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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007423
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】スプレー塗工用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20230111BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230111BHJP
   C09D 201/10 20060101ALI20230111BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20230111BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230111BHJP
   C09J 201/10 20060101ALI20230111BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230111BHJP
   C09J 171/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K3/013
C09D201/10
C09D171/02
C09D7/65
C09J201/10
C09J11/08
C09J171/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090748
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021107310
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】飯野 達哉
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4J002BG02X
4J002BG07W
4J002CH02X
4J002CH05W
4J002DE237
4J002DJ016
4J002EH146
4J002EZ048
4J002FD017
4J002FD026
4J002FD02X
4J002FD158
4J002GH01
4J038CG141
4J038CG142
4J038DF011
4J038DF012
4J038GA03
4J038GA06
4J038GA15
4J038JC32
4J038JC39
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA10
4J038PA06
4J040DF021
4J040DF022
4J040EE011
4J040EE012
4J040GA05
4J040GA07
4J040GA31
4J040HD32
4J040HD42
4J040JA02
4J040KA14
4J040KA23
4J040KA25
4J040KA28
4J040KA29
4J040KA31
4J040KA35
4J040KA42
4J040LA01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、深部硬化性及びスプレー塗工性に優れたスプレー塗工用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のスプレー塗工用硬化性組成物は、本発明のスプレー塗工用硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部と、可塑剤(B)と、平均粒子径が0.5~4μmである充填材(C)30~500質量部と、触媒(D)とを含み、100rpmでの粘度が150Pa・s以下であり且つTi値(1rpmでの粘度/100rpmでの粘度)が10~50であることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部と、
可塑剤(B)と、
平均粒子径が0.5~4μmである充填材(C)30~500質量部と、
触媒(D)とを含み、
25℃における100rpmでの粘度が150Pa・s以下であり且つTi値(25℃における1rpmでの粘度/25℃における100rpmでの粘度)が10~50であることを特徴とするスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項2】
可塑剤(B)は、ポリアルキレンオキサイド系重合体を含むことを特徴とする請求項1に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項3】
可塑剤(B)の水酸基価が30mgKOH/g以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項4】
可塑剤(B)の水酸基価が500mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項又は請求項2に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項5】
加水分解性シリル基を有する重合体(A)は、加水分解性シリル基を有し且つ水酸基を有しないポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項6】
可塑剤(B)は、分子内に水酸基を含有する重合体を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項7】
タイル用接着剤として用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項8】
シーリング材として用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー塗工用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体を含むスプレー塗工用硬化性組成物は、硬化時に毒物を発生しない安全性を有していると共に、硬化して得られる硬化物が柔軟性(弾性)に優れていることから、硬化性組成物及び接着剤として広く用いられている。
【0003】
一方、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体を含むスプレー塗工用硬化性組成物は、深部硬化性が低く、所望箇所に塗工された硬化性組成物がその内部まで充分に硬化しないという問題点を有している。
【0004】
又、硬化性組成物を所望箇所(塗工箇所)に塗工するにあたって、従来から刷毛やスプレーなどが用いられているが、スプレーを用いることによって塗工作用の効率化を図ることができることから、硬化性組成物には、スプレーを用いて塗工するにあたってノズルの詰まりを生じることがない(スプレー塗工性)ことが要求される。
【0005】
特許文献1には、(A)1分子中に少なくとも1個の反応性ケイ素基を有するオキシアルキレン系重合体、(B)分子鎖が実質的に1種または2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位からなる共重合体、および(C)硬化促進剤を含有する硬化性組成物であって、その粘度がJISK-7117に準拠してBS形粘度計により塗布温度にて測定した場合に、2rpmにおいて1500Pa・s以下、かつ10rpmにおいて500Pa・s以下である硬化性組成物をスプレー塗布する塗布方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-145024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スプレー塗布する塗布方法で用いられている硬化性組成物は、深部硬化性が低いと共に、スプレー塗布するにあたってスプレーのノズルに詰まりを生じることがあり、スプレー塗工性が低いという問題点を有する。
【0008】
本発明は、深部硬化性及びスプレー塗工性に優れたスプレー塗工用硬化性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスプレー塗工用硬化性組成物は、
加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部と、
可塑剤(B)と、
平均粒子径が0.5~4μmである充填材(C)30~500質量部と、
触媒(D)とを含み、
100rpmでの粘度が150Pa・s以下であり且つTi値(1rpmでの粘度/100rpmでの粘度)が10~50であることを特徴とする。
【0010】
[加水分解性シリル基を有する重合体(A)]
スプレー塗工用硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)を含んでいる。加水分解性シリル基を有する重合体(A)は、分子中に水酸基(カルボキシ基などの官能基に含まれる-OHも含む)を含有していないことが好ましい。
【0011】
加水分解性シリル基を有する重合体(A)によれば、雰囲気中やスプレー塗工用硬化性組成物の塗工箇所などに存在する湿気により硬化することができるスプレー塗工用硬化性組成物を提供することが可能となる。
