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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074375
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20230522BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230522BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L101/00
C08F279/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187304
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】舞鶴 展祥
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002AA023
4J002AA031
4J002BN123
4J002BN142
4J002BN172
4J002BN173
4J002BN183
4J002BN222
4J002CF213
4J002EJ066
4J002FD206
4J002GF00
4J002GH00
4J002GJ01
4J002GJ02
4J026AA68
4J026AC32
4J026BA27
4J026BB03
4J026DA03
4J026DA13
4J026DB03
4J026DB13
4J026GA07
4J026GA09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】貯蔵安定性に優れる組成物を提供する。
【解決手段】オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基Xを有する低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)とを、各々特定量含有し、重合体微粒子(B)は特定の弾性体とグラフト部とを有し、グラフト部は、官能基Xとの反応性を有する官能基Yを含まない、組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)と、重合体微粒子(B)とを含有し、
前記低分子化合物(A)は、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基Xを有する化合物を含み、
前記重合体微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含み、
前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含み、
前記グラフト部は、前記官能基Xとの反応性を有する官能基Yを含まず、
前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、前記低分子化合物(A)は50~99重量%であり、前記重合体微粒子(B)は1~50重量%である、組成物。
【請求項2】
前記低分子化合物(A)の分子量が750未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ラジカル捕捉剤(C)をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物における、前記ラジカル捕捉剤(C)の含有量は、前記重合体微粒子(B)100重量部に対して、0.075重量部以上である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物において、前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、前記低分子化合物(A)は50~90重量%であり、前記重合体微粒子(B)は10~50重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上の単量体を重合してなる弾性体の弾性コアと、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体および当該多官能性単量体以外のビニル系単量体からなる群より選択される1種以上の単量体を重合してなる表面架橋重合体と、を含有している、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記低分子化合物(A)が、(メタ)アクリロイル基含有化合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有するマトリクス樹脂(D)をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記マトリクス樹脂(D)は、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル化(メタ)アクリレートよりなる群から選択される1種以上の硬化性樹脂である、請求項8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル系樹脂およびビニルエステル樹脂等のラジカル硬化型の硬化性樹脂は、例えば、グラスファイバーのような強化材、およびコーティング材等を含む成形用組成物等、様々な用途で広く用いられている。
【0003】
これらの硬化性樹脂は、硬化時に大きな硬化収縮を伴い、硬化物内の内部応力により硬化物にクラックが入るという問題を有している。そこで、非常に脆い材料であるこれらの硬化性樹脂に、靱性を付与する試みが種々検討されてきた。
【0004】
例えば、硬化性樹脂の靱性を改善するために、硬化性樹脂にエラストマーを添加する方法が広く用いられている。エラストマーとしては、重合体微粒子(例えば架橋重合体微粒子)が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、ゴム含有重合体とフェノール系酸化防止剤とを含有する熱可塑性樹脂が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ポリオルガノシロキサンおよびビニル重合体を含有するゴムに、ビニル単量体をグラフト重合したポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が開示されている。
【0007】
また、硬化前の硬化性樹脂を含む樹脂組成物の粘度を低減させ、取り扱い性を良好とするために、樹脂組成物に、分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する低分子化合物を添加する方法も知られている。
【0008】
特許文献3には、2個以上の重合性不飽和結合を有する硬化性樹脂と、1次粒子の状態で分散しているポリマー微粒子と、エポキシ樹脂と、1個の重合性不飽和結合を有する分子量300未満の低分子化合物を含有する硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2019/003531号
【特許文献2】特開2019-218419号公報
【特許文献3】国際公開第2014/115778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の従来技術は、貯蔵安定性の観点からは十分なものではなく、さらなる改善の余地がある。
【0011】
本発明の一態様は、前記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、貯蔵安定性に優れる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)と、重合体微粒子(B)とを含有し、前記低分子化合物(A)は、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基Xを有する化合物を含み、前記重合体微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含み、前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含み、前記グラフト部は、前記官能基Xとの反応性を有する官能基Yを含まず、前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、前記低分子化合物(A)は50~99重量%であり、前記重合体微粒子(B)は1~50重量%である、組成物。
〔2〕前記低分子化合物(A)の分子量が750未満である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕ラジカル捕捉剤(C)をさらに含む、〔1〕または〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記組成物における、前記ラジカル捕捉剤(C)の含有量は、前記重合体微粒子(B)100重量部に対して、0.075重量部以上である、〔3〕に記載の組成物。
〔5〕前記組成物において、前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、前記低分子化合物(A)は50~90重量%であり、前記重合体微粒子(B)は10~50重量%である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の組成物。
〔6〕前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上の単量体を重合してなる弾性体の弾性コアと、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体および当該多官能性単量体以外のビニル系単量体からなる群より選択される1種以上の単量体を重合してなる表面架橋重合体と、を含有している、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の組成物。
〔7〕前記低分子化合物(A)が、(メタ)アクリロイル基含有化合物を含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の組成物。
〔8〕分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有するマトリクス樹脂(D)をさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の組成物。
〔9〕前記マトリクス樹脂(D)は、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル化(メタ)アクリレートよりなる群から選択される1種以上の硬化性樹脂である、〔8〕に記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、貯蔵安定性に優れる組成物を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0016】
〔1.本発明の技術的思想〕
本発明者は、硬化前の硬化性樹脂と、重合体微粒子および分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する低分子化合物とを含む樹脂組成物を得るために、重合体微粒子と前記低分子化合物とからなる組成物を調製し、当該組成物を樹脂組成物に添加する方法を検討した。
【0017】
鋭意検討の過程において、本発明者は、重合体微粒子および分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する低分子化合物のみからなる組成物は、貯蔵中に組成物がゲル化する場合があることを独自に見出した。そこで、本発明者は、重合体微粒子および分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する低分子化合物を含む組成物であって、貯蔵安定性に優れる組成物を提供することを目的として、さらなる検討を行った。すなわち、本発明の一実施形態の目的は、重合体微粒子および分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する低分子化合物を含む組成物であって、貯蔵安定性に優れる組成物を提供することである。
【0018】
鋭意検討の結果、本発明者は、以下の知見を独自に見出し、本発明の一実施形態を完成させるに至った:前記組成物において、重合体微粒子のグラフト部が、低分子化合物が有する特定の官能基との反応性を有する官能基を含まない場合、驚くべきことに、組成物の貯蔵安定性が改善すること。
【0019】
〔2.組成物〕
本発明の一実施形態に係る組成物は、分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)と、重合体微粒子(B)とを含有し、前記低分子化合物(A)は、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基Xを有する化合物を含み、前記重合体微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含み、前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含み、前記グラフト部は、前記官能基Xとの反応性を有する官能基Yを含まず、前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、前記低分子化合物(A)は50~99重量%であり、前記重合体微粒子(B)は1~50重量%である。
【0020】
本発明の一実施形態に係る組成物は、上述した構成を有するため、優れた貯蔵安定性を有する。より具体的に、本発明の一実施形態に係る組成物では、重合体微粒子(B)のグラフト部が、低分子化合物(A)に含まれる化合物が有する特定の官能基Xとの反応性を有する官能基Yを含まないことにより、組成物が優れた貯蔵安定性を有するという利点を有する。
【0021】
本明細書中では、「本発明の一実施形態に係る組成物」を、単に「本組成物」と称する場合もある。
【0022】
本明細書において、組成物の貯蔵安定性は、ゲル化の有無によって評価することができる。
【0023】
本明細書において、「組成物が貯蔵安定性に優れる」とは、組成物を80℃で2日間貯蔵した場合に組成物がゲル化していないことを意図する。
【0024】
本明細書において、「重合性不飽和結合」とは、重合性を有する不飽和結合を意図する。換言すれば、重合性不飽和結合は、当該結合を起点として、重合反応が開始される結合ともいえる。本明細書において、「分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する化合物」は、「同一分子内にラジカル重合性反応基を1つ以上有する単量体」ともいえる。「ラジカル重合性反応基」とは、ラジカル重合性を有する反応基を意図する。換言すれば、ラジカル重合性反応基は、当該反応基をラジカルが攻撃することにより、当該反応基を起点として、ラジカル重合反応が開始される反応基、ともいえる。
【0025】
<2-1.分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)>
分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)(以下、単に「低分子化合物(A)」とも称する)は、低分子量である為に、本組成物を低粘度化し、かつ取り扱い性を改善する。また、本組成物がマトリクス樹脂(D)を含む場合、本組成物の硬化に際しては、マトリクス樹脂(D)と共重合し硬化物の架橋点に組み込まれる。
【0026】
低分子化合物(A)は、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基Xを有する化合物を含む。低分子化合物(A)が官能基Xを有する化合物を含むことにより、組成物は耐溶剤性および機械物性に優れる硬化物を提供し得るという利点を有する。
【0027】
オキセタン基を有する化合物としては、例えば、(3-エチルオキセタン-3-イル)メタクリル酸メチルおよび3-[(アリルオキシ)メチル]-3-エチルオキセタンなどが挙げられる。
【0028】
水酸基を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルエチレンオキシド、1,2-エポキシ-5-ヘキセンおよび1,2-エポキシ-9-デセンなどが挙げられる。
【0030】
アミノ基を有する化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。なお、「アミノ基」には、「環状アミノ基」も含まれる。
【0031】
イミド基を有する化合物としては、例えば、N-(メタ)アクリルオキシスクシンイミドなどが挙げられる。
【0032】
カルボン酸基(別名;カルボキシ基)を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸および2-(トリフルオロメチル)(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0033】
カルボン酸無水物基を有する化合物としては、例えば、アクリル酸無水物などが挙げられる。
【0034】
環状エステルを有する化合物としては、例えば、メバロン酸ラクトンメタクリラートなどが挙げられる。
【0035】
環状アミド基を有する化合物としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
【0036】
ベンズオキサジン基を有する化合物としては、例えば、6-ビニル-2H-1,4-ベンゾオキサジン-3(4H)-オンなどが挙げられる。
【0037】
シアン酸エステル基(別名;シアネート基)を有する化合物としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどが挙げられる。
【0038】
低分子化合物(A)に含まれる官能基Xを有する化合物は、官能基Xに加えて、官能基X以外の官能基をさらに有していてもよい。官能基X以外の官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、-COOCH=CH基、芳香族基、ニトリル基(ただしシアン酸エステル基は除く)、カルボニル基(ただしカルボン酸基およびカルボン酸無水物基は除く)等が挙げられる。
【0039】
低分子化合物(A)は、官能基Xを有する化合物に加えて、官能基Xを有さない化合物を含んでいてもよい。官能基Xを有さない化合物としては、例えば、(a)官能基Xを有さず(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(b)バーサチック酸ビニル、および酢酸ビニルなどの-COOCH=CH基含有化合物、(c)フタル酸、アジピン酸、マレイン酸、およびマロン酸などの多価カルボン酸とアリルアルコールなどの不飽和アルコールとの縮合反応物、(d)スチレンやメチルスチレン(ビニルトルエン)などの芳香族基含有不飽和単量体、(e)シアヌル酸アリルエステルなどの多官能エステル単量体、等が挙げられる。
【0040】
低分子化合物(A)は、低分子化合物(A)100重量%中、官能基Xを有する化合物を10重量%以上含むことが好ましく、30重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことが特に好ましい。低分子化合物(A)が官能基Xを有する化合物を上述した範囲内で有する場合、組成物は耐溶剤性および機械物性により優れる硬化物を提供し得るという利点を有する。低分子化合物(A)は、低分子化合物(A)100重量%中、官能基Xを有する化合物を100重量%含んでいてもよく、すなわち、低分子化合物(A)は官能基Xを含む化合物のみから構成されていてもよい。
【0041】
低分子化合物(A)は、硬化物の物性(靭性および耐衝撃性等)の観点から、(メタ)アクリロイル基を有する化合物((メタ)アクリロイル基含有化合物)を含むことが好ましい。(メタ)アクリロイル基含有化合物は、後述のマトリクス樹脂(D)との反応速度((メタ)アクリロイル基含有化合物がマトリクス樹脂(D)と共重合し、硬化物の架橋点に組み込まれるときの反応の速度)が、マトリクス樹脂(D)同士の反応速度(マトリクス樹脂(D)同士の硬化速度)と近い。それ故、組成物が低分子化合物(A)として(メタ)アクリロイル基含有化合物を含み、かつマトリクス樹脂(D)を含む場合、組成物を硬化させた際にマトリクス樹脂(D)の架橋点に低分子化合物(A)が組み込まれ易いため、組成物は優れた物性の硬化物を提供し得るという利点を有する。本明細書において(メタ)アクリロイルとは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0042】
前記(メタ)アクリロイル基含有化合物は、官能基Xを有していてもよく、有していなくてもよい。換言すれば、低分子化合物(A)は、(a)官能基Xを有しており(メタ)アクリロイル基を有していない化合物と、官能基Xを有しておらず(メタ)アクリロイル基を有している化合物と、を含んでいてもよく、(b)官能基Xおよび(メタ)アクリロイル基を有している化合物を含んでいてもよく、(c)官能基Xを有しており(メタ)アクリロイル基を有していない化合物と、官能基Xを有しておらず(メタ)アクリロイル基を有している化合物と、官能基Xおよび(メタ)アクリロイル基を有している化合物と、を含んでいてもよい。低分子化合物(A)は、官能基Xおよび(メタ)アクリロイル基を有している化合物を含んでいることがより好ましく、官能基Xおよび(メタ)アクリロイル基を有している化合物であることがさらに好ましい。
【0043】
