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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074298
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】船舶用ステアリング機構を備える船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/02 20060101AFI20230522BHJP
   B63H 21/22 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
B63H25/02 B
B63H25/02 Z
B63H21/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187174
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳和
(72)【発明者】
【氏名】村山 卓弥
(57)【要約】
【課題】スイッチのレイアウトの自由度を向上させ、さらに、スイッチの操作性も向上させる。
【解決手段】船舶1は、操船席4に船舶用ステアリング機構5を備え、船舶用ステアリング機構5はステアリングホイール11を備え、ステアリングホイール11は、船舶1を、自動操縦モードのヘディングホールドやコースホールドへ移行させるためのヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用ステアリング機構を備える船舶であって、
前記船舶用ステアリング機構はステアリングホイールを備え、
前記ステアリングホイールは、前記船舶を、前記船舶の進路を保持する進路保持モード又は前記船舶の進行方向を維持する進行方向維持モードへ移行させるための移行スイッチを有する、船舶。
【請求項2】
前記移行スイッチは、前記ステアリングホイールの環状のホイール部を握る操船者の指が届く範囲に配置される、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記移行スイッチは、操作に応じてデジタル信号を前記船舶の推進装置及び操舵機構の少なくとも一方を制御する制御部へ発する、請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記移行スイッチによって移行する前記進路保持モード又は前記進行方向維持モードで航行する前記船舶の進路を微調整するための進路調整スイッチをさらに備える、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項5】
前記進路調整スイッチは前記船舶の左舷と右舷に対応して2つ設けられ、
前記右舷へ進路を変更するための前記進路調整スイッチは、前記船舶が直進状態のときの前記ステアリングホイールにおいて右舷側に配置され、
前記左舷へ進路を変更するための前記進路調整スイッチは、前記船舶が直進状態のときの前記ステアリングホイールにおいて左舷側に配置される、請求項4に記載の船舶。
【請求項6】
前記ステアリングホイールは、前記船舶の船体に対し、回転支点を中心に回転可能に支持された中央部と、環状のホイール部と、前記中央部と前記ホイール部を接続するスポーク部と、を有し、
前記移行スイッチは前記スポーク部に配置される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項7】
前記移行スイッチが配置される前記スポーク部は、前記回転支点を通り左右方向に平行な仮想面より上に位置し且つ、前記回転支点を中心とする円周方向において前記仮想面に対し0°以上60°以下の角度を成す範囲に位置する、請求項6に記載の船舶。
【請求項8】
船舶用ステアリング機構を備える船舶であって、
前記船舶用ステアリング機構はステアリングホイールを備え、
前記ステアリングホイールは、前記船舶を、所定の位置に前記船舶を留まらせる位置維持モード、前記船舶の船首の向きを所定の方向に維持する船首方向維持モード又は前記所定の位置に前記船舶を留まらせ、且つ前記船舶の船首の向きを前記所定の方向に維持する定点保持モードへ移行させるための移行スイッチを有する、船舶。
【請求項9】
前記移行スイッチは、操作に応じてデジタル信号を前記船舶の推進装置及び操舵機構の少なくとも一方を制御する制御部へ発する、請求項8に記載の船舶。
【請求項10】
前記移行スイッチによって移行する前記位置維持モード、前記船首方向維持モード又は前記定点保持モードにおいて、前記船舶の位置を調整するための推力のレベルを設定するための推力レベル設定スイッチをさらに備える、請求項8又は9に記載の船舶。
【請求項11】
前記ステアリングホイールは、前記船舶の船体に対し、回転支点を中心に回転可能に支持された中央部と、環状のホイール部と、前記中央部と前記ホイール部を接続するスポーク部と、を有し、
