(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074358
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】配電系統構成構築方法、配電系統構成構築システム、および配電系統構成構築プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187282
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 翼
(72)【発明者】
【氏名】多田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】末永 晋也
(72)【発明者】
【氏名】村田 新治
(72)【発明者】
【氏名】船矢 祐介
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA02
5G066AA03
5G066AA09
5G066AE04
5G066AE07
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】配電系統の指定時間域標準系統構成の構築において、配電系統の分岐線の潮流状態(電圧および電流)に応じて区間モデルの粒度を部分的に詳細化する。
【解決手段】配電設備をノードとした配電系統モデルを任意のノードで分割した区間内の配電設備の情報を集約した区間モデルに基づいて配電系統構成を構築する配電系統構成構築システムが実行する配電系統構成構築方法であって、主記憶装置及び処理装置を有する配電系統構成構築システムが、配電系統モデルの分岐線における潮流状態に基づいて、運用制約違反の可能性がある区間内の配電設備の情報を、第1の粒度よりも詳細な第2の粒度で集約した粒度可変区間モデルを生成する。そして、配電系統構成構築システムが、粒度可変区間モデルを基に、指定時間域における潮流解析を実行し、潮流解析の実行結果に基づいて配電系統構成を構築する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電設備をノードとした配電系統モデルを任意のノードで分割した区間内の前記配電設備の情報を集約した区間モデルに基づいて配電系統構成を構築する配電系統構成構築方法であって、
主記憶装置及び処理装置を有する配電系統構成構築システムが、
前記配電系統モデルの分岐線における潮流状態に基づいて、運用制約違反の可能性がある区間内の前記配電設備の情報を、第1の粒度よりも詳細な第2の粒度で集約した粒度可変区間モデルを生成し、
前記粒度可変区間モデルを基に、指定時間域における潮流解析を実行し、
前記潮流解析の実行結果に基づいて前記配電系統構成を構築する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
前記粒度可変区間モデルを生成する際に、
前記配電系統モデルの分岐線における線路通過電流および電圧変動を算出し、
前記電圧変動の許容しきい値を変化させたときの前記粒度可変区間モデルのノード数の感度分析に基づいて前記第2の粒度を決定し、
前記線路通過電流に応じて、前記第2の粒度で前記粒度可変区間モデルを生成する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項3】
請求項1に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
前記粒度可変区間モデルの前記第1の粒度で集約した前記区間を前記第2の粒度で粒度変更可能に表示装置に表示する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項4】
請求項3に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
ユーザ指示に応じて、前記第2の粒度で粒度変更可能に前記表示装置に表示した前記区間を、前記第2の粒度で再集約して前記粒度可変区間モデルを再生成する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項5】
請求項2に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
配電設備データに基づいて配電系統の詳細モデルを生成し、
前記詳細モデルに基づいて、前記配電系統を区間へ分割する境界となる分割ノードおよび前記詳細モデル内の全分岐接続ノードごとに区間を暫定的に分割した暫定区間モデルを生成し、
前記暫定区間モデルに対して、指定時間域における潮流解析を実行し、
前記暫定区間モデルに対する潮流解析の実行結果に基づいて前記粒度可変区間モデルを生成する
各処理を含んだことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項6】
請求項1に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
前記粒度可変区間モデルを用いて前記配電系統の最適構成を求めるための最適化問題を定式化し、
前記最適化問題の演算により、該最適化問題の目的関数のスコアが上位所定数の前記配電系統構成の候補を抽出し、
前記配電系統構成の候補に対して、指定時間域における潮流解析を実行し、
前記配電系統構成の候補の潮流解析結果に基づいて、複数の評価項目の指定時間域における多断面評価を実行し、
前記複数の評価項目に基づく総合評価指標を算出し、
前記総合評価指標に基づいて、指定時間域における前記配電系統構成を決定する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項7】
請求項6に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
前記分岐線の線路通過電流および電圧変動の数値が最大となる負荷断面を前記最適化問題へ投入して前記配電系統構成の候補を抽出する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項8】
請求項6に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記複数の評価項目は、配電損失合計、電圧偏差、供給予備力、および系統切替作業量の少なくとも何れかを含み、
前記総合評価指標は、前記複数の評価項目の正規化ノルムである
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項9】
請求項8に記載の配電系統構成構築方法であって、
前記配電系統構成構築システムが、
前記複数の評価項目および前記総合評価指標の少なくとも何れかを表示装置に表示する
ことを特徴とする配電系統構成構築方法。
【請求項10】
配電設備をノードとした配電系統モデルを任意のノードで分割した区間内の前記配電設備の情報を集約した区間モデルに基づいて配電系統構成を構築する配電系統構成構築システムであって、
