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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074383
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】加飾部品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230522BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20230522BHJP
   B29C 45/16 20060101ALI20230522BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/00 B
B32B7/022
B29C45/16
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187321
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕一
(72)【発明者】
【氏名】中村 行宏
(72)【発明者】
【氏名】小塚 明彦
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AB01A
4F100AJ10A
4F100AK01
4F100AK01C
4F100AK07
4F100AK07C
4F100AK42
4F100AK42B
4F100AK74
4F100AK74C
4F100AP01A
4F100AR00B
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100DG01A
4F100DG12A
4F100DH01B
4F100EH31
4F100EH36
4F100EJ82B
4F100GB08
4F100GB32
4F100GB41
4F100HB00A
4F100JK01
4F100YY00B
4F206AA11
4F206AA13
4F206AD01
4F206AD03
4F206AD05
4F206AD06
4F206AD08
4F206AD16
4F206AD19
4F206AD20
4F206AF16
4F206AG03
4F206AG26
4F206AH15
4F206AH16
4F206AH33
4F206AH51
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB13
4F206JB22
4F206JL02
4F206JM02
4F206JM04
4F206JM06
4F206JN11
4F206JN25
4F206JN31
4F206JN41
4F206JQ81
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】加飾素材の種類によらず共通の成形金型を用いて多種類の加飾フィルムを成形することができる加飾部品を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様である加飾部品は、加飾素材からなる加飾層と、少なくとも熱可塑性樹脂を含み、前記加飾層の厚さ方向の一端面に積層される加飾保護層と、少なくとも前記加飾層および前記加飾保護層を有する加飾フィルムの前記加飾保護層側の端面に一体成形される樹脂基材と、を備える。前記加飾保護層の剛軟度は、前記加飾素材の種類に応じて変更される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾素材からなる加飾層と、
少なくとも熱可塑性樹脂を含み、前記加飾層の厚さ方向の一端面に積層される加飾保護層と、
少なくとも前記加飾層および前記加飾保護層を有する加飾フィルムの前記加飾保護層側の端面に一体成形される樹脂基材と、
を備え、
前記加飾保護層の剛軟度は、前記加飾素材の種類に応じて設定される、
ことを特徴とする加飾部品。
【請求項2】
前記加飾フィルムの剛軟度は、32mN以上47mN以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の加飾部品。
【請求項3】
前記加飾保護層の剛軟度は、前記加飾素材の種類に応じて、2.0mN以上30mN以下の範囲で設定される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加飾部品。
【請求項4】
前記加飾素材は、木質材、皮革材、織物材または金属シート材であり、
前記加飾素材が木質材または皮革材である場合、前記加飾保護層の剛軟度は、2.0mN以上15mN以下であり、
前記加飾素材が織物材または金属シート材である場合、前記加飾保護層の剛軟度は、15mN以上30mN以下である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の加飾部品。
【請求項5】
前記加飾保護層は、前記熱可塑性樹脂を含浸した樹脂含浸の不織布シートからなる、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の加飾部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電気機器または家具等の様々な製品の分野において、内装や外装に装飾を加える加飾部品が提案されている。一般に、加飾部品は、装飾用の模様の元となる加飾素材からなる層を含む多層構造の加飾フィルムを有し、成形金型を用いて、当該加飾フィルムを目的の形状に成形するとともに樹脂基材と一体化することによって得られる。自動車の分野における加飾部品の具体例としては、インストルメントパネルオーナメント、ドアトリムスイッチベース、コンソールアッパーパネル、小物・灰皿ドアパネル等が挙げられる。例えば、特許文献1には、加飾フィルムを成形金型内にセットして射出成形することにより、当該加飾フィルムと樹脂基材とをインサート成形して得られる立体形状の加飾部品が開示されている。
【0003】
