(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074329
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/46 20060101AFI20230522BHJP
A61Q 5/04 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
A61K8/46
A61Q5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187221
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】595082283
【氏名又は名称】株式会社アリミノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 真子
(72)【発明者】
【氏名】富樫 孝幸
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB012
4C083AB082
4C083AB412
4C083AC521
4C083AC522
4C083AC691
4C083AC692
4C083AC771
4C083AC772
4C083CC34
4C083DD27
4C083DD33
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE25
(57)【要約】
【課題】毛髪へのダメージを抑えつつ、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理などの毛髪形成力に優れるとともに、指通り、艶、およびしっとりした質感に優れた毛髪に仕上げることができる毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法を提供する。
【解決手段】チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種の還元剤(A)を含み、前記還元剤(A)がチオグリコール酸換算値で2.0~10.0質量%の範囲であり、pHが2~7である、毛髪処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種の還元剤(A)を含み、
前記還元剤(A)がチオグリコール酸換算値で2.0~10.0質量%の範囲であり、
pHが2~7である、毛髪処理剤。
【請求項2】
ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)を0.2~1.0質量%含む、請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
ステアルトリモニウムクロリド(C)を0.2~2.0質量%含む、請求項1または2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行う前に毛髪に塗布して用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の毛髪処理剤と、
チオグリコール酸換算値で2.0~11.0質量%の範囲でケラチン繊維還元性物質を含み、かつ、pHが7~10である毛髪変形剤第1剤とを備える、毛髪変形剤セット。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程(I)、
工程(I)の後、チオグリコール酸換算値で2.0~11.0質量%の範囲でケラチン繊維還元性物質を含み、かつ、pHが7~10である毛髪変形剤第1剤を毛髪に塗布する工程(II)、および、
工程(II)の後、酸化剤を含む毛髪変形剤第2剤を毛髪に塗布する工程(III)
を有する、毛髪変形処理方法。
【請求項7】
工程(I)の後、工程(II)の前に、毛髪を洗浄する工程(I-a)を行う、請求項6に記載の毛髪変形処理方法。
【請求項8】
工程(II)の後、毛髪を加熱する工程(II-a)が行われた毛髪に対して、工程(III)を行う、請求項6または7に記載の毛髪変形処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理などの毛髪変形処理では、毛髪中のシスチン結合を還元剤で還元し、所望の形状にした後、再度固定する処理を行ってきた。特に、縮毛矯正では、くせ毛の毛髪内部のコルテックスの配置に偏りがあるため、高濃度の還元剤を充分に毛髪に浸透させて還元する必要があった。しかし、高濃度の還元剤は毛髪に大きなダメージを与えてしまうことが問題となっていた。そこで、ダメージを抑える新たな方法の開発が進められてきた。
【0003】