【0012】
加水分解性シリル基を有する重合体(A)としては、特に限定されず、例えば、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)、加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)などが挙げられる。加水分解性シリル基を有する重合体としては、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)を含有していることが好ましい。なお、加水分解性シリル基を有する重合体(A)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0013】
本発明において、加水分解性シリル基としては、例えば、ケイ素原子と結合した加水分解性基を有するケイ素含有基又はシラノール基のように、湿気又は架橋剤の存在下、必要に応じて触媒などを使用することによって縮合反応を生じる基をいう。なお、シラノール基とは、ケイ素原子に直接、ヒドロキシ基が結合している官能基(≡Si-OH)を意味する。
【0014】
加水分解性シリル基の加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。
【0015】
なかでも、加水分解性シリル基としては、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の接着性に優れているので、アルコキシシリル基が好ましい。
【0016】
アルコキシシリル基は、-SiR1 j(OR23-jで示される構造を有していることが好ましい。式中、R1は、置換基を有してもよい炭素数が1~20のアルキル基又は水素原子を表す。R2は、炭素数が1~6のアルキル基を表す。jは、0~2の整数を表す。
【0017】
アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、及びトリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;プロピルジメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、及びメチルジエトキシシリル基などのジアルコキシシリル基;並びに、ジメチルメトキシシリル基、及びジメチルエトキシシリル基などのモノアルコキシシリル基が挙げられる。なかでも、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上するので、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基が好ましく、ジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基が好ましい。
【0018】
加水分解性シリル基を有する重合体(A)は、1分子中に平均して、好ましくは1.0~4.0個、より好ましくは1.0~3.0個の加水分解性シリル基を有している。加水分解性シリル基を有する重合体(A)における加水分解性シリル基の数が1.0個以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上する。また、加水分解性シリル基を有する重合体(A)における加水分解性シリル基の数が4.0個以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の伸び性が向上する。
【0019】
なお、本発明において、重合体中における、1分子当たりの加水分解性シリル基の平均個数は、1H-NMRにより求められる重合体中の加水分解性シリル基の濃度、及びGPC法により求められる重合体の数平均分子量に基づいて算出することができる。
【0020】
[加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)]
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)(以下、単に「ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)」ということがある)は、分子中に加水分解性シリル基を有しており、分子末端に加水分解性シリル基を有していることが好ましい。加水分解性シリル基は、主鎖の両末端のうちの何れか一方の末端のみに、又は、主鎖の両末端に結合していることがより好ましい。加水分解性シリル基が主鎖の末端に結合していると、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物に優れた柔軟性を付与することができる。なお、ポリアルキレンオキサイド系重合体が分子中に複数個の加水分解性シリル基を有する場合、加水分解性シリル基は同一であっても互いに相違していてもよい。
【0021】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)は、例えば、末端に水酸基などの官能基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基及び不飽和基を有する有機化合物を反応させ、次いで、得られた反応生成物に加水分解性基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化することによって製造することができる。
【0022】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖は、一般式(1)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましい。
-(O-R3n- (1)
(式中、R3は炭素数が1~14のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)
【0023】
本発明において、アルキレン基とは、脂肪族飽和炭化水素中の異なる2個の炭素原子に結合する2個の水素原子を除いて生じる2価の原子団であり、直鎖状及び分岐状の双方の原子団を含む。分岐状の原子団は、炭素が1個であるメチル基も含まれる。
【0024】
アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基[-CH(CH3)-CH2-]、トリメチレン基[-CH2-CH2-CH2-]、ブチレン基、アミレン基[-(CH25-]、ヘキシレン基などが挙げられる。
【0025】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖は、一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0026】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖骨格としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられ、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物のゴム弾性が向上するので、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0027】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)は、分子中にウレタン結合(-NHCOO-)又はウレア結合(-NHCONH-)を有していてもよい。ポリアルキレンオキサイド系重合体が分子中にウレタン結合又はウレア結合を有していることによって、ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)に極性を付与し、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物に優れた接着性を付与すると共に、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性を向上させることができる。
【0028】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)は、主鎖骨格の両末端にウレタン結合又はウレア結合を介して加水分解性シリル基が結合していてもよいし、主鎖骨格の両末端にウレタン結合又はウレア結合を介することなく加水分解性シリル基が結合していてもよい。
【0029】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖は、分岐鎖を有していることが好ましい。「分岐鎖」とは、2個以上の炭素を有する分子鎖をいう。従って、例えば、メチル基などは分岐鎖に含まれない。
【0030】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖に有する分岐鎖は、上述の通り、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物において、分子鎖同士の絡み合いによる分子間の隙間の低減を図ることができ、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができるので、ある程度の分子鎖長を有していることが好ましい。従って、分岐鎖は、2個以上の炭素を有する。分岐鎖の炭素数は、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性を向上させることができるので、14個以下が好ましく、13個以下がより好ましく、12個以下がより好ましい。
