孔8を介してねじ穴9に捩じ込ま
れ、頭部7aが砥石2に当接する。なお、砥石2は、シャフト3に、直接、固定されていてもよい。この場合には、砥石2は、その中心にシャフト3の先端部が嵌合可能な固定穴を備える。固定穴は、後方X2に開口する。また、砥石2は、シャフト3の先端部が固定穴に挿入された状態で、シャフト3の先端部または固定穴の内周面に塗布された接着剤により、シャフト3に固定される。
【0030】
図3に示すように、軸付き砥石1は、回転工具10にチャックされて、研磨工具15として使用される。本例において、回転工具10は、手持ち式の電動グラインダーや、手持ち式の回転エアードリルなどである。すなわち、本例の研磨工具15は、回転工具10が、作業者が把持する把持部11を有する。軸付き砥石1は、シャンク部4が回転工具10のチャック機構12に保持される。研磨加工時に、作業者は、回転工具10を手で保持した状態で、砥石2をワークの研磨対象部位に接触させる。
【0031】
(砥石)
砥石2は、回転体である。
図1に示すように、砥石2の外径寸法Dは、3mm以上である。砥石2の外径寸法Dは、シャフト3の外径寸法Oよりも大きい。従って、砥石2の外周端2aは、シャフト3よりも外周側に位置する。また、砥石2の外径寸法Dは、砥石2の軸線方向Xの厚みEよりも大きい。従って、砥石2は、軸線方向Xよりも径方向が長い。砥石2の重量は、0.8g以下である。
【0032】
本例では、砥石2を軸線Lと直交する方向から見た場合の形状が、軸線方向Xよりも径方向が長い長方形である。従って、砥石2の加工面である径方向の外周端2aは、軸線方向Xで一定の幅を備えるものとなる。本例において、砥石2の外径寸法Dは、15mmであり、砥石2の厚みは、2mmである。砥石2の重量は、0.8gである。
【0033】
砥石2は、所謂、無機長繊維強化樹脂体である。
図4に示すように、砥石2は、複数本の無機長繊維21を纏めた繊維束22を複数備える。また、砥石2は、これら複数の繊維束22を結合する樹脂23を備える。樹脂23は、複数の繊維束22を固めるバインダーである。本例において、樹脂23は、熱硬化性樹脂であり、複数の繊維束22のそれぞれに含侵して、硬化している。砥石2の加工面である外周端2aには、複数本の無機長繊維21の先端が達している。
【0034】
より詳細には、砥石2は、所定の間隔をあけて第1の方向に配向された複数本の第1の繊維束22Aと、所定の間隔をあけて第1の繊維束22Aと交差する第2の方向に配列された複数本の第2の繊維束22Bとを有する。第1の繊維束22Aおよび第2の繊維束22Bは、一方の繊維束22A、22Bの間に他方の繊維束22A、22Bが部分的に入り込んだ状態にある。繊維束22A、22Bには、樹脂23が含浸し、硬化している。樹脂23は、複数の繊維束22を結合させている。樹脂23としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂などが用いられる。
【0035】
無機長繊維21は、ガラス長繊維、アルミナ長繊維、ボロン長繊維、あるいは炭化ケイ素長繊維が用いられる。本例では、無機長繊維21として、アルミナ長繊維が用いられる。無機長繊維21としては、単繊維の平均繊維径が3μm~40μmのものが用いられる。繊維束22は、500~3000Texのものが用いられる。本例では、500Tex程度の細い繊維束22に樹脂23を含浸させた後に、複数の砥材束を引き揃えて
図4(a)、
図4(b)に示す状態に配列し、しかる後に、再度、樹脂23を含浸して硬化させて砥石2の基材とする。
【0036】
(シャフト)
シャフト3は、棒状であり、軸線Lと直交する方向に撓む弾性を備える。シャフト3は、軸線L回りで回転対称の形状を備える回転体である。
図1に示すように、シャフト3は、後方X2から前方X1に向かって、シャンク部4と、ネック部5と、をこの順に備える。シャンク部4は、シャフト3の後端から30mmの領域である。ネック部5は、軸線方向Xでシャンク部4と砥石2との間に位置する領域である。ネック部5は、前端側に、シャフト3のそれよりも後側と比較して外径寸法が大きい大径部分5aを備える。砥石2をシャフト3に固定するためのねじ穴9は、大径部分5aの前端面に形成されている。本例において、シャフト3は、ステンレス鋼製である。