(メタ)アクリロイル基含有化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、α-フルオロメチルアクリレート、α-クロロメチルアクリレート、α-ベンジルメチルアクリレート、α-シアノメチルアクリレート、α-アセトキシエチルアクリレート、α-フェニルメチルアクリレート、α-メトキシメチルアクリレート、α-n-プロピルメチルアクリレート、α-フルオロエチルアクリレート、α-クロロエチルアクリレート、クロロメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-クロロエチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、m-クロロフェニル(メタ)アクリレート、p-クロロフェニル(メタ)アクリレート、p-トリル(メタ)アクリレート、m-ニトロフェニル(メタ)アクリレート、p-ニトロフェニル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオルブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートおよびポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。上述した低分子化合物(A)は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0044】
(メタ)アクリロイル基含有化合物の中でも、以下の化合物は水酸基を有する化合物である:ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート。水酸基を有する化合物は、本組成物へのイソシアネート化合物の添加により、ラジカル架橋とウレタン架橋とのハイブリッド硬化による硬化物の改質が可能となる為により好ましい。本組成物に添加するイソシアネート化合物の例には、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)が含まれる。
【0045】
低分子化合物(A)は、低分子化合物(A)100重量%中、(メタ)アクリロイル基含有化合物を10重量%以上含むことが好ましく、30重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことが特に好ましい。低分子化合物(A)が(メタ)アクリロイル基含有化合物を上述した範囲内で有する場合、組成物は物性(靭性および耐衝撃性等)により優れる硬化物を提供し得るという利点を有する。
【0046】
低分子化合物(A)は、低分子化合物(A)100重量%中、官能基Xを有する化合物および(メタ)アクリロイル基含有化合物を合計で、10重量%以上含むことが好ましく、30重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことが特に好ましい。低分子化合物(A)が官能基Xを有する化合物および(メタ)アクリロイル基含有化合物を合計で上述した範囲内で有する場合、組成物は耐溶剤性および機械物性(靭性および耐衝撃性等)により優れる硬化物を提供し得るという利点を有する。なお、当該「官能基Xを含む化合物および(メタ)アクリロイル基含有化合物」には、「官能基Xと(メタ)アクリロイル基とを有する化合物」も含まれる。
【0047】
低分子化合物(A)の分子量は、750以下であることが好ましく、750未満であることがより好ましく、500以下であることがより好ましく、500未満であることがより好ましく、300以下であることがより好ましく、300未満であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、200未満であることが特に好ましい。低分子化合物(A)の分子量が小さいほど、本組成物の粘度を低下させる効果(低粘度化効果)が向上するという利点を有する。
【0048】
<2-2.重合体微粒子(B)>
重合体微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含む。
【0049】
(弾性体)
弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含む。弾性体は、上述したゴム以外に、天然ゴムを含んでいてもよい。弾性体は、弾性部、またはゴム粒子と言い換えることもできる。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0050】
弾性体がジエン系ゴムを含む場合(場合A)について説明する。場合Aにおいて、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる硬化物を提供することができる。靱性および/または耐衝撃性に優れる硬化物は、耐久性に優れる硬化物ともいえる。
【0051】
ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。前記ジエン系単量体は、共役ジエン系単量体と言い換えることもできる。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位100重量%中、(i)ジエン系単量体に由来する構成単位を50重量%~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~50重量%、含むものであってもよく、(ii)ジエン系単量体に由来する構成単位を50重量%を超えて100重量%以下、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%以上50重量%未満含むものであってもよく、(iii)ジエン系単量体に由来する構成単位を60重量%~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~40重量%含むものであってもよく、(iv)ジエン系単量体に由来する構成単位を70重量%~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~30重量%含むものであってもよく、(v)ジエン系単量体に由来する構成単位を80重量%~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~20重量%含むものであってもよく、(vi)ジエン系単量体に由来する構成単位を90重量%~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~10重量%含むものであってもよく、(vii)ジエン系単量体に由来する構成単位のみから構成されていてもよい。
【0052】
場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0053】
ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2-クロロ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体A、とも称する。)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体、などが挙げられる。上述した、ビニル系単量体Aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した、ビニル系単量体Aの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Aにおけるジエン系ゴムにおいて、ビニル系単量体Aに由来する構成単位は任意成分である。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、ジエン系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0055】
場合Aにおいて、ジエン系ゴムとしては、1,3-ブタジエンに由来する構成単位からなるブタジエンゴム(ポリブタジエンゴムとも称する。)、または、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であるブタジエン-スチレンゴム(ポリスチレン-ブタジエンとも称する。)が好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。前記構成によると、重合体微粒子(B)がジエン系ゴムを含むことによる所望の効果がより発揮され得る。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により、得られる硬化物の透明性を高めることができる点においても、より好ましい。
【0056】
ブタジエン-スチレンゴムは、ブタジエン-スチレンゴム100重量%中、(i)ブタジエンに由来する構成単位を50重量%を超えて100重量%以下、およびスチレンに由来する構成単位を0重量%以上50重量%未満含むものであってもよく、(ii)ブタジエンに由来する構成単位を60重量%~100重量%、およびスチレンに由来する構成単位を0重量%~40重量%含むものであってもよく、(iii)ブタジエンに由来する構成単位を70重量%~100重量%、およびスチレンに由来する構成単位を0重量%~30重量%含むものであってもよく、(iv)ブタジエンに由来する構成単位を80重量%~100重量%、およびスチレンに由来する構成単位を0重量%~20重量%含むものであってもよく、(v)ブタジエンに由来する構成単位を90重量%~100重量%、およびスチレンに由来する構成単位を0重量%~10重量%含むものであってもよい。
【0057】
弾性体が(メタ)アクリレート系ゴムを含む場合(場合B)について説明する。場合Bでは、多種の単量体の組合せにより、弾性体の幅広い重合体設計が可能となる。
【0058】
(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位100重量%中、(i)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を50重量%~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~50重量%、含むものであってもよく、(ii)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を50重量%を超えて100重量%以下、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%以上50重量%未満含むものであってもよく、(iii)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を60重量%~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~40重量%含むものであってもよく、(iv)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を70重量%~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~30重量%含むものであってもよく、(v)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を80重量%~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~20重量%含むものであってもよく、(vi)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を90重量%~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0重量%~10重量%含むものであってもよく、(vii)(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位のみから構成されていてもよい。
【0059】
場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、ジエン系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0060】
(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリレート系単量体の中でも、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、および2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0061】
場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムとしては、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴムおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートゴムがより好ましい。エチル(メタ)アクリレートゴムはエチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、ブチル(メタ)アクリレートゴムはブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムは2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムである。当該構成によると、弾性体のガラス転移温度(Tg)が低くなるためTgが低い重合体微粒子(B)および組成物が得られる。その結果、(i)得られる組成物は、優れた靱性を有する硬化物を提供でき、かつ(ii)当該樹脂組成物の粘度をより低くすることができる。
【0062】
(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体B、とも称する。)としては、前記ビニル系単量体Aにおいて列挙した単量体が挙げられる。ビニル系単量体Bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニル系単量体Bの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Bにおける(メタ)アクリレート系ゴムにおいて、ビニル系単量体Bに由来する構成単位は任意成分である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0063】
弾性体がオルガノシロキサン系ゴムを含む場合(場合C)について説明する。場合Cにおいて、得られる組成物は、十分な耐熱性を有し、かつ低温での耐衝撃性に優れる硬化物を提供することができる。
【0064】
オルガノシロキサン系ゴムとしては、例えば、(i)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、(ii)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、が挙げられる。これらのオルガノシロキサン系重合体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本明細書において、ジメチルシリルオキシ単位から構成される重合体をジメチルシリルオキシゴムと称し、メチルフェニルシリルオキシ単位から構成される重合体をメチルフェニルシリルオキシゴムと称し、ジメチルシリルオキシ単位とジフェニルシリルオキシ単位とから構成される重合体をジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムと称する。場合Cにおいて、オルガノシロキサン系ゴムとしては、(i)得られる組成物が耐熱性に優れる硬化物を提供することができることから、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴムおよびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、(ii)容易に入手できて経済的でもあることから、ジメチルシリルオキシゴムであることがより好ましい。
【0066】
場合Cにおいて、重合体微粒子(B)は、重合体微粒子(B)に含まれる弾性体100重量%中、オルガノシロキサン系ゴムを80重量%以上含有していることが好ましく、90重量%以上含有していることがより好ましい。前記構成によると、得られる組成物は、耐熱性に優れる硬化物を提供することができる。
【0067】
弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴム以外の弾性体をさらに含んでいてもよい。ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴム以外の弾性体としては、例えば天然ゴムが挙げられる。
【0068】
本発明の一実施形態において、弾性体は、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブタジエン-(メタ)アクリレートゴム、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴム、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴム、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴム、およびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴム、およびジメチルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0069】
(弾性体の架橋構造)
重合体微粒子(B)の熱硬化性樹脂中での分散安定性を保持する観点から、弾性体には、架橋構造が導入されていることが好ましい。弾性体に対する架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、弾性体の製造において、弾性体を構成し得る単量体に、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を混合し、次いで重合する方法が挙げられる。本明細書において、弾性体など重合体を製造することを、重合体を重合する、とも称する。
【0070】
また、オルガノシロキサン系ゴムに架橋構造を導入する方法としては、次のような方法も挙げられる:(a)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性のアルコキシシラン化合物と他の材料とを併用する方法、(b)反応性基(例えば(i)メルカプト基および(ii)反応性を有するビニル基、など)をオルガノシロキサン系ゴムに導入し、その後、得られた反応生成物に、(i)有機過酸化物または(ii)重合性を有するビニル単量体などを添加してラジカル反応させる方法、または、(c)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を他の材料と共に混合し、次いで重合を行う方法、など。
【0071】
多官能性単量体は、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体である。前記重合性不飽和結合は、好ましくは炭素-炭素二重結合である。多官能性単量体としては、ブタジエンは含まれず、アリルアルキル(メタ)アクリレート類およびアリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類のような、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートなどが例示される。(メタ)アクリル基を2つ有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。前記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。また、3つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類、グリセロールプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどが例示される。アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、4つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、などが例示される。またさらに、5つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示される。またさらに、6つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示される。多官能性単量体としては、また、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等も挙げられる。なお、「重合性不飽和結合」とは、「重合性を有する不飽和結合」ともいえ、ラジカル等により重合反応の起点となり得る不飽和結合を意図する。
【0072】
上述の多官能性単量体の中でも、弾性体の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0073】
メルカプト基含有化合物としては、アルキル基置換メルカプタン、アリル基置換メルカプタン、アリール基置換メルカプタン、ヒドロキシ基置換メルカプタン、アルコキシ基置換メルカプタン、シアノ基置換メルカプタン、アミノ基置換メルカプタン、シリル基置換メルカプタン、酸基置換メルカプタン、ハロ基置換メルカプタンおよびアシル基置換メルカプタンなどが挙げられる。アルキル基置換メルカプタンとしては、炭素数1~20のアルキル基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1~10のアルキル基置換メルカプタンがより好ましい。アリール基置換メルカプタンとしては、フェニル基置換メルカプタンが好ましい。アルコキシ基置換メルカプタンとしては、炭素数1~20のアルコキシ基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1~10のアルコキシ基置換メルカプタンがより好ましい。酸基置換メルカプタンとしては、好ましくは、カルボキシル基を有する炭素数1~10のアルキル基置換メルカプタン、または、カルボキシル基を有する炭素数1~12のアリール基置換メルカプタン、である。
