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特開2023-74324マット材、排ガス浄化装置及びマット材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074324
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】マット材、排ガス浄化装置及びマット材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187214
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】向後 雄太
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA18
3G091AB01
3G091AB13
3G091BA09
3G091BA39
3G091GA06
3G091GB17X
3G091HA27
3G091HA29
(57)【要約】
【課題】より高い面圧と保持力を有するマット材を提供すること。
【解決手段】無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有するマット材であって、前記交絡点の密度ρは、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあり、前記マット材の表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在することを特徴とするマット材。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有するマット材であって、
前記交絡点の密度ρは、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあり、
前記マット材の表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在することを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記無機物は、無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー、無機接着剤又は無機接着シートである、請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
前記無機物が、前記マット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び、前記マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域を除いた中央部に対して、前記マット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び/又は、前記マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域に多く存在する、請求項1又は2に記載のマット材。
【請求項4】
更に有機物を含有している、請求項1~3のいずれか一項に記載のマット材。
【請求項5】
前記有機物は、有機バインダ又は有機シートである、請求項4に記載のマット材。
【請求項6】
前記無機物としての無機バインダ及び前記有機物としての有機バインダからなる凝集体が、前記無機繊維の表面に添着している、請求項4に記載のマット材。
【請求項7】
更に高分子系分散剤を含有している、請求項1~5のいずれか一項に記載のマット材。
【請求項8】
摩擦係数/せん断係数≧0.8である、請求項1~7のいずれか一項に記載のマット材。
【請求項9】
面圧が110kPa以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載のマット材。
【請求項10】
排ガス処理体と、
前記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、
前記排ガス処理体と前記金属ケーシングとの間に配置され、前記排ガス処理体を保持するマット材とを備える排ガス浄化装置であって、
前記マット材は、請求項1~9のいずれか一項に記載のマット材である、ことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項11】
無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有し、前記交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物を添着させる無機物添着工程を有することを特徴とするマット材の製造方法。
【請求項12】
更に、前記マットに有機物を添着させる有機物添着工程を有している、請求項11に記載のマット材の製造方法。
【請求項13】
無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有し、前記交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物と有機物とを同時に添着させる添着工程を有することを特徴とするマット材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット材、排ガス浄化装置及びマット材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NO等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設されるマット材(保持シール材)とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。このマット材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排気ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
マット材の保持力を高めるために摩擦係数を上げることが考えられるが、摩擦係数を上げる技術として、特許文献1では、無機繊維材料マットの表面に無機コロイド粒子を含む摩擦層を設けた保持材料が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、無機層の表面に無機粒子等を含む摩擦誘発性材料を備え、更に上記摩擦誘発性材料の一部を覆うように摩擦の小さい層を備えるマットが開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、マット状の本体部と、加熱されることによって接着性を発現する無機接着剤を含む無機シートを備えるマット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009-508044号公報