また、加飾フィルムの加飾層には、木目調の加飾素材、皮革調の加飾素材またはメタリック調の加飾素材等、多種多様な加飾素材を採用することができる。加飾部品は、加飾層に採用される加飾素材を変更することにより、装飾用の模様を用途に応じて変更することができる。例えば、自動車用の加飾部品においては、近年、高級グレードな加飾部品として本物質感を呈するものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/225780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の加飾部品では、加飾層に採用される加飾素材の曲げ易さや撓み易さ等の特性が加飾素材の種類毎に異なることから、成形時に加飾フィルムをセットする成形金型のキャビティ構造を加飾素材の特性に応じて変更しなければならない。すなわち、加飾素材の種類毎にキャビティ構造が異なる専用の成形金型を準備し、たとえ目的とする成形形状が同じであっても、加飾素材の種類が変わる毎に専用の成形金型を使い分けて加飾部品を成形しなければならない。このため、専用の成形金型の準備に多大なコストを要するのみならず、加飾部品の成形工程において、専用の成形金型の取り換えに多大な時間および労力を要してしまい、この結果、加飾部品の製造コストが増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、加飾素材の種類によらず共通の成形金型を用いて多種類の加飾フィルムを成形することができる加飾部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る加飾部品は、加飾素材からなる加飾層と、少なくとも熱可塑性樹脂を含み、前記加飾層の厚さ方向の一端面に積層される加飾保護層と、少なくとも前記加飾層および前記加飾保護層を有する加飾フィルムの前記加飾保護層側の端面に一体成形される樹脂基材と、を備え、前記加飾保護層の剛軟度は、前記加飾素材の種類に応じて設定される、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る加飾部品は、上記の発明において、前記加飾フィルムの剛軟度は、32mN以上47mN以下である、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る加飾部品は、上記の発明において、前記加飾保護層の剛軟度は、前記加飾素材の種類に応じて、2.0mN以上30mN以下の範囲で設定される、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る加飾部品は、上記の発明において、前記加飾素材は、木質材、皮革材、織物材または金属シート材であり、前記加飾素材が木質材または皮革材である場合、前記加飾保護層の剛軟度は、2.0mN以上15mN以下であり、前記加飾素材が織物材または金属シート材である場合、前記加飾保護層の剛軟度は、15mN以上30mN以下である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る加飾部品は、上記の発明において、前記加飾保護層は、前記熱可塑性樹脂を含浸した樹脂含浸の不織布シートからなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加飾素材の種類によらず共通の成形金型を用いて多種類の加飾フィルムを成形することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態に係る加飾部品の一構成例を示す断面模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態における加飾素材シートと加飾保護シートとの積層体シートの剛軟度の一例を示す図である。
図3図3は、本発明の実施形態における加飾保護シートの剛軟度と厚さとの相関関係の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る加飾部品の成形方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る加飾部品の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0015】
(加飾部品の構成)
まず、本発明の実施形態に係る加飾部品の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る加飾部品の一構成例を示す断面模式図である。図1には、本実施形態に係る加飾部品10の積層構造の一例が図示されている。図1に示すように、本実施形態に係る加飾部品10は、対象とする製品の外装または内装に装飾を加えるための部品であり、装飾用の模様を呈する加飾フィルム1と、加飾フィルム1の成形形状を保持する基材2とを備える。
【0016】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、加飾部品10の厚さ方向D1、縦方向D2および横方向D3が設定されているが、これらの方向は本発明を限定するものではない。厚さ方向D1は、加飾フィルム1と基材2との積層方向と同じであり、厚さ方向D1の一端側(図1では厚さ方向D1の正側)は表側とし、厚さ方向D1の他端側(図1では厚さ方向D1の負側)は裏側とする。縦方向D2および横方向D3は、互いに垂直な方向であるとともに、厚さ方向D1に対しても垂直な方向である。これらの厚さ方向D1、縦方向D2および横方向D3は、加飾部品10の各構成部についても同様である。
【0017】
加飾フィルム1は、対象とする製品を加飾するためのフィルムであり、少なくとも加飾層3および加飾保護層4を有する。詳細には、図1に示すように、加飾フィルム1は、加飾層3と、加飾保護層4と、接着層5と、トップフィルム層6とを備え、所定範囲内の剛軟度を有する多層構造のフィルム状に構成される。例えば、加飾フィルム1の剛軟度は、32mN以上47mN以下であり、加飾層3の加飾素材の種類等に応じて当該範囲内で設定される。加飾フィルム1は、装飾用の模様を厚さ方向D1の表側に呈し、成形金型を用いた射出成形により、目的とする意匠形状に成形される。
【0018】
基材2は、樹脂によって構成される樹脂基材であり、図1に示すように、加飾フィルム1の厚さ方向D1の両端面のうち加飾保護層4側の端面(本実施形態では加飾フィルム1の裏面)に一体成形される。詳細には、基材2は、成形金型のキャビティ形状に沿って加飾フィルム1を裏面から押し付けるように樹脂を射出成形することにより、図1に示すように、加飾フィルム1の裏面に積層される。本実施形態では、例えば、基材2は、加飾フィルム1における加飾保護層4の裏面を覆うように加飾フィルム1と一体化される。基材2は、硬化することにより、成形後の加飾フィルム1の意匠形状を保持する。このような基材2を構成する樹脂として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0019】
また、図1に示す加飾フィルム1において、加飾層3は、装飾用の模様を呈する層である。詳細には、加飾層3は、装飾用の模様の元となる加飾素材からなる層であり、図1に示すように、加飾保護層4の表側に積層される。加飾層3を構成する加飾素材としては、例えば、木目模様を呈する木質材、表皮模様を呈する皮革材、メッシュ等の織物模様を呈する織物材、メタリック模様を呈する金属シート材等の実物素材が挙げられる。