主記憶装置及び処理装置を有する配電系統構成構築システムが、
前記配電系統モデルの分岐線における潮流状態に基づいて、運用制約違反の可能性がある区間内の前記配電設備の情報を、第1の粒度よりも詳細な第2の粒度で集約した粒度可変区間モデルを生成する粒度可変区間モデル生成部と、
前記粒度可変区間モデルを基に、指定時間域における潮流解析を実行し、該潮流解析の実行結果に基づいて前記配電系統構成を構築する標準系統構築部と
を有することを特徴とする配電系統構成構築システム。
【請求項11】
請求項10に記載の配電系統構成構築システムであって、
前記粒度可変区間モデル生成部は、
前記粒度可変区間モデルを生成する際に、
前記配電系統モデルの分岐線における線路通過電流および電圧変動を算出し、
前記電圧変動の許容しきい値を変化させたときの前記粒度可変区間モデルのノード数の感度分析に基づいて前記第2の粒度を決定し、
前記線路通過電流に応じて、前記第2の粒度で前記粒度可変区間モデルを生成する
ことを特徴とする配電系統構成構築システム。
【請求項12】
請求項11に記載の配電系統構成構築システムであって、
前記粒度可変区間モデル生成部は、
配電設備データに基づいて配電系統の詳細モデルを生成する詳細モデル生成部と、
前記詳細モデルに基づいて、前記配電系統を区間へ分割する境界となる分割ノードおよび前記詳細モデル内の全分岐接続ノードごとに区間を暫定的に分割した暫定区間モデルを生成する暫定区間モデル生成部と、
前記暫定区間モデルに対して、指定時間域における潮流解析を実行する潮流状態算出部と、
前記暫定区間モデルに対する潮流解析の実行結果に基づいて前記第2の粒度を調整して前記粒度可変区間モデルを生成する区間モデル粒度調整部と
を有することを特徴とする配電系統構成構築システム。
【請求項13】
請求項10に記載の配電系統構成構築システムであって、
前記標準系統構築部は、
前記粒度可変区間モデルを用いて前記配電系統の最適構成を求めるための最適化問題を定式化し、該最適化問題の演算により、該最適化問題の目的関数のスコアが上位所定数の前記配電系統構成の候補を抽出する最適構成問題演算部と、
前記配電系統構成の候補に対して、指定時間域における潮流解析を実行する潮流解析部と、
前記配電系統構成の候補の潮流解析結果に基づいて、複数の評価項目の指定時間域における多断面評価を実行し、該複数の評価項目に基づく総合評価指標を算出し、該総合評価指標に基づいて、指定時間域における前記配電系統構成を決定する系統構成候補多断面評価部と
を有することを特徴とする配電系統構成構築システム。
【請求項14】
請求項13に記載の配電系統構成構築システムであって、
前記最適構成問題演算部は、
前記分岐線の線路通過電流および電圧変動の数値が最大となる負荷断面を前記最適化問題へ投入して前記配電系統構成の候補を抽出する
ことを特徴とする配電系統構成構築システム。
【請求項15】
配電設備をノードとした配電系統モデルを任意のノードで分割した区間内の前記配電設備の情報を集約した区間モデルに基づいて配電系統構成を構築する配電系統構成構築システムとしてコンピュータを機能させるための配電系統構成構築プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記配電系統モデルの分岐線における潮流状態に基づいて、運用制約違反の可能性がある区間内の前記配電設備の情報を、第1の粒度よりも詳細な第2の粒度で集約した粒度可変区間モデルを生成する粒度可変区間モデル生成部、
前記粒度可変区間モデルを基に、指定時間域における潮流解析を実行し、該潮流解析の実行結果に基づいて前記配電系統構成を構築する標準系統構築部
として機能させるための配電系統構成構築プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統構成構築方法、配電系統構成構築システム、および配電系統構成構築プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数の配電線によって形成される配電系統は、
図1に一例を示すように、事故発生の影響の波及を遮断して電力供給の信頼度を確保するために、開閉器により複数の区間に分けられている。それぞれの区間は、フィーダから電力の供給を受ける。そして、あるフィーダの配電線は、他のフィーダの配電線と、常時開の連系開閉器で連系されている。そのため、開閉器の入切状態を操作することにより、系統構成が変わり、それに伴って電力潮流も大きく変化することになる。
【0003】
また、通常、配電系統では、適正電圧の維持、平常時および事故時の系統操作が円滑にできることを考慮して標準となる系統構成(以降、標準系統構成)を定めて運用を行う。
【0004】
近年、太陽光発電をはじめとする分散電源が配電系統に多く連系されるようになった。分散電源が連系されていない系統であれば、電力潮流は上流にあたる変電所から末端の需要家への一方向であった。しかし、分散電源の連系が増加することで、末端の分散電源からの逆潮流など、系統内の電力潮流が複雑に変化するようになった。それに伴い、バンク変圧器や配電線における過負荷や電圧逸脱など、配電系統の運用制約違反といった問題が生じる可能性が高まっている。したがって、系統内の潮流状態に応じて、配電系統の運用制約を満足かつ円滑な系統運用が可能な配電系統構成を形成する必要がある。
【0005】
特許文献1では3分割3連系配電方式等の多分割多連係電力方式を採用した配電ネットワークにおいて、配電損失最小構成を厳密解法を用いて算出する配電系統構成最適化方法について記載されている。特許文献1に開示の配電系統構成最適化方法では、効率よく運用制約を満足する候補を搾り込むために、3連系未満の閉じられた複数の部分フィーダに分割し、部分フィーダ内で運用制約を満足する構成を全数検索することで、効率よく運用制約を満足する候補を絞り込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分散電源の多くが太陽光発電をはじめとする自然変動電源であるため、時刻や季節によって発電出力が変化し、それに伴って配電系統内の潮流状態も時々刻々変化する。そのため、例えば特許文献1に記載の配電系統構成最適化方法を用いて、潮流状態に応じて系統構成を随時変更し、常に円滑な系統運用が可能な状態を維持することが理想的である。しかし、頻繁な系統構成の変更は開閉器の操作回数の増加につながるため、機器寿命低下、メンテナンスコスト増加、系統運用者の負担増加といった問題が生じる。
【0008】
そこで、任意の指定された時間域、例えば季節(夏季・冬季・中間季)や配電設備の作業停止期間など(以降、指定時間域)において、妥当な標準系統構成(以降、指定時間域標準系統構成)を構築することを検討する。
【0009】
しかし、指定時間域標準系統構成を構築する際、時間域ごとで多数の系統構成候補が生成され、かつ系統構成候補から最も妥当な指定時間域標準系統構成を選定するための評価を行う際に、複数の需給シナリオを模擬した解析を行う必要があり、計算量が増加する。
【0010】
