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  • 特開-肌傾向の推定方法 図1
  • 特開-肌傾向の推定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074292
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】肌傾向の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230522BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230522BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230522BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
G01N33/48 M
G01N33/15 Z
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187166
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】東ヶ崎 健
(72)【発明者】
【氏名】石渡 潮路
(72)【発明者】
【氏名】愛原 咲季
(72)【発明者】
【氏名】葛井 麻里子
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045CB09
2G045FA19
2G045GB01
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QS10
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】迅速に肌傾向を推定することのできる推定方法を提供すること。
【解決手段】角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
これらから得られる角層パラメータと、特定のカットオフ値とを比較することにより、肌傾向を推定する推定方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、化粧品塗布後の肌荒れの生じやすさを推定することを特徴とする推定方法。
【請求項2】
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、化粧品塗布後に赤み・痒みの生じやすさを推定することを特徴とする推定方法。
【請求項3】
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
細胞領域面積、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、日焼け後の赤くなりやすさを推定することを特徴とする推定方法。
【請求項4】
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最小値、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、日焼け後の黒くなりやすさを推定することを特徴とする推定方法。
【請求項5】
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を説明変数、日焼け後の黒くなりやすさを目的変数とする相関関係に基づいて、
角層画像から日焼け後の黒くなりやすさを推定することを特徴とする推定方法。
【請求項6】
前記細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上が、予め複数枚の学習用角層画像と各学習用角層画像における目視評価による細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上とを機械学習させた機械学習モデルを用いて特定されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌傾向の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品による肌トラブルの起こりやすさ、日焼け後にどのような変化が起こるか等の肌傾向は人それぞれに異なる。肌傾向を識別する方法として、例えば、特許文献1には分泌される脂質の季節変動を指標とする肌質の鑑別法が、特許文献2には角層細胞の配列規則性を指標とする敏感肌の鑑別法が提案されている。
特許文献1の鑑別法は、長期的なサンプル採取が必要であり、結果が出るまでに時間がかかる。特許文献2の鑑別法は、採取した角層細胞の配列規則性を目視でランク付けする必要があり、評価者によるばらつき等が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-279417号公報
【特許文献2】特開2010-194267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、迅速に肌傾向を推定することのできる推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、角層の観察画像から得られる角層構造を指標として、肌傾向を推定できることを見出してなされたものである。
【0006】
具体的には、本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、化粧品塗布後の肌荒れの生じやすさを推定することを特徴とする推定方法。
2.角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、化粧品塗布後に赤み・痒みの生じやすさを推定することを特徴とする推定方法。
