(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074308
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】穀物糖化液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C13K 1/06 20060101AFI20230522BHJP
A23L 7/104 20160101ALI20230522BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20230522BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20230522BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20230522BHJP
【FI】
C13K1/06
A23L7/104
A23L7/10 H
A23L2/00 C
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187192
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 舜
(72)【発明者】
【氏名】福本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】木村 真也
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
4B117
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE05
4B018MD49
4B018MD90
4B018ME11
4B018MF04
4B018MF12
4B023LC05
4B023LE30
4B023LG05
4B023LK17
4B023LP07
4B023LP20
4B117LC03
4B117LG13
4B117LK24
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】ざらつきが少なく、通液性に優れ、整腸効果も期待できる穀物糖化液を提供する。
【解決手段】穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径が60μm以下であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径200μm以下の不溶性成分の割合が体積基準で85%以上であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径300μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で5.0%以下であり、穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維量が1.0wt%以上であることを特徴とする穀物糖化液である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径が60μm以下であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径200μm以下の不溶性成分の割合が体積基準で85%以上であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径300μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で5.0%以下であり、穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維量が1.0wt%以上であることを特徴とする穀物糖化液。
【請求項2】
穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径600μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で0.10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の穀物糖化液。
【請求項3】
穀物糖化液固形分中のたんぱく質量が5.0wt%以上、穀物糖化液固形分中の灰分量が1.0wt%以上、穀物糖化液固形分中の脂質量が1.0wt%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の穀物糖化液。
【請求項4】
前記穀物糖化液の原料である穀物がオーツ麦および大麦の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の穀物糖化液。
【請求項5】
粒径200μm以下の割合が体積基準で80%以上でかつ粒径500μm以上の割合が体積基準で1.0%以下である粒度分布を有する穀物粉を原料とすることを特徴とする穀物糖化液の製造方法。
【請求項6】
ろ過処理を用いないことを特徴とする請求項5に記載の穀物糖化液の製造方法。
【請求項7】
ホモゲナイザー処理を用いないことを特徴とする請求項5または6に記載の穀物糖化液の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の穀物糖化液を用いた飲料。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の穀物糖化液を用いた甘味物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物糖化液および穀物糖化液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化液は、デンプン、セルロース等の高分子量の炭水化物を酵素等の作用により低分子量の糖類に変化させる反応から得られ、食品への甘味料として幅広く利用されている。また、糖化液の原料としては穀物を使用することも多く、穀物の処理方法についての検討がなされている。
【0003】
特開平5-137545号公報(特許文献1)には、玄米に澱粉や不溶性の繊維質が多く含まれることから、玄米の不溶性成分を酵素処理することにより分解し、水溶性化した玄米を原料とする飲料組成物を提供することを目的とした発明が記載されている。具体的に、特許文献1では、細かく粉砕した玄米の水分散液にプロテアーゼ、セルラーゼおよびペクチナーゼを混合し、酵素分解した後、加熱することによってα化した膨化米粉液を得、次いで、アミラーゼを混合し、酵素分解する方法が提案されており、該方法により得た玄米由来の液には、水に不溶性の物質が極めて少ないことが記載されている。また、特許文献1では、消費者の健康志向を考慮した上で糖化液が提案されているとは認められず、糖化液中での栄養素や機能性成分についての検討が十分になされているとはいえない。
