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特開2023-74381焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074381
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/06 20060101AFI20230522BHJP
   C04B 33/13 20060101ALI20230522BHJP
   C04B 33/32 20060101ALI20230522BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20230522BHJP
   C09K 17/02 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
C04B38/06 F
C04B33/13 A
C04B33/32
C04B38/00 303Z
C09K17/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187316
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】521212786
【氏名又は名称】株式会社TOWING
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】甚野 智子
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】川上 好弘
(72)【発明者】
【氏名】西田 宏平
(72)【発明者】
【氏名】西田 亮也
【テーマコード(参考)】
4G019
4H026
【Fターム(参考)】
4G019FA01
4H026CB01
4H026CB05
(57)【要約】
【課題】土質材料を母材として、効率よくかつ安定的に焼結多孔質体を製造し取得することである。
【解決手段】土質材料を母材とする粒体状の焼結多孔質体を製造するための、焼結多孔質体の製造方法であって、加熱により消失する粉粒体状の空隙形成材と前記母材とを混合し、成形体を取得する成形工程と、段階的に昇温して前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、前記成形体は、前記空隙形成材と前記母材の混合物を造粒することにより成形されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土質材料を母材とする粒体状の焼結多孔質体を製造するための、焼結多孔質体の製造方法であって、
加熱により消失する粉粒体状の空隙形成材と前記母材との混合物から成形体を取得する成形工程と、
段階的に昇温して前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、
前記成形体は、前記混合物を造粒することにより取得されることを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結多孔質体の製造方法において、
前記焼成工程で、低温領域で加熱して前記空隙形成材を消失させたのちに昇温し、高温領域で加熱して前記母材を焼結させることを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の焼結多孔質体の製造方法において、
前記母材の粒径2mm以下、かつ平均粒径(D50)が10μm以上200μm以下、
前記空隙形成材の粒子径範囲が500μm以下、であることを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の焼結多孔質体の製造方法において、
前記母材に対する前記空隙形成材の添加比が、10重量%以上50重量%以下であるとともに、
前記焼成工程で前記成形体を焼成したのち、粒子径範囲0.5mm以上20mm以下に調整することを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の焼結多孔質体の製造方法により製造されていることを特徴とする焼結多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土質材料を母材とする焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事後の環境修復や土砂災害からの復旧などにおいて、裸地を緑化することは、その土地の植生の回復、土壌の保全の点で非常に重要である。さらには農地として作物の育成に好適な環境を形成するには、土壌微生物群によって土壌中の有機物を代謝して土壌の生化学的環境を好適に維持すること、また、土壌の透水・透気性および、保水性などの物理的環境を好適に維持すること、などが必要とされる。
【0003】