前記移行スイッチは前記スポーク部に配置される、請求項8乃至10のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項12】
前記移行スイッチが配置されるスポーク部は、前記回転支点を通り左右方向に平行な仮想面より下に位置する、請求項11に記載の船舶。
【請求項13】
船舶用ステアリング機構を備える船舶であって、
前記船舶用ステアリング機構は、前記船舶を、前記船舶の進路を保持する進路保持モード、前記船舶の進行方向を維持する進行方向維持モード、所定の位置に前記船舶を留まらせる位置維持モード、前記船舶の船首の向きを所定の方向に維持する船首方向維持モード及び前記所定の位置に前記船舶を留まらせ、且つ前記船舶の船首の向きを前記所定の方向に維持する定点保持モードのうちの少なくとも1つへ移行させるための移行スイッチを有する、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用ステアリング機構を備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、操船者の負担軽減等を目的として、操船者がステアリングホイールやリモコンを操作しなくても船舶が進路を自動的に保持し、若しくは船舶が船舶の進行方向を自動的に維持する自動操縦モードが船舶において設定可能に構成される。また、乗船者が釣りを行う際等に、船舶が1つのポイントに留まり続けるように停船中の船舶の移動を自動制御する定点保持モードも船舶において設定可能に構成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-140272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、船舶を自動操縦モードや定点保持モードへ移行させるための自動操船スイッチは操船席のパネルやジョイスティックに設けられるが、操船席のパネルやジョイスティックには場所的な余裕が余り無いため、自動操船スイッチを配置すると他のスイッチ等が配置しにくくなる等、スイッチのレイアウトの自由度の面では改善の余地がある。
【0005】
また、船舶を自動操縦モードや定点保持モードへ移行させる際に、操船者は片手でステアリングホイールを操作しながら、残りの手でステアリングホイールから離れたパネルやジョイスティックに配置された自動操船スイッチを操作する必要があるため、自動操船スイッチの的確な操作が容易ではなく、スイッチの操作性の観点からも改善の余地がある。
【0006】
本発明は、スイッチのレイアウトの自由度を向上させ、さらに、スイッチの操作性も向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による船舶は、船舶用ステアリング機構を備える船舶であって、前記船舶用ステアリング機構はステアリングホイールを備え、前記ステアリングホイールは、前記船舶を、前記船舶の進路を保持する進路保持モード又は前記船舶の進行方向を維持する進行方向維持モードへ移行させるための移行スイッチを有する。
【0008】
また、この発明の一態様による船舶は、船舶用ステアリング機構を備える船舶であって、前記船舶用ステアリング機構はステアリングホイールを備え、前記ステアリングホイールは、前記船舶を、所定の位置に前記船舶を留まらせる位置維持モード、前記船舶の船首の向きを所定の方向に維持する船首方向維持モード又は前記所定の位置に前記船舶を留まらせ、且つ前記船舶の船首の向きを前記所定の方向に維持する定点保持モードへ移行させるための移行スイッチを有する。
【0009】
この構成によれば、ステアリングホイールが、船舶を、進路保持モード、進行方向維持モード、位置維持モード、船首方向維持モード又は定点保持モードに移行させるための移行スイッチを有する。これにより、操船席のパネルやジョイスティックに移行スイッチを必ずしも設ける必要が無くなるため、操船席のパネルやジョイスティックへ他のスイッチを配置し易くなり、スイッチのレイアウトの自由度を向上させることができる。また、操船者はステアリングホイールから手を離すこと無く、移行スイッチを操作することができるため、移行スイッチの操作性も向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スイッチのレイアウトの自由度を向上させ、さらに、スイッチの操作性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る船舶用ステアリング機構を備える船舶の斜視図である。
図2】操船席の要部の斜視図である。
図3図1の船舶の操船システムの構成を概略的に説明するためのブロック図である。
図4】船舶用ステアリング機構の構成を説明するための図である。
図5】自動操縦モードのコースホールド及びヘディングホールドを説明するための図である。
図6】定点保持モードのドリフトポイント、フィッシュポイント及びステーポイントを説明するための図である。