3.角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
細胞領域面積、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、日焼け後の赤くなりやすさを推定することを特徴とする推定方法。
4.角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最小値、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、日焼け後の黒くなりやすさを推定することを特徴とする推定方法。
5.角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を説明変数、日焼け後の黒くなりやすさを目的変数とする相関関係に基づいて、
角層画像から日焼け後の黒くなりやすさを推定することを特徴とする推定方法。
6.前記細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上が、予め複数枚の学習用角層画像と各学習用角層画像における目視評価による細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上とを機械学習させた機械学習モデルを用いて特定されることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の推定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の推定方法は、角層構造から得られる数値を指標とするものであり、非常に迅速に、かつ、容易に肌傾向を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の肌アンケートQ1で異なる解答をした2つ肌傾向を有する群それぞれにおける、輝度最小値の値と人数の関係を表すグラフ。
図2図1のグラフで、ROC最適値をカットオフ値とした際の陽性または陰性と判定される人数を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の推定方法は、
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、化粧品塗布後の肌荒れの生じやすさを推定する。
【0010】
本発明の第2の推定方法は、
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、化粧品塗布後に赤み・痒みの生じやすさを推定する。
【0011】
本発明の第3の推定方法は、
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
細胞領域面積、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、日焼け後の赤くなりやすいさを推定する。
【0012】
本発明の第4の推定方法は、
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最小値、近似する4-6角形からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を算出し、
この角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、日焼け後の黒くなりやすさを推定する。
【0013】
本発明の第5の推定方法は、
角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定し、
1細胞面積、1細胞周囲長、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を説明変数、日焼け後の黒くなりやすさを目的変数とする相関関係に基づいて、
角層画像から日焼け後の黒くなりやすさを推定する。
【0014】
以下、本発明の推定方法について、その詳細を説明する。
画像を得るための角層の採取方法は、バイオプシー、テープストリッピング法のいずれであってもよいが、被験者の負担が少ないため、テープストリッピング法が好ましい。テープストリッピング法は、粘着性テープを皮膚に貼り付けた後、剥がして皮膚の表層を回収する方法である。
【0015】
テープストリッピング法で採取した角層細胞は、透過光観察(微分干渉法、位相差法、暗視野観察法などを含む)または反射光により撮像し、細胞の形態を観察する。角層細胞は、無染色の状態で観察することが好ましいが、必要に応じて染色することもできる。
細胞の観察は、細胞観察が可能な顕微鏡を用いて行うことができ、例えば、キーエンス株式会社製のデジタルマイクロスコープVHX-500、AnMo Electronics Corporation社製のデジタルマイクロスコープコープDino-Lite等を用いることができる。
観察条件は、細胞の詳細が確認できるものであれば制限されないが、例えば、1.0μm/pixel以上の解像度で約20万画素以上の条件等が挙げられる。
【0016】
撮像した角層画像を、画像処理システムを用いて画像処理し、角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を特定する。そして、この特定した細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上に基づいて、推定する肌傾向とその推定方法に応じて、細胞領域面積、1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値、からなる群から選択される1以上を数値化する。角層画像は、カラー画像を用いてもよく、画像処理によりグレースケールにした画像を用いてもよく、両方を用いることもできる。