【0031】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖に有する分岐鎖としては、炭素数が2個以上有しておれば、特に限定されないが、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の耐薬品性が向上するので、ポリアルキレンオキサイド鎖が好ましい。
【0032】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖に有する分岐鎖は、一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましい。
-(O-R4m- (2)
(式中、R4は炭素数が1~14のアルキレン基を表し、mは、繰り返し単位の数であって2以上の整数である。)
【0033】
ポリアルキレンオキサイド系重合体の主鎖に有する分岐鎖は、一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0034】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の主鎖に有する分岐鎖の骨格としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられ、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の柔軟性及び深部硬化性が向上するので、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0035】
ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)において、分岐鎖を有する主鎖骨格構造としては、一般式(3)で示される構造を含むことが好ましい。
【0036】
【化1】

(式中、R5、R6及びR7はそれぞれ、炭素数が1~14のアルキレン基を表す。R8は、炭素数が1~6のアルキレン基である。R5、R6、R7及びR8は互いに同一であっても相違してもよい。x及びyは、繰り返し単位の数であって正の整数である。zは、繰り返し単位の数であって2以上の整数である。)
【0037】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)は、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上するので、主鎖骨格がポリオキシプロピレンであって分岐鎖を有し、主鎖骨格の末端に加水分解性シリル基としてジメトキシシリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体が好ましい。
【0038】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の数平均分子量は、7000以上がより好ましく、12000以上がより好ましく、13000以上がより好ましい。加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の数平均分子量は、40000以下が好ましく、35000以下がより好ましく、30000以下がより好ましく、25000以下がより好ましく、20000以下がより好ましい。ポリアルキレンオキサイド系重合体(B)の数平均分子量が7000以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。ポリアルキレンオキサイド系重合体(A1)の数平均分子量が40000以下であると、スプレー塗工性が向上する。
【0039】
なお、本発明において、重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、重合体6~7mgを採取し、採取した重合体を試験管に供給した上で、試験管に0.05質量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含むo-DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えて重合体の濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0040】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転速度25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせて重合体をBHTを含むo-DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によって重合体の数平均分子量及び重量平均分子量を測定することができる。
【0041】
なお、本発明において、重合体における数平均分子量及び重量平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o-DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500~8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0042】
[加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)]
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)(以下、単に「アクリル系重合体(A2)」ということがある)は、分子中に加水分解性シリル基を有しており、分子末端に加水分解性シリル基を有していることが好ましい。加水分解性シリル基は、主鎖の両末端のうちの何れか一方の末端のみに、又は、主鎖の両末端に結合していることがより好ましい。加水分解性シリル基が主鎖の末端に結合していると、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物に優れた柔軟性を付与することができる。なお、アクリル系重合体が分子中に複数個の加水分解性シリル基を有する場合、加水分解性シリル基は同一であっても互いに相違していてもよい。
【0043】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)は、例えば、末端に水酸基などの官能基を有するアクリル系重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基及び不飽和基を有する有機化合物を反応させ、次いで、得られた反応生成物に加水分解性基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化することによって製造することができる。
【0044】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)の主鎖骨格は、アクリル系モノマーの重合体を含む。アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリレートが好ましい。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0045】
(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)メタクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロノニル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、テトラシクロデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの脂環式骨格を有する(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられ、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチルメタクリレート、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート及びブチルメタクリレートを含むことが好ましく、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート及びn-ブチルメタクリレートを含むことがより好ましい。アクリル系単官能モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0046】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)の数平均分子量は、7000以上がより好ましく、8000以上がより好ましい。加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)の数平均分子量は、40000以下が好ましく、35000以下がより好ましく、30000以下がより好ましく、25000以下がより好ましく、20000以下がより好ましく、15000以下がより好ましい。加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)の数平均分子量が7000以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体(A2)の数平均分子量が40000以下であると、スプレー塗工性が向上する。
