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特開2023-74216液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074216
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20230522BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187049
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】石部 徹
(72)【発明者】
【氏名】西村 達哉
【テーマコード(参考)】
2H290
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA72
2H290BF13
2H290BF24
2H290BF52
2H290DA01
2H290DA03
4J043PA05
4J043PA06
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA06
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA62
4J043SB01
4J043SB03
4J043TA22
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA062
4J043UA082
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA151
4J043UA361
4J043UA451
4J043UA662
4J043UA672
4J043UB011
4J043UB121
4J043UB131
4J043UB161
4J043UB171
4J043UB211
4J043UB231
4J043UB241
4J043UB281
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA051
4J043XA16
4J043YA08
4J043ZA02
4J043ZA09
4J043ZA55
4J043ZB23
(57)【要約】
【課題】基板との密着性に優れた液晶配向膜を形成でき、かつ液晶配向性及びタッチパネル耐性に優れた液晶素子を製造できる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される部分構造を有する重合体[P]を液晶配向剤に含有させる。Ar及びArは2価の芳香環基である。X及びXは-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。「*」はAr又はArとの結合手を表す。R及びRは2価の炭化水素基である。Aは-NR-、-NR-CO-*、-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-CH-O-CO-*、-CO-O-CH-*又は-O-である。式(1)中の全てのAが-O-の場合、X及びXは-NR-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、Ar又はArとの結合手を表す。R及びRは、それぞれ独立して2価の炭化水素基である。Aは、-NR-、-NR-CO-*、-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-CH-O-CO-*、-CO-O-CH-*又は-O-である。Rは1価の有機基である。Rは水素原子又は1価の有機基である。「*」はRとの結合手を表す。ただし、式(1)中の全てのAが-O-の場合、X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。nは1~3の整数である。nが2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なり、複数のAは同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【請求項2】
前記重合体[P]は、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(2)中、Ar、Ar、X、X、R、R、A及びnは、上記式(1)と同義である。)
【請求項3】
前記重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記R及びRで表される2価の炭化水素基は脂肪族炭化水素基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
上記式(1)で表される部分構造(A)を有しない重合体[Q]を更に含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体[Q]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤により塗膜を形成し、該塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する、液晶配向膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶テレビやインフォメーションディスプレイ等といった比較的大型の表示装置から、スマートフォン等の小型の表示装置まで幅広い用途に適用されている。液晶素子の性能は、液晶の配向性やプレチルト角の大きさ、電圧保持率等の各種特性により決定される。液晶素子の性能を向上させるべく、従来、液晶材料の改良のほか、液晶を一定方向に配列させるための液晶配向膜の改良が行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であるポリアミック酸及びその誘導体を含有する液晶配向剤において、ジアミンとしてビス(4-アミノフェノキシ)アジパミドを用いて得られたポリアミック酸を液晶配向剤に含有させることが開示されている。また、特許文献2には、ジアミンとしてジ-tert-ブチル アジポイルビス[(4-アミノフェネチル)カーバメート]を用いて得られたポリイミドを液晶配向剤に含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-132326号公報
【特許文献2】特開2016-145954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶素子の更なる高品質化を図るべく本発明者らは検討し、芳香環に特定のヘテロ原子含有基を介してアルキレン構造が結合した部分構造を有するジアミンを用いてポリアミック酸を製造することにより、ラビング処理及び光配向処理のいずれを用いて液晶配向膜を作製した場合にも良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができるという知見を得た。その一方で、ポリアミック酸をイミド化すると、液晶配向膜の力学特性が低下したり、液晶配向膜の基板への密着性が低下したりしてしまうことがあり、更なる改善の余地があることが分かった。
【0006】
例えば、スマートフォンやタブレットPC等に代表されるモバイル用途では、タッチパネルの稼働面積をより広く、かつ表示装置の小型化を両立させるために狭額縁化を図ることが行われている。狭額縁化を図る方法の1つとしては、基板面全体に液晶配向膜を形成した後、シール剤を液晶配向膜上に塗布して基板同士を貼り合わせる方法が知られている。その一方で、液晶配向膜上にシール剤を配置すると、シール剤を配置した配向膜部分に力がかかりやすくなる。このため、液晶配向膜の力学特性や基板への密着性が低い場合には、基板同士の剥がれが生じやすくなることが懸念される。
【0007】