図7】自動操縦モードにおける船舶の進路の微調整を説明するための図である。
図8】自動操縦モードのトラックポイント及びパターンステアリングを説明するための図である。
図9】船舶用ステアリング機構が有するステアリングホイールの変形例の構成を説明するための図である。
図10】本発明の実施の形態に係る船舶用ステアリング機構を備える船舶の変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る船舶用ステアリング機構を備える船舶の斜視図である。この船舶1は、船体2と、船体2に搭載される船舶推進装置としての複数、例えば、2基の船外機3とを備えている。なお、船舶1が備える船外機3の数は2基に限られず、1基又は3基以上であってもよい。また、2基の船外機3は、船体2の船尾に並べて取り付けられるが、各船外機3は動力源として内燃機関であるエンジン(不図示)を有し、対応するエンジンの駆動力によって回転されるプロペラ(不図示)によって推力を得る。なお、各船外機3は、動力源として電気モータを有してもよく、若しくは、動力源としてエンジン及び電気モータの両方を有してもよい。
【0013】
また、船舶1において、船体2の前部である船首側には、操船席4が設けられる。図2は、操船席4の要部の斜視図である。操船席4には、船舶用ステアリング機構5、リモコンスイッチ6、ジョイスティック7、メイン操作部8、MFD(Multi Function Display)9、及び自動操縦パネル10が配置される。
【0014】
船舶用ステアリング機構5は、操船者が船舶1の針路を定めるための装置である。船舶用ステアリング機構5は回転操作可能なステアリングホイール11を有し、操船者は、ステアリングホイール11を左右に回転操作することで船舶1を左右に旋回させることができる。リモコンスイッチ6は、各船外機3に対応するレバー12を有し、操船者は、各レバー12を操作することによって対応する船外機3が発生する推力の方向を前進方向と後進方向とに切り換えると共に、対応する船外機3の出力を調整して船速を調整することができる。
【0015】
ジョイスティック7は、前後左右に傾倒操作可能であり、且つ、軸周りの回動操作が可能である。操船者は、ジョイスティック7を操作することで、ジョイスティック7の傾倒方向に対応する針路とジョイスティック7の傾倒量に応じた推力とによって船舶1を操縦することができる。通常モードでは、船外機3は、主として船舶用ステアリング機構5の操作とリモコンスイッチ6の操作に従って作動する一方、ジョイスティックモードでは、船外機3は、主としてジョイスティック7の操作に従って作動する。通常モードとジョイスティックモードとは、不図示の切換スイッチにより切り換え可能である。また、ジョイスティック7は、船舶1を複数の定点保持モードのうちのいずれかに移行させるための複数の移行スイッチ(不図示)を有する。
【0016】
メイン操作部8は、メインスイッチ13及びエマージェンシースイッチ14を有する。メインスイッチ13は、各船外機3に共通にして1つ設けられる。メインスイッチ13は各船外機3のエンジンを一括起動及び一括停止するための操作子である。
【0017】
MFD9は、例えば、カラーLCDディスプレイであり、各種情報を表示するディスプレイとして機能するとともに、操船者の入力を受け付けるタッチパネルとしても機能する。例えば、MFD9は、各船外機3のエンジンの回転数や船舶1の船速を表示するとともに、後述する自動操縦モードの1つであるトラックポイントにおける船舶1の進路の設定を受け付ける。
【0018】
自動操縦パネル10は、船舶1を複数の自動操縦モードのうちのいずれかに移行させるための複数の移行スイッチが配置されたパネルであり、操船者は所望の移行スイッチを操作することにより、船舶1を所望の自動操縦モードへ移行させることができる。
【0019】
図3は、船舶1の操船システムの構成を概略的に説明するためのブロック図である。図3において、船舶1の操船システムは、上述した船外機3、船舶用ステアリング機構5、リモコンスイッチ6、ジョイスティック7、メイン操作部8、MFD9や自動操縦パネル10の他に、GPS15、HS(Heading Sensor)16、リモコンECU18(制御部)、SCU(Steering Control Unit)19、及びステアリング軸センサ20を有する。
【0020】
GPS15は、船舶1の現在位置を把握し、リモコンECU18へ船舶1の現在位置を位置情報として送信する。HS16は、ヨーセンサ、ロールセンサ及びピッチセンサ等の方位センサと、船舶1の前後方向、左右方向及び上下方向の加速度を計測する加速度センサと、を内蔵し、船舶1の方位や各加速度(動き)をリモコンECU18へ送信する。
【0021】