【0047】
[可塑剤(B)]
スプレー塗工用硬化性組成物は、可塑剤(B)を含有している。可塑剤(B)としては、特に限定されないが、分子内に水酸基(-OH)を有する重合体が好ましい。水酸基には、カルボキシ基などの官能基に含まれている-OHも含まれる。
【0048】
分子内に水酸基を有する重合体としては、例えば、分子内に水酸基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体、分子内に水酸基を有するアクリル系重合体などが挙げられ、分子内に水酸基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体を含むことが好ましい。なお、分子内に水酸基を有する重合体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0049】
可塑剤(B)は、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の架橋構造における架橋密度を低減することによって、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性を向上させることができるので、分子内に加水分解性シリル基を有しないことが好ましい。
【0050】
分子内に水酸基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体の主鎖は、一般式(4)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましい。
-(O-R9)p- (4)
(式中、R9は炭素数が1~14のアルキレン基を表し、pは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)
【0051】
可塑剤として用いられるポリアルキレンオキサイド系重合体は、分子内に水酸基を有していることが好ましい。可塑剤として用いられるポリアルキレンオキサイド系重合体は、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上するので、分子末端に水酸基を有していることが好ましい。水酸基は、主鎖の両末端のうちの何れか一方の末端のみに、又は、主鎖の両末端に結合していることがより好ましい。
【0052】
可塑剤として用いられるアクリル系重合体は、分子中に水酸基を有している。分子内に水酸基を有するアクリル系重合体としては、例えば、分子内に水酸基を有するアクリル系モノマーの重合体が挙げられる。
【0053】
分子内に水酸基を有するアクリル系モノマーとしては、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上するので、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、分子末端にカルボキシ基(-COOH)を有する(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。アルキル基とは、脂肪族飽和炭化水素から水素原子1個を除いた残りの原子団をいう。アルキル基の水素は、他の原子又は原子団によって置換されない。
【0054】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の1個の水素が水酸基(ヒドロキシ基、-OH)で置換された(メタ)アクリレートをいう。なお、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、アルキル基の水素が水酸基で置換されているため、アルキル(メタ)アクリレートの範疇には含まれない。
【0055】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0056】
分子末端にカルボキシ基(-COOH)を有する(メタ)アクリレートは、分子末端の-COOHに由来した-OH(水酸基)を有する。分子末端にカルボキシ基(-COOH)を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸などが挙げられる。
【0057】
可塑剤(B)として用いられる重合体の数平均分子量は、200以上が好ましく、300以上がより好ましく、350以上がより好ましい。可塑剤として用いられる重合体の数平均分子量は、6900以下が好ましく、6500以下がより好ましく、6000以下がより好ましい。可塑剤として用いられる重合体の数平均分子量が200以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。可塑剤として用いられる重合体の数平均分子量が6900以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。なお、可塑剤として用いられる重合体の数平均分子量の測定方法は、上記と同様であるので説明を省略する。
【0058】
可塑剤(B)の水酸基価は、30mgKOH/g以上が好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましく、70mgKOH/g以上がより好ましく、100mgKOH/g以上がより好ましい。可塑剤(B)の水酸基価は、500mgKOH/g以下が好ましく、480mgKOH/g以下がより好ましく、400mgKOH/g以下がより好ましく、300mgKOH/g以下がより好ましい。可塑剤(B)の水酸基価が30mgKOH/g以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上する。可塑剤(B)の水酸基価が500mgKOH/g以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0059】
可塑剤(B)の水酸基価は、可塑剤1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を意味する(JIS K0070:1992 2.1(5))。具体的には、無水酢酸により可塑剤(B)中の水酸基をアセチル化した後、使われなかった無水酢酸を水酸化カリウムで滴定することにより測定できる(JIS K0070:1992 3.1(中和滴定法))。
【0060】
スプレー塗工用硬化性組成物中における可塑剤(B)の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がより好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物中における可塑剤(B)の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下がより好ましく、90質量部以下がより好ましく、70質量部以下がより好ましい。可塑剤(B)の含有量が20質量部以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性が向上する。可塑剤(B)の含有量が150質量部以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。
【0061】
[充填材(C)]
スプレー塗工用硬化性組成物は、平均粒子径が0.5~4μmの充填材(C)を含有している。スプレー塗工用硬化性組成物は、平均粒子径が0.5~4μmの充填材(C)を含有してので、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上している。
【0062】
充填材(C)としては、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、含水ケイ酸、無水ケイ酸、微粉末シリカ(シリカフィラー)、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、タルク、カーボンブラック、及びガラスバルーンなどを挙げることができる。これらの充填材(C)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、充填材としては炭酸カルシウム及び微粉末シリカが好ましく用いられる。
【0063】
炭酸カルシウムとしては、コロイダル炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、及び重質炭酸カルシウムが好ましく挙げられ、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができるので、コロイダル炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムが好ましい。沈降性炭酸カルシウムとしては、軽質炭酸カルシウム、及び膠質炭酸カルシウムが挙げられる。
【0064】