例えば、特許文献1には、土壌の環境を人工的に整えるための緑化方法に採用可能な緑化システムが開示されている。この緑化システムには多孔質セラミック粒子が含有されており、多孔質セラミック粒子を以下の手順で製造している。まず、粘土と炭素材料を混合して水を加え、板状やブロック状などに成形プレスする。次に、成形プレスした形状のまま高温で焼成する。こののち、焼成物を粉砕して多孔質セラミック粒子を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-27503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、多孔質セラミック粒子の表面積が、破砕により大きく確保できるため、植物の根つきに優れる、といった効果を奏する。しかし、破砕により取得した多孔質セラミック粒子は細孔に破損が生じやすく、食物の成長に必要な無機態窒素の生成に関与する微生物群が、定着しやすい環境を十分確保できない事態となりかねない。
【0006】
また、多孔質セラミック粒子の製造に破砕工程を含むと、工程が嵩むとともに作業中に焼成物の粉状物が発生しやすく、製造工程に課題が多い。加えて、破砕により形成された多孔質セラミック粒子は、その粒径が制御されていない状態にあるため、所望の粒子径範囲に分布する多孔質セラミック粒子を回収しようとすると、回収率は低くなることが想定される。
【0007】
さらに、板状やブロック状などに成形プレスした形状のまま、高温で焼成すると、全体を均質に焼成することが困難となりやすい。特に、一度に高温加熱すると、加熱時間が短い場合内部に未焼結部分が発生しやすく、加熱時間が長い場合表面に溶融が生じやすいなど、加熱時間の調整が煩雑となる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、土質材料を母材として、効率よくかつ安定的に焼結多孔質体を製造し取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の焼結多孔質体の製造方法は、土質材料を母材とする粒体状の焼結多孔質体を製造するための、焼結多孔質体の製造方法であって、加熱により消失する粉粒体状の空隙形成材と前記母材との混合物から成形体を取得する成形工程と、段階的に昇温して前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、前記成形体は、前記混合物を造粒することにより取得されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の焼結多孔質体の製造方法は、前記焼成工程で、低温領域で加熱して前記空隙形成材を消失させたのちに昇温し、高温領域で加熱して前記母材を焼結させることを特徴とする。
【0011】
本発明の焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体によれば、成形工程で、前記空隙形成材と前記母材の混合物を造粒することにより粒体状の成形体を取得する。これにより、焼成工程ののち、切断や破砕などの後加工を実施することなく、粒体状の焼結多孔質体を取得できる。また、後加工を省略できることにより、焼結多孔質体に設けた細孔が後加工により破損・損傷する事態を回避することも可能となる。さらに、成形体の粒子径を調整しつつ造粒することで、所望の粒子径範囲の焼結多孔質体を効率よく製造でき、破砕などの後加工を実施する場合と比較して、高い回収率を実現することが可能となる。
【0012】
また、焼成工程で、段階的に昇温して前記成形体を焼成するから、母材の焼結温度で一気に焼成する場合と比較して焼成ムラが生じにくく、中心部まで均質に焼成された焼結多孔質体を、安定して取得することが可能となる。特に、低温領域で一定時間加熱して空隙形成材を消失させたのちに、高温領域で一定時間加熱して母材を焼結させると、中心部まで細孔が均質に形成された、高品質な焼結多孔質体を取得することが可能となる。
【0013】
本発明の焼結多孔質体の製造方法は、前記母材の粒径が2mm以下、かつ平均粒径(D50)が10μm以上200μm以下、前記空隙形成材の粒子径範囲が500μm以下、であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の焼結多孔質体の製造方法は、前記母材に対する前記空隙形成材の添加比が、10重量%以上50重量%以下であるとともに、前記焼成工程で前記成形体を焼成したのち、粒子径範囲0.5mm以上20mm以下に調整することを特徴とする。
【0015】
本発明の焼結多孔質体の製造方法によれば、焼結多孔質体を、母材として採用した粒径が2mm以下程度の土質材料と比べて、透気性、透水性及び保水性が大幅に改善された、砂から細礫程度の大きさを有する粒体状に製造できる。これらは、環境を阻害する要因のない天然の材料であるから、例えば、砂や礫に代わる材料として土構造物などに採用することが可能となる。
【0016】
さらに、母材に対する前記空隙形成材の添加比を調整し、また成形体を焼成したのちに粒子径を調整すれば、これら焼結多孔質体を、有機態窒素を分解して植物の栄養となる無機態窒素を生成する微生物群が生息可能な環境を創出できる材料として、取り扱うことができる。したがって、焼結多孔質体に微生物群を固定化すれば、植物を健全に生育することができる土壌として、活用することが可能となる。
【0017】