パーマネントウェーブ処理におけるダメージを抑える技術として、特許文献1では、チオグリコール酸と、有機酸及び/又はリン酸と、有機酸塩及び/又はリン酸塩とを含み、酸性である毛髪処理剤組成物が開示されている。また、特許文献2では、縮毛矯正やウェーブ状に毛髪形状を変形させるための毛髪変形用処理剤として、pHが7.0未満の還元剤が配合された第1剤と、この第1剤よりもpHが高く且つpHが10.5以下の中間処理剤と、酸化剤が配合された第2剤と、を備える毛髪変形用処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-204282号公報
【特許文献2】特開2015-117186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、くせ毛の伸びおよびカール形成力が充分ではなかった。この理由として、特許文献1の毛髪処理剤組成物は、還元剤が酸性のチオグリコール酸のみであるため、毛髪内部には浸透するが、毛髪内部と外部の還元が不十分であると考えられた。すなわち、当該組成物は還元力が弱く、もし還元していたとしても偏りが生じてしまい、充分にくせ毛が伸びなかったと考えられた。また、酸性のチオグリコール酸は、アルカリ性の場合と比較して、還元力に乏しいこともくせ毛が伸びにくかった理由と考えられた。
【0006】
特許文献2の技術では、中間処理剤に還元剤が含まれていないため、毛髪内部しか還元されず、毛髪外部がほとんど還元されない状態と考えられた。還元される毛髪部位に偏りが生じてしまい、充分にくせ毛が伸びなかったと考えられた。また、カール形成力も満足な品質ではなかった。
【0007】
これまで、酸性下の還元剤で毛髪内部に還元剤を浸透させ、とどまらせておいてから、アルカリ性下の還元剤で毛髪内部と外部を同時に還元するための、ダメージを抑えた毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法はなかった。
【0008】
このようなことから、本発明は、毛髪へのダメージを抑えつつ、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理などの毛髪形成力に優れるとともに、指通り、艶、およびしっとりした質感に優れた毛髪に仕上げることができる毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有する毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法は上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、例えば以下の[1]~[8]である。
[1]チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種の還元剤(A)を含み、前記還元剤(A)がチオグリコール酸換算値で2.0~10.0質量%の範囲であり、pHが2~7である、毛髪処理剤。
[2]ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)を0.2~1.0質量%含む、[1]に記載の毛髪処理剤。
[3]ステアルトリモニウムクロリド(C)を0.2~2.0質量%含む、[1]または[2]に記載の毛髪処理剤。
[4]縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行う前に毛髪に塗布して用いる、[1]~[3]のいずれかに記載の毛髪処理剤。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の毛髪処理剤と、チオグリコール酸換算値で2.0~11.0質量%の範囲でケラチン繊維還元性物質を含み、かつ、pHが7~10である毛髪変形剤第1剤とを備える、毛髪変形剤セット。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程(I)、工程(I)の後、チオグリコール酸換算値で2.0~11.0質量%の範囲でケラチン繊維還元性物質を含み、かつ、pHが7~10である毛髪変形剤第1剤を毛髪に塗布する工程(II)、および、工程(II)の後、酸化剤を含む毛髪変形剤第2剤を毛髪に塗布する工程(III)を有する、毛髪変形処理方法。
[7]工程(I)の後、工程(II)の前に、毛髪を洗浄する工程(I-a)を行う、[6]に記載の毛髪変形処理方法。
[8]工程(II)の後、毛髪を加熱する工程(II-a)が行われた毛髪に対して、工程(III)を行う、[6]または[7]に記載の毛髪変形処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、毛髪へのダメージを抑えつつ、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理などの毛髪形成力に優れるとともに、指通り、艶、およびしっとりした質感に優れた毛髪に仕上げることができる毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法について具体的に説明する。