【0074】
(弾性体のガラス転移温度)
弾性体のガラス転移温度は、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がより好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がより好ましく、-45℃以下がより好ましく、-50℃以下がより好ましく、-55℃以下がより好ましく、-60℃以下がより好ましく、-65℃以下がより好ましく、-70℃以下がより好ましく、-75℃以下がより好ましく、-80℃以下がより好ましく、-85℃以下がより好ましく、-90℃以下がより好ましく、-95℃以下がより好ましく、-100℃以下がより好ましく、-105℃以下がより好ましく、-110℃以下がより好ましく、-115℃以下がより好ましく、-120℃以下がさらに好ましく、-125℃以下が特に好ましい。本明細書において、「ガラス転移温度」を「Tg」と称する場合もある。当該構成によると、低いTgを有する重合体微粒子(B)、および、低いTgを有する組成物を得ることができる。その結果、得られる組成物は、優れた靱性を有する硬化物を提供できる。また、当該構成によると、得られる組成物の粘度を、より低くすることができる。弾性体のTgは、重合体微粒子(B)からなる平面板を用いて、粘弾性測定を行うことによって得ることができる。具体的には、以下のようにしてTgを測定できる:(1)重合体微粒子(B)からなる平面板について、動的粘弾性測定装置(例えば、アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて、引張条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのグラフを得る;(2)得られたtanδのグラフについて、tanδのピーク温度をガラス転移温度とする。ここで、tanδのグラフにおいて、複数のピークが得られた場合には、最も低いピーク温度を弾性体のガラス転移温度とする。
【0075】
一方、得られる硬化物の弾性率(剛性)の低下を抑制することができる、すなわち十分な弾性率(剛性)を有する硬化物が得られることから、弾性体のTgは、0℃よりも大きいことが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。
【0076】
弾性体のTgは、弾性体に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、弾性体を製造(重合)するときに使用する単量体の組成を変化させることにより、得られる弾性体のTgを調整することができる。
【0077】
ここで、1種類の単量体のみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃よりも大きいTgを有する単独重合体を提供する単量体の群を、単量体群aとする。また、1種類の単量体のみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃未満のTgを有する単独重合体を提供する単量体の群を、単量体群bとする。単量体群aから選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を50~100重量%(より好ましくは、65~99重量%)、および単量体群bから選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を0~50重量%(より好ましくは、1~35重量%)含む弾性体を、弾性体Gとする。弾性体Gは、Tgが0℃よりも大きい。また、弾性体が弾性体Gを含む場合、得られる組成物は、十分な剛性を有する硬化物を提供することができる。
【0078】
弾性体のTgが0℃よりも大きい場合も、弾性体に架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造の導入方法としては、前記の方法が挙げられる。
【0079】
前記単量体群aに含まれ得る単量体としては、以下に限るものではないが、例えば、スチレン、2-ビニルナフタレンなどの無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレンなどのビニル置換芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどの環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレンなどの環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレンなどの環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレンなどの環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒトロキシスチレンなどの環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類;ビニルベンゾエート、ビニルシクロヘキサノエートなどのビニルエステル類;塩化ビニルなどのビニルハロゲン化物類;アセナフタレン、インデンなどの芳香族単量体類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート類;フェニルメタクリレートなどの芳香族メタクリレート;イソボルニルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレートなどのメタクリレート類;メタクリロニトリルなどのメタクリル酸誘導体を含むメタクリル単量体;イソボルニルアクリレート、tert-ブチルアクリレートなどのある種のアクリル酸エステル;アクリロニトリルなどのアクリル酸誘導体を含むアクリル単量体、などが挙げられる。さらに、前記単量体群aに含まれ得る単量体としては、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート、1-アダマンチルアクリレート及び1-アダマンチルメタクリレート、など、単独重合体としたとき120℃以上のTgを有する単独重合体を提供し得る単量体が挙げられる。これらの単量体aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
前記単量体bとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート(別名:アクリル酸ブチル)、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートなどが挙げられる。これらの単量体bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの単量体bの中でも、特に好ましくは、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレートである。
【0081】
(弾性体の体積平均粒子径)
弾性体の体積平均粒子径は、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。弾性体の体積平均粒子径が(i)0.03μm以上である場合、所望の体積平均粒子径を有する弾性体を安定的に得ることができ、(ii)50.00μm以下である場合、得られる硬化物の耐熱性および耐衝撃性が良好となる。弾性体の体積平均粒子径は、弾性体を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。
【0082】
(弾性体の割合)
重合体微粒子(B)中に占める弾性体の割合は、重合体微粒子(B)全体を100重量%として、40~97重量%が好ましく、60~95重量%がより好ましく、70~93重量%がさらに好ましい。弾性体の前記割合が、(i)40重量%以上である場合、得られる組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる硬化物を提供することができ、(ii)97重量%以下である場合、重合体微粒子(B)は容易には凝集しないため、組成物が高粘度となることがなく、その結果、得られる組成物は取扱い性に優れたものとなり得る。
【0083】
(弾性体のゲル含量)
弾性体は、適切な溶媒に対して膨潤し得るが、実質的には溶解しないものであることが好ましい。弾性体は、使用する熱硬化性樹脂に対して、不溶であることが好ましい。
【0084】
弾性体は、ゲル含量が60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。弾性体のゲル含量が前記範囲内である場合、得られる組成物は、靱性に優れる硬化物を提供できる。
【0085】
本明細書においてゲル含量の算出方法は下記の通りである。先ず、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを得、次に、当該水性ラテックスから、重合体微粒子(B)の粉粒体を得る。水性ラテックスから重合体微粒子(B)の粉粒体を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、(i)当該水性ラテックス中の重合体微粒子(B)を凝集させ、(ii)得られる凝集物を脱水し、(iii)さらに凝集物を乾燥することにより、重合体微粒子(B)の粉粒体を得る方法が挙げられる。次いで、重合体微粒子(B)の粉粒体2.0gをメチルエチルケトン(MEK)50mLに溶解する。その後、得られたMEK溶解物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離する。具体的には、遠心分離機(日立工機(株)社製、CP60E)を用い、回転数30,000rpmにて1時間、得られたMEK溶解物を遠心分離に供し、当該溶解物を、MEK可溶分とMEK不溶分とに分離する。ここで、遠心分離作業は合計3セット実施する。得られたMEK可溶分とMEK不溶分との重量を測定し、次式よりゲル含量を算出する。
ゲル含量(%)=(メチルエチルケトン不溶分の重量)/{(メチルエチルケトン不溶分の重量)+(メチルエチルケトン可溶分の重量)}×100。
【0086】
(弾性体の変形例)
本発明の一実施形態において、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、構成単位の組成が同一である1種類の弾性体、のみからなってもよい。この場合、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種類である。
【0087】
本発明の一実施形態において、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種の弾性体からなってもよい。この場合、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される2種類以上であってもよい。また、この場合、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種類であってもよい。換言すれば、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種のジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムまたはオルガノシロキサン系ゴムであってもよい。
【0088】
本発明の一実施形態において、重合体微粒子(B)の「弾性体」が、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種の弾性体からなる場合について説明する。この場合、複数種の弾性体のそれぞれを、弾性体、弾性体、・・・、および弾性体とする。ここで、nは2以上の整数である。重合体微粒子(B)の「弾性体」は、それぞれ別々に重合された弾性体、弾性体、・・・、および弾性体の複合体を含んでいてもよい。重合体微粒子(B)の「弾性体」は、弾性体、弾性体、・・・、および弾性体をそれぞれ順に重合して得られる1つの弾性体を含んでいてもよい。このように、複数の弾性体(重合体)をそれぞれ順に重合することを、多段重合とも称する。複数種の弾性体を多段重合して得られる1つの弾性体を、多段重合弾性体とも称する。多段重合弾性体の製造方法については、後に詳述する。
【0089】
弾性体、弾性体、・・・、および弾性体からなる多段重合弾性体について説明する。当該多段重合弾性体において、弾性体は、弾性体n-1の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体n-1の全体を被覆し得る。当該多段重合弾性体において、弾性体の一部は弾性体n-1の内側に入り込んでいることもある。
【0090】
多段重合弾性体において、複数の弾性体のそれぞれが、層構造を形成していてもよい。例えば、多段重合弾性体が、弾性体、弾性体、および弾性体からなる場合、弾性体が最内層を形成し、弾性体の外側に弾性体の層が形成され、さらに弾性体の層の外側に弾性体の層が弾性体における最外層として形成される態様も、本発明の一態様である。このように、複数の弾性体のそれぞれが層構造を形成している多段重合弾性体は、多層弾性体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、重合体微粒子(B)の「弾性体」は、(i)複数種の弾性体の複合体、(ii)多段重合弾性体および/または(iii)多層弾性体を含んでいてもよい。
【0091】
(表面架橋重合体)
弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上のゴムの他に、表面架橋重合体をさらに有していてもよい。なお、以下の説明では、弾性体に含まれる表面架橋重合体と区別する目的で、弾性体における上述したゴムを主成分として含む部分を「弾性体の弾性コア」ということがある。換言すれば、前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上の単量体を重合してなる弾性体の弾性コアと、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体および当該多官能性単量体以外のビニル系単量体からなる群より選択される1種以上の単量体を重合してなる表面架橋重合体とを含有することが好ましい。以下、弾性体が、弾性体の弾性コアに加えて表面架橋重合体をさらに有する場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。この場合、(i)重合体微粒子(B)の製造において、耐ブロッキング性を改善することができるとともに、(ii)熱硬化性樹脂における重合体微粒子(B)の分散性がより良好となる。これらの理由としては、特に限定されないが、以下のように推測され得る:表面架橋重合体が弾性体の弾性コアの少なくとも一部を被覆することにより、重合体微粒子(B)の弾性体の弾性コアの露出が減り、その結果、弾性体同士が引っ付きにくくなるため、重合体微粒子(B)の分散性が向上する。
【0092】
弾性体が表面架橋重合体を有する場合、さらに以下の効果も有し得る:(i)本組成物の粘度を低下させる効果、(ii)弾性体全体としての架橋密度を上げる効果、および(iii)グラフト部のグラフト効率を高める効果。弾性体の弾性コアにおける架橋密度とは、弾性体の弾性コア全体における架橋構造の数の程度を意図する。
【0093】
表面架橋重合体は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を30~100重量%、およびその他のビニル系単量体に由来する構成単位を0~70重量%、合計100重量%含む重合体からなる。
【0094】
表面架橋重合体の重合に用いられ得る多官能性単量体としては、上述した「弾性体の架橋構造」の項で例示した多官能性単量体が挙げられる。それら多官能性単量体の中でも、表面架橋重合体の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えばジメタクリル酸1,3-ブチレングリコールなど)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0095】
弾性体は、弾性体の弾性コアの重合とは独立して重合された表面架橋重合体を含んでいてもよく、または、弾性体の弾性コアと共に重合された表面架橋重合体を含んでいてもよい。換言すれば、重合体微粒子(B)は、弾性体の弾性コアと表面架橋重合体とを共に重合し、その後グラフト部を重合して得られる多段重合体であってもよい。また、重合体微粒子(B)は、弾性体の弾性コアと表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体であってもよい。これらいずれの態様においても、表面架橋重合体は弾性体の弾性コアの少なくとも一部を被覆し得る。
【0096】
表面架橋重合体は、弾性体の一部とみなすことができ、弾性体の弾性コアに対して、表面架橋重合体は弾性体の表面架橋重合部ともいえる。弾性体が表面架橋重合体を含む場合、グラフト部は、(i)表面架橋重合体以外の弾性体(すなわち、弾性体の弾性コア)に対してグラフト結合されていてもよく、(ii)表面架橋重合体に対してグラフト結合されていてもよく、(iii)表面架橋重合体以外の弾性体(すなわち、弾性体の弾性コア分)および表面架橋重合体の両方に対してグラフト結合されていてもよい。弾性体が表面架橋重合体を含む場合、上述した弾性体の体積平均粒子径とは、表面架橋重合体を含む弾性体の体積平均粒子径を意図する。
【0097】
(グラフト部)
本明細書において、弾性体に対してグラフト結合された重合体をグラフト部と称する。グラフト部は、官能基Xとの反応性を有する官能基Yを含まない。ここで、官能基Xが複数種ある場合は、それら複数種の官能基の各々との反応性を有する複数種の官能基Yをグラフト部が全て含まないことを意図する。オキセタン基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基およびカルボン酸無水物基などが挙げられる。水酸基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、エポキシ基、イミド基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。エポキシ基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基およびカルボン酸無水物基などが挙げられる。アミノ基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、エポキシ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。イミド基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。カルボン酸基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。カルボン酸無水物基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。環状エステル基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。環状アミド基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。ベンズオキサジン基との反応性を有する官能基としては、ベンズオキサジン基などが挙げられる。シアン酸エステル基との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。
【0098】
低分子化合物(A)に含まれる化合物が官能基X以外の官能基を有する場合、組成物が特に優れた貯蔵安定性を有することから、グラフト部は、それら官能基X以外の官能基との反応性を有する官能基も含まないことが好ましい。換言すれば、組成物が特に優れた貯蔵安定性を有することから、グラフト部は、低分子化合物(A)に含まれるすべての化合物が有する全ての官能基の各々に対して反応性を有する複数種の官能基を全て含まないことが好ましい。
【0099】
(メタ)アクリロイル基との反応性を有する官能基としては、(メタ)アクリロイル基およびビニル基などが挙げられる。-COOCH=CH基との反応性を有する官能基としては、(メタ)アクリロイル基およびビニル基などが挙げられる。芳香族基との反応性を有する官能基としては、ベンズオキサジン基などが挙げられる。ニトリル基(ただしシアン酸エステル基は除く)との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。カルボニル基(ただしカルボン酸基およびカルボン酸無水物基は除く)との反応性を有する官能基としては、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基およびシアン酸エステル基などが挙げられる。
【0100】
グラフト部は、低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを含まない限り、構成単位として、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む重合体である(を含む)ことが好ましい。前記構成を有するグラフト部は、種々の役割を担うことができる。「種々の役割」とは、例えば、(i)重合体微粒子(B)と、組成物のその他の有機成分(後述する低分子化合物(A)、およびマトリクス樹脂(D)等)との相溶性を向上させること、(ii)組成物のその他の有機成分中における重合体微粒子(B)の分散性を向上させること、および(iii)組成物またはその硬化物において重合体微粒子(B)が1次粒子の状態で分散することを可能にすること、などである。