【0004】
特開2009-207359号公報(特許文献2)には、穀物を原料とし、該原料と温水と液化酵素としてアミラーゼを粉砕機に投入し、該粉砕機内に得られる混合液中の該原料の粉砕・分散・溶解・α化・液化の各処理を一挙に行い、得られる流動性の処理液を、該粉砕機に接続せしめた通液管内を流れてその前方に設けた加熱装置により該処理液中の酵素の失活処理を行うことを特徴とする穀物原液の連続製造法が記載され、これにより、飲料などに適した安定した穀物原液を原料投入から短時間で高能率に連続製造することができるとしている。特許文献2では、原料である穀物として粉砕物を用いることが記載されているものの、連続製造される穀物原液中での不溶性成分やその粒径についての検証は行われていない。また、特許文献2は、生産効率の向上を目的とする発明を記載する文献であり、穀物糖化液に期待される栄養成分についての教示もない。
【0005】
特開2020-39283号公報(特許文献3)は、穀類を含有する原料液に対して特定の酵素による酵素処理を行う穀類液化物の製造方法に関する発明を記載し、これによって、粘度が低減されつつも、遊離糖含有量が抑制された穀類液化物を得ることができると記載されている。また、特開2021-40553号公報(特許文献4)は、特許文献3に記載される穀類液化物の製造方法において焙煎された穀類を用いることを記載し、焙煎することが低粘度化に効果的であると記載されている。特許文献3及び4は、栄養素を高める観点から、穀類の外皮が含まれることが好ましいことを記載し、酵素の反応性を高める観点から、穀類は微細化されていることが好ましいことを記載する。しかし、特許文献3及び4では、穀類液化物中での不溶性成分やその粒径についての検証は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-137545号公報
【特許文献2】特開2009-207359号公報
【特許文献3】特開2020-39283号公報
【特許文献4】特開2021-40553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、ざらつきが少なく、通液性に優れ、整腸効果も期待できる穀物糖化液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、不溶性食物繊維の含有量が高く、整腸作用が期待できる上、穀物糖化液中の不溶性成分の粒度分布を調整することで、ざらつきが少なく、通液性に優れる穀物糖化液を提供できることを見出した。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径が60μm以下であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径200μm以下の不溶性成分の割合が体積基準で85%以上であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径300μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で5.0%以下であり、穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維量が1.0wt%以上であることを特徴とする穀物糖化液である。
【0010】
本発明の穀物糖化液の好適例においては、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径600μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で0.10%以下である。
【0011】
本発明の穀物糖化液の他の好適例においては、穀物糖化液固形分中のたんぱく質量が5.0wt%以上、穀物糖化液固形分中の灰分量が1.0wt%以上、穀物糖化液固形分中の脂質量が1.0wt%以上である。
【0012】
本発明の穀物糖化液の他の好適例においては、前記穀物糖化液の原料である穀物がオーツ麦および大麦の少なくとも一方を含む。
【0013】
また、本発明の第2の態様は、粒径200μm以下の割合が体積基準で80%以上でかつ粒径500μm以上の割合が体積基準で1.0%以下である粒度分布を有する穀物粉を原料とすることを特徴とする穀物糖化液の製造方法である。
【0014】
本発明の穀物糖化液の製造方法の好適例においては、ろ過処理を用いない。
【0015】
本発明の穀物糖化液の製造方法の他の好適例においては、ホモゲナイザー処理を用いない。
【0016】
また、本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に従う穀物糖化液を用いた飲料である。
【0017】
また、本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様に従う穀物糖化液を用いた甘味物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1および第2の態様によれば、ざらつきが少なく、通液性に優れ、整腸効果も期待できる穀物糖化液を提供することができる。また、本発明の第3および第4の態様によれば、かかる穀物糖化液を用いた飲料および甘味物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、穀物糖化液、穀物糖化液の製造方法、飲料および甘味物に関する。
【0020】
本発明の1つの態様は、穀物糖化液である。本明細書において「穀物糖化液」とは、穀物を原料として用い、穀物の液化および糖化を経て製造される液であり、例えば、甘味料等として利用可能である。
【0021】
穀物糖化液の主な原料は、穀物および水(好ましくは、純水)である。ここで、穀物としては、糖化液中に食物繊維を含有させることのできる穀物であれば、特に制限されるものではなく、例えば、米、小麦、トウモロコシ、モロコシ、ヒエ、アワ、キビ、大麦、オーツ麦、ライ麦等が挙げられる。本発明において、穀物糖化液の原料である穀物は、オーツ麦および大麦の少なくとも一方を含むことが好ましく、オーツ麦であることが特に好ましい。オーツ麦および大麦は、水溶性食物繊維であるβ-グルカンが多く含まれており、健康志向の糖化液を提供する観点から好ましい。なお、大麦は酸味や苦味がある一方で、オーツ麦には癖がないため、美味しい糖化液を提供する観点からもオーツ麦は好適である。
【0022】
本発明において、オーツ麦および/または大麦に加えて他の穀物を原料として用いる場合、穀物中におけるオーツ麦および大麦の合計は、少なくとも50wt%以上であることが好ましく、80~100wt%であることが更に好ましい。
【0023】