炭酸カルシウムは、脂肪酸や脂肪酸エステルなどにより表面処理されているのが好ましい。脂肪酸や脂肪酸エステルなどにより表面処理されている炭酸カルシウムによれば、スプレー塗工用硬化性組成物にチキソトロピー性を付与することができ、スプレー塗工用硬化性組成物の塗工性を向上させることができると共に、炭酸カルシウム同士が凝集することを防止することができる。
【0065】
充填材(C)の平均粒子径は、0.5μm以上であり、1μm以上が好ましく、1.5μmがより好ましく、2μm以上がより好ましい。充填材(C)の平均粒子径は、4μm以下であり、3.5μm以下が好ましい。充填材(C)の平均粒子径が0.5μm以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性を向上させることができる。充填材(C)の平均粒子径が4μm以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。なお、充填材(C)の平均粒子径は、充填材(C)を透過型電子顕微鏡を用いて倍率100倍の拡大写真を撮影し、任意の50個の充填材(C)を抽出し、充填材(C)の直径を測定し、充填材(C)の直径の相加平均値を充填材(C)の平均粒子径とする。なお、充填材(C)の直径は、拡大写真上において、充填材(C)を包囲し得る最小径の真円の直径をいう。充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、充填材(C)の平均粒子径は、充填材全体の平均粒子径をいう。
【0066】
充填材(C)は、複数種類の充填材を含有している場合、互いに平均粒子径の相違する複数種類の充填材を含有していてもよい。
【0067】
充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径の最も小さい充填材の平均粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.08μm以上がより好ましく、0.09μm以上がより好ましく、0.12μm以上がより好ましい。平均粒子径の最も小さい充填材の平均粒子径が0.01μm以上であると、塗工時の粘度上昇が抑制でき、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0068】
充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径の最も小さい充填材の平均粒子径は、0.3μm以下が好ましく、0.25μm以下がより好ましく、0.23μm以下がより好ましく、0.2μm以下がより好ましい。平均粒子径の最も小さい充填材の平均粒子径が0.3μm以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。
【0069】
充填剤(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径が0.3μm以下の充填材の含有量と、加水分解性シリル基を有する重合体(A)及び可塑剤(B)の含有総量との質量比[平均粒子径が0.3μm以下の充填材の含有量/(加水分解性シリル基を有する重合体体(A)及び可塑剤(B)の含有総量)](以下、「充填材比率」ということがある)は、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上がより好ましい。平均粒子径が0.3μm以下の充填材の含有量と、加水分解性シリル基を有する重合体(A)及び可塑剤(B)の含有総量との質量比[平均粒子径が0.3μm以下の充填材の含有量/(加水分解性シリル基を有する重合体体(A)及び可塑剤(B)の含有総量)]は、1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、1.1以下がより好ましく、1.0以下がより好ましい。充填材比率が0.6以上であると、起立した基材表面にスプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工し、基材表面に被着体を圧着させた場合、被着体は、基材表面の所望位置に安定的に貼着された状態を維持し、起立した基材表面であっても、被着体を基材表面の正確な位置に接着一体化することができる。充填材比率が、1.5以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上し、基材表面に十分な厚みを有するスプレー塗工用硬化性組成物の塗工層を形成することができ、塗工層によって、基材表面に被着体を位置ずれを生じさせることなく正確な位置に安定的に位置させ接着一体化することができる。
【0070】
充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径の最も大きい充填材の平均粒子径は、0.5μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がより好ましい。平均粒子径の最も大きい充填材の平均粒子径が0.5μm以上であると、塗工時の粘度上昇が抑制でき、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0071】
充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径の最も大きい充填材の平均粒子径は、8.0μm以下が好ましく、7.0μm以下がより好ましく、6.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下がより好ましい。平均粒子径の最も小さい充填材の平均粒子径が0.3μm以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。
【0072】
充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径の最も小さい充填材の含有量と平均粒子径の最も大きい充填材の含有量の質量比(平均粒子径の最も小さい充填材の含有量/平均粒子径の最も大きい充填材の含有量)は、0.1以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.2以上がより好ましい。充填材(C)が複数種類の充填材を含有している場合、平均粒子径の最も小さい充填材の含有量と平均粒子径の最も大きい充填材の含有量の質量比(平均粒子径の最も小さい充填材の含有量/平均粒子径の最も大きい充填材の含有量)は、10以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、5.0以下がより好ましく、3以下がより好ましく、1以下がより好ましい。平均粒子径の最も小さい充填材の含有量と平均粒子径の最も大きい充填材の含有量の質量比が上記範囲内であると、スプレー塗工用硬化性組成物のチキソトロピー性が向上し、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上し、且つスプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。
【0073】
スプレー塗工用硬化性組成物中における充填材(C)の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して30質量部以上であり、50質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、100質量部以上がより好ましく、120質量部以上がより好ましく、140質量部以上がより好ましく、160質量部以上がより好ましく、180質量部以上がより好ましく、200質量部以上がより好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物中における充填材(C)の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して500質量部以下であり、400質量部以下であり、350質量部以下がより好ましく、300質量部以下がより好ましい。充填材(C)の含有量が30質量部以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。充填材(C)の含有量が500質量部以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0074】
充填材(C)中において、コロイダル炭酸カルシウムの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより好ましい。充填材(C)中において、コロイダル炭酸カルシウムの含有量は、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がより好ましい。コロイダル炭酸カルシウムの含有量が10質量%以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。コロイダル炭酸カルシウムの含有量が60質量%以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0075】