また近年、液晶表示装置は、モバイル用途や車載用途への普及が急速に進んでいる。スマートフォンや車載用途の液晶素子には、表示品位に優れていることに加え、外力を受けたことに起因する表示品位の低下が生じにくくタッチパネルとしての特性が良好である、すなわちタッチパネル耐性(打鍵耐久性ともいう)が良好であることが求められる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板との密着性に優れた液晶配向膜を形成でき、かつ液晶配向性及びタッチパネル耐性に優れた液晶素子を製造できる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
<1> 下記式(1)で表される部分構造を主鎖に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、Ar又はArとの結合手を表す。R及びRは、それぞれ独立して2価の炭化水素基である。Aは、-NR-、-NR-CO-*、-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-CH-O-CO-*、-CO-O-CH-*又は-O-である。Rは1価の有機基である。Rは水素原子又は1価の有機基である。「*」はRとの結合手を表す。ただし、式(1)中の全てのAが-O-の場合、X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。nは1~3の整数である。nが2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なり、複数のAは同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<2>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、基板との密着性に優れた液晶配向膜を形成できるとともに、液晶配向性及びタッチパネル耐性に優れた液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《液晶配向剤》
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0013】
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「脂肪族炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基及び脂環式炭化水素基をいう。「芳香環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環をいう。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0014】
本開示の液晶配向剤は、下記式(1)で表される部分構造(以下「部分構造(A)」ともいう)を有する重合体[P]を含有する。
【化2】
(式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、Ar又はArとの結合手を表す。R及びRは、それぞれ独立して2価の炭化水素基である。Aは、-NR-、-NR-CO-*、-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-CH-O-CO-*、-CO-O-CH-*又は-O-である。Rは1価の有機基である。Rは水素原子又は1価の有機基である。「*」はRとの結合手を表す。ただし、式(1)中の全てのAが-O-の場合、X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。nは1~3の整数である。nが2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なり、複数のAは同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【0015】
<重合体[P]>
・部分構造(A)について
式(1)において、Ar及びArで表される2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基が挙げられる。Ar及びArで表される2価の芳香環基を構成する芳香環は、単環でも縮合環でもよく、また2個以上の単環又は縮合環が単結合によって連結した構造(例えばビフェニル環構造)を有していてもよい。また、Ar及びArで表される2価の芳香環基は、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。
【0016】
Ar及びArが2価の芳香環基である場合の具体例としては、2価の芳香族炭化水素基として、ベンゼン環構造、ビフェニル環構造、ナフタレン環構造若しくはアントラセン環構造、又はこれらの環に置換基が導入された環構造において、環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を取り除いてなる基を;2価の窒素含有芳香族複素環基として、ピリジン環構造、ピリミジン環構造、ピリダジン環構造若しくはピラジン環構造、又はこれらの環に置換基が導入された環構造において、環を構成する炭素原子に結合する任意の2個の水素原子を2個取り除いてなる基を、それぞれ挙げることができる。Ar及びArは、液晶配向性及び電圧保持特性の観点から、これらのうち、好ましくは2価の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはベンゼン環構造又はビフェニル環構造を有する2価の基である。
【0017】
及びXで表される基が-NR-又は*-NR-CO-である場合、Rで表される1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基及び1価の熱脱離性基が挙げられる。炭素数1~10の1価の炭化水素基の具体例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、及び炭素数6~10のアリール基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基及びフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0018】
で表される1価の有機基が1価の熱脱離性基である場合の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量をできるだけ少なくできる点で、Boc基が特に好ましい。
【0019】
は、上記のうち、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は1価の熱脱離性基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基がより好ましい。
【0020】
及びXは、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、上記のうち、-NR-、-O-又は-S-であることが好ましい。なお、式(1)中の全てのAが-O-の場合、すなわち、nが1の場合には1個のAが-O-の場合、nが2又は3の場合には複数個のAの全てが-O-の場合、X及びXは互いに独立して、-NR-、*-NR-CO-又は*-O-CO-であり、-NR-であることが好ましい。
【0021】
及びRで表される2価の炭化水素基としては、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。これらのうち、R及びRは2価の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。2価の脂肪族炭化水素基の具体例としては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環式炭化水素基が挙げられる。
【0022】