【0013】
<毛髪処理剤>
本発明の毛髪処理剤は、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種の還元剤(A)を含み、前記還元剤(A)がチオグリコール酸換算値で2.0~10.0質量%の範囲であり、pHが2~7である。
なお、本発明における各成分の含有量は、毛髪処理剤を100質量%とした場合の含有量を示している。
【0014】
本発明の毛髪処理剤は、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行う前に毛髪に塗布して用いることが好ましい。
【0015】
本発明の毛髪処理剤を縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行う前に毛髪に塗布して用いることによって、くせ毛、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理による湾曲した毛髪を直毛にすることができる。また、本発明の毛髪処理剤をカーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理の前に毛髪に塗布して用いることにより、カール形成力にも優れる。
【0016】
<還元剤(A)>
本発明の毛髪処理剤は、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種の還元剤(A)を含み、前記還元剤(A)がチオグリコール酸換算値で2.0~10.0質量%、好ましくは3.0~9.0質量%、より好ましくは4.0~8.0質量%、最も好ましくは4.0~5.0質量%の範囲である。
【0017】
還元剤(A)が前記範囲内にあると、毛髪へのダメージを抑え、湾曲した毛髪を直毛にすることができる。また、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理の前に毛髪に塗布して用いることにより、カール形成力に優れる。
【0018】
還元剤(A)が前記下限量より少ないと、毛髪のくせが伸びず、また、ほとんどカールが形成されない傾向がある。還元剤(A)が前記上限量より多いと、毛髪へのダメージがあり、指どおりが非常に悪くなったり、仕上がりの質感がパサつく傾向がある。
【0019】
本発明における還元剤(A)としては、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種が好ましく、チオグリコール酸アンモニウムおよびチオグリセリンから選択される少なくとも1種の化合物がより好ましく、くせを伸ばすという観点からは、チオグリコール酸アンモニウムが最も好ましく、施術時間短縮の観点からは、チオグリセリンが最も好ましい。
【0020】
本発明において、チオ乳酸塩としては、例えば、チオ乳酸アンモニウム、チオ乳酸モノエタノールアミン、チオ乳酸イソプロパノールアミンが挙げられる。これらの中でも、チオ乳酸塩としては、チオ乳酸アンモニウムが好ましい。
【0021】
なお、本発明の実施例において、チオグリセリンは、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールとも記し、チオ乳酸アンモニウムは、2-メルカプトプロピオン酸アンモニウムとも記す。
還元剤(A)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
<pH>
本発明の毛髪処理剤は、pHが2~7、好ましくは3~6、より好ましくは4~5である。
pHが前記範囲内にあると、毛髪へのダメージを抑えつつ、くせにより湾曲した毛髪を直毛にすることができる。また、カーリング処理またはパーマネントウェーブ処理によるカール形成力にも優れる。特に、本発明の毛髪処理剤は、pHが4~5であることによって、くせにより湾曲した毛髪を直毛にする強さと、カール形成力の強さと、毛髪へのダメージ軽減とを両立でき、施術中のにおいもほとんどないためより好ましい。
【0023】
本発明における還元剤(A)として、チオグリコール酸アンモニウムを使用する場合は、pHが4.8~5.5であることが好ましい。くせにより湾曲した毛髪を直毛にする強さと、カール形成力の強さと、毛髪へのダメージ軽減とを両立でき、施術中のにおいもほとんどないためより好ましい。
【0024】
pHが2より低いと、毛髪へのダメージが大きく、皮膚、特に頭皮への刺激が強くなってしまう傾向がある。pHが7より高いと、しっかりとくせが伸びるが毛髪へのダメージが大きく、艶がなくなってしまう傾向がある。
【0025】
本発明者らは、湾曲した毛髪の伸びやすさ、またはカール形成の強さと、毛髪へのダメージ軽減との両立を検討してきた。その両立の検討を行うなかで、pHが2~7の範囲内にあると、毛髪への還元剤の浸透性が高まり、毛髪へのダメージを抑えつつ、湾曲した毛髪の伸び、またはカール形成の強さに優れる毛髪処理剤を開発することに成功した。