充填材(C)中において、微粉末シリカの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより好ましい。充填材(C)中において、微粉末シリカの含有量は、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がより好ましい。微粉末シリカの含有量が10質量%以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。微粉末シリカの含有量が60質量%以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0076】
充填材(C)中において、重質炭酸カルシウムの含有量は、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がより好ましい。充填材(C)中において、重質炭酸カルシウムの含有量は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がより好ましい。重質炭酸カルシウムの含有量が40質量%以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。重質炭酸カルシウムの含有量が90質量%以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工によって塗工箇所に塗工した時に、スプレー塗工用硬化性組成物に液だれを生じさせずに精度良く塗工箇所に塗工することができる。
【0077】
[触媒(D)]
スプレー塗工用硬化性組成物は、触媒を含有している。触媒とは、加水分解性シリル基を有する重合体(A)などが含有する加水分解性シリル基同士の脱水縮合反応を促進させるための触媒である。
【0078】
触媒としては、シラノール縮合触媒が好ましく、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサン、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、及びジブチル錫オキシビスエトキシシリケートなどの有機錫系化合物;テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物などが挙げられる。これらのシラノール縮合触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0079】
シラノール縮合触媒としては、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンが好ましい。このようなシラノール縮合触媒によれば、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化速度を容易に調整することができる。
【0080】
スプレー塗工用硬化性組成物中における触媒の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。シラノール縮合触媒の含有量が1質量部以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化速度を速くして、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性を向上させることができる。シラノール縮合触媒の含有量が10質量部以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物が適度な硬化速度を有し、スプレー塗工用硬化性組成物の取扱性を向上させることができる。
【0081】
[脱水剤]
スプレー塗工用硬化性組成物は、脱水剤を含むことが好ましい。脱水剤によれば、スプレー塗工用硬化性組成物を保存している際に、空気中などに含まれている水分によってスプレー塗工用硬化性組成物が硬化することを抑制することができる。
【0082】
脱水剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物;並びにオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、及びオルト酢酸エチル等のエステル化合物などを挙げることができる。これらの脱水剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0083】
スプレー塗工用硬化性組成物中における脱水剤の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましい。脱水剤の含有量が0.5質量部以上であると、脱水剤による効果が十分に得られる。又、脱水剤の含有量が20質量部以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物が優れた硬化性を有する。
【0084】
[他の添加剤]
スプレー塗工用硬化性組成物は、チキソ性付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、沈降防止剤、及び溶剤など他の添加剤を含んでいてもよい。なかでも、チキソ性付与剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤が好ましく挙げられる。
【0085】
[チキソ性付与剤]
チキソ性付与剤は、スプレー塗工用硬化性組成物にチキソトロピー性を発現せることができるものであればよい。チキソ性付与剤としては、水添ひまし油、脂肪酸ビスアマイド、ヒュームドシリカなどが好ましく挙げられる。
【0086】
スプレー塗工用硬化性組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましく、1~150質量部がより好ましい。チキソ性付与剤の含有量が0.1質量部以上であると、スプレー塗工用硬化性組成物にチキソトロピー性を効果的に付与することができる。又、チキソ性付与剤の含有量が200質量部以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物が適度な粘度を有し、スプレー塗工用硬化性組成物の取扱性が向上する。
【0087】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられ、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物中における紫外線吸収剤の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0088】
[酸化防止剤]
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、及びポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられる。スプレー塗工用硬化性組成物中における酸化防止剤の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
【0089】
[光安定剤]
スプレー塗工用硬化性組成物は、ヒンダードアミン系光安定剤を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に優れたゴム弾性をより長期間に亘って維持することができるスプレー塗工用硬化性組成物を提供することができる。
【0090】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールとの重縮合物などが挙げられる。
【0091】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく挙げられる。NOR型ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に経時的なゴム弾性の低下が抑制されているスプレー塗工用硬化性組成物を提供することができる。
【0092】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤は、ピペリジン環骨格に含まれている窒素原子(N)に酸素原子(O)を介してアルキル基(R)が結合しているNOR構造を有している。NOR構造におけるアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~18がより好ましく、18が特に好ましい。アルキル基としては、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、及び、環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)が挙げられる。
【0093】
直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。又、アルキル基を構成している水素原子が、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)又はヒドロキシル基などで置換されていてもよい。
【0094】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤としては、下記式(5)で示されるヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0095】
【化2】