計算量の増加に対して、配電系統には膨大な設備が存在するため、詳細な系統モデル(以降、詳細モデル)で解析することは計算量の観点で実用的ではない。一般に、配電系統では
図1で示したような区間単位で負荷や線路インピーダンスのデータを集約したモデル(以降、区間モデル)を用いて解析を行う。詳細モデルより区間モデルを生成する際、
図2のように開閉器、電圧調整器および幹線の分岐点で囲まれる範囲を一つの区間として負荷および線路インピーダンスなどのデータを集約する。幹線から分岐する配電線(以降、分岐線)に関しては、幹線に比べて潮流量が少ないため、負荷とみなして幹線に集約することが一般的である。しかし、分岐線をはじめとする系統の末端箇所に集中的に分散電源が連系されるようになると、分岐線の潮流量も増加する。従来では分岐線はモデル化の際に簡略化してしまうため、分岐線における運用制約の違反を見逃すという課題がある。
【0011】
特許文献1においても、配電系統構成を決定するために用いるモデルは、開閉器で囲まれる範囲を1つの区間としており、分岐線は簡略化されており、同様の課題が生じる。
【0012】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、配電系統の指定時間域標準系統構成の構築において、配電系統の分岐線の潮流状態(電圧および電流)に応じて区間モデルの粒度を部分的に詳細化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、配電設備をノードとした配電系統モデルを任意のノードで分割した区間内の前記配電設備の情報を集約した区間モデルに基づいて配電系統構成を構築する配電系統構成構築方法であって、主記憶装置及び処理装置を有する配電系統構成構築システムが、前記配電系統モデルの分岐線における潮流状態に基づいて、運用制約違反の可能性がある区間内の前記配電設備の情報を、第1の粒度よりも詳細な第2の粒度で集約した粒度可変区間モデルを生成し、前記粒度可変区間モデルを基に、指定時間域における潮流解析を実行し、前記潮流解析の実行結果に基づいて前記配電系統構成を構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、配電系統の指定時間域標準系統構成の構築において、配電系統の分岐線の潮流状態(電圧および電流)に応じて区間モデルの粒度を部分的に詳細化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】一般的な配電系統の詳細モデルと区間モデルを示す図。
【
図3】実施例に係る配電系統構成構築システムを示す図。
【
図4】指定時間域標準系統構成の構築手順を示す図。
【
図5】粒度可変区間モデル生成の処理手順を示す図。
【
図7】操作対象外の開閉器状態の詳細モデルへの反映する処理イメージを示す図。
【
図10】分岐線区間ノード潮流状態算出の処理イメージを示す図。
【
図11】分岐線区間ノードにおける潮流状態算出結果の一例を示す図。
【
図12】電圧誤差許容しきい値ごとの粒度可変区間モデル例を示す図。
【
図13】電圧誤差許容しきい値と粒度可変区間モデルの区間ノード数の関係グラフを示す図。
【
図15】指定時間域標準系統構成候補の生成の処理手順を示す図。
【
図17】指定時間域標準系統構成候補の比較評価画面例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願の実施例を、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施例は、図面を含めて例示に過ぎず、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施例の中で説明されている諸要素およびその組合せの全てが、発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、発明の構成に必須だが周知である構成については、図示および説明を省略する場合がある。
【0017】
また、以下の説明において、同種の要素を区別しないで説明する場合には、参照符号(または、参照符号のうちの共通符号)を使用し、同種の要素を区別して説明する場合は、要素の識別番号(または参照符号)を使用することがある。また、各図に示す各要素の数は一例であって、図示に限られるものではない。
【0018】
以下の説明において、例えば、「xxx表」や「xxxテーブル」の表現にて各種情報を説明することがあるが、各種情報は表やテーブル以外のデータ構造で表現されていてもよい。各種情報は、データ構造に依存しないため、「xxx表」や「xxxテーブル」が「xxx情報」と呼ぶことができる。
【0019】
以下の説明において、「区間」は、開閉器や電圧調整器等を境に「配電系統」を分割した配電系統の各々の部分である。また「区間モデル」は、配電系統における潮流解析の計算負荷を低減するために、「区間」内の分岐や配電設備等のノードを適宜簡略化または詳細化して「区間」をモデリングしたものである。
【実施例0020】
<実施例の概要>
本実施例における配電系統構成構築システムは、指定時間域における標準系統を構築する際に、配電系統の潮流状態に応じてモデルの粒度を部分的に第1の粒度から第2の粒度へ詳細化した「粒度可変区間モデル」を用いて、最適化演算によって新たな指定時間域標準系統構成を構築するシステムである。また、「モデルの粒度」とは、「区間」をモデリングする際に、「区間」内のノードを簡略化または詳細化する程度をいう。
【0021】
<配電系統構成構築システムの構成>
図3において、本実施例による配電系統構成構築システムを示す。配電系統構成構築システム1は、粒度可変区間モデル生成部10、指定時間域標準系統構成構築部20、配電系統データベース30、入力装置40、出力装置50を備える。
【0022】
粒度可変区間モデル生成部10は、詳細モデルおよび区間モデルの生成条件を設定するモデリング条件設定部11と、配電設備データより対象とする配電系統の詳細モデルを生成する詳細モデル生成部12と、指定設備および詳細モデル内の全分岐点で暫定的に区間を分割した区間モデル(以降、暫定区間モデル)を生成する暫定区間モデル生成部13と、暫定区間モデル内の分岐線に属する区間ノード(以降、分岐線区間ノード)の指定時間域における潮流状態を算出する分岐線区間ノード潮流状態算出部14と、暫定区間モデルの潮流状態に応じてモデルの粒度を部分的に詳細化するための条件を設定するモデル粒度詳細化条件設定部15と、潮流状態に応じて暫定区間モデルの粒度を調整する区間モデル粒度調整部16と、を備える。粒度可変区間モデル生成部10の各処理機能の詳細は後述する。
【0023】
指定時間域標準系統構成構築部20は、最適化演算対象負荷断面選定部21と、最適構成問題演算部22と、系統構成候補潮流解析部23と、系統構成候補多断面評価部24と、を備える。指定時間域標準系統構成構築部20の各処理機能の詳細は後述する。
【0024】