本発明の焼結多孔質体は、本発明の焼結多孔質体の製造方法により製造されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の焼結多孔質体によれば、母材及び空隙形成材に用いる材料や母材に対する空隙形成材の添加比、また、成形体の粒径などを調整することにより、焼結多孔質体の粒子径範囲や細孔径、空隙率を適宜制御し、所望の用途に利用可能な粒状体として活用することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、造粒物に成形した成形体を段階的に昇温して焼成することにより、土質材料を母材とした焼結多孔質体を、効率よくかつ安定的に製造し取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態における焼結多孔質体と焼結プログラムの概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における焼結多孔質体の製造方法を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における母材と空隙形成材の事例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における母材に採用可能な土質材料の粒度分布を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における実験1の結果を示す図である(その1)。
図6】本発明の実施の形態における実験1の結果を示す図である(その2)。
図7】本発明の実施の形態における実験2の装置及び結果を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における実験3の結果を示す図である(その1)。
図9】本発明の実施の形態における実験3の結果を示す図である(その2)。
図10】本発明の実施の形態における焼結多孔質体を製造する際に用いる装置及び焼結プログラムの詳細を示す図である。
図11】本発明の実施の形態における実験4の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、粒体状の焼結多孔質体を製造するに際し、焼成前の成形体を粒体状に成形するとともに焼成時に段階的な昇温を行うことで、焼成後の後加工を省略し、効率よくかつ安定的に焼結多孔質体を取得するものである。以下に、焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体についてその詳細を、図1図11を参照しつつ説明する。
【0022】
≪≪≪焼結多孔質体≫≫≫
焼結多孔質体10は、図1(a)で示すように、複数の細孔14が設けられた土質材料よりなる母材11の焼成物であり、成形工程、焼成工程、ふるい分け工程を経て製造される。各工程の詳細は図2を参照しつつ後述するが、大まかには次のとおりである。
【0023】
成形工程は、土質材料よりなる母材11と炭素材料よりなる空隙形成材12とを混合し、湿式造粒法により造粒して粒体状の成形体13を作製する。焼成工程は、図1(b)で示すような、2段階焼成(段階的に昇温)を採用した焼成プログラムで成形体13を焼成する。つまり、成形工程で作製した成形体13を低温領域で加熱し、空隙形成材12を焼失させたのちに昇温し、高温領域で加熱して母材11どうしを焼結させる。ふるい分け工程は、焼成工程で取得した焼結多孔質体10をふるい分けし、用途に見合った粒子径範囲(粒子径の分布する主な範囲)の焼結多孔質体10を回収する。
【0024】
このような焼結多孔質体10の製作に用いる空隙形成材12は、例えば図3(b)で示すような、人工黒鉛パウダーや備長炭粉末、竹炭粉末、活性炭粉末などの炭素材料を事例に挙げることができる。なお、空隙形成材12は、所定の低温領域で一定時間加熱することにより消失する粉粒体状の材料であれば、炭素材料以外の材料を採用してもよい。
【0025】
また、母材11は、例えば図3(a)で示すように、シリカ(二酸化ケイ素SiO)及びアルミナ(酸化アルミニウムAl)を主成分とする玄武岩質の土質材料が適しており、玄武岩の加工品や富士山溶岩石の加工品などを事例に挙げることができる。また、陶土や陶磁器の素地、焼きレンガとして使用される材料、もしくは埋め戻し土や現地発生土など、空隙形成材12に採用した炭素材料の炭素酸化温度(炭素材料が消失する温度)より高い温度で一定時間加熱することにより焼結する材料であれば、いずれも母材11として採用できる。
【0026】
≪≪≪土壌化の可能な焼結多孔質体≫≫≫
上記の焼結多孔質体10は、植物を栽培することのできる土壌を創出する材料とすることができる。一般に植物は、有機態窒素を分解して植物の栄養となる無機態窒素を生成する微生物群が生息する場所で、健全に生育することができる。そして微生物群は、いわゆる土壌の3性質(物理性、化学性、生物性)が整った環境で、生息することが知られている。つまり、土壌を創出する材料として利用可能な焼結多孔質体10は、この土壌の3性質を作り出し微生物群を固定化(土壌化)できるよう、粒子径範囲、細孔径、及び空隙率が制御されている。
【0027】
≪≪≪焼結多孔質体の製造方法≫≫≫