本発明において、原料である穀物は、ざらつきが少なく、通液性に優れると共に、穀物が持つ栄養成分を多く含む糖化液を提供する観点から、オーツ麦や大麦等の穀物粉(微粉砕化されている穀物)であることが好ましく、後述するような粒度分布が調整された穀物粉であることが特に好ましい。穀物粉の製造には、ジェットミル、カッターミル、ハンマーミル、ボールミル等の粉砕機を用いた乾式粉砕を利用することが好ましい。
【0024】
本発明において、穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径は、60μm以下であることが好ましく、40μm以下であることが特に好ましい。本発明の穀物糖化液は、食物繊維を含むため、穀物糖化液中の粒度分布を調整することが好ましい。上記特定した範囲の平均粒径を有する不溶性成分は、ざらつきが少なく、通液性に優れる穀物糖化液を提供する観点から好ましい。穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径の下限値は、特に制限されるものではないが、例えば、1μm以上であり、5μm以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の穀物糖化液は、粒径200μm以下の不溶性成分の割合が、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づき体積基準で85%以上であることが好ましく、97%以上であることが特に好ましい。粒径200μm以下の不溶性成分の割合が体積基準で85%以上であれば、飲んだ時のざらつきを軽減することができる。粒径200μm以下の不溶性成分の割合の上限値は、特に制限されるものではなく、例えば、粒径200μm以下の不溶性成分の割合を穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づき体積基準で100%とすることも可能である。
【0026】
本発明の穀物糖化液は、粒径300μm以上の不溶性成分の割合が、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づき体積基準で5.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。粒径300μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で5.0%以下であれば、通液性を向上でき、例えば飲料製造ラインで一般的に使用される60メッシュに通液することが可能であり、不溶性成分を除去せずに飲料の製造に使用可能である。粒径300μm以上の不溶性成分の割合の下限値は、特に制限されるものではなく、例えば、粒径300μm以上の不溶性成分の割合を穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づき体積基準で0.0%とすることも可能である。
【0027】
本発明の穀物糖化液は、通液性の観点から、粒径600μm以上の不溶性成分の割合が、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づき体積基準で0.10%以下であることが好ましく、粒径600μm以上の不溶性成分が存在しないことが特に好ましい。
【0028】
本明細書において「穀物糖化液中の不溶性成分」とは、穀物糖化液を構成する成分のうち糖化液中で溶解していない成分であり、粒度分布の測定対象となる成分である。本発明の穀物糖化液において「穀物糖化液中の不溶性成分」は、主として不溶性食物繊維から構成される。
【0029】
本明細書において「穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径」は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により測定した粒度分布から求めることができる。また、特定の粒径範囲を有する不溶性成分の割合もレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により体積基準で測定した粒度分布から求めることができる。マイクロトラック法の粒度分布は、非球状の物質にレーザーを当てて散乱される光を一定角度毎に検出・演算処理することにより、球に近似した粒径とその頻度を求めるものである。上記のとおり、本発明において、粒子(不溶性成分や後述の穀物粉)の割合は体積基準とする。
【0030】
本発明において、このような粒度分布を有する糖化液を得るためには、粒度分布が調整された穀物粉を原料として用いることが好ましい。
【0031】
本発明において、原料の穀物粉は、平均粒径が70μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。原料の穀物粉の平均粒径の下限値は、例えば、1μm以上である。また、原料の穀物粉は、粒径200μm以下の割合が体積基準で80%以上でかつ粒径500μm以上の割合が体積基準で1.0%以下である粒度分布を有することが好ましい。ここで、穀物粉中の粒径200μm以下の割合は、体積基準で95%以上であることが特に好ましく、その上限値に制限はなく、例えば100%とすることも可能である。穀物粉中の粒径500μm以上の割合は、体積基準で0.5%以下であることが特に好ましく、その下限値に制限はなく、例えば0.0%とすることも可能である。
【0032】
本明細書において、穀物粉の平均粒径は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により測定した粒度分布から求めることができる。また、特定の粒径範囲を有する穀物粉の割合もレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により体積基準で測定した粒度分布から求めることができる。マイクロトラック法の粒度分布は、非球状の物質にレーザーを当てて散乱される光を一定角度毎に検出・演算処理することにより、球に近似した粒径とその頻度を求めるものである。
【0033】
本発明の穀物糖化液は、食物繊維を含むことが好ましい。食物繊維は、食物中に含まれている、人の消化酵素で消化することのできない物質であり、通常、水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維に大別される。食物繊維の有効性については、例えば、改訂増補版 機能性食品素材便覧(薬事日報社、2006年発行)において説明されている。
【0034】