本実施例による配電系統データベース30は、配電設備データ31と、設備状態データ32と、負荷・発電予測シナリオ33と、を備える。また、配電系統データベース30は、記憶装置により実現される。配電設備データ31と、設備状態データ32と、負荷・発電予測シナリオ33は、配電系統データベース30に格納されるデータの一例であり、これら以外のデータを格納してもよい。
【0025】
入力装置40は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、音声指示装置などであり、少なくとも1つを含んで実現される。
【0026】
出力装置50は、ディスプレイ装置、プリンタ、音声出力装置などであり、少なくとも1つを含んで実現される。
【0027】
配電系統構成構築システム1は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ等のコントローラと、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置と、通信装置とを備えた、回路、プリント基板、サーバ、情報処理装置などの上で実装される。配電系統構成構築システム1は、記憶装置に記憶された各種のプログラムに従ってコントローラが処理を行うソフトウェアによって実現されてもよいし、回路等のハードウェアによって実現されてもよいし、クラウド上で処理を行うソフトウェアによって実現されてもよい。
【0028】
<指定時間域標準系統構成の構築手順>
図4は、本実施例による指定時間域標準系統構成の構築手順を示す。本手順は、配電系統構成構築システム1における入力装置40からの指定時間域標準系統構成の構築リクエスト受信を契機に開始し、指定時間域標準系統構成を表示装置へ出力して処理を完了する。以降では、
図4のフローチャートをもとに指定時間域標準系統構成の作成手順の概要を説明する。
【0029】
まず、ステップS401では、指定時間域標準系統構成構築部20は、指定時間域の設定を受付ける。指定時間域は入力装置40にて期間を入力してもよいし、事前に設定済みの期間、例えば季節ごと(夏季・冬季・中間季など)を読み込んでもよい。
【0030】
続いて、ステップS402では、粒度可変区間モデル生成部10は、詳細モデルより指定時間域における分岐線の潮流状態を算出して、運用制約違反の可能性が高い箇所を部分的に詳細化した粒度可変区間モデルを生成する。
【0031】
ステップS403では、最適化演算対象負荷断面選定部21および最適構成問題演算部22は、ステップS402で生成した粒度可変区間モデルを用いて、指定時間域標準系統構成候補を組合せ最適化演算により生成し、目的関数のスコアが高い上位候補(以降、系統構成候補)を複数抽出する。
【0032】
続くステップS404では、系統構成候補潮流解析部23は、ステップS403にて生成した系統構成候補について、指定時間域における潮流解析を行う。
【0033】
ステップS405では、系統構成候補潮流解析部23は、潮流解析結果の運用制約チェックを実施する。指定時間域において運用制約違反がある場合は、最適構成問題演算部22は、当該違反断面をステップS403における最適化演算の対象断面に追加して再度系統構成候補を生成する。運用制約違反がない場合は、ステップS406にて、系統構成候補多断面評価部24は、ステップS404における解析結果をもとに、各系統構成候補ごとの多断面評価を行う。
【0034】
ステップS407では、系統構成候補多断面評価部24は、ステップS406における多断面評価結果をもとに、指定時間域標準系統構成を最終決定する。
【0035】
<粒度可変区間モデル生成の処理手順>
図5は、ステップS402における粒度可変区間モデル生成の処理手順を示す。以降、
図6に示す詳細モデル例600を用いて粒度可変区間モデル生成の処理手順について詳細を述べる。
【0036】
ステップS501では、モデリング条件設定部11は、区間分割ノードおよび操作対象開閉器を設定する。区間分割ノードとは、区間モデルを生成する際に、区間を分割する基準となるノード(配電設備および接続ノード)を示す。通常、区間分割の対象となる配電設備は、開閉器およびSVR(Step Voltage Regulator、電圧調整器)である。さらに幹線の分岐箇所にあたる接続ノード(以降、幹線分岐接続ノード)も区間分割ノードとなる。
【0037】
なお、幹線に限らず配電線の分岐箇所にあたる接続ノードを分岐接続ノードとし、全分岐接続ノードのうち、特に幹線の分岐箇所を幹線分岐接続ノードとして以降区別する。また、入力装置40にて追加で他の配電設備や接続ノードを区間分割ノードとして指定してもよい。例えば、一定容量以上の高圧需要家への接続ノードといった潮流状態を重点的に監視したい箇所を指定する。
【0038】
図6に示す詳細モデル例においては、区間分割対象設備は、開閉器601、602、604、およびSVR603である。また、操作対象開閉器の設定では、系統構成構築において開閉切替操作が可能な開閉器を抽出する。例えば、配電自動化システム等から遠隔操作可能な遠制開閉器のみを操作対象として、現地での作業が必要な手動開閉器は、操作対象外(現在の開閉状態を維持)とするといったケースがある。なお、操作対象の開閉器は区間分割対象とし、対象外の開閉器は現在の開閉状態を継続し、後述の詳細モデル生成時に系統の接続関係を表現するために利用する。操作対象開閉器の設定は、事前に開閉器属性(遠制と手動など)で一律に設定してもよいし、入力装置40で開閉器ごとに設定してもよい。
【0039】
ステップS502では、詳細モデル生成部12は、配電設備データ31をもとに、指定時間域標準系統構成の対象系統の詳細モデルを生成する。詳細モデルは、詳細モデル例600で示すように、ノードに配電設備および接続ノードが対応し、エッジが配電設備と接続ノードの関係を示すグラフモデルである。本実施例では、配電設備同士の接続関係は、接続ノードを介するモデル構造としている。本モデル構造は、電力流通部門における国際標準の共通情報モデル(CIM:Common Information Model)に準ずる構造である。なお、本モデル構造はあくまで一例であり、配電設備の接続関係を把握可能であれば、他の任意のモデル構造であってもよい。
【0040】
また、ステップS501で設定した操作対象外の開閉器状態の詳細モデルへの反映について、
図7を例に説明する。
図7は遠制開閉器のみを操作対象とし、手動開閉器の開閉状態を詳細モデルに反映する例である。まず、開閉器状態反映前詳細モデル701にて、手動開閉器の現在の開閉状態を取得する。続いて、手動開閉器の開閉状態をもとに、開閉状態反映後詳細モデル702のように、常開開閉器は非接続状態711に、常閉開閉器は接続状態712へと変換する。以上の手順にて、ステップS501で設定した操作対象外の開閉器状態を詳細モデルに反映する。
【0041】
ステップS503では、暫定区間モデル生成部13は、詳細モデルをもとに暫定区間モデルを生成する。前述の通り、暫定区間モデルとは、区間分割ノードおよび詳細モデル内の全分岐接続ノードごとに暫定的に区間を分割した区間モデルのことを指す。本処理の詳細を