以下に、粒子径範囲、空隙率及び細孔径を制御し、土壌化の可能な焼結多孔質体10を製造する手順を、図2のフロー図を参照しつつ、設計、使用材料の選定、及び焼結多孔質体の製作の3つの工程に分けて説明する。
【0028】
≪≪Step1:焼結多孔質体の設計≫≫
焼結多孔質体10を製造するにあたっては、まず、その用途に応じて、粒子径範囲、空隙率、及び細孔径を設計する。
【0029】
土壌化の可能な焼結多孔質体10は、砂から中礫程度の粒子径に有すること、前述した微生物群の生育する場所(住処)となる大きさの細孔を作ることを考慮すると、粒子径範囲を0.5mm以上20mm以下、好適には1mm以上9.5mm以下に製造するとよい。また、細孔径は例えば、10μm以上20μm以下の大きな細孔14を含むよう製造するとよい。そして、これらの条件のもと、微生物群が細孔14に定着・活性化状態に置かれ、植物への栄養分供給能力を確保でき、土壌の三相分布(固相、液相、気層)が整い、好気環境と嫌気環境のバランスが取れた状態となる環境を創出可能な空隙率を、焼結多孔質体10に確保する。
【0030】
≪≪Step2:使用材料の設定≫≫
≪Step2-1:母材11の選定≫
母材11として採用する土質材料は、Step1で設定した粒子径範囲に基づいて選定する。まず、Step1で設定した粒子径範囲の焼結多孔質体10を取得できるよう、成形体13の粒子径を設定する。そして、この粒子径の成形体13を作製できる土質材料を選定する。
【0031】
土壌化の可能な焼結多孔質体10を、好適な粒子径範囲1mm以上9.5mm以下に設定する場合を事例にあげると、成形体13の粒子径は、焼成時の収縮を考慮して10mm以下に設定することが好ましい。このような成形体13を成形可能な土質材料は、空隙形成材12に採用した炭素材料の炭素酸化温度より高い温度で一定時間加熱することにより焼結するものであって、粒径2mm以下、平均粒径(D50)10μm以上200μm以下が好ましい。例えば、図4で示すような、大沢石粉砕(富士山の大沢溶岩加工品)や月レゴリスの模擬砂などを採用できる。もしくは、これら複数の土質材料を混合し、粒度を調整して採用してもよい。
【0032】
≪Step2-2:空隙形成材12の選定と炭素添加比の設定≫
空隙形成材12として採用する炭素材料は、Step1で設定した細孔径に基づいて、図3(b)で例示したような炭素材料の中から好適なものを選定する。また、Step1で示した空隙率の要件に基づいて、炭素添加比を設定する。
【0033】
土壌化の可能な焼結多孔質体10は、次に示す2つの実験結果に基づいて、空隙形成材12の炭素添加比を10%以上50%以下、より好ましくは30%以上50%以下に設定した。また、空隙形成材として採用する炭素材料の粒子径範囲は、500μm以下が好ましい。そこで実験では、粒子径範囲が500μm以下の人工黒鉛パウダー、活性炭粉末、備長炭粉末及び竹炭粉末を選択した。
【0034】
≪実験1:細孔径と炭素添加比について≫
焼結多孔質体10の細孔径と空隙形成材12との間、及び焼結多孔質体10の空隙率と炭素添加比との間に、それぞれ関係があることを確認するべく、次の実験を行った。
【0035】
実験1は、母材11に対して炭素添加比が0、15、30、50重量%となるように空隙形成材12を混合した混合物を湿式造粒法により成形し、4種類の成形体13を作製した。次に、これら成形体13を焼成し、図5(a)で示すように試料1~試料4の焼成物を取得した。ここで、母材11には、富士山溶岩の粉砕加工品(粒径2mm以下、平均粒径(D50)≒41μm)を採用し、空隙形成材12には、人工黒鉛パウダー(粒径100μm前後)を採用した。
【0036】
こののち、試料1~試料4各々の全細孔容積と細孔径分布を、水銀圧入法により測定した。水銀圧入法は、粉体の比表面積や細孔分布を求める方法として一般に知られた方法であり、大まかな手順は次のとおりである。試料1~試料4各々が入った容器内を真空排気したのち、容器内を水銀で満たす。連続的に容器内の圧力を増加させながら細孔14に水銀を圧入させる。圧力を増加させるに従って水銀は、大きい細孔14から小さい細孔14へ順に侵入するから、水銀液面の経時変化(細孔への水銀侵入量)を検出し、全細孔容積とともに細孔径分布を測定する。
【0037】
図5(a)に、全細孔容積の測定結果を示すとともに、細孔率(試料容積に対する全細孔容積の割合)を示す。また、図5(b)に、炭素添加比と全細孔容積との関係をグラフで示す。図5(b)を見ると、全細孔容積の増分は炭素添加比の増分に概ね正比例していることがわかる。してみると、図5(a)で示した細孔率と炭素添加比も概ね正の1次関係にあると想定できる。
【0038】
また、図6(a)に、細孔径ごとの細孔容積を積算したグラフ(細孔径が大きい方から小さい方に向けて積算)で示すとともに、図6(b)に、細孔径ごとの細孔容積を表したグラフを示す。これらのグラフを見ると、空隙形成材12が添加されている試料2~4は炭素添加比の大小によらず、細孔径2~3μm程度の小さい細孔14と、細孔径10~20μm程度の大きい細孔14が存在し、細孔14の二峰化を生じている様子がわかる。しかし、空隙形成材12を添加していない試料1では、細孔径2~3μm程度の小さい細孔14のみが生じている様子がわかる。
【0039】