不溶性食物繊維は、便通を整えて便秘を防ぐ効果があり、また、不溶性食物繊維を摂ることでビフィズス菌などが増えて腸内環境が改善される。本発明の穀物糖化液は、不溶性食物繊維を含むことで、整腸効果が期待できる。不溶性食物繊維としては、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。本発明において、不溶性食物繊維は、上述した穀物に由来する不溶性食物繊維であることが好ましい。例えば、後述する穀物糖化液の製造方法において、液化工程および糖化工程後、ろ過処理等により不溶性食物繊維を除去せずに糖化液を製造することで、不溶性食物繊維の含有量が高い穀物糖化液が得られる。また、穀物糖化液の原料としてオーツ麦を用いることで、不溶性食物繊維の含有量を高めることができる。穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維の量は、1.0wt%以上であることが好ましく、5.0wt%以上であることが特に好ましい。一方、穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維の量は、例えば10.0wt%以下であり、8.0wt%以下であることが好ましい。
【0035】
水溶性食物繊維は、血糖値の上昇やコレステロールを減らす効果、糖質の吸収を緩やかにして、食後血糖値の急激な上昇を抑える効果、さらには整腸効果もある。本発明の穀物糖化液は、水溶性食物繊維を含むことでも、整腸効果が期待できる。水溶性食物繊維としては、グルカン、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、アガロース、アガロペクチン、カラギーナン、ポリデキストロース等が挙げられる。本発明において、水溶性食物繊維は、上述した穀物に由来する水溶性食物繊維であることが好ましい。特に、オーツ麦および大麦には水溶性食物繊維としてβ-グルカンが多く含まれているため、オーツ麦および大麦に由来する水溶性食物繊維は、健康志向の糖化液を提供する観点から好ましい。例えば、後述する穀物糖化液の製造方法において、原料中に含まれる水溶性食物繊維、特にはβ-グルカンを酵素分解しないまま、液化・糖化を行うことで、水溶性食物繊維の含有量が高い穀物糖化液が得られる。また、穀物糖化液の原料としてオーツ麦を用いることで、水溶性食物繊維の含有量を高めることができる。穀物糖化液固形分中の水溶性食物繊維の量は、0.6wt%以上であることが好ましく、3.0wt%以上であることが特に好ましい。一方、穀物糖化液固形分中の水溶性食物繊維の量は、例えば8.0wt%以下であり、6.0wt%以下であることが好ましい。
【0036】
本明細書において「穀物糖化液固形分」とは、穀物糖化液を構成する成分から水を除いた成分であり、主として食物繊維及び糖類から構成され、本発明の好ましい実施形態においては、後述のようにさらなる栄養成分も豊富に含まれる。なお、穀物糖化液中の固形分の量は、穀物糖化液の質量から水分量を除いて算出することができる。ここで、水分量は、公知の測定法を適宜用いて測定することができ、例えば、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(文部科学省発行)の常圧加熱乾燥法により測定することができる。穀物糖化液中の固形分量は、例えば、10~55wt%である。
【0037】
本明細書において「穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維量」および「穀物糖化液固形分中の水溶性食物繊維量」は、公知の測定法を適宜用いて測定することができる。例えば、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(文部科学省発行)の酵素-重量法(プロスキー変法)により穀物糖化液中の食物繊維量を測定することができ、下記式から穀物糖化液固形分中の食物繊維量を求めることができる。
穀物糖化液中の食物繊維量/穀物糖化液中の固形分量×穀物糖化液全体量
【0038】
本発明において、穀物糖化液は、当然に糖質を含むものであるが、穀物由来の他の栄養成分を多く含む糖化液であることが好ましい。穀物糖化液は、上述の食物繊維に加えて、たんぱく質、ミネラル、脂質等の栄養成分を多く含むことが好ましい。このような栄養成分を多く含む糖化液は、例えば、後述する穀物糖化液の製造方法においてろ過処理等を行わずに糖化液を製造することによって得られる。
【0039】
本発明の一実施形態において、穀物糖化液固形分中のたんぱく質量は、5.0wt%以上であることが好ましく、12.0wt%以上であることが特に好ましい。一方、穀物糖化液固形分中のたんぱく質量は、例えば20wt%以下であり、15wt%以下であることが好ましい。
【0040】
本明細書において「穀物糖化液固形分中のたんぱく質量」は、公知の測定法を適宜用いて測定することができる。例えば、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(文部科学省発行)の窒素定量置換法により穀物糖化液中のたんぱく質量を測定することができ、下記式から穀物糖化液固形分中のたんぱく質量を求めることができる。
穀物糖化液中のたんぱく質量/穀物糖化液中の固形分量×穀物糖化液全体量
【0041】
本発明の一実施形態において、穀物糖化液固形分中の灰分量は、1.0wt%以上であることが好ましく、1.5wt%以上であることが特に好ましい。一方、穀物糖化液固形分中の灰分量は、例えば5.0wt%以下であり、3.0wt%以下であることが好ましい。
【0042】
本明細書において「穀物糖化液固形分中の灰分量」は、公知の測定法を適宜用いて測定することができる。例えば、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(文部科学省発行)の直接灰化法により穀物糖化液中の灰分量を測定することができ、下記式から穀物糖化液固形分中の灰分量を求めることができる。
穀物糖化液中の灰分量/穀物糖化液中の固形分量×穀物糖化液全体量
【0043】
本発明の一実施形態において、穀物糖化液固形分中の脂質量は、1.0wt%以上であることが好ましく、5.0wt%以上であることが特に好ましい。一方、穀物糖化液固形分中の脂質量は、例えば10wt%以下であり、7wt%以下であることが好ましい。
【0044】
本明細書において「穀物糖化液固形分中の脂質量」は、公知の測定法を適宜用いて測定することができる。例えば、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(文部科学省発行)のエーテル抽出法により穀物糖化液中の脂質量を測定することができ、下記式から穀物糖化液固形分中の脂質量を求めることができる。
穀物糖化液中の脂質量/穀物糖化液中の固形分量×穀物糖化液全体量
【0045】
本発明の一実施形態において、穀物糖化液固形分中の糖質量は、55wt%以上であることが好ましく、65wt%以上であることが特に好ましい。一方、穀物糖化液固形分中の糖質量は、例えば90wt%以下であり、75wt%以下であることが好ましい。
【0046】
本明細書において「穀物糖化液固形分中の糖質量」は、公知の測定法を適宜用いて測定することができる。例えば、穀物糖化液の全体量から水分量、たんぱく質量、脂質量、灰分量および食物繊維量を除いて穀物糖化液中の糖質量を算出することができ、下記式から穀物糖化液固形分中の糖質量を求めることができる。