【0037】
シャフト3は、その剛性をSとした場合に、以下の条件式(A)を満たす。
0.4≦ S ≦100 ・・(A)
【0038】
シャフト3の剛性を測定する際には、
図5に示すように、シャフト3の後端から30mmの領域をシャンク部4として治具30に固定する。しかる後に、砥石2の外周端2aにおける後端の荷重付与位置Pに、軸線Lと直交する方向から所定の押し込み荷重をかける。シャフト3の剛性は、押し込み加重をF(N)、シャフト3の前端の変位量をδ(mm)とした場合に、以下の式(B)で求められる。
S=F/δ ・・(B)
【0039】
ここで、シャフト3は、その剛性が条件式(A)を満たせば、その材質、全長M、および外径寸法Oを問わない。ただし、シャフト3の全長Mは、50mm以上であることが望ましい。なお、シャフト3の全長Mとは、シャフト3の後端から砥石2までの長さ寸法である。従って、砥石2の固定穴にシャフト3の先端部が挿入された状態で砥石2がシャフト3に固定されている軸付き砥石1では、シャフト3の全長Mは、シャフト3の後端から砥石2の固定穴の開口縁までの長さ寸法である。
【0040】
また、シャフト3の外径寸法Oは、6mm未満であることが望ましい。このようにすれば、シャフト3が太くなり過ぎて、シャフト3の剛性が条件式(A)の上限値を超える値となることを防止或いは抑制できる。ここで、シャフト3の外径寸法Oとは、シャフト3において最も太い部分の外径寸法である。従って、本例では、シャフト3の外径寸法Oは、大径部分5aの外径寸法である。
【0041】
(実施例および比較例)
以下では、砥石2および固定機構6を同一とし、シャフト3の剛性および全長Mを変化させた7つの軸付き砥石1(1)~1(7)を説明する。
図6は、実施例および比較例の軸付き砥石について、シャフトの剛性、シャフトの全長、研磨加工時の回転数をまとめた表である。軸付き砥石1(1)~1(7)のうち、軸付き砥石1(2)~1(5)は本発明の実施例であり、シャフト3の剛性が条件式(A)の範囲内にある。軸付き砥石1(1)、(6)、(7)は、比較例であり、シャフト3の剛性が条件式(A)の範囲から外れている。
【0042】
軸付き砥石1(1)~1(7)において、砥石2は、無機長繊維強化樹脂体からなる。砥石2の外径寸法Dは、15mmである。砥石2の軸線方向Xの厚みEは、2mmである。シャフト3の材質はステンレス鋼(SUS303)である。この一方で、軸付き砥石1(1)~1(7)は、シャフト3の剛性、および、シャフト3の全長Mがそれぞれ異なる。また、軸付き砥石1(1)~1(7)は、研磨加工を行う際に、回転工具10が各軸付き砥石1を回転させる回転数が相違する。
【0043】
軸付き砥石1(1)は、シャフト3の剛性が0.2N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)の下限値を下回る。シャフト3の全長Mは261mmである。回転工具1
0にチャックされるシャンク部4を除いたネック部5の長さ寸法Nは231mmである。研磨加工時の回転数は2000回/minである。
【0044】
軸付き砥石1(2)は、シャフト3の剛性が0.4N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)を満たす。シャフト3の全長Mは213mmである。ネック部5の長さ寸法Nは183mmである。研磨加工時の回転数は3000回/minである。軸付き砥石1(3)はシャフト3の剛性が5N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)を満たす。シャフト3の全長Mは109mmである。ネック部5の長さ寸法Nは79mmである。研磨加工時の回転数は5000回/minである。軸付き砥石1(4)はシャフト3の剛性が10N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)を満たす。シャフト3の全長Mは93mmである。ネック部5の長さ寸法Nは63mmである。研磨加工時の回転数は8000回/minである。軸付き砥石1(5)は、シャフト3の剛性が100N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)を満たす。シャフト3の全長Mは59mmである。ネック部5の長さ寸法Nは29mmである。研磨加工時の回転数は10000回/minである。