図8に示し、以降で、詳細モデル例600を対象に説明する。
【0042】
まず、ステップS801では、暫定区間モデル生成部13は、区間分割ノードを設定する。区間分割ノードは、ステップS602で設定した区間分割設備と接続する接続ノードと、幹線の分岐箇所に対応する接続ノードが含まれる。詳細モデル例600では、区間分割設備と接続する接続ノード611、613、614、615、617および幹線の分岐箇所に対応する接続ノード612が区間分割ノードとして設定される。
【0043】
続いて、ステップS802では、暫定区間モデル生成部13は、幹線の特定および詳細モデル内のすべての分岐接続ノードを抽出する。幹線については、詳細モデルにおける区間分割ノード間をつなぐ経路を探索することで幹線を特定する。また、幹線の経路の分岐接続ノードからモデル末端までの経路が分岐線に該当する。経路探索は一般的なグラフ探索手法を用いることで実現できる。また、配電線の経路が2分岐以上となる接続ノードを特定することで、分岐接続ノードを抽出することができる。詳細モデル例600では、開閉器601から602への経路、および開閉器601から604への経路が幹線に該当し、分岐線は621、622、623、624の経路が該当する。また、分岐接続ノードは接続ノード611、612、613、615、616が該当する。なお、分岐接続ノードは区間分割ノードと重複する場合もある。
【0044】
次に、ステップS803では、ステップS802で抽出した分岐接続ノードおよび区間分割ノードを基準とした区間ノード集約を行い、暫定区間モデルを生成する。区間ノード集約方法は、区間分割ノードを始点として、他の区間分割ノードまでの全経路を探索し、当該経路上の設備ノード群および接続ノード群を一つの区間ノードとして集約する。分岐接続ノードにおける区間ノード集約が完了後は、暫定区間モデルとして出力して本処理を終了する。
【0045】
図9に詳細モデル例600に対応する暫定区間モデルの例を示す。詳細モデル例600において、接続ノード611~617が暫定区間モデルにおける区間分割ノードに該当し、ステップS803により、
図9に示す全10区間の区間ノードをもつ暫定区間モデルが生成される。なお、幹線に属する区間ノードを幹線区間ノード(
図9ではA1、B1、C1、D1が該当)、分岐線に属する区間ノードを分岐線区間ノード(
図9ではA2、B2、B3、D2、D3、D4が該当)と以降区別する。
【0046】
暫定区間モデルの生成後、ステップS504では、分岐線区間ノード潮流状態算出部14にて、暫定区間モデルにおける分岐線区間ノードの指定時間域を対象とした潮流状態の算出を行う。前述の通り、従来の区間モデルでは分岐線の負荷を幹線へ一律集約しており分岐線における運用制約は十分監視することができない。したがって、分岐線において、運用制約違反の可能性が高い箇所は、区間モデルを生成する際に詳細化しておく(区間モデルの粒度を高める)必要がある。
【0047】
そこで、ステップS504では、分岐線区間ノード内の負荷および発電量、配電線の線路インピーダンスの情報を集約し、線路通過電流および電圧変動を算出する。線路通過電流は線路電流容量制約の監視のため、電圧変動は電圧上下限制約の監視のために必要な数値となる。以降、
図9の暫定区間モデルのうち区間ノードD1~D4を例に算出手順を
図10にて説明する。
【0048】
まず、区間ノードごとに、負荷量および発電出力と線路インピーダンスの値を、区間ノード内の配電設備の情報より求める。一つの区間ノードに、負荷量および発電出力と線路インピーダンスが含まれるため、
図10に示すように、負荷量および発電出力をバスに、線路インピーダンスはブランチに対応付けたバスブランチモデルで表現することができる。すなわち、分岐線区間ノードにおける潮流状態は、バスB1からバスB2、B3、B4の経路において算出する。
【0049】
続いて、指定時間域における負荷量および発電出力の時系列データ(以降、負荷断面)を、負荷・発電予測シナリオ33より読み込み、対応する負荷・電源ノードと紐付ける。その後、負荷断面における1断面ごとに、分岐線区間ノード内の負荷量および発電出力を合算する。また、配電線については、分岐線区間ノード内の配電線ノードのインピーダンスを、線路亘長の加重平均をとって、線路インピーダンスを算出する。
【0050】
線路通過電流の算出方法について説明する。まず、区間ノード内の負荷・電源ノード情報から区間ノード内で消費される電流(以降、区間消費電流)を算出する。区間消費電流の算出手順は、負荷・電源ノードがもつデータ項目によって、以下のように複数存在する。
【0051】
(1)電流値データ自体をもつ場合
負荷・電源ノードが電流値データをもつ場合は、直接電流値を合算することで、区間消費電流を算出することができる。
【0052】
(2)有効電力および無効電力のデータをもつ場合
負荷・電源ノードが有効電力および無効電力のデータをもつ場合は、次式によって区間消費電流を算出することができる。
【0053】
【0054】
図10における分岐線区間ノードD4を例に、あるひとつの負荷断面における区間消費電流は次式によって表現される。
【0055】
【0056】
(3)有効電力および力率、または有効電力のみのデータをもつ場合
負荷・電源ノードが有効電力および力率、もしくは有効電力のみのデータをもつ場合は、次式によって区間消費電流を算出することができる。
【0057】
【0058】
図10における分岐線区間ノードD4を例に、あるひとつの負荷断面における区間消費電流は次式によって表現できる。
【0059】
【0060】
区間消費電流の算出後は、末端側の分岐線区間ノードより区間消費電流値を足し合わせていくことで、区間における線路通過電流を算出する。すなわち、ある分岐線区間ノードの線路通過電流は次式で算出することができる。
【0061】
【0062】
続いて、区間内の電圧変動を算出する。電圧変動は、線路通過電流およびの線路亘長の加重平均をとった線路インピーダンス値をもとに次式で算出する。
【0063】
【0064】
区間内の電圧変動を算出後は、当該分岐線区間ノードから幹線までの経路にある分岐線区間ノードごとの電圧変動を足し合わせることで、幹線から当該分岐線区間ノードまでの電圧変動を求める。すなわち、ある分岐線区間ノードの幹線からの電圧変動は次式で算出することができる。
【0065】
【0066】
以上の計算方法で、ある負荷断面における分岐接続ノードの線路通過電流および幹線からの電圧変動を算出する。同様の計算を指定時間域の全負荷断面において実施することで、分岐接続ノードごとの線路通過電流および幹線からの電圧変動の時系列データを得る。
【0067】
続いて、分岐接続ノードにおける線路通過電流および幹線からの電圧変動を基準に、分岐線区間ノードを幹線区間ノードへと集約する判定を行い、粒度可変区間モデルを生成する。まず、ステップS505では、区間ノードの集約判定、すなわち区間モデルの粒度詳細化条件として、線路電流容量条件および電圧誤差許容条件を設定する。
【0068】