穀物糖化液中の糖質量/穀物糖化液中の固形分量×穀物糖化液全体量
【0047】
本発明の穀物糖化液は、Brixが、例えば15.0~25.0である。Brixとは、可溶性固形分濃度(%)のことであり、本明細書においては、糖化液の20℃における屈折率を測定し、ICUMSA(International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis)提供の換算表に基づいて、純蔗糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値のことである。本発明の一実施形態では、糖化液を濃縮や希釈するときの濃度を調整するためにBrixが測定される。Brixは、既に知られている公知の測定法を適宜用いて測定することができ、一般的には市販の糖度計(例えば、デジタル屈折計 商品名「RX-5000α」(アタゴ社製))を用いて測定することができる。
【0048】
本発明の穀物糖化液は、25℃におけるpHが、例えば3.5~7.0であり、好ましくは4.5~6.5である。本明細書において、糖化液のpHは、公知の測定法を適宜用いて測定される。一例としては、市販のpH測定器(例えば、卓上型pHメータ 型式:F-74(HORIBA社製))を用いて測定することができる。
【0049】
本発明の別の態様は、穀物糖化液の製造方法である。本明細書では、穀物糖化液の製造方法を「本発明の穀物糖化液の製造方法」または「本発明の製造方法」とも称する。
【0050】
本発明の製造方法は、原料として穀物を用い、穀物から糖化液を製造する方法である。ここで、本発明の製造方法に使用できる「穀物」の説明については、特段の記載がない限り、上述した本発明の穀物糖化液についての「穀物」の説明が同様に当てはまる。特に、本発明の製造方法において、原料として使用される穀物は、粒径200μm以下の割合が体積基準で80%以上でかつ粒径500μm以上の割合が体積基準で1.0%以下である粒度分布を有する穀物粉であることが好ましく、粒径200μm以下の割合が体積基準で95%以上でかつ粒径500μm以上の割合が体積基準で0.5%以下である粒度分布を有する穀物粉であることが特に好ましい。このような粒度分布を有する穀物粉を原料として用いることで、ホモゲナイザー処理やろ過処理等の後処理を行わずに、上述した本発明の穀物糖化液のように、不溶性成分の粒度分布が制御された、ざらつきが少なく、通液性に優れる穀物糖化液を提供することができる。また、穀物粉は、さらに栄養成分を多く含む糖化液を提供する観点から、オーツ麦および大麦の少なくとも一方を含む穀物粉であることが好ましく、オーツ麦微粉であることが更に好ましい。
【0051】
本発明の製造方法は、ろ過処理を用いない穀物糖化液の製造方法であることが好ましい。本発明において「ろ過処理を用いない穀物糖化液の製造方法」とは、穀物を含む原料の液化工程(液化工程の前に仕込む工程を行う場合は仕込み工程)から穀物糖化液の製造が完了するまでの間にろ過処理が行われない製造方法を意味する。ろ過処理は、液化工程や糖化工程の前後で行われる場合があるが、栄養成分を多く含む糖化液を提供する観点からは、ろ過処理を用いないことが好ましい。本発明の製造方法であれば、上述のような粒度分布を有する穀物粉を原料とすることで、ろ過処理を用いない穀物糖化液の製造方法を実現することが可能である。
【0052】
本発明の製造方法は、ホモゲナイザー処理を用いない穀物糖化液の製造方法であることが好ましい。本発明において「ホモゲナイザー処理を用いない穀物糖化液の製造方法」とは、穀物を含む原料の液化工程(液化工程の前に仕込む工程を行う場合は仕込み工程)から穀物糖化液の製造が完了するまでの間にホモゲナイザー処理が行われない製造方法を意味する。ホモゲナイザー処理は、糖化液中に含まれる不溶性食物繊維をせん断により微細化することが可能であり、所望の粒度分布に調整することができるものの、ホモゲナイザーは、通常、大型の装置であり、穀物糖化液の製造過程において必要性がないのであれば、費用や設置スペースの観点からホモゲナイザーを使用しないことが望ましい。本発明の製造方法であれば、上述のような粒度分布を有する穀物粉を原料とすることで、ホモゲナイザー処理を用いない穀物糖化液の製造方法を実現することが可能である。
【0053】
本発明の製造方法は、液化工程および糖化工程を含み、典型的には、液化工程の前に仕込み工程が行われることが好ましい。本発明の一実施形態において、穀物糖化液の製造方法は、仕込み工程、液化工程および糖化工程を含む。本発明の製造方法では、少なくとも液化工程および糖化工程を経て、原料である穀物から糖化液を製造することができる。本発明の穀物糖化液の説明において記載したとおり、穀物糖化液の主な原料は、穀物および水である。
【0054】
1.仕込み工程
本発明の製造方法の典型的な実施形態においては、粉砕処理した穀物を原材料として用い、当該穀物の粉砕物を純水等の水媒体と混合して仕込み液を得る。その際の穀物と水媒体の割合は、所望する糖類の割合に応じて適宜選択することが可能である。一例としては、穀物と水の合計に対する穀物の割合が10~60wt%、好ましくは25~45wt%となるように純水等の水媒体の量が調整される。
【0055】
本発明の製造方法の一実施形態においては、液化工程を行う前に、セルラーゼ(EC3.2.1.4)を用いることも好ましい。穀物と水の合計に対する穀物の割合が高い場合には、セルラーゼを用いて仕込み液の粘度を低減することができる。他方で、水溶性食物繊維の含有量が高い穀物糖化液を得る場合には、セルラーゼを使用しないことが望ましい。セルラーゼの具体例として、商品名「セルクラスト1.5L」(ノボザイムズジャパン社製)等が挙げられる。
【0056】
2.液化工程
上記仕込み液中に含まれるデンプンの糖鎖を切断して、低分子化された糖類を含む液化液を得るために、液化工程を実施する。当該工程は、仕込み液に液化酵素を添加することで行われる。液化工程時において、仕込み液中における穀物の濃度は、歩留まり等を考慮して、10~60wt%であることが好ましく、25~45wt%であることが特に好ましい。なお、仕込み工程が行われない穀物糖化液の製造方法の一実施形態では、仕込み液を予め調製するのではなく、原料を反応槽に投入して反応槽中で仕込み液が調製される。
【0057】
液化工程においては、液化酵素の至適pHの範囲から、仕込み液のpHは、3.5~7.0であることが好ましく、4.5~6.5であることが特に好ましい。なお、一般的な仕込み液であれば3.5~7.0の範囲内のpHを示すので、当該仕込み液のpHを敢えて調整しなくても液化反応を進行させることができる。また、本発明の製造方法の一実施形態では、後述の糖化工程の前に液化液のpH調整を行わなくてもよい。すなわち、糖化工程で用いる糖化酵素の多くもpH3.5~7.0の範囲内に至適pHを有するので、液化工程と糖化工程のpH条件を同等の範囲に設定し得る。よって、得られた液化液のpHを糖化工程のために改めて調整し直さなくてもよい。したがって、本発明の製造方法の特に好適な実施形態では、仕込み工程から糖化工程までpHの調整を全く行わなくてもよいので、穀物糖化液の製造を更に簡素化ができる。