【0045】
軸付き砥石1(6)は、シャフト3の剛性が110N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)の上限値を上回る。シャフト3の全長Mは58mmである。ネック部5の長さ寸法Nは28mmである。研磨加工時の回転数は10000回/minである。軸付き砥石1(7)は、シャフト3の剛性が120N/mmである。シャフト3の剛性は条件式(A)の上限値を上回る。シャフト3の全長Mは57mmである。ネック部5の長さ寸法Nは27mmである。研磨加工時の回転数は10000回/minである。
【0046】
(評価試験)
軸付き砥石1(1)~1(7)について、評価試験1~3を行った。評価試験1~3では、軸付き砥石1(1)~1(7)のそれぞれを回転工具10にチャックし、前述の回転数で回転させて、ワーク50の研磨対象部位にあるバリを除去する。評価試験1では、研磨加工中に、砥石2、シャフト3、および回転工具10を介して作業者に砥石2がワークを研磨する感触が伝わるか否かを評価した。評価試験2では、研磨加工中の砥石2の跳ねを評価した。評価試験3では、研磨加工中の砥石2の偏摩耗を評価した。
図7は、評価試験1~3に用いたワークの斜視図である。
図8は、評価試験1~3の説明図である。
図8では、ワークを断面で示す。また、
図8では、回転工具10を省略して、ワークおよび軸付き砥石1を示す。
【0047】
ワーク50は、機械構造用炭素鋼製である。
図7に示すように、ワーク50は、筒状である。ワーク50の外径寸法Rは30mmであり、内径寸法Tは20mmである。
図8に示すように、ワーク50の内周面50aには、ワーク50の端からの距離Qが20mmの位置に、環状溝51が設けられている。環状溝51は、幅寸法Uが5mmであり、深さ寸法Vが2.5mmである。また、ワーク50は、径方向から見た場合に環状溝51と重なる位置に、直径Wが3mmの穿孔52を備える。穿孔52は、ドリルを、ワーク50の径方向外側から内側に貫通させることにより設けられている。環状溝51の環状底面51aにおける穿孔52の開口縁は研磨対象部位である。研磨対象部位には、バリが発生している。かかる研磨対象部位は、ワーク50に設けられた深い穴の奥側に位置するものといえる。
【0048】
評価試験1では、ワーク50の内周面50aの穿孔52の開口縁を狙い、回転させた砥石2をワーク50に接触させてバリ取りを行う。また、評価試験1では、3名の評価者のそれぞれが、砥石2、シャフト3、回転工具10を通して手に伝わる感触よってバリの除去が行えているか、否か、を判断する。
【0049】
評価試験1の試験結果は、
図9に示すとおりである。
図9において、×は、評価者が手に伝わる感触よってバリの除去が行えているか判断することができなかったことを示し、〇は、評価者が手に伝わる感触よってバリの除去が行えているか判断することができたことを示す。
図9に示すように、軸付き砥石1(1)を回転工具10にチャックして研磨加工を行った場合には、3名の評価者のそれぞれが、砥石2、シャフト3、回転工具10を通して手に伝わる感触よってバリの除去が行えているか判断することができなかった。すなわち、軸付き砥石1(1)は、シャフト3の剛性が低く、撓み易いので、バリの除去時に発生する振動などがシャフト3に吸収されてしまい、評価者まで届かなかった。軸付き砥石1(2)~(7)を回転工具10にチャックして研磨加工を行う場合には、3名の評価者は、いずれも、研磨対象部位においてバリの除去を行うことができているという感触を得た。
【0050】