【0101】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、およびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0102】
ビニルシアン単量体の具体例としては、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0103】
(メタ)アクリレート単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意図する。
【0104】
上述した、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0105】
グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニル単量体に由来する構成単位、ビニルシアン単量体に由来する構成単位および(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位を合計で、グラフト部に含まれる重合体100重量%中に、10~95重量%含むことが好ましく、30~92重量%含むことがより好ましく、50~90重量%含むことがさらに好ましく、60~87重量%含むことが特に好ましく、70~85重量%含むことが最も好ましい。
【0106】
グラフト部は、低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを含まない限り、構成単位として、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。多官能性単量体は、グラフト部の製造において、単官能性単量体の重合により得られた重合体を架橋し得る。それ故、多官能性単量体は「架橋剤」ともいえる。
【0107】
グラフト部が、多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合、(i)組成物中において重合体微粒子(B)の膨潤を防止することができる、(ii)組成物の粘度が低くなるため、組成物の取扱い性が良好となる傾向がある、および(iii)組成物のその他の有機成分における重合体微粒子(B)の分散性が向上する、などの利点を有する。
【0108】
グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含まない場合、グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合と比較して、得られる組成物は、靱性および耐衝撃性により優れる硬化物を提供することができる。
【0109】
分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体としては、上述した「弾性体の架橋構造」の項で例示した多官能性単量体が挙げられる。
【0110】
分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体の中でも、グラフト部の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが第2単量体として用いられてもよく、2種以上が組み合わせて第2単量体として用いられてもよい。
【0111】
グラフト部は、グラフト部に含まれる重合体100重量%中、多官能性単量体に由来する構成単位を、1~20重量%含むことが好ましく、5~15重量%含むことがより好ましい。
【0112】
グラフト部は、低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを含まない限り、構成単位として、さらに、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。前記反応性基を有する単量体は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される1種以上の反応性基を有する単量体であることが好ましく、エポキシ基、水酸基、およびカルボン酸基からなる群から選択される1種以上の反応性基を有する単量体であることがより好ましく、エポキシ基を有する単量体であることが最も好ましい。前記構成によると、組成物中で重合体微粒子(B)のグラフト部と後述するマトリクス樹脂(D)とを化学結合させることができる。これにより、組成物中またはその硬化物中で、重合体微粒子(B)を凝集させることなく、重合体微粒子(B)の良好な分散状態を維持することができる。
【0113】
エポキシ基を有する単量体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、およびアリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0114】
水酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、(a)2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に好ましくは、ヒドロキシ直鎖C1-6アルキル(メタ)アクリレート);(b)カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;(c)α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどのヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート;(d)二価カルボン酸(フタル酸など)と二価アルコール(プロピレングリコールなど)とから得られるポリエステルジオール(特に好ましくは、飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。なお、「直鎖C1-6アルキル」とは、炭素数が1~6である直鎖アルキルを意図する。
【0115】
カルボン酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、(a)アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸などのモノカルボン酸、並びに(b)マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸などのジカルボン酸などが挙げられる。カルボン酸基を有する単量体としては、前記モノカルボン酸が好適に用いられる。
【0116】
上述した反応性基を有する単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0117】
グラフト部は、グラフト部に含まれる重合体100重量%中、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を、0.5~90重量%含むことが好ましく、1~50重量%含むことがより好ましく、2~35重量%含むことがさらに好ましく、3~20重量%含むことが特に好ましい。グラフト部が、グラフト部に含まれる重合体100重量%中、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を、(i)0.5重量%以上含む場合、得られる組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、(ii)90重量%以下含む場合、得られる組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、かつ、当該組成物の貯蔵安定性が良好となるという利点を有する。
【0118】
反応性基を有する単量体に由来する構成単位は、グラフト部に含まれることが好ましく、グラフト部にのみ含まれることがより好ましい。
【0119】
グラフト部の重合において、上述した単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、グラフト部は、構成単位として、上述した単量体に由来する構成単位の他に、他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0120】
(グラフト部のガラス転移温度)
グラフト部のガラス転移温度は、190℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、140℃以下がより好ましく、120℃以下がより好ましく、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がより好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がより好ましく、-45℃以下がより好ましく、-50℃以下がより好ましく、-55℃以下がより好ましく、-60℃以下がより好ましく、-65℃以下がより好ましく、-70℃以下がより好ましく、-75℃以下がより好ましく、-80℃以下がより好ましく、-85℃以下がより好ましく、-90℃以下がより好ましく、-95℃以下がより好ましく、-100℃以下がより好ましく、-105℃以下がより好ましく、-110℃以下がより好ましく、-115℃以下がより好ましく、-120℃以下がさらに好ましく、-125℃以下が特に好ましい。
【0121】
グラフト部のガラス転移温度は、0℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましく、110℃以下であることが特に好ましい。
【0122】
グラフト部のTgは、グラフト部に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、グラフト部を製造(重合)するときに使用する単量体の組成を変化させることにより、得られるグラフト部のTgを調整することができる。
【0123】
グラフト部のTgは、重合体微粒子(B)からなる平面板を用いて、粘弾性測定を行うことによって得ることができる。具体的には、以下のようにしてTgを測定できる:(1)重合体微粒子(B)からなる平面板について、動的粘弾性測定装置(例えば、アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて、引張条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのグラフを得る;(2)得られたtanδのグラフについて、tanδのピーク温度をガラス転移温度とする。ここで、tanδのグラフにおいて、複数のピークが得られた場合には、最も高いピーク温度をグラフト部のガラス転移温度とする。
【0124】
(グラフト部のグラフト率)
本発明の一実施形態において、重合体微粒子(B)は、グラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない重合体を有していてもよい。本明細書において、「グラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない重合体」を、非グラフト重合体とも称する。当該非グラフト重合体も、本発明の一実施形態に係る重合体微粒子(B)の一部を構成するものとする。前記非グラフト重合体は、グラフト部の重合において製造された重合体のうち、弾性体に対してグラフト結合していない重合体ともいえる。
【0125】
本明細書において、グラフト部の重合において製造された重合体のうち、弾性体に対してグラフト結合された重合体、すなわちグラフト部の割合を、グラフト率と称する。グラフト率は、(グラフト部の重量)/{(グラフト部の重量)+(非グラフト重合体の重量)}×100で表される値、ともいえる。
【0126】
グラフト部のグラフト率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。グラフト率が70%以上である場合、組成物の粘度が高くなりすぎないという利点を有する。
【0127】
本明細書において、グラフト率の算出方法は下記の通りである。先ず、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを得、次に、当該水性ラテックスから、重合体微粒子(B)の粉粒体を得る。水性ラテックスから重合体微粒子(B)の粉粒体を得る方法としては、具体的には、(i)前記水性ラテックス中の重合体微粒子(B)を凝析し、(ii)得られる凝析物を脱水し、(iii)さらに凝析物を乾燥することにより、重合体微粒子(B)の粉粒体を得る方法が挙げられる。次いで、重合体微粒子(B)の粉粒体2gをメチルエチルケトン(以下、MEKとも称する。)50mLに溶解する。その後、得られたMEK溶解物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離する。具体的には、以下(1)~(3)を行う:(1)遠心分離機(日立工機(株)社製、CP60E)を用い、回転数30,000rpmにて1時間、得られたMEK溶解物を遠心分離に供し、当該溶解物を、MEK可溶分とMEK不溶分とに分離する;(2)得られたMEK可溶分とMEKとを混合し、得られたMEK混合物を上述の遠心分離機を用い、回転数30,000rpmにて1時間、遠心分離に供し、当該MEK混合物をMEK可溶分とMEK不溶分とに分離する;(3)前記(2)の操作を1回繰り返す(すなわち遠心分離作業は合計3回実施する)。かかる操作により濃縮したMEK可溶分を得る。次に、濃縮したMEK可溶分20mlをメタノール200mlと混合する。塩化カルシウム0.01gを水に溶かした塩化カルシウム水溶液を得られた混合物に添加し、得られた混合物を1時間撹拌する。その後、得られた混合物をメタノール可溶分とメタノール不溶分とに分離し、メタノール不溶分の重量をフリー重合体(FP)量とする。
【0128】
次式よりグラフト率を算出する。
グラフト率(%)=100-[(FP量)/{(FP量)+(MEK不溶分の重量)}]/(グラフト部の重合体の重量)×10,000。
【0129】
なお、グラフト部以外の重合体の重量は、グラフト部以外の重合体を構成する単量体の仕込み量である。グラフト部以外の重合体は、例えば弾性体である。また、重合体微粒子(B)が表面架橋重合体を含む場合、グラフト部以外の重合体は、弾性体および表面架橋重合体の両方を含む。グラフト部の重合体の重量は、グラフト部の重合体を構成する単量体の仕込み量である。また、グラフト率の算出において、重合体微粒子(B)を凝析する方法は特に限定されず、溶剤を用いる方法、凝析剤を用いる方法、水性ラテックスを噴霧する方法などが用いられ得る。
【0130】
(グラフト部の変形例)
本発明の一実施形態において、グラフト部は、同一の組成の構成単位を有する1種のグラフト部のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、グラフト部は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種のグラフト部からなってもよい。
【0131】
本発明の一実施形態において、グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合について説明する。この場合、複数種のグラフト部のそれぞれを、グラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部とする(nは2以上の整数)。グラフト部は、それぞれ別々に重合されたグラフト部、グラフト部、・・・、およびグラフト部の複合体を含んでいてもよい。グラフト部は、グラフト部、グラフト部、・・・、およびグラフト部をそれぞれ順に重合して得られる1つの重合体を含んでいてもよい。このように、複数の重合部(グラフト部)をそれぞれ順に重合することを、多段重合とも称する。複数種のグラフト部を多段重合して得られる1つの重合体を、多段重合グラフト部とも称する。多段重合グラフト部の製造方法については、後に詳述する。
【0132】
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、これら複数種のグラフト部の全てが弾性体に対してグラフト結合されていなくてもよい。グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、少なくとも1種のグラフト部の少なくとも一部が弾性体に対してグラフト結合されていればよく、その他の種(その他の複数種)のグラフト部は、弾性体に対してグラフト結合されているグラフト部にグラフト結合されていてもよい。また、グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない複数種の重合体(複数種の非グラフト重合体)を有していてもよい。
【0133】
グラフト部、グラフト部、・・・、およびグラフト部からなる多段重合グラフト部について説明する。当該多段重合グラフト部において、グラフト部は、グラフト部n-1の少なくとも一部を被覆し得るか、またはグラフト部n-1の全体を被覆し得る。当該多段重合グラフト部において、グラフト部の一部はグラフト部n-1の内側に入り込んでいることもある。
【0134】
多段重合グラフト部において、複数のグラフト部のそれぞれが、層構造を形成していてもよい。例えば、多段重合グラフト部が、グラフト部、グラフト部、およびグラフト部からなる場合、グラフト部がグラフト部における最内層を形成し、グラフト部の外側にグラフト部の層が形成され、さらにグラフト部の層の外側にグラフト部の層が最外層として形成される態様も、本発明の一態様である。このように、複数のグラフト部のそれぞれが層構造を形成している多段重合グラフト部は、多層グラフト部ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、グラフト部は、(a)複数種のグラフト部の複合体、(b)多段重合グラフト部および/または(c)多層グラフト部を含んでいてもよい。
【0135】
重合体微粒子(B)の製造において弾性体とグラフト部とがこの順で重合される場合、得られる重合体微粒子(B)において、グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆し得る。弾性体とグラフト部とがこの順で重合されるとは、換言すれば、弾性体とグラフト部とが多段重合されるともいえる。弾性体とグラフト部とを多段重合して得られる重合体微粒子(B)は、多段重合体ともいえる。
【0136】
重合体微粒子(B)が多段重合体である場合、グラフト部は弾性体の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。重合体微粒子(B)が多段重合体である場合、グラフト部の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆していることが好ましい。換言すれば、グラフト部の少なくとも一部分は、重合体微粒子(B)の最も外側に存在することが好ましい。
【0137】
重合体微粒子(B)が多段重合体である場合、弾性体およびグラフト部が、層構造を形成していてもよい。例えば、弾性体が最内層(コア層とも称する。)を形成し、弾性体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層とも称する。)として形成される態様も、本発明の一態様である。弾性体をコア層とし、グラフト部をシェル層とする構造はコアシェル構造ともいえる。このように、弾性体およびグラフト部が層構造(コアシェル構造)を形成している重合体微粒子(B)は、多層重合体またはコアシェル重合体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、重合体微粒子(B)は、多段重合体であってもよく、かつ/または、多層重合体もしくはコアシェル重合体であってもよい。ただし、弾性体とグラフト部とを有している限り、重合体微粒子(B)は前記構成に制限されるわけではない。
【0138】
重合体微粒子(B)が、弾性体の弾性コアと表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体である場合(場合D)について説明する。場合Dにおいて、表面架橋重合体は、弾性体の弾性コアの表面の一部に含侵している(内側に入り込んでいる)か、または弾性体の弾性コアの表面の全体に含侵している(内側に入り込んでいる)こともある。場合Dにおいて、グラフト部は、表面架橋重合体の一部を被覆し得るか、または表面架橋重合体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、グラフト部は一部が表面架橋重合体の表面に含侵しながら(内側に入り込みながら)表面架橋重合体の外側にグラフト部の層を形成していることもある。また、場合Dにおいて、グラフト部の一部は弾性体の弾性コアの表面に含侵しながら(内側に入り込みながら)弾性体の弾性コアの外側にグラフト部の層を形成しているにこともある。場合Dにおいて、弾性体の弾性コア、表面架橋重合体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体の弾性コアを最内層(コア層)とし、弾性体の弾性コアの外側に表面架橋重合体の層が中間層として存在し、表面架橋重合体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層)として存在する態様も、本発明の一態様である。
【0139】
本組成物において、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、低分子化合物(A)は50~99重量%であり、重合体微粒子(B)は1~50重量%である。一般的に当該含有比率で重合体微粒子と低分子化合物とを含む混合物は、好適な粘度を有し、混合直後の取り扱い性に優れるが、貯蔵中にゲル化し易いという問題を有する。しかしながら、本組成物は、重合体微粒子(B)のグラフト部が、低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを含まないことにより組成物のゲル化が抑制される結果、長期貯蔵後も好適な粘度を維持することができる。