【0020】
加飾層3の木質材としては、天然木等からなるシート材が挙げられる。当該木質材に採用される天然木としては、例えば、バーズアイメイプル、クラロウォールナット、アッシュウッド、バンブー等が挙げられる。加飾層3の皮革材としては、本革または合成皮革等からなるシート材が挙げられる。当該皮革材に採用される本革には、スエード等、起毛処理された皮革(以下、起毛皮革という)や、起毛処理されていない皮革が含まれる。これと同様に、当該皮革材に採用される合成皮革には、起毛皮革や、起毛処理されていない皮革が含まれる。
【0021】
加飾層3の織物材としては、有機繊維または無機繊維を用いて形成されるシート状の繊維織物が挙げられる。当該織物材に採用される有機繊維としては、麻や綿等の天然繊維、ポリエステルやアクリル等の合成繊維が挙げられる。当該織物材に採用される無機繊維としては、カーボン繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられる。加飾層3の金属シート材としては、金属箔、金属塗装膜、金属蒸着膜等のシート状の金属薄膜が挙げられる。当該金属シート材は、基材上に形成されたものであってもよいし、基材を用いずに金属単体で形成されたものであってもよい。当該金属シート材に採用される金属としては、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等が挙げられる。
【0022】
また、加飾層3の厚さは、加飾層3に採用される加飾素材の種類に応じて、曲げ易さおよび破損し難さ等の特性を考慮して設定される。例えば、加飾層3の加飾素材が金属シート材である場合、当該金属シート材の厚さは、150μm以上である。より詳細には、当該金属シート材が金属箔である場合、当該金属シート材は、金属箔と、この金属箔を支持する基材とによって構成される。当該金属シート材の厚さのうち、金属箔の厚さは、70μm以上100μm以下であることが好ましい。当該金属シート材が金属塗装膜である場合、当該金属シート材は、メタリック調の塗装膜と、この塗装膜が形成される基材とによって構成される。当該金属シート材の厚さのうち、この塗装膜の厚さは、70μm以上100μm以下であることが好ましい。当該金属シート材が金属蒸着膜である場合、当該金属シート材は、金属の蒸着膜と、金属を蒸着させる基材とによって構成される。当該金属シート材の厚さのうち、この蒸着膜の厚さは、数nmであることが好ましい。なお、当該金属シート材の厚さは、加飾フィルム1の成形に際して当該金属シート材を事前に賦形する必要がなくなるため、200μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0023】
加飾保護層4は、成形時の破損等の不具合から加飾層3を保護するとともに、成形に適した剛軟性を加飾層3に付与する層である。詳細には、加飾保護層4は、少なくとも熱可塑性樹脂を含む層であり、図1に示すように、基材2と加飾層3との間に介在するように、加飾層3の厚さ方向D1の一端面(裏面)に積層される。本実施形態において、例えば、加飾保護層4の表面は、接着剤からなる接着層5によって加飾層3の裏面に接着される。加飾保護層4の裏面には、成形金型を用いた樹脂の射出成形によって基材2が積層される。
【0024】
また、加飾保護層4は、所定範囲内の剛軟度を有し、加飾層3の裏面に積層された状態において、成形金型の三次元的なキャビティ形状(目的とする意匠形状)に対する加飾層3の追従性と、成形された加飾層3の意匠形状の保持性とを向上させる。詳細には、加飾保護層4の剛軟度は、加飾層3を構成する加飾素材の種類に応じて、2.0mN以上30mN以下の範囲で設定される。この際、加飾保護層4の剛軟度は、加飾素材の種類別に設定される加飾層3の剛軟度に応じ、適宜変更して設定される。
【0025】
例えば、上記加飾素材が木質材または皮革材である場合、木質材または皮革材の表面に凹凸形状のバラツキがあるため、原材料から切り取る等して取得する木質材または皮革材の厚さを厚くせざるを得なくなる。このような木質材および皮革材の各剛軟度は、上述した織物材および金属シート材に比べて大きくなる。したがって、上記加飾素材が木質材または皮革材である場合の加飾保護層4の剛軟度は、上記加飾素材が織物材または金属シート材である場合に比べて低く設定され、例えば、2.0mN以上15mN以下である。
【0026】
また、上記加飾素材が織物材または金属シート材である場合、これら織物材および金属シート材の双方とも、上述した木質材および皮革材に比べて軟らかく、成形形状を保持し難い材料である。したがって、上記加飾素材が織物材または金属シート材である場合の加飾保護層4の剛軟度は、上記加飾素材が木質材または皮革材である場合に比べて高く設定され、例えば、15mN以上30mN以下である。
【0027】
また、加飾保護層4は、耐熱性を有する層であり、図1に示すように基材2と加飾層3との間に介在し、基材2側から加飾層3側への成形熱の伝達を抑制する。詳細には、加飾保護層4の融点は上記成形熱よりも高く、且つ加飾保護層4の軟化点は上記成形熱よりも低い。このため、加飾保護層4は、基材2側から成形熱が加えられた場合、溶融(液体化)することなく、成形可能に軟化する。なお、上記成形熱は、加飾フィルム1と基材2とを一体成形する際に成形金型のキャビティ内へ射出される樹脂の温度である。加飾保護層4は、加飾層3へ伝わる上記成形熱を低減し、これにより、加飾層3の熱損傷(加飾素材の焼き焦げ等)を防止する。これと同時に、加飾保護層4は、上記成形熱を基材2から受けて加熱され、これにより、軟化して成形金型のキャビティ形状に馴染み易くなる。すなわち、加飾保護層4は、上記成形熱で加熱されることにより、加飾層3とともに目標の意匠形状に成形され易くなる。
【0028】
上述した加飾保護層4の構成素材としては、例えば、樹脂含浸の不織布シート、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂シート、ポリアミド66(PA66)樹脂シート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂シート等が挙げられる。
【0029】
樹脂含浸の不織布シートは、所定の熱可塑性樹脂を含浸した不織布シートである。当該不織布シートに含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。当該不織布シートを構成する不織布の繊維としては、有機繊維または無機繊維等が挙げられる。加飾保護層4が上記樹脂含浸の不織布シートからなる場合、不織布への熱可塑性樹脂の含浸量を調整することによって加飾保護層4の剛軟度を容易に調整することができる。さらに、加飾フィルム1と基材2とのインサート成形において、基材2の樹脂材料が加飾保護層4の不織布シート中に浸入することにより、基材2と加飾保護層4との密着性をより強固にすることができる。