してみると、空隙形成材12を添加しなくとも焼結多孔質体10には小さい細孔14が生じるが、大きい細孔14を設けたい場合には、空隙形成材12の添加が必要である。また、人工黒鉛パウダー(粒径100μm前後)を採用すると、細孔径10~20μm程度の大きい細孔14を設けることができる。
【0040】
したがって、土壌化の可能な焼結多孔質体10は、細孔径10μm以上20μm以下程度の大きい細孔14を生じさせるべく、空隙形成材12に人工黒鉛パウダーを選択した。また、発明者らは、図2(b)で例示した活性炭粉末、備長炭粉末及び竹炭粉末がいずれも、人工黒鉛パウダーと同程度の大きい細孔14を形成できることを確認している。したがって、空隙形成材12に採用可能な材料として、活性炭粉末、備長炭粉末及び竹炭粉末もあわせて選択した。
【0041】
上記の実験1によれば、炭素添加比と焼結多孔質体10の空隙率は概ね正の1次関係にある。そこで、土壌化の可能な焼結多孔質体10に、Step1で述べた環境を創出可能な空隙率を確保できる炭素添加比は、次の実験により設定した。
【0042】
≪実験2:空隙形成材12の添加比の設定≫
実験2は、まず、母材11に対して炭素添加比を0~50%の間で5%毎に設定した空隙形成材12を混合し、この混合物を湿式造粒法により成形して9種類の成形体13を作製した。次に、これらを焼成して9種類の焼結多孔質体10を取得したのち、ふるい分けを行って粒子径範囲を2mm以上9.5mm以下に調整した。ここで、母材11には、粒径が2mm以下であって平均粒径(D50)が約70μmの月レゴリスの模擬砂を採用し、空隙形成材12には、人工黒鉛パウダー(粒径100μm前後)を採用した。したがって、9種類の焼結多孔質体10はいずれも、細孔径10~20μm程度の大きい細孔14を含んでいる。
【0043】
これら9種類の焼結多孔質体10について、次の手順により微生物群の固定化(土壌化)を試みた。多孔質体10の土壌化は、焼結多孔質体10をそれぞれ50ml用意し、図7(a)で示すように、漏斗状容器21の本体部分22に充填するとともに、足部分23を透水性を有するウレタン24で閉塞した。焼結多孔質体10を湿潤させたのち、微生物群が固定化された固体担体26を振りかけた。固体担体26としては、例えば、バーク堆肥などを用いると良い。
【0044】
こうして土壌化した9種類の焼結多孔質体10に有機態窒素を付与し、焼結多孔質体10内で無機態窒素が生成され、かつ生成が定常化するか否かを検証した。無機態窒素は、硝酸態窒素(NO -N)、亜硫酸態窒素(NO -N)、及びアンモニウム態窒素(NH -N)の総称であり、植物の栄養素として利用されるものである。また、無機態窒素は、微生物群の働きによって有機態窒素が分解され、硝化することにより生成される。
【0045】
したがって、無機態窒素の生成状態を把握することにより、微生物群が細孔14に定着し、活性化状態に置かれたか否か、また、微生物群が定着した焼結多孔質体10に、植物への栄養分供給能力が確保されたか、を推定できる。そこでまず、図7(a)で示すように、土壌化した9種類の焼結多孔質体10に液状有機物27を1ml加え、微生物群の育成に適した温度(10~42℃程度)下で24時間静置した。液状有機物27としては、例えば、鰹煮汁などを用いると良い。
【0046】
次に、焼結多孔質体10を100mlの純水28で洗浄し、ウレタン24を介してビーカー25に流下した純水28を回収した。回収した純水28中に上記の無機態窒素が、硝酸イオン(NO3)、亜硫酸イオン(NO )及びアンモニウムイオン(NH )として存在していれば、微生物群が定着し活性化しているものと推定できる。したがって、回収した純水28中のイオン濃度を測定した。イオン濃度の計測方法、例えば、亜硫酸イオン(NO )の測定にインドフェノール吸光光度法、アンモニウムイオン(NH )の測定に反射式光度法などを採用することができる。
【0047】
上記の、液状有機物27を1ml加えて24時間静置したのち純水28で洗浄し、回収した純水28中のイオン濃度を測定する作業を、硝酸イオン(NO )のイオン濃度が安定するまで繰り返した。安定したことを確認できれば、微生物群の代謝が健全に行われ、植物の栄養素として利用される無機態窒素が定常的に生産されているものと評価できる。本実験では30日繰り返したところで、イオン濃度が安定した。
【0048】
イオン濃度が安定した、30日経過後の1日の無機態窒素の生成量と硝酸態窒素回収率を算定し、植物への栄養分供給能力を確認した。図7(b)に、無機態窒素の生成量を棒グラフで、硝酸態窒素回収率を折れ線グラフで示した。なお、無機態窒素の生成量と硝酸態窒素回収率は、次の手順により算出した。
【0049】
無機態窒素の生成量は、まず、回収した純水28に含まれる、硝酸イオン(NO )、亜硫酸イオン(NO )及びアンモニウムイオン(NH )各々のイオン濃度を測定する。次に、各々のイオン濃度測定値に基づいて、硝酸態窒素(NO -N)、亜硫酸態窒素(NO -N)、及びアンモニウム態窒素(NH -N)各々の生成量を算定し、これらを足し合わせることにより算出した。
【0050】