【0140】
本組成物において、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、低分子化合物(A)は50~90重量%であり、重合体微粒子(B)は10~50重量%であってもよい。本組成物における低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との含有比率が上記範囲である場合、本組成物を高濃度のマスターバッチとして使用できるという利点を有する。
【0141】
本組成物において、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、低分子化合物(A)が50~95重量%、重合体微粒子(B)が5~50重量%であることが好ましく、低分子化合物(A)が50~94重量%、重合体微粒子(B)が6~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~93重量%、重合体微粒子(B)が7~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~92重量%、重合体微粒子(B)が8~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~91重量%、重合体微粒子(B)が9~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~90重量%、重合体微粒子(B)が10~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~85重量%、重合体微粒子(B)が15~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~80重量%、重合体微粒子(B)が20~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~75重量%、重合体微粒子(B)が25~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~70重量%、重合体微粒子(B)が30~50重量%であることがより好ましく、低分子化合物(A)が50~65重量%、重合体微粒子(B)が35~50重量%であることがさらに好ましい。本組成物において、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、低分子化合物(A)が50~60重量%、重合体微粒子(B)が40~50重量%であってもよく、低分子化合物(A)が55~60重量%、重合体微粒子(B)が45~50重量%であってもよい。本組成物における低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との含有比率が上記範囲である場合、本組成物をより高濃度のマスターバッチとして使用できるという利点をさらに有する。
【0142】
(重合体微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv))
重合体微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)は、所望の粘度を有し、かつ高度に安定した組成物を得ることができることから、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。重合体微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)が前記範囲内である場合、組成物のその他の有機成分における重合体微粒子(B)の分散性が良好となるという利点も有する。なお、本明細書において、「重合体微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)」とは、特に言及する場合を除き、重合体微粒子(B)の1次粒子の体積平均粒子径を意図する。重合体微粒子(B)の体積平均粒子径は、重合体微粒子(B)を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。
【0143】
<2-3.重合体微粒子(B)の製造方法>
以下、重合体微粒子(B)の製造方法の一例を説明する。重合体微粒子(B)は、例えば、弾性体を重合した後、当該弾性体の存在下にて当該弾性体に対してグラフト部を構成する重合体をグラフト重合することによって、製造できる。
【0144】
重合体微粒子(B)は、公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンジョン重合法などの方法により製造することができる。具体的には、重合体微粒子(B)における弾性体の重合、グラフト部の重合(グラフト重合)、および表面架橋重合体の重合は、公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンジョン重合法などの方法により実施することができる。これらの中でも特に、重合体微粒子(B)の製造方法としては、乳化重合法が好ましい。乳化重合法によると、(i)重合体微粒子(B)の組成設計が容易である、(ii)重合体微粒子(B)の工業生産が容易である、および(iii)後述の本製造方法で使用するのに好適な水性ラテックスが容易に得られる、という利点を有する。以下、重合体微粒子(B)に含まれ得る弾性体、グラフト部、および任意の構成である表面架橋重合体の製造方法について、説明する。
【0145】
(弾性体の製造方法)
弾性体は、ジエン系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、およびオルガノシロキサン系単量体からなる群より選択される1種以上の単量体を重合させることにより製造することができる。
【0146】
弾性体が、ジエン系ゴムおよび(メタ)アクリレート系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上を含む場合を考える。この場合、弾性体は、ジエン系単量体および(メタ)アクリレート系単量体からなる群より選択される1種以上の単量体を重合させることにより製造することができる。この場合の単量体の重合は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により行うことができ、その方法としては、例えばWO2005/028546号公報に記載の方法を用いることができる。
【0147】
弾性体が、オルガノシロキサン系ゴムを含む場合を考える。この場合、弾性体は、オルガノシロキサン系単量体を重合させることにより製造することができる。この場合の単量体の重合は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により行うことができ、その方法としては、例えばWO2006/070664号公報に記載の方法を用いることができる。
【0148】
重合体微粒子(B)の「弾性体」が複数種の弾性体(例えば弾性体、弾性体、・・・、弾性体)からなる場合について説明する。この場合、弾性体、弾性体、・・・、弾性体は、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されて複合化されることにより、複数種の弾性体からなる複合体が製造されてもよい。または、弾性体、弾性体、・・・、弾性体は、それぞれ順に多段重合され、複数種の弾性体からなる1つの弾性体が製造されてもよい。
【0149】
弾性体の多段重合について、具体的に説明する。例えば、以下、(1)~(4)の工程を順に行うことにより、多段重合弾性体を得ることができる:(1)弾性体を重合して弾性体を得る;(2)次いで弾性体の存在下にて弾性体を重合して2段弾性体1+2を得る;(3)次いで弾性体1+2の存在下にて弾性体を重合して3段弾性体1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、弾性体1+2+・・・+(n-1)の存在下にて弾性体を重合して多段重合弾性体1+2+・・・+nを得る。
【0150】
(グラフト部の製造方法)
グラフト部は、例えば、グラフト部の形成に用いる単量体を、弾性体の存在下、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。(i)弾性体のコアからなる弾性体、または(ii)弾性体のコアおよび表面架橋重合体を含む弾性体、を水性ラテックスとして得た場合には、グラフト部の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。グラフト部は、例えば、WO2005/028546号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0151】
グラフト部が複数種のグラフト部(例えばグラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部)からなる場合の、グラフト部の製造方法について説明する。この場合、グラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部は、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されて複合化されることにより、複数種のグラフト部からなるグラフト部(複合体)が製造されてもよい。または、グラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部は、それぞれ順に多段重合され、複数種のグラフト部からなる1つのグラフト部が製造されてもよい。
【0152】
グラフト部の多段重合について、具体的に説明する。例えば、以下、(1)~(4)の工程を順に行うことにより、多段重合グラフト部を得ることができる:(1)グラフト部を重合してグラフト部を得る;(2)次いでグラフト部の存在下にてグラフト部を重合して2段グラフト部1+2を得る;(3)次いでグラフト部1+2の存在下にてグラフト部を重合して3段グラフト部1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、グラフト部1+2+・・・+(n-1)の存在下にてグラフト部を重合して多段重合グラフト部1+2+・・・+nを得る。
【0153】
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部を有するグラフト部を重合した後、弾性体にそれらグラフト部をグラフト重合して、重合体微粒子(B)を製造してもよい。弾性体の存在下にて、弾性体に対して、グラフト部を構成する複数種の重合体を順に多段グラフト重合して、重合体微粒子(B)を製造してもよい。
【0154】
(表面架橋重合体の製造方法)
表面架橋重合体は、表面架橋重合体の形成に用いる単量体を、任意の重合体(例えば弾性コア)の存在下、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。弾性体を水性ラテックスとして得た場合には、表面架橋重合体の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
【0155】
重合体微粒子(B)の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、重合体微粒子(B)の製造には、乳化剤(分散剤)として、公知の乳化剤(分散剤)を用いることができる。乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などが挙げられる。アニオン性乳化剤としては、硫黄系乳化剤、リン系乳化剤、ザルコシン酸系乳化剤、カルボン酸系乳化剤などが挙げられる。硫黄系乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称;SDBS)等が挙げられる。リン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0156】
重合体微粒子(B)の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、重合体微粒子(B)の製造には、熱分解型開始剤を用いることができる。前記熱分解型開始剤としては、例えば、(i)2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、並びに(ii)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物、などの公知の開始剤を挙げることができる。前記有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、およびt-ヘキシルパーオキサイドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0157】
重合体微粒子(B)の製造には、レドックス型開始剤を使用することもできる。前記レドックス型開始剤は、(i)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物と、(ii)硫酸鉄(II)などの遷移金属塩や、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤を併用した開始剤である。さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などを併用してもよい。
【0158】
レドックス型開始剤を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定することができるようになる。そのため、レドックス型開始剤を用いることが好ましい。レドックス型開始剤の中でも、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、およびt-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物を過酸化物として使用したレドックス型開始剤が好ましい。前記開始剤の使用量、並びに、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩およびキレート剤などの使用量は、公知の範囲で用いることができる。
【0159】
弾性体、グラフト部または表面架橋重合体に架橋構造を導入する目的で、弾性体、グラフト部または表面架橋重合体の重合に多官能性単量体を使用する場合、公知の連鎖移動剤を公知の使用量の範囲で用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、得られる弾性体、グラフト部もしくは表面架橋重合体の分子量および/または架橋度を容易に調節することができる。
【0160】
重合体微粒子(B)の製造には、上述した成分に加えて、さらに界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤の種類および使用量は、公知の範囲である。
【0161】
重合体微粒子(B)の製造において、重合における重合温度、圧力、および脱酸素などの各条件は、公知の数値範囲の条件を適宜適用することができる。
【0162】
上述した重合体微粒子(B)の製造方法により、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを得ることができる。すなわち、<2-3.重合体微粒子(B)の製造方法>の項の記載は、本組成物の製造方法における水性ラテックスの調製方法に関する記載として援用できる。
【0163】
<2-4.ラジカル捕捉剤(C)>
本組成物は、さらに、ラジカル捕捉剤(C)を含むことが好ましい。本発明者は、本発明の一実施形態の検討過程において、以下の知見を独自に見出した:重合体微粒子および分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する低分子化合物を含む組成物に、ラジカル捕捉剤を添加することにより、驚くべきことに、組成物の貯蔵安定性が改善すること。ラジカル捕捉剤の添加により、組成物の貯蔵安定性が改善された理由は定かではないが、本発明者は、以下(i)および(ii)のように推測した:(i)組成物の貯蔵中に組成物中で発生したラジカルにより低分子化合物が重合し、高分子量化が進行することにより、組成物がゲル化する;(ii)ラジカル捕捉剤を組成物に添加することにより、低分子化合物の重合が阻害され、その結果、組成物の貯蔵安定性が改善する。
【0164】
本組成物がラジカル捕捉剤(C)を含む場合、ラジカル捕捉剤(C)は、当該組成物の貯蔵中に発生するラジカルを捕捉することにより、低分子化合物(A)の重合(高分子量化)を防ぎ、貯蔵安定性を改善する。
【0165】
ラジカル捕捉剤(C)としては、ヒドロキノン系のラジカル捕捉剤、カテコール系のラジカル捕捉剤、フェノール系のラジカル捕捉剤、フェノチアジン系のラジカル捕捉剤およびヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤等が挙げられる。
【0166】
ヒドロキノン系のラジカル捕捉剤としては、tert-ブチルヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、ヒドロキノンなどが挙げられる。カテコール系のラジカル捕捉剤としては、4-tert-ブチルピロカテコールなどが挙げられる。フェノール系のラジカル捕捉剤としては、メキノールなどが挙げられる。フェノチアジン系のラジカル捕捉剤としては、フェノチアジンなどが挙げられる。
【0167】
本発明者は、本発明の一実施形態の検討過程において、以下の知見も独自に見出した:ヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤(C)は、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との混合物において、驚くべきことに、ヒンダードフェノール系以外のラジカル捕捉剤と比べて、ラジカルの捕捉力が極めて高いという知見。それ故、本組成物は、ラジカル捕捉剤(C)として、ヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤を含むことが好ましい。本組成物がヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤を含む場合、(a)貯蔵安定性により優れ、特に、高温下(例えば80℃)で長期間貯蔵した場合であってもゲル化しないという利点、および(b)貯蔵後に使用する場合も、取り扱い性により優れるという利点を有する。
【0168】
ヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-ジメチルアミノメチルフェノール(CAS登録番号88-27-7)、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(別名「ブチル化ヒドロキシトルエン」、CAS登録番号128-37-0)、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナート](CAS登録番号6683-19-8)、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン(CAS登録番号1709-70-2)、2,4,6-トリメチルフェノール(CAS登録番号527-60-6)、6-t-ブチル-2,4-キシレノール(CAS登録番号1879-09-0)、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール(CAS登録番号4130-42-1)、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール(CAS登録番号88-26-6)、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール(CAS登録番号732-26-3)、4-sec-ブチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール(CAS登録番号17540-75-9)、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(CAS登録番号20170-32-5)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン(CAS登録番号5613-46-7)、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル(CAS登録番号6386-38-5)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン(CAS登録番号36395-57-0)、2,2’,6,6’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル(CAS登録番号128-38-1)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)(CAS登録番号118-82-1)、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(CAS登録番号2082-79-3)、2,2’-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](CAS登録番号41484-35-9)、ビス[3-[3-(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル]プロパン酸]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイルビス(2-メチルプロパン-2,1-ジイル)(CAS登録番号90498-90-1)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(CAS登録番号27676-62-6)、および2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノール(CAS登録番号489-01-0)などが挙げられる。