【0058】
液化酵素としては、至適pHが3.5~7.0、特には4.5~6.5であり且つデンプン等の糖鎖を切断して低分子の糖類に分解することができるものであれば、いずれのものも好適に利用でき、中でもα-アミラーゼ(EC3.2.1.1)が好ましい。また、耐熱性が高い酵素が好ましく、その具体例として、商品名「クライスターゼSD8」、商品名「クライスターゼT10S」(以上、天野エンザイム社製)、商品名「ターマミルSC」(ノボザイムズジャパン社製)、商品名「スピターゼHK」(長瀬産業社製)等が挙げられる。
【0059】
液化酵素の添加量は、JIS K7001:1990により測定した1液化力単位(JLU)を1unitとした場合に、原料である穀物1gに対して、例えば1unit~150unit、好ましくは10unit~100unit、より好ましくは20unit~70unitである。1unit以上であれば、液化反応は十分に進み、150unit以下であれば経済的である。
【0060】
液化工程における反応温度および反応時間は、添加する液化酵素の種類によって適宜調整することが可能である。一例として、65℃~120℃の反応温度、好ましくは80℃~110℃の反応温度であって、0.01時間~24時間の反応時間、好ましくは0.1時間~12時間の反応時間、より好ましくは0.1時間~2時間の反応時間とすることが可能である。
【0061】
穀物中には、デンプンに働いて液化するα-アミラーゼ、デキストリンに働いてオリゴ糖を生成するデキストリナーゼ、β-グルカン等の多糖類に作用する酵素等の内在性酵素が存在する。これら内在性酵素が働くと、場合により、本発明の好適な成分の損失につながり得る。したがって、液化工程においては内在性酵素を働かせないことが好ましい一態様であり得る。
【0062】
この目的のために、本発明の製造方法の好適な一実施形態では、仕込み液を上述の反応温度範囲に昇温した後に液化酵素を加え、反応中も上述の反応温度範囲内に維持し、そのような温度域で液化反応を行うことができる。
【0063】
また、本発明の製造方法の一実施形態においては、仕込み液をできるだけ速やかに上述の反応温度範囲に昇温することで、原料の内在性酵素を失活させて、その働きを可能な限り抑制することが好ましい。例えば、仕込み液を速やかに昇温して、少なくとも5分以内、好ましくは1分以内、より好ましくは10秒以内に、原料の内在性酵素が働く温度域を通過させることが好ましい。このような急速な昇温が可能な装置として、仕込み液に直接スチームジェットを当て、瞬時に加熱・ミキシングすることが可能なジェットクッカーを用いることができる。そのようなジェットクッカーとして、商品名「ノリタケクッカー・スチームミキサー」(ノリタケ社製)、商品名「ジェットクッカー」(ハイドロサーマル社)等が市販されており、本実施形態でも使用することができる。また、高圧下でミキシングにより、添加した液化酵素を十分に作用させることもできる。
【0064】
なお、本発明の製造方法の別の実施形態においては、上記ジェットクッカーによる液化反応後の液化液を、例えばバッチタンク内で、液化酵素に最適な温度域に維持して、更に液化反応を熟成させることも可能である。
【0065】
3.糖化工程
上記液化液中の低分子化された糖類を更に分解して、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類等を含む糖化液を得るために、糖化工程を実施する。当該工程は、液化液に糖化酵素を添加することで行われる。
【0066】
糖化酵素の例として、β-アミラーゼ(EC3.2.1.2)や糖化型α-アミラーゼ(EC3.2.1.1)、グルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)、プルラナーゼ(ECEC3.2.1.41)、トランスグルコシダーゼ(EC3.2.1.20)、グルカナーゼ(EC3.2.1.6)、セルラーゼ(EC3.2.1.4)等を挙げることができる。これらの酵素は単独でも使用できるが、複数の酵素を組み合わせて使用することも好ましい。糖化酵素は、市販のものでもよく、具体例としては、β-アミラーゼとして、商品名「β-アミラーゼL/R」(ナガセケムテックス社製)、商品名「β-アミラーゼFアマノ」(天野エンザイム社製)、商品名「ハイマルトシンGL」(エイチビィアイ社製)等が挙げられ、糖化型α-アミラーゼとして、商品名「ファンガミル」(ノボザイムズ社製)等が挙げられ、グルコアミラーゼとして、商品名「グルコチーム#20000」、商品名「デナチームGSA/R」(以上、長瀬産業社製);商品名「グルクザイムAF6」(天野エンザイム社製);商品名「スミチーム」(新日本化学工業社製);商品名「グルターゼAN」(エイチビィアイ社製);商品名「AMG」(ノボザイムズジャパン社製);商品名「AMG300L」(ノボザイムズジャパン社製);商品名「GODO-ANGH」(合同酒精社製);および商品名「ユニアーゼ30」(ヤクルト薬品工業社製)等が挙げられる。また、市販のプルラナーゼとしては、商品名「プルラナーゼ「アマノ」3」(天野エンザイム社製)等が挙げられ、トランスグルコシダーゼとしては、商品名「トランスグルコシダーゼL「アマノ」」(天野エンザイム社製)、商品名「トランスグルコシダーゼL-500」(ジェネンコア社製)等が挙げられ、グルカナーゼとして商品名「Finizym250L」(ノボザイムズジャパン社製)等が挙げられ、セルラーゼとして商品名「セルクラスト1.5L」(ノボザイムズジャパン社製)等が挙げられる。これらの酵素は、概ね、pH3.5~7.0で活性を示し、pH4.5~6.5の至適pHを有している。
【0067】
糖化酵素の添加量は、pH4.5で40℃、30分間、アミロースに添加して反応させた結果グルコースを1mg生産する酵素量を1unitとした場合に、原料である穀物1gに対して、例えば10unit~1000unit、好ましくは20unit~900unit、より好ましくは500unit~700unitである。1000unit以下であれば不快な風味を抑制でき、10unit以上であれば、糖化反応は十分に進む。
【0068】
糖化工程における反応温度および反応時間は、添加する糖化酵素の種類によって適宜調整することが可能である。一例として、30℃~65℃の反応温度、好ましくは40℃~65℃の反応温度、より好ましくは45℃~65℃の反応温度であって、1時間~24時間の反応時間、好ましくは1.5時間~10時間の反応時間、より好ましくは2時間~4時間とすることが可能である。
【0069】