なお、評価試験1は、研磨対象部位を直接的に目視で確認できない研磨加工に、軸付き砥石1(1)~1(7)を使用することができるか、否か、を確認するための試験である。試験結果によれば、軸付き砥石1(2)~1(7)は、研磨対象部位を直接的に目視で確認できない研磨加工に使用できる。
【0051】
評価試験2では、ワーク50の内周面50aの穿孔52の開口縁を狙い、回転させた砥石2をワーク50に接触させて、バリ取りを行う。また、評価試験2では、3名の評価者のそれぞれが、シャフト3、回転工具10を通して手に伝わる感触よって、研磨加工中に砥石2が跳ねているかを判断する。
【0052】
評価試験2の試験結果は、
図10に示すとおりである。
図10において、×は、評価者が砥石2の跳ねを感じたことを示し、〇は、評価者が砥石2の跳ねを感じなかったことを示す。
図10に示すように、軸付き砥石1(1)~1(5)を回転工具10にチャックして研磨加工を行った場合には、3名の評価者は、いずれも、研磨加工中の砥石2の跳ねを感じることがなかった。軸付き砥石1(6)を回転工具10にチャックして研磨加工を行った場合には、3名の評価者のうちの1名が研磨加工中の砥石2の跳ねを感じた。軸付き砥石1(7)を回転工具10にチャックして研磨加工を行った場合には、3名の評価者の全員が研磨加工中の砥石2の跳ねを感じた。なお、3名の評価者は、研磨加工中に砥石2が跳ねる場合には、研磨工具15が使いづらくなるという印象を得た。また、3名の評価者は、砥石2が跳ねる場合には、作業者の手に伝わる振動によって、作業者に疲労が蓄積するという印象を得た。
【0053】
評価試験3では、ワーク50の内周面50aの穿孔52の開口縁を狙い、回転させた砥石2をワーク50に接触させて、バリ取りを開始する。その後、砥石2の最外径が10mmになった時点で、バリ取りを終了する。また、バリ取りの開始から終了までの間、15秒毎に、バリ取り動作を中断して、砥石2およびワーク50を観察する。このような観察を、3名の評価者が、各軸付き砥石1を新たなものに替えずに、複数のワーク50に対して行う。
【0054】
ここで、バリ取りを終了するまでの間に、評価者が、「砥材の輪郭が円形ではない」、「前回の観察時点と比較したときに砥石2の摩耗が急速に進展している」、「砥石2の跳ねを感じる」という3つの要素の全てを認めた場合であって、かつ、バリ取り終了後のワーク50を評価者が観察したときに、「環状底面51aにおける穿孔52の開口縁のエッジの仕上がりに不均一が認められる」と判断した場合には、砥石2に偏摩耗が発生していると評価する。
【0055】
評価試験3の試験結果は、
図11に示すとおりである。
図11において、×は、砥石2に偏摩耗が発生したことを示し、〇は、砥石2に偏摩耗が発生しなかったことを示す。図
11に示すように、軸付き砥石1(1)を回転工具10にチャックして研磨加工を行った場合には、3名の評価者は、いずれも、砥石2に偏摩耗が発生していると評価した。軸付き砥石1(2)~1(7)を回転工具10にチャックして研磨加工を行った場合には、3名の評価者は、いずれも、砥石2に偏摩耗が発生していないと評価した。
【0056】
評価試験1~3によれば、シャフト3の剛性が条件式(A)を満たす軸付き砥石1(2)~1(5)を回転工具10にチャックして研磨加工を行えば、研磨加工中における砥材の偏摩耗を防止或いは抑制でき、かつ、研磨加工中における砥材の跳ねを防止或いは抑制できることが明らかである。また、シャフト3の剛性が条件式(A)を満たす軸付き砥石1(2)~1(5)を回転工具10にチャックして研磨加工を行えば、作業者は、手に伝わる感触によって研磨加工が行われていることを判断でき、かつ、作業者への疲労の蓄積が抑制されることが認められる。
【0057】
(作用効果)
本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、シャフト3の剛性を、条件式(A)で定めた所定の範囲内の値とする。これにより、軸付き砥石1の固有振動数が、研磨加工中に共振が発生しない値となる。従って、軸付き砥石1の共振による砥石2の振動に起因して、砥石2が偏摩耗することを抑制できる。また、本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、シャフト3の剛性を、条件式(A)で定めた所定の範囲内の値としたので、研磨加工時に、砥石2がワーク50の表面で跳ねることを防止或いは抑制できる。