【0169】
上述したヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤の中でも、ラジカル捕捉能力が高く、得られる組成物の貯蔵安定性が改善することから、p位に電子供与性基を有するラジカル捕捉剤が好ましい。ヒンダードフェノール系であり、かつp位に電子供与性基を有するラジカル捕捉剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-ジメチルアミノメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,4,6-トリメチルフェノール、6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、4-sec-ブチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール、および、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノール等が挙げられる。これらの中でも、特に電子供与性が高い2,6-ジ-t-ブチル-4-ジメチルアミノメチルフェノール、および、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノールが特に好ましい。
【0170】
上述したラジカル捕捉剤(C)は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0171】
ラジカル捕捉剤(C)は、アミノ基を有しないことが好ましい。当該構成により、本組成物の貯蔵による変色を防ぐことができるという利点を有する。
【0172】
本組成物におけるラジカル捕捉剤(C)の含有量は、重合体微粒子(B)100重量部に対して、0.075重量部以上であることが好ましく、0.125重量部以上であることがより好ましく、0.200重量部以上であることがより好ましく、0.250重量部以上であることがより好ましく、0.325重量部以上であることがより好ましく、0.375重量部以上であることがさらに好ましく、0.450重量部以上であることがよりさらに好ましく、0.500重量部以上であることが特に好ましい。本組成物におけるラジカル捕捉剤(C)の含有量が、重合体微粒子(B)100重量部に対して0.075重量部以上である場合、当該組成物の貯蔵安定性がさらに向上するという利点を有する。
【0173】
本組成物におけるラジカル捕捉剤(C)の含有量の上限は、特に限定されないが、重合体微粒子(B)100重量部に対して、1.500重量部以下であることが好ましく、1.375重量部以下であることがより好ましく、1.250重量部以下であることがより好ましく、1.125重量部以下であることがより好ましく、1.000重量部以下であることがより好ましく、0.875重量部以下であることがより好ましく、0.750重量部以下であることがさらに好ましく、0.625重量部以下であることがよりさらに好ましく、0.500重量部以下であることが特に好ましい。本組成物におけるラジカル捕捉剤(C)の含有量が、重合体微粒子(B)100重量部に対して0.60重量部以下である場合、当該組成物の硬化反応を阻害しにくいという利点を有する。
【0174】
<2-6.マトリクス樹脂(D)>
本組成物は、必要により、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有するマトリクス樹脂(D)(以下、単に「マトリクス樹脂(D)」とも称する)をさらに含んでいてもよい。本組成物がマトリクス樹脂(D)を更に含むことにより、得られる硬化物の強度および靭性が向上するという利点を有する。また、本組成物は、マトリクス樹脂(D)を含む場合であっても、良好な取り扱い性および貯蔵安定性を保持することができる。組成物がマトリクス樹脂(D)を含む場合、組成物は「樹脂組成物」ともいえる。
【0175】
本明細書におけるマトリクス樹脂(D)は、分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する樹脂であって、分子量1,000以上の樹脂を意図する。分子内に2個以上の重合性不飽和結合を有する樹脂は特に制限はなく、例えばラジカル重合性反応基(例えば炭素-炭素二重結合)を有する硬化性樹脂が挙げられる。より具体的には、マトリクス樹脂(D)は、主鎖を構成する繰返し単位にエステル結合を含有する硬化性樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル化(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの硬化性樹脂は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0176】
エポキシ(メタ)アクリレートは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のようなポリエポキシドと、(メタ)アクリル酸のような不飽和一塩基酸と、必要に応じて多塩基酸とを、触媒存在下で付加反応させて得られる付加反応物である。当該付加反応物と、必要に応じて該付加反応物にビニルモノマーを混合した混合物と、を含めて、一般にビニルエステル樹脂と呼ばれる。この製法では、原料であるポリエポキシドが必然的に少量残留することになる。該ポリエポキシドが分子内に重合性不飽和結合を有しない場合には、硬化せずに残存し、硬化物物性(耐熱性等)に悪影響を及ぼす場合がある。残存エポキシドを少なくする観点、および、経済性の観点から、マトリクス樹脂(D)の総量100重量部の内、エポキシ(メタ)アクリレートの含有量は99重量部未満であることが好ましく、95重量部未満がより好ましく、90重量部未満がより好ましく、80重量部未満であることが更に好ましく、50重量部未満であることが特に好ましく、30重量部未満であることが最も好ましい。マトリクス樹脂(D)は、エポキシ(メタ)アクリレートを含有しないことが更に好ましい。
【0177】
前記「主鎖を構成する繰返し単位にエステル結合を含有する硬化性樹脂」としては、分子内にエステル基と2個以上の重合性不飽和結合とを有する硬化性化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、不飽和ポリエステルやポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0178】
マトリクス樹脂(D)は、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル化(メタ)アクリレートよりなる群から選択される1種以上の硬化性樹脂であることが好ましい。
【0179】
これらの中でも、経済性の観点から、マトリクス樹脂(D)は、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。また、残存するエポキシドが少ないことから、マトリクス樹脂(D)は、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートよりなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。また、耐熱性の観点から、マトリクス樹脂(D)は、不飽和ポリエステルまたはポリエステル(メタ)アクリレートであることが更に好ましく、ラジカル硬化時の硬化性の高さ、得られる硬化物の耐候性や着色、および、重合体微粒子(B)が分散しやすい等の観点から、マトリクス樹脂(D)は、ポリエステル(メタ)アクリレートであることが特に好ましい。粘度が低く作業性に優れる観点から、マトリクス樹脂(D)は、ポリエーテル(メタ)アクリレートを含むか、ポリエーテル(メタ)アクリレートであることが好ましい。粘度が低く作業性に優れる観点から、マトリクス樹脂(D)は、アクリル化(メタ)アクリレートを含むか、アクリル化(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0180】
(不飽和ポリエステル)
不飽和ポリエステルは、特に限定されるものではなく、例えば、多価アルコールと不飽和多価カルボン酸あるいはその無水物との縮合反応から得られるものが挙げられる。
【0181】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの、炭素原子が2~12個の二価アルコールが挙げられ、好ましくは炭素原子が2~6個の二価アルコールであり、より好ましくはプロピレングリコールである。これらの二価アルコールは、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0182】
不飽和多価カルボン酸としては、例えば、炭素原子が3~12個の二価のカルボン酸が挙げられ、より好ましくは炭素原子が4~8個の二価のカルボン酸である。具体的には、フマル酸やマレイン酸等が挙げられる。これらの二価のカルボン酸は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0183】
また、本組成物では、この不飽和多価カルボン酸あるいはその無水物とともに、飽和多価カルボン酸あるいはその無水物を併用してもよく、この際、多価カルボン酸あるいはその無水物の総量(100モル%)に対して、不飽和多価カルボン酸あるいはその無水物の量は少なくとも30モル%以上含まれていることが好ましい。飽和多価カルボン酸あるいはその無水物としては、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、グルタル酸などが挙げられる。これらの飽和多価カルボン酸あるいはその無水物は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0184】
不飽和ポリエステルは、前記多価アルコールと不飽和多価カルボン酸あるいはその無水物等とを、例えばチタン酸テトラブチルなどの有機チタン酸塩や、ジブチル酸化スズなどの有機錫化合物などのエステル化触媒存在下、縮合反応させて得ることができる。
【0185】
硬化性不飽和ポリエステル化合物は、例えば、Ashland社やReichhold社、AOC社等から商業的に入手することもできる。
【0186】
不飽和ポリエステルの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは5,000以下であり、特に好ましくは3,000以下である。不飽和ポリエステルの分子量は1,000以上であればよく、不飽和ポリエステルの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0187】
(ポリエステル(メタ)アクリレート)
ポリエステル(メタ)アクリレートは、特に限定されるものではなく、例えば、2価以上の多価カルボン酸あるいはその無水物、(メタ)アクリロイル基を有する不飽和モノカルボン酸、および2価以上の多価アルコールを必須成分としてエステル化して得られるものが挙げられる。また、例えば、多価カルボン酸あるいはその無水物と多価アルコールとの縮合反応によって得られるポリエステルの有する水酸基と不飽和モノカルボン酸とをエステル化反応させることにより得ることができる。更に、例えば、多価カルボン酸あるいはその無水物と多価アルコールとの縮合反応によって得られるポリエステルの有するカルボキシル基と不飽和グリシジルエステル化合物をエステル化反応させることにより得ることができる。
【0188】
多価カルボン酸あるいはその無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸あるいはその無水物が挙げられる。また、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12-ドデカン2酸、ダイマー酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の飽和カルボン酸あるいはその無水物が挙げられる。
【0189】
これらの中でも、多価カルボン酸あるいはその無水物としては、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸がより好ましい。イソフタル酸は、得られるマトリクス樹脂(D)の粘度が低く、硬化物の耐水性の観点からも特に好ましい。
【0190】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAとプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドとの付加物、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0191】
これらの中でも、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAとプロピレンオキサイドとの付加物、が好ましく、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAとプロピレンオキサイドとの付加物、がより好ましい。ネオペンチルグリコールは、得られるマトリクス樹脂(D)の粘度が低く、硬化物の耐水性や耐候性の観点からも特に好ましい。
【0192】
縮合反応を行う際の反応方法等は、公知の方法で行うことができる。また、多価カルボン酸類と多価アルコール類との配合割合は、特に限定されるものではない。その他の触媒や消泡剤等の添加剤の有無およびその使用量も特に限定されるものではない。さらに、前記反応における反応温度および反応時間は、前記反応が完結するように適宜設定すればよい。
【0193】
前記不飽和モノカルボン酸は、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する一塩基酸である。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルマレート、モノ-2-(アクリロイルオキシ)エチルマレート、モノ-2-(メタクリロイルオキシ)プロピルマレート、モノ-2-(アクリロイルオキシ)プロピルマレート等が挙げられる。
【0194】
前記不飽和グリシジルエステル化合物は、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するグリシジルエステル化合物である。例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0195】
前記エステル化反応に際しては、重合によるゲル化を防止するために重合禁止剤や分子状酸素を添加することが好ましい。
【0196】
重合禁止剤としては、特に限定されるものではなく、従来公知の化合物を用いることができる。例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p-t-ブチルカテコール、2-t-ブチルハイドロキノン、トルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、メトキシハイドロキノン、フェノチアジン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、トリメチルハイドロキノン、メチルベンゾキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、ナフテン酸銅等が挙げられる。
【0197】
分子状酸素としては、例えば、空気や空気と窒素等の不活性ガスの混合ガスを用いることができる。この場合、反応系に吹き込む(いわゆる、バブリング)ようにすればよい。なお、重合によるゲル化を十分に防止するために、重合禁止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
【0198】
前記エステル化反応における反応温度や反応時間等の反応条件は、反応が完結するように適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。また、反応を促進するために前記のエステル化触媒を用いることが好ましい。また、エステル化反応に際し、必要に応じて溶媒を用いてもよい。該溶媒としては、具体的には、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられるが、特に限定されない。溶媒の使用量や、反応後の溶媒の除去方法は、特に限定されるものではない。なお、前記エステル化反応においては水が副生するため、反応を促進させるためには、副生物である水を反応系から除去することが好ましい。除去方法は、特に限定されるものではない。
【0199】
ポリエステル(メタ)アクリレートの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは5,000以下であり、特に好ましくは3,000以下である。ポリエステル(メタ)アクリレートの分子量は1,000以上であればよく、ポリエステル(メタ)アクリレートの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0200】
(エポキシ(メタ)アクリレート)
エポキシ(メタ)アクリレートは、特に限定されるものではなく、例えば、分子内にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物と、不飽和モノカルボン酸と、必要に応じて多価カルボン酸とをエステル化触媒の存在下でエステル化反応させることによって得ることができる。
【0201】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、水素化ビスフェノール型エポキシ化合物、水素化ノボラック型エポキシ化合物、および前記ビスフェノール型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が有する水素原子の一部を、ハロゲン原子(例えば、臭素原子、塩素原子等)で置換してなるハロゲン化エポキシ化合物等が挙げられる。これらの多官能エポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、また、二種以上併用してもよい。
【0202】
ビスフェノール型エポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンと、ビスフェノールAまたはビスフェノールFとの反応によって得られるグリシジルエーテル型のエポキシ化合物、あるいは、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とエピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物等が挙げられる。
【0203】
水素化ビスフェノール型エポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンと、水素化ビスフェノールAまたは水素化ビスフェノールFとの反応によって得られるグリシジルエーテル型のエポキシ化合物、あるいは、水素化ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とエピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物等が挙げられる。
【0204】
ノボラック型エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラックまたはクレゾールノボラックと、エピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物等が挙げられる。
【0205】
水素化ノボラック型エポキシ化合物としては、例えば、水素化フェノールノボラックまたは水素化クレゾールノボラックと、エピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ化合物等が挙げられる。
【0206】
多官能エポキシ化合物の平均エポキシ当量は、好ましくは150~900の範囲、特に好ましくは150~400の範囲である。平均エポキシ当量が900を越える多官能エポキシ化合物を用いたエポキシ(メタ)アクリレートでは反応性が低下しやすく、組成物の硬化性が低下しやすい。平均エポキシ当量が150未満の多官能エポキシ化合物を用いた場合は、組成物の物性が低下しやすい。
【0207】
前記不飽和モノカルボン酸とは、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する一塩基酸である。例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、これらの不飽和モノカルボン酸の一部を桂皮酸、クロトン酸、ソルビン酸、および不飽和二塩基酸のハーフエステル(モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルマレート、モノ-2-(アクリロイルオキシ)エチルマレート、モノ-2-(メタクリロイルオキシ)プロピルマレート、モノ-2-(アクリロイルオキシ)プロピルマレート等)と置き換えて使用することもできる。
【0208】
前記多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,6-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等が挙げられる。
不飽和モノカルボン酸および必要に応じて用いられる多価カルボン酸と、多官能エポキシ化合物との割合は、不飽和モノカルボン酸および多価カルボン酸が有する合計のカルボキシル基と、多官能エポキシ化合物のエポキシ基との比率が1:1.2~1.2:1の範囲とすることが好ましい。
【0209】