【0030】
また、加飾保護層4がPET樹脂シート、PA66樹脂シートまたはPPS樹脂シートからなる場合、加飾保護層4の剛軟度は、加飾保護層4の厚さ(構成素材である樹脂シートの厚さ)によって調整することができる。
【0031】
トップフィルム層6は、加飾フィルム1の最も表側に位置する層である。詳細には、トップフィルム層6は、可視光に対して透明または半透明な光透過性樹脂によって構成され、例えば図1に示すように、加飾層3の表面に積層される。トップフィルム層6は、加飾層3の加飾素材を覆って保護するとともに、当該加飾素材の模様(装飾用の模様)を外部から視認可能にする。このようなトップフィルム層6の構成樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂等が挙げられる。特に、加飾層3の熱損傷を防止するという観点から、トップフィルム層6の構成樹脂は、紫外線等の光照射によって硬化する光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0032】
(加飾フィルムの剛軟度)
つぎに、本発明の実施形態における加飾フィルム1の剛軟度について詳細に説明する。加飾フィルム1の剛軟度は、例えば、上述した加飾層3と加飾保護層4との積層体の剛軟度によって定義される。当該剛軟度は、ガーレー剛軟度試験機を用い、以下に示す測定方法によって測定することができる。
【0033】
詳細には、剛軟度の測定方法において、まず、加飾層3に採用される加飾素材の測定用シート(以下、加飾素材シートという)と、加飾保護層4の構成素材の測定用シート(以下、加飾保護シートという)とを、各々、複数枚準備する。これら複数の加飾素材シートおよび加飾保護シートは、各々、所定の長さおよび幅を有する短冊状に形成される。また、複数の加飾素材シートの各々は、加飾層3を構成する場合と同じ厚さのシートとした。例えば、木質材からなる加飾素材シートの場合、加飾素材シートの厚さは、250μm程度とした。複数の加飾保護シートの各々は、所定範囲内で異なる厚さのシートとし、厚さ別に所定数(例えば5枚)の加飾保護シートに分けられるようにした。例えば、PET樹脂シートからなる加飾保護シートの場合、加飾保護シートの厚さの所定範囲は、10μm以上300μm以下とした。
【0034】
つぎに、複数の加飾保護シートの各々について、ガーレー剛軟度試験機を用い、加飾保護シートの厚さ別に剛軟度を測定した。そして、この剛軟度の測定結果をもとに、加飾保護シートの剛軟度と厚さとの相関関係を導出した。その後、これら複数の加飾保護シートと上述した複数の加飾素材シートとを用い、接着剤によって加飾保護シートと加飾素材シートとを貼り合わせたもの(以下、積層体シートという)を、加飾保護シートの厚さ別に複数作製した。これら複数の積層体シートは、各々、図1に示したように接着層5を介して加飾層3と加飾保護層4とが厚さ方向D1に積層されたものと同様の積層構造を有している。
【0035】
続いて、複数の積層体シートの各々について、ガーレー剛軟度試験機を用い、加飾保護シートの厚さ別に剛軟度を測定した。この剛軟度の測定結果をもとに、積層体シートの剛軟度と、当該積層体シートに含まれる加飾保護シートの厚さとの相関関係を導出した。
【0036】
その後、複数の積層体シートの各々について、成形金型を用いた射出成形を行い、これにより、積層体シートの加飾保護シート側の端面に樹脂基材をインサート成形した。この成形金型は、これら複数の積層体シートの各々について共通のキャビティ形状を有する成形金型とした。このようにして、複数の積層体シートにおける加飾保護シートの厚さ別に、積層体シートと樹脂基材との成形サンプルを複数作製した。これら複数の成形サンプルの各々は、図1に示したように基材2と加飾保護層4と接着層5と加飾層3とが厚さ方向D1に積層されたものと同様の積層構造を有している。
【0037】
つぎに、複数の成形サンプルの各々について、外観評価を行った。この外観評価では、各成形サンプルにおける加飾素材シート側の端面(すなわち加飾素材表面)に着目し、各成形サンプルの形状不良の有無と樹脂かぶりの有無とを目視で確認した。
【0038】
ここで、積層体シートの剛軟度が過度に小さい場合、積層体シートと樹脂基材とのインサート成形において、成形金型にセットされた積層体シートは、樹脂の射出圧等により、成形金型のキャビティ形状に沿って一旦成形される。しかし、当該積層体シートは、軟らか過ぎることから、成形金型内に射出された樹脂によって流され、この結果、加飾素材表面に皺が生じてしまい、当該積層体シートの目的とする意匠形状が維持できなくなる。成形サンプルの外観評価では、上記のように加飾素材表面に皺が生じた状態の成形サンプルを、形状不良が生じたサンプルと判定した。
【0039】
また、積層体シートの剛軟度が過度に大きい場合、積層体シートと樹脂基材とのインサート成形において、成形金型にセットされた積層体シートは、硬すぎることから、樹脂の射出圧が加えられても成形金型のキャビティ形状に追従できない。この結果、積層体シートの加飾素材表面と成形金型のキャビティ面との間に隙間が生じて、この隙間に樹脂が流れ込んでしまい、当該加飾素材表面に樹脂が付着する。成形サンプルの外観評価では、上記のように加飾素材表面に樹脂が付着した状態の成形サンプルを、樹脂かぶりが生じたサンプルと判定した。
【0040】
その後、上述した複数の成形サンプルの外観評価結果をもとに、成形サンプルに形状不良および樹脂かぶりの双方とも発生しなくなる積層体シートの剛軟度の範囲、すなわち、加飾フィルム1の適正な剛軟度の範囲を導出した。
【0041】
図2は、本発明の実施形態における加飾素材シートと加飾保護シートとの積層体シートの剛軟度の一例を示す図である。図2において、剛軟度Btは積層体シートの剛軟度であり、厚さAは当該積層体シートに含まれる加飾保護シートの厚さである。また、相関線L1は、積層体シートの剛軟度Btと加飾保護シートの厚さAとの相関関係を示している。
【0042】
本発明において、加飾フィルム1の適正な剛軟度の範囲は、以下に示す手法によって導出した。詳細には、上述した外観評価を行った複数の成形サンプルのうち、形状不良が発生した成形サンプルと、形状不良および樹脂かぶりの双方とも発生していない良好な外観の成形サンプルとを用い、成形サンプルに形状不良が発生しなくなる積層体シートに含まれる加飾保護シートの最小の厚さA1を導出する。また、樹脂かぶりが発生した成形サンプルと上記良好な外観の成形サンプルとを用い、成形サンプルに樹脂かぶりが発生しなくなる積層体シートに含まれる加飾保護シートの最大の厚さA2を導出する。