【0096】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤を用いる場合、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤又はトリアジン系紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、硬化後に経時的なゴム弾性の低下がより高く抑制されているスプレー塗工用硬化性組成物を提供することができる。
【0097】
スプレー塗工用硬化性組成物中におけるヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0098】
[アミノシランカップリング剤]
スプレー塗工用硬化性組成物は、アミノシランカップリング剤を含有していることが好ましい。アミノシランカップリング剤を用いることにより、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の接着性を向上させることができる。なお、アミノシランカップリング剤とは、一分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、窒素原子を含有する官能基とを含有している化合物を意味する。
【0099】
アミノシランカップリング剤として、具体的には、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’-ビス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(メチルジメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。これらのアミノシランカップリング剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0100】
なかでも、アミノシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく挙げられ、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましく挙げられる。
【0101】
スプレー塗工用硬化性組成物中におけるアミノシランカップリング剤の含有量は、加水分解性シリル基を有する重合体(A)100質量部に対して1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。アミノシランカップリング剤の含有量が上記範囲内であると、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の接着性が向上する。
【0102】
[スプレー塗工用硬化性組成物]
スプレー塗工用硬化性組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、加水分解性シリル基を有する重合体(A)、可塑剤(B)、充填剤(C)及び触媒(D)、並びに、必要に応じて添加される添加剤を汎用の手段を用いて真空雰囲気下にて均一に混合することによって製造することができる。
【0103】
スプレー塗工用硬化性組成物は、スプレー塗工装置を用いて塗工箇所に塗工されて用いられる。スプレー塗工装置としては、硬化性組成物を塗工箇所に塗工するための公知の塗工装置が用いられる。スプレー塗工装置としては、例えば、スプレー塗工用硬化性組成物を充填するための充填部を有する塗工装置本体と、この塗工本体に配設されたノズルとを有するスプレー塗工装置であり、充填部に充填されたスプレー塗工用硬化性組成物を加圧空気などの加圧流体によって押圧し、ノズルからスプレー塗工用硬化性組成物を吐出する前又は吐出時に、必要に応じて、スプレー塗工用硬化性組成物と空気とを混合させて、スプレー塗工用硬化性組成物をノズルから吐出するスプレー塗工装置などが挙げられる。
【0104】
スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における100rpmでの粘度は、150Pa・s以下であり、130Pa・s以下が好ましく、110Pa・s以下がより好ましく、100Pa・s以下がより好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における100rpmでの粘度は、10Pa・s以上が好ましく、15Pa・s以上がより好ましく、20Pa・s以上がより好ましく、25Pa・s以上がより好ましい。
【0105】
スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における1rpmでの粘度と25℃における100rpmでの粘度との比(以下「Ti値」ということがある)(25℃における1rpmでの粘度/25℃における100rpmでの粘度)は、10以上であり、15以上が好ましく、20以上がより好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における1rpmでの粘度と25℃における100rpmでの粘度との比(Ti値)(1rpmでの粘度/100rpmでの粘度)は、50以下であり、45以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0106】
なお、スプレー塗工用硬化性組成物の粘度は、JIS K6833に準拠してBS型粘度計及びローターNo.5を用い、25℃及び相対湿度50%にて回転数1rpm又は100rpmの条件下にて測定された値をいう。
【0107】
スプレー塗工用硬化性組成物は、25℃における100rpmでの粘度及びTi値を所定範囲に限定することによって、スプレー塗工装置を用いたスプレー塗工用硬化性組成物の塗工時において、スプレー塗工装置のノズルの詰まりを防止することができ、優れたスプレー塗工性及び深部硬化性を有している。更に、スプレー塗工装置を用いたスプレー塗工用硬化性組成物の塗工時において、スプレー塗工用硬化性組成物中に、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物の物性に影響を与えない範囲内において、適度な量の空気を効果的に微分散させることができる。従って、スプレー塗工用硬化性組成物は、微分散された空気中に含まれた水分によって硬化可能となり、深部硬化性に優れている。
【0108】
スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における100rpmでの粘度は、例えば、加水分解性シリル基を有する重合体(A)及び/又は可塑剤(B)の含有量を増加(減少)させ、又は、充填材(C)の平均粒子径を大きく(小さく)することによって、低下(上昇)させることができる。
【0109】
スプレー塗工用硬化性組成物について、Ti値は、例えば、スプレー塗工用硬化性組成物中の充填材(C)の含有量を増加(減少)させ、又は、充填材(C)の平均粒子径を小さく(大きく)することによって、スプレー塗工用硬化性組成物のTi値を上昇(低下)させることができる。
【0110】
スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における1rpmでの粘度は、800Pa・s以上が好ましく、900Pa・s以上がより好ましく、1000Pa・s以上がより好ましく、1100Pa・s以上がより好ましく、1200Pa・s以上がより好ましく、2000Pa・s以上がより好ましく、2500Pa・s以上がより好ましく、3000Pa・s以上がより好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における1rpmでの粘度は、8000Pa・s以下が好ましく、7500Pa・s以下がより好ましく、7000Pa・s以下がより好ましい。スプレー塗工用硬化性組成物における25℃における1rpmでの粘度が800Pa・s以上であると、スプレー塗工時にスプレー塗工用硬化性組成物中に空気を適度に保持しながら微分散させることができ、スプレー塗工用硬化性組成物の深部硬化性を向上させることができる。更に、スプレー塗工されたスプレー塗工用硬化性組成物の液だれを防止し、スプレー塗工用硬化性組成物を所望箇所に正確に塗工することができる。特に、スプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における1rpmでの粘度は、2000Pa・s以上であると、起立した基材表面に被着体を接着させる際に、被着体の基材表面への接着性を向上させることができる。スプレー塗工用硬化性組成物における25℃における1rpmでの粘度が8000Pa・s以下であると、スプレー塗工用硬化性組成物のスプレー塗工性が向上する。
【0111】
スプレー塗工用硬化性組成物は、スプレー塗工装置を用いて塗工箇所に塗工された後、空気中の水分及び/又は塗工箇所に含まれる水分によって、加水分解性シリル基を有する重合体(A)が架橋構造を形成して硬化して硬化物を形成する。
【0112】