図7(b)の棒グラフを見ると、無機態窒素及び硝酸態窒素(NO -N)の生成量いずれも炭素添加比が0~20%で変動が激しく、遷移途中である様子が見て取れる。ところが、炭素添加比が30%を超えると多少の増減がみられるものの、無機態窒素の生成量が2mg/day前後で安定し、硝酸態窒素(NO -N)の生成量も1.2mg/day前後で安定している。してみれば、無機態窒素の生成能力が良好な状態で安定し、植物への栄養分供給能力を十分確保していると評価できる。このため、炭素添加比30%以上の焼結多孔質体10は、Step1で示した空隙率の要件を満足している材料であるといえる。
【0051】
また、硝酸態窒素回収率は、焼結多孔質体10に付与した液状有機物27に含まれる有機態窒素に対する、24時間後に回収した純水28に含まれる硝酸態窒素(NO -N)の割合を算出した。液状有機物27に含まれる有機態窒素は、本実施の形態において、有機態窒素を3mg/mlを含む液状有機物27を焼結多孔質体10に1ml振りかけたから、3mgと算定できる。また、硝酸態窒素(NO -N)の生成量は、上記のとおり回収した純水28に含まれる硝酸イオン(NO )のイオン濃度測定値に基づいて算定した。
【0052】
図7(b)の折れ線グラフをみると、硝酸態窒素回収率は炭素添加比が5%を超えると大きく上昇し、炭素添加比が10%の場合に31.6%と30%を超えている様子がわかる。発明者らは鋭意検討の結果、硝酸態窒素回収率(%)が30%を超える環境は、植物への栄養分供給能力を備え、かつ土壌の三相分布が整い好気環境と嫌気環境のバランスが取れた状態にある、との知見を得ている。してみると、炭素添加比10%以上の焼結多孔質体10であっても、性能が劣るもののStep1で示した空隙率の要件を満足できる材料であるといえる。
【0053】
したがって、土壌化の可能な焼結多孔質体10は、炭素添加比の下限値を10%に設定することが好ましく、より好ましくは30%が好ましい。その一方で、上限値は50%に設定することが好ましい。これは、次の理由による。焼結多孔質体10を製作するにあたっては、前述のとおり成形工程で成形体13を湿潤造粒法により成形する。湿式造粒法は、適量の水を添加しつつ造粒する方法であり、炭素添加比が50%を超えると、水の添加量が増大し湿潤造粒法では造粒が困難となる恐れが生じるためである。
【0054】
≪Step2-3:成形体13の成形可能性、及び焼成後の硬さによる空隙形成材12の選別≫
Step2-1及び2-2で選定した、母材11、空隙形成材12、及び炭素添加比で湿式造粒法により成形体13を成形できるか否かを検証する。また、成形体13を成形できた場合に、焼結多孔質体10が所望の硬さを有するか否かについて検証し、好適な材料を選択する。
【0055】
成形工程で採用する湿式造粒法は、母材11と空隙形成材12の混合物に、適量の水を添加しつつ造粒することにより成形する方法であり、水の添加量は炭素材料によって異なる。含水比(母材11と空隙形成材12とを足し合わせた重量に対する水の重量)が大きいと、スラリー状となり造粒操作ができない、造粒できても成形体13どうしが付着しやすい、成形体13を焼成した後の硬さが、焼結多孔質体10に予定する使用形態に適合しない、などの不具合が生じやすい。
【0056】
このため、成形体13の成形可能性、及び焼成後の硬さについて検証を行い、これらを満足する炭素材料を空隙形成材12に採用し、焼結多孔質体10を製作する。一方、成形体13を成形できない、または成形できても焼成後の硬さが焼結多孔質体10の利用形態に適合しない場合、再度、空隙形成材12に採用する炭素材料の選定を行う。
【0057】
土壌化の可能な焼結多孔質体10は、植物の生育予定領域への搬送時や生育予定領域への撒き出し作業などにより、破損しない程度の硬さを有することが好ましい。これらを考慮し、次に示す実験を実施した結果、空隙形成材12に採用する炭素材料を、活性炭粉末を除く、人工黒鉛パウダー、備長炭粉末または竹炭粉末のいずれか、より好ましくは人工黒鉛パウダーもしくは備長炭粉末のいずれかとした。
【0058】
≪実験3:成形体の成形可能性及び焼結多孔質体10の硬さの確認≫
実験は、まず、空隙形成材12として活性炭粉末、備長炭粉末、竹炭粉末、人工黒鉛パウダーを採用し、4種類の成形体13を作製した。成形体13はいずれも、炭素添加比30%で配合した空隙形成材12と母材11の混合物を湿式造粒法により、粒径を10mm以下に成形した。こののち、作製した4種類の成形体13を105℃の環境下で乾燥させ、図1(b)で説明した焼成プログラム(2段階焼成)により焼成し、4種類の焼結多孔質体10を製作した。
【0059】
母材11には、人工黒鉛パウダーに富士山溶岩の粉砕加工品(粒径2mm以下、D50≒70μm)、また、他の炭素材料に富士山溶岩の粉砕加工品(粒径2mm以下、D50≒41μm)を採用した。なお、図3(b)の粒度分布でみると、人工黒鉛パウダーの最頻値が100μmであるが、他の炭素材料は最頻値が、備長炭粉末で60~70μm付近、活性炭粉末で50μm付近、そして竹炭粉末で40μm付近であり、粒子の細かい材料である様子がわかる。
【0060】