【特許文献2】特表2014-502688号公報
【特許文献3】特開2020-84962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に開示されているマット材はニードル密度が高いと、反発力が低いため面圧が低く、マット材の保持力が充分でないという問題があった。
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、より高い面圧と保持力を有するマット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ニードル密度が低いマットを用い、マットの表面に無機物を添着することでマット材の面圧と摩擦係数とを高くすることができ、保持力が高いマット材が得られることを見出した。
すなわち、本発明のマット材は、無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有するマット材であって、上記交絡点の密度ρは、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあり、上記マット材の表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在することを特徴とする。
本発明のマット材は、上記の構成であるため、反発力が高く、面圧が向上する。また、マット材の表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在するため、マット材の表面に凹凸が形成されて摩擦係数が高くなり、マット材が高い保持力を有する。
【0010】
本発明のマット材は、上記無機物が、無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー、無機接着剤又は無機接着シートであることが好ましい。
【0011】
本発明のマット材は、上記無機物が、上記マット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び、上記マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域を除いた中央部に対して、上記マット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び/又は、上記マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域に多く存在することが好ましい。
無機物が上記領域に存在すると、マット材がより高い摩擦係数を有する。
【0012】
本発明のマット材は、更に有機物を含有していることが好ましい。
マット材が更に有機物を含有することにより、無機繊維同士の接着性を向上させ、マット材のハンドリング時に無機繊維が飛散することを防止する。
【0013】
本発明のマット材は、上記有機物が有機バインダ又は有機シートであることが好ましい。
本発明のマット材は、上記無機物としての無機バインダ及び上記有機物としての有機バインダからなる凝集体が、上記無機繊維の表面に添着していることが好ましい。
本発明のマット材は、更に高分子系分散剤を含有していることが好ましい。
【0014】
本発明のマット材は、摩擦係数/せん断係数≧0.8であることが好ましい。
従来、マット材の保持力は一般的に摩擦係数と面圧の積で表されていたが、これではせん断係数の値に関わらず保持力が摩擦係数と面圧だけに依存し、保持力を正確に評価することができていない場合があった。
本発明者らが検討した結果、マット材は、摩擦係数だけが高くてもマット材がせん断して排ガス処理体などの担体が脱落してしまうことがわかった。そして摩擦係数/せん断係数≧0.8という条件にすることにより、保持力をより発揮できることを見出した。
本発明のマット材は、面圧が110kPa以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、上記排ガス処理体と上記金属ケーシングとの間に配置され、上記排ガス処理体を保持するマット材とを備える排ガス浄化装置であって、上記マット材は、本発明のマット材であることを特徴とする。
本発明の排ガス浄化装置は、本発明のマット材が排ガス処理体と金属ケーシングとの間に配置されているため、排ガス処理体を安定的に保持することができる。
【0016】
本発明のマット材の製造方法の第一実施形態は、無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有し、上記交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物を添着させる無機物添着工程を有する。
本発明のマット材の製造方法によると、本発明のマット材を容易に製造することができる。
【0017】
本発明のマット材の製造方法の第一実施形態は、更に、上記マットに有機物を添着させる有機物添着工程を有していることが好ましい。
【0018】
本発明のマット材の製造方法の第二実施形態は、無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有し、上記交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物と有機物とを同時に添着させる添着工程を有する。
本発明のマット材の製造方法によると、本発明のマット材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明のマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1におけるA-A線断面図である。
図3図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、摩擦係数測定装置の一例を示す概略図である。
図5図5は、摩擦係数測定装置の一例を示す概略図である。
図6図6は、せん断破壊荷重試験装置を模式的に示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0021】
[マット材]
本発明のマット材は、無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有するマット材であって、上記交絡点の密度ρは、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあり、上記マット材の表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在する、ことを特徴とする。
【0022】
図1は、本発明のマット材の一例を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1におけるA-A線断面図である。