リモコンECU18は、操船システムのメインコントローラであり、各種のプログラムと後述するデジタル信号に従って操船システムの各構成要素の動作を制御する。また、リモコンECU18は、リモコンスイッチ6の各レバー12の操作に応じて各船外機3のエンジンを制御する。SCU19は各船外機3に対応して設けられ、対応する船外機3を船舶1の船体に対して水平に旋回させるステアリングユニット(操舵機構)を制御して各船外機3の推力の作用方向を変更する。ステアリング軸センサ20は、船舶用ステアリング機構5のステアリングホイール11の回転角(操作角)を検知する。
【0022】
操船システムにおいて、各構成要素は、バスに複数のノードが個別に接続されるネットワークであるCAN(Control Area Network)21によって互いに接続される。CAN21では、各構成要素への操作入力がデジタル信号としてバスを介してリモコンECU18へ送信される。
【0023】
また、操船システムでは、リモコンスイッチ6はCAN21ではなく個別の配線(図中の破線参照)によってもリモコンECU18に接続され、メイン操作部8はCAN21ではなく個別の配線(図中の破線参照)によってリモコンECU18に接続される。リモコンスイッチ6の各レバー12への操作入力はアナログ信号としてもリモコンECU18へ送信され、メイン操作部8のメインスイッチ13やエマージェンシースイッチ14に対する操作入力もアナログ信号としてリモコンECU18へ送信される。
【0024】
なお、操船システムにおいて、各構成要素はCANではなく、各構成要素を互いに直接、若しくはネットワーク機器を介して接続するイーサネット(登録商標)等のLAN(Local Area Network)によって接続してもよい。この場合も、各構成要素への操作入力がデジタル信号としてリモコンECU18へ送信される。
【0025】
図4は、船舶用ステアリング機構5の構成を説明するための図であり、図4では船舶用ステアリング機構5を操船者側から眺めた場合を示す。なお、図4の上下方向及び左右方向は、船舶1の上下方向及び左右方向と一致し、図の奥行き側が船舶1の船首側であり、図の手前側が船舶1の船尾側である。
【0026】
図4において、船舶用ステアリング機構5は、ステアリングホイール11と、ステアリングホイール11を回転可能に軸支するコラム部26と、を有する。ステアリングホイール11は、コラム部26に対して回転支点(ステアリング軸)27を中心に回転可能に支持された中央部28、環状のホイール部29、及び中央部28とホイール部29を接続する、例えば、3つのスポーク部30~32を有する。
【0027】
スポーク部30は、ステアリングホイール11が船舶1を直進させる位置にあるとき、回転支点27を通り左右方向に平行な仮想面33より下に位置し、回転支点27から延長下方に延伸する。
【0028】
また、スポーク部31は、ステアリングホイール11が船舶1を直進させる位置にあるとき、仮想面33より上に位置し、且つ、回転支点27を中心とする円周方向において仮想面33に対して時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように(図中においてθで示す角度の範囲内に)、好ましくは、仮想面33に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように(図中においてθで示す角度の範囲内に)、回転支点27から延伸する。
【0029】
さらに、スポーク部32は、ステアリングホイール11が船舶1を直進させる位置にあるとき、仮想面33より上に位置し、且つ、回転支点27を中心とする円周方向において仮想面33に対して反時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように(図中においてθで示す角度の範囲内に)、好ましくは、仮想面33に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように(図中においてθで示す角度の範囲内に)、回転支点27から延伸する。
【0030】
ところで、本実施の形態では、船舶1が移行可能な自動操縦モードや定点保持モードには、それぞれ複数のバリエーションが存在する。例えば、船舶1は、自動操縦モードとして、例えば、コースホールド(進路保持モード)又はヘディングホールド(進行方向維持モード)に移行可能である。また、船舶1は、定点保持モードとして、例えば、フィッシュポイント(位置維持モード)、ドリフトポイント(船首方向維持モード)又はステーポイント(いずれも登録商標)に移行可能である。
【0031】
図5(A)に示すように、自動操縦モードのコースホールドでは、船舶1が航行する際、風や水流等の外乱34を受けても、船舶1が設定されたコース35を辿るように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。なお、以下、図中の船舶1に含まれる矢印は推力の作用方向を示す。また、図5(B)に示すように、自動操縦モードのヘディングホールドでは、船舶1が航行する際、風や水流等の外乱34を受けても、船舶1が設定された方位(船首の向き)を維持するように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。