【0043】
続いて、上記良好な外観の成形サンプルにおける加飾保護シートの最小の厚さA1および最大の厚さA2を用い、図2に示す積層体シートの剛軟度Btと加飾保護シートの厚さAとの相関関係から、成形サンプルに形状不良および樹脂かぶりの双方とも発生しなくなる積層体シート(以下、適正な積層体シートという)の下限剛軟度および上限剛軟度を導出する。例えば、図2に示すように、上記加飾保護シートの最小の厚さA1を用い、積層体シートの剛軟度Btと加飾保護シートの厚さAとの相関線L1から、当該最小の厚さA1に対応する剛軟度Bt、すなわち、適正な積層体シートの下限剛軟度Bt1を導出する。本発明において、下限剛軟度Bt1は、32mNである。また、図2に示すように、上記加飾保護シートの最大の厚さA2を用い、上記相関線L1から、当該最大の厚さA1に対応する剛軟度Bt、すなわち、適正な積層体シートの上限剛軟度Bt2を導出する。本発明において、上限剛軟度Bt2は、47mNである。
【0044】
上記のようにして導出した下限剛軟度Bt1および上限剛軟度Bt2は、適正な積層体シートの剛軟度Btの範囲を規定する上下限値である。本発明において、加飾フィルム1の剛軟度は、積層体シートの剛軟度Btに相当する。したがって、加飾フィルム1の適正な剛軟度の範囲は、これら下限剛軟度Bt1および上限剛軟度Bt2によって規定される範囲であり、具体的には、32mN以上47mN以下である。
【0045】
上述した加飾フィルム1の適正な剛軟度の範囲は、加飾保護層4の構成素材が樹脂シートまたは樹脂含浸の不織布シートのいずれであっても同じである。例えば、加飾保護層4の構成素材が樹脂含有の不織布シートである場合、加飾保護シートの厚さを不織布シートの樹脂含浸量に置き換え、樹脂含浸量を変えた複数の加飾保護シートを用いて、上記と同様に成形サンプルの作製および外観評価等を行うことにより、上述した加飾フィルム1の適正な剛軟度の範囲を導出することができる。
【0046】
(加飾保護層の剛軟度)
つぎに、本発明の実施形態における加飾保護層4の剛軟度について詳細に説明する。加飾保護層4の剛軟度は、加飾フィルム1の剛軟度を上述した適正な剛軟度の範囲(32mN以上47mN以下)内の値とするために加飾保護層4に必要とされる剛軟度である。このような加飾保護層4の剛軟度は、例えば、加飾フィルム1の剛軟度を導出するに際して得られた上記加飾保護シートの最小の厚さA1および最大の厚さA2を用い、上記加飾保護シートの剛軟度と厚さとの相関関係から導出することができる。
【0047】
図3は、本発明の実施形態における加飾保護シートの剛軟度と厚さとの相関関係の一例を示す図である。図3において、相関線L2は、加飾保護シートの剛軟度Baと厚さAとの相関関係を示している。
【0048】
例えば、加飾素材シートが木質材シートであり、加飾保護シートがPET樹脂シートである場合、加飾フィルム1の下限剛軟度Bt1に対応する加飾保護シートの最小の厚さA1(図2参照)は100μmである。また、加飾フィルム1の上限剛軟度Bt2に対応する加飾保護シートの最大の厚さA2(図2参照)は210μmである。加飾保護層4の下限剛軟度は、図3の相関線L2を表す式に基づいて、上記加飾保護シートの最小の厚さA1(=100μm)を剛軟度に換算した値であり、具体的には2.0mNである。また、加飾保護層4の上限剛軟度は、図3の相関線L2を表す式に基づいて、上記加飾保護シートの最大の厚さA2(=210μm)を剛軟度に換算した値であり、具体的には15mNである。
【0049】
以上より、加飾層3の加飾素材が木質材であり、加飾保護層4の構成素材がPET樹脂シートである場合、加飾保護層4の適正な剛軟度の範囲は、2.0mN以上15mN以下ある。なお、加飾保護層4の構成素材がPET樹脂シート以外の樹脂シートである場合、上述した最小の厚さA1および最大の厚さA2は、PET樹脂シートとは異なるものとなるが、加飾保護層4の適正な剛軟度の範囲は、加飾素材の種類が同じであれば、PET樹脂シートと同じである。すなわち、加飾層3の加飾素材が木質材である場合、加飾保護層4の適正な剛軟度の範囲は、加飾保護層4を構成する樹脂シートによらず、2.0mN以上15mN以下ある。
【0050】
また、加飾層3の加飾素材が皮革材である場合、加飾保護層4の適正な剛軟度の範囲は、上述した木質材の場合と同様に、2.0mN以上15mN以下である。加飾層3の加飾素材が織物材または金属シート材である場合、加飾保護層4の適正な剛軟度の範囲は、加飾保護層4を構成する樹脂シートによらず、15mN以上30mN以下である。
【0051】
また、加飾保護層4の構成素材が樹脂含浸の不織布シートである場合、加飾保護層4の適正な剛軟度の範囲は、加飾保護シートの最小の厚さA1および最大の厚さA2を不織布シートの樹脂含浸量に置き換えて導出される。このような樹脂含浸の不織布シートからなる加飾保護層4においても、その適正な剛軟度の範囲は、上述した樹脂シートの場合と同様である。
【0052】
(加飾部品の成形方法)
つぎに、本発明の実施形態に係る加飾部品の成形方法について詳細に説明する。図4は、本発明の実施形態に係る加飾部品の成形方法の一例を示す模式図である。この加飾部品10(図1参照)は、例えば図4に示す一連の工程を順次行うことにより、目標とする意匠形状に成形され、製造される。
【0053】
詳細には、図4に示すように、まず、成形金型11に加飾フィルム1をセットする(ステップS1)。成形金型11は、複数種類の加飾フィルム1に共通して用いられる射出成形用の金型であり、例えば図4に示すように、所定形状のキャビティ12aを有する第1金型12と、樹脂の射出部13aを有する第2金型13とを備える。キャビティ12aは、加飾フィルム1の目的とする意匠形状(例えば曲面や段差等の三次元形状)に形成されている。第2金型13は、第1金型12のキャビティ12aに嵌入可能な凸部を有する。射出部13aは、第2金型13の凸部を貫通して第1金型12のキャビティ12aに射出口を向けた状態となるように第2金型13に設けられている。なお、加飾フィルム1の種類は、多種多様な加飾素材の中から加飾フィルム1の加飾層3(図1参照)に択一的に採用される加飾素材の種類によって分類される。
【0054】
このステップS1の工程では、図4に示すように、固定側の第1金型12から可動側の第2金型13を離して成形金型11を開いた状態にし、これら第1金型12と第2金型13との間に加飾フィルム1を搬送する。ついで、第1金型12のキャビティ12aの内部に、真空引き等の手法によって加飾フィルム1を挿入する。この際、加飾フィルム1は、例えば、トップフィルム層6(図1参照)が形成される前のフィルムであり、加飾層3側の端面(加飾素材表面)とキャビティ12aの表面とを対向させた状態にある。加飾フィルム1は、このキャビティ12aの表面に沿って変形しながらキャビティ12aの内部に挿入される。