図1に示すように、本発明のマット材1は、所定の長さ(以下、図1中、矢印Lで示す)、幅(図1中、矢印Wで示す)及び厚さ(図1中、矢印Tで示す)を有する平面視略矩形の平板状の形状のマット10から構成されている。
図1に示すマット10では、マット10の長さ方向側の端部のうち、一方の端部には凸部11が形成されており、他方の端部には凹部12が形成されている。マット10の凸部11及び凹部12は、後述する排ガス浄化装置を組み立てるために排ガス処理体にマット材1を巻き付けた際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっている。このような凸部11及び凹部12が設けられていると、マット材1を後述する排ガス浄化装置に配置した際に、シール性が向上する。
マット10の表面及び裏面の少なくとも一方には、ニードリング処理によって形成された複数の交絡点15(ニードルパンチ痕ともいう)が形成されている。
なお、本発明のマット材に用いられるマットは、端部に凸部及び凹部を有していなくてもよい。
また、マットの端部の形状はL字形状であって、マット材を対象物に巻き付けた際に端部同士が嵌合するようになっていてもよい。
【0023】
図2に示すように、各交絡点15は、マット10の厚さ方向に対して垂直に直線上に形成されている。交絡点15の形状は曲線であってもよく、マット10の厚さ方向に対して傾斜していてもよい。また、交絡点15はマット10を厚さ方向に貫通していなくてもよい。
【0024】
マットの厚さは特に限定されないが、2~40mmであることが好ましい。マットの厚さが40mmを超えると、マットの柔軟性が失われるので、マット材を排ガス処理体に巻き付ける際に扱いづらくなる。また、マット材に巻きじわや割れが生じやすくなる。マットの厚さが2mm未満であると、マット材の面圧及び保持力が不足して、排ガス処理体が抜け落ちやすくなる。また、排ガス処理体に体積変化が生じた場合、マット材は排ガス処理体の体積変化を吸収しにくくなる。そのため、排ガス処理体にクラック等が発生しやすくなる。
【0025】
本発明のマット材は、無機繊維を含んでいる。
無機繊維としては、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが望ましい。
無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、及び、ムライト繊維の少なくとも1種である場合には、耐熱性に優れているので、排ガス処理体が充分な高温に晒された場合であっても、変質等が発生することはなく、マット材としての機能を充分に維持することができる。また、無機繊維が生体溶解性繊維である場合には、マット材を用いて排ガス浄化装置を作製する際に、飛散した無機繊維を吸入等しても、生体内で溶解するため、作業員の健康に害を及ぼすことがない。
【0026】
アルミナ繊維には、アルミナ以外に、例えば、カルシア、マグネシア、ジルコニア等の添加剤が含まれていてもよい。
アルミナシリカ繊維の組成比としては、重量比でAl:SiO=60:40~80:20であることが好ましく、Al:SiO=70:30~74:26であることがより好ましい。
【0027】
マットはニードリング法により製造することができる。
無機繊維の平均繊維長は、1~150mmであることが好ましく、10~80mmであることがより好ましい。
無機繊維の平均繊維長が1mm未満であると、無機繊維の繊維長が短すぎるため、無機繊維同士の交絡が不充分となり、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、マット材が割れやすくなる。また、無機繊維の平均繊維長が150mmを超えると、無機繊維の繊維長が長すぎるため、マットを構成する繊維本数が減少し、マットの緻密性が低下する。その結果、マット材のせん断強度が低くなる。
【0028】
本発明のマット材は、表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在する。本発明のマット材は、表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在しているため、摩擦係数が高い。更に、無機物は、排ガス浄化装置に高温の排ガスが流入したとしても焼失しないため、本発明のマット材は保持力が高い。更に、マット材の表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在するため、振動や衝撃によってマット材の位置がずれることを抑制できる。本発明のマット材は、表面と裏面のいずれか一方に無機物が存在していてもよいし、表面と裏面の両方に無機物が存在していてもよい。
【0029】
上記無機物としては、無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー、無機接着剤又は無機接着シートが好ましい。上記無機物としては、無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカーを混合したものであってもよいし、更に無機接着剤、無機接着シートを組み合わせて使用してもよい。
無機バインダとしては、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石の少なくとも1種又はこれらの組み合わせなどの任意の適当な硬質セラミック材料が挙げられる。好ましくは、アルミナゾル、シリカゾルである。
【0030】
粉砕繊維としては、無機バインダと同様の硬質セラミック材料を含み、各繊維が約50μm~約500μmの範囲の長軸寸法を有するもの等が挙げられる。
無機ウィスカーとしては、無機バインダと同様の硬質セラミック材料を含み、各ウィスカーが約20μm~約400μmの範囲の長軸寸法を有するもの等が挙げられる。
【0031】
無機接着剤は、加熱されることによって接着性を発現する物質であり、加熱による他の部材(例えば、後述の金属ケーシング、排ガス処理体等)との反応物生成による接着のみならず、加熱により無機接着剤が流動性を発揮し、接触面である他の部材の表面に侵入し、アンカー効果による接着(固着状態)を生じるものも含む。接着性を発現する温度に限定はないが、例えば、200℃以上、300℃以上、あるいは600℃以上で接着性を発現する。例えば、マット材が金属ケーシング、排ガス処理体等の二つの部材によって挟まれた状態とし、マット材が600℃の温度条件下に1時間にわたって放置された後において、マット材が他の部材に対して接着性を発現する。接着性の発現は、加熱後のマット材を冷却後、他の部材との間に固着領域が形成されているか否かで目視で判断することができる場合もある。
【0032】