【0032】
図6(A)に示すように、定点保持モードのドリフトポイントでは、船舶1が停船している際、風や水流等の外乱34を受けても、船舶1が設定された方位(船首の向き)を維持するように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。なお、ドリフトポイントでは、船舶1の移動の積極的な制限は行われず、船舶1は外乱34による移動が許容される。また、図6(B)に示すように、定点保持モードのフィッシュポイントでは、船舶1が停船している際、風や水流等の外乱34を受けると、船舶1の舳先又は船尾を風の流れや水流に対向させ、且つ船舶1を1つのポイントに留めるように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。さらに、図6(C)に示すように、定点保持モードのステーポイントでは、船舶1が停船している際、風や水流等の外乱34を受けても、船舶1が設定された方位(船首の向き)を維持し、且つ船舶1を1つのポイントに留めるように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。
【0033】
本実施の形態では、船舶1を、上述した自動操縦モードや定点保持モードへ移行させるための移行スイッチがステアリングホイール11に配置される。
【0034】
図4に戻り、ステアリングホイール11のスポーク部31には船舶1をヘディングホールドに移行させるためのヘディングホールドスイッチ36(移行スイッチ)が配置される。また、スポーク部32には船舶1をコースホールドに移行させるためのコースホールドスイッチ37(移行スイッチ)が配置される。特に、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37は、ホイール部29を握る操船者の指、例えば、親指が届く範囲に、配置されるのが好ましい。なお、ヘディングホールドスイッチ36はスポーク部32に配置されてもよく、コースホールドスイッチ37はスポーク部31に配置されてもよい。
【0035】
航行中の船舶1では、操船者が立ったままホイール部29を握ることがあり、その際、操船者は、ホイール部29を上方から保持することになるため、操船者は、ホイール部29の上半部、特に、ホイール部29がスポーク部31やスポーク部32と交差する近傍を握ることになる。したがって、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37がホイール部29を握る操船者の親指が届く範囲に配置される場合、操船者は、ホイール部29を握り直すこと無く、親指でヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37を操作することができるため、これらのスイッチの操作性が向上する。
【0036】
ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37が操作されると、具体的には、押し下げられると、当該操作入力がデジタル信号として、CAN21において、リモコンECU18へ伝送され、リモコンECU18は、コースホールドやヘディングホールドを実現するために、各SCU19や各船外機3のECU(不図示)へ制御信号を送信して各船外機3の推力や推力の作用方向を制御する。なお、船舶1が自動操縦モードへ移行した後、操船者が、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37を再度操作し、若しくは、ホイール部29を所定量以上ほど回転させると、自動操縦モードが解除される。
【0037】
また、船舶1をヘディングホールドやコースホールドに移行させる場合、船舶1が高速で航行、例えば、約50ノットで航行していることが多いが、本実施の形態では、操船者がホイール部29から手を離すこと無く、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37を操作することができる。したがって、操船者は船舶1を自動操縦モードへ移行させる際、高速航行する船舶1のホイール部29を保持し続けることができ、結果として、船舶1のコースを容易に維持することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、自動操縦モードにおける船舶1の進路の微調整が可能であり、図7に示すように、設定されたコース35に対して、右舷方向や左舷方向へ微少に進路を変更することができる。そして、進路を変更するためにホイール部29を回転させると、上述したように、自動操縦モードが解除されるおそれがあるため、本実施の形態では、船舶1の進路の微調整をスイッチで行う。これらのスイッチはステアリングホイール11に配置される。具体的には、スポーク部31において、ホイール部29を握る操船者の指が届く範囲において、ヘディングホールドスイッチ36に隣接するように、船舶1の進路を左舷方向に微調整するための方位変更スイッチ38(進路調整スイッチ)が配置される。また、スポーク部32において、ホイール部29を握る操船者の指が届く範囲において、コースホールドスイッチ37に隣接するように、船舶1の進路を右舷方向に微調整するための方位変更スイッチ39(進路調整スイッチ)が配置される。なお、方位変更スイッチ38,39はそれぞれ、スポーク部31,32において、ホイール部29を握る操船者の指が届く範囲以外に配置されてもよい。