【0055】
つぎに、図4に示すように、加飾フィルム1をセットした成形金型11を閉じる(ステップS2)。このステップS2の工程では、加飾フィルム1が挿入された第1金型12のキャビティ12a内に第2金型13の凸部を嵌め入れて、これら第1金型12と第2金型13とを型締めする。この状態において、第1金型12のキャビティ12a内には、加飾フィルム1の裏面(図1に示す加飾保護層4側の端面)と第2金型13の凸部との間に、樹脂が射出される隙間が形成されている。
【0056】
その後、図4に示すように、溶融した状態の樹脂15を成形金型11内に射出して、加飾フィルム1と基材2とを一体成形する(ステップS3)。このステップS3の工程では、図4に示すように、溶融した状態の樹脂15を第2金型13の射出部13aに充填し、この射出部13aから第1金型12のキャビティ12a内へ樹脂15を射出する。これにより、樹脂15は、キャビティ12a内の加飾フィルム1の裏面と第2金型13の凸部との間の隙間に注入される。この加飾フィルム1は、射出された樹脂15を加飾保護層4側から受けるとともに、この樹脂15の成形熱および射出圧により、キャビティ12aの形状に追従して成形される。詳細には、この加飾フィルム1において、加飾保護層4は、樹脂15の成形熱によって軟化するとともに、樹脂15の射出圧により、加飾層3とともにキャビティ12aの形状に追従して変形し、目的とする意匠形状に成形される。このような加飾フィルム1の成形に並行して、加飾フィルム1の裏面には、図4に示すように、樹脂15からなる基材2が、例えばインサート成形によって一体的に形成される。その後、基材2を構成する樹脂15を冷却し、これにより、基材2を固化する。
【0057】
ここで、加飾フィルム1は、加飾層3と加飾保護層4との積層構造により、32mN以上47mN以下の剛軟度を有している。このため、加飾フィルム1は、樹脂15の射出圧により、成形金型11のキャビティ12aの形状に容易に追従することができ、さらには、樹脂15の射出圧が継続して加えられても、加飾素材表面に皺を生じさせることなく、成形された目的の意匠形状を維持することができる。また、上記のように加飾フィルム1が樹脂15の射出圧によってキャビティ12aの形状に追従し得ることから、加飾フィルム1の加飾素材表面とキャビティ12aの表面との間に意図せず樹脂15が流れ込むことはない。さらに、加飾保護層4は、樹脂15から加飾層3に伝わる成形熱を低減している。したがって、上述した皺による形状不良、樹脂かぶりおよび加飾層3の熱損傷等の外観不良が、成形後の加飾フィルム1に発生する事態を防止することができる。
【0058】
上記ステップS3の工程で加飾フィルム1と基材2とを一体成形した後、図4に示すように、これら加飾フィルム1と基材2との成形品を成形金型11から取り出す(ステップS4)。このステップS4の工程では、第1金型12から第2金型13を離して成形金型11を開いた状態とし、この成形金型11から加飾フィルム1と基材2との成形品を離型する。その後、この成形品の表面にトップフィルム層6を形成し、これにより、加飾フィルム1と基材2とからなる加飾部品10が得られる。
【0059】
上述したような加飾部品10は、加飾フィルム1の加飾層3を構成する加飾素材を他の種類の加飾素材に変更(例えば木質材から金属シート材に変更)した場合であっても、共通の成形金型11を用いて上述のステップS1~S4の各工程を順次行うことにより、成形することができる。すなわち、加飾層3が呈する装飾用の模様は異なっているが、目的とする意匠形状は同じである複数種類の加飾部品10を、共通の成形金型11を用いて順次成形することが可能である。
【0060】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る加飾部品10では、加飾素材からなる加飾層3の厚さ方向D1の一端面に、少なくとも熱可塑性樹脂を含む加飾保護層4が積層され、少なくとも加飾層3と加飾保護層4との積層構造を有する加飾フィルム1の加飾保護層4側の端面に基材2が一体成形されており、加飾保護層4の剛軟度を、加飾層3の加飾素材の種類に応じて設定している。
【0061】
このため、たとえ加飾素材の種類が異なる複数種類の加飾フィルム1を成形対象とする場合であっても、基材2を構成する樹脂15の射出圧により、加飾層3を加飾保護層4とともに、目的とする意匠形状をなす成形金型11のキャビティ形状に無理なく追従させることができる。この結果、加飾層3の皺、割れまたは樹脂かぶり等の外観不良を防止するとともに、加飾素材の種類によらず共通の成形金型11を用いて、複数種類の加飾フィルム1を目的とする意匠形状に成形することができる。これにより、加飾素材の種類に応じてキャビティ形状を設定した専用の成形金型を準備する必要がないのみならず、目的とする意匠形状(成形形状)が同じであれば、たとえ加飾素材の種類が変わっても金型交換を行う手間を省くことができるから、成形金型11の準備に要するコストおよび加飾部品10の成形に要する工数を削減して、加飾部品10の製造コストを低減することができる。
【実施例0062】
以下、本発明の実施例および本発明に対する比較例を示し、本発明について更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0063】
(加飾素材の種類)
後述の各実施例および各比較例では、加飾層3を構成する加飾素材の種類別に、加飾部品10の評価用サンプルを複数作製し、これら複数の評価用サンプルの各々について外観評価を行った。評価用サンプルに採用される加飾素材は、表1に示す通り、木質材、皮革材、織物材および金属シート材の4種類である。
【0064】
詳細には、表1に示すように、木質材としては、厚さが0.3mm以上0.4mm以下の天然木を用いた。皮革材としては、本革からなるものと合成皮革からなるものとを用いた。皮革材の厚さは、本革および合成皮革のいずれの場合も、0.3mm以上0.4mm以下とした。皮革材としての本革および合成皮革の各々には、起毛皮革と起毛皮革以外のものとが含まれる。織物材としては、有機繊維からなるものと無機繊維からなるものとを用いた。当該有機繊維には天然繊維が含まれ、当該無機繊維にはカーボン繊維が含まれる。織物材の厚さは、有機繊維および無機繊維のいずれの場合も、0.05mm以上0.2mm以下とした。金属シート材としては、厚さが0.15mm以上0.3mm以下の金属製のシートを用いた。上記加飾素材については、表1に示される。
【0065】
【表1】
【0066】
(評価用サンプルの作製方法)