上記無機接着剤としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びリン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の塩等が挙げられる。アルカリ金属塩の具体例としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウム等のアルカリ金属ケイ酸塩が挙げられる。アルカリ土類金属塩の具体例として、ケイ酸マグネシウム及びケイ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ケイ酸塩が挙げられる。リン酸塩の具体例として、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム及びリン酸カルシウムが挙げられる。これらの成分は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
無機接着シートは、例えば、基材と、上記無機接着剤を含む無機接着剤層とによって構成されているもの等が挙げられる。無機接着シートは、無機接着剤層の内部に基材が埋め込まれていてもよいし、無機接着剤層が単独で存在していてもよい。無機接着シートにおいて、無機接着剤層は存在していなくてもよく、基材に無機接着剤が含浸された態様であってもよい。
【0034】
基材は、例えば、不織布、紙、織布、樹脂フィルム等を用いることができる。基材が不織布、紙又は織布である場合、基材に無機接着剤を含浸させることによって、無機接着シートを得ることができる。基材が樹脂フィルムである場合、上記樹脂フィルムの少なくとも一方の面に無機接着剤層を形成することによって無機接着シートを得ることができる。この場合、無機接着剤層は、例えば、塗布によって形成されるコート層からなる。不織布、織布及び樹脂フィルムの材質としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等が挙げられる。紙としては、パルプ、レーヨン、ガラス繊維紙等が挙げられる。基材はネット状であってもよい。この場合、ネット状の基材と、その表面に付着した無機接着剤とによって無機接着シートが構成される。ネット状の基材としては、工法を問わず、織布、編布、不織布等が挙げられる。ネット状の基材の使用は、無機接着シートにより柔軟性を付与できる。また、無機接着シートは、切り込みが入っていてもよい。これにより更に柔軟性を付与することができる。
【0035】
基材の単位面積あたりの質量は、例えば、1~200g/mであり、その下限値は10g/m又は50g/mであってもよく、その上限値は150g/m又は100g/mであってもよい。基材の単位面積あたりの質量が1g/m以上であることで、無機接着剤層を支持する役割を基材が充分に果たすことができ、他方、200g/m以上であることで、適度な可とう性を確保できるとともに熱分解等によって比較的短期間のうちに消滅する。なお、無機接着剤層自体がシートの形状を保持でき且つ適度な可とう性を有していれば、無機接着シートは基材を含んでいなくてもよい。
【0036】
無機接着シートは、常温で液体でありながら、実質的に乾燥しているものでもよい。なお、ここでいう「実質的に乾燥している」とは、例えば120℃で30分にわたって無機接着シートを加熱した後において、加熱前の無機接着シートの質量を基準とした質量の減少率が5%以内である。無機接着シートが実質的に乾燥していることで、マット材を排ガス処理体等に組み付ける際の作業性に優れるという利点がある。この作業性の更なる向上及び初期保持力向上の観点から、無機接着剤層は、適量の有機材料(例えば、アクリル系バインダ、PVA(ポリビニルアルコール)及びEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂))を含んでもよい。
【0037】
無機接着シートは上記無機接着剤を含む液を基材に含浸させた後、加熱処理を経て得ることができる。無機接着シートにおける無機接着剤の含有量は、例えば、2~100g/mであり、その下限値は5g/m又は8g/mであってもよく、その上限値は50g/m又は30g/mであってもよい。無機接着シートにおける無機接着剤の量はマット材に求められる他の部材に対する接着性に応じて適宜設定すればよい。
【0038】
本発明のマット材は、上記無機物が、マット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び、マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域を除いた中央部に対して、マット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び/又は、マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域に多く存在することが好ましい。無機物がマット材の中央部より表面付近及び/又は裏面付近に多く存在すると、マット材の摩擦係数が高くなるからである。具体的には、上記無機物がマット材の表面から厚み方向の1/3までの領域、及び/又は、マット材の裏面から厚み方向の1/3までの領域に80wt%以上存在することが好ましく、90wt%以上存在することがより好ましい。
上記無機物が、マット材の表面及び/又は裏面のみに存在している態様も好ましい。上記無機物が無機接着シートであると、無機接着シートをマット材の表面及び/又は裏面に重ねることで、マット材の表面及び/又は裏面のみに無機物が存在する態様となる。
【0039】
本発明のマット材に対する上記無機物の重量割合(無機物の重量/マット材の重量)は、上記無機物が無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー及び無機接着剤である場合、0wt%を超えて10wt%以下であることが好ましい。マット材に対する無機物の重量割合が上記範囲であると、マット材の保持力を充分に高めることができる。無機物が無機接着シートの場合は、含まれる無機接着剤の含有量である。
【0040】
本発明のマット材は、更に有機物(有機結合材ともいう)を含有していてもよい。マット材が更に有機物を含有することにより、繊維同士の接着性を向上させ、マット材のハンドリング時に繊維が飛散することを防止する。
【0041】
上記有機物は、有機バインダ又は有機シートであることが好ましい。有機バインダとしては、アクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0042】
有機シートは、有機材料で形成されてものであれば特に限定されず、例えば、紙、樹脂フィルム、有機繊維からなる不織布等が挙げられる。
有機繊維からなる不織布としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維にPE(ポリエチレン)パウダーが融着したものが挙げられる。他に使用できる有機繊維としては、PP(ポリプロピレン)、レーヨン等が挙げられる。