スプレー塗工用硬化性組成物は、接着剤として好適に用いることができる。スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工装置を用いて基材(例えば、外壁部材、内壁部材などの壁部材など)の表面に塗工した後、この塗工面に被着体(例えば、タイル、装飾物など)を圧着させて仮固定する。しかる後、スプレー塗工用硬化性組成物を空気中、基材又は被着体に含まれている水分によって、スプレー塗工用硬化性組成物を硬化させて硬化物を形成し、この硬化物によって基材表面に被着体を接着一体化させることができる。スプレー塗工用硬化性組成物は、基材表面に塗工された後、液だれを概ね生じることなく所望箇所に留まるので、起立した基材表面、特に垂直に起立した基材表面であっても、被着体を基材表面の所望位置に正確に位置させることができる。特に、スプレー塗工用硬化性組成物は、タイル用の接着剤として好適に用いることができる。
【0113】
スプレー塗工用硬化性組成物を湿気によって硬化させて得られる硬化物は、シーリング材として好適に用いることができる。
【0114】
スプレー塗工用硬化性組成物をシーリング材として建築構造物のシーリング部に充填してシーリング構造を得る方法としては、スプレー塗工用硬化性組成物をスプレー塗工装置を用いてシーリング部に充填した後に養生させて、空気中又は構造物に含まれる水分によって湿気硬化させる方法などが挙げられる。
【0115】
得られるシーリング構造は、建築構造物の構造部材と、互いに隣接する構造部材間に形成されたシーリング部に充填された、スプレー塗工用硬化性組成物の硬化物とを有している。建築構造物の構造部材としては、例えば、外壁、内壁、天井部などの壁部、サッシ、洗面台、バスタブ、システムキッチン本体などが挙げられる。
【発明の効果】
【0116】
本発明のスプレー塗工用硬化性組成物は、上述の如き構成を有しているので、優れたスプレー塗工性を有しており、スプレー塗工装置を用いてノズルの詰まりを生じさせることなく、スプレー塗工用硬化性組成物を十分な吐出量でもって塗工箇所に精度良く且つ容易に塗工することができる。
【0117】
更に、本発明のスプレー塗工用硬化性組成物は、優れた深部硬化性を有しているので、塗工箇所に塗工された硬化物は内部まで十分に硬化し、所望物性を有する硬化物を生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0118】
以下に、本発明に関して実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例0119】
実施例及び比較例のスプレー塗工用硬化性組成物の製造において下記の原料を使用した。
[加水分解性シリル基を有する重合体(A)]
【0120】
・ポリアルキレンオキサイド系重合体(A11)(主鎖がポリオキシプロピレンであり且つ主鎖に分岐鎖を有するポリオキシプロピレン系重合体、加水分解性シリル基(主鎖の末端に結合):ジメトキシシリル基、一分子量あたりのジメトキシシリル基の平均個数:3.0個、分岐鎖の炭素数:2個以上で且つ12個以下、数平均分子量:8000、分子量分布(Mw/Mn):1.1、AGC社製 製品名「エクセスターS6250」)
・分子中にウレア結合を有し且つ主鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド系重合体(A12)(ポリアルキレンオキサイド系重合体(A12)、主鎖骨格:ポリプロピレンオキサイド、主鎖骨格にウレタン結合又はウレア結合を有している、数平均分子量:22300、主鎖の両末端にウレア結合を介してトリメトキシシリル基を有する、1分子中のトリメトキシシリル基の平均個数:3.0個、トリメトキシシリル基とウレア結合との間にプロピレン基を有する、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製 商品名「SPUR3030」)
・アクリル系重合体(A2)(主鎖骨格:メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート及びn-ブチルメタクリレートの共重合体(メチルメタクリレート成分の含有量:60質量%、n-ブチルアクリレート成分の含有量:20質量%、n-ブチルメタクリレート成分の含有量:20質量%)、主鎖骨格の側鎖又は末端にトリメトキシシリル基を有している、数平均分子量:8200、東亜合成社製 商品名「ARUFON RA-100」)
【0121】
[可塑剤(B)]
・ポリアルキレンオキサイド(B1)(ポリプロピレングリコール、水酸基価:35mgKOH/g、数平均分子量:3000、加水分解性シリル基を有しない、主鎖の両末端に水酸基を有する、AGC社製 商品名「エクセノール3020」)
・ポリアルキレンオキサイド(B2)(水酸基価:280mgKOH/g、数平均分子量:400、加水分解性シリル基を有しない、主鎖の末端に水酸基を有する、AGC社製 商品名「エクセノール420」)
・ポリアルキレンオキサイド(B3)(水酸基価:500mgKOH/g、数平均分子量:450、加水分解性シリル基を有しない、主鎖の末端に水酸基を有する、AGC社製 商品名「エクセノール500ED」)
・フタル酸系可塑剤(B4)(水酸基価:0mgKOH/g、数平均分子量:447、加水分解性シリル基を有しない、カルボキシ基を有する、ジェイ・プラス社製 商品名「DIDP」)
・アクリル系重合体(B5)(水酸基価:95mgKOH/g、数平均分子量:5800、加水分解性シリル基を有しない、分子内に水酸基を有する、東亜合成社製 商品名「ARUFON UHE-2012」)
・アクリル系重合体(B6)(水酸基価:0mgKOH/g、数平均分子量:3000、加水分解性シリル基を有しない、分子内に水酸基を有しない、東亜合成社製 商品名「ARUFON UP-1000」)
【0122】
[充填材(C)]
・微粉末シリカ(平均粒子径:0.01μm、EVONIK社製 商品名「アエロジルR972」)
・コロイダル炭酸カルシウム(平均粒子径:0.1μm、丸尾カルシウム社製 商品名「カルファイン200M」)
・重質炭酸カルシウム1(平均粒子径:1.0μm、日東粉化社製 商品名「NCC2310」)
・重質炭酸カルシウム2(平均粒子径:5.0μm、清水工業社製 商品名「LW350」)
【0123】
[触媒(D)]
・ジブチル錫ジアセトネート(日東化成社製 商品名「エオスタンU-220H」)
【0124】
(実施例1~14、比較例1~5)
加水分解性シリル基を有する重合体(A)、可塑剤(B)、充填材(C)及び触媒(D)をそれぞれ表1及び表2に示した配合量となるようにして、密封した攪拌機中で減圧しながら均一になるまで混合することによりスプレー塗工用硬化性組成物を得た。なお、充填材(C)の平均粒子径を表1及び表2に記載した。
【0125】
得られたスプレー塗工用硬化性組成物について、25℃における1rpmでの粘度及び25℃における100rpmでの粘度を上述の要領で測定し、その結果を表1及び表2に示した。
【0126】
得られたスプレー塗工用硬化性組成物について、スプレー塗工性、深部硬化性及びタイル保持性を下記の要領で測定し、その結果を表1及び表2に示した。なお、比較例2及び5のスプレー塗工用硬化性組成物は、スプレー塗工することができなかった。
【0127】
(スプレー塗工性)
スプレー塗工装置(スプレーガン、COX社製 商品名「ジェットフローガン3」)を用い、スプレー塗工用硬化性組成物を0.6MPaの空気圧で押出して鋼板に吹き付けて塗工した。鋼板に塗工されたスプレー塗工用硬化性組成物の状態を目視観察した。スプレー塗工装置のノズルから1秒間当りに吐出されたスプレー塗工用硬化性組成物量を測定した。スプレー塗工性を下記の基準にて総合評価した。
A・・・液だれを生じておらず且つ吐出量が500g/分以上であった。
B・・・液だれを生じておらず且つ吐出量が500g/分未満であった。
C・・・液だれを生じていた。
D・・・スプレー塗工ができなかった。
【0128】
(深部硬化性)
スプレー塗工装置(スプレーガン、COX社製 商品名「ジェットフローガン3」)を用い、スプレー塗工用硬化性組成物を0.6MPaの空気圧で押出し、金属製の有底円筒状の容器(内径:50mm、深さ:15mm)中にスプレー塗工用硬化性組成物を充填し、表面をヘラを用いて平滑面にした後、25℃で3日間静置した。
【0129】
次に、容器内に充填したスプレー塗工用硬化性組成物の硬化部分の厚みを測定装置(ミツトヨ社製 商品名「デシマチックインジケータ」)を用いて測定した。
【0130】
(タイル保持性)
JIS A5557に準拠して、スプレー塗工装置(スプレーガン、COX社製 商品名「ジェットフローガン3」)を用い、スプレー塗工用硬化性組成物を0.6MPaの空気圧で押出して標準モルタル試験片に吹き付けて塗工し、モルタル試験片の表面にスプレー塗工用硬化性組成物の塗膜を形成した。この塗膜上に磁器製のモザイクタイル(平面正方形状)を圧着させた。しかる後、モルタル試験片におけるモザイクタイルの圧着面が垂直に且つモザイクタイルの下端が水平となるようにモルタル試験片を保持して25℃及び相対湿度50%にて1日養生させた。モルタル試験片をそのモザイクタイルの圧着面が垂直となるように保持した直後におけるモザイクタイルの下端位置(初期位置)からの移動寸法を測定した。
A・・・移動寸法が0mmであった。
B・・・移動寸法が0mmを超え且つ1mm未満であった。
C・・・移動寸法が1mm以上且つ3mm未満であった。
D・・・移動寸法が3mm以上であった。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】