【0039】
方位変更スイッチ38,39が操作されると、具体的には、押し下げられると、当該操作入力がデジタル信号として、CAN21において、リモコンECU18へ伝送され、リモコンECU18は、船舶1の進路を微少に変更するために、各SCU19や各船外機3のECU(不図示)へ制御信号を送信して各船外機3の推力や推力の作用方向を制御する。なお、方位変更スイッチ38,39の操作回数に応じて、リモコンECU18は、船舶1の進路の変更量を変化させる。具体的には、方位変更スイッチ38,39の操作回数が増えるほど、船舶1の進路の左舷方向又は右舷方向への変更量を大きくする。
【0040】
方位変更スイッチ38,39はヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37に隣接するように配置されるため、操船者は、ホイール部29を握り直すこと無く方位変更スイッチ38,39を操作することができ、方位変更スイッチ38,39の操作性が向上する。特に、自動操縦モードへ移行した高速航行中の船舶1において、操船者はホイール部29から手を離すこと無く、船舶1の進路を変更させることができるため、方位変更スイッチ38,39の操作性をより高めることができる。
【0041】
さらに、船舶1の進路を左舷方向に微調整するための方位変更スイッチ38は、ステアリングホイール11が船舶1を直進させる位置にあるときに左舷側に位置するスポーク部31に配置され、船舶1の進路を右舷方向に微調整するための方位変更スイッチ39は、ステアリングホイール11が船舶1を直進させる位置にあるときに右舷側に位置するスポーク部32に配置されるため、操船者が船舶1の進路を所望の方向へ微少に変更させたいとき、所望の方向の方位変更スイッチを操作すればよい。したがって、操船者は、方位変更スイッチを用いて、直感的に船舶1を操縦することができ、操船者の負担を軽減することができる。
【0042】
また、本実施の形態において、船舶1は、自動操縦モードとして、コースホールドやヘディングホールドだけでなく、例えば、トラックポイントやパターンステアリングに移行可能である。図8(A)に示すように、トラックポイントでは、操船者が予め、例えば、MFD9において設定した各ウェイポイント40,41を通過するようにコース42が設定され、コース42に沿って船舶1が航行するように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。また、図8(B)に示すように、パターンステアリングでは、操船者が予め、例えば、MFD9において設定した航行パターンに従って船舶1が航行するように、各船外機3の推力や推力の作用方向が制御される。なお、図中では、航行パターンとして旋回運動を続ける旋回パターンが設定されるが、ジグザグ運動を続けるジグザグパターンも設定可能である。
【0043】
ステアリングホイール11には、船舶1をトラックポイントやパターンステアリングに移行させるための専門のスイッチは存在しないが、上述したように、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37は操作入力に応じてデジタル信号を発信するため、これらのデジタル信号へトラックポイントへの移行やパターンステアリングへの移行を割り付けることができる。これにより、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37を操作することにより、船舶1をトラックポイントやパターンステアリングに移行させることができる。操船者は、例えば、MFD9において、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37が発信するデジタル信号への機能の割り付けを変更することができる。
【0044】
また、余剰のスイッチ43の操作に応じて、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37の機能を切り換えてもよい。具体的には、スイッチ43を操作する度に、ヘディングホールドスイッチ36の機能を、ヘディングホールドへの移行及びトラックポイントへの移行の間において切り換えてもよい。また、スイッチ43を操作する度に、コースホールドスイッチ37の機能を、コースホールドへの移行及びパターンステアリングへの移行の間において切り換えてもよい。
【0045】