及びRで表される2価の炭化水素基は、これらの中でも、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐状の2価の鎖状炭化水素基、又は炭素数3~12の2価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10の2価の直鎖状又は分岐状の鎖状炭化水素基がより好ましい。膜密度を高くでき、タッチパネル耐性、基板との密着性、及び電圧保持特性の改善効果が高い液晶配向膜を形成できる点で、R及びRは、直鎖状のアルカンジイル基であることが特に好ましい。R及びRの炭素数は、タッチパネル耐性及び基板との密着性の改善効果を十分に得つつ、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、8以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。
【0023】
で表される基が-NR-、-NR-CO-*、-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*又は-NR-CO-NR-*である場合、R及びRで表される1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基及び1価の熱脱離性基が挙げられる。炭素数1~10の1価の炭化水素基及び1価の熱脱離性基の具体例及び好ましい例については、Rで表される1価の有機基として説明した炭素数1~10の1価の炭化水素基及び1価の熱脱離性基の具体例及び好ましい例と同様である。
【0024】
及びRは、炭素数1~3のアルキル基又は1価の熱脱離性基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基がより好ましい。
【0025】
は、良好な密着性及び液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、-NR-、-NR-CO-*、-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-NR-CO-NR-*、-CH-O-CO-*又は-CO-O-CH-*が好ましく、-NR-、-CH-O-CO-*又は-CO-O-CH-*がより好ましく、-CH-O-CO-*又は-CO-O-CH-*が更に好ましい。
【0026】
また、基板との密着性が高い液晶配向膜を得る観点から、部分構造(A)中の「-X-(R-A-R-X-」で表される鎖状構造におけるスペーサ長は、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上が更に好ましい。なお、ここでいう「スペーサ長」は、1個の部分構造(A)あたりのXの個数(1個)と、Xの個数(1個)と、Aの個数(n個)と、R及びRの合計の炭素数とを足し合わせた数をいう。例えば、下記式(4-1)で表される化合物における部分構造(A)のスペーサ長は8個である。
【0027】
重合体[P]を製造する方法は、部分構造(A)を主鎖及び側鎖の少なくともいずれかに導入できればよく、特に限定されない。液晶配向膜の基板との密着性、並びに液晶素子における液晶配向性及びタッチパネル耐性の改善効果をより高くできる点で、重合体[P]は部分構造(A)を主鎖に有していることが好ましい。ここで、重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。なお、この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。つまり、「部分構造(A)を主鎖に有する」とは、部分構造(A)が主鎖の一部分を構成することをいう。なお、重合体[P]が部分構造(A)を主鎖に有する場合、主鎖のみだけでなく側鎖にも部分構造(A)を有していてもよい。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【0028】
部分構造(A)を重合体中に導入しやすい点で、重合体[P]は、部分構造(A)を有する単量体を用いて重合する方法により製造されることが好ましい。部分構造(A)を有する単量体は、液晶との親和性及び機械的強度が高い液晶配向膜を形成できる点、並びに単量体の選択の自由度が高い点で、部分構造(A)を有するジアミン化合物(以下「特定ジアミン」ともいう)が好ましい。
【0029】
特定ジアミンは、部分構造(A)及び2個の1級アミノ基を有する化合物であればよく、その他の部分の構造については特に限定されない。特定ジアミンの好ましい具体例としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。すなわち、重合体[P]は、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【化3】
(式(2)中、Ar、Ar、X、X、R、R、A及びnは、上記式(1)と同義である。)
【0030】
特定ジアミンの具体例としては、下記式(4-1)~(4-34)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、式中、「Boc」は、tert-ブトキシカルボニル基を表す(以下同じ)。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0031】
重合体[P]において、部分構造(A)を有する単量体に由来する構造単位(以下「構造単位(a1)」ともいう)の含有割合は、膜密度の高い液晶配向膜としつつ、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、重合体[P]が有する単量体単位の全量100モル部に対し、2モル部以上であることが好ましい。構造単位(a1)の含有割合は、重合体[P]が有する単量体単位の全量100モル部に対し、より好ましくは5モル部以上であり、更に好ましくは10モル部以上である。また、構造単位(a1)の含有割合は、重合体[P]の主鎖に応じて適宜設定され得るが、重合体[P]が有する単量体単位の全量100モル部に対し、例えば50モル部以下である。なお、重合体[P]が有する構造単位(a1)は1種のみでもよく、2種以上であってもよい。
【0032】
・重合体[P]について
重合体[P]の主鎖は特に限定されない。液晶との親和性及び機械的強度が高く、かつ信頼性の高い液晶配向膜を形成できる点で、重合体[P]は中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
(ポリアミック酸)
重合体[P]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[P]」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0034】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。
【0035】
これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物を;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、溶解性が高く、かつ良好な液晶配向性及び電気特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