また、有機シートが樹脂フィルムである場合、樹脂フィルムを構成する有機材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等が挙げられる。
【0043】
また、有機シートは、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。これらの材料は柔軟性及び弾性に優れており、ヒートシールによりマットに接着することができるため好ましい。
【0044】
有機シートとマットとの貼り付けは、有機シートとは別の接着剤を介して行ってもよく、接着剤を使用せずに、有機シート自体をヒートシールすることにより行ってもよい。
【0045】
有機シートとマットとの貼り付けを接着剤を介して行う場合、接着剤としてはアクリル系接着剤、アクリレート系ラテックス、ウレタン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を使用することができる。
【0046】
有機シート自体をヒートシールする場合は、有機シートを構成する有機材料の種類に応じて適切な加熱温度によりヒートシールを行えばよい。
【0047】
有機シートの目付量は、特に限定されるものではないが、10g/m以上であることが好ましく、30g/m以下であることが好ましい。有機シートの目付量が上記範囲であると、マット材の巻き付け性を阻害することがなく、マット材の脱落が生じない程度に、後述の排ガス浄化装置におけるマット材の相対位置を安定させることができる。
【0048】
有機シートの厚さは、特に限定されるものではないが、0.05mm以上であることが好ましく、0.3mm以下であることが好ましい。有機シートの厚さが上記範囲であると、マット材の巻き付け性を阻害することがなく、マット材の脱落が生じない程度に、後述の排ガス浄化装置におけるマット材の相対位置を安定させることができる。
【0049】
マット材に対する有機物の重量割合(有機物の重量/マット材の重量)は、0wt%を超えて10wt%以下であることが好ましい。
マット材に対する有機物の重量割合が上記範囲であると、繊維飛散防止効果と高い保持力を両立させることができる。
【0050】
本発明のマット材は、無機物としての無機バインダ及び有機物としての有機バインダからなる凝集体が、無機繊維の表面に添着していることが好ましい。無機バインダ及び有機バインダからなる凝集体は、無機繊維の表面に凹凸を形成することができるため、無機繊維同士の摩擦を高めて保持力を向上させることができるからである。
【0051】
マット材は、更に凝集剤を含有していてもよい。マット材が更に凝集剤を含有していると、無機バインダ及び有機バインダを凝集させた状態で無機繊維の表面に添着させやすくなる。
【0052】
無機繊維の表面に添着された無機物及び有機物が凝集しているかは、無機繊維の表面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)等で観察することにより確認することができる。
【0053】
マット材は、更に高分子系分散剤を含有していることが好ましい。マット材が更に高分子系分散剤を含有していると、無機物及び有機物を分散した状態で無機繊維の表面に添着させやすくなる。
高分子系分散剤としては、ポリカルボン酸及び/又はその塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物及び/又はその塩、ポリアクリル酸及び/又はその塩、ポリメタクリル酸及び/又はその塩、ポリビニルスルホン酸及び/又はその塩、等のアニオン性高分子系分散剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等のノニオン性高分子系分散剤、などの親水性合成高分子物質;ゼラチン、カゼイン、水溶性でんぷん等の天然親水性高分子物質;カルボキシメチルセルロース等の親水性半合成高分子物質等が挙げられる。
これらの中では、親水性合成高分子物質が好ましく、アニオン性高分子系分散剤がより好ましい。
また、これらの高分子系分散剤は、1種類のみ用いられていてもよく、複数種類が併用されていてもよい。また、アニオン性高分子系分散剤としての性質を示す構造とノニオン性高分子系分散剤としての性質を示す構造を共に有する高分子系分散剤であってもよい。
高分子系分散剤の含有量は、無機繊維の重量に対して、50~1000ppmであることが好ましい。
【0054】
本発明のマット材は、面圧が110kPa以上であることが好ましい。面圧が110kPa以上であると、排ガス処理体の保持に好適なマット材であるといえる。より好ましくは120kPa以上である。
本明細書において、マット材の面圧は、後述の実施例に記載の方法で求めた値である。
【0055】
本発明のマット材は、摩擦係数が0.25以上であることが好ましい。より好ましくは0.30以上、更に好ましくは0.35以上である。
本発明のマット材は、せん断係数が0.20以上であることが好ましい。より好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.30以上である。
本明細書において、マット材の摩擦係数及びせん断係数は、後述の実施例に記載の方法で求めた値である。
【0056】
本発明のマット材は、摩擦係数/せん断係数≧0.8であることが好ましい。摩擦係数とせん断係数とが上記の式を満たす範囲でないと、マット材が充分に保持力を発揮できない場合がある。より好ましくは摩擦係数/せん断係数≧1.0である。
本発明のマット材は、摩擦係数が0.25以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8であることがより好ましい。より好ましくは、摩擦係数が0.25以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧1.0である。また、更に好ましくは、摩擦係数が0.30以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8であり、特に好ましくは、摩擦係数が0.35以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8である。
本発明のマット材は、せん断係数が0.20以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8であることが好ましい。より好ましくは、せん断係数が0.20以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧1.0である。更に好ましくは、せん断係数が0.25以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8であり、特に好ましくは、せん断係数が0.30以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8である。
【0057】