なお、トラックポイントやパターンステアリングでは、船舶1の進路変更が行われるため、操船者の不注意によってトラックポイントやパターンステアリングへ移行することを避けるのが好ましい。これに対応して、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37の操作(押し下げ)を所定の時間以上継続しないと、船舶1がトラックポイントやパターンステアリングへ移行しないように設定するのが好ましい。
【0046】
また、ステアリングホイール11のスポーク部30において、船舶1をフィッシュポイントに移行させるためのフィッシュポイントスイッチ44(移行スイッチ)が配置され、船舶1をステーポイントに移行させるためのステーポイントスイッチ45(移行スイッチ)が配置され、船舶1をドリフトポイントに移行させるためのドリフトポイントスイッチ46(移行スイッチ)が配置される。
【0047】
フィッシュポイントスイッチ44、ステーポイントスイッチ45やドリフトポイントスイッチ46が操作されると、具体的には、押し下げられると、当該操作入力がデジタル信号として、CAN21において、リモコンECU18へ伝送され、リモコンECU18は、フィッシュポイント、ステーポイントやドリフトポイントを実現するために、各SCU19や各船外機3のECUへ制御信号を送信して各船外機3の推力や推力の作用方向を制御する。
【0048】
フィッシュポイントスイッチ44、ステーポイントスイッチ45やドリフトポイントスイッチ46の操作は、リモコンスイッチ6の各レバー12がN(ニュートラル)に位置し、各船外機3のエンジンがクラッチ等によってプロペラから切り離された状態にならない限り、無効とされる。
【0049】
なお、船舶1が定点保持モードへ移行した後、操船者が、フィッシュポイントスイッチ44、ステーポイントスイッチ45やドリフトポイントスイッチ46を再度操作し、若しくは、リモコンスイッチ6の各レバー12の位置がN(ニュートラル)から他のポジションへ移動されると、定点保持モードが解除される。
【0050】
上述したように、航行中の船舶1において、操船者は、ホイール部29のスポーク部31やスポーク部32と交差する近傍を握るため、回転支点27から下方に延伸するスポーク部30には操船者の指が届かない。したがって、船舶1の航行中、操船者は、低速航行時や停船中を前提とする、フィッシュポイントスイッチ44、ステーポイントスイッチ45やドリフトポイントスイッチ46を過って操作することがない。また、船舶1の航行中に操作しにくい場所へフィッシュポイントスイッチ44、ステーポイントスイッチ45やドリフトポイントスイッチ46が配置されることにより、操船者は、これらのスイッチが低速航行時や停船中の操作を前提とすることを直感的に理解することができる。
【0051】
また、本実施の形態では、定点保持モードにおいて船舶1の位置を調整するために生じる各船外機3の推力のレベル、例えば、フィッシュポイントにおいて船舶1を1つのポイントに留めるために各船外機3が発生する推力のレベルの設定が可能であり、本実施の形態では、推力のレベルの設定を2つのスイッチで行う。これらのスイッチもステアリングホイール11に配置される。具体的には、スポーク部31に推力のレベルを低減させるための推力レベル設定スイッチ47が配置され、スポーク部32に推力のレベルを増加させるための推力レベル設定スイッチ48が配置される。
【0052】
推力レベル設定スイッチ47,48が操作されると、具体的には、押し下げられると、当該操作入力がデジタル信号として、CAN21において、リモコンECU18へ伝送され、リモコンECU18は、定点保持モードで生じる各船外機3の推力のレベルを変更する。なお、推力レベル設定スイッチ47,48の操作回数に応じて、リモコンECU18は、推力のレベルを変化させる。具体的には、推力レベル設定スイッチ48の操作回数が増えるほど、定点保持モードで生じる推力のレベルを高くし、推力レベル設定スイッチ47の操作回数が増えるほど、定点保持モードで生じる推力のレベルを低くする。
【0053】
本実施の形態によれば、船舶1を自動操縦モードや定点保持モードへ移行させるための移行スイッチ36,37,44,45,46がステアリングホイール11に配置される。これにより、操船者が、船舶1を自動操縦モードや定点保持モードへ移行させるために、ステアリングホイール11から離れたパネルやジョイスティックに配置された自動操船スイッチを操作する必要を無くすことができる。特に、ヘディングホールドスイッチ36やコースホールドスイッチ37はホイール部29を握る操船者の指が届く範囲に配置されるため、操船者はステアリングホイール11のホイール部29から手を離すことなく、船舶1を自動操縦モードへ移行させることができる。その結果、移行スイッチ36,37,44,45,46の操作性を向上させることができる。
【0054】