各実施例および各比較例の各々における評価用サンプルの作製方法について説明する。評価用サンプルの作製方法では、予め、厚さが異なる複数の加飾保護層4を準備し、各厚さの加飾保護層4についてガーレー剛軟度試験機によって剛軟度を測定した。つぎに、加飾層3を構成する加飾素材の種類(表1参照)に応じて加飾保護層4の剛軟度を変更しつつ、加飾層3と加飾保護層4との積層構造(図1参照)を有する加飾フィルム1を、加飾素材の種類と加飾保護層4の剛軟度との組み合わせ別に複数作製した。得られた複数の加飾フィルム1の各々について、ガーレー剛軟度試験機によって剛軟度を測定し、その後、加飾フィルム1と基材2とをインサート成形によって一体成形することにより、加飾部品10の評価用サンプルを複数作製した。各実施例および各比較例における評価用サンプルについては、後述の表2にまとめた。
【0067】
(評価方法)
各実施例および各比較例の各々における評価方法について説明する。各実施例および各比較例では、上記のように作製した複数の評価用サンプルの各々について、外観評価を行った。この外観評価では、各評価用サンプルの加飾素材表面に着目し、加飾層3の皺、熱損傷(成形焼け等)、折り目および樹脂かぶりの各々の有無を目視で検査した。外観評価の良否の判断基準として、加飾層3に皺、熱損傷、折り目および樹脂かぶりのいずれも確認されない場合、良好(以下、「〇」と記載する場合がある)とし、加飾層3に皺、熱損傷、折り目および樹脂かぶりの少なくとも一つが確認された場合、不良(以下、「×」と記載する場合がある)とした。各実施例および各比較例における外観評価の結果については、表2にまとめた。
【0068】
(実施例1)
実施例1では、加飾層3を構成する加飾素材として木質材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が2.0mN以上15mN以下のものを用いた。この結果、実施例1における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN以上47mN以下であった。また、実施例1の外観評価では、加飾層3に皺、熱損傷、折り目および樹脂かぶりのいずれも確認されず、評価結果は良好であった。
【0069】
(実施例2)
実施例2では、加飾層3を構成する加飾素材として皮革材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が2.0mN以上15mN以下のものを用いた。この結果、実施例2における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN以上47mN以下であった。また、実施例2の外観評価では、加飾層3に皺、熱損傷、折り目および樹脂かぶりのいずれも確認されず、評価結果は良好であった。
【0070】
(実施例3)
実施例3では、加飾層3を構成する加飾素材として織物材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が15mN以上30mN以下のものを用いた。この結果、実施例3における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN以上47mN以下であった。また、実施例3の外観評価では、加飾層3に皺、熱損傷、折り目および樹脂かぶりのいずれも確認されず、評価結果は良好であった。
【0071】
(実施例4)
実施例4では、加飾層3を構成する加飾素材として金属シート材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が15mN以上30mN以下のものを用いた。この結果、実施例4における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN以上47mN以下であった。また、実施例4の外観評価では、加飾層3に皺、熱損傷、折り目および樹脂かぶりのいずれも確認されず、評価結果は良好であった。
【0072】
(比較例1)
比較例1では、加飾層3を構成する加飾素材として木質材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が2.0mN未満のものを用いた。この結果、比較例1における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN未満であった。また、比較例1の外観評価では、加飾層3に皺が確認された。したがって、比較例1の評価結果は不良であった。
【0073】
(比較例2)
比較例2では、加飾層3を構成する加飾素材として木質材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が15mN超のものを用いた。この結果、比較例2における加飾フィルム1の剛軟度は、47mN超であった。また、比較例2の外観評価では、加飾層3の表面に樹脂かぶりが確認された。したがって、比較例2の評価結果は不良であった。
【0074】
(比較例3)
比較例3では、加飾層3を構成する加飾素材として皮革材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が2.0mN未満のものを用いた。この結果、比較例3における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN未満であった。また、比較例3の外観評価では、加飾層3に皺が確認された。したがって、比較例3の評価結果は不良であった。
【0075】
(比較例4)
比較例4では、加飾層3を構成する加飾素材として皮革材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が15mN超のものを用いた。この結果、比較例4における加飾フィルム1の剛軟度は、47mN超であった。また、比較例4の外観評価では、加飾層3の表面に樹脂かぶりが確認された。したがって、比較例4の評価結果は不良であった。
【0076】
(比較例5)
比較例5では、加飾層3を構成する加飾素材として織物材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が15mN未満のものを用いた。この結果、比較例5における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN未満であった。また、比較例5の外観評価では、加飾層3に皺が確認された。したがって、比較例5の評価結果は不良であった。
【0077】
(比較例6)
比較例6では、加飾層3を構成する加飾素材として織物材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が30mN超のものを用いた。この結果、比較例6における加飾フィルム1の剛軟度は、47mN超であった。また、比較例6の外観評価では、加飾層3の表面に樹脂かぶりが確認された。したがって、比較例6の評価結果は不良であった。