図8(a)に、成形体13を作製する際の諸元を示す。また、図8(b)に、空隙形成材12に人工黒鉛パウダーを採用して作製した成形体13を、図8(c)に、これを焼成した焼結多孔質体10を示す。さらに、図9(a)~(c)に、空隙形成材12に活性炭粉末、備長炭粉末、竹炭粉末を採用して作製した成形体13(紙面左側)と、これを焼成した焼結多孔質体10(紙面右側)を示す。
【0061】
成形体13の成形可能性について、図8(a)(b)をみると、人工黒鉛パウダーを採用した成形体13は含水比が15.4~18.5程度で、成形体13は良好な粒体状に成形されている様子がわかる。また、図8(a)及び図9(a)~(c)をみると、粒子径の最頻値が人工黒鉛パウダーより小さい他の3種類は、含水比が大きいものの、成形体13は粒体状をなしている様子がわかる。したがって、4種の炭素材料はいずれも成形体13を成形でき、空隙形成材12として採用できる。
【0062】
次に、焼結多孔質体10の硬さをみると、図8(c)で示す人工黒鉛パウダーを採用した焼結多孔質体10は、植物の生育予定領域への搬送時や生育予定領域への撒き出し作業などにより破損しない程度の硬さを有することが確認できた。一方、図9(a)~(c)で示す活性炭粉末、備長炭粉末、竹炭粉末を採用した焼結多孔質体10は、備長炭粉末が人工黒鉛パウダーを使用した場合と同程度の硬さを有している。しかし、竹炭粉末を採用した場合は備長炭粉末より弱く焼結し、活性炭粉末を採用した場合は、崩れやすく脆弱な状態にあった。
【0063】
したがって、土壌化の可能な焼結多孔質体10は、空隙形成材12に、人工黒鉛パウダー、備長炭粉末、もしくは竹炭粉末を採用することが好ましく、より好ましくは人工黒鉛パウダーもしくは備長炭粉末であるとした。こうして、炭素材料が選択されると、湿式造粒により成形体13を作製する際に必要となる水の添加量も設定できる。
【0064】
≪≪焼結多孔質体の製作:Step3≫≫
上記のとおり、Step2で母材11となる土質材料、空隙形成材12となる炭素材料、炭素添加比、成形体13の粒径、水の添加量を設定したところで、以下の手順により土壌化の可能な焼結多孔質体10を製作する。
【0065】
≪成形工程:Step3-1≫
母材11と空隙形成材12とを混合したのち、この混合物を湿式造粒法により造立し成形体13を成形する。湿式造粒法による造粒操作はいずれの手段を採用してもよいが、例えば、図10(a)で示すような、パン型造粒機30を採用するとよい。
【0066】
具体的には、パン型造粒機30に備えた傾斜姿勢のパン31に母材11と空隙形成材12とを投下し、パン31を回転させながら両者を均等に混合する。次に、パン31を回転させながら水を少量ずつ加え、母材11と空隙形成材12の混合物を造粒する。母材11と空隙形成材12の混合物は、パン31の底部や側面に付着しやすいため、必要に応じてスクレーパー32や手で付着物をかき落としつつ造粒する。
【0067】
Step2-1で述べたように、土壌化の可能な焼結多孔質体10で予定する粒子径範囲1mm以上9.5mm以下を考慮すると、成形体13の粒子径は10mm以下が好ましい。造粒操作により粒子径10mm以下の成形体13を得るには、5mm程度の粒径を目標に造粒時間を設定し、造粒操作を行うとよい。このように、成形工程で成形体13を粒体状に成形すると、一般に焼成工程のあとに実施される、粉粒体が発生するような切断や破砕といった後加工工程を省略でき、作業性が大幅に向上する。
【0068】
こうして成形体13を成形したのち、例えば耐熱容器40などに取り出し、一定時間加温して乾燥する。乾燥作業は、表面にひび割れが生じない程度、かつ内部水分が均質となるよう、成形体13の大きさや含水比などを考慮しつつ、乾燥温度や乾燥時間を適宜設定する。本実施の形態では、成形体13を105℃程度の環境下に数時間静置している。
【0069】
≪焼成工程Step3-2≫
上記のStep3-1で乾燥させた成形体13を焼成する。焼成プログラムには前述したように、2段階焼成(段階的に昇温)を採用し、低温領域で一定時間加熱して空隙形成材12を消失させたのちに昇温し、高温領域で一定時間加熱して母材11を焼結させる。
【0070】
低温領域の設定温度は、空隙形成材12で採用した炭素材料の炭素酸化温度に基づいて設定し、加熱時間は、成形体13の中心部まで昇温し空隙形成材12を消失させるために必要な加熱時間を設定する。また、高温領域の設定温度は、母材11で採用した土質材料の焼結温度に基づいて設定し、加熱時間は、成形体13の中心部まで昇温し母材11を焼結するために必要な加熱時間を設定する。
【0071】
このように、焼成工程で2段階焼成を採用すると、加熱時間が制御しやすいため、成形体13の表面に溶融部分が生じたり、内部に未焼結部分が残るといった不具合を回避しやすい。したがって、図1(a)で示すような、中心部まで空隙形成材12の消失跡に細孔14が形成された高品質な焼結多孔質体10を安定的に取得することが可能となる。
【0072】
≪実験4:焼成プログラムの作成≫
土壌化の可能な焼結多孔質体10について、2段階焼成を採用した焼成プログラムを作製するべく、次の実験を行った。
【0073】
実験は、まず、Step3-1の成形工程で説明した手順により、炭素添加比30%と50%の2種類の成形体13を作製した。図11(a)に、成形体13を作製した際の諸元を示す。母材11には、富士山溶岩石の粉砕加工品(粒径2mm以下、D50≒70μm)を採用し、空隙形成材12には、人工黒鉛パウダー(粒径100μm前後)を採用した。