【0058】
すなわち、軸付き砥石1(1)のように、シャフト3の剛性の値が条件式(A)の下限値を下回る場合には、シャフト3の剛性が低くなり、軸付き砥石1の固有振動数が低下する。これにより、研磨加工中に共振が発生しやすくなるので、共振により発生する振動により、砥石2に偏摩耗が発生しやすくなる。ここで、砥石2に偏摩耗が発生すると、砥石2のワーク50への接触が不均一となるので、バリ取りや研磨を良好に行うことができなくなることがある。また、砥石2に偏摩耗が発生すると、研磨加工中に砥石2の形状が元の回転対称の形状に戻ることはなく、砥石2の変形が進む。これにより、研磨加工中に砥石2がワーク50の表面で跳ねるなどの現象が発生する。砥石2が跳ねると、砥石2のワーク50への接触が不均一となるので、バリ取りや研磨を良好に行うことができなくなる。従って、本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、シャフト3の剛性の値を条件式(A)の下限値以上として、砥石2の偏摩耗を防止或いは抑制する。よって、これらの問題の発生を回避できる。
【0059】
一方、軸付き砥石1(6)、軸付き砥石1(7)のように、シャフト3の剛性の値が条件式(A)の上限値を上回る場合には、シャフト3の剛性が高くなり過ぎる。すなわち、シャフト3の剛性が高ければ、軸付き砥石1の固有振動数が高くなるので、研磨加工中に軸付き砥石1に共振が発生することを防止できる。しかし、シャフト3の剛性が高くなり過ぎると、研磨加工時にワーク50の側から軸付き砥石1に伝わる振動をシャフト3が十分に吸収することができず、研磨加工中に砥石2がワーク50の表面で跳ねやすくなる。ここで、砥石2が跳ねると、砥石2のワーク50への接触が不均一となり、バリ取りや研磨を良好に行うことができなくなる。また、砥石2が跳ねると、砥石2がワーク50の研磨対象部位とは異なる部位に接触して、ワーク50を傷つけることがある。さらに、砥石2が跳ねると、作業者の手に伝わる振動によって、作業者に疲労が蓄積する。従って、本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、シャフト3の剛性の値を条件式(A)の上限値以下として、研磨加工中の砥石2の跳ねを抑制する。よって、これらの問題の発生を回避できる。
【0060】
ここで、シャフト3の剛性の値を条件式(A)の範囲内とすれば、シャフト3の材質や、全長Mおよび外径寸法Oに拘わらず、軸付き砥石1の固有振動数を、共振を防止できる
程度に高めることができる。また、軸付き砥石1の固有振動数は、研磨加工時の軸付き砥石1の回転数に依存する加振周波数よりも高い。従って、シャフト3の剛性の値を条件式(A)の範囲内とすれば、研磨加工中の軸付き砥石1の回転数に拘わらず、軸付き砥石1の共振を防止或いは抑制できる。
【0061】
また、軸付き砥石1の砥石2は、無機長繊維強化樹脂体であり、複数本の無機長繊維21からなる繊維束22を複数備えるとともに、これら複数の繊維束22を結合する樹脂23を備える。このような砥石2は、砥粒を樹脂で結合した砥石と比較して、衝撃を受けたときに砥石2の一部が崩落しにくい。すなわち、砥粒を樹脂で固めた砥石では、衝撃を受けたときに、砥粒毎に崩落するので偏摩耗が発生しやすいが、複数の繊維束22を樹脂23で固めた砥石2では、このような砥粒毎の崩落が発生しない。従って、研磨加工中の砥石2の偏摩耗を抑制しやすい。
【0062】