なお、本発明の製造方法においては、糖化工程の際に、所望に応じてプロテアーゼやリパーゼ等の他の酵素を一緒に添加してもよい。
【0070】
本発明の製造方法により得られる穀物糖化液は、上述した本発明の穀物糖化液であることが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、上述の製造方法により得られる「穀物糖化液」の説明については、特段の記載がない限り、上述した本発明の穀物糖化液についての説明が同様に当てはまる。
【0071】
例えば、本発明の製造方法により得られる穀物糖化液は、穀物糖化液中の不溶性成分の平均粒径が60μm以下であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径200μm以下の不溶性成分の割合が体積基準で85%以上であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径300μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で5.0%以下であり、穀物糖化液固形分中の不溶性食物繊維量が1.0wt%以上であることが好ましく、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径600μm以上の不溶性成分の割合が体積基準で0.10%以下であることが更に好ましい。また、本発明の製造方法により得られる穀物糖化液は、穀物糖化液固形分中のたんぱく質量が5.0wt%以上、穀物糖化液固形分中の灰分量が1.0wt%以上、穀物糖化液固形分中の脂質量が1.0wt%以上であること好ましい。
【0072】
本発明の別の態様は、本発明の穀物糖化液または本発明の製造方法により得られた穀物糖化液を用いた飲料である。ここで、本発明の飲料として、典型的には、上述した本発明の穀物糖化液が甘味料として使用され、本発明の穀物糖化液または本発明の製造方法により得られた穀物糖化液を含む飲料が挙げられ、その具体例として、清涼飲料(炭酸飲料、果実飲料、スポーツ飲料、茶系飲料など)、アルコール飲料、シロップ等がある。
【0073】
本発明の別の態様は、本発明の穀物糖化液または本発明の製造方法により得られた穀物糖化液を用いた甘味物である。ここで、本発明の甘味物として、典型的には、上述した本発明の穀物糖化液が甘味料として使用され、本発明の穀物糖化液または本発明の製造方法により得られた穀物糖化液を含む甘味物が挙げられ、その具体例として、ゼリー、プリン、アイスクリーム、キャンディ、ソフトキャンディ、ガムなどの菓子等がある。
【実施例0074】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
(原料情報)
実施例または比較例で用いた穀物粉は、以下のとおりである。
実施例1:オーツ麦微粉(入手元:アイディフーズ株式会社)
実施例2:オーツ麦微粉(入手元:カーギルジャパン合同会社)
実施例3:オーツ麦微粉(入手元:伊藤忠商事株式会社)
実施例4:オーツ麦微粉(入手元:東邦物産株式会社)
実施例5:オーツ麦微粉(入手元:株式会社ラクトジャパン)
比較例1:オーツ麦粉(入手元:大西商事株式会社)
比較例2:オーツ麦粉(入手元:カーギルジャパン合同会社)
比較例3:オーツ麦粉(入手元:兼松株式会社)
比較例4:オーツ麦粉(入手元:大西商事株式会社)
【0076】
(実施例1~実施例5)
原料である穀物としてオーツ麦微粉を用いた実施例である。実施例1~5のそれぞれで用いたオーツ麦微粉は、上記(原料情報)に記載のとおりである。
純水とオーツ麦微粉の重量比率が55:45となるように反応槽へ仕込み、セルラーゼである商品名「セルクラスト1.5L」(ノボザイムズジャパン社製)を、原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.10%の濃度で添加し、50℃で1時間反応させた。次に、液化酵素であるα-アミラーゼとして商品名「クライスターゼT10S」(天野エンザイム社製)を、原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.3%の濃度で添加し、90℃で1時間反応させ、反応液を得た。
次に、上記反応液を反応槽中で60℃まで冷却し、糖化酵素としてβ-アミラーゼである商品名「β-アミラーゼL/R」(ナガセケムテックス社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.26%の濃度で、プルラナーゼである商品名「プルラナーゼアマノ3」(天野エンザイム社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.13%の濃度で、トランスグルコシダーゼである商品名「トランスグルコシダーゼLアマノ」(天野エンザイム社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.20%の濃度で上記反応液中に添加した。その後、60℃で3時間糖化反応を行ったのち、90℃まで加温して酵素を失活させた。
これにより、オーツ麦由来の糖化液を調製した。なお、実施例1~5では、ろ過処理およびホモゲナイザー処理のいずれも行わずに穀物糖化液の調製が行われた。
【0077】
(比較例1~比較例3)
原料である穀物としてオーツ麦粉を用いた比較例である。比較例1~3のそれぞれで用いたオーツ麦粉は、上記(原料情報)に記載のとおりである。
純水とオーツ麦粉の重量比率が55:45となるように反応槽へ仕込み、セルラーゼである商品名「セルクラスト1.5L」(ノボザイムズジャパン社製)を、原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.10%の濃度で添加し、50℃で1時間反応させた。次に、液化酵素であるα-アミラーゼとして商品名「クライスターゼT10S」(天野エンザイム社製)を、原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.3%の濃度で添加し、90℃で1時間反応させ、反応液を得た。
次に、上記反応液を反応槽中で60℃まで冷却し、糖化酵素としてβ-アミラーゼである商品名「β-アミラーゼL/R」(ナガセケムテックス社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.26%の濃度で、プルラナーゼである商品名「プルラナーゼアマノ3」(天野エンザイム社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.13%の濃度で、トランスグルコシダーゼである商品名「トランスグルコシダーゼLアマノ」(天野エンザイム社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.20%の濃度で上記反応液中に添加した。その後、60℃で3時間糖化反応を行ったのち、90℃まで加温して酵素を失活させた。