本発明のマット材は、摩擦係数が0.25以上、せん断係数が0.20以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8であることがより好ましい。より好ましくは、摩擦係数が0.25以上、せん断係数が0.20以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧1.0である。
また、更に好ましくは、摩擦係数が0.30以上、せん断係数が0.25以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8であり、特に好ましくは、摩擦係数が0.35以上、せん断係数が0.30以上の範囲において、摩擦係数/せん断係数≧0.8である。
【0058】
[排ガス浄化装置]
本発明の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、上記排ガス処理体と上記金属ケーシングとの間に配置され、上記排ガス処理体を保持するマット材とを備える排ガス浄化装置であって、上記マット材は、本発明のマット材であることを特徴とする。
【0059】
本発明の排ガス浄化装置は、本発明のマット材が排ガス処理体と金属ケーシングとの間に配置されているため、排ガス処理体を安定的に保持することができる。
【0060】
図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、排ガス浄化装置100は、金属ケーシング120と、金属ケーシング120に収容された排ガス処理体130と、排ガス処理体130及び金属ケーシング120の間に配設されたマット材1とを備えている。マット材1は、本発明のマット材である。
排ガス処理体130は、多数のセル131がセル壁132を隔てて長手方向に並設された柱状のものである。なお、金属ケーシング120の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることになる。
なお、図3に示す排ガス浄化装置100では、排ガス処理体130として、各々のセルにおけるいずれか一方が封止材133によって目封じされた排ガスフィルタ(ハニカムフィルタ)を用いているが、いずれの端面にも封止材による目封じがなされていない触媒担体を用いてもよい。
【0061】
図3に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(図3中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)130の排ガス流入側端面130aに開口した一のセル131に流入し、セル131を隔てるセル壁132を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁132で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面130bに開口した他のセル131から流出し、外部に排出される。
【0062】
本発明の排ガス浄化装置は、上記マット材の表面又は裏面に無機物が存在し、無機物が存在する面が金属ケーシング側となるようにマット材が配置されていてもよいし、無機物が存在する面が排ガス処理体側となるようにマット材が配置されていてもよい。また、上記マット材は、表面及び裏面の両方に無機物が存在していてもよい。
【0063】
[マット材の製造方法]
本発明のマット材の製造方法の第一実施形態は、無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有し、上記交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物を添着させる無機物添着工程を有することを特徴とする。
【0064】
本発明のマット材の製造方法の第一実施形態に用いられるマットは、例えば、無機化合物と有機重合体とを少なくとも含む紡糸用混合物を紡糸して無機繊維前駆体を作製する紡糸工程と、上記無機繊維前駆体を圧縮してシート状物を作製する圧縮工程と、上記シート状物の少なくとも一方の表面にニードルパンチング処理を行ってニードルパンチング処理体を作製するニードルパンチング工程と、上記ニードルパンチング処理体を焼成する焼成工程とによって得ることができる。
以下、紡糸工程、圧縮工程、ニードルパンチング工程及び焼成工程の具体例を説明する。
【0065】
[紡糸工程]
紡糸工程では、無機化合物と有機重合体とを少なくとも含む紡糸用混合物を紡糸して無機繊維前駆体を作製する。
紡糸工程では、例えば、塩基性塩化アルミニウム水溶液とシリカゾル等とを原料とする紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して3~10μmの平均繊維径を有する無機繊維前駆体を作製する。
【0066】
[圧縮工程]
圧縮工程では、紡糸工程により得られた無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製する。
【0067】
[ニードルパンチング工程]
ニードルパンチング工程では、圧縮工程により得られたシート状物の表面及び裏面の少なくとも一方にニードルパンチング処理を行ってニードルパンチング処理体を作製する。
【0068】
ニードルパンチング工程では、ニードルの配置密度を0.5本/cm以上18本/cm未満に設定する。
ニードルパンチング工程においてニードルが配置される位置は、マットにおける交絡点に対応する。従って、ニードルの配置密度を0.5本/cm以上18本/cm未満に設定することで、交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットを得ることができる。
【0069】
ニードルパンチング工程において、ニードルはシート状物を厚さ方向に貫通してもよく、貫通しなくてもよい。
【0070】
[焼成工程]
焼成工程では、ニードルパンチング処理体を焼成して、無機繊維からなるマットを得る。
ニードルパンチング処理体を焼成する温度は特に限定されないが、1000℃~1600℃であることが好ましい。
【0071】
[無機物添着工程]
無機物添着工程では、マットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物を添着させる。
マットの表面及び裏面の少なくとも一方に無機物を添着させる方法としては、例えば、無機物が無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー又は無機接着剤である場合、溶媒と無機物とを混合させた無機物混合液をマットの表面及び裏面の少なくとも一方に接触させたあと、乾燥させる方法が挙げられる。
無機物混合液をマットの表面及び裏面の少なくとも一方に接触させる方法としては、例えば、無機物混合液をマット表面及び裏面の少なくとも一方にコーティングする方法や、スプレー法等の方法で無機物混合液をマットの表面及び裏面の少なくとも一方に添着させる方法等が挙げられる。