【0017】
細胞領域面積とは、角層画像中の角層細胞領域の面積の総和である。
重層剥離面積とは、角層が2層以上重なって剥離した領域の面積である。
重層剥離率とは、「細胞領域面積」に対する「重層剥離面積」の割合(重層剥離面積/細胞領域面積)である。
1細胞面積とは、角層画像内の個々の角層細胞の面積を全細胞で平均した値である。
1細胞周囲長とは、角層画像内の個々の角層細胞の周囲長を全細胞で平均した値である。
真円度とは、個々の角層細胞の領域の正円度合い(4π×(面積)/(周長の2乗)により算出される。)の1画像における全細胞で平均した値である。
1細胞に外接する長方形面積とは、角層画像内の個々の角層細胞全体を覆う最小面積の長方形の面積を全細胞で平均した値である。
1細胞に外接する長方形の長短辺比とは、角層画像内の個々の角層細胞全体を覆う最小面積の長方形の長辺と短辺の比(長辺/短辺)を全細胞で平均した値である。
【0018】
1細胞輝度平均値とは、角層画像内の個々の角層細胞の細胞領域内の平均輝度値を全細胞で平均した値である。
1細胞輝度標準偏差とは、角層画像内の個々の角層細胞の細胞領域内の輝度の標準偏差を求めた値である。
1細胞輝度中央値とは、角層画像内の個々の角層細胞の細胞領域内の輝度値中央値を全細胞で平均した値である。
1細胞輝度最大値とは、角層画像内の個々の角層細胞の細胞領域内の輝度の最大値を全細胞で平均した値である。
1細胞輝度最小値とは、角層画像内の個々の角層細胞の細胞領域内の輝度の最小値を全細胞で平均した値である。
近似する4-6角形とは、個々の角層細胞形状の重心を中心として、角層細胞両領域内に正4-6角形を配置し、正4-6角形からはみ出した領域の面積が最小となるように角度と大きさを調整し、はみ出した領域の面積が最小となった際の、はみ出した領域の面積を角層細胞面積で割り返し、正n角形(nは4~6)の中でこの値が最小となるnを近似するn角形とし、角層画像内の個々の角層細胞のnを全細胞で平均した値である。
以下、細胞領域面積、1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値からなる群から選択される1以上を数値化したものを角層パラメータ値ともいう。
【0019】
画像処理システムによる数値化は、公知の画像処理システムを用いて行うことができ、例えば、上記したデジタルマイクロスコープに付属の画像処理ソフトウェアや、市販の画像処理ソフトウェア等を用いることができる。また、予め複数枚の学習用角層画像と、各学習用角層画像における、目視評価による細胞領域(細胞が存在している領域)、目視評価による重層剥離領域(角層が2層以上重なって剥離した領域)、目視評価による1細胞領域(1つ1つの細胞の領域)の1以上を機械学習させた機械学習モデルを備える画像処理システムを用いることもできる。この機械学習モデルに数値化したい角層画像を入力し、この角層画像の細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を出力し、機械学習モデルが出力した細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域に基づいて角層パラメータ値(細胞領域面積、1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値)を算出することで、目視評価に基づく角層パラメータ値と同等の角層パラメータ値を迅速に算出することができる。さらに、機械学習モデルを備える画像処理システムが出力した角層領域、重層剥離領域、1細胞領域の1以上を、人が目視で修正して角層パラメータ値を求めることもできる。
【0020】
本発明の第1~第4の推定方法は、各推定方法に記載の肌傾向と角層パラメータ値との間に統計上の有意差が存在することを見出してなされたものである。すなわち、特定の肌傾向を有する群と、この特定の肌傾向を有さない群との間には、それぞれの角層パラメータ値の平均値に有意差が存在する。そして、被験者の角層パラメータ値とカットオフ値とを比較することにより、例えば、角層パラメータ値がカットオフ値より大きい場合に、被験者は特定の肌傾向を有すると推定することができる。
【0021】
ここで、カットオフ値とは、医薬分野において、疾患群と非疾患群とを判定する場合に用いられる値であり、カットオフ値以下であれば陰性、カットオフ値以上であれば陽性、または、カットオフ値以下であれば陽性、カットオフ値以上であれば陰性として疾患を判定するために定められる。
疾患群と非疾患群の測定値の分布は、重複しないことが理想的であるが、通常、一部重複する。そのため、ある被験者について、カットオフ値を用いて判定した場合、疾患群に属しながらも陰性と判定される「偽陰性」、非疾患群に属しながらも陽性と判定される「偽陽性」が出てしまう(表1)。
【表1】
ここで、真陽性/(真陽性+偽陰性)の値を感度、真陰性/(偽陽性+真陰性)の値を特異度といい、カットオフ値を上下に変化させることにより、感度と特異度の値も変化する。カットオフ値の有用性は、感度と特異度により評価され、感度と特異度は、両者ともに大きいことが好ましい。
【0022】
本発明において、カットオフ値は、例えば、特定の肌傾向を有する群の角層パラメータ値の平均値と特定の肌傾向を有さない群の角層パラメータ値の平均値との平均値、ROC曲線における真陽性率(感度)100%、偽陽性率(1-特異度)0%の点から最も近い点となる値)、特定の感度(例えば、70%、80%、90%)となる値、特定の特異度(例えば、70%、80%、90%)となる値等が挙げられる。ただし、感度と特異度の両方が50%以上であることが好ましく、両方が60%以上であることがより好ましく、両方が70%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の第5の推定方法は、1細胞面積、1細胞周囲長、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選択される1以上の角層パラメータ値を説明変数、日焼け後の黒くなりやすさを目的変数とする相関関係に基づいて、角層画像から日焼け後の黒くなりやすさを推定するものである。