【0037】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸[P]の合成に使用されるジアミン化合物は、特定ジアミンのみであってもよいが、特定ジアミンとともに、部分構造(A)を有しないジアミン(以下「その他のジアミン」ともいう)を使用してもよい。その他のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0038】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、6,6’-(ペンタメチレンジオキシ)ビス(3-アミノピリジン)、N,N’-ジ(5-アミノ-2-ピリジル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェネチルウレア、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、2,6-ジアミノピリジン、ジ(5-アミノ-2-ピリジルオキシ)ペンタン、ビス(5-アミノベンゾイミダゾール)ペンタン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、3,6-ジアミノアクリジン、ジフェニルアミン構造含有モノマー、下記式(D-1)
【化9】
(式(D-1)中、R11及びR12は、それぞれ独立して、アルカンジイル基である。R13は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は保護基である。n1は1~3の整数である。n1が2又は3の場合、複数のR12は互いに同一の基又は異なる基であり、複数のR13は互いに同一の基又は異なる基である。)
で表される化合物等の主鎖型ジアミン;
ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化10】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)である。Rは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を、
ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を、それぞれ挙げることができる。
【0039】
式(D-1)で表される化合物としては、例えば下記式(D-1-1)~式(D-1-3)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。その他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化11】
【0040】
ポリアミック酸[P]の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、液晶配向膜の膜密度を高くするとともに、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、ポリアミック酸[P]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましい。特定ジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸[P]は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸[P]の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0042】
ポリアミック酸[P]の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量が、反応溶液の全量に対して0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0043】
以上のようにして、ポリアミック酸[P]を溶解してなる重合体溶液が得られる。この重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0044】
・ポリアミック酸エステル
重合体[P]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下「ポリアミック酸エステル[P]」ともいう)は、例えば、[I]ポリアミック酸[P]とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。ポリアミック酸エステル[P]は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステル[P]を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステル[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0045】
・ポリイミド
重合体[P]がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下「ポリイミド[P]」ともいう)は、例えば、上記の如くして合成されたポリアミック酸[P]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド[P]は、その前駆体であるポリアミック酸[P]が有していたアミック酸構造の全てを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミド[P]は、イミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0046】
ポリアミック酸[P]の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸[P]を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸[P]のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸[P]の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド[P]を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0047】
液晶配向剤の調製に使用する重合体[P]の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体[P]の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0048】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0049】
液晶配向剤中における重合体[P]の含有量は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量(すなわち、液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量)100質量部に対し、2質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。なお、液晶配向剤の調製に際し、重合体[P]としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体[P]のほか、必要に応じて、重合体[P]とは異なる成分(以下「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0051】
・重合体[Q]
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、部分構造(A)を有しない重合体(以下「重合体[Q]」ともいう)を更に含有してもよい。重合体[Q]の主骨格は特に限定されない。重合体[Q]としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。信頼性の高い液晶素子を得る観点から、重合体[Q]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、及び重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、及びスチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。重合体[P]を上層に偏在させやすく、液晶配向性の改善効果を十分に高くできる点及び電気特性を調整しやすい点において、重合体[Q]は、これらの中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0052】