また、操船者は船舶1の航行中、その視野にステアリングホイール11が入ることが多いが、本実施の形態では、移行スイッチ36,37,44,45,46がステアリングホイール11に配置されるため、これらの移行スイッチの視認性も向上させることができる。
【0055】
さらに、本実施の形態では、自動操縦モードや定点保持モードへ移行させるための移行スイッチを、必ずしも、操船席4のパネルやジョイスティックに配置する必要が無いため、他のスイッチを操船席4のパネルやジョイスティックに配置することができ、もって、他のスイッチのレイアウトの自由度を向上させることができる。また、本実施の形態では、移行スイッチ36,37,44,45,46を操船席4のパネルやジョイスティックに配置することなく、ステアリングホイール11を有する船舶用ステアリング機構5を船舶1に配置するだけで、図3の操船システムを船舶1で構築することができ、容易に自動操縦モードや定点保持モードを実現することができる。
【0056】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0057】
例えば、各移行スイッチ36,37,44,45,46の配置場所は、スポーク部30~32に限られず、例えば、移行スイッチ36,37,44,45,46の少なくとも1つをコラム部26、中央部28又はホイール部29に配置してもよい。また、方位変更スイッチ38,39や推力レベル設定スイッチ47,48の配置場所についても、同様に、コラム部26、中央部28又はホイール部29であってもよい。
【0058】
また、各移行スイッチ36,37,44,45,46は操作入力に応じて船舶1が対応するモード等へ移行したことを示すインジケータを備えてもよい。例えば、各移行スイッチ36,37,44,45,46に小型の点灯部(例えば、LED灯)を設け、当該移行スイッチが操作されて船舶1が対応するモードへ移行すると、点灯部が点灯する。若しくは、各移行スイッチ36,37,44,45,46にバックライトを設け、当該移行スイッチが操作されて船舶1が対応するモードへ移行すると、バックライトからの照射光が当該移行スイッチの印字部(例えば、文字列「STAY POINT」)を透過し、当該印字部が発光する。これにより、操船者は、船舶1が所望のモードへ移行したか否かを容易に理解することができる。
【0059】
なお、操作されるか否かにかかわらず、各移行スイッチ36,37,44,45,46の印字部をバックライトによって発光させてもよい。この場合、薄暮や夜間において航行する船舶1での各移行スイッチ36,37,44,45,46の視認性を向上させることができる。
【0060】
さらに、各移行スイッチ36,37,44,45,46が配置されるステアリングホイール11は、図9に示すように、環状のホイール部29の代わりに、左右それぞれに配置されたハンドルバー49,50を備えていてもよい。この場合、ヘディングホールドスイッチ36、方位変更スイッチ38及び推力レベル設定スイッチ47は、左舷側のハンドルバー49と中央部28を連結するスポーク部51に配置され、コースホールドスイッチ37、方位変更スイッチ39及び推力レベル設定スイッチ48は、右舷側のハンドルバー50と中央部28を連結するスポーク部52に配置される。
【0061】
また、各移行スイッチ36,37,44,45,46、方位変更スイッチ38,39や推力レベル設定スイッチ47,48は操作入力に応じてデジタル信号を発信するため、デジタル信号を別の機能に対応させて各スイッチに上述した機能とは別の機能を割り付けることができる。例えば、方位変更スイッチ左舷方向への横移動モードを割り付け、方位変更スイッチ39に右舷方向への横移動モードを割り付けることができる。また、ヘディングホールドスイッチ36に左舷方向への桟橋押し付けモードを割り付け、コースホールドスイッチ37に右舷方向への桟橋押し付けモードを割り付けることができる。なお、操船者は、例えば、MFD9を用いて、各スイッチへ別の機能を割り付けることができる。
【0062】
本実施の形態に係る船舶用ステアリング機構5は、2つの船外機3を備える船舶1に適用されたが、適用される船舶の形式に制限はなく、船内外機や船内機を備える船舶、例えば、図10に示すような、船体にエンジン及び電気モータの少なくとも1つを内蔵し、ウォータージェット53の推力によって航行する船舶であるジェットボート54に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 船舶、3 船外機、4 操船席、5 船舶用ステアリング機構、11 ステアリングホイール、18 リモコンECU、28 中央部、29 ホイール部、30~32,51, スポーク部、36 ヘディングホールドスイッチ、37 コースホールドスイッチ、38,39 方位変更スイッチ、44 フィッシュポイントスイッチ、45 ステーポイントスイッチ、46 ドリフトポイントスイッチ、47,48 推力レベル設定スイッチ、54 ジェットボート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10