線路電流容量条件は、電流容量制約に対応し、分岐線区間ノードにおける配電線の電流容量(常時容量)に対する線路通過電流の比率(以降、線路通過電流比率)がしきい値以上の場合に当該分岐線区間ノードを集約しない判定をする条件である。本条件は、線路通過電流比率が一定以上の場合は、電流容量制約を逸脱する可能性も高まるため、モデル粒度を詳細化しておくという意図がある。
【0069】
電圧誤差許容条件は、電圧上下限制約に対応し、幹線からの電圧変動がしきい値以上の場合に当該分岐接続ノードを集約しない判定をする条件である。従来の区間モデルでは分岐線は負荷および発電出力を一律に幹線に集約するため、分岐線の電圧変動を考慮できていなかった。そのため、仮に幹線上では電圧上下限制約を満たしていると判断しても、分岐線の電圧変動が大きい場合、分岐線においては制約を逸脱する可能性がある。そこで、分岐線区間ノードにおける幹線からの電圧変動、すなわち分岐接続ノードを集約することで生じる電圧誤差の許容しきい値を設定し、しきい値以上の電圧変動となる分岐線区間ノードは詳細化したままにするという処理を適用する。
【0070】
ステップS505では、モデル粒度詳細化条件設定部15は、線路電流容量条件しきい値および電圧誤差許容しきい値を設定する。ただし、電圧誤差許容しきい値は、線路電流容量条件のしきい値のような容量比率で表すことができないため、本実施例では、感度分析により電圧誤差許容しきい値を決定する。そのため、電圧誤差許容しきい値の変化範囲およびその変化幅を設定する。例えば、0.005puから0.020puまで0.005pu刻みで変化といった電圧誤差許容しきい値を設定する。
【0071】
続いて、ステップS506では、区間モデル粒度調整部16にて、ステップS505で設定した線路電流容量条件しきい値および電圧誤差許容しきい値に基づいて区間モデルの粒度を調整し、粒度可変区間モデルを生成する。ここで、
図11において、
図9の暫定区間モデルにおける分岐線区間ノードにおける潮流状態算出結果例1100を示す。なお、線路通過電流および幹線からの電圧変動については指定時間域における最大値を区間モデルの粒度詳細化条件の判定に用いる。
【0072】
一例として、線路電流容量条件しきい値を75%、電圧誤差許容しきい値を0.005puから0.020puまで0.005pu刻みで設定したとする。ここで、
図9の暫定区間モデルをベースとして、電圧誤差許容しきい値が0.005pu、0.010pu、0.020puに設定した際に生成される粒度可変区間モデル例を
図12(a)~(c)に示す。
【0073】
まず線路電流容量条件(=75%)において、潮流解析例1100における線路通過電流比率の数値よりD2のみが80%でしきい値を超えるため、D2は集約判定対象から除外し、それ以外の分岐線区間ノードは集約判定対象とする。続いて、電圧誤差許容条件において、(a)0.005puの場合、潮流状態算出結果例1100の幹線からの電圧変動最大値より、A2、B3はしきい値以下であるため、A2は幹線区間ノードA1へ、B3は幹線区間ノードB1へ負荷として集約する。B2、D3、D4については、電圧変動最大値がしきい値以上であるため詳細化した状態で維持する。以上の処理により、粒度可変区間モデルを生成することができる。
【0074】
同様に、(b)電圧誤差許容しきい値が0.010puの場合、A1およびB3に加え、D4が集約対象となる。D4はひとつ幹線側のD2へ負荷として集約される。(c)電圧誤差許容しきい値が0.020puの場合、さらにD3も集約対象となり、D2へD4とともに負荷として集約される。以上のように、線路電流容量条件および電圧誤差許容に基づいて区間モデルの粒度を調整し、粒度可変区間モデルを生成する。
【0075】
次に、ステップS507では、ステップS506にて複数設定した電圧誤差許容しきい値のうちから一つのしきい値を感度分析により決定する。
【0076】
図13は電圧誤差許容しきい値と生成される粒度可変区間モデルの区間ノード数の関係をプロットしたグラフの一例である。電圧誤差許容しきい値を大きくするほど、分岐線区間ノードにおける幹線からの電圧変動を許容する範囲が広がり、集約する分岐線区間ノード数が増えるため、粒度可変区間モデルとしての全体の区間ノード数は右肩下がりとなる。
【0077】
ここで、感度分析グラフより区間ノード数が収束する電圧誤差許容しきい値を自動的に抽出して、最終的な電圧誤差許容しきい値として決定する。
図13の例では、電圧誤差許容しきい値1300で区間ノード数がほぼ収束するため、この値を最終的な電圧誤差許容しきい値として決定する。なお、電圧誤差許容しきい値の決定方法として、感度分析グラフを出力装置50に出力し、ユーザが感度分析結果をもとに電圧誤差許容しきい値を決定してもよい。
【0078】
最後に、ステップS508では、ステップS507にて決定した電圧誤差許容しきい値に対する粒度可変区間モデルを出力する。また、
図14で示す粒度可変区間モデル例1400のように、最終的に決定した粒度可変区間モデルを出力装置50に出力し、ユーザがそのモデル構造を確認できるようにする。粒度可変区間モデル例1400では、区間13、区間7、区間16がステップS504からステップS507によって詳細化されている。加えて、粒度可変区間モデル例1400における区間ノード展開
図1401のように、ひとつの区間ノードを構成内容を展開して表示できるようにしてもよい。
【0079】
区間ノード展開
図1401のように詳細化することで、しきい値近くで集約化された区間や重要な負荷(PV(Plug-in electric Vehicle)等)が接続されている場合等に、その内容を確認することができる。区間ノード展開
図1401では、ステップS504で計算した分岐線区間ノードの潮流解析結果も表示し、入力装置40よりモデル粒度を調整できるようにしてもよい。また、ユーザ指示に応じて、区間ノード展開
図1401のように、第1の粒度(ノード数)よりも詳細な第2の粒度(ノード数)で詳細化表示可能に出力装置50に第1の粒度で表示した区間を、第2の粒度で再集約して粒度可変区間モデルを再生成してもよい。このように、ユーザは、目視しながら粒度可変区間モデルの粒度を決定し、決定した粒度で粒度可変区間モデルを生成できる。
【0080】
以上のステップS501からステップS508により、粒度可変区間モデルを生成することができ、続く指定時間域標準系統構成の構築のために用いる区間モデルとして、生成した粒度可変区間モデルを入力する。
【0081】
<指定時間域標準系統構成候補の構築および評価>
本実施例では、開閉器の開閉状態の組み合わせ最適化により最適構成を構築する。配電系統の最適構成問題は計算負荷が高い演算である。そこで、まずはある少負荷断面を対象かつ単一目的関数(本実施例では、配電損失最小化)を設定し、系統構成候補を生成する。そして、系統構成候補ごとに指定時間域における潮流解析を行い、配電損失を含む複数の項目で多断面評価を行い、最終的な指定時間域標準系統構成を決定する。以降より、各処理の詳細について述べる。
【0082】
図15は、ステップS403における指定時間域標準系統構成候補の生成の処理手順を示す。