重合体[Q]を液晶配向剤に含有させる場合、重合体[Q]の含有割合は、重合体[P]と重合体[Q]との合計量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、重合体[Q]の含有割合は、重合体[P]と重合体[Q]との合計量100質量部に対して、95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。重合体[Q]としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
・溶剤
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0054】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。溶剤としては、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば、架橋剤、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0056】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、より良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で好適である。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい傾向がある。また、液晶配向剤の粘性が適度となり、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0057】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0058】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜等を用いることができる。
【0059】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されない。基板への液晶配向剤の塗布は、例えば、スピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式法等により行うことができる。
【0060】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0061】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)が施される。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットンやナイロン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために、工程1で形成した塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0062】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0063】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/mであり、より好ましくは500~10,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0064】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、中でもネマチック液晶が好ましい。
【0065】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSAモードの液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、0.01~3質量部、好ましくは0.1~1質量部である。
【0066】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0067】
本開示の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【実施例0068】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0069】
以下の例において、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(F-1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A/(A×α)))×100 …(F-1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0070】
化合物の略号は以下の通りである。なお、以下では、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示すことがある。
【0071】
(テトラカルボン酸二無水物)
【化12】
【0072】
(ジアミン化合物)
【化13】
【化14】
【0073】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-2)100モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-1)100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを重合体(PA-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。
【0074】
[合成例2~14]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1及び表2に記載のとおり変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(重合体(PA-2)~(PA-14))を得た。なお、表1及び表2中、酸二無水物(酸二無水物1及び酸二無水物2)の数値は、各重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。ジアミン(ジアミン1及びジアミン2)の数値は、各重合体の合成に使用したジアミン化合物の合計量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
2.ポリイミドの合成
[合成例15]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-2)80モル部及び化合物(TA-3)20モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-1)100モル部をNMPに溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約60%のポリイミド(これを重合体(PI-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。
【0078】