【0074】
焼成プラグラムは、図10(c)で示すように、低温領域の加熱温度を人工黒鉛パウダーの炭素酸化温度に基づき、800℃(ケース1)と900℃(ケース2)の2つのケースに設定し、加熱時間はいずれも10時間に設定した。また、高温領域の設定温度を富士山溶岩石の粉砕加工品の焼結温度に基づき1100℃に設定し、加熱時間を1時間に設定した。さらに、比較例として、高温領域のみで焼成する1段階焼成の焼成プログラムを作成した。高温領域の設定温度は1100℃とし、加熱時間を6パターン(60分、67分、75分、1.5時間、2時間、3時間)設定した。
【0075】
図11(b)を見ると、比較例である1段階焼成では、加熱時間を1.25時間に設定した場合に、粒体状の焼結多孔質体10を回収することができた。しかし、加熱時間を1.5時間以上に設定すると、底面溶融(成形体13が耐熱容器40に付着)が生じ、焼結多孔質体10をほぼ回収できなかった。また、加熱時間を67分以下に設定すると、内部未焼結(成形体13の内部で母材11が焼結せず)となり、焼結多孔質体10が製作できなかった。
【0076】
上記の結果は、炭素添加比が30%及び50%のいずれの成形体13であっても、同様の結果となった。このように、焼成プログラムを1段階焼成とすると、数十分程度の加熱時間の差異が焼成に影響することから、加熱時間の制御が困難となり、焼結多孔質体10を安定して回収するには課題が多い様子がわかる。
【0077】
一方、2段階焼成を見ると、800℃の低温領域で10時間加熱(ケース1)したのちに昇温し、1100℃の高温領域で1時間加熱した場合、炭素添加比30%及び50%のいずれの成形体13も焼結し、粒体状の焼結多孔質体10を回収できた。また、900℃の低温領域で10時間加熱(ケース2)したのちに昇温し、1100℃の高温領域で1時間加熱した場合も、炭素添加比50%の成形体13で焼結し、粒体状の焼結多孔質体10を回収できた。
【0078】
上記のとおり、母材11に富士山溶岩石の粉砕加工品を採用するとともに、空隙形成材12として人工黒鉛パウダーを採用した場合、焼成プログラムに、800℃もしくは900℃の低温領域で10時間加熱したのちに昇温し、1100℃の高温領域で1時間加熱する2段階焼成を採用する。これにより、内部まで焼結した高品質な焼結多孔質体10を安定して製作することが可能となる。
【0079】
≪ふるい分け工程:Step3-3≫
上記のStep3-2で成形体13を焼成したのち、ふるい分けを行って所望の粒子径範囲の焼結多孔質体10を回収する。Step3-1で成形体13の粒径を、焼結多孔質体10に要求される粒子径範囲を考慮した大きさに造粒しているから、所望の粒子径範囲の焼結多孔質体10を効率よく取得でき、焼結多孔質体10を高い回収率で取得できる。
【0080】
Step1で述べたように、土壌化の可能な焼結多孔質体10は、粒子径範囲1mm以上9.5mm以下に設定したから、ふるい分けを行ってこの範囲の焼結多孔質体10を回収する。回収した焼結多孔質体10は、細孔径が10μm以上20μm以下の大きい細孔14を多く含み、粒子径範囲を1mm以上9.5mm以下に調整されて、母材11として採用した土質材料と比べて、透気性、透水性及び保水性が大幅に改善された、砂から細礫程度の大きさの粒体状に形成されている。
【0081】
また、これらの条件のもと、有機態窒素を分解して植物の栄養となる無機態窒素を生成する微生物群が、生息可能な環境を創出できる程度の空隙率を備えている。したがって、土壌化の可能な焼結多孔質体10は、微生物群を固定化することにより、植物を健全に生育することができる土壌として、活用することが可能となる。
【0082】
本発明の焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0083】
本実施の形態では、空隙形成材12に人工黒鉛パウダーを採用した場合を事例に挙げ、焼成プログラムを作成したが、空隙形成材12に、備長炭や竹炭粉末を採用する場合には、低温領域の設定温度を、これらの炭素酸化温度に基づいて500℃、加熱時間を5時間に設定すると、高品質な焼結多孔質体10を製作することが可能である。
【0084】
また、本実施の形態では、土壌化の可能な焼結多孔質体10を製造する場合を事例に挙げているが、これに限定されるものではない。上記の焼結多孔質体の製造方法にしたがって、粒子径範囲、細孔径、空隙率を適宜設計・製造することにより、母材11に採用した土質材料から、所望の用途に利用可能な焼結多孔質体10を製造することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
10 焼結多孔質体
11 母材
12 空隙形成材
13 成形体
14 細孔
21 漏斗状容器
22 本体部分
23 足部分
24 ウレタン
25 ビーカー
26 固体担体
27 液状有機物
30 パン型造粒機
31 パン
32 スクレーパー
40 耐熱容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11