本例において、シャフト3の全長Mは、50mm以上である。ここで、従来から、ワークに設けられた深い穴の内壁面の研磨加工する際には、砥石2を穴の奥側の研磨対象箇所に到達させるために、シャフト3の全長Mを長くしたいという要求があった。しかし、一般的に、弾性を備えるシャフト3の全長Mを長くすると、それに伴って、シャフト3の剛性が低下する。従って、シャフト3の全長Mを長くすると、研磨加工時に共振が発生して、砥石が偏摩耗しやすくなるという問題が発生していた。また、シャフト3の全長Mを長くすると、作業者は、求めている研磨加工が行われているか否かを感触によって判断できなくなる場合があった。よって、研磨加工の作業性の低下を抑制しながら、シャフト3を長くすることは容易ではなかった。これに対して、本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、シャフト3の剛性の値が条件式(A)を満たすので、シャフト3の全長Mにかかわらず、砥石2の偏摩耗を防止できる。また、作業者は、求めている研磨加工が行われているか否かを感触によって判断できる。従って、本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、研磨加工の作業性が低下することを抑制しながら、シャフト3の全長を、長くすることができている。
【0063】
ここで、従来、シャフトが撓む軸付き砥石であって市場に流通している軸付き砥石は、シャフト3の後端から砥石までの長さ寸法が50mmよりも短いものが一般的であった。これに対して、本例の軸付き砥石1(2)~1(5)では、シャフト3の後端から前記砥石までの長さ寸法は、50mm以上である。
【0064】
また、シャンク部5が撓む軸付き砥石1として、シャフト3の全長が150mmを超えるものは、提供されていないのが現状である。その理由は、シャンク3の全長が150mmを超える軸付き砥石1を用いる必要がある深い穴の内周面の研磨加工では、作業者が研磨加工中にワークの研磨対象部位を目視で確認することが困難であるのに対して、作業者が把持している回転工具10を介して研磨加工中に求めている加工ができているという感触を得ることが難しいという問題があるからである。このような問題に対して、シャンク3の全長が150mmを超える本例の軸付き砥石1(2)では、シャフト3の剛性の値が条件式(A)を満たすので、作業者がワークの研磨対象部位を目視で確認できない場合でも、作業者が研磨加工中に求めている加工ができているという感触を得ることができる。また、シャフト3の剛性を条件式(A)の範囲を満たす値とすれば、砥石2に偏摩耗が発生することを防止或いは抑制でき、かつ、研磨加工中の砥石2の跳ねを防止或いは抑制できる。従って、シャフト3の全長が150mmを超える軸付き砥石1(2)によって、バリ取りや研磨を良好に行うことができる。
【0065】
本例では、シャフト3の外径寸法Oは6mm未満である。従って、シャフト3が太くなり過ぎて、シャフト3の剛性が条件式(A)の上限値を超える値となることを防止或いは抑制しやすい。また、シャフト3の外径寸法Oが6mm未満であれば、回転工具10を把
持する作業者が研磨対象部位を観察しようとするときに、研磨対象部位がシャフト3の陰となって目視できなくなることを回避しやすい。
【0066】
本例において、砥石2は、0.8g以下である。従って、研磨加工中にワーク50の側から軸付き砥石1に力が加わった場合などに、砥石2がワーク50の表面で跳ねることを抑制しやすい。
【0067】
また、本例では、砥石2を、シャフト3の前端に着脱可能に固定する固定機構6を有する。従って、砥石2が摩耗したときに、摩耗した砥石2を新たな砥石2と交換できる。
【0068】
(変形例)
図12(a)~(f)は、変形例1~6の軸付き砥石の説明図である。
図12(a)~(f)に示す変形例1~6の軸付き砥石1A~1Fは、いずれも、シャフト3の剛性が条件式(A)を満たす。なお、
図12には、各変形例1~6の軸付き砥石1A~1Fのシャフト3の剛性を計測する際の荷重付与位置Pを記入している。
【0069】
図12(a)に示す変形例1の軸付き砥石1Aは、砥石2が軸線Lと直交する方向から見た場合の形状が正方形である。従って、砥石2は円柱形状である。
図12(b)に示す変形例2の軸付き砥石1Bは、砥石2が軸線Lと直交する方向から見た場合の形状が円形である。従って、砥石2は球形である。
【0070】
次に、砥石2は、軸線Lと直交する方向から見た場合に、外周側に向かって先細りとなる形状を備えていてもよい。この場合には、