これにより、オーツ麦由来の糖化液を調製した。なお、比較例1~3では、ろ過処理およびホモゲナイザー処理のいずれも行わずに穀物糖化液の調製が行われた。
【0078】
(比較例4)
原料である穀物としてオーツ麦粉を用いた比較例である。比較例4で用いたオーツ麦粉は、上記(原料情報)に記載のとおりである。
純水とオーツ麦粉の重量比率が75:25となるように反応槽へ仕込み、セルラーゼである商品名「セルクラスト1.5L」(ノボザイムズジャパン社製)を、原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.10%の濃度で添加し、50℃で1時間反応させた。次に、液化酵素であるα-アミラーゼとして商品名「クライスターゼT10S」(天野エンザイム社製)を、原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.3%の濃度で添加し、90℃で1時間反応させ、反応液を得た。
次に、上記反応液を反応槽中で60℃まで冷却し、糖化酵素としてβ-アミラーゼである商品名「β-アミラーゼL/R」(ナガセケムテックス社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.26%の濃度で、プルラナーゼである商品名「プルラナーゼアマノ3」(天野エンザイム社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.13%の濃度で、トランスグルコシダーゼである商品名「トランスグルコシダーゼLアマノ」(天野エンザイム社製)を原料である穀物に対する質量基準(W/W)で0.20%の濃度で上記反応液中に添加した。その後、60℃で3時間糖化反応を行ったのち、90℃まで加温して酵素を失活させた。酵素の失活後に得られた糖化液を、ろ紙(東洋濾紙社製、No.2)上に濾過助剤として珪藻土をコートしたヌッチエに吸引しながら通液してろ過した後、エバポレーターにて濃縮した。
これにより、オーツ麦由来の糖化液を調製した。なお、比較例4では、ホモゲナイザー処理を行わずに穀物糖化液の調製が行われた。
【0079】
(分析方法)
[Brix]
デジタル屈折計 商品名「RX-5000α」(アタゴ社製)を用いて、得られた糖化液のBrixを測定した。測定温度は20℃であった。
【0080】
[pH]
卓上型pHメータ 型式:F-74(HORIBA社製)を用いて、得られた糖化液のpHを測定した。測定温度は25℃であった。
【0081】
[成分分析方法]
日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(文部科学省発行)に記載される各成分量を測定した。なお、各成分量を求める際に用いた方法の詳細は、以下のとおりである。
・水分:常圧加熱乾燥法
・たんぱく質:窒素定量置換法
・脂質:エーテル抽出法
・灰分:直接灰化法
・食物繊維(不溶性食物繊維、水溶性食物繊維):酵素-重量法(プロスキー変法)
・糖質:以下の式により算出する。
糖質量=100-(水分量+たんぱく質量+脂質量+灰分量+食物繊維量)
式中、糖質量、水分量、たんぱく質量、脂質量、灰分量および食物繊維量はいずれも糖化液中の割合(wt%)を表す。
【0082】
[粒度測定]
マイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、原料として用いた穀物および得られた糖化液の粒度分布を測定し、平均粒径等を求めた。測定溶媒には純水を用い、サンプルはスポイト等にて数滴吸上げサンプル投入口に入れ、超音波処理した後に測定した。測定条件は、分布表示:体積、粒径区分選択:標準、測定範囲:0.021~2,000μm、チャンネル数:132、測定時間:10秒、測定回数:1回、粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.81、粒子形状:非球形、溶媒屈折率:1.333とした。
【0083】
[通液性評価]
目開き300μmの篩に、Brix20に調整した糖化液を500g乗せ、流水で30秒間通液させ、篩上に残存する粒子の有無を目視で確認した。篩上に粒子が確認できた糖化液を「有」と評価し、篩上に粒子が確認できなかった糖化液を「無」と評価した。
【0084】
[ざらつき評価]
得られた糖化液をBrix20に調整し、Brixが調整された糖化液を食した際の舌触りについて、成人パネリスト7人による官能試験を行った。パネリストからは、ざらつきが気になる、または、ざらつきが気にならない、という2つの評価基準から回答を得た。ざらつきが気になると回答した人数を集計した。
【0085】
[風味評価]
得られた糖化液をBrix20に調整し、Brixが調整された糖化液を食した際の風味について、成人パネリスト7人により官能試験を行った。パネリストからは、オーツ麦の風味が弱い、または、オーツ麦の風味が強い、という2つの評価基準から回答を得た。オーツ麦の風味が弱いと回答した人数を集計した。
【0086】
(結果)
表1は、原料として用いたオーツ麦の粒度測定結果を示す。表1に示される粒度分布の割合は、体積基準の頻度(%)として表される。
表2は、得られた糖化液の粒度測定結果、BrixおよびpHの分析結果、ならびに通液性、ざらつきおよび風味の評価結果を示す。表2に示される粒度分布の割合は、体積基準の頻度(%)として表される。
表3は、得られた糖化液の栄養成分分析結果を示す。表3に示される数値は、糖化液固形分中の各成分量として示される。
【0087】
表2から、実施例1~5の糖化液は、不溶性成分の平均粒径が60μm以下であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径200μm以下の不溶性成分の割合が体積基準で85%以上であり、穀物糖化液中の不溶性成分の全量に基づく粒径300μm以上の不溶性成分の割合が5.0%以下であって、ざらつきが少なく、通液性に優れる穀物糖化液であることが分かる。表3から、実施例1~5の糖化液は、ろ過処理を用いない製造方法によって得られた糖化液であり、栄養成分を多く含む糖化液であることが分かる。また、実施例1~5の結果から分かるように、表1に示される粒径200μm以下の割合が80%以上でかつ粒径500μm以上の割合が1.0%以下である粒度分布を有する穀物粉を原料として用いることで、ホモゲナイザー処理やろ過処理を用いなくても、不溶性成分の粒度分布が制御された糖化液を得ることができる。
【0088】
比較例4の糖化液は、実施例と同程度の粒度分布を有する糖化液であって、ざらつきが少なく、通液性に優れる穀物糖化液であるが(表2参照)、その製造過程においてろ過処理が行われており、糖化液中に含まれる栄養成分の量が少ない(表3参照)。特に、比較例4では、整腸効果等が期待される不溶性食物繊維の存在が確認できなかった(表3参照)。
【0089】
【0090】
【0091】