【0026】
本発明の毛髪処理剤を上記のpHに設定する場合、必要に応じて、pHを調製することができる。
本発明の毛髪処理剤におけるpHの調製は、例えば、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩等を適宜配合することによって行うことができる。
【0027】
pHの調製として、具体的には、リン酸、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、アルギニン、およびアンモニアを適宜配合することによって行うことができる。これらの中でも、質感と安定性に優れていることから、pHの調製は、リン酸およびアンモニアを適宜配合して行うことが好ましい。
pHの調製は、1種の成分単独で行っても、2種以上の成分を組み合わせて行ってもよい。
【0028】
<ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)>
本発明の毛髪処理剤は、ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)を好ましくは0.2~1.0質量%、より好ましくは0.3~0.8質量%、最も好ましくは0.4~0.6質量%含む。
ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)が前記範囲内にあると、経時安定性に優れるため好ましい。
【0029】
本発明において、ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムが挙げられる。
ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)が、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムであることが好ましい。
ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)としては、例えば、キレストP-SD(中部キレスト株式会社製)を用いることができる。なお、キレストP-SDは、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムが40%、水が60%配合されている。
ジエチレントリアミン五酢酸塩(B)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
<ステアルトリモニウムクロリド(C)>
本発明の毛髪処理剤は、ステアルトリモニウムクロリド(C)を好ましくは0.2~2.0質量%、より好ましくは0.3~1.8質量%、最も好ましくは0.4~1.5質量%含む。
【0031】
ステアルトリモニウムクロリド(C)が前記範囲内にあると、仕上がりの毛髪の指通りに優れ、しっとりした質感が高まるため好ましい。
ステアルトリモニウムクロリド(C)としては、例えば、カチナールSTC-70ET(東邦化学株式会社製)を用いることができる。なお、カチナールSTC-70ETは、ステアルトリモニウムクロリドが70%、エタノールが24%、水が6%配合されている。
【0032】
《その他成分》
本発明の毛髪処理剤は、通常は水を含む。水の含有量は特に限定されず、使用する目的に応じて、適宜調製して用いることができる。水として、具体的には、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水および天然水が挙げられ、殺菌済みのものが好ましい。
【0033】
本発明の毛髪処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分以外に任意の成分を含有することができる。任意の成分としては、例えば、pH調製剤、保湿剤、生薬類、キレート剤、防腐剤、酸化防止剤、清涼剤、帯電防止剤、ビタミン類、タンパク質、香料、抗菌剤、増粘剤、乳化剤、乳化安定剤、界面活性剤、高級アルコール、シリコーン類、油剤、溶剤、および色素が挙げられる。
本発明の毛髪処理剤において、任意の成分として、具体的には、pH調製剤としてアンモニア、リン酸;溶剤としてエタノールを用いることができる。
【0034】
《製法等》
本発明の毛髪処理剤は、上述した各成分を上述の量で使用する以外は、例えば公知の方法で、撹拌、混合、加熱、溶解、分散等することによって製造することができ、製造方法は特に限定されない。製造方法としては各成分を均一に混合するために、加熱条件下で行ってもよい。加熱条件下で製造する場合の温度としては、例えば75~85℃が挙げられる。
【0035】
《剤型》
本発明の毛髪処理剤の状態としては、液状、クリーム状、ジェル状などが挙げられ、操作性の観点から、液状が好ましい。液状であると、ヘアサロン等でのシャンプーの後、そのままシャンプー台で本発明の毛髪処理剤を毛髪に塗布し、放置後、すすぐ工程を行うことができるため好ましい。