【0072】
無機物混合液における無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー及び無機接着剤の含有量は、0wt%を超えて10wt%以下であることが好ましい。
【0073】
無機物が無機接着シートである場合は、上述の方法で作製した無機接着シートを、マットの表面及び/又は裏面の少なくとも一方に、ヒートシール、接着剤を用いる方法等により接着することができる。
【0074】
[有機物添着工程]
本発明のマット材は、表面及び裏面の少なくとも一方に無機物が存在し、更にマット材が有機物を含有していることが好ましい。以下では、マットに有機物を添着させる有機物添着工程について説明する。
【0075】
マットに有機物を添着させる方法としては、例えば、有機物が有機バインダである場合、溶媒と有機バインダを含む有機物混合液にマットを接触させて有機物を添着させる方法が挙げられる。
無機物と有機物を添着させる順序は特に限定されず、無機物が先であってもよく、有機物が先であってもよい。
【0076】
有機物として有機シートを用いる場合は、例えば、上記無機物混合液をマットの表面及び裏面の少なくとも一方に接触させて無機物を添着、又は、無機接着シートをマットの表面及び裏面の少なくとも一方に接着させたあと、更に有機シートをマットの表面及び/又は裏面に接着する方法が挙げられる。
【0077】
本発明のマット材の製造方法の第二実施形態は、無機繊維を含み、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有し、上記交絡点の密度ρが、0.5個/cm≦ρ<18個/cmの範囲にあるマットの表面及び裏面の少なくとも一方に、無機物と有機物とを同時に添着させる添着工程を有する。
【0078】
本発明のマット材の製造方法の第二実施形態は、マットに無機物と有機物とを同時に添着させる点を除いて、本発明のマット材の製造方法の第一実施形態と共通している。
従って、以下には、マットに無機物と有機物とを同時に添着させる添着工程について説明する。
【0079】
マットに無機物と有機物とを同時に添着させる方法としては、無機物として無機バインダ、粉砕繊維、無機ウィスカー又は無機接着剤を用い、有機物として有機バインダを用い、溶媒と無機物と有機物とを混合させた混合液をマットの表面及び裏面の少なくとも一方に接触させたあと、乾燥させる方法が挙げられる。
【0080】
上記混合液における無機物の含有量(固形分濃度)は、0wt%を超えて10wt%以下であることが好ましい。
上記混合液における有機物の含有量(固形分濃度)は、0wt%を超えて10wt%以下であることが好ましい。
【0081】
上記混合液には高分子系分散剤が含まれていてもよい。
上記混合液に高分子系分散剤が含まれていると、混合液中で無機物及び有機物が分散した状態となる。この状態の混合液をマットに接触させることで、無機物及び有機物を分散した状態で無機繊維の表面に添着させることができる。
【0082】
上記混合液には凝集剤が含まれていてもよい。
上記混合液に凝集剤が含まれていると、混合液中で無機物及び有機物が凝集した状態となる。この状態の混合液をマットに接触させることで、無機物及び有機物を凝集した状態で無機繊維の表面に添着させることができる。
【0083】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
(a)紡糸工程
Al含有量が70g/lであり、Al:Cl=1:1.8(原子比)となるように調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al:SiO=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、更に、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加して混合液を調製した。
得られた混合液を濃縮して紡糸用混合物とし、この紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して平均繊維径が5.1μmである無機繊維前駆体を作製した。
【0085】
(b)圧縮工程
上記(a)紡糸工程で得られた無機繊維前駆体を圧縮して、連続したシート状物を作製した。
【0086】
(c)ニードルパンチング工程
上記(b)圧縮工程で得られたシート状物に対して、以下に示す条件を用いて連続的にニードルパンチング処理を行ってニードルパンチング処理体を作製した。
まず、ニードルが9個/cmの密度で取り付けられたニードルボードを準備した。次に、このニードルボードをシート状物の一方の表面の上方に配設し、ニードルボードをシート状物の厚さ方向に沿って一回上下させることによりニードルパンチング処理を行い、ニードルパンチング処理体を作製した。この際、ニードルの先端部分に形成されたバーブがシート状物の反対側の表面に完全に貫出するまでニードルを貫通させた。
【0087】
(d)焼成工程
上記(c)ニードルパンチング工程で得られたニードルパンチング処理体を最高温度1250℃で連続して焼成し、アルミナとシリカとを72重量部:28重量部で含む無機繊維からなる焼成シート状物を製造した。無機繊維の平均繊維径は、5.1μmであり、無機繊維径の最小値は、3.2μmであった。このようにして得られた焼成シート状物は、嵩密度が0.15g/cmであり、目付量が1400g/mであった。交絡点の密度ρは9個/cmであった。
焼成されたニードルパンチング処理体を切断して、マットを作製した。
【0088】
(e)添着工程
(e-1)無機バインダ混合液調製工程
無機バインダであるアルミナを水で希釈し、無機粒子の固形分濃度が1.0wt%である無機バインダ混合液を調製した。
【0089】
(e-2)スプレー工程
上記(e-1)無機バインダ混合液調製工程で得られた無機バインダ混合液を、ニードルマットの無機繊維量に対し無機バインダが1.0wt%となるように、スプレーを用いて(d)焼成工程で得られたマットに添着させた。
【0090】
(e-3)乾燥工程
上記(e-2)スプレー工程を終えた無機バインダがマットの表面に付着したニードルマットを乾燥させた。このようにして、実施例1に係るマット材を作製した。
実施例1のマット材は、交絡点の密度ρが9個/cmである低ニードルマットであった。
【0091】
(実施例2)
実施例1の(e)添着工程において、有機バインダであるアクリレート系ラテックスを水で希釈することにより、固形分濃度が2.0wt%の有機バインダ混合液を調製し、上記(e-1)無機バインダ混合液調製工程で得られた無機バインダ混合液に、この有機バインダ混合液を、1:1の重量比となるように加えて充分攪拌し、有機バインダが固形分濃度で1.0wt%、無機バインダが固形分濃度で1.0wt%、上記高分子系分散剤の濃度が500ppmであるバインダ混合液を調製した。