この数値化した角層パラメータ値を指標として日焼け後の黒くなりやすさを推定する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、角層パラメータ値を単回帰分析してもよく、重回帰分析してもよい。重回帰分析は、線形重回帰分析でもよく非線形重回帰分析でもよい。また、1細胞面積、1細胞周囲長、1細胞に外接する長方形面積以外の他のパラメータを重回帰分析の説明変数に含めてもよい。
【実施例0024】
<機械学習用サンプル>
女性412名(18~87才、平均46.8才)について、テープストリッピング法に
より、顔から角層細胞を採取した。
採取した角層細胞は、無染色の状態で、デジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社、VHX-5000)を用いて、8bit(RGBカラー)、0.41μm/pixelの解像度、1600x1200pixelの画素数で、透過光による撮影を行った。撮影は各サンプル2~3視野ずつ撮影を行い機械学習として用いた。
【0025】
画像アノテーション用ソフトウェア Labelmeを用いて、細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域を目視により特定し、学習用角層画像を得た。
各学習用角層画像と、目視評価による細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域を機械学習させ、細胞領域、重層剥離領域、1細胞領域を出力可能な機械学習モデルを得た。
【0026】
<サンプル>
女性227名(28~87才、平均47.2才)について、テープストリッピング法により、顔から角層細胞を採取した。一人当たり、3~5枚のサンプルを採取し、合計966枚のサンプルを得た。
試料調製方法は、機械学習用サンプルと同じである。
サンプル画像を、機械学習モデルを備えた画像処理装置により解析し、各角層画像の細胞領域面積、1細胞面積、1細胞周囲長、真円度、1細胞に外接する長方形面積、1細胞に外接する長方形の長短辺比、1細胞輝度平均値、1細胞輝度標準偏差、1細胞輝度中央値、1細胞輝度最大値、1細胞輝度最小値を数値化し、角層パラメータ値を求めた。
【0027】
なお、966枚のサンプルについて、目視評価による細胞領域と重層剥離領域を、それぞれ機械学習モデルを備えた画像処理装置により解析した細胞領域と重層剥離領域とを比較した結果、目視評価による細胞領域面積/機械学習モデルを備えた画像処理装置により解析した細胞領域面積=95%、目視評価による重層剥離領域面積/機械学習モデルを備えた画像処理装置により解析した重層剥離領域面積=86%であり、目視評価による細胞領域、重層剥離領域と、機械学習モデルを備えた画像処理装置により解析した細胞領域、重層剥離領域は同等であった。
【0028】
<肌傾向アンケート>
上記でサンプルを得た227名の女性に対し、下記表2に示すアンケートを実施した。
【表2】
【0029】
本発明の第1~第4の推定方法を、Q1の結果と角層パラメータ値である輝度最小値との関係を例に説明する。
図1は、Q1で異なる解答をした2つ肌傾向を有する群それぞれにおける、輝度最小値の値と人数の関係を表すグラフである。図1に示すように、化粧品での肌荒れ経験がある群と、化粧品での肌荒れ経験がない群と間で、輝度最小値の平均値に有意差があることが確認できた。
【0030】
図2に示すように、ROC最適値(輝度最小値=43.14)をカットオフ値とすると、経験ありと答えた127人のうち、101人が陽性(真陽性)、26人が陰性(偽陰性)と判定され、経験なしと答えた286人のうち、77人が陽性(偽陽性)、209人が陰性(真陰性)と判定され、感度(=真陽性/(真陽性+偽陰性))80%、特異度(=真陰性/(偽陰性+真陰性))73%であった。
この結果より、ある被験者から角層サンプルを採取して輝度最小値の値を測定し、カットオフ値(43.14)と比較し、輝度最小値の測定値がカットオフ値よりも大きければ化粧品塗布後の肌荒れが生じやすい、輝度最小値の測定値がカットオフ値よりも小さければ化粧品塗布後の肌荒れが生じにくいと、感度80%、特異度73%で判定できる。
【0031】
表3に、アンケートで異なる解答をした群の間で有意差のあった角層パラメータ値における各群の平均値とp値を示す。
また、表4にこの有意差のあった各角層パラメータ値において、平均値(陰性の被験者の角層パラメータ値の平均値を(a)、陽性の被験者の角層パラメータ値の平均値を(b)としたときの、[(a)+(b)]/2の値)、ROC最適値、感度90%となる値のそれぞれをカットオフ値とした際の、閾値(カットオフ値)、感度、特異度を示す。
【表3】
【0032】
【表4】
本発明の第1~4の推定方法により、角層パラメータ値から肌傾向を判定できることが確かめられた。
【0033】
「単回帰分析」
各角層パラメータ値と、Q5で得られた日焼け後の肌の黒くなる度合いを表す値とを、単回帰分析した。相関が認められたものについて、相関係数r、p値、単回帰直線の式(Y=aX+b、Xが各角層パラメータ値、Yがアンケートの値)を表5に示す。
【表5】
表5に示すように、1細胞面積、1細胞周囲長、1細胞に外接する長方形面積からなる群から選ばれる角層パラメータ値は、日焼け後の肌の黒くなる度合いと相関(|r|≧0.2)を有していた。
図1
図2