【0078】
(比較例7)
比較例7では、加飾層3を構成する加飾素材として金属シート材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が15mN未満のものを用いた。この結果、比較例7における加飾フィルム1の剛軟度は、32mN未満であった。また、比較例7の外観評価では、加飾層3に皺が確認された。さらに、加飾層3の一部に折り目が確認された。したがって、比較例7の評価結果は不良であった。
【0079】
(比較例8)
比較例8では、加飾層3を構成する加飾素材として金属シート材(表1参照)を用い、加飾保護層4として剛軟度が30mN超のものを用いた。この結果、比較例8における加飾フィルム1の剛軟度は、47mN超であった。また、比較例8の外観評価では、加飾層3の表面に樹脂かぶりが確認された。したがって、比較例8の評価結果は不良であった。
【0080】
(比較例9)
比較例9では、加飾層3を構成する加飾素材として木質材(表1参照)を用い、本発明における加飾保護層4を採用せず、この加飾層からなる加飾フィルムを作製した。このとき、加飾保護層が積層されていない加飾層単品の剛軟度を高めるため、当該加飾層単品を構成する木質材の厚さを上記実施例1の木質材に比べて厚くした。この結果、比較例9における加飾フィルムの剛軟度は、5.0mNであった。また、比較例9の外観評価では、加飾層に成形時の焼き焦げ等の熱損傷が確認された。したがって、比較例9の評価結果は不良であった。
【0081】
なお、比較例9では加飾保護層4が採用されていないため、表2中の「加飾保護層の剛軟度」欄には、対象外であることを意味する「-」が記載されている。このことは、後述の比較例10~12についても同様である。
【0082】
(比較例10)
比較例10では、加飾層3を構成する加飾素材として皮革材(表1参照)を用い、本発明における加飾保護層4を採用せず、この加飾層からなる加飾フィルムを作製した。このとき、加飾保護層が積層されていない加飾層単品の剛軟度を高めるため、当該加飾層単品を構成する皮革材の厚さを上記実施例2の木質材に比べて厚くした。この結果、比較例10における加飾フィルムの剛軟度は、4.0mNであった。また、比較例9の外観評価では、加飾層に熱損傷が確認された。したがって、比較例10の評価結果は不良であった。
【0083】
(比較例11)
比較例11では、加飾層3を構成する加飾素材として織物材(表1参照)を用い、本発明における加飾保護層4を採用せず、この加飾層からなる加飾フィルムを作製した。このとき、加飾保護層が積層されていない加飾層単品の剛軟度を高めるため、当該加飾層単品を構成する織物材の厚さを上記実施例3の織物材に比べて厚くした。この結果、比較例11における加飾フィルムの剛軟度は、0.1mN以上0.2mN以下であった。また、比較例11の外観評価では、加飾層に皺が確認された。したがって、比較例11の評価結果は不良であった。
【0084】
(比較例12)
比較例12では、加飾層3を構成する加飾素材として金属シート材(表1参照)を用い、本発明における加飾保護層4を採用せず、この加飾層からなる加飾フィルムを作製した。このとき、加飾保護層が積層されていない加飾層単品の剛軟度を高めるため、当該加飾層単品を構成する金属シート材の厚さを上記実施例4の金属シート材に比べて厚くした。この結果、比較例12における加飾フィルムの剛軟度は、0.5mN以上1.0mN以下であった。また、比較例12の外観評価では、加飾層に折り目が確認された。したがって、比較例12の評価結果は不良であった。
【0085】
【表2】
【0086】
なお、上述した実施形態では、加飾層3と加飾保護層4との積層体の剛軟度を加飾フィルム1の剛軟度としていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、加飾フィルム1の剛軟度は、加飾層3と加飾保護層4とトップフィルム層6との積層体の剛軟度としてもよい。
【0087】
また、上述した実施形態では、目的とする意匠形状に成形した後の加飾フィルム1にトップフィルム層6を設けていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、トップフィルム層6は、成形金型11で成形する前に加飾フィルム1に設けてもよく、トップフィルム層6を含む加飾フィルム1を上記意匠形状に成形してもよい。
【0088】
また、上述した実施形態では、加飾保護層4の裏面に基材2を設けていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、加飾保護層4の裏面と基材2との間に他の層が介在していてもよい。
【0089】
また、上述した実施形態では、加飾層3を構成する加飾素材の種類として、木質材、皮革材、織物材または金属シート材等の実物素材を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、上記加飾素材は、オープンポア、メタリック塗装またはスエード塗装等の塗膜と当該塗膜が形成される基材(布地、樹脂または金属製等の基材)とによって構成されてもよいし、ベビースキン、植毛またはレーザー加飾等の表皮シートであってもよい。当該表皮シートは、素材となるシートを加工することによって製造されてもよいし、布地、樹脂または金属製の基材上に貼り付ける等して製造されてもよい。或いは、上記加飾素材は、コルク材等、別の実物素材であってもよい。
【0090】
また、上述した実施形態では、賦形されていない加飾フィルム1を成形金型11に挿入して成形した場合を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、加飾フィルム1は、事前に賦形してから成形金型11に挿入して成形してもよい。
【0091】
また、上述した実施形態では、加飾フィルム1と基材2とをインサート成形していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、加飾フィルム1と基材2とは、インモ-ルド成形、熱プレス成形、圧縮成形またはBMC(Bulk Molding Compound)成形等、インサート成形以外の手法で一体成形されてもよい。
【0092】
また、上述した実施形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1 加飾フィルム
2 基材
3 加飾層
4 加飾保護層
5 接着層
6 トップフィルム層
10 加飾部品
11 成形金型
12 第1金型
12a キャビティ
13 第2金型
13a 射出部
15 樹脂
D1 厚さ方向
D2 縦方向
D3 横方向
L1、L2 相関線
図1
図2
図3
図4