無機バインダ混合液の代わりにこのバインダ混合液を用いて、ニードルマットの無機繊維量に対し無機バインダが1.0wt%、有機バインダが1.0wt%となるようにマットに添着させた以外は実施例1と同様にして、実施例2のマット材を作製した。
【0092】
(実施例3)
ニードルマットの無機繊維量に対し無機バインダの添着量15wt%とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のマット材を作製した。
【0093】
(比較例1)
(c)ニードルパンチング工程において、ニードルが22個/cmの密度で取り付けられたニードルボードを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1のマット材を作製した。比較例1のマット材は、交絡点の密度ρが22個/cmである通常ニードルマットであった。
【0094】
(比較例2)
(c)ニードルパンチング工程において、ニードルが22個/cmの密度で取り付けられたニードルボードを用いた以外は実施例2と同様にして、比較例2のマット材を作製した。
【0095】
(面圧の測定)
各実施例及び比較例のマット材について面圧を測定した。マット材の面圧は、試験片となるマット材を圧縮する板の部分に加熱ヒーターを備えた熱間面圧測定装置を用いて、以下の方法で測定することができる。まず、室温において嵩密度が0.4g/cmとなるまで試験片(マット材)を圧縮した後、10分間保持する。その後、試験片を圧縮した状態で45℃の昇温速度で片面900℃、片面650℃まで昇温しながら、嵩密度が0.36g/cmとなるまで圧縮を開放し、5分間保持する。その後、マット材を圧縮する板を1inch(24.5mm)/minの速度で動かして、嵩密度が0.4/cmとなるまで圧縮する。嵩密度が0.36g/cmとなるまでの圧縮の開放と嵩密度が0.4g/cmとなるまでの圧縮を1000回繰り返した後の嵩密度0.36g/cm時の荷重を測定する。得られた荷重を試験片の面積で除算することにより、マット材の面圧(kPa)を求めた。結果を表1に示す。
【0096】
(摩擦係数の測定)
図4及び図5は、マット材とステンレス板との摩擦係数(静摩擦係数μ)を測定するための摩擦係数測定装置の一例を示す概略図である。摩擦係数測定装置60では、装置の左右に、ステンレス鋼製の平板(左板61及び右板62)がそれぞれ対向するように配置されている。また、左板61はロードセルとなっており、左板61の右側の面(マット材と接する側の面)に加わる荷重を測定することができる。更に、左板61と右板62の間にもステンレス鋼製の平板(中板63)が配置されている。
【0097】
まず、左板61、試験片1a、中板63、試験片1b、右板62の順になるように、2枚のマットと中板63とを配置する。このとき、試験片1a及び1bは、マット材の表面となる面が中板63と接触する向きに配置する。左板61と試験片1aの間、及び、右板62と試験片1bの間(板と試験片の間)で滑らないように、左板61及び右板62の表面には突起部材64を設ける。試験片1aは左板61及び中板63で挟まれ、試験片1bは中板63及び右板62で挟まれる。また、中板63はロードセルとなっており、中板に加わる荷重を測定することができる。
【0098】
まず、左板61及び右板62に対して中板63の方向に圧力をかけ、試験片1a及び1bの嵩密度(GBD)が0.4g/cmとなるまで圧縮する。この圧縮状態で、20分間保持(緩和)する。
【0099】
次に、室温状態で、中板63を図4中の矢印で示す向き(上方)に25mm/minの速度で移動させ、試験片1a及び1bの主面にせん断応力を印加する。図5は、中板を移動させた状態を示している。なお、中板を移動させる方向は、中板に接している試験片1a及び1bの主面にせん断応力を印加した方向と同じである。移動中のロードセルの荷重値及び中板に加わる静摩擦力を測定し、静摩擦力が最大となるときの摩擦係数(静摩擦係数)を測定し、マット材とステンレス板との静摩擦係数μとする。なお、上記の一連の操作は、マット材と中板との間の温度が25℃の状態で行う。結果を表1に示す。
【0100】
(せん断係数の測定)
各実施例及び比較例のマット材についてせん断破壊荷重の測定及び緩和面圧の測定を行い、せん断破壊荷重を緩和面圧で除することによりせん断係数を求めた。
【0101】
せん断破壊荷重は、図6に示すせん断破壊荷重試験装置により測定することができる。図6は、せん断破壊荷重試験装置を模式的に示した概念図である。図6に示すせん断破壊荷重試験装置70は、ステンレス板73の両面に試験片1a、1bが配置され、更にその外側が左側治具71及び右側治具72で挟まれている。左側治具71、右側治具72及びステンレス板73の表面で、試験片と接する面に突起部材74が多数設けられている。試験片1a、1bは突起部材74に突き刺されることにより、左側治具71、右側治具72及びステンレス板73に固定される。この状態で試験片の嵩密度(GBD)が0.4g/cmとなるまで圧縮する。次に、ステンレス板73を図6中の矢印で示す向き(上方)に5mm/minの速度で移動させると、ステンレス板73は突起部材74で試験片1a及び1bと固定されているため、試験片1a及び1bと離れて抜けることができない。そのため、試験片1a及び1bに試験片のせん断破壊荷重以上のせん断力が加わった際に試験片1a及び1bがせん断破壊を生じる。試験片がせん断破壊を生じた際のステンレス板に加わるせん断力を求める。
【0102】
得られたせん断力を試験片の面積で除算することにより、せん断破壊荷重(kPa)を求めることができる。なお、マット材の一部を切り出した試験片を用いて上記せん断破壊荷重を測定してもよい。
【0103】
緩和面圧は以下の手順で測定することができる。まず、室温状態で、マット材の嵩密度が0.4g/cmとなるまで圧縮し、20分間保持した後の荷重を測定する。
【0104】
得られた荷重を試験片の面積で除算することにより、緩和面圧(kPa)を求めることができる。なお、マット材の一部を切り出した試験片を用いて上記緩和面圧を測定してもよい。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表1に示すように、実施例1~3のマット材はニードル密度が低いため面圧が高いことがわかった。
比較例1、2のマット材は、ニードル密度が高いため面圧が低いことがわかった。
【符号の説明】
【0107】
1 マット材
1a、1b 試験片
10 マット
11 凸部
12 凹部
15 交絡点
60 摩擦係数測定装置
61 左板
62 右板
63 中板
64 突起部材
70 せん断破壊荷重試験装置
71 左側治具
72 右側治具
73 ステンレス板
74 突起部材
100 排ガス浄化装置
120 金属ケーシング
130 排ガス処理体
130a 排ガス流入側端面
130b 排ガス流出側端面
131 セル
132 セル壁
133 封止材

図1
図2
図3
図4
図5
図6