【0083】
まず、ステップS1501では、最適化演算対象負荷断面選定部21は、指定時間域の負荷断面の中から最適構成問題の対象とする負荷断面を選択する。配電系統における最適構成問題は開閉器状態の組合せ最適化となる。一般的な規模の配電系統における開閉器数の場合、開閉器状態の組み合わせ数が非常に多くなり、計算負荷が高い最適化演算となる。理想的には、定式化の際に入力データとなる負荷および発電出力のパターン(負荷断面)は指定時間域の全ての負荷断面を入力することが好ましいが、計算量の観点では実用的ではない。
【0084】
そこで、最適構成問題の対象とする負荷断面は、単断面もしくはいくつかの少断面に絞る必要がある。対象負荷断面として、例えば、配電系統の設備計画における設計基準で一般的に用いられる変電所バンク負荷が最大となる断面(最大負荷断面)を選定する。分散電源が少ない場合は、最大負荷断面が運用制約の観点で最過酷であるため、最適構成の対象負荷断面として適切であった。
【0085】
しかし、分散電源が多い場合、逆潮流を考慮すると最大負荷断面以外の負荷断面で、最過酷となる可能性がある。そこで、本実施例では、ステップS504で計算した分岐線区間ノードの潮流状態算出結果より、過酷断面を抽出し、最適構成の対象負荷断面として選定する。
【0086】
過酷断面の抽出方法を、
図16の過酷断面抽出テーブル例1600において説明する。まず、粒度可変区間モデルにおける全ての分岐線区間ノードのうち、負荷断面t(列1601)において、線路通過電流が最大値となった区間数(列1602)および幹線からの電圧変動が最大値となった区間数(列1603)を算出する。そして、1602および1603の合計数1604で順位付けを行う。順位が高い負荷断面は、すなわち運用制約を逸脱する可能性が高い過酷断面であるため、最適構成の対象とすべき負荷断面である。そこで、最上位の単断面もしくは上位の少断面を最適化対象負荷断面として選択する。なお、最適化対象負荷断面は、最大負荷断面を選択してもよいし、入力装置40より任意の負荷断面を選択してもよい。
【0087】
続いて、ステップS1502では、最適構成問題演算部22は、入力した粒度可変区間モデルおよび最適化対象負荷断面のデータを基に最適構成問題としての定式化を行う。本実施例では、配電損失最小化を目的とした最適構成問題を設定する。配電損失最小化の目的関数は次式で表される。
【0088】
【0089】
なお、本実施例では最適構成問題の計算負荷を考慮して、配電損失を優先する評価項目として単一の目的関数を設定しているが、配電損失最小化以外も含めて多目的最適化としてもよい。
【0090】
また、制約条件は、放射状構成制約、線路電流容量制約、電圧上下限制約があり、次式で定式化する。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
以上のように、最適構成問題として定式化後は、ステップS1503では、最適構成問題演算部22は、最適化演算の実行および系統構成候補の抽出を行う。
【0095】
本実施例では最適構成問題の解法は限定しないが、例えば、特許文献1のように、配電系統構成の特徴に着目して効率的に解を探索する手法を組み込んだ厳密解法を用いてもよい。また、特開2004-129404号公報のように、遺伝的アルゴリズムといったメタヒューリスティクスによる解法を用いてもよい。最適化演算の実行後、厳密解法またはメタヒューリスティクス解法では、配電損失最小構成とともに複数の系統構成候補を生成することができる。本最適構成問題はステップS1501で選択した少負荷断面を対象とした最適構成候補であり、必ずしも指定時間域を通して最適な系統構成とは言えない。そこで、配電損失が少ない上位の系統構成候補、例えば上位10候補を抽出し、以降の指定時間域における多断面評価を行う。
【0096】
ステップS404における指定時間域標準系統構成候補の潮流解析について詳細を説明する。系統構成候補潮流解析部23は、ステップS403にて抽出した指定時間域標準系統構成候補ごとに、指定時間域における潮流解析を行う。潮流解析は、区間ごとの区間線路通過電流および区間電圧を算出する。区間線路通過電流については、数式1、数式3、数式5より算出する。区間電圧については、数式6より区間ごとの電圧変動を算出し、数式12のように、フィーダの送出電圧から順にフィーダ末端まで差し引くことで算出する。
【0097】
【0098】
以上の計算で、指定時間域における潮流解析を実行する。なお、潮流解析については、ニュートンラプソン法などによる厳密な潮流計算によって実行してもよい。
【0099】
続いて、ステップS405では、系統構成候補潮流解析部23は、指定時間域標準系統構成候補の潮流解析結果の運用制約チェックを行う。運用制約として、全区間において、線路電流容量制約、電圧上下限制約を満たしており、かつ各フィーダの負荷量合計がバンク変圧器の容量を超過していないことを確認する。仮に運用制約を違反する系統構成候補がある場合、該当系統構成候補は多断面評価の対象外とする。また、全ての系統構成候補で運用制約違反が生じる場合は、制約違反が生じる負荷断面を最適化対象負荷断面に追加し、ステップS403を再実行する。なお、系統構成候補生成を再実行する条件は、全ての系統構成候補で運用制約違反の発生に限定せず、任意の比率、例えば50%以上の系統構成候補で運用制約違反の発生といった条件としてもよい。
【0100】
次に、ステップS406では、系統構成候補多断面評価部24は、ステップS404における解析結果をもとに、各系統構成候補ごとの多断面評価を行う。多断面評価の項目は、配電損失合計に加えて、電圧偏差、供給予備力とする。また、多断面評価項目以外で、系統切替作業量も評価項目として計算する。なお、評価項目は項目例に限定されるものではなく、項目例以外の評価項目を含んでもよい。
【0101】
配電損失合計は、指定時間域における区間ごとの損失電力を合計した値で、次式で算出することができる。
【0102】
【0103】
電圧偏差は、区間ごとのフィーダ点からの電圧変動の平均値を評価値とし、次式で算出する。配電系統の設備設計上、系統内の電圧変動が小さい、すなわち電圧偏差が小さい系統構成が望ましい。
【0104】
【0105】
配電系統では事故発生時、停電区間復旧のために、事故区間の隣接区間から電力を供給する必要がある。供給予備力は、区間内の配電線の空き容量を示す評価値で、次式で算出する。供給予備力は、隣接区間へ電力を融通可能な能力を示すため、値は大きい方が望ましい。
【0106】
【0107】
系統切替作業量は、現在の系統構成から当該系統構成候補へ変更する際に必要な開閉器の切替作業時間を示す評価値で、次式で算出する。
【0108】
【0109】
数式16では、開閉器の開閉状態が変化する際に、当該開閉器の切替作業時間を加算することで系統切替作業量を表現する。なお、開閉器ごとの切替作業時間は、開閉器の種別によって変化する。例えば、遠制開閉器の場合は配電自動化システム等で遠隔制御可能なため、作業時間は数分で済む。一方、手動開閉器の場合は、現地に作業員を派遣して切替作業を行う必要があるため、遠制開閉器と比較して大幅に長い作業時間がかかる。