本発明の毛髪処理剤の外観は、乳白色であることが好ましい。
本発明の毛髪処理剤は、液状であり、乳白色であることがより好ましい。
【0036】
《使用方法》
本発明の毛髪処理剤は、毛髪に塗布して使用することができる。
本発明の毛髪処理剤は、例えばシャンプー等の毛髪洗浄剤で毛髪を洗浄した後の毛髪に塗布して使用することが好ましい。
本発明の毛髪処理剤は、毛髪が乾燥している状態、濡れている状態、湿っている状態でも塗布して使用することができる。本発明における毛髪処理剤は、例えば、タオルドライ後等のように、毛髪が湿っている状態で塗布して使用することが、毛髪への毛髪処理剤の浸透効果が高いことから好ましい。また毛髪が湿っている状態のほうが、コーミングしやすくなるため好ましい。
【0037】
本発明の毛髪処理剤は、用途について特に制限はないが、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行う前に毛髪に塗布して用いることが好ましく、湾曲した毛髪を直毛にする効果に優れることから、縮毛矯正を行う前に毛髪に塗布して用いることがより好ましい。
本発明の毛髪処理剤は、毛髪に塗布した後、洗い流してから、または洗い流さずに、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行ってもよい。
【0038】
本発明者らは、酸性の毛髪処理剤に含まれる還元剤を毛髪内部に浸透させ、浸透させた還元剤を毛髪内部にとどまらせておいてから、アルカリ性の還元剤で還元することで、毛髪内部もしっかり還元し、毛髪外部は毛髪へのダメージを抑えつつ還元でき、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理などの毛髪形成力に優れることを見出した。
【0039】
本発明の毛髪処理剤は、毛髪内部に浸透した還元剤を毛髪内部にとどまらせながらも、後に行うアルカリ性下の還元剤による毛髪外部の過度な還元を防止し、ダメージを抑える観点から、本発明の毛髪処理剤は、毛髪に塗布した後、洗い流してから、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理を行うことが好ましい。
【0040】
<毛髪変形剤セット>
本発明の毛髪変形剤セットは、上述した本発明の毛髪処理剤と、チオグリコール酸換算値で2.0~11.0質量%の範囲でケラチン繊維還元性物質を含み、かつ、pHが7~10である毛髪変形剤第1剤とを備える。
【0041】
本発明の毛髪変形剤セットにおいて、本発明の毛髪処理剤は、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、およびチオ乳酸塩から選択される少なくとも1種の還元剤(A)を含み、前記還元剤(A)がチオグリコール酸換算値で2.0~10.0質量%、好ましくは3.0~9.0質量%、より好ましくは4.0~8.0質量%の範囲である。
【0042】
本発明の毛髪変形剤セットにおいて、本発明の毛髪処理剤は、pHが2~7、好ましくは3~6、より好ましくは4~5である。なお、前記還元剤(A)として、チオグリコール酸アンモニウムを使用する場合、本発明の毛髪処理剤は、pHが4.8~5.5であることが好ましい。
【0043】
本発明の毛髪変形剤セットにおいて、ケラチン繊維還元性物質は、チオグリコール酸換算値で、2~11質量%、好ましくは3~11質量%、より好ましくは4~11質量%の範囲である。
【0044】
本発明の毛髪変形剤セットにおいて、ケラチン繊維還元性物質とは、毛髪の構造タンパク質であるケラチンに対し、還元作用を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、チオグリコール酸およびその塩類;チオグリセリンおよびその塩類;システアミンおよびその塩類;システインおよびその塩類;チオ乳酸およびその塩類;亜硫酸およびその塩類;ブチロラクトンチオールが挙げられる。
【0045】
ケラチン繊維還元性物質として、具体的には、チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリセリン、システアミン、システアミン塩酸塩、システイン、システイン塩酸塩、チオ乳酸、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、くせの伸びが良好であることから、チオグリコール酸アンモニウムが好ましい。
【0046】
本発明の毛髪変形剤セットにおいて、毛髪変形剤第1剤は、pHが好ましくは7~9.5、より好ましくは8~9.5である。
本発明の毛髪変形剤セットにおいて、本発明の毛髪処理剤は、毛髪変形剤第1剤よりチオグリコール酸換算値が低く設定されていることが好ましい。毛髪処理剤のチオグリコール酸換算値が、毛髪変形剤第1剤より低く設定されていると、湾曲した毛髪を直毛にすること、または、カール形成力に優れつつ、毛髪へのダメージの抑制にも優れる傾向があるため好ましい。