前記エステル化触媒としては、従来公知の化合物を使用することができるが、具体的には、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン等の3級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、ピリジニウムクロライド等の4級アンモニウム塩;トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド、テトラフェニルホスフォニウムアイドダイド等のホスフォニウム化合物;p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;オクテン酸亜鉛等の有機金属塩等が挙げられる。
【0210】
前記の反応を行う際の反応方法及び反応条件等は特に限定されるものではない。また、エステル化反応においては、重合によるゲル化を防止するために、重合禁止剤や分子状酸素を反応系に添加することがより好ましい。前記重合禁止剤および分子状酸素としては、前記ポリエステル(メタ)アクリレートにおいて挙げたものを同様に用いることができる。
【0211】
エポキシ(メタ)アクリレートの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは5,000以下であり、特に好ましくは2,500以下である。エポキシ(メタ)アクリレートの分子量は1,000以上であればよく、エポキシ(メタ)アクリレートの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0212】
(ウレタン(メタ)アクリレート)
ウレタン(メタ)アクリレートは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物とのウレタン化反応により得られるものが挙げられる。また、ポリオール化合物と、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物とのウレタン化反応により得られるものや、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物と、ポリイソシアネート化合物とのウレタン化反応により得られるものが挙げられる。
【0213】
ポリイソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、2,4-トリレンジイソシアネートおよびその水素化物、2,4-トリレンジイソシアネートの異性体およびその水素化物、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水素化キシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート;あるいは、ミリオネートMR、コロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製)、バーノックD-750、クリスボンNX(大日本インキ化学工業株式会社製)、デスモジュールL(住友バイエル株式会社製)、タケネートD102(武田薬品工業株式会社製)等が挙げられる。
【0214】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ビスフェノールAとプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドとの付加物等が挙げられる。
【0215】
前記ポリエーテルポリオールとしては、具体的にはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシメチレングリコール等が挙げられる。前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは5,000以下であり、特に好ましくは3,000以下である。ポリエーテルポリオールの分子量は1,000以上であればよく、ポリエーテルポリオールの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0216】
ポリエステルポリオールの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは5,000以下であり、特に好ましくは3,000以下である。ポリエステルポリオールの分子量は1,000以上であればよく、ポリエステルポリオールの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0217】
水酸基含有(メタ)アクリレート化合物は、分子内に少なくとも1つの水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物である。該水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0218】
(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物は、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基とを共有するタイプの化合物である。例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシメチルイソシアネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート;あるいは、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネートとをモル比で1:1でウレタン化反応させてなる化合物等が挙げられる。
【0219】
前記ウレタン化反応における反応方法は特に限定されるものではなく、また、反応温度や反応時間等の反応条件は反応が完結するように適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物とをウレタン化反応させる場合には、まず、ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基と、ポリオール化合物が有する水酸基との比(イソシアネート基/水酸基)が3.0~2.0の範囲内となるようにして両者をウレタン化反応させて、イソシアネート基を末端に有するプレポリマーを生成し、次いで、水酸基含有(メタ)アクリレートの有する水酸基と該プレポリマーの有するイソシアネート基とがほぼ当量となるようにしてウレタン化反応させればよい。
【0220】
前記反応に際しては、ウレタン化反応を促進させるために、ウレタン化触媒を用いることが好ましい。前記ウレタン化触媒としては、例えば、トリエチルアミン等の3級アミン類やジ-n-ブチルスズジラウレート等の金属塩が挙げられるが、一般的なウレタン化触媒はいずれも用いることができる。また、前記反応に際しては、重合によるゲル化を防止するために重合禁止剤や分子状酸素を添加することが好ましい。前記重合禁止剤および分子状酸素としては、前記ポリエステル(メタ)アクリレートにおいて挙げたものを同様に用いることができる。
【0221】
ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは8,000以下であり、特に好ましくは5,000以下である。ウレタン(メタ)アクリレートの分子量は1,000以上であればよく、ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0222】
(ポリエーテル(メタ)アクリレート)
ポリエーテル(メタ)アクリレートは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエーテルポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により得られるものが挙げられるが、これ以外の公知の技術で得られるものを任意に用いることができる。
【0223】
前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、好ましくは100~5,000の範囲内、特に好ましくは100~3,000の範囲内のものである。具体的にはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシメチレングリコール等が挙げられる。
【0224】
ポリエーテル(メタ)アクリレートの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは5000以下であり、より好ましくは3000以下である。ポリエーテル(メタ)アクリレートの分子量は1,000以上であればよく、ポリエーテル(メタ)アクリレートの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0225】
(アクリル化(メタ)アクリレート)
アクリル化(メタ)アクリレートは、特に限定されるものではなく、例えば、分子内にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ基含有アクリル樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させることにより得られるものが挙げられるが、これ以外の公知の技術で得られるものを任意に用いることができる。
【0226】
アクリル化(メタ)アクリレートの数平均分子量は、特に限定されるものではなく、好ましくは5000以下であり、より好ましくは3000以下である。アクリル化(メタ)アクリレートの分子量は1,000以上であればよく、アクリル化(メタ)アクリレートの数平均分子量の下限は特に限定されない。
【0227】
(マトリクス樹脂(D)の物性)
マトリクス樹脂(D)の性状は特に限定されない。マトリクス樹脂(D)は、25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有することが好ましい。マトリクス樹脂(D)の粘度は、25℃において、50,000mPa・s以下であることがより好ましく、30,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、15,000mPa・s以下であることが特に好ましい。前記構成によると、マトリクス樹脂(D)は流動性に優れるという利点を有する。25℃において100mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有するマトリクス樹脂(D)は、液体であるともいえる。
【0228】
またマトリクス樹脂(D)の粘度は、重合体微粒子(B)中にマトリクス樹脂(D)が入り込むことにより重合体微粒子(B)同士の融着を防ぐことができることから、25℃において、100mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることがさらに好ましく、1,000mPa・s以上であることがよりさらに好ましく、1500mPa・s以上であることが特に好ましい。
【0229】
マトリクス樹脂(D)は、1,000,000mPa・sより大きい粘度を有していてもよい。マトリクス樹脂(D)は、半固体(半液体)であってもよく、固体であってもよい。マトリクス樹脂(D)が1,000,000mPa・sより大きい粘度を有する場合、得られる組成物が、べたつきが少なく取り扱いやすいという利点を有する。
【0230】
マトリクス樹脂(D)は、示差熱走査熱量測定(DSC)のサーモグラムにて25℃以下の吸熱ピークを有することが好ましく、0℃以下の吸熱ピークを有することがより好ましい。前記構成によると、マトリクス樹脂(D)は流動性に優れるという利点を有する。
【0231】
(本組成物におけるマトリクス樹脂(D)の含有量)
本組成物におけるマトリクス樹脂(D)の含有量は、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量部とした場合に、10重量部以上であることが好ましく、20重量部以上であることがより好ましく、30重量部以上であることがより好ましく、50重量部以上であることがさらに好ましく、70重量部以上であることが特に好ましい。本組成物におけるマトリクス樹脂(D)の含有量が上記範囲である場合、得られる硬化物の強度および靭性が向上するという利点を有する。
【0232】
本組成物におけるマトリクス樹脂(D)の含有量の上限は、特に限定されないが、本組成物の優れた取り扱い性および貯蔵安定性を保持する観点からは、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量部とした場合に、10,000重量部以下であることが好ましく、5,000重量部以下であることがより好ましく、2,000重量部以下であることがより好ましく、1,000重量部以下であることがより好ましく、750重量部以下であることがより好ましく、500重量部以下であることがより好ましく、300重量部以下であることがより好ましく、100重量部以下であることがより好ましく、90重量部以下であることがより好ましく、80重量部以下であることがさらに好ましく、70重量部以下であることが特に好ましい。
【0233】
<2-7.その他の成分>
本組成物は、必要に応じて、例えば、顔料や染料等の着色剤、体質顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定化剤(ゲル化防止剤)、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、増粘剤、減粘剤、低収縮剤、繊維強化材、無機質充填剤、有機質充填剤、内部離型剤、湿潤剤、重合調整剤、熱可塑性樹脂、乾燥剤、分散剤、ラジカル重合開始剤、硬化促進剤および助触媒等をさらに含んでいてもよい。
【0234】
〔3.組成物の製造方法〕
本組成物は、低分子化合物(A)中に重合体微粒子(B)が分散した(好ましくは1次粒子の状態で分散した)組成物である。本組成物を得る方法としては、低分子化合物(A)中に重合体微粒子(B)が分散した(好ましくは1次粒子の状態で分散した)組成物を得る、公知のあらゆる方法を利用することができる。このような方法としては、例えば水性ラテックスとして得られた重合体微粒子(B)を低分子化合物(A)と接触させた後、水等の不要な成分を除去する方法、重合体微粒子(B)を一旦有機溶剤に抽出後に低分子化合物(A)と混合してから有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。本組成物の製造方法としては、国際公開第2005/28546号に記載の方法を利用することが好ましい。
【0235】
本発明の一実施形態に係る組成物の製造方法は、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒と混合した後、得られた混合物を水と接触させて、前記有機溶媒を含有する前記重合体微粒子(B)の凝集体を水相中に生成させる第1工程、前記凝集体を前記水相から分離及び回収した後、当該凝集体を前記有機溶媒と混合して、前記重合体微粒子(B)を含む有機溶媒分散液を得る第2工程、および前記有機溶媒分散液を、分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)と混合した後、得られた混合物から前記有機溶媒を留去する第3工程、を順に含み、前記低分子化合物(A)は、オキセタン基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル基、環状アミド基、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基Xを含み、前記重合体微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含み、前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、およびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含み、前記グラフト部は、前記低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを含まず、前記第3工程では、前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、前記低分子化合物(A)が50~99重量%であり、前記重合体微粒子(B)が1~50重量%となる配合比率にて、前記低分子化合物(A)と前記重合体微粒子(B)とを混合する構成であってよい。
【0236】
本明細書において、「本発明の一実施形態に係る組成物の製造方法」を、単に「本製造方法」とも称する。また、「重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒と混合して得られる混合物」を、「混合物M」と称する場合があり、「有機溶媒分散液を、分子内に1個以上の重合性不飽和結合を有する分子量1,000未満の低分子化合物(A)と混合して得られる混合物」を「混合物N」と称する場合がある。
【0237】
以下、上述した本製造方法について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、〔2.組成物〕の項の記載を援用する。
【0238】
本製造方法は、前記構成を有するため、貯蔵安定性に優れた組成物を提供することができる。
【0239】
本発明の一実施形態に係る組成物の製造方法は、〔2.組成物〕の項で説明した組成物を製造するために好適に用いられ得る。それ故に、本発明の一実施形態に係る組成物の製造方法における、低分子化合物(A)および重合体微粒子(B)、並びに必要に応じて添加されるラジカル捕捉剤(C)およびマトリクス樹脂(D)などの説明としては、〔2.組成物〕の項に記載の説明を適宜援用できる。
【0240】
「重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックス」は、上述した<2-3.重合体微粒子(B)の製造方法>の項に記載の製造方法によって製造された重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを用いることができる。重合体微粒子(B)は、乳化重合によって製造され、水性ラテックスとして得られることが好ましい。
【0241】
「水に対し部分溶解性を示す有機溶媒」は、重合体微粒子(B)の水性ラテックスを当該有機溶媒と混合する場合に、重合体微粒子(B)が実質的に凝固析出することなく混合が達成され得る少なくとも1種若しくは2種以上の有機溶媒若しくは有機溶媒混合物であれば制限無く使用できるが、20℃における水に対する溶解度が5重量%以上、40重量%以下である有機溶媒であることが好ましく、更には5重量%以上、30重量%以下であることがより好ましい。前記水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の20℃における水に対する溶解度が40重量%以下であることにより、重合体粒子(A)の水性ラテックスが凝固することなく円滑に、第1工程の混合操作を行うことができる。また、前記水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の20℃における水に対する溶解度が5重量%以上であれば、重合体粒子(A)の水性ラテックスと十分に混合することができ、円滑に、第1工程の混合操作を行うことができる。
【0242】
「水に対し部分溶解性を示す有機溶媒」の具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、(イソ)プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等から選ばれる1種以上の有機溶媒あるいはその混合物であって、20℃における水に対する溶解度が上述の範囲を満たすものが挙げられる。中でも、反応性を有する重合性有機化合物との親和性及び入手のし易さ等の点から、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒として、メチルエチルケトンを50重量%以上含む有機溶媒(混合物)がより好ましく使用され、更には75重量%以上含む有機溶媒(混合物)が特に好ましく使用される。
【0243】
第1工程における水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の使用量は特に限定されず、重合体微粒子(B)の種類、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックス中の重合体微粒子(B)の濃度等に依存して適宜設定すればよい。第1工程における水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の使用量は、例えば、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックス100重量部に対して50~400重量部であってもよく、70~300重量部であってもよい。
【0244】
重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒と混合するときの混合操作において、特別な装置または方法は必要ではない。前記混合操作において、良好な混合状態が得られる装置または方法であればよく、公知の装置または方法を適宜使用できる。一般的な装置としては、撹拌翼を備えた攪拌槽が挙げられる。
【0245】
第1工程では、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスを、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒との混合することにより混合物Mが得られる。第1工程では、さらに、混合物Mを水と接触させる。かかる接触により、混合物Mに含まれる有機溶媒の一部が水に溶解し、水相が生成され得る。同時に、混合物Mに含まれる水性ラテックス由来の水分も水相へ排除され得る。このため、混合物Mと水との接触で得られる混合物では、少量の水を含んだ有機溶媒中に重合体微粒子(B)が濃縮され、結果として水相中に重合体微粒子(B)の凝集体が生成される。すなわち、第1工程で得られる重合体微粒子(B)の凝集体は、有機溶媒を含み得、少量の水を含む場合もある。