【0110】
最後に、ステップS407では、系統構成候補多断面評価部24は、ステップS406で算出した系統構成候補ごとの多断面評価値をもとに、指定時間域標準系統構成を決定する。指定時間域標準系統構成を決定するために、系統構成候補ごとの評価項目の配電損失、電圧偏差、供給予備力、系統切替作業量において、各評価値の最小値を0、最大値を1として、各評価値を0~1の値に正規化し、次式に示すノルムを総合評価指標として算出する。
【0111】
【0112】
供給予備力以外の項目は値が小さいことが望ましく、供給予備力は値が大きいほうが望ましい。したがって、総合評価指標Eが小さい系統構成候補が適切な系統構成といえるため、総合評価指標Eが最小となる系統構成を指定時間域標準系統として最終決定する。なお、総合評価指標Eは、評価項目のうち1つ以上を含めて計算すればよく、また、優先する評価項目があれば荷重して総合評価指標を算出してもよい。
【0113】
総合評価指標を含め、系統構成候補の比較評価を表示する画面例を
図17に示す。比較評価画面例1700は、系統構成候補ごとの総合評価指標を表示する総合評価指標表示部1701、総合評価指標の各評価項目の値を表示する総合評価指標レーダーチャート部1702、系統構成表示部1703で構成される。
【0114】
総合評価指標表示部1701では、ステップS403における目的関数値が小さい順に系統構成候補を表示し、系統構成候補ごとの総合評価指標Eを表示する。また、総合評価指標表示部1701では、総合評価指標Eに含める評価項目の選択および評価項目の荷重も操作可能とする。総合評価指標レーダーチャート部1702では、総合評価指標表示部1701で選択した系統構成候補の総合評価指標Eの各評価項目の値をレーダーチャートで表示する。自動処理では総合評価指標Eが最小となる系統構成候補が選択されるが、総合評価指標レーダーチャートで系統構成候補同士を比較し、ユーザが評価項目の数値を総合的に判断して指定時間域標準系統構成を決定してもよい。系統構成表示部1703では、選択した系統構成候補における開閉器状態を含めた系統構成を表示する。
【0115】
本実施例では、配電系統構成構築システム1は、系統を直接制御せず、運用計画側の配電系統構成構築を支援するコンピュータである。しかし、これに限らず、配電系統構成構築システム1は、設備状態データ32のみを系統から収集して蓄積し、構築した配電系統構成を基に系統の開閉器を直接制御してもよい。
【0116】
近年、配電系統の分岐線といった末端箇所に集中的に分散電源が連系されるようになり、分岐線の潮流量が増加している。従来の配電系統における区間モデルでは、モデル化の際に分岐線を簡略化してしまうため、分岐線における運用制約の違反を見逃すという問題があった。
【0117】
しかし、本実施例の配電系統構成構築方法によれば、配電系統モデルの分岐線における潮流状態に基づいて、運用制約違反の可能性がある区間内の配電設備の情報を、第1の粒度よりも詳細な第2の粒度で集約した粒度可変区間モデルを生成する。そして、粒度可変区間モデルを基に、指定時間域における潮流解析を実行し、潮流解析の実行結果に基づいて配電系統構成を構築する。
【0118】
このように、配電系統の分岐線の潮流状態に応じて区間モデルの粒度を部分的に詳細化することで、運用制約違反の可能性が高い箇所を詳細に監視可能な粒度可変区間モデルを生成することができる。また、粒度可変区間モデルを用いて、最適化問題の求解により配電系統構成候補を生成し、配電系統構成候補を複数の評価項目について多断面評価および比較評価した結果に基づいて、分岐線における運用制約の違反を見逃さず、指定時間域における最適な標準系統構成を構築することができる。また、配電系統構成の切り替えによって、設備増強を行わずとも運用制約違反を回避でき、設備コストを抑制できるという効果が期待できる。
【0119】
(コンピュータ1000のハードウェア)
図18は、コンピュータ1000の構成例を示すハードウェア図である。例えば、配電系統構成構築システム1の一部または全部が、コンピュータ1000によって実現される。
【0120】
コンピュータ1000は、バス等の内部通信線1009を介して相互に接続されたCPUをはじめとするプロセッサ1001、主記憶装置1002、補助記憶装置1003、ネットワークインタフェース1004、入力装置40、および出力装置50を備えるコンピュータである。
【0121】
プロセッサ1001は、コンピュータ1000全体の動作制御を司る。また主記憶装置1002は、例えば揮発性の半導体メモリから構成され、プロセッサ1001のワークメモリとして利用される。補助記憶装置1003は、ハードディスク装置、SSD(Solid State Drive)、またはフラッシュメモリ等の大容量の不揮発性の記憶装置から構成され、各種プログラムやデータを長期間保持するために利用される。
【0122】
補助記憶装置1003に格納された実行可能プログラム1100がコンピュータ1000の起動時や必要時に主記憶装置1002にロードされ、主記憶装置1002にロードされた実行可能プログラム1100をプロセッサ1001が実行することにより、各種処理を実行する前述の装置が実現される。
【0123】
なお、実行可能プログラム1100は、非一時的記録媒体に記録され、媒体読み取り装置によって非一時的記録媒体から読み出されて、主記憶装置1002にロードされてもよい。または、実行可能プログラム1100は、ネットワークを介して外部のコンピュータから取得されて、主記憶装置1002にロードされてもよい。
【0124】
ネットワークインタフェース1004は、コンピュータ1000をシステム内の各ネットワークに接続する、あるいは他のコンピュータと通信するためのインタフェース装置である。ネットワークインタフェース1004は、例えば、有線LAN(Local Area Network)や無線LAN等のNIC(Network Interface Card)から構成される。
【0125】
入力装置40は、キーボードや、マウス等のポインティングデバイス等から構成され、ユーザがコンピュータ1000に各種指示や情報を入力するために利用される。出力装置50は、例えば、液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置や、スピーカ等の音声出力装置から構成され、必要時に必要な情報をユーザに提示するために利用される。
【0126】
以上、本実施例により、配電系統の分岐線の潮流状態に応じて区間モデルの粒度を詳細化することで、運用制約違反の可能性が高い箇所は詳細に監視可能な粒度可変区間モデルを生成することができる。また、粒度可変区間モデルを用いて、最適化演算により系統構成候補を生成し、系統構成候補を複数項目について多断面評価および比較評価し、指定時間域標準系統構成を構築することができる。
【0127】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。