図12(c)に示す変形例3の軸付き砥石1C、および
図12(d)に示す変形例4の軸付き砥石1Dのように、砥石2は、軸線Lと直交する方向から見た場合の形状を二等辺三角形とすることができる。変形例3の軸付き砥石1Cでは、砥石2は、頂点を前方X1に向けた円錐形である。変形例4の軸付き砥石1Dでは、砥石2は、全体として、頂点を後方X2に向けた円錐形である。また、この場合には、変形例5の軸付き砥石1Eのように、砥石2は、軸線Lと直交する方向から見た場合の形状を菱形とすることができる。また、この場合には、変形例6の軸付き砥石1Fのように、砥石2は、軸線Lと直交する方向から見た場合の形状を楕円形とすることができる。
【0071】
これら変形例1~6の各軸付き砥石1A~1Fでは、砥石2は、その中心にシャフト3の先端部が嵌合可能な嵌合穴25を備える。嵌合穴25は、後方X2に開口する。また、砥石2は、シャフト3の先端部が嵌合穴25に挿入された状態で、シャフト3の先端部と嵌合穴25の内周面に塗布された接着剤により、シャフト3に固定される。変形例1~6の各軸付き砥石1A~1Fにおいても、研磨加工中の砥石2の偏摩耗および砥石2の跳ねを抑制できる。
【符号の説明】
【0072】
1(1)~1(7)…軸付き砥石、2…砥石、2a…砥石の外周端、3…シャフト、4…シャンク部、5…ネック部、5a…大径部分、6…固定機構、7…有頭ねじ、8…固定孔、9…ねじ穴、10…回転工具、11…把持部、12…チャック機構、15…研磨工具、21…無機長繊維、22・22A・22B…繊維束、23…樹脂、25…嵌合穴、30…治具、50…ワーク、50a…内周面、51…環状溝、51a…環状底面、52…穿孔、M…シャンクの全長、N…ネック部の長さ寸法、O…シャフトの外径寸法、P…荷重付与位置、R…ワークの外径寸法、T…ワークの内径寸法、U…環状溝の幅寸法、V…環状溝の深さ寸法、W…穿孔の直径、X…軸線方向
【手続補正書】
【提出日】2022-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
後端部にシャンク部を備えるシャフトと、前記シャフトの軸線回りで回転対称の形状を備え、前記シャフトの前端に固定されて外周端が前記シャフトよりも外周側に位置する砥石と、を有し、手持ち式の回転工具に前記シャンク部がチャックされて前記砥石の前記外周端でワークを研磨する軸付き砥石において、
前記砥石は、複数本の無機長繊維を束ねた砥材束を複数備えるとともに、前記複数の砥材束を結合する樹脂を備え、
固有振動数は、前記シャフトの剛性をSとした場合に、以下の条件式を満たすことにより、研磨加工中に共振が発生しない値となっており、
0.4≦ S ≦100
前記シャフトの剛性は、前記シャフトの後端から30mmの領域を前記シャンク部として治具に固定して前記砥石の前記外周端における後端を前記軸線と直交する方向からで押し込み、押し込み加重をF(N)、前記シャフトの前端の変位量をδ(mm)とした場合に、以下の式で求められることを特徴とする軸付き砥石。
S=F/δ
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、後端部にシャンク部を備えるシャフトと、前記シャフトの軸線回りで回転対称の形状を備え、前記シャフトの前端に固定されて外周端が前記シャフトよりも外周側に位置する砥石と、を有し、手持ち式の回転工具に前記シャンク部がチャックされて前記砥石の前記外周端でワークを研磨する軸付き砥石において、前記砥石は、複数本の無機長繊維を束ねた砥材束を複数備えるとともに、前記複数の砥材束を結合する樹脂を備え、固有振動数は、前記シャフトの剛性をSとした場合に、以下の条件式を満たすことにより、研磨加工中に共振が発生しない値となっており、
0.4≦ S ≦100
前記シャフトの剛性は、前記シャフトの後端から30mmの領域を前記シャンク部として治具に固定して前記砥石の前記外周端における後端を前記軸線と直交する方向からで押し込み、押し込み加重をF(N)、前記シャフトの前端の変位量をδ(mm)とした場合に、以下の式で求められることを特徴とする。
S=F/δ