【0246】
第1工程において、混合物Mと接触させる水の使用量は特に限定されず、重合体微粒子(B)の種類、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックス中の重合体微粒子(B)の濃度、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の種類、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の使用量等に依存して適宜設定すればよい。混合物Mと接触させる水の使用量は、例えば、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒の使用量100重量部に対して40~350重量部であってもよく、60~250重量部であってもよい。
【0247】
第1工程では、部分的な未凝集体の発生を防止する観点から、混合物Mと水との接触は、撹拌下または撹拌と同等の流動性を付与することができる流動状態下で実施することが好ましい。第1工程では、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスと水に対し部分溶解性を示す有機溶媒との混合を撹拌機能を備えた装置(例えば、撹拌翼を備えた攪拌槽)で行い、続いて、当該装置に内にて得られた混合物Mに対して水を添加し、混合物Mと水との接触を当該装置にて行うことがより好ましい。
【0248】
第2工程では、凝集体を水相から分離することにより、凝集体と同伴し得る有機溶剤に含まれる水分を取り除くことができる。そのような水分は、重合体微粒子(B)の水性ラテックスの製造工程由来の乳化剤および電解質を含み得る。それ故、凝集体を水相から分離することにより、凝集体に含まれる、重合体微粒子(B)の水性ラテックスの製造工程由来の乳化剤および電解質を水相とともに、重合体微粒子(B)から分離除去できる。
【0249】
第2工程において、凝集体を水相から分離および回収するために使用する装置、並びに、凝集体を水相から分離および回収するための方法は、特に限定されず、公知の装置および方法を適宜使用できる。凝集体と水相との分離性は良好であり、凝集体を水相から分離および回収する具体的態様としては、濾紙、濾布、比較的開き目の粗い金属製スクリーンを使用した濾過操作が挙げられる。
【0250】
第2工程において、乳化剤および電解質などの不純物がより少ない重合体微粒子(B)の凝集体を得るために、以下の操作を繰り返して行ってもよい:(1)凝集体を分離および回収して得られた凝集体にさらに水を追加し、得られた混合物から凝集体を分離および回収する。
【0251】
第2工程では、水相から分離および回収された凝集体を有機溶媒と混合する。かかる操作により、重合体微粒子(B)が有機溶媒中に分散されてなる(好ましくは、実質的に1次粒子の状態で分散されてなる)有機溶媒分散液を得ることができる。
【0252】
第2工程において、凝集体と混合する有機溶媒の量は特に限定されず、重合体微粒子(B)の種類、使用する有機溶媒の種類等に依存して適宜設定すればよい。凝集体と混合する有機溶媒の量は、例えば、重合体微粒子(B)100重量部に対して、40~1,400重量部あってもよく、200~1,000重量部であってもよい。
【0253】
凝集体と混合する有機溶媒としては、上述した水に対し部分溶解性を示す有機溶媒に加えて、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、並びに、これらの混合物も使用できる。凝集体中の重合体微粒子(B)の分散性をより確実にするという観点からは、凝集体と混合する有機溶媒として、第1工程で使用した水に対し部分溶解性を示す有機溶媒と同一種の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0254】
第2工程において、凝集体と有機溶媒との混合操作に使用する装置、当該混合操作の方法としては特に限定されない。第2工程において、凝集体と有機溶媒との混合は、一般的な攪拌混合機能を持った装置(例えば、撹拌翼を備えた攪拌槽)で実施することができる。
【0255】
第3工程では、有機溶媒分散液を、低分子化合物(A)と混合することにより混合物Nが得られる。
【0256】
第3工程において、有機溶媒分散液と混合する低分子化合物(A)の量は、有機溶媒分散液中の重合体微粒子(B)の量(濃度)に依存して設定され得る。より具体的に、第3工程では、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、低分子化合物(A)が50~99重量%であり、重合体微粒子(B)が1~50重量%となる配合比率にて、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)とを混合する。
【0257】
第3工程において、有機溶媒分散液と低分子化合物(A)との混合操作に使用する装置、当該混合操作の方法としては特に限定されない。第3工程において、有機溶媒分散液と低分子化合物(A)との混合は、一般的な攪拌混合機能を持った装置(例えば、撹拌翼を備えた攪拌槽)で実施することができる。
【0258】
第3工程では、さらに、混合物Nから有機溶媒を留去する。かかる操作により(換言すれば本製造方法により)、低分子化合物(A)および重合体微粒子(B)を含み、低分子化合物(A)と重合体微粒子(B)との合計を100重量%とした場合に、低分子化合物(A)が50~99重量%であり、重合体微粒子(B)が1~50重量%である組成物を得ることができる。本発明の好ましい一実施形態に係る組成物において、重合体微粒子(B)は、低分子化合物(A)中に実質的に1次粒子の状態で分散されている。
【0259】
第3工程において、混合物Nから有機溶媒を留去するために使用する装置、および混合物Nから有機溶媒を留去するための方法は特に限定されず、公知の装置および方法を使用できる。混合物Nから有機溶媒を留去する具体的態様としては、(a)槽内に混合物を仕込み、有機溶媒を、加熱減圧留去する方法、(b)槽内で乾燥ガスと混合物を向流接触させる方法、薄膜式蒸発機を用いるような連続式の方法、脱揮機構を備えた押出機または連続式撹拌槽を用いる方法などが挙げられる。
【0260】
マトリクス樹脂(D)をさらに含む本組成物を製造する場合は、上記第3工程において、混合物Nをマトリクス樹脂(D)と混合した後、得られた混合物から有機溶媒を留去すればよい。これにより、低分子化合物(A)およびマトリクス樹脂(D)の中に重合体微粒子(B)が1次粒子の状態で分散した組成物を得ることができる。
【0261】
上記工程において、低分子化合物(A)およびマトリクス樹脂(D)の混合物が23℃で液状であると、有機溶媒分散液との混合が容易となる為、好ましい。更に、マトリクス樹脂(D)のみで、23℃で液状であることがより好ましい。「23℃で液状」とは、軟化点が23℃以下であることを意味し、23℃で流動性を示すことを意味する。
【0262】
低分子化合物(A)および重合体微粒子(B)に加えてラジカル捕捉剤(C)をさらに含有する組成物を得る場合の、当該組成物の製造方法について説明する。ラジカル捕捉剤(C)をさらに含有する組成物を得る場合、有機溶媒を留去する前の任意の時点で、混合物にラジカル捕捉剤(C)を添加することが好ましい。換言すれば、有機溶媒を留去する前の混合物がラジカル捕捉剤(C)を含んでいることが好ましい。当該構成によると、有機溶媒の留去によって組成物の粘度が上昇する虞がなく、その結果、取扱い性に優れる組成物を得ることができる。有機溶媒を留去する前にラジカル捕捉剤(C)を混合物へ添加する具体的な態様としては特に限定されないが、例えば、第3工程において、有機溶媒分散液と低分子化合物(A)とを混合するときに、ラジカル捕捉剤(C)も併せて混合する態様が挙げられる。または、第3工程において、有機溶媒分散液とラジカル捕捉剤(C)とを混合した後、得られた混合物をさらに低分子化合物(A)と混合して混合物Nを調製してもよい。または、第3工程において、有機溶媒分散液および低分子化合物(A)を混合して混合物Nを得た後、混合物Nとラジカル捕捉剤(C)とを混合し、得られた混合物から有機溶媒を留去してもよい。
【0263】
〔4.硬化物〕
本組成物がマトリクス樹脂(D)を含む場合、本組成物を硬化させて得られる硬化物、換言すれば本組成物を硬化させてなる硬化物は、重合体微粒子(B)が1次粒子の状態で均一に分散してし得る。本組成物を硬化させて得られる硬化物もまた、本発明の一実施形態である。
【0264】
〔5.用途〕
本組成物は、様々な用途に使用することができ、それらの用途は特に限定されない。当該組成物は、例えば、接着剤、コーティング材、強化繊維のバインダー、複合材料、3Dプリンターの造形材料、封止剤、電子基板、インキバインダー、木材チップバインダー、ゴムチップ用バインダー、フォームチップバインダー、鋳物用バインダー、床材用およびセラミック用の岩盤固結材、ウレタンフォームなどの用途に好ましく用いられる。ウレタンフォームとしては、自動車シート、自動車内装部品、吸音材、制振材、ショックアブソーバー(衝撃吸収材)、断熱材、工事用床材クッションなどが挙げられる。本組成物は、上述した用途の中でも、接着剤、コーティング材、強化繊維のバインダー、複合材料、3Dプリンターの造形材料、封止剤、および電子基板などの材料として用いられることがより好ましい。
【実施例0265】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0266】
<1.重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスの製造>
1.弾性体の重合
製造例1-1;ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-1)の調製
耐圧重合器中に、脱イオン水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、および乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)1.55重量部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、ブタジエン(Bd)100重量部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.03重量部を耐圧重合器内に投入し、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.10重量部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から15時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存した単量体を脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTAおよび硫酸第一鉄・7水和塩のそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-1)を得た。得られた水性ラテックス(R-1)に含まれる弾性体の体積平均粒子径は90nmであった。
【0267】
製造例1-2;ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-2)の調製
耐圧重合器中に、前記で得た水性ラテックス(R-1)を固形分で7重量部、脱イオン水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、EDTA0.002重量部、及び硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、Bd93重量部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、PHP0.02重量部を耐圧重合器内に投入し、続いてSFS0.10重量部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から30時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存した単量体を脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTA、硫酸第一鉄・7水和塩およびSDBSのそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体を含む水性ラテックス(R-2)を得た。得られた水性ラテックス(R-2)に含まれる弾性体の体積平均粒子径は195nmであった。
【0268】
2.重合体微粒子(B)の調製(グラフト部の重合)
製造例2-1;重合体微粒子(B)を含むラテックス(L-1)の調製
ガラス製反応器に、前記水性ラテックス(R-2)250重量部(ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体87重量部を含む)、および、脱イオン水50重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、およびSFS0.20重量部をガラス製反応器内に加え、10分間撹拌した。その後、グラフト部を形成するためのモノマー(以下、グラフトモノマーとも称する。)(メチルメタクリレート(MMA)12.1重量部、およびブチルアクリレート(BA)0.9重量部)と、t-ブチルハイドロパーオキサイド(BHP)0.035重量部との混合物をガラス製反応器内に、80分間かけて連続的に添加した。その後、BHP0.013重量部をガラス製反応器内に添加し、さらに1時間、ガラス製反応器内の混合物の撹拌を続けて重合を完結させた。以上の操作により、重合体微粒子(B)および乳化剤を含むラテックス(L-1)を得た。単量体成分の重合転化率は96重量%以上であった。得られたラテックス(L-1)に含まれる重合体微粒子(B)の体積平均粒子径は200nmであった。得られたラテックス(L-1)における固形分濃度(重合体微粒子(B)の濃度)は、ラテックス(L-1)100重量%に対して、30重量%であった。
【0269】
製造例2-2;重合体微粒子を含むラテックス(L-2)の調製
グラフトモノマーとして、メチルメタクリレート(MMA)10.6重量部、ブチルアクリレート(BA)0.9重量部およびグリシジルメタクリレート(GMA)1.5重量部を使用した以外は、実施例1と同じ方法にて、重合体微粒子および乳化剤を含むラテックス(L-2)を得た。単量体成分の重合転化率は96重量%以上であった。得られたラテックス(L-2)に含まれる重合体微粒子の体積平均粒子径は196nmであった。得られたラテックス(L-2)における固形分濃度(重合体微粒子(B)の濃度)は、ラテックス(L-2)100重量%に対して、30重量%であった。
【0270】
<2.組成物の製造>
[実施例1]
(第1工程)
装置として、撹拌機を備えた混合槽(容積1L)を使用した。また、水に対し部分溶解性を示す有機溶媒として、メチルエチルケトン(MEK)を使用した。混合槽内の温度を30℃とした後、混合槽にMEK126重量部を投入した。その後、混合槽内のMEKを撹拌しながら、混合槽に、重合体微粒子(B)のラテックス(L-1)を143重量部投入した。投入された原料を均一に混合することにより、重合体微粒子(B)を含有する水性ラテックスと水に対し部分溶解性を示す有機溶媒との混合物(混合物M)を得た。次いで、混合物Mを撹拌しながら、水200重量部(合計469重量部)を混合槽に80重量部/分の供給速度で投入し、混合物Mと水とを接触させた。水の供給終了後、速やかに撹拌を停止したところ、浮上性の凝集体(重合体微粒子(B)の凝集体)が水相中に生成され、当該凝集体を含むスラリー液を得た。
【0271】
(第2工程)
次に、凝集体を前記水相から分離及び回収した。具体的には、混合槽内に凝集体を残しつつ水相350重量部を混合槽下部の払い出し口より排出することにより、凝集体を得た。得られた凝集体(重合体微粒子(B)ドープ)にMEK150重量部を追加してこれらを混合し、重合体微粒子(B)を含む第1の有機溶媒分散液を得た。得られた第1の有機溶媒溶液は277重量部(重合体微粒子(B)を42.9重量部含む)であった。
【0272】
(第3工程)
得られた第1の有機溶媒分散液277重量部(重合体微粒子(B)を42.9重量部含む)に、ラジカル捕捉剤(C)である2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを0.1716重量部投入し、得られた混合物を混合した。次いで、得られた混合物に、低分子化合物(A)である2-ヒドロキシプロピルメタクリレート64重量部を投入し、得られた混合物を混合することにより、第2の有機溶媒分散液を得た。第3工程では、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量%とした場合に、重合体微粒子(B)が40重量%であり、低分子化合物(A)が60重量%となる配合比率にて、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)とを混合した。
【0273】
(第4工程)
得られた第2の有機溶媒分散液からMEKを減圧留去し、組成物(A-1)を得た。組成物(A-1)は、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量%とした場合に、重合体微粒子(B)を40重量%および低分子化合物(A)を60重量%含んでいた。また、組成物(A-1)は、重合体微粒子(B)100重量部に対して、ラジカル捕捉剤(C)を0.400重量部含んでいた。
【0274】
[比較例1]
重合体微粒子(B)のラテックスとして、ラテックス(L-1)に代えてラテックス(L-2)を使用した以外は、実施例1と同じ方法にて、組成物(A-3)を得た。組成物(A-3)は、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量%とした場合に、重合体微粒子(B)を40重量%、低分子化合物(A)を60重量%含んでいた。
【0275】
[実施例2]
低分子化合物(A)として、アクリロイルモルフォリンを用い、ラジカル捕捉剤(C)として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノールを0.3432重量部用いた以外は、実施例1と同じ方法にて、組成物(A-2)を得た。組成物(A-2)は、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量%とした場合に、重合体微粒子(B)を40重量%および低分子化合物(A)を60重量%含んでいた。また、組成物(A-1)は、重合体微粒子(B)100重量部に対して、ラジカル捕捉剤(C)を0.800重量部含んでいた。
【0276】
[比較例2]
重合体微粒子(B)のラテックスとして、ラテックス(L-1)に代えてラテックス(L-2)を使用した以外は、実施例2と同じ方法にて、組成物(A-4)を得た。組成物(A-4)は、重合体微粒子(B)と低分子化合物(A)との合計を100重量%とした場合に、重合体微粒子(B)を40重量%、低分子化合物(A)を60重量%含んでいた。
【0277】
<3.組成物の評価>
実施例および比較例で作製した組成物の貯蔵安定性は、貯蔵安定性試験後のゲル化の有無および変色の有無により評価した。
【0278】
(貯蔵安定性試験)
貯蔵安定性試験は、実施例および比較例で作製した組成物を、密閉したガラス容器内に封入し、80℃に設定した熱風乾燥機内で2日間、および7日間、それぞれ静置することにより行った。
【0279】
(ゲル化の有無)
組成物におけるゲル化の有無を、上記実施例および比較例で作製した直後、組成物を80℃で2日間静置した後(2日間貯蔵安定性試験後)、および、組成物を80℃で7日間静置した後(7日間貯蔵安定性試験後)に、目視により確認した。
【0280】
(変色の有無)
上記実施例および比較例で作製した直後の組成物の色と、当該組成物を80℃で7日間静置した後(7日間貯蔵安定性試験後)の組成物の色とを目視により比較し、変色の有無を確認した。
【0281】
(評価基準)
ゲル化の有無および変色の有無により、組成物の貯蔵安定性を以下の基準により評価した。
優良:7日間貯蔵安定性試験後の組成物はゲル化および変色が見られない。
良好:7日間貯蔵安定性試験後の組成物はゲル化が見られないが、変色が見られる。
不良:2日間貯蔵安定性試験後もしくは7日間貯蔵安定性試験後にゲル化している。
【0282】
結果を表1に示す。
【0283】
【表1】
【0284】
低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを重合体微粒子(B)のグラフト部が含んでいない実施例1および2の組成物は、いずれも、2日間および7日間貯蔵安定性試験後にゲル化せず、貯蔵安定性に優れていた。また、実施例1および2の組成物が含むラジカル捕捉剤(C)はアミノ基を含まないので、組成物は7日間貯蔵安定性試験後に変色しておらず、作製直後の外観を有していた。
【0285】
これに対し、低分子化合物(A)が有する官能基との反応性を有する官能基Yを重合体微粒子(B)のグラフト部が含んでいる比較例1および2の組成物は、2日間貯蔵安定性試験後にゲル化し、実施例1および2の組成物に比べて貯蔵安定性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0286】
本発明の一実施形態は、貯蔵安定性に優れる組成物を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る組成物は、接着剤、コーティング材、強化繊維のバインダー、複合材料、3Dプリンターの造形材料、封止剤、および電子基板などの材料として特に好適に利用できる。