【0047】
<毛髪変形処理方法>
本発明の毛髪変形処理方法は、上述した本発明の毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程(I)、工程(I)の後、上述した毛髪変形剤第1剤を毛髪に塗布する工程(II)、および、工程(II)の後、酸化剤を含む毛髪変形剤第2剤を毛髪に塗布する工程(III)を有する。
【0048】
本発明の毛髪変形処理方法は、上記工程(I)の後、工程(II)の前に、毛髪を洗浄する工程(I-a)を行うことが好ましい。この理由として、本発明者らは以下のように考えている。
【0049】
まず、工程(I)において、本発明の毛髪処理剤に含まれる還元剤を毛髪内部まで浸透させた後、毛髪内部にとどまらせておく。次に、毛髪を洗浄する工程(I-a)を行うことで、毛髪外部や毛髪表面に付着した余分な毛髪処理剤を洗い流すことができる。そのため、次の工程(II)において、毛髪変形剤第1剤に含まれるアルカリ性下の還元剤で還元する際に、毛髪内部はしっかり還元でき、毛髪外部は過度な還元を受けずに還元できる。すなわち、毛髪へのダメージを抑えながら、湾曲した毛髪を直毛にすることができ、また、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理によるカール形成力にも優れるため、好ましい。
【0050】
本発明の毛髪変形処理方法は、上記の工程(II)の後、毛髪を加熱する工程(II-a)が行われた毛髪に対して、工程(III)を行うことが好ましい。
工程(I)は、毛髪100gに対して、本発明の毛髪処理剤を50~60g毛髪に塗布する工程であることが好ましい。また、毛髪への還元剤の浸透性を高める観点から、毛髪処理剤を毛髪に塗布した後、室温(18~28℃)で1~8分、好ましくは2~4分放置することがより好ましい。また、毛髪へのダメージを抑制することや時間短縮の観点から、室温(18~28℃)で10分以上放置しないことが好ましい。
【0051】
工程(I)で使用する本発明の毛髪処理剤は、工程(II)で使用する毛髪変形剤第1剤より、チオグリコール酸換算値が低く設定されていることが好ましい。毛髪処理剤のチオグリコール酸換算値が、毛髪変形剤第1剤より低く設定されていると、湾曲した毛髪を直毛にすること、または、カール形成力に優れつつ、毛髪へのダメージの抑制にも優れる傾向があるため好ましい。
【0052】
工程(I-a)は、毛髪を水洗する工程であることがより好ましい。
工程(II-a)は、ヘアアイロンを用いて毛髪を加熱する工程であることが好ましい。工程(II-a)において、ヘアアイロンの温度は、好ましくは170~210℃、より好ましくは178~182℃である。ヘアアイロンとしては、例えば、ADST Premium DS2(株式会社ハッコー)を用いることができる。
【0053】
工程(II-a)において、毛髪を加熱する方法としては、例えば、乾いた毛髪の根元から毛先に向かって、ヘアアイロンを2~15秒接触させることが好ましく、接触させる回数は、好ましくは1~10回、より好ましくは2~4回である。
なお、毛髪にヘアアイロンを接触させて加熱する一連の処理を、アイロンスルーとも記す。
【0054】
本発明の毛髪変形処理方法において、工程(III)で使用する、酸化剤を含む毛髪変形剤第2剤は特に制限はなく、従来公知のものをはじめ、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理に用いられる剤をそのまま適用することができる。
毛髪変形剤第2剤に含まれる酸化剤としては、例えば、臭素酸塩、過酸化水素が挙げられる。
【実施例0055】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
<実施例1~48、比較例1~12>
実施例および比較例では、下記表1に記載の市販品を使用した。
なお、表1に記載の原料において、「1チオグリセロールSPG」は、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールを98%含む。
【0057】
【0058】
表3~表14に示す処方で各成分を混合することにより実施例および比較例の各毛髪処理剤を製造し、(1)~(8)の官能評価の試料とした。
(1)、(2)、(4)~(8)の官能評価では、後述の条件で波状の人毛毛束をダメージ処理し、試料の毛髪処理剤を塗布した後、縮毛矯正を行い、ストレートデザインに形成して評価した。
(3)の官能評価では、後述の条件で波状の人毛毛束をダメージ処理し、試料の毛髪処理剤を塗布した後、パーマネントウェーブ処理を行い、カールを形成して評価した。
【0059】