[合成例16~26]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表3に記載のとおり変更し、ピリジン及び無水酢酸の量を調整することでイミド化率を表3に記載のとおりに合成することで、ポリイミド(重合体(PI-2)~(PI-12))を得た。なお、表3中、酸二無水物(酸二無水物1及び酸二無水物2)の数値は、各重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。ジアミン(ジアミン1、ジアミン2及びジアミン3)の数値は、各重合体の合成に使用したジアミン化合物の合計量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。
【0079】
【表3】
【0080】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:光FFS型液晶表示素子]
1.液晶配向剤の調製
合成例1で得た重合体(PA-1)の溶液をNMP及びブチルセロソルブ(BC)により希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0081】
2.光配向法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/mの範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を以下の評価に用いた。
【0082】
3.液晶配向性の評価(リタデーション変化率による評価)
上記2.で製造した液晶表示素子を27,000cd/mの高輝度バックライト上で500時間静置し、バックライトの照射前後におけるリタデーション変化率により液晶配向性を評価した。まず、上記2.で製造した液晶表示素子につき、オプトサイエンス社製Axoscanによりリタデーションを測定し、下記数式(z-1)によりバックライト照射前後のリタデーションの変化率αを算出した。変化率αが小さいほど、バックライト照射に伴う液晶配向性の低下が生じにくく、液晶配向性が良好であるといえる。変化率αが0.5%以下であった場合を「優良(◎)」、0.5%よりも大きく1%以下であった場合を「良好(○)」、1%よりも大きく2%以下であった場合を「可(△)」、2%よりも大きかった場合を「不良(×)」とした。
α=Δθ/θ1 …(z-1)
(式(z-1)中、Δθは照射前後のリタデーション差を表し、θ1は照射前のリタデーション値を表す。)
その結果、この実施例の液晶配向性の評価は「良好(○)」であった。
【0083】
4.打鍵試験後の液晶配向性の評価(輝点数による評価)
上記2.で製造した液晶表示素子につき、打鍵試験を実施した後の液晶配向性を評価した。評価は以下のようにして行った。打鍵試験機((株)タッチパネル研究所)の打鍵部(ソレノイド方式)に、ペン先の形状が半径3mmであるシリコーンゴムペン3R((株)タッチパネル研究所製)をセットし、ペン先が液晶表示素子の中心位置となるように設置した。シリコーンゴムペンで荷重500g、10Hzにて1万回打鍵後、液晶表示素子を顕微鏡観察(100倍)し、打鍵試験後の液晶配向性を評価した。輝点数が50個未満であった場合を「良好(○)」、50個以上100個未満であった場合を「可(△)」、100個以上であった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0084】
5.密着性の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学社製、S-WB42)を幅が1mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤とが接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより、基板への膜の密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm以上であった場合を「良好(○)」、125N/cm以上175N/cm未満であった場合を「「可(△)」、125N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力175N/cmであり、密着性「良好(○)」の評価であった。
【0085】
[実施例2~13及び比較例1~5]
液晶配向剤の組成を表4のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして光配向法によりFFS型液晶表示素子を製造し、液晶配向性、打鍵試験後の配向性、及び密着性の評価を行った。それらの結果を表4に示す。なお、実施例2、4、5、8、9、11及び13、並びに比較例2~4では、重合体成分として2種類の重合体を使用し、実施例6、10及び12では、重合体成分として3種類の重合体を使用した。表4中、重合体(重合体1、重合体2及び重合体3)の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示すように、重合体[P]を含む液晶配向剤を用いた実施例1~13は、重合体[P]を含まない液晶配向剤を用いた比較例1~5に比べて、バックライト照射後の液晶配向性、打鍵試験後の液晶配向性、及び密着性をバランス良く発現しており、良好な結果であった。中でも、実施例1~9、11、12は、いずれの評価も「○」又は「◎」であり、更に実施例3~9は液晶配向性が「◎」の評価であり、特に優れていた。
【0088】
[実施例14:ラビングFFS型液晶表示素子]
1.液晶配向剤の調製
合成例1で得た重合体(PA-1)20質量部を含む溶液、及び合成例10で得た重合体(PA-10)80質量部を含む溶液を混合し、NMP及びBCにより希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-19)を調製した。
【0089】
2.ラビング法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
実施例1と同様の第1基板及び第2基板を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに液晶配向剤(AL-19)をスピンナーにより塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、FFS型液晶表示素子を得た。
【0090】
3.評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、実施例1と同様の方法により液晶配向性及び打鍵試験後の液晶配向性を評価した。また、上記1.で調製した液晶配向剤(AL-19)を用いて、実施例1と同様の方法により液晶配向膜の基板への密着性を評価した。これらの結果を表5に示した。
【0091】
[実施例15~21及び比較例6]
液晶配向剤の組成を表5のとおりに変更した以外は実施例14と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例14と同様にしてラビング法によりFFS型液晶表示素子を製造し、液晶配向性、打鍵試験後の配向性、及び密着性の評価を行った。それらの結果を表5に示した。なお、実施例15、18及び20では、重合体成分として2種類の重合体を、実施例16、21では、重合体成分として3種類の重合体を使用した。表5中、重合体欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示すように、重合体[P]を含む液晶配向剤を用いた実施例14~21のうち、実施例14~18、20及び21は、液晶配向性、打鍵試験後の液晶配向性及び密着性の評価が全て「○」であり、各種特性をバランス良く発現した。また、実施例19は、打鍵試験後の液晶配向性の評価が「△」であったももの、液晶配向性及び密着性の評価は「○」であった。これに対し、重合体[P]を含まない液晶配向剤を用いた比較例6は、打鍵試験後の液晶配向性及び密着性の評価が「×」であった。
【0094】
以上の結果から、重合体[P]を含む液晶配向剤によれば、基板との密着性に優れた液晶配向膜を形成でき、しかも液晶配向性及び打鍵試験後の配向性が良好な液晶素子を得ることができることが明らかになった。