(1)~(8)の官能評価の結果は、表3~表14に示す。なお、表中の処方の数値は、毛髪処理剤を100質量%とした場合の、各成分の質量%を表している。また、表中の*印がついた値は、チオグリコール酸換算値を示し、表中の89%燐酸の欄にpHが記載されているものは、記載のpHになるように、89%燐酸を配合したということを示している。
【0060】
〔ダメージ処理〕
ヘアサロンから入手した波状毛束を、シェルパデザインサプリD-1シャンプー(株式会社アリミノ製)3gを用いて洗浄、水洗し、タオルドライした。その後、あらかじめ一般人の毛髪の痛みを再現するために以下のダメージ処理を行った。
【0061】
毛束(約20cm、10gの波状人毛:ヘアサロンから入手)を、表2に記載の配合割合で調製したダメージ処理用水溶液に60℃で、10分間浸漬して、ダメージを与えた。その後ダメージ処理用水溶液から毛束を取り出して水洗し、乾燥させた。
【0062】
【0063】
〔前処理〕
ダメージ処理した毛束10gを水洗し、タオルドライした。その後、試料の毛髪処理剤を20g塗布し、25℃で3分放置後、水洗した。
試料の毛髪処理剤を塗布しているときのにおいについて、(7)の評価を行った。
【0064】
〔縮毛矯正〕
上記の前処理を行った後、水洗した毛束10gに、縮毛矯正剤第1剤(クオラインT-C 250:株式会社アリミノ製:チオグリコール酸換算値10.7%、pH8.9)を20g塗布し、25℃で15分放置した後、水洗し、ドライヤーで乾燥させた。
【0065】
次に、180℃に設定したヘアアイロン(ADST Premium DS2:株式会社ハッコー製)を用いて、根元から毛先まで10秒間かけてアイロンスルーを3回行い、ストレートデザインを形成した。
【0066】
ストレートデザイン形成された毛束10gに、縮毛矯正剤第2剤(クオラインOX2剤:株式会社アリミノ製)を20g塗布し、25℃で15分放置した後、水洗し、ドライヤーで乾燥させた。
仕上がりの毛束について(1)、(2)、(4)~(6)、および(8)の評価を行った。
【0067】
〔パーマネントウェーブ処理〕
上記の前処理を行った後、水洗した毛束10gに、毛髪変形剤第1剤(コスメカールプリズムプラスH:株式会社アリミノ製:チオグリコール酸換算値5.0%、pH8.2)を20g塗布し、ニューエバーロッド F型 15:株式会社エバーメイド製)に毛束を巻いて25℃で15分放置した。その後、毛髪変形剤第2剤(プリズムプラスアフターローション:株式会社アリミノ製)を毛束に20g塗布し、25℃で15分放置した後、水洗し、ドライヤーで乾燥させた。
仕上がりの毛束について(3)の評価を行った。
【0068】
〔評価基準〕
(1)~(8)の官能評価は、専門パネラー(美容師)10人が1人ずつ評価を行った。評価は項目ごとに記載した下記の評価点基準による10名の平均点を算出し、平均点に基づいて以下のとおり評価した。
◎:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が3.5点以上である。
○:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が2.5点以上3.5点未満である。
△:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が1.5点以上2.5点未満である。
×:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が1.5点未満である。
【0069】
(1)くせの伸び
仕上がりの毛束について、くせが伸びて湾曲した毛髪が直毛になっているかを目視で評価した。
4点:くせがしっかりと伸びている
3点:くせが伸びている
2点:くせが伸びておらず、うねりが残っている
1点:くせが全く伸びていない
【0070】
(2)毛髪へのダメージ
仕上がりの毛束について、ダメージを触感で評価した。
4点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、指どおりが非常に良い
3点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、指どおりが良い
2点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、指どおりが悪い
1点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、指どおりが非常に悪い
【0071】
(3)カール形成力(リッジ)
仕上がりの毛束について、カールの強さを目視と触感で評価した。
なお、カールが形成されS字状にくせがついた毛髪の山の部分をリッジといい、リッジは毛髪処理剤のカール形成力を示す基準となる。
カール形成力が高いほど、立体感があり、くっきりとしたリッジのあるカールが形成される。一方、カール形成力が低くなるにつれて、ゆるいリッジのないカールになってしまう。さらにカール形成力が低くなるとカールは形成されなくなる。
4点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、カールに弾力とハリがあり、非常にくっきりとしたリッジのあるカールが形成されている
3点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、カールに弾力とハリがあり、くっきりとしたリッジのあるカールが形成されている
2点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、カールに弾力とハリはあるが、同等レベルである
1点:比較対象(前処理を行わないもの)と比較して、カールに弾力とハリがなく、ほとんどカールが形成されていない
【0072】
(4)指どおり
仕上がりの毛束について、指どおりを触感で評価した。
4点:指どおりが非常に良い
3点:指どおりが良い
2点:指どおりが悪い
1点:指どおりが非常に悪い
【0073】
(5)艶
仕上がりの毛束について、艶を目視で評価した。
4点:艶がとてもある
3点:艶がある
2点:艶がほとんどない
1点:艶が全くない
【0074】
(6)時間短縮
上述したダメージ処理および前処理を行った後、水洗した毛束10gに、縮毛矯正剤第1剤(クオライン 100:株式会社アリミノ製:チオグリコール酸換算値5%、pH7.7)を20g塗布し、25℃で10分放置した後、水洗し、ドライヤーで乾燥させた。
次に、上述の縮毛矯正と同様に、ヘアアイロンでストレートデザインを形成した。
ストレートデザイン形成された毛束10gに、縮毛矯正剤第2剤(クオラインOX2剤:株式会社アリミノ製)を20g塗布し、25℃で15分放置した後、水洗し、ドライヤーで乾燥させて仕上げた。この毛束を、毛束(i)とする。
毛束(i)について、以下の比較対象の毛束(ii)と比較して、くせの伸びを目視で評価した。
(比較対象の毛束(ii):前処理を行わず、縮毛矯正剤第1剤を塗布し、25℃で20分放置したこと以外は、毛束(i)と同様に調製した。)
4点:比較対象より、くせがしっかりと伸びている
3点:比較対象より、くせが伸びている
2点:比較対象より、くせが伸びておらず、うねりが残っている
1点:比較対象より、くせが全く伸びていない
【0075】
(7)施術中のにおい
試料の毛髪処理剤を塗布しているときのにおいについて評価した。
4点: 試料塗布中のにおいがほとんどない
3点: 試料塗布中のにおいが少ない
2点: 試料塗布中のにおいがややある
1点: 試料塗布中のにおいがかなりある
【0076】
(8)しっとりさ
仕上がりの毛束について、質感を触感で評価した。
4点:非常にしっとりしている
3点:しっとりしている
2点:パサついている
1点:非常にパサついている
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
実施例1~48で製造した毛髪処理剤は、(1)~(8)の評価項目において良好な結果となった。実施例40は、特に良好な結果となった。
【0090】
本発明の毛髪処理剤は、毛髪へのダメージを抑えつつ、縮毛矯正、カーリング処理、またはパーマネントウェーブ処理などの毛髪形成力に優れるとともに、指通り、艶、およびしっとりした質感に優れた毛髪に仕上げることができる毛髪処理剤、毛髪変形剤セット、および毛髪変形処理方法であることがわかる。
【0091】
比較例1で製造した毛髪処理剤は、チオグリコール酸換算値が規定量より少ないため、くせの伸びおよびカール形成力が悪かった。
【0092】
比較例2で製造した毛髪処理剤は、チオグリコール酸換算値が規定量より多いため、毛髪へのダメージがあり、仕上がりの質感も悪かった。
【0093】
比較例3で製造した毛髪処理剤は、チオグリコール酸換算値が規定量より少ないため、くせの伸びおよびカール形成力が悪かった。また、仕上がりの質感も悪かった。
【0094】
比較例4で製造した毛髪処理剤は、チオグリコール酸換算値が規定量より多いため、毛髪へのダメージがあり、仕上がりの質感が悪かった。
【0095】
比較例5で製造した毛髪処理剤は、チオグリコール酸換算値が規定量より少ないため、くせの伸びおよびカール形成力が悪かった。また、仕上がりの質感も悪く、施術中のにおいがかなりあった。
【0096】
比較例6で製造した毛髪処理剤は、チオグリコール酸換算値が規定量より多いため、毛髪へのダメージがあり、仕上がりの質感が悪かった。
【0097】
比較例7で製造した毛髪処理剤は、pHが規定値より低いため、毛髪へのダメージがあった。
【0098】
比較例8で製造した毛髪処理剤は、pHが規定値より大きいため、毛髪へのダメージがあった。
【0099】
比較例9で製造した毛髪処理剤は、pHが規定値より低いため、毛髪へのダメージがあった。
【0100】
比較例10で製造した毛髪処理剤は、pHが規定値より大きいため、毛髪へのダメージがあった。指通りが悪く、パサつき、